ゴヤ賞2021授賞式の落穂ひろい ⑰ ― 2021年03月11日 15:46
ゴヤ賞2021ガラの視聴率は過去15年間で最低の15.6%でした!
★マラガでの開催は不可能と思われていた第35回ゴヤ賞授賞式、スペイン映画アカデミーの執行部や総合司会者の個人的な努力でなんとか開催できました。アントニオ・バンデラスはいささかお疲れぎみでしたが、マリア・カサドに支えられ乗り切りました。彼の奔走なくして実現できなかったかもしれませんが、お茶の間の観客2,482,000人、視聴率15,6%は、ここ15年間の最低を記録してしまいました。しかし継続は力なり、やれただけでも褒めねばなりません。今回ガラに参加できたのは栄誉賞受賞者のアンヘラ・モリーナと各カテゴリーのプレゼンター、音楽を担当したミュージシャンやダンサーだけ、ノミネートされた方々は依怙贔屓なく全てスクリーンでの参加でした。ということで座席は空っぽでした。
(全28部門でノミネートされた人々のスクリーン・パネル)
★例年のガラとは違って地味でしたが、却って落ち着いて見られたかもしれません。総合司会者が一度もお色直しをしなかったガラとしても記録されるでしょう。参加できなかった候補者たちは、1ヵ所に集合して結果を待ったグループ、例えば「Las niñas」はバルセロナ、「Ane」はブルゴスで全員で待機した。その他は自宅が多かったようです。今年はノミネートとは無関係でしたが、バンデラスの恩師アルモドバル、共にアメリカで活躍した親友ペネロペ・クルス、海外でも活躍する常に冷静沈着なアレハンドロ・アメナバル、寡黙な実力者フアン・アントニオ・バヨナ、ロス暮しも長くなったパス・ぺガが馳せつけ、それぞれプレゼンターを務めてくれた。そしてビデオ出演の世界のトップスターや監督たちから寄せられた祝辞など、彼らがもつ人脈、キャリアなくして実現できなかったでしょう。最優秀作品賞のプレゼンターに看護師のアナ・マリア・ルイスを起用するなど意表をついた企画でした。
(馳せつけたアルモドバル、ペネロペ・クルスとバンデラス)
(応援に馳せつけた左から、クルス、アルモドバル、アメナバル、バヨナ、ベガ)
(メイクアップ&ヘアーのプレゼンター、ペネロペ・クルス)
(作品賞プレゼンターを務め、コロナ禍の現状を語った看護師アナ・マリア・ルイス)
ガラを盛り上げた4人の歌姫とミュージシャンたち
★オーケストラはマラガ交響楽団、最初の歌姫はアルゼンチン出身のナティ・ペルソ、バルセロナを拠点に活躍している。1958年にルイス・セサル・アマドリが撮った「La violetera」で、往年の大女優サラ・モンティエルが歌ったクプレ(スペイン版演歌)「スミレ売り」を独自に変曲したものを歌った。
(熱唱するナティ・ペルソ)
★二番手がマラガ出身のシンガーソングライターのバネッサ・マルティン、彼女の歌う「Una nube blanca」をバックに今年鬼籍入りしたスペイン文化の担い手たちがスクリーン上に現れた。女優ルチア・ボゼー、ロサ・マリア・サルダ、監督ホセ・ルイス・クエルダ、自作の映画化に一度も満足しなかった作家のフアン・マルセ、ミュージシャンのルイス・エドゥアルド・アウテなど87人に及ぶ点鬼簿でした。アナ・ベレンの「Una nube blanca」をバラードに変曲したものを情感豊かに歌いあげた。
(バネッサ・マルティン)
★若手のホープ、アイタナ・オカ―ニャ(バルセロナ1999)は、「Happy Days Are Here Again」(幸せの日よ再び)を豊かな声量でエレガントに歌った。1962年に歌手デビューしたマルチアーティストのバーブラ・ストライサンドの持ち歌、観客を1960年代のニューヨークに連れ戻した。
(ルックスもセンスも魅力的なアイタナ)
★今年はルイス・ガルシア・ベルランガの生誕100周年ということで多くのフィエスタが企画されている。その第一弾がゴヤ賞とのコラボでした。監督を国際的に有名にした『ようこそマーシャルさん』で村長さんに扮したペペ・イスベルトにカルロス・ラトレ、美貌の歌姫カルメンに扮したロリータ・セビーリャにディアナ・ナバロが扮して息の合った「Americano, os recibimos con alegría」を歌って踊って観客を愉しませた。スクリーンには監督の代表作、『死刑執行人』『カラブッチ』「実物大」などが次々に現れ、リアルタイムで映画館に足を運んだシニア層は、特に感慨深かったにちがいない。
(ディアナ・ナバロとカルロス・ラトレの息の合った演技)
★後半1時間50分ごろに始まったゴヤ栄誉賞では、黒の衣装に朱の扇子をもったダンサーがグループでフラメンコを披露、最後に舞台中央の入り口からアンヘラ・モリーナが軽やかに踊りでた。ゴヤの授賞式の中継を1995年あたりから見ているが、これもサプライズでした。初期の受賞者に比べて若くなったこともありますが、とくに女性の元気力は際立ちます。スピーチの内容はプレス会見で述べていたこととダブりますが、印象に残ったのは俳優でコプラやフラメンコの歌手であった父親アントニオの死の痛みについてでした。芸術家一家としてスペインでは有名、母親オリビアは女優、弟妹や娘も俳優やミュージシャンとして活躍、両親の血を受け継いでいる。
(フラメンコを踊りながら登場した受賞者)
★愛について語り「映画は私の人生、私の地平線、私が進む道しるべ、私たちはそれを共有する必要があり、それを必要と感じることが大切」と語った。ハイメ・チャバリの手から受け取ったゴヤの胸像にキスをするアンヘラでした。映画アカデミー会長のマリアノ・バロッソも「映画の癒しの力」について語ったが、受賞者の多くが口にしたのも、映画に対する愛でした。拍手は舞台前面に控える楽団員のみでしたが、個人的には忘れられない授賞式でした。
(プレゼンターのハイメ・チャバリ監督とアンヘラ・モリーナ)
★祝辞を寄せた各国のシネアストたち(順不同)、アメリカサイドではロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ニコール・キッドマン、ローラ・ダーン、ダスティン・ホフマン、トム・クルーズ、メル・ギブソン、ベニチオ・デル・トロ、ナオミ・ワッツ、グレン・クローズ、シャーリーズ・セロン、シルヴェスター・スタローン、メラニー・グリフィス、マハーシャラ・アリ、(イギリス)エマ・トンプソン、ヘレン・ミレン、(フランス)イザベル・ユペール、ティエリー・フレモー、(メキシコ)ギレルモ・デル・トロ、ガエル・ガルシア・ベルナル、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、サルマ・ハエック、(アルゼンチン)リカルド・ダリン、オスカル・マルティネス、イタリアからモニカ・ベルッチ、まだほかに漏れがありそうです。
◎一応レッド・カーペットに現れたプレゼンター、自宅で待機していたノミネートされたベストドレッサーたちのフォトを以下に列挙しておきます。今年は若手イケメンも多いので男性陣も登場させました。(順不同)
(スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
(総合司会者アントニオ・バンデラスとマリア・カサド)
(マリサ・パレデス)
(エンマ・スアレス)
(グラシア・ケレヘタ監督)
(チュス・グティエレス監督)
(ベストドレッサーに選ばれたパス・ベガ)
(ベロニカ・フォルケ)
(エレナ・イルレタ)
(モニカ・ランダル)
(マルタ・ニエト)
(マリア・バランコ)
(ナイワ・ニムリ)
(ベレン・クエスタ)
(マルタ・エトゥラ)
(ナタリア・ベルベケ)
(マギー・シバントス)
(Hiba Abouk)
(ダニエラ・サンティアゴ)
(歌手ナティ・ペルソ)
(シンガーソングライターのバネッサ・マルティン)
(歌手アイタナ・オカ―ニャ)
(歌手女優ディアナ・ナバロ)
(自宅待機のカンデラ・ペーニャ、主演女優賞候補)
(同、ベストドレッサーのナタリア・デ・モリーナ、助演女優賞候補)
(同、パウラ・ウセロ、新人女優賞候補)
(同、ミレナ・スミット、新人女優賞候補)
(フアン・アントニオ・バヨナ)
(アレハンドロ・アメナバル)
(ホセ・コロナド)
(アントニオ・デ・ラ・トーレ)
(ペドロ・カサブランク)
(カルロス・アレセス)
(レオナルド・スバラグリア)
(トリスタン・ウジョア)
(カルロス・ラトレ)
(フリアン・ロペス)
(アドリアン・ラストラ)
(ロベルト・アラモ)
(ジョン・コルタハレナ)
(アントニオ・ベラスケス)
★以上がレッドカーペットに現れたプレゼンターですが、漏れがあるかもしれない。
第35回ゴヤ賞2021の授賞式*結果発表 ⑯ ― 2021年03月08日 11:24
フェロス賞に続いて「Las niñas」が栄冠を独占!
(ハイメ・チャバリ監督から栄誉賞のトロフィーを受け取るアンヘラ・モリーナ)
★3月6日、第35回ゴヤ賞の授賞式がマラガ市のソーホ・カイシャバンク劇場で開催されました。「Las niñas」が大賞の作品・新人監督・オリジナル脚本・撮影賞4部門を制しました。先日のフェロス賞に続いての新人監督ピラール・パロメロが勝利を手にしたことになります。第35回のゴヤ栄誉賞は女優のアンヘラ・モリーナ、プレゼンターはハイメ・チャバリ監督、彼女を『ベアルン』で開花させた監督です。来マラガした受賞者は栄誉賞のアンヘラ・モリーナだけ、スクリーンでのスピーチという異例の授賞式となりました。総指揮はスペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ、総合司会者はマラガの名誉市民でもあるアントニオ・バンデラスと、バルセロナから転居して準備を整えていたジャーナリストのマリア・カサドです。
(スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)
(アントニオ・バンデラスとマリア・カサド)
*第35回ゴヤ賞2021結果発表*
◎作品賞
Adú (受賞4個)
Ane (受賞3個)
La boda de Rosa (受賞2個)
Sentimental (受賞1個)
Las niñas (受賞4個) 製作Las Niñas Majicas / Inicia Films
/ Bteam Producciones
(感謝のスピーチをする、製作者バレリー・デルピエールとアレックス・ラフエンテ)
★プレゼンターは異例の看護師アナ・マリア・ルイスさん、パンデミアのなかの授賞式を印象づけました。困難な道のりであった受賞者は「ビバ・シネ!」とスクリーンで挨拶しました。
◎監督賞
フアンマ・バホ・ウジョア (Baby)
イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa)
イサベル・コイシェ (Nieve en Benidorm)
サルバドール・カルボ (Adú)
(よき助言者ペドロ・コスタと「Adú」の仲間に感謝を捧げたサルバドール・カルボ)
★監督賞もスクリーンからの挨拶、プレゼンターは先輩監督黒のドレスのチュス・グティエレスと白のドレスのグラシア・ケレヘタでした。
◎新人監督賞
ダビ・ペレス・サニュド (Ane)
ベルナベ・リコ (El inconveniente)
ヌリア・ヒメネス (My Mexican Bretzel)『メキシカン・プレッツェル』なら国際映画祭
ピラール・パロメロ (Las niñas)
(ピラール・パロメロ)
★プレゼンターは、左からベレン・クエスタ、アントニオ・デ・ラ・トーレ、マリア・バランコ、新人監督賞はマリア・バランコが受賞者の名前を読み上げました。
◎オリジナル脚本賞
アレハンドロ・エルナンデス (Adú)
クラロ・ガルシア&ハビエル・フェセル (Historias lamentables)監督ハビエル・フェセル
アリシア・ルナ&イシアル・ボリャイン (La boda de Rosa)
ピラール・パロメロ (Las niñas)
(左から、アレックス・ラフエンテ、ピラール・パロメロ、バレリー・デルピエール)
◎脚色賞
セスク・ゲイ (Sentimental)
ベルナルド・サンチェス&マルタ・リベルタ・カスティーリョ (Los europeos)
監督ビクトル・ガルシア・レオン
ダビ・ガラン・ガリンド&フェルナンド・ナバロ(Origenes secretos)
監督ダビ・ガラン・ガリンド、『秘密の起源』Netflix
ダビ・ペレス・サニュド&マリナ・パレス (Ane)
(ダビ・ペレス・サニュドとマリナ・パレス)
★オリジナル脚本賞と脚色賞のプレゼンターは同じ、ナタリア・ベルベケとトリスタン・ウジョアでした。
◎オリジナル作曲賞
ロケ・バニョス (Adú)
Bingen Mendizabal &コルド・ウリアルテ (Baby)
フェデリコ・フシド (El verano que vivimos) 監督カリオス・セデス
アランサス・カジェハ&マイテ・アロイタハウレギ(Akelarre)(受賞5個)
監督パブロ・アグエロ
(アランサス・カジェハ右とマイテ・アロイタハウレギ)
◎オリジナル歌曲賞
ロケ・バニョス& Cherif Badua (Adú)
アレハンドロ・サンス&アルフォンソ・ぺレス・アリアス (El verano que vivimos)
カルロス・ナヤ (Las niñas)
マリア・ロサレン (La boda de Rosa)
(マリア・ロサレン)
★音楽賞のプレゼンターはレオナルド・スバラグリアとナイワ・ニムリでした。
◎主演男優賞
ハビエル・カマラ (Sentimental)
エルネスト・アルテリオ (Un mundo noemal) 監督アチェロ・マニャス
ダビ・ベルダゲル (Uno para todos) 監督ダビ・イルンダイン
マリオ・カサス (No matarás) 監督ダビ・ビクトリ(受賞1個)
(初ノミネート初受賞のマリオ・カサス)
★26番目に発表された主演男優賞、2時間以上待たされましたが、家族や仲間からハグとベソの猛攻撃を受けました。「ファンに感謝」とマリオ。プレゼンターは既に主演男優賞のゴヤ胸像保持者のロベルト・アラモとホセ・コロナドでした。
◎主演女優賞
アマイア・アベラストゥリ (Akelarre)
キティ・マンベール (El inconveniente)
カンデラ・ペーニャ (La boda de Rosa)
パトリシア・ロペス・アルナイス (Ane)
(「たくさんの愛と感謝を」とスピーチしたパトリシア・ロペス・アルナイス)
★25番目の発表、嬉しさで声が出ませんでした。後ろに控えていた監督、仲間と抱き合って喜びに浸っていました。プレゼンターは複数個ゴヤの胸像をもっているエンマ・スアレスと2018年の栄誉賞受賞者の大先輩マリサ・パレデスでした。
◎助演男優賞
アルバロ・セルバンテス (Adú)
セルジ・ロペス (La boda de Rosa)
フアン・ディエゴ・ボトー (Los europeos)
アルベルト・サン・フアン (Sentimental)
(笑が止まらなかったアルベルト・サン・フアン)
★セスク・ゲイの「Sentimental」は5カテゴリーにノミネートされていましたが、受賞は助演男優賞だけに終わりました。共演のハビエル・カマラも大喜び。笑っていますが「PSOEに言いたいことがあるんですよ。いま良心的な監督たちは市場に作品を送り出すことができていない。家族をもつことは基本的人権です」と現政権の文化政策に苦言を呈していた。プレゼンターはアンダルシア出身の助演男優賞受賞者アントニオ・ベラスケスと2020年の主演女優賞を受賞しているマルタ・ニエトでした。ベラスケスが名前を読み上げました。
◎助演女優賞
フアナ・アコスタ (El inconveniente)
ベロニカ・エチェギ (Explota explota) 監督ナチョ・アルバレス
ナタリア・デ・モリーナ (Las niñas)
ナタリエ・ポサ (La boda de Rosa)
(2018年の主演女優賞受賞者ナタリエ・ポサ、数ヵ月ハグしていない母親に捧げた)
★少し意外な印象を受けましたが、人生を立て直すために急停止しなければならなくなったロサの姉妹を演じました。監督のイシアル・ボリャイン、ロサ役のカンデラ・ペーニャに感謝の言葉、セルジ・ロペスには「セルジ、愛してるよ~」と興奮していました。何故かカルメン・マチが一緒でハグしていました。プレゼンターは助演男優賞と同じ、こちらはマルタ・ニエトが受賞者名を読み上げました。
◎新人男優賞
チェマ・デル・バルコ (El plan) 監督ポロ・メナルゲス
ジャニックJanick (Historias lamentables)
フェルナンド・バルディビエルソ (No matarás)
アダム・ヌルー (Adú)
◎新人女優賞
パウラ・ウセロ (La boda de Rosa)
ミレナ・スミット (No matarás)
グリセルダ・シチリアニ (Sentimental)
ジョネ・ラスピウル (Ane)
(スクリーン出席のジョネ・ラスピウル)
★「予想していなかった、頭がおかしくなりそう」と開口一番。本当に予期していなかったかな。プレゼンターは、アントニオ・デ・ラ・トーレが新人男優賞、ベレン・クエスタが新人女優賞を読み上げました。マリア・バランコは新人監督賞を読み上げました。
◎ドキュメンタリー賞
Anatomía de un dandy (監督アルベルト・オルテガ&チャーリー・アルナイス)
Cartas mojadas (監督パウラ・パラシオス)
My Mexican Bretzel
El año del descubrimiento (受賞2個)製作El año del descubrimiento /
Alina Film / Cromagnon Producciones / Lacima Producciones / Magnetica Cine
監督ルイス・ロペス・カラスコ
◎プロダクション賞
グアダルーペ・バラゲル・トレリェスTrellez (Akelarre)
カルメン・マルティネス・ムニョス (Black Beach) 監督エステバン・クレスポ
トニ・ノベリャ (Nieve en Benidorm)
アナ・パラ&ルイス・フェルナンデス・ラゴ (Adú)
(アナ・パラとルイス・フェルナンデス・ラゴ)
★パンデミアの困難を乗り越えたことが評価されました。プレゼンターは、フアン・アントニオ・バヨナでした。
◎撮影賞
セルジ・ビラノバ (Adú)
ハビエル・アギーレ (Akelarre)
アンヘル・アモロス (Black Beach)
ダニエラ・カヒアス (Las niñas)
(ダニエラ・カヒアス)
★ボリビア出身のダニエラ・カヒアスは遠方の家族に感謝。プレゼンターは、白いドレスの Hiba Abouk、中央がマギー・シバントス、赤いドレスのマルタ・エトゥラでした。
◎編集賞
ハイメ・コリス (Adú)
フェルナンド・フランコ&ミゲル・ドブラド (Black Beach)
ソフィ・エスクデ (Las niñas)
セルヒオ・ヒメネス (El año del descubrimiento)
(セルヒオ・ヒメネス)
◎美術賞
セサル・マカロン(Adú)
モンセ・サンス (Black Beach)
モニカ・ベルヌイ (Las niñas)
ミケル・セラーノ (Akelarre)
★プレゼンターは、編集賞と同じでした。
◎衣装デザイン賞
クリスティナ・ロドリゲス (Explota explota)
アランチャ・エスケロ (Las niñas)
レナ・モッスム・モスンMossum (Los europeos)
ネレア・トリホス (Akelarre)
★「私に投票して下さった皆さま、ありがとうございました」とスピーチ、プレゼンターはペドロ・アルモドバルでした。登壇したのは左から、アルモドバル、ペネロペ・クルス、アレハンドロ・アメナバル、パス・ベガ、フアン・アントニオ・バヨナの実力者5人でした。
◎メイク&ヘアー賞
エレナ・クエバス、マラ・コリャソ、セルヒオ・ロペス (Adú)
ミル・カブレル、ベンハミン・ぺレス (Explota explota)
パウラ・クルス、ヘスス・ゲーラ、ナチョ・ディアス (Origenes secretos)
Beata Wojtowicz、リカルド・モリーナ (Akelarre)
(ベアタ・ヴォイトヴィッチとリカルド・モリーナ)
★プレゼンターは、シャネルのドレスのペネロペ・クルスでした。
◎録音賞
ウルコ・ガライ、ホセフィナ・ロドリゲス、他 (Akelarre)
コケ・ラエラ、ナチョ・ロヨ=ビリャノバ、他 (Black Beach)
マル・ゴンサレス、フランセスコ・ルカレリィ、他 (El plan)
エドゥアルド・エスキデ、ハマイカ・ルイス・ガルシア、他 (Adú)
(エドゥアルド・エスキデ)
★プレゼンターは、写真中央のアレハンドロ・アメナバルでした。
◎特殊効果賞
ラウル・ロマニリョス、ジャン=ルイ・ビリヤード (Black Beach)
ラウル・ロマニリョス、ミリアム・ピケル (Historias lamentables)
リュイス・リベラ・ホベ、ヘルムス・バーナートHelmuth Barnert (Origenes secretos)
マリアノ・ガルシア・マルティ、アナ・ルビオ (Akelarre)
(マリアノ・ガルシア・マルティとアナ・ルビオ)
★左がマリアノ・ガルシア・マルティとその家族、右がアナ・ルビオと家族。プレゼンターは、パス・ベガでした。
◎アニメーション賞(ノミネーション1作のみ)
La gallinas Túruleca 製作Brown Films / Groriamundi Producciones /
Pampa Films / Tandem Films 他 監督ビクトル・モニゴテ
(左がビクトル・モニゴテ)
(別々に待機していた製作者たちとプレゼンターのジョン・コルタハレナ)
★唯一受賞が決まっていたのがアニメーション賞でした。プレゼンターは、ダニエラ・サンティアゴとジョン・コルタハレナ、コルタハレナが読み上げました。
◎イベロアメリカ映画賞
El agente topo(チリ)『老人スパイ』 監督マイテ・アルベルディ
La llorona (グアテマラ)『ラ・ヨローナ伝説』 監督ハイロ・ブスタマンテ
Ya no estoy aquí (メキシコ)2019、監督フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パラ
『そして俺は、ここにいない』Netflix配信
El olvido que seremos (コロンビア) 監督フェルナンド・トゥルエバ
(コロンビアの製作者ゴンサロ・コルドバ)
(監督のフェルナンド・トゥルエバ)
★プレゼンターはモニカ・ランダルとベロニカ・フォルケ。ゴンサロ・コルドバは、スペイン・サイドのトゥルエバ監督や主役のハビエル・カマラ他、コロンビアのキャスト陣、スタッフ陣に感謝のスピーチをしました。トゥルエバ監督は原作者に感謝の言葉、最初イヤホーンを付けていなかったので声が聞こえなかった。Zoomで参加しているゴンサロ・コルドバから「フェルナンド、声が聞こえないよ」と笑われ仕切り直しをしました。
◎ヨーロッパ映画賞
Corpus Christi (原題「Boze Cialo」ポーランド) 監督ヤン・コマサ
El oficial y el espia (原題「J'accuse」フランス=イタリア) 監督ロマン・ポランスキー
Falling (カナダ=イギリス) 監督ヴィゴ・モーテンセン
El padre (The Father)(イギリス=フランス) 監督フローリアン・ゼレール
(アンソニー・ホプキンスとオリビア・コールマンを配したポスター)
★フローリアン・ゼレールは昨年のサンセバスチャン映画祭で参加したときの印象を語っていました。『ファーザー』の邦題で5月公開が決定しています。ホプキンスが認知症の父親を演じる。TVシリーズでエリザベス女王を演じたコールマンが娘に扮する。プレゼンターはエレナ・イルレタとペドロ・カサブランクでした。
◎短編映画賞
16 de decembro 監督アルバロ・ガゴ
Beef 監督イングリデ・サントス
Gastos incluidos 監督ハビエル・マシぺ
Lo efímero 監督ホルヘ・ムリ得る
A la cara 監督ハビエル・マルコ・リコ
(ハビエル・マルコ・リコ)
★プレゼンターは左から、カルロス・アレセス、フリアン・ロペス、アドリアン・ラストラ。
◎短編ドキュメンタリー賞
Paraíso en llamas 監督ホセ・アントニオ・エルゲタ
Paraíso 監督マテオ・カベサ
Sólo son peces 監督アナ・セルナ&パウラ・オラツ
Biografía del cadáver de una mujer 監督マベル・ロサノ
(喜びのマベル・ロサノ監督)
★プレゼンターは左から、カルロス・アレセス、フリアン・ロペス、アドリアン・ラストラ。
◎短ペンアニメーション賞
Homeless Home 監督アルベルト・バスケス
Metamorphosis 監督かリア・ペレイラ&フアンフラン・ハシント
Vuela 監督カリオス・ゴメス=ミラ・サグラド
Blue & Malone: Casos imposibles 監督アブラハム・ロペス・ゲレーロ
★「スペインのアニメーションは信じられないほど力があるが、ただ問題は製作が困難なことです」と資金難を訴えていた。プレゼンターは上記と同じでした。
(以上28部門、ゴチック体が受賞者、目下入手できたフォトだけアップしました)
第35回ゴヤ賞の栄誉賞はアンヘラ・モリーナに*ゴヤ賞2021 ⑮ ― 2021年03月06日 20:17
初のゴヤ胸像――「ゴヤ栄誉賞は仲間からのサイコウの贈り物」
(ゴヤ賞2021の栄誉賞受賞のプレス会見、2021年2月28日、映画アカデミー本部にて)
★第35回ゴヤ賞栄誉賞の受賞者はアンヘラ・モリーナ(マドリード1955)とアップしておきましたが、ガラを目前に少し書き足しておきます。キャリア&フィルモグラフィーは、2016年の映画国民賞*を受賞した折りに紹介しています。45年の映画人生のなかで、ルイス・ブニュエルを筆頭にアルモドバル、ボラウ、グティエレス・アラゴン、ハイメ・チャバリ・・・と名監督に愛されたアンヘラ、しかしゴヤ賞はノミネートこそ5回ありますが、受賞は栄誉賞が初めてなのです。
*Premio Nacional de Cinematografía(国民映画賞とも訳される)
*キャリア&フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2016年07月28日
(映画国民賞授賞式のアンヘラ・モリーナ、2016年9月)
★マリアノ・バロッソk映画アカデミー会長に付き添われてプレス会見に臨んだアンヘラは、「思ってもいなかった受賞の知らせに喜びとともに驚いている。全人生を捧げてきた映画の仲間がこの賞をもたらしてくれたことが特に素晴らしことだった」と。映画国民賞は教育文化スポーツ省とICAAが選考母体だが、この賞は純粋に映画人が選ぶという違いがあります。2021年はパンデミックでテレマティクスとライブの混成になる。3月6日のガラには家族は同席できないようです。「そうすることが最善だと考えています。家族はお茶の間で楽しむことになるでしょう」。ノミネートされながらチャンスを活かせないケースもありそうですから本当に異例の授賞式になります。新型コロナを恨んでも詮ないことです。
★「誰にこの賞を捧げるか? このゴヤは私の父、私の母、私の夫、私の子供たち、愛するファンと友人たち」と明かしました。これ以外の答えはないと思いますが。離れていた時期もあったが、映画のほか舞台にも立っている。現在はラモン・カンポスやテレサ・フェルナンデス=バルデスが手掛けるTVシリーズ、スリラー「Un asunto privado」(全8話)を撮影中、2022年も既に出演作が複数決まっている。引退はまったく考えていないが、「時には疲れていると」と冗談を交えてかわしていたが、まだまだ引退の歳ではありません。
★映画アカデミーが選考母体の「金のメダル」を2013年に受賞しており、それに加えての栄誉賞受賞となりました。バロッソ会長は「私たちの映画の発展に寄与した素晴らしい女優、栄誉賞は彼女と一緒に映画を作った仲間たちの感謝が込められている。アンヘラ・モリーナと映画はフィードバックする。スクリーンの中で彼女を見ると、私たちは元気づけられる」と称賛した。
(2013年に受賞した金のメダルを手にしたアンヘラ)
(準備が整ったマラガの街路、アンヘラの写真を囲んで 左から3人目が会長)
準備が進むコロナ禍のゴヤ賞授賞式*ゴヤ賞2021 ⑭ ― 2021年03月02日 17:48
綱渡りのセレモニー、テレマティクスとライブの混成
(左からマリアノ・バロッソ、アントニオ・バンデラス、マリア・カサド、プレス会見2月)
★去る2月2日、第35回ゴヤ賞2021授賞式の詳細が少し明らかになりました。出席者はスペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ、総合司会者のマラガ出身の俳優アントニオ・バンデラスとバルセロナ出身のジャーナリストマリア・カサドの3氏。カサドは以前にご紹介したように昨年からマラガに転居しています。授賞式は予定通り3月6日、マラガのソーホー・カイシャバンク劇場です。新型コロナのパンデミアの動向のせいで、テレマティクスとライブの混成、生放送は進行役の総合司会者、トロフィーのプレゼンター、ミュージカルでバックを構成するミュージシャンに限られるようです。
★マリアノ・バロッソ会長は「今年公開できた作品を歓迎し、称賛するためのセレモニーを全力を尽くしてやり遂げたい。状況に応じて責任ある安全安心をモットーに行いたい」と決意のほどを語った。今回のノミネーション発表で採用したテレマティクスをガラでも利用する。ゴヤ賞授賞式の長い歴史のなかでも初めての体験になります。赤絨毯に現れるお目当てのシネアストとの自撮りはできませんけれど、各家庭のお茶の間で受賞者が明らかになる瞬間をダイレクトに見ることができる。関係者はすべてPCR検査を済ませており、マスク着用は言うまでもなく、ソーシャルディスタンスを守って、最善の準備をしていることを強調した。
★総合司会者のバンデラスは、「現実が私たちに残した亀裂のなかに巻き込まれていることは分かっていますが、それはすべて怒りと錯覚です。ゴヤ賞の授賞式は疫病から心を回復させるスタートの合図でした。テレマティクスとライブの混成ですが、従来の仕来りを重んじながら、参加している人々の安全を確保しつつ観客に或るメッセージを送り届けられるよう自覚しています」と。ゴヤ賞は映画産業で働く全メンバーの祭典、特にカメラの前面ではなく、ずっと後方にいる人々なしに映画は製作できない。「賞を手にするチャンスのない人々も不可欠なことを示したい。運転手さんやケータリングの事業者の他、多くのファミリーが映画に依存して生活している」とバンデラス。「後ろにいる人々、より後方の人々、観客の存在に感謝しています」とマリア・カサドが挨拶を引き取った。
(メディアの取材を受けるアントニオ・バンデラスとマリア・カサド)
★主なミュージシャンは、マラガのシンガーソングライターのバネサ・マルティン(María Vanesa Martín Mata、1980)バルセロの歌手アイタナ(Aitana Ocaña Morales、1999)とアナウンスされました。ライブ演奏も限られた昨今では、彼女たちの出演が映画ファンのみならず音楽ファンを大いに喜ばせることになるでしょう。今年は見る価値がありそうです。「上品で節度をもった」ガラにしたいと主催者。
今年のゴヤ賞は生誕100年の「ベルランガ年」とコラボする
★スペイン国民から最も愛されたルイス・ガルシア・ベルランガ監督の生誕100周年にあたり(バレンシア1921~マドリード2010)、パンデミアの困難のなかて迎えることになりました。まだ詳細ははっきりしません。ベルランガ映画は残念ながら1本も公開されておりませんので奇異に思われるでしょうが、バレンシアのサッカー・チーム「バレンシアCF」のファンであったことから、89歳で亡くなったときには試合前に黙祷が捧げられたほど愛されていたのでした。葬儀には映画関係者以外の会葬者が押しよせて別れを忍びました。京橋フィルムセンターで開催されたスペイン映画祭1984で『ようこそマーシャルさん』(53)と『カラブッチ』(57)が上映されただけ、昨年のスペインクラシック映画上映会2020では、前者と彼の最高作と称される『死刑執行人』(63)がオンラインで上映されました。
(最晩年のルイス・ガルシア・ベルランガ監督)
(最高作と称される『死刑執行人』のポスター)
★生前ベルランガは、マドリードのセルバンテス協会本部に設置された個人ボックスに或る書類を預けました。生誕100年目となる2021年6月12日まで封印されており、間もなく中身が明らかになります。検閲に苦しんだフランコ時代の具体的な内容の書類が含まれているのではないかと期待されています。もし期待通りならスペイン映画史の空白が埋められるかもしれません。
*『カラブッチ』の紹介記事は、コチラ⇒ 2020年06月03日
*『ようこそマーシャルさん』の紹介記事は、コチラ⇒2020年05月22日
*『死刑執行人』の紹介記事は、コチラ⇒2020年06月09日/06月10日
「Black Beach」 エステバン・クレスポの新作*ゴヤ賞2021 ⑬ ― 2021年02月27日 16:32
アフリカで暗躍する石油カンパニーのアクション・スリラー
★エステバン・クレスポの新作「Black Beach」は、ゴヤ賞ノミネート6カテゴリーと大いに気を吐いています。撮影・編集・美術・プロダクション・録音・特殊効果賞と地味な部門だが、マラガ映画祭上映後、1ヵ月後には公開されている。Netflixが絡んでおり、フランスの1月を皮切りに2月3日にはアメリカ、イギリスなど各国で既に配信が始まっております。日本はまだ準備中とかで待たされていますが、言語を選んで視聴できます。詳細はそれからにしたいが、ラウル・アレバロ、カンデラ・ペーニャ、チリのパウリーナ・ガルシアの他、アレバロのパートナーであるメリナ・マシューズがドラマでも夫婦役を演じています。一応データ、キャスト、ストーリーをご紹介しておきたい。
(エステバン・クレスポ監督、マラガ映画祭2020のフォトコールから)
「Black Beach」
製作:LAZONA Films / David Naranjo Villalonga / Crea SGR / Scope Pictures /
Nectar Media / Macaronesia Films / Nephilim Producciones 協賛RTVE、ICAA
監督:エステバン・クレスポ
脚本:エステバン・クレスポ、ダビ・モレノ
音楽:アルトゥーロ・カルデルス
撮影:アンヘル・アモロス
編集:ミゲル・ドブラド、フェルナンド・フランコ
美術・プロダクション・デザイン:モンセ・サンス
プロダクション・デザイン:カルメン・マルティネス・ムニョス
プロダクション・マネージメント:ハルナ・セイドゥ、マクロード・アイス・インプライム、他
キャスティング:パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ、アナ・サインス=トラパガ
録音:コケ・F・ラエラ、セルヒオ・テストン、ナチョ・ロヨ・ビリャノバ
特殊効果:ラウル・ロマニリョス、ジャン=ルイ・ビリヤード
製作者:ダビ・ナランホ、(エグゼクティブ)ヘスス・ウリェド・ナダル、コンチャ・カンピンス(マドリードGhana)、ダビ・ラゴニグ(ベルギー)、他
データ:製作国スペイン=ベルギー=米、スペイン語・英語、2020年、アクション、政治スリラー、115分、撮影地グラン・カナリア、マドリード、ガーナ共和国、ブリュッセル、撮影期間2019年5月9日~7月1日、公開スペイン2020年9月25日。ネット配信は2021年1月仏、2月伊、米、英などで開始。
映画祭・受賞歴:マラガ映画祭セクション・オフィシアル(8月23日上映)、ゴヤ賞2021で6カテゴリーにノミネーション(3月6日発表)
キャスト:ラウル・アレバロ(カルロス・フステル)、パウリナ・ガルシア(カルロスの母エレナ)、カンデラ・ペーニャ(NGOアレ/アレハンドラ)、クロード・ムスンガイ(グラハム)、バブ・チャム(ギジェルモ・ムバ将軍)、リディア・ネネ(ルシア)、メリナ・マシューズ(カルロス妻スーザン)、エミリオ・ブアレ(大統領の息子レオン)、ムーリー・ジャルジュ(グレゴリオ・ンドング大統領)、アイダ・Wellgaya(カルロスの元恋人アダ)、ジミー・カストロ(カルロスの友人カリスト・バテテ)、テレシタ・エブイ(アダの母親)、ダイロン・タジョン(カリストJr.)、フェンダ・ドラメ(アレの助手エバ)、オリビエ・ボニ、フレッド・アデニス(ダグラス)、ジョン・フランダース(ドノバン)、ルカ・ぺロス、ジュリアス・コッター(ONU職員ロナルド)、アンバー・シャナ・ウィリアムズ(アフリカ人記者)、その他大勢
ストーリー:カルロス・フステルは、アメリカの石油カンパニーのスペインCEOに昇進したばかり、8ヵ月になる身重の妻スーザンと国連のベテラン外交官の母親とベルギーのブリュッセルで暮らしている。贅沢三昧の上流階級に属しているが会社の共同経営者になることを期待している。妻により豊かな生活が送れるようニューヨークへの移住を計画している。そんな折も折、はるか彼方のアフリカの島国でカンパニーの技術者が、カルロスの古い友人カリスト・バテテによって誘拐される事件が起き、調停役としてカルロスに白羽の矢が立った。かつて暮らしていたアフリカに飛び、ンドング大統領の息子レオン所有の家に居を定める。スペインNGOの協力者アレと再会するが、想像以上の危険なミッションであることが分かる。元恋人のアダがカリストと結婚して息子がいること、ブラック・ビーチ刑務所に収監されていることを突き止めるカルロス。政治的対立で起きた誘拐事件は何百万もの契約を危険に晒すことになる。
*ゴチック体はゴヤ賞ノミネーションを受けている印。
タイトル「Black Beach」は赤道ギニアの最恐の刑務所の名前
★タイトルのBlack Beachブラック・ビーチというのは、かつての植民地時代にアフリカ中部に位置する赤道ギニア共和国の首都マラボに建設された刑務所の名前、スペイン語でPlaya Negraと言い、地下牢のある世界でも最恐の刑務所の一つであった。独立前はスペイン、フランス、ポルトガルが宗主国、従って現在の公用語も3語である。現大統領テオドロ・オビアン・ンゲマが当時の刑務所長でした。常に即決裁判、政治的な反主流派に対しては残酷な拷問などを科した。
★クレスポ監督がこのタイトルを選んだのは、現在でも金権政治を行っているとか暴君であるとか明白ではないにしろ、符合する事実もあるからです。というのも2016年副大統領に就任した息子が高級車に目がなく、2019年スイス検察の公金横領事件の捜査打ち切りの司法取引に応じて高級車25台を没収され競売にかけられた事件が報じられた。背景には石油の利権に群がる欧米の強国が片棒を担いでいる。
★スリラーであることから結末を書くことは控えたいが、遠いアフリカの小国を背景に登場人物が入れ乱れ、政治的、部族的対立、ONUの画策などが複雑に絡み合ってアクション映画では一概に括れない。有能なビジネスマンがセンチメンタルな過去と向き合う倫理的なメロドラマの部分もあり、加えて家族の相克、無実の民の死屍累々、親しい友人の死など、テーマは盛りだくさんです。ヤッピー世代のオデュッセイア、カルロスは無事に帰還できるのか。
(カルロスとグラハム役のクロード・ムスンガイ)
★過去にも同じようなテーマを扱った映画はかなり多い。アフリカで暗躍する多国籍企業をテーマにしたジョン・ル・カレの小説の映画化、フェルナンド・メイレレスの『ナイロビの蜂』(05)では、レイチェル・ワイズがアカデミー賞助演女優賞を受賞した。同じ年には舞台は中東の架空の国シリアナの石油利権をめぐる陰謀を描いたスティーヴン・ギャガンの政治スリラー『シリアナ』も製作され、こちらはCIA工作員役のジョージ・クルーニーがアカデミー賞&ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を受賞している。
★ラウル・アレバロは、1979年マドリード近郊のモストレス生れの監督、俳優。キャリア&フィルモグラフィーは、2016年の初監督作品「Tarde para la ira」邦題『物静かな男の復讐』でアップしています。彼は本作でゴヤ賞2017新人監督賞を受賞している。バツグンの演技で存在感を示したカンデラ・ペーニャはイシアル・ボリャインの「La boda de Rosa」で主演女優賞にノミネーションされています。スーザン役のメリナ・マシューズ(バルセロナ1986)は、アレバロの現パートナーということですが、以前のアリシア・ルビオとは別れたようですね。
*ラウル・アレバロの主な紹介記事は、コチラ⇒2017年01月09日
(ラウル・アレバロとカンデラ・ペーニャ、映画から)
★監督紹介:エステバン・クレスポは、1971年マドリード生れ、監督、脚本家、2012年に撮った短編6作目「Aquel no era yo」(25分)が、米アカデミー賞2014にノミネートされたことで、オスカー賞ノミネート監督としばしば紹介される。本作はゴヤ賞2013短編映画賞受賞の他、マラガ映画祭2012銀のビスナガ短編賞、CinEuphoria賞2014、メディナ映画祭ほか、国内外の受賞歴を誇る。アフリカの少年兵の記事にインスパイアされて製作した。英語の分かる子供たちを選んで起用、アフリカを再現しているが、実際の撮影はトレドとその近郊の農場で、新作と同じアンヘル・アモロスが手掛けた。
(ゴヤ賞2013短編映画賞のトロフィーを手にした監督)
(アフリカの少年兵をテーマにした「Aquel no era yo」のポスター)
★短編の受賞歴は以下の通り:
2005年「Amar」ポルト短編映画祭2006大賞受賞
2009年「Lala」メディナFF観客賞、ラルファス・デル・ピ映画祭監督賞ほかを受賞
2011年「Nadie tiene la culpa」ラルファス・デル・ピFF観客&脚本賞、
モントリオール映画祭2011審査員賞を受賞
2012年「Aquel no era yo」上記
★長編デビュー作「Amar」はマラガ映画祭2017にノミネートされ、本邦では『禁じられた二人』という全く意味不明の邦題でNetflixで配信された。ない知恵を絞らないで欲しい。2005年に同タイトルで短編を撮っている。個人的には評価できなかったので紹介を断念したが、功績は新人マリア・ペドラサとポル・モネンを世に送り出したこと。新作が第2作目になります。
(長編デビュー作「Amar」のポスター)
マリオ・カサス、初のゴヤ賞ノミネート*ゴヤ賞2021 ⑫ ― 2021年02月23日 11:01
まさかのゴヤ賞初ノミネートにびっくり――マリオ・カサス
(ノミネート対象作品のダビ・ビクトリの「No matarás」)
★ゴヤ賞2021主演男優賞は、マリオ・カサス(ダビ・ビクトリ「No matarás」)、ハビエル・カマラ(セスク・ゲイ「Sentimental」)、エルネスト・アルテリオ(アチェロ・マニャス「Un mundo normal」)、ダビ・ベルダゲル(ダビ・イルンダイン「Uno para todos」)の4人、ノミネーション発表の最初からカサスかカマラのどちらかと予想しています。ダビ・ビクトリの「No matarás」以外は作品紹介をしているので、公平を期して作品紹介もしておこうとしたら、なんとマリオ・カサスはゴヤ賞は初ノミネートに驚きました。というのもTVシリーズも含めると20年近いキャリアがあり、それも話題作に出演していたからです。本邦でもアクション、スリラーが多いので、映画祭上映、ビデオやDVD、Netflix配信などで知名度があり、当ブログでも度々登場させていたから、受賞は別としてノミネートくらいはあると思っていたのでした。
(マリオ・カサス、「No matarás」から)
★マリオ・カサスは1986年、ガリシア州の県都ア・コルーニャ生れ、5人弟妹の長子、大工だった父親が19歳、母親が17歳のときに生まれた。1994年家族でバルセロナに転居、1995年からスペイン国有鉄道RENFEレンフェのコマーシャルに出演している。本格的に俳優を目指して18歳でマドリードに、演技はアルゼンチン出身の女優が設立したクリスティナ・ロタ演劇学校で学んだ。クリスティナ・ロタはフアン・ディエゴ・ボトー(助演ノミネート)、マリア・ボトーの母親でもある。卒業生にはゴヤ賞2021ノミネートのエルネスト・アルテリオ(主演)のようなアルゼンチン出身者だけでなく、ナタリエ・ポサ(助演)、アルベルト・サン・フアン(助演)、ペネロペ・クルス、エドゥアルド・ノリエガなどがおり、スペイン映画の隆盛に貢献している。
(マラガ映画祭主演男優賞を受賞した「La mula」のポスター)
★ダビ・ビクトリの「No matarás」主演で、ホセ・マリア・フォルケ賞に初ノミネートされましたが、ライバルのハビエル・カマラの手に渡った。現在結果が出ているのはサン・ジョルディ賞(スペイン男優賞)とディアス・デ・シネ賞(スペイン男優賞)の2賞です。今年はコロナ禍で映画賞は軒並みガラ開催が遅れています。ゴヤ賞(3月6日)、フェロス賞(3月2日)、ガウディ賞(3月21日)と大きい映画賞の発表はこれからです。以下に主なフィルモグラフィーを年代順に列挙しておきます。(邦題、原題、監督名、主な受賞歴の順)
2006年「El camino de camino」脇役、アントニオ・バンデラス
2009年『セックスとパーティーと嘘』(『灼熱の肌』「Mentiras y gordas」)群像劇
アルフォンソ・アルバセテ&ダビ・メンケス
マドリード・レズビアン&ゲイ映画祭2009レズゲイ賞、サラゴサFF 2009若い才能賞受賞
2009年「Fuga de cerebros」主役、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ
サラゴサ映画祭2009若い才能賞受賞
2010年「Carne de neón」主役、パコ・カベサス
2010年『空の上3メートル』(「Tres metros sobre el cielo」)主役、
フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ ACE賞2011新人男優賞受賞
2012年『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』(「Grupo 7」)脇役、アルベルト・ロドリゲス
フォトグラマス・デ・プラタ賞2013映画部門男優賞受賞
2012年『その愛を走れ』(「Tengo ganas de tí」)主役、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ
2013年「La mula」主役、マイケル・ラドフォード マラガ映画祭2013主演男優賞受賞
2013年『スガラムルディの魔女』(「Las brujas de Zugarramurdi」)
アレックス・デ・ラ・イグレシア フェロス賞2014助演男優賞受賞
2013年「Ismael」マルセロ・ピニェエロ
2015年『チリ33人、希望の軌跡』(「Los 33」)群像劇、パトリシア・リッヘン
2015年『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』(「Mi gran noche」)
アレックス・デ・ラ・イグレシア フェロス賞2016助演男優賞受賞
2015年『ヤシの木に降る雪』(「Palmeras en la nieve」)主役、フェルナンド・G・モリーナ
フォトグラマス・デ・プラタ賞2016映画部門男優賞受賞
2016年『ザ・レイジ 果てしなき怒り』(「Toro」)主役、キケ・マイーリョ
2016年『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(「Contratiempo」)主役、オリオル・パウロ
2017年『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』(「El bar」)群像劇、
アレックス・デ・ラ・イグレシア
2017年『オオカミの皮をまとう男』(「Bajo la piel de lobo」)主役、サム・フエンテス
2018年『マウトハウゼンの写真家』(「El fotógrafo de Mauthausen」)、マル・タルガロナ
2019年「Adiós」パコ・レオン
2020年『その住民たちは』(「Hogar」)脇役、ダビ&アレックス・パストール
2020年『パラメディック――闇の救急救命士』(「El practicante」)主役、カルレス・トラス
ディアス・デ・シネ賞2021スペイン男優賞受賞
2020年「No matarás」省略
*ゴチック体は当ブログに紹介記事があります。ビデオ、短編、TVシリーズは割愛。
*『スガラムルディの魔女』の紹介記事は、コチラ⇒2014年10月12日
*『ザ・レイジ 果てしなき怒り』の紹介記事は、コチラ⇒2016年04月14日
*『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』の記事は、コチラ⇒2017年02月17日/04月14日
*『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』の紹介記事は、コチラ⇒2017年04月04日
*『マウトハウゼンの写真家』の紹介記事は、コチラ⇒2019年03月03日/03月05日
*『その住民たちは』の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月31日
★TVシリーズでお茶の間ファンを獲得、映画デビューはアントニオ・バンデラスの「El camino de camino」に脇役で出演した。これはバンデラス監督と同郷の作家アントニオ・ソレルの同名小説の映画化だった。カサスをスターにしたのは「Mentiras y gordas」でした。お茶の間のアイドル脱出を模索していたときにオファーを受け、結果を出した。邦題は英語タイトルの直訳、原題を直訳すると「嘘っぱちとデブ女たち」になるが、gordaは強めの要素で会話などで使う「まさかそんなこと嘘でしょ」くらいになる。コメディと紹介されることもあるが、それは見た目だけで的外れ、居場所のない孤独と愛を探す若者たちを描いた青春ドラマでした。カサスは好きな親友に愛を告白できないゲイを演じた。本作はアルモドバルのカンヌ映画祭パルムドールにノミネートされた『抱擁のかけら』を抜いて興行成績ナンバーワンになったが、批評家の評価は当然のごとく分かれた。1996年のダニー・ボイルの『トレインスポッティング』が下敷きになっているようです。本作でユアン・マクレガーはスターの座にのしあがった。
(『セックスとパーティーと嘘』から)
★ゴヤ賞関連では、共演者はノミネートされるが、カサス自身は外されることが多く、アルベルト・ロドリゲスの『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』で助演男優賞ノミネーションを期待したが、共演者のフリアン・ビジャグランがノミネートされ受賞した。またサム・フエンテス監督のオファーを台本を読まずに話だけでOKした『オオカミの皮をまとう男』でもノミネートがなく、翌年の『マウトハウゼンの写真家』では減量して挑戦したもののまたもや素通り、映画アカデミーから嫌われているのかと思っていた。新作「No matarás」の監督は、マリオ・カサスを念頭において脚本を書いたと語っているが、サム・フエンテスもカサスに惚れ込んで「彼しかこの役はできない」とインタビューに応えていた。以下に新作の紹介をしておきます。
(『UNITO 7 ユニット7/麻薬取締第七班』から)
(『マウトハウゼンの写真家』のポスター)
「No matarás」(英題「Cross the Line」)
製作:Castelao Pictures / Castelao Production / Filmax / Movistar+ / RTVE / TV3 他
監督:ダビ・ビクトリ
脚本:ダビ・ビクトリ、ジョルディ・バリェホ、クララ・ビオラ
音楽:フェデリコ・フシド、エイドリアン・フォルケス
撮影:エリアス・M・フェリックス
編集:アルベルト・グティエレス
キャスティング:アレハンドロ・ヒル
プロダクション・デザイン&美術:バルテル・ガジャルト
衣装デザイン:オルガ・ロダル、イランツゥ・カンポス
メイクアップ&ヘアー:ナタリア・アルベール、パトリシア・レイェス、(特殊メイク)ルシア・ソラナ
舞台装置:Thais・カウフマン
プロダクション・マネージメント:エステル・べラスコ、アルフレッド・アベンティン
製作者:ラウラ・フェルナンデス・Brites、(エグゼクティブ)カルロス・フェルナンデス
データ:製作国スペイン、スペイン語・英語、2020年、アクション・スリラー、92分、撮影地バルセロナ、シッチェス映画祭2020(10月10日上映)、公開スペイン10月16日、チリ10月16日(ネット)、アルゼンチン12月1日、ドイツ2月25日(DVD発売3月5日)、他
キャスト:マリオ・カサス(ダニ)、ミレナ・スミット(ミラ)、フェルナンド・バルディビエルソ(レイ)、エリザベス・ラレナ(ラウラ)、ハビエル・ムラ(ベルニ)、アレックス・ムニョス(デルガド)、アンドレウ・Kreutzer(フォルニド)、オスカル・ぺレス(従兄弟)、シャビ・シレス(刑事)、ミゲル・アンヘル・ゴンサレス(物乞い)、アルベルト・グリーン、ヘラルド・オムス(ヘラルド)、シャビ・サエス(ルベン)、ビクトル・ソレ(見張り役)、ミゲル・ボルドイ(ダニの父親)、他
*ゴチック体はゴヤ賞にノミネートされている俳優、新人女優賞、新人男優賞。
ストーリー:ダニはここ数年、病気の父親の介護をしながら旅行会社で働いていた。父親が亡くなると自分の人生を変えようと世界をめぐる旅に出ようと決心する。そんな折も折、セクシーだが精神が不安定なミラという女性と運命の出会いをしてしまう。その夜を境にダニの人生は本物の悪夢と化してしまうだろう。ミラはダニを想像もできない破局に導いていく。本作はもし平凡な人間が誰かを殺すことが可能かどうか考える物騒な映画。
(マリオ・カサス、映画から)
★カサスによると、シナリオを読むなりこのプロジェクトに参加したいと思った。「この役柄を演じられる自信はなかったが、これも挑戦だと魅了された。スリラーが好きなのです」と。監督もカサスについて「脚本は常にマリオを念頭において書きすすめた」と打ち明ける。「マリオの視線を通して、この登場人物を変身させる。観客もこの人物のなかにある真実を体験できるだろう」とコメントしている。
(撮影中の監督とカサス)
★ダビ・ビクトリは1982年バルセロナ生れの監督、脚本家、製作者。スペインと米国で映画を学んだ。2008年短編「Reaccion」でデビュー、同「Zero」(15)がアリカンテのラルファス・デル・ピ映画祭で監督賞と作品第2席を受賞、2018年長編デビュー作「El pacto」は公開された。ベレン・ルエダやダリオ・グランディネッティが出演している。本作は第2作目。
(シッチェス映画祭2020、フォトコール)
(マリオ・カサスとミレナ・スミットに挟まれた監督)
★ゴヤ賞新人女優賞にノミネーションされている、ミレナ・スミットは1996年エルチェ生れ、ホテルのフロントで働いていたところをスカウトされた。未だ24歳だが妖艶な雰囲気があり、もしかすると受賞するかもしれない。次回作はアルモドバルの新作「Madres paralelas」に出演が決まり、既にクランクインしている。共演者はペネロペ・クルスとアイタナ・サンチェス=ヒホン、他にアルモドバル常連のロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ、イスラエル・エレハルデなど賑やかです。ゴヤ賞のライバルは「Ane」のホネ・ラスピウルか。
(ミレナ・スミットとカサス、映画から)
★新人男優賞ノミネーションのフェルナンド・バルディビエルソは、1984年マドリード生れ。2005年短編でデビュー、主にTVシリーズに出演している。2008年イサベル・デ・オカンポのスリラー短編「Miente」でラルファス・デル・ピ映画祭2008男優賞を受賞している。当ブログで作品紹介をしているダニエル・カルパルソロのスリラー「Hasta el cielo」に警官役で出演している。特異な風貌から役柄が限られそうだが、異色の新人として大いに脈がありそうです。
(フェルナンド・バルディビエルソ、シッチェスFFのフォトコール)
バホ・ウジョアの5年ぶりの新作 「Baby」*ゴヤ賞2021 ⑪ ― 2021年02月18日 10:44
監督賞ノミネートの「Baby」は5年ぶりのセリフのないドラマ
★フアンマ・バホ・ウジョアの5年ぶりの新作「Baby」は、監督賞の他オリジナル作曲賞(メンディサバル&ウリアルテ)がノミネートされています。バホ・ウジョアは1967年ビトリア生れ、かつてバスクの若手監督四天王と称されたグループの一人。アレックス・デ・ラ・イグレシア(1965生れ、『スガラムルディの魔女』)、エンリケ・ウルビス(1962生れ、『悪人に平穏なし』)、パブロ・ベルヘル(1963生れ、『ブランカニエベス』)、3人はビルバオ生れです。もはや若手とは言えませんが、21世紀初頭は言語こそスペイン語でしたが、バスクの若手監督が塊りになって国際映画祭で認められるようになった時代でした。
「Baby」2020
製作:Frágil Zinema / La Charito Films / La Charito
監督・脚本:フアンマ・バホ・ウジョア
音楽:Bingen Mendizábal、コルド・ウリアルテ
撮影:Josep M. Civit
編集:デメトリオ・エロルス
キャスティング:ルシ・レノックス
プロダクション・デザイン:リョレンク・マス
セット・デコレーション:ジナ・ベルナド・ムンタネ
衣装デザイン:アセギニェ・ウリゴイティア
メイクアップ&ヘアー:(メイク)ベアトリス・ロペス、(ヘアー)エステル・ビリャル
プロダクション・マネージメント:カティシャ・シルバ
製作者:フアンマ・バホ・ウジョア、(エグゼクティブ)フェラン・トマス、(共)ディエゴ・ロドリゲス、(ライン)ハビエル・アルスアガ
データ:製作国スペイン、言語スペイン語・無声、ドラマ、104分、撮影地バスク自治州、スペイン公開12月18日、ナバラ州12月14日、サンタ・クルス・デ・テネリフェ12月14日、バレンシア12月17日
映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2020上映(10月11日)オリジナル・サウンドトラック賞受賞、タリン映画祭(エストニア)、バジャドリード映画祭、カイロ映画祭、イスラ・カラベラ・ファンタジック映画祭(カナリア諸島テネリフェ)。映画賞ノミネーションは、第8回フェロス賞音楽賞(3月2日発表)、第13回ガウディ賞撮影賞(3月21日発表)、第35回ゴヤ賞監督賞・オリジナル作曲賞(3月6日発表)
キャスト:ロジー・デイ(若い母親)、ハリエット・サンソム・ハリス(ザ・ウーマン)、ナタリア・テナ(ザ・ウルビノ)、マファルダ・カルボネル(ニーニャ)、チャロ・ロペス(家主)、ナタリア・ルイス(ディーラー)、カルメン・サン・エステバン(カップル)、スサナ・ソレト(カップル)、他
ストーリー:麻薬中毒の娘が衰弱しながら男の子を出産した。彼女には自身が生き残るための困難の他に育児が負い被さる。部屋代が払えず家主から養子を勧められる。家主は児童密売で働く女性に接触させ、娘は借金を返済して生き残れる金額で赤ん坊を裕福な婦人に売り渡してしまう。しかし部屋の中に転がっていたおしゃぶりを見て後悔の念に駆られる。生と死についての創造物語、母親が息子を愛することがテーマではなく、私たちが他者を愛することができるかどうかです。
(文責:管理人)
(赤ん坊を売り渡す母親と裕福な婦人)
物語が危険に晒されている――セリフがないと観客は理解できないか?
★バホ・ウジョア映画ファンにとって、ダイヤローグがないと聞いても驚かないでしょう。監督によると「多くの脚本家は、観客がセリフがないと理解できないのではないかと怖れてダイヤローグを書くが、そんな心配はいらない。今は物語が危険に晒されている。既に映画を作り始めて24年前になるが、今日の社会は好奇心が強く、幼稚で独断的」と語る。また「鏡を見て、自身を愛し許すことができるとき、この映画で起きたような他人を愛することができるようになるチャンスがある」、つまり自分が好きでないと他人を好きになれない。「登場人物に名前を付けなかったのは意図したこと、人間の本質、魂の本質に、また怖れや欲望の本質にも名前はいらない。登場する動物には、シンボリックな役割を与えている」と監督。テーマは本質は何かのようで、白馬やアフガン・グレイハンドを登場させている。
(ロジー・デイ、白馬が見える)
★2作になる「La madre muerta」の主役を演じたアナ・アルバレスは一言も喋らなかった。幼いとき母親を殺害した犯人を見てしまったせいで、大人になっても立ち直れない女性の役でした。それでもストックホルム映画祭やカルタヘナ映画祭で女優賞を受賞している。主役に必要な本質的な能力を獲得していることが重要ということでしょうか。4作目の「Frágil」でも長い時間セリフがなかった。新作の重要な要素は、セット、光と闇、音楽が担っており、入念に仕上げられたビジュアル効果が予告編からも見てとれる。息子を売って自分の過ちに気づくドラッグ中毒の若い母親の話だが、かなり奥は複雑なようです。セリフがないだけに個々人の解釈が問われ、好き嫌いがはっきり分かれそうです。ナタリア・テナ扮するアルビノは両性具有のキャラクター、クランクインで最初にセットに入ってきたとき、彼女は「私たちを不安にさせ、怖がらせた」と監督、適役だったわけです。コロナによるパンデミックが始まる前に撮影を終了していたのも幸運なことだった。
(ナタリア・テナ扮する両性具有のアルビノ)
『スター・ウォーズ』に魅せられた少年時代、
★監督紹介:フアンマ・バホ・ウジョアは、1967年ビトリア(バスク語ガステイス)生れ、監督、脚本家、撮影監督、ミュージシャン。父親はブルガリア人、母親はアンダルシア出身、生れはアラバ県の県都ビトリアだが、育ったのはサンセバスティアン、3人兄妹の真ん中。父親が写真館を経営、十代から証明写真の作成や土曜日ごとの結婚披露宴のライト持ちなどして父親の仕事を手伝った。彼を映画の虜にしたのは、1977年のジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』だった。17歳の1984年に最初の制作会社「Gazteiko Zinema」を設立、兄エドゥアルド・バホ・ウジョアとスーパー8ミリや16ミリで短編を撮り続けた。1989年の短編「El reino de Víctor」(30分)がゴヤ賞1990短編映画賞を受賞したときは弱冠22歳でした。
(ゴヤ賞1992「Alas de mariposa」新人監督賞と主演女優賞のシルビア・ムント)
★長編映画デビュー作「Alas de mariposa」がサンセバスチャン映画祭1991で金貝賞を受賞、最年少受賞者の記録を作った。華々しいデビューは、当然のごとく翌年のゴヤ賞では、新人監督賞、共同執筆をしたエドゥアルド・バホ・ウジョアとオリジナル脚本賞、母親役を演じたシルビア・ムントに初の主演女優賞をもたらした。息子の誕生をひたすら待ち望む母親にシルビア・ムント、6歳になる少女の弟殺しというショッキングな悲劇に驚愕した。余談だが、2016年の暮れ、兄弟で受賞した脚本賞をビトリアの中古品店に4999ユーロで売却するという前代未聞のニュースに関係者は絶句した。これには後日談として、店側と監督側の話に食い違いがあり、プロダクションも否定するなど真相は謎のままになった。
★第2作「La madre muerta」はベネチア映画祭でプレミアされ、海外の映画祭で称賛された。以下に短編とドキュメンタリーを除くフィルモグラフィーを年代順に列挙すると、
1991年「Alas de mariposa」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)
1993年「La madre muerta」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)
1997年「Airbag」コメディ、監督・脚本(カラ・エレハルデ他と共同執筆)
2004年「Frágil」監督・脚本
2015年「Rey Gitano」コメディ、監督・脚本
2020年「Baby」監督・脚本
以上6作です。
(長編デビュー作のポスター)
★ゴヤ賞関連では、第2作目「La madre muerta」で特殊効果賞(ポリ・カンテロ)、第3作目「Airbag」で編集賞(パブロ・ブランコ)が受賞している。パブロ・ブランコは第2作と第4作を手掛けるほか、『スガラムルディの魔女』や『悪人に平穏なし』などバスク監督の作品にゴヤ賞をもたらしている。前者はファンタスポルト1995で監督賞と観客賞、モントリオール映画祭監督賞、ストックホルム映画祭FIPRESCIなど国際映画祭での評価が高く、カラ・エレハルデを主役に起用したことが次作のコメディ「Airbag」に繋がった。「騒々しいだけで中身がない」という批評家の酷評にもかかわらず、1997年の興行成績ナンバーワンになった。つまり観客の意見は専門家と違ったわけです。フリーガン・コメディという新しいジャンルを作ったと称され、今では専門家の意見も変わり、20世紀のスペイン映画ベスト50作に選ぶ批評家もいる。出演者には鬼籍入りした人も多く「騒々しい」には違いないが、今見ても古さを感じないのではないか。前2作からは想像できない変身ぶりでした。
(コメディ「Airbag」のおバカ3人組、左からカラ・エレハルデ、
フェルナンド・ギジェン・クエルボ、アルベルト・サン・フアン)
★「Airbag」が戻ってきたと言われた、第5作目の「Rey Gitano」には、「Airbag」で活躍した俳優、カラ・エレハルデ、マヌエル・マンキーニャの他、今は亡きロサ・マリア・サルダ、バルデム兄弟の実母ピラール・バルデム、新たにアルトゥーロ・バルスやマリア・レオン、ベテランチャロ・ロペスも加わっている。ロペスは新作にも出演している。
(「Rey Gitano」撮影中のカラ・エレハルデと監督)
(アルトゥーロ・バルスやマリア・レオンも加わった「Rey Gitano」のポスター)
(ロサ・マリア・サルダとチャロ・ロペス、「Rey Gitano」)
★寡作な監督だが、彼が情熱を捧げている一つに音楽がある。ドラマの間に2本の音楽ドキュメンタリーを撮っている。2008年の「Historia de un grupo del rock」と、2016年の「RockNRollers」である。他にロック・グループのビデオクリップを多数作成している。子供のときからの音楽好きで、最初はフルート、後にはギターとピアノを学んだ。とにかく規格外の才能の持ち主である。映画を撮っていないときは、ミュージシャンの仕事で多忙を極めている。独立心旺盛な、体制には反抗的な性格を自認している。
★もう一つがカメラ、「Baby」のポスターには何種類かあるが、これはその一つ。赤ん坊のおしゃぶりは手工芸品の職人が丁寧に作ってくれたものだが、背景の蜘蛛はバザールで売っていたもの、セットにした家で撮影した。このポスターにはデビュー作「Alas de mariposa」の雰囲気を思い出させるものがある。
(監督が作成したポスター)
個性的な女優陣――チャロ・ロペスが第65回エスピガ栄誉を受賞
★キャスト紹介:本作のノミネーション・カテゴリーは監督賞なのでキャスト陣については簡単にしますが、英国の女優ロジー・デイと米国のハリエット・サンソム・ハリスを主役に起用、ナタリア・テナは生れも育ちもイギリスだが両親がスペイン系なのでスペイン語に堪能、海外勢でも毛色の変わった女優を選んでいる。ロジー・デイ(ケンブリッジ1995)は、女優の他、まだ20代だが監督、作家でもある。1999年TVシリーズでデビュー、ポール・ハイエットの「The Seasoning House」(12『復讐少女』)で主役に抜擢され、2014年ジョナサン・イングリッシュの『アイアンクラッド ブラッド・ウォー』、ロドリゴ・コルテスの『ダーク・スクール』(18)などが代表作。
(麻薬中毒の若い母親を演じたロジー・デイ)
★ハリエット・サンソム・ハリス(テキサス州フォートワース1955)は、1993年の『アダムス・ファミリー、2』、ポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』(17)、TVシリーズ『デスパレートな妻たち』(11、28話出演)など。本作では赤ん坊を買う裕福な婦人役。
(ハリエット・サンソム・ハリス、映画から)
★ナタリア・テナ(ロンドン1984)は、上述したように生粋のロンドン子だが、両親がスペイン系なのでスペイン語が堪能のことから、カルロス・マルケス=マルセのデビュー作「10,000KM」の主役に抜擢された。本作は第17回マラガ映画祭2014に正式出品され、監督が作品賞「金のビスナガ」賞、彼女は女優賞を受賞した。
*ナタリア・テナ紹介記事は、コチラ⇒2014年04月11日
(ナタリア・テナとハリエット・サンソム・ハリス)
★一方スペイン勢は、家主役のチャロ・ロペス(サラマンカ1943)は、舞台やTVシリーズで活躍、5年前の「Rey Gitano」に出演している。1943年生れということは、デビューがフランコ体制ということで、主役を演じて活躍していた時代は、ゴヤ賞も始まっていなかった。従ってビセンテ・アランダの1940年代のスペインを舞台にした「Tiempo de silencio」(86)に出演したときには既に母親役だった。ゴヤ賞はホセフィナ・モリーナの「Lo más natural」で主演女優賞にノミネートされたが受賞にいたらず、モンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』(97)で初めて助演女優賞を受賞、本作はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた話題作でした。第65回バジャドリード映画祭2020でエスピガ栄誉賞を受賞、バホ・ウジョア監督にエスコートされて登壇、トロフィーを手にした。「パンデミアでも文化や私たちの健康に影響を及ぼさない」とスピーチした。2020年の栄誉賞受賞者はイサベル・コイシェ、マリア・ガリアナを含めて6人と大盤振舞いでした。
(エスピガ栄誉賞トロフィーを手にスピーチをするチャロ・ロペス、2020年10月26日)
★ニーニャ役を演じたマファルダ・カルボネス(2008)は、2018年TVシリーズでスタート、本作を見たマリア・リポル監督が大いに気に入って「Vivir dos veces」(19)にスカウトした。脚本を手直しするなどしてデビューさせた甲斐あって、子役ながらバレンシア・オーディオビジュアル賞を受賞してしまった。共演者の認知症グレーゾーンの祖父役オスカル・マルティネス、母親役インマ・クエスタのベテランを喰ってしまった。評価はこれからの12歳です。
★ディーラー役のナタリア・ルイス()は、「Rey Gitano」やマリアノ・ビアシンの「Marisol」(05、アルゼンチン、モノクロ)、カルロス・バルデムの小説を映画化したサンティアゴ・サンノウの「Alacran enamorado」(13『スコーピオン反逆のボクサー』)などに出演している。
(監督、マファルダ、ナタリア・テナ、ナタリア・ルイス、シッチェスFF 2020の赤絨毯)
イサベル・コイシェの新作「Nieva en Benidorm」*ゴヤ賞2021 ⑩ ― 2021年02月11日 14:36
イサベル・コイシェの新作はスリラー仕立ての大人のラブロマンス?
(ハビエル・マヨラルが手掛けたポスター)
★イサベル・コイシェの新作「Nieva en Benidorm」は、監督賞とプロダクション賞の2カテゴリーにノミネートされています。2020年のコイシェ監督は、国民映画賞受賞、バジャドリード映画祭SEMINCIのエスピガ栄誉賞を受賞するなど記念すべき年でした。本作はSEMINCIのオープニング作品に選ばれ10月24日にプレミアされた。タイトルにあるベニドルムという町は、バレンシアのアリカンテ県コスタ・ブランカの海岸沿いにある大リゾート地、現在は <地中海のニューヨーク> と称されるほどですが、フランコ時代は典型的な漁村にすぎなかった。いわゆるリゾートとして計画された都市です。夏季休暇だけでなくフランドルやイギリスから訪れる観光客は、充実したバーやクラブの夜の街を愉しめるようになっている。温暖な気候からスペインの裕福な退職者の人気の都市の一つでもある。
(観光客で賑わうベニドルムの海岸、2012年完成の摩天楼In Tempoビルが見える)
「Nieva en Benidorm」(英題「It Snows in Benidorm」)2020
製作:Benidorm Film Office / El Deseo / Movistar+ / RTVE 他
監督・脚本:イサベル・コイシェ
音楽:アルフォンソ・デ・ビラリョンガ
撮影:ジャン=クロード・ラリュー
編集:ジョルディ・アサテギ
美術:ウシュア・カステリョ
キャスティング:サラ・ビルバトゥア
衣装デザイン:スエビア・サンペラヨ・バスケス
メイクアップ&ヘアー:(メイク)シルビエ・インベルト、(ヘアー)イグナシ・ルイス、ユディット・ガルシア
プロダクション・マネージメント:トニ・ノベリャ
製作者:アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、エステル・ガルシア
(*ゴチック体はゴヤ賞ノミネーション)
データ:製作国スペイン=イギリス、スペイン語・英語、2020年、スリラードラマ、117分、撮影地アリカンテ県ベニドルム、配給Bteam。スペイン公開2020年12月11日
映画祭・受賞歴:バジャドリード映画祭SEMINCI 2020オープニング作品(10月24日)、マドリード・アカデミア・デ・シネ(11月10日)、バルセロナ映画祭(11月26日)、ゴヤ賞2021監督賞、プロダクション賞(トニ・ノベリャ)ノミネーション
キャスト:ティモシー・スポール(ピーター・リオーダン)、サリタ・チョウドリー(アレックス)、カルメン・マチ(警察官マルタ)、ペドロ・カサブランク(エステバン・カンポス)、アナ・トレント(ルシア)、エドガル・ヴィットリノ(レオン)、レオナルド・エルティスグリス(ワルダー)、ベン・テンプル(銀行理事)、マルコルム・マッカーシー(警察官)、ラウラ・カレロ(詩人シルヴィア・プラス)、他多数
ストーリー:ピーターは人生の大半を過ごしたマンチェスターの銀行を早期退職して、何年も会っていない弟ダニエルを訪ねようと決心する。彼は独身で几帳面な性格だが、気象現象をとても気にする偏執的なところがあった。ダニエルはスペインの観光地ベニドルムでバーレスクのクラブを経営しているはずだったが、ピーターが到着したときには行方不明になっていた。ダニエルの身に何が起きたのだろうか、唯一の手掛かりはクラブしかなかった。そこで働いていたミステリアスな女性アレックスと知り合うことになる。二人は警官マルタの助けをかりて行方を突き止めようとする。マルタは50年代後半にハネムーンでベニドルムを訪れたアメリカの詩人シルヴィア・プラスの存在と関係があると考えている。ピーターは今まで不可能と思い込んでいたことが実はそうではないことに気がつく。もしベニドルムに雪が降るならば、どんなことでも起りえるのではないか。ピーターは真剣に人生を見つめなおすことにする。
(ピーター役のティモシー・スポールとアレックス役のサリタ・チョウドリー)
★イサベル・コイシェ(バルセロナ1960)の紹介は、英語映画ながらゴヤ賞2018の作品・監督・脚色賞3賞を受賞した『マイ・ブックショップ』(17)、Netflixストリーミング配信の『エリサ&マルセラ』(19)にアップしています。その後のフィルモグラフィーは、TVシリーズを挟んで本作になります。上述したように2020年の国民映画賞受賞、バジャドリード映画祭のエスピガ栄誉賞、他第48回ウエスカ映画祭ルイス・ブニュエル賞を受賞しています。国民映画賞受賞が報じられると、既に受賞していると思い込んでいたメディアやファンを驚かせた。選考母体は文化省と映画部門はICAA(映画と視聴覚芸術協会、1985設立)で、一種の生涯功労賞です。他に文学、科学、音楽、スポーツなど多数。
*『マイ・ブックショップ』の主な紹介記事は、コチラ⇒2018年01月07日
*『エリサ&マルセラ』の主な紹介記事は、コチラ⇒2019年02月11日/同年06月12日
(新作撮影中のコイシェ監督、ベニドルムにて)
コメディでもロマンスでも純粋なノワールでもない「ネオノワール」と監督
★コイシェ監督の映画は圧倒的に英語が多い。ゴヤ賞受賞8個のうちドキュメンタリーを除く受賞作品『死ぬまでにしたい10のこと』や『あなたになら言える秘密のこと』、そして『マイ・ブックショップ』まで一貫して英語、スペインの観客は吹替や字幕入りで見た。どの作品も主役が英語話者だったからです。本作もイギリスの俳優を起用、スペイン公開は字幕入りでした。必要とあればどこにでも出かけていき説得に骨身を惜しまない。ジャンルもさまざま、今回はコメディでもロマンスでも、純粋なノワールでもなく、それらをミックスした<ネオノワール>と説明している。行方不明あり、バーレスクのエロティシズムあり、熟年のラブロマンスあり美食ありで大いに愉しめそうです。
(左から、ティモシー・スポール、サリタ・チョウドリー、アグスティン・アルモドバル、
コイシェ監督、ベニドルムの浜辺で)
★主役ピーターには、イギリスの俳優ティモシー・スポール(ロンドンのバタシー1957)が起用された。『秘密と嘘』(96)、『人生は、時々晴れ』(02)、画家ターナーに扮した『ターナー、光に愛を求めて』やチャーチル役の『英国王のスピーチ』などで日本でも知名度が高い。スポールによると、スコットランドのグラスゴーで撮影中に訪ねてきてオファーされたという。10分ほど話してOKしたが、実際コラボしてみてよかった。スペイン側のスタッフや俳優に学ぶことが多かったと語っている。ピーターはお金が必要ない人々に融資をし、本当に必要な人々には融資を断る銀行に、自分の人生を捧げてきたことを後悔する。上司との意見の相違でぷつんと糸が切れてしまう。
(ベニドルムの夜の繁華街を探し回るピーター)
★アレックス役のサリタ・チョウドリー(ロンドン1966)は、当ブログで紹介したコイシェの『しあわせへのまわり道』(14)に起用されている。父親がベンガル人ということでエキゾチックな雰囲気の女優、インド映画『カーマ・スートラ/愛の教科書』(96)、『シークレット・パーティ』(12)、『ハンガー・ゲーム、パート2』(15)など。「監督から『この役はやりたいと思わないよ』と台本を渡された。ホンを読んだら気乗りしなかったので『はっきり言って演りたくないわ』と答えた。それからコーヒーを飲みながら雑談しているうちに気がついたら演ることになっていたの」とチョウドリー。「コイシェは天才ね。撮影中はアメリカ映画を撮っているときのようなストレスがなく、それにボカディージョが美味しくて」と。どうやらベニドルムがすっかり気に入ったようでした。熟女のエロティシズムが楽しめるとか。
(バーレスク・ショーに出演のアレックス)
詩人のシルヴィア・プラスとはどんな人?
(脇をかためるカルメン・マチ、ペドロ・カサブランク、アナ・トレントの3人)
★カルメン・マチ(マドリード1963)扮する警察官マルタは愛情深く親切、アメリカ出身の詩人で作家のシルヴィア・プラスの作品を愛してやまない。「こんな役をスペインで演れるのは彼女以外にいない」と監督。確かに重みのある声、その存在感は他の追随を許さない。ラテンビート2010で『ペーパーバード幸せは翼にのって』が上映された折り、エミリオ・アラゴン監督と来日している。スクリーンとは打って変わって物静か、映画では別人に変身できると思ったことでした。ゴヤ賞関連ではエミリオ・マルティネス=ラサロの「Ocho apellidos vascos」出演で助演女優賞を受賞している。アルモドバルやアレックス・デ・ラ・イグレシア映画の常連さん、Netflix 配信の『ティ・マイ希望のベトナム』や『ダンシング・ドライブ』主演で、本邦でもファンを獲得している。
*主なキャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2015年01月28日
★「ハイ、スタート、カットと言いながら死にたい」という監督がカメレオン女優に出会うのは自然な成り行きだったでしょうか。因みにシルヴィア・プラスは、1932年ボストン生れの詩人で作家、詩人のテッド・ヒューズと結婚、1956年ベニドルムにハネムーンで訪れている。ヒューズの不倫で離婚、心機一転ロンドンに移住した。若い頃から鬱病に苦しんでいたが、何回か自殺未遂を繰り返した後、1963年2月11日に2児を残して自死、享年30歳だった。マルタとシルヴィアはどう絡んでくるのでしょうか。
(ダニエル捜索に尽力する警官マルタ役のカルメン・マチ)
★今でも愛され続ける『ミツバチのささやき』のアナ・トレント(マドリード1966)が、これまたミステリアスな清掃人ルシア役で登場する。ダニエル失踪の秘密を知っているようなのです。こういう謎めいた人物を演じるには抑制力がないと上手くいかない。またダニエル失踪の重要人物エステバン・カンポス役のペドロ・カサブランク(モロッコのカサブランカ1963)の存在が壮観とか。土地取引で危ない橋を渡っているようだ。こうしてみると、重要登場人物がスポール以外、全員1960年代生れ、スペイン側はフランコ時代の教育を受け、激動の民主化移行期に青春時代を送った世代です。
(ルシア役のアナ・トレント)
★コイシェ映画の専属撮影監督と称していいジャン=クロード・ラリューは、『死ぬまでにしたい10のこと』以来、『あなたになら言える秘密のこと』、東京を舞台にした『ナイト・トーキョー・デイ』、『マイ・ブックショップ』など殆どを手掛けている。今回ゴヤ賞ノミネートはないが、シネマ・ライターズ・サークル賞にノミネートされている。ゴヤ賞関連では2018年の『マイ・ブックショップ』と、監督が「ぶっ飛んだ女優」と激賞したジュリエット・ビノシェを起用し、ノルウェーの猛吹雪の中で撮影を敢行した「Nadie quiere la noche」(15)でノミネートされている。その他、編集のジョルディ・アサテギ、メイクアーティストのシルビエ・インベルトなど、スタッフ陣は申し分ない。インベルトはゴヤの胸像を3個、マラガ映画祭2017のリカルド・フランコ賞を受賞しているベテラン。
メキシコ代表作品 「Ya no estoy aqui」*ゴヤ賞2021 ⑨ ― 2021年02月07日 17:28
メキシコのアカデミー賞アリエル賞10部門制覇の「Ya no estoy aquí」
(スペイン語版ポスター)
★ゴヤ賞イベロアメリカ映画賞にノミネートされたフェルナンド・フリアスの長編デビュー作「Ya no estoy aquí」は、先月末第93回米アカデミー賞2021国際長編映画賞メキシコ代表作品にも選ばれました。昨年のアリエル賞10部門制覇の勢いが続いているようです。2020年5月、Netflixでストリーミング配信された影響かもしれませんが、それだけでは選ばれません。メキシコのオスカー賞監督、ギレルモ・デル・トロやアルフォンソ・キュアロンの温かい賛辞が功を奏していることもあるかもしれません。メキシコのモレリア映画祭2019で幸先よく作品賞と観客賞を受賞しています。モレリアFFはメキシコの映画祭の老舗グアダラハラFFより若い監督の力作が集まる映画祭と評価を上げています。本作はコロンビアからの移民が多く住んでいるメキシコ北部ヌエボ・レオン州の州都モンテレイが舞台です。
(トロフィーを披露するフェルナンド・フリアス監督、モレリアFF2019にて)
★監督紹介:フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パラ(メキシコシティ1979)は、監督、脚本家、製作者。父は弁護士、母はパンアメリカン航空に勤務していた。メキシコで情報学と写真撮影を学び、フルブライト奨学金を得て、ニューヨークのコロンビア大学修士課程で脚本と映画演出を専攻した。2008年ドキュメンタリー「Calentamiente local」(52分)を、第6回モレリア映画祭FICMに出品、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞、2012年、長編デビュー作となる「Rezeta」(85分)がFICMのセレクション・オフィシアル上映、ミラの映画祭2014監督賞受賞、ユタ州で開催されるスラムダンス映画祭2014で審査員大賞受賞、他ノミネーション多数、レゼタはコソボ生れの若いモデルでメキシコにやってくる。主人公の名前がタイトルになっている。本作「Ya no estoy aquí」が長編第2作目となる。他にTVシリーズのコメディも手掛けている。
(長編デビュー作のポスター)
★主人公ウリセス役のフアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョ(モンテレイ2000)は、ミュージシャン、本作で俳優デビューした。モンテレイで開催された音楽フェスティバルでフリアス監督の目にとまりスカウトされた。クンビア・レバハールのダンスは出演決定後に学んだという。本作でカイロ映画祭2019の男優賞、アリエル賞2020新人男優賞を受賞した。次回作はブカレスト出身の監督テオドラ・ミハイの長編デビュー作「La Civil」(ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作、スペイン語)に出演しており、どうやら二足の草鞋を履くようです。
(クンビア・レバハーダを無心に踊るウリセス、映画から)
(ダニエル・ガルシア、監督、製作者アルベルト・ムッフェルマン、FICMプレス会見にて)
「Ya no estoy aquí」(英題「I'm No Longer Here」、邦題『そして俺は、ここにいない』)
製作:Panorama Global / PPW Films / Margate House Films
監督・脚本:フェルナンド・フリアス(・デ・ラ・パラ)
撮影:ダミアン・ガルシア
編集:Yibran Asuad
美術プロダクション・デザイン:ジノ・フォルテブオノGino Fortebuono、Taisa Malouf
衣装デザイン:マレナ・デ・ラ・リバ、ガブリエラ・フェルナンデス
メイクアップ&ヘアー:ラニ・バリー、エレナ・ロペス・カレオン、イツェル・ペナItzel Pena
録音;ハビエル・ウンピエレス、オライタン・アグウOlaitan Agueh
キャスティング:ベルナルド・ベラスコ、エスラ・サイダム
製作者:アルベルト・ムッフェルマンMuffelmann、ゲリー・キム、ヘラルド・ガティカ、フェルナンド・フリアス、他
データ:製作国メキシコ=米国、スペイン語・英語・北京語、2019年、ドラマ、112分、Netflix配信(日本語字幕あり)2020年5月27日
映画祭・受賞歴:モレリア映画祭2019正式出品(10月21日上映)作品・観客賞受賞、カイロ映画祭2019ゴールド・ピラミッド作品賞、男優賞(ダニエル・ガルシア)受賞、マル・デ・プラタ映画祭、トライベッカ映画祭、スウェーデンのヨーテボリ映画祭2020、他ノミネート多数。アリエル賞2020作品・監督・脚本・撮影・編集・美術・メイクアップ・録音・衣装デザイン・新人男優賞10部門受賞。ゴヤ賞2021イベロアメリカ映画賞とオスカー賞2021ノミネーション、他
キャスト:ダニエル・ガルシア(ウリセス・サンピエロ)、コラル・プエンテ(チャパラ)、アンジェリーナ・チェン(リン)、ジョナサン(ヨナタン)・エスピノサ(友人ジェレミー/イェレミー)、レオ・サパタ(イサイ)、レオナルド・ガルサ(ペケシージョ)、ヤイル・アルダイYahir Alday(スダデラ)、ファニー・トバル(ネグラ)、タニア・アルバラド(ウェンデイ)、ジェシカ・シルバ(パトリシア)、アドリアナ・アルベラエス(NYバルのホステス、グラディス)、ソフィア・ミトカリフ(Ice Agent)、ブランドン・スタントン(NYのカメラマン)、チョン・タック・チャンChung Tak Cheung(ミスター・ロー、リンの祖父)、他多数
ストーリー:2011年、17歳のウリセスはメキシコ北東部ヌエボ・レオン州の州都モンテレイの貧困家庭が暮らすバリオに住んでいる。コロンビアを代表する音楽、スロー・テンポのクンビア・レバハーダ*のファナティックなグループ「ロス・テルコス」のリーダーである。仲間のチャパラ、ネグラ、ペケシージョ、スダデラたちと一緒に、地元ラジオ局から聞こえてくるクンビアに合わせて踊るのが楽しみである。麻薬密売のカルテルの抗争に巻き込まれ、家族を救うためアメリカへの逃亡を余儀なくされる。居場所を見つけられない若者ウリセスの物語。
*クンビアの語源はアフリカ・バントゥー語群(中央から東アフリカで話されている言語)のクンベcumbeからきている。宴とかお祭り騒ぎという意味、クンビア・レバハーダはクンビアをスロー・テンポにしている。ゆったりしているが膝を曲げ中腰の姿勢のまますり足て踊るから体力がいる。
機会均等を奪われた若者の物語、コロンビア移民=犯罪者?
A: ウリセスが暮らすバリオの住民は、コロンビアからの移民が多い。彼は故郷の舞曲クンビアをスロー・テンポにした<クンビア・レバハーダ>を聴きながら踊るのが日常。地元のラジオ局が朝早くからどうでもいい誰も聞いていないニュースを挟みながらリクエストを受け付けている。ロス・テルコスLos TERKOSは、頑固な人を意味するtercoからきている。
B: 生き方を簡単には変えないことから、モンテレイでクンビアを踊ることは一種の抵抗の意味もあるという。時代を麻薬戦争が激化する少し前の2011年に設定している。モンテレイはドラッグ消費国アメリカの国境に近いことからカルテルの抗争が絶えない。本作の構想は2013年と語っているから7年間温めていたということです。
A: 昨年東京国際映画祭やラテンビート・オンラインで上映されたフェルナンダ・バラデスの『息子の面影』に登場した母親の一人が「息子はモンテレイの友人に会いに行く」と言ったきり行方不明になったように、モンテレイは危険と隣り合わせだった。
B: 映画は「ロスF」と「ロス・ペロネス」の2大カルテルの対立を背景にしている。テルコスはロス・ペロネスの下部組織ではないが守ってもらっている。ロス・ペロネスPelonesは髪の薄いペロンpelónの複数形、従って剃髪したスキンヘッドがトレードマークです。Netflix 配信が始まると、視聴者からモンテレイは映画のようではないと苦情が寄せられたとか。
(ウリセスとスキンヘッドのロス・ペロネスのメンバー)
A: モンテレイは日本の企業も多く進出しているメキシコ第三の大都市ですから気持ちは分かります。監督は「これはモンテレイを代表する映画ではなく、文化の多様性に価値があることを理解できない、人と違っていることを差別する社会に生きている青年の物語だ」と反論している。メキシコではコロンビア移民イコール犯罪者という偏見が存在しているようです。
B: ウエストの下がったぶかぶかのズボン、「頭に鶏がのっかっている」ような髪型だけで差別する「偏見や汚名」について語りたかった。
(クンビア・レバハーダを踊るウリセスとテルコスの仲間たち)
A: 入り組んだ狭い坂道に折り重なるように家が建っている。スラムというのはリオデジャネイロでもそうだが上に行くほど貧しい。下から家が建っていき上しか行き場がないから、つまり天国に近いところが一番貧しい。ロス・テルコスの仲間は上のほうに住んでいる。夜になるとモンテレイの夜景が一望できる。ウリセスには赤ん坊の弟がいるから父親はいるのだろうが姿は見えない。カルテルのメンバーである兄は刑務所にいる。ここではムショが一番安全なのだ。
B: 典型的な父親不在、どうやって生活費を得ているのか語られない。カルテルから見つけしだい家族も殺害すると脅され母親と妹弟を連れて、坂道を転げ落ちるようにして親戚の家に逃げ込む。ウリセスは言葉の分からない北の隣国へ逃亡するしか生きる道がない。
A: リックサックにはチャパラ(コラル・プエンテ)から渡されたMP3プレイヤーに故郷の記憶を全て押し込んで出立する。このプレイヤーは500ペソ値切って1500で買ったテルコス全員の財産なのだ。
B: 「私用でこれは売り物ではない。バジェナート、アルゼンチンやペルーのクンビアも収録している」とお店の主がもったい付けていた代物。バジェナートもクンビアとともにコロンビアで人気の民謡。
(仲間と愛するクンビアを捨て、母親と最後の別れをするウリセス)
祖国喪失のオデュッセイア――モンテレイからNYへ、再びモンテレイへ
A: ウリセスという名前はギリシャ神話の英雄オデュッセウスの英語読みユリシーズ、ホメロスの『オデュッセイア』の主人公でもある。つまりモンテレイへ戻ることが暗示されている。密行の方法は終盤に明かされるが、ウリセスはニューヨークはクイーンズ地区、ジャクソンハイツで日雇い仕事をしている。この地区はヒスパニック系やアジア系の移民が多く住んでいる。雇い主のミスター・ローも中国からの移民という設定でした。
B: 好奇心旺盛な16歳の孫娘リン(アンジェリーナ・リン)がウリセスに絡んでくるが、スペイン語を解さないリンと英語がちんぷんかんなウリセスとの言葉の壁もテーマの一つのようです。
(シュールな会話で難儀するウリセスとリン)
A: テーマは大別すると移民問題とアイデンティティとしての音楽でしょう。移民が新参者の移民を差別する構図が描かれ、ウリセスは元の生活スタイルを頑固に守ろうとするので、仕事仲間に痛めつけられて巷に放り出される。監督によると、よくモンテレイのスラムにカメラを持ち込められたとびっくりされたが、撮影が大変だったのはジャクソンハイツだったと語っている。
B: フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』(15、公開2019)を見て、最初からここに決めていたようです。ヒスパニックやアジア系の他、ユダヤ教徒、167の言語が飛び交う多様なアイデンティティをもつ人々を紹介している。
A: 多様性を大切にするジャクソンハイツでも、ウリセスのような根なし草は生きていけない。コロンビアからの移民、クラブでホステスをするグラディス(アドリアナ・アルベラエス)から、このままでは刑務所行きになると諭されるが、その通りになる。
B: ずっと抵抗して切らなかった髪を切るシーンは切なかった。後半の山場の一つでした。リンにもグラディスにも見放されると、行き着く先は路上生活者、警官に逮捕というお決まりのコースで、数ヵ月後に強制送還される。
(自分で鋏を入れ、大切にしてきた髪型を変えたウリセス)
”aqui” とはどこ? アメリカ、あるいは故郷モンテレイ?
A: 英語題「I'm No Longer Here」はオリジナル版と同じですが、邦題は少し違和感がありますね。それはさておき、「ここ」とはどこか。モンテレイかアメリカかです。
B: 本作はフラッシュバックで二つの場所を行ったり来たりする。ウリセスは夢のなかではバリオで踊っている。しかし自分は現実には「もはやここモンテレイにはいない」。
A: または、実際には米国にいるが本当の自分は「もはやここアメリカにはいない」とも解釈できる。アメリカに止むなく逃亡してきたウリセスのような移民にとって、米国は決していたいところではない。そう考えると”aqui” とは米国をさすことになる。
B: 強制送還されてモンテレイに戻ってきても彼には居場所がない。半年ほどしか経っていないのにバリオは様変わり、バリオはロスFに支配され、テルコスの仲間も彼らに取り込まれている。かつての仲間の一人イサイ(レオ・サパタ)の葬列に出くわす。
(イサイの葬儀のシーンから)
A: 友人イェレミー(ジョナサン・エスピノサ)に会いに行くと、いまではキリスト教に改宗してラップ形式で伝道者としての日々を送っている。ウリセスは一人ぼっちであることを受け入れ、MP3の電池が無くなるまで一人でクンビア・レバハーダを踊り続ける。
ギレルモ・デル・トロとアルフォンソ・キュアロンの後方支援
B: 麻薬戦争時代を背景にしながらドンパチは一度切り、全体はゆっくりと静かに進む。クンビアをスローテンポで踊るのは、そうすると「深い味わいがあるからだ」と劇中でウリセスが言うように、見終わると、深い余韻が残る。
A: フリアスは基本的にカメラの位置を固定している。カメラを動かすときもゆっくり、取り込み方がすぐれている。前作「Rezeta」もNetfixで配信されたようだが日本は外されたようです。
(ロス・テルコスのサイン、星のマークを実演する監督、モレリアFFにて)
B: 前述したように、大先輩監督のギレルモ・デル・トロやアルフォンソ・キュアロンが大いに関心を示してくれたとか。米アカデミー賞「国際長編映画賞」メキシコ代表作品にも選ばれた。ロスでのロビー活動のノウハウを伝授してもらえるでしょうか。
A: メキシコ人なら「メキシコの現実が描かれているから是非見て欲しい」と後方支援をしてくれた。しかしモレリアFFで感動してくれた観客に借りができている。自分たちもナーバスになったが、観客にモラル的な恩義を受けたと語っている。何本かシナリオを手掛けている由、今後に期待しましょう。
(評価をしてくれたギレルモ・デル・トロ)
セスク・ゲイの新作コメディ 「Sentimental」*ゴヤ賞2021 ⑧ ― 2021年02月01日 10:12
「トルーマン」の監督が戻ってきた―― 舞台「Los vecinos de arriba」の映画化
★ゴヤ作品賞5作品の一つセスク・ゲイの「Sentimental」は、作品賞の他、監督賞、脚色賞、ハビエル・カマラの主演男優賞、グリセルダ・シチリアーニの新人女優賞の5カテゴリーにノミネーションされています。セスク・ゲイは、「Truman」(15、『しあわせな人生の選択』)でゴヤ賞2016の監督・脚本賞を受賞しています。アルゼンチンの名優リカルド・ダリンとハビエル・カマラという芸達者を起用して映画そのものは楽しめましたが、邦題は平凡すぎて陳腐、全くいただけなかった。本作の作品紹介と監督キャリア&フィルモグラフィーはアップ済みです。
*『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ⇒2016年01月09日/2017年08月04日
(セスク・ゲイ監督、サンセバスチャン映画祭2020)
★「Sentimental」は、もともとは2015年バルセロナで、翌2016年マドリードで公演された「Los vecinos de arriba」(仮題「上階の隣人」)という舞台劇の映画化、英題の「The People Upstairs」はこちらを採用した。下の階の住人がハビエル・カマラとグリセルダ・シチリアーニの結婚歴15年という倦怠ぎみの中年夫婦、上の階の住人がまだアツアツのアルベルト・サン・フアンとベレン・クエスタのカップル、4人だけの室内劇のようです。監督がチリの小説家イサベル・アジェンデの “Sentimental” という作品にインスパイアされて脚本を執筆したという記事が目にとまりましたが、確認できませんでした。
「Sentimental」 (「The People Upstairs」)
製作:Impossible Films / Sentimental Film / TV3 / Movistar+/ RTVE / カタルーニャ文化協会
監督・脚本:セスク・ゲイ
撮影:アンドレウ・レベス
編集:リアナ・アルティガル
プロダクション・デザイン(美術):アンナ・プジョル・Tauler
衣装デザイン:アンナ・グエル
録音:アルベルト・ゲイ、イレネ・ラウセル、ヤスミナ・プラデウス
製作者:マルタ・エステバン、(エグゼクティブ)ライア・ボッシュ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2020年、コメディ、82分、撮影地バルセロナ、公開スペイン10月30日、ロシア2021年1月7日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020(9月24日上映)、トロント映画祭上映、第26回フォルケ賞2021男優賞受賞(ハビエル・カマラ)、第8回フェロス賞2021、作品(コメディ部門)・監督・主演男優(ハビエル・カマラ)・助演男優(アルベルト・サン・フアン)の4カテゴリーにノミネーション、ガウディ賞2021作品賞(カタルーニャ語以外)、監督・脚本、主演男優、助演男優、美術、衣装デザイン、録音の9部門ノミネーション、シネマ・ライターズ・サークル賞2021男優、脚色2部門ノミネーション、ゴヤ賞は省略
キャスト:ハビエル・カマラ(フリオ)、アルベルト・サン・フアン(サルバ)、ベレン・クエスタ(ラウラ)、グリセルダ・シチリアーニ(アナ)
(*ゴチック体はゴヤ賞ノミネート)
ストーリー:フリオとアナのカップルは既に結婚歴15年となり、やや倦怠ぎみの中年夫婦、連日議論に明け暮れている。片や上階のフレンドリーな隣人、サルバとラウラの夫婦はまだアツアツ。アナが上階のカップルをディナーに招待しようと提案する。フリオは夜の騒音を疎ましく思っているので乗り気でない。やがて手料理を携えて隣人夫婦がやってきた。夜が更けるにつれ、互いの夫婦の秘密が明らかになっていくのだが、隣人は驚くべき提案をする。どんな提案なのでしょうか。ノイローゼ患者の良薬は常に笑い。
(左から、ラウラ、サルバ、アナ、フリオ)
舞台劇の映画化――フリオはウエルベックの熱烈な読者
★シネヨーロッパのインタビューで、二組の夫婦の偽善的な関係がエスカレートしていくマイク・ニコルズの『バージニア・ウルフなんかこわくない』(66)やロマン・ポランスキーの『おとなのけんか』(11)との関連性を問われて、ベースにしていることを監督は認めている。アメリカン・コメディを参考にしていると語っていた。小説や戯曲の映画化は大きくジャンルが異なるので違いがでる。シアターとフィルムもなかなか難しいが、本作は自分が書いた戯曲をフィルム用に脚色したのでスムーズだったとも語っている。キャスティングは舞台とは別、バルセロナではカタルーニャ語、マドリードではスペイン語という棲み分けだったようです。男性陣のハビエル・カマラとアルベルト・サン・フアンは家族同様、息の合ったセリフ合戦が楽しめそうです。
(フリオとサルバの関係はどうなる?)
★フリオはフランスの小説家ミシェル・ウエルベックの熱烈な読者という設定、2015年当時ムスリム批判で火中の人物、世界が騒然としたシャルリー・エブド襲撃事件では危険を避けるため、警察が一時的に保護していた。どう絡みあうのか興味は尽きない。フリオ夫婦はどうやらセックスレスのようだ。サルバは消防士でラウラは精神分析医という設定です。そして互いに打ちとけるには無駄話が一番いい、ここにはセックス中でも無駄話を止めない人物が登場する。「ノイローゼの良薬は常に笑い」と監督。
(撮影中の4人と監督)
★早口で喋りまくるのがトレード・マークのカマラに『しあわせな人生の選択』では沈黙を要求した。今回はいつものカマラが戻ってきます。新人女優賞ノミネートのグリセルダ・シチリアーニ(ブエノスアイレス1978)は、アルゼンチンではTVシリーズで活躍のベテラン女優ですが、スペインでは <新人> です。年齢は無関係、昨年はオリベル・ラシェの『ファイアー・ウイル・カム』出演の御年84歳のベネディクタ・サンチェスが受賞しています。ただゴヤ賞はスペイン映画アカデミー会員の投票で決まるから、外国勢はどうしても不利です。アルベルト・サン・フアン(マドリード1967)はセスク・ゲイの「Una pistola en cada mano」(12)に出演、ゴヤ賞関連では、フェリックス・ビスカレッドの「Bajo las estrellas」でゴヤ2008主演男優賞受賞以来、久々のノミネーションです。唯一人選ばれなかったベレン・クエスタは、ASECAN 2021にノミネートされていますが、昨年のホセ・マリ・ゴエナガ他の「La trinchera infinita」で主演女優賞を受賞していますから妥当な選考かなと思います。
(ゴヤ賞ノミネートのハビエル・カマラとグリセルダ・シチリアーニ)
最近のコメント