「ある視点」にアルゼンチンの「El Ángel」*カンヌ映画祭2018 ⑤2018年05月15日 17:48

             ルイス・オルテガの第7作目「El Ángel」は実話の映画化

 

             

            (映画祭用のフランス語のポスター)

 

ルイス・オルテガEl Ángel(アルゼンチン=スペイン合作)は、アルゼンチンの1971年から72年にかけて、金品強盗を目的に11人もの人間を殺害した美青年カルロス・ロブレド・プッチの実話に材をとったビオピックです。既にカンヌでは上映され、観客並びに批評家の評判はまずまずのようでした。当時その美しい風貌から「死の天使」または「黒の天使」と恐れられた殺人鬼カルリートスに扮したロレンソ・フェロの妖しい魅力も大いに役立ったのではないか。お披露目にはスペイン・サイドの製作を手掛けたエル・デセオのペドロ・アルモドバルも登壇してサプライズを提供したようです。彼は昨年のコンペティション部門の審査委員長を務めたカンヌの常連です。

 

    

  (赤絨毯に勢揃いした出席者、左から、ピーター・ランサニ、メルセデス・モラン、

チノ・ダリン、オルテガ監督、セシリア・ロス、ペドロ・アルモドバル、ロレンソ・フェロ)

   

El ÁngelThe Angel」)2018

製作:El Deseo / Kramer & Sigman Films / Underground Contenidos / Telefé

   協賛INCAA

監督:ルイス・オルテガ

脚本(共):セルヒオ・オルギン、ルイス・オルテガ、ロドルフォ・パラシオス

撮影:フリアン・アペステギア

編集:ギリェ・ガッティGuille Gatti

メイクアップ:マリサ・アメンタ

衣装デザイン:フリオ・スアレス

美術:フリア・フレイド

プロダクション・マネージメント:メルセデス・タレジィ

製作者:(エグゼクティブ)ハビエル・ブライアー、ミカエラ・ブジェ。ウーゴ・シグマン、セバスティアン・オルテガ、マティアス・モステイリン、Axel Kuschevatzky、レティシア・クリスティ、パブロ・クレル(以上アルゼンチン)、アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、エステル・ガルシア(以上スペイン)

 

データ:製作国アルゼンチン=スペイン、スペイン語、2018年、ビオピック、犯罪、120分、撮影地ブエノスアイレス、配給20世紀フォックス。カンヌ映画祭2018「ある視点」正式出品、公開アルゼンチン201889

  

キャスト:ロレンソ・フェロ(カルリートス、カルロス・ロブレド・プッチ)、セシリア・ロス(カルリートスの母親アウロラ)、チノ・ダリン(ラモン)、ピーター・ランサニ(ミゲル・プリエト)、ルイス・ニェッコ(エクトル)、マレナ・ビリャ(マリソル/マグダレナ)、ダニエル・ファネゴ(ホセ)、メルセデス・モラン(ラモンの母親アナ・マリア)、ウィリアム・Prociuk、他

 

ストーリー・解説:カルリートスは天使のような顔をした17歳、その魅力には皆まいってしまう。欲しいものすべてを手にできる。高校でラモンと知り合い、彼らはコンビを組んで危険だが素晴らしいゲームに取り掛かる。手始めに盗みと詐欺で腕を磨きつつ、ホシが割れるのを警戒して目撃者を殺害、たちまち連続強盗殺人へとエスカレートするのに時間はかからなかった。ストーリーは差別的な社会を風刺しながら、タランティーノ・スタイルで終始軽快に進行するだろう。

 

        スクリーンの殺人劇はフィクションの世界で起きたことらしい?

 

★実在の連続強盗殺人犯カルロス・エドゥアルド・ロブレド・プッチ1952122日、ブエノスアイレス生れ)のビオピックという触れ込みだが、どうやら映画の殺人劇はフィクションの世界で起きたことらしい。1971年5月3日を皮切りに、無関係な人々11名の殺害、数えきれない強盗、万引き、誘拐レイプ、とアルゼンチン犯罪史上稀にみるモンスターを、映画は単なる悪者と決めつけていないようです。天使のような顔をした青年の犯罪は当時のアルゼンチン社会を震撼させるに十分だったのだが。197224日、最後となった強盗殺人の翌日逮捕されたときには20歳になったばかりだった。

 

      

           (カルリートス役のロレンソ・フェロ、映画から)

 

★カルロス・ロブレド・プッチのビオピックとは言え、何処から何処まで史実と重なるのか、監督が描きたかったテーマが充分に見えてこない段階での紹介は危険かもしれない。ウイキペディアにも詳しい情報が掲載されているが、スペイン語版、英語版で若干食い違いもあり、11名殺害の詳細を語っても意味がないようです。しかしその殺害方法は残忍である。泣き叫ぶ生後23か月ばかりの赤ん坊にさえ銃弾を浴びせたり、殺害前にレイプしたり、足手まといになりそうな共犯者まで殺害する邪悪さには吐き気を催す。被害者家族の多くがまだ存命していることから、終身刑で服役中とはいえ、単なるエンターテインメントでないことを祈りたい。監督は取材に刑務所に通いつめ、10回ほどインタビューしたということです。ラテンアメリカ諸国はEU諸国と同様に死刑廃止国、66歳になるカルロスは健康不安を抱え何度も恩赦を請求しているが当然却下、獄中46年はアルゼンチン犯罪史上最長だそうです。

  

   

    (197224日、逮捕されたときのカルロス・ロブレド・プッチ)

 

    オルテガ家はアーティスト一家、兄弟が協力して製作した「El Ángel

 

ルイス・オルテガ Luis Ortega Sslazarは、1980年ブエノスアイレス生れの37歳、監督、脚本家。シンガーソングライターで俳優の父パリート・オルテガと女優の母エバンヘリナ・サラサールの6人兄弟姉妹の5番目、それぞれ映画プロデューサーであったり歌手であったりの有名なアーティスト一家。父親は後に政界に進出、1990年代出身地ツクマンの州知事になった。映画はブエノスアイレスの映画大学で学んだ。現在『パウリナ』や『サミット』の監督サンティアゴ・ミトレ5回目の結婚をしたドロレス・フォンシとは一時期(19992004)結婚していた。ガエル・ガルシア・ベルナルと結婚する前ですね。

 

          

       (オルテガ兄弟、左が製作者の兄セバスティアン、右が弟ルイス)

 

2002年にCaja negra(「Blackbox」)で長編デビューする。本作のヒロインが当時結婚していたドロレス・フォンシである。第2Monobloc04)には母親が出演して銀のコンドル賞助演女優賞を受賞した。2009Los santos sucios(「The Dirty Santos」)、2011Verano maldito2012Dromómanos2014Lulú、最新作となるEl Ángelは第7作目になる。若い監督だが親のバックもあり、年齢に比して経験は豊かです。

  

2015年のTVミニシリーズ全6Historia de un clanは、パブロ・トラペロがベネチア映画祭2015で監督賞を受賞した『エル・クラン』のテレビ版である。映画の長男アレハンドロ役を演じたピーター・ランサニTVではチノ・ダリンが演じ、母親エピファニア役を本作カルリートスの母親役セシリア・ロスが演じた。TVミニシリーズも最新作も監督の兄セバスティアン・オルテガが製作している。セシリア・ロスは息子にピアノを習わせ溺愛する母親役、劇中でもピアノのシーンが出てくるが、カルロス本人は嫌いだったようです。本作では音楽が重要な意味をもつとか。

    

  

          (デビュー作Caja negra」のポスター

 

    

   

 (TVミニシリーズ「エル・クラン」、左から2人目長男役のチノ・ダリン、

  母親役のセシリア・ロス、主人公プッチオ役のアレハンドロ・アワダ)  

 

★カンヌにはチノ・ダリンの父親リカルド・ダリンアスガー・ファルハディの「Todos lo saben」で現地入りしており、上映日11日には夫妻で息子の晴れ姿を見に馳せつけた。アルゼンチンの日刊紙「クラリン」によると、オルテガ監督が「このような(素晴らしい)プロデューサーたち、俳優たちと映画を撮れるとは夢にも思わなかった」とスペイン語で挨拶、次にマイクを手渡されたスペイン・サイドのプロデューサー、アルモドバルは英語で「今宵はアルゼンチンの人々のためにあり、私が横取りしたくない」と口にしつつ、例のごとく長引きそうになるのを「映画祭総代表のティエリー・フレモー氏がからかったので2分で終わった」と記者は報じていた。アルモドバルは「どうぞ皆さん、お楽しみください」と締めくくった。

 

     

         (少々緊張して神経質になっていたルイス・オルテガ監督)

 

    

   (左から、ロレンソ・フェロ、アルモドバル、セシリア・ロス、オルテガ監督)

 

     

(左から、ピーター・ランサニ、メルセデス・モラン、監督、L.フェロ、C. ロス、C. ダリン)

 

★ルイス監督インタビューなど情報が入りはじめています。多分今年のアルゼンチン映画の目玉になりそうです。公開は無理でも映画祭上映、またはDVDはありかなと思っていますので、いずれアップすることに。

*追記:邦題『永遠に僕のもの』で2019年8月16日より劇場公開