アイタナ・サンチェス=ヒホンにゴヤ栄誉賞2025*ゴヤ賞2025 ② ― 2024年12月17日 10:34
ゴヤ栄誉賞の女性最年少受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンの軌跡
(ゴヤ栄誉賞2025受賞が発表された、10月17日フォトコール)
★前回に引き続き、ゴヤ栄誉賞受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンのキャリア&フィルモグラフィー紹介です。授賞理由、記者会見での受賞者コメントは前回に譲りますが、折に触れて紹介してきた記事と重なる部分があります。生涯功労賞の意味合いもある賞ですから56歳になったばかりは如何にも若い。それに現役バリバリですからフィルモグラフィーもこれで終わりにはならない。授賞発表が誕生日直前だったので55歳受賞になります。10年前の2015年、54歳という若さで受賞を打診されたアントニオ・バンデラスは最初固辞した経緯がありましたが、今回はすんなりいった。フアン・カルロス・フィッシャー演出の「La madre」の舞台に上がる寸前に、映画アカデミー会長から電話で知らせを受けたと語っている。
★アイタナ・サンチェス=ヒホン・デ・アンジェリス:映画、舞台、TVの女優。1968年11月5日、フランコ独裁を逃れてイタリアに亡命していたスペイン人の歴史学者でスペイン語翻訳家の父アンヘル・サンチェス=ヒホン・マルティネスと、イタリア人の数学教授フィオレラ・デ・アンジェリスの娘としてローマで生まれた。クリスチャンネームは、27年世代を代表する詩人で戯曲家のラファエル・アルベルティが名付け親、彼の娘アイタナ・アルベルティから採られた。イタリアとスペインの二重国籍、2002年造形アーティストのパピン・ルッカダンと結婚したが、2020年に離婚していたことを昨年の誕生会で明らかにした。2人の子供は既に成人している。1998年ホセ・ルイス・ボラウの後を継いで、女性初となるスペイン映画アカデミー会長を短期間だが務めている(~2000)。ローマ在住。
(毎回ベストドレッサーに選ばれるアイタナ、デザインはカロリナ・エレーラ、
宝石はカルティエ、ゴヤ賞2023ガラ、助演男優賞プレゼンターでした)
★フィルモグラフィー:劇場公開、ネット配信、DVD発売など邦題のある作品を中心に、未公開だが受賞歴のある作品、TVシリーズの話題作も含めて年代順にアップします。1986年、TVシリーズ、ペドロ・マソの「Segundo enseñanza」(13話)のうち7話に出演、キャリアをスタートする。続いて同年ホセ・マリア・フォルケの現実とフィクションを取り交ぜた「Romanza final(Gayarre)」で映画デビューした。19世紀のテノール歌手フリアン・ガヤレのビオピック、フリアンにホセ・カレーラスが扮した。アントニオ・ヒメネス=リコ、フェルナンド・フェルナン・ゴメス、そして1989年フェルナンド・コロモのコメディ「Bajarse al moro」でアントニオ・バンデラス、フアン・エチャノベ、ベロニカ・フォルケと共演、その演技が注目された。ペドロ・デ・ラ・ソタの「Viento de cólera」で主演、ムルシア・スペイン映画週間でパコ・ラバル女優賞を受賞した。
(4人とも若い、ベロニカは既に旅立っている、「Bajarse al moro」から)
★90年代にはいると、主役、準主役に抜擢され、受賞には至らずとも国際映画祭でのノミネートも増えていきました。1993年は特に収穫の年で、アントニ・ベルダゲルの「Havanera 1820」でシネマ・ライターズ・サークル女優賞、ピラール・ミロの「El pájaro de la felicidad」でメルセデス・サンピエトロの義理の娘を好演、メキシコのアルフォンソ・アラウの『雲の中で散歩』でキアヌ・リーヴスと共演、フォトグラマス・デ・プラタ女優賞ノミネート、アドルフォ・アリスタラインの「La ley de la frontera」のジャーナリスト役、マヌエル・ゴメス・ペレイラの『電話でアモーレ』で共演のハビエル・バルデム(ゴヤ賞受賞他多数)と揃ってACEプレミアを受賞した。筆名クラリン(レオポルド・アラス)の同名小説「La Regenta」(『ラ・レヘンタ/裁判官夫人』)をドラマ化したTVミニシリーズ(3話)でカルメロ・ゴメスと共演、共にフォトグラマス・デ・プラタ(TV部門)の女優、男優賞をそれぞれ受賞、さらに彼女はスペイン俳優組合の主演女優賞も受賞した。現在のスペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテが監督と脚色を手掛けた話題作で、当時のお茶の間を釘付けにした。
(キアヌ・リーヴスと『雲の中で散歩』から)
(ドラマ「La Regenta」の裁判官夫人に扮したアイタナ)
★ハイメ・チャバリの「Sus ojos se cerraro y el mundo sigue andando」、アルゼンチンのフアン・ホセ・カンパネラのサスペンス『ラブ・ウォーク・イン』(「Ni el tiro del final」)の歌手役、ビセンテ・アランダの「Celos」、ビガス・ルナの「La camarera del Titanic」でトゥリア女優賞、ロルカの戯曲を映画化したメキシコのマリア・ノバロの「Yerma」では主人公イェルマ、夫フアンにフアン・ディエゴが扮した他、ギリシャのイレネ・パパスが老婆役で共演した。特筆すべきはビガス・ルナの『裸のマハ』のアルバ公爵夫人役でサンセバスチャン映画祭1999女優賞を受賞したが、ゴヤ賞にはノミネートさえされなかった。
(ゴヤ役のホルヘ・ぺルゴリアとアルバ公爵夫人のアイタナ)
★今世紀に入ると海外の監督からのオファーも多くなり、イタリアのガブリエレ・サルヴァトレスのミステリー『ぼくは怖くない』(「Io non ho paura」)、妊娠7カ月で撮影に臨んだエドゥアルド・コルテスの「Carta mortal」、アメリカのブラッド・アンダーソンのサイコスリラー『マシニスト』(バルセロナ映画祭主演女優賞)、アルゼンチンのルイス・プエンソの『娼婦と鯨』など、公開あるいは未公開だがDVDが発売され、日本でも字幕入りで見られる映画が増えていった。
★2000年後半、コルド・セラのホラー「Bosque de sombras」、ベントゥラ・ポンスの『密会1723号室』ではホセ・コロナドと共演、ゴンサロ・スアレスの「Oviedo Express」は、かつてTVでドラマ化されたクラリンの「La Regenta」をベースにして、舞台上演のため巡業している役者たちがオビエド急行でアストゥリアスに向かっているというロマンティック・コメディ。アイタナもカルメロ・ゴメスも同じ役で共演した。イタリアのシルヴィオ・ムッチーノ監督が主役も演じた「Parlami d'amore」(イタリア語)ではフランス人の人妻役だった。役柄によってスペイン人、イタリア人、フランス人を演じ分けた。
★2011年、パコ・アランゴのコメディ「Maktub」では、アルゼンチンのディエゴ・ペレッティとタッグを組み、アランゴはゴヤ賞新人監督賞にノミネートされた。イタリア映画だがマッテオ・ロヴェーレのラブコメ「Gli sfiorati」は未公開ながら『妹の誘惑』の邦題でDVD化されている。その後演劇にシフトして銀幕から遠ざかり、2018年のパトリシア・フェレイラの『ティ・マイ~希望のベトナム~』で戻ってきた。主役はカルメン・マチだが、ネットフリックスで配信された。アルモドバルの『パラレル・マザーズ』(ゴヤ賞2022助演女優賞ノミネート、フェロス賞とイベロアメリカ・プラチナ賞受賞)、フラン・トーレスの『ラ・ヘファ:支配する者』、アントニオ・メンデス・エスパルサの「Que nadie duerme」(スペイン俳優組合&フェロス賞助演女優賞ノミネート)と受賞やノミネートが続いている。
(「Que nadie duerme」出演で、フェロス賞2024助演女優賞ノミネート)
★他に、サラゴサ映画祭2004サラゴサ市賞、アルメリア映画祭2022アルメリア・ティエラ・デ・シネ賞を受賞している。現在ネットフリックスTVシリーズ『レスピーラ/緊急救命室』(全16話)が8月から配信されている。主人公に『エリート』出演で人気上昇中のマヌ・リオス、アイタナの他ナイワ・ニムリ、ブランカ・スアレス、ボルハ・ルナなどベテラン勢が脇を固めているが、評価は厳しいか。
◎主なフィルモグラフィー(TVシリーズ、短編は除く)
1986「Romanza final(Gayarre)」ホセ・マリア・フォルケ
1987「Redondela」ペドロ・コスタ
1988「No hagas planes con Marga」ラファエル・アルカサル
「Remando al viento」ホラー、『幻の城 バイロンとシェリー』ゴンサロ・スアレス、
英語、公開
「Jarrapellejos」アントニオ・ヒメネス=リコ
1989「Bajarse al moro」コメディ、フェルナンド・コロモ
「El mar y el tiempo」フェルナンド・フェルナン・ゴメス
「Viento de cólera」ペドロ・デ・ラ・ソタ、
ムルシア・スペイン映画週間パコ・ラバル女優賞
1991「El laberinto griego」ラファエル・アルカサル
1992「El marido perfecto」ベダ・ドカンポ・フェイホー
1993「Havanera 1820」キューバ合作、アントニ・ベルダゲル、
シネマ・ライターズ・サークル女優賞
「El pájaro de la felicidad」ピラール・ミロ
1995「Un paseo por las nubes」『雲の中で散歩』メキシコ=米、アルフォンソ・アラウ、
公開1995
「La ley de la frontera」アルゼンチン合作、アドルフォ・アリスタライン
「Boca a boca」『電話でアモーレ』マヌエル・ゴメス・ペレイラ、公開1997
1997「Sus ojos se cerraro y el mundo sigue andando」アルゼンチン合作、
ハイメ・チャバリ
「Ni el tiro del final」『ラブ・ウォーク・イン』米=アルゼンチン、
フアン・ホセ・カンパネラ、英語、未公開、ビデオ発売1999
「La camarera del Titanic」仏=伊=独=西、ビガス・ルナ、トゥリア女優賞1998
1998「Yerma」ピラール・タボラ
1999「Celos」ビセンテ・アランダ
「Volavérunt」『裸のマハ』ビガス・ルナ、サンセバスチャン映画祭1999女優賞
2000「Sin dejar huella」メキシコ合作、マリア・ノバロ
2001「Mi dulce」イタリア合作、ヘスス・モラ・ガマ
「Hombres felices」ロベルト・サンティアゴ
2003「Io non ho paura」」『ぼくは怖くない』伊=西=米、スリラー、
ガブリエレ・サルヴァトレス、イタリア語、公開2004
2003「Carta mortal」クライム、エドゥアルド・コルテス
2004「El maquinista」『マシニスト』米合作、サイコスリラー、ブラッド・アンダーソン、
英語・スペイン語、バルセロナ映画女優賞、公開2005
2004「La puta y la ballena」『娼婦と鯨』アルゼンチン合作、ルイス・プエンソ、
未公開、DVD発売
2006「Bosque de sombras」スリラー、コルド・セラ
「Animales heridos」『密会1723号室』ベントゥラ・ポンス、未公開、DVD発売
2007「Oviedo Express」コメディ、ゴンサロ・スアレス
「La carta esférica」イマノル・ウリベ、ペレス=レベルテの小説の映画化
2008「Parlami d'amore」(スペイン題「Háblame de amor」)イタリア合作、
シルヴィオ・ムッチーノ、イタリア語
2011「Maktub」アルゼンチン合作、パコ・アランゴ
「Gli sfiorati」『妹の誘惑』ラブコメ、イタリア、マッテオ・ロヴェーレ、
イタリア語、DVD発売
2018「Thi Mai, rumbo a Vietnam」『ティ・マイ~希望のベトナム』
パトリシア・フェレイラ、Netflix 配信
2021「Madres paralelas」『パラレル・マザーズ』ペドロ・アルモドバル、
ゴヤ賞2022助演女優賞ノミネート、フェロス賞&イベロアメリカ・プラチナ賞受賞
2022「La jefa」『ラ・ヘファ:支配する者』フラン・トーレス、Netflix 配信
2023「Mi otro Jon」パコ・アランゴ
「Que nadie duerme」ルーマニア合作、アントニオ・メンデス・エスパルサ、
フェロス賞助演女優賞ノミネート
*「Que nadie duerme」とアイタナ・サンチェス=ヒホン紹介は、コチラ⇒2024年01月11日
*スペイン映画アカデミー金のメダル受賞記事は、コチラ⇒2015年08月01日/11月20日
(金のメダル2015をフアン・ディエゴと受賞する)
★ゴヤ賞2025ノミネート発表は、昨年より大分遅れましたが、現地グラナダから12月18日11:00とアナウンスされました。現地発表は今回が初、例年はマドリードの本部ですから珍しい。司会者はナタリア・デ・モリーナとアルバロ・セルバンテスの二人。
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