第17回マラガ映画祭2014*カルロス・マルケス=マルセ ― 2014年04月11日 13:09
★受賞結果は既にUP済みですが、9月のサンセバスチャン映画祭「メイド・イン・スペイン」やラテンビート上映が期待される作品、気が早いですが2015年のゴヤ賞に絡みそうな作品、個人的に見たいものを拾ってみました。(写真:映画祭でのプレゼンテーション)

★まずは作品賞受賞の10.000 KM から監督、主演女優、プロット、トレビアを交えてご紹介。
(作品賞以外はすべて銀賞)
*カルロス・マルケス=マルセが最優秀作品賞(金賞)、最優秀監督賞、最優秀新人脚本賞(共同執筆者クララ・ロケ)、ナタリア・テナが最優秀女優賞、他にFNACから批評家特別賞を貰った。

(写真:ダビとナタリア)
ストーリーは分かりやすい。アレックスとセルジの二人はバルセロナで恋に落ち一緒に暮らしていたが、今は別々のアパートで一人暮らしだ。写真家のアレックスはロスアンゼルス、セルジはバルセロナ。アレックスがロスの奨学資金を貰って1年間の予定でアメリカに発ってしまったからだ。会話はすべてインターネット越し、果たして10,000キロ離れた愛は上手くいくのでしょうか。
★カルロス・マルケス=マルセはバルセロナ生れの30歳、監督、脚本家、製作他。本作が長編第1作だが、かなりの短編を立て続けに発表している。IMDb では2010年のI’ll
Be Alone(2010)から掲載されておりますが、それ以前から撮っている早熟なシネアストです。アッバス・キアロスタミとビクトル・エリセがコラボで指導しているバルセロナの映画学校に参加、ちょっとハードルの高い学校です。ここの優等生が『シルビアのいる街で』のホセ・ルイス・ゲリン、渋谷のイメージフォーラムで特集が組まれたとき来日しました。

*スペイン最大手の貯蓄銀行ラ・カイシャLa Caixa 財団の奨学資金を得て、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAの映画&テレビ学部、監督学科のマスター・コースに留学、この時の体験が長編デビュー作に織り込まれているそうですが、あくまでフィクションです。ここで製作した前述のI’ll
Be Alone がロスのラテンアメリカ映画祭、その他で上映されました。他にCaraquemada(2010、ベネチア)、I
Felt Like Love(2013、サンダンス)、2012年のThe
Yellow Ribbon は各地の映画祭で受賞しています。
*受賞作の製作にも名を連ねている La Panda のメンバー(動物のパンダではなくグループの意味)。ロスに在住しているスペイン人11名(監督、製作者、脚本家、撮影監督、編集者など)が参加している。このグループとの出会いが刺激となって10.000
KM は誕生したそうです。かつて第2外国語はフランス語かイタリア語だったが、EU加盟後は英語が主流、若い世代はアメリカやイギリスを目指すようになりました。しかし、長編デビュー作は「絶対スペイン語で撮りたかった」と語っております。短編はスペイン語以外に英語、カタルーニャ語で撮っている。
*監督によると、自身がロスとバルセロナとの二重生活をしたときに覚えた気持ちが織り込まれているという。世界が狭くなり単身赴任、留学などで離れて暮らすカップルや家族は珍しくない。毎年3月テキサス州の州都オースティンで開催される音楽祭、映画祭、インタテクティブ・フェスティバル「サウス・バイ・サウスウエストSXSW」のイベントは日本でも知られておりますが、この映画祭(1994年開始)に本作が出品され、なんと男優賞(ダビ・ベルダゲル)と女優賞のダブル受賞がもたらされました。「オースティンでは感受性の強い観客が共感して大いに笑ってくれた。マラガでは祖母世代が目を潤ませていた」と監督。スペイン独特の冗談もアメリカ人に通じた。アメリカ人はスペイン人とは違う視点で見ている。泣いたり笑ったりで盛り上がり、観客の支持を受けたようです。撮影はロスとバルセロナの両方で行う予定だったが、結局バルセロナだけになった。離れ離れのはずが現実の撮影は同じ場所で同時に行われたから、二人にとって不思議な感覚だったようです。
★女優賞をTodos
están muertos(ベアトリス・サンチス)のエレナ・アナヤと分け合ったナタリア・テナは、1984年ロンドン生れのイギリス人、イギリス育ちの女優、歌手だが、両親がスペイン系でスペイン語が堪能。クリス&ポール(兄)・ワイツ兄弟の『アバウト・ア・ボーイ』(2002)で映画デビュー、もう「ハリーポッター」のニンファドーラ・トンクス役で日本でもお馴染みですね。またジョージ・R・R・マーティンのファンタジー小説『氷と炎の歌』をテレビドラマ化したシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』にオシャOcha役で出演。これは良くできたテレドラで、日本でもファンは多い。

★セルジ役のダビ・ベルダゲルは最初から決まっていたがアレックスが決まらない。プロデューサーがこのテレドラの記事をエル・パイスで知り、見たところエネルギッシュなナタリア・テナがアレックスにぴったり。すぐさまダビとロンドンに飛んでナタリアに出演交渉、OKしてくれたのが成功に結び付いたと監督。まさに「彼女は天からの贈り物」だった。日本の観客にも受け入れられるでしょうか。
第17回マラガ映画祭2014*審査員特別賞、他 ― 2014年04月11日 19:18
★最優秀作品賞の次に大きい賞が審査員特別賞、こちらもベアトリス・サンチスのデビュー作Todos están muertos が受賞しました。他に最優秀女優賞にエレナ・アナヤ、オリジナル・サウンドトラック賞にAkrobats が受賞。またマラガ大学が選ぶ青年審査員特別賞も受賞しています。3月30日スペイン公開。
*ストーリー、若いころポップ・ロック歌手として輝かしい成功をおさめていたルぺの15年後が語られる。彼女の人生に過去のある幻影が忍び寄ってくる。一方、ちょうど思春期を迎えたテーンエイジャーの息子パンチョとの関係がぎくしゃくしてイライラが募ってくる。
(写真:エレナ・アナヤ、映画から)

*ベアトリス・サンチスは監督、脚本家、アート・ディレクター。エレナ・アナヤとの5年間(2008~13)のパートナー関係を昨年の夏解消した。本作がデビュー作、2010年の短編 Mi otra mitad がワルシャワ映画祭にノミネートされている。Todos están muertos はドイツ、メキシコ、スペイン合作、3月27日に上映された。他にパブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』のマカレナ・ガルシアが出演している。
(写真:授賞式でのベアトリスとエレナのツーショット)

*エレナ・アナヤの紹介はもういいかな、アルモドバル『私が、生きる肌』(2011)やフリオ・メデム『ローマ、愛の部屋』(2010)などで認知度バツグンだから。2012年のマラガ賞受賞者でもある(写真は自分の記念碑の前で)。

★最優秀男優賞受賞のフアン・ディエゴのゴヤ賞受賞が早くも取りざたされているのが、チェマ・ロドリゲスの Anochece en la India です。これも長編映画としてはデビュー作です。他にホセ・マヌエル・ガルシア・モヤノが最優秀編集賞を受賞している。4月11日スペイン公開。

*ストーリー、下半身不随の老ヒッピーの車椅子冒険ロード・ムービー。リカルド(フアン・ディエゴ)は人生の最期をインドで迎えようと、ルーマニア女性ダナ(クララ・ボダ)を介助者にして車椅子での旅を決心する。ヨーロッパを横断、トルコ、パキスタンとインドに向かうが本当に辿りつけるのでしょうか。
(写真:映画のワンシーンから、右が実際もルーマニア人のクララ・ボダ)

★チェマ・ロドリゲスは、1967年セビリャ生れ、作家、監督、脚本家。テレビのドキュメンタリー映画ではベテラン。2006年の Estrellas de la Linea が、ベルリン映画祭パノラマ部門で観客賞を受賞している。また2006年のマラガ映画祭で審査員特別メンション、サンセバスチャン映画祭でセバスチャン賞、カルロヴィ・ヴァリ、モントリオール、エジンバラ、シカゴ等々に正式出品は多数。その他
Coyote (2009)、El abrazo
de los peces (2011)が代表作。
(写真:左からディエゴ、監督、共演のハビエル・ペレイラ。記者会見にて)

*フアン・ディエゴ(1942年セビリャ生れ)が下半身不随の老ヒッピーのリカルドを演じます。車椅子で出発、ヨーロッパを横断してインドに到達しようと旅に出る。勿論死出の旅ですよ。わざわざ何でインドまで行って死にたいのか。ずっと車椅子の撮影だから、ディエゴは断るだろうと思ったと監督。ディエゴ自身も「自分とかけ離れたもの、下半身不随とかヒッピーとかね、そういう役は好きじゃない」と。まず撮影前の5カ月間、車椅子で暮らしてみることにした。散歩も車椅子、知り合いやファンが「どうしたんだい?」と(笑)。座りづめで体は浮腫むし、車椅子から転落しそうになるしで恐怖だったそうです。しかしそうこうしているうちに何故リカルドがインドにまで旅して死にたいかが理解できるようになったと。萎えた足で椅子に縛り付けられた人生がどんなものか、飽き飽きしてたんだよ。
*「死を望むのは、人生をこよなく愛しているから」なんですね。愛と失われた時間の取り戻しがテーマでしょうか。館内が一番沸いた映画だったそうで、早く見たい1本です。最近ディエゴが出演したマリオ・カムスの『無垢なる聖者』(1984)をUPしましたが、もう演技は言うことなし。いずれ日本上陸、きちんとご紹介できる機会が必ず訪れると思います。
★今年は観客賞もエンリケ・ガルシアのデビュー作 321 dias en Michigan が選ばれた。助演男優賞にもサルバ・レイナとエクトル・メディナが同時受賞、新人監督が際立った年だった。
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