サンティアゴ・サンノウ”Alacran enamorado”*ゴヤ賞2014ノミネーション ― 2014年02月02日 14:26
★ラテンビート2009で上映されたなかで際立っていた映画の一つが、サンティアゴ・A・サンノウの第1作『クアホ、逆手のトリック』(2009)でした。その後、スペイン・サッカー連盟設立100周年のドキュメンタリー*、また西アフリカ、ギニア湾岸のベニン共和国出身の父親が37年振りに故国に帰還するドキュメンタリー**を撮っていて、なかなか新作が届かなかった。昨年4月スペイン公開となった第2作“Alacrán enamorado”がオスカー賞2014スペイン代表最終候補4作の一つに残った情報をキャッチ、ゴヤ賞ノミネートを待っておりました。字幕入り上映が期待できますからね。

*“Alacrán
enamorado”(“Scorpion in Love”)*
製作:エル・モンヘ・ラ・ペリクラAIE、モレナ・フィルム
監督:サンティアゴ・サンノウ
脚色:サンティアゴ・サンノウ、カルロス・バルデム(小説と脚色)
撮影:フアン・ミゲル・アスピロス
音楽:ヴォルフランク・サンノウ?(Woulfrank Zannou)
美術:リョレンス・ミケル(Llorenç Miquel)
データ:スペイン製作、スペイン語、2013年、ドラマ・スリラー ボクシング 人種差別、 ナチズム、公開スペイン2013年4月12日
キャスト:アレックス・ゴンサレス(フリアン・ロペス‘アラクラン’)、カルロス・バルデム(カルロモンテ)、ミゲル・アンヘル・シルベストレ(ルイス)、Judith Diakhate(アリッサ)、ホヴィク・ケウチケリアン(カルロモンテの助手ペドロ)、ハビエル・バルデム(ソリス)、エリオ・トファナ(フェリペ‘ロコ’)、カルロス・カニオヴィスキー(フリアン父)、マレナ・グティエレス(フリアン母)他
プロット:やり場のない憎しみで凝りかたまった青年フリアンの物語。サソリのような毒をもったフリアンと親友ルイスは、ネオナチ主義者のカリスマ「ソリス」がリーダーの暴力グループの一員だ。ボクシング・ジムに通うようになり、そこで引退ボクサーのトレーナー「カルロモンテ」に出会う。彼の誠実さに惹かれていくなかで、ジムで働くアリッサと恋に落ちてしまう。少しずつ人生を変えようとするが、グループは彼の離脱を許さない。血と汗と涙が流れる、闘いと解放の物語。
★ゴヤ賞ノミネート:助演男優賞(カルロス・バルデム)、新人男優賞(ホヴィク・ケウチケリアン)、オリジナル脚色賞(監督、カルロス・バルデム)、美術賞(リョレンス・ミケル)の4部門
*オリジナル脚色賞(サンノウ監督、カルロス・バルデム)、カルロス・バルデムの同名小説の映画化。彼は作家として既に数冊の小説を出版しており、“Muertes Ejemplares”が、1999年ナダル賞の審査員特別賞(佳作)を受賞しています。
*ゴヤ賞以外のノミネート:シネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)に、オリジナル脚色賞、助演男優賞、新人男優賞と、美術賞以外はゴヤ賞と同じセクションにノミネートされている。

★サンティアゴ・A・サンノウ Santiago A Zannou は、1977年マドリードのバリオ、カラバンチェル生れ。1970年ごろベニンから移民してきた父とアラゴン生れの母の三人兄弟の末っ子として生れた。音楽担当のWoulfrankは長兄で音楽プロデューサーをしており、デビュー作『クアホ、逆手のトリック』で既にゴヤ賞オリジナル歌曲賞を受賞しています。10代後半にマジョルカに移り店員やボーイ、3部リーグのチームでサッカーをしていた。映画を天職にしようとしたきっかけは、兄が担当していた短編のサウンドトラックを手伝ったことだった。その後バルセロナのカタルーニャ映画スタジオ・センターで映画を学んだ。同じ時期に生れ故郷マドリードを訪れた折り、同じカラバンチェル生れの「エル・ランギ」ことフアン・マヌエル・モンティーリャと知り合い、これが『クアホ、逆手のトリック』誕生に繋がっていった。
(写真はゴヤ賞2009授賞式の舞台に上がった監督とフアン・マヌエル・モンティーリャ)
*フィルモグラフィー
2004年Cara sucia 短編20分、ゴヤ賞短編映画賞ノミネート
2005年 Mercancias 短編15分
2008年 El truco del manco 『クアホ、逆手のトリック』
ゴヤ賞新人監督・新人男優・歌曲賞受賞、ラテンビート2009上映時の邦題
2009年 El alma de La Roja *ドキュメンタリー(La Roja 赤は選抜チームのユニフォームの色)
2011年 La puerta de no retorno **ドキュメンタリー

★カルロス・バルデムCarlos Encinas Bardem :俳優・脚本家・作家。1963年、女優ピラール・バルデムと父ホセ・カルロス・エンシナス(1995没)の長男としてマドリードに生れる。オスカー俳優ハビエルは弟。1955年カンヌで国際批評家連盟賞を受賞した『恐怖の逢びき』の監督フアン・アントニオ・バルデムは伯父(2002没)。マドリード自治大学で歴史学を専攻。ゴヤ賞がらみでは、2010年にダニエル・モンソンの『第211号監房』(2009)のアパッチ役で助演男優賞にノミネートされただけ。同作でスペイン俳優組合賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、他を受賞しています。
*今年の助演男優賞の面々はいささか精彩を欠くのではないでしょうか。主演とダブル・ノミネートのデ・ラ・トーレ、ロベルト・アラモ、フアン・ディエゴ・ボトとドングリの背比べの感がします。今回はボクシングのトレーナー役カルロス・バルデムの可能性が高いと予想しています。弟ハビエルのオスカー賞で母ピラールが流した涙が再び見られるかもしれない。(写真上はアレックス・ゴンサレスのヘルメットを調整するカルロス・バルデム、映画のワンシーンから)

★新人男優賞のHovik Keuchkerian の正確な読みが分かりませんが、一応ホヴィク・ケウチケリアンと表記しました。新人男優賞紹介記事の繰り返しになりますが、1972年レバノン共和国の首都ベイルート生れ。父親のルーツはアルメリア、母親がナバラ出身のスペイン人、レバノン内戦勃発でスペインに移住、3歳からマドリードの北西に位置するアルペドレテ(エル・エスコリアル修道院がある)で育つ。元ヘビー級チャンピオンのボクサー、KO勝ち15回という記録保持者。2004年引退後は詩人(数冊出版)、コメディアン、舞台、映画俳優として活躍している異色の人物。本作はボクサー物語ですが、本物のボクサーは「僕一人」と言ってます。ボクシングの指導もしたわけです。40歳を過ぎて変身を遂げた≪新人≫です。
(写真上は本作撮影時のホヴィク・ケウチケリアン)
★ストーリーを読んで「観たいなぁ」と思う人は多くないと思う。殆どの人が「これってクリント・イーストウッドの『ミリオンダラーベイビー』のスペイン版?」、はたまた『ロミオとジュリエット』の現代版をイメージするのじゃないか、何しろ≪恋におちたスコルピオン≫なんだから。デビュー作『クアホ、逆手のトリック』を見ていなければ、サンノウ監督の履歴を知らなければ、網に引っ掛けなかったと思う。バルデム兄弟が出ているとはいえ(ハビエルのファナティックな演技は必見)、キャスト陣だけでは魅力に欠けますから。たぶんストーリーで見せる映画ではなく、役者たちの「眠っていた才能」の掘り起こしに成功した演技を楽しむ映画なんだと思う。俳優たちが今までのテクニックを一度ご破算にして生れかわった姿を見る映画なのかもしれない。サトウキビのように彼らを100パーセント絞れるだけ絞った、「私は製糖工場の経営者」と監督。
★人種差別や性差別の映画も過去にたくさんある。スタンリー・クレイマーの『招かれざる客』(1967)は、黒人男性と白人女性の結婚をめぐる家族の葛藤を描いてキャサリン・へプバーンがオスカー像を手にした。スペンサー・トレイシーの遺作となった作品。また西ドイツのライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが描いた『不安は魂を食いつくす』(1974、未公開、DVD2011発売)は、白人とアラブ人の結婚がテーマ。監督は「かつてスペインはアラブ人とユダヤ人を追放した歴史を持つ、そして今日ではアフリカ移民を追い出そうとしている国、人種差別もネオナチも過去の問題ではない」と言い切る。
★自分が生まれ育ったマドリードのカラバンチェル地区は、貧しく慎ましく希望がもてない人々が多い。「カラバンチェルを訪ねたとき、失業して親の家に戻ってきた友人が多かった」。「悪の温床になっているところから抜け出すには、監督とか、芸術家とか、ネオナチとかになる・・・」とも。長引く不況で20代若者の失業率は高く、大幅な消費税増税とあいまって映画館に足を向けない。「観客はバカじゃないからつまらない映画は観てくれない」のですね。
*追加情報:『スコーピオン 反逆のボクサー』の邦題でDVDになった。
フェルナンド・フランコ”La herida”*ゴヤ賞2014ノミネーション ― 2014年01月31日 14:22
★作品賞ノミネーションの「落ち穂拾い」、以下の2作品はゴヤ賞ノミネーション以前にご紹介しておりますが、少し追加いたします。
*“La herida” (“Wounded”)*
★サンセバスチャン映画祭2013の正式出品作、主演のマリアン・アルバレスが女優賞を受賞しました。その記事はコチラです。またフォルケ賞については結果のみお知らせしましたが(1月14日)、本作は作品賞とマリアン・アルバレスが女優賞を受賞しました。

★ゴヤ賞ノミネート:作品賞(コワルスキ・フィルム、S.L. コルド・スアスア他)、新人監督賞(フェルナンド・フランコ・ガルシア)、オリジナル脚本賞(監督とエンリク・ルファス)、主演女優賞(マリアン・アルバレス)、録音賞(アイトル・ベレンゲル・アバソロ、ハイメ・フェルナンデス、ナチョ・アレナス)、編集賞(ダビ・ピニリョス)の6部門
*下馬評では最有力候補のようですが、新人監督賞と主演女優賞の受賞は間違いないでしょう。録音賞のハイメ・フェルナンデスは“La gran familia española”とのダブル・ノミネートです。
*“Caníbal”(“Cannibal”)*
★トロント国際映画祭2013の参加作品としてご紹介した記事はコチラです。気になる贔屓監督として早々とアップ致しました。主演のアントニオ・デ・ラ・トーレについてもご紹介しています。本作はダニエル・サンチェス・アレバロの“La gran
familia española”と同様、2014年オスカー賞スペイン代表作品の最終候補作品でしたが、結果はガルシア・ケレヘタの“15 años y un
día”になりました。

★ゴヤ賞ノミネート:作品賞(ラ・ローマ・ブランカP.C.S.L. マヌエル・マルティン・クエンカ他)、監督賞(マヌエル・マルティン・クエンカ)、オリジナル脚色賞(監督、アレハンドロ・エルナンデス)、主演男優賞(アントニオ・デ・ラ・トーレ)、新人女優賞(オリンピア・メリンテ)、撮影監督賞(パウ・エステベス・ビルバ)、 録音賞(エバ・バリーニョ他) 美術賞(イサベル・ビニュアレス)の8部門

*好き嫌いがはっきり分かれる映画なので作品賞は難しいかなと思いますが、ハイメ・ロサーレスの『ソリチュード 孤独のかけら』のようなサプライズを思い出すと一概に言えません。
*今年の主演男優賞は演技派揃い、デ・ラ・トーレは器用貧乏というかカメレオン俳優というか、星の巡り合わせも悪くて賞に恵まれない。「今までのなかで役作りが一番難しかった」とインタビューに答えていました。エドゥアルド・フェルナンデスはフォルケ賞を受賞したから、スペイン・アカデミーの皆さん、今回はハビエル・カマラかデ・ラ・トーレに投票してね。
(写真:主演の二人 サンセバスチャン映画祭にて)
ダビ・トゥルエバ”Vivir es facil con los ojos cerrados”*ゴヤ賞2014ノミネーション ― 2014年01月30日 23:13

*“Vivir es fácil
con los ojos cerrados”(“Living is Easy With Eyes Closed”)*
製作:フェルナンド・トゥルエバ P.C. S.A.
(クリスティナ・ウエテ フェルナンデス=マキエイラ)作品賞ノミネート
監督・脚本:ダビ・トゥルエバ 監督賞・オリジナル脚本賞ノミネート
撮影:ダニエル・ビラル
音楽:パット・メセニー オリジナル作曲賞ノミネート
*他のゴヤ賞ノミネート、主演男優賞(ハビエル・カマラ)、新人女優賞(ナタリア・デ・モリーナ)、衣装デザイン賞(ララ・ウエテ)の合計7部門ノミネート、ウエテ姉妹が揃ってノミネートされています。
キャスト:ハビエル・カマラ(アントニオ)、ナタリア・デ・モリーナ(ベレン)、フランセスク・コロメール(フアンホ)、ホルヘ・サンス(フアンホ父)、アリアドナ・ヒル(フアンホ母)、ロヘリオ・フェルナンデス(ブルーノ)、ラモン・フォントセレ(ラモン)他
*ザ・ビートルズのジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニーの映像も登場する。
データ:スペイン・スペイン語 2013 コメディ 108分
撮影地アルメリア県(アンダルシア州) 10月31日公開
*サンセバスチャン映画祭2013コンペティション正式出品。
*パーム・スプリングス映画祭2014「ラテン映画賞」受賞。カリフォルニア州のパーム・スプリングス市で1月に開催される国際映画祭。アマ・エスカランテの『エリ』と賞を分かち合いました。
プロット:1966年、ジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来る。ビートルズの歌を教材に英語を教えていた高校教師のアントニオは、彼のヒーローに会おうと決心、休暇をとって旅に出る。道中家出してきた16歳フアンホと、何かから逃げてきた若い娘ベレンが仲間に加わり、1966年のアルメリアは3人にとって生涯忘れられない季節になる。

★ダビ・トゥルエバ David Rodriguez Trueba 1969年マドリード生れ、監督・脚本家・作家・俳優・ジャーナリスト。トゥルエバ8人兄弟の末っ子、『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(ラテンビート2013上映)で初来日したオスカー賞監督フェルナンド・トゥルエバは実兄。母親に甘やかされて7歳まで学校に行かなかった話は有名。父親はタイプライターの訪問販売業を営み、そのタイプライターで幼少時から物を書いていたという早熟な子供だった。マドリード・コンプルテンセ大学ジャーナリズム情報科学科卒業。1992年米国に渡り「アメリカン・フィルム・インスティチュート」脚本科に入学。
(写真はトゥルエバ監督、ロケ地アルメリアの海岸にて)
★ゴヤ賞トレビア:テレビ映画“Felicidades, Alberti”(1991)の脚本家として出発、長編映画“La buena vida”(1996)がデビュー作、ゴヤ賞1997新人監督賞・脚本賞にノミネートされた他、カルロヴィー・ヴァリー映画祭特別審査員賞、トゥリア賞(第1作に与えられる賞)を受賞した。2003年の話題作“Soldados de
Salamina”は、ハビエル・セルカスの同名小説の映画化、オスカー賞スペイン代表作に選ばれるも最終候補に残れなかった。またコペンハーゲン映画祭脚本賞、トゥリア賞(スペイン映画部門)を受賞したが、ゴヤ賞はノミネートに終わっている。大学在学中に脚本を書き始め、エミリオ・マルティネス・ラサロに認められ、後に彼の『我が生涯最悪の年』(1994)*の脚本を書き、ゴヤ賞1995脚本賞にノミネートされている。これまた受賞に至らずゴヤは「道険し」の感がありますね。
*“Los peores anos de nuestra
vida”日本スペイン協会創立40周年記念を祝して開催された「スペイン映画祭1997」で上映されたときの邦題。フアンホの両親役に扮するホルヘ・サンスとアリアドナ・ヒルが恋人役で出演している。ヒルはトゥルエバ監督と結婚していたが別れたようだ。
★ビートルズ・ファンなら題名を見て、ジョン・レノンの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(1967)から取られたことが分かるでしょう。ビートルズ映画を撮った監督リチャード・レスターの『ジョン・レノンの僕の戦争』*撮影のため、レノンは実際にアルメリアに滞在していた。しかしこれはレノンの伝記映画ではない。1960年代スペインの、ちっとも言うことを聞かない生徒にうんざりした英語教師と出奔女性と家出少年三人の物語だ。時代は1966年と監督の生れる前のスペイン、民主主義の足音も遥か彼方、スペインは灰色に沈んでいた。アルメリアの人々は農業と漁業に従事して生活は貧しく、自由に憧れる若者にとってビートルズはまさにヒーロー、希望の星でもあった。
*原題“How I Won
the War”(1967イギリス)、パトリック・ライアンの同名小説の映画化。未公開だったがビデオが発売されたときに付けられた邦題(廃盤)。戦争の愚かさをブラック・ユーモアで笑い飛ばした映画で、本作のメタファーにもなっている。

(写真左からフランセスク・コロメール、ハビエル・カマラ、ナタリア・デ・モリーナ)
★英語教師アントニオにはモデルがいる。監督によれば、ずっと以前のことだがアドルフォ・イグレシアスという記者が書いた「カルタヘナの英語教師」という記事を目にした。フアン・カリオンという美声の英語教師がビートルズの歌を使って英語を教えている。そしてジョン・レノンが映画撮影のためアルメリアにやって来るというので会いに出掛けた、という記事だ。そこに先輩監督フアン・アントニオ・バルデムがフランコ没後の第1作として撮ったコメディ“El puente”(1977、仮題「夏季休暇」)*がひらめいた。主役のアルフレッド・ランダが夏季休暇を利用してバイクでマドリードからトレモリーノスへ旅をする話で、一種のロードムービー。そこでトゥルエバはカルタヘナ(ムルシア州)をアルバセテ(カスティリャ=ラマンチャ州)に変更してオリジナル脚本を書いたというわけです。
*直訳だと「橋」ですが、休日に挟まれた平日に「橋」をかけて連休にする意味もあり、ここでは「夏季休暇」にした。読みかじりですが本作にもモデルがいたようです。横道になりますが、モスクワ映画祭グランプリ受賞作品、主役のアルフレッド・ランダが一躍注目を集め、この成功はマリオ・カムスの『無垢なる聖者』(1984)、ホセ・ルイス・クエルダの『にぎやかな森』(1987)へと繋がっていく。
★舞台となるアルメリア(県都)もかれこれ40年も経てば様変わりしていて、60年代を再現するのは難しかった。ここには2日間しかいなかった。ロケ地探しには苦労したようで、アルメリア県内の内陸部のタベルナス、ロダルキラル、地中海沿いのカボ・デ・ガタなどで撮影は行われた。

★新人女優賞にノミネートのナタリア・デ・モリーナ Natalía de molina は、アンダルシアの観光地ハエン近郊のリナレス生れ、グラナダで育った(正確な生年がIMDbでもアップされていないが、2013年11月に受けたインタビューで23歳と答えているので1990年ごろか)。俳優・歌手・バレエダンサー(短編で共演しているセリナ・デ・モリーナとは姉妹)。マラガ高等演劇芸術学校で2年間ミュージカルの基礎を学んだ後、マドリードに出て、演劇学校ガレージ・リュミエールGaraje Lumiere やスタジオ・コラッサEstudio Corazzaで演技を学ぶ。長編第1作でゴヤ新人女優賞にノミネートされた。インタビュアーから「スター誕生ですね」と言われて、「そうなれば嬉しい」と答えている。今年の新人女優賞は激戦だからどうでしょうか。
*本作では独身で妊娠してしまった21歳のマラゲーニャ役、アンダルシア訛りが出来ることが出演の幸運を呼び込んだ。写真でも分かるようにナタリー・ポートマンに似ているが、よく言われるとのこと。彼女も踊れて演技できるから「とても光栄に思っている」由。

★フアンホ役のフランセスク・コロメールは、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』の少年アンドレウで既に新人男優賞をゲットしています。3年ですっかり若者になりましたが、あの独特の目ですぐ分かります。今回はカツラなしで登場のハビエル・カマラはご紹介するまでもないですね。
ダニエル・サンチェス・アレバロ”La gran familia espanola”*ゴヤ賞2014ノミネーション ― 2014年01月27日 13:27
★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(2)

*“La gran familia española” (“Family United”)*
製作:アトレスメディア・シネ(ミケル・レハルサ)、アティピカ・フィルム、S.L.(ホセ・アントニオ・フェレス)他 作品賞ノミネート
監督・脚本:ダニエル・サンチェス・アレバロ 監督賞とオリジナル脚本賞ノミネート
撮影:フアン・カルロス・ゴメス
音楽:Josh Rouse の“Do You Really Want To Be In Love?” 歌曲賞ノミネート
*アントニオ・デ・ラ・トーレとロベルト・アラモが揃って助演男優賞、パトリック・クリアドが新人男優賞にノミネート、他に編集賞(ナチョ・ルイス・カピジャス)、録音賞(カルロス・ファルオロ他)、特殊効果賞(フアン・ラモン・モリーナ他)、メイキャップ&ヘアデザイン賞(ロラ・ロペス他)を含めて10部門(ただし助演男優賞が二人なので≪11≫とカウントしている)の最多ノミネート。
キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(長男アダン)/ロベルト・アラモ(次男ベンハミン)/キム・グティエレス(三男カレブ)/ミケル・フェルナンデス(四男ダニエル)/パトリック・クリアド(五男エフライン)/ベロニカ・エチェギ(クリス)/サンドラ・マルティン(モニカ)/アランチャ・マルティ(カルラ)/アリシア・ルビオ(マリサ)/エクトル・コロメー(父親)他
データ:スペイン・スペイン語 2013 コメディ 撮影地マドリード(2012年8月下旬より10月中旬まで) 2013年9月13日公開(封切り1週目732.000ユーロ)
*ノミネート歴:シネマ・ライターズ・サークル2014にベロニカ・エチェギ助演女優賞・ロベルト・アラモ助演男優賞。
プロット:人生とはサッカーのようなもの、ゴールを入れる決まった方法は一つじゃない。戦略を練って決断し、気力と夢と喜びをシャカシャカ振って作ったカクテルだ。勿論ちょっぴり運も必要なんだ。妻に5人の息子を押しつけられ逃げられた父親は未だにそのトラウマから抜け出せない。長男は鬱ぎみ、その娘は次男の≪無垢なる≫オトナと大の仲良し、三男は恋人クリスを四男に横取りされたショックでアフリカへ2年振りに帰国する、そして今日2010年7月11日に18歳の五男が花婿になる。花嫁カルラのお腹は既にサッカー・ボール、なのに幼馴染のモニカが忘れられない。あいにく今日は南アフリカ・ワールド・カップの決勝戦、招待客は結婚式などそっちのけ、スペインじゅうがテレビに釘付けだ。スペインが決勝戦まで勝ち進むなんて誰が予想した!

★ダニエル・サンチェス・アレバロ Daniel Sanchez Arevalo は、1970年マドリード生れ。父ホセ・ラモン・サンチェス、母カルメン・アレバロは共にシネアスト、母親は本作にも出演している。以前にご紹介したことの繰り返しになるが、長編第4作となる“La gran familia español”は、負け組5人兄弟のミクロな世界を描きながら、今やEUのお荷物となっているスペインの、嘘でかためた社会が抱えるマクロな問題にメスを入れている。彼自身16年間も精神分析を受けている思惑の人だから、兄弟の人格には彼が少しずつ投影されている。背景にハリウッドの古典、ブロードウェイでもロングランしたスタンリー・ドーネンの『掠奪された七人の花嫁』(1954)への目配せがあると語っておりましたが、あちらのようにハッピーエンドにはなりません。ワールド・カップ優勝のような目出度しメデタシでもないようです。
*監督が「兄さん、兄さん」と呼んでるアントニオ・デ・ラ・トーレの紹介はあちこちでしてるから、今回初ノミネートの2人だけに致します。

★ロベルト・アラモ Roberto Alamo 1970年マドリード生れ。テレビ出身、人気TVシリーズ“Aguila Roja”(2009~13)にレギュラー出演。サンチェス・アレバロの第2作『デブたち』、公開作品ではアルモドバルの『私が、生きる肌』、ボジャインの『あなたに目をあげる』、未公開だが最近セルバンテス文化センター土曜映画上映会(字幕なし)で上映されたダビ・セラーノの“Dias de fútbol”(2003)、2012年ゴヤ賞新人監督賞他ノミネートで話題となったパウラ・オルティスの“De tu ventana a la mía”(2011)などがある。ゴヤ賞ノミネートは今回が初めて。

★パトリック・クリアド Patrick Criado 1995年マドリード生れ。テレビ出身、ロベルト・アラモと同じTVシリーズ“Aguila
Roja”(2009~13)のヌーニョ役でお茶の間にはお馴染み、ホセ・ラモン・アジェラの“Aguila Roja, la pelicula”(2011)にも同役で出演。本作の年齢設定が18歳、実年齢を演じたわけです。映画デビューはエミリオ・マルティネス・ラサロの“Las 13 rosas”(2007)、本作は2008年ゴヤ賞作品賞以下10部門を制覇、次のホセ・ルイス・クエルダの“Los girasoles ciegos”(2008)も2009年ゴヤ賞作品賞以下8部門を受賞していて、最初の出だしから恵まれている。ただし本人のゴヤ賞ノミネートは今回が初めて。甘いマスクだけでは生き残れない。
★今年は混線状態だからノミネーションの数だけでは判断できないが、いくつかは受賞するでしょう。サンチェス・アルバロ監督は第1作『漆黒のような深い青』からラテンビートやスペイン映画祭などで紹介されている珍しい存在。愛あい、涙なみだ、そして品あるユーモア、今年のラテンビートも期待したい。
グラシア・ケレヘタ”15 años y un día”*ゴヤ賞2014 ― 2014年01月26日 11:26
★作品賞にノミネートされている5作品のうち未紹介アラカルト(1)

*“15 años y un día”(15 Years and One Day)*
製作:Tornasol Films S.A. / Castafiore Films S.L. ヘラルド・エレーロ (作品賞ノミネート)
監督:グラシア・ケレヘタ (監督賞ノミネート)
脚本:グラシア・ケレヘタ、アントニオ・メルセロ
撮影監督:フアン・カルロス・ゴメス (撮影賞ノミネート)
音楽:パブロ・サリーナス、アロン・ピペル、セシリア・フェルナンデス・ブランコ
(歌曲賞ノミネート、“Rap 15 años y un día”)
キャスト:ティト・バルベルデ(マックス)/マリベル・ベルドゥ(マルゴ)/アロン・ピペル(ホン)/ベレン・ロペス(アレド)/スシ・サンチェス(カティ)/ボリス・クカロン(トニ)/パウ・ポチ(ネルソン)/スフィア・モハメド(エルサ)他

*上記以外のノミネート:ティト・バルベルデ(主演男優賞)、マリベル・ベルドゥ(助演女優賞)、ベレン・ロペス(新人女優賞)合計7部門
データ:スペイン・スペイン語 2013 96分 ドラマ 撮影地 Alacant(バルセロナ市)
オスカー賞2014スペイン代表作品、モントリオール映画祭2013出品、サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペインで上映、他。
*受賞・ノミネート歴*
*マラガ映画祭2013「金のジャスミン」作品賞・「銀のジャスミン」脚本賞
*シネマ・ライターズ・サークル賞2014(スペイン)ノミネート:作品賞・監督賞・男優賞・助演女優賞・脚本賞・新人女優賞
プロット:思春期の混乱の中にある若者ホンと退役軍人の祖父マックスの物語。母親のマルゴはホンが退学処分を受けると、息子の将来を考えてコスタ・デ・ラ・ルスの小村で暮らす父に託そうと決心する。危険な年頃の孫、退役後の人生を静かに心地よく暮らしたい祖父、二人は互いに抑制と不安を抱えて向き合うことになる。

★グラシア・ケレヘタ Gracia Querejeta 監督については若干「ゴヤ賞2014ノミネーション①」で写真とともにご紹介しております。1962年、大物プロデューサーだった父エリアス・ケレヘタと母マリア・デル・カルメン・マリンとの間にマドリードで生れる。母親はマイキ・マリンMaiki Marínの名でサウラやエリセの作品を手掛けている衣装デザイナー、娘の映画もデビュー以来ほぼ全作に携わっています。さしずめ両親の「七光り」という幸運の星の下で映画人生を始める。女優には全く興味がなく、マドリード・コンプルテンセ大学で古代史を専攻した。
*主要長編作品*
1992年 Una
estación de paso バジャドリード映画週間特別審査員賞受賞
1994年 El último viaje de Robert Rylands シネマ・ライター・サークル賞
(作品・監督・撮影・音楽・編集)を受賞
1999年 Cuando vuelvas a mi lado サンセバスチャン映画祭特別審査員賞(監督)、撮影賞を受賞
2004年 Héctor マラガ映画祭金のジャスミン作品賞、女優賞(アドリアナ・オソレス)受賞
2007年 Siete mesas de billar francés ゴヤ作品賞・監督賞ノミネート。
主演女優賞(マリベル・ベルドゥ)、助演女優賞(アンパロ・バロ)受賞
*ドキュメンタリー、短編、2007年からテレビ・シリーズ多数。特に2007年からはテレビの仕事が多い。昨年の暮、新しいTV シリーズがクランクアップしたばかり、今年お茶の間に登場する。
★テーマに家族を取り上げることが多いせいか、本作がオスカー賞2014スペイン代表作品に選ばれた際の記者会見でも同じ質問がでた。「こういうテーマが好きなこともあるが、息子が2歳くらいのとき夫と別れた。一人で子供を育てるのは常に不安で、息子との関係も緊密すぎてぎすぎすしたものがあった。家族のテーマを追求するなかで不利な点や複雑さを解消して喜びや利点に変えるべきだと考えるようになった」と語っている。マラガ映画祭でも「4年前に息子の身の上に起こった私自身の恐怖が織り込まれている」とも。スペインの若者は夢を見ることができなくなっており、彼らを取りまく環境はゾッとするようなものということです。これはスペインに限りませんね。
★本作は父エリアス・ケレヘタのプロデュースなしで作られた最初の作品だが、今後も父の助けなしで作ることになる。次回作はマリベル・ベルドゥを主役にして、タイトルも“Felices 140”に決まり、6月には撮影に入るということです。
ガルシア・マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』の映画化 ― 2014年01月23日 14:26
★ゴヤ賞候補主要作品の紹介は、授賞式までに1作ずつ間をおいてアップ、他のニュースがニュースでなくなるので、今回はノーベル賞作家ガルシア・マルケスの今のところ最新小説“Memoria de mis putas tristes”(2004刊)の映画化について。77歳になった作家が久しぶりで書いた恋愛小説、同じノーベル賞作家川端康成の『眠れる美女』に触発されて書かれたということが話題になった。90歳の誕生日を迎えようとする老人と14歳の処女という「普通ではない」組合せも物議をかもした。老人の性愛もテーマの一つであろうが、真のテーマは「死と再生」でしょう。

原題:“Memoria
de mis putas tristes”
(『わが悲しき娼婦たちの思い出』は小説の翻訳題による)
監督・脚本:ヘニング・カールセンHenning Carlsen
脚本:ジャン=クロード・カリエール 原作:ガブリエル・ガルシア・マルケス
撮影監督:アレハンドロ・マルティネス
キャスト:ジュラルディン・チャップリン(ローサ・カバルカス)/エミリオ・エチェバリア(エル・サビオ)/パオラ・メディナ・エスピノサ(デルガディーナ)/アンヘラ&オリビア・モリーナ(カシルダ・アルメンタ)/アレハンドラ・バローサ(フロリーナ・デ・ディオス)/ドミニカ・パレタ(ヒメーナ・オルティス)/エバンヘリナ・ソサ(ダミアーナ)/ロドリーゴ・オビエド(ヒメーナの兄弟)/オフェリア・メディナ他
データ:メキシコ=スペイン=デンマーク=アメリカ 2011 言語スペイン語 90分
★2012年マラガ映画祭で特別若手審査員賞を受賞したので翌年には公開と思っていましたが、監督がデンマーク人がネックになったのか、ようやっとこの1月公開になりました。劇場公開になったのは、ロシア、デンマーク、ポーランド、メキシコ、ドイツ(DVD)、映画祭上映はマラガの他、リオ国際映画祭2011、グアダラハラ国際映画祭2012など。
*カールセン監督は、1927年デンマークのオールボー市生れ。ガルシア・マルケスと奇しくも同年齢、脚本のカリエールも1931年生れだから「老青年3人組」の作品といえます。監督とラテンアメリカ映画との接点は、既に本作のプロデューサーの一人ラケル・グアハルドとタッグを組んだ経験があった。カリエールは、フェルナンド・トゥルエバの最新作『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』を手掛けている。

(カールセン監督)
*最初語り手のエル・サビオ(小説では博士)にアルゼンチンのフェデリコ・ルッピかエクトル・アルテリオ、少女デルガディーナにキューバ出身のアナ・アルマス(スペイン在住)が予定されていたようですが、紆余曲折があって上記のようになった。具体化は2008年に製作会社も決定、撮影は2009年11月メキシコのカンペチェでクランクイン、2010年5月に終了している。
*キャスト陣のトレビア*
*語り手の主人公エル・サビオ役のエミリオ・エチェバリアは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』(第3部)の主人公エル・チボやアルフォンソ・キュアロンの『天国の口、終りの楽園』でお馴染みの国際派ベテラン俳優。『アモーレス・ペロス』が東京国際映画祭のグランプリを受賞した2000年に、監督と一緒に来日しております。

*デルガディーナに扮するパオラ・メディナ・エスピノサは、メキシコの名花オフェリア・メディナの姪御さん、既に29歳。小説では14歳ですが、映画は17歳ぐらいに設定されているとはいえ、いささか無理がありますね。オフェリアも特別出演(多分入院中の母親役)して話題作りに貢献している。(写真:エル・サビオのエチェバリアとデルガディーナのパオラ)

*娼婦カシルダ・アルメンタの若い頃と現在を演じているのが、アンヘラ・モリーナとオリビアの母娘。カシルダはエル・サビオが若い頃通っていた人気の娼婦、引退後に中国人と結婚して主婦になる。アンヘラは女優には珍しい5人の子持ち、オリビアはアンヘラの最初の夫との間に、1980年長女として誕生、この撮影後の2012年に長女を出産している。アンヘラは『ブランカニエベス』で白雪姫の祖母役を演じましたが、実際も撮影中に孫が出来たというわけです。アンヘラまたは映画人モリーナ一家についてはじっくりとご紹介したいと考えています。
(写真:エル・サビオとカシルダのアンヘラ)

*娼家の女将ローサ・カバルカス役のジュラルディン・チャップリン、彼女が主役でしょうかね。昔は太った大女のローサも73歳になった今では、すっかり痩せて皺くちゃになっている。しかし頭の回転と毒舌は健在、エル・サビオに眠り姫デルガディーナを斡旋する。こういう役は彼女に打ってつけですね。1944年カリフォルニアのサンタ・モニカ生れ、父親の『ライムライト』(1952)のオープニング・シーンに現れる少女から数えると、出演本数130本以上になる。デヴィッド・リーンの『ドクトル・ジバゴ』(1965)から現在に至るキャリアをいずれきちんとご紹介したい。
*エル・サビオの婚約者ヒメーナ・オルティス役のドミニカ・パレタは、1972年ポーランド生れ、若い頃メキシコに移住、テレビ界出身。エル・サビオの若くして亡くなる美貌の母親フロリーナ・デ・ディオス役のアレハンドラ・バローサは、1971年メキシコ市生れ、代表作はアレハンドロ・スプリンガルの“No eres tú, soy yo”(2010)、脚本も手がけている。この母親が主人公が抱えるトラウマの原因になっている。
第28回ゴヤ賞ノミネーション⑦ ― 2014年01月21日 12:21
ゴヤ栄誉賞の胸像、ハイメ・デ・アルミニャンの手に
★1月20日(現地時間)マドリードのカナル劇場で今年の候補者が参加して、ハイメ・デ・アルミリャンにゴヤ胸像が手渡されました。司会者カエタノ・ギジェン・クエルボが式進行、アカデミー会長エンリケ・ゴンサレス・マチョの「ハイメ、この会場で一番若々しいのはあなたです」というゴヤ賞初受賞のお祝いに始まり、半世紀以上に渡るスペイン映画とテレビの功績に尊敬と感謝の言葉を贈りました。“Mi querida señorita”も『エル・ニド』もゴヤ賞がなかった時代の映画、“El palomo cojo”はノミネートだけに終わったから≪初≫受賞なのでした。
★監督は自分の映画については語らず、映画に対する熱い思いを語った。まだ映画がヨチヨチ歩きだった頃に活躍したカルメン・セビリャやアウロラ・バウティスタに触れ、あの時代の映画は空中ブランコや猛獣使いが華だったサーカスのようだったと。つまり映画は観客に笑いと驚きを届けるものだったということでしょうか。最後に「本当にホントにありがとう。もしここが闘牛場だったら、“Juncal”の歌に乗って喝采を浴びながら闘牛場を一周したい気持ちです」と締めくくった。「フンカル」というのは、引退した花形マタドールの渾名をタイトルにした人気テレビ・シリーズのタイトル、今は亡きパコ・ラバルがフンカルに扮したアルミニャンの代表作です。

(フリア・グティエレス・カボからゴヤ胸像を受け取るアルミニャン、
後方にハビエル・カマラやペレレ・パベスの顔も見える)
*続々・落ち穂拾い*
★ガウディ賞(カタルーニャ語以外の映画部門)で一番人気の“Los últimos días”が、特殊効果賞・プロダクション賞の2つとはちょっと意外です。バルセロナとマドリードでは空気というか温度差が違うんですね。

*特殊効果賞ではフアン・ラモン・モリーナが“La gran familia española”と“Las brujas de Zugarramurdi”でダブル・ノミネート、昨年受賞のフェリックス・ベルヘスはないとして、“La gran familia española”が作品賞か監督賞を取ればフアン・ラモン・モリーナ他になるか。仮りにガウディ賞を取ったとしても難しそうかな(2月2日発表)。この手の映画はハリウッド製の類似作品が多いから、きちんとドラマが描かれているか否か決め手になります。
*プロダクション賞は脈がありそう。ジョセプ・アモロスJosep Amoros は、昨年『ブランカニエベス』でノミネート、同年ガウディ賞にもフェルナンド・ゴンサレス・モリーナの“Tengo ganas de ti”でノミネートされています。今年は本作でゴヤとガウディ両方のノミネートです。賞には関係ありませんが、公開作品にジャウマ・バラゲロのホラー『ネイムレス/無名恐怖』(1999)があります。
★メイク・ヘアメイク賞ノミネートのエウヘニオ・ミラの“Grand Piano” は、“Los
últimos días”と同じくガウディ賞にもノミネートされている作品。早くも3月には『グランドピアノ~狙われた黒鍵』の邦題で公開されるようで、アメリカとの合作だとさすがに早い。プロモーションにかけるお金がハンパじゃないし、これはガウディ賞のところでも書いたように言語は英語です。主演のピアニストにイライジャ・ウッド、彼を狙うスナイパーにジョン・キューザックとキャスト陣も申し分なしだ。

*アナ・ロペス・プイグセルベル(主にメイキャップ)、ベレン・ロペス・プイグセルベル(主にヘアデザイン)は姉妹のようですね。アナはホセ・マリア・カステルビの“Poppers”(1984)でデビュー、アメナバルの『海を飛ぶ夢』でゴヤ賞受賞(ハビエル・バルデムに6時間かけてメイキャップした話は今でも語り草)、ホセ・ルイス・クエルダの『蝶の舌』、アメナバルの『ザ・アザーズ』、マテオ・ヒルの『ブッチ・キャシディ~最後のガンマン』(劇場未公開、WOWOW放映)でノミネートされています。30年のキャリアの持ち主です。ベレンの初仕事は、マヌエル・イボラのコメディ“Orquesta Club Virginia”(1992)、『海を飛ぶ夢』以外はアナと同じです。ゴヤ賞以外では二人とも公開代表作として『チェ28歳』『チェ39歳』があります。
第28回ゴヤ賞2014ノミネーション⑥ ― 2014年01月19日 20:56
続・ゴヤ賞2014の落ち穂拾い
★長編ドキュメンタリー賞
*“Món petit”(Mundo
pequeño)監督:マルセル・バレナ 2012、スペイン

昨年のゴヤ賞にノミネートがなかったので「残念だなぁ」と思っていましたが、スペイン公開が3月と遅かったので今年になったようです。若いアルベール・カザルス(Albert Casals)は、恋人と一緒に世界一周の旅に出ようと決心する。ただしお金もなく手作りの車椅子でなのだ。お金とか荷物、細々した計画など冒険の魅力には必要ない。生れ故郷のバルセロナを出発してニュージーランドに到着するまでの彼の人生哲学が語られる。道中で起こる問題の数々をどうやって克服したか、冒険旅行はそのまま彼自身の力強い生き方を示すことになる。子供のときの白血病が原因で下半身麻痺になり車椅子生活になったようです。

*マルセル・バレナ Marcel Barrena は、1981年バルセロナ生れ、監督・脚本家・俳優・プロデューサー他。“Cuatro estaciones”(2010)でガウディ賞1911(テレビ映画部門)受賞、“Món petit”でアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2013「DOC U!」賞受賞、観客賞3位。ボルダー国際映画祭(米コロラド州)2013ベスト・ヒューチャー・ドキュメンタリー賞を受賞しています。(写真上はアルベール・カザルス、下はマルセル・バレナ監督)
*“Futbolín(Metegol)”監督: フアン・ホセ・カンパネラ 2013、3D、
アルゼンチン=スペイン
原題はアルゼンチンのMetegol、ゴヤ賞なのでスペイン題のFutbolínになっています。カンパネラ監督といえば、アカデミー賞外国映画賞受賞の『瞳の奥の秘密』(2009)ですね。受賞したお蔭で公開されました。主演のリカルド・ダリンが多くの女性ファンを獲得した映画でもありました。カンパネラ監督が大のサッカー・ファンなのは周知のこと、「瞳」でもサッカー場の特撮とか、ダリンの相棒ギジェルモ・フランセージャに蘊蓄を語らせていました。新しいことも大好きでロドリーゴ・S・トマッソのサッカー場の特撮技術はアルゼンチンでは初めてと話題になりました。でも3Dアニメを撮るとは想像しませんでした。もっともフェルナンド・トゥルエバもアニメ『チコとリタ』を撮りましたが。

*昨年暮れ授賞式があったアルゼンチン・アカデミー賞≪スール賞Premio Sur≫では、脚色賞(原作は、ロベルト・フォンタナロッサの短編“Memorias de un wing derecho”)・撮影賞・作曲賞・録音賞を受賞しています。作品賞はルシア・プエンソの『ワコルダ』が受賞した。本賞は第1回が2006年と新しく、アルゼンチンでは1943年創設の≪銀のコンドル賞≫のほうが高い権威をもっています。『瞳の奥の秘密』が作品賞・監督賞など大賞を取った賞ですね。
*アニメは子供にせがまれて映画館にしぶしぶ出掛けるものではなく、大人だけで楽しめるまでに成長したということでしょうか。7月18日公開、最初の3日間だけで観客動員数が418,000人、オスカー受賞作品の約2倍ということがそれを証明しています。劇場公開が待たれる作品。
★短編アニメーション賞
*“Via tango” 監督:アドリアナ・ナバロ・アルバレス 2012 スペイン 3分17秒

企画、デッサン、イラスト、プロモーションなど何から何まで一人でこなしてゴヤ賞に辿りついたと話題なのが本作です。アドリアナ・ナバロ・アルバレス Adriana Navarro Alvarez は、1985年バスク州ビスカヤ生れの28歳のアニメーター、まだバレンシア工科大学のアニメーション修士コースで学ぶ学生。デザイン科のマリア・デル・カルメン・ポベダ教授の指導のもとで作られた。アドリアナの個人的な体験が盛り込まれているとインタビューで語っています。テーマはミュージカルの振り付けをとおして語られるロマンスのようです。

第28回ゴヤ賞2014ノミネーション⑤ ― 2014年01月18日 16:55
★ガラ本番数日前に行われる栄誉賞授賞式のニュースが洩れていました。数年前から諸般の事情、例えば時間の制約(どうしても長くなる)、高齢の受賞者のガラ出席が困難などの理由で先に祝われるようになりました。短く編集されたビデオを本番で流すわけです。病床にあるため自宅手渡しのケースもありましたが、昨年のコンチャ・ベラスコのようにピンシャン現役受賞者は両方に出席して、結局≪コンチャ・ショー≫になってしまい、時間短縮は雲散霧消に。
*今年のハイメ・デ・アルミニャンは、来週月曜日20日に手渡されるようです。90歳目前ながら現役であるアルミニャン、厳しい検閲時代を生き抜いて撮りつづけた不屈の人が、どんな挨拶の言葉を述べるか楽しみです。
*落ち穂拾い*
★アルモドバルの『アイム・ソー・エキサイテッド』が「衣装デザイン賞」1部門だけというのも寂しい限りです。若干解消されたとはいえスペイン映画アカデミーと監督のギクシャクは依然残っていて、海外の映画祭とくに5月開催のカンヌに照準を合わせて、「2年ごと3月公開」がずっと続いています。ノミネートされたタティアナ・エルナンデスTatiana Hernandezは既にロぺ・デ・ベガの伝記映画“Lope”(2010)で2011年ゴヤ賞を受賞しています。これはガウディ賞にもノミネートされた作品です。他に劇場公開された作品ではハビエル・フェッセルの『モルタデロ&フィレモン』(2003)がノミネートされています。未公開ながらラテンビート2009上映の『カミーノ』も担当しています。
*長編デビューはフアン・カルロス・フレスナディリョの『10億分の1の男』(2001)、本作は主演のレオナルド・スバラグリアを筆頭に数多くのゴヤ賞を獲得した映画でした。アルモドバル兄弟の「エル・デセオ」プロダクション作品イサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(2005)、オスカル・サントスの『命の相続人』(2010ラテンビート)、ダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』(2009)、今年の話題作“La gran familia española”も手掛けていますね。

*「衣装デザイン賞」部門は、他にダビ・トゥルエバの“Vivir es fácil con los ojos
cerrados”のララ・ウエテLala Huete、アレックス・デ・ラ・イグレシアの“Las brujas de Zugarramurdi”のパコ・デルガードなど混線が予想されます。ララ・ウエテがトゥルエバ兄弟の義姉妹なのは既に作品賞ノミネートでご紹介済み、兄トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』(2012)でノミネートされています。写真はギジェルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』で2007年英国アカデミー賞「バフタ賞」を受賞したときのもの。

*パコ・デルガド Paco Delgadoは、昨年『ブランカニエベス』で受賞、これはヨーロッパ映画賞とのダブル受賞でした。『レ・ミゼラブル』でオスカー賞にノミネートされた実績の持主、アレックスとの出会いは『13 みんなのしあわせ』、その後『800発の銃弾』、『オックスフォード連続殺人』『気狂いピエロの決闘』など監督の信頼も厚い。他にアルモドバルの『バッド・エデュケーション』や『私が、生きる肌』も担当している。連続受賞はないと思うので、今年は女性対決かな。

★エミリオ・アラゴンEmilio Aragonは、1959年ハバナ生れ。監督にして作曲家、ボードビリアン、プロデューサーと多才。長編第2作となる“A Night in Old Mexico”でオリジナル作曲賞の他、フリエタ・ベネガスJulieta Venegasnoの“Aqui sigo”がオリジナル歌曲賞にノミネートされています。デビュー作『ペーパーバード』がラテンビート2010で上映されたときカルメン・マチと来日、彼はとにかくナイスガイです。勿論、彼女も頭の回転の速いユーモアに富んだ役者、ゴヤ賞の総合司会の経験者です。主演のミゲル少年こそ監督の実父ピエロのミリキ‘Miliki’この映画は市民戦争をバックにした≪アラゴン家のサガ≫のようなものでした。スペインで一番愛されたピエロと言われたミリキも2012年11月鬼籍入りしました。アラゴンは本作で新人監督賞、オリジナル歌曲賞“No se puede vivir con un franco”にノミネートされています。
第28回ゴヤ賞2014*栄誉賞ハイメ・デ・アルミニャン ― 2014年01月17日 11:54
*栄誉賞*
★最初にご紹介すべきセクションでした。受賞の知らせを受けたハイメ・デ・アルミニャン、「もう映画撮ってないから栄誉賞をあげようと思ったんだね」とジョークを飛ばしたとか。「シネアストに引退なんて言葉はないんだ」が口癖、現在も日刊紙「エル・ムンド」や「ABC」の寄稿家、執筆中のコメディがほぼ完成しているそうです。

★Jaime de Armiñan Oliver :1927年3月9日マドリード生れの86歳、作家、戯曲家、映画とテレビの監督・脚本家。父方の祖父は戯曲家・彫刻家、父はジャーナリストで政治家、祖母と母は女優という一家に生れた。1927年生れということは≪内戦時代の子供≫、サンセバスチャンで過ごした。マドリードのコンプルテンセ大学法学部卒、最初、弁護士のかたわらに“Fotos”や“Digame”のような出版物のコラムニストとして出発、同時に演劇の脚本を執筆している。1956年エレナ・サントンハと結婚、長男アルベルト、次男エドゥアルドもTVと映画の監督、脚本家として活躍している。(写真上:アルベルトとのツーショット)
★1959年に脚本家としてテレビ界へ、ブランクはあるが引き続きTVにも携わっている。映画デビューも脚本家としてホセ・マリア・フォルケ監督の“El secreto de Mónica”(1961)を執筆、彼とのタッグは7作に及ぶ(フォルケ賞は監督の功績を讃えて設けられた賞です)。監督第1作がマリソルを起用した“Carola de día, Carola de noche”(1961)、2008年の“14, Fabian Road”で17作を撮っている。“Mi querida señorita”(1972、ホセ・ルイス・ボラウとの共同執筆で、1973年ハリウッドのオスカー賞にノミネート)、『エル・ニド』(1980)でも再度ノミネートされた。“14, Fabian
Road”はアンヘラ・モリーナ、アナ・トレント、アルゼンチンのフリエタ・カルディナリを起用、マラガ映画祭に出品され、次男エドゥアルドと共同執筆した脚本が銀のビスナガ賞を受賞、興行的にも成功している。老いても現役です。
★一番知られているのが『エル・ニド』、モントリオール映画祭で女優賞受賞(アナ・トレント)、翌年のオスカー賞ノミネート。日本でも「第1回スペイン映画祭1984」に『巣』の邦題で上映、1987年の公開時に『エル・ニド』と改題されたもの(この映画祭は画期的なものでエリセの『エル・スール』やマリオ・カムスの『無垢なる聖者』などスペイン映画史に残る名作が上映され、後に一般公開された)。写真は『エル・ニド』のワンシーンから、アルゼンチン映画の『オフィシャル・ストーリー』(1985ルイス・プエンソ)で馴染みのあるエクトル・アルテリオと。

*上記以外の代表作*
1974年“El amor del capitán Brando”:監督・脚本、ベルリン映画祭1974でヒューチャー賞にあたるモルゲンポスト賞を受賞、フェルナンド・フェルナン・ゴメスが主役を演じた。
1984年“Stico”: 監督・脚本、フェルナン・ゴメスが脚本と主演。
1987年“Mi general”:監督・脚本、フェルナン・ゴメスやフェルナンド・レイが出演。モントリオール映画祭「審査員特別賞」受賞。
1994年“Al otro lado del túnel”:監督・脚本、次男エドゥアルドが初めて脚本を共同執筆。フェルナンド・レイの遺作となり、他にマリベル・ベルドゥ出演。ベルリン映画祭コンペ出品作品。
1995年“El Palomo cojo”:監督・脚本、ゴヤ脚色賞ノミネート、サンセバスチャン金貝賞ノミネート。マリア・バランコ、カルメン・マウラ、パコ・ラバル出演。
★テレビ・シリーズ“Juncal”(1989)は、パコ・ラバルを主役にした人気ドラマ。1990年ベスト・シリーズ賞、オンダス賞を受賞している。当時はまだビデオテープ時代だったが、ボックス版が発売
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