第37回ゴヤ賞2023の授賞式がセビーリャに戻ってくる*ゴヤ賞2023 ①2022年06月03日 17:38

        ゴヤ賞2023授賞式の開催地が2回目開催となるセビーリャに決定

   

    

 (マリアノ・バロッソ会長とセビーリャ市長アントニオ・ムニョス・マルティネス)

 

★去る531日、37回ゴヤ賞2023授賞式の開催地がセビーリャと発表になりました。大分先の話になりますが、例年だとその年のクロージングにはたいてい決定しておりました。日程の調整はこれからで、しかし1月から3月の間、ベルランガ生誕100年の締めくくりとして、生地バレンシアで開催された第36回は212日でしたから2月中が予想されます。スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソの任期(3年)が終わることになり、間もなくの64日、次期会長選挙が予定されています。新理事会発足後に正式に発表になると思います。

 

★第1回目から長年開催地はマドリードと決まっており、唯一の例外が第142000年のバルセロナでした。その年の総合司会者はアントニア・サン・フアンで、その辛口の司会ぶりが会場を沸かせました。作品賞は、スペイン映画アカデミーとの関係がぎくしゃくしていなかったアルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』でした。当時まだアストゥリアス公フェリペ・デ・ボルボンだった現国王フェリペ6世の誕生日(130日)を祝って、監督が「ハッピーバースデー」を披露したのでした。再びマドリードに戻りましたが、2018年(作品賞はイサベル・コイシェの『マイ・ブックショップ』)を最後に首都では開催されておりません。

 

★列挙しますと、先ず33回めの2019年はセビーリャ(作品賞はハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』)、続いて34回めの2020年はマラガ(アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』)、コロナ感染拡大の真っただなか、観客を入れずに開催され視聴率最低を記録した35回めの2021年もマラガ(ピラール・パロメロの『スクールガールズ』)、2022年が前述したようにバレンシア(レオン・デ・アラノアの「El buen patrón」)でした。

 

★開催地に名乗りをあげた都市の中には、有力候補だったバジャドリード市があった。老舗の映画祭が開催されるバジャドリードは、「非常に適していましたが、セビーリャは市議会をはじめとして、市民や地元企業の支援があって、また前回の経験もあり、特に3000人を収容できるFIBES(セビリア会議・エキシビション・センター)があることが強みでした」とバロッソ会長。「マドリードには他に沢山のイベントがある」とも語っていた。新幹線アベを利用すれば不便とは言えない。決め手はセビリア市長アントニオ・ムニョスのポジティブな働きかけが功を奏したようです。

 

   

             (会場となるFIBESの内部

 

★スペイン映画アカデミー選挙には、プロデューサーのバレリー・デルピエール(モナコ1971『悲しみに、こんにちは』『スクールガールズ』ほか)、女優ルイサ・ガバサ(サラゴサ1951「La novia」)、撮影監督のテレサ・メディナ(マドリード1965『あなたに言えなかったこと』)、ドキュメンタリー作家&批評家フェルナンド・メンデス=レイテ(マドリード1944)など、近年見られなかった候補者の多い選挙となり混戦模様ということです。


スペイン映画アカデミーの新会長にフェルナンド・メンデス=レイテ2022年06月08日 10:53

       スペイン映画アカデミー新会長にフェルナンド・メンデス=レイテを選出

   

     

   (ラファエル・ポルテラ、フェルナンド・メンデス=レイテ、スシ・サンチェス)

 

★去る64日(土曜日)、予定通り第17スペイン映画アカデミー会長選挙が行われ、アカデミー会員は前任者マリアノ・バロッソ路線を引き継ぐことを明言していたベテラン・シネアスト、78歳のフェルナンド・メンデス=レイテを選びました。他の立候補者は製作者バレリー・デルピエール、女優ルイサ・ガバサ、撮影監督テレサ・メディナの女性3人、黒一点?が当選を果たしました。内訳はアカデミー会員2039人、投票権を持っている1846人のうち820人が投票、第一副会長に製作者ラファエル・ポルテラ、第二副会長に女優スシ・サンチェスを従えたメンデス=レイテが348を獲得しました。会員でも会費が未払いだと選挙権がなく、立候補は3人一組のトリオで選挙に臨むのが決りです。新執行部は月曜日から始動します。セビーリャ開催となった第37回ゴヤ賞2023授賞式の日程と司会者選定を急ぐことになります。

 

   

   (左から、立候補者に名乗りを上げていたルイサ・ガバサ、メンデス=レイテ、

    テレサ・メディナ、バレリー・デルピエール)

 

★なり手が無くて押し付け合いぎみだった映画アカデミーも、36年間に16人の会長を選出してきた。前回の第16代会長選挙の立候補はバロッソ会長、副会長にラファエル・ポルテラとノラ・ナバスの3人のみで対立候補がなく信任投票だった。ラファエル・ポルテラは続投することになったわけです。彼はバルセロナ派の監督作品を主に手掛けているプロデューサー、キャリア紹介はアップ済みです。主にプロジェクトの一大イベントであるゴヤ賞の日程表作成を急ぐことになります。彼は新視聴覚コミュニケーション法に関して、「アカデミーとしての位置を明確にする必要があり、対話を通じて解決策を見つけねばなりません」と強調している。

16代会長選挙とラファエル・ポルテラ紹介は、コチラ20180623

 

★新会長メンデス=レイテは、「私は長年、さまざまな政党の政治家に協力してきました。これは私の専門で、自身が直面している難問を解決してきました。文化相や財務相と会って、この新法についても話し合いたい」と語っている。難問は新法に止まらず、映画館での観客の激減、スクリーン向けでない視聴覚製作の増加など新たな課題にも直面している。「アカデミーにはスペイン映画の問題を解決する執行能力は無くても、機関や世論に影響を与える能力はあるでしょう。人々を映画館に戻さねばなりません」と。まわり道でも若者や子供たちにスクリーンで観る楽しさを体験してもらうことが大切、そのための支援が重要です。

 

★『日曜日の憂鬱』でゴヤ賞2019主演女優賞を受賞したスシ・サンチェスは、他の3組の候補者たちに感謝の意を伝え、全員が同じ価値観をもって参加したと語った。「今期のアカデミーが地平線となりますように」と宣言した。以下でキャリア&フィルモグラフィーをアップしています。

スシ・サンチェスのキャリア紹介は、コチラ20180621

 

フェルナンド・メンデス=レイテのキャリア紹介:1944年マドリード生れ、バジャドリード大学で法学を専攻、続いてコンプルテンセ大学で映画を学ぶ。映画・TV・演劇の監督、脚本家、作家、映画評論家、製作者と守備範囲は広い。1967年よりTV界に入り70年代にTVシリーズを手掛ける。1968年から81年までバジャドリード大学で映画理論と現代映画史の教鞭をとる。ICAA映画視聴覚芸術研究所総局長(198688)、1994年に設立されたECAMマドリード・コミュニティ映画視聴覚学校校長を2011年まで務め、1977年以来のマラガ・フェスティバルの運営委員会のメンバーでもある。アカデミー会長就任後も離れることはない。78歳になったばかりだが精力的に活躍している。シネマ・ライターズ・サークル・メダルを1974年「Galería」と「Cultura」(TVシリーズ)でジャーナリズム賞、1980 Fritz Lang でブック賞を受賞している。1966年以来、映画批評を日刊紙プエブロとディアリオ16、フォトグラマ誌ほかに執筆している。

 

★フィルモグラフィーとしては、上記受賞作のほか、カルメン・マウラを起用した「Los libros」(TVシリーズ7477)や、コメディ映画「El hombre de moda」(80)が代表作、TVミニシリーズ「Sonatas」(83)、最も成功したのはクラリンの小説を映画化した「La regenta」(1995)で、主役の裁判官夫人をアイタナ・サンチェス=ヒホンが演じた。その他「¡Ay, Carmen!」(18)、「La corte de Ana」(20)などのドキュメンタリーを監督している。2006年ゴヤ賞ガラのドキュメンタリーを撮っており、このときの体験を「真実はそれが悪夢に外ならなかったということです」とジョークまじりに語っている。しかし再び戻ってきたわけです。

 

    

             (フェルナンド・メンデス=レイテ

 

第75回カンヌ映画祭2022*アルベルト・セラとロドリゴ・ソロゴジェン2022年06月10日 11:05

           スペイン映画は大賞に無縁だったカンヌ映画祭2022

 

      

★今さらカンヌでもありませんが、第75回カンヌ映画祭(517日~28日)は3年ぶりに5月開催に戻ってきました。パルムドールは5年前に『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で同賞を受賞した、リューベン・オストルンドのコメディ「Triangle of Sadness」(スウェーデン・英・米・仏・ギリシャ)が受賞、言語は英語、富裕層への皮肉満載とか。グランプリは「Girl/ガール」のルーカス・ドンの「Close」(ベルギー・オランダ・仏)とクレール・ドゥニの「Stars at Noon」(仏)、後者はニカラグアが舞台とか。審査員賞はイエジー・スコリモフスキの「Eo」と、シャルロッテ・ファンデルメールシュほかの「Le otto montagne」の2作に、第75回記念賞はカンヌ常連のダルデンヌ兄弟の「Tori et Lokita」の手に渡った。

 

     

          (喜びを爆発させたリューベン・オストルンド)

 

★監督賞にはカンヌの常連である『オールド・ボーイ』『渇き』のパク・チャヌクが、サスペンス「Dicision to Leave」で受賞、今月末に韓国での公開が決定、日本でも2023年に公開される。男優賞には是枝裕和が韓国で撮った「Broker ベイビー・ブローカー」出演のソン・ガンホ、是枝監督もエキュメニカル審査員賞を受賞した。韓流の勢いは続いているようです。韓国の尹錫悦大統領が二人に祝電を送ったとメディアが報じている。日本勢では「ある視点」ノミネートの早川千絵(「PLAN 75」)が、新人監督に与えられるカメラドールの次点である特別賞スペシャルメンションを受賞した。

  

     

    (トロフィーを披露する、監督賞のパク・チャヌクと男優賞のソン・ガンホ)

 

★スペイン映画はコンペティション部門では、21世紀の鬼才と称されるアルベルト・セラの「Pacifiction」(22165分、仏・西・独・ポルトガル)1作のみでした。スペインも製作に参加していますが言語はフランス語と英語、カタルーニャ人のセラにとってスペイン語は外国語です。舞台はフランスの飛び地タヒチ島、20世紀にポリネシアの島々に多大な被害を与えた核実験を政府は再開しようとしている。主演はフランス政府の高等弁務官役にブノワ・マジメルが扮している。フランスの部外者であり島の友人である主人公は、政治的個人的なバランスをとって役人と一般の人々の微妙な関係を維持している。プロットから分かるように前作よりは筋があるようです。妥協と無縁の監督が、ブノワ・マジメルに命を吹き込ませることができたかどうか。不穏な陰謀がにおってくるスリラー仕立て、スペインからはセルジ・ロペスがクレジットされている。

 

  

 

     

      (セラ監督とブノワ・マジメル、カンヌFFのフォトコールから)

 

★セラ監督は、カンヌ映画祭を含めて海外の映画祭に焦点を合わせており、国際的に知名度がありながらスペインでの公開は多くない。批評家と観客の評価が乖離している作家性の強い監督です。新作の評価は、上映後の「スタンディング・オベーションが7分間」で分かるように、批評家やシネマニアはポジティブでしたが、一般観客に受け入れられるかどうか微妙です。少なくとも2019年の「ある視点」で上映されたフランス革命前夜を背景にした「Liberté」よりは分かりやすいでしょうか。本作については日本から取材に来た或るレポーターが「くだらなすぎる」と噛みついていたが、『万引き家族』や『パラサイト:半地下の家族』のようには分かりやすくない。日本ではミニ映画祭で特集が組まれたこともあるが、単独公開はジャン=ピエール・レオが太陽王に扮した『ルイ14世の死』(16)だけかもしれない。ゴージャスなヴェルサイユ宮殿の寝室に横たわるルイ14世の陳腐な死を描いている。

アルベルト・セラのキャリアと「Liberté」紹介は、コチラ20190425

 

    

            (新作「Pacifiction」のフレームから)

 

★他にロドリゴ・ソロゴジェンのスリラー「As bestas」(22137分、西・仏)が、コンペティション部門のカンヌ・プレミアセクションで上映された。『おもかげ』(19)以来、TVシリーズにシフトしていたがスクリーンに戻ってきた。言語はスペイン語・ガリシア語・フランス語。引退した中年のフランス人カップルがガリシアの村に移住してくる。二人の村への愛情と熱意は、しかし地元の住民の敵意と暴力に迎えられることになる。フランス人カップルにドゥニ・メノーシェマリナ・フォイス、地元の住民にルイス・サエラディエゴ・アニドが敵対する兄弟役で出演している。フランス公開720日、スペイン公開は1111日がアナウンスされています。いずれアップしたい。

     

   

 

    

     (マリナ・フォイス、監督、ドゥニ・メノーシェ、カンヌFFフォトコール)


*追加情報:アルベルト・セラ新作は『パシフィクション』の邦題で、ロドリゴ・ソロゴジェン新作は『ザ・ビースト』の邦題で、第35回東京国際映画祭2022のワールド・フォーカス部門、コンペティション部門での上映が決定しました。

 

公開中のメキシコ映画*『ニューオーダー』と『息子の面影』2022年06月13日 15:19

      ミシェル・フランコのディストピア・スリラー『ニューオーダー』

   

     

 

★第77回ベネチア映画祭2020の審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した『ニューオーダー』が公開されています。ミシェル・フランコは、当ブログでは『父の秘密』『或る終焉』『母という名の女』などで度々登場してもらっています。新作では極端な経済格差が国民を分断する社会秩序の崩壊ディストピアをスリラー仕立てで描いています。プレミアされたベネチアでは、その過激なプロットからメキシコから現地入りしていたセレブたちが騒然となり、初っ端から映画の評価は賛否が分かれています。プロットやキャスト紹介は公式サイトに詳しい。

 原題「Nuevo orden」(英題「New Order」)メキシコ・フランス合作、2020年、

  スリラー、36

  上映館:渋谷シアター・イメージフォーラム、202264日、ほか全国順次公開

 

    

      (銀獅子賞のトロフィーを手にしたミシェル・フランコ、ベネチア映画祭2020

 

★主役マリアン役に脚本家でもあるネイアン・ゴンサレス・ノルビンド(メキシコシティ1992)が扮している。「Leona」でモレリア映画祭2018女優賞受賞、母親は『或る終焉』出演のナイレア・ノルビンド、ティム・ロスが主役を演じた看護師の元妻を演じている。抗議運動側に立つマルタ役に、モニカ・デル・カルメン1982)がクレジットされている。カンヌ映画祭2010で衝撃デビューしたマイケル・ロウの『うるう年の秘め事』で国際舞台に登場、アリエル賞女優賞を受賞している。翌年のラテンビートで上映されている。他に上記のフランコ映画の常連でもあり、今回のベネチアにも監督と出席している。物言う女優の一人です。

 

  ◎ミシェル・フランコ関連記事

『父の秘密』の作品紹介は、コチラ20131120

『或る終焉』の作品紹介は、コチラ20160615同年0618

『母という名の女』の主な作品紹介は、コチラ2017050820180707

モニカ・デル・カルメンのキャリア紹介は、コチラ20210828

 

 

       フェルナンダ・バラデスのデビュー作『息子の面影』

   

 

   

★もう1作がフェルナンダ・バラデスのデビュー作『息子の面影』、メキシコ国境付近で行方知れずになった息子たちを探す3人の母親と、ラテンアメリカ映画に特有なテーマである父親不在が語られる。豊かな北の隣国アメリカに一番近い国メキシコの苦悩を描いている映画は本作に限らないが、『ニューオーダー』と同じく現代メキシコの現実を切りとっている佳作。サンダンス映画祭2020ワールド・シネマ部門観客賞と審査員特別脚本賞、サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門の作品賞、ほか受賞歴多数。ラテンビート2020で同タイトルで上映されている。作品紹介は公式サイトに詳しいが、当ブログでも監督のキャリア&フィルモグラフィー、作品とキャスト紹介を以下にしています。

監督キャリアと作品紹介は、コチラ20201126

 

  

   (オリソンテス・ラティノス賞を受賞したバラデス監督、SSIFF2020授賞式

 

原題「Sin señas particulares」(英題「Identifying Features

  メキシコ・スペイン合作、スペイン語・サポテコ語・英語、2020年、99分、ドラマ

 上映館:新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペース、2022527日、ほか全国順次公開中


『燃やされた現ナマ』出版講演&『逃走のレクイエム』上映会2022年06月16日 14:49

           マルセロ・ピニェイロの旧作『逃走のレクイエム』上映会

 

   

 

★劇場公開というわけではありませんが、インスティトゥト・セルバンテス東京の文化イベントとして、マルセロ・ピニェイロの旧作「Plata quemada」(00)が日本語字幕入りで上映されます。本作はリカルド・ピグリアの同名小説を映画化したもので、1965年ブエノスアイレスで起きた現金輸送車襲撃事件の実話に触発されたフィクションです。今回原作が『燃やされた現ナマ』の邦題で水声社より出版されたことで、訳者の大西亮法政大学国際文化学部教授を迎えて講演&上映会が企画されたようです。

 

  『燃やされた現ナマ』出版講演&『逃走のレクイエム』上映会

日時:202276日(水曜日)1800

会場:インスティトゥト・セルバンテス東京地下1階オーディトリアム

   入場無料、要予約、オンライン配信はありません

言語:講演会(日本語)、映画(スペイン語、日本語字幕付)

主催:インスティトゥト・セルバンテス東京、アルゼンチン大使館

協力:NPO法人レインボー・リール東京、水声社

   


      

1997年のプラネタ賞受賞作品ということで、アルゼンチンでの公開当時の評判は、「映画より小説のほうが数倍面白い」というものでしたが、映画もなかなか面白いものでした。脇道になりますが、プラネタ賞受賞については、作家が出版社にもっていた深いコネクションが後々訴訟問題にまで発展しました。裁判所は作家がコンテストを操作したと認め、以後コンテストの明朗化が進みました。話を戻すと日本では第10回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2001『逃走のレクイエム』の邦題で上映されました(現レインボー・リール東京、2016年に改名)。その後2004より始まったラテンビート(ヒスパニックビートFF2004)では『炎のレクイエム』と改題されています。今回はレインボー・リール東京のタイトルが採用されての上映です。

 

『燃やされた現ナマ』(水声社、2022225日刊、2400円+税)

著者リカルド・ピグリア1940)は筋萎縮症のため2017年に既に鬼籍入りしている。翻訳者は他にピグリアの『人工呼吸』(2015年刊)やビオイ・カサーレスの『英雄たちの夢』(2021年刊)を翻訳しています。

   

           

             (リカルド・ピグリアと原作の表紙

 

           暴力的なフィナーレに魅了される

 

20年以上前の映画なので少し作品紹介をしておきます。映画より面白いという小説は未読ですが、大筋は同じでも、当然のことながら人名、プロットは若干異なるということです。製作国はアルゼンチン、スペイン、ウルグアイ合作、ブエノスアイレス、ウルグアイのモンテビデオで撮影された。アレハンドロ・アメナバルの『テシス 次は私が殺される』でブレイクしたエドゥアルド・ノリエガ、フアン・カルロス・フレスナディーリョの『10億分の1の男』のレオナルド・スバラーリア、マルセロ・ピニェイロの「El método」や『木曜日の未亡人』パブロ・エチャリ、本作がデビュー作のドロレス・フォンシなど、彼らの若い時代の演技が楽しめます。

 

 

Plata quemada」(邦題『逃走のレクイエム』、英題「Burning Money

製作:Oscar Kramer S. A. / Cuatro Cabezas / Mandarin Films S. A. / Tornasol Films / INCAA 他多数

監督:マルセロ・ピニェイロ

脚本:マルセロ・フィゲラス、マルセロ・ピニェイロ

原作:リカルド・ピグリア

撮影:アルフレッド・マヨ

編集:フアン・カルロス・マシアス

録音:カルロス・アバテ、ホセ・ルイス・ディアス

音楽:オスバルド・モンテス

製作:ディアナ・フレイ、オスカル・クラメル、(スペイン)マリエラ・ベスイエブスキ、ヘラルド・エレーロ、(エグゼクティブ)エディイ・ワルター、他多数

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン、ウルグアイ、スペイン語、2000年、犯罪サスペンス、ロマンス、117分、撮影地ブエノスアイレス、モンテビデオ、公開アルゼンチン(2000511日)、ウルグアイ(62日)、スペイン(91日)

映画祭・受賞歴:トロント映画祭、パームスプリングス、ベルリン、マイアミ、サンフランシスコ、フィラデルフィア、ロスアンゼルス、アムステルダム・ゲイ&レズビアン、ハバナ、他国際映画祭正式出品、アルゼンチン映画批評家連盟賞2001脚色賞、ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞、ハバナ映画祭2000撮影賞・録音賞、各受賞、ノミネート多数

 

主なキャスト:エドゥアルド・ノリエガ(アンヘル)、レオナルド・スバラーリア(エル・ネネ)、パブロ・エチャリ(エル・クエルボ)、ドロレス・フォンシ(ビビ)、レティシア・ブレディチェ(ジゼル)、リカルド・バルティス(犯罪グループのボス、フォンタナ)、カルロス・ロフェ(弁護士ナンド)、エクトル・アルテリオ(ロサルド)、他多数

 

ストーリー1965ブエノスアイレス郊外サンフェルナンド、アンヘル、エル・ネネ、エル・クエルボは現金輸送車を襲撃する。ブエノスアイレス警察は大規模な捜索を開始する。700万ペソの〈現ナマ手にした強盗団は警察の追っ手を逃れ国境を越えウルグアイに逃走、モンテビデオのアパートの一室に立てこもる。幼年時代の想い出、娼婦との出会い、セックスとドラッグへの耽溺など、トリオの過去をフラッシュバックで描き出す。クエルボの恋人ビビ、ネネが出会った娼婦ジゼル、若者を牛耳るグループのボス、悪徳弁護士などを絡ませて「社会を震撼させた衝撃的事件をフィクションの力で描き出した傑作。

       

   

  (左から、エドゥアルド・ノリエガ、パブロ・エチャリ、レオナルド・スバラーリア)

 

★小説は実話にインスピレーションを得て書かれているうえに、脚本では更にいくつかの変更が加えられている。映画のほうが実話に近いということです。エル・ネネは実際には裁判官になるための教育を受けていたそうです。包囲戦で死亡したトリオはモンテビデオの北墓地に匿名で埋葬されたが、その後ネネの遺体だけが家族によって引き取られ故国に戻っているそうです。クエルボは包囲戦で死亡したのではなく、警察官に唾を吐いたことで暴力を受け、病院に移送された数時間後に息を引き取った。

 

         

   
   
       

★作家ピグリアと出版社プラネタは、後にいくつかの訴訟を起されている。その一つがラ・ネナ(映画ではビビとして登場した)として知られているブランカ・ロサ・ガレアノ、当時エル・クエルボのガールフレンドで彼の子供を収監された刑務所内で出産している。息子には父親の身元を伏せ過去を封印してきたが小説が出版されたことで多大な苦痛を受けたとして100万ペソの損害賠償を要求した。しかし内容は当時の新聞に掲載されていた周知の事実であり、賠償請求額は彼女が被った損害に対して過度であるとして却下されている。言論の自由が優先されたわけだが、自業自得とはいえ現在なら違ったかもしれない。

    

   

         (本作でデビューしたドロレス・フォンシ、フレームから)

 

  関連記事&キャスト紹介

マルセロ・ピニェイロ監督の紹介記事は、コチラ20131219

レオナルド・スバラーリア(スバラグリア)キャリア紹介は、

 コチラ2020011120170313

パブロ・エチャリの出演作はコチラ20131219

エドゥアルド・ノリエガの出演作は、コチラ20131219

ドロレス・フォンシのキャリア紹介は、コチラ2017051820150521

  

ペネロペ・クルスが映画国民賞2022を受賞2022年06月25日 15:45

  いつもの年とは違った2021年、「パラレル・マザーズ」とヴォルピ杯受賞

 

        

    (オスカー賞2022にノミネートされたペネロペ・クルス、授賞式にて)

  

66日、今年の映画国民賞2022の受賞者はペネロペ・クルスとの発表がありました。文句なしの満場一致で決まったと各紙が報道しました。エル・パイス紙のコラムニストは「これまで彼女に授与しなかったのは侮辱だった」とまで言い切った。本賞は必ずしも年功序列ではありませんから侮辱とまでは思いませんが、国際的な貢献度を考えるといささか失礼だったかもしれません。オスカー賞の『ベルエポック』の監督が、2015年に受賞が発表されると「今さら貰っても・・・」と受賞を拒んだことを思い出しました。賞なら誰もが歓迎するとは言えず、タイミングが必要ということです。しかし今回はグッドタイミング、ベネチア映画祭のヴォルピ杯受賞『パラレル・マザーズ』でオスカー主演女優賞ノミネート、サンタ・バーバラ映画祭モンテシート賞受賞と、いつもの年とは別格な2021年なのでした。

 

    

   (スペイン女優初のヴォルピ杯を手にしたクルス、ベネチアFF2021にて)

 

★本賞の選考母体はスペイン文化スポーツ省と、映画部門では映画視聴覚芸術研究所ICAAです。ということは時の政権に若干左右されるケースが出てくる可能性があります。国民賞には他に文学、音楽、美術、スポーツ・・・などがあり、映画部門が参加したのは1980年から、第1回目の受賞者はカルロス・サウラで、まだゴヤ賞などがなかった時代でした。前年に国際的な活躍をした、監督、製作者、俳優、脚本家、撮影、音楽、映画産業に関わる全ての人々が対象です。副賞は3万ユーロと少ないがゴヤ賞を凌ぎます。女性の初受賞者カルメン・マウラ1988)以降、女優はラファエラ・アパリシオ、マリア・ルイサ・ポンテ、マリサ・パレデス、メルセデス・サンピエトロ、マリベル・ベルドゥ、アンヘラ・モリーナ、他に故イボンヌ・ブレイク衣装デザイナー、ローラ・サルバドール脚本家、エステル・ガルシア製作者、ホセフィーナ・モリーナ脚本家、イサベル・コイシェ監督などが受賞しています。

 

★因みに最年少受賞者は、『インポッシブル』(12)でスペイン映画史上最高の興行成績を上げたフアン・アントニオ・バヨナ38歳でした。夫君ハビエル・バルデムは『ノーカントリー』(07)出演でアカデミー賞助演男優賞を受賞した2008年に選ばれており、夫婦揃っての受賞者になりました。昨年ベテラン演技派のホセ・サクリスタン84歳で受賞したときは、「えっ、まだ貰っていなかったの!」と驚いたのでした。

 

   

  (モンテシート賞のトロフィーを手に、サンタ・バーバラ映画祭2022にて)

 

★話をペネロペ・クルスに戻すと、キャリア&フィルモグラフィーについては既に何回もアップさせています。1974年マドリードの郊外アルコベンダス生れの48歳、早すぎる受賞というほど若くはありません。何しろ14歳でデビュー、30年以上のキャリアの持主、ハリウッドで活躍していた一時期には「ペネロペって、スペイン人だったの?」と揶揄されもしましたが、今ではそんな陰口をたたく人はいないでしょう。ビガス・ルナに始まって、フェルナンド・トゥルエバ、ペドロ・アルモドバル、アレハンドロ・アメナバル、イサベル・コイシェ、フリオ・メデム、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、海外勢とのコラボでは、ジョン・マッデン、セルジオ・カステリット、ウディ・アレン、リドリー・スコット、アスガー・ファルハディ・・・など錚々たる監督とタッグを組んでいます。

 

★母親になってからの挑戦は目を見張るものがあり、強靭で柔軟、ドラマからコメディへ容易に移れる多様性、母語のほか、英語、イタリア語、フランス語が堪能なのも強み、勤勉で探求心の強い努力家の証です。小さいときから人が選ばない生き方をしてきた女優は、見た目とは違って「水面近くでいつもアップアップしています」とも語っています。映画以外にも本人は公表していませんが、メディアの裏側ではソーシャルワークに非常に熱心です。マドリードの病院への援助、医療関係者が使用するマスク15万枚以上を寄付、オスカル・カンプスが2015年設立したスペインのNGOプロアクティバ・オープン・アームズのサポートもしています。この難民救助の活動を実話に基づいて描いた、マルセル・バレナのMediterraneo21)を当ブログでご紹介しています。

Mediterraneo」の作品紹介は、コチラ20211213

 

★主な受賞歴は、4回のオスカー賞ノミネート、うち2009年にウディ・アレン『それでも恋するバルセロナ』助演女優賞受賞、4回目のノミネートが今年の『パラレル・マザーズ』主演女優賞でした。2018年フランス・アカデミーのセザール栄誉賞、サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞、イギリスのバフタ賞、カンヌ映画祭2006アルモドバル『ボルベール〈帰郷〉』で異例のグループ女優賞、イタリアのドナテッロ主演女優賞も受賞しています。他に先述したようにベネチア映画祭のヴォルピ杯、サンタ・バーバラ映画祭のモンテシート賞、女優が一番大切にしているというゴヤ賞13回ノミネート3『美しき虜』『ボルベール』『それでも恋するバルセロナ』)他、ヨーロッパ映画賞、フォトグラマス・デ・プラタ賞など書ききれない。

 

      

       (オスカー助演女優賞のトロフィーを手に、アカデミー賞2009年)

     

   

            (プレゼンターが恩師アルモドバルだったセザール賞2018

    

   

      (スペイン女優2人目の受賞者となったドノスティア賞2019

 

★彼女は常に根気よく努力すること、犠牲をはらって物事の価値を優先するよう躾けられて育った。また将来に確実なものなどなく、常に疑問を持ち続けるようにしているとも語っている。美容師だった母親と義母になった闘う女優ピラール・バルデムの影響が大きいと語っています。肺気腫を病みながら生涯現役を貫いたピラールは昨年7月に82歳で旅立ってしまいましたが、支援を必要としている人々の側に立つことを教えてくれた人生の先輩でもありました。また二人の子供については「子供たちは私の優先事項です」ときっぱり宣言、公私の区別にぐらつきはない。

 

★少女がいつ女優になろうと決心したのか定かではありませんが、アルコベンダスの映画館で観た『アタメ』に目が眩んだという。これがアルモドバルとの最初の出会いだったかもしれません。それから『ライブ・フレッシュ』(97)に辿りつくまで時間がかかりましたが、その後の活躍は書くまでもないでしょうか。『オール・アバウト・マイ・マザー』のシスター・ロサ役に始まって、『ボルベール〈帰郷〉』のライムンダに到達、これで完結したかと思っていたら『パラレル・マザーズ』のシングルマザー役に続いていたのでした。

 

       

      (2022年秋劇場公開予定の『パラレル・マザーズ』のフレームから)

 

★成功の陰で忘れられがちなのが2000年前半の出演作、例えばホラー映画『ゴシカ』、リュック・ベンソン製作のフランス映画『花咲ける騎士道』(リメイク版)、マシュー・マコノヒーと共演した『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』、そしてイタリア映画『赤いアモーレ』では、セルジオ・カステリットからメロドラマ的な手法で内部から自身を壊すチャンスを与えられたと言われ、イタリアのアカデミー賞ドナテッロ主演女優賞を受賞した。

 

★現在、マイケル・マンの「Ferrari」に没頭しています。アダム・ドライバーが演じるフェラーリの創業者でレーシング・ドライバーでもあったエンツォ・フェラーリの妻ラウラに扮します。イタリアで撮影しますがアメリカ映画ですね。それが終わる秋には、イタリア映画祭2012で上映され公開もされた『海と大陸』の監督エマヌエーレ・クリアレーゼの新作「Lmmensita」が公開されます。1970年代のローマが舞台だそうで、主役クララを演じます。そして友人でもある俳優フアン・ディエゴ・ボットの監督デビュー作に製作者として参加するようです。まだ詳細はアップされていません。『パラレル・マザーズ』の日本公開は今年の秋ということです。

 

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