ディエゴ・レルマンの新作はコメディドラマ*サンセバスチャン映画祭2024 ⑪ ― 2024年08月17日 10:41
フェイクニュースの先駆けホセ・デ・ゼルの人生を描くコメディ
★セクション・オフィシアル紹介の最終回、アルゼンチンのディエゴ・レルマンの「El hombre que amaba los platos voladores」は、20世紀に実在したアルゼンチンのテレビレポーター、ホセ・デ・ゼルの人生が語られる。レルマンが初めてネットフリックスから資金援助を受けて製作した「UFOを愛した男」は、コメディドラマであると同時にファンタジックなビオピックでもあり、SFの要素も備えている。彼のデビュー作『ある日、突然。』(02、「Tan de repente」公開2004年)を、それこそトツゼンに思いだしました。ロカルノ映画祭銀豹を皮切りに新人が貰える国際映画賞を山ほど手にした映画でした。
★本名ホセ・カイゼルKeizer として1941年誕生したホセ・デ・ゼルは、アルゼンチンのエンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、ポップカルチャーのアイコンとして不思議な磁力で人々を引き付けていた。舞台は1986年のブエノスアイレス、ある人物から不自然で奇妙な提案を受けたホセ・デ・ゼルとその相棒カメラマンのチャンゴは、コルドバのラ・カンデラリアに旅立ちます。
「El hombre que amaba los platos voladores」
(英題「The Man Who Loved UFOs」)
製作:El Campo Cine / Bicho Films 協賛Netflix
監督:ディエゴ・レルマン
脚本:ディエゴ・レルマン、アドリアン・ビニエス
編集:フェデリコ・ロットスタイン(1983 BSAS)
美術:マホ・サンチェス・キアッペChiappe
録音:ナウエル・デ・カミジス、レアンドロ・デ・ロレド、ルベン・ピプット・サントス
製作者:ディエゴ・レルマン
データ:製作国アルゼンチン、2024年、スペイン語、コメディドラマ、ビオピック、106分、配給元ネットフリックス、配信10月18日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2024セクション・オフィシアル作品
キャスト:レオナルド・スバラリア(ホセ・デ・ゼル)、セルヒオ・プリナ(カルロス・〈チャンゴ〉・トーレス)、オスマル・ヌニェス、レナータ・レルマン、マリア・メルリノ、モニカ・アジョス(アヨス)、ダニエル・アラオス、エバ・ビアンコ、ノルマン・ブリスキ、アグスティン・リッタノ、ギジェルモ・プフェニング、他
ストーリー:1986年、ジャーナリストのホセ・デ・ゼルとカメラマンのチャンゴは、うさん臭い2人の人物から奇妙な提案を受け取り、コルドバのラ・カンデラリアに旅立った。村に到着したが、丘の中腹に焼け焦げた牧草地があるだけで取り立てて調査するようなものは見つからなかった。しかし引き続いて起きたことは、アルゼンチンのテレビ史上最高の視聴率を誇ることになる。隠された才能の持ち主で虚言癖の天才デ・ゼルがやったことは、地球外生命体エイリアンの存在を演出することだった。1980年代の宇宙人訪問詐欺を題材にしたコメディドラマ。
(ラ・カンデラリアの丘でライブ放送をするホセ・デ・ゼル、フレームから)
★ホセ・デ・ゼル(José de Zer 本名 José Bernardo Kerzer)は1941年、劇場の照明デザイナーの息子としてブエノスアイレスで生れた。エンターテインメントのジャーナリスト、テレビレポーター、軍人、1997年、罹患していたパーキンソン病と食道癌と闘ったが56歳の若さで鬼籍入りした。彼の報道したニュース同様、ポップカルチャーのアイコンとして短いが波乱万丈の人生だった。映画からはフェイクニュースのパイオニアみたいな印象を受けるが、当時あらゆるタイプの記事をカバーできる実力のあるジャーナリストの地位を確立していた。だからこそ眉唾のフェイクニュースにお茶の間は釘付けになったのでしょう。今日のようにフェイクが民主主義を脅かす政治的武器ではなく、無害でエキサイティングな娯楽だった時代には、お茶の間で楽しむ人々も共犯者だった。いつの時代でも私たち庶民は、信じたいものを信じ、見たいものを見るという、操作されやすい存在ということです。
★ユダヤ教徒のホセ・デ・ゼルは、第三次中東戦争(1967)に、予備役少尉としてイスラエルに派遣されている。別名「六日間戦争」と言われるようにイスラエルの圧倒的勝利で、たったの6日間の戦闘で終わった戦争なので、九死に一生を得るということではなかったと思うが、パタゴニアでの意識を失うほどの深刻な自動車事故を生きのびて以来、死を怖れるようになった。息切れするほどのヘビースモーカーでコーヒー中毒だったから長生は難しかったのではないか。1989年にゲリラによってブエノスアイレス州のラ・タブラダ軍事施設が襲撃されたときの現場報道、妻殺害でサンタフェ刑務所に収監されていたミドル級チャンピオンのボクサー、カルロス・モンソンのインタビューなど、堅実な報道も行っている。
★監督キャリア&フィルモグラフィーは紹介済み、主役のレオナルド・スバラグリア(スバラリア)は、マラガ映画祭2017の大賞マラガ-スール賞を受賞した折にキャリア&フィルモグラフィーをアップしています。公開、ミニ映画祭、ネット配信、DVDと電撃デビューした『10億分の1の男』(01)以来、20数作も字幕入りで鑑賞できる俳優はそんなに多くありません。
*主な監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年10月23日
*レオナルド・スバラグリア紹介記事は、コチラ⇒2017年03月13日
★ケイト・ブランシェットに続いて、二人目となるドノスティア栄誉賞受賞者ペドロ・アルモドバルの発表がありました。昨年授与式を延期していたハビエル・バルデムも今年は出席します。またオリソンテス・ラティノス部門、ペルラス部門、サバルテギ-タバカレア部門などのノミネートがアナウンスされ映画祭の全容が見えてきました。もう開催まで1ヵ月を切りましたので、バランスをとって作品紹介をしていく予定です。
追加情報:10月18日から『UFOを愛した男』の邦題で Netflix 配信が始まります。
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