ハビエル・バルデム、ドノスティア栄誉賞受賞*サンセバスチャン映画祭2023 ① ― 2023年06月09日 10:51
ドノスティア栄誉賞2023にハビエル・バルデム

(ドノスティア栄誉賞受賞者ハビエル・バルデムを配した公式ポスター)
★5月12日、第71回サンセバスチャン映画祭 SSIFF の大賞の一つドノスティア栄誉賞の発表がありました。上記のポスターで分かるように、オスカー、ゴールデングローブ、BAFTA、7個のゴヤ賞、カンヌ、ベネチア、サンセバスチャンの男優賞受賞者であるハビエル・バルデムが、ドノスティア栄誉賞の受賞者になりました。授賞式はオープニングの9月22日(クロージングは30日)、本祭メイン会場オーディトリアム・クルサールです。今回のポスターはニコ・ブストスの写真に基づいた広告代理店 Dimensión の作品です。バルデムが今年の映画祭の顔になります。写真家ブストスは、90年代から頭角を現したスペインの写真家、ポートレートを得意としており、スペイン版「ヴォーグ」や「ハーパーズ・バザール」、「GQ」、「エル・パイス・セマナル」など各誌で活躍している。
★ハビエル・バルデムがサンセバスチャン映画祭に初めて登場したのは30年前の1993年、ビガス・ルナの「Huevos de oro」(『ゴールデン・ボールズ』)がコンペティション部門にノミネートされ、共演者のマリア・デ・メデイロス、マリベル・ベルドゥなどと一緒に参加している。既に同監督の『ルルの時代』(90)や『ハモンハモン』(92)、アルモドバルの『ハイヒール』(91)などに出演、有望な新人として嘱目されていた。

(初共演となったバルデムとクルス、『ハモンハモン』から)
★受賞歴はオスカー以下3桁に及びますが、SSIFFでは、イマノル・ウリベの『時間切れの愛』と、ゴンサロ・スアレスの「El detective y la muerte」の2作で1994年の銀貝男優賞を受賞しているだけです。前者の主役カルメロ・ゴメスをおさえてのサプライズ受賞、マリサ・パレデスから手渡されたトロフィを手にしたまま感激の涙でスピーチできませんでした。今回のドノスティア栄誉賞が2回目となります。スペイン人の受賞者は6人目、因みに列挙しますと、1999年故フェルナンド・フェルナン≂ゴメス、2001年故パコ・ラバル、2008年アントニオ・バンデラス、2013年カルメン・マウラ、2019年ペネロペ・クルスの順でした。既にキャリア紹介をしていると思っていましたが記憶違い、日本語版ウイキペディアもありますが、字幕入りで鑑賞できる作品を中心に管理人視点で纏めてみました。

(銀貝男優賞を受賞した『時間切れの愛』、右端がバルデム)
★ハビエル・バルデム(カナリア諸島ラス・パルマス1969、54歳)、母方の祖父母はスペイン映画黎明期に活躍した俳優ラファエル・バルデム、女優ピラール・バルデム(肺疾患で2021年没)を母に、牧場主だった父ホセ・カルロス・エンシナス(2002没)との間に生まれた(のち両親は離婚)。監督フアン・アントニオ・バルデムは伯父、俳優で作家のカルロスは兄、女優モニカは姉、プロデューサーのミゲルは従兄、とバルデム家はシネアスト一家である。2010年ペネロペ・クルスと結婚、子供は1男1女。子役として6歳で映画デビューしているが、本格的なデビューは21歳、母親と出演したビガス・ルナの『ルルの時代』である。90年代で特筆すべきは初めてゴヤ賞を受賞した『時間切れの愛』の演技、英語に挑戦した『ペルディータ』出演、英語がイマイチで出演を渋っていたが、新人発掘の名監督ビガス・ルナから「これからは英語ができないと世界に通用しない」と助言され猛勉強して出演した由。これが後にオスカー像獲得に繋がった。

(今は亡き母ピラール・バルデムと、2016年)
◎1990年代の出演作&受賞歴
1990年『ルルの時代』監督ビガス・ルナ
1991年『ハイヒール』監督ペドロ・アルモドバル
1992年『ハモンハモン』監督ビガス・ルナ
1993年『ゴールデン・ボールズ』同上
1994年『時間切れの愛』監督イマノル・ウリベ、SSIFF男優賞、ゴヤ賞助演男優賞受賞
1994年「El detective y la muerte」監督ゴンサロ・スアレス
1995年『電話でアモーレ』監督マヌエル・G・ペレイラ、ゴヤ賞主演男優賞、
CECメダル*受賞
1997年『ペルディータ』監督アレックス・デ・ラ・イグレシア、最初の英語映画
1997年『ライブ・フレッシュ』監督ペドロ・アルモドバル
1999年『スカートの奥で』監督マヌエル・ゴメス・ペレイラ
1999年『第二の皮膚』監督ヘラルド・ベラ
*CECメダル、シネマ・ライターズ・サークル賞
★2000年からの活躍は目を瞠る、ジュリアン・シュナーベルによって映画化されたキューバの作家レイナルド・アレナスのビオピック『夜になるまえに』(00)主演で、ベネチア映画祭主演男優賞であるヴォルピ杯を受賞、他全米映画批評家協会賞など受賞歴多数。初めてアカデミー賞主演男優賞、ゴールデングローブ賞などにノミネートされ、同じスペイン語でもキューバ訛りを特訓して撮影に臨んだ。英語はジョン・マルコビッチの監督デビュー作、犯罪スリラー『ダンス オブ テロリスト』(02、DVD)でも役だった。ニコラス・シェイクスピアの同名小説 “The Dancer Upstairs” の翻案だが劇場公開されなかった。

(『夜になるまえに』でヴォルピ杯を受賞、第57回ベネチアFF2000ガラ)
★2002年、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』で2回目のゴヤ賞主演男優賞を受賞した。続くアレハンドロ・アメナバルの尊厳死をテーマにした『海を飛ぶ夢』(04)で2回目のヴォルピ杯、3回目のゴヤ賞主演男優賞、ヨーロッパ映画賞男優賞などを受賞した。連日 6 時間に及ぶ特殊メイクが話題になった。アメナバル監督はオスカー像を手にすることができた。

(特殊メイクでそっくりさんになった『海を飛ぶ夢』のバルデム)
★そしてオスカー俳優になったのが、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟のスリラー『ノーカントリー』(07)の殺し屋シガー役、へんてこりんなオカッパ頭で平然と人を殺す役だった。2007年から翌年にかけてアメリカのみならず国際映画祭の受賞ラッシュに沸いた作品でしたが、バルデム自身も第80回アカデミー賞助演男優賞を受賞、以下20数ヵ所の国際映画祭で男優賞を受賞している。2008年、初めてのウディ・アレン映画、コメディ『それでも恋するバルセロナ』で、後に結婚することになるペネロペ・クルスと離婚夫婦を演じた。彼女は第81回アカデミー賞助演女優賞を受賞、オスカー女優となり、2年連続でスペイン俳優がオスカーを手にしたことになる。

(殺し屋シガーに扮したバルデム)

(オスカー像を手にしたバルデム、アカデミー賞2008ガラ)
◎2000年代の主な出演作&受賞歴
2000年『夜になるまえに』監督ジュリアン・シュナーベル、ベネチアFF、
男優賞ヴォルピ杯受賞
2001年『ウェルカム!ヘヴン』監督アグスティン・ディアス・ヤネス
2002年『ダンス オブ テロリスト』監督ジョン・マルコビッチ
2002年『月曜日にひなたぼっこ』監督フェルナンド・レオン、ゴヤ賞主演男優賞受賞
2004年『コラテラル』監督マイケル・マン
2004年『海を飛ぶ夢』監督アレハンドロ・アメナバル、ベネチアFF男優賞ヴォルピ杯、
ゴヤ賞主演男優賞、ヨーロッパ映画賞男優賞
2006年『宮廷画家ゴヤは見た』監督ミロス・フォアマン
2007年『コレラの時代の愛』監督マイク・ニューウェル
2007年『ノーカントリー』監督ジョエル&イーサン・コーエン、
アカデミー賞助演男優賞、他多数
2008年『それでも恋するバルセロナ』監督ウディ・アレン
★2010年以降では、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『BIUTIFULビューティフル』(10)、バルセロナを舞台に霊能力のある裏社会で生きる男に扮した。カンヌ映画祭でプレミアされ、男優賞を受賞した。他4回目のゴヤ賞主演男優賞を受賞、アカデミー賞と英国アカデミー賞BAFTAには主演男優賞にノミネートされた。サム・メンデスの『007 スカイフォール』(12)でサイバーテロリストの複雑な悪役に挑戦、BAFTA助演男優にノミネートされた。

(アレハンドロ・G・イニャリトゥの『BIUTIFULビューティフル』)
★フェルナンド・レオンの『ラビング・パブロ Loving Pablo』(17)でコロンビアの麻薬王エスコバルに、愛人の作家ビルヒニア・バジュッホにペネロペ・クルスが扮し、夫婦共演となった。作家の回顧録がベースになって映画化された。製作はスペインだが言語が最初のスペイン語から英語に変更されたという経緯があった。ドラマのパブロ役のなかでも一番実像に近いと評判になった。カンヌ常連のイラン人監督アスガル・ファルハディの『誰もがそれを知っている』でも共演が続き、公私の切り替えに苦労した。本作はカンヌFF 2018のオープニングを飾っている。彼は2年連続でゴヤ賞主演男優賞にノミネートされた。両作とも当ブログで作品紹介をしている。

(エスコバル役のバルデム、愛人役のクルス)
★アーロン・ソーキンの伝記映画『愛すべき夫妻の秘密』(21)にニコール・キッドマンと共演、二人ともアカデミー賞とゴールデングローブ賞2022の主演男優・女優賞の候補となった。バルデムのオスカー賞ノミネートは4回目であり、うち受賞は『ノーカントリー』である。本作はプライムビデオで配信されている。同年サンセバスチャン映画祭で話題を呼んだのが、フェルナンド・レオン・デ・アラノアのコメディ「El buen patrón」(英題「The Good Boss」)、翌年ゴヤ賞主演男優賞を受賞した。

(ゴヤ賞2022主演男優賞)

(7個目のゴヤ賞となった「El buen patrón」のポスター)
★7個目のゴヤ胸像となるが、うち一つはアルバロ・ロンゴリアのドキュメンタリー「Hijos de las nubes, última colonia」(12)の製作者として受賞した。西サハラの植民地化により20万人近い人々が難民となって暮らすキャンプの実態を記録している。バルデム家は伯父フアン・アントニオ、母ピラール、兄カルロスとも政治的発言を躊躇しないことで知られている。その他プロデューサーとしてビガス・ルナのビオピック「Bigas × Bigas」(16)、アルバロ・ロンゴリアのドキュメンタリー「Santuario」(19)には兄カルロスと出演と製作を手掛けている。最新作はまもなく日本でも公開されるロブ・マーシャルの『リトル・マーメイド』のトリトン王役、1989年ディズニー製作のアニメーションの実写リメイクである。

(兄カルロスとハビエル、ドキュメンタリー「Santuario」から)
◎2010年以降の主な出演作&受賞歴
2010年『BIUTIFULビューティフル』監督アレハンドロ・G・イニャリトゥ、
カンヌ映画祭男優賞、ゴヤ賞主演男優賞
2010年『食べて、祈って、恋をして』監督ライアン・マーフィー
2012年『007 スカイフォール』監督サム・メンデス
2012年「Hijos de las nubes, última colonia」製作者。監督アルバロ・ロンゴリア、
ゴヤ賞ドキュメンタリー賞を共同で受賞
2013年『悪の法則』監督リドリー・スコット
2013年「Alacrán enamorado」監督サンティアゴ・サンノウ、兄カルロスが脚本を執筆
2015年『ザ・ガンマン』監督ピエール・モレル
2016年『ラスト・フェイス』(DVD)監督ショーン・ペン
2016年「Bigas× Bigas」製作者。監督ビガス・ルナ&サンティアゴ・ガリード・ルア
2017年『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(シリーズ5作目)
監督ヨアヒム・ローニング
2017年『マザー!』(DVD)監督ダーレン・アロノフスキーのサイコスリラー
2017年『ラビング・パブロ Loving Pablo』監督フェルナンド・レオン、ゴヤ賞ノミネート
2018年『誰もがそれを知っている』監督アスガル・ファルハディ、ゴヤ賞ノミネート
2019年「Santuario」ドキュメンタリー、製作・出演。監督アルバロ・ロンゴリア
2020年『選ばなかったみち』監督サリー・ポッター
2021年『愛すべき夫妻の秘密』監督アーロン・ソーキン、
アカデミー賞他主演男優賞ノミネート
2021年「El buen patrón」監督フェルナンド・レオン、ゴヤ賞主演男優賞、
フォルケ賞受賞
2023年『リトル・マーメイド』監督ロブ・マーシャル
★以上が主なフィルモグラフィーですが、その数の多さには改めて驚かされます。以下はサンセバスチャン映画祭関連の代表的な上映作品です。その他、ジョン・マルコビッチ、ロバート・デ・ニーロ、ジュリア・ロバーツなどドノスティア栄誉賞受賞者のプレゼンターとして、また2008年の映画国民賞受賞の折にも現地入りしている。授与式はSSIFF開催中が恒例となっている。
1997年『ペルディータ』ベロドロモ部門
1998年『ライブ・フレッシュ』メイド・イン・スペイン部門
2000年『夜になるまえに』サバルテギ-ペルラス部門
2002年『ダンス オブ テロリスト』サバルテギ-ペルラス部門
2002年『月曜日にひなたぼっこ』コンペティション部門
2008年『それでも恋するバルセロナ』サバルテギ-ペルラス部門
2010年『食べて、祈って、恋をして』コンペティション部門
2012年「Hijos de las nubes, última colonia」メイド・イン・スペイン部門
2016年「Bigas× Bigas」セクション・オフィシアルの特別上映
2017年『ラビング・パブロ Loving Pablo』ベロドロモ部門
2019年「Santuario」ペルラス部門
2021年「El buen patrón」コンペティション部門
◎ハビエル・バルデム関連記事◎
* 母ピラール・バルデムの紹介記事は、コチラ⇒2017年06月13日
*『ラビング・パブロ Loving Pablo』の作品紹介は、コチラ⇒2017年08月09日
*『誰もがそれを知っている』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月08日
*『愛すべき夫妻の秘密』記事は、コチラ⇒2022年02月11日
*「El buen patrón」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月10日
* ハビエル・バルデムのキャリア紹介は、コチラ⇒2018年10月17日
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