ペネロペ・クルスが映画国民賞2022を受賞 ― 2022年06月25日 15:45
いつもの年とは違った2021年、「パラレル・マザーズ」とヴォルピ杯受賞
(オスカー賞2022にノミネートされたペネロペ・クルス、授賞式にて)
★6月6日、今年の映画国民賞2022の受賞者はペネロペ・クルスとの発表がありました。文句なしの満場一致で決まったと各紙が報道しました。エル・パイス紙のコラムニストは「これまで彼女に授与しなかったのは侮辱だった」とまで言い切った。本賞は必ずしも年功序列ではありませんから侮辱とまでは思いませんが、国際的な貢献度を考えるといささか失礼だったかもしれません。オスカー賞の『ベルエポック』の監督が、2015年に受賞が発表されると「今さら貰っても・・・」と受賞を拒んだことを思い出しました。賞なら誰もが歓迎するとは言えず、タイミングが必要ということです。しかし今回はグッドタイミング、ベネチア映画祭のヴォルピ杯受賞、『パラレル・マザーズ』でオスカー主演女優賞ノミネート、サンタ・バーバラ映画祭モンテシート賞受賞と、いつもの年とは別格な2021年なのでした。
(スペイン女優初のヴォルピ杯を手にしたクルス、ベネチアFF2021にて)
★本賞の選考母体はスペイン文化スポーツ省と、映画部門では映画視聴覚芸術研究所ICAAです。ということは時の政権に若干左右されるケースが出てくる可能性があります。国民賞には他に文学、音楽、美術、スポーツ・・・などがあり、映画部門が参加したのは1980年から、第1回目の受賞者はカルロス・サウラで、まだゴヤ賞などがなかった時代でした。前年に国際的な活躍をした、監督、製作者、俳優、脚本家、撮影、音楽、映画産業に関わる全ての人々が対象です。副賞は3万ユーロと少ないがゴヤ賞を凌ぎます。女性の初受賞者カルメン・マウラ(1988)以降、女優はラファエラ・アパリシオ、マリア・ルイサ・ポンテ、マリサ・パレデス、メルセデス・サンピエトロ、マリベル・ベルドゥ、アンヘラ・モリーナ、他に故イボンヌ・ブレイク衣装デザイナー、ローラ・サルバドール脚本家、エステル・ガルシア製作者、ホセフィーナ・モリーナ脚本家、イサベル・コイシェ監督などが受賞しています。
★因みに最年少受賞者は、『インポッシブル』(12)でスペイン映画史上最高の興行成績を上げたフアン・アントニオ・バヨナの38歳でした。夫君ハビエル・バルデムは『ノーカントリー』(07)出演でアカデミー賞助演男優賞を受賞した2008年に選ばれており、夫婦揃っての受賞者になりました。昨年ベテラン演技派のホセ・サクリスタンが84歳で受賞したときは、「えっ、まだ貰っていなかったの!」と驚いたのでした。
(モンテシート賞のトロフィーを手に、サンタ・バーバラ映画祭2022にて)
★話をペネロペ・クルスに戻すと、キャリア&フィルモグラフィーについては既に何回もアップさせています。1974年マドリードの郊外アルコベンダス生れの48歳、早すぎる受賞というほど若くはありません。何しろ14歳でデビュー、30年以上のキャリアの持主、ハリウッドで活躍していた一時期には「ペネロペって、スペイン人だったの?」と揶揄されもしましたが、今ではそんな陰口をたたく人はいないでしょう。ビガス・ルナに始まって、フェルナンド・トゥルエバ、ペドロ・アルモドバル、アレハンドロ・アメナバル、イサベル・コイシェ、フリオ・メデム、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、海外勢とのコラボでは、ジョン・マッデン、セルジオ・カステリット、ウディ・アレン、リドリー・スコット、アスガー・ファルハディ・・・など錚々たる監督とタッグを組んでいます。
★母親になってからの挑戦は目を見張るものがあり、強靭で柔軟、ドラマからコメディへ容易に移れる多様性、母語のほか、英語、イタリア語、フランス語が堪能なのも強み、勤勉で探求心の強い努力家の証です。小さいときから人が選ばない生き方をしてきた女優は、見た目とは違って「水面近くでいつもアップアップしています」とも語っています。映画以外にも本人は公表していませんが、メディアの裏側ではソーシャルワークに非常に熱心です。マドリードの病院への援助、医療関係者が使用するマスク15万枚以上を寄付、オスカル・カンプスが2015年設立したスペインのNGOプロアクティバ・オープン・アームズのサポートもしています。この難民救助の活動を実話に基づいて描いた、マルセル・バレナの「Mediterraneo」(21)を当ブログでご紹介しています。
*「Mediterraneo」の作品紹介は、コチラ⇒2021年12月13日
★主な受賞歴は、4回のオスカー賞ノミネート、うち2009年にウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』で助演女優賞受賞、4回目のノミネートが今年の『パラレル・マザーズ』主演女優賞でした。2018年フランス・アカデミーのセザール栄誉賞、サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞、イギリスのバフタ賞、カンヌ映画祭2006のアルモドバルの『ボルベール〈帰郷〉』で異例のグループ女優賞、イタリアのドナテッロ主演女優賞も受賞しています。他に先述したようにベネチア映画祭のヴォルピ杯、サンタ・バーバラ映画祭のモンテシート賞、女優が一番大切にしているというゴヤ賞は13回ノミネートで3賞(『美しき虜』『ボルベール』『それでも恋するバルセロナ』)他、ヨーロッパ映画賞、フォトグラマス・デ・プラタ賞など書ききれない。
(オスカー助演女優賞のトロフィーを手に、アカデミー賞2009年)
(プレゼンターが恩師アルモドバルだったセザール賞2018)
(スペイン女優2人目の受賞者となったドノスティア賞2019)
★彼女は常に根気よく努力すること、犠牲をはらって物事の価値を優先するよう躾けられて育った。また将来に確実なものなどなく、常に疑問を持ち続けるようにしているとも語っている。美容師だった母親と義母になった闘う女優ピラール・バルデムの影響が大きいと語っています。肺気腫を病みながら生涯現役を貫いたピラールは昨年7月に82歳で旅立ってしまいましたが、支援を必要としている人々の側に立つことを教えてくれた人生の先輩でもありました。また二人の子供については「子供たちは私の優先事項です」ときっぱり宣言、公私の区別にぐらつきはない。
★少女がいつ女優になろうと決心したのか定かではありませんが、アルコベンダスの映画館で観た『アタメ』に目が眩んだという。これがアルモドバルとの最初の出会いだったかもしれません。それから『ライブ・フレッシュ』(97)に辿りつくまで時間がかかりましたが、その後の活躍は書くまでもないでしょうか。『オール・アバウト・マイ・マザー』のシスター・ロサ役に始まって、『ボルベール〈帰郷〉』のライムンダに到達、これで完結したかと思っていたら『パラレル・マザーズ』のシングルマザー役に続いていたのでした。
(2022年秋劇場公開予定の『パラレル・マザーズ』のフレームから)
★成功の陰で忘れられがちなのが2000年前半の出演作、例えばホラー映画『ゴシカ』、リュック・ベンソン製作のフランス映画『花咲ける騎士道』(リメイク版)、マシュー・マコノヒーと共演した『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』、そしてイタリア映画『赤いアモーレ』では、セルジオ・カステリットからメロドラマ的な手法で内部から自身を壊すチャンスを与えられたと言われ、イタリアのアカデミー賞ドナテッロ主演女優賞を受賞した。
★現在、マイケル・マンの「Ferrari」に没頭しています。アダム・ドライバーが演じるフェラーリの創業者でレーシング・ドライバーでもあったエンツォ・フェラーリの妻ラウラに扮します。イタリアで撮影しますがアメリカ映画ですね。それが終わる秋には、イタリア映画祭2012で上映され公開もされた『海と大陸』の監督エマヌエーレ・クリアレーゼの新作「L’mmensita」が公開されます。1970年代のローマが舞台だそうで、主役クララを演じます。そして友人でもある俳優フアン・ディエゴ・ボットの監督デビュー作に製作者として参加するようです。まだ詳細はアップされていません。『パラレル・マザーズ』の日本公開は今年の秋ということです。
◎主な関連記事◎
*クルスのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2019年05月20日
*セザール栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2018年03月08日
*ドノスティア栄誉賞の記事は、コチラ⇒2019年10月04日
*ピラール・バルデムの紹介記事は、コチラ⇒2017年06月13日
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