シモン・メサ・ソトの「Amparo」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑭2021年08月23日 11:22

     2弾――コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作「Amparo

 

     

 

★ホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介2作目は、コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作Amparoです。カンヌ映画祭2014短編部門のパルムドール受賞作Leidiに続いて、2016年にMadreがノミネート、長編が待たれていました。1986年アンティオキア県都メデジン生れ、アンティオキア大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、後にロンドン・フィルム・スクールの奨学金を貰い映画製作の修士号を取得しています。パルムドール受賞作は同スクールの卒業制作作品だった。短編2作とキャリア&フィルモグラフィーは以下の通り:

Leidi」の作品紹介は、コチラ20140530

Madre」の作品紹介は、コチラ20160512

 

       

             (シモン・メサ・ソト監督)

 

 Amparo

製作:FDC Proimagenea Colombia / Antioquia Film Commission /

   Swedish Film Institute / Goethe Institut Bogota / Magin Comunicaciones

監督・脚本:シモン・メサ・ソト

音楽:ベネディクト・シーファー

撮影:フアン・サルミエント・G

編集:リカルド・サライバ

キャスティング:ジョン・ベドヤ

衣装デザイン:フリアン・グリハルバ

メイクアップ:フアニータ・サンタマリア

プロダクション・デザイン:マルセラ・ゴメス・モントーヤ

録音:テッド・クロトキエフスキー Krotkiewski、カルロス・アルシラ、ホルヘ・レンドン

製作者:フアン・サルミエント・G、シモン・メサ・ソト、(エグゼクティブ)マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、エクトル・ウリョケ、(共同)マルティン・エルディエス、ダビ・エルディエス、ほか

 

データ:製作国スペイン=スウェーデン=ドイツ=カタール、スペイン語、2021年、ドラマ、95分、撮影地メデジンほか

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2021併催の「批評家週間」に正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞受賞(サンドラ・メリッサ・トレス)、イスラエル映画祭国際シネマ賞ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門ノミネート

 

キャスト:サンドラ・メリッサ・トレス(アンパロ)、ディエゴ・アレハンドロ・トボン(息子エリアス)、ルチアナ・ガジェゴ(娘カレン)、ジョン・ハイロ・モントーヤ、ほか

 

ストーリー:メデジン1998年、二人の子供を育てているシングルマザー、アンパロの物語。アンパロが縫製工場での長時間に及ぶ夜勤を終えて帰宅すると、子供たちの姿がなかった。18歳になる息子エリアスが軍に強制的に連れ去られ、国境近くの危険な戦闘地に配備されてしまったことが分かってくる。彼の運命は閉じられてしまったのか。アンパロがエリアスのファイルの内容を変更して、ここから脱出できるよう或る人物に接触したのは、エリアスが徴兵された前日のことだった。殆ど選択肢のないアンパロにとって、汚職や暴力が支配する社会で自分の息子を強制徴兵から救出する方法はあるのか、彼女は時間との闘いに投げ込まれる。

   

       

            (息子を探しまわるアンパロ)

 

 

  貧しい人々によって戦われる戦争「コロンビアで生きる普通の母親たちに捧ぐ」

 

★カンヌ併催の第60回「批評家週間」のオープニング作品に選ばれた本作は、主演サンドラ・メリッサ・トレス(メデジン、31歳)に新人賞に当たる「ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞」をもたらした。全く演技経験のない新人、本作のオーディションに応募する前の職業は、家電製品店で働いていた。「映画と同じようなことを自分の母親が経験していたので、物語に入り込むのは難しくありませんでした」とサンドラ。監督も「プロではありませんでしたが飲み込みが早く、役柄へのアプローチが的確で、私たちを驚かせた」と賛辞を惜しまない。カンヌでの受賞がコロンビアにもたらされたとき「サンドラ・メリッサって誰?」と話題になったようです。

 

     

                  (サンドラ・メリッサ・トレス、フレームから)

  

      

       (ソト監督とサンドラ・メリッサ・トレス、カンヌFF2021

   

     

 (証書を披露するサンドラ・メリッサ・トレス)

 

2014年に「Leidi」が短編部門でパルムドールを受賞したシモン・メサ・ソトは、この映画は「普通のお母さんたち、コロンビアで暮らしている全ての人々に捧げます」と、また「これは非常に政治的な映画です」ともカンヌで語っていた。アンパロはメロドラマのステレオタイプ的な造形からはかけ離れている。脚本執筆時から自分の母親が念頭にあった。「私の家庭は中産階級に属していましたが、母はアンパロと同じシングルマザーで、私たち兄弟を守るためにはあらゆることをしました」と監督。監督をコロンビア軍からの自由を買うために有力者に会いに行く、これは90年代のコロンビアでは非常に一般的なことでした。兵役を果たさなかった場合、軍に誘拐される可能性が高かった。「通りを歩くのが怖かった」と監督。軍隊と犯罪者は同じ穴の狢ということです。当時のメデジンは世界で最も暴力的な都市の一つ、麻薬密売が国の秩序を破壊していた。

    

      

               (母アンパロと息子エリアス)

 

★監督は「カール・テオドア・ドレイヤーのサイレント映画『裁かるるジャンヌ』(28)の最初のフレームに大きな影響を受けている」、ジャンヌ役のルネ・ファルコネッティのノーメイクの美しさ、キャラクターに密着したクローズアップに魅了されたという。「古典的で非常にフォーマルな映画を作りたかった。古典的な映画、キェシロフスキベルイマンの調和のとれた映画を撮りたかった。自国の映画にはなかったタイプの映画です。何十年にもわたって支配してきた政治的領域に疑問を投げかけたい。私たち新世代には明らかな不適合感があり、本作は私の母が生きていた経験を背景にして、暴力を体系的に取りあげた非常に政治的な映画です」と述べている。因みにスペイン語のアンパロamparoという単語には、保護とか避難場所という意味があり、示唆的です。

 

         

              (母アンパロと娘カレン)

 

2016年の「Madre」から長編は時間の問題と思われていたが、5年も掛かってしまったのは矢張り資金不足が原因ということでした。コロンビア政府の文化助成金のほか、2017年のトリノ・フィルム・ラボを経て、スウェーデン映画協会から映画プロジェクト助成金を獲得して完成させた。製作者で撮影監督のフアン・サルミエント・G(コロンビア1984)とは、8年前の「Leidi」以来の友人でもあり、監督にとって非常に重要な存在、将来的な連携を視野に入れ、2017年に制作会社「Ocútimo」を二人で設立した。フアン・サルミエントのカメラは、ダイナミックなサンドラ(アンパロ役)を追い、彼女が主導するエネルギーとリズムを維持することを心掛けたということです。音楽担当のベネディクト・シーファー(独ローゼンハイム1978)は、ブラジルのカリン・アイヌーズA vida invisívelを手掛けている。ラテンビート2019で『見えざる人生』の邦題で上映された。