アントニオ・バンデラス映画国民賞*サンセバスチャン映画祭2017 ⑬2017年09月28日 14:49

          映画国民賞授賞式に南アから馳せつけたアントニオ・バンデラス

 

★映画国民賞の授賞式は、例年サンセバスチャン映画祭と決まっています。今年の受賞者アントニオ・バンデラス(マラガ、1960)は、2日目の923日に授賞式がありました。昨年のアンヘラ・モリーナは3日目、受賞者の希望に合わせるようですが大体映画祭前半です。ある映画の撮影のため南アフリカ共和国から慌ただしく帰国したということで、記者団を前にしての談話は控えめで幾分疲れ切った声だった由。1月に心筋梗塞で倒れスイスでステント手術を受けた。公けに顔を出したマラガ映画祭では、大分やつれた印象でしたが順調に回復しているようです。授賞式会場はタバカレラ・センター(タバコ専売公社)だったが、ここでの授賞式は初めてらしく、受賞者が正装でなく黒のスーツだったのも初めてだった(写真下)。

 

 

   (メンデス・デ・ビゴ文化教育スポーツ相から国民賞を受け取るバンデラス

 

★「国の考えについては気にしていない。自分の分からない意見が次から次へと連発されるのが気にかかっているが、唯言えることは、私はこの国で生れ育ち、民主主義移行期に子供から大人になった。この時代は物事が自由に言えるようになった時代でした。国策アートの時代は終わり、スペイン人の投票が承認された」とバンデラス。中学生のころには軍事独裁政も内部では変革が起きていたから、ポジティブな視点を持てるようになった時代だったかもしれない。カタルーニャ自治州独立の是非を問う住民投票に水を向けられると、マラガっ子のバンデラスは「理性を欠いたことのように思える。勿論投票は民主主義の基本だが、それが唯一でないことを忘れるべきではない。法律を尊重すべきです」とかわし、スペイン政府の投票阻止については、「サッカーでいえばレッドカードのようなもの。誰が得点するの、審判員あるいは蹴り上げた選手?」と応じました。中央が言うように違憲なのかどうか分かりませんが、投票日101日が個人的には心配です。

 

          消費税21%が半分以下の10%に引き下げられたけど・・・

 

★先日、メンデス・デ・ビゴ文化教育スポーツ相がチケット代のIVA消費税21%を半分以下の10%に引き下げることを発表しました(施行2018年)。「映画産業にとっては歓迎すべきことですが、特に経済危機が長引いて苦境に立たされていた製作側では大いに助けになります」とコメント。映画鑑賞の方法に変化が起きており、必ずしも映画を映画館で見る時代は終わっている。「私の娘はiPhone で映画を見ている。作る側も変わらざるを得ない。スペインでは映画館が消えてしまった町だってあるから映画館で見たくても見られない。映画祭では見ず知らずの観客同士が暗い場内で映画を見るが、これも残念ながら消えていきつつある」と悲観的でした。将来的にはネットフリックスのことも視野に入れて考えねばならないでしょう。

 

     

    (国民賞を証明する公文書を記者団に披露するアントニオ・バンデラス)

 

★ガラは、文化相メンデス・デ・ビゴのバスク語での称賛スピーチで始まった。続いてパス・ベガを従えて登壇したカルロス・サウラが文化相のバスク語に呼応して「バスクではこの映画祭をZinemaldiaと呼んでいるが、今日はZinebuendiaと呼ぶことにします」と挨拶した。Zine-mal-diamal(悪い)をbuen(良い)に入れ替えたわけです。「消費税減税の朗報、信じられませんよ、大臣。文化大臣は文化のことを、映画芸術のことに気を配る時です」とサウラ、「2018年から減税しますよ。誰だって税金なんか払いたくありません。しかし老後の年金や根本的な公共サービスの財源を確保する必要があるんです」と文化相。どちらもステレオタイプ的な口合戦でした。

 

★会場はお祝いに駆けつけた人でごった返しだったようです。サウラ以下、ペドロ・オレア、マヌエル・グティエレス・アラゴン、マベル・ロサノ、イマノル・ウリベ、リノ・エスカランテの監督たち、ICAAの元ディレクターたち、ヨーロッパ映画アカデミー副会長アントニオ・サウラ、フェルナンド・ボバイラなど製作者たち、マラガ映画祭やバジャドリード映画祭のディレクター、女性シネアストでは、昨年の受賞者アンヘラ・モリーナマリサ・パルデスナタリエ・ポサ、今回ジャガー・ルクルト賞を受賞したパス・ベガetc.

 

 

映画国民賞Premio Nacional de Cinematografiaというのは1980年に始まった賞、まだゴヤ賞(1987年から)がなかった時期で、シネアストに与えられる賞としては唯一のものでした。国民賞は他に文学賞、美術賞、科学賞など各分野ごとに分かれています。選考母体文化教育スポーツ省と映画部門ではICAAInstituto de la Cinematografia y de las ArtesAudiovisuales)です。副賞として3万ユーロが授与される。特に多額ではありませんが、栄誉賞としてはゴヤ賞より上かもしれません。

 

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ドノスティア賞の授賞式*サンセバスチャン映画祭2017 ⑭2017年09月30日 13:31

            そろそろ閉幕します、3人のドノスティア賞ガラも終了しました

 

ドノスティア賞1986年に始まった栄誉賞、第1回はグレゴリー・ペックとハリウッド・スターでした。受賞者の出身国は別として米国で活躍している俳優が大半を占めています。スペイン自体がフェルナンド・フェルナン・ゴメス(99)、パコ・ラバル(01)、アントニオ・バンデラス(08)、最後が2013年のカルメン・マウラの4人だけだから多いとは言えない。フランスでは受賞順にカトリーヌ・ドヌーヴ、ジャンヌ・モロー、イザベル・ユペールの女優陣、アニエス・ヴァルダを含めて4人と同数です。年を追うごとに米国頼みがどの映画祭でもはっきりしてきましたが、見てもらえなければ話にならないということです。ガラには敬意を払って、映画祭総ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノスが出迎えました。

 

    

       (トロフィーを手にしたアニエス・ヴァルダ、924日のガラから)

 

    

            (現地入りしたアニエス・ヴァルダ、922日)

 

★アルゼンチンからの初受賞がリカルド・ダリンだったのは納得でしょうか。「ホライズンズ・ラティノ」というスペイン語・ポルトガル語に特化したセクションがありながら、ラテンアメリカからは初めての受賞者でした。授賞式前のプレス会見で「リカルド・ダリンとは何者?」という質問には、「いつも真実を語っている嘘つき」と応えていました(笑)。トロフィーは『サミット』で共演したエレナ・アナヤと一緒に登壇したドロレス・フォンシの手から受け取りました。今年のラテンビート『サミット』が上映されるので、そちらでトレビアをアップいたします。

 

     

             (リカルド・ダリン、926日のガラから)

 

    

            (現地入りしたリカルド・ダリン、925日)

 

★イタリアからはモニカ・ベルッチ、内面から滲みだしてくるような美しさ、年々若返りしているのではないか。「私も間もなく53歳になります。仕事を続けているのは美しさだけとは思わない」とベルッチ。素晴らしい体形を維持するのは口で言うほど楽ではない。美しさとインテリジェンスを調和させながら25年以上も闘ってきたんですよね。「映画はそのほかの芸術を理解する機会を与えてくれた。女優としてでなく、それ以上に人間として大きくしてくれた」と。授賞式は3000人が収容できるベロドロモで、1998年のドノスティア賞受賞者にして今年の審査委員長ジョン・マルコヴィッチの手から渡された。たったの5分間でしたが3000人の観客が彼女の美に酔いしれました。

 

   

   (英語とスペイン語で短いスピーチをしたモニカ・ベルッチ、927日のガラから)

 

    

         (現地入りしてファンの歓迎に応えるモニカ・ベルッチ)

 

★ドノスティア賞以外の栄誉賞の一つ「ジャガー・ルクルト賞」にパス・ベガが選ばれました。昨年から始まり、第1回の受賞者はガエル・ガルシア・ベルナルでした。パス・ベガはアントニオ・バンデラスが受賞した「映画国民賞」のガラにも姿を見せていました。フリオ・メデムの『ルシアとSEX』(01)でカンヌ映画祭新人賞、ゴヤ賞新人女優賞などを受賞した。『トーク・トゥ・ハー』(02)他、アルモドバル映画、ビセンテ・アランダの『カルメン』(03)でカルメンを演じた。2008年からロスアンゼルスを本拠地にして主にハリウッド映画やTVで活躍している。

 

 

            (トロフィーにキスをするパス・ベガ)

 

正式名は「Premio JaegerLeCoultre al Cine Latino」、2007年からベネチア映画祭で始まった「Premio JaegerLeCoultre Glory to the Filmmaker」と同じ1933年創業のスイスの高級時計マニュファクチュールジャガー・ルクルト社が与える賞。「10年以上のキャリアがあり、かつ将来的にも活躍が期待できるシネアスト」に贈られます。ジャガー・ルクルト社は、サンセバスチャン映画祭のパトロンの一つです。