オープニング作品はマテオ・ヒルの新作*マラガ映画祭2018 ⑥ ― 2018年04月02日 17:38
マイアミ映画祭2018「監督賞」受賞作品「Las leyes de la termodinámica」
★まだコンペティション部門の全体像は見えてきませんが、マテオ・ヒルのオープニング作品「Las leyes de la termodinámica」他、スペインからはダビ・トゥルエバ「Casi 40」、パウ・ドゥラ「Formentera Lady」、エレナ・トラぺ「Las distancias」、キューバからエルネスト・ダラナス・セラーノ「Sergio y Serguéi」、ヘラルド・チホーナ「Los buenos demonios」、アルゼンチンからヴァレリア・ベルトゥチェッリのデビュー作「La reina del miedo」などが発表されています。例年の3月開催から4月にシフトしたことで、本映画祭がワールドプレミアではなくなっています。マテオ・ヒルやダラナス・セラーノの作品は、マイアミ映画祭2018(3月9日~18日)にエントリーされており、そのほかヴァレリア・ベルトゥチェッリの作品も、サンダンス映画祭(1月18日~28日)がプレミア、監督自身が主演して演技賞(女優賞)を受賞しています。今後もこのケースが増えるかもしれません。

(開幕上映作品、マテオ・ヒルの「Las leyes de la termodinámica」ポスター)
★マテオ・ヒルの新作「Las leyes de la termodinámica」は、第35回マイアミ映画祭の監督賞受賞作品、受賞したから選ばれたわけではなく開催前に決定しておりました(3月7日発表)。因みに作品賞はディエゴ・レルマンの『家族のように』でした(ラテンビート2017)。クランクインした2016年10月から話題になっており、それは前作のロマンティックSF「Proyecto Lázaro」(16、英題Realive)が観客に受け入れられたことと関係があると思います。2083年という未来の世界では、科学に重きを置く、宗教を蔑ろにする不信人者たちであふれ、人生はより不明確で曖昧になる。矛盾が許され、どこまで行っても不可能だが、やはり愛を求めている。モラル的な願いを込めて構成されたロマンティックSF。

(主役のトム・ヒューズ、ウーナ・チャップリンなど、「Proyecto Lázaro」ポスター)
「Las leyes de la termodinámica」英題「The Laws of Thermodynamics」
製作:Zeta Cinema / Atresmedia Cine / On Cinema 2017 / Netflix / Televisió de Catalunya / Atresmedia / ICAA / ICEC
監督・脚本:マテオ・ヒル
撮影:セルジ・ビラノバ
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:ミゲル・ブルゴス
美術:フアン・ペドロ・デ・ガスパル
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
製作者:フランシスコ・ラモス、(エグゼクティブ)ラファエル・ロペス・マンサナラ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2018年、ロマンティック・コメディ、撮影地バルセロナ。配給元ソニー・ピクチャー、スペイン公開4月20日決定。
映画祭・受賞歴:マイアミ映画祭2018正式出品(Knight Competition Grand Jury)監督賞受賞、マラガ映画祭正式出品(オープニング作品)
キャスト:ビト・サンス(マネル)、ベルタ・バスケス(エレナ)、チノ・ダリン(パブロ)、ビッキー・ルエンゴ(エバ)、フアン・ベタンクール(ロレンソ)、アンドレア・ロス(アルバ)、イレネ・エスコラル(ラケル)、ジョセップ・マリア・ポウ(アマト教授)他
物語:ちょっとノイローゼ気味だが前途有望な物理学者マネルの物語。人気モデルで新米女優のエレナとの関係をどのように証明するか計画を立てる。彼のせいで散々な結果になっているのは、まぎれもなく物理学の原則、つまりニュートンやアインシュタインのような天才、あるいは量子力学の創始者たちの原理から導きだしているからだ。それは特に熱力学の三原則によっているからだ。

(左から、フアン・ベタンクール、ベルタ・バスケス、ビト・サンス、映画から)
★自由意志は存在するのか否か、人々は自分自身で決定する能力、または自然の法則によって定められた能力を持っているのかどうか、私たちの関係が上手くいかない責任は自ら負うべきか、現実を変えようとするのは無意味なことか、と監督は問うているようです。主役のビト・サンス、ベルタ・バスケス、チノ・ダリン、ビッキー・ルエンゴの4人は当ブログでは脇役として登場させているだけですが、最近人気が出てきた若手のホープたちです。ビト・サンスはいずれアップしたいダビ・トゥルエバの新作「Casi 40」にも起用されている。チノ・ダリンはリカルド・ダリン・ジュニア、フェルナンド・トゥルエバの「La reina de España」に出演している。ベルタ・バスケスはフェルナンド・ゴンサレス・モリナの「Palmeras en la nieve」でマリオ・カサスと禁断の恋をするヒロインを演じ、2015年の興行成績に寄与している(Netflix『ヤシの木に降る雪』)。ビッキー・ルエンゴは当ブログ初登場です。

(監督を囲んだ4人のキャスト、2016年10月クランクインしたときの写真)
★マテオ・ヒルMateo Gil、1972年ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア生れ、監督、脚本家、製作者、撮影監督。1993年、短編「Antes del beso」で監督デビュー、1996年、アレハンドロ・アメナバルの『テシス 次に私が殺される』や翌年の『オープン・ユア・アイズ』の脚本を共同執筆する。エドゥアルド・ノリエガを主役に起用した長編デビュー作(1999『パズル』)以来、奇妙で一風変わった、それでいて興味深い映画を撮り続けている。『パズル』ではアメナバルが音楽を手掛けている。初期にはアメナバル、ノリエガと組んだ作品が多い。

◎主なフィルモグラフィー(短編を除く)
1996「Tesis」『テシス 次に私が殺される』脚本、監督アメナバル
1996「Cómo se hizo Tesis」監督
1997「Abre los ojos」『オープン・ユア・アイズ』脚本、監督アメナバル
1999「Nadie conoce a nadie」『パズル』監督、脚本、東京国際映画祭上映
2004「Mar adentro」『海を飛ぶ夢』脚本、監督アメナバル、ゴヤ賞2005脚本賞
2005「El método」脚本、監督マルセロ・ピニェイロ、ゴヤ賞2006脚本賞
2006『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット』TV、監督・脚本、TV放映
2009「Agora」『アレクサンドリア』脚本、監督アメナバル、ゴヤ賞2010脚本賞
2011「Blackthorn」『ブッチ・キャシディ 最後のガンマン』監督
トゥリア賞2012新人監督賞、TV放映
2016「Proyecto Lázaro」「Realive」監督、脚本、ファンタスポルト映画祭2017作品・脚本賞
2018「Las leyes de la termodinámica」監督、脚本、マイアミ映画祭監督賞
追記:『熱力学の法則』の邦題でNetflix 配信されました。
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