アロンソ・ルイスパラシオスにバレンシア・ルナ賞*シネマ・ジュピター ― 2024年06月29日 17:59
『グエロス』のアロンソ・ルイスパラシオスがバレンシア・ルナ賞
(受賞者アロンソ・ルイスパラシオス、バレンシアFF 6月21日)
★6月21日、2014年『グエロス』で鮮烈デビューを果たした、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオス監督(メキシコシティ1978)が、バレンシアの第39回シネマ・ジュピター・フェスティバルで「バレンシア・ルナ賞」を受賞しました。本賞は過去のキャリアよりこれからの活躍が期待される独創的なシネアストに与えられる賞です。マラガ映画祭の特別賞の一つ「才能賞」に似ています。昨年トロフィーを受け取るためにバレンシアにやってきたのは、今年のカンヌ映画祭で「Anora」(10月30日公開予定)で初めてパルムドールに輝いたショーン・ベイカー(ニュージャージー1971)でした。
★フェスティバルは、授賞理由として作品が「新鮮さ、知性、ヒューマニズム」に貢献し、「非常に異なるキャラクター、特に互いに相反する精神に対しても惜しみない理解を示した」こと、「現代メキシコの有為転変の大いなる記録者であり、皮肉やユーモアを失うことなく日々の不条理を活写した」ことなどをあげております。ルイスパラシオスは「とても感動して興奮しています。大人になりたくない登場人物という点で、私の映画には青春の要素があると思います。テーマの一つにピーターパン症候群のようなものがあります」と語っている。
★メキシコのボブ・ディランを探すロードムービー『グエロス』の登場人物がそうでした。デビュー作の成功で、第2作「Museo」にガエル・ガルシア・ベルナルを起用することができました。既に作品紹介で書きましたように、この物語は1985年のクリスマスイブにメキシコ人類学歴史博物館で起きた150点にものぼる美術品盗難事件にインスパイアされたもので、ベルリン映画祭で脚本賞を受賞しました。つづく第3作「Una película de policías」も、ベルリン映画祭2021の映画貢献銀熊賞を受賞、『コップ・ムービー』の邦題でNetflixで配信されています。ドキュメンタリーとジャンル分けされていますが、個人的にはドラマドキュメンタリー(ドクドラ)、フィクション性の高いユニークなドラマの印象です。2人の警察官に扮するモニカ・デル・カルメンとラウル・ブリオネスの演技に注目です。
*『グエロス』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
*「Museo」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月19日
*「Una película de policías」『コップ・ムービー』の紹介は、コチラ⇒2021年08月28日
(第4作「La cocina」のポスター)
★第4作がアメリカで撮った「La cocina」(24、139分、モノクロ、メキシコ=米国合作)で、言語は英語とスペイン語、前作『コップ・ムービー』主演のラウル・ブリオネスと『ドラゴン・タトゥーの女』やトッド・ヘインズの『キャロル』でカンヌ映画祭2015女優賞を手にしたルーニー・マーラが主演しています。いずれ作品紹介を予定していますが、イギリスのアーノルド・ウェスカーの戯曲 “The Kitchen” (1957)がベースになっている。20世紀半ばのロンドンから現代のニューヨークのタイムズスクエアに舞台を移しかえている。ランチタイムのラッシュ時に、世界中の文化が混ざりあうレストランの厨房で働く移民の料理人たちの生活を描いた群像劇。監督はロンドンの王立演劇学校で演技を学んでいたとき、レストランでアルバイトしていたときの経験が役に立ったと語っています。本作はベルリンFFコンペティションでプレミアされ、トライベッカ映画祭のワールド・ナラティブ・コンペティションにもノミネートされました。いずれ公開されるでしょう。
(左から、製作者ラミロ・ルイス、アンナ・ディアス、ラウル・ブリオネス、
ムーニー・マーラ、ルイスパラシオス監督、ベルリン映画祭2024のフォトコール)
「メキシコで文化が贅沢品でないと見なされることを願っています」と監督
★「ハリウッドで仕事をしても、自分はメキシコを離れることはありません。ハリウッドに移住してグリンゴの物語を撮ることに興味はありません」と強調している。先だってのメキシコ大統領選挙で勝利を手にした新大統領クラウディア・シェインバウムが10月1日付で就任します。彼女の助言者である現大統領アンドレス・ロペス・オブラドールとの決別を願う監督は、「女性が遂にこのような権力の座についたことは喜ばしい。人によってはいろいろ感情が入り混じることですが、メキシコが必要としていたことです。現大統領との繋がりが深いため事態はより複雑ですが、関係を断ち切ることを願っています。彼から独立して自由になることを信じています」と。
(バレンシア・ルナ賞の受賞スピーチをするルイスパラシオス監督)
★現大統領の6年の任期が「文化に背を向けてきた」と指摘する監督は、「文化が贅沢だと見るのを止める」よう求めた。文化が贅沢品で生活必需品ではないという文化軽視は、多かれ少なかれどこの国でもスペインでも日本でも見られる現象ですが、監督は「メキシコ映像ライブラリーが果たす役割の重要性」を受賞スピーチで強調しました。メキシコに変化があることを認める監督は、それでも「道のりはまだ遠い」と語り、映画を作るのはお金がかかることなので誰でも可能ではないが、「映画は私にとって抗議の手段なのです」ともコメントしている。
★私生活では女優イルセ・サラスとの間に2人の息子がいる。『グエロス』や「Museo」出演の他、『グッド・ワイフ』(18)、TVシリーズ『犯罪アンソロジー:大統領候補の暗殺』(19)、ロドリゴ・ガルシアの『Familia:我が家』(23)主演などで、日本では監督より認知度が高いかもしれない。
(監督とイルセ・サラス、ベルリン映画祭2018)
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