マリベル・ベルドゥ*アルゼンチン・コメディ ”Sin hijos” に出演 ― 2015年08月24日 12:35
子供嫌いが子持ちバツイチに恋をしたら?
★悲喜劇しかありません(笑)。アルゼンチンでは5月14日に公開するや話題沸騰、観客が映画館に押し寄せている。アリエル・ウィノグラード監督の第4作です。マリベル・ベルドゥはロマンチック・コメディ出演は初めてだそうですが、『ベルエポック』はコメディはコメディでもかなりシリアスだったからロマンチックとは言えないか。1970年マドリード生れ、もう44歳になる。子役時代を含めると30年という長い芸歴がある。子持ちバツイチを演じるのはディエゴ・ペレッティ、1963年ブエノスアイレス生れ、ルシア・プエンソの『ワコルダ』で少女リリスの父親を演じて既に日本登場の俳優です。そして大人二人をきりきり舞いさせる8歳の女の子になるのがグアダルーペ・マネント、かつての名子役ベルドゥが舌を巻くほどの達者な演技は、予告編でその片鱗が覗けます。そのおしゃま振りに彼女なくして大成功はなかったろうと感じさせる。

“Sin hijos”(“No Kids”)2015
製作:Patagonik
Film Group / MyS Producciones / Tornasol Films
後援INCAA / ICAA
監督:アリエル・ウィノグラード
脚本:マリアノ・ベラ(パブロ・ソラルスのアイディアによる)
音楽:ダリオ・エスケナジ
撮影:フェリックス・モンティ
編集:アレハンドロ・Brodersohn
データ:アルゼンチン=スペイン、スペイン語、ロマンチック・コメディ、90分、撮影地ブエノスアイレス、配給ブエナ・ビスタ、公開アルゼンチン5月14日、ウルグアイ7月9日、チリ7月30日、スペイン8月14日
キャスト:マリベル・ベルドゥ(ビッキー)、ディエゴ・ペレッティ(ガブリエル)、グアダルーペ・マネント(ソフィア)、マルティン・ピロヤンスキー、オラシオ・フォントバ、マリナ・ベラッティ、パブロ・ラゴ、他

プロット:ガブリエルは4年前に離婚したバツイチ、おまけに8歳になる娘ソフィアを育てている。彼は人生の時間とエネルギーを仕事と娘にそそぐのに精いっぱい、新しい恋などもっての外だ。父娘関係も上々だったのに、それなのに屈託のない自立した大人の女性、とびっきりの美人ビッキーが目の前に現れてしまった。プラトニックな恋のはずがあやしくなって。ビッキーの条件は唯一つ、「わたし子ども嫌いなの、あなた子どもいる?」「いいや、いないよ」。この瞬間からガブリエルの人生はとんでもないことに。ビッキーを失いたくない一心で可愛い我が子をひた隠しにする羽目になり、おもちゃ箱、子供服、家族写真を片付け、独身男性に大変身。はてさて新しい恋の行方は如何に・・・
★アルゼンチンの批評家の評価も高く、封切り1週間で88,634人の観客動員数は大出来です。「ウイノグラードの最も優れた映画というわけではないが」という但し書きつきながら、日刊紙「ナシオン」の批評家の受けも上々、「クラリン」紙も「監督はプロに徹し、笑いどころを押さえて、愛する二人のあいだを右往左往する男が直面する危機をある種のノスタルジーと優しさを込めて描いている」と評している。
*監督のキャリア&フィルモグラフィー*
★アリエル・ウイノグラード Ariel Winograd :1977年ブエノスアイレス生れ、名前から分かるようにユダヤ系アルゼンチン人、監督、脚本家、製作者、編集者。映画大学Universidad del Cineの監督科卒。1999年 “100% lana”で短編デビュー、4作の短編、ドキュメンタリー“Fanaticos”(2004)を撮り、2006年“Cara de queso-mi primer ghetto”で長編デビューを果たす。ある国に暮らすユダヤ系の若者たちの物語をテーマにしたもので、彼自身の人生が投影されている。
*第2作コメディ“Mi primera boda”(11)、本作にはダニエル・エレンドレールとナタリア・オレイロが主演、すべてにあれこれケチがつく結婚について語られている。プロデューサーで夫人のナタリエ・カビロンとの挙式の体験をベースに自身で脚本を書いた。第3作“Vino para robar”(13)、本作と続く。映画以外にMassacreやLos
Tipitosのバンドのプロモーション・ビデオを作成している。(写真下:第2作を撮ったころの監督)

*キャスト紹介*
★ディエゴ・ペレッティ Diego Ardo Peretti:1963年ブエノスアイレス市のバルバネラ生れ、俳優、精神科医。父はイタリア系移民、数学と物理の教師、母親はマドリード生れのスペイン移民。父親の勧めで大学では精神医学を学んだ変わり種。在学中は大学のIntransigente党で積極的に活動した(彼の世代は軍事独裁政権時代と重なる)。医学と並行して気晴らしのため演技の勉強を始める。卒業後病院勤務のかたわら舞台俳優としても活躍する。1993年単発のTVドラマ“Zona de riesgo”でデビュー、1995年、連続推理ドラマ“Poliladron”の「Trata」役が当り、1996年病院を退職する。30代の俳優デビューはかなりの遅咲きだが、以上のような理由による。以降舞台にテレビに、さらに映画にと八面六臂の活躍。

*映画デビューは、1997年セルヒオ・レナンの“El sueño de los héroes”、『人生スイッチ』で話題を呼んでいるダミアン・ジフロンの短編“Punto muerte”(98)、ダニエル・バロネ,の“Alma mía”(99)で銀のコンドル賞新人男優賞にノミネートされた。フアン・タラトゥトの話題作“No sos vos, soy yo”(04)でカタルーニャのラテンアメリカ映画祭で最優秀男優賞を受賞、クラリン賞(映画部門)でもノミネートされた。ジフロンの“Tiempo de valientes”(05)でペニスコラ・コメディ映画祭男優賞受賞、コンドル男優賞とクラリン男優賞ノミネートと受賞の道は遠かったが、2007年リカルド・ダリンの監督デビュー作“La señal”で念願の「銀のコンドル助演男優賞」を受賞、他に撮影賞、美術賞、衣装賞も受賞、自ら主演もしたダリンはノミネートに終わった。2013年“La reconstrucción”で初の「男優賞」を受賞した。他にハバナ映画祭でも男優賞に輝いた。未公開作品ばかりだが、出番は少なかったが『ワコルダ』(13、ラテンビート2013)に出演している。

(少女リリスの母親役ナタリア・オレイロと父親役のペレッティ)
★ソフィア役のグアダルーペ・マネントGuadalupeManentはテレビでゲスト出演しているようだが、映画は初出演。キャスティングにも立ち合ったペレッティによると、「抗いできない魅力があって、船の舵を切っているのは彼女だった」とか。ヒッチコックの名言を引き合いに出すまでもなく「子どもと動物と共演するな」ですね(笑)。

★マリベル・ベルドゥMaribel Verdúについては、ゴヤ賞2013の『ブランカニエベス』(パブロ・ベルヘル)やゴヤ賞2014の“15 años y un día”(グラシア・ケレヘタ)、同監督の“Felices 140”(15)の記事でご紹介していますが、大分前になるのでおさらいすると、1970年マドリード生れ、13歳でテレビ初出演、映画はモンチョ・アルメンダリスの“27 horas”(1986)でデビュー。出演本数は80本を超える。本数のわりにはノミネートばかりで賞に恵まれなかったが、2007年のG・ケレヘタの“Siete mesas de billar frances”(ゴヤ賞主演女優賞)やデル・トロの『パンズ・ラビリンス』(06、アリエル賞2007女優賞)あたりから注目されるようになった。日本公開の映画も多く、フェルナンド・トゥルエバの『ベルエポック』(92)、アルフォンソ・キュアロンの『天国の口、終りの楽園』(01)、アルゼンチンとの合作映画では、F・F・コッポラの『テトロ』(09、米≂伊、ラテンビート2010、公開2012)が挙げられる。
*“Felices 140”の記事は、コチラ⇒2015年1月7日
★今年、アイタナ・サンチェス≂ヒホンとフアン・ディエゴが受賞することになった「スペイン映画アカデミー金のメダル」を2008年に受賞しています。この年は受賞ラッシュの年で、マリベルにとっても忘れられない年ですが、既に38歳になっていたのでした。間もなくダビ・カノバスのスリラー“La punta del iceberg”(15)、アルゼンチン≂スペイン合作ヘラルド・オリバーレス“El faro de las orcas”(16)、G・ケレヘタのコメディ“Setenta veces siete”(17)と新作が目白押し、まだIMDbにはアップされておりませんが、パブロ・ベルヘルの新作“Abracadabra”がアナウンスされ、『ブランカニエベス』以来、ベルドゥと再びタッグを組むそうです。
*「スペイン映画アカデミー金のメダル」の記事は、コチラ⇒2015年8月1日
★スペインでは、「リカルド・ダリンが出演している映画は別として、アルゼンチン映画は意外と公開されない」とベルドゥ。そんなことはないと思うが、アルゼンチンでもスペイン映画は僅かしか公開されないそうです。「アルゼンチンは常に予期しないことが起きる変化している国、国民は絶えず危機にさらされているから、映画を作るテーマには事欠かない。もしやる気があるなら物語をたくさん生み出せる」とも。確かに生生流転の国ですね(笑)。隣国から気位は高いが実力が伴っていないと嫌われがちだが、ラテンアメリカでは映画先進国です。
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