第1回イベロアメリカ・プラチナ賞*結果発表 ― 2014年04月17日 11:00
★第1回イベロアメリカ・プラチナ賞の授賞式が4月5日(現地時間)パナマの首都パナマのアナヤンシAnayansi劇場でおこなわれました。パナマ湾の海岸沿いに建つ約2800人収容の大劇場です。EGEDA とFIPCA*が主催、パナマ政府商工省の援助で華やかに開催されました。マグニチュード8.2の激震がチリ北部を襲った直後のことでしたが。ノミネーションはコチラ(3月18日)へ。
*EGEDA:Entidad
de Gestión de Derechos de los Productores Audiovisuales
FIPCA:Federación Iberoamericana de Productores Cinematográficos y Audiovisuales

★本映画賞はイベロアメリカ諸国、ブラジル、スペイン、ポルトガルの22カ国、アメリカ大陸に暮らすスペイン語を母語とする人々の言わば<オスカー賞>です。結果は以下の通りですが、個人的にはいささか意外な結果でした。写真は作品賞にノミネートされていたダビ・トゥルエバのVivir
es fácil con los ojos cerrados に出演したハビエル・カマラとホルヘ・サンスにエスコートされたロレト・ペラルタ。男優賞に輝いたメキシコのエウヘニオ・デルベスのNo se aceptan devoluciones でデビューした9歳の子役です。

◎最優秀作品賞:『グロリアの青春』セバスティアン・レリオ、2013、チリ=スペイン
*ノミネート:スペインの3作、Vivir es fácil con los ojos cerrados ダビ・トゥルエバ、 La
gran familia española ダニエル・サンチェス・アレバロ、 Las brujas de Zugarramurdi アレックス・デ・ラ・イグレシア、『ワコルダ』ルシア・プエンソ、アルゼンチン、『暗殺者と呼ばれた男』アンドレス・バイス、コロンビア、La
jaura de oro ディエゴ・ケマダ・ディエス、メキシコ、さらに監督賞受賞のアマ・エスカランテ『エリ』を押さえての受賞でした。
写真はハビエル・マリスカルがデザインしたトロフィーを手にした監督と女優賞受賞のパウリーナ・ガルシア。トロフィーのデザインについてはコチラ(2月20日)を。

◎監督賞:アマ・エスカランテ『エリ』2013、メキシコ
*ノミネート:『グロリアの青春』、『ワコルダ』、Vivir
es fácil con los ojos cerrados
◎脚本賞:セバスティアン・レリオ、ゴンサロ・マサ『グロリアの青春』
*ノミネート:ダニエル・サンチェス・アレバロLa
gran familia española / ダビ・トゥルエバVivir
es fácil con los ojos cerrados / ルシア・プエンソ『ワコルダ』
*これは意外でした。「プラチナ賞」の場合、作品賞はトータルな賞であって、このなかには監督・脚本・製作も含まれている賞だと思います。賞の数が少ないのだから作品賞と脚本賞をダブらせるのは賢明ではないのではないか。カンヌ映画祭のようにダブらさないほうが分かりやすい。カンヌは男優・女優もダブることがない。参加国22カ国を満足させることはありえないが、参加者はこれで納得したのだろうか。
◎男優賞:エウヘニオ・デルベスNo se
aceptan devoluciones 2013、メキシコ(監督が主演)
*ノミネート:アントニオ・デ・ラ・トーレCaníbal マヌエル・マルティン・クエンカ監督、スペイン/ ビクトル・プラダEl
limpiador アドリアン・サバ監督、ペルー/ リカルド・ダリンTesis
sobre un omicidio エルナン・ゴールドフリード監督、アルゼンチン=西 / ハビエル・カマラVivir es fácil con los ojos
cerrados
*下馬評通りだった。写真はコメディアン、俳優、監督、脚本家を兼ねる幸福度100%のエウヘニオ・デルベス。

◎女優賞:パウリーナ・ガルシア『グロリアの青春』
*ノミネート:マリア・アルバレスLa
herida フェルナンド・フランコ監督、スペイン/ ナタリア・オレイロ『ワコルダ』/ カレン・マルティネスLa
jaura de oro / Nashia Bogaert
?Quién manda? ロニー・カスティーリョ監督、ドミニカ共和国 / ラウラ・デ・ラ・ウスLa película de Ana 故ダニエル・ディアス・トーレス監督、キューバ
*これは文句なしの受賞、成功のカギはひとえに彼女がグロリアを演じたからに他ならない。
◎オリジナル作曲賞:エミリオ・Kauderer Metegol(Futbolin)2013、スペイン=アルゼンチン
*ノミネート:カリン・Zielinski El
limpiador / ジョアン・バレントLas brujas de Zugarramurdi
◎アニメーション賞:Metegol(Futbolin)フアン・ホセ・カンパネラ
*ゴヤ賞2014ノミネーション⑥で、監督についても既にご紹介済み、コチラ(1月19日)へ。
(写真:フアン・ホセ・カンパネラ)

◎ドキュメンタリー賞:Con la pata
quebrada
ディエゴ・ガラン、2013、スペイン
*サンセバスチャン映画祭2013、トゥルーズ映画祭(スペイン映画)2013などで上映。ゴヤ賞2014でエンリケ・セレソ・プロダクションとエル・デセオ(アグスティン・アルモドバル)がノミネートされた。スペインでただ一人トロフィーを受け取りに登壇できたディエゴ・ガラン。テーマは女性の権利を獲得するために闘っている女性たちのドキュメンタリー。「闘い続ける女性たちに捧げたい」と。(写真はディエゴ・ガラン)

◎合作賞:『ワコルダ』(スペイン、アルゼンチン、フランス、ノルウェー)
*ノミネート:La jaura de oro (メキシコ、スペイン)/Esclavo de
Dios(ウルグアイ、ベネズエラ、アルゼンチン、アメリカ)他
◎栄誉賞:ソニア・ブラガ Sonia Braga (1950年ブラジルのパラナ州マリンガ生れ、女優)
*ブラジル、ポルトガルの両国は1作もノミネートがなかった。その埋め合わせではないでしょうが、第1回の栄誉賞はアメリカでも活躍して知名度抜群のソニア・ブラガに与えられました。1970年代から主にブラジルのテレビ・ドラマに出演、1985年にエクトル・バベンコのブラジル=アメリカ合作『蜘蛛女のキス』出演が転機となって活躍の場が広がった。マヌエル・プイグの同名小説の映画化ですね。他に公開作品では、ルイス・マンドーキ『エンジェル・アイズ』(2001)、メキシコのフアレス市で現実に起きている女性連続殺人事件をテーマにしたグレゴリー・ナヴァ『ボーダータウン 報道されない殺人者』(2006)など。未公開だと思うがカルロス・ヂエギスのTieta
de Agreste(1996)では主役を演じました。カルロス・ヂエギスは『オルフェ』(1999)の監督、カエターノ・ヴェローゾが音楽を担当したこともあって、かなり話題になりました。

*2500人の聴衆を前にして、「私だけがカメラに囲まれておりますが、映画は一人でやれる芸術ではなく、仲間と一緒でないと作れない。同じ道を歩いてきたすべての仲間と、この賞を分かち合いたい」と平凡だが謙虚な挨拶をして満場の拍手を受けました。とても還暦過ぎとは思えない美しさです。
★チリとメキシコが目立った授賞式でしたが、もっと言えば『グロリア』がグロリアした<グロリアの夕べ>でした。終わってみれば、合作賞を除く8賞のうち、チリ3、メキシコ2、アルゼンチン2、スペイン1でした。そもそもノミネーション自体に問題があったのかもしれない。個人的には今後もこれでいいのかな、と思っています。ラテン音楽のミュージシャン、カルロス・ビーベス、ファニー・ルー、シャイラ・ドゥルカル(ロシオ・ドゥルカルの娘)、ディエゴ・トーレスなどの出演がアナウンスされておりましたが、ガラは盛り上がったようですね。プレゼンターにはメキシコの女優アレサンドラ・ロサルド、コロンビアのジャーナリストで映画評論家のフアン・カルロス・アルシニエガスが登場、ロサルドは男優賞受賞のデルベスと2012年に結婚している。
(写真はロサルドとデルベス、ガラ前日のツーショット)

★バラバラな印象のイベロアメリカの映画界がこうして1ヵ所に集って刺激し合うことができたのは収穫でした。そこで語られたことの一つが、「映画祭で上映され評価されても一般公開に結びつかない」という嘆きでした。議論の焦点は今やハリウッドの大作にしか興味を示さない配給元に集中したらしい。作品賞受賞のセバスティアン・レリオ「何時どこに行っても見ることができるのがハリウッド映画。最近トゥルーズ映画祭の審査員をしたのだが、ここでは今まで見たことがない多くのラテンアメリカ映画を見ることができた」と語っている。
★かなりハリウッド映画を意識している監督が多く、No se aceptan devoluciones のデルベス監督も、「タイトルにNoを付けたのは海賊行為はノーだから。アメリカのPiratas del Caribe(シリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン』邦題)のような海賊もノーだよ。私たちが必要な資金をハリウッドのプロダクションが提供してくれることはない」と語っている。ナイナイ尽くしで映画を作っているが、才能だけではハリウッドに負けない。これがイベロアメリカ・プラチナ賞関係者の一致した意見です。
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