フェリックス・ビスカレトの新作「Una vida no tan simple」 ― 2023年07月11日 17:47
人間の複雑さについての繊細で知的、辛辣で的確なシリアスコメディ

(パパ業は思うほどラクな仕事ではありません)
★前回の「Upon Entry / La llegada」と同じ、第26回マラガ映画祭2023でノミネートされたフェリックス・ビスカレトの辛口コメディ「Una vida no tan simple」がスペインで公開されました。各紙誌の評価は軒並みポジティブです。既に若者とは言えない、かといってシニアとも言えない宙ぶらりんの40代男性の悲哀が語られる。マラガでざっと紹介しましたが、日本の40代でも似たような傾向がみられることや贔屓の監督とキャスト陣ということで改めて紹介します。現代のように不確実性のなかで生きていくには、なりたかった自分になれないのは致し方ないのか、軽率に父親になってしまったことが悪かったのか、何処で間違ってしまったのか。こどもを持ってしまった中産階級カップルの繊細な可笑しさを失わない寓話。
*「Una vida no tan simple」の作品紹介は、コチラ⇒2023年03月14日
* 監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2017年11月11日

(左から、ミキ・エスパルベ、オラヤ・カルデラ、フェリックス・ビスカレト監督、
アレックス・ガルシア、アナ・ポルボロサ、マラガ映画祭2023フォトコール)
「Una vida no tan simple」(仮題「人生はそれほど容易でない」)
製作:Lamia Producciones / A Contracorriente Films / Euskal Irrati Telebista
(EiTB)/ Movistar+ 協賛 Gobierno de Navarra
監督・脚本:フェリックス・ビスカレト
音楽:ミケル・サラス
撮影:オルカル・ドゥラン
編集:ビクトリア・ランメルス
美術:エイデル・ルイス
キャスティング:フロレンシア・イネス・ゴンサレス、チャベ・アチャ
衣装デザイン:イラチェ・サンス
製作者:アドルフォ・ブランコ、イケル・ガヌサ、(エグゼクティブ)マヌエル・モンソン、パス・レコロンス、エレナ・タベルナ
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語、ドラマ、107分、撮影地ビルバオ、期間2021年末、公開スペイン2023年06月23日
映画祭・受賞歴:第26回マラガ映画祭2023セクション・オフィシアル正式出品
キャスト:ミキ・エスパルベ(イサイアス)、アレックス・ガルシア(同僚ニコ)、アナ・ポルボロサ(ソニア)、オラヤ・カルデラ(妻アイノア)、フリアン・ビジャグラン、ラモン・バレア、シャビ・バルカルセル
ストーリー:40歳のイサイアスは受賞歴のある有望な建築家でした。現在、彼は建築スタジオと子供たちが遊ぶ公園の間を行ったり来たりの日々を過ごしていますが、何処にいても自分がいるべき場所にいないと感じています。皆は別の場所にいて誰も自分のことなど覚えていないと感じています。彼の妻アイノアとの関係では月日の経過を感じ良好とはいえません。幼い子供たちが如何に大人を疲れさせるかを痛感しているイサイアスはいつもへとへとになっている。他の子供の賢明な母親であるソニアとの友情を深めますが、彼女は子供を一人前に育てて大人にするのは、それほど簡単ではないことを彼に教えます。誰もが喧嘩をせず友好的になろうとして、慎重かつ賢明な会話が交わされる、中産階級40代カップルの危機を掘り下げる。

(一人ずつ我が子を抱えたイサイアスとアイノア、フレームから)
生きることは簡単な仕事ではない、確実なノウハウもありません
★かつてモラトリアム世代と言えば、20代30代だったものが、現在では40代と期間がどんどん長くなり、世間全体が幼児化してきているように感じます。このままだと子供を大人に教育する世代がいなくなってしまうのではないかと気になりますw。ディテールは未見なので想像の域をでませんが、失意の建築家イサイアスに生命を吹き込むミキ・エスパルベを見ていると、周囲の40代の誰彼の顔を浮かべてしまいます。居場所がないのではなく「ここは自分のいるべき場所ではない」という、居場所のない人からみれば贅沢な悩みなのです。イサイアスにはどうもエネルギーが足りない。
★対話劇のようですが、気まずい沈黙が訪れるとき、物語は動き出す。成功と失敗、屈辱、諦めの渦のなかで、建築家は周囲の期待に応えなければならないが、果たしてうまくいくでしょうか。結末がポジティブとネガティブに割れていますが、建築家を演じたミキ・エスパルベの評価はオール・ポジティブです。当ブログにも何回か登場させていますが、以下に日本語字幕入りで見られる作品を中心にラインナップしておきます。また大学教師の妻アイノアに扮したオラヤ・カルデラの演技をほめる記事が散見されました。イサイアスの同僚アレックス・ガルシア扮するニコとどうも微妙な関係らしいが、この手のドラマではよくある話です。離婚率の高さは万国共通、壁は日に日に低くなってきました。アナ・ポルボロサ扮する賢いソニアの造形も、クラスに一人か二人、見かけるタイプです。

(イサイアスとニコ)

(ソニアとイサイアス)
★ミキ・エスパルベ、1983年カタルーニャのマンレサ生れ、俳優、脚本家、監督(短編2本)、ポンペウ・ファブラ大学、バルセロナのNancy Tuñón’s School で演技を学ぶ。スペイン語とカタルーニャ語の映画に出演している。2016年マルク・クレウエトの「El rei borni」でガウディ賞2017主演男優賞、CEC新人賞にノミネート、2018年舞台をベルリンに移して撮った、エレナ・トラぺの「Les distàncies」で同じく助演男優賞にノミネートされている。フェルナンド・ボネリの短編「[Still] love you」でメディナ映画祭2017男優賞を受賞している。Netflixで配信されている作品も結構あり、字幕入りで鑑賞できる数少ない俳優の一人です。
* 主なフィルモグラフィー
2015「Perdiendo el norte」(「Off Course」『夢と希望のベルリン生活』Netflix)助演
監督ナチョ・G・ベリーリャ
2015「Requisitos para ser una persona normal」コメディ、同レティシア・ドレラ、助演
2016「El rei borni」監督マルク・クレウエト、主演
2017「No sé decir adiós」(『さよならが言えなくて』)監督リノ・エスカレラ、助演
2018「Les distàncies」監督エレナ・トラぺ、助演
2019「Perdiendo el este」(「Off Course to China」)監督パコ・カバジェロ、主演
2020「Malnazidos」(ホラー『マルナシドス~ゾンビの谷』Netflixコロナ禍で2022公開)
監督ハビエル・ルイス・カルデラ、主演
2021「El inocente」(『イノセント』TVシリーズ 6話出演、Netflix)助演
2021「Tres」(「Out of Sync」)監督フアンホ・ヒメネス・ペーニャ、
ガウディ賞助演男優賞ノミネート
2022「Un hombre de acción」(『オンブレ・デ・アクシオン 伝説のアナーキスト』
Netflix)ハビエル・ルイス・カルデラ、助演
2022「Smiley」(ラブコメ『スマイリー』TVシリーズ全8話)企画ギレム・クルア、主演
2023「Una vida no tan simple」割愛

(ガウディ賞主演男優賞ノミネートの「El rei borni」から)
★フェリックス・ビスカレト(パンプローナ1975)は、2007年「Bajo las estrellas」で長編デビューした監督、脚本家、製作者。キャリアは以前の紹介に譲るとして、本作以降の仕事として、目下話題のTVシリーズ「Galgos」(23、全8話)のうち4話を監督します。ベテランのオスカル・マルティネス、パトリシア・ロペス・アルナイス、アドリアナ・オソレス、若手マリア・ペドラサ、マルセル・ボラスなど新旧入り混じっての豪華キャストです。

(「Galgos」撮影中の監督、アドリアナ・オソレス、マルセル・ボラス)

(右、パトリシア・ロペス・アルナイス)

(マリア・ペドロサ)
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