現地入りしたシネアストのフォト集②*サンセバスチャン映画祭2023 ㉑ ― 2023年10月01日 16:02
映画祭に馳せつけたラテンアメリカや欧米の監督たち
★9月25日、セクション・オフィシアルにノミネートされたアルゼンチンのマリア・アルチェとベンハミン・ナイシュタット(「Puan」)、オリソンテス・ラティノス部門では、「Noche de fuego」で2021年のオリソンテス賞を受賞したメキシコのタチアナ・ウエソ(ドキュメンタリー「El Eco」)、アルゼンチンのマルティン・ベンチモル(ドキュメンタリー「El castillo」)、ブラジルのグト・パレンテ(「Estranho caminho / Extrño camino」)、ペルラク部門では、メキシコのミシェル・フランコ(「Memory」)、主演者のジェシカ・チャステイン、前作『83歳のやさしいスパイ』がアカデミー賞2021ドキュメンタリー賞にノミネートされた、チリのマイテ・アルベルディ(「La memoria infinita」)などがフォトコールされました。

(マリア・アルチェ、ベンハミン・ナイシュタット、プレス会見)

(主役のレオナルド・スバラリア)

(タチアナ・ウエソ監督、プレス会見)

(マルティン・ベンチモル監督、出演者のアレクア・カミノス・オリボ、
フスティナ・オリボ)

(中央がマルティン・ベンチモル監督)

(グト・パレンテ監督、マリア・クリスティナ・ホテルにて)

(左から、ティシアナ・アウグスト・リマ、グト・パレンテ、タイス・アウグスト)

(ファン・サービスを怠らない主役を演じたジェシカ・チャステイン)

(マイテ・アルベルディ監督とロシオ・ハドゥエ・サリJadue Zarhi)

★知名度のある監督が多いペルラク部門は、カンヌ映画祭で絶賛された米国のトッド・ヘインズ(「May December / Secretos de un escándalo」)、ベテラン製作者のクリスティン・ヴァションとパメラ・コフラー、デンマークから大挙して現地入りしたニコライ・アルセル(「Bastarden / The Promised Land」)、主役のマッツ・ミケルセンが夫人のハンネ・ヤコブセンと登場、メイド・イン・スペイン部門では、エレナ・トラぺ(「Els encantats / Los encantados」)の一行、ミゲル・アンヘル・ビベス(「Asedio」)、主演のナタリア・デ・モリーナ、マラガ映画祭審査員特別賞を受賞したヘラルド・エレーロ(「Bajo terapia」)、出演のエバ・ウガルテ、フェレ・マルティネス、アントニオ・パグドなどが出席しました。

(舞台挨拶のトッド・ヘインズ監督)

(左から、クリスティン・ヴァション、監督、パメラ・コフラー)

(マッツ・ミケルセンとハンネ・ヤコブセン)

(エレナ・トラぺ監督)

(エレナ・トラぺの「Els encantats」のスタッフ)

(ミゲル・アンヘル・ビベス監督)

(主役のナタリア・デ・モリーナ)

(ヘラルド・エレーロの「Bajo terapia」の一行)

(エバ・ウガルテ)

(フェレ・マルティネス)
★もたもたアップで全くニュースになっておりませんが、せっかく入手できたのでフォト集をお届けしました。ハイオネ・カンボルダの「O Corno」を金貝賞に選んで映画祭は終了しました。本作はガリシア語で撮られた最初の受賞作となりました。アルゼンチンのマリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタットの「Puan」が脚本賞を受賞、オリソンテス賞はマルティン・ベンチモルが受賞しました。後日授賞式をまとめてアップします。
金貝賞の発表*サンセバスチャン映画祭2023 ㉒ ― 2023年10月02日 18:11
ハイオネ・カンボルダのガリシア語映画「O Corno」が金貝賞

(ハイオネ・カンボルダ監督)
★9月30日、第71回サンセバスチャン映画祭の結果発表がありました。取り合えずフォト集を中断して受賞結果をまとめました。総合司会者は予告通り、開幕式も担当したエバ・アチェとロレト・マウレオンの2人が進行させました。作品賞にあたる金貝賞にはハイオネ・カンボルダの「O Corno / The Rye Horn」が受賞しました。作品賞は製作者に与えられる賞、製作者の一人でもある監督と、プロデューサーのマリア・サモラ、アンドレア・バスケスが登壇しました。主役のマリアを演じたジャネット・ノバスは、最後の受賞者全員集合の際、待ちきれなくて壇上に駆け上がって仲間入りしました。

(総合司会者、エバ・アチェとロレト・マウレオン)
★近浦啓監督の「大いなる不在(Great Absence)」出演の藤竜也が日本人初となる主演俳優賞を受賞、もしかしたら82歳の主演俳優賞というのも初めてではないでしょうか。今回の受賞者は2人、もう一人はアルゼンチンのマリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタットの「Puan」に主演したマルセロ・スビオット、残念ながら欠席でアルチェ監督が代理で受けとり、受賞スピーチのメモを代読しました。二人の監督は脚本審査員賞を受賞しました。助演俳優賞はイサベル・コイシェの「Un amor」出演のホビック・ケウチケリアンの手に渡りました。主演助演とも男性、女性は受賞できませんでした。
★監督賞は、台湾の二人の女性監督ペン・ツーフィ&ピンウェン・ワンの「Chun Xing / A Journey in Spring」が受賞しました。撮影審査員賞はデンマーク映画「Kalak」のナディム・カールセンが受賞しましたが、欠席のためイサベラ・エクロフ監督が受けとりました。大賞は以上です。
★以下に受賞結果を列挙しておきます。(*印は作品紹介をしている)

(セクション・オフィシアルの審査員たち)
セクション・オフィシアル
◎作品賞(金貝賞)
「O Corno / The Rey Horn」 監督:ハイオネ・カンボルダ
(製作国スペイン、ガリシア語・ポルトガル語) *
*プレゼンターは審査委員長クレール・ドニ

(左から、製作者マリア・サモラ、カンボルダ監督、製作者アンドレア・バスケス)

(プレゼンターのクレール・ドニ監督と受賞者3人)

(監督と主役のジャネット・ノバス)
◎審査員特別賞
「Kalak」 製作者マリア・モラー・ケルドガード、監督イザベラ・エクロフ
(製作国デンマーク=ノルウェー=スウェーデン=フィンランド=グリーンランド=
オランダ)マリア・モラーはスウェーデンのプロデューサー。
*プレゼンターは、審査員クリスティナ・ガジェゴ


(製作者マリア・モラー)
◎監督賞(銀貝賞)
ピンウェン・ワン、ツーフィ・ペン 「Chun Xing / A Journey in Spring」
(製作国台湾)
*プレゼンターは、審査員クリスティアン・ペツォールト


(ツーフィ・ペンとピンウェン・ワン)
◎主演俳優賞(銀貝賞)2人
藤竜也 出演映画「大いなる不在(Great Absence)」(監督近浦啓、製作国日本)
*プレゼンターは、審査員のファン・ビンビン

(20回以上「ありがとう」を繰り返して会場から暖かい拍手をえた受賞者)

(受賞者と近浦啓監督)
マルセロ・スビオット 出演映画「Puan」
(監督マリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタット)

(受賞者欠席でアルチェ監督が代理で受けとった)

(マルセロ・スビオット)
◎助演俳優賞(銀貝賞)
ホヴィク・ケウチケリアン 出演映画「Un amor」(監督イサベル・コイシェ、
製作国スペイン)
*プレゼンターは、審査員のヴィッキー・ルエンゴ


(コイシェ監督を絶賛した、ジーンズ姿の受賞者)
◎撮影審査員賞(銀貝賞)
ナディム・カールセン 「Kalak」(監督イザベラ・エクロフ、製作国デンマーク他)
*プレゼンターは、審査員のブリジット・ラコンブ

(受賞者欠席で、スピーチを代読するイザベラ・エクロフ監督)

(ナディム・カールセン)

(2冠に輝いた「Kalak」の製作者マリア・モラーとイザベラ・エクロフ監督)
◎脚本審査員賞
マリア・アルチェ&ベンハミン・ナイシュタット 「Puan」(製作国アルゼンチン他)
*プレゼンターは、ロバート・ラントス


(受賞者、マリア・アルチェとベンハミン・ナイシュタット)
★次回はオリソンテス賞、バスク映画イリサル賞、ドノスティア市観客賞、などアップします。
オリソンテス賞にドキュメンタリー「El castillo」*サンセバスチャン映画祭2023 ㉓ ― 2023年10月05日 10:08
バヨナ監督の「La sociedad de la nieve」が観客賞

(J.A.バヨナ監督の「La sociedad de la nieve」から)
★数ある賞のうち受賞者が壇上に呼ばれる代表的なものに、クチャバンク賞(ニューディレクターズ部門)、オリソンテス賞(オリソンテス・ラティノス部門)、イリサル賞(バスク映画部門)などがあります。既に授賞式が終わっている部門は、ガラの冒頭にまとめて紹介される。賞の数は回を追うごとに増えるから、限られた時間内におさめるのは難しい。授賞式後に上映されるクロージング作品が押している事情もある。今年のクロージングは、ジェームズ・マーシュの「Dance First」(英=ハンガリー=ベルギー合作、アウト・オブ・コンペティション)がワールド・プレミアされた。アイルランドの劇作家サミュエル・ベケットのピオピックというわけで、午前中から一行はカメラの放列に晒されていた。監督以下ガブリエル・バーン(ベケット)、サンドリーヌ・ボネール(ベケットの妻)、エイダン・ギレン(ジェームズ・ジョイス)など大勢が金貝賞発表後に登壇した。

(中央が監督、閉幕作品「Dance First」の舞台挨拶)
★ヨーロッパ映画観客賞を受賞した「Io cpitano / Yo, Capitano」のマッテオ・ガローネは、レッドカーペットには現れましたがガラには欠席のようで、二人の主演者セイドウ・サールとムタファ・フォールが登壇しました。先だってのベネチア映画祭で銀獅子監督賞を受賞したばかりです。生き残りをかけてセネガルのダカールを捨て、ヨーロッパへ向けて砂漠を越え海をわたる二人の若者の物語。スピーチはセネガルの公用語の一つウォロフ語なのか分かりませんが通訳がついていた。10点満点で第2位の9,13点でした。
★ドノスティア市観客賞を受賞したJ. A. バヨナの「La sociedad de la nieve」は、10点満点で9.23点というレコードを叩き出し、文句なしの受賞でした。クリナリー映画賞のトラン・アン・ユンは、日本ではファンが多く、『夏至』や『青いパパイヤの香り』『エタニティ永遠の花たち』などが公開されている。
★Fipresci 賞を受賞したギリシャのクリストス・ニクのサイエンス・フィクション「Fingernails」が、『フィンガーネイルズ』の邦題で11月3日からApple TV+での配信が決まっています。製作国は米国とイギリス、言語はギリシャ語でなく英語です。前作「Mila」が『アップル』として東京国際映画祭2020で上映され、2022年には『林檎とポラロイド』として公開されている、気になる監督です。
★クチャバンク賞(新人監督賞)受賞のディワ・シャーDiwa Shah のデビュー作。インド史上初の受賞ということです。ヒマラヤ山脈の麓の出身という監督は、「この栄誉を謙虚に受けとり、この映画を受け入れてくれた素晴らしい観客に感謝する」とスピーチした。インドでの新型コロナ感染のパンデミックの封鎖を背景に、ネパールの移民労働者の闘いを魅力的に描いたことが受賞に繋がった。プレゼンターの審査委員長エミリー・モーガンは、「社会政治的なビジョンをもち、感動的な友情を軸にして、普遍的でエキサイティングにテーマを掘り下げた」と絶賛した。
★以下にセクション・オフィシアル以外の受賞者をアップします。(*印は紹介作品)
◎クチャバンク賞(ニューディレクターズ部門、新人監督賞)
「Bahadur The Brave」製作国インド、ヒンズー語・ネパール語、50,000ユーロの副賞
監督ディワ・シャーDiwa Shah のデビュー作

(中央が監督)

(仮訳「勇気あるバハドゥール」のポスター)
◎オリソンテス賞(オリソンテス・ラティノス部門)
「El castillo」ドキュメンタリー、副賞35,000ユーロ アルゼンチン=仏=西 *
監督マルティン・ベンチモル

(マルティン・ベンチモル、ジェマ・フアレス)

(今回のガラで一番長いスピーチをしたベンチモルとフアレス)
◎サバルテギ-タバカレア賞
「El auge del humano 3 / The Human Surge 3」
アルゼンチン=ポルトガル=オランダ=ブラジル=ペルー=香港=スリランカ
監督エドゥアルド・ウィリアムズ
制作会社「Un Puma」のビクトリア・マロッタ、ジェロニモ・ケベド


(製作者のビクトリア・マロッタとジェロニモ・ケベド)

(監督のエドゥアルド・ウィリアムズ)
◎ドノスティア(サンセバスティアン)市観客賞
「La sociedad de la nieve」(ペルラク部門)スペイン
監督フアン・アントニオ・バヨナ

(フアン・アントニオ・バヨナ監督、製作者テレサ・モネオ)

◎ヨーロッパ映画観客賞
「Io cpitano / Yo, Capitano」(ペルラク部門)イタリア
監督マッテオ・ガローネ(ガラは欠席)

(登壇したセイドウ・サールとムタファ・フォール)

(マッテオ・ガローネ監督とセイドウ・サールとムタファ・フォール、26日)

(授賞式前のフォトコール)
◎イリサル賞(バスク映画部門)
「El sueño de la sultana」アニメーション、スペイン=ドイツ *
監督イサベル・エルゲラ

(イサベル・エルゲラ監督)

(左からプレゼンターのクリスティナ・ソリタ、テルモ・イルレタ、ミケレ・ランダ)
◎クリナリー映画賞(映画とガストロノミー部門)
「La pasion de Dodin Bouffant / The Pot au Feu(A fuego lento)」 フランス
監督トラン・アン・ユン(ベトナム出身のフランスの監督)


(プレゼンターのホセ・マリ・ゴエナガ、トラン・アン・ユン)
◎ Eusko Label 賞( Eusko Label 部門)
「Latxa」 監督ミケル・ウレタビスカイアUrretabizkaia


◎ RTVE「ある視点」賞
「The Royal Hotel」(セクション・オフィシアル)オーストラリア=イギリス
監督キティ・グリーン



◎スペイン・ラテンアメリカ協同賞
「La estrella azul / The Blue Star」(ニューディレクターズ部門)
副賞10,000ユーロ スペイン=アルゼンチン *
監督ハビエル・マシぺ


(協同賞を受賞したハビエル・マシぺ)

(ユースTCM 審査員賞を受賞した監督)
◎ Fipresci 賞
「Fingernails(Esto va a doler)」(セクション・オフィシアル)米国=イギリス
監督クリストス・ニク

(クリストス・ニク、フォトコール9月23日)

(フレームから)
ドゥニア・アヤソ賞にエレナ・マルティン*サンセバスチャン映画祭2023 ㉔ ― 2023年10月07日 16:54
エレナ・マルティンの「Creatura」にドゥニア・アヤソ賞

(在りし日のドゥニア・アヤソ監督)
★ビクトル・エリセのドノスティア栄誉賞の授賞式が一番大きなイベントだが、その前に数ある賞の残りを纏めておきたい。日本の作品が受賞したことで初めて知った賞が、グリーンピース賞とギプスコア学芸協会賞の二つ、前者は浜口竜介の『悪は存在しない』が受賞、後者は近浦啓の『大いなる不在』との発表があった。藤竜也の主演俳優賞受賞スピーチ、夫婦長続きのコツは「ありがとう、ごめんねで充分」に、観客席から大きな拍手が送られていたが、およそ半世紀前に撮られた大島渚の『愛のコリーダ』を見ていた観客がいたでしょうか。とにかく本賞も嬉しい受賞でした。
★ドゥニア・アヤソ賞は、カナリア諸島出身のドウニア・アヤソ(1961~2014)監督へのオマージュとして、2018年に設けられた賞。同郷のフェリックス・サブロソ監督と結婚以来、二人三脚で問題作を製作中、52歳の若さで肝臓癌に倒れた。その業績を讃える賞で女性監督が受賞対象者、今となっては男性差別になりかねない。今回はエレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」が受賞した。監督自身が主役を演じている。カンヌ映画祭と併催の「監督週間」に出品され、ラベル・ヨーロッパ・シネマズを受賞している。スペシャルメンションにクラウディア・ピント・エンペラドールのドキュメンタリー「Mientras seas tú」が受賞した。アルツハイマー型認知症の診断を受けているカルメ・エリアスも現地入りして監督とフォトコールに応じていた。
★フェロス・シネマルディア賞には、イサベル・コイシェの「Un amor」が選ばれ、セバスティアン賞には、マラガ映画祭の金のビスナガを受賞したエスティバリス・ウレソラの「20,000 especies de abejas」が受賞した。アカデミー賞スペイン代表作品の最終候補3作に残っていましたが、J.A.バヨナ監督の『雪山の絆』に敗れました。
★ネスト賞(ザ・メディアプロ・スタジオ)は30分以内の短編部門です。インドのNehal Vyas 監督の「Amma ki katha」(21分、ヒンズー語・ウルドゥー語)、現在はロサンゼルスを拠点に活動しているようです。スペシャルメンションにはベルギーのマリー・ファリス の「Entre les autres」(23分、フランス語)と女性監督が受賞、共にインタビューは英語でした。(*印は作品紹介)
◎ドゥニア・アヤソ賞 副賞5,000ユーロ
「Creatura」(カタルーニャ語、メイド・イン・スペイン部門)
監督エレナ・マルティン・ヒメノ *

(中央が監督のエレナ・マルティン・ヒメノ、9月29日)

(エレナ・マルティン・ヒメノ監督)
*スペシャルメンション
「Mientras seas tú」(メイド・イン・スペイン部門)
監督クラウディア・ピント・エンペラドール *


(監督とカルメ・エリアス、9月25日)
◎ネスト賞(ザ・メディアプロ・スタジオ)
「Amma ki Katha」製作国インド
監督Nehal Vyas(インド)

(受賞スピーチをする Nehal Vyas 監督、9月29日)

*スペシャルメンション
「Entre les autres」製作国ベルギー
監督マリー・ファリス(ベルギー)

(受賞スピーチをするマリー・ファリス監督、9月29日)

◎フェロス・シネマルディア賞
「Un amor」(セクション・オフィシアル)
監督イサベル・コイシェ *

◎セバスティアン賞
「20,000 especies de abejas」(シネミラ部門)スペイン
監督エスティバリス・ウレソラ *

(エスティバリス・ウレソラ監督、9月29日)


◎グリーンピース賞
『悪は存在しない』(ペルラク部門、日本)
監督浜口竜介

◎ギプスコア学芸協会賞
『大いなる不在』(セクション・オフィシアル、日本)
監督近浦啓

(近浦監督と藤竜也、9月29日のプレス会見)
★ほかにバスク・カントリー賞というバスク自治州の特産物を宣伝する親善大使2023にマリサ・パレデスが選ばれた。

(左側はホセ・ルイス・レボルディノスSSIFF総ディレクター、マリサ・パレデス)
ビクトル・エリセのドノスティア栄誉賞授賞式*サンセバスチャン映画祭2023 ㉕ ― 2023年10月10日 09:44
「映画の学びが終わることは決してない」

★9月29日ビクトリア・エウヘニア劇場、ビクトル・エリセ(ビスカヤ県カランサ1940)のドノスティア栄誉賞授賞式と30年ぶりの4作目「Cerrar los ojos」の上映がありました。今回本賞の受賞者は、ハビエル・バルデム(授与式は来年の予定)、宮崎駿(ビデオ出演)とエリセの3人でしたが、登壇したのはエリセ唯一人でした。プレゼンターは、ちょうど50年前に金貝賞を受賞した『ミツバチのささやき』に主演したアナ・トレント、当時6歳だった女の子も成熟した女性として登場しました。

★エリセ登場前に長編4作を含む主なフィルモグラフィー9作の紹介がありました。初期の短編は割愛され、『ミツバチのささやき』(73)、『エル・スール』(83)、『マルメロの陽光』(92)、オムニバス『ライフライン』(02)、「緋色の死」(06)、『アッバス・キアロスタミとのビデオ往復書簡』(07)、オムニバス『ポルトガル、ここに誕生する~ギマランイス歴史地図』(12)、ドキュメンタリー「石と空」(21)、「Cerrar los ojos」(23)でした。
★長いスタンディングオベーションになかなかスピーチできない受賞者は、生後数ヵ月で引っ越しして以来、17歳まで育ったドノスティア市の名前を冠した栄誉賞を受賞したことに感無量、「いま目を閉じると、決して忘れることのできない映画の数々を客席に座って楽しんでいる男の子が目に浮かぶ」と、クルサールやビクトリア・エウヘニア劇場で観客の一人として映画を楽しんでいたことを語りました。映画の仲間たち、身近な両親、親友たち、そしてサンセバスチャン映画祭に感謝の言葉を述べ、アルベール・カミュ、フェデリコ・フェリーニ、フランコ時代の検閲、息子パブロにまで触れていた。「常に映画は知識を得る一つの方法と考えている。だから私にとって映画を学ぶことに終りはない」と。最後にバスク語で「ありがとう、サンセバスチャン映画祭、どんな時もサン・セバスティアン」と締めくくった。

★レッドカーペットには新作の出演者、ホセ・コロナド、アナ・トレント、マリア・レオン、ペトラ・マルティネス、マリオ・パルド、エレナ・ミケルなどがお祝いに馳せつけ、授賞式では中央2階席で拍手を送っていた。劇中エリセの分身を演じた映画監督役のマノロ・ソロは欠席のようでした。


(レッドカーペットに勢揃いしてフォトコールに応じる出演者たち)

(特別席からエリセを見守る応援団)
★ライトが当てられたもう一人の主賓がアナ・トレントでした。映画祭主催者からのインタビューで「ミツバチと同じこの場所で、今宵ビクトル・エリセのプレゼンターに選ばれたことを大いに名誉に思い、とてもエモーショナルでした」とコメント、「ビクトルは人生と映画をあまりにも交錯させるので、円環を閉じるときには殆どマジックのような何かを感じてしまいます。女の子アナは映画を発見するのですが、現実とフィクションの違いを理解しているわけではありません」と語っていた。監督自身もトレントには他のキャストとは違う思い入れがあり、エル・ムンド紙のインタビューで「脚本を執筆中に彼女なしでは映画は作れない、失踪する俳優の娘役に起用しようと思った」と語っている。トレントとホセ・コロナドが父娘を演じるようです。「ミツバチ」も父と娘の関係が重要なテーマの一つで、小さなアナが「ある人間が他の人間を死に至らしめることができることを発見する」映画でもありました。

(新作撮影中の監督とアナ・トレント)

バスク映画特集として5作品上映*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月14日 16:22
金貝賞「O Corno / The Rye Horn」が『ライ麦のツノ』の邦題で上映

★今年の東京国際映画祭2023 TIFF では、ワールド・フォーカス部門にラテンビート共催作品5作、バスク映画特集に5作、コンペティション部門の1作を含めると11作品がエントリーされた。うち先だって閉幕したサンセバスチャン映画祭 SSIFF のセクション・オフィシアル(コンペティション)にノミネートされた女性監督の3作(うち1作が金貝賞)、オリソンテス・ラティノス部門やマラガ映画祭の金のビスナガ賞受賞作を含む2作、カンヌ映画祭の短編を含む3作と、長短はあるもの一応作品紹介をオリジナル・タイトルでアップ済みです。未紹介はチリのクリストファー・マレーの『魔術』(「Sorcery / Brujeria」)とベルタ・ガステルメンディ&ロサ・スフィアの『ディープ・ブレス 女性監督たち』の2作です。
◎コンペティション部門
『開拓者たち』(「Los colonos / The Settlers」)
データ:製作国チリ=アルゼンチン=イギリス=ドイツ、ほか計8ヵ国、2023年、スペイン語・英語、歴史ドラマ、97分、カンヌFF「ある視点」に正式出品、長編デビュー作。
監督フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)は、監督、脚本家、フィルム編集者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月15日



◎ワールド・フォーカス部門ラテンビート共催作品
『犯罪者たち』「Los delincuentes / The Dlinquents」
データ:製作国アルゼンチン=ブラジル=ルクセンブルク=チリ、2023年、スペイン語、コメディ、90分、カンヌ映画祭「ある視点」正式出品。本作は長編4作目になる。
監督ロドリゴ・モレノ(ブエノスアイレス1972)は、監督、脚本家、製作者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月11日


『ひとつの愛』「Un amor」
データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語、140分、サラ・メサのベストセラー小説の映画化、豪華キャストの話題作。SSIFFセクション・オフィシアルにノミネート、フェロス・シネマルディア賞を受賞、ホヴィク・ケウチケリアンが助演俳優賞(銀貝賞)を受賞した。
監督イサベル・コイシェ(バルセロナ1960)、監督、脚本家。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年10月27日


『Totem』(原題「Tótem」)
データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、ベルリンFFコンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門ノミネート、ほか受賞歴多数。
監督リラ・アビレス(メキシコシティ1982)は、監督、脚本家、製作者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年08月31日


(アビレス監督と、ベルリンFFにて)
『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』(短編「Strange Way of Life」)
データ:製作国スペイン、2023年、英語、30分、ウエスタン、カンヌ映画祭2023アウト・オブ・コンペティション、特別上映。
監督ペドロ・アルモドバル
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月04日


『魔術』(「Sorcery / Brujeria」)
データ:製作国チリ=メキシコ=ドイツ、ファンタジードラマ、100分
監督クリストファー・マレー(サンティアゴ1985)は、ラテンビートFF2016で『盲目のキリスト』が上映されており、監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介している(表記マーレイで紹介)。パブロ・ラライン兄弟の制作会社「Fabula」が手掛けている。別途作品紹介の予定。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年10月16日


◎ワールド・フォーカス部門バスク映画特集
『20,000種のハチ』(仮題「20.000 especies de abejas」)
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・バスク語・フランス語、ドラマ、129分、ベルリン映画祭プレミア(9歳のソフィア・オテロ銀熊賞)、マラガ映画祭金のビスナガ賞、SSIFF セバスティアン賞受賞など受賞歴多数。
監督:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレンのデビュー作
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年03月03日


(金のビスナガ賞を受賞したエスティバリス・ウレソラ、マラガFFにて)
『女性たちの中で』(「Las buenas compañías」)
データ:製作国スペイン=フランス、2023年、スペイン語、93分。舞台が1970年代のバスク州のサンセバスティアンで実話に基づいています。
監督シルビア・ムント(バルセロナ1957)、女優、監督、脚本家、舞台演出家。ドキュメンタリー、TVムービー、短編、マラガ映画祭監督賞他、受賞歴多数。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年03月08日


(女優の知名度が高いシルビア・ムント監督)
『ライ麦のツノ』(「O Corno / The Rye Horn」)
データ:製作国スペイン=ポルトガル=ベルギー、2023年、ガリシア語、ポルトガル語、103分。
監督ハイオネ・カンボルダ(サンセバスティアン1983)、監督、脚本家、アートディレクター、長編2作目が、SSIFF コンペティション部門にガリシア語映画として初めてノミネートされ、見事金貝賞を受賞したばかりです。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年07月17日


(金貝賞のトフィーを手にしたカンボルダ監督と製作者、SSIFF 2023 授賞式)
『スルタナの夢』(SF アニメーション「El sueño de la sultana / Sultana’s Dream」)
データ:製作国スペイン=ドイツ、85分、SSIFF コンペティション部門ノミネート、バスク映画部門イリサル賞受賞作品。
監督イサベル・エルゲラ(サンセバスティアン1961)、アニメーション作家、長編デビュー作、短編多数。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年07月17日


(イリサル賞受賞スピーチをするエルゲラ監督、SSIFF 2023 授賞式)
『ディープ・ブレス 女性映画監督たち』(ドキュメンタリー)
「Arnasa Betean / A pulmón. Mujeres Cineastas / A Deep Breath,Women Filmmakers」
データ:製作国スペイン(バスク自治州)、2023年、バスク語・スペイン語、75分
監督ベルタ・ガステルメンディ&ロサ・スフィア、海中撮影にはルベン・クレスポが手掛けている。
キャスト:エレア・ロペス、ララ・ララニャガ、アイノア・インコグニート(以上3人はダイバー)、主な映画監督に、来日したこともあるアランチャ・エチェバリア(『カルメン&ロラ』)、イサベル・エルゲラ(『スルタナの夢』)、ゴヤ賞2023の新人監督賞のアラウダ・ルイス・デ・アスア(「Cinco lobitos」)、アナ・ムルガレン(「García y García」)、SSIFF2023 のガラの監督の一人ミレイア・ガビロンド、『20,000種のハチ』をプロデュースしたララ・イサギレ、ほか多数。ここ最近のバスクの女性監督たちが出演している。

(バスクの女性監督たち)


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★今年の話題作、ベネチアFF金獅子賞を受賞したヨルゴス・ランティモスの『哀れなるものたち』、カンヌFFの監督賞、SSIFF でクリナリー映画賞を受賞したトラン・アン・ユンの『ポトフ』など、公開が決定している映画も上映される。10月14日からチケット発売が始まっている。
チリのクリストファー・マレーの『魔術』*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月16日 16:48
正義を求める少女の物語『魔術』はファンタジー・ドラマ

★ワールド・フォーカス部門(ラテンビートFF共催)で上映されるクリストファー・マレーの『魔術』は、1880年、チリのレクタ・プロビンシア団体のメンバーが使ったという〈魔術〉が告発された実話にインスパイアされた映画です。18世紀から20世紀初頭まで実際に存在していた組織のようです。チリの先住民はペルーやメキシコのように多くありませんが、マプチェ・ドゥングン語を話すマプチェ族が現在でも減少したとはいえ約70万人を数え、これは全人口の4%に当たります。本作でもスペイン語、ドイツ語の他にマプチェ・ドゥングン語が使用されている。その抵抗の歴史は現在でも息づいており、チリの文化や政治の多様性に影響を与えている。2021年から「先住民の日」(6月20日)が設けられ、日本の「山の日」や「スポーツの日」のように日曜日と重なるとずれる移動祝日となった。
★ジャンルはファンタジーに分類されているようですが、上記のような背景を頭に入れて観ると、また違った見え方があるのではないかと思います。本作の舞台チロエはロス・ラゴス州に属するチリでも2番目に大きな島です。今回コンペティション部門で上映される、フェリペ・ガルベスの『開拓者たち』の舞台になるティエラ・デル・フエゴが最大の島、こちらは先住民セルクナム(またはオナス)族のジェノサイドが語られ、チリ共和国の歴史の一端が描かれている。これは偶然ではなく、若い監督たちが自国の負の歴史に目を向け始めているのかもしれません。
『魔術』(「Sorcery / Brujería」)
データ:製作国チリ=メキシコ=ドイツ、2023年、スペイン語・マプチェドゥングン語・ドイツ語、ファンタジー・ドラマ、100分、製作はBord Cadre Films、Fabula、Match Factory Productions。
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2023ワールド・フィルム・ドラマ部門でプレミア、ヨーテボリFF国際コンペティション正式出品、トゥールーズ(シネラティノ)FF作品賞受賞、富川(プチョン)ファンタスティックFF作品賞受賞、シッチェスFFファンタスティック部門正式出品、ミュンヘンFF、他
監督:クリストファー・マレー(マーレイ、サンティアゴ1985)、脚本はパブロ・パレデスとの共同執筆、長編3作目。製作者にはFabulaのパブロ&フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が参画している。撮影マリア・セッコ、編集パロマ・ロペス、音楽レオナルド・ハイブルム。監督キャリア&フィルモグラフィーについては、デビュー作『盲目のキリスト』(ラテンビートFF2016)で紹介しています。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2016年10月06日
キャスト:バレンティナ・ベリス・カイレオ(ロサ)、ダニエル・アンティビロ(マテオ・コニュエカル)、セバスティアン・ヒュルク(TIFF表記フールク、農場主ステファン)、フランシスコ・ヌニェス(ロサの父親フアン)、ダニエル・ムニョス(副代理人アセベド)、ネディエル・ムニョス・ミラロンコ(アウロラ・キンチェン)、アニック・ドゥラン(ステファンの妻アグネス)、イケル・エチェベルス(ステファンの息子フランツ)、他
ストーリー:1880年、チリの離島チロエ、先住民の少女ロサはドイツ人の入植者が経営する農場に父親と一緒に住み込みで働いている。ある日のこと、農場主が不手際を理由に父親を無残な方法で殺害したとき、ロサは正義を求めて、強力な魔術師の組織の王に助けを求めに出発します。

(ロサ)

(農場主ステファン)

(ステファンの家族)

(ロサと副代理人アセベド)

(ロサとアウロラ・キンチェン)
イサベル・コイシェの『ひとつの愛』*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月27日 15:44
スペインで最も精力的な監督がイサベル・コイシェ

★イサベル・コイシェ(Isabel Coixet 1960)の『ひとつの愛』(「Un amor」)は、第71回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2023のコンペティション部門ノミネート作品、コイシェ監督がフェロス・シネマルディア賞、ホヴィク・ケウチケリアンが助演俳優賞(銀貝賞)を受賞したばかりです。時間切れで作品紹介が中途半端でしたが、今回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門のラテンビートFF共催作品に選ばれたのを機に情報も増えましたので、内容的に一部ダブりますが追加いたします。

★TIFFでは、バルセロナ出身ということかイザベル・コイシェとカタルーニャ語表記になっています。以前はラテンビートもスペイン語表記のイサベルでしたが今回はカタルーニャ語を使用しています。確かにコイシェはカタルーニャ語読みですから変だったわけです。当ブログも変更すべきか迷いましたが、当初からスペイン語読みのうえ紹介頻度が一番多く修正も厄介なので、今回は一応イサベルを踏襲します。主なフィルモグラフィー紹介は、『マイ・ブックショップ』(17)までですが、以下にアップしています。
*コイシェ監督のフィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年01月07日

(コイシェ監督、SSIFF2023、9月26日レッドカーペットにて)
『ひとつの愛』(原題「Un amor」)
製作:Buena Pinta Media / Crea SGR / Perdición Films / Monte Glauco / ICEC / ICAA / RTVE / TV3 / Movister+ 他
監督:イサベル・コイシェ
脚本:イサベル・コイシェ、ラウラ・フェレロ、原作サラ・メサの ”Un amor”
撮影:ベト・ローリッヒ
編集:ジョルディ・アサテギ
キャスティング:カルロス・ラサロ、ソフィア・シベロニ
衣装デザイン:スエビア・サンペラヨ
メイクアップ:アイノア・エスキサベル、Izaskun Makua
プロダクション・マネージメント:エバ・タボアダ、クリス・ラフロント
製作者:サンドラ・エルミダ、マリサ・フェルナンデス・アルメンテロス、(エグゼクティブ)ベレン・アティエンサ、クリスティナ・レラ・ガルシア
データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語、ドラマ、129分、配給BTeam Pictures(スペイン)、公開スペイン11月10日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2023セクション・オフィシアル、フェロス・シネマルディア賞(イサベル・コイシェ)、助演俳優賞(ホヴィク・ケウチケリアン)受賞、レインダンス映画祭コンペティション部門、監督賞、俳優賞(ライア・コスタ)ノミネート、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門正式出品など
キャスト:ライア・コスタ(ナット/ナタリア)、ホヴィク・ケウチケリアン(アンドレアス)、ルイス・ベルメホ、ウーゴ・シルバ(ヒッピーのPíterピーテル)、イングリッド・ガルシア≂ヨンソン(ララ)、フランセスコ・カリル(カルロス)、タマラ・ベルベス(美容師)、ビオレタ・ロドリゲス、他多数
ストーリー:経験の浅い駆け出しの翻訳家であるナットは、都会での息苦しい生活を逃れ、スペイン奥地に典型的な小さな村ラ・エスカパに避難所を見つけます。壁に亀裂や雨漏りのする廃屋で彼女は人生を立て直そうと決意しています。家主から飼いならしていない犬を歓迎のしるしとしてプレゼントされるが、彼が本性をあらわすのに時間はかからないだろう。やがて家主との対立、村民の不信感に直面する。隣人ドイツ人のアンドレアスの不穏な性的提案を受け入れることで、ナットは自分自身を驚かせることになる。この奇妙で矛盾をはらんだ出会いから、貪欲で強迫的な情熱が彼女に芽生えてくる。今まで彼女が自分だと思っていた女性は、本当に自分なのだろうか、実存への疑念と破壊的な性的役割を探求することになる。

(現地入りした「Un amor」のチーム、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
サラ・メサのベストセラー小説の映画化
★新作はサラ・メサ(マドリード1976)の同名小説の映画化、勿論小説と映画はジャンルも異なり別物ですが、簡単に紹介しておきます。マドリード生れですが幼少時からセビーリャで育ち、現在もセビーリャ在住です。スペイン文献学を学んでいる。詩人としてスタートをきり、2007年、詩集”Este jilguero agenda”でミゲル・エルナンデス文化財団の詩歌国民賞を受賞しましたが、作家として活躍するようになる。2017年、小説”Cicatriz”でフアン・デ・サンクレメンテ文学賞など受賞歴も多い。ベストセラーとなった”Un amor”(2020年刊)は2021年の日本でいう本屋大賞を受賞している。作品は米国、イタリア、オランダ、フランス、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、デンマーク、ノルウェーで翻訳出版されているが、日本での翻訳書はないようです。


★原作の解説を読むと3つのパートに分かれているが、タイトルが示すように物語は〈愛〉がテーマの中心で、多くのファンタズマに溢れている。コイシェがどのパートを選んだかは未見なので想像するしかないのだが、その特徴はナット(ライア・コスタ)を筆頭に〈ドイツ人〉と呼ばれているが実際はドイツ人でないアンドレアス(ホヴィク・ケウチケリアン)、ヒッピー役(ウーゴ・シルバ)など、いわゆる村に流れついた異邦人がストーリーの推進役になっていることです。ナットとアンドレアスに焦点を当てているようですが、小説はぞんざいな応対でナットを不安にさせる土地の人である家主(ルイス・ベルメホ)の人格造形が重要視されているようです。

(ライア・コスタとコイシェ監督、SSIFF2023、9月26日フォトコール)
★ナットにお近づきの印として犬を進呈するなど最初は友好的に見えるが、いずれ本性をあらわすのに時間はかからない。この躾けされていない犬が一つの原因で、ナットの人生は思いもかけない方向に転がり始める。夜中に煩く吠えるので、ヒロインは〈嫌なやつ〉という意味のシエソと命名する。このシエソも重要な登場人物のようです。20年前の映画ですが、ラース・フォン・トリアーのデンマーク映画『ドッグヴィル』(03)を思い起こした批評家の記事を目にしました。確かに共同体VS侵入者の構図もよく似ている。共同体を代表する家主は、侵入者のドイツ人より興味深い人物のように読めます。

(ルイス・ベルメホ、9月26日、プレス会見にて)
★舞台となる地名、La Escapaラ・エスカパは架空の村でしょうが、かつてアラゴン州ウエスカに同名の村が存在していたので検索してみたら、現在は廃村となって誰も住んでいないとありました。映画に出てくるような朽ちかけた建物が残っている。スペイン語のescaparは、逃れる・脱出するという意味なので、作家がそれと関係づけて付けたのかもしれない。どこにでもあるようなありきたりのEl Glauco 山(緑の山)の麓の村という設定になっています。実際の撮影はアラゴンの隣州、ワインで有名なリオハの何ヵ所かで行われた。
★都会でぼろぼろになった30歳代の独身女性の逃避行など平凡すぎていただけませんが、サラ・メサの手にかかるとベストセラーになる。語り口は辛辣で、嫉妬、暴力、悲劇、拒否または放棄、誘導、タブーが複雑にミックスされている。先入観を捨て事柄を安易に裁くことなく注意を向けることが、読者、あるいは観客に求められているようです。ナットが借りることになった雨漏りのする家がそもそも曰く付きの家で、かつて近親相姦の関係にあった兄妹が住んでいて、村民によって追い出されたため空き家になっていたことが知らされる。ナットは格安だったので借りたのだが、なんだかギリシャ悲劇を連想させるではないか。
★ナットとアンドレアスの一風変わった交換条件による性的関係は、ポール・ヴァーホーヴェンのスリラー『エル ELLE』(16)の潜在的な欲望や衝動に突き動かされていくヒロインを連想させる。また2022年のノーベル文学賞を受賞した、フランスのオートフィクション作家のアニー・エルナー(1940~)の『シンプルな情熱』(91)も類似点がありそうです。年下の不倫相手との関係をあるがままに描き、自身の内面を掘り下げ、一体自分は何者かと冷静に自問している。階級社会のフランスで彼女のようなノルマンディー生れの労働者階級の女性が遭遇するジェンダー差別、疎外感、失望を飾らない文体で描き、多くの読者の共感を得ている。著作の多くが翻訳、文庫化されている。原作と映画の楽しみ方は別物であるが、作家と監督は意気投合したという報道なので公開を待ちたい。

(サラ・メサとイサベル・コイシェ)
★主役の二人、ナット役のライア・コスタとアンドレアス役のホヴィク・ケウチケリアンの纏まったキャリア紹介はしていないので次回にアップしたい。特にケウチケリアンは、スペインでも特異な経歴の持ち主、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)だけでない活躍を紹介したい。
『ひとつの愛』のキャスト紹介*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月30日 10:20
現在スペインで最も注目されている女優ライア・コスタ

(ライア・コスタとホヴィク・ケウチケリアン、映画から)
★主役ナット(ナタリア)を演じるのがライア・コスタ(バルセロナ1985)、女優、製作者、カタルーニャ語、スペイン語のほかフランス語、英語が堪能。女優志望ではなかったのでバルセロナのラモンリュル大学ではコミュニケーション国際関係学部で広告とマーケティングを専攻、学位を取得している。卒業後マーケティングの会社に就職、働きながら演劇の勉強を始め、最終的にはフランク・スティエン・スタジオでの演技コースを8年間受講している。遅い長編デビューの理由である。国際的な小売企業のCEOダビ・ロペスと結婚して子供もいるが、一般人なので私生活は公表しないということです。現在2人目を妊娠中です。ジェンダー平等や気候温暖化などのテーマについて発信している。
★短編、TVシリーズ出演が続いたのち、2012年フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「Tengo ganas de ti」(『その愛を走れ』)の小さな役で映画デビュー、2015年にも同監督の『ヤシの木に降る雪』に起用された。スペインではなかなか開花しなかったが、ドイツのゼバスティアン・シッパーが全編140分をワンカットで悪夢を描いた『ヴィクトリア』出演で俄然注目を集めた。コスタはドイツ映画賞2015の女優賞を受賞、これはスペイン女優としては初めてだった。さらにサンジョルディ賞2016の外国映画部門女優賞、ガウディ賞2016主演女優賞も受賞した。東京国際映画祭でもワールド・フォーカス部門で上映され話題を呼んだ映画でした。

(ドイツ映画女優賞のトロフィーを手にしたコスタと夫君、2015年6月19日授賞式)
★『ヴィクトリア』の成功後も、アルベルト・ロドリゲスの短編「Las pequeñas cosas」出演、バルセロナ派のラウラ・ジョウの短編「No me quites」(14分)がマラガ映画祭2016やメディナ映画祭に出品され、主役のコスタは短編部門の女優賞を受賞したがスペインでの認知度を高めるには至らなかった。マルティン・オダラの『黒い雪』(17、アルゼンチンとの合作)、アメリカ映画ドレイク・ドレマスの『私とあなたのオープンな関係』(Newness 17)、ニコラス・ペッシェの『ピアッシング』(18)、ミゲル・アルテタの『24時間ずっとラブ』(Duck Butter 18)、ダン・フォーゲルマンの『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』(Life Itself 18)、ハリー・ウートリフのデビュー作「Only You」(18)など海外での出演が主であった。
★転機は2019年、コイシェ監督との出会いだった。TVミニシリーズ「Foodie Love」(8話)の出演がアナウンスされスペイン映画に戻ってきた。本作出演で第7回フェロス賞2020 TVシリーズ部門の主演女優賞にノミネートされた。2022年、コスタはアラウダ・ルイス・デ・アスアのデビュー作「Cinco lobitos」(Lullaby)でベルリンFFパノラマ部門に戻ってきた。初めての子育てで産後鬱になった若い母親役でしたが、脚本を手渡されたときには、自身も第1子を妊娠しており、クランクイン前の2020年には既に母親になっていたということです。本作はマラガ映画祭2022にも正式出品され、母親を演じたスシ・サンチェスと揃って銀のビスナガ女優賞を受賞した。続いて2022年から前倒しの12月開催に変更された第28回ホセ・マリア・フォルケ賞も受賞、翌年のゴヤ賞2023、フェロス賞、イベロアメリカプラチナ賞の主演女優賞などスペインの重要な映画賞のすべてを制覇、盆と正月が同時にやってきた感がありました。

(左から、母親役のスシ・サンチェス、アラウダ・ルイス・デ・アスア監督、
ライア・コスタ、マラガ映画祭2022、フォトコールから)

(産後鬱の若い母親アマイア役のコスタ、「Cinco lobitos」から)

(主演女優賞のトロフィーを手にしたコスタ、ゴヤ賞2023、2月11日授賞式)
★2023年、エレナ・トラぺの「Els encantats / The Enchsnted」(カタルーニャ語)がマラガ映画祭2023コンペティション部門にノミネート、コスタは受賞を逃したが、トラペ監督とミゲル・イバニェス・モンロイが脚本賞を受賞した。本作については作品紹介をしています。コイシェと再びタッグを組んだ『ひとつの愛』を挟んで、TVシリーズ出演が多いが、パトリシア・フォントの「El mestre que va prometre el mar」に主演、バジャドリード映画祭で上映されたばかりです。真価が問われるのはこれからです。
*「Els encantats / The Enchsnted」の紹介記事は、コチラ⇒2023年06月21日

(「Els encantats」撮影中のエレナ・トラぺとライア・コスタ)
異色の俳優、レバノン生れのホヴィク・ケウチケリアン
★アンドレアスを演じたホヴィク・ケウチケリアン(Hovik Keuchkerian カナ表記はTIFFによる)は、1972年、レバノンのベイルート生れ、父親はアルメニア人、母親はナバラ出身のスペイン人、3歳のときいわゆる〈第5次中東戦争〉とも呼ばれるレバノン内戦(1975~90)が勃発、家族とともにスペインに移住した。スペインではマドリード共同体に属するアルペドレテ市(エル・エスコリアル修道院がある)で育ち、20歳でマドリードに上京するまで父親が経営するレバノン料理店でボーイとして働いていた。1995年自身のジムを開き、1998年ヘビー級のプロボクサーとしてデビュー、2004年に引退するまで16戦中15戦KO勝ちという驚異的な記録保持者、ヘビー級のチャンピオンタイトルを持っている。元プロボクサー、俳優、ボードビリアン、著作4冊を上梓している作家と幾つもの顔をもつ。

(今ではおなかポッコリのケウチケリアン、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
★エリートのアスリートであるにもかかわらず、スタンドアップコメディアンを目指し演技を学び、友人のマジシャン、ホルヘ・ブラスの薦めで一人芝居に挑戦、舞台俳優デビューを果たす。映画デビューは2010年、アルベルト・ドラドの短編「Perdido」のONUの兵士役、ホルヘ・ドラドの「El otro」でアルカラ・デ・エナレス短編FF 2012で男優賞、パレンシアFF 2014で俳優賞を受賞している。長編映画にはアレックス・ゴンサレス扮するボクサーのトレーナー役で「Alacrán enamorado」(13)に出演、本作はカルロス・バルデムの同名小説をサンティアゴ・A・サンノウが映画化したもので『スコーピオン・反逆のボクサー』の邦題でDVD化された。ゴヤ賞2014の新人男優賞ノミネート、スペイン俳優組合新人賞受賞などで認知度を上げた。
★字幕入りで見られるキケ・マイジョの「Toro」(15、『ザ・レイジ 果てしない怒り』)では、端役でマリオ・カサスやルイス・トサールと共演している。日本のサイトで紹介されるのが『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)やダビ・スーザ・モローの『リベリオン・ライズ』(17)のような劇場未公開作品が多いが、かなりの本数に出演している。
*「Alacrán enamorado」の作品紹介とケウチケリアンの紹介記事は、
*「Toro」の作品紹介は、コチラ⇒2016年04月14日

(『スコーピオン・反逆のボクサー』撮影中のケウチケリアン)
★ロドリゴ・ソロゴジェンが手掛けたTVミニシリーズ「Antidisturbios」(8話)出演では、ホセ・マリア・フォルケ賞2021男優賞、フェロス賞主演男優賞、アルメリア映画祭男優賞を受賞して、映画館には出掛けないお茶の間ファンを増やした。長寿TVシリーズ『ペイパー・ハウス』(17~21)に2019年からボゴタ役で参加した。映画に戻るとパコ・レオンの「Rainbow」(22)に出演、『レインボー』の邦題でネットフリックスが配信している。ドラ・ポスティゴが主演のうえ共演者がカルメン・マウラやカルメン・マチ、ルイス・ベルメホなど強烈ですが楽しめる作品です。撮影が終了したTVシリーズ「Reina Roja」に出演している。フアン・ゴメス=フラードの同名小説(2018年刊)の映画化、プライムビデオが配信予定。
*『レインボー』の紹介記事は、コチラ⇒2022年10月04日

(中央がホヴィク・ケウチケリアン、TVミニシリーズ「Antidisturbios」から)

(ホセ・マリア・フォルケ賞2021授賞式)
★同2022年にマイケル・グールジャンが監督主演したアルメニア映画「Amerikatsi」(アルメニア語、ロシア語・英語)に出演するなど活躍の場を広げている。本作は国際映画祭で受賞歴を重ね、オスカー賞2024年のアルメニア映画代表作品に選ばれている。父親のルーツがアルメニアなのでアルメニア語ができるのでしょうか。予告編からの感想ですが、ネットでいいから是非見たいと興味を覚えました。
★イングリッド・ガルシア=ヨンソンのキャリア紹介は、纏まってのアップはありません。スウェーデン出身ですが、幼少時にはセビーリャで育ったのでスペイン語が堪能。後にスペインに戻って、2006年に舞台女優としてデビュー、2011年映画デビューした。以下に紹介しています。
*イングリッド・ガルシア=ヨンソン紹介は、

(イングリッド・ガルシア=ヨンソン、SSIFF 2023、9月26日フォトコール)
★ベテラン演技派ルイス・ベルメホ(マドリード1969)は、俳優、舞台演出家、ピエロ。クリスティナ・ロタの俳優学校で演技を学び、1992年から舞台にたち、自身の劇団も設立している。カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』で少女の父親を演じてゴヤ賞2015主演男優賞にノミネートされたが受賞には至らなかった。アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』の主役、エステバン・ロエル&フアンフェル・アンドレスが共同監督した『トガリネズミの巣穴』などに出演しているウーゴ・シルバ、ホナス・トゥルエバの青春映画『再会』などの常連さんフランセスコ・カリルの男性陣は、作品紹介の折に簡単に紹介しているだけですが、今回は割愛後日に回します。

(ファンサービスをゆめ怠らないルイス・ベルメホ、同上)

(女性に人気のウーゴ・シルバ、レッドカーペット)

(イケメンを意識しているフランセスコ・カリル、フォトコール)
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