ブラジル映画 『ファヴェーラの娘』 *ラテンビート2019 ② ― 2019年10月12日 10:44
今年の「金貝賞」受賞作品「Pacificado」がラテンビートでの上映決定!
★パクストン・ウィンターズの「Pacificado」は、サンセバスチャン映画祭SSIFF 2019「セクション・オフィシアル」にノミネートされ、なんと金貝賞を受賞してしまった。言語がポルトガル語ということで当ブログでは授賞式までノーチェックでしたが、まさかの金貝賞受賞、審査委員長がニール・ジョーダンだったことを忘れていました。さらに『ファヴェーラの娘』の邦題でラテンビートLBFFで、まさかの上映となれば割愛するわけにはいきません。監督Paxton Wintersの日本語表記にはウィンタース(ズ)の両用があり、当ブログでの表記はパックストン・ウィンタースを採用しておりましたが、これからはLBFFに揃えることにしました。
(左端がダーレン・アロノフスキー、SSIFFのフォトコール)
★昨年のLBFFでは、サッカーやサンバの出てこないホームドラマ、グスタボ・ピッツィの『ベンジーニョ』が好評でした。今年はファヴェーラというリオのスラム街を舞台に、リオデジャネイロ・オリンピック後のファヴェーラに暮らす或る家族、刑期満了で出所したばかりの元リーダーの父親ジャカと内向的な娘タチを軸に物語は進行します。撮影には巨大ファヴェーラMorro dos Prazeres(モッホ・ドス・プラゼーレス)の住民が協力した。というわけで監督は、ガラ壇上から早速「モッホ・ドス・プラゼーレス」の住民に授賞式の映像を送信して共に喜びあっていた(フォト下)。まだ正式のポスターも入手できておりませんが、一応データを整理しておきます。LBFF公式サイトでストーリーが紹介されております。
(携帯でモッホ・ドス・プラゼーレスの住民と接続して、金貝賞受賞を一緒に喜ぶ
パクストン・ウィンターズ監督、2019年9月28日SSIFFガラにて)
『ファヴェーラの娘』(「Pacificado / Pacified」)ブラジル=米国合作 2019年
製作:Reagent Media / Protozoa Pictures / Kinomad Productions / Muskat Filmed Properties
監督:パクストン・ウィンターズ
脚本:パクストン・ウィンターズ、Wellington Magalhaes、Joseph Carter Wilson
撮影:ラウラ・メリアンス
音楽:ベト・ビリャレス、コル・アンダーソン、ミリアム・ビデルマン
編集:アイリン・ティネル、アフォンソ・ゴンサルヴェス
プロダクション・マネージメント:ティム・マイア
プロダクション・デザイン:リカルド・ヴァン・ステン
録音:ヴィトール・モラエス、デボラ・モルビ、他
製作者:ダーレン・アロノフスキー(Protozoa Pictures)、パウラ・リナレス&マルコス・テレキア(Reagent Media)、リサ・ムスカ(Muskat Filmed Properties)、パクストン・ウィンターズ(Kinomad Productions)、他エグゼクティブ・プロデューサーは割愛
データ:製作国ブラジル=米国、ポルトガル語、2019年、ドラマ、120分、撮影地リオデジャネイロの巨大ファヴェーラ「モッホ・ドス・プラゼーレス」、配給元20世紀FOX
映画祭・受賞歴:第67回サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアル部門、金貝賞(作品賞)、男優賞(ブカッサ・カベンジェレ)、撮影賞(ラウラ・メリアンス)
キャスト:カシア・ナシメント(タチ)、ブカッサ・カベンジェレ(父ジャカ)、デボラ・ナシメント(母アンドレア)、レア・ガルシア(ドナ・プレタ)、Rayane Santos(レティシア)、ホセ・ロレト(ネルソン)、他ファヴェーラの住民多数
ストーリー:13歳になるタチは内向的な少女でリオのファヴェーラに母親と暮らしている。離れて暮らす父親ジャカをよく知らない。しかし騒然としていたリオデジャネイロ・オリンピックが終わると、父親ジャカが刑期を終え14年ぶりに戻ってくるという。一方、ブラジルの警察は貧しい住民が占拠しているファヴェーラ間の平和維持に日夜苦慮していた。ジャカは暴力がらみの犯罪から足を洗い<平和な>男として生きることを決心していたが、ファヴェーラの住民は彼が再びリーダーになることを期待していた。ジャカとタチは、将来の希望を危うくするような対決への道を選ばざるを得なくなるだろう。
テキサス生れの監督パクストン・ウィンターズとブラジルの関係は?
★パクストン・ウィンターズ(テキサス1972)は、アメリカの監督、脚本家、製作者。俳優としてジャッキー・チェンが活躍する香港映画、テディ・チャンの『アクシデンタル・スパイ』(01)に出演しているという異色の監督。ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」は、3人のトルコのカメラマンと中国陝西省の省都西安を出発、キリギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコのイスタンブールまでの「絹の道」を辿る旅を撮った。ラクダのキャラバン隊を組み18ヵ月間かけたロードムービー。
(ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」から)
★2003年、長編映画のデビュー作「Crude」は、ロスアンゼルスFF 2003ドラマティック作品賞、シアトルFFニューアメリカン・シネマ賞を受賞、トリノFFではトリノ市賞にノミネートされた。イラクをめぐる物語「Outside the Wire」は、サンダンスのスクリーンライターズ・ラボで執筆された。またトルコのTVシリーズ「Alacakaranlik(Twilight)」(03~05)も手掛けている。トルコで外国人監督がTVシリーズを手掛けた最初の監督だった。トルコに18年間住んでいた後、ブラジルのリオに移動した。最初数か月の滞在の予定だったが、ファヴェーラのコミュニティに魅せられ、気がついたら7年経っていた。そうして完成したのが『ファヴェーラの娘』だった。「映画のアイディアは3つ、私の役割は、耳を傾けること、観察すること、質問することでした」とSSIFF上映後のプレス会見で語っていた。製作にはダーレン・アロノフスキーとの出会いが大きかった。
(デビュー作「Crude」撮影中のウィンターズ監督)
★総勢10人以上で現地入りしていたクルーは、プレス会見では監督以上に製作者の一人ダーレン・アロノフスキーに必然的に質問が集中した。アロノフスキーによると、『レクイエム・フォー・ドリーム』を出品したイスタンブール映画祭2000でパクストン・ウィンターズと偶然出会って以来の友人関係、当時ウィンターズはジャーナリストとシネアストの二足の草鞋を履いており、CNNやBBCのようなテレビ局の仕事を中東やブラジルで展開していた。Q&Aは英語、ポルトガル語、スペイン語で進行した。既にアメリカ映画に出演し、本作では一番認知度の高い出演者デボラ・ナシメント(サンパウロ1985)は英語も堪能だし、華のある女優なので会場からの質問も多く英語で対応していた。
(パクストン・ウィンターズ、SSIFFプレス会見)
★ジャカ役のブカッサ・カベンジェレBukassa Kabengele(ベルギー1973)は、コンゴ系ブラジル人の歌手で俳優。日本では歌手のほうが有名かもしれない。ベルギー生れなのは、ベルギーがコンゴ共和国独立前の宗主国の一つだったからのようで、父親のカベンジェレ・ムナンガはサンパウロ大学の人類学教授である。SSIFFでは見事最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞した。既に帰国してガラには欠席しており、トロフィーは妻を演じたデボラ・ナシメントが受け取った。映画デビューは2001年、アンドレ・ストゥルムの「Sonhos Tropicais」、エクトル・バベンコの『カランジル』(03)、他にTVシリーズの歴史ドラマ「Liberdade, Liberdade」(16、12話)や「Os Dias Eram Assim」(17、53話)に出演している。
(ブカッサ・カベンジェレ)
(最優秀男優賞のトロフィーを受け取るデボラ・ナシメント)
★オーディションで監督の目に留まり、娘タチ役を射止めたカシア・ナシメントCassia Mascimentoをカシア・ジルと紹介しておりました。記事によって2通りあり迷いましたが、IMDbとサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル公式サイトの後者を採用しました。しかし今回アップするにつき、SSIFF上映後のプレス会見(9月24日)で確認したところ前者だったのです。公式サイトも当てにならないということです。ファヴェーラ出身のスター誕生です。管理人はポルトガル語の発音が正確ではないが、カッシア・ナスィメントゥかもしれない。同姓のデボラ・ナシメントの本邦での表記がナシメントなので揃えることにいたしました。ドナ・プレタ(リオデジャネイロ1933)を演じたレア・ガルシアは86歳、フランスのマルセル・カミュの『黒いオルフェ』(59)でデビュー、セラフィナを演じた女優が現役なのには真底驚きました。今作はカンヌFFのパルム・ドール受賞、アカデミー外国語映画賞を受賞したことで公開された。
(左から、家族を演じたブカッサ・カベンジェレ、カシア・ナシメント、
デボラ・ナシメント、上映前のフォトコール9月24日)
★本作は4つの制作会社が担当しました(上記)。ダーレン・アロノフスキー以外はガラまで受賞を期待して残っておりました。というわけで登壇したのは、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ、パクストン・ウィンターズの4人でした。マルコス・テレキアは『リオ、アイラブユー』(14)の製作者の一人、ブラジル映画祭2015で上映され、後WOWOWで放映された。ほかラウラ・メリアンスが最優秀撮影賞(銀賞)を受賞した。
(左から、ウィンターズ監督、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ)
ドナルド・サザーランドにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ㉙ ― 2019年10月05日 16:27
エレガントな身なりで現地入りした栄誉賞受賞者ドナルド・サザーランド
(飄々と、しかし貫禄の受賞者ドナルド・サザーランド)
★9月26日、映画祭も終了した後のアップとなりましたが、ドナルド・サザーランドの栄誉賞ドノスティア賞の授賞式がクルサール・ホールで行われました。待ち構えていたファンのサインや自撮りにも気軽に応じていた御年84歳(1935年生れ)のベテラン俳優でした。受賞発表の際に既にキャリア&フィルモグラフィーの紹介をしております。カナダ出身ですが主に米国映画界で活躍、およそ200作に出演と聞けば、彼が映画史に残した影響の大きさに驚く。しかし、米アカデミーは彼にオスカー像を渡さなかった。その「不正」を正そうと決心したのか、やっと2年前にアカデミー栄誉賞を授与したのでした。
(総ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノスからトロフィーを受け取る受賞者)
★エレガントなジャケットでフォトコールに姿を見せたサザーランドは、エル・パイス紙のインタビューに「私はまだ引退できません、何しろ口を開けて食物を待っている家族がいるから」と応じている。というわけで、ジュゼッペ・カポトンディ監督の最新作スリラー「The burnt orange heresy」に出演、アートの世界から自ら身を引いた画家に命を吹き込んだ。本作はサンセバスチャン映画祭でドノスティア賞授賞式後に上映されました。
(杖に助けられてフォトコールに現れたドナルド・サザーランド、9月26日)
★「お気に入りの監督は?」という質問には、「好きな監督はおりません。それはまるで5人の子供の中から選ぶように言われているようなものです。どの子も大好きだし、映画を一緒に作った監督も出来上がった作品もすべて同じように大好きです。そうですね、フェデリコ・フェリーニとの仕事は良かった」と99点の答えでした。サザーランドには同じ道を選んだキーファー・サザーランドを含めて5人の子供がいる。フェデリコ・フェリーニとの仕事とは『カサノバ』(76)でジャコモ・カサノバを演じた。
★サザーランドが今一番気がかりな政治的関心は加速する気候変動ということです。「私には子供も孫もいますが、彼らが生きていけない世界を残そうとしています。250万種の鳥類が消滅し、中国では昆虫の不足により植物の花を受粉させることができず、自ら行わねばならなくなっている。これが私たちの望む世界ですか。気候変動に対して国連が行っていることは、まるでガラクタです」。経済発展は必要ですが、生態系を破壊しては元も子もないということです。我が国も以前より後ろ向きなのが気がかりです。
*キャリア&フィルモグラフィーの紹介は、コチラ⇒2019年09月02日
ペネロペ・クルスにドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ㉘ ― 2019年10月04日 20:25
史上最年少45歳のドノスティア賞受賞者、ペネロペ・クルス
(純白のドレスに身を包んで誇りに満ち輝いていたペネロペ・クルス)
★映画祭最終日の9月28日、ギリシャ出身のフランスの監督コスタ・ガヴラス、カナダ出身の俳優ドナルド・サザーランドに続いて栄誉賞ドノスティア賞が、U2のボノによってペネロペ・クルスの手に渡されました。アイルランドのボーカリストは彼女の親しい友人の一人ということでしたが、ボノの登場には会場から驚きの声が上がりました。栄誉賞のプレゼンターは映画祭総ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノスと決まっていたから当然でした。ボノは会場の脇から出し抜けに現れ、涙の受賞者がいる壇上に登ったのでした。アイルランドの歌手は「スクリーンの中のペネロペの人生は私を惹きつける、なぜなら家族ドラマだから。私を含めて我々のようなアーティストは自分自身を見失います。ペネロペは他人になって迷うので、我々は彼女の中で迷うことになる」とスピーチした。
(プレゼンターのボノと抱き合う受賞者ペネロペ・クルス)
★受賞者は受け取ったトロフィーを「わたしの夫ハビエル・バルデムと二人の子供たちに」とスピーチ、会場にいたバルデムは立ち上がって拍手、妻を祝福していました。彼女を育ててくれた、ビガス・ルナ、ペドロ・アルモドバル、フェルナンド・トゥルエバへの感謝の言葉に続いて、スペインでは2019年に夫や恋人によるDVで死亡した女性が44人もいたことに触れ、スペインの社会的病根マチスタの横行を批判しました。受賞スピーチとしてはちょっと破格だったかもしれませんが、彼女らしかったともいえます。
(受賞スピーチをするペネロペ・クルス)
★14歳でのデビュー、今は亡きビガス・ルナに見いだされ『ハモンハモン』を撮ったのは18歳、続くフェルナンド・トゥルエバがアカデミー外国語映画賞を受賞した『ベルエポック』(92)、アルモドバルが同じオスカー賞を受賞した『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)、カンヌ映画祭女優賞をグループで受賞した『ボルベール<帰郷>』(06)、アカデミー助演女優賞を受賞したウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』(08)の出演など運にも恵まれましたが、運も実力のうちでしょう。3個のゴヤ賞、フランスのセザール栄誉賞、英国のバフタ助演女優賞など受賞歴も煌びやかです。45歳という破格の若さでの受賞も、その長い芸歴や国際的な活躍を考えれば、反論の余地がないということです。
◎主なペネロペ・クルスの関係記事
*セザール栄誉賞受賞の記事は、コチラ⇒2018年03月08日
*最近のキャリア紹介記事は、コチラ⇒2019年05月20日
*アスガー・ファルハディの『誰もがそれを知っている』は、コチラ⇒2019年06月23日
*アルモドバルの「Dolor y gloria」は、コチラ⇒2019年04月22日
ホライズンズ・ラティノ賞はロミナ・パウラ*サンセバスチャン映画祭2019 ㉗ ― 2019年10月03日 13:37
ホライズンズ・ラティノ賞はロミナ・パウラのデビュー作
★ラテンアメリカ諸国の作品がエントリーされる「ホライズンズ・ラティノ部門」の作品賞に、アルゼンチンのロミナ・パウラのデビュー作「De nuevo otra vez」が受賞しました。作家、舞台演出家、女優と多才な顔をもつロミナ・パウラの監督デビュー作。自分の母親と息子を登場させた。第2席に当たる特別メンションには、ペルー=コロンビア合作「La bronca」のダニエル&ディエゴ・ベガ兄弟の手に渡りました。2作とも既に作品紹介をアップしております。
★当部門からは、グアテマラのセサル・ディアスの「Nuestras madres / Our Mothers」が、スペイン協同映画賞を受賞しています。本作はカンヌ映画祭併催の「批評家週間」に出品され、新人監督に贈られるカメラドールを受賞している。ほかにはコンペティション外ですが、RTVEスペイン国営ラジオ・テレビが選ぶ「Otora Miradaもう一つの視点」に、アルゼンチンの妊娠中絶合法化運動をテーマにしたフアン・ソラナスのドキュメンタリー「La ola verde (Que sea ley)」が受賞した。カンヌ映画祭にも出品され、監督以下関係者が大挙して赤絨毯を踏んで話題になりましたが、こちらサンセバスチャン映画祭でもメイン会場のクルサール・ホールに運動のシンボル緑のリボンをして一堂に会しました。
(クルサールを緑の旗で埋め尽くした関係者たち、9月24日)
*「De nuevo otra vez」の作品紹介は、コチラ⇒2019年09月10日
*「La bronca」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月23日
*「Nuestras madres / Our Mothers」の作品紹介は、コチラ⇒2019年05月07日
*「La ola verde (Que sea ley)」の記事は、コチラ⇒2019年08月11日
★ニューディレクターズ作品賞は、チリのホルヘ・リケルメ・セラーノの「Algunas bestias」が受賞、アルフレド・カストロやパウリナ・ガルシアなどベテラン勢が出演、ある程度予測されていた受賞でした。ニューディレクターズ部門からは、アルゼンチンのアナ・ガルシア・ブラヤの「Las buenas intenciones」が、ユース賞を受賞しました。アルゼンチン、チリの受賞が目立ったニューディレクターズ部門でした。
*「Algunas bestias」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月13日
*「Las buenas intenciones」の作品紹介は、コチラ⇒2019年08月13日
★サバルテギ-タバカレラ作品賞には、ドイツ=セルビア合作、女優で監督、脚本家として活躍するドイツのアンゲラ・シャネレクの「Ich War Zuhause, aber / I Was at Home, But」が受賞、サンセバスティアン市観客賞は、かつて『最強のふたり』でファンを楽しませてくれたフランスのオリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノのコメディ「Hors Normes / Especiales」が受賞、ヨーロッパ映画に与えられるサンセバスティアン市観客賞は、ケン・ローチの「Sorry We Missed You」でした。主な受賞者は以上です。その他、幾つも賞がありますが割愛です。
主な受賞結果
◎ニューディレクターズ賞
*「Algunas bestias」 監督:ホルヘ・リケルメ・セラーノ
(ホルヘ・リケルメ・セラーノ監督)
◎ホライズンズ・ラティノ賞
*「De nuevo otra vez」 監督:ロミナ・パウラ
(喜びのロミナ・パウラ監督)
◎ホライズンズ・ラティノ特別メンション
*「La bronca」 監督:ダニエル&ディエゴ・ベガ兄弟
(主演のロドリゴ・パラシオスとダニエル&ディエゴ・ベガ兄弟)
◎サバルテギ-タバカレラ賞
*「Ich War Zuhause, aber / I Was at Home, But」 監督:アンゲラ・シャネレク
◎観客賞
*「Hors Normes / Especiales」監督:オリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ
◎ユース賞
*「Las buenas intenciones」 監督:アナ・ガルシア・ブラヤ
◎スペイン協同賞(Cooperación española)
*「Nuestras madres / Our Mothers」 監督:セサル・ディアス
◎RTVE-Otora Mirada(もう一つの視点)賞
*「La ola verde (Que sea ley)」 監督:フアン・ソラナス
(今年の審査員の一人メルセデス・モランが緑のリボンを高く掲げてアピール)
★アルゼンチン、チリの受賞が目立ちますが、ペルー、グアテマラなどの受賞は、ラテンアメリカ諸国の緩慢でありますが静かな胎動を感じました。授賞式前に帰国してしまった受賞者もいて、あまりいい写真が検索できませんでした。
金貝賞はブラジル映画「Pacificado」*サンセバスチャン映画祭2019 ㉖ ― 2019年10月01日 11:38
リオのスラム街を舞台に父娘のドラマが語られる「Pacificado」
(金貝賞受賞の監督とスタッフ、右から2人目がパックストン・ウィンタース監督)
★9月28日(現地)、第67回サンセバスチャン映画祭が閉幕しました。コンペティション部門、ホライズンズ・ラティノ部門、ニューディレクターズ部門ほかの受賞結果が発表され、3人目のドノスティア賞受賞者ペネロペ・クルスは、友人の一人アイルランドのU2のボーカリスト、ボノからトロフィーを受け取りました。セクション・オフィシアルから選ばれる金貝賞は、パックストン・ウィンタースのブラジル映画「Pacificado」が、作品賞・男優賞・撮影賞の3冠をゲットしました。ダーレン・アロノフスキーが製作者の一人、彼も現地入りしておりました。本作とクルスのドノスティア賞についてはいずれご紹介したい。
追加情報:ラテンビート2019で『ファヴェーラの娘』の邦題で上映決定。
(ボノとトロフィーを手にしたペネロペ・クルス、映画祭閉幕9月28日)
(左から、ダーレン・アロノフスキー、ブカッサ・カベンジェレ、デボラ・ナシメント、
カシア・ジル、パックストン・ウィンタース監督、9月24日のフォトコール)
★スペイン勢は、監督賞・脚本賞・FIPRESCI 賞の3冠の「La trinchera infinita」、バスクのトリオ監督の手に渡りました。個人的に意外だったのが、ベレン・フネスのデビュー作「La hija de un ladrón」のヒロインを演じたグレタ・フェルナンデスが女優賞に選ばれたこと。今回の女優賞はドイツ出身のニーナ・ホスの2人、女優との二足の草鞋を履くIna Weisse監督の「The Audition / Das Vorspiel」(独仏合作)でヴァイオリン教師になる。グレタは審査員の一人である先輩バルバラ・レニーからトロフィーを受け取り抱き合って喜びを分かち合いました。何かの賞に絡むと予想したアメナバルの「Mientras dure la guerra」は、ツキがありませんでした。賞の助けなど借りなくても充分と判断したのか、既にスペイン公開が始まっています。
(監督と出演者、左からホセ・M・ゴエナガ、ベレン・クエスタ、アイトル・アレギ、
アントニオ・デ・ラ・トーレ、ビセンテ・ベルガラ、ジョン・ガラーニョ、9月22日)
(父娘で共演した「La hija de un ladrón」の9月25日フォトコールで)
(「La hija de un ladrón」のベレン・フネス監督、9月25日)
★映画祭のもう一つの大賞、審査員特別賞にはフランスのアリス・ウィノクールの仏独合作「Próxima」が受賞しました。『裸足の季節』の脚本を手掛け、『博士と私の危険な関係』を監督した才媛。セクション・オフィシアルの審査員が選ぶのは、以上の7賞で、金貝賞は作品賞のみ、他は銀賞です。今年の審査員は、既にアップしておりますが、委員長ニール・ジョーダン(アイルランド、監督・脚本家)、パブロ・クルス(メキシコ、製作者)、バルバラ・レニー(スペイン女優)Lisabi Fridell(スウェーデン、撮影監督)、メルセデス・モラン(アルゼンチン女優)、Katriel Schory(イスラエル、製作者)の6名でした。今回はセクション・オフィシアルの結果だけアップしておきます。
◎作品賞(金貝賞)
*「Pacificado」 監督:パックストン・ウィンタース
◎審査員特別賞
*「Próxima」 監督:アリス・ウィノクール
◎監督賞(銀貝賞)
*アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、「La trinchera infinita」
(3 冠を果たした、バスクの監督トリオ)
◎女優賞(銀貝賞)今回は2人
*グレタ・フェルナンデス「La hija de un ladrón」
(抱き合って喜ぶ、グレタとプレゼンターのバルバラ・レニー)
(喜びのスピーチをするグレタ・フェルナンデス)
*ニーナ・ホス「The Audition / Das Vorspiel」(独仏合作)監督Ina Weisse
(茶目っ気たっぷりのニーナ・ホス)
(ヴァイオリン教師に扮するニーナ・ホス)
◎男優賞(銀貝賞)
*Bukassa Kabengele(ブカッサ・カベンジェレ)「Pacificado」
(既に帰国していたのか共演者のデボラ・ナシメントが受け取りました)
◎撮影賞
*ラウラ・メリアンス(Laura Merians)「Pacificado」
◎脚本賞
*ルイソ・ベルデホ、ホセ・マリ・ゴエナガ、「La trinchera infinita」
★以上がセクション・オフィシアルの受賞作品と受賞者でした。ホライズンズ・ラティノ、ニューディレクターズほかの部門は、次回に回します。「La trinchera infinita」と「La hija de un ladrón」の作品紹介はアップを予定しています。
受賞関連記事:管理人覚え
*「La trinchera infinita」の記事は、コチラ⇒2019年07月23日
*「La hija de un ladrón」の記事は、コチラ⇒2019年07月23日
*「Mientras dure la guerra」の作品紹介は、コチラ⇒2018年06月01日/2019年09月27日
アメナバル新作の評判は上々*サンセバスチャン映画祭2019 ㉕ ― 2019年09月27日 16:54
心に響く語り口で二つに分断された1936年のスペインへ私たちを連れ戻す
★開幕2日目の9月21日、アレハンドロ・アメナバルの新作「Mientras dure la guerra」が上映されました。監督以下、主役ミゲル・デ・ウナムノのカラ・エレハルデ、フランコ陣営の陸軍将官ホセ・ミリャン・アストレイのエドゥアルド・フェルナンデス、フランコ将軍のサンティ・プレゴ、ナタリエ・ポサ、パトリシア・ロペス・アルナイスなどが赤絨毯を踏みました。上映後の評価は高く、心に響く語り口、ウナムノとアストレイとのサラマンカ大学講堂での歴史的な一騎打ち、常に思慮分別をもちながらも大胆で、私たちを驚かせ楽しませてくれるアメナバル映画が何かの賞に絡むのは間違いない。
*「Mientras dure la guerra」の紹介記事は、コチラ⇒2018年06月01日
(アレハンドロ・アメナバル、SSIFFのフォトコール、9月21日)
(左からナタリエ・ポサ、エドゥアルド・フェルナンデス、監督、カラ・エレハルデ、
カルロス・セラノ、パトリシア・ロペス・アナイス、サンティ・プレゴ)
★舞台はスペインの学術都市サラマンカ、時代はスペイン内戦勃発の1936年7月17日から、ミゲル・デ・ウナムノ(ビルバオ1964)が軟禁されていた自宅で失意の最期を迎える12月31日までに焦点が当てられている。なぜアメナバルがこのカオス状態だった暗い時代を選んだのか、矛盾に満ち、辛辣で疑い深く、誠実で正直な、知の巨人の晩年に惹きつけられたのか、興味は尽きない。秋の映画祭を期待したい。
(左から、エドゥアルド・フェルナンデス、カラ・エレハルデ、監督、他)
★エル・パイスのコラムニストとして辛口批評で有名なカルロス・ボジェロによると、アメナバルの構想には、スペインが二つに分断された20世紀最大の「悲劇に誇張や善悪の二元論を持ち込まなかった。感動も強制しない。アメナバルが見せる節度は非常に考え抜かれている。フラッシュバックや夢が多用されており、なかには不必要と思われるケースもあったが」と述べている。更にウナムノのロマンスについては、哀惜を込めた描き方が平凡でお気に召さなかったようだ。観客への甘いサービスは不要ということでしょうか。
★キャスト評は、ウナムノを演じたカラ・エレハルデについては「複雑を極めたウナムノの人格をコインの裏と表のように演じ分け注目に値する出来栄えだった」と評価は高い。カラ・エレハルデ自身は「スペインはこの83年間、1ミリも前進しておりません」と手厳しい。同感する人が多いと思いますね。
(サラマンカ大学講堂で演説するミゲル・デ・ウナムノ)
(撮影中の監督とカラ・エレハルデ、2018年5月末、サラマンカでクランクイン)
★フランコ軍の陸軍将官ホセ・ミリャン・アストレイに扮したエドゥアルド・フェルナンデスについては「絶えず変化を求めてスクリーンに現れる彼は、輝いて信頼に足る役者」とこちらも高評価、アストレイはフランコの友人でスペイン・モロッコ戦争で右目と左腕を失っている。フェルナンデスは同じ金貝賞を競うセクション・オフィシアルにノミネートされているベレン・フネスの「La hija de un ladron」に実娘のグレタ・フェルナンデスと出演していて、今年は両方のフォトコール、プレス会見と大忙しである。
(フランコ役のサンティ・プレゴとアストレイ役のエドゥアルド・フェルナンデス)
★本作以外のウナムノのビオピック作品は、マヌエル・メンチョンの「La isla del viento」をご紹介しています。かなりフィクション性の高い作品ですがこちらのウナムノ役は、ホセ・ルイス・ゴメスでした。独裁者ミゲル・プリモ・デ・リベラを批判してカナリア諸島のフエルテベントゥラに追放された1924年と最晩年の1936年の2部仕立てです。
*「La isla del viento」の作品&監督紹介は、コチラ⇒2016年12月11日
★映画とはまったく関係ありませんが、アメナバルは2年半パートナーだったダビ・ブランコとの結婚を解消した由。ブランコによると、2月からは24歳の医師セサルが新恋人、3人の関係は良好だそうで、つまり幸せということです。3人揃っての写真がインスタグラムされている。時代は変わりました。
(左から、アメナバル、ダビ・ブランコ、セサル)
追加情報:ラテンビート2019で『戦争のさなかで』の邦題で上映が決定しました。
コスタ・ガヴラスに栄誉賞ドノスティア賞*サンセバスチャン映画祭2019 ㉔ ― 2019年09月25日 16:04
コスタ・ガヴラスのスピーチはスペイン語、短くてエモーショナル
★9月21日ビクトリア・エウヘニア劇場で、コスタ・ガヴラスがドノスティア賞のトロフィーを本映画祭の総指揮者ホセ・ルイス・レボルディノスから受け取りました。レボルディノスより監督のキャリア紹介があり、その後代表作がメモランダムにスクリーンに映し出されました。初期の三部作『Z』、『告白』、『戒厳令』の他、『ミッシング』、『マッド・シティ』、『ザ・キャピタル マネーにとりつかれた男』(2012年の金貝賞受賞作品)、『ホロコースト―アドルフ・ヒトラーの洗礼―』、『ミュージックボックス』など公開作品の多くが現れ、トロフィーに値するシネアストの感を深くしました。
(ホセ・ルイス・レボルディノスからトロフィーを受け取るコスタ・ガヴラス、9月21日)
★登場したコスタ・ガヴラスのスピーチは、短かっただけでなくエモーショナルで、これぞ受賞スピーチのお手本と感じいりました。監督はスペイン語も流暢ですから、スピーチが短かったのはスペイン語だったからではないのでした。舞台には授与式のあと特別上映される「Adults in the Room」(仏=ギリシャ)に出演のヴァレリア・ゴリノ他2人も登壇、それぞれ簡単なスピーチをしました。彼女はイタリア女優ですが、母親がギリシャ人でアテネとナポリで育ったからギリシャ語も堪能です。本作は終了したばかりのベネチア映画祭のコンペティション外で既にワールド・プレミアされています。
(コスタ・ガヴラスとヴァレリア・ゴリノ)
★監督が初めてギリシャ語で撮った「Adults in the Room」は、いわゆる「現代のギリシャ悲劇」と称されたギリシャ金融危機2015を乗り切った、当時の元財務大臣ヤニス・バルファキスの回想録「Adults in the Room: My Battle With Europe’s Deep Establishment」*がベースになって映画化された。欧州連合の債務に抵抗したギリシャの人々の半年間の闘いの記録。フランスで故国の窮状をニュースで知るにつけ構想を固めていった。原作は『黒い匣 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命』として翻訳書が刊行されている(明石書店、2019年4月20日刊)。
(新作「Adults in the Room」から)
★ドノスティア賞授賞式数時間前にエル・パイス紙のインタビューに語ったところによると、監督を魅了したのは、バルファキスの不屈のレジスタンス精神だったと語っている。「バルファキスは英雄ではなく、抵抗する人です。それが私を魅了しました。人生で最も重要なのは抵抗です。それは自身を社会を変える唯一の方法だからです。抵抗するには常にそれなりの根拠があるのです」と。当時のIMF専務理事クリスティーヌ・ラガルドの発言「この部屋に必要なのは大人です」がヒントになったそうです。それも男性だけでなくより多くの大人の女性たちが権力の中枢に入ることが唯一の希望だと付け足した。
(新作のインタビューに応えるコスタ・ガヴラス、サンセバスチャン映画祭2019)
★映画は殆ど不安が支配しており、現代のギリシャ悲劇そのもの、数人の政治家、それを支える権力のある組織、資本家が数百万のギリシャ国民の希望を打ち砕いた。ここ数年間で約50万人が故国を離れた。「政治家は恐怖に目覚めたが、彼らは国民が求めたものに応えられなかった。しかし私たちにもこのような危機を出来させた責任がある。彼らが真実を知らせたら、私たちは彼らに投票しない。私たちも甘い白鳥の歌を常に聴きたがっているからです」と残念がる。現実に目をふさぎ、耳に心地よい話ばかりを聞きたがった国民にも責任の一端がある。現在は右も左も道に迷っており方向が見えない。「常に事実は知らせるべきだが、変革には責任と長い痛みをともなうこともはっきり言うべきです」と。10月18日スペイン公開が決定している。
*キャリア&フィルモグラフィー、「Adults in the Room」の記事は、コチラ⇒2019年08月25日
第67回サンセバスチャン映画祭2019開幕 ㉓ ― 2019年09月24日 19:24
開幕のスピーチは「映画祭は観客なしには開催できない」と観客に感謝
★去る9月20日(現地時間)、メイン会場のクルサール・ホールで映画祭の開会式が開催されました。カジェタナ・ギジェン・クエルボとロレト・マウレオンの総合司者で開幕しました。映画批評家への感謝に続けて「映画を観るために映画館に足を運んでくれる人々なしには映画祭は開催できない」と一般観客への感謝の辞で締めくくられました。
★セクション・オフィシアル部門の審査委員長ニール・ジョーダン(1950)が、審査員*を代表して挨拶した。アイルランドを代表する監督、脚本家、作家でもあるジョーダン映画は、イギリスや米国との合作ではあるが、ジャンルを問わない。『ことの終わり』や『プルートで朝食を』ほか、イザベル・ユペールが主演したスリラー『グレタ GRETA』(18)まで、恋愛ドラマ、ファンタジー・ホラー、コメディと幅広くカバーしている。
*メキシコのプロデューサーパブロ・クルス、スペインの女優バルバラ・レニー、スウェーデンの撮影監督 Lisabi Fridell、アルゼンチンの女優メルセデス・モラン、イスラエルのプロデューサー Katriel Schory の合計6人です。
★オープニング作品、ロジャー・ミッチェルの「Blackbird」は、ビレ・アウグストのデンマーク映画『サイレント・ハート』(14)のリメイクだそうです。本邦未公開作品ですが、「トーキョーノーザンライツフェスティバル2016」で初上映された。本作はサンセバスチャン映画祭2014に出品され、主役のパプリカ・スティーンが銀貝賞の女優賞を受賞している。リメイク版では、スーザン・サランドンが演じる。彼女は来セバスティアンしてないようだが、監督と共演者のサム・ニールが宣伝に努めていた。上映後の批評家の感触は良く、スペイン公開が決定している(公開日未定)、スペインのタイトルは「La decisión」になる。
(ロジャー・ミッチェル監督とサム・ニール、サンセバスチャン映画祭9月20日)
★カメラの放列に敷かれていたのは、ペルラス部門のオープニング作品「Seberg」に抜擢されたクリステン・スチュワートでした。監督はオーストラリア出身のベネディクト・アンドリュース、ジーン・セバーグ(アイオワ州1938)の伝記映画でクリステンはセバーグになる。オットー・プレミンジャーに17歳で見いだされて『聖女ジャンヌ・ダーク』でデビュー、フランスに渡って『悲しみよこんにちは』や『勝手にしやがれ』で一世を風靡した、オールドファンには懐かしい女優。本作は60~70年代のラディカルな公民権運動や反戦運動に参加、ブラック・パンサーをサポートしたため、FBIからマークされた時代に焦点が当てられている。
(ベネディクト・アンドリュース監督とクリステン・スチュワート、SSIFF 9月20日)
★コンペティションにノミネートされている、アレハンドロ・アメナバルのクルー、バスクの監督トリオ、ホセ・マリア・ゴエナガ、アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョのクルー、レティシア・ドレラのクルーなどが続々とセバスティアン入りしている。日本からも昨年のドノスティア賞受賞者是枝裕和監督が到着、『真実』出演のジュリエット・ビノシェとのツーショットが配信されている他、チロ・ゲーラ監督、カンヌ映画祭を総指揮しているティエリー・フレモー、アントニオ・レシネス、21日に最初のドノスティア賞を手にするコスタ・ガヴラス監督とスタッフ一同も現地入りしている。次回はコスタ・ガヴラスの授与式。
ダニエル・サンチェス・アレバロの新作*サンセバスチャン映画祭2019 ㉒ ― 2019年09月21日 07:24
新作「Diecisiete」はセクション・オフィシアルのコンペティション外で上映
★ダニエル・サンチェス・アレバロ(マドリード1970)の6年ぶりの新作「Diecisiete」は、スペイン映画としてはNetflixオリジナル作品第4作目となる。2018年9月クランクインした折にざっと紹介しておきましたが、コンペティション外とはいえセクション・オフィシアルで上映が決まりました。サンセバスチャン映画祭はNetflix作品を排除しない方針、ただしセクション・オフィシアル部門でNetflixオリジナル作品が上映されるのは、本作が初めてということです。映画祭終了後の10月4日からスペイン限定ですが劇場公開もされ、同月18日にNetflixのストリーミング配信開始がアナウンスされています。
*「Diecisiete」の作品&監督キャリアの記事は、コチラ⇒2018年10月29日
(左から、ナチョ・サンチェス、監督、ビエル・モントロ、SSIFF 2019の発表会、7月19日)
「Diecisiete」
製作:Atípica Films / Netflix(スペイン)
監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ
脚本:ダニエル・サンチェス・アレバロ、アラセリ・サンチェス
音楽:フリオ・デ・ラ・ロサ
撮影:セルジ・ビラノバ
編集:ミゲル・サンス・エステソ
キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
衣装デザイン:アルベルト・バルカルセル
メイクアップ&ヘアー:アナ・ロペス=プイグセルベル(メイク)、ベレン・ロペス=プイグセルベル(ヘアー)、マリア・マヌエラ・クルス(メイク)
プロダクション・マネージメント:アリシア・ユベロ、イバン・ベンフメア⋍レイ
視覚効果:アナ・ルビオ、クリスティナ・マテオ、他
製作者:ホセ・アントニオ・フェレス、クリスティナ・サザーランド
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、サンセバスチャン映画祭2019コンペティション部門外、スペイン限定公開10月4日、Netflixストリーミング配信開始10月18日
キャスト:ビエル・モントロ(エクトル)、ナチョ・サンチェス(兄イスマエル)、ロラ・コルドン(祖母クカ)、カンディド・ウランガ(司祭)、イチャソ・アラナ(エステル)、ホルヘ・カブレラ(センター教官)、チャニ・マルティン(従兄弟イグナシオ)、イニャゴ・アランブル(ラモン)、マメン・ドウチ(裁判官)、カロリナ・クレメンテ(従姉妹ロサ)、アーロン・ポラス(パイサノ)、ハビエル・シフリアン(自動車解体業者)、ダニエル・フステル(ガソリンスタンド員)、パチ・サンタマリア、他
ストーリー:17歳になるエクトルが少年センターに入所して2年が経つ。動物を利用して社会復帰を目指すセラピーに参加する。そこでエクトルと同じように内気で打ち解けない犬オベハと出会い、離れられない関係を結ぶようになる。ところがある日、オベハが姿を消してしまう。飼い主にもらわれていったからだ。エクトルは悲しみに暮れ、彼を探しにセンター逃亡を決心する。このようにして、兄イスマエル、祖母クカ、1匹の犬、1頭の雌牛などを巻き込んで予想外の旅が始まることになる。カンタブリアの景色をバックにしたロード・トリップ。
(性格が対照的な兄弟、イスマエルとエクトル)
★エクトルは祖母クカが入所している養護施設に潜んでいたのを探しに来た兄イスマエルに発見される。早くセンターに戻らなければ少年でいられなくなる、というのは18歳の誕生日目前だったからだ。「17歳」というタイトルには意味があったわけです。今回、フランコ時代から数々のTVシリーズに出演していたロラ・コルドンが祖母役として共演するのも話題の一つです。また主役級の2匹の犬は前もって調教されていたのではなく、家庭で飼われていたということです。性格が対照的な二人の兄弟が旅をするカンタブリアの風景、登場する動物たちの魅力も見逃せない。
(登場する1頭の雌牛というのはこれか?)
★主役エクトルを演じるビエル・モントロは、2009年短編「Angeles sin cielo」でデビュー、TVシリーズに出演していた2014年、アンドレ・クルス・シライワの「L'altra frontera」(「La otra frontera」)でアドリアナ・ヒルと母子を演じた。アルゼンチンとの合作、マルティン・オダラ『黒い雪』(17)で主役のレオナルド・スバラグリアの少年時代を演じ、妹との近親相姦という役柄と彫りの深い風貌から強い印象を残した。その他、代表作はペドロ・B・アブレウのコメディ「Blue Rai」、ダニ・ロビラがスペイン版スーパーマンになったコメディ「Superlópez」(18)にも小さい役だが出演している。評価はこれからです。
(エクトルと「僕の犬オベハ」、映画から)
(国営TV局のインタビューを受ける、監督とビエル・モントロ、2018年10月)
★イスマエルを演じるナチョ・サンチェス(アビラ1992)は、本作が長編映画初出演だが、演劇界の最高賞といわれるマックス賞の主演男優賞を「Iván y los Perros」(2018)のイバン役で受賞している。本作は、Hattie Naylor が書いたロシアのドッグ・ボーイとして知られるイヴァン・ミシュコブの実話 ”Ivan and the Dogs” を舞台化したもので、2017年にイギリスで映画化されている。4歳で親に捨てられ6歳で保護されるまで野犬と暮らしていた少年の痛ましい記憶を語る独り芝居。サンチェスは受賞当時は弱冠25歳、最年少の受賞者だった。他にTVシリーズ「El ministerio del tiempo」(16、2話)、「La zona」(17、1話)、「La catedral del mar」(18、1話)、本作はNetflixで『海のカテドラル』として配信された。
(独り芝居「Iván y los Perros」のナチョ・サンチェス)
(第21回マックス賞の授賞式のナチョ、2018年6月18日)
★6年ぶりの長編ということは、そのあいだ監督は何をしていたのか。第2作目となる ”La isla de Alice”(2015年刊)というスリラー小説を書いていた。8万部も売れたそうで、賞は逃したが第64回プラネタ賞の最終候補にもなった。監督と脚本家を兼ねるのは昨今では珍しくないが、作家となるとそう多くはない。何はともあれ映画界に戻ってくれたのは喜ばしい。
★フィルモグラフィー紹介は前回の記事とダブるが、脚本家として10年のキャリアを積んだ後、長編デビューした『漆黒のような深い青』(06)がゴヤ賞新人監督賞を受賞した後の躍進は目覚ましいものがあった。『デブたち』(09)、『マルティナの住む街』(11)、「La gran familia española」(13)、そして沈黙した。やっと5作目「Diecisiete」が登場した。もともと脚本家としてTVシリーズ「Farmacia de guardia」(95、4話)で出発しており、デビュー作まではTVシリーズの脚本を執筆しながら短編を撮っていた。なかにはゴヤ賞短編映画賞ノミネーション、オスカー賞プレセレクション、「La culpa del alpinista」のようにベネチア映画祭2004コンペティションに選ばれた短編もある。秋開催のラテンビートに来日したこともあり、本邦でもお馴染みの監督といえる。
★スクリーンでは観られないが、Netflix 配信が始まったら続きをアップしたい。ダニエル・サンチェス・アレバロ映画の常連さん、義兄弟の契りを結んだアントニオ・デ・ラ・トーレ、ほかラウル・アレバロ、キム・グティエレス、インマ・クエスタなどが登場しない新作が待ち遠しい。
追記:Netflixでは、邦題『SEVENTEEN セブンティーン』で配信開始されました。
フェデリコ・ベイローの第5作*サンセバスチャン映画祭2019 ㉑ ― 2019年09月16日 13:19
ホライズンズ・ラティノ第7弾――フェデリコ・ベイローの「Así habló el cambista」
(ダニエル・エンドレルとルイス・マチンを配したポスター)
★ウルグアイのフェデリコ・ベイロー(モンテビデオ1976)の第5作「Así habló el cambista」は、軍事政権が幅を利かせた1970年代を背景にしたスリラー仕立てのブラック・コメディ。主人公は投資家や旅行者にドルを売買するだけでなく資金洗浄にも手を染める両替商、たったこれだけの情報である程度ストーリーが読めてしまう。約30年前に出版されたフアン・エンリケ・グルベルの同名小説の映画化です。前作「Belmonte」が昨年のサバルテギ-タバカレラ部門に出品された折り、次回作は「El cambista」とご紹介した作品です。結局小説と同じタイトルになったようです。本邦でもデビュー作『アクネ ACNE』(08)が公開され、第3作「El Apóstata」(15)が邦題『信仰を捨てた男』としてNetflixにストリーミング配信されるなど、地味だがコアなファンが多い。ミニマリストの監督と言われるベイローが、ブラック・コメディとスリラーのあいだを振り子のように行ったり来たりしながら、家族ドラマという新しい分野に進出したようです。
*「Belmonte」紹介と監督キャリア&フィルモグラフィーについては、コチラ⇒2018年08月03日
(フェデリコ・ベイロー監督)
「Así habló el cambista / The Moneychanger」
製作:Oriental Features / Rizona Films
監督:フェデリコ・ベイロー
脚本:フェデリコ・ベイロー、アラウコ・エルナンデス・オルス、マルティン・マウレギ
原作:フアン・エンリケ・グルベルの同名小説「Así habló el cambista」
音楽:エルナン・セグレト
撮影:アラウコ・エルナンデス・オルス
編集:フェルナンド・フランコ、フェルナンド・エプステイン
美術:パブロ・マエストレ・ガリィ
録音:カトリエル・ビルドソラ
特殊効果:マリアノ・サンテリィ
製作者:ディエゴ・ロビノ、サンティアゴ・ロペス・ロドリゲス、他多数
データ:製作国ウルグアイ、アルゼンチン、ドイツ、スペイン語、2019年、ブラック・コメディ、97分、撮影はウルグアイ。公開:アルゼンチン、ウルグアイ、メキシコ2019年9月26日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019プラットフォーム部門、ウルグアイ・ベリャ・ウニオン、サンセバスチャン映画祭2019ホライズンズ・ラティノ部門、第57回ニューヨーク映画祭2019などに正式出品
キャスト:ダニエル・エンドレル(ウンベルト・ブラウセ)、ドロレス・フォンシ(妻グドルン)、ルイス・マチン(舅シュヴァインシュタイガー氏)、ベンハミン・ビクーニャ(ハビエル・ボンプランド)、ヘルマン・デ・シルバ(モアシール)、ホルヘ・ボラニ、エリサ・フェルナンデス、アレハンドロ・ブッシュ、セシリア・パトロン、他
ストーリー:1975年モンテビデオ、ウルグアイの地域経済は多くの日和見主義者たちを惹きつけていた。社会は軍事独裁政権によって壊滅状態だった。反体制派の面々は刑務所に閉じ込められ、経済活動は隣国アルゼンチンやブラジルの支配下にあった。ウルグアイの金融市場は、お金を雲散霧消させるには格好の場所のようだった。折も折りウンベルト・ブラウセは、資金洗浄のベテランである舅シュヴァインシュタイガーの後押しをえて外貨売買のキャリアを積んでいく。ある運命的な出会いによって目が眩んだウンベルトはのっぴきならない状況に追い込まれ、今までの人生でついぞ経験したことのない危険で大掛りなマネーロンダリングを引き受けることになる。汚い家族ビジネスのみならず、裏切り、詐欺、汚職がスリラー仕立ての家族ドラマとして、フラッシュバックしながら語られる。
アンチ・ヒーロー、ウンベルト・ブラウセにダニエル・エンドレルが挑む
★9月8日にトロント映画祭で上映されたので、ぼちぼちコメントが寄せられると思いますが、取りあえずそれは置いといて、フェデリコ・ベイローの第5作は過去の作品とは一味違うと言っても外れじゃない。ウンベルトとシュヴァインシュタイガー氏は、ビジネスでは教師と生徒の関係で始まる。最初は手ほどきとして投資家やツーリストたちにドルの売買をする両替商としてスタート、次第に政治家や時の権力者の資金洗浄に手を染めていく。完璧なアンチ・ヒーローのウンベルトを演じるのは、監督と同郷のダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)、若干細目になってビジネス・スーツで決めている。本邦ではアルゼンチン映画だが古くはダニエル・ブルマンの『僕と未来とブエノスアイレス』(04)、直近ではアドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』に主演、2作とも公開された。俳優だけでなく監督デビューもしている。
*『キリング・ファミリー~』とダニエル・エンドレルの紹介は、コチラ⇒2017年02月20日
(ウンベルト・ブラウセに扮したダニエル・エンドレル)
★デビュー作『アクネ ACNE』や『信仰を捨てた男』でもブラック・ユーモアが横溢していたが、新作でも健在のようです。1975年が中心だが、フラッシュバックで同じ軍事独裁時代の1956年、1962年、1966年が語られる。冷戦の煽りをうけてウルグアイだけでなく南米諸国はアルゼンチン、チリ、ブラジルと同じようなものだった。ウンベルトの指南役で舅を演じるアルゼンチンの俳優ルイス・マチン(ロサリオ1968)は、TVシリーズが多いのでアルゼンチンでは知られた顔です。映画では前述したアドリアン・カエタノの代表作「Un oso roja」(02)に準主役で出ている他、ミュージシャンのフィト・パエスが当時結婚していたセシリア・ロスのために撮った『ブエノスアイレスの夜』(01)に出演、共演者のガエル・ガルシア・ベルナルとドロレス・フォンシが、長続きしなかったが結婚したことでも話題になった。チリのアンドレス・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』(11)では、ヴィオレータにインタビューする記者を演じた。
(女婿ウンベルトの御指南役のルイス・マチンとダニエル・エンドレル、映画から)
★ウンベルトの妻グドルンを演じたドロレス・フォンシ(アドログエ1978)は、当ブログでは何回も登場してもらっている。2014年G. G.ベルナルと離婚した後、サンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』(15)で主役に抜擢され、撮影中に婚約した。同監督の『サミット』(17)ではリカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の娘役、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(17)ではダリンの従妹役に扮した。物言う女優の代表格、新作の冷ややかで欲求不満のかたまり、情け容赦もなく陰で糸を引くグドルン役を非の打ちどころなく演じたと高評価です。
*『パウリーナ』の記事は、コチラ⇒2015年05月21日
*『サミット』の記事は、コチラ⇒2017年05月18日/10月25日
*『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ⇒2017年08月04日
(夫婦を演じたダニエル・エンドレルとドロレス・フォンシ)
★ヘルマン・デ・シルバが演じたモアシールの立ち位置がよく分からないが、アルゼンチンでは認知度の高いベテラン、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)の第5話「愚息」の庭師役でアルゼンチン・アカデミー助演男優賞を受賞、資産家の愚息が起こした妊婦轢逃げ犯の身代わりを50万ドルで請け負うが、弱みに付け込んで値段を釣り上げ、ご主人を強請るという強者に変身する役でした。当ブログで登場させたサンティアゴ・エステベスの「La educación del Rey」(17)では、自宅に泥棒に入った少年レイを更生させようとする退職したばかりの元ガードマンを演じた。他にルクレシア・マルテルの『サマ』にも出演している。
*『人生スイッチ』の主な記事は、コチラ⇒2015年07月29日
*「La educación del Rey」の記事は、コチラ⇒2017年09月17日
(ヘルマン・デ・シルバとダニエル・エンドレル、映画から)
★映画製作のみならずウルグアイとアルゼンチンは切っても切れない関係にある。監督と主役のエンドレルはウルグアイ出身だが、どちらかというとアルゼンチンの俳優が多勢、ウルグアイの映画市場は国土も含めて狭く、1国だけでは食べていけないということでしょう。
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