マラガ―スール賞のカルメン・マチ*マラガ映画祭2025 ⑧2025年04月06日 15:27

                カメレオン女優カルメン・マチの強かな生き方

  

      

             (マラガ―スール賞を受賞したカルメン・マチ、2025315日)

 

★後回しになっていた今年の特別賞マラガ―スール賞の受賞者カルメン・マチのキャリア&フィルモグラフィー紹介です。196317日マドリード生れ、マリア・デル・カルメン・マチ・アロヨ、両親ともスペイン人だが、父方の家系はイタリアのジェノバのアーティスト一家である。1980年、17歳でヘタフェのタオルミナ劇団に入り、初舞台はロルカの「血の婚礼」だった。1994年ホセ・ルイス・ゴメスが主宰する演劇学校ラ・アバディアに入団、バリェ=インクランの「貪欲、欲望と死の祭壇画」、「ベニスの商人」などの舞台に立つ。演劇関係では最高賞Max賞に、2011年「Falstaff」(シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』の登場人物)で助演女優賞、2009年「Platonov」(チェーホフの『プラトーノフ』)助演女優賞、2008年「La tortuga de Darwin」(フアン・マヨルガ作、ダーウィンによってガラパゴス諸島からイギリスに連れてこられた海亀ハリエット役)で主演女優賞を受賞している。ほかソフォクレスの悲劇『アンティゴネ』(201517)やチェーホフの『桜の園』(2019)に出演している。

 

★映画デビューは遅く、主役に起用されたのはハビエル・レボーリョの「La mujer sin piano」で、カセレス・スペイン映画祭2009女優賞を受賞した。続くエミリオ・アラゴンのデビュー作「Pájaros de papel」はラテンビート映画祭2010で上映された後、『ペーパーバード 幸せは翼にのって』の邦題で公開され、監督と来日した。役柄からイメージするのとは違った華奢な体型とその物静かな雰囲気に驚かされた。同年ナチョ・G・ベリリャの「Que se mueran los feos」では、ハビエル・カマラと共演、彼の小姑役を演じた。

   

     

                       (「Pájaros de papel」のフレームから)

 

★そして観客動員数1000万人、スペイン映画興行成績ナンバーワンとなったエミリオ・マルティネス=ラサロの「Ocho apellidos vascos」出演である。翌年のゴヤ賞ではコメディ作品の受賞はないという大方の予想を覆して、カラ・エレハルデの助演男優賞、ダニ・ロビラの新人賞、マチの助演女優賞の3冠をゲットした。以来引っ張りだことなり、続編「Ocho apellidos catalanes」はネットフリックスで配信された。

 

     

                  (ゴヤ賞2015助演女優賞のトロフィーを手にしたマチ)

   

   

                            (共演者のカラ・エレハルデと)

 

★主演作が多くなり、なかでアルゼンチンのマリナ・セレセスキーのシリアスドラマ「La puerta abierta」の娼婦役に起用され、ゴヤ賞2017で初めて主演女優賞にノミネートされた。その他フォルケ賞、フェロス賞もノミネートに終わったもののスペイン俳優組合賞を受賞した。テレレ・パベス、アシエル・エチェアンディアなどが共演した。アレックス・デ・ラ・イグレシアの「El bar」、「アイーダ」の共演者エドゥアルド・カサノバのデビュー作「Pieles」など、Netflix配信、ミニ映画祭、公開などで日本でも認知度が高くなりファンが増えてきた。作品紹介記事は、当ブログでアップした一覧を添付しているので参考にしてください。ネットフリックスやプライムビデオで配信されたなかで既に配信が終了している作品もあります。

     

      

       (『クローズド・バル』のフレームから、左端にカルメン・マチ)

   

    

           (高評価の「La puerta abierta」のポスター)

 

★私生活は公にしないのでミステリアスな部分も多いが、20年来のパートナー、ミュージシャンのビセンテとは「結婚にも子供をもつことにも怖れがある」そうです。

 

   

     

         (20年来のパートナー、ビセンテと仲睦まじく買い物)

 

受賞歴2013年メモリアル・マルガリーダ・シルグ賞、2017年マドリード金のメダル受賞、2024年芸術功労賞金のメダルを各受賞している。

 

           主なフィルモグラフィー

1999Lisa」短編、カルロス・プジェ

2002Hable con ella」『トーク・トゥ・ハー』ペドロ・アルモドバル、看護婦役

2003Descongélate」『チル・アウト』ドゥニア・アヤソ&フェリックス・サブロソ

  「Torremolinos 73」『トレモリーノス73パブロ・ベルヘル、美容院の客

2004Escuela de seducción」ハビエル・バラゲル、ウエートレス役

2005Vida y color」『色彩の中の人生』サンティアゴ・タベルネロ

2006Lo que sé de Lola」ハビエル・レボーリョ

2009Las abrazos roto」『抱擁のかけら』ペドロ・アルモドバル

La mujer sin piano」ハビエル・レボーリョ、主役、カセレス・スペインFF女優賞受賞

2010Pájaros de papel」『ペーパーバード 幸せは翼にのって』エミリオ・アラゴン、

   ラテンビート2010女優賞受賞

  「Que se mueran los feos」ナチョ・G・ベリリャ、主役ナティ

2011La piel que habito」『私が、生きる肌』ペドロ・アルモドバル、結婚式招待客

2013Los amantes pasajeros」『アイム・ソー・エキサイテッド!』ペドロ・アルモドバル

2014Ocho apellidos vascos」エミリオ・マルティネス=ラサロ、メルチェ役、

   ゴヤ賞2015助演女優賞受賞

2015Perdiendo el norte」『夢と希望のベルリン生活』ナチョ・G・ベリリャ、

   ベニ・マリン役

Mi gran noche」『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』アレックス・デ・ラ・イグレシア

2015Ocho apellidos catalanes」『オチョ・アペリードス・カタラネス』

   エミリオ・マルティネス=ラサロ、メルチェ/ カルメ役

2016Las furias」ミゲル・デル・アルコ、カサンドラ役

La puerta abierta」マリナ・セレセスキー、娼婦ロサ、スペイン俳優組合賞受賞

2017El bar」『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』

   アレックス・デ・ラ・イグレシア

Pieles」『スキン~あなたに触らせて』エドゥアルド・カサノバ

2018Thi Mai, rumbo a Vietnam」『ティ・マイ 希望のベトナム』パトリシア・フェレイラ、

   主役カルメン・ガラテ

La tribu」『ダンシング・トライブ』フェルナンド・コロモ、ビルヒニア母親役

 モンテカルロ・コメディ映画祭2018主演女優賞受賞

2019Perdiendo el este」パコ・カバジェロ、ベニ・マリン役

Lo nunca visto」マリナ・セレセスキー、主役テレサ

2020Nieva en Benidorm」ネオノワール、イサベル・コイシェ、警官マルタ役

  「Un efecto óptico」フアン・カベスタニー

2021El cover」ミュージカル、セクン・デ・ラ・ロサ、マリエ・フランセ役

2022Amor de madre」『僕とママの”じゃない”ハネムーン』パコ・カバジェロ、母親役

Rainbow」ミュージカル、パコ・レオン

La voluntaria」政治ドラマ、ネリー・レゲラ

Cerdita」『PIGGYピギー』コメディ・ホラー、カルロタ・ペレダ、母親役

2024Tratamos demasiado bien a las mujeres」シリアスコメディ、クララ・ビルバオ、主演

  「Verano en diciembre」カロリナ・アフリカ、主演母親役

2025Aída y vuelta」パコ・レオン、アイーダ・ガルシア・ガルシア役

 

TVシリーズ、進行中の出演を含めると80作を超える。従って初期の端役、短編、TVシリーズは割愛しています。今回リストアップしての印象は、映画でのノミネート数に比して受賞が少ないということでした。TVシリーズ7 vidas9906204話)では2000年から参加して98話出演、本作のアイーダ・ガルシア・ガルシア役の人気に乗じてスピンオフした「Aída」(0514238話)では101話に出演している。両シリーズともシチュエーションコメディ、後者の受賞歴はフォトグラマス・デ・プラタ(200420052007)、オンダス賞2008、スペイン俳優組合賞2005と多いが、疲れはてて自ら降板を願い出ている。そしてリターン・コールで再登場したのがTVでなくスクリーン、今年公開予定の「Aída y vuelta」である。授与式に駆けつけてくれたパコ・レオンが監督している。彼はルイスマ・ガルシア・ガルシア役で全238話に出演しており、新作でも勿論出演しないわけにいかない。みんな少しずつ老けましたが元気です。

   

            

        (TV出演メンバーで撮る映画「Aída y vuelta」の出演者たち)

 

★ロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボが製作、監督したミュージカル「La mesías」(23、全7話)とディエゴ・サン・ホセ創案、エレナ・トラぺ監督の「Celeste」(24、全6話)、前者はメシアの到来を妄想するファナティックな老母モンセラット・バロ役(67話に出演)、後者はラテン音楽のスーパースターのセレステの脱税を証明するというミッションを受けた税務捜査官役、TV部門のフォルケ賞2024女優賞とフェロス賞にノミネートされ、フォトグラマス・デ・プラタを受賞している。

     

            

          (マルサの女を演じたTVシリーズ「Celeste」から)

 

        

         (有能な税務捜査官を好演した「Celeste」のポスター)

 

          カルメン・マチ関連記事一覧

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『ペーパーバード 幸せは翼にのって』の紹介記事は、コチラ20140517

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* TVシリーズLa mesias」の紹介記事は、コチラ⇒2023年07月19日

エバ・リベルタードの「Sorda」*マラガ映画祭2025 ⑨2025年04月14日 13:24

         金のビスナガ「Sorda」は監督エバと主演者ミリアム姉妹の二人三脚

     

           

           (エバ・リベルタードとミリアム・ガルロ姉妹)

 

★季節が往ったり来たりで心身共に疲れます。第78回カンヌ映画祭の名誉パルムドールにロバート・デ・ニーロ受賞のニュース、審査委員長がジュリエット・ビノシュとアナウンスされたきり、他のメンバーは未発表です。昨年のグレタ・ガーウィグに続いて今年も女性が選ばれましたが、最初の女性委員長を務めたのが2014年のジェーン・カンピオン、ビノシュが3人めというから呆れます。コンペティション部門ノミネートもこれからです。トランプ関税は映画界も無傷というわけにいかないし、我が国もトランプに笑顔を向けながらしぶとく抵抗してもらいたい。

 

★マラガ映画祭作品賞金のビスナガ受賞作「Sorda」は、監督にエバ・リベルタード、聴覚障害者の母親役に実妹のミリアム・ガルロが扮したドラマです。ガルロ自身7歳のとき薬害で聴力を失っており、アイディア誕生の経緯などもドラマチックのようです。ヌリア・ムニョスと共同監督した2021年発表の同タイトルの短編が下敷きになっており、第25回マラガ映画祭2022短編部門の銀のビスナガ観客賞を受賞している。来年あたりの公開を期待して作品紹介をいたします。成功にはガルロのパートナー役を演じたアルバロ・セルバンテスの好演を上げる批評家が目につきましたが、二人揃って銀のビスナガを受賞しました。

    

    

  (左から、ヌリア・ムニョス、ミリアム・ガルロ、エバ・リベルタード、マラガFF2022

   

         

             (短編Sorda」のポスター

 

 Sorda / Deaf

製作:Distinto Films / Nexus CreaFilms / A Contracorriente Films / Diverso Films 

   協賛ICAA / RTVE / Movistar Plus/ 7TV Región de Murcia

監督・脚本:エバ・リベルタード

助監督:ミゲル・ガゴ

撮影:ジナ・フェレール・ガルシア

音楽:アランサス・カジェハ(カリェハ)

編集:マルタ・ベラスコ

美術:アンナ・アウケル

録音:ウルコ・ガライ

キャスティング:イレネ・ロケ

衣装デザイン:デシレ・ギラオ、アンヘリカ・ムニョス

メイクアップ&ヘアー:メルセデス・カルセレン・ロペス、クリスティナ・ゴメス・マルキナ、ミリアム・サンチェス

プロダクションデザイン:エレナ・カサス、ゴレッティ・パジェス

製作者:ミリアム・ポルテ(Distinto Films)、ヌリア・ムニョス・オルティン(Nexus CreaFilms)、アドルフォ・ブランコ()、(エグゼクティブ)アマリア・ブランコ(A Contracorriente Films)他

 

データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語、ドラマ、100分、撮影地ムルシア、20247月クランクイン6週間、公開スペイン44日、配給A Contracorriente Films

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2025パノラマ部門観客賞、CICAEアートシネマ賞受賞、マラガ映画祭2025スペイン映画部門作品賞金のビスナガ、主演女優賞(ミリアム・ガルロ)、主演男優賞(アルバロ・セルバンテス)、観客賞、ASECAN賞(アンダルシア・シネマ・ライターズ、オペラ・プリマ部門)、Feroz Puerta Oscuraフェロス・プエルタ・オスクラ賞など受賞、D'A Film Festival(バルセロナ映画祭)正式出品

  

キャスト:ミリアム・ガルロ(アンヘラ)、アルバロ・セルバンテス(夫エクトル)、エレナ・イルレタ(アンヘラの母エルビラ)、ホアキン・ノタリオ(アンヘラの父フェデ)

 

ストーリー:聴覚障害者のアンヘラは陶芸工房で自立して働いている。一緒に暮らしている聴覚パートナーのエクトルは、手話を習得して聴覚障害者のコミュニティにも完全に溶け込んでいる。アンヘラは読唇術を学んで間もなくやってくる赤ちゃんを喜びに浸りながら待っているが、赤ん坊が到着すると彼女が努力して築き上げてきた世界のバランスが崩れはじめます。彼女をかつてのような障害者の地位に引きずり下ろし始める。自分と娘にとって何がよく、何がよくないかの決定を迫られる。自分の居場所が分からなくなった聴覚障害者の心の旅が語られる。

     

          

     

   (ガルロ、リベルタード監督、セルバンテス、マラガFF 315日フォトコール)

 

 

監督紹介エバ・リベルタード1978年、ムルシア州モリーナ・デ・セグラ生れ、監督、脚本家、戯曲家、マドリード・コンプルテンセ大学社会学科卒業。ヌリア・ムニョス・オルティンと共同監督したファンタジー「Nikolina」(20)で長編デビュー、ムニョスとのコンビで短編「Leo y Alex en plano siglo 21」(196分)やSorda」(2118分)を撮る。後者はアバンカ映画祭、イベロアメリカン短編映画祭など国内外の映画祭の受賞歴多数、ゴヤ賞2023短編映画賞にノミネートされる。短編「Mentiste Amanda」(2416分)を同じくヌリア・ムニョスと共同監督、メディナ・デル・カンポ映画祭作品賞受賞、ゴヤ賞2025短編映画部門の候補に選出されたがノミネートは逃した。他にTVミニシリーズ、SFHeroes del Patrimonio」(18)、劇作家としてはコンプルテンセ大学、メキシコのケレタロ自治大学のような独立系の劇団のために執筆や演出を手掛けている。長編「Sorda」は単独で監督した第1作である。

   

       

     (ヌリア・ムニョスと共同監督した短編「Mentiste Amanda」のポスター)

 

         

              (共同監督ヌリア・ムニョスと)

 

キャスト紹介ミリアム・ガルロ1983年、ムルシア州モリーナ・デ・セグラ生れ、映画、舞台女優、視覚芸術を専門とするアーティスト、コンテンポラリー・ダンサー、手話のスペシャリスト、フェミニスト活動家である。7歳のとき服用していた薬でほぼ聴力を失う。ミリアムによると両親が気づくのが遅れたため難聴が進行した由。マドリード・コンプルテンセ大学で美術を専攻、アート、創作の修士号を取得する。最初画家を目指したが、現在は演劇、映画の女優にシフトしている。4匹の犬と自宅の農地で鶏を飼っている。育てている鶏の卵以外は食べないベジタリアン、短編Sorda」の舞台になった。短編、長編の「Sorda」のほか、「Nikolina」に出演している。

   

        

    (飼い犬とくつろぐミリアム、ムルシアのモリーナ・デ・セグラの自宅にて)

 

★エクトル役のアルバロ・セルバンテス1989年バルセロナ生れ、俳優、製作者。DVD発売やNetflix配信で観る機会があり認知度もそこそこあるように思えますが果たしてどうでしょう。当ブログでは出演した『1898:スペイン領フィリピン最後の日』などの作品紹介はしておりますが、セルバンテスの纏まったキャリア紹介はしていない。これからも活躍が期待できる俳優の一人としてアップします。ジェマ・ブラスコ監督の「La furia」で主演女優賞を受賞したアンヘラ・セルバンテスは実妹。今回揃って銀のビスナガのトロフィーを手にした。

         

        

            (セルバンテス兄妹、マラガ映画祭2025323日フォトコール)

 

1995年、子役としてホアキン・オリストレルのTVシリーズ「Abuela de verano」でスタート、今年のマラガ映画祭ソナシネ部門の作品賞を受賞したイバン・モラレスの「Esmorza amb mi / Desayuna conmigo」まで数えると約60作に出演している。映画デビューはシルビア・ムントがマラガ映画祭2008銀のビスナガ監督賞を受賞した長編デビュー作「Pretextos」ですが、最初に字幕入りで見ることができたのは、『ザ・レイプ 秘密』の邦題でDVDが発売された「El juego del ahorcada」でした。かなりショッキングな邦題でしたが、オリジナルも「処刑ごっこ」と穏やかではなかった。

1898:スペイン領フィリピン最後の日』の作品紹介記事は、コチラ20170105

*「Adúの作品紹介記事は、コチラ20210124

Ramón y Ramón」の紹介記事は、コチラ20240825

  

★代表作を年代順に列挙すると、

2008Pretextos」(カタルーニャ語)シルビア・ムント、共演ライア・マルル

2008El juego del ahorcada / The Hanged Man」『ザ・レイプ 秘密』スリラー、監督マヌエル・ゴメス・ペレイラ、インマ・トゥルバウの同名小説の映画化、ゴヤ賞2009新人男優賞にノミネート、共演クララ・ラゴ

2010Tres metros sobre el cielo」『空の上3メートル』フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ、フェデリコ・モッキアの同名小説の映画化、脚本ラモン・サラサール、共演マリオ・カサス、マリア・バルベルデ

2012El sexo de los ángeles」『バルセロナ、天使のセックス』ハビエル・ビリャベルデ、マラガ映画祭2012銀のビスナガ助演男優賞受賞DVD2013発売

2012Tengo ganas de ti」『その愛を走れ』フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ、『空の上3メートル』の続編、フェデリコ・モッキアの同名小説の映画化、脚本ラモン・サラサール

20161898, Los últimos de Filipinas」『1898:スペイン領フィリピン最後の日』歴史ドラマ、サルバドール・カルボ、スペイン俳優組合ノミネート、共演ルイス・トサール、エドゥアルド・フェルナンデス、カラ・エレハルデ、Netflix配信

2018El árbol de la sangre」『ファミリー・ツリー 血族の秘密』フリオ・メデム、Netflix配信

2020Adú」サルバドール・カルボ、共演ルイス・トサール、アンナ・カステーリョ、メリリャ駐在の治安警備隊員を演じた。ゴヤ賞2021助演男優賞ノミネート、Netflix配信(字幕なし)

2021Loco por ella」『クレイジーなくらい君に夢中』ダニ・デ・ラ・オルデン、共演ルイス・サエラ、クララ・セグラ

202242 segundos」ダニ・デ・ラ・オルデン、共演ハイメ・ロレンテ

2022Malnazidos」『マルナシドス-ゾンビの谷-』ハビエル・ルイス・カルデラ、

Netflix配信

2023Eres tú」『だから、君なんだ』アラウダ・ルイス・デ・アスア、Netflix配信

2024Ramón y Ramón」サルバドール・デル・ソラル、サンセバスチャン映画祭2024オリソンテス・ラティノス部門正式出品、ペルーとの合作

2025Sorda / Deaf」エバ・リベルタード、マラガ映画祭2025銀のビスナガ主演男優賞受賞

2025Esmorza amb mi / Desayuna conmigo」イバン・モラレス、主演、マラガ映画祭ソナシネ部門銀のビスナガ作品賞、観客賞など受賞

メディナ映画祭202121世紀の俳優」を受賞

    

       

       (銀のビスナガ主演男優賞の受賞スピーチをするセルバンテス)  

 

★短編、TVシリーズは割愛しましたが、オリオル・フェレルの「Carlos, Rey Emperador」(『カルロス~聖なる帝国の覇者~』20151617話)は彼にとって素晴らしい転換点になった(フォトグラマス・デ・プラタ、スペイン俳優組合賞などにノミネート)。神聖ローマ皇帝カール5世(スペイン王カルロス1世)を演じた。イサベル・デ・ポルトゥガル役のブランカ・スアレス、エルナン・コルテス役のホセ・ルイス・ガルシア・ぺレス他、ナタリエ・ポサ、スシ・サンチェス、エリオ・ペドレガルなどベテラン演技派との共演が刺激になったようです。7ヵ月以上に及んだ撮影では、季節の区別なく酷暑の中でも常に重たい衣装を着用しなければならず大変だったと語っている。また約20作くらい出演している短編ではダビ・ペレス・サニュドの「Un coche cualquiera」(19)で、CinEuphoria 2021の男優賞にノミネートされている。

   

        

          (カルロス1世に扮したアルバロ・セルバンテス)  

 

 

     音が溢れる社会の中で身振りと思考のあいだの繋がりを確立する困難さ

  

★本作のテーマは聴覚障害者が聴者の世界で直面する問題を探求しているが、聴覚障害そのものがテーマではなく、自分の居場所を探す女性の心の旅のようです。アンヘラはたまたま耳が聞こえなかった。娘が生まれる前の日常はエクトルの努力の甲斐もあって穏やかであった。生まれる子供の聴覚がどちらになるかは半々だったが、娘はたまたま耳が聞こえるほうだった。赤ん坊は読唇術も手話も分からない、どのようにして言葉を教えたらよいのか分からない。声を出せないアンヘラは当然パニックに陥る。アンヘラが求めていた調和のとれた家庭生活、母親としての絆が得られない。先に娘との絆を築いたエクトルに嫉妬して苛立つアンヘラ、エクトルの「どうして欲しいんだ、夫も娘も耳が聞こえないほうがよかったのか?」というセリフに象徴されるように危機が訪れる。アンヘラの矛盾した複雑な感情の揺らぎ、忍耐強さ、エゴイズム、硬直性などが語られる。

    

  

  (「あなただけが完璧な親で、一人で育児を楽しんでいる」と夫を非難するアンヘラ

    

      

          (聴覚障害者のコミュニティでは幸せなアンヘラ)

 

★アンヘラは娘と会う前の出産時に既に異変を体験していた。分娩室は聴覚障害者のコミュニティでも親しい友人たちの集まりのように安全ではない。陣痛が激しくなると看護スタッフたちはアンヘラが耳が聞こえないことを忘れてしまう。自分たちの指示に従わないアンヘラに慌てる、出産の凄さに度肝を抜かれたエクトルも極度の緊張から手話で上手く指示を伝えられない。アンヘラの存在を許容していた社会が突然機能しなくなる。普段は完璧に思えた関係も大波が来ると役に立たない。公共の場で目に見えない聴覚障害は、目に見える視覚障害のように視覚化されない。アンヘラも白い杖を使用していたわけでも盲導犬と一緒でもなかった。 

  

         

             

              (娘に言葉を教えるアンヘラ)

  

★音が溢れる社会の中で身振りと思考のあいだの繋がりの確立には困難がともなう、音が聞こえることとそれが言葉として聞こえることは同じではない。耳の聞こえない母親が耳の聞こえる赤ん坊に「どうやって言葉を教えるのだろうか」が本作のアイディアの出発点だったという。聴者の世界に適応するよう育てられているため聴覚障害者あるいは難聴者は社会から見えにくくなっている。それぞれ異なった世界に帰属しているのに可視化されていない。監督は「アンヘラは聴者の世界に対して準備できているが、世界はアンヘラに対して準備できていない」と、ベルリン映画祭のインタビューで語っています。またエクトルという人物造形には、分身として監督が少し投影されており、セルバンテスには撮影開始1年前にオファーをした。手話を学ぶ時間が必要だったからと語っている。予告編だけでは舌足らず、鑑賞後に改めてアップが必要です。 

  

イベロアメリカ金のビスナガ「El ladrón de perros」*マラガ映画祭2025 ⑩2025年04月18日 16:28

    イベロアメリカ映画部門の金のビスナガ受賞作El ladrón de perros

 

      

 

★もう一つの金のビスナガ作品賞に選ばれたビンコ・トミシックの「El ladrón de perros / The Dog Thief」は、20246月開催のトライベッカ映画祭でプレミアされるや、グアダラハラ、ミュンヘン、AFIラテンアメリカ、リオデジャネイロ、トルコのアンタルヤ・ゴールデン・オレンジ、インド、マル・デル・プラタ各映画祭、翌年にはスウェーデンのヨーテボリ、そしてマラガにやってきた。共同監督での長編はあるが本作がソロデビュー作品である。監督紹介は後述しますが、まずは作品紹介から。

マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ⇒2025年03月28日 

 

El ladrón de perros / The Dog Thief

製作:Color Monster / Zafiro Cinema / Calamar Cine / Easy Riders Films

監督:ビンコ・トミシック

脚本:ビンコ・トミシック、サム・ハイライ

撮影:セルヒオ・アームストロング

音楽:ウィサム・ホジェイ

編集:ウルスラ・バルバ・ホプフナー

製作者:アルバロ・マンサノ・サンブラナ、エダー・カンポス、マティアス・デ・ブルギニョンBourguignon、ガブリエラ・メーレMaire、(エグゼクティブ)ナディア・トゥリンチェフ、フランチェスカ・ノイア・ファン・デル・シュタイ、ほか

 

データ:製作国ボリビア=チリ=メキシコ=フランス=イタリア、2024年、スペイン語、ドラマ、90分、撮影ボリビアのラパス、配給販売 Luxbox、公開チリ20248月、ボリビア同年10月、他

 

映画祭・受賞歴:トライベッカ映画祭2024ワールドプレミア、グアダラハラ映画祭イベロアメリカ部門(アルフレッド・カストロが生涯功労賞、フランクリン・アロがメンション受賞)、ミュンヘン映画祭シネビジョン・コンペ、AFIラテンアメリカ映画祭、リオデジャネイロ映画祭、アンタルヤ・ゴールデン・オレンジ映画祭(フランクリン・アロ主演男優賞)、インド映画祭、マル・デル・プラタ映画祭、ケララ映画祭、以下2025年、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭イベロアメリカ映画(金のビスナガ作品賞)、マイアミ映画祭(マリンバス賞ノミネート)、モスクワ映画祭、フォルケ賞2024ラテンアメリカ映画部門ノミネート、イベロアメリカ・プラチナ賞2025オペラ・プリマ賞&価値ある映画と教育プラチナ賞ノミネート、第20回サンティアゴ映画祭SANFIC(フランクリン・アロ男優賞)、ハバナ映画祭脚本賞、リマ映画祭審査員特別賞、プンタ・デル・エステ映画祭(ウルグアイ)監督賞受賞、他

   

    

        (監督も出席したボリビア公開イベント、2024年10月15日)

 

キャスト:アルフレッド・カストロ(セニョール・ノボア)、フランクリン・アロ・ワスコ(マルティン)、テレサ・ルイス(セニョリータ・アンドレア)、マリア・ルケ(グラディス)、フリオ・セサル・アルタミラノ(ソンブラス)、ニノン・ダバロス(アンブロシア夫人)、クレベル・アロ(モネダス)、他

 

ストーリー15歳の孤児マルティンは首都ラパスの広場で靴磨きをして働いている。先住民であることを隠すため毛糸の帽子を被っている。差別されないためである。亡くなった母親の友人グラディスの家で暮らしている。彼の上得意であるセニョール・ノボアは独り身の洋服仕立屋で、美しいジャーマンシェパードが唯一の友である。マルティンは彼を父親ではないかと思いはじめている。マルティンは彼に近づくため予想もしない行動に出る。

   


      (ジャーマンシェパードを連れて靴磨きに来るセニョール・ノボア)

 

         

                        (セニョール・ノボアとマルティン)

    

            

                                          (ジャーマンシェパードとマルティン)

 

監督紹介ビンコ・トミシック・サリナス、チリの監督、脚本家、製作者。2014年、初短編「Durmiente」(アルゼンチン、16分)が、フィクナム、グアダラハラ、カリ、サンパウロ、バンクーバー、各映画祭に出品される。同年制作会社「Calamar Cine」を設立、2016年、フランシスコ・エビアと共同監督した「El fumigador / Cockroach」(チリ=アルゼンチン、80分)が、第20PÖFFタリン・ブラックナイツでプレミアされ、サンティアゴ映画祭SANFIC 2016で「ベスト・ナショナル・フィルム」を受賞する。2018年、短編「Aicha」(アルゼンチン=ボリビア=チリ、11分)は、ビアリッツ、グアダラハラ、シカゴ、ロカルノアカデミー2019で上映される。2024年「El ladrón de perros」で長編ソロデビューを果たした。本作はカンヌのシネフォンダシオン・レジデンシアとベネチアのビエンナーレ・カレッジ・シネマによって企画されました。短編は英語字幕入りで見ることができます。

  

     

                 (監督とフランクリン・アロ、グアダラハラ映画祭2024

 

       

(「El fumigador / Cockroach」)

 

キャスト紹介:ボリビアのラパスを舞台に監督と同胞である受賞歴を誇るアルフレッド・カストロとオーディションで起用されたボリビアのフランクリン・アロを軸に展開します。カストロはチリを離れてスペインの国籍を取り二重国籍(キャリア紹介は以下)。アロは12歳のときから実際に靴磨きをして働いていた。先住民は学校で差別される。何とか自分の人生を変えたいと考えていたときオーディションが開催されることを聞いて応募した。今は靴磨きを恥じていないし誇りを持つことができたが変えるのは簡単ではないと、マラガ映画祭のインタビューに答えていた。

アルフレッド・カストロのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20240523

     

  

               (フランクリン・アロ)

                       


    (時々学校にも行くマルティン)

   

★脇を固めるのはメキシコの女優テレサ・ルイス(ナタリア・ベルスタインの『ざわめき』)、マリア・ルケ(マテオ・ヒルの『ブラックソーン』)、アンブロシア夫人を演じるのはボリビアの女優ニノン・ダバロス、そのほかは本作でデビューしている。アルフレッド・カストロとテレサ・ルイスは、キャリア紹介をしています。

レサ・ルイスのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20230128  

  

スタッフ紹介:撮影監督のセルヒオ・アームストロングは、チリのパブロ・ララインのピノチェト三部作(0812)(『トニー・マネロ』、『ポスト・モーテム』、『ノー No』)ほか、『ザ・クラブ』(15)、『ネルーダ大いなる愛の逃亡者』(16、ペドロ・シエナ賞)、『エマ、愛の罠』(19)などララインの代表作を手掛けている。また金獅子賞をラテンアメリカに初めてもたらしたロレンソ・ビガスとタッグを組んだ『彼方から/フロム・アファー』(15)、ベネズエラ出身だがメキシコに移住して撮った『箱』(21)などを手掛けている。他にチリを脱出してアメリカで製作しているセバスティアン・シルバやマイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』(24)も撮っている。


★音楽監督ウィサム・ホジェイは、レバノン出身だがフランスを拠点に活動している映画音楽の作曲家。カミラ・ベルトランのスリラー「Mi bestia」(24、コロンビア=フランス)を担当、映画はシッチェス映画祭イベロアメリカ映画賞を受賞している。製作者のアルバロ・マンサノ・サンブラナは、「映画はラテンアメリカの、またはボリビアの現実を反映している。資金不足で映画製作は難しいが、この映画の成功で力を得た」とマラガで語っている。

    

    

   (アルバロ・マンサノとフランクリン・アロ、マラガ映画祭2025、プレス会見にて)


審査員特別賞受賞作ベレン・フネス「Los Tortuga」*マラガ映画祭2025 ⑪2025年04月25日 13:23

         ベレン・フネスの第2Los Tortuga」が4冠の快挙

    

    

 

ベレン・フネス2作めLos Tortuga」は、審査員特別賞監督賞脚本賞(共同執筆マルサル・セブリアン)、SIGNIS(カトリック・メディア協議会賞)の4冠を受賞しました。長編デビュー作「La hija de un ladrón」はサンセバスチャン映画祭2019のセクション・オフィシアルにノミネート、主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞しました。ゴヤ賞2020新人監督賞を受賞した折、作品紹介もキャリア&フィルモグラフィーも簡単に紹介しただけでしたので、脚本共同執筆者のマルサル・セブリアンも含めてアップいたします。

ベレン・フネスのキャリア紹介は、コチラ20191224

マラガ映画祭2025授賞式の記事は、コチラ20250328

 

Los Tortuga / The Exiles

製作:Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Plícula /

    Quijote Films  

   協賛 3Cat / Cenal Sur Radio y Televisión / Canal Sur Televisión / ICEC / 

      ICAA / RTVE / TV3、他

監督:ベレン・フネス

脚本:ベレン・フネス、マルサル・セブリアン

撮影:ディエゴ・カベサス

音楽:パロマ・ペニャルビア

編集:セルヒオ・ヒメネス-AMAE

美術:パウラ・エスプニー

キャスティング:クリスティナ・ペレス、イレネ・ロケ、マリチュ・サンス

衣装デザイン:ルルデス・フエンテス

メイクアップ&ヘアー:サラ・カセレス

製作者:オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド(La Claqueta)、アントニオ・チャバリアス(Oberon Media)、マヌエル・H・マルティン、アンヘルス・マスクランズ、ジャンカルロ・ナシ(Quijote Films)、カルロス・ロサド・シボン、(エグゼクティブ)アルバ・ボッシュ・デュラン、サラ・ゴメス(La Claqueta)、(アソシエイトプロデューサー)マルサル・セブリアン

 

データ:製作国スペイン=チリ、2024年、スペイン語・カタルーニャ語、ドラマ、109分、撮影地バルセロナとハエン県、販売 Film Factory Entertainment、配給(スペイン)A Contracorriente Films、公開スペイン20241115

   

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2024セクション・センターピースでプレミア、テッサロニキ映画祭 Meet the Neighbors コンペティション、女優賞(アントニア・セヘルス)、スペシャル・メンション(エルビラ・ララ)、マル・デル・プラタ映画祭、以下2025年、パームスプリングス映画祭、ヨーテボリ映画祭、マラガ映画祭(上記)、クリーブランド映画祭新人監督部門コンペティション、マイアミ映画祭ナイト・マリンバス賞受賞

 

キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(娘アナベル)、マメン・カマチョ(イネス)、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・ジェルペス、ビアンカ・コバックス(Iuliana)、セバスティアン・アロ(ホセ)、ノラ・サラ=パタウ、ギレム・バルボサ、パディ・パディリャ(郵便配達員)、ジョルディ・ぺレス(ハビ)、ペドロ・カステリャノ、他

 

ストーリー:夫フリアンが亡くなってから、デリアとアナベル母娘は彼のいない人生に向き合っています。経済的困窮から立ち退きの脅威に晒されています。ハエンのオリーブ畑とバルセロナの街並みを舞台に、母娘は異なった方法で喪に服していますが、愛と痛み、優しさと辛さのバランスを取りながら、自分たちの不確実な将来の再建に立ち向かおうとしています。

    

         

                (フレームから)

 

監督紹介ベレン・フネス1984年バルセロナのリポレト生れ、監督、脚本家。2008年、バルセロナ大学に付属しているESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)のコミュニケーションと監督の学位を取得、その後キューバに渡りEICTV(映画テレビジョン国際学校)の修士コースで学んだ。2015年短編「Sara a la fuga」で監督デビュー、マラガ映画祭の銀のビスナガ短編賞監督賞を受賞した。2017年短編2作目「La inútil」(17分)がメディナ映画祭脚本賞をマルサル・セブリアンと受賞、ガウディ賞短編部門にノミネート、2018年トロント映画祭のタレントラボに選ばれ、長編デビュー作の脚本を執筆する。翌年サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルに「La hija de un ladrón」のタイトルでノミネートされた。本作は短編「Sara a la fuga」がベースになっている。主演のグレタ・フェルナンデスが女優賞を受賞した他、トゥールーズ・シネスパニャ脚本賞、翌年のガウディ賞では非カタルーニャ語映画賞監督賞脚本賞3冠、ゴヤ賞新人監督賞を受賞した。バジャドリード映画祭2019で女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞も受賞している。新作Los Tortugaが長編第2作になる。

   

     

                   ビュー作「La hija de un ladrón」のポスター)

   

        

         (新人監督賞を受賞したベレン・フネス、ゴヤ賞2020ガラ)

 

脚本家紹介マルサル・セブリアン1983年バルセロナ生れ、脚本家、脚本アナリスト、製作者、俳優、バルセロナ大学の教師。23歳という年齢でESCACの脚本特別コースで学んだという遅咲きの脚本家。ベレン・フネスの全4作の脚本を共同執筆している他、2012年マルティ・サンスのドキュメンタリー「Lestigma?」(スペイン=イスラエル)、2019年ラファ・デ・ロス・アルコスの短編「Todo el mundo se parece de lejos」(15分)にそれぞれ監督と共同執筆している。受賞歴はベレン・フネスと同じです。俳優としてリリアナ・トーレスのコメディ「Family Tour」(13)に出演している。20254月、GAC(カタルーニャ脚本家連合)の総会で新会長に選出されました。

 

           

         

       (マルサル・セブリアンとベレン・フネス、ガウディ賞2020ガラ)

 

キャスト紹介アントニア・セヘルス1972年サンティアゴ生れ、映画、舞台、TV女優。父は産婦人科医のフェルナンド・セヘルス、母は仏教徒でアドベンチャー・カメラマンのモニカ・オポルト。セント・ジョージ学校で学び、その後グスタボ・メサ演劇学校(現テアトル・イメージ)で演技を学んだ。チリ国営テレビでテレノベラ(連続テレビ小説)に出演、キャリアを積んだ。1995年、クリスティン・ルカスの「En tu casa a las ocho」のアントニエタ役で映画デビューする。その後の活躍は以下のフィルモグラフィーの通りです。2006年にパブロ・ララインと出遭い、彼の代表作「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『No』)、『ザ・クラブ』では映画の鍵を握る訳ありシスター・モニカ役で存在感を示した。私事に触れると、ララインとは長女誕生の2008年正式に結婚、2011年に長男誕生するも2014年離婚している。しかし離婚後もララインのスペイン語映画のほぼ全作に出演している。映画祭上映、公開、ネット配信など字幕入りで見ることができた。

   

    

        (G.G.ベルナルとタッグを組んだ『No』のフレームから)

 

    

         (チリの名優が共演した『ザ・クラブ』のフレームから)

 

★もう一人の重要な監督マティアス・ビセとは、ラライン映画より先の長編デビュー作「Sábado」(03)に起用された。たった65分間の映画でしたがマンハイム・ハイデルブルク映画祭でファスビンダー記念特別賞、FIPRESCI賞、チリのアルタソル賞を受賞した問題作、セヘルスは妊婦役に扮した。その後も度々オファーを受け出演している。2022年に主演した「El castigo」では、旅行中に行方不明になった子供の母親に扮し、その複雑な母性の危うさや揺らぎを見事に演じて多数の受賞に輝いた。

 

          

  

    (マラガ映画祭2023セクション・オフィシアルにノミネートされた「El castigo」)

 

★ラライン映画では、監督お気に入りのアルフレッド・カストロとタッグを組むことが当然多いわけだが、他の監督、例えばマルセラ・サイドがカンヌ映画併催の「批評家週間」にノミネートされた「Los perros」(17)でも、軍事独裁政権下で体制側に与していた過去を引きずるセレブ階級の女性を演じている。ほか女性監督のドミンガ・ソトマヨールの「Tarde para morir joven」、マヌエラ・マルテッリの『1976』などが挙げられる。

   

      

          (共演したカストロとセヘルス、「Los perros」から)

 

★少女時代から女優になることが夢だった由、「声がよかったが歌手になるには無理があった。趣味は料理、魚は食べるベジタリアン、多様性に欠けているからテレビは見ません、後ろめたい娯楽はサウナ」だそうです。スペイン語版ウイキペディアによると、ララインと出会う前のパートナーは舞台俳優のリカルド・フェルナンデス(200104)、ララインと別れてからはミュージシャンのGepe(ダニエル・アレハンドロ・リベロス・セプルべダ、201517)とある。

 

★演劇では、アリエル・ドルフマンの戯曲『死と乙女』でアルタソル賞2012女優賞、TVシリーズでは、「Secretos en el jardín」(20131490話)でアルタソル賞2014女優賞、「La jauría」(201922、全16話)でプロドゥ賞2020、カレウチェ賞2021主演女優賞に各ノミネートされた。カレウチェCaleuche賞は2015年から始まったチリ俳優組合が選考母体の賞、「変容する人」に与えられる。セヘルスは『ザ・クラブ』で2016年助演女優賞を受賞している。

 

主なフィルモグラフィー(監督名、主な受賞歴、なお短編・テレノベラ・TV は割愛)  

1995En tu casa a las ocho」クリスティン・ルカス

2003Sábado」マティアス・ビセ

2007Pecados」マルティン・ロドリゲス

2008Tony Manero」『トニー・マネロ』パブロ・ラライン「ピノチェト三部作」の1

   テレビプロデューサー役

2010Post Mortem」『ポスト・モーテム』同「ピノチェト三部作」の2、主役

   ハバナFF 2010女優賞・アントファガスタFF 女優賞、アルタソル賞ノミネート

2010La vida de los peces」マティアス・ビセ 助演

   ペドロ・シエナ賞2011助演女優賞ノミネート

2012No」『Noノー』「ピノチェト三部作」の3G.G.ベルナルの元妻の反体制活動家役

2015El club」『ザ・クラブ』パブロ・ラライン 助演

   シカゴFF 2015俳優賞・カレウチェ賞2016助演女優賞・ペドロ・シエナ賞2016

   イベロアメリカ・プラチナ賞2016助演女優賞ノミネート多数

2015La memoria del agua」マティアス・ビセ 脇役

2017Una mujer fantastica」『ナチュラルウーマン』セバスティアン・レリオ 

   レストラン店主役

2017Los perros」マルセラ・サイド 主役

   ストックホルムFF 2017女優賞・アルトゥラスFF 2018主演女優賞、ノミネート多数

2017Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』パブロ・ラライン、端役

2018Tarde para morir joven」ドミンガ・ソトマヨール 脇役

2021Mensajes privados」マティアス・ビセ

20221976」『1976』マヌエラ・マルテッリ 脇役

2022El castigo」マティアス・ビセ 主役

   タリン・ブラックナイツ2022女優賞・ペドロ・シエナ賞2022、以下シアトル、

     トリエステ、ブエノスアイレス、リマ各映画祭2023女優賞、北京FF 2024女優賞

2023El conde」『伯爵』パブロ・ラライン 脇役

   イベロアメリカ・プラチナ賞2024助演女優賞ノミネート

2024Los domingos mueren mas personas」(アルゼンチン)アイール・サイド、脇役

2024Los Tortuga」(スペイン合作)ベレン・フネス、主役

  

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『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ20151018

Los perros」の紹介記事は、コチラ20170501

『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ20171122

Mensajes privados」の紹介記事は、コチラ20220314

1976』の紹介記事は、コチラ20220913

El castigo」の紹介記事は、コチラ202303月03

Los domingos mueren mas personas」の紹介記事は、コチラ20240829

 

 

★カンヌ映画祭2025コンペティション部門&「ある視点」、カンヌFF併催の「監督週間」&「批評家週間」などのノミネーション発表があり、全体像が見えてきました。スペインからはコンペティション部門にオリベル・ラシェ3作目「Sirat」とカルラ・シモン3作目「Romeria」の2作がノミネートされました。また「ある視点」部門にディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamennco」、コロンビアのシモン・メサ・ソトのコメディ「Un poeta」など、今年は珍しく4 作もノミネートされました。順次作品紹介を予定しています。

 

オリベル・ラシェ Oliver Raxe は、相変わらずオリヴィエ・ラセ、オリバー・ラクセと表記が定まりませんが、前作『ファイアー・ウィル・カム』で来日した折に確認したところ、ガリシア語読みのオリベル・ラシェが最も近いということでしたので、当ブログでは前作以後こちらに統一しています。