イシアル・ボリャイン新作の反響*サンセバスチャン映画祭2021 ㉔ ― 2021年09月21日 11:41
「次世代の共存の基礎をつくるために議論を起すこと」とボリャイン
★セクション・オフィシアルのイシアル・ボリャインの「Maixabel」(マイシャベル)は、初日17日から19日にかけて6回上映され既に終了している(このセクションの上映回数は6回から5回)。映画祭が開催されているバスク州が舞台の実話、モデルとなった二人の登場人物は健在という微妙な映画のせいか、人々の関心は高く大きな反響を呼んでいる。主人公のマイシャベル・ラサは、2000年7月29日、ETAのテロリストの犠牲となった政治家フアン・マリア・ハウレギの未亡人、もう一人は暗殺者の一人イボン・エチェサレタ、それぞれブランカ・ポルティリョとルイス・トサールが演じている。マイシャベルの娘マリアに新人マリア・セレスエラが起用された。
*作品の解説及び内容紹介は、コチラ⇒2021年08月05日
(マリア・セレスエラ、ポルティリョ、ボリャイン監督、トサール、フォトコール)
(映画祭期間中毎日発行される新聞の一面を飾った「Maixabel」特集版)
★映画は暗殺された11年後に、マイシャベルはETAテロリストの組織との関係を絶ち服役中のイボンから会いたいという奇妙な要求を受け取る。犠牲者の家族と暗殺者のあいだに和解と共存が果たして可能なのか、というのがテーマ。現在でも対立が続く半面、話題にすることがタブーであるため、ETA が何であるか分からない、何が起こったかを知らない若い世代が増えている。バスクでは事件の犠牲者と暗殺者が半世紀の長きにわたって一緒に暮らしている。ETAメンバーに敬意を表している人もいるなかで、犠牲者の家族は耐えていなければならない。まずETA の英雄視を止めること、監督は「何が起こったかを忘れると、犠牲者を忘れることに繋がる。重要なのは議論を起すことだ」とエル・ムンド紙のインタビューに応えている。
(二人のマイシャベル、ブランカ・ポルティリョとマイシャベル・ラサ)
★本映画祭がワールドプレミアであるが、マドリードにあるスペイン映画アカデミー本部とバスク州の政治家や関係者を呼んで先行上映され、涙と拍手の大反響を引き起こしたという。エル・パイス紙による鑑賞者の出口インタビューでは、「マイシャベルとは個人的な付き合いはないが、これは必要な映画です」と60歳代の女性、または「自分の夫を殺した人の前に座りたくなどありません」と老婦人、「話し合わないと私たちはどうなるのでしょう、未来をどのように共有したらよいのですか」と若い女性、男性の声は聞こえてこない。見たい人も見たくない人もいるということです。「許しを求めることや、暴力と対決することが問題なのではなく、次世代の共存の基礎をつくる議論を起すことが問題なのです」とボリャイン監督。このテーマに取り組めたのは、マイシャベルという女性に魅了されたこと、自分がバスク出身者でなかったこともあるとコメントしている。
(イシアル・ボリャイン、9月18日)
(ゴヤ賞2022ノミネート確実のブランカ・ポルティリョとルイス・トサール)
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