第94回アカデミー賞2022ショートリスト発表*国際長編映画賞部門 ― 2021年12月25日 10:01
ショートリスト15作中スペイン語映画3作が残る!

★ベロニカ・フォルケを悼む記事が続いていますが、気を取り直して来年のアカデミー賞の話題に切り替えます。第94回のガラは、2022年3月27日、以前のドルビー・シアターに統一して開催されるということです。それに先立つ12月21日に、国際長編映画賞部門のセミ・ファイナリスト(ショートリスト)15作が発表されました。92ヵ国から応募があり、スペイン代表フェルナンド・レオン・デ・アラノアの「El buen patorón」、メキシコ代表タティアナ・ウエソの「Prayer for the Stolen」(原題Noche de fuego)、パナマ代表アブナー・ベナイムの「Plaza Catedral」の3作が残りました。ノミネーションが正式に発表になるのは、来年2月8日がアナウンスされていますが予定です。パナマ作品は未紹介ですが、データを後述します。濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』のような強敵も残りましたから、ファイナルリスト4作に残るのは容易じゃありません。ましてや受賞となると結構長い道程です。

(スペイン代表作品「El buen patorón」のポスター)

(メキシコ代表作品「Noche de fuego」のポスター)

(パナマ代表作品「Plaza Catedral」のポスター)
*「El buen patorón」の主な作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月10日
*「Noche de fuego」の主な作品紹介記事は、コチラ⇒2021年08月19日
★監督紹介:パナマ代表作品「Plaza Catedral」は、アブナー・ベナイムの長編第2作め。1971年パナマ生れ、監督、製作者、脚本家、造形アーティスト。米国ペンシルバニア大学で国際関係学を専攻、映画はテルアビブのカメラ映画学校で学んだ。映画はドキュメンタリーでスタートを切り、ドキュメンタリー作家としての評価は高い。2004年パナマで制作会社Apertura Films を設立、2005年ドクメンタリー・シリーズ「El otora lado」(11エピソード)で、ニューヨークTVフェスティバルの作品賞を受賞している。2009年長編映画デビュー作「Chance」は興行的にも成功し、埼玉県で開催される「スキップ・シティD シネマフェスティバル2011」に『チャンス!男メイドの逆襲』)の邦題で上映され、脚本賞を受賞している。

(新作撮影中のアブナー・ベナイム監督)
★2014年の「Invasion」は、1989年のアメリカによるパナマ侵攻をめぐる捏造された集団記憶のドキュメンタリー。本作はパナマのIFF映画祭で観客賞ほか受賞歴多数、第87回アカデミー賞(ドキュメンタリー部門)に選ばれたがノミネートはされなかった。コロンビアのバランキージャFFドキュメンタリー賞、マラガ映画祭観客賞ほかを受賞している。2018年の「Ruben Blades is Not My Name」も第91回アカデミー賞代表作品に選ばれたが、ノミネートには至らなかった。

(ドキュメンタリー「Ruben Blades is Not My Name」ポスター)
★オスカー賞3回目のパナマ代表作品となる新作「Plaza Catedral」は、パナマ=メキシコ=コロンビア合作、スリラー・ドラマ、94分、スペイン語・英語、撮影地パナマシティ、製作Apertura Films。既にパナマ映画祭2021の観客賞を受賞しているほか、グアダラハラ映画祭MEZCAL賞にノミネートされ、フェルナンド・ハビエル・デ・カスタが男優賞を受賞したが、その前にパナマで射殺されるという悲劇に見舞われていた。ダンサーでサッカー選手でもあった少年の死は、パナマでは珍しいことではない。他にキャストはメキシコのベテラン女優イルセ・サラス、コロンビアのマノロ・カルドナなど。イルセ・サラス(メキシコ・シティ1981)は、『グエロス』の監督アロンソ・ルイスパラシオスと結婚、2児の母親でもある。マラガ映画祭2019金のビスナガ賞を受賞したアレハンドラ・マルケス・アベジャの「Las niñas bien」(邦題『グッド・ワイフ』公開)で主役を演じている。カルドナはハビエル・フエンテス=レオンの話題作『波に流されて』(09)で日本に紹介されている(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭、レインボー・リール東京FFに改名)。本作でマコンド賞2010助演男優賞を受賞している。

(彼の才能を惜しんだイルセ・サラスとフェルナンド)

(イルセ・サラスとフェルナンド・ハビエル・デ・カスタ)

ベロニカ・フォルケ逝く*自ら幕引きをした66年の生涯 ― 2021年12月21日 15:17
安住を求めて自ら幕引きをした、長くもあり短くもあった66年の生涯

(中央に柩が安置されたお別れの会、マドリードのスペイン劇場、12月15日)
★12月13日、国家警察がマドリードの自宅で自死した女優ベロニカ・フォルケの遺体を発見したと報道した。12時49分救急センターに或る女性から電話があり、救急隊Summa112が駆けつけたが既に手遅れであったという。当日は自死だけが報道され、正確な死因は検死結果を待つことになった。翌日、錠剤などの痕跡がないこと、首に外傷性の傷がありタオルでの首吊りによる窒息死であったと発表された。最近鬱状態がひどく、3時間前に一人娘マリア・クララ・イボラ・フォルケがお手伝いさんと交替して帰宅したばかりだった。オレンジジュースを飲み、シャワーを浴びると言ってバスルームに入ったまま帰らぬ人となった。ホセ・マリア・フォルケ賞の顔の一人でもあったベロニカ、カルメン・マウラと80~90年代のスペイン映画を代表する女優の一人だったベロニカ、常に明るく機知にとんだ会話で周りを楽しませてくれたのは表の顔、2014年の離婚以来、鬱病に苦しむ闇を抱えた人生だったということです。

(ありし日のベロニカと娘マリア)
★訃報の記事はしんどい、特に書くことはないだろうと思っていた若い人の予期せぬ旅立ちはしんどい。しかしここ最近の映像を見るかぎり60代の女性とは思えない険しい顔に唖然とする。最後となったTVシリーズ「MasterChef Celebrity」(21)を「もうこれ以上続けられない」と自ら降板した彼女は、痛々しく全くの別人のようだった。今思うと管理人が魅了された1980年代後半から90年代にかけてが全盛期だったのかもしれない。

★キャリア&フィルモグラフィー:1955年12月生れ、映画、舞台、TV女優。監督、製作者のホセ・マリア・フォルケ(1995年没)を父親に、女優、作家、脚本家のカルメン・バスケス・ビゴ(2018年没)を母親にマドリードで生まれた。2歳年上のアルバロ・フォルケ(2014没)も監督、脚本家というシネアスト一家。1981年マヌエル・イボラ監督と結婚(~2014)、マリア・フォルケを授かる。出演映画、TVシリーズを含めると3桁に近い。1972年ハイメ・デ・アルミリャンの「Mi querida señorita」で映画デビュー、70年代は父親の監督作品、ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェス、カルロス・サウラなどの映画に出演している。

(第9回ゴヤ栄誉賞受賞の父ホセ・マリア・フォルケと娘ベロニカ、1995年)
★突拍子もないオカマ監督と批評家から無視されていたペドロ・アルモドバルが、その存在感を内外に示した『グローリアの憂鬱』(84、¿Qué he hecho yo para merecer esto?)に出演したことが転機となる。その後、『マタドール』(86)、『キカ』でゴヤ賞1994の主演女優賞を受賞、4個目のゴヤ胸像を手にした。1987年から始まったゴヤ賞では、第1回目にフェルナンド・トゥルエバの『目覚めの年』で助演女優賞、第2回目となる1988年は、フェルナンド・コロモの「La vida alegre」で主演、ルイス・ガルシア・ベルランガの「Moros y cristianos」で助演のダブル受賞となった。ゴヤ胸像は4個獲得している。コロモには「Bajarse al moro」(89)でも起用されており、ゴヤ賞にノミネートされている。

(カルメン・マウラと、『グローリアの憂鬱』から)

(共演のロッシ・デ・パルマと、『キカ』のフレームから)
★90年代はマヌエル・ゴメス・ペレイラの「Salsa rosa」(91)で始まった。他にマリオ・カムスの「Amor propio」(93)、フェルナンド・フェルナン=ゴメス、ジョアキン・オリストレル(95、¿De qué se ríen las mujeres?)、ダビ・セラノ、クララ・マルティネス・ラサロ、フアン・ルイス・イボラの「Enloquecidas」(08)、1981年に結婚したマヌエル・イボラ作品には、「El tiempo de la felicidad」(97)、カルメン・マウラと性格の異なった姉妹を演じた「Clara y Elena」(01、クララ役)、「La dama boba」(06)などに多数出演している。最後の作品となったのが若手のマルク・クレウエトの「Espejo, espejo」(21)で、スペイン公開は2022年になる。多くの監督が鬼籍入りしているが、例えばフェルナン=ゴメス(2007年)、マリオ・カムスは今年9月に旅立ったばかりである。他にマラガ映画祭2005の最高賞マラガ賞、2014年バジャドリード映画祭エスピガ栄誉賞、2018年フェロス栄誉賞、1986年『グローリアの憂鬱』でニューヨークACE賞、他フォトグラマス・デ・プラタ賞、サンジョルディ賞、ペニスコラ・コメディ映画祭など受賞歴多数。

(2018年のフェロス栄誉賞のトロフィーを手にしたベロニカ)
★TVシリーズでは、1990年の「Eva y Adan, agencia matrimonial」(20話、エバ役)と1995年のマヌエル・イボラの「Pepa y Pepe」(34話、ペパ役)でテレビ部門のTP de Oro 女優賞を受賞している。後者は2シーズンに渡って人気を博したコメディでした。TVミニシリーズ「Días de Navidad」(19、3話)の1話に出演している。Netflixが『クリスマスのあの日私たちは』の邦題で配信しています。最後のTV出演となった「MasterChef Celebrity」は、「12歳の少女に戻れる」と語っていたが、自ら降板することになった。

(ペペ役のティト・バルベルデと、TV「Pepa y Pepe」から)

(共演者エドゥアルド・ナバレテと、TV「MasterChef Celebrity」から)
★舞台女優としては、1975年のバリェ=インクランの「Divinas palabras」(『聖なる言葉』)、1978年のテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』、1985年には後に映画化もされた「Bajarse al moro」、ホセ・サンチス・シニステラが1986年発表した「¡ Ay, Carmela !」を1987年と2006年にカルメラ役で主演した。この戯曲はカルロス・サウラによって映画化され、日本では『歌姫カルメーラ』(90)の邦題で公開された。こちらはカルメン・マウラが演じている。2019年フリアン・フエンテス演出の「Las cosas que sé que son de verdad」で、演劇界の最高賞と言われるMax賞2020主演女優賞を受賞している。

(Max賞を受賞したベロニカ・フォルケ、プレゼンターは盟友マリア・バランコ、
マラガのセルバンテス劇場、2020年9月8日)
★ベロニカがファンや友人、そして同僚から如何に愛されていたかは、会葬者の顔ぶれを見れば分かります。ゴヤ賞のガラでもこんなに多くないでしょう。14日のサンイシドロ葬儀場でのお通夜には、「MasterChef Celebrity」の共演者エドゥアルド・ナバレテ、ミキ・ナダル、タマラ、アナ・ベレンとビクトル・マヌエル夫妻、アイタナ・サンチェス=ヒホン、シルビア・アバスカル、ベレン・クエスタ、ヨランダ・ラモス、ペポン・ニエト、カエタナ・ギジョン・クエルボ、アントニオ・レシネス、エンリケ・セレソ、バネッサ・ロレンソ・・・。
★15日のお別れの会(午前11時~午後4時)に馳せつけた友人や同僚たちは、泣き顔をサングラスとマスクで防御していた。コロナウイリスはセレブの匿名性に役立ちました。多くがマスコミのインタビューには言葉少なだったということです。11時に姿を見せたパコ・レオンは「ベロニカは陽気さと感性豊かな人でした。陽気さは皆がもつことのできる美しいものですが、彼女はそれをもっていました」と語り、午後3時に母親のカルミナ・バリオスを伴って再び姿を見せました。カルミナはテレビでの共演者、大きな赤い薔薇の花束を抱えていました。
★マリベル・ベルドゥとアイタナ・サンチェス=ヒホンが腕を組んで足早に立ち去った。先輩後輩の俳優たち、ベアトリス・リコ、スシ・サンチェス、マリア・バランコ、歌手マシエル、アントニオ・レシネス、フアン・ディエゴ、チャロ・ロペス、ホセ・ルイス・ゴメス、フアン・エチャノベ、ティト・バルベルデ、フェレ・マルティネス、フアン・リボ、カルロス・イポリト、ホルヘ・カルボ、ビッキー・ペーニャ、マルタ・ニエト、アントニア・サン・フアンなどの俳優たち、監督ではパウ・ドゥラ、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、フアン・ルイス・イボラ、ハイメ・チャバリ、脚本家のヨランダ・ガルシア・セラノ、舞台演出家ダビ・セラノ、マリオ・ガスなど。通りには100人以上のジャーナリストやファンがつめかけ、彼女がスペイン魂に火をつけた80年代のコメディに感動を分かち合った。スペイン映画は80年代や90年代のコメディやドラマ抜きに理解することはできません。
★コメントを残した政治家たちには、文化スポーツ大臣ミケル・イセタ、マドリード市長マルティネス・アルメイダと副市長ベゴーニャ・ビジャシス、マドリード・コミュニティ会長ディアス・アヤソと文化大臣リベラ・デ・ラ・クルス、ICAA会長ベアトリス・ナバス・バルデス、他スペイン下院議員たち多数。

(文化教育スポーツ大臣ミケル・イセタ氏)
★印象的なキャリアをもつアーティストのマリア・フォルケを通じてファンになった別の世代、マリアの冒険仲間のグループも駆けつけました。ベロニカに別れの手紙を捧げました。ガルシア・ロルカの最後の詩 ”Doña Rosita la soltera” の断片が書かれたポスターが掲げられ、それは「夜の帳が降りるとき、しなやかな金属の角、そして星が流れる、風が消えるあいだに、暗闇の境めで、落葉しはじめる」(拙訳)で閉じられていた。
★スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソは「彼女は悲しい泣きピエロのように、自分が抱えていた痛みを隠し続けました。今私は映画界の愛と尊敬を伝えることしかできません」と。弟アグスティンと一緒に参列したペドロ・アルモドバルは「ベロニカはコメディに特別な才能を発揮しました。人々を笑わせる能力に秀でていて、幼い頃の無邪気さを失っていなかった。天使と一緒に、私は私の人生でもっとも面白い映画をつくることができました」。また最近のベロニカについては「彼女は私が知っているベロニカではありませんでした。私が覚えているのは、とても幸せで、信じられないほどコミカルな女優でした。とても世話好きで皆の力になりました。彼女は夫とうまくいかず、数年前にお兄さんを失くしました。時間は彼女の感情をうまく扱いませんでした。これらの問題と闘う武器を持っていると思っていましたが、現実は私たちにノーと言ったのです」と付け加えました。

(インタビューに応じるペドロ・アルモドバル監督)
★マヌエル・イボラと離婚した同じ2014年の大晦日に、尊敬もし頼りにもしていた兄アルバロが鬼籍入りした。このことが彼女に精神的なダメージを与え、深刻な鬱状態になったことは周知の通りです。2018年3月の母親の旅立ちも痛手だったのではないでしょうか。午後4時からの出棺まで待っていた200人ほどの人々が数分間拍手喝采して柩を見送りしました。内輪だけで荼毘に付すため、エル・エスコリアルの遺体安置所に運ばれて行きました。嘆いてもきりがありません、「どうかよい旅でありますように、ベロニカ」
*以下の写真は代表作としてメディアが作成したものです。上段左から、TVシリーズ「Eva y Adan, agencia matrimonial」、『キカ』、TVシリーズ「Pepa y Pepe」、舞台『歌姫カルメーラ』、下段左から、「Amor propio」、「Bajarse al moro」、「Enloquecidas」、「Las cosas que sé que son de verdad」の順です。

フェルナンド・レオンの「El buen patoron」が受賞*フォルケ賞受賞結果 ― 2021年12月14日 16:39
作品賞はフェルナンド・レオンの「El buen patorón」が受賞

(作品賞受賞の「El buen patorón」のフレームから)
★12月11日、ホセ・マリア・フォルケ賞のガラが開催され、受賞結果が発表になりました。監督賞がありませんのでフェルナンド・レオンもアルモドバルもイシアル・ボリャインの姿もなく、唯一「Mediterráneo」のマルセル・バレナが男優賞にノミネートされていたエドゥアルド・フェルナンデスと一緒に姿を見せていました。殆ど下馬評通りの受賞結果、サプライズといえば候補者やトロフィーのプレゼンター、招待客の奇抜な衣装だったかもしれません。昨年同様マスク着用が義務づけられ、メディアのインタビューも着用のまま、許されたのはフォトコールだけでした。
★そしてお祝いムードの余韻が残るなか、13日午前ベロニカ・フォルケの突然の訃報のニュースが駆けめぐりました。フォルケ賞は1995年72歳で癌に倒れたベロニカの父親ホセ・マリア・フォルケを讃えて、翌年設立された映画賞です。本賞の顔として毎年出席していたベロニカでしたが、今年は姿を見せませんでした。死因などはいずれアップするつもりですが、底抜けに明るい表の顔とは異なる、心に闇を抱えた66年の生涯でした。アルモドバル・ガールの1人として、『グロリアの憂鬱』『マタドール』『キカ』、フェルナンド・トゥルエバの『目覚めの年』、フェルナンド・コロモの「La vida alegre」など、心に残る映画が思い起こされます。
*第27回ホセ・マリア・フォルケ賞2021受賞結果*
◎作品賞(フィクション&アニメーション)
「Madres paralelas」* 製作:EL DESEO / REMOTAMENTE FILMS
「Maixabel」* 製作:FEELGOOD MEDIA / KOWASLKI GILMS / MAIXABEL FILM
「Mediterráneo」* 製作:ARCADIA MOTION PICTURES / CADOS PRODUCCIONES /
FASTEN SEAT BELT / KARNAVAS-KONTROVRAKIS&SIA CO/HERETIC / LASTOR MEDIA
「El buen patorón」* 製作:BASCULAS BLANCO / THE MEDIAPRO STUDIO /
REPOSADO PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS

◎長編ドキュメンタリー賞
「Buñuel, Un cineasta surrealista」(21,83分)* 監督ハビエル・エスパダ
「Héroes, Silencio y rock & roll」(19,94分) 監督アレシィス・モランテ
「Quien lo pidee」(21、220分)* 監督ホナス・トゥルエバ
「100 Días con la Tata」(21、82分) 監督ミゲル・アンヘル・ムニョス


◎短編賞
「Mindanao」(21、17分) 監督ボルハ・ソレル
「The Monkey」(21、17分アニメーション)
監督ホセ・サパタ、ロレンソ・デグルイノセンティ
「El monstruo invisible」(19、29分)監督ハビエル・フェセル、ギジェルモ・フェセル


◎シリーズ賞
「Historias para no dormir」(21)
監督ロドリゴ・コルテス、ロドリゴ・ソロゴイェン、パコ・プラサ、パウラ・オルティス
「La fortuna」*(21) 監督アレハンドロ・アメナバル
「Maricón perdido」(21) 監督アレハンドロ・マリン
「Hierro」(19) 監督ホルヘ・コイラ、製作者ペペ・コイラ、アルフォンソ・ブランコ


◎男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス「Mediterráneo」 監督マルセル・バレナ
ルイス・トサール「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン
ウルコ・オラサバル「Maixabel」同上
ハビエル・バルデム「El buen patorón」 監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア

◎女優賞
マルタ・ニエト「Tres」 監督フアンホ・ヒメネス
ペネロペ・クルス「Madres paralelas」 監督ペドロ・アルモドバル
ペトラ・マルティネス「La vida era eso」(20、邦題『マリアの旅』)*
監督ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス
ブランカ・ポルティリョ「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン

◎シリーズ男優賞
アルバロ・メル「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル
ダリオ・グランディネッティ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ
ハビエル・グティエレス「Reyes de la noche」(21)
監督カルロス・テロン、アドルフォ・バロール
ハビエル・カマラ「Venga Juan」(21~22)創作者ディエゴ・サンホセ

◎シリーズ女優賞
アナ・ポルボロサ「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル
マリベル・ベルドゥ「Ana Tramel, El juego」(21)
監督サルバドール・ガルシア、グラシア・ケレヘタ
ナディア・デ・サンティアゴ「El tiempo que te doy」(21)
監督イネス・ピントル・シエラ、パブロ・サンティドリアン
カンデラ・ペーニャ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ

◎ラテンアメリカ映画賞
「98 segundos sin sombra」(ボリビアほか、21) 監督フアン・パブロ・リヒター
「Lavaperros」(アルゼンチンほか、18) 監督カルロス・モレノ
「Los lobos」(メキシコほか、19) 監督サムエル・キシ・レオポ
「Noche de fuego」*(メキシコほか、21) 監督タティアナ・ウエソ

◎Cine y Educacion en Valores価値ある映画と教育賞
「100 Días con la tata」
「Madres paralela」
「Mediterráneo」
「Maixabel」

★以上が10カテゴリーの受賞結果でした。他EGEDA金のメダルをAtipica Filmsのプロデューサーであるホセ・アントニオ・フェレスが受賞しました。『漆黒のような深い青』、『マーシュランド』、『スモーク・アンド・ミラーズ』、『SEVENTEENセブンティーン』、TVシリーズ「La Peste」などのヒット作を手掛けている。『SEVENTEENセブンティーン』でフォルケ賞2020の価値ある映画と教育賞をダニエル・サンチェス・アレバロ監督と受賞している。(EGEDAオーディオビジュアル著作権管理協会が選考母体、現会長エンリケ・セレソ)

(金のメダルを手にしたホセ・アントニオ・フェレス)

(フォルケ賞2020価値ある映画と教育賞を受賞)
マルセル・バレナの「Mediterraneo」*フォルケ賞2021 ― 2021年12月13日 20:27
フォルケ賞&ゴヤ賞にノミネートされた「Mediterráneo」

★マルセル・バレナの「Mediterráneo」は実話に基づいている。フォルケ賞とゴヤ賞の両方の作品賞にノミネートされながら作品紹介が未だでした。本作は第94回オスカー賞のスペイン代表作品の最終候補3作の一つでした。結果はフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「El buen patorón」になりました。エドゥアルド・フェルナンデスが扮するオスカル・カンプス(バルセロナ1963)というライフガードがモデルです。地中海を横断する移民と難民を救助する人道支援組織NGO Proactiva Open Arms(プロアクティバ・オープン・アームズ)の設立者です。発端は2015年秋9月、トルコの海岸に打ち上げられたクルド出身のシリアの3歳児アイランの溺死体の画像でした。その映像が瞬く間に世界中を駆けめぐったのは、そんなに昔の話ではない。
★バルセロナのバダロナで人命救助の会社を所有していたカンプスは、ギリシャのレスボス島に辿りついたシリア難民支援を決意しました。資金は仲間と一緒に旅行するために節約して貯めた15,000ユーロでした。時間の経過とともに、ソーシャルネットやメディアの報道を通じて、オープン・アームズのインフラや支援能力を向上させていきました。映画はその活動の始りに焦点を当てています。
「Mediterráneo」(The Low of the Sea)
製作:Arcadia Motion Pictures / Cados Producciones / Fasten Films /
Lastor Media / Heretic 協賛RTVE / Movistar+/ TVC / ICAA / ICEC
監督:マルセル・バレナ
脚本:ダニエル・シュライフ、マルセル・バレナ
撮影:アルナウ・バタリェル
音楽:キコ・デ・ラ・リカ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
キャスティング:マキス・ガジス
美術:マルタ・バザコ、ピネロプ・イ・バルティ、エレナ・バルダバ
衣装デザイン:デスピナ・チモナ
メイクアップ&ヘアー:(メイク)エレクトラ・Katsimicha、ロウラ・リアノウ、(ヘアー)マリオナ・トリアス、アンジェリキ・バロディモウ、他
プロダクション・マネージメント:アルベルト・アスペル、他
製作者:アドリア・モネス、イボン・コルメンザナ、イグナシ・エスタペ、セルジ・モレノ、トノ・フォルゲラ、(エグゼクティブ)サンドラ・タピア、他
データ:製作国スペイン=ギリシャ、言語スペイン語・ギリシャ語・英語・カタルーニャ語・アラビア語、2021年、アクション・スリラー、実話、112分、撮影地レスボス島、アテネ、バルセロナ、期間2020年9月4日~10月26日、スペイン公開2021年10月1日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2021、オーレンセ映画祭観客賞受賞、ローマ映画祭観客賞受賞、パラブラ映画祭2021男優賞(エドゥアルド・フェルナンデス、ダニ・ロビラ)受賞、テッサロニキ映画祭、ノミネート:第27回フォルケ賞2021作品賞・男優賞(E.フェルナンデス)、ゴヤ賞2022(作品賞以下9カテゴリー)、フェロス賞主演男優賞(E.フェルナンデス)、他
キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(オスカル・カンプス)、ダニ・ロビラ(ジェラルド・カナルス)、アンナ・カスティーリョ(エステル)、セルジ・ロペス(ニコ)、メリカ・フォロタン(ラシャ)、パトリシア・ロペス・アルナイス(ラウラ・ラヌザ)、アレックス・モネル(サンティ・パラシオス)、コンスタンティン・シンシリス(バックパッカー)、バシリス・ビスビキス(マソウラス)、ヤニス・ニアロス(ロウカス)、ジオタ・フェスタ(ノラ)、スタティス・スタモウラカトス(ストラスト)、ロセル・ビリャ=アバダル(ジェラルドの妻)、他エキストラ多数
ストーリー:2015年秋、ライフガードのオスカルとジェラルドは、ギリシャのレスボス島に旅行に出掛け、地中海で溺死した幼児の写真に衝撃を受ける。武力抗争から逃れるため、何千人もの難民が不安定なボートで海を渡ってくる冷酷な現実に圧倒される。しかし誰も救助活動を行いません。エステルとニコ、他のメンバーと一緒に、彼らは救助を必要としている人々をサポートしようと決意する。この旅は全員にとって自身の人生を刻むオデッセイになるだろう。

(レスボス島に流れ着いた難民を救助するライフガードたち、フレームから)
地中海は地球上で最大の集団墓地になっていた!
★監督紹介:マルセル・バレナ、1981年バルセロナ生れ、監督、脚本家、俳優、製作者。2010年TVムービー「Cuatro estaciones」がガウディ賞を受賞、ドキュメンタリー「Món petit」(12)がアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2013で受賞するなどした。またゴヤ賞2014ドキュメンタリー賞部門にノミネートされている。2016年に「100 metros」で長編デビュー、本作は『100メートル』の邦題でNetflixが配信した。多発性硬化症と診断されたラモン・アロヨ(ビルバオ1971)の実話がベースになっている。「Mediterráneo」が第2作目になり、本作について「ラブストーリーでもあるが、ロマンティックな愛ではなく、自分が人間であると感じることのできる人の物語」と語っている。現在オンライン上映の具体的な話はないそうだが、たとえばFilminが目下最有力候補ということです。ということは日本は無理かもしれない。
*ドキュメンタリー「Món petit」の紹介記事は、コチラ⇒2014年01月19日

(オープン・アームズの シャツを着た監督、サンセバスチャンFF2021フォトコール)

(左から、セルジ・ロペス、エドゥアルド・フェルナンデス、バレナ監督、
ダニ・ロビラ、アンナ・カスティーリョ、同上)
★エドゥアルド・フェルナンデス、1964年バルセロナ生れ、演劇、映画、TV俳優。バルセロナの演劇研究所(1913設立)でパントマイムを学ぶ。シェイクスピア劇(2006年「ハムレット」でフォトグラマス・デ・プラタ俳優賞)、ベケット、アーサー・ミラーのような現代劇にも出演、TVシリーズ出演は1985年、日本で公開された最初の映画はビガス・ルナの『マルティナの海』(01)ではないかと思います。三つの分野を両立させながら今日に至っている。
★当ブログ登場も多く、ゴヤ賞には「Fausto 5.0」(監督アレックス・オリェ、イシドロ・オルティス、カルルス・パドリサ)で2002主演男優賞、セスク・ゲイの「En la ciudad」(03)とアメナバルの『戦争のさなかで』(19)のミリャン・アストライ役で助演男優賞と3個のゴヤ胸像を手にしています。他にサンセバスチャン映画祭2016のアルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』で元諜報員フランシスコ・パエサを演じて銀貝男優賞、ガウディ賞も3個、マラガ映画祭でもビスナガ男優賞3個と受賞歴が多く、ノミネートは数えきれない。これまでも歴史上の人物を具現化してきた。上述したミリャン・アストライやフランシスコ・パエサの他に、フェリペ2世、ヘスス・デ・ガリンデスなどだが、キャラクターが生きている場合は「演じる人物の動機を知り、なぜそうしたか、その理由を理解することです」と語っている。私事になるが共演作もある、活躍目覚ましい女優グレタ・フェルナンデスは一人娘である。
*『戦争のさなかで』の作品紹介は、コチラ⇒2019年11月26日
*『スモーク・アンド・ミラーズ』の作品紹介は、コチラ⇒2016年09月24日

(オスカル・カンプス役のエドゥアルド・フェルナンデス、フレームから)
★ダニ・ロビラ、もう一人の主人公ジェラルド・カナルスを演じた。「オーチョ・アペジードス」の大ヒットで上昇気流に乗っていたさなかの2020年3月にホジキンリンパ腫という癌で闘病生活を余儀なくされた。本作出演は復帰第2作目になる(第1作目は夏公開されたジャウム・コレット=セラの『ジャングル・クルーズ』)。彼はマルセル・バレナ監督のデビュー作「100 metros」で主人公のラモン・アロヨを演じた。30代の若さで、100メートルさえ歩けないと言われたラモンが、トライアスロンの鉄人レースに挑戦した実話をベースにしたヒューマンドラマでした。既にキャリア&フィルモグラフィー紹介をしております。バレナ監督によると、新作の撮影は悪天候や新型コロナウイリス感染の影響で困難続きだったという。エキストラになってくれたシリア難民が収容キャンプ地に足止めされてしまった。しかしもっと大変だったのは、ダニのホジキンリンパ腫の罹患だったという。
*ダニ・ロビラのホジキンリンパ腫闘病&キャリア紹介は、コチラ⇒2021年05月24日

(エドゥアルド・フェルナンデス、ダニ・ロビラ、アンナ・カスティーリョ)
★オスカル・カンプスは、1963年バルセロナ生れ、人道支援組織NGO Proactiva Open Arms(プロアクティバ・オープン・アームズ)の設立者。23歳のときレンタカーの会社を立ち上げ成功させた。その後離婚したときに慰謝料として妻に渡した。赤十字に参加した経験をもとにライフガードの仕事に携わることになった。「ライフガードは、世界の他の地域では尊敬されていますが、ここではプールでごっこ遊びをしていると思われています」と語り、アイラン少年と同じ年齢の息子がいたこともNGOオープン・アームズ設立の動機の一つのようでした。「船員には漂流者を救助する義務があり、その後、彼らをどうするかは指導者の責任である」とも語っている。オープン・アームズは約10万人以上の難民を救助した。

(「私たちは子持ちの離婚経験者」と仲のいいフェルナンデスとカンプス)
第27回ホセ・マリア・フォルケ賞2021*ノミネーション発表 ― 2021年12月08日 11:07
1ヵ月前倒しのフォルケ賞授賞式――2021年12月11日

★新春最初のスペインの映画賞として1月初旬に開催されていたホセ・マリア・フォルケ賞が、1ヵ月前倒しになり、間もなくの12月11日(土)に行われます。最終ノミネーション発表は11月に発表になっていました。従って2021年は第26回と第27回の2回という異例の開催です。10カテゴリーと変わりません。製作サイドに陽があたるよう始まった映画賞、特徴は監督賞がないことです。選考母体がオーディオビジュアル著作権管理協会(初代会長がホセ・マリア・フォルケ)ということもあって、前回アップしましたゴヤ賞とはカテゴリーの内容も視点も若干異なっています。初期には今日のような俳優賞やシリーズ部門はありませんでした。次々カテゴリーが増えていく傾向にあります。(*印は紹介作品)
*第27回ホセ・マリア・フォルケ賞2021ノミネーション*
◎作品賞(フィクション&アニメーション)
「El buen patorón」* 製作:BASCULAS BLANCO / THE MEDIAPRO STUDIO /
REPOSADO PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS

「Madres paralelas」* 製作:EL DESEO / REMOTAMENTE FILMS

「Maixabel」* 製作:FEELGOOD MEDIA / KOWASLKI GILMS / MAIXABEL FILM

「Mediterráneo」 製作:ARCADIA MOTION PICTURES / CADOS PRODUCCIONES /
FASTEN SEAT BELT / KARNAVAS-KONTROVRAKIS&SIA CO/HERETIC / LASTOR MEDIA

◎長編ドキュメンタリー賞
「100 Días con la Tata」(21、82分) 監督ミゲル・アンヘル・ムニョス

「Buñuel, Un cineasta surrealista」(21,83分) 監督ハビエル・エスパダ

「Héroes, Silencio y rock & roll」(19,94分) 監督アレシス・モランテ

「Quien lo pidee」(21、220分)* 監督ホナス・トゥルエバ

◎短編賞
「El monstruo invisible」(19、29分)監督ハビエル・フェセル、ギジェルモ・フェセル

「Mindanao」(21、17分) 監督ボルハ・ソレル

「The Monkey」(21、17分アニメーション)
監督ホセ・サパタ、ロレンソ・デグルイノセンティ

◎シリーズ賞
「Hierro」(19) 監督ホルヘ・コイラ

「Historias para no dormir」(21)
監督ロドリゴ・コルテス、ロドリゴ・ソロゴイェン、パコ・プラサ、パウラ・オルティス

「La fortuna」*(21) 監督アレハンドロ・アメナバル

「Maricón perdido」(21) 監督アレハンドロ・マリン

◎男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス「Mediterráneo」 監督マルセル・バレナ

ハビエル・バルデム「El buen patorón」 監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア

ルイス・トサール「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン

ウルコ・オラサバル「Maixabel」同上

◎女優賞
ブランカ・ポルティリョ「Maixabel」 監督イシアル・ボリャイン

マルタ・ニエト「Tres」 監督フアンホ・ヒメネス

ペネロペ・クルス「Madres paralelas」 監督ペドロ・アルモドバル

ペトラ・マルティネス「La vida era eso」(20、邦題『マリアの旅』)*
監督ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス

◎シリーズ男優賞
アルバロ・メル「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル

ダリオ・グランディネッティ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ

ハビエル・カマラ「Venga Juan」(21~22) 創作者ディエゴ・サンホセ

ハビエル・グティエレス「Reyes de la noche」(21)
監督カルロス・テロン、アドルフォ・バロール

◎シリーズ女優賞
アナ・ポルボロサ「La fortuna」 監督アレハンドロ・アメナバル

カンデラ・ペーニャ「Hierro」 監督ホルヘ・コイラ

マリベル・ベルドゥ「Ana Tramel, El juego」(21)
監督サルバドール・ガルシア、グラシア・ケレヘタ

ナディア・デ・サンティアゴ「El tiempo que te doy」(21)
監督イネス・ピントル・シエラ、パブロ・サンティドリアン

◎ラテンアメリカ映画賞
「98 segundos sin sombra」(ボリビアほか、21) 監督フアン・パブロ・リヒター

「Lavaperros」(アルゼンチンほか、18) 監督カルロス・モレノ

「Los lobos」(メキシコほか、19) 監督サムエル・キシ・レオポ

「Noche de fuego」*(メキシコほか、21) 監督タティアナ・ウエソ

◎Cine y Educacion en Valores価値ある映画と教育賞
「100 Días con la tata」
「Madres paralela」
「Maixabel」
「Mediterráneo」
★以上が10カテゴリーのノミネーションです。
第36回ゴヤ賞2022ノミネーション発表*ゴヤ賞2022 ② ― 2021年12月05日 17:09
最多ノミネーションの「El buen patorón」は史上初の20個

★去る11月29日、マドリードの映画アカデミー本部にて第36回ゴヤ賞2022のノミネーションは発表がありました。司会者はナタリエ・ポサとホセ・コロナドでした。作品賞は以下の通りですが、米アカデミー国際長編映画賞のスペイン代表になったフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「El buen patorón」がゴヤ賞始まって以来のノミネート20個になりました。これまではイマノル・ウリベの『時間切れの愛』(94)の19個でした。イシアル・ボリャインの「Maixabel」が14個、ペドロ・アルモドバルの「Madres paralelas」の8個、続くはマルセル・バレナの「Mediterráneo」の7個、2021年のスペイン映画界に大きく貢献したというクララ・ロケの『リベルタード』と、キンキ映画のオマージュというダニエル・モンソンの「Las leyes de la frontera」の6個です。

(ノミネーション・プレゼンターのホセ・コロナドとナタリエ・ポサ)
★ノミネーションの数が受賞に正比例するわけではありませんが、一応流れはできたという印象です。うち助演男優賞に「El buen patorón」からセルソ・ブガージョ、フェルナンド・アルビス、マノロ・ソロの3人(!?)、助演女優賞に「Madres paralelas」からアイタナ・サンチェス=ヒホンとミレナ・スミスの2人が同作品から選ばれている。過去に2人はしばしば目にしましたが、3人となるとしらけます。初出には監督名を補いました。(*印は作品紹介をしたもの)
*第36回ゴヤ賞ノミネーション全28カテゴリー*
◎作品賞(5作品)
「El buen patorón」* 監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア

「Maixabel」* 監督イシアル・ボリャイン

「Madres paralelas」* 監督ペドロ・アルモドバル

「Libertad」* 監督クララ・ロケ(邦題『リベルタード』)

「Mediterráneo」* 監督マルセル・バレナ

◎監督賞
フェルナンド・レオン・デ・アラノア 「El buen patorón」
マヌエル・マルティン・クエンカ 「La hija」*(邦題『ザ・ドーター』)

ペドロ・アルモドバル 「Madres paralelas」
イシアル・ボリャイン 「Maixabel」
◎新人監督賞
カロル・ロドリゲス・コラス 「Chavalas」

ハビエル・マルコ 「Josefina」*

ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス 「La vida era eso」*(邦題『マリアの旅』)

クララ・ロケ「Libertad」(邦題『リベルタード』)
◎オリジナル脚本賞
フェルナンド・レオン・デ・アラノア 「El buen patorón」
クララ・ロケ 「Libertad」
イシアル・ボリャイン 「Maixabel」
フアンホ・ヒメネス・ペーニャ&ペレ・アルタミラ 「Tres」監督は脚本に同じ

◎脚色賞
フリア・デ・パス・ソルバス&ヌリア・ドゥンホ・ロペス 「Ama」*

アグスティ・ビリャロンガ 「El vientre del mar」*

ダニエル・モンソン&ホルヘ・ゲリカエチェバリア 「Las leyes de la frontera」*

ベニト・サンブラノ&クリスティナ・カンポス 「Pan de limon con semillas de amapola」

◎主演男優賞
ハビエル・バルデム 「El buen patorón」
ハビエル・グティエレス 「La hija」(邦題『ザ・ドーター』)
ルイス・トサール 「Maixabel」
エドゥアルド・フェルナンデス 「Mediterráneo」
◎主演女優賞
エンマ・スアレス 「Josefina」
ペトラ・マルティネス 「La vida era eso」(邦題『マリアの旅』)
ペネロペ・クルス 「Madres paralelas」
ブランカ・ポルティリョ 「Maixabel」
◎助演男優賞
セルソ・ブガージョ 「El buen patorón」
フェルナンド・アルビス 「El buen patorón」
マノロ・ソロ 「El buen patorón」
ウルコ・オラサバル 「Maixabel」
◎助演女優賞
ソニア・アルマルチャ 「El buen patorón」
ノラ・ナバス 「Libertad」(邦題『リベルタード』)
アイタナ・サンチェス=ヒホン 「Madres paralelas」
ミレナ・スミス 「Madres paralelas」
◎新人男優賞
オスカル・デ・ラ・フエンテ 「El buen patorón」
タリク・ルミリ 「El buen patorón」
チェチュ・サルガド 「Las leyes de la frontera」
ホルヘ・モトス 「Lucas」* 監督アレックス・モントーヤ

◎新人女優賞
アンヘラ・セルバンテス 「Chavalas」
アルムデナ・アモール 「El buen patorón」
ニコル・ガルシア 「Libertad」(邦題『リベルタード』)
マリア・セレスエラ 「Maixabel」
◎オリジナル作曲賞
Zeltia Montes 「El buen patorón」
Fatima Al Qadiri 「La abuela」* 監督パコ・プラサ

アルベルト・イグレシアス 「Maixabel」
アルナウ・バタジェール 「Mediterráneo」
◎オリジナル歌曲賞
“Burst Out” 作曲家アンヘル・レイロ、ジャン=ポール・Dupeyron、ハビエル・カペリャス「Album de posguerra」(ドキュメンタリー)監督アイリー・マラガル&アンヘル・レイロ

“Que me busquen por dentro” 同アントニオ・オロスコ、
ジョルディ・コレル・ピニリョス 「El cover」* 監督セクン・デ・ラ・ロサ

“Las leyes de la frontera” 同アレハンドロ・ガルシア・ロドリゲス、アントニオ・モリネロ・レオン他 「Las leyes de la frontera」
“Te espera el mar” 同マリア・ホセ・リェルゴ 「Mediterráneo」
◎長編アニメーション賞
「Gora automatikoa」 カルロス・ゲレーロ、ダビ・ガラン・ガリンド、ほか

「Mironins」 アレックス・セルバンテス、アンヘル・コロナド、ほか

「Salvar el árbol (Zutik!)」 カルメロ・ビバンコ、エゴイツ・ロドリゲス、ほか

「Valentina」 ブランダン・デ・ブラノ、チェロ・ロウレイロ、ほか

◎ドキュメンタリー賞
「El retorno: La vida después del ISIS」 アルバ・ソトラ、カルレス・トラス、
ベスナ・クディク 監督アルバ・ソトラ

「Héroes, silencio y rock and roll」 ホセ・パストル、ミゲル・アンヘル・ラマタ、ほか
監督アレシス・モランテ

「Quién lo impide」* ハビエル・ラフエンテ、ラウラ・レナウ、ロレナ・トゥデラ
監督ホナス・トゥルエバ

「Un blues para Teherán」* アレハンドラ・モラ・ペレス、ルイス・ミニャロ
監督ハビエル・トレンティノ

◎短編映画賞
「Farrucas」 イアン・デ・ラ・ロサ

「Mindanao」 ボルハ・ソレル

「Totem Loba」 ベロニカ・エチェギ

「Votamos」サンティアゴ・レケホ

「Yalla」 カルロ・ドゥルシ

◎短編ドキュメンタリー賞
「Dajla: Cine y olvido」 アルトゥーロ・ドゥエニャス

「Figurante」 ナチョ・フェルナンデス

「Mama」 パブロ・デ・ラ・チカ

「Ulises」 ジョアン・ボヴェル

◎短編アニメーション賞
「Nacer」 ロベルト・バリェ

「Proceso de selección」 カルラ・ペレイラ

「The Monkey」 ロレンソ・デグルイノセンティ、ホセ・サパタ

「Umbrellas」 アルバロ・ロブレス、ホセ・プラツ

◎撮影賞
パウ・エステベ・ビルバ 「El buen patorón」
グリス・ジョルダナ 「Libertad」
ホセ・ルイス・アルカイネ「 Madres paralelas」
キコ・デ・ラ・リカ 「Mediterráneo」
◎録音賞
イバン・マリン、ペラヨ・グティエレス、バレリア・アルシエリ 「El buen patorón」
セルヒオ・ビュルマン、ライア・カサノバス、マルク・オルス 「Madres paralelas」
アラスネ・アメスロイ、フアン・フェロ、カンデラ・パレンシア 「Maixabel」
ダニエル・フォンロドナ、オリオル・タラゴ、マルク・ビー、マルク・オルス「Tres」
◎編集賞
アントニオ・フルロス 「Bajocero」 監督リュイス・キレス(『薄氷』Netflix)

バネッサ・L・マリンベル 「El buen patorón」
ミゲル・ドブラド 「Josefina」
ナチョ・ルイス・カピリャス 「Maixabel」
◎特殊効果賞
ラウル・ロマニリョス、ミリアム・ピケル 「El buen patorón」
ラウル・ロマニリョス、フェラン・ピケル 「La abuela」
アレックス・ビリャグラサ 「Mediterráneo」
パウ・コスタ、ラウラ・ペドロ 「Way Down」「The Vault」 監督ジャウマ・バラゲロ

◎美術賞
セサル・マカロン 「El buen patorón」
バルテル・ガリャル 「Las leyes de la frontera」
アンチョン・ゴメス 「Madres paralelas」
ミケル・セラーノ「Maixabel」
◎衣装デザイン賞
アルベルト・バルカルセル 「El amor en su lugar」 監督ロドリゴ・コルテス

フェルナンド・ガルシア 「El buen patorón」
Vinyel Escobal 「Las leyes de la frontera」
クララ・ビルバオ「Maixabel」
◎メイクアップ&ヘアー賞
アルムデナ・フォンセカ、マノロ・ガルシア 「El buen patorón」
サライ・ロドリゲス、ベンハミン・ぺレス、ナチョ・ディアス 「Las leyes de la frontera」
エリ・アダネス、セルヒオ・ぺレス・ベルベル、ナチョ・ディアス 「Libertad」*
監督エンリケ・ウルビス

カルメレ・ソレル、セルヒオ・ぺレス・ベルベル 「Maixabel」
◎プロダクション賞
オスカル・ビヒオラ 「El amor en su lugar」
ルイス・グティエレス 「El buen patorón」
グアダルーペ・バラゲル・トレリス 「Maixabel」
アルベルト・エスペル、コスラス・セアキアナキス 「Mediterráneo」
◎イベロアメリカ映画賞
「Canción sin nombre」*(邦題『名もなき歌』)(ペルー、19)監督メリナ・レオン

「La cordillera de los sueños」*(邦題『夢のアンデス』)ドキュメンタリー(チリ、19)
監督パトリシア・グスマン

「Las siamesas」 監督パウラ・エルナンデス(アルゼンチン、20)

「Los lobos」 監督サムエル・キシ(メキシコ、19)

◎ヨーロッパ映画賞(原題、英題、西題、邦題の順)
「Adieu les cons」「Bye Bye Morons」「Adiós, idiotas」(フランス、20)
監督アルベール・デュポンテル、セザール賞2021作品賞・脚本賞ほか受賞

「Ich bin dein Mensch」「I’m Your Man」「El hombre perfecto」『私はあなたの男です』
(ドイツ、21)監督マリア・シュラーダー、ベルリンFF俳優賞マレン・エッゲルト、
第94回米アカデミー2022国際長編映画賞ドイツ代表作品

「Dunk」「Another Round」「Otra ronda」『アナザーラウンド』(デンマーク、20)
監督トマス・ヴィンターベア、SSIFF2020銀貝俳優賞(マッツ・ミケルセン以下4名)
オスカー賞2021国際長編映画賞受賞、デンマーク・アカデミー賞5冠、ほか受賞歴多数

「Promising Young Woman」「Una joven prometedora」『プロミシング・ヤング・ウーマン』 (イギリス、20)監督エメラルド・フェネル、オスカー賞2021オリジナル脚本賞(E・フェネル)

◎栄誉賞
ホセ・サクリスタン
★以上が全28カテゴリーのラインナップです。脚本賞にアルモドバルの「Madres paralelas」が選ばれなかったり、期待していたアイノア・ロドリゲスのデビュー作も、「Mediterráneo」と『マリアの旅』に出演していたアンナ・カスティーリョの名前も見当たりませんでした。クララ・ロケとエンリケ・ウルビスのタイトルが同じ「Libertad」だったりと紛らわしかった。
★イベロアメリカ映画賞とヨーロッパ映画賞は、2021年中にスペインで公開された作品が対象なのでかなりのタイムラグが生じています。パウラ・エルナンデスの「Las siamesas」はノーチェックでしたが、いずれ作品紹介をしたい。サムエル・キシの「Los lobos」は、スペインの映画祭にはノミネートされませんでしたが、ベルリンFF(ゼネレーション部門)の作品賞受賞を初めとして、メキシコを含めた国際映画祭の受賞歴が多数あります。ゴヤ賞のほかホセ・マリア・フォルケ賞2022にもノミネートされています。
★ゴヤ賞2022の授賞式は、ガルシア・ベルランガ生誕100周年を記念して、出身地バレンシアのPalau de les Arts で2022年2月12日(土)に開催、これまでのように総合司会者はおかないガラになるようです。これをもって <ベルランガ年> が締めくくられます。
ホセ・サクリスタンがゴヤ賞2022栄誉賞を受賞*ゴヤ賞2022 ① ― 2021年12月02日 15:13
映画国民賞2021に続くゴヤ栄誉賞にホセ・サクリスタン

★11月29日、いよいよ今年も残り少なくなったと実感するゴヤ賞のノミネーション発表がありました。作品賞5作品は、クララ・ロケの『リベルタード』以外は予想通りでした。アップは次回にまわすとして、まずは既に発表になっていました、ホセ・サクリスタン(チンチョン1937)の第36回ゴヤ栄誉賞受賞の話題から。時代に流されない彼のブレない人生哲学に共感して、当ブログにも度々登場して貰っています。例年サンセバスチャン映画祭期間中に授賞式が行われる2021年の映画国民賞受賞記事を書いたばかりでした。舞台に専念して映画から離れていた時期もありましたが、60年に及ぶ役者人生を考えると、未だ受賞していなかったとは意外でした。これからも来る者は拒まず、これからも現役を続ける由。
*サクリスタン映画国民賞2021受賞の記事は、コチラ⇒2021年07月13日

(ホセ・サクリスタン、映画国民賞2021の授賞式、サンセバスチャン映画祭9月)
★11月22日月曜日午前、スペイン映画アカデミー理事会より「ゴヤ賞2022の栄誉賞はホセ・サクリスタン」の発表がありました。アカデミーは「すべての若いシネアストに対する献身、情熱、倫理、プロ意識のモデルであること、60年にも及ぶスペイン映画の顔であり声であること、私たちの親密な記憶の一部である非常に多くの映画で、その独自のやり方で自分自身を表現することを知っていること、更に私たちの映画や社会が大きな展開期をむかえたなかでもスクリーンに止まって前進する方法を熟知している俳優に与えることにしました」と授賞理由を述べました。
★ニュースを知った84歳の俳優は「私の仕事は、彼の目標が達成されたのを見た子供の喜びであり、彼が学生、触れ役、新兵、移民、弁護士、医者、殺し屋であると人々に信じ込ませることでした、そして人々は信じたのです。幸運なことに友人たち、私の愛すべき人々、家族を取りまく人が仕事をしています。これ以上求めるものはありません」と語りました。また「とても興奮しています。それというのも収穫が順調で、年月が経ち、自分の道が間違っていなかった、と知らせてくれたからです」と。俳優という職業は常に不安定であることを知っているサクリスタンは、「仕事は常にありましたから文句をいうのは卑劣でしょう。時には仕事に見合っていないこともありましたが、それは私自身の問題でした。私は幸運に恵まれ、特権があることを認め感謝しています」
「継続は力なり」の実践者サクリスタンの若さの秘密
★主なキャリア&フィルモグラフィーについては既に記事にしていますが、1960年舞台デビュー、1965年に映画界に入り、125以上の作品に出演しています。政治的な発言と義務を果たすプロフェッショナルとして若さを感じさせます。好奇心が強く、撮影中でも遊びと仕事の部分のバランスを上手くとっている。継続性が重要であることを教えてくれたのは、「フェルナンド・フェルナン=ゴメスでした。そうすれば事柄の良し悪しの識別ができるようになるからです。しかし基本的なことは、人々が私の仕事を認めてくれるかどうかなんですが」と語っている。フェルナンド・フェルナン=ゴメスというのは、第1回ゴヤ賞1987の作品賞、監督賞、脚本賞をコメディ「El viaja a ninguna parte」で受賞したシネアスト、俳優としても出演していた。そして主役を演じたのがホセ・サクリスタンでした。

(左から、サクリスタン、フェルナン=ゴメス、ラウラ・デル・ソル、フレームから)
★36年前の映画アカデミー創設者の一人だったサクリスタンの頭に浮かんだのは「プロデューサーのアルフレッド・マタス氏だった」という。「彼が1985年に私たちに提案し話合いが始まった。そうして生まれたのが映画アカデミーでした」。11月12日の初会合に出席した13名のなかには、故ガルシア・ベルランガ以下カルロス・サウラ、ホセ・ニエト、女性では女優のチャロ・ロペスなど。翌年1月8日に公式に設立され、初代会長にホセ・マリア・ゴンサレス=シンデが就任した。草創期から参加したアカデミー、自身も副会長として尽力したことを誇りに思っているとも語っている。今回の受賞はひとしお感慨深いものがあるようです。
★ゴヤ賞はハビエル・レボーリョの「El muerto y ser feliz」(12)の雇れ殺し屋を飄々と演じて主演男優賞を受賞している他、サンセバスチャン映画祭で2回目となる銀貝男優賞を受賞している。第36回のゴヤ賞ガラは2022年2月12日、バレンシア出身のガルシア・ベルランガ生誕100周年の記念行事として、バレンシアのLes Arts de Valencia で開催されます。現在ミゲル・デリーベスの小説を舞台化した “Señora de rojo sobre fondo gris”(1991刊、脚色ホセ・サマノ)のツアー中、来年6月までの予定ということです。「母なる自然が許す限り、楽しみながら続けます。責任をもってね」
*『灰地に赤の夫人像』(彩流社、1995刊)の邦題で翻訳書が刊行されていますが、目下品切れです。

(ゴヤ賞2013主演男優賞の受賞スピーチをするサクリスタン)

パブロ・ララインの新作「スペンサー」*ダイアナ・スペンサーの謎 ― 2021年11月28日 20:33
伝統に縛られた風変わりで冷酷な裏切りの王室を描いたホラー映画

★2022年はダイアナ・スペンサーが交通事故死して25年目というわけで、クリステン・スチュワートを起用したパブロ・ララインの「Spencer」(仮題「スペンサー」)と、エド・パーキンズのドキュメンタリー「Diana」の劇場公開が決定しています。チリの監督作品がベネチア映画祭でワールドプレミアされたからと言って、邦題も公開日も正式に決まっていないのに、紹介記事が多数アップされるとは驚きです。同じ有名人のビオピック『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』とは比較になりません。その謎に包まれた悲劇的な最期もあるのか、未だにダイアナ人気は持続しているようです。ネットフリックス配信のピーター・モーガン原案のTVシリーズ『ザ・クラウン』(ダイアナ役エマ・コリン)、酷評さくさくだったダイアナ最後の2年間に焦点を絞ったオリヴァー・ヒルシュビーゲルの『ダイアナ』(同ナオミ・ワッツ)と、ダイアナ女優の競演も見逃せません。
★旧姓 <スペンサー> だけでダイアナ妃に直結できる人がどのくらい居るのか分かりませんが、副題入りなら願わくば簡潔にして欲しい。本作についてはまだ詳細が分からなかった昨年夏にクリステン・スチュワート監督デビューを含むトレビア記事を紹介しております。スペイン語映画ではありませんが、久々にラライン映画をご紹介。
*「スペンサー」のトレビア記事は、コチラ⇒2020年07月12日

(パブロ・ラライン監督とクリステン・スチュワート、ベネチアFF2021フォトコール)
「Spencer」(仮題「スペンサー」)
製作:Komplizen Film / Fabla / Shoebox Films 協賛FilmNation Entertainment
監督:パブロ・ラライン
脚本:スティーブン・ナイト
撮影:クレア・マトン
美術(プロダクション・デザイン):ガイ・ヘンドリックス・ディアス
編集:セバスティアン・セプルベダ
衣装デザイン:ジャクリーン・デュラン
音楽(監修):ジョニー・グリーンウッド、ニック・エンジェル
キャスティング:Amy Hubbard
製作者:ポール・ウェブスター(英)、マーレン・アデ、ヨナス・ドルンバッハ、ヤニーネ・ヤツコフスキー(以上独)、フアン・デ・ディオス・ラライン&パブロ・ラライン(チリ)、(エグゼクティブ)スティーブン・ナイト、トム・クインほか多数
データ:製作国ドイツ=チリ=イギリス=アメリカ、英語、2021年、ビオピック・ドラマ、111分、撮影地ドイツ(フリードリヒスホーフ城)、イギリスのノーフォーク他、期間2021年1月28日~4月27日まで。配給STAR CHANNEL MOVIES、公開イギリス・アメリカ2021年11月5日、チリ2022年1月20日、独1月27日他多数、日本は2022年、東北新社フィルム・コーポレーション
映画祭・受賞歴:第78回ベネチア映画祭コンペティション部門、トロントFF、パルマ・スプリングFFスポットライト賞(クリステン・スチュワート)、ほかチューリッヒ、BFIロンドン、ハンプトン、ヘント、サンディエゴ、シカゴ、マドリードなどの国際映画祭上映多数。
キャスト:クリステン・スチュワート(ダイアナ妃)、ティモシー・スポール(アリスター・グレゴリー)、ジャック・ニーレン(長男ウイリアム)、フレディ・スプリー(次男ヘンリー)、ジャック・ファージング(チャールズ皇太子)、ショーン・ハリス(ダレン)、ステラ・ゴネット(エリザベス女王)、リチャード・サメル(エディンバラ公フィリップ殿下)、エリザベス・べリントン(アン王女)、ロア・ステファネク(女王の母、王太后)、サリー・ホーキンス(マギー)、エイミー・マンソン(アン・ブーリン)、ローラ・ベンソン(着付師アンジェラ)、ジョン・ケオ(チャールズの側用人マイケル)、トーマス・ダグラス(ダイアナの父ジョン・スペンサー)、エマ・ダーウォール・スミス(カミラ・パーカー・ボウルズ)、ニクラス・コート(アンドリュー王子)、オルガ・ヘルシング(元ヨークシャー公爵夫人サラ・ファーガソン)、他多数
ストーリー:ダイアナは、英国王室がクリスマス休暇を過ごすノーフォークにあるサンドリンガム邸に一人で到着した。彼女は生まれ育ったところからそれほど遠くないサンドリンガムをずっと憎んでいました。ダイアナが離婚を決意したクリスマス休暇の3日間が描かれる。彼女は過去と現在は同じものであり、未来は存在しない場所を逃れて、なりたい自分になることを選びます。誰も正確に本当のレディ・ディを知りません。
「謎に包まれたレディ・ディは魅惑的です」とラライン監督
★王室が存在しない国の監督パブロ・ラライン(サンティアゴ・デ・チリ1976、45歳)は、本作のプロモーションのためロンドンに滞在していました。キャンペーンはうまくいってるようです。「イギリス人は自分たちの暮らす社会とは違う話に慣れており、外部の誰かがそれに取り組んでいることを面白がります。彼らはこの映画が物議を醸すかどうか気をもんでいます。多分その要素はあるでしょう、おそらく危険です」とエル・パイスの記者にコメントした。

(ウェールズのダイアナとして登場するクリステン・スチュワート)
★「スペンサー」は、デビッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(07)の脚本を手掛けたスティーブン・ナイトに脚本を依頼したことから始まった。2021年1月下旬、ドイツのサンドリンガムに見立てたフリードリヒスホーフ城で迅速に撮影が始り、3月下旬にイギリスに移動して完成させました。カンヌ映画祭には間に合わず、ベネチアでワールドプレミアされました。ベネチアにはかつて『ジャッキー~』や『エマ、愛の罠』がコンペティション部門にノミネートされたとき現地入りしています。
★撮影は『トニー・マネロ』以来、長年にわたってラライン映画を手掛けてきた撮影監督セルヒオ・アームストロングから、今回はフランスのクレア・マトンに変わった。マトンはセリーヌ・シアマがカンヌFF2019の脚本賞・クイア賞を受賞した『燃ゆる女の肖像』の撮影監督です。アームストロングはロレンソ・ビガスの『箱』を撮っていた。ドイツ・サイドの製作者にマーレン・アデ、アデは『ありがとう、トニ・エルドマン』(16)の監督、そして今作をプロデュースしたのがヨナス・ドルンバッハとヤニーネ・ヤツコフスキーでした。イギリスからポール・ウェブスター、チリが監督の実弟フアン・デ・ディオス・ラライン、スタッフ陣に抜かりはありません。
★「ほぼ2年にわたって調査をしたのですが、情報が多くなればなるほど謎が深まっていった」と監督。「ダイアナを包み込んでいた謎は魅惑的で、理解できないことで逆に興味が増していきました。映画をご覧になった方は、それぞれ自分のバージョンをつくり、私的に愉しむことができます。伝統的なおとぎ話では、魅力的な王子様が現れてお姫様を見つけ結婚する。やがて王妃になれるのですが、ここでは反対のことが起きる」のです。つまりお姫様は王子様と出会う前のなりたい自分になると決めて王室を去るからです。そうして初めてアイデンティティをもつことができたのです。

(イギリスで撮影中のクリステン・スチュワートと監督)
★離婚でもっとも有名になった女性の運命については、既に皆が知ってることなので描かれない。1997年8月31日にパリで起きた衝撃的な交通事故についても描かれない。舞台はエリザベス女王のサンドリンガム邸、日付は指定されていません。別居が公式に発表になった1992年12月9日より前の1991年の或るクリスマス休暇の3日間か、あるいは息子二人の年齢から1992年の可能性もあると監督はコメントしている。ヘアースタイリスト界のスターだったサム・マックナイトの勧めで、ダイアナが髪をショートカットにした時期は1990年後半、1991年は「ダイアナ・ピクシー」と言われるショートだったという。映画のようなふんわりした髪型はもっと後のものだというのだが、明らかに違います。マックナイトはTVシリーズ『ザ・クラウン』でエマ・コリンのヘアーを担当しています。

(レディ・ディに扮したクリステン・スチュワート)

(ショートカットのダイアナ妃、1991年5月7日)
★ベネチア映画祭のあれこれは、既に報道されていることですが、監督が「私はいつもクリステンが揺るぎない、しっかりした、長い準備をして非常に自信をもっているように感じました。そしてそれがチームの他のメンバーに安心をもたらしました」とスピーチしたら、女優は「いいえ、私は怖れていました! しかし私はどっしり構えたあなたを見て、それに縋りつきました。とにかく私と同じように全員が怖がっていたのでした」と応じました。皆が知っている毀誉褒貶半ばする人物を演じるのは怖いです。実際本作はスタンリー・キューブリックの『シャイニング』のようなサイコホラーとは違うようですが、1200年の歴史と伝統にとらわれた不条理なホラー映画です。

(レディ・ディと二人の息子たち、フレームから)
★横道ですがベネチアにはパートナーの脚本家ディラン・マイヤーも現地入りしており、パパラッチを喜ばせていた。2018年夏からの比較的長い交際だから、今度は結婚にゴールインするかもしれない。彼女はコロナ禍の2020年に製作された17人の監督からなる短編コレクション『HOMEMADEホームメード』で監督デビューしたクリステンのために脚本を執筆している。
★監督紹介:パブロ・ララインは、1976年チリの首都サンチャゴ生れ。父親エルナン・ラライン・フェルナンデス氏は、チリでは誰知らぬ者もいない保守派の大物政治家、1994年からUDI(Union Democrata Independiente 独立民主連合) の上院議員で弁護士でもあり、2006年には党首にもなった人物。現在はピニェラ政権下で法務人権相。母親マグダレナ・マッテも政治家でセバスチャン・ピニェラ(2010~14)政権の閣僚経験者、つまり一族は階級的には富裕層に属している。6人兄妹の次男、2006年女優のアントニア・セヘルスと結婚、一男一女の父親。ミゲル・リティンの『戒厳令下チリ潜入記』でキャリアを出発させている。弟フアン・デ・ディオス・ララインとプロダクション「Fabula」設立、その後、独立してコカ・コーラやテレフォニカのコマーシャルを制作して資金を準備、デビュー作「Fuga」を発表した。<ジェネレーションHD>と呼ばれる若手の「クール世代」に属している。
*長編映画(短編・TVシリーズ省略)
2006「Fuga」監督・脚本
2008「Tony Manero」『トニー・マネロ』監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第1部
ラテンビートLB2008
2010「Post mortem」 監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第2部
2012「No」『No』監督「ピノチェト政権三部作」第3部、カンヌFF2012「監督週間」
正式出品、LB2013
2015「El club」『ザ・クラブ』監督・脚本・製作、ベルリンFF 2015、 LB2015
2016「Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』 監督、カンヌFF2016「監督週間」
正式出品、LB2017
2016「Jackie」『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』監督、ベネチアFF 2016、
正式出品
2019「Ema」『エマ、愛の罠』監督・製作、ベネチアFF 2019、正式出品
2021「Spencer」仮題「スペンサー」監督・製作、ベネチアFF 2021、正式出品
★ラライン監督は、11月21日に行われたチリ大統領選挙のため帰国しているようです。ララインは左派の元チリ学生連盟会長のガブリエル・ボリッチ下院議員を支持しており、両親とは支持政党が異なっている。チリは1990年の民政移管以来、中道左派、中道右派が交代で政権についていたが、格差拡大で中道はどちらも失速し、今回の選挙には7人が立候補していた。どの候補も過半数を取れず、下馬評通り極右の弁護士で元下院議員ホセ・カストとガブリエル・ボリッチの一騎打ちになった。12月19日に決選投票が行われる。「選挙を棄権したことはありません。この選挙のプロセスを撮影したい」と語っていた。
『リベルタード』のクララ・ロケ監督インタビュー*TIFFトークサロン ― 2021年11月20日 11:29
クララ・ロケのデビュー作『リベルタード』は短編「El adiós」がベース

★TIFFトークサロン視聴の最終回は、ワールド・フォーカス部門のクララ・ロケのデビュー作『リベルタード』です。カンヌ映画祭と併催の「批評家週間」でワールドプレミアされました。本作はバルト9での上映が見送られた第18回ラテンビートとの共催上映作品です。既にアップした作品紹介と重なっている部分、アイデア誕生の経緯、自由とはないか、アイデンティティ形成期の重要性、階級差の理不尽、本作のベースになった短編「El adiós」など重なっていた。しかし紹介では触れなかった新発見も多々ありましたので、そのあたりを中心に触れたいと思います。インタビューは英語、クララ・ロケ(バルセロナ1988)は、カタルーニャ政府が1990年に創立したポンペウ・ファブラ大学で視聴覚コミュニケーションを学んだあと、奨学金を得てコロンビア大学で脚本を学んでおり英語は堪能。モデレーターは映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏。
*『リベルタード』作品紹介、キャリア&フィルモグラフィーは、

(クララ・ロケ監督)
Q: 本作は監督の体験が含まれているのかという観客からの質問がきています。
A: 短編「El adiós」がベースになっており、これはアルツハイマーの祖母を介護してくれたコロンビアから働きに来ていた女性がモデルになっています。短編のキャスティングの段階で、女性介護師の多くが、故国に家族を残して出稼ぎに来ていることを知りました。私は恵まれた階級に属していることを実感していますが、この階級格差をテーマにしてフィクションを撮ろうとしたわけです。地中海に面した避暑地コスタブラバに別荘があり、子供のころ夏休みをここで過ごしたので撮影地にしました。

(多くの受賞歴がある「El adiós」のポスター)
Q: 劇中のアルツハイマーの祖母とご自身のお祖母さんと重なる部分がありますか。
A: 私の祖母の記憶に沿っています。壊れていく祖母を目の当たりにして、一つの世界の終り、一つの時代の終り、家族のアイデンティティの終りを実感しました。アイデンティティと階級格差、記憶をテーマにしました。アイデンティティは記憶でつくられるからです。
Q: 本作を撮るにあたり参考にしたバカンスをテーマにした映画などありましたか。
A: イングマール・ベルイマンの『不良少女モニカ』、エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』、ルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』など、人間の感情を描いているところ、辛辣で意地悪な雰囲気を感じさせるユニークなスタイルが参考になりました。特にマルテルの作品です。
管理人補足:クラシック映画、またはマイナー映画ということもあって、邦題の同定には市山氏の貴重な助言がありました。監督が挙げた3作品の駆け足紹介。
*1953年のスウェーデン映画『不良少女モニカ』(原題Sommaren med Monika、仮題「モニカとの夏」)はベルイマンの初期の作品で、フランスのヌーベルバーグの監督から絶賛された作品。17歳になる奔放なモニカと内気な19歳のハリイの物語、奔放なリベルタードの人物造形はモニカが参考になっているのかもしれません。1955年に公開されました。現在はないアート系映画チャンネル、シネフィル・イマジカのベルイマン特集があると放映されていました。ビデオ、DVDが発売されています。
*1983年の『海辺のポーリーヌ』は、ロメールの「喜劇と格言劇」シリーズの第3作目、ノルマンディーの避暑地を舞台にした一夏の恋のアバンチュール、愛するより愛されたい人々を辛辣に描いた群像劇。ベルリン映画祭でロメールが銀熊監督賞、国際批評家連盟賞を受賞した作品。撮影監督がバルセロナ出身のネストル・アルメンドロスでロメール映画やフランソワ・トリュフォー映画を多数手掛けている。ビデオ、DVDで鑑賞できます。
*アルゼンチンのルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』(La Ciénaga)は、アルゼンチン国家破産前のプール付き邸宅で暮らすブルジョワ家族のどんよりした日常が語られます。NHKが資金提供しているサンダンス映画祭1999でNHK国際映像作家賞(賞金1万米ドル)を受賞して完成させた関係から、NHKの衛星第2で深夜に放映されています。他にラテンビート2010京都会場で特別上映されたのがスクリーンで観られた唯一の機会でした。ベルリン映画祭2001フォーラム部門でワールドプレミアされ、アルフレッド・バウアー賞を受賞した他、国際映画祭の受賞歴多数。監督の生れ故郷サルタの特権階級を舞台にした『ラ・ニーニャ・サンタ』(04)と『頭のない女』(08)を合わせてサルタ三部作と言われています。DVDは発売されていないと思います。
Q: キャスティングの経緯と二人の少女の演出についての質問。
A: マリア・モレラとニコル・ガルシアの二人に出演してもらえたのは幸運でした。マリアは別の作品を見ていて起用したいと思っていましたが、ニコルは本作がデビュー作です。リベルタードのバックグランドをもっている女の子を探しておりました。つまりコロンビア人でスペインは初めてということです。それでコロンビアまで探しに行きました。プロは考えてなく、街中を探し回りました。青い髪をなびかせてローラースケートをしている素晴らしい女の子ニコルを探しあてたのです。クランクイン前に二人を同じ家に一緒に住まわせて、二人をキャラクターに無理に合わせるのではなく、二人の個性に寄せて脚本を変えた部分もありました。

(生れも育ちも対照的なノラとリベルタード)
Q: 階級格差を描いているが、スペインは階級社会なのでしょうか。
A: スペインは欧米の多くの国々と同じく階級社会です。あからさまに話題にしなくなっていますが、平等になって格差が無くなったと考えるのは錯覚です。出自によって得られるチャンスが違うからです。『リベルタード』製作にあたって、自分が特権階級と気づくために、一時そこから意識的に離れる必要がありました。
Q: リベルタードは結局自由になれない、階級差が続くというメッセージですか。反対に死に近づく祖母アンヘラがある意味で自由になっていく。これは老いてから自由になれるということですか。
A: 素晴らしい質問です、『リベルタード』で描きたかったことです。経済的に恵まれていないため自分の人生を生きることのできない人は、本当に自由になれるのかという問いですね。またアンヘラは自分が望んでいた人生を歩んでいたわけではない、これは本当の意味での人生ではないから、死をもって不本意な人生を終わらせ自由になりました。
Q: 音楽が良かった、どのように選曲しましたか。
A: 好きな音楽についての質問でとても嬉しいです。私にとって音楽は重要、それで音楽用の資金を残してくれるように頼んでおきました。シーンに載せるだけの音楽でなく、シーンから生まれる音楽をつくりたいと考えました。過去の記憶を失ってノスタルジーに生きているアンヘラにはクラシックを使用、若い二人には、レゲエ、よりヘビーなレゲトン、サルサなどのニューミュージックです。家族の贅沢を象徴する音楽も入れました。
Q: 撮影地のコスタブラバは、子供のときと現在で変化はありましたか。
A: 脚本はコスタブラバをイメージしながら執筆しました。知ってる場所だとよいものになると思っていて、実際何かが起きるのです。
Q: 女の子たちのセリフを変えたところがありますか。
A: 監督のために脚本を書くことが私の仕事で、脚本に固執していましたが、監督をして学んだこともありました。それは役者たちが即興で演じたセリフのほうが面白いという経験です。結果、変えたところが良いシーンになったのでした。
Q: 長編デビューしたわけですから、今後は監督業に徹しますか。また、これからのプランがあったら聞かせてください。
A: 私は他の監督のために脚本を書くのが好きですから書き続けます。是非撮りたいというテーマがあれば別ですが、監督業はエネルギーが必要です。先の話になりますが、父親が馬のディーラーをしているので馬をテーマにした映画を考えています。短編を撮っているので今度は長編を撮りたい。興味深い質問ありがとうございました。
★馬をテーマにした短編というのは、女の子の姉妹と片目を失った農場の1頭の馬を語った「Les bones nenes」(15、17分)を指す。監督の母語カタルーニャ語映画で国際映画祭巡りをして好評を得た。うちシネヨーロッパ賞2019短編映画賞、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2017で『リベルタード』の音楽も手掛けたパウル・タイアンがオリジナル作曲賞を受賞するなどした短編。

(馬を主人公にした「Les bones nenes」のフレームから)
★これで当ブログ関連のTIFFトークサロンは終りです。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『ベネシアフレニア』は、ラテンビートFFプログラミング・ディレクターのアルベルト・カレロ氏とのオンライントークがアップされています。「美しいものは壊れる」がテーマです。いずれ公開されると思いますので割愛します。力不足で聞き違い勘違いが多々あると思いますが、ご容赦ください。
『箱』のロレンソ・ビガス監督インタビュー*TIFFトークサロン ― 2021年11月16日 16:50
『箱』は「父性についての三部作」の第3部、風景は主人公の一人

★TIFFトークサロン、ワールド・フォーカス部門上映のロレンソ・ビガスの『箱』(The Box、La caja)は、メキシコ=米国合作映画、第78回ベネチア映画祭2021コンペティション部門でワールドプレミアされた。ロレンソ・ビガスといえば、『彼方から』(15、Desde allá)で金獅子賞のトロフィーを初めてラテンアメリカに運んできた映像作家という栄誉が常に付いて回る。栄誉には違いないが重荷でもあったのではないか。メキシコの作品が続くが、ビガス監督はベネズエラ(メリダ1967)出身、『もうひとりのトム』のデュオ監督ロドリゴ・プラ&ラウラ・サントゥリョはウルグアイ、『市民』のテオドラ・アナ・ミハイはルーマニアと、全員メキシコ以外の出身者だったのは皮肉です。ここはメキシコの懐の深さとでも理解しておきましょう。
★『箱』及び『彼方から』の作品紹介、キャスト、スタッフ、監督キャリア&フィルモグラフィーは、既に紹介しております。特に『彼方から』は監督メッセージで「是非ご覧になってください」と話されていましたので関連記事も含めました。チリの演技派俳優アルフレッド・カストロの目線にご注目です。
*『箱』の作品紹介は、コチラ⇒2021年09月07日
*『彼方から』の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィーは、
コチラ⇒2015年08月08日/同年10月09日/2016年09日30日

(金獅子賞のトロフィーを手にしたロレンソ・ビガス、ベネチアFF2015)

(マリオ役のエルナン・メンドサ、監督、ハッツィン・ナバレテ、ベネチアFF2021)
★以下はトークの流れに沿っていますが、作品紹介で書きました内容と重なっている部分は端折っております。観客から寄せられた質問を中心にして展開されました。モデレーターは前回同様、映画祭プログラミング・ディレクター市山尚三氏。
Q: メキシコの闇の部分が描かれていたが、本作のアイディア誕生は何か。
A: 私はベネズエラ生れですが、メキシコの友人とコラボするつもりで21年前に訪れ、結局ここに居つくことになりました。長く滞在しておりますと、ニュースなどでメキシコの現実を見ることは避けられない。メキシコ北部のニュースが多く、例えば多くの女性たちの行方不明事件などです。あるときメキシコ北部の共同墓地のニュースを見ていたとき、少年が父の遺骨を取りに行く→箱の中には父の遺骨が入っている→街中で父と瓜二つの男性を見かける→箱の中の遺骨か目の前の男性か、どちらが本当の父親なのか、というストーリーがひらめいた。

(箱の中に入っているのは何か)
Q: メキシコ北部、治安は悪いと聞いている危険なチワワ州を舞台に選んだ理由は何か。
A: チワワ州はメキシコで最大の面積をもつ州です。国境に接している州なので危険地帯です。場所選びに1年間かけました。なかで舞台の一つになったシウダー・フアレスにはマキラドーラ産業の部品工場が多くあり、この工場も物語の登場人物の一人ということがありました。またハッツィン少年の孤独を象徴しているような広大な砂漠地帯、風景も登場人物だったのです。風景もマキラドーラの工場も揃っているチワワを撮影地に決定したのです。
(管理人補足:チワワ州の州都はチワワ市だが、舞台となるシウダー・フアレスが最大の都市であり、周囲はチワワ砂漠に囲まれている。麻薬のカルテル同士の抗争が絶えない危険地帯。『箱』の作品紹介でチワワに決定した理由、シウダー・フアレスの他、35ミリで撮影した理由、マキラドーラ産業について触れています)

(空虚さがただよう共同墓地のある砂漠地帯)
Q: 撮影期間はどのくらいか、犯罪の多いシウダー・フアレスで撮影中、危険を避けるために具体的にしたことはあるか。
A: 準備期間は約1年間です。撮影期間は普通は6~8週間ですが、本作では10週間かかりました。というのも撮影地がシウダー・フアレスから遺骨が埋まっている砂漠地帯まで、そのほか数ヵ所の撮影地を含めると広範に渡っていたのでの移動に時間が掛かったからです。確かに治安は悪かったのですが、撮影数週間前に土地の麻薬密売のカルテルに「迷惑をかけることはない撮影です」と根回しをして、撮影許可をとりました。ロケ地ごとにカルテルが違っていたので大変でした。チワワ州知事が協力してくれたことも大きかった。
A: 1年間、撮影を許可してくれる工場を探しましたが、工場同士の競争が激しく実現しませんでした。それは会社の実態を知られたくない、特に労働者の労働環境を知られたくないという思惑があったからです。使用した工場は破産したばかりの会社で、3日間貸しきりにして労働者も実際働いていた人々です。既に解雇されていたので、賃金はプロダクションが支払いました。

(マキラドーラ産業の破産したばかりの工場シーン)
Q: ハッツィン少年のキャスティングについて、時に覗かせる笑顔が素晴らしく心に残りました。
A: キャスティングは極めて難航しました。演技をできる子役はいたのですが、13歳ぐらいだと演技はできても自分の声をもっていない、本作に必要なアイデンティティをもっていない。私は演技をしない子供を探していた。3か月間、数えきれない学校巡りをして何百人もの子供に会い、ワークショップもしましたが見つからなかった。それで一時キャスティングを中断して準備に取りかかった。すると撮影1週間前に「オーディション会場に行くお金がなくて行けなかった」という少年のビデオが送られてきた。ビデオを見て、どうしても会いたくなった。リハーサルを繰り返すうちに「この子は他の子と違うな」と思いました。特に目、視線が良かった。父親との辛い体験をもっており、この個人的経験が役柄に活かされると思った。

(ハッツィン役のハッツィン・ナバレテ)
Q: 役名と実名を同じにしたのは意図的か。
A: 脚本は最初アルトゥーロでした。内向的でしたが撮影に入って暫くすると、セットでの存在感が出てきて、アルトゥーロより本名のハッツィンのほうがぴったりしてきた。それで途中から変えました。
Q: 家族の話をテーマにしたかったのでしょうか。
A: 本作は家族というより父と子の関係性を描いています。ラテンアメリカ映画の特徴の一つ、父親不在が子供に何をもたらすかに興味がありました。実は本作は <父性についての三部作> の第3部に当たります。第1部は短編「Los elefantes nunca olvidan」(04、仮題「象たちは決して忘れない」13分)、第2部が『彼方から』です。5年前に亡くなった父親と自分の関係は近く、自身のことではありません。
(管理人補足: 父親オスワルド・ビガスは90歳で死ぬまで描き続けたという画家。彼を描いたドキュメンタリー「El vendedor de orquídeas」(16、75分)も、父と子というテーマなのでリストに入れてもいいと、別のインタビューでは答えている)
Q: 色のトーンを意図的に変えているか。
A: 意図的ではない。前作の『彼方から』のほうはミステリアスな心理状態に合わせて意図的に修整した。新作は夏から冬へと季節が移り変わる、季節とマッチした、その移り変わっていくチワワの風景を忠実に撮影したかった。チワワの風景は35ミリでないと表現できないので、あまり修整しなかった。風景も重要な登場人物だからです。
Q: 製作者にミシェル・フランコ、反対に監督はフランコの「Sundown」のプロデューサーになっています。そちらでは国境を越えて協力し合うことが多いのですか。
A: そういうことではありません。あくまでも私とミシェルの個人的な特別な長い関係です。二人はだいたい同じ時期にデビューしています。スタイルは異なりますが、互いに意見を出しあい脚本を見せあっています。力を合わせることで強さ発揮できます。それにお互い尊敬しあっていて、二人でやるのが楽しいからです。
(管理人補足: ミシェル・フランコは1979年生れ、2009年長編「Daniel&Ana」がでカンヌ映画祭と併催の「監督週間」に出品された。「Sundown」は『箱』と同じベネチア映画祭2021コンペティション部門でワールドプレミアされた最新作)
Q: 娯楽映画ではないので資金調達が困難だったのではないでしょうか。
A: 半分はメキシコ政府が行っている映画特別予算が提供されました。これは提供した会社に税金の面で控除があるようです。他は自分たちの制作会社「テオレマTeorema」とアメリカの制作会社でした。
Q: カーラジオから流れてくる曲がエンドロールでも流れていた。どんな曲ですか。
A: 自分はスコアは使わない方針なのですが、今回は試しにミュージシャンに頼んでみました。しかしうまくいかなかった。チワワではラジオをよく聞く文化があって、たまたまラジオから聞こえてきたハビエル・ソリスを使った。彼はボレロ・ランチェーラというジャンルを開拓したミュージシャンです。曲は幸せになれないという失恋の歌でした。使用した理由は映画と上手くリンクすると考えたからです。
(管理人補足: ハビエル・ソリス、1931年生れの歌手で映画俳優。貧しい家庭の出身でしたが、その美声を認められて歌手となった。しかし患っていた胆嚢炎の手術が失敗して、1966年その絶頂期に34歳という若さで亡くなった。活動期間は短かったがアメリカでも多くのファンを獲得、今もってその美声の人気は衰えないようです)
Q: 最後に日本の観客へのメッセージをお願いします。
A: ハッツィンの気持ちを共有していただけて嬉しく思います。日本へは次の作品をもって東京に行けたらと思います。父親不在がどんな結果をもたらすかを描いた『彼方から』を是非ご覧になってください。
(管理人補足:『彼方から』は、ラテンビート2016とレインボー・リール東京映画祭、元の名称-東京国際レズビアン&ゲイ映画祭-で上映されました。DVDは残念ながら発売されていないようです)
★父親に似た男性マリオを演じたエルナン・メンドサについての質問がなかったのが、個人的に惜しまれました。作品紹介で触れましたようにミシェル・フランコの『父の秘密』(12)の主役を演じた俳優です。彼の存在なくして本作の成功はなかったはずです。

(エルナン・メンドサとハッツィン・ナバレテ、フレームから)
最近のコメント