シモン・メサ・ソトの「Amparo」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑭2021年08月23日 11:22

     2弾――コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作「Amparo

 

     

 

★ホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介2作目は、コロンビアのシモン・メサ・ソトの長編デビュー作Amparoです。カンヌ映画祭2014短編部門のパルムドール受賞作Leidiに続いて、2016年にMadreがノミネート、長編が待たれていました。1986年アンティオキア県都メデジン生れ、アンティオキア大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、後にロンドン・フィルム・スクールの奨学金を貰い映画製作の修士号を取得しています。パルムドール受賞作は同スクールの卒業制作作品だった。短編2作とキャリア&フィルモグラフィーは以下の通り:

Leidi」の作品紹介は、コチラ20140530

Madre」の作品紹介は、コチラ20160512

 

       

             (シモン・メサ・ソト監督)

 

 Amparo

製作:FDC Proimagenea Colombia / Antioquia Film Commission /

   Swedish Film Institute / Goethe Institut Bogota / Magin Comunicaciones

監督・脚本:シモン・メサ・ソト

音楽:ベネディクト・シーファー

撮影:フアン・サルミエント・G

編集:リカルド・サライバ

キャスティング:ジョン・ベドヤ

衣装デザイン:フリアン・グリハルバ

メイクアップ:フアニータ・サンタマリア

プロダクション・デザイン:マルセラ・ゴメス・モントーヤ

録音:テッド・クロトキエフスキー Krotkiewski、カルロス・アルシラ、ホルヘ・レンドン

製作者:フアン・サルミエント・G、シモン・メサ・ソト、(エグゼクティブ)マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、エクトル・ウリョケ、(共同)マルティン・エルディエス、ダビ・エルディエス、ほか

 

データ:製作国スペイン=スウェーデン=ドイツ=カタール、スペイン語、2021年、ドラマ、95分、撮影地メデジンほか

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2021併催の「批評家週間」に正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞受賞(サンドラ・メリッサ・トレス)、イスラエル映画祭国際シネマ賞ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門ノミネート

 

キャスト:サンドラ・メリッサ・トレス(アンパロ)、ディエゴ・アレハンドロ・トボン(息子エリアス)、ルチアナ・ガジェゴ(娘カレン)、ジョン・ハイロ・モントーヤ、ほか

 

ストーリー:メデジン1998年、二人の子供を育てているシングルマザー、アンパロの物語。アンパロが縫製工場での長時間に及ぶ夜勤を終えて帰宅すると、子供たちの姿がなかった。18歳になる息子エリアスが軍に強制的に連れ去られ、国境近くの危険な戦闘地に配備されてしまったことが分かってくる。彼の運命は閉じられてしまったのか。アンパロがエリアスのファイルの内容を変更して、ここから脱出できるよう或る人物に接触したのは、エリアスが徴兵された前日のことだった。殆ど選択肢のないアンパロにとって、汚職や暴力が支配する社会で自分の息子を強制徴兵から救出する方法はあるのか、彼女は時間との闘いに投げ込まれる。

   

       

            (息子を探しまわるアンパロ)

 

 

  貧しい人々によって戦われる戦争「コロンビアで生きる普通の母親たちに捧ぐ」

 

★カンヌ併催の第60回「批評家週間」のオープニング作品に選ばれた本作は、主演サンドラ・メリッサ・トレス(メデジン、31歳)に新人賞に当たる「ルイ・ロデレール財団ライジングスター賞」をもたらした。全く演技経験のない新人、本作のオーディションに応募する前の職業は、家電製品店で働いていた。「映画と同じようなことを自分の母親が経験していたので、物語に入り込むのは難しくありませんでした」とサンドラ。監督も「プロではありませんでしたが飲み込みが早く、役柄へのアプローチが的確で、私たちを驚かせた」と賛辞を惜しまない。カンヌでの受賞がコロンビアにもたらされたとき「サンドラ・メリッサって誰?」と話題になったようです。

 

     

                  (サンドラ・メリッサ・トレス、フレームから)

  

      

       (ソト監督とサンドラ・メリッサ・トレス、カンヌFF2021

   

     

 (証書を披露するサンドラ・メリッサ・トレス)

 

2014年に「Leidi」が短編部門でパルムドールを受賞したシモン・メサ・ソトは、この映画は「普通のお母さんたち、コロンビアで暮らしている全ての人々に捧げます」と、また「これは非常に政治的な映画です」ともカンヌで語っていた。アンパロはメロドラマのステレオタイプ的な造形からはかけ離れている。脚本執筆時から自分の母親が念頭にあった。「私の家庭は中産階級に属していましたが、母はアンパロと同じシングルマザーで、私たち兄弟を守るためにはあらゆることをしました」と監督。監督をコロンビア軍からの自由を買うために有力者に会いに行く、これは90年代のコロンビアでは非常に一般的なことでした。兵役を果たさなかった場合、軍に誘拐される可能性が高かった。「通りを歩くのが怖かった」と監督。軍隊と犯罪者は同じ穴の狢ということです。当時のメデジンは世界で最も暴力的な都市の一つ、麻薬密売が国の秩序を破壊していた。

    

      

               (母アンパロと息子エリアス)

 

★監督は「カール・テオドア・ドレイヤーのサイレント映画『裁かるるジャンヌ』(28)の最初のフレームに大きな影響を受けている」、ジャンヌ役のルネ・ファルコネッティのノーメイクの美しさ、キャラクターに密着したクローズアップに魅了されたという。「古典的で非常にフォーマルな映画を作りたかった。古典的な映画、キェシロフスキベルイマンの調和のとれた映画を撮りたかった。自国の映画にはなかったタイプの映画です。何十年にもわたって支配してきた政治的領域に疑問を投げかけたい。私たち新世代には明らかな不適合感があり、本作は私の母が生きていた経験を背景にして、暴力を体系的に取りあげた非常に政治的な映画です」と述べている。因みにスペイン語のアンパロamparoという単語には、保護とか避難場所という意味があり、示唆的です。

 

         

              (母アンパロと娘カレン)

 

2016年の「Madre」から長編は時間の問題と思われていたが、5年も掛かってしまったのは矢張り資金不足が原因ということでした。コロンビア政府の文化助成金のほか、2017年のトリノ・フィルム・ラボを経て、スウェーデン映画協会から映画プロジェクト助成金を獲得して完成させた。製作者で撮影監督のフアン・サルミエント・G(コロンビア1984)とは、8年前の「Leidi」以来の友人でもあり、監督にとって非常に重要な存在、将来的な連携を視野に入れ、2017年に制作会社「Ocútimo」を二人で設立した。フアン・サルミエントのカメラは、ダイナミックなサンドラ(アンパロ役)を追い、彼女が主導するエネルギーとリズムを維持することを心掛けたということです。音楽担当のベネディクト・シーファー(独ローゼンハイム1978)は、ブラジルのカリン・アイヌーズA vida invisívelを手掛けている。ラテンビート2019で『見えざる人生』の邦題で上映された。

コロンビアから短編 『15の夏』*ラテンビート2020 ⑨2020年11月04日 16:57

     ベネチア映画祭オリゾンティ短編映画賞受賞作品――マリアナ・サフォン監督

 

      

 

★ラテンビート2020上映最後の作品は、コロンビアはボゴタ生れでメデジン育ちの若手監督マリアナ・サフォンの短編第3Entre tú y Milagros(「Between You and Milagros」)、15の夏』の邦題でオンライン上映されます。今年のベネチア映画祭(92日~12日)でコロンビアから唯一ノミネートされた作品として、コロンビアでは話題になっていました。まだ母親の愛情と関心を求めている15歳のミラグロスと母との関係、対立ではない緊張などが綴られていますが、ママが母親だけでなく一人の女性であることも語られているようです。デジタルではない16mmで撮影されておりますが、何故高額な16mmで撮ったかは、監督の映画への情熱が始まったときに見た映画がセルロイドで撮られていたことに関係があるようです。

 

      

 (短編映画賞のトロフィーを手にしたマリアナ・サフォン、ベネチアFF2020912日)

 

 15の夏』Entre tú y Milagros短編20分)2020

監督:マリアナ・サフォン

脚本:マリアナ・サフォン、ナタリエ・アルバレス・メセン

撮影:アルフォンソ・エレーラ・サルセド

編集:アンドリュー・ステファン・リー

音楽:ジェームス・ケニー

美術:ディエゴ・ガルシア

メイクアップ:カロリナ・ウリベ

製作者:ディアナ・パティーニョ・マルティネス、マリアナ・サフォン、ホルヘ・グラナドス・ロス(メキシコ)、他

 

データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、短編ドラマ、20分、撮影地アンティオキア県シウダ・ボリバルとラ・ピンタダ、撮影期間20195月の5日間、アメリカのミロス・フォルマン奨学基金ほかを獲得。

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2020オリゾンティ短編部門、作品賞受賞、レイキャビック映画祭(9月)短編部門スペシャル・メンション、ハンプトンズ映画祭(10月、バーチャル・シネマ)ゴールデン・スターフィッシュ賞、ピーター・マクレガー・スコット・メモリアル賞受賞など

 

キャスト:ソフィア・パス(ミラグロス)、マルセラ・マル(母ロレンサ)、オルガ・ルシア・タボルダ(バシリア)、マリア・フェルナンダ・ヒラルド(ラウラ)、アレハンドロ・ハラミーリョ(ミゲル)、ペドロ・フェルナンデス(バイロン)、他多数

 

ストーリー:ミラグロスはまだ母親の愛情と関心を求めている15歳。今夏、予期せぬ死との出会いがミラグロスの中でカタルシスを引き起こし、母との関係と自分自身の存在に疑問を抱くようになる。「映画の世界は私の世界であり、自身が持っている特権の解体を明白に探求しています」と語るサフォン監督、かなり個人色の強い作品。

    

       

       

          (母ロレンサ役のマルセラ・マル、ミラグロス役のソフィア・パス)

    

 

          

                     (16mmで撮影中のマリアナ・サフォン)

 

 

    女性監督作品が44パーセント――活躍の目立った第77回ベネチア映画祭

 

監督紹介マリアナ・サフォンは、ボゴタ生れの監督、脚本家、製作者。ハベリアナ大学で情報学とオーディオビジュアル制作を専攻する。その後映画のスクリプトとして2年間働いたのち、ニューヨークに渡る。コロンビア大学の映画科で演出と脚本の修士号を取得、学位論文が本作Entre tú y Milagros」だった。2014年、短編デビュー作Al otro lado de la montaña18分)は、ダニエラ・カマチョとの共同監督、共同執筆、第2Bajo el agua(英題Submerged14分)は、脚本を第3作同様ナタリエ・アルバレス・メセンと共同執筆した。コロンビア、メキシコ、米国でコマーシャルを制作、現在は長編デビュー作La Botero」をメデジンで撮るための準備をしている。

 

          

                        (短編第2作「Bajo el agua」のポスター)

 

★監督によると「自分の母親との関係に基づいているわけではないが、1年半前30歳になったとき気づいたのは、私の母は2歳の女の子を抱えて既に離婚しており、その女の子というのが私です。それまで私は母を母以外の存在として認識していなかったことに気づいたのです。女性に子供ができると社会は唯一の役割が母親であることを要求します。彼女たちに母性以外にやりたいものが他にあるとは考えない。それで母との関係や過去全体を再考するようになった」と語っている。これは世界共通で日本社会にも少なからず当てはまります。

 

ベネチアFFノミネートの報せはニューヨーク滞在中に知ったという監督は、「自分の作品が認められるだけでなく、ベネチア映画祭に参加することは夢でした」と。映画祭では「ベネチアのような伝統ある重要な映画祭は、非常に厳しいキュレーターシップがあります」と。今年は44パーセントが女性監督作品が選ばれていますが、これは強力なメッセージでしょう。「短編映画を撮るのは長編を作る資金がないからですが、短編映画をスクリーンで上映してくれる映画祭の存在」も理由の一つのようです。

 

★製作者のディアナ・パティーニョ・マルティネスは、当ブログでアップしたシモン・メサ・ソトLeidi14)を手掛けています。これはカンヌ映画祭2014「短編映画」部門のパルムドールを受賞した作品、その後国際映画祭巡りをして幾つもの受賞を手にした。

Leidi」の作品紹介は、コチラ20140530

 

      

             

     

                         (撮影中のディアナとサフォン監督)

 

★母親ロレンザを演じたマルセラ・マルは、1979年ボゴタ生れ、女優。最近はTVシリーズ出演が多く、Netflixで配信された『エル・チャボ』(1812話出演)にベルタ・アビラ役で出演、映画ではラテンビート2013上映のアンドレス・バイスのデビュー作『ある殺人者の記録』07Satanás)に出演しています。実話をもとにした同名小説の映画化、こちらでキャリア紹介しております。

『ある殺人者の記録』の紹介記事は、コチラ20131007

 

   

 

   

  

        (アンドレス・バイスの『ある殺人者の記録』ポスター、中央がマルセラ)

 

★一方、娘ミラグロスにソフィア・パスルベン・メンドサNiña errante18Wandering Girl」)で12歳になる主役アンヘラを演じた。アンヘラと3人の異母姉妹の物語。マラガ映画祭2019に出品され、ソフィアは賞を逃したが共演者の長女役を演じたカロリナ・ラミレスが銀のビスナガ助演女優賞を受賞した。評価はこれからです。コロンビアは南米随一の美人国と言われますがキャストだけでなくスタッフも美人揃いです。

 

     

              (ルベン・メンドサのNiña errante」出演のソフィア・パス

 

      

      (右からカロリナ・ラミレス、ソフィア・パスの4人姉妹をあしらったポスター)

 

F・トゥルエバの新作はコロンビア映画*サンセバスチャン映画祭2020 ⑱2020年10月10日 10:25

      クロージングに選ばれたコロンビア映画「El olvido que seremos

 

      

 

★カンヌ映画祭2020のコンペティション部門にノミネートされた作品El olvido que seremosは、コロンビアの医師で人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスの伝記映画、1987825日、メデジンの中心街でパラミリタールの凶弾に倒れた。アバド・ゴメスの息子エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化。カンヌFFはパンデミックのせいで開催できなかった。その時点でサンセバスチャン映画祭上映が視野に入っていたのだが、結果は予想通りになった。既に本国で公開されていたことも考慮されたのかアウト・オブ・コンペティションながらクロージング作品に選ばれた。コロンビア映画なのに監督も主役も脚本もスペイン人になった経緯は、カンヌFFの紹介記事で既にアップしています。他に小説家アバド・ファシオリンセのキャリア、ボルヘスのソネットから採られたという原題の経緯なども紹介しています。部分的に重なりますが、ラテンビート一押しの作品として再度アップすることにしました。フェルナンド・トゥルエバ監督もハビエル・カマラも、ラテンビートが縁で来日したシネアストですから脈があるかもしれない。

El olvido que seremos」の作品紹介は、コチラ20200614

  

  

             (エクトル・アバド・ファシオリンセ)

 

   

 「El olvido que seremos(「Forgotten We'll Be」)2020

製作:Dago García Producciones / Caracol Televisión

監督:フェルナンド・トゥルエバ

脚本:エクトル・アバド・ファシオリンセ(原作)、ダビ・トゥルエバ

撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ

音楽:ズビグニエフ・プレイスネル

編集:マルタ・ベラスコ・ディアス

美術:カルロ・オスピナ

衣装デザイン:アナ・マリア・ウレア

メイクアップ:ラウラ・コポ

プロダクション・マネジメント:マルコ・ミラニ(イタリア)

助監督:ロレナ・エルナンデス・トゥデラ(マドリード)

録音:ヌリア・アスカニオ

視覚効果:ブライアン・リナレス

スタント:ミゲル・アレギ、ジョン・モラレス

製作者:マリア・イサベル・パラモ(エグゼクティブ)、ダゴ・ガルシア、クリスティナ・ウエテ

 

データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、136分、カラー&モノクロ、伝記、撮影地メデジン、ボゴタ、マドリード、トリノ。公開コロンビア2020822日、スペイン20213月予定

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2020コンペティション部門正式出品(パンデミックで上映なし)、サンセバスチャン映画祭2020クロージング作品(926日)

 

キャスト:ハビエル・カマラ(エクトル・アバド・ゴメス)、パトリシア・タマヨ(妻セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス)、フアン・パブロ・ウレゴ(長男エクトル・アバド・ファシオリンセ)、セバスティアン・ヒラルド(アルフォンソ・ベルナル)、ダニエラ・アバド、アイダ・モラレス、ホイット・スティルマン(ドクター・リチャード・サンダース)、他多数

 

ストーリー1987825日メデジンの中心街、医師でカリスマ的な人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスは、二人組のパラミリタールのシカリオの凶弾に倒れた。アバドが撃たれた日は、子供たちが最愛の父親を、妻が善き夫であり優れた同志を奪われた日でもあった。1980年代、暴力が吹き荒れたメデジンで、アバドは医師として家族の長として、また大学教授として後進を育てていた。我が子たちは教育を受け寛容と愛に包まれていたが、恵まれない階級の子供たちのことが常に心に重くのしかかっていた。悲劇が顔を覗かせていた。

  

         

           (ハビエル・カマラ扮する父と息子、映画から)

 

          カラーとモノクロで描く暗殺された父に捧げる永遠の愛

 

★原作はベストセラーだったが、映画化までの道のりは長かった。一つには複雑なコロンビアの社会状況と無縁ではなく、およそ3年前、コロンビアのカラコルTV社長ゴンサロ・コルドバ(2012~)の発案で映画化が企画され、オスカー監督フェルナンド・トゥルエバに白羽の矢が立った。交渉に当たったのは副社長ダゴ・ガルシアで、長い紆余曲折の後、本格的に始動したのは2019年だった。紆余曲折については、後ほど監督に語ってもらいます。本作では女優として出演しているダニエラ・アバドは、主人公の孫娘、つまり作家エクトル・アバドの娘です。彼女は映画監督として祖父暗殺をめぐるアバド家の証言集Carta a una sombra15)というドキュメンタリーを撮っています。

 

     

              (エクトル・アバド・ゴメスと娘たち)

 

 

★予告編から推測するに、本作は作家アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)がまだ少年だった1970年代前半はカラーで、成人した80年代はモノクロで撮るという2部構成になっているようです。下の家族写真によれば、作家は6人姉弟の第5子にあたる。

 

   

   (父親役のハビエル、一人置いて母親セシリア役のパトリシア・タマヨ)

 

   

 (就寝前に父親に絵本を読んでもらうエクトルと妹)

 

                   

                  (80年代の父とフアン・パブロ・ウレゴ扮する息子)

    

    

      (息子とその恋人か)

           

★エクトル・アバド・ファシオリンセの小説「El olvido que seremos」が上梓されたのは200511月、年内に3版したというベストセラー、スペインでの発売は2006年だった。サンセバスチャン映画祭上映に合わせて現地入りしたトゥルエバ監督と主人公アバドを演じたハビエル・カマラにインタビューしたエルパイス紙の記事によると、「何年ものあいだ、私はこの本に敬意を表してきた。私の人生に贈られてきたと思っていた」、しかし「ハビエル・カマラを主人公にした映画化の依頼には最初は断りました」と監督。依頼を受けて監督するという経験はなく、「私は個人的な映画をつくるだけで、というのも映画は第三者を介しないのが一番いいからです。もし外部から提案がきた場合、内面化できるなら引き受けるだけです。小説については視覚化できると感じていました」と説明する。

 

        

      (監督とハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル、926日)

 

★「小説は私的な絆が感じられるアングルを多く持っている。例えば家族物語、父と息子の関係などが語られている。私にとってこの映画は、幸福について、愛について、素晴らしいあわだちについて語っており、そして現実がいかにしてフィエスタを台無しにしてしまうかを伝えている。更に5人の姉妹や母親、メイドやシスターなど女性ばかりに囲まれて育つ男の子エクトルの魅力の虜になった。私が好きな映画や本をいくつも思い出させた」。にもかかわらずコロンビアのプロデューサーの提案をできるだけかわそうとした。それは「映画館に連れ出すのは難しそうに思えたからです。私の母が人生で再読した2冊のうちの1冊だったのですが」と苦笑する。幾度となく会合がもたれたが、ありがたいことだがその都度お断りした。

            

             

                (撮影中の監督とカマラ)

 

★彼の背中を押したのは製作者の妻クリスティナ・ウエテだった。彼女はたった一日で再読してしまうと、同意してしまった。それで彼も受け入れることにした。「不可能もここで受け入れるなら可能になるかもしれない。クリスティナはいつも不意を衝く」と思ったそうです。コロンビア行きが決定した。斯くのごとくこのカップルは夫唱婦随ならぬ婦唱夫随なのでした。クリスティナ・ウエテについては、本作の脚色を手掛けた義弟ダビ・トゥルエバが、ゴヤ賞2014を総なめにした「『ぼくの戦争』を探して」でご紹介しています。主役のハビエル・カマラと監督が宿願のゴヤの胸像を初めて手にした映画です。ウエテはスペインの女性プロデューサーの草分け的存在であり牽引役を担っている。

「『ぼくの戦争』を探して」の主な紹介記事は、コチラ201401301121

クリスティナ・ウエテについては、コチラ20140112

   

     

               (監督とカマラ、サンセバスチャンFFフォトコール、9月26日)

 

    

  

     (上映後のプレス会見、同上)

 

★実話を題材にするということはデリケートさが求められる。「二人(監督とカマラ)にとって資料集めをするのは興味あることだったが、私は映画を撮るためにここに来て、現実は既に滑走路で待機していた」と監督。「最初に私が考えた心配の種は、カマラがコロンビア人でないことでした。そのとき作家アバドから監督を引き受けてくれた感謝と、父親そっくりの俳優ハビエル・カマラは理想的だというメールが届いた」。父親を演じる俳優はコロンビア人から探すのが理想だと返事した。カマラはコロンビア訛りも分からないしメデジンもよく知らない。それだけでなくエクトル・アバド・ゴメスとは違いが大きすぎる。しかしハビエルは多くの好条件を兼ね備えていた。例えば非常に優秀な役者であることに加えて、アバド・ゴメスのように人生を愛し、生きることを謳歌している。これは上手く化けられるかもしれない。

 

★当のカマラはアバドの人格を「アメリカ人がよく口にする、実際より大きい」と定義した。また「ほとんど捉えどころのない」驚きの人だったとも。資料集めの段階でコロンビアにはアバドも載っていた脅威のリストというのがあるのを知った。このリストに載っている人は急いでコロンビアから出ていった。このリストに載っていたある人物から、例えばもしシンボリックな存在で親切で良心的な人なら残ってはいけなかった、とカマラは聞かされた。「そのとき、現実のアバドという人間の重みを感じ、撮影からは切り離そうと思った」。「とても興味深いのは、それぞれがエクトルに親切にしてもらったとか、娘たちは娘たちで父は優しいパパだったとか口にした。どうも彼は感動を演出する才に長けていたようだ」とカマラ。

 

    

(現地入りしたハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル玄関前、923日)

 

★作家が脚本を辞退したのは「小説を書いていたときの苦しみを二度と味わいたくなかった」からだと監督。それに脚本執筆の経験がなかったからとも語っているが、作家は娘ダニエラのドキュメンタリーの脚本を手掛けていた。撮影が始まると邪魔をしたくないと、ヨーロッパへ旅立ってしまった。「しかし最終的にはお会いできた」とカマラ。「3年前に監督に頂いた小説にサインしてもらいたかった。そして彼は彼で姉妹たちに渡したい私の写真を撮った。私が彼に映画は見たかと尋ねると、『いや、あなたが私のお父さんと同じだと思ったら興奮してしまうだろうね』と返事した。これ以上の褒め言葉はなかったでしょう」とカマラは述懐した。

 

 

        マジックリアリズムが今でも浮遊するコロンビア

 

★撮影中は実際のドクター・アバドの逸話が溢れていたとご両人。「脇役の俳優が背広を着てやってくると、私はアバド先生に2度お会いしています。2度目のときこの背広を着ていました。もし映画で着ることができたらと思ってと話した。ある女優さんは私の夫はアバド先生に命を助けてもらいました」など。カマラは「こういうことが次々に起こったのです」と強調する。通りで行き会う人々は、彼があたかも実際のドクターであるかのように接した。「マジックリアリズムはここコロンビアでは実際に存在しています。本の中だけでなく人々の中に存在し、彼らの視線を通してそれに気づかされます」。同じように憎しみも感じます。例えば埋葬のシーンを撮るための建物が必要だったが、教会はどこも拒絶したのです。

 

★トゥルエバ監督は「コロンビアはまだ闘いが終わっていないのです」と力をこめる。「アバドと妻セシリアが最後の会話をするシーンを撮ろうとした日、いくつかの道路が通行止めになった。そのニュースをラジオで聞いた未亡人セシリアは、直ぐタクシーで現場に駆けつけ、警察のバリアの前に立っていた。彼らに『どこに行くつもりだ』と尋問されると、『うるさいわね、通しなさい、私が主人公よ!』」ww。おそらく90歳はとうに過ぎていると思うが、かつての闘士の面目躍如。

 

       

     (セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス、息子とのツーショット、201711月)


追加情報: 英題 『Forgotten We'll Be  の邦題で、ラテンビート2020のオープニング上映が決定。
        本作はオンラインではなく劇場上映です。

フェルナンド・トゥルエバの「El olvido que seremos」*カンヌ映画祭20202020年06月14日 17:23

       コロンビアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化

 

      

 

★第73回カンヌ映画祭2020は例年のような形での開催を断念した。マクロン大統領の「719日まで1000人以上のイベントは禁止」というお達しではどうにもならない。63日、一応オフィシャル・セレクション以下のノミネーションが発表になりました。開催できない場合は、ベネチア、トロント、サンセバスチャンなど各映画祭とのコラボでカンヌ公式映画として上映されることになりました。それでカンヌでのワールドプレミアに拘っている監督たちは来年持ち越しを選択したようです。赤絨毯も、スクリーン上映も、拍手喝采もないカンヌ映画祭となりました。

   

フェルナンド・トゥルエバEl olvido que seremos(「Forgotten We'll Be」)は、コロンビアのカラコルTVが製作したコロンビア=スペイン合作映画、コロンビアはアンティオキアの作家エクトル・アバド・ファシオリンセのノンフィクション小説El olvido que seremos」(プラネタ社200511月刊の映画化です。作家の父親エクトル・アバド・ゴメス192187)の生と死を描いた伝記映画です。医師でアンティオキアのみならずコロンビアの人権擁護に尽力していた父親は、1987年メデジンの中心街で私設軍隊パラミリタールの凶弾に倒れた。1980年代は半世紀ものあいだコロンビアを吹き荒れた内戦がもっとも激化した時代でした。アバド家は子だくさんだったが作家はただ一人の男の子で、父親が暗殺されたときは29歳になっていた。

 

         

     (主人公ハビエル・カマラを配したEl olvido que seremos」のポスター

   

 

            アバド家の痛み、コロンビアの痛みが語られる

 

★エクトル・アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)の原作は、200511月に出版されると年内に3版まで増刷され、コロンビア国内だけでも20万部が売れたベストセラーです。先ずスペインでは翌年 Seix Barral から出版、メキシコでも出版された他、独語、伊語、仏語、英語、蘭語、ポルトガル語、アラビア語の翻訳書が出ている。21世紀に書かれた小説ベスト100に、コロンビアでは唯一本作が選ばれている。ポルトガルの Casa da América Latina から文学賞、アメリカのラテンアメリカの作品に贈られるWOLA-Duke Book 賞などを受賞している。

  

             

             (アバド・ファシオリンセの小説の表紙

  

           

                                    (父と息子)

 

★タイトルのEl olvido que seremos」は、ボルヘスのソネット Aqui, hoy の冒頭の1行目「Ya somos el olvido que seremos」から採られた。父親が凶弾に倒れたとき着ていた背広のポケットに入っていた。あまり知られていない出版社から友人知人に贈る詩集として300部限定で出版されたため公式には未発表だった。そのため小説がベストセラーになると真偽のほどが論争となり、作家の捏造説まで飛びだした。調査の結果本物と判明したのだが、スリルに満ちた経緯の詳細はいずれすることにして、目下は映画とかけ離れるので割愛です。

  

          

                      (ボルヘスのソネット Aqui, hoy のページ

 

★コロンビアの作家とスペインの監督の出会いは、カラコルCaracol TVの会長ゴンサロ・コルドバが仲人した。スペイン語で書かれた小説を映画化するにつき、先ず頭に浮かんだ監督は「オスカー監督であるフェルナンド・トゥルエバだった」とコルドバ会長。主役エクトル・アバド・ゴメスにスペインのハビエル・カマラを起用することは、作家のたっての希望だった。「父親の面影に似ていたから」だそうです。映画化が夢でもあり悪夢でもあったと語る作家は、出来上がった脚本を読むのが怖かったと告白している。手掛けたのは監督の実弟ダビ・トゥルエバ、名脚本家にして『「ぼくたちの戦争」を探して』の監督です。

 

        

         (作家エクトル・アバド・ファシオリンセと監督フェルナンド・トゥルエバ)

 

★最初トゥルエバ監督はこのミッションは不可能に思えたと語る。その一つは「小説は個人的に親密な記憶だが、映画にそれを持ち込むのは困難だからです」と。しかし「二つ目のこれが重要なのだが、良い本に直面すると臆病になるからだった」と苦笑する。カラコルTVの副会長でもある製作者ダゴ・ガルシアの説得に負けて引き受けたということです。スペイン側は脚本、正確には脚色にダビ・トゥルエバ、主役にハビエル・カマラ、編集にトゥルエバ一家の映画の多くを手掛けているマルタ・ベラスコの布陣で臨むことになった。キャスト陣はハビエル以外はコロンビアの俳優から選ばれた。

 

      

                           (撮影中の監督とハビエル・カマラ)

 

★作家の娘で映画監督でもあるダニエラ・アバトアイダ・モラレスパトリシア・タマヨ(作家の母親セシリア・ファシオリンセ役)、フアン・パブロ・ウレゴがクレジットされている。母親も人権活動家として夫を支えていたエネルギー溢れた魅力的な女性だったということです。当ブログ初登場のダニエラ・アバドは作家の娘、主人公の孫娘に当たり、映画は彼女の視点で進行するようです。今回は女優出演だが、祖父暗殺をめぐるアバド家の証言を集めたドキュメンター「Carta a una sombra」(15)は、マコンド賞にノミネートされ、続くドキュメンタリー「The Smiling Lombana」(18)は、マコンド賞受賞、トゥールーズ映画祭ラテンアメリカ2019で観客賞を受賞している。バルセロナで映画は学んだということです。

 

     

       (父エクトル・アバド・ファシオリンセと語り合うダニエラ・アバド、2015年)

 

★スタッフ陣も編集以外はコロンビア側が担当、撮影監督はセルヒオ・イバン・カスターニョ、撮影地は家族が暮らしていたメデジン、首都ボゴタを中心に、イタリアのトリノ(作家は私立のボリバリアーナ司教大学で学んだ後、トリノ大学でも学んでいる)、マドリードなどで行われた。モノクロとカラー、136分と長めです。音楽をクシシュトフ・キェシロフスキの『ふたりのベロニカ』や「トリコロール愛の三部作」を手掛けたポーランドの作曲家ズビグニエフ・プレイスネルが担当することで話題を呼んでいた。彼はトゥルエバのLa reina de España16)の音楽監督だった。プロダクション・マネージメントはイタリアのマルコ・ミラニ(『ワンダーウーマン』)と、コロンビア映画にしては国際色豊かです。

 

★本作はまだ新型コロナが対岸の火事であった21日、カルタヘナで毎年1月下旬に4日間行われるヘイ・フェスティバルHay Festival Cartagenaという文学祭で、作家と監督が出席しての講演イベントがありました。もともとは1988年、ウェールズ・ポーイスの古書店街が軒を連ねるヘイ・オン・ワイで始まったフェスティバルが世界各地に広がった。コロンビアではカルタヘナ、スペインはアルハンブラ宮殿で開催されている。現在は文学講演、サイン会、書籍販売の他、音楽や女性問題などのイベントに発展している。YouTubeを覗いたら150名の招待者のなかにマリベル・ベルドゥとか、作家のハビエル・セルカスも出席していました。下の写真は映画の宣伝も兼ねた講演会に出席した両人。フェスティバル期間中にトゥルエバの『美しき虜』が上映されていた。

   

              

      (アバド・ファシオリンセとトゥルエバ監督、21日、アドルフォ・メヒア劇場)

 

★現在の中南米諸国のコロナ感染状況は、コロンビアを含めてレベル3(渡航は止めてください)だから滑り込みセーフのフェスティバルでした。スペインも渡航中止対象国ですから、サンセバスチャン映画祭(918日~26日)が予定通り開催できるかどうか分かりません。開催された場合はカンヌ映画祭公式セレクション作品としてワールド・プレミアされる可能性が高いと予想しています。

追加情報:英題でラテンビート2020のオープニング作品に選ばれました。

第1回作品賞はコロンビアのカミロ・レストレポ*ベルリン映画祭20202020年03月05日 17:09

             カミロ・レストレポの長編デビュー作「Los conductos

  

             

                         (ピンキー役のルイス・フェリペ・ロサ)

   

★新設された「エンカウンター部門」(15作品)は、話題作が多かったことで観客にも評判がよかった。今年の1回作品賞は同部門にエントリーされていたカミロ・レストレポLos conductos(コロンビア、ブラジル、フランス)が受賞した。全セクションから選ばれるから結構大きな賞になります。レストレポはコロンビア北西部アンティオキア県都メデジン出身の監督、脚本家、編集者、メデジンは首都ボゴタに次ぐ大都市だが、かつては麻薬密売の中心地として有名だった。キャリア紹介は後述するが、短編数本撮った後、主演に新人2人を起用した長編第1作で、第1回作品賞を受賞した。

 

   

 (トロフィーを手にしたカミロ・レストレポ監督、ベルリン映画祭2020229日ガラにて)

 

 Los conductos2020

製作:5 a 7 Films / If You Hold a Stone / Mutokino

監督・脚本・編集:カミロ・レストレポ

音楽:アーサー・B・ジレットArthur B. Gillette

撮影:Guillaume Mazloum

録音:Mathieu Farnarier、ホセフィナ・ロドリゲス

製作者:エレナ・オリーブ、フェリペ・ゲレーロ、マルティン・ベルティエ、(以下共同製作者)グスタボ・ベック、アンドレ・ミエルニク

  

  

  (左から、アンドレ・ミエルニク、エレナ・オリーブ、レストレポ監督、グスタボ・ベック、

  ベルリナーレ2020フォトコール)

 

データ:製作国コロンビア、ブラジル、フランス、スペイン語、2020年、ドラマ、70分、

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020エンカウンター部門正式出品、第1回作品賞受賞、以後、リトアニアのスプリング映画祭(319日上映)、米国ニュー・ディレクター/ニュー・フィルム(328日)がアナウンスされている。

 

キャスト:フェルナンド・ウサガ・イギタ(デスキーテ)、ルイス・フェリペ・ロサの(ピンキー)

 

ストーリー:逃亡中のピンキーの物語。夜になると街路は黙示録のにおいが充満して来るのは、町が火に包まれているからだろうか。麻薬は地下水と空気を通して渦を巻いている。ある<パードレ>に導かれたセクトの手から解放され、自分の運命を自らの手に委ねる決心をする。彼は今、塗料やスローガン、プレス機が散乱する不法なシャツ工場の中に隠れています。ピンキーには、トンネルの先の明かりが見えていますが、ゴーストに追い詰められています。彼は自分の人生のために走っています。コロンビアは火に包まれていますが、生きています。ネオ・ドキュメンタリー作品。                                

 

 

      本当に和平は調印できたのか――コロンビア内戦の傷痕と希望が語られる

 

カミロ・レストレポは、1975年メデジン生れの監督、脚本家、編集者。1999年以来パリに軸足をおいている。映画研究所L'Abominable のメンバー。2011Tropic Poketで短編デビュー、2015年のLa impresión de una guerra26分「Impression of a War」)が第68回ロカルノ映画祭短編部門の銀豹賞を受賞、続く2016Cilaos13分、仏)も同賞を受賞した。La bouche19分「The Mouth」)がカンヌ映画祭2017「監督週間」のイリー短編映画賞部門にノミネートされ、その後ヒホン映画祭2017ではアストゥリアス賞を受賞した。長編同様、短編も内容が重く、特に最後の短編は娘婿に娘を殺害された父親のリベンジが語られている。

   

  

                 (銀豹受賞の「La impresión de una guerra」のポスター)

    

      

   (銀豹受賞の「Cilaos」のポスター)

    

   

  (第69回ロカルノ映画祭2016の銀豹のトロフィーを手にしたカミロ・レストレポ)

 

★ストーリーからも想像できるように物語はヘビー、コロンビア内戦が国民に残した傷痕は、何代にもわたって癒えることがないでしょう。製作者の一人、フェリペ・ゲレーロはデビュー作Osculo animal16)の監督、脚本家、編集者、レストレポと同世代の1975年生れ。今回は製作にまわったが、本作も数々の受賞歴をもつ作品、テーマはコロンビアにはびこる暴力ラ・ビオレンシアを取り扱っている。もう一人の製作者、マルティン・ベルティエは、五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェルの『泳ぎすぎた夜』17、無声、日仏合作)の製作者の一人、第74回ベネチア映画祭に出品され、翌年劇場公開されている。撮影監督の Guillaume Mazloum は、「Cilaos」も手掛けている。

Osculo animal」の紹介記事は、コチラ20160319

 

★キャスト陣については、今のところ情報を入手できていませんが、IMDbでは主演者2人とも本作がデビュー作のようです。フェルナンド・ウサガ・イギタが演じる「デスキーテ」は仕返しあるいは報復という意味です。

 

    

    

                       (長編「Los conductos」から)

 

コロンビア映画 『猿』 鑑賞記*ラテンビート2019 ⑮2019年12月06日 17:35

      アレハンドロ・ランデスの第3作目『猿』――背景はコロンビア内戦

 

     

 

アレハンドロ・ランデスの第3作目『猿』は、年初に開催されるサンダンス映画祭2019「ワールド・シネマ・ドラマ」部門で審査員特別賞を受賞して以来、国内外の映画祭にノミネートされ作品賞または観客賞などのトロフィーを手にしている。当ブログではサンセバスチャン映画祭SSIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門にノミネートされた折り、原題Monosで監督及び作品紹介をしております。製作国はコロンビアの他、アルゼンチン、オランダ、デンマーク、スウェーデン、独、ウルグアイ、米の8ヵ国。第92米アカデミー賞国際長編映画賞、ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞のコロンビア代表作品。

Monos」のオリジナル・タイトルでの紹介記事は、コチラ20190821

 

     

               (アレハンドロ・ランデス監督)

 

主なキャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン(ドクター、サラ・ワトソン)、モイセス・アリアス(パタグランデ、ビッグフット)、フリアン・ヒラルド(ロボ、ウルフ)、ソフィア・ブエナベントゥラ(ランボー)、カレン・キンテロ(レイデイ、レディ)、ラウラ・カストリジョン(スエカ、スウェーデン人)、デイビー・ルエダ(ピトゥフォ)、パウル・クビデス(ペロ、ドッグ)、スネイデル・カストロ(ブーンブーン)、ウィルソン・サラサール(伝令、メッセンジャー)、ホルヘ・ラモン(金探索者)、バレリア・ディアナ・ソロモノフ(ジャーナリスト)、他

 

ストーリー:一見すると夏のキャンプ場のように見える険しい山の頂上、武装した8人の若者ゲリラ兵のグループ「ロス・モノス」が、私設軍隊パラミリタールの軍曹の監視のもと共同生活を送っている。彼らのミッションは唯一つ、人質として拉致されてきたアメリカドクター、サラ・ワトソン逃亡見張りをすることである。この危険なミッションが始まると、メンバー間の信頼は揺らぎ始め、疑心暗鬼が芽生え、次第にサバイバルゲームの様相を呈してくる102分) 

 

         自国の内戦を描く――『蠅の王』にインスパイアーされて

 

A: アレハンドロ・ランデスはサンパウロ生れ(1980)ですが、父親はエクアドル出身、母親がコロンビア人ということです。コロンビア公開(815日)時に監督自身が語ったところによると「戦争映画はベトナムは米国が、アフリカはフランスが撮っているが、自分たちはコロンビア戦争をコロンビア人の視点で作る必然性があった」と語っていました。

B: コロンビアの戦争というのは、20世紀後半から半世紀以上も吹き荒れたコロンビア内戦のこと、南米で最も危険なビオレンシアの国と言われた内戦のことです。

 

A: この内戦は、反政府勢力コロンビア革命軍FARC誕生の1966年から和平合意の201611月までの約半世紀を指しますが、麻薬密売が資金源だったことで麻薬戦争とも言われています。現在でも500万人という国内難民が存在しているという。

B: 丁度ノーベル賞の季節ですから触れますと、和平合意に尽力したことでサントス大統領が2016年のノーベル平和賞を受賞した。随分昔のように感じますが、ついこないだのことです。

 

A: ラテンビート上映後、ランシス・フォード・コッポラ『地獄の黙示録』原作となったジョセフ・コンラッドの『闇の奥』1902刊)を思い出したとツイートしている方がおられました。しかしコンラッドの原作にあるような「心の闇」は皆無とは言わないが希薄だったように思いました。

B 社会と隔絶された山奥、登場人物若者グループにするなど舞台装置はウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』1954を思い起こさせた。しかし少年たちは飛行機事故をきっかけに偶然太平洋上の無人島でサバイバルゲームを余儀なくされるわけで、そもそもの発想が異なる。

 

A: 対立や裏切り、一見民主的に見えるリーダーの選出法、殺人機械になるための訓練など、閉塞された空間にいる人間の暗部を描いている点は同じです。あちらは豚の生首、こちらは乳牛シャキーラと異なるけど。(笑)

B: 大切な乳牛の世話もできない幼稚さ愚かさ、それが引き金になってリーダーのロボ(フリアン・ヒラルド)の自殺、伝令(ウィルソン・サラサール)への保身の嘘が始りで、グループは崩壊への道を歩むことになる。

 

A: ナンバー2のパタグランデ(モイセス・アリアス)の出番、リーダーを2人設定したのも小説と似ています。監督は影響を認めつつも「インスパイアーされた」と語っている。以前から「若者を主役にして戦闘やメロドラマを盛り込んだ目眩を起こさせるようなセンセショーナルな作品を探していた。私たちの映画はあまり観想的ではなくてもアドレナリンは注入したかった。ジャンル的には戦闘とアクションを取り込んで、観客は正当性には駆られないだろうから、皮膚がピリピリするようなものにしたかった」とランデス監督は語っていた。

B: 目眩は別としてアドレナリンはどくどくだった。メロドラマというのはリーダーのロボ(ウルフ)とレディ(カレン・キンテロ)の結婚、ウルフ亡き後のランボーとの性愛などですか。

 

      

                 (新リーダーになるパタグランデ役のモイセス・アリアス)

 

    

    (レディ役のカレン・キンテロ)

 

A: ランボーを演じた丸刈りのソフィア・ブエナベントゥラは映画初出演、まだ大学生とのこと。男性に偽装しているレズビアンか、両性具有なのか映画からはよく分からなかった。ベルリン映画祭パノラマ部門で上映されたとき受賞はならなかったがLGBTを扱った映画に贈られる「テディー賞」の対象作品だった。サンセバスチャン映画祭では同じ性格の賞「セバスチャン賞」を受賞している。

B: ブエナベントゥラは、ニューポート・ビーチ映画祭で審査員女優賞を受賞している。8人の中で心の闇を抱えている複雑な役柄を演じて、記憶に残るコマンドだった。彼女のように戦闘に疑問を感じる逃亡者は当然いたわけで、拾われた金探索者の家族とテレビを見るシーンが印象的だった。この家族のように紛争に巻き込まれた犠牲者はあまたいたわけで、その象徴として登場させていた。

 

     

                     (ランボー役のソフィア・ブエナベントゥラ)

 

    

   (左から、ウィルソン・サラサール、モイセス・アリアス、ランデス監督、

    ソフィア・ブエナベントゥラ、ベルリン映画祭2019のフォトコールから)

 

A: 人質の米人サラ・ワトソンの救出劇は、2008年のヘリコプター使用のイングリッド・ベタンクールと3人のアメリカ人救出劇を彷彿とさせた。FARC側の短波通信網に偽の情報を流して混乱させ救出を成功させた。国土はブラジルに次いで広く、多くが険しい山岳やアマゾンのジャングル地帯、有効なのは短波通信だけでした。

B: パタグランデたちが従っている自分たちには顔の見えない指令機関からの独立を宣言する。通信手段のラジオを破壊して通信網を遮断するが、それが命取りになる。戦闘部隊は細分化され小型化され、彼らのように消滅していった。

 

        脚本を読んだ瞬間に魅せられてコロンビアにやって来た――J.ウルフ撮影監督

 

A 映画はコロンビア中央部のクンディナマルカ県、アンデス山系東部に位置する標高4020メートルのパラマ・デ・チンガサ頂上の雲の上から始まり、カメラはジャングルの奥深く移動する。冒頭で二つの舞台でドラマが展開することを観客に知らせる見事な導入でした。ジャスパー・ウルフの映像は批評家のみならず観客をも魅了した。

B その厳しさ険しさから現地に撮影隊が入ったのは初めてだそうです。

   

(冒頭部分の映像から)

   

 

(撮影監督ジャスパー・ウルフ)

     

                     

A: ゲリラ兵の掩蔽壕があるパラモ・デ・チンガサは美しく別世界のようであったが、荒々しく寒く、天候は気まぐれで、目まぐるしく晴、雨、霧の繰り返し、反対にサマナ・ノルテ川のジャングル地帯は高温多湿で蒸し暑く、流れも早かったとウルフは語っています。

B: スエカ(ラウラ・カストリジョン)と彼女の監視下に置かれた人質ドクター(ジュリアンヌ・ニコルソン)が激流の中で争うシーンから想像できます。

 

      

          (人質サラ・ワトソン役のジュリアンヌ・ニコルソン)

 

A: あのシーンの「視覚的なインパクトは象徴的な力から得られます」とウルフは語っている。かなりの急流で演じるほうも残酷な条件だったろうと思います。

     

       

 

         

                                            (視覚的なインパクトのあった水中シーンから)

 

B: コロンビア人ではなくオランダ人の撮影監督ということですが、キャリアとかランデス監督との接点は?

A: 生年は検索できませんでしたが、アムステルダム大学(199496)とオランダ映画アカデミー(199701)で撮影を学んでいますから1970年代後半の生れでしょうか。本作がニューポート・ビーチFF審査員撮影賞を受賞していますが、既にオランダ映画祭2011でポーランド出身ですがオランダで活躍しているUrszula AntoniakCode BlueゴールデンCalfを受賞している。二人の接点は、同じ年のワールド・シネマ・アムステルダムにランデス監督が出品した長編劇映画としてはデビュー作になるPorfirioが、審査員賞を受賞している。

 

B: あくまで憶測の域を出ませんね。脚本を読んだ瞬間に魅せられて、ジャスパー・ウルフは即座にコロンビアへの旅を決心したと語っています。ランデスがあらかじめ準備したショットリストを土台にして進行し、「私たちは大胆で、怖れ知らず」だったとも。

A: 最初に考えていたステディカムの使用を再考して、構図も厳格に、俳優にできるだけ近づき彼らの目や体から放射されるエネルギーを吸収することに専念した。

B: 山頂のシーンでは、広角シネマスコープで撮影しており、暗い場所での撮影ではレンズの絞りを調整していた。これからの活躍が楽しみな撮影監督でした。

 

      

    (山頂で戦闘訓練をする8人のコマンドと伝令のウィルソン・サラサール)

 

         若いゲリラ兵の視点と感情で描いた主観的な戦争寓話

 

A: 極寒の地の厳しささのなかで、武器を持たされ軍事訓練を受ける若者のグループは、ついこの間までコロンビアに吹き荒れていた内戦のドラマ化と容易に結びつく。

B: あくまでフィクション、監督の主観的な戦争寓話として提出されている。

 

A: 音楽のミカ・レビはロンドン生れ。ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICI オリジナル音楽賞を受賞している。パブロ・ラライン『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』を手掛けており、バイオリニストでもある。

B: ベルリン映画祭にはスタッフも大勢参加しており、監督を含めて4人のプロデューサー、編集も手掛けるベテランのフェルナンド・エプスタイン、長編デビューのサンティアゴ・サパタ、本作デビューのクリスティナ・ランデス、などがフォトコールされていた。

 

 (音楽監督ミカ・レビ)

       

A: これからも受賞歴が追加されていくでしょう。ゴヤ賞2020もポルトガルを含めてイベロアメリカ映画賞部門の各国代表作品は出揃いましたが、現在のところ最終候補は発表されておりません。今年は例年より早まって、125日(土)マラガ開催、総合司会は昨年と同じシルビア・アブリル&アンドレウ・ブエナフエンテのカップルがアナウンスされています。

訂正:12月2日ノミネーションが発表になっていました。ラテンビート上映からは、『猿』と『蜘蛛』が入りました。次回全体をアップします。

  

コロンビア映画「Monos」*サンセバスチャン映画祭2019 ⑬2019年08月21日 16:03

       ホライズンズ・ラティノ第3弾――アレハンドロ・ランデスの第3作「Monos

 

    

 

★先日、ホライズンズ・ラティノ部門のラインナップをした折に、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』(1954刊)の映画化とコメントしましたが、アレハンドロ・ランデスMonosは、『蠅の王』にインスパイアされたが近い。過去にピーター・ブルック63)とハリー・フック90)の手で2回映画化されていますが、こちらは文字通り小説の映画化でした。最新ニュースによると、3度目の映画化をルカ・グァダニーノに交渉中という記事を目にしました。話題作『君の名前で僕を呼んで』の監督、実現すればどんな料理に仕上がるのか興味が湧く。

 

アレハンドロ・ランデス(サンパウロ1980)は、監督、製作者、脚本家、ジャーナリスト。サンパウロ生れだが、父親がエクアドル人、母親がコロンビア人で、母語はスペイン語である。米国ロード・アイランドの名門ブラウン大学で政治経済を専攻した。ボリビア大統領エボ・モラレスについてのドキュメンタリーCocaleroでデビュー、本作はラテンビートLBFF2008『コカレロ』の邦題で上映された。第2作のPorfirioは、カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品、その後トロントFFやメリーランドFFでも上映された。警察の不用意な発砲で下半身不随になったポルフィリオ・ラミレスの車椅子人生が語られる。本作はフィクションだが、本人のたっての希望でラミレス自身が主役ポルフィリオを演じている。第3作となるMonos」は、製作国がコロンビアを含めて6ヵ国と、その多さが際立つ。米国アカデミー2020のコロンビア代表作品候補となっている。

 

Monos

製作:Stela Cine / Bord Cadre Films / CounterNarrative Films / Le Pacte 以下多数

監督:アレハンドロ・ランデス

脚本:アレハンドロ・ランデス、アレクシス・ドス・サントス

撮影:ジャスパー・ウルフ

音楽:ミカ・レビ

編集:テッド・グアルド、ヨルゴス・マブロプサリディス、サンティアゴ・Otheguy

製作者:アンドレス・カルデロン、J. C. ChandorCharies De Viel Castel、ホルヘ・イラゴリ、Duke Merriman、グスタボ・パスミン、ジョセフ・レバルスキ、グロリア・マリア(以上エグゼクティブ)、アレハンドロ・ランデス、クリスティナ・ランデス、他多数

 

データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=オランダ=ドイツ=スイス=ウルグアイ、スペイン語・英語、2019年、スリラー・ドラマ、102分、コロンビア公開2019815日、他イタリア(711日)、以下オランダ、米国、イギリス、スウェーデン、ノルウェー、フランスなどがアナウンスされている。

 

映画祭・映画賞:サンダンスFFワールド・シネマ・ドラマ部門審査員特別賞、ベルリンFFパノラマ部門上映、BAFICI オリジナル作曲賞、アート・フィルム・フェスティバル作品賞ブルー・エンジェル受賞、カルタヘナFF観客賞・コロンビア映画賞、ニューポート・ビーチFF作品賞以下4冠、オデッサFF作品賞、トゥールーズ・ラテンアメリカFF CCAX賞、トランシルヴァニアFF作品賞などを受賞、ノミネーションは割愛

 

キャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン(ドクター、サラ・ワトソン)、モイセス・アリアス(パタグランデ、ビッグフット)、フリアン・ヒラルド(ロボ、ウルフ)、ソフィア・ブエナベントゥラ(ランボー)、カレン・キンテロ(レイデイ、レディ)、ラウラ・カストリジョン(スエカ、スウェーデン人)、デイビー・ルエダ(ピトゥフォ)、パウル・クビデス(ペロ、ドッグ)、スネイデル・カストロ(ブーンブーン)、ウィルソン・サラサール(伝令)、ホルヘ・ラモン(金探索者)、バレリア・ディアナ・ソロモノフ(ジャーナリスト)、他

 

ストーリー:一見すると夏のキャンプ場のように見える険しい山の頂上、武装した8人の少年ゲリラ兵のグループ「ロス・モノス」が、私設軍隊パラミリタールの軍曹の監視のもと共同生活を送っている。彼らのミッションは唯一つ、人質として誘拐されてきたアメリカのドクター、サラ・ワトソンの世話をすることである。この危険なミッションが始まると、メンバー間の信頼は揺らぎ始め、次第に疑いを抱くようになる。                   (文責:管理人)

 

          

   (ロス・モノスに取り囲まれた拉致被害者サラ・ワトソン役ジュリアンヌ・ニコルソン)

 

    コロンビアの半世紀に及ぶ内戦についての出口なしのサバイバル・ゲーム

 

★ストーリーから直ぐ連想されるのは、20世紀後半のコロンビアに半世紀以上も吹き荒れた内戦の傷である。比較されるのはフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』の原作となったジョセフ・コンラッドの『闇の奥』(1902刊)であろうが、原作にあるような「心の闇」は希薄のようです。本作は目眩やアドレナリンどくどくでも瞑想的ではないようだ。社会と隔絶された場所、登場人物の若者グループなど舞台装置は、ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』を思い出させる。極寒の地の厳しささのなかで、武器を持たされ軍事訓練を受ける若者のグループは、ついこの間まで存在していたコロンビアに容易に結びつく。

 

  

 

   

 (8人の武装グループ「ロス・モノス」と軍曹)

 

★コロンビア公開に際して受けたインタビューで、前から「若者を主役にして戦闘やメロドラマを織り込んだ目眩を起こさせるようなセンセショーナルな作品を探していた。私たちの映画はあまり観想的ではなくてもアドレナリンは注入したかった。ジャンル的には戦闘とアクションを取り込んで、観客は正当性には駆られないだろうから、皮膚がピリピリするようなものにしたかった」とランデス監督は語っていた。戦争映画はベトナムは米国が、アフリカはフランスが撮っているが、自分たちはコロンビア人の視点で自国の戦争映画を作る必然性があったとも語っている。

 

      

               (アレハンドロ・ランデス監督)

 

★登場人物たちの名前も、政治的に左か右か分からなくてもかまわない。「イデオロギー・ゼロを観客に放り投げたかった。所詮世界は非常に偏向して、富も理想も違いすぎている。エモーションを通して揺さぶろうとするなら、どんなメタファーが有効かだ」、「何を語るかだけでなくどう語るか」、『蠅の王』や『闇の奥』が出発点にあったようです。

 

★キャスト陣のうち、ドクター役のジュリアンヌ・ニコルソン(マサチューセッツ州メドフォード1971、代表作『薔薇の眠り』『8月の家族』)とパタグランデ役のモイセス・アリアス(ニューヨーク1994、代表作SFアクション『エンダーのゲーム』、「The King of Summer」)は、アメリカの俳優、スエカ役のラウラ・カストリジョンはスペインのTVシリーズに出演している。金探索者のホルヘ・ラモンはルクレシア・マルテルの『サマ』に出演している。そのほかは本作が2作目か初出演。

*追加情報:ラテンビート2019で『猿』の邦題で上映が決定しました。


第3回コロンビア映画上映会②*インスティトゥト・セルバンテス東京2018年11月28日 18:12

             サミル・オリベロスのデビュー作『ディア・デ・ラ・カブラ』

 

1113日上映作品サミル・オリベロスのデビュー作『ディア・デ・ラ・カブラ』の舞台は、カリブ海に浮かぶ美しいプロビデンシア島、観光地化されているサンアンドレス島から北へ80キロに位置し、5000人足らずの住民は、英語、スペイン語をベースにしたクレオール語を話す。ニカラグアから240キロとコロンビアより近いので、両国は長年統治権を争っていたが、1991年国際司法裁判所がサンアドレス、プロビデンシアを含む7島の統治権をコロンビアに認めた。コロンビア人でさえ知ってる人は多くないとか。そんな島で喧嘩ばかりしている兄妹(姉弟?)と不運なヤギが繰り広げる可笑しなロードムービー。オリジナル・タイトルはBad Lucky Goatです。

   

          

           (オリジナル・タイトルのポスター、SXSW映画祭)

    

★監督はボゴタ出身の28歳、ニューヨークのビジュアル・アート・スクールで映画を学んでいる。2014年短編Morphoを撮っているほか、詳細が検索できなかった。

   

        

            (サミル・オリベロス監督、SXSW映画祭2017にて)

 

 『ディア・デ・ラ・カブラ』(「El dia de la cabra」「Bad Lucky Goat」)2017

製作:Solar Cinema S.A.S.

監督・脚本:サミル・オリベロス・サイド

撮影:ダビ・クルト

音楽:エルキン・ロビンソン

編集:セバスティアン・エルナンデス

キャスティング:カルロス・メディナ

プロダクション・デザイナー:ルル・サルガド

製作者:アンドレス・ゴメスD.、ジーン・ブッシュ

 

データ:コロンビア、クレオール語、2017年、ミステリアス・コメディ、76分、撮影地プロビデンシア島、期間20日。コロンビア公開2017119

映画祭・受賞歴:サウス・バイ・サウスウエスト映画祭 SXSW(グローバル部門)、トロント映画祭、ミルウォーキー映画祭、ロンドン映画祭、ムンバイ映画祭、フィラデルフィア映画祭(Archie賞受賞)、デンバー映画祭、パシフィック同盟国映画祭(オタワ)など、いずれも2017年開催。

 

キャストHonlenny Huffington(コーン)、キアラ・ハワード(リタ)、ラモン・ハワード、エルキン・ロビンソン、マイケル・ロビンソン、ジーン・ブッシュ、フェリペ・カベサス、他

 

ストーリー:喧嘩ばかりしているリタとコーンの姉弟のミステリアスなロードムービー。リタは父親の軽トラックを運転中にコーンと言い争いをしていたせいで何かを轢いてしまう。放し飼いにされているヤギだった。おまけに父親の軽トラのフロントバンパーを壊してしまった。ヤギの死体はどうしよう? 両親に内緒で軽トラの修理代を捻出するには? というわけで二人は喧嘩しいしい知恵を絞るのだが・・・仲直りの冒険にいざ出発。

 

          不運なヤギの名前はヴィンセント・ヴァン・ゴート  

 

A: アフリカ系コロンビア人の島民5000人の10パーセントがエキストラを含めて映画作りに参加したそうです。上映会には家族揃って見に来た。まだ観光地化されていないせいか、本土のコロンビア人でも島の存在を知らない人が多いとか。

B: 美しいショットの数々、プロビデンシア島に今も息づく文化、伝統、音楽、宗教、クレオール語など、コロンビア大使館が一丸となって宣伝する意気込みが理解できた。コロンビア映画の多様性を知ってもうためにも、麻薬密売やテロリストなどがスクリーンに現れない映画を紹介したかった。 

 

         

        (父親の軽トラックの修理代に思案投げ首のコーンとリタ)

 

A: 英語をベースにしたクレオール語の印象でした。キャストの苗字を見ても、ハワードとかロビンソンです。最初に入植したのが17世紀初めのイギリスのピューリタンという影響でしょうか。その後スペイン人がイギリス人を追い払ったようです。

B: 全編がリアリズムで押していくのですが、それがいわゆるマジックリアリズムで。ヤギは島中に放し飼いになっている。不運なヤギの名前は、ヴィンセント・ヴァン・ゴートとおちゃめ。

A: ストーリーもユーモアが溢れていて、時間がゆるやかに流れている。都会の子供にはちょっと残酷に思えるシーンもありましたが、自己責任などという言葉とは無縁かな。

    

        

    (ヤギを肉屋に売る名案を思いつき肉屋に向かうヤギとコーンとリタの3人組)

 

          

         (怪しまれつつもなんとかヤギを肉屋に買ってもらえた二人)

 

B: 兄弟姉妹がライバル意識をもって張り合っている構図は、どこの家庭にも見られること。字幕ではリタが妹だったように記憶していますが、お姉さんの印象でした。

A: 長幼の序は日本ほど厳しく区別しません。単車のドライバーは写真のようにコーンでしたが、軽トラックの運転はリタでした。監督によると自身の姉妹との関係が、二人のアクションや会話に投影されているということです。彼女も参画しているようです。

 

       

            (両親に自分の正当性を訴える、コーンとリタ)

          

B: 島にもミニ・カジノがあって、闘鶏が大人の娯楽の一つになっている。でもアタマを利かせれば子供も入れちゃうのが可笑しい。ここで二人は大儲けする。

A: ガルシア・マルケスの短編『大佐に手紙は来ない』や、イニャリトゥの『アモーレス・ぺロス』を持ちだすまでもなく、ラテンアメリカでは盛んです。元手のかからないギャンブルだからでしょう。 

           

            (修理代を稼ごうと二人が紛れ込んだ闘鶏場)

 

          「島を舞台に映画を撮る」が最初にありき

 

B: サミル・オリベロス監督によると「映画を撮る前にプロビデンシア島を訪れ、全編ロケはここにしよう、さらにスペイン語ではなく島の人々が話す、英語をベースにしたクレオール語で撮ることも決めた」と語っている。

A: 島の根っことなる文化やクレオール語を回復させることが動機のひとつだった。ジャマイカに住んでいる女友達と一緒に島めぐりをしたとき聞いた「まだ人通りのない早朝にヤギでなく牛を轢いて途方に暮れた」話がヒントになっている。島を舞台にして撮りたかったようです。撮影は20日間の日程、ボゴタから18人のクルーで乗り込み、現地の35人と合流した。撮影機材を運ぶのに船や飛行機を使用したのでコストも掛かり、制作会社としては大きな挑戦だった、とプロデューサのアンドレス・ゴメス

 

B: 本作は「島の文化を回復させるのに良い機会だった」わけです。特に印象的なのが音楽、オリジナル歌曲8作が含まれているCDが発売されている。アフリカ系の打楽器とスペイン人がもたらした弦楽器に手作りの楽器の混交で演奏されていた。エルキン・ロビンソンは島のミュージシャンだそうです。自作の楽器で演奏しているシーンも出てきました。

 

            

          (多分、この中にエルキン・ロビンソンもいる?)

 

A: ジーン・ブッシュもプロビデンシア島の人で、プロデューサーと役者の掛け持ち、どの役か分かりませんが、想像するに質屋さん役かもしれない。「本作のミステリアスなところが私を捉えた。島に魅せられた監督に協力したかった。映画が100%クレオール語で撮られたことは重要。こういう例はコロンビア映画では皆無です。私たちの言語が失われない機会にもなった。今ではサンアンドレス島でも3040%の人しかクレオール語を理解できない」とも語っていた。

B: 言語は思考のもとですから。

 

            

             (二人が貰った時計を持ち込んだ質屋さん)

 

A: 主人公を演じたHonlenny Huffingtonキアラ・ハワードの二人は映画や音楽の愛好家で、キャスティングを決める段階で監督の頭の中にあったという。男の子は音楽家になる夢をもつ子供、女の子は少し年上で自説を曲げないタイプの見栄っ張りの子供を構想していた。コーンはハモニカが得意だった。二人とも演技がとても自然で直ぐ決まったという。

B: やはり姉弟のようですね。仕切っていたのはリタだった。

       

     

             (リタがけなしたハモニカを吹くコーン)

 

B: アンドレス・ゴメスは「テキサスのサウス・バイ・サウスウエスト映画祭でワールド・プレミアできたことが大きかった」とインタビューで語っていた。ヨーロッパでもスイス、フランス、ロシアなどの上映の足掛かりになったと。

A: 大使館の方の挨拶では、若い世代に浸透し始めたクラウド・ファンディングで61,000ドルの資金を集めたと紹介されました。今度は日本で撮りたいとも。お薦めできませんが(笑)。

第3回コロンビア映画上映会2018①*インスティトゥト・セルバンテス東京2018年11月26日 17:18

        新人ナタリア・サンタのデビュー作『ドラゴンのディフェンス』

 

★去る1113日~14日の2日間「コロンビア映画上映会2018」がありました。4作のうち1日目のナタリア・サンタ『ドラゴンのディフェンス』(「La defensa del dragón2017)とサミル・オリベロスのコメディ『ディア・デ・ラ・カブラ』(「El dia de la cabra2017)の2作を楽しんできました。2日目の『マテオ』『ママ』はチャンスを逃しましたが、マリア・ガンボアの『マテオ』は2014年の話題作、モントリオール、アカデミー外国語映画賞の前哨戦といわれるパームスプリングス、マイアミなどの各映画祭に正式出品され、アカデミー外国語映画賞2015のコロンビア代表作品にも選ばれた。第1回イベロアメリカ・プラチナ賞初監督作品賞にもノミネートされた。

 

★昨年の第2回は、『彷徨える河』、『ロス・オンゴス』、『グッド・ピープル』(「Gente de bien」)、『土と影』の4作、公開または映画祭上映作品が多かった。今回は日本初公開作品が並び、日本語字幕が英語字幕に急遽変更されるのではないか不安でしたが、コロンビア大使館職員の奮闘のお蔭で日本語字幕入りでした。ナタリア・サンタの『ドラゴンのディフェンス』、ドラゴンは出てきませんが期待通りだったのでアップいたします。

 

         

          (ポスターをバックにナタリア・サンタ監督)

   

『ドラゴンのディフェンス』は、2017年のカンヌ映画祭併催の「監督週間」に正式出品された折り、作品紹介をいたしました。コンパクトにストーリーを再録しますと、コロンビアの大都会の片隅で暮らす、年代の異なる旧知の友人たちサムエル、マルコス、ホアキンの3人の再出発物語。ボゴタの急激な変化に取り残されつつも、良き時代であった過去の思い出に安住している。人生のカウントダウンが既に始まっている男たちを、ある種のノスタルジーを込めて淡々と語っていく。やがて3人にも各々転機が訪れ再出発を迫られる。

 原題La defensa del dragón」の作品・監督紹介は、コチラ20170505

 

            到達できない何かを期待している男たち

 

A: 1年半前にアップした当ブログを検索していたら、ボゴタ在住の日本人の方からコメントを頂いていたことが分かった。それもこの『ドラゴンのディフェンス』にサムエルと対局する中国人チェスプレーヤー役で出演しておられた平入誠さんという方でした。もう驚くやら申し訳ないやらで。

B: ブログ始まって以来のサプライズ、では早速、平入誠さんにご登場いただきましょう。

 

      

    (左からサムエル、中央がサムエルの娘役の女の子、野球帽を被った平入誠さん)

 

A: コメントにはコロンビアでも話題になっているとありました。デビュー作が「監督週間」とはいえノミネーションされるのは、そんなに容易いことではありませんし、本作はカメラドール対象作品でもありました。残念ながら無冠でしたが、その後、エルサレム、ワルシャワ、テッサロニキ、フランスのヴィルールバンヌ(イベロアメリカ映画部門)など、各国際映画祭に正式出品されました。

B: イベロアメリカ・プラチナ賞2018初監督作品賞やマコンド賞(録音部門)にもノミネートされた。

 

A: さて、一番若い50代のサムエル(ゴンサロ・サガルミナガ)を軸にして物語は展開する。彼は三流どころのチェス・プレーヤーだが弟子を育て、地区のトーナメントに出場させようとしている。他に数学の家庭教師をしており、生徒の母親に魅力を感じている。どうやら離婚か別居のようだ。サムエルが借りている質素なアパートの家主は、母子家庭の設定か、ここにも父親の姿はない。勉強を見てやっている思春期の娘フリエタ(ラウラ・オスマ)に迫られている(笑)。

 

        

           (露出度の高い洋服で迫るフリエタとサムエル)

 

B: このチグハグがいかにも可笑しい。思う人には思われず、思わぬ人に思われて。本作はコメディでもある。

A: 娘を引き取って離婚した妻は再婚しており、現在10歳になる娘、上記の写真に映っていた女の子ですが、一緒に過ごすこともできる。円満離婚のようだが、本作に登場する家族像は以前とは様変わりしている。

 

        

        (弟子の対局を見守る、ホアキン、マルコス、サムエルの3人組)

 

B: スペイン出身の70代のマルコス(マヌエル・ナバラ)は、ホメオパシー療法の医師だが患者が減り続けている。ナバラ自身も実際にスペイン出身だそうですね。

A: 医師なのにマリファナ依存症で運任せの勝負事に人生を賭けている。ホセフィナ(ビクトリア・エルナンデス)という看護婦と同居しているが、家族はスペインにいるという設定です。息子が彼の年金を送金してこないので理由を調べなくてはと思っている。

B: 理由が分かるのはラスト部分、ほかにスクリーンに登場はしない息子の秘密も明らかになる。ホセフィナも彼のもとを去り、大きな転機を迎えることに。

 

            

        (息子の最期と秘密を淡々と話すマルコス、聞き入るサムエルとホアキン)

      

B: 60代半ばのホアキン(エルナン・メンデス)は、時計店を営んでいるがデジタルは扱わないので、このご時世では客足はさっぱりです。家賃の督促を受けている。

A: 親から受けついだ時計店も今や風前の燈火。彼も一人暮らしだが、追い追い息子がいることが観客にも分かってくる。三人の共通項は既婚者だったが現在は一人ということ。いずれ我も行く道だから切ない。各自何かが足りないが、それでも何かを期待している

B: ホアキンは職人気質が裏目になり、時代の波に乗れないが、やがて彼にも転機が訪れる。

 

         

             (黙々とアナログ時計に固執するホアキン)

 

        愛、希望、夢がスクリーンに現れなくても人生は捨てたものじゃない

  

A: カメラは少ししか動かないか静止している。そして注意深く細部を映しだす。撮影監督のイバン・エレーラはサンタ監督の夫君です。エレーラが長年撮りためてきたボゴタ市の風物が本作の原点になっていると監督が語っている。映画の色調にそって暗く、現代のボゴタが過去のボゴタにワープしたような印象を受けます。

B: しかし表層的には動きがゆっくりでも、じゃあ退屈かというと、そういうわけではなく、内面が少しずつ変化していくのが感じられる。

 

A: ボゴタで一番古いチェス・クラブ「Laskerの存在を知り、トーナメント観戦などをしながら取材していった。チェス・プレーヤーのサムエルを主人公にした映画を構想していった。3人のうちでも丁寧に描かれていたのがサムエルでした。

B: それはタイトルの『ドラゴンのディフェンス』にも表れている。チェスは皆目分かりませんが、ウイキペディアのにわか勉強によると、ドラゴン・ヴァリエーションはチェスのオープニングのシシリアン・ディフェンスの変化の一つで最もポピュラーな定跡らしい。

A: サンタ監督もチェス・ファンではないとか。シシリアン・ディフェンスは他より勝率が高いということで、つまりドラゴンは出てきません(笑)。このタイトルに決まるまで時間を要したとカンヌで語っていた。

  

     

               (チェス・クラブ「Lasker」内部)

 

B: クラブ「Lasker」の他にも、カジノ・カリブ、老舗カフェテリア「ラ・ノルマンダLa Normanda」が登場していた。

A: コロンビアは「エストラート」といわれる階層社会で6段階に分かれている。しかしそれは表向きで、「1」にも含まれない「0」もあり、一握りの金持ちと権力者の所属する「6」も「6-」「6+」など細分化されている由。ボゴタ市は階層によって暮らす地区が色分けされている。この3人のエストラートはどこらへんなのか。

          

B: もう1作がサミル・オリベロスのデビュー作『ディア・デ・ラ・カブラ』17、コメディ、76)、こちらには正真正銘のカブラことヤギが登場します。クラウド・ファンディングで資金を集めたと大使館の方が紹介しておられた。

 

      

A: 人口5000人というカリブ海に浮かぶ美しいプロヴィデンシア島が舞台、言語がクレオール語と、コロンビア映画の多様性、裾野の広がりを感じさせる映画でした。フィラデルフィア映画祭、テキサス州オースティンで開催されるサウス・バイ・サウスウエスト映画祭SXSW2017でも好評だったらしく、ストーリーも興味深いものでした。紹介は後日に回したい。

 

『夏の鳥』ガジェゴ=ゲーラ共同監督*ラテンビート2018あれやこれや ⑨2018年11月17日 08:51

          ガジェゴ=ゲーラ共同監督の新作は『彷徨える河』を超えられたか?

   

    

★ラテンビート後半3作目『夏の鳥』は、チロ・ゲーラの前作『彷徨える河』の成功もあってか、観客の入りが一番多かったのではないか。新作はクリスティナ・ガジェゴの初監督作品、ガジェゴ=ゲーラ共同監督とはいえ、彼女のバイタリティを印象づける仕上がりだったように思います。カンヌ映画祭併催の「監督週間」のオープニング作品、その後、ロカルノ、トロント、釜山、シカゴ、ロンドン他、国際映画祭にエントリーされています。公開はまだ故国コロンビアのみですが、これから翌年にかけてメキシコ、ドイツ、ハンガリー、米国、フランスなどがアナウンスされています。『彷徨える河』同様、2019年アカデミー外国語映画賞コロンビア代表作品、米国での評価が雌雄を決するかもしれない。本作のストーリー&時代背景、キャスト、スタッフ紹介、監督フィルモグラフィーなどは、原題Pájaros de veranoでアップしております(配役のみ再録)。

 

        

    (婦唱夫随が長続きのコツ、クリスティナ・ガジェゴとチロ・ゲーラ監督夫妻)

 

配役:カルミニャ・マルティネス(ウルスラ・プシャイナ)、ナタリア・レイェス(ウルスラの娘サイダ)、ホセ・アコスタ(サイダの夫ラパイエット、ラファ)、ジョン・ナルバエス(ラファの親友モイセス)、ホセ・ビセンテ・コテス(ラファの伯父ぺレグリノ、エル・パラブレロ)、フアン・マルティネス(アニバル)、グレイデル・メサ(ウルスラの息子レオニーダス)、他エキストラ約2000

 

Pájaros de verano」の内容紹介は、コチラ20180518

『彷徨える河』の内容紹介は、コチラ20161201

 

        マリファナ密売者の繁栄と没落、野心と名誉の衝突が語られる

 

A: 背景は1970年代から80年代半ばにかけてマリファナ密売者が繁栄した「ボナンサ・マリンベラ(bonanza marimbera)」と言われる時代です。映画は時系列に1968年から1985年まで4部に分かれて語り継がれていく。コロンビア北部ラ・グアヒラの砂漠地帯に暮らす先住民ワユーの一族のマリファナ密売者プシャイナ家の繁栄と没落が語られる。

B: ワユーの文化と伝統を守ろうとするゴッドマザー的存在のウルスラ・プシャイナの名誉、サイダと結婚することで当主となったラパイエットの野心、母と娘の世代間の軋轢も語られる。    

 

       

      (プシャイナ一族、ペレグリノ、レオニーダス、ウルスラ、ラファ、サイダ)

 

A: ウルスラにカルミニャ・マルティネス、ラパイエットにホセ・アコスタ、サイダにナタリア・レイェス、この3人がプロの俳優です。『彷徨える河』に比べれば分かりやすいストーリーです。分かりやすい反面、先が読めてしまうので前作のような意外性には欠けます。しかし史実にインスピレーションを受けて製作されているから、一定のタガが嵌められるのは仕方がない。

B: ワユーの掟を破ってマリファナ密輸で富を得ようとしたプシャイナのようなクランと、それを潔しとしないクランの対立も語られ、ウルスラが遭遇する四面楚歌は自らが蒔いた種でもある。

         

        

                (クラン同士の権力闘争)

  

A: コロンビアとベネズエラの国境を挟んで、ワユー族のクランは今でも30くらい現存しているそうです。ラ・グアヒラの砂漠地帯とカリブ海に面したクランでは自ずと気質も異なります。プシャイナ一族も現存しています。

B: それはラストシーンで暗示されていた通りです。

 

          先住民ワユーも貪欲と強欲の本能をもつ人間である

 

A: 一族はワユーの文化や伝統を守ろうとするが、巨大なアメリカ資本の誘惑には太刀打ちできない。映画から透けて見えてくるのは、ワユーは無垢で時代遅れの人ではなく、貪欲と強欲の本能をもつ人間であるということです。

B: 生き残るためには他のクラン壊滅も厭わない。金の卵マリファナは札束と武器弾薬に形を変えて、米国の悪しき銃文化をも運んできた。

A: サイダを見初めたラファの持参金調達がそもそもの発端だった。無一文のラファには求婚の資格がない。悪友モイセス(ジョン・ナルバエス)と語らって、マリファナの密売にのめりこんでいく。

 

     

  (女性が男性を挑発するワユーの伝統的な求愛のダンス、サイダがラファを挑発している)

 

     

     (持参金の牛やヤギを引き連れて求婚にきたラファと腐れ縁のモイセス)

 

B: ウルスラは夢に左右されながらも、豊かさに比例して大きくなっていく権力の魅力に抵抗できない。家族の絆、特に不肖の息子レオニーダス(グレイデル・メサ)の溺愛が悲劇を呼び込む。

A: 息子への溺愛はウルスラが見る不吉な夢と関連しています。豪華な家具調度に囲まれた豪邸に暮らしていても悪夢が彼女を支配しており、心は以前と変わらない粗末な家屋に住んでいる。

B: ウルスラの夢が伏線となり、『彷徨える河』のようなサプライズが削がれてしまっている。もう少しひねりがあってもよかった。

 

       

              (ウルスラが見た悪夢のシーン)

 

          クラン間の交渉人エル・パラブレロが果たす役割の重要さ

 

A: ホセ・ビセンテ・コテスが演じたラファの伯父ペレグリノ、クラン間の対立を避けるための使者、交渉人エル・パラブレロとして登場する。ワユーでは非常に重要な大役、母方の一番年上の伯父が担う。

B: 甥ラファの求婚の交渉もペレグリノ、ラファの義弟レオニーダスがアニバル(フアン・バウティスタ)の娘に行なった侮辱を詫びる交渉も彼の仕事でした。

A: いかなる場合でも、エル・パラブレロは生きて返さねばならない。主役3人以外は初出演でしたが、ホセ・ビセンテは民族衣装とワユー・バッグを肩に掛けカンヌ入りをしていました。

B: 本日より大阪会場の上映が始まります。お楽しみください。

  

A: まだ全体をアップしておりませんが、去る117日、5回イベロアメリカ・フェニックス賞結果発表があり、本作が最高賞の作品賞、カルミニャ・マルティネスが女優賞、レオナルド・Heiblum音楽賞を受賞しました。チロ・ゲーラは次回作Esperando a los Barbarosの撮影のためモロッコ滞在中ということで授賞式は欠席でした。南アフリカのジョン・マックスウェル・クッツェーの小説の映画化です。初めて英語で撮るそうで、「ブルータス、お前もか」です。

 

        

      (作品賞のトロフィーを抱きしめたクリスティナ・ガジェゴと仲間たち

 

       

        (女優賞のトロフィーを手に貫禄のアルミニャ・マルティネス)