『リベルタード』のクララ・ロケ監督インタビュー*TIFFトークサロン2021年11月20日 11:29

  クララ・ロケのデビュー作『リベルタード』は短編「El adiós」がベース

 

   

 

TIFFトークサロン視聴の最終回は、ワールド・フォーカス部門のクララ・ロケのデビュー作『リベルタード』です。カンヌ映画祭と併催の「批評家週間」でワールドプレミアされました。本作はバルト9での上映が見送られた18回ラテンビートとの共催上映作品です。既にアップした作品紹介と重なっている部分、アイデア誕生の経緯自由とはないかアイデンティティ形成期の重要性階級差の理不尽本作のベースになった短編「El adiósなど重なっていた。しかし紹介では触れなかった新発見も多々ありましたので、そのあたりを中心に触れたいと思います。インタビューは英語、クララ・ロケ(バルセロナ1988)は、カタルーニャ政府が1990年に創立したポンペウ・ファブラ大学で視聴覚コミュニケーションを学んだあと、奨学金を得てコロンビア大学で脚本を学んでおり英語は堪能。モデレーターは映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏。

『リベルタード』作品紹介、キャリア&フィルモグラフィーは、

  コチラ20211012

 

     

                (クララ・ロケ監督)

 

Q: 本作は監督の体験が含まれているのかという観客からの質問がきています。

A: 短編「El adiós」がベースになっており、これはアルツハイマーの祖母を介護してくれたコロンビアから働きに来ていた女性がモデルになっています。短編のキャスティングの段階で、女性介護師の多くが、故国に家族を残して出稼ぎに来ていることを知りました。私は恵まれた階級に属していることを実感していますが、この階級格差をテーマにしてフィクションを撮ろうとしたわけです。地中海に面した避暑地コスタブラバに別荘があり、子供のころ夏休みをここで過ごしたので撮影地にしました。

 

       

          (多くの受賞歴がある「El adiós」のポスター)

 

Q: 劇中のアルツハイマーの祖母とご自身のお祖母さんと重なる部分がありますか。

A: 私の祖母の記憶に沿っています。壊れていく祖母を目の当たりにして、一つの世界の終り、一つの時代の終り、家族のアイデンティティの終りを実感しました。アイデンティティと階級格差、記憶をテーマにしました。アイデンティティは記憶でつくられるからです。

 

Q: 本作を撮るにあたり参考にしたバカンスをテーマにした映画などありましたか。

A: イングマール・ベルイマンの『不良少女モニカ』、エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』、ルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』など、人間の感情を描いているところ、辛辣で意地悪な雰囲気を感じさせるユニークなスタイルが参考になりました。特にマルテルの作品です。

 

管理人補足:クラシック映画、またはマイナー映画ということもあって、邦題の同定には市山氏の貴重な助言がありました。監督が挙げた3作品の駆け足紹介。

1953年のスウェーデン映画『不良少女モニカ』(原題Sommaren med Monika、仮題「モニカとの夏」)はベルイマンの初期の作品で、フランスのヌーベルバーグの監督から絶賛された作品。17歳になる奔放なモニカと内気な19歳のハリイの物語、奔放なリベルタードの人物造形はモニカが参考になっているのかもしれません。1955年に公開されました。現在はないアート系映画チャンネル、シネフィル・イマジカのベルイマン特集があると放映されていました。ビデオ、DVDが発売されています。

1983年の『海辺のポーリーヌ』は、ロメールの「喜劇と格言劇」シリーズの第3作目、ノルマンディーの避暑地を舞台にした一夏の恋のアバンチュール、愛するより愛されたい人々を辛辣に描いた群像劇。ベルリン映画祭でロメールが銀熊監督賞、国際批評家連盟賞を受賞した作品。撮影監督がバルセロナ出身のネストル・アルメンドロスでロメール映画やフランソワ・トリュフォー映画を多数手掛けている。ビデオ、DVDで鑑賞できます。

アルゼンチンのルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』La Ciénaga)は、アルゼンチン国家破産前のプール付き邸宅で暮らすブルジョワ家族のどんよりした日常が語られます。NHKが資金提供しているサンダンス映画祭1999NHK国際映像作家賞(賞金1万米ドル)を受賞して完成させた関係から、NHKの衛星第2で深夜に放映されています。他にラテンビート2010京都会場で特別上映されたのがスクリーンで観られた唯一の機会でした。ベルリン映画祭2001フォーラム部門でワールドプレミアされ、アルフレッド・バウアー賞を受賞した他、国際映画祭の受賞歴多数。監督の生れ故郷サルタの特権階級を舞台にした『ラ・ニーニャ・サンタ』(04)と『頭のない女』(08)を合わせてサルタ三部作と言われています。DVDは発売されていないと思います。

 

Q: キャスティングの経緯と二人の少女の演出についての質問。

A: マリア・モレラニコル・ガルシアの二人に出演してもらえたのは幸運でした。マリアは別の作品を見ていて起用したいと思っていましたが、ニコルは本作がデビュー作です。リベルタードのバックグランドをもっている女の子を探しておりました。つまりコロンビア人でスペインは初めてということです。それでコロンビアまで探しに行きました。プロは考えてなく、街中を探し回りました。青い髪をなびかせてローラースケートをしている素晴らしい女の子ニコルを探しあてたのです。クランクイン前に二人を同じ家に一緒に住まわせて、二人をキャラクターに無理に合わせるのではなく、二人の個性に寄せて脚本を変えた部分もありました。

 

        

          (生れも育ちも対照的なノラとリベルタード)

 

Q: 階級格差を描いているが、スペインは階級社会なのでしょうか。

A: スペインは欧米の多くの国々と同じく階級社会です。あからさまに話題にしなくなっていますが、平等になって格差が無くなったと考えるのは錯覚です。出自によって得られるチャンスが違うからです。『リベルタード』製作にあたって、自分が特権階級と気づくために、一時そこから意識的に離れる必要がありました。

 

Q: リベルタードは結局自由になれない、階級差が続くというメッセージですか。反対に死に近づく祖母アンヘラがある意味で自由になっていく。これは老いてから自由になれるということですか。

A: 素晴らしい質問です、『リベルタード』で描きたかったことです。経済的に恵まれていないため自分の人生を生きることのできない人は、本当に自由になれるのかという問いですね。またアンヘラは自分が望んでいた人生を歩んでいたわけではない、これは本当の意味での人生ではないから、死をもって不本意な人生を終わらせ自由になりました。

 

Q: 音楽が良かった、どのように選曲しましたか。

A: 好きな音楽についての質問でとても嬉しいです。私にとって音楽は重要、それで音楽用の資金を残してくれるように頼んでおきました。シーンに載せるだけの音楽でなく、シーンから生まれる音楽をつくりたいと考えました。過去の記憶を失ってノスタルジーに生きているアンヘラにはクラシックを使用、若い二人には、レゲエ、よりヘビーなレゲトン、サルサなどのニューミュージックです。家族の贅沢を象徴する音楽も入れました。

 

Q: 撮影地のコスタブラバは、子供のときと現在で変化はありましたか。

A: 脚本はコスタブラバをイメージしながら執筆しました。知ってる場所だとよいものになると思っていて、実際何かが起きるのです。

Q: 女の子たちのセリフを変えたところがありますか。

A: 監督のために脚本を書くことが私の仕事で、脚本に固執していましたが、監督をして学んだこともありました。それは役者たちが即興で演じたセリフのほうが面白いという経験です。結果、変えたところが良いシーンになったのでした。

 

Q: 長編デビューしたわけですから、今後は監督業に徹しますか。また、これからのプランがあったら聞かせてください。

A: 私は他の監督のために脚本を書くのが好きですから書き続けます。是非撮りたいというテーマがあれば別ですが、監督業はエネルギーが必要です。先の話になりますが、父親が馬のディーラーをしているので馬をテーマにした映画を考えています。短編を撮っているので今度は長編を撮りたい。興味深い質問ありがとうございました。

 

★馬をテーマにした短編というのは、女の子の姉妹と片目を失った農場の1頭の馬を語ったLes bones nenes1517分)を指す。監督の母語カタルーニャ語映画で国際映画祭巡りをして好評を得た。うちシネヨーロッパ賞2019短編映画賞、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2017で『リベルタード』の音楽も手掛けたパウル・タイアンがオリジナル作曲賞を受賞するなどした短編。

 

     

        (馬を主人公にしたLes bones nenesのフレームから)

 

★これで当ブログ関連のTIFFトークサロンは終りです。アレックス・デ・ラ・イグレシア『ベネシアフレニア』は、ラテンビートFFプログラミング・ディレクターのアルベルト・カレロ氏とのオンライントークがアップされています。「美しいものは壊れる」がテーマです。いずれ公開されると思いますので割愛します。力不足で聞き違い勘違いが多々あると思いますが、ご容赦ください。

 

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