カンヌ映画祭2014*ハイメ・ロサーレス新作2014年05月26日 15:55

★あっという間にカンヌも終わってしまいました。ヌリ・ビルゲ・ジェイランの『ウインター・スリープ』が受賞、星取表上位6作品のなかにあったからサプライズというほどじゃなかった。しかしトルコの作品がパルムドールを受賞するのは、ユマルズ・ギュネイの『路』(1982)以来というから驚きかも。ギュネイ監督については以前ご紹介したことがありますが、2年後に政治的亡命先のパリで癌に倒れた。享年46歳という若さでした。

 

★決定までに34時間要したようで、観客のオベーションなども加味して決まったようです。いずれ映画祭か公開も期待できそうですね。ジェイラン監督はカンヌの常連さん、『スリー・モンキーズ』(2008、東京国際映画祭上映)で監督賞も貰っているし、グランプリも2つ持ってるから、もう要らないね。ゴダールはいっぱい賞を持ってるから(カンヌはゼロ)もう要らないと憎まれ口きいてたけど、『言語よさらば』が審査員賞と愛犬がパルム・ドッグ賞(2)を受賞した。審査員賞はグザヴィエ・ドランだけでよかったのではないの。このカナダの青年監督の才能は末恐ろしい。

 

★ご紹介したアルゼンチンのRelatos salvajesは残念ながらかすりもしなかったが、「ある視点」にノミネートされたロサーレスの新作Hermosa JuventudBeautiful Youth)が、「エキュメニカル審査員賞」をヴィム・ヴェンダースと分け合った。18日に上映された折りには温かいオベーションを受けたようです。半分はお義理オベーションでも、面白くなければ上映中にブーイングも厭わないのがカンヌの観客、今年もブーイングにショックを受けて記者会見をドタキャンした俳優が出ていました。 


★観客にも身近で分かりやすい物語、何十万人に一人の難病に罹って余命1カ月とか、尊属殺人を犯してしまったとか、そんな特別な状況設定ではなく、ごく普通の若者が主人公の話です。本作のストーリー、監督、キャストについてはご紹介しています(コチラ54)。少し付け足すとナタリアはカルロスの子を身ごもってしまい、二人は娘フリアの親になってしまう。ナタリアの両親は離婚していて、他に二人の姉妹もおり、母親はナタリアに援助できない。失業中のカルロスには体が不自由で世話を必要としている母親がいる。かなり厳しい現実に直面しているが、愛を語れないほど悲惨ではない。 

                      

                                           (写真:二人の主人公ナタリアとカルロス)

 

★「今現在、ここに存在している物語」を語りたいから、「公園や繁華街にいるたくさんの若者にインタビューして取材を重ねていった。まるでダイナミックなパズルを嵌めこむようにして脚本を組み立てた」と監督は語っています。彼らが一様に口にしたのが<お金>と失業のこと、交通費の高さ、賃金の安さ、どうやって節約するか、と話題はすぐお金の話に舞い戻っていく。スペインの若者は出口の見えない袋小路に迷い込んでいて、映画やファッションどころではないという現実だった。「政治的な映画をつくるつもりはなく、ただスペインの若者の現実を語りたいと思っただけ」、これが理解できないと日本の観客は多分登場人物のなかに入れないのではないか。

 

  

(写真:生れてしまった娘を抱っこしたナタリア)

 

★ロサーレスの過去の映画の分かりにくさから抜け出している印象があります。ポンピドゥー・センターから上映を要請されていたが、自分の作品が美術館映画のほうに迷走していたのを軌道修正しようと考えて要請を断ったそうです。「本作は、私を圧迫していた死とか宗教に対するオブセッションをひっくり返した一種の悪魔払いの作品になった。今までのチームをすっかり入れ替えて、若い人たちと撮影をした。私を惹きつけた若者の不確かな世界を通して、私を不安にさせていた何かと繋がろうとした」。ダルデンヌ兄弟、ケン・ローチ、アブデラティフ・ケシシュの映画が頭にあったとも。ケシシュは『アデル、ブルーは熱い色』が昨年のパルムドールを受賞したチュニジア出身の監督、その性描写がネックとなっていたが「R18+」で公開されました。

 

     

      (写真:細身になった最近のロサーレス監督、マドリードのカフェ・ヒホンにて)

 

★プロの撮影監督が80%、残り20%の撮影をアマチュアに任せた、ポルノ映画の部分ですね。多分ドキュメンタリーの手法がとられているのだと思います。そのコントラストに興味が湧きます。ロサーレスは1作ごとに冒険するタイプ、その一つがポルノ・ビデオ界の帝王ことトルベの協力を得られたこと。本名イグナシオ・アジェンデ・フェルナンデス(またはナチョ・アジェンデ)、1969年バスクのビスカヤ生れ、サンティアゴ・セグラの『トレンテ』(シリーズ234)で既に日本に紹介されています。もう一つがオーディションを受けに来て知り合ったイングリッド・ガルシア・ヨンソンのナタリア起用、「磨きをかける必要があったので相当口論した。互いに憎みあいもしたが、結局彼女は私を求め、私も彼女が大好きだったのだ」と。

 

★資金がなければ映画は作れないが、お金があればいい映画が作れるかと言えばそんなことはない。もしそうならドイツやスイスが量産してるはずです。作家性の強い映画をつくりたいか、映画館に行列ができるような映画をつくりたいかは人さまざま。「他の人の映画についてはよく分からないが、作りづらくなっているのは確か。しかしワインと同じでまずブドウを収穫すること、今年のブドウは出来が良さそうと直感する」そうです。経済的にサイテイの時代でも希望は捨てないことです。

スペインでは530日公開が決定しています。