ハビエル・フェセルの 『チャンピオンズ』*スペイン映画祭2019 ② ― 2019年07月01日 17:16
スペイン映画祭2019――インスティトゥト・セルバンテス東京主催

★インスティトゥト・セルバンテス東京のスペイン映画祭2019(6月25日~7月2日)が開催され、うち5作を鑑賞しました。期待通りの作品、それほどでもなかった作品などもありましたが、うち年内に公開が予定されているハビエル・フェセルの『チャンピオンズ』(原題「Campeones」)はお薦め作品です。当日の上映後には、スカイプでフェセル監督とのインタビューもありました。1年ほど前に公開を期待して作品&監督キャリア紹介をしておりますが、以下にストーリーとキャスト紹介を訂正加筆して再録、改めてその魅力をお伝えしたい。公開前なのでネタバレに気をつけてのご紹介です。
*「Campeones」の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ⇒2018年06月12日

『チャンピオンズ』(原題「Campeones」)2018、コメディ、スペイン=メキシコ合作
*キャスト*
ハビエル・グティエレス(マルコ・モンテス)『マーシュランド』
『オリーブの樹は呼んでいる』『クリミナル・プラン』「El autor」
アテネア・マタ(マルコの妻ソニア)『モルタデロとフィレモン』『ビースト 獣の日』
フアン・マルガージョ(ソーシャルセンター責任者フリオ)
『ミツバチのささやき』『孤独のかけら』
ルイサ・ガバサ(マルコの母アンパロ)パウラ・オルティスの「La novia」
ラウラ・バルバ(裁判官)『ロスト・アイズ』
ダニエル・フレイレ(カラスコサ)『ルシアとSEX』
ルイス・ベルメホ(ソニアの同僚)『となりのテロリスト』『KIKI』『孤独のかけら』
ビセンテ・ジル(ベニトの雇用者)
Yiyo アロンソ(マルコの弁護士)
イツィアル・カストロ(ヘススの母親)『ブランカニエベス』『あなたに触らせて』
チャニ・マルティン(クエンカ行きバスの運転手)
ホルヘ・フアン・ヌニェス(セルヒオの雇用者)
クラウディア・フェセル(ホテルのフロント係)『カミーノ』
ハビエル・フェセル(新聞記者)
◎以下バスケット・チーム「ロス・アミーゴス」の選手10人
ヘスス・ビダル(マリン)、グロリア・ラモス(紅一点コジャンテス)、セルヒオ・オルモ(セルヒオ)、フリオ・フェルナンデス(ファビアン)、ヘスス・ラゴ(ヘスス)、ホセ・デ・ルナ(フアンマ)、フラン・フエンテス(パキート)、ステファン・ロペス(マヌエル)、アルベルト・ニエト・フェランデス(ベニト)、ロベルト・チンチジャ(ラモン)
◎決勝戦対戦チーム「ロス・エナノス」の選手、ラモン・トーレス、アントニオ・デ・ラ・クルス以下多数。
ストーリー:マルコ・モンテスはスペイン・バスケット・ナショナルリーグのチームABCの副コーチである。マナーが悪く横柄なことから他のコーチとは上手くいってない。プロとしてのキャリアも人間関係にも多くの問題を抱えこんでいる。試合中に試合方針の違いからヘッド・コーチと口論になり退場させられる。むしゃくしゃして飲酒運転、あげくの果てにパトカーに追突事故、即刻クビになってしまった。妻ソニアにも言えず実家に転がり込んだマルコに、裁判官からは懲らしめの罰則として2年間の服役か、または90日間の奉仕活動「ロス・アミーゴス」という知的障害者のバスケットボール・チームのコーチのどちらかを選択するよう言い渡された。こんな罰則はマルコの好みではなかったが、しぶしぶコーチを選ぶことにした。しかしマルコは次第にこの奇妙なチームの面々から、自分が学ぶべき事柄の多さに気づかされていく。彼らは障害者のイメージからはほど遠く、率直で独立心に富んだ、肩ひじ張らずに生きている姿に、我が人生を見つめ直していくことになる。 (文責:管理人)
障害者とは何か、フツウとは何かの定義を迫られるマルコと観客
A: ストーリーは公開前なので、結末まで話したくても話せない。ただ自分の障害者観を見直さねばならないと思いました。コメディで「障害者とは何か、フツウとは何か」をこれほど明快に示した映画はそんなに多くないはずです。
B: さらに言えば「幸せとは何か」です。主役のマルコも私たち観客も考え直さねばならない。それが強制されずに自然に素直にできたことがよかった。
A: ハビエル・グティエレスの魅力については、度々当ブログで書き散らしているので今更ですが、彼以外に具体的な俳優名を思い浮かばないほど適役でした。実際のグティエレスにとって9人の新人たちは不思議でも何でもない。それは彼自身が障害者の息子の父親だからです。「社会の言われなき攻撃の目に晒されている。それは人々の無知と恐怖と無関係ではない」と語っている。
B: この事実が脚本にも隠されていますね。この映画は皆にとって必要だし、同時に自覚をうながしたり教育のためにもなるから、「学校で見てもらいたい」ともコメントしている。
A: 代表作のうち、アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』のダメ刑事役も捨てがたいが、彼はコメディのほうが生き生きしている。イシアル・ボリャインのコメディ『オリーブの樹は呼んでいる』などのほうが好きですね。
B: 本作でも<チビ>という単語が何回も現れますが、本当に上背がない。しかしそれも個性の一つではないか。

(どうしたらいいものやらと、途方に暮れるマルコ)
* ハビエル・グティエレスのキャリア紹介は、コチラ⇒2015年01月24日
*『オリーブの樹は呼んでいる』の作品紹介は、コチラ⇒2016年07月19日
プロの俳優と知的障害者の見事なコラボレーション
A: 昨年の作品紹介で「プロの俳優はマルコ役のハビエル・グティエレス一人」と書きましたが、実際映画を見てみれば、次々に知った顔が現れました。「プロの有名な俳優」が正しいようで。
B: ロス・アミーゴスの選手はすべて初出演ですが、ソーシャル・センターの責任者フリオ役のフアン・マルガージョ、マルコの母親役ルイサ・ガバサ、他ルイス・ベルメホ、イツィアル・カストロ・・・
A: というわけでキャスト欄に主に邦題のある過去の出演映画を追加しました。フアン・マルガージョはハイメ・ロサーレスの『孤独のかけら』でヒロインの父親になった俳優、共演したもう一人の主役ペトラ・マルティネスと結婚している。マルコが「私の仕事はフツウの選手のコーチ、彼らは選手でもフツウでもない」と断わると、「いいかい、マルコ、ノーマルなのは誰? あんたや私かい?」と諭した。
B: 役柄も素敵だがいい味を出していた。イツィアル・カストロはあの巨体だから一目でわかります。

(正真正銘のインテリ役フリオを演じたフアン・マルガージョ、ゴヤ賞2019授賞式)
A: ロス・アミーゴスの俳優たちは、本作のメイン・プロデューサーのアルバロ・ロンゴリアが監督したドキュメンタリー「Ni distintos ni diferentes: Campeones」(27分)にヘスス・ビダル以外出演しています。同時進行か、あるいはこちらのほうが先だったかもしれません。
B: 『チャンピオンズ』は映画祭を通さずいきなり公開、あっという間に話題を攫い、世界各地をめぐっていますが、ドキュメンタリーはサンセバスチャン映画祭2018で上映されました。

(サンセバスチャン映画祭に出品されたドキュメンタリーのポスター)
障害者への友好・多様性・可視化に警鐘を鳴らす
A: ヘスス・ビダルはゴヤ賞2019新人男優賞を受賞しました。スカイプでフェセル監督から彼の受賞スピーチの素晴らしさが伝えられました。「YouTubeで見られるからご覧になってください」ということでしたが、本当に心に沁みる、当夜のハイライトの一つでした。当ブログでもゴヤ賞2019で簡単にご紹介しています。「無名の新人、10%の視力しかない視覚障害者の受賞スピーチは、友好・多様性・視覚化という三つの単語で、障害者を特別扱いする社会に警鐘を鳴らした」と。
B: フェセル監督は「全盲に近い」「彼らは自分自身を演じていた」と語っていましたが、彼だけは知的障害者ではなく視覚障害者ですね。ほかの出演者は自分自身を演じていたが、彼はマリンという役を演じたわけです。
*ゴヤ賞2019授賞式のヘスス・ビダルの記事は、コチラ⇒2019年02月05日

(受賞スピーチをするヘスス・ビダル、ゴヤ賞2019授賞式にて)
A: いま流行りの言葉で言えば、本作は「障害者の見える化」に貢献している。それが監督のテーマではなかったけれど、私たちがその存在を「できれば知らないでいたい」という風潮に釘を刺した。
観客の予想を裏切ることで観客の考えを変えたい
B: 監督から「ロベルト・チンチジャが扮したラモンの造形は、シドニー・パラリンピック2000バスケットボールのスペイン・チームの不祥事がヒントになった」と。
A: スペイン・チームは金メダルだったが、選手12人中10人が健常者、知的障害者はラモン・トーレスともう一人の選手だけだったことが発覚して、金メダルが剥奪されたという不祥事でした。これによりスペイン障害者スポーツ連盟の会長が辞任に追い込まれた。身体障害者と違って知的のほうは外見だけでは判断できないから、それ以降もパラリンピック事務局を悩ませているようです。
B: そのラモン・トーレスから名前をとった。だから劇中のラモンはラモン・トーレスの分身、つまり「コーチを信用しない理由」が判明する。
A: 実際のラモン・トーレスも決勝戦対戦チーム、カナリア諸島の「ロス・エナノス」の選手として出演していた。エナノスenanosというのは「背のひどく低い人たち」という意味で、マルコたちは競技場で大きな選手たちを見てびっくりする。
B: 監督は至る所でいたずらっ子ぶりを発揮していた。「最初の脚本は殆ど書き直し、スタートしてから彼らとコラボしながら書き進めていった」とも語っていました。
A: オーディションでは300人ぐらいと面接した。異色の登場人物のなかでもコジャンテスを演じたグロリア・ラモスは飛び切り魅力的だった。彼女がスクリーンに現れると何が起こるかとウキウキしてくる。
B: 監督は「知的障害者の女性とはこういうもの」という世間の固定観念を壊したかったと語った。
A: 他にも「この映画に出たことで人生が変わった」と語るフアンマ役のホセ・デ・ルナ、パキート役のフラン・フエンテス、ヘスス役のヘスス・ラゴなど、すべてをご紹介できないが、愛すべき人々が登場する。
B: 他人と違うことは個性の一つだと、寛容と多様性の重要さが語られている。

(ラモンにおんぶされてはしゃぐ紅一点コジャンテスとロス・アミーゴスの選手たち)

(出演したことで「人生が変わった」と語るフアンマ役のホセ・デ・ルナ)

(フォルケ賞でのヘスス・ラゴ、グロリア・ラモス、フラン・フエンテス、1月6日)
A: 他にもアテネア・マタ扮するマルコの奥さんソニアの偏見のない人格造形もよかった。マルコや選手たちを縁の下から支える役柄、実際にフェセル監督の信頼も厚かった。ルイサ・ガバサ演じる愛すべきマルコの母親アンパロ、美人裁判官役のラウラ・バルバ、ヘススのママ役のイツィアル・カストロなど、総じて女性が生き生きと描かれていた。ラウラ・バルバは舞台女優にシフトしており、ロンドンほか海外での活躍が多い。TVシリーズ出演の他、自身も短編を撮って監督デビューしている。

(インタビューを受けるアテネア・マタと監督、2018年4月6日)

(裁判官役ラウラ・バルバに刑罰の理不尽を訴えるマルコ)
B: これから公開だから、フィナーレに触れることはできないが、幸せな気分で映画館を出ることができます。
A: 観客の予想を裏切ることで観客の考えを変えたい部分も含めて、泣いて笑って考えさせられるコメディでした。「コメディは90分以内」がベターと言われるなかで、2時間越えを危惧していたが全くの杞憂だった。
B: 次回作が既に始動しているようだが、まだIMDbにはアップされておりません。
A: 監督は12月公開時には来日する予定でいるそうです。実現すれば「ラテンビート09」で上映された『カミーノ』以来のことになる。プロデューサーのルイス・マンソ、絵コンテと出演もしたビクトル・モニゴテと3人で来日、会場でも場外でも観客の質問に気軽に応えていた。マンソは新作でもエグゼクティブ・プロデューサーとして、モニゴテは絵コンテ・アーティストとして参画しているので、気取らないダンゴ三兄弟の来日が期待できるかもしれない。さて、魅力をお伝えすることが出来たでしょうか。
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