第14回セビーリャ映画祭2017*結果発表 ― 2017年11月15日 15:46
「金のヒラルダ賞」はポルトガルの “A fábrica de nada”

★映画祭最終日の11月11日夜にロペ・デ・ベガ劇場で結果発表がありました。審査員はトーマス・アルスラン、アガート・ボニゼール、フェルナンド・フランコ、パオロ・モレッティ、バレリエ・デルピエレの6人。スペインのメイン映画祭としては締めくくりとなるセビーリャ映画祭の金のヒラルダ賞 Giraldillo de Oro を制したのは、ポルトガルのペドロ・ピニョ Pedro Pinho の “A fábrica de nada”(The Nothing Factory)でした。カンヌ映画祭併催の「監督週間」の FIPRESCI 受賞作品。ドキュメンタリーとフィクションさらにミュージカルを大胆にミックスさせ、現代ポルトガルの複雑な経済状況をレトリックを排した詩的な視点で切り取り、そのオリジナル性が評価された。スペイン語映画ではありませんが、これは公開が待たれる映画の一つです。

★上映時間3時間に及ぶミュージカル・ドラマ “A fábrica de nada” 完成の道のりは困難を極めたと監督、本国ポルトガルでも9月下旬に公開できたのは映画祭の評価のお蔭とも語っていた。ヨーロッパといってもフランスのような映画大国とは異なり、ポルトガルの現状は厳しい。「経済危機は全ヨーロッパで起きている普遍的なテーマだから、海外の観客にも容易に受け入れられてもらえると思う」と、受賞の喜びを言葉少なに語っていた。また「ペドロ・コスタやセーザル・モンテイロのような同胞が道を開いてくれたお蔭」と先輩監督への感謝も述べていた。若いが謙虚な人だ。映画祭上映以外では、目下のところアルゼンチンとフランスが公開を予定している。

◎審査員大賞:ドイツ映画 “Western”(監督ヴァレスカ・グリーゼバッハの第3作)カンヌ映画祭コンペティション外出品、多くの国際映画祭に出品されている。
◎審査員スペシャル・メンション:ルクレシア・マルテルの『サマ』(アルゼンチン、スペイン他合作)、ベネチア映画祭コンペティション外出品、話題作ながら過去の映画祭受賞歴がなく、やっと審査員賞に漕ぎつけました。アカデミー賞外国語映画賞アルゼンチン代表作品。
*『サマ』の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月13日&10月20日

◎監督賞:フランスのマチュー・アマルリックの “Barbara”、カンヌ映画祭「ある視点」出品、シネマ・ポエトリー賞受賞作品。「映画はこの上なく強力になっている。(ヨーロッパ)映画の寿命が尽きたというのは間違いだ。私は楽観主義者なんだ」とアマルリック監督。彼は映画の将来性を信じているネアカ監督、独立系の制作会社で苦労したペドロ・ピニュとは対極の立場、互いの置かれた状況が鮮明です。「以前のようにはいかないが」カンヌ映画祭の後、15ヵ国で公開されたとも。新しい技術の導入でコストも下げられることを上げていた。

(ヨーロッパ映画は死んでいないと語る、マチュー・アマルリック、セビーリャ映画祭にて)
◎男優賞:イタリアのジョナス・カルピニャーノの第2作目 “A Ciambra” で14歳の主人公を演じたピオ・アマトが男優賞を受賞しました。カルピニャーノの同名短編 “A Ciambra”(2014、16分)、数々の受賞歴のあるデビュー作『地中海』(2015)にも出演しており、こちらはイタリア映画祭2016で上映された。家族の団結が最優先のシチリア島のチャンブラを舞台に、ロマの少年ピオと家族が遭遇する困難が語られる。キャスト陣も重なっており、いわば短編とデビュー作のスピン・オフ的作品。シチリア系移民の家庭に育ったマーティン・スコセッシがエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。個人的に金賞を予想していたのが本作でした。カンヌ映画祭併催の「監督週間」でラベル・ヨーロッパ映画賞受賞、アカデミー賞外国語映画賞イタリア代表作品。

(男優賞受賞のピオ・アマト、映画から)

★その他、女優賞はイタリア映画 “Pure Hearts” の Selene Caramazza セレネ・カラマツァ、脚本賞はフランス映画 “A Violent Life” のティエリー・ド・ペレッティ、撮影賞はデンマーク=アイスランド合作映画 “Winter Brothers” の Maria von Hausswolff など、主要な賞はそれなりにばらけました。
◎アンダルシア・シネマライターズ連合ASECAN作品賞には、カルロス・マルケス=マルセの “Tierra firme”(Anchor and Hope)が受賞した。スペイン公開11月24日。
* “Tierra firme” の簡単な紹介記事は、コチラ⇒2017年11月7日

(左から、ナタリエ・テナ、ウーナ・チャップリン、ダビ・ベルダゲル、映画から)
◎「Las nuevas Olas」いわゆるニューウエーブ部門はセビーリャ大学の関係者6名が審査に当たる。スペイン語映画をピックアップすると、作品賞にはアドリアン・オルのドキュメンタリー “Niñato” が受賞した。
* “Niñato” の紹介記事は、コチラ⇒2017年5月23日

(アドリアン・オルのドキュメンタリー “Niñato” のポスター)
◎オフィシャル・コンペティション・レジスタンス部門の作品賞には、パブロ・ジョルカの “Ternura y la tercera persona” が受賞した。この受賞者にはDELUXEとして次回長編プロジェクトのためのマスターDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)最高6000ユーロが提供される。
◎DELUXE賞には、マヌエル・ムニョス・リバスの “El mar nos mira de lejos” が受賞した。マスターDCPが提供される。

★主なスペイン語映画の受賞作は以上の通りです。1年で360日はどこかで開催されているのが映画祭、現在でもスペインではウエルバ映画祭が開催中、インディペンデントの映画祭がなければ埋もれてしまう作品が多数、受賞して運よく公開されても1週間で打ち切りになるケースもあるとか、映画の平均寿命は年々短くなっているというのが、映画祭関係者の悩みのようです。スクリーンでは観ないという観客が増えていく傾向にあり、鑑賞媒体の変化に対応する工夫が必要な時代になったのは確かです。
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