ホセ・サクリスタンがゴヤ賞2022栄誉賞を受賞*ゴヤ賞2022 ① ― 2021年12月02日 15:13
映画国民賞2021に続くゴヤ栄誉賞にホセ・サクリスタン

★11月29日、いよいよ今年も残り少なくなったと実感するゴヤ賞のノミネーション発表がありました。作品賞5作品は、クララ・ロケの『リベルタード』以外は予想通りでした。アップは次回にまわすとして、まずは既に発表になっていました、ホセ・サクリスタン(チンチョン1937)の第36回ゴヤ栄誉賞受賞の話題から。時代に流されない彼のブレない人生哲学に共感して、当ブログにも度々登場して貰っています。例年サンセバスチャン映画祭期間中に授賞式が行われる2021年の映画国民賞受賞記事を書いたばかりでした。舞台に専念して映画から離れていた時期もありましたが、60年に及ぶ役者人生を考えると、未だ受賞していなかったとは意外でした。これからも来る者は拒まず、これからも現役を続ける由。
*サクリスタン映画国民賞2021受賞の記事は、コチラ⇒2021年07月13日

(ホセ・サクリスタン、映画国民賞2021の授賞式、サンセバスチャン映画祭9月)
★11月22日月曜日午前、スペイン映画アカデミー理事会より「ゴヤ賞2022の栄誉賞はホセ・サクリスタン」の発表がありました。アカデミーは「すべての若いシネアストに対する献身、情熱、倫理、プロ意識のモデルであること、60年にも及ぶスペイン映画の顔であり声であること、私たちの親密な記憶の一部である非常に多くの映画で、その独自のやり方で自分自身を表現することを知っていること、更に私たちの映画や社会が大きな展開期をむかえたなかでもスクリーンに止まって前進する方法を熟知している俳優に与えることにしました」と授賞理由を述べました。
★ニュースを知った84歳の俳優は「私の仕事は、彼の目標が達成されたのを見た子供の喜びであり、彼が学生、触れ役、新兵、移民、弁護士、医者、殺し屋であると人々に信じ込ませることでした、そして人々は信じたのです。幸運なことに友人たち、私の愛すべき人々、家族を取りまく人が仕事をしています。これ以上求めるものはありません」と語りました。また「とても興奮しています。それというのも収穫が順調で、年月が経ち、自分の道が間違っていなかった、と知らせてくれたからです」と。俳優という職業は常に不安定であることを知っているサクリスタンは、「仕事は常にありましたから文句をいうのは卑劣でしょう。時には仕事に見合っていないこともありましたが、それは私自身の問題でした。私は幸運に恵まれ、特権があることを認め感謝しています」
「継続は力なり」の実践者サクリスタンの若さの秘密
★主なキャリア&フィルモグラフィーについては既に記事にしていますが、1960年舞台デビュー、1965年に映画界に入り、125以上の作品に出演しています。政治的な発言と義務を果たすプロフェッショナルとして若さを感じさせます。好奇心が強く、撮影中でも遊びと仕事の部分のバランスを上手くとっている。継続性が重要であることを教えてくれたのは、「フェルナンド・フェルナン=ゴメスでした。そうすれば事柄の良し悪しの識別ができるようになるからです。しかし基本的なことは、人々が私の仕事を認めてくれるかどうかなんですが」と語っている。フェルナンド・フェルナン=ゴメスというのは、第1回ゴヤ賞1987の作品賞、監督賞、脚本賞をコメディ「El viaja a ninguna parte」で受賞したシネアスト、俳優としても出演していた。そして主役を演じたのがホセ・サクリスタンでした。

(左から、サクリスタン、フェルナン=ゴメス、ラウラ・デル・ソル、フレームから)
★36年前の映画アカデミー創設者の一人だったサクリスタンの頭に浮かんだのは「プロデューサーのアルフレッド・マタス氏だった」という。「彼が1985年に私たちに提案し話合いが始まった。そうして生まれたのが映画アカデミーでした」。11月12日の初会合に出席した13名のなかには、故ガルシア・ベルランガ以下カルロス・サウラ、ホセ・ニエト、女性では女優のチャロ・ロペスなど。翌年1月8日に公式に設立され、初代会長にホセ・マリア・ゴンサレス=シンデが就任した。草創期から参加したアカデミー、自身も副会長として尽力したことを誇りに思っているとも語っている。今回の受賞はひとしお感慨深いものがあるようです。
★ゴヤ賞はハビエル・レボーリョの「El muerto y ser feliz」(12)の雇れ殺し屋を飄々と演じて主演男優賞を受賞している他、サンセバスチャン映画祭で2回目となる銀貝男優賞を受賞している。第36回のゴヤ賞ガラは2022年2月12日、バレンシア出身のガルシア・ベルランガ生誕100周年の記念行事として、バレンシアのLes Arts de Valencia で開催されます。現在ミゲル・デリーベスの小説を舞台化した “Señora de rojo sobre fondo gris”(1991刊、脚色ホセ・サマノ)のツアー中、来年6月までの予定ということです。「母なる自然が許す限り、楽しみながら続けます。責任をもってね」
*『灰地に赤の夫人像』(彩流社、1995刊)の邦題で翻訳書が刊行されていますが、目下品切れです。

(ゴヤ賞2013主演男優賞の受賞スピーチをするサクリスタン)

「Hombre muerto no sabe vivir」*サンセバスチャン映画祭2021 ㉒ ― 2021年09月18日 17:16
メイド・イン・スペイン部門にエゼキエル・モンテスのデビュー作

★メイド・イン・スペイン部門はスペインで既に公開されたヒット作が選ばれ、今年はフィクション4作、ドキュメンタリー4作が上映されます。エゼキエル・モンテスのデビュー作「Hombre muerto no sabe vivir」は、第24回マラガ映画祭2021でプレミアされた麻薬密売を絡ませたスリラー、カリスマ性に富んだ悪役が似合うアントニオ・デチェント、ルベン・オチャンディアノが主演、マフィア陰謀ドラマに飢えている観客に応えている。初監督作とはいえ、モンテスはプロデューサー、脚本家、撮影監督のキャリアが豊富、マラガ出身ということもあるのか、マラガFFには毎年のように参加している。2008年の「Granit」(中編、監督・脚本・撮影・製作)、2016年の「Akemarropa」はF. J. アランスと共同で監督している。2008年の短編ホラー・スリラー「The Pazzle」(5分)は、ローマ国際映画賞2020でスリラー賞・撮影賞を受賞、ほか受賞歴多数。

(エゼキエル・モンテス監督、第24回マラガ映画祭2021、フォトコールにて)
「Hombre muerto no sabe vivir / A Dead Man Cannot Live」
製作:73140323 Producciones Cinematográficas
監督・脚本・撮影:エゼキエル・モンテス
音楽:ルイス・エルナイス
編集:ホセ・M・G・モヤノ
キャスティング:モニカ・サンチェス
メイクアップ:ビクトル・アルカラ
プロダクション・マネージメント:アラセリ・カレロ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、105分、撮影地アンダルシアのマラガ、カディス、マルベーリャ、公開マドリード限定2021年6月29日、スペイン同年7月2日
映画祭・受賞歴:第24回マラガ映画祭2021セクション・オフィシアル、第69回サンセバスチャン映画祭2021メイド・イン・スペイン部門上映
キャスト:アントニオ・デチェント(タノ)、ルベン・オチャンディアノ(アンヘル)、エレナ・サンチェス(アイタナ)、ヘスス・カストロ(トルヒーリョ)、パコ・トウス(エドゥアルド)、ナチョ・ノボ(パウル)、マノロ・カロ(マイタ)、マヌエル・デ・ブラス(マヌエル)、フアンマ・ララ(マッコイ)、ロベルト・ガルシア(ロベルト)、フアン・フェルナンデス(フアン)、ホセ・ラウレ(ノラスコ)、パウル・ラピドゥス(ラピドゥス)、ヘスス・ロドリゲス(チュレ)、フスト・ロドリゲス(サビオ)、フェルナンド・フォンセカ(アントニオ)、チェロ・ソト(スシ)、他多数
ストーリー:スペイン南部地中海に面したコスタ・デル・ソル、タノは良き時代に町全体を支配していたマヌエルのために人生の全てを捧げてきた。マヌエルは90年代にナイトクラブの女衒、麻薬密売、そして不動産投機によって建設会社を起業、町では最も裕福な大物に成りあがった。しかし今では老人性痴呆による判断ミスに苦しんでおり、若い息子アンヘルの軽蔑をかったことから息子を無能で役立たずと考えて、組織の支配を成熟したタノに委ねることにした。タノは友人のパウル、ロベルト、マッコイ、エドゥアルドの助けを借りて、事業に自由に参加できるよう政治家や警察に賄賂を渡した。しかし事態は悪化して、資金不足や減益が生じるようになってくる。折も折、新しい命取りとなるドラッグがモロッコから到着するのだが・・・。世代交代、新しい人々とのビジネス方法を模索しなければならないが、誰も彼も安全でも健全でもない世界で、生き残るための唯一の答えは暴力しかないのだろうか。

(監督、ルベン・オチャンディアノ、エレナ・サンチェス、アントニオ・デチェント)
観光客の目から隠された観光地の現に存在する腐敗を描く
★クエンティン・タランティーノのファンというモンテス監督は、「この映画は、忠誠心、社会が失っている価値観、もはや存在しない時代について語っています」とインタビューに応えている。アントニオ・デチェント扮するはタノは、自分たちの時代の終焉を見守っている。世代交代がおき若い人たちの考えは自分たちと同じでないことを知っている成熟した大人として登場している。エンリケ・ウルビスがホセ・コロナドとタッグを組んだ『貸し金庫507』(02)や『悪人に平穏なし』(14)で切り開いてきた犯罪スリラーは、TVシリーズの「Gigantes」(12話、2018~19)や舞台をガリシアに設定した「Vivir sin permiso」(14話、2017~18、『麻薬王の後継者』Netflix配信)に繋がっている。両作ともかつての主人公はアルツハイマーに苦しむ過去の人になっている。
*『貸し金庫507』の作品紹介は、コチラ⇒2014年03月25日
*「Gigantes」の作品紹介は、コチラ⇒2018年07月29日
★アントニオ・デチェントは、1960年セビーリャ生れ、映画、TV、舞台俳優、アンダルシアを舞台にした映画に脇役として出演、TVシリーズを含めると既に180作を数える。最初心理学を専攻したが、23歳のときセビーリャ演劇研究所で本格的に演技を学んだ。1987年、イシアル・ボリャインの叔父フアン・セバスティアン・ボリャインの「Las dos orillas」で映画デビュー、ビセンテ・アランダの「Libertarias」(96)、マリオ・カムスの「El color de las nubes」(97)など話題作に起用され、1999年ベニト・サンブラノの『ローサのぬくもり』の医者役で、シネマ・ライターズ・サークル賞助演男優賞を受賞した。フアン・カルロス・フレスナディリョの『10億分の1の男』で初めてゴヤ賞2002助演男優賞にノミネートされ、ASECAN2003ではアントニオ・コロメ賞を受賞した。

★マラガ映画祭2002にノミネートされたロジャー・グアルの群集劇「Smoking Room」では、共演したエドゥアルド・フェルナンデスやフアン・ディエゴなどとグループで銀のビスナガ男優賞を受賞、同じ映画祭では、2012年のハビ・プエブラの「A puerta fria」に主演して同賞を手にしている。他にサンジョルディ男優賞、トゥルーズ・スペイン映画祭2013、ASECAN2014アントニオ・コロメ賞などを受賞している。脇役が多いので映画祭上映、公開作品も多く、トニー・ガトリフの『ベンゴ』、ビセンテ・アランダの『カルメン』、アルベルト・ロドリゲスの『7人のバージン』、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの明日』、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』、マル・タルガロナの『ボーイ・ミッシング』、最近ではアルフォンソ・コルテス=カバニリャスの『サイレント・ソルジャー』などがある。TVムービー『クリスマスのあの日私たちは』(4話)がNetflixでも配信されている。強面だがコメディもやれるカメレオン俳優です。

(デチェントを配した「A puerta fria」のポスター)
★他のキャストでは、マヌエルの息子役ルベン・オチャンディアノはアルモドバルの『抱擁のかけら』でも大富豪の父親と対立する役どころ、ヘスス・カストロはダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』で遊ぶお金欲しさに麻薬の運び屋になる青年を演じていたが、すっかり大人の男になっている。エレナ・サンチェスは、モンテス監督が監督した「Granit」や「Akemarropa」に出演しており、彼のミューズかもしれない。口封じの殺人、ドバドバとアドレナリンが出るようだから、胃腸の弱い方にはお薦めできませんが、Netflixが一枚噛んでいるので、いずれ配信されることを期待したい。



(ルベン・オチャンディアノ、ヘスス・カストロ)
マリオン・コティヤールにドノスティ栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2021 ⑱ ― 2021年09月02日 16:04
65人目のドノスティア栄誉賞にマリオン・コティヤール

★8月24日、65人目のドノスティア栄誉賞にマリオン・コティヤールがアナウンスされ、2017年のアニエス・ヴァルダ以来4年ぶりにフランスのシネアストが選ばれました。女優としては受賞順にカトリーヌ・ドヌーヴ、ジャンヌ・モロー、イザベル・ユペールと4人目になります。ジュリエット・ビノシュが先と予想していましたが、コティヤール受賞はカンヌ映画祭2021でレオス・カラックスが監督賞を受賞したミュージカル『アネット』主演でグッド・タイミングです。9月17日のオープニングに授賞式が予定されており、メイン会場のクルサールです。本祭での上映作品はジョニー・デップ同様ありません。ということで過去の話題作ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の『サンドラの休日』(14)が9月4日、ジョニー・デップはジム・ジャームッシュの『デッドマン』(95)が9月9日上映されることになりました。

(二人のドノスティア栄誉賞受賞者の特別上映)
★キャリア&フィルモグラフィーは日本語版ウイキペディアに詳細があり、公開作品も多くオンラインで配信されておりますので大枠だけアップします。マリオン・コティヤール(パリ1975)はフランスの女優。両親はともに舞台俳優、オルレアンの演劇学校を首席で卒業している。少女の頃から父親ジャン=クロード・コティヤールの舞台に出演、ほかTVシリーズにも出演している。1994年に映画デビュー、1996年アルノー・デプレシャンの『そして僕は恋をする』で大学生に扮した。ブレイクしたのはリュック・ベンソン製作・脚本のカーアクション・コメディ3部作『TAXi』、第1作(98、監督ジェラール・ピレス)と第2作『TAXi 2』(00、監督ジェラール・クラヴジック)でセザール有望賞にノミネートされ、第3作『TAXi 3』(02、同監督)にリリー・ベルティノー役でファンを獲得した。
★本国で大ヒットしたヤン・サミュエルの『世界でいちばん不運で幸せな私』(03)で後にパートナーとなるギヨーム・カネと共演、ハリウッド・デビューのティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』(03)、ジャン=ピエール・ジュネの『ロング・エンゲージメント』(04)でカンヌ映画祭新人女優賞、セザール助演女優賞に初受賞した(主役はオドレイ・トトゥ)。リドリー・スコットの『プロヴァンスの贈りもの』(06)、そしてマリオンといえばまず引用されるのが、オリヴィエ・ダアンの『エディット・ピアフ~愛の讃歌』(07)のピアフ役、米アカデミー賞、セザール賞、ゴールデン・グローブ賞(ミュージックコメディ部門)、英バフタ賞以下書ききれないほどの主演女優賞を受賞した。同じ年、マイケル・マンのアメリカの犯罪映画『パブリック・エネミーズ』でジョニー・デップやクリスチャン・ベールと共演した。

(大ヒット作『エディット・ピアフ』でのマリオン・コティヤール)
★ロブ・マーシャルがフェデリコ・フェリーニの自伝的映画『8 1/2』をミュージカル化した『NINE』(09)に、ダニエル・デイ=ルイスが演じたグイドの妻役ルイザに起用され、ソフィア・ローレン、ジュディ・デンチ、ニコール・キッドマン、ペネロペ・クルスなど、有名女優と競演し、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞にノミネートされた。これ以降、2014年の『サンドラの休日』までの活躍は特筆に値する。クリストファー・ノーランの『インセプション』(09)、ギヨーム・カネの『君のいないサマーでイズ』(10)、ウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』(11)、ジャック・オディアールの『君と歩く世界』(12)では受賞こそなかったが、ゴールデン・グローブ賞(ドラマ部門)、セザール賞、バフタ賞ほか多数のノミネーションを受けた。2012年には再びノーランの『ダークナイト・ライジング』、ハリウッド映画で初めて主役を演じた、ジェームズ・グレイの『エヴァの告白』(13、全米、ニューヨーク、ボストン、トロントなどの各映画批評家協会賞を受賞)、そして2度目となるオスカー賞ノミネートの『サンドラの休日』と続く。セザール賞はノミネートに終わったが、ヨーロッパ映画賞女優賞を筆頭に受賞歴を誇るマリオンの代表作になった。

(『サンドラの休日』のマリオン・コティヤール)
★ニコール・ガルシアの『愛を綴る女』(15)、グザヴィエ・ドランの『たかが世界の終わり』(16)、ブラッド・ピットとの不倫噂がつきまとったロバート・ゼメキスの『マリアンヌ』(16)では、終戦末期のロンドンで他人の人生を歩かざるを得なかった悲劇の二重スパイを演じた。最新作が上述したレオス・カラックスのミュージカル『アネット』でアダム・ドライバーと夫婦役を演じている。今年のカンヌにはインドネシアの環境を破壊しているプラスチックゴミをテーマにしたフロール・ヴァスールのドキュメンタリー「Bigger Than Us」が特別上映され、彼女は共同製作者の一人として、こちらのフォトコールにも出席していた。SSIFF でも9月18日にビクトリア・エウヘニア劇場で特別上映される。

(『アネット』のカラックス監督とアダム・ドライバーと、カンヌFF2021)

(ヴァスール監督とコティヤール、フォトコール)
★フランスのアニメーションのヴォイス出演もあり、マーク・オズボーンの『リトルプリンス星の王子さまと私』(14)、クリスチャン・デスマール他の『アヴリルと奇妙な世界』(15)の主役アヴリル役、ロフティングの児童文学『ドリトル先生』シリーズをアニメ化した『ドクター・ドリトル』(20、米)では、アカメギツネのチュチュを担当した。最近では製作も手掛けており、トータルではTVシリーズを含めるとIMDbによると90作に及ぶが、まだ45歳である。私生活では2007年からのパートナーである俳優で監督のギヨーム・カネとのあいだに1男1女がある。

(パートナーのギヨーム・カネとマリオン、2020年)
ドノスティア栄誉賞にジョニー・デップ*サンセバスチャン映画祭2021 ⑰ ― 2021年08月31日 21:12
ドノスティア栄誉賞受賞者はジョニー・デップとマリオン・コティヤール

★第69回サンセバスチャン映画祭2021ドノスティア栄誉賞をジョニー・デップが受賞することは大分前に決まっていましたが、8月24日二人目の受賞者としてマリオン・コティヤールがアナウンスされました。昨年はコロナウイリス感染拡大でヴィゴ・モーテンセン一人でしたが、今年は2人 米国とフランスの俳優が選ばれました。ジョニー・デップは9月22日、マリオン・コティヤールはオープニングの9月17日にメイン会場クルサールで授与式が行われます。両人とも日本語版ウィキペディアで読めますので、ごく簡単に発表順にアップします。今回はジョニー・デップ。 彼は昨年も本祭に参加、ジュリアン・テンプルのドキュメンタリー「Crock of Gold: AFew Rounds With Shane MacGowan」の製作者の一人、自身もシェン・マガウアンと共演している。 テンプル監督が審査員特別賞を受賞した。


(昨年のSSIFFに来サンセバスチャンしたジョニー・デップ)
★ ジョニー・デップ(ジョン・クリストファー・デップ2世)は、1963年ケンタッキー州生れ、俳優、プロデューサー、ミュージシャン。ギタリストとしてキャリアをスタートさせる。映画デビューは21歳のとき、ウェス・クレイブンのホラー映画『エルム街の悪夢』(84)で殺人鬼フレディ・クルーガーの犠牲者役で出演した。1990年『クライ・ベイビー』で初めて主役を演じ、「一番好きな監督」というティム・バートンのファンタジー『シザーハンズ』(90)でゴールデン・グローブ賞(ミュージカルコメディ部門)の主演男優賞にノミネートされた。『エド・ウッド』(94、モノクロ)、『スリーピー・ホロウ』(99)など、2016年の『アリス・イン・ワンダーランド』までバートン映画には9本出演している。

(相思相愛?のティム・バートン監督とジョニー・デップ)
★90年代の華々しいキャリアとして、忘れられないのがラッセ・ハルストレムの『ギルバート・グレイプ』(93)、知的障害をもつ弟(レオナルド・ディカプリオがアカデミー賞助演男優賞にノミネート)の世話をしながら一家の大黒柱役を演じた。ジョニデもレオさまもとても好かった。他に同監督の『ショコラ』(00)ではロマの青年に扮し、ぶっとんだ女優ジュリエット・ビノシュに負けない息の合った演技で、共に流れ者の悲哀を演じた。エミール・クストリッツァの『アリゾナ・ドリーム』に主演、監督がベルリン映画祭1993で銀熊審査員グランプリを受賞している。ジム・ジャームッシュの『デッドマン』(95)、マイク・ニューウェルの『フェイク』(97)では、実在したFBI潜入捜査官を演じた。 役柄上髪を剃って禿頭にした、テリー・ギリアムの『ラスベガスをやっつけろ』(98)、ロマン・ポランスキーの『ナインスゲート』(99、米西仏合作)など、90年代が一番充実していたのではないか。米アカデミー賞はノミネートだけで受賞歴はないが、1999年にはフランス映画アカデミーのセザール栄誉賞を受賞している。多分ハリウッドスターとしては最も早かったのではないか。

★21世紀に入るとゴア・ヴァービンスキー他が監督したシリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン』(03、06、07、11、17)で新しい世代のファンを獲得した。第1作目でアカデミー主演男優賞にノミネートされたが、前述したように他作品でも受賞はない。ゴールデン・グローブ賞にいたっては、ノミネート9回、ティム・バートンの『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(07)で主演男優賞(ミュージカルコメディ部門)をやっと受賞しただけ。 最近は受賞から遠ざかっているが、ゴア・ヴァービンスキーの『ローン・レンジャー』(13)、ロブ・マーシャルのミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』(14)、またスコット・クーパーの『ブラック・スキャンダル』(15)はSSIFF のパールズ部門で上映された。
★当ブログでも『夷狄を待ちながら』のタイトルで紹介したチロ・ゲーラの『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』(19)、最新作アンドリュー・レヴィタスの『MINAMATAミナマタ』(20)では、水俣を伝えたジャーナリストの一人、写真家のユージン・スミスに扮する。水俣を考える微妙な作品ながら間もなく公開されることが決定した(9月23日)。今年は水俣病が公式認定されて65年目だそうで新刊や改版版が刊行される。新しいファンが期待される。

(キャプテン・ジャック・スパロウ)
★私生活では不祥事も含めて何かと話題が豊富だが、破格の出演料、多額の寄付やチップで有名、子煩悩で、ファンのサインに気軽に応じるなど偉ぶらない。現在はコロナでファンはおいそれと近づけないが、スペインでの人気は高い。メイン会場のクルサールで、9月22日にマヌエル・マルティン・クエンカの「La hija」の上映前に授与式がもたれる。9月13日にチケット販売が予告されている。次回はもう一人の受賞者マリオン・コティヤール。
アロンソ・ルイスパラシオスの第3作*サンセバスチャン映画祭2021 ⑮ ― 2021年08月28日 11:49
第3弾――アロンソ・ルイスパラシオスの第3作「Una pelícla de policías」

★ホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介3作目は、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスの第3作目「Una pelícla de policías」です。「警察の映画」とまことにシンプルなタイトルですが、どうやら内容はタイトルとは裏腹に別の顔をしているようです。ドキュメンタリーとフィクションのテクニックを組み合わせて、メキシコ警察の現在の課題を提供するという大きな賭けに出たようです。「バラエティ」誌のコラムニストは「不必要に複雑に見えるが、最終的にはその構想の輝きが明確になる」と絶賛しているが、各紙誌とも概ねポジティブ評価です。モノクロで撮った第1作『グエロス』で鮮烈デビュー、「Museo」が第2作目の監督は、崩壊の危機に瀕しているメキシコ社会を二人の警官に予測不可能な旅をさせる。第71回ベルリン映画祭2021でワールドプレミア、イブラン・アスアドが銀熊フィルム編集賞を受賞した。
*『グエロス』(原題「Gúeros」)の作品とキャリア紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
*「Museo」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月19日

(銀熊を手にしたイブラン・アスアドとルイスパラシオス監督、ベルリンFF 2021、6月)
「Una pelícla de policías / A Cop Movie」
製作:No Ficción
監督:アロンソ・ルイスパラシオス
脚本:アロンソ・ルイスパラシオス、ダビ・ガイタン
撮影:エミリアノ・ビリャヌエバ
編集:イブラン・アスアド
キャスティング:ベルナルド・ベラスコ
プロダクション・デザイン:フリエタ・アルバレス・イカサ
衣装デザイン:ヒメナ・バルバチャノ・デ・アグエロ
メイクアップ:イツェル・ペーニャ・ガルシア
プロダクション・マネージメント:フアン・マヌエル・エルナンデス
視覚効果:エリック・ティピン・マルティネス
録音:イサベル・ムニョス・コタ、(サウンド・デザイン)ハビエル・ウンピエレス
製作者:エレナ・フォルテス、ダニエラ・アラトーレ
データ:製作国メキシコ、スペイン語、2021年、ドクドラマ、107分、ネットフリックス・オリジナル作品(海外販売Netflix)、スウェーデン2021年11月5日インターネット
映画祭・受賞歴:第71回ベルリン映画祭2021正式出品、イブラン・アスアドが銀熊フィルム編集賞を受賞、メルボルン映画祭、第25回リマ映画祭(ドキュメンター部門)、第69回サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ほか
キャスト:ラウル・ブリオネス(モントーヤ)、モニカ・デル・カルメン(テレサ)、ほか
ストーリー:家族の伝統に従って、テレサとモントーヤは警察で働き始めるが、機能不全のシステムによって、二人の信念と希望が押しつぶされていくのを感じるだけでした。自分たちが晒されている敵意を前にして、避難所としての愛の絆にすがっているだけでした。本作は革新的なドキュメンターとフィクションの限界を超え、観客をいつもと異なる空間へ導きだします。メキシコと世界で最も物議を醸している組織の一つである警察の内部にスポットライトを当て、司法制度に影響をあたえる不処罰の危機の原因を分析しています。フィクション、ドキュメンタリー、アクション、コメディ、ロマンスのカクテル。

(モントーヤ役のラウル・ブリオネス、フレームから)
★アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコシティ1978)は、デビュー作「Gúeros」がベルリナーレ2014のパノラマ部門にノミネート、初監督作品賞(銀熊)、第2作目の「Museo」は同映画祭2018のコンペティション部門に昇格して、最優秀脚本賞(銀熊)を受賞、第3作目となる本作もベルリナーレでワールドプレミア、クマとは相性がいいらしい。警察をテーマに新プロジェクトを立ち上げたとき、メキシコの警察内部の腐敗と不処罰の連鎖を探求したかったが、「警察のように外側からは不透明な組織の内部に入るにはどうすればよいか。まずドキュメンタリーは無理、それでフィクションを利用することにした」と語っている。つまり両方の要素を組み合わせて、テレサとモントーヤに旅をさせるという賭けに出た。

(アロンソ・ルイスパラシオス、ベルリン映画祭2021にて)
★前作「Museo」で示された、1985年のクリスマスに実際に起きたメキシコ国立人類学博物館のヒスパニック以前の文化遺産盗難事件が如何にして可能だったのかが本作にヒントを与えたのではないか。テオティワカン、アステカ、マヤの重要文化財140点の窃盗犯は、大規模な国際窃盗団などではなく、行き場を見失った二人の青年だった。この事件はメキシコ社会に衝撃を与えたが、ルイスパラシオスの映画は事件の正確なプロセスの再現ではなく、「青年の自分探しの寓話を描こうとしたら、この盗難事件の犯人がひらめいた」と語っている。現実を飲み込んでしまうフィクションのアイディアは前作と繋がっているように見える。正確なカメラの動きとナレーションは、マーティン・スコセッシのギャング映画を参考にしているということです。
★本作は共謀的な沈黙を強いる、あるいは沈黙は金に報いるシステムに対して、異を唱えようとする人々を罰する社会を改革することの必要性、警察の腐敗に従ってきたことへの反省と議論を生み出すことを目的として製作された。2年前からの専門家との面会、さまざまな警察官へのインタビュー、その真摯な調査の結果が実った。それからキャスティングを行った。二人の主人公には雰囲気をキャッチするため警察学校に2週間の体験入学をした。「この映画は非常に愛情のこもった二人の主人公の肖像画でもあります」と監督。警察には親戚もなく、知識も一般の人と同じだったから、監督にとって完全な新しい旅であった。モニカ・デル・カルメンとラウル・ブリオネスのプロの俳優が演じたテレサとモントーヤを追って進行します。二人は社会に役立ちたいという意欲をもっていますが、直ぐに存在する腐敗と公共の安全を維持しなければならないという厳しい現実に直面します。カップルである二人の信念は揺らいでいきます。

(ラウル・ブリオネスとモニカ・デル・カルメン、フレームから)
★ラウル・ブリオネスは、メキシコシティのクアヒマルパ市生れ、映画と演劇の俳優。メキシコ自治大学 UNAM の演劇大学センター CUT で演技を学んだ。演劇では本作監督のアロンソ・ルイスパラシオス、脚本を監督と共同で手掛けたダビ・ガイタンほか、ルイス・デ・タビラ、ダニエル・ヒメネス=カチョ、マリオ・エスピノサなどの演出で舞台に立つ。ルイスパラシオスの『グエロス』で長編映画デビュー、代表作は、2020年にアリエル賞とディオサ・デ・プラタの助演男優賞をもたらしたケニア・マルケスの「Asfixia」(仮題「窒息」19)とアントニオ・チャバリアスの「El elegido」(『ジャック・モルナール、トロツキー暗殺』16)、TVシリーズのコメディにも出演している。モレリア映画祭2018 Ojito 男優賞を受賞している。アマゾンプライム・オリジナル作品TVシリーズ「La templanza」(9話、スペイン、21)に脇役で出演、アンダルシアで撮影された本作は『ラ・テンプランサ~20年後の出会い』の邦題で配信されている。コメディもやれるプロ意識と力強い演技力で期待のスターとして注目されている。

(モレリア映画祭2018男優賞のトロフィーを手にしたラウル・ブリオネス)

(アリエル賞助演男優賞を受賞したラウル・ブリオネス)
★モニカ・デル・カルメン(本名モニカ・カルメン・マルティン・ルイス)は、1982年オアハカ州ミアワトラン生れ、映画と舞台で活躍する女優、14歳でオアハカ市に移り、演劇教育センターで本格的に演技を学んだ。2000年から4年間メキシコシティのINBA国立美術研究所で演技コースを受講する。2003年舞台女優としてスタート、2006年に映画デビューした。オーストラリア系メキシコ人の監督マイケル・ロウの「Año bisiesto」がカンヌ映画祭2010で衝撃デビュー、主役を演じたことで一躍有名になる。監督は新人監督に与えられるカメラドールを受賞、彼女自身はアリエル賞2011女優賞を受賞した。ラテンビート2011で『うるう年の秘め事』の邦題で上映された。

(モニカ・デル・カルメン、『うるう年の秘め事』のフレームから)
★アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』(06)、2011年コメディ・アニメーション「La leyenda de la Llorona」のボイス、ミシェル・フランコの2作目「Después de Lucía」(公開『父の秘密』)の教師役、3作目「A los ojos」では眼病の子供を抱えた母親役で主演、5作目「Las hijas de Abril」(公開『母という名の女』)の家政婦役、ベネチア映画祭2020で審査員グランプリを受賞した政治的寓話「Nuevo orden」などフランコ監督のお気に入りでもある。他にラウル・ブリオネスと共演して共にアリエル賞2020助演女優賞を受賞した「Asfixia」などがある。ガブリエル・リプスタインの「6 millas」(15)など、社会的にシステム化された抑圧を批判する作品には欠かせない存在感を示している。舞台女優としてはメキシコだけでなくスペインやフランスでも舞台に立っている。ジェンダー差別、中絶の権利、HIV感染予防などに対して社会的な発言をする物言う女優の一人、慈善活動もしている。
*『父の秘密』「A los ojos」『母という名の女』については、当ブログで紹介しています。

(「Nuevo orden」で赤絨毯を踏むモニカ・デル・カルメン、ベネチアFF2020)
★製作はNo Ficciónの二人の女性プロデューサー、エレナ・フォルテスとダニエラ・アラトーレです。ネットフリックス・オリジナル作品ということなので、いずれ配信されることを期待したい。ベルリナーレにはエレナ・フォルテスが出席していました。

(エレナ・フォルテスとダニエラ・アラトーレ)

(ビエンナーレに参加したエレナ・フォルテス)
★フィルム編集賞を受賞したイブラン・アスアドは、フィルム編集者、監督、脚本家。長編監督デビューの「El caco」(06)では編集も兼ねている。ルイスパラシオスの『グエロス』以下全作を手掛けている。他にNetflix配信のフェルナンド・フリアスの「Ya no estoy aquí」(19『そして俺は、ここにいない。』)では、アリエル賞2020編集賞を監督と受賞したほかイベロアメリカ・プラチナ賞にノミネートされている。同じくNetflix配信のマヌエル・アルカラの「Private Network: Who killed Manuel Buendía?」(21『プライベートネットワーク:誰がマヌエル・ブランディアを殺したのか?』)などオンラインで鑑賞できる。監督・脚本・編集を兼務した「Todas las pecas del mundo」は、フォトフィルム・ティフアナ2019の観客賞にノミネートされた。

(銀熊フィルム編集賞を受賞したイブラン・アスアド、ベルリン映画祭2021にて)
映画国民賞2021はホセ・サクリスタン*授賞式はサンセバスチャンFF ― 2021年07月13日 16:54
教育文化スポーツ省が選考母体の国民賞

★ホセ・サクリスタン映画国民賞受賞の報せに、すぐ思い出したのが2015年の受賞者フェルナンド・トゥルエバだった。「今さら貰っても・・・」と、受賞を拒んだのでした。選考母体の教育文化スポーツ省の大臣も「断れるかな」と恐る恐る電話したというから笑える。授賞にはタイミングというものがあるということです。当時トゥルエバ監督の最新作は3年前の『二人のアトリエ~ある彫刻家とモデル』と大分前、『美しき虜』(98)の続編である「La reina de España」は、まだ準備中でクランクインもしていなかった。文化の重要性を軽視して文化予算を削り、チケット代に21%の消費税をかける政府に怒りを露わにしていた時期だった。結局は妻で製作者のクリスティナ・ウエテにとりなされて受けっとったのでしたが。
*国民賞の沿革、トゥルエバ受賞の記事は、コチラ⇒2015年07月17日
★ホセ・サクリスタン(マドリードのチンチョン1937)が未だだったとは実に意外というか驚きでした。おそらく本人がニュースを知った最後の一人だったろうと言う。というのも彼はフェルナンド・コロモの新作「Cuidado con lo que deseas」の撮影でセゴビアの森の中にいて連絡が取れなかった。妻のアンパロ・パスクアルが制作チームのメンバーを通じて彼を捜しだし受賞を知らせたという。しかし数年、最有力候補者の一人だったそうですから、ホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス文化大臣の電話を敬遠したのではないかと忖度する人もいるそうですw。お祝いに数分中断しただけで何事もなかったように撮影は続行された。

(フェロス賞2015に揃って出席したサクリスタンとアンパロ・パスクアル)
★撮影が終わって帰宅したサクリスタンは「賞はどれも歓迎です。それを祝う最良の方法は仕事をすることです。私にとってそれが重要だからです。この職業を続けてエンジョイできるようにするためです」と、エルパイスのの記者に電話で語った。仕事あっての人生というわけです。映画も芝居も引退の気はさらさらないが、83歳の俳優にとって撮影の手順は日増しに厳しくなっているようです。「早起きとか、待ち時間の長さ、寒さ暑さ・・・舞台のほうがずっと落ちつける」と弱音もチラリ。
★最初電話が繋がらなかった大臣も最終的には繋がった。「私たちは、ベルランガの年にスペイン映画史で最も偉大な俳優を選びたかった。電話で話せましたよ、勿論。渓谷の麓で撮影中の彼を見つけだしてね。ありがとう、ペペ、本当に。大いなる愛をこめて!」だそうです。遅かったのはベルランガの年を待っていたからというわけ。2021年はベルランガ生誕100周年、コロナに負けずイベントも目白押し、ペペはホセの愛称です。
★受賞の理由にはサクリスタンが「ルイス・ガルシア・ベルランガやフェルナンド・フェルナン・ゴメスなどスペイン映画史上に残るシネアストと仕事をしてきたこと、また若い監督カルロス・ベルムトやイサキ・ラクエスタ、ハビエル・レボーリョなどアクティブな監督とコラボしていることを審査員たちは挙げている。彼の多様性、60年代のコメディ、70年代後半からの社会派のスリラーまで幅の広いことも挙げている。本賞は映画部門の受賞だが、映画のみならず演劇、周囲を驚かせた90年代の「ラマンチャの男」や「マイ・フェア・レディ」のようなミュージカル出演も視野に入れたということです。
★受賞者のキャリア&フィルモグラフィーについては何回か登場させておりますが、1960年舞台でスタート、1965年のフェルナンド・パラシオスのコメディ「La familia y uno más」で映画デビューした。60年代は、アルフレッド・ランダ、ホセ・ルイス・ロペス・バスケスのトリオの一人として、おびただしい数のコメディに起用されている。フランコ体制末期の1975年、ハイメ・カミーノの『1936年の長い休暇』で生物学者を演じた。内戦勃発でカタルーニャ地方の山間避暑地に閉じ込められた人々を敗者の視点で描いた作品。翌年のベルリン映画祭に出品され国際映画批評家連盟賞を受賞した。日本では1984年に開催された「スペイン映画の史的展望 1955~77」で上映されている。1977年にはホセ・ルイス・ガルシのデビュー作「Asignatura pendiente」(仮題「未合格科目」)で主役に抜擢された。
★そして転機になったのが、ペドロ・オレアのホモセクシュアルをテーマにした「Un hombre llamado Flor de Otoño」(仮題「秋の花と呼ばれた或る男」)主演だった。サンセバスチャン映画祭1978銀貝男優賞、ほかサンジョルディ男優賞など受賞、続いてマリオ・カムスの『蜂の巣』(82)でACE賞1984とフォトグラマス・デ・プラタ賞1983を受賞、ピラール・ミロの「El pájaro de la felicidad」(93)などシリアス・ドラマに起用された。オレア作品は、マラガ映画祭2018「金の映画」に選ばれ、監督と一緒にマラガを訪れている。
*マラガ映画祭2018「金の映画」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月22日

(昼は弁護士、夜は女性歌手に変身する「Un hombre llamado Flor de Otoño」のポスター)

(マラガに連れ立って参加したオレア監督とサクリスタン)
★どの作品も大好きで誇りを感じており、私の人生の一部になっていると語るが、「デビュー作で受けたような衝撃をその後一度も感じたことはありません。アルベルト・クロサスが私を見たときの視線のことで、その夜は眠れませんでした。デビュー作は私の心の中で特別な場所を占めています」と。アルベルト・クロサスというのは、「La familia y uno más」の主役で、フアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』(55)で主役の大学教師を演じた俳優です。俳優も監督も鬼籍入りしています。
★2005年から2011まで舞台に専念していたが、ダビ・トゥルエバの「Madrid, 1987」で銀幕に復帰、フォルケ賞2013男優賞を受賞した。続いてハビエル・レボーリョの「El muerto y ser feliz」で、余命幾ばくもない雇われ殺し屋を飄々と演じて、サンセバスチャン映画祭2012の二度目となる銀貝男優賞、初となるゴヤ賞2013主演男優賞、ガウディ賞主演男優賞、銀幕カムバック後は受賞ラッシュとなった。
*ゴヤ賞・フォルケ賞受賞でキャリア紹介、コチラ⇒2013年08月18日


(ゴヤ賞2013主演男優賞の受賞スピーチをするペペ)
★他にイサキ・ラクエスタのコメディ「Murieron por encima de sus posibilidades」(14)、他に当ブログ紹介作品では、カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』(14、フェロス賞2015助演男優賞)、キケ・マイジョのアクション・スリラー「Toro」(16)でのマフィアのボス役、ポル・ロドリゲスのブラック・コメディ「Quatretondeta」(16)では、妻に先だたれ認知症の兆候が出はじめた寡役、パウ・ドゥラのコメディ「Formentera Lady」(18)では、バレアレス諸島のフォルメンテラ島を舞台に、老いた元ヒッピーを演じた。
*「Quatretondeta」の作品紹介は、コチラ⇒2016年04月22日
*「Formentera Lady」の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月17日

(サクリスタンを配した「Formentera Lady」のポスター)
★『Alta mar アルタ・マール:公海の殺人』(22話出演、ネットフリックス配信)のようなTVシリーズを含めると150作を超えるから、いくら紹介してもこれで充分という気になれない。役者稼業は死ぬまで続けるというから終りがない。目下撮影中のフェルナンド・コロモの「Cuidado con lo que deseas」は、今年11月19日公開が予告されている。
★上記の受賞以外に、バジャドリード映画祭2013栄誉賞、マラガ映画祭2014レトロスペクティブ賞、フェロス栄誉賞(2014)、ヒホン映画祭2015ナチョ・マルティネス賞、スペイン俳優組合2015栄誉賞、メリダ映画祭ケレス賞、アルゼンチンの銀のコンドル賞(1993、2011)、シネマ・ライターズ・サークル賞2020金のメダル、などなど。授賞式は第69回サンセバスチャン映画祭2021(9月17日~25)です。セクション・オフィシアル部門以下8部門のポスターは発表されましたが、ノミネーションは未だです。シガニー・ウィバーがポスターの顔になりました。
タマラ・カセリャスとフリア・デ・パスの「Ama」*マラガ映画祭2021 ㉔ ― 2021年07月07日 13:26
タマラ・カセリャスが「Ama」主演で銀のビスナガ女優賞を受賞

★フリア・デ・パス監督のデビュー作「Ama」は、主役のタマラ・カセリャスに銀のビスナガ女優賞をもたらしました。本作は2019年にESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校、マラガ映画祭が注目している映画学校)の卒業制作として撮られた同名の短編がベースになっています。当時フリアは「あまり良い状態ではなかった」とマラガのEFEインタビューに応えている。監督はまだ25歳、母親に借金をして製作したようですが、マラガで母親に最大級のプレゼントを贈ることができました。ハリウッドや男性シネアストたちが、長年にわたって作り続けてきたスーパー家父長制の映画は害をもたらし続けている。監督は、あってはならない「母性神話」の打ち壊しに挑戦しました。何故なら「母性は一つでなく、母親の数だけあり、それぞれ違っていていい」と監督。

(タマラ・カセリャス、レイレ・マリン・バラ、監督、マラガFF2021フォトコール)
「Ama」2021
製作:La Dalia Films / Ama Movie AIE
監督:フリア・デ・パス・ソルバス
脚本:フリア・デ・パス・ソルバス、ヌリア・ドゥンホ・ロペス
撮影:サンドラ・ロカ
音楽:マルティン・ソロサバル
編集:オリオル・ミロン
美術:ラウラ・ロスタレ
衣装デザイン:クリスティナ・マルティン
メイクアップ:メルセデス・ルハン、タニア・ロドリゲス
プロダクション・マネージメント:リチャード・ファブレガ、マメン・トルトサ
音響:ヤゴ・コルデロ、ほか
視覚効果:ギレム・ラミサ・デ・ソト(短編)
製作者:(エグゼクティブ)シルビア・メレロ、ホセ・ルイス・ランカニョ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、ドラマ、90分、撮影地バレンシアのアリカンテ、撮影期間2020年3月から6月、パンデミックで中断、2021年完成させた。配給&販売Filmax、スペイン公開2021年7月16日
映画祭・受賞歴:第24回マラガ映画祭2021セクション・オフィシアル部門、銀のビスナガ女優賞受賞(タマラ・カセリャス)、AICE(スペイン映画ジャーナリスト協会)が選ぶフェロス・プエルタ・オスクラ賞を受賞。
キャスト:タマラ・カセリャス(ぺパ)、レイレ・マリン・バラ(娘レイラ)、エステファニア・デ・ロス・サントス(ロサリオ)、アナ・トゥルピン(アデ)、マヌエル・デ・ブラス(カルロス)、チェマ・デル・バルコ、パブロ・ゴメス=パンド(レイラの父ディエゴ)、マリア・グレゴリオ、バシレイオス・パパテオチャリス、カルメン・イベアス、エリン・ガジェゴ、シルビア・サンチェス、ほか
ストーリー:母性神話に縛られて孤独のなかにいる多くの女性たちの物語。さまざまな警告の末に、アデは友人のぺパを家から追い出してしまう。6歳になる娘のレイラと一緒に道路に佇んでいるぺパを目にしたのが最後だった。もう助けてくれる人は誰もいない、ぺパとレイラは生きるための場所を見つけるために闘わねばならない。困難に直面しながらも探求に取りかかる。それは遠い昔の今では存在しない関係との和解に耐えることでもあるだろう。母と娘の新たな絆を創りだすだろうが、それは間違いを許容するもので理想化とは異なるものだろう。あってはならない母性神話に挑戦する女性たちの物語。

(路頭に迷うぺパと娘レイラ、映画から)
監督紹介:フリア・デ・パス・ソルバスは、1995年バルセロナ生れの監督、脚本家。バルセロナのESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で映画演出を専攻する(2012~18)。2012年、短編「Atrapado」、助監督、キャスティング監督などをしながら、2017年に共同監督(11名)として撮った長編「La filla d’algú」(19)は、マラガ映画祭2019でモビスター+賞を全員で受賞した。2018年ESCACの卒業制作である短編「Ama」(19、19分)は、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭にノミネートされた。今回、初の単独監督として本作「Ama」で長編デビューした。テーマは不平等、特に女性が受けている社会的地位の格差、フィクションとドキュメンタリーの接続点を求めている。鼻ピアスに耳の後ろから剃り上げたライオン・ヘアー、エイミー・ワインハウス風のアイライン、このタフでぶっ飛んだ監督は、映画祭に旋風を巻き起こした。

(「まだ私は25歳の青二才です」と応えるデ・パス監督、プレス会見)
★短編「Ama」の登場人物で重なるのはぺパ、ディエゴ、レイラ(別の子役エンマ・エルナンデス・ぺレス)、アデ(ロランダ・パテルノイ)と多くない。監督とぺパ役のタマラ・カセリャスは長編デビューに4年の歳月を掛けたという。映画はこんな風に始まる。ディスコで踊り明かした若い女性が帰宅する、既に新しい一日が始まっており、テーブルでお絵描きをしていた小さな女の子が迎える、女性は動じる風もなくおはようと言う。娘の育児放棄に耐えきれない友人から家を追い出されてしまう。

(短編「Ama」のポスター)
★監督は「これまでのぺパの人生を説明しない方針にした。町中を子連れで放浪するぺパを無責任な母親と呼ぶこともできます」。しかし監督は、ぺパを理解するためのモラルやアリバイを提供しない。またぺパを裁かないし、観客に許しを求めない。このような状況に至るまでの経済的社会的なリソースを提供しないシステムを描くだけです。母性は存在してはならない神話であって「それは一つでなく、母親の数だけあり、それぞれ違っていていい」と監督。製作者のホセ・ルイス・ランカニョは、「芸術的品質、若くて才能あふれる制作チームの努力、何よりも映画が語る物語の力強さのため」と、製作意図に挙げている。

(マラガ入りした監督、タマラ・カセリャス、レイレ・マリン・ベラ)
★ぺパを演じて、銀のビスナガ女優賞受賞のタマラ・カセリャス(カセジャス)は、セビーリャ生れの35歳、舞台女優を目指し、セビーリャのViento Sur Teatroの演劇学校で学ぶ。その後18歳でバルセロナに移り、バルセロナの演劇学校Nancy Tuñonで学んでいる。2010年映画デビュー、2015年アルバル・アンドレス・エリアスの短編「4 días de octubre」(ESCAC Films)に出演、ハビエル・チャカルテギのコメディ「La estación」(18)、ホセチョ・デ・リナレスの「Desaparecer」(18、ESCAC Films)で長編デビュー。他に上記の短編&長編の「Ama」、デ・パス監督との接点はESCACのようです。

(銀のビスナガを手に喜びを全開するタマラ・カセリャス)
★ウェイトレスの仕事を終えて映画祭に馳せつけたタマラは、「私はぺパのように感じたことはないとはいえ、もし彼女が傷ついていると信じれば、すべての家族に言えることですが、まさかそんなことだったとは気づかなかったと言うのです」と語っている。事件後に親戚やご近所さんがメディアに語る定番ですね。またタマラは映画が絶えず深層に潜めているライトモチーフ、放棄または怠慢について「それぞれモードは異なりますが、それは私たち二人が感じている何かです」と。この映画には私にとって父や母が何であるかの分析があり、映画を見れば感動すると語っている。

(自分とは違うぺパを演じたタマラ、映画から)
★ぺパが遊びまわっているあいだ、娘レイラの世話を押しつけられている友人アデ(アナ・トゥルピン)は、二人が彼ら自身の人生を見つけるために敢えて路頭に送り出す。レイラを演じたレイレ・マリン・ベラは自然体で、本当に難しいシーンをカバーしてくれたと監督は少女を絶賛している。タマラと同郷の先輩ロサリオ役のエステファニア・デ・ロス・サントスは幼女の祖母役、セクション・オフィシアル部門のアウトコンペティションで上映された、ビセンテ・ビジャヌエバのコメディ「Sevillanas de Brrooklyn」で活躍しています。短編「Ama」にもディエゴ役で出演していたパブロ・ゴメス=パンドは、幼女の父親役です。

(意見の異なる友人アデとぺパ)

(撮影中のレイラ、ぺパ、ロサリオ、2020年3月)

(新たな絆を模索するレイラとぺパ)
★マラガFF はESCAC出身のシネアストを重視している。2017年のカルラ・シモン(『悲しみに、こんにちは』)、2018年のエレナ・トラぺ(「Las distancias」)が金のビスナガを受賞している。2020年のピラール・パロメロ(「Las niñas」)はサラゴサ出身で卒業生ではないが、ゴヤ賞2020新人監督賞のベレン・フネス(「La hija de un ladorón」)もESCACで学んでいる。4作とも作品紹介をしていますが、今のスペインはマドリードよりバルセロナが熱い。マラガFFやESCACが女性監督の採石場と称される所以です。1994年バルセロナ自治大学の付属校としてバルセロナで設立、2003年に本部をバルセロナ州テラサ(タラサ)に移した。活躍中の卒業生は、J.A. バヨナ、マル・コル、キケ・マイジョ、オスカル・ファウラ、ハビエル・ルイス・カルデラなど数えきれない。生徒に非常に厳しい要求をする学校として有名ですが、それなりの成果をあげているということでしょう。
★マラガ映画祭はとっくの昔に終幕しましたが、ゴヤ賞2022の新人監督賞、主演女優賞のノミネートを視野に入れて紹介いたしました。デ・パス監督の次回作は、児童虐待をテーマにした短編、目下準備中ということです。
クラウディア・ピントの「Las consecuencias」*マラガ映画祭2021 ㉓ ― 2021年07月01日 20:31
クラウディア・ピント、第2作「Las consecuencias」で批評家審査員特別賞

★クラウディア・ピントはベネズエラ出身ですが、本作「Las consecuencias」はスペイン=オランダ=ベルギー合作の映画です。ご存知の通り故国ベネズエラは政情不安が続いて映画製作どころではありません。主演女優のフアナ・アコスタはコロンビアのカリ生れ、共演者アルフレッド・カストロはチリ出身、今回助演女優賞を受賞したマリア・ロマニジョス、カルメ・エリアス、ソニア・アルマルチャはスペイン、エクトル・アルテリオはアルゼンチン、とキャスト陣も国際的です。音楽監督、撮影監督、編集はデビュー作と同じ布陣、監督と共同で脚本を執筆したビンセント・バリエレ以下、音響、美術などスタッフは概ねベネズエラ・サイドが担当しています。

(本作をプレゼンするクラウディア・ピント、5月25日マドリード)
「Las consecuencias」2021年
製作:Sin Rodeos Films / Las Consecuencias AIE / N279 Entertaiment(オランダ)/
Potemkino(ベルギー)/ Erase Una Vez Films(スペイン)
協賛:TVE / TV3 / A Punto Media / バレンシア州TV
監督:クラウディア・ピント・エンペラドール
脚本:クラウディア・ピント・エンペラドール、エドゥアルド・サンチェス・ルへレス
撮影:ガボ(ガブリエル)・ゲーラ
音楽:ビンセント・バリエレ
編集:エレナ・ルイス
美術:フロリス・ウィレム・ボス
音響:ダーク・ボンベイ
キャスティング:アナ・サインス=トロパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
衣装デザイン:マノン・ブロム
メイクアップ&ヘアー:アランチャ・フェルナンデス(ヘアー)、サライ・ロドリゲス(メイク)
製作者:ジョルディ・リョルカ・リナレス(エグゼクティブ/プロデューサー)、
エルス・ヴァンデヴォルスト(オランダ)、クラウディア・ピント・エンペラドール、
アンヘレス・エルナンデス、ヤデラ・アバロス他
データ:製作国スペイン=オランダ=ベルギー、スペイン語、2021年、サイコ・スリラー、96分、撮影地カナリア諸島のラ・ゴメラ、ラ・パルマ、バレンシア州のアリカンテ、ベニドルム、撮影期間2019年5月18日~6月27日、スペイン公開2021年9月17日。販売Film Factory
映画祭・受賞歴:第24回マラガ映画祭セクション・オフィシアル部門プレミアム(6月11日)、銀のビスナガ批評家審査員特別賞、同助演女優賞(マリア・ロマニジョス)受賞
キャスト:フアナ・アコスタ(ファビオラ)、アルフレッド・カストロ(父)、カルメ・エリアス(母)、マリア・ロマニジョス(娘ガビ)、エクトル・アルテリオ、ソニア・アルマルチャ、クリスティアン・チェカ、エンリケ・ヒメノ・ペドロス、他
ストーリー:最近夫をダイビング中の事故で亡くしたファビオラは、思春期の娘ガビと一緒に人生をやり直そうと家族の住むカナリア諸島に浮かぶ小さな火山島へ、長らく疎遠だった父親と連れ立って旅に出る。家族は再会するが、ファビオラは家族になにか秘密があるように感じる。確かな証拠があるわけではないが、彼女の直感はすべてが見た目通りでないといっている。しかし彼女は見つかるかもしれないものへの怖れと、その答えを知る必要があるのかどうかで引き裂かれている。他人の私事に何処まで踏み込めるでしょうか。愛する人を守るための嘘は何処までなら許されるのでしょうか。母性への恐れから生まれたエモーショナルなサイコ・スリラー。怖れ、愛、嫉妬、そして火山島の風景も重要なテーマの一つ。

(小さな火山島を目指すファビオラと父親、映画から)
文化の混合は物語を豊かにし、映画を普遍的なものにする
★監督紹介:クラウディア・ピント・エンペラドール、1977年カラカス生れ、監督、脚本家、製作者。1998年、カラカスのアンドレス・ベジョ・カトリック大学で視聴覚社会情報学を専攻、卒業する。現在はスペインのバレンシアに移って映画製作をしている。短編「Una voz tímida en un concierto hueco」(01)、「El silencio de los sapos」(06)、「Todo recto」(07)、長編デビュー作「La distancia más larga」(13、ベネズエラ=スペイン合作)など。
★「La distancia más larga」については、モントリオール映画祭2013で優れたラテンアメリカ映画に贈られるグラウベル・ローシャ賞受賞を皮切りに国際映画祭で17賞している。映画賞はイベロアメリカ・プラチナ賞2015オペラ・プリマ賞、ゴヤ賞2015イベロアメリカ映画賞部門ノミネート。映画祭受賞歴はモントリオールのほか、ウエルバ・ラテンアメリカ2013観客賞、パナマ2015観客賞、クリーブランド女性監督賞、ヘルシンキ・ラテンアメリカ観客賞、トリエステ・イベロアメリカ批評家特別賞などを受賞。ハバナ、トゥールーズ・ラテンアメリカ、ヒホン、各映画祭にノミネートされた。
*「La distancia más larga」紹介は、コチラ⇒2013年09月05日/2015年02月07日

(数々の受賞歴を配したデビュー作のポスター)
★2作目が本作「Las consecuensias」である。サンセバスチャン映画祭の合作フォーラムに参加、ユーリマージュ賞Eurimages(欧州評議会文化支援基金、1989年設立)を受賞した。「このフォーラムに参加して、オランダやベルギーのシネアストと交流したことは、私にとって非常に興味深いものでした。文化と見解の混合は物語を豊かにし、映画を普遍的なものにします。それは私の望んだことでもあったのです」と語っている。2006年からTVシリーズの監督と映画製作を両立させている。
8年ぶりの長編2作目――「彼らは愛する方法を知りません」と監督
★8年ぶりの新作というのも驚きですが、ピント監督によると「製作には多額の資金が必要ですから、それが私にとって本当に重要な何かをもっているかどうか自問します。新作は母性への怖れから生まれました。というのも丁度妊娠していて完成できるか分かりませんでした。間違ったことをして娘を危険に晒してしまう母親はどうなるのだろう。娘がドアを閉めて沈黙してしまうとしたら最悪です。物語は娘が危険に晒されていると想像している母親と娘の闘いを描きますが、母親に確信はなく、それは不確実な怖れから生まれてきます」とRTVEスペイン国営放送で語っています。

(撮影中のフアナ・アコスタ、マリア・ロマニジョス、監督、アルフレッド・カストロ)
★家族の秘密が語られますが、「私たちは敷物の下に隠しているものについては表立って話しません。多くの場合、他人を守るためには沈黙は金なのです。こうして秘密は正当化されます。まだ傷は癒えていません。正しいことをしたいと思っていますが、その方法が分かりません、彼らは愛する方法を知らないのです」と監督。キャスティングについて「フアナ(・アコスタ)はとても勇気のある女優と言わざるを得ません。彼女のことはよく知りませんでしたが、素晴らしい女優、とてもラッキーでした。彼女はこの島の人だと直ぐに私に気づかせたのです。外観だけでなく印象的なオーラを放っていました。私は『あなたと一緒にやりたい、二人なら何でもできる』と言いました」とアコスタの第一印象を語っています。
★キャスト紹介:主役ファビオラ役のフアナ・アコスタは、1976年コロンビアのカリ生れ、監督と同世代の女優、昨年のマラガ映画祭にベルナベ・リコの「El inconveniente」で現地入り、主役のキティ・マンベールが女優賞を受賞している。デビューはコロンビアのTVシリーズでしたが、2000年ごろからスペインに軸足をおいている。シリアス・ドラマ(「Tiempo sin aire」、「Anna」)からコメディ(「Jefe」)まで演技の幅は広い。既にキャリア&フィルモグラフィーを紹介をしています。受賞歴はアレックス・デ・ラ・イグレシアの「Perfectos desconocidos」でフォトグラマス・デ・プラタ2018女優賞、ジャック・トゥールモンド・ビダルの「Anna」の主演でコロンビアのマコンド賞2016、ウエルバ映画祭2019ウエルバ市賞などを受賞している。まだゴヤ賞はノミネートもない。
★2003年、彼女の一目惚れで始まったエルネスト・アルテリオとの間に一人娘がいますが、2018年にパートナーを解消、正式には結婚していなかった。新恋人はパリ在住のフランスの実業家チャールズ・アラゼット、幼児を含む4人の子供がいる。本作出演のエクトル・アルテリオは実父です。
*フアナ・アコスタのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2018年07月11日

(ファビオラと父親、映画から)

(オシドリ夫婦といわれていた頃のフアナとエルネスト・アルテリオ、2017年2月)
★父親役のアルフレッド・カストロは、1955年チリのサンティアゴ生れ、俳優、舞台演出家。1982年TVシリーズでスタート、既に50本以上に出演しているチリを代表する俳優。人間の暗部を掘り起こす登場人物を演じつづけ、チリ国内だけでなくラテンアメリカ各国で活躍している。今年のマラガでは、フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」(アルゼンチン)もセクション・オフィシアル部門にノミネートされ、予想通り銀のビスナガ助演男優賞を受賞している。

(銀のビスナガ男優賞受賞のプレス会見、6月13日)
★パブロ・ラライン映画(『トニー・マネロ』『ザ・クラブ』『No』)出演が有名だが、ラテンアメリカに初の金獅子賞をもたらしたベネズエラのロレンソ・ビガスとタッグを組んだ『彼方から』(15)に主演している。『ザ・クラブ』でイベロアメリカ・フェニックス2015主演男優賞、マルセラ・サイドの「Los perros」(17)でイベロアメリカ・プラチナ2018男優賞など受賞歴多数。俳優に贈られるマラガ―スール賞がラテンアメリカから選ばれるとしたら、カストロを一番にあげておきたい。
(2018年のギレルモ・デル・トロ、今年のアメナバルの監督受賞は異例です)
*「Karnawal」の紹介記事は、コチラ⇒2021年06月13日
*『ザ・クラブ』『No』の紹介記事は、コチラ⇒2015年02月22日/同年10月18日
*『彼方から』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月30日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日

(カナリア諸島のラ・ゴメラの浜辺に佇むアルフレッド・カストロ)

(父と娘、アコスタとカストロ、中央はロマニジョス、映画から)
★母親役のカルメ・エリアスは、1951年バルセロナ生れ、舞台俳優を目指し、ニューヨークのリー・ストラスバーグ演劇学校でメソッド演技法を学んでいる本格派。ハビエル・フェセルの『カミーノ』のオプス・デイの敬虔だが頑迷な信者を演じきって、ゴヤ賞2009主演女優賞、ほかサンジョルディ賞、トゥリア賞、スペイン俳優組合の各女優賞を受賞している。今年のガウディ栄誉賞を受賞している。クラウディア・ピントのデビュー作「La distancia más larga」で死出の旅に出る主役マルティナを好演し、第2作にも起用された。カルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(18)では歌えなくなった歌手の冷静なマネージャー役だった。
*ガウディ栄誉賞でキャリア&フィルモグラフィーを紹介、コチラ⇒2021年03月29日

(ファビオラの母、ファビオラ、ファビオラの娘、映画から)

(ゴヤ賞2009主演女優賞のトロフィーを手に喜びのカルメ・エリアス)
★ファビオラの娘ガビを演じたマリア・ロマニジョスは、2004年マドリード生れ、Teatro Cuerta ParedとCine Primera Toma の学校で演技を学んでいる。2019年本作起用がアナウンスされ映画デビューした。先述したようにデビュー作で銀のビスナガ助演女優賞を受賞している。モビスター+のTVシリーズ、フェルナンド・ゴンサレス・モリナの「Paraíso」(7話)にも抜擢され、続いてフェリックス・ビスカレットのスリラー「Desde la sombra」では、パコ・レオンやレオノル・ワトリングと共演している。まだ17歳、小柄で、172センチという長身のアコスタと並ぶと幼さが残る。目下のところ上昇気流に乗っているようだが、願わくば今回の受賞が吉となりますように。

(銀のビスナガ助演女優賞のトロフィーを手にしたマリア)

(クロージングに出席したアコスタとロマニジョス、6月12日)
★スタッフ紹介:オランダのエルス・ヴァンデヴォルストは、『アイダよ、何処へ?』でオスカー賞2021国際長編映画賞にノミネートされた製作者。他『ジグザグキッドの不思議な旅』(12)、『素敵なサプライズ』(15)、『ドミノ 復讐の咆哮』(19)などが公開されている。カタルーニャのジョルディ・リョルカ・リナレスは『少年は残酷な弓を射る』の製作者、ヤディラ・アバロスはメキシコ出身だがスペインでTVシリーズ『エリーテ』や、エドゥアルド・カサノバの『スキン あなたに触らせて』などを手掛けている。
★撮影監督のガボ・ゲーラは、彼女の映画では「風景が重要な意味をもっています。前作のジャングルの撮影も過酷でしたが、今回は危険に晒されることが度々だった」と語っている。ラパルマ島で最も壮観な場所で撮影したが、困難が付きまとった。アコスタは「入り江のなかでも最も遠いところを選び、そこに到達するにはかなりのオデュッセイアでした」と。潮の流れに翻弄され、数時間中断することもあり、毎日が冒険だったようです。監督も「本当に美しい風景を手に入れましたが、それなりの代償を払いました。しかし払っただけのことはありました。物語の厳しさと風景の美しさのコントラストの映画でもあるからです」と。

(本作撮影中のピント監督)

(撮影地のカナリア諸島ラ・ゴメラ島、フォト:サウル・サントス)
*写真提供のサウル・サントスは、1979年ラパルマ島フエンカリエンテ生れ、世界最高を誇る『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を飾る写真家として、国際的に有名です。
ロジェール・カザマジョールに男優賞*マラガ映画祭2021 ㉒ ― 2021年06月24日 15:38
男優賞受賞者ロジェール・カザマジョールはビリャロンガ映画でデビュー

★銀のビスナガ男優賞受賞のロジェール・カザマジョールは、バルセロナ派の監督作品出演が多く、今までなかなか賞に恵まれませんでした。スペインの映画賞はゴヤ賞を含めてマドリード派に偏っており、ガウディ賞の存在意義があるわけです。両市は犬猿の仲、バルセロナ独立運動以来、溝は深まるばかりです。今回アンダルシアの映画祭でカタルーニャ語映画に金のビスナガが受賞した意味は深い。受賞作アグスティ・ビリャロンガの「El ventre del mar(El vientre del mar)」では、特に監督もキャスト紹介もしませんでした。主演の一人カザマジョールが男優賞を受賞したので改めて紹介することにしました。彼はスペイン内戦後のカタルーニャの村の暗部を描いた『ブラック・ブレッド』(10)で主役アンドレウ少年の父親ファリオルを好演、ガウディ賞2011助演男優賞を受賞しています。TVシリーズ、短編を含めるとIMDbには57作とあり、カタルーニャ映画では認知度のある演技派の一人です。特にビリャロンガの信頼が篤く、キャリア&フィルモグラフィーで一目瞭然できます。

(共演者オスカル・カポジャ、監督、カザマジョール、マラガFF 2021フォトコール)
*キャリア&フィルモグラフィー*
★ロジェール・カザマジョールRoger Casamajor Esteban、1976年リェイダ/レリダ県セオ・デ・ウルヘル(カタルーニャ州)生れ、俳優(舞台・映画・TV)。カタルーニャ語とスペイン語のバイリンガルだが、母語はカタルーニャ語。表記がルジェ・カザマジョール(「El mar」)、ロジャー・カサメジャー(「Pan’s Labyrinth」)、ロジェール・カサマジョール(「Pa negre」「Todo lo saben」)、ロジェ・カサマジョール(TV『H/アチェ』)など定まっていないが、一応カタルーニャ語読みにしておきます。Somhiteatre 劇団の俳優としてアンドラ公国でキャリアをスタートさせており、カタルーニャ中を巡業している。リェイダ県はアンドラ公国と国境を接しており、カタルーニャ語が公用語の一つである。その後演技修業のためバルセロナに移り、演劇学校や1913年設立の演劇学院Instituto del Teatroで演技を学んでいる。

(銀のビスナガ男優賞のトロフィーを手に満面の笑みのカザマジョール)
★アグスティ・ビリャロンガの「El mar/The Sea」で映画デビュー、スペイン内戦下のマジョルカ島で子供時代を過ごした二人の少年が、10年後に結核のサナトリウムで再会して始まるドラマ。ベルリン映画祭2000に出品され、ビリャロンガが第1回目のマンフレート・ザルツゲーバー賞を受賞している。横道に剃れるが、この賞はベルリン映画祭のフォーラム、パノラマ部門の設立者でLGBTをテーマにした映画に授与されるテディ賞の生みの親、マンフレート・ザルツゲーバーの功績に敬意を表して2000年に創設された賞。既存の価値観にとらわれない作品に贈られる賞。彼は俳優で監督でもあり、20世紀ドイツのLGBT活動の推進者、擁護者であった。本作は東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2001で『エル・マール~海と殉教』の邦題で上映されたが、その後『海へ還る日』と改題された。
*以下に主な出演作を列挙しておきます。短編、TVシリーズは割愛。
2000「El mar/The Sea」(『エル・マール~海と殉教』)アグスティ・ビリャロンガ監督、
カタルーニャ語、ベルリン映画祭2000出品、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2001上映
2001「Salvajes」カルロス・モリネロ監督
2002「L’illa de l’holandes」Sigfrid Monlron監督、カタルーニャ語、
ムルシア・スペイン映画週間出品、フランシスコ・ラバル賞受賞
2002「Guerreros」ダニエル・カルパルソロ監督
2002「Estrella del sur」ルイス・ニエト監督
2004「Nubes de verano」フェリペ・ベガ監督
2006「Pan’s Labyrinth」(『パンズ・ラビリンス』)ギレルモ・デル・トロ監督、
カンヌ映画祭出品、公開2007
2010「Henri 4」ヨ・バイヤーJo Baier監督
2010「Pa negre/Pan negro/Black Bread」(『ブラック・ブレッド』)
アグスティ・ビリャロンガ監督、サンセバスチャン映画祭出品、
ガウディ賞2011助演男優賞受賞、公開2012
2016「El elegido」(『ジャック・モルナール、トロツキー暗殺』)
アントニオ・チャバリアス監督、 Netflix配信
2017「Incerta gloria」アグスティ・ビリャロンガ監督、
2018「Todo lo saben」(『誰もがそれを知っている』)アスガー・ファルハディ監督、
公開2019
2020「La vanpira de Barcelona」リュイス・ダネス監督、カタルーニャ語、
シッチェス映画祭出品
2021「El ventre del mar(El vientre del mar)」アグスティ・ビリャロンガ監督、
カタルーニャ語、マラガ映画祭出品、銀のビスナガ男優賞受賞
2021「Tros」(ポスト・プロダクション)
*割愛したTVシリーズ「H/アチェ」(2019、シーズン1の5話にブルーノ役で出演)がNetflixで配信されている。その他、カタルーニャTVシリーズに多数出演している。脇役が多いので見過ごしされがちだが、比較的字幕入りで鑑賞できる作品も多いほうかもしれない。
*『誰もがそれを知っている』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月08日/2019年06月23日
*「La vanpira de Barcelona」の記事は、コチラ⇒2021年03月24日
*「El ventre del mar(El vientre del mar)」の紹介は、コチラ⇒2021年05月09日

(共演したブルノ・ベルゴンジニとカザマジョール、『エル・マール~海と殉教』より)

(マクシミリアン・ド・ベテュヌに扮した「Henri 4」より)

(マリベル・ベルドゥの弟ペドロに扮したカザマジョール、『パンズ・ラビリンス』より)

(カザマジョールとフランセスク・コロメル『ブラック・ブレッド』より)

(ガウディ賞2021作品賞受賞の「La vanpira de Barcelona」から)

(水夫役オスカル・カポジャと医師役カザマジョール、「El ventre del mar」より)
スタンダップコメディ 『ダニ・ロビラの嫌悪感』*ネットフリックス配信 ― 2021年05月24日 17:44
生れ故郷マラガで「Odio, Dani Rovira」と題してライブ

★ダニ・ロビラがHodgkin(ホジキンリンパ腫)という癌の診断を受けたのは、2020年3月18日、スペイン政府が新型コロナウイリス蔓延のためロックダウンを宣言した4日後だったという。1週間後SNSで告知すると、友人知人はいうに及ばず見知らぬ人々からの励ましを受けて勇気づけられたという。「Ocho apellidos vascos」共演で意気投合、以来パートナーだったクララ・ラゴとの関係は、前年に終わっていた。リピーターを含めると約1000万人が映画館に足を運んだという、スペイン映画史上最高の収益をだした大ヒット作、二人で設立した慈善財団「Fundación Ochotumbao」の活動は続行している。それとこれは別ということです。クララの新恋人は歌手で俳優のホセ・ルセナということです。
『ダニ・ロビラの嫌悪感』(原題「Odio de Dani Rovira」)
★製作はNetflix、スタンダップコメディ、82分、ライブは2020年11月14日、マラガのソーホー・カイシャバンク劇場 Teatro del Soho CaixaBank、今年のゴヤ賞2021のガラもこの劇場で開催された。2021年2月12日から Netflix で配信が開始されている。

(ソーホー・カイシャバンク劇場のライブ予告から)
★「パンデミックだけでなくがんと闘っている人々へのオマージュ」として企画された。称賛と批判あるいは嫌悪感は背中合わせであるのだが、かなりきわどい発言もあった。2020年11月といえばまだ新型コロナウイルスの真っただ中のはずですが、マスクこそしていましたが会場はほぼ満席に近かったように思え、コロナ禍対応の違いを感じさせた。ロビラが罹患したホジキンリンパ腫という癌は日本では多くないそうですが、治癒が難しいということです。多分本人的には九死に一生を得たということでしょう。40歳で迎えた第二の人生は幕が揚がったばかり、心身のバランスをとって、今後も私たちに笑いを届けてください。
★ダニ・ロビラは1980年11月マラガ生れ、俳優、スタンダップコメディアン、TV司会者、慈善活動家。完全菜食主義者である。18歳で大学進学のためグラナダに移り、グラナダ大学では体育スポーツ科学を専攻した。26歳のとき本格的に俳優の道を目指してマドリードに移住、2004年テレビ界でスタートする。長編映画デビューは、2014年のエミリオ・マルティネス=ラサロのコメディ「Ocho apellidos vascos」の主役に起用され、一躍スターダムにのし上がった。ゴヤ賞2015の総合司会に抜擢され、自身も新人男優賞を受賞した。第2作は、台本を渡されたのはこちらのほうが先だったというマリア・リポルの「Ahora o nunca」(15、邦題『やるなら今しかない!』)。ゴヤ賞ガラは3年連続で総合司会を務めたが、称賛と批判半々に疲労困憊、4回目は引き受けなかった。

(ゴヤ賞2015新人男優賞のトロフィーを手にしたダニ・ロビラ)
*以下に主な活躍を列挙すると(ゴチック体は当ブログ紹介作品)、
2015『オチョ・アペリードス・カタラネス』(「オチョ・アペリードス・バスコス」の続編)
2016『100メートル』マルセル・バレナ監督
2017『ティ・マイ~希望のベトナム』パトリシア・フェレイラ監督
2018『スーパーロペス』ハビエル・ルイス・カルデラ監督
2018「Miamor perdida」エミリオ・マルティネス=ラサロ監督
2019「Taxi a Gibraltar」アレホ・フラ監督、マラガ映画祭2019のオープニング作品
2019「Los Japón」アルバロ・ディアス・ロレンソ監督、マラガFF2019クロージング作品
2021『ジャングルクルーズ』ジャウム・コレット=セラ監督(ディズニー映画)
★邦題はネットフリックスで配信されたときのもの、『ジャングルクルーズ』の撮影は2018年と癌罹患前であるが、もともとの公開日(2020年7月)が、米国の新型コロナウイルス蔓延のため1年後に延期されていた。日米同時公開は2021年7月の予定。本作にはダニ・ロビラのほか、エドガー・ラミレス、キム・グティエレスなどがクレジットされている。キャリア詳細については、以下の作品で紹介しています。
*「Ocho apellidos vascos」の主な作品紹介は、コチラ⇒2014年03月27日
*『やるなら今しかない!』の作品紹介は、コチラ⇒2015年07月14日
*『オチョ・アペリードス・カタラネス』の作品紹介は、コチラ⇒2015年12月09日
*「Miamor perdida」の作品紹介は、コチラ⇒2018年12月14日
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