視聴率を更新して終了いたしました*ゴヤ賞2016 ― 2016年02月12日 17:03
視聴率25.8%は2011年以来の高視聴率

(香水専門店PARFUMSと高級靴磨きメーカーSAPHIRの広告がある赤絨毯、2月6日開場前)
A: 2010年の26.4%以来低迷していた視聴率を昨年やっと24.7%に回復させ、今回はそれを上回りました。上出来だったと新会長アントニオ・レシネスと司会者ダニ・ロビラを褒めたいところですが、そう簡単な話ではないらしい。放映中からツイッターが大賑わい、ロビラに対する批判、非難の石礫、失望落胆したはいいとして、中には侮辱的な内容もあって、翌日には「私にとって総合司会をしたことはなんの価値もないこと」と逆ツイートする始末。
B: 2010年はモンソンの『プリズン211』が受賞した年、その頃はツイッターも今ほどではなかったのでしょう。失業率は若干回復したとはいえ、長引く失業に不満のはけ口を求めていた若者が多かったのでしょうか。消費税IVA21%を非難するシネアストたちに共感するも、そのきらびやかなセレブたちへの反感も見え隠れしているようです。

(毀誉褒貶入り混じった総合司会者ダニ・ロビラ)
A: 昨年はアルモドバルが教え子バンデラスに栄誉賞を手渡すというサプライズ、空前のヒット作サンチェス=ラサロの “Ocho apellidos vascos”がノミネーションを受けるなど盛り沢山だった。スペイン人の4人に1人が見たというコメディ、主役のダニ・ロビラが新人賞、共演者のカラ・エレハルデとカルメン・マチがそれぞれ助演賞を受賞した。
B: 自分が見た映画がノミネートされていれば結果が気になりますよ。視聴率も映画次第です。
A: 今回2度めの司会を仰せつかったのも昨年の実績あればこそでしたが、“Ocho apellidos vascos”の続編カタルーニャ編は好成績だったがノミネートされなかった。
今年のハイライトはマリオ・バルガス=リョサ?
B: 今回ほど脚本賞・脚色賞にライトが当たった年はないでしょう。なにしろノーベル賞作家バルガス=リョサがプレゼンターでしたから。
A: それも新婚ホヤホヤのカップル、新夫人も話題のセレブとくれば、ゴシップ好きにはたまらない。老作家曰く「映画は始めに脚本家ありき」とか。これは過去の話、今は「製作会社ありき」ではないでしょうか。
B: 若者が脚本家チェザレ・ザバッティーニ(1902~89)に憧れて、映画の都チネチッタを目指した頃の話ですね。
A: 1950年代にその映画実験センターで学んだ若者にガルシア・マルケスやトマス・グティエレス・アレアなどがいました。マルケスは作家に転身してノーベル賞作家になり、アレアはキューバを代表する大監督になりました。
B: 最近は監督が脚本を執筆することが多くなっており、セスク・ゲイも両手に花でした。台本ホンがよくないと話しにならないのは今も昔も変わりません。
A: スペインでは2008年に亡くなったラファエル・アスコナあたりが、監督に手を出さなかった最後の人でしょうか。ゴヤ賞脚本家賞のレプリカのコレクターでもありました。脚本のセスク・ゲイ、脚色のフェルナンド・レオン・デ・アラノアがノーベル賞作家からゴヤ胸像を手渡されました。

(セスク・ゲイとマリオ・バルガス=リョサ)

(フェルナンド・レオン・デ・アラノアとマリオ・バルガス=リョサ)
一番の名演技は犬のトルーマンTruman?
B: “Truman”以外は沈黙してしまった今年のゴヤ賞、最多ノミネーション12個の“La novia”関係者の落胆は理解できますね。インマ・クエスタが主演を取るかと思っていましたが。
A: 最近ではフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』が13個ノミネーションでゼロという例がありました。ルイサ・ガバサ助演女優賞、ミゲル・アンヘル・アモエド撮影賞と受賞できてゼロではなかった。特に女優陣の演技が光っていたというのが総評のようでした。
B: ロルカの『血の婚礼』は、劇場で見た印象が強いから却ってマイナスに作用したのかもしれない。

(助演女優賞のルイサ・ガバサ)
A: “Truman”の主役は間もなく死を迎えるという瀕死の人、これはかなり厳しく辛い物語です。しかしシニカルだが信じられないほど知的で、痛々しいけれど気品があり、人生に「アディオス」することが決定的な男を演じたリカルド・ダリンの手に主演男優賞が手渡された。ダリンのような魅力的な役者がそんなにいるとは思えません。
B: 文句なしの助演男優賞だったハビエル・カマラ、常に融通無碍、薄くてつやがあるキャラコ布地のような役者、求められる色模様に染まることができる。そういう俳優はたくさんいるけれど、彼は別格だと思います。
A: この役は彼をおいて他に誰も演じられないと思わせてしまう。それに口はきけないけれど、そこにいるだけで観客を魅了したのが犬のトルーマンでした。撮影後に亡くなりダリンに1週間も涙を流させた。これは是非どこかて公開して欲しい。

(主演男優賞リカルド・ダリン)

(助演男優賞ハビエル・カマラ)
出席者の涙腺をゆるませた新人監督賞ダニエル・グスマン
B: 祖母アントニアをエスコートして赤絨毯に現れたダニエル・グスマン監督、下馬評通りレプリカを手にしました。アントニアお祖母さんは残念でしたが。
A: 4月開催のマラガ映画祭は、ゴヤ賞まで時間があいて不利なことが多い。時間のスピードが早くて記憶していられない。下町独特の会話が評価されていましたが、その誠実な映画作りが好感されたのだと思います。

(新人監督賞ダニエル・グスマン)
B: テーマ的に今回脚色賞を受賞したフェルナンド・レオン・デ・アラノアが撮った“Barrio”(1998)を思い起こした人が多かったようです。
A: 彼は本作で新人監督賞と脚本賞を受賞した。他にアチェロ・マニャスの“El Bola”(2000)も忘れられない。作品賞・脚本賞・新人監督賞を受賞、こちらはフォルケ賞も受賞した作品でした。当時12歳だったフアン・ホセ・バジェスタの名子役ぶりが目に焼きついています。
B: 子供ながら新人男優賞を受賞したのでした。『キャロルの初恋』、『7人のバージン』(サンセバスチャン映画祭2005銀貝男優賞)、最近テレビ主演が多いのか、映画賞からは遠ざかっています。
A: そろそろ幕を下ろしましょうか。アルモドバルの新作“Julieta”が、若干後ろへずれ込みましたが、4月8日に封切られます。前の“Silencio”を改題したのは、スコセッシの「沈黙」との混同を避けるため、邦題はどうなるのでしょうか。
B: 昨年夏公開が大幅に遅れたカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』がやっと公開されます*。
A: 「もんどり打つ面白さ!」とチラシにありますが、はてさて、そんな映画だったかしらん。とにかく待ちくたびれました。
*アルモドバルの新作“Julieta”の主な記事は、コチラ⇒2015年4月5日、同11月21日
*ベルムトの『マジカル・ガール』の記事は、コチラ⇒2014年9月16日、2015年1月21日
*3月12日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMの2館
最近のコメント