「エクアドルのスピールバーグ」*世界に飛び出したマイノリティ2016年03月12日 15:45

                  「プルワのスピールバーグ」ウィリアム・レオン

 

★三大映画祭(ベルリン、カンヌ、ベネチア)やサンセバスチャン映画祭などを検索しても、なかなか引っかかってこない南米エクアドル映画のご紹介。当ブログでは若いフアン・カルロス・ドノソのデビュー作Saudade2013)を記事にしただけという寂しさです。その秋に立教大学ラテンアメリカ研究所主催の「エクアドル映画週間」が池袋キャンパスで開催され、タニア・エルミダの“En el nombre de la hija”(2011『娘の御名の下に』)やセバスチャン・コルデロの第5作“Pescador”(2011『釣師、ペスカドール』)などが上映された。日程の後半がラテンビートと重なるなどの不運もあり、新宿バルト9と池袋キャンパスを往復した方もおられたのではないでしょうか(12月にセルバンテス文化センターで、うち3作品が再上映されました)。

フアン・カルロス・ドノソのSaudade”の記事は、コチラ⇒2014年04月03

 

★劇場公開された映画は、もしかしてセバスチャン・コルデロのサスペンス『タブロイド』2004、公開2006、メキシコ合作)1作だけでしょうか。十年一昔、大分前のことになります。本作の成功はサンダンスやカンヌ映画祭(「ある視点」部門)に出品されたことが大きかったと思います。東京国際映画祭で上映された“Ravia”(2009『激情』)はスペインとコロンビアの合作、正確にはエクアドル映画ではありませんが、コルデロ監督はエクアドル出身です。コルデロは『釣師』のあと撮った“Europa Report”(2013)も好評でしたが、当ブログ開設前でしたので記事にできませんでした。

★今年半ばに長編第6Sin muertos no hay carnavalが公開される予定です。こちらはエクアドルのアンドレス・クレスポ(『釣師』の主役)を再び起用、メキシコのエランド・ゴンサレス、ディエゴ・カタニョなどの演技派を主軸に展開する「ロミオとジュリエット」エクアドル版、メキシコ、ドイツ合作のエクアドル映画です。既に昨年撮影も終了して、多分カンヌを目指しているのではないでしょうか。カンヌFF 2016の応募も34日に締め切られ、4月半ばに順次正式ノミネーションが発表になります。それを待ってエクアドルの他の監督も交えてエクアドル特集を組もうと考えています。

 

           

              (“Sin muertos no hay carnaval”)

 

 「エクアドルのスピールバーグ」と呼ばれるのは嬉しくない?

 

★エクアドルは南米のなかでもウルグアイと同様に小国、おのずから市場も狭いので海外に打って出るしかありません。遅ればせながら35ミリからデジタルへの移行が始まって、資金の少ない若い監督にも門戸が開かれるようになりました。エクアドルはアマゾン、シエラ、太平洋岸と大きく三つの地域に分かれていますが、ウィリアム・レオンはシエラ地域チンボラソ県(県都リオバンバ)のカチャ生れの32歳という若い監督です。先住民 Puruhá プルワ(またはプルハ)出身、キチュア語とスペイン語のバイリンガル、10年ほど前からマイノリティの旗手として短編映画を製作しています。

キチュア語:kichwa (quichua) はケチュア語の流れをくむ言語、ペルー、エクアドル、コロンビアの3カ国で約250万人の話者が存在しており、公用語とともに使用されています。

 

エクアドルのスピールバーグ」とか プルワのスピールバーグ」とか決めつけられるのは、必ずしも彼自身は歓迎していないようです。「拍手で迎えられてドキドキしてしまいましたが、それは私の作品がキチュア語だからです」。物珍しいからではなく作品の質で評価されたいのでしょう。「マーケティングを学んでいたことが、映画のアイディアを理解してもらうことに役立った」と監督。2009Sinchi Samayという若い先住民たちのグループを首都キトで立ち上げ、第一歩を踏み出した。グループ名の意味はキチュア語で「強い精神力、または物や富に執着しない強さ」だそうです。村を出て初めて都会へ出てきた先住民のカルチャーショックは想像できますね。

 

        

        (民族衣装姿のポンチョをまとったウィリアム・レオン監督)

 

★最初の短編は母親から借りたビデオカメラで、先住民たちが語りたかったシーンを入れて撮った。それを編集して完成させたのがNostalgia de María、その後続けてキチュア語で2作撮った。彼の作品を多くの国民が見ていたが、それは監督の許可無しに製造された海賊版が出回ったおかげでした(!)。監督が彼らに儲けを請求したら受け取ることができ、「有名にしてくれてありがとう」と監督。La Navidad de Pollitoがもっとも人気のあった作品だが興行成績はよろしくなかった。つまり映画館で見た人が少なかったというわけです。父親はアルコール中毒症に苦しんでおり、祖母の世話をしなければならない少年の物語。彼の唯一の願いはクリスマスにサッカー・ボールが届くことだ。この映画は米国、スペイン、イタリアなどに出稼ぎに行っているエクアドル移民のサークルで歓迎されたという。

   

2004Nostalgia de María 短編デビュー作

2004Antun aya”(“Cuentos de Terror”)3分割になるがYouTube で鑑賞できる。

2004La Navidad de Pollito”長編デビュー作

2011Llakilla Kushicuy o Triste Felicidad

2013Pillallaw”(35分)

 

★妻や子供を失った寡夫の物語Llakilla Kushicuy o Triste Felicidadや、短編Pillallawは、聖なる山 Chuyug に稲妻が落ちて子供を食べてしまう話だが、これはモンスターが目をさましてしまうという先住民の雷神伝説をテーマにした作品。エクアドルの Input 映画祭受賞作品、国境を越えてドイツやフィンランドの映画祭に招待され受賞している。「フィンランドでは私が先住民であるかどうかに重きをおかず、重要視されたのは作品そのものだった」とレオン監督、これは彼に自信を与えたし、物差しの違いを認識させたと思います。

 

 

       

                (Pillallaw”から

 

★映画製作で大切なのはカメラ機材やテクニックではないが、資金面と技術面の制限が常に立ちはだかると語る監督。先住民のアンチ・ヒーロー「キタクイ」(Kitacuy)を登場させたテレビ・コメディを手掛けることでその解消を図っている。現在はキトに本拠を置き、長編映画を準備中。先住民抵抗運動のリーダー〈フェルナンド・ダキレマ〉の闘いと人生を語るFernado Daquilema19世紀末に十分の一税や大農場主の搾取に抵抗した実在の人物とのこと。8月にクランクインだそうです。

  

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