バスク映画特集として5作品上映*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月14日 16:22
金貝賞「O Corno / The Rye Horn」が『ライ麦のツノ』の邦題で上映
★今年の東京国際映画祭2023 TIFF では、ワールド・フォーカス部門にラテンビート共催作品5作、バスク映画特集に5作、コンペティション部門の1作を含めると11作品がエントリーされた。うち先だって閉幕したサンセバスチャン映画祭 SSIFF のセクション・オフィシアル(コンペティション)にノミネートされた女性監督の3作(うち1作が金貝賞)、オリソンテス・ラティノス部門やマラガ映画祭の金のビスナガ賞受賞作を含む2作、カンヌ映画祭の短編を含む3作と、長短はあるもの一応作品紹介をオリジナル・タイトルでアップ済みです。未紹介はチリのクリストファー・マレーの『魔術』(「Sorcery / Brujeria」)とベルタ・ガステルメンディ&ロサ・スフィアの『ディープ・ブレス 女性監督たち』の2作です。
◎コンペティション部門
『開拓者たち』(「Los colonos / The Settlers」)
データ:製作国チリ=アルゼンチン=イギリス=ドイツ、ほか計8ヵ国、2023年、スペイン語・英語、歴史ドラマ、97分、カンヌFF「ある視点」に正式出品、長編デビュー作。
監督フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)は、監督、脚本家、フィルム編集者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月15日
◎ワールド・フォーカス部門ラテンビート共催作品
『犯罪者たち』「Los delincuentes / The Dlinquents」
データ:製作国アルゼンチン=ブラジル=ルクセンブルク=チリ、2023年、スペイン語、コメディ、90分、カンヌ映画祭「ある視点」正式出品。本作は長編4作目になる。
監督ロドリゴ・モレノ(ブエノスアイレス1972)は、監督、脚本家、製作者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月11日
『ひとつの愛』「Un amor」
データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語、140分、サラ・メサのベストセラー小説の映画化、豪華キャストの話題作。SSIFFセクション・オフィシアルにノミネート、フェロス・シネマルディア賞を受賞、ホヴィク・ケウチケリアンが助演俳優賞(銀貝賞)を受賞した。
監督イサベル・コイシェ(バルセロナ1960)、監督、脚本家。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年10月27日
『Totem』(原題「Tótem」)
データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、ベルリンFFコンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門ノミネート、ほか受賞歴多数。
監督リラ・アビレス(メキシコシティ1982)は、監督、脚本家、製作者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年08月31日
(アビレス監督と、ベルリンFFにて)
『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』(短編「Strange Way of Life」)
データ:製作国スペイン、2023年、英語、30分、ウエスタン、カンヌ映画祭2023アウト・オブ・コンペティション、特別上映。
監督ペドロ・アルモドバル
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月04日
『魔術』(「Sorcery / Brujeria」)
データ:製作国チリ=メキシコ=ドイツ、ファンタジードラマ、100分
監督クリストファー・マレー(サンティアゴ1985)は、ラテンビートFF2016で『盲目のキリスト』が上映されており、監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介している(表記マーレイで紹介)。パブロ・ラライン兄弟の制作会社「Fabula」が手掛けている。別途作品紹介の予定。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年10月16日
◎ワールド・フォーカス部門バスク映画特集
『20,000種のハチ』(仮題「20.000 especies de abejas」)
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・バスク語・フランス語、ドラマ、129分、ベルリン映画祭プレミア(9歳のソフィア・オテロ銀熊賞)、マラガ映画祭金のビスナガ賞、SSIFF セバスティアン賞受賞など受賞歴多数。
監督:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレンのデビュー作
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年03月03日
(金のビスナガ賞を受賞したエスティバリス・ウレソラ、マラガFFにて)
『女性たちの中で』(「Las buenas compañías」)
データ:製作国スペイン=フランス、2023年、スペイン語、93分。舞台が1970年代のバスク州のサンセバスティアンで実話に基づいています。
監督シルビア・ムント(バルセロナ1957)、女優、監督、脚本家、舞台演出家。ドキュメンタリー、TVムービー、短編、マラガ映画祭監督賞他、受賞歴多数。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年03月08日
(女優の知名度が高いシルビア・ムント監督)
『ライ麦のツノ』(「O Corno / The Rye Horn」)
データ:製作国スペイン=ポルトガル=ベルギー、2023年、ガリシア語、ポルトガル語、103分。
監督ハイオネ・カンボルダ(サンセバスティアン1983)、監督、脚本家、アートディレクター、長編2作目が、SSIFF コンペティション部門にガリシア語映画として初めてノミネートされ、見事金貝賞を受賞したばかりです。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年07月17日
(金貝賞のトフィーを手にしたカンボルダ監督と製作者、SSIFF 2023 授賞式)
『スルタナの夢』(SF アニメーション「El sueño de la sultana / Sultana’s Dream」)
データ:製作国スペイン=ドイツ、85分、SSIFF コンペティション部門ノミネート、バスク映画部門イリサル賞受賞作品。
監督イサベル・エルゲラ(サンセバスティアン1961)、アニメーション作家、長編デビュー作、短編多数。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年07月17日
(イリサル賞受賞スピーチをするエルゲラ監督、SSIFF 2023 授賞式)
『ディープ・ブレス 女性映画監督たち』(ドキュメンタリー)
「Arnasa Betean / A pulmón. Mujeres Cineastas / A Deep Breath,Women Filmmakers」
データ:製作国スペイン(バスク自治州)、2023年、バスク語・スペイン語、75分
監督ベルタ・ガステルメンディ&ロサ・スフィア、海中撮影にはルベン・クレスポが手掛けている。
キャスト:エレア・ロペス、ララ・ララニャガ、アイノア・インコグニート(以上3人はダイバー)、主な映画監督に、来日したこともあるアランチャ・エチェバリア(『カルメン&ロラ』)、イサベル・エルゲラ(『スルタナの夢』)、ゴヤ賞2023の新人監督賞のアラウダ・ルイス・デ・アスア(「Cinco lobitos」)、アナ・ムルガレン(「García y García」)、SSIFF2023 のガラの監督の一人ミレイア・ガビロンド、『20,000種のハチ』をプロデュースしたララ・イサギレ、ほか多数。ここ最近のバスクの女性監督たちが出演している。
(バスクの女性監督たち)
、
★今年の話題作、ベネチアFF金獅子賞を受賞したヨルゴス・ランティモスの『哀れなるものたち』、カンヌFFの監督賞、SSIFF でクリナリー映画賞を受賞したトラン・アン・ユンの『ポトフ』など、公開が決定している映画も上映される。10月14日からチケット発売が始まっている。
ノーチェックの冒険ファンタジー「Irati」5部門ノミネート*ゴヤ賞2023 ⑥ ― 2022年12月22日 17:24
バスク語映画「Irati」の5部門ノミネートにびっくり
★パウル・ウルキホ・アリホのアドベンチャー・ファンタジー「Irati」が、脚色・オリジナル作曲・オリジナル歌曲・衣装デザイン・特殊効果賞の5カテゴリーにノミネートされた。シッチェス映画祭2022でプレミアされ、観客賞、特殊効果賞受賞作品、バスク語映画がノミネートされるのは珍しくなくなったが、エンターテインメントのファンタジーがノミネートされたことに驚きを隠せない。キャストはエネコ・サガルドイ(『アルツォの巨人』)、イツィアル・イトーニョやナゴレ・アランブル(『フラワーズ』)、イニィゴ・アランブル、ラモン・アギーレなど、バスクを代表する俳優が出演している。
「Irati」
製作:Bainet Zinema / Ikusgarri Films / Kilima Media / Irati Zinema
協賛ICAA / RTVE / Triodos Bank
監督・脚本:パウル・ウルキホ・アリホ
音楽:アランサス・カジェハ、マイテ・アロイタハウレギ ’Mursego’
撮影:ゴルカ・ゴメス・アンドリュー
編集:エレナ・ルイス
衣装デザイン:ネレア・トリホス
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
美術:ゴルカ・アルノソ、イサスクン・ウルキホ、他
特殊効果:ジョン・セラーノ、(ビジュアル効果)ダビ・エラス、他
製作者:イニャキ・ブルチャガ、パウル・ウルキホ・アリホ、フアンホ・ランダ、(エグゼクティブ)ジョネ・ミレン・ゴエナガ、他
*カラーはゴヤ賞にノミネートされた人。
データ:製作国スペイン=フランス、2022年、バスク語、アドベンチャー、ファンタジー、114分、撮影地アラゴン州ウエスカのロアーレ城、アラバ、ギプスコア、ナバラなど、2021年秋クランクイン。ロアーレ城は保存の良いロマネスク様式の城砦で他作品でも使用されている。
映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2022観客賞・特殊効果賞・メイクアップ賞受賞、第33回サンセバスチャン・ファンタスティック・ホラー映画週間観客賞、テネリフェ・イスラ・カラベラFF 観客賞・特殊効果賞など受賞。公開スペイン2023年2月24日
キャスト:エネコ・サガルドイ(エネコ)、エドゥルネ・アスカラテ(イラティ)、イツィアル・イトーニョ(マリ)、ラモン・アギーレ(ビリラ)、イニィゴ・アランブル(エネコ X)、イニィゴ・アランバリ、ナゴレ・アランブル(オネカ)、他多数
ストーリー:舞台は8世紀のバスク地方、スペイン北部でキリスト教が異教の文化に優位にたったとき、ピレネー山脈を越えようとしていたカール大帝軍の攻撃に直面した、ロンセスバジェス谷のリーダーは古代の女神に助けを求めます。命を捧げるという血の契約によって敵を打ち負かしますが、新しい時代には村の住民を守り導くことを息子のエネコに約束させる前でした。数年後、エネコは使命をはたす約束に直面しています。彼はカール大帝の膨大な宝物のかたわらに異教徒の方法で埋葬されている父親の遺体を取り戻します。自身のキリスト教信仰にもかかわらず、この地域の謎めいた異教の女性イラティの助けが必要になってくる。二人の若者は、「名前をもつすべてが存在する」奇妙で荒れ果てた奥深い森の中に入り込んでいく。カール大帝のロンセスバジェスの戦いに着想を得た冒険ファンタジー。
(フレームから)
★パウル・ウルキホ・アリホ監督紹介:1984年ビトリア生れ、監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。2011年「Jugando con la muerte」(18分ミステリーコメディ)で短編デビュー、2012年「Monsters Do Not Exist」(10分)、2015年「El bosque negro」(15分)はエルチェ・ファンタスティックFF特別賞、トランシルバニア短編審査員賞、ほか受賞。
(パウル・ウルキホ・アリホ監督)
★2017年、コメディタッチのファンタジー・ホラー「Errementari」(98分、バスク語)で長編デビュー、アレックス・デ・ラ・イグレシアやカロリナ・バングたちが製作を手掛け、脚本はアシエル・ゲリカエチェバリアが監督と共同執筆、音楽はフランス出身だがバスクに根を下ろして活躍しているパスカル・ゲーニュ、撮影監督に新作と同じゴルカ・ゴメス・アンドリューが参画、キャストは鍛冶屋にカンディド・ウランガ、少女にウマ・ブラカグリアを起用、新作主演のエネコ・サガルドイが悪魔、他にラモン・アギーレ、イツィアル・イトーニョなどがクレジットされている。また新作で特殊効果賞にノミネートされているジョン・セラーノとダビ・エラスがゴヤ賞2019でもノミネートされていた。邦題『エレメンタリ 鍛冶屋と悪魔と少女』で2018年 Netflix で配信されている。
(デビュー作「Errementari」のポスター)
★キャスト紹介:エネコ役のエネコ・サガルドイ(ビスカヤ1994)は、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの実話「Handia」(17『アルツォの巨人』)でゴヤ賞2018新人男優賞、スペイン俳優組合新人賞、シネマ・ライターズ・サークル賞を受賞、ほかTVシリーズ「Patria」(20)に出演、ボルハ・デ・ラ・ベガの「Mia y Moi」(21)、ウルキホ・アリホの長編2作に主演している。イラティ役のエドゥルネ・アスカラテは、TVシリーズ「Gutuberrak」(2018~19、5話)でデビュー、ダビ・ペレス・サニュドの短編「Vatios」(22、14分)、今回主役イラティに抜擢された。
(エネコ役のエネコ・サガルドイ、フレームから)
(イラティ役のエドゥルネ・アスカラテ、同)
★マリ役のイツィアル・イトーニョは、TVシリーズ『ペーパー・ハウス』でお馴染みですが、オネカ役のナゴレ・アランブルと、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『フラワーズ』(14)で共演している。イニィゴ・アランブルは、『アルツォの巨人』、ラモン・アギーレは1986年デビューの大ベテラン、出演作は3桁に達する。TVシリーズ『ペーパー・ハウス』、『エレメンタリ~』、『アルツォの巨人』ではサガルドイの父親役を演じている。バスク語話者は少ないせいか同じ俳優の共演が目立つ。
★スタッフ紹介:オリジナル作曲・オリジナル歌曲賞にノミネートされている、アランサス・カジェハ、マイテ・アロイタハウレギは、パブロ・アグエロの「Akelarre」(20)でタッグを組んでゴヤ賞2021のオリジナル作曲賞、イベロアメリカ・プラチナ賞の音楽賞を受賞している。カジェハはアラウダ・ルイス・デ・アスアの「Cinco lobitos」でフェロス賞2023のオリジナル作曲賞にもノミネート、歌手でもあるマイテ・アロイタハウレギは ’Mursego’ のほうで知られており、フェルナンド・フランコの「La consagración de la primavera」(22)も手掛けている。衣装デザイン賞ノミネートのネレア・トリホスは、「Akelarre」で受賞、「Errementari」、アナ・ムルガレンのコメディ「García y García」(21)、フェリックス・ビスカレットの「No mires a los ojos」(22)などを手掛けている。
*『フラワーズ』、『アルツォの巨人』、「Akelarre」、「La consagración de la primavera」、「Cinco lobitos」、「García y García」、TVシリーズ「Patria」は、当ブログで作品紹介をしています。
イシアル・ボリャインの「Maixabel」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑧ ― 2021年08月05日 18:35
ボリャインの4回目の金貝賞を狙う映画はETAの犠牲者の実話
(主役のブランカ・ポルティリョとルイス・トサールを配したポスター)
★セクション・オフィシアルの最初のスペイン映画の紹介は、イシアル・ボリャインが今回で4回目となる金貝賞に挑戦する「Maixabel」です。原題はブランカ・ポルティリョ扮する主人公マイシャベル・ラサからとられている。2000年7月29日トロサのバルで、ETAのテロリストによって暗殺された社会主義政治家フアン・マリア・ハウレギの未亡人である。2019年にはジョン・システィアガ&アルフォンソ・コルテス=カバニリャスによってドキュメンタリー「ETA, el final de silencio: Zubiak」も製作され、第67回サンセバスチャン映画祭で上映された。ETAの犠牲者は854人といわれるが、マイシャベルは他の犠牲者家族とどこが違うのか、物語はスリラーとして始り人間の物語として終わります。
(左から、監督、マイシャベル・ラサ、ブランカ・ポルティリョ、2021年2月)
「Maixabel」
製作:Kowalski Films / FeelGood 参画RTVE / EiTB / Movistar+
協賛ICAA / バスク州政府 / ギプスコア州議会 / ギプスコア・フィルムコミッション
監督:イシアル・ボリャイン
脚本:イシアル・ボリャイン、イサ・カンポ
音楽:アルベルト・イグレシアス、EuskadikoOrkestra
撮影:ハビエル・アギーレ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
美術:ミケル・セラーノ
音響:アラスネ・アメストイ
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
メイクアップ:カルメレ・ソレル、セルヒオ・ぺレス
キャスティング:ミレイア・フアレス
プロダクション・マネージメント:イケル・G・ウレスティ、イツィアル・オチョア
製作者:コルド・スアスア(Kowalski Films)、フアン・モレノ、ギジェルモ・センペレ( FeelGood)、(ラインプロデューサー)グアダルペ・バラゲル・トレジェス
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、115分、実話、撮影地主にバスク自治州ギプスコア県、アラバ、撮影期間2021年2月~3月、配給ブエナビスタ・インターナショナル、販売フィルムファクトリー。公開SSIFFの第1回上映後の9月24に決定。
映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアルノミネート、9月17日と25日に上映
キャスト:ブランカ・ポルティリョ(マイシャベル・ラサ)、ルイス・トサール(イボン・エチェサレタ)、マリア・セレスエラ(マイシャベルの娘マリア)、ウルコ・オラサバル(ルイス)、ブルノ・セビリャ(ルイチ)、ミケル・ブスタマンテ(パチ・マカサガ)、パウレ・バルセニリャ(友人)、他
ストーリー:夫が暗殺された11年後、マイシャベルは暗殺者の一人、イボン・エチェサレタから奇妙な要求を受け取る。彼はETAのテロリスト集団と関係を絶ち刑に服していた。服役中のアラバ県はナンクラレス・デ・ラ・オカ刑務所内でのインタビューを受けたいという。マイシャベルは多くの疑念と辛い痛みにも拘わらず、16歳のときから仲間になった自分の人生を終わらせたいという人物の面談を受け入れる。夫を殺害した人間と面と向かって会うことの理由を質問された彼女は「誰でも二度目のチャンスに値する」と答えた。「主人公への敬意をこめて、私たちの最近の過去を伝えたい」とイシアル・ボリャイン。
(2000年7月29日に殺害されたフアン・マリア・ハウレギの葬儀)
バスク自治政府テロ犠牲者事務局長だったマイシャベル・ラサの人生哲学
★バスクではなくマドリード生れの監督がETAのテロリズムをテーマに映画を撮り、サンセバスチャン映画祭4度目の金貝賞に挑戦する。第1回目の『テイク・マイ・アイズ』(Te doy mis ojos、03)では、主演のルイス・トサールが銀貝男優賞、ライア・マルルが銀貝女優賞を受賞した。2回目が2007年の「Mataharis」、2018年「Juli」で脚本審査員賞、そして今回作品賞をローラン・カンテやテレンス・デイビスと金貝賞を競うことになる。監督のキャリア&フィルモグラフィーについては2016年の『オリーブの樹は呼んでいる』、2020年の「La boda de Rosa」で紹介しています。
*『オリーブの樹は呼んでいる』の紹介記事は、コチラ⇒2016年07月19日
*「La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月21日
(「Juli」ノミネートでインタビューを受けるボリャイン監督、SSIFF 2018)
★上述したように報道ジャーナリストのジョン・システィアガとアルフォンソ・コルテス=カバニリャス監督のドキュメンタリー「ETA, el final de silencio」(7編)が製作され、2019年10月31日から12月12日まで毎週放映された。第1編がこの「Zubiak」で<橋>という意味です。ルポルタージュとして放映されたのでIMDbには登録されていないようだが、マイシャベル・ラサとイボン・エチェサレタの和解を描いている。システィアガはバスク大学でジャーナリズムを専攻、国際関係学の博士号を取得している。ルワンダ、北アイルランド、コロンビア、コソボ、アフガニスタン他、世界各地の紛争地に赴いてルポルタージュを制作している。
(マイシャベルの家で語り合うマイシャベルとエチェサレタ、ドキュメンタリー)
★ブランカ・ポルティリョ(マドリード1963)が、グラシア・ケレヘタの「Siete mesas de billar francés」(07)で銀貝女優賞を受賞して以来、14年ぶりにSSIFF に戻ってきました。翌年のゴヤ賞主演女優賞はノミネートに終り、目下ゴヤ受賞歴はありません。もともと舞台女優として出発、ギリシャ悲劇、シェイクスピア劇、ロルカ劇に出演、演劇の最高賞といわれるMax賞は5回受賞している。最近ではTVシリーズ出演や監督業に専念していた。「マイシャベルになるのは名誉なことです」とツイートしている。
(マイシャベルに扮したポルティリョ、映画から)
★映画は上述以外では、主な代表作としてマルコス・カルネバルの『エルサ&フレド』、ミロス・フォアマンの『宮廷画家ゴヤ』、ペドロ・アルモドバルの『ボルベール』(カンヌ映画祭グループで女優賞)や『抱擁のかけら』、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』では異端審問官役で男性に扮した。他にアレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』、2020年にはグラシア・ケレヘタの「Invisibles」にカメオ出演している。多彩な芸歴で紹介しきれないがアウトラインだけでお茶をにごしておきます。
(二人の主役、ポルティリョとトサール、映画から)
★ルイス・トサール(ルゴ1971)は、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』で助演男優賞、ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』とダニエル・モンソンの『プリズン211』でゴヤ賞主演男優賞と3回受賞している。脇役時代が長かったので出演作は3桁に及ぶ。何回も登場させているので割愛したいが、本作のように実在しているモデルがいる役柄は多くないのではないか。舞台俳優としても活躍、最近Netflixで配信されたTVシリーズ『ミダスの手先』(6話)では主役のメディア会社の社長を演じていた。製作者デビューも果たしている。最近の当ブログ登場は、アリッツ・モレノのブラック・コメディ『列車旅行のすすめ』、パラノイア患者役の怪演ぶりで楽しませた。
*簡単なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2016年07月03日
*『列車旅行のすすめ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年10月14日
(撮影中の監督とルイス・トサール)
★サウンドトラックは、ゴヤ胸像のコレクター、11個を手にしたアルベルト・イグレシアス、オスカー賞にも3回ノミネートされている。キャスト陣では、マイシャベルの娘に新人マリア・セレスエラ、監督、脚本家のウルコ・オラサバルやミケル・ブスタマンテと、バスクを代表するシネアストを俳優として起用している。ブルーノ・セビリャは、エレナ・トラぺ映画やTVシリーズ、ホラー映画『スウィート・ホーム』に出演している。
パトリシア・ロペス・アルナイス主演の「Ane」*ゴヤ賞2021 ⑦ ― 2021年01月27日 20:37
ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」はバスク語映画
(英題「Ane is Missing」のポスター)
★ゴヤ賞の作品賞以下5カテゴリーにノミネートされたダビ・ペレス・サニュドの「Ane」は、昨年のサンセバスチャン映画祭2020のバスク映画イリサル賞受賞作品です。主演のパトリシア・ロペス・アルナイスが、第26回フォルケ賞2021の女優賞を受賞したばかりです。さらに2月8日に発表される第8回フェロス賞(ドラマ部門)では、作品賞、脚本賞、女優賞にノミネートされています。パトリシアは脇役やTV 出演が多かったので紹介が遅れていましたが、気になる女優の一人でした。アメナバルの『戦争のさなかで』(19)でウナムノの次女マリア役で既に登場しているほか、Netflix配信では結構目にします。バスク自治州ビトリアの出身ということもあってバスク語ができる。本作でアネの母親リデに抜擢されて初めて主役を演じています。先ずは映画のアウトラインからスタートします。
(ミケル・ロサダ、パトリシア・ロペス・アルナイス、ペレス・サニュド監督)
「Ane」(英題「Ane is Missing」)
製作:Amania Films / EiTB Euskal Irrati Telebista / 協賛バスク自治州政府、ICAA、他
監督:ダビ・ペレス・サニュド(新人監督賞)
脚本:ダビ・ペレス・サニュド、マリナ・パレス(脚本賞)
撮影:ビクトル・ベナビデス
音楽:ホルヘ・グランダ(作曲)
編集:リュイス・ムルア
美術:イサスクン・ウルキホ
キャスティング:チャベ・アチャ
衣装デザイン:エリサベト・ヌニェス
メイクアップ:エステル・ビリャル
プロダクション・マネージメント:ケビン・イグレシアス
製作者:アグスティン・デルガド、ダビ・ペレス・サニュド、(エグゼクティブ)カティシャ・シルバ、他
データ:製作国スペイン、バスク語、2020年、ドラマ、100分、撮影地アラバ県ビトリア他、公開スペイン2020年10月16日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020「ニューディレクターズ」部門ノミネーション、バスク映画イリサル賞・脚本賞受賞、ワルシャワ映画祭コンペティション部門10月9日上映。フォルケ賞2021女優賞受賞(パトリシア・ロペス・アルナイス)、第8回フェロス賞作品・脚本・女優賞ノミネーション、第35回ゴヤ賞は省略。
キャスト:パトリシア・ロペス・アルナイス(リデ)、ジョネ・ラスピウルJone Laspiur(リデの娘アネ)、ミケル・ロサダ(リデの元夫フェルナンド)、フェルナンド・アルビス(校長)、ナゴレ・アランブル(イサベル)、ルイス・カジェホ(エネコ)、アイア・クルセ(レイレ)、アネ・ピカサ(ミレン)、ダビ・ブランカ(ペイオ)他多数
(*ゴチック体がゴヤ賞ノミネート)
ストーリー:2009年ビトリア、リデは高速列車の工事現場のガードマンとして働いている。17歳のときから育てている年頃の娘アネと暮らしている。仕事から帰宅すると二人分の朝食の準備をする。しかしその日はアネの姿がなかった。翌朝になっても帰ってこなかった。リデは平静を保とうとするが、前日にした激しい口論のせいかもしれないと不安を募らせる。別れた夫フェルナンドとアネの居場所を尋ねまわるが、二人は娘の世界を何も知らなかったことに気づくのだった。娘の失踪によって親子関係の希薄さ、無頓着さ、配慮のなさを突きつけられる。折しもETAに所属しているらしい二人の若者の逮捕が報じられる。 (文責:管理人)
(娘を尋ね歩くリデ、映画「Ane」から)
バスクの対立を背景に親子の断絶と和解が語られる
★ダビ・ペレス・サニュド(ビルバオ1987)は、2010年プロデューサーとしてスタート、10本以上の短編を手掛け、その多くが国際短編映画祭で受賞している。2012年制作会社「Amania Films」をパートナーのルイス・エスピナソと設立、メイン・プロデューサーはエスピナソ。ビルバオとマドリードを拠点にしている。本作がバスク語で撮った長編デビュー作となる。バスクの対立とか労働者階級の闘いなどは、背景の一つであって真のテーマではない。あくまでもコミュニケーションがとれていない親子の断絶と開いた傷口の縫合が語られるようです。英題ポスターに見られるように同じ方向に向かっているが、上下に別れた道路を歩いているので出会えない。
(長編デビュー作のポスターを背にした監督)
★2013年短編第2作目となる「Agur」が評価され、その後「Malas vibraciones」(14、共同)、「Artifitial」(15)、「De-mente」(16)と立て続けに発表、サンセバスチャン映画祭に出品されたミステリー・コメディ「Aprieta pero raramente ahoga」(15分、17)が、ヒホン映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した。他にも国内外の映画祭の受賞歴の持ち主である。他に2018年「Ane」という短編を撮っている。ここではアネはETAメンバーのようで、長編の下敷きになっているようです。2018年からはTVシリーズも手掛けており、仕事の幅を広げている。今年のゴヤ新人監督賞は激戦区の一つ、ライバルは「Las ninas」のピラール・パロメロ、『メキシカン・プレッツェル』のヌリア・ヒメネスなど受賞歴を誇る粒揃い、侮れない相手です。
(評価された短編「Aprieta pero raramente ahoga」のポスター)
(イリサル賞受賞のペレス・サニュド監督、SSIFF2020授賞式にて)
(ペイオ役のダビ・ブランカ、製作者カティシャ・デ・シルバ、監督)
「リデはチャンスを求めて闘っている戦士で闘士」とパトリシア
★主演女優賞ノミネートのパトリシア・ロペス・アルナイス(ビトリア1981)は、アラバ県の県都ビトリアの小さな村で幼少期を過ごし、後にマドリードにフリオ・メデムの『ファミリー・ツリー血族の秘密』(17)やフェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「バスタン渓谷三部作」の第1部『パサジャウンの影』(17)がNetflixで配信されている。後者は第2部、第3部も日本語字幕はないが、スペイン語、英語なら視聴できます。脇役で出番も限られるので日本の観客には馴染みがない。長寿TVシリーズ「La otra mirada」(18~19、全21話)のテレサ役が評価され、オンダス賞2018とACE賞2019の女優賞を受賞している。TVシリーズでは「La peste」にも出演、スペインでは知名度が高い。
(テレサに扮したパトリシア・ロペス・アルナイス、TVシリーズ「La otra mirada」から)
★上述したようにアメナバルの『戦争のさなかで』でスクリーンに登場していますが、映画デビューは、2010年のホセ・マリ・ゴエナガ&ジョン・ガラーニョ共同監督のバスク語映画「80 egunean」(For 80 Days)でした。当時は必ずしも女優を目指していなかったと語っている。ダビ・ベルダゲルが主演男優賞にノミネートされているダビ・イルンダインの「Uno para todos」にも出演、本作と「Ane」でディアス・デ・シネ2021の女優賞を既に受賞している。最近の2年間で人生に革命が起きたと述懐しているように女優としての転機を迎えている。
(フォルケ賞2021最優秀女優賞のトロフィーを抱きしめるパトリシア、2021年1月16日)
★本作が生れ故郷のビトリアでクランクインしたことも幸いした。また「労働者階級に属しているリデは、チャンスを求めて闘っている戦士で闘士である」ともインタビューに応えている。自身と重なる部分があるということでしょうか。ライバルはイシアル・ボリャインの「La boda de Rosa」のカンデラ・ペーニャ、ゴヤの胸像は既に主演1個(06)、助演2個(04、13)をゲットしているが、そろそろ欲しいところです。
*「Uno para todos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年04月16日
*「80 egunean」の作品紹介は、コチラ⇒2015年09月09日
(人生に革命が起きたと語るパトリシア、映画の1シーンから)
新人女優賞にノミネートされた個性派女優ホネ・ラスピウル
★新人女優賞ノミネートのジョネ・ラスピウル(Jone Laspiur サンセバスチャン1995)は、バスク大学で美術を専攻したという変り種、マドリードのコンプルテンセ大学やマセオ・ソシアル・アルヘンティノ大学でも学んでいる。子供のときからピアノを学び、合唱団に所属していた。ミュージック・グループNogenを経て、現在はコバンKobanの合唱団員として舞台に立っている。25歳デビューは遅いほうか。
★映画界入りは、パブロ・アグエロの「Akelarre」の音楽を担当していたミュージシャンのMursego(マイテ・アロタハウレギ)の目にとまりスカウトされた。歌えて踊れる若い女性を探していた。サンセバスチャン映画祭2020オフィシャル・セレクションに正式出品された本作は、ゴヤ賞主演女優賞(アマイア・アベラスツリ)を含めて9カテゴリーにノミネートされている。彼女は魔女アケラーレの一人マイデルに抜擢された。
*「Akelarre」の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月02日
(「Akelarre」の魔女アケラーレの一人を演じた、映画から)
(サンセバスチャン映画祭2020のフォトコールにて)
★まだ「Akelarre」と「Ane」の他、バスクTVミニシリーズ「Alardea」(4話)に出演しただけだが、ゴヤの話題作2作に出演している旬の個性派女優として地元のメディアに追いかけられている。日本でも話題になったホセ・マリ・ゴエナガ&ジョン・ガラーニョの『フラワーズ』や『アルツォの巨人』のようなバスク語映画を見ることで新しい道が開けているとインタビューに応えている。第62回ビルバオ・ドキュメンタリー&短編映画祭ZINEBI 2020(1959年設立)のバスク作品賞と脚本賞を受賞したエスティバリス・ウレソラの短編「Polvo Somos」が公開されるほか、コロナ禍の影響でどうなるか分からないが、新しいプロジェクトの撮影も2月クランクインの予定。
フェルナンド・アルビスを筆頭にベテラン勢が脇を固めている
★リデの別れた夫フェルナンドを演じたミケル・ロサダ(ビスカヤ県エルムア1978)は、本作と同じようにパトリシア・ロペス・アルナイスと夫婦役を演じた『パサジャウンの影』のフレディ役、バスク語映画の代表作はアルバル・ゴルデフエラ&ハビエル・レボーリョの「Alaba Zintzoa」(「La buena hija」)、アナ・ムルガレンの「Tres mentiras」や、当ブログ紹介の「La higuera de los bastardos」、同じくルイス・マリアスの「Fuego」など。
*「La higuera de los bastardos」の作品紹介は、コチラ⇒2017年12月03日
*「Fuego」の作品紹介は、コチラ⇒2014年12月11日
(インタビューを受けるパトリシアとミケル・ロサダ)
(リデとフェルナンド、映画から)
★校長役のフェルナンド・アルビス(ビトリア1963)は、ダビ・ペレス・サニュド監督の短編「Agur」出演以来、「Aprieta pero raramente ahoga」や短編「Ane」他に出演している。他にたっぷりした体形を活かしたダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』で、スペイン俳優ユニオン2010助演男優賞を受賞している。イサベル役のナゴレ・アランブルは、『フラワーズ』で匿名の贈り主から花束を受け取る中年女性役を演じた女優、レイレ役のアイア・クルセは短編「Ane」で主役アネを演じている。
(校長役のフェルナンド・アルビス、映画から)
アイトル・ガビロンドの「Patria」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑥ ― 2020年08月12日 15:00
特別上映はアイトル・ガビロンドのTVミニシリーズ「Patria」
★セクション・オフィシアル部門で特別上映される「Patria」は、全8話で構成されたTVミニシリーズ作品、アイトル・ガビロンドがフェルナンド・アランブラの同名小説を脚色した。監督はオスカル・ペドラサとフェリックス・ビスカレトが4話ずつ手掛けている。新型コロナウイリスが猛威を振るう以前の2019年夏から撮影に入り、HBO(Home Box Office 米国の有料ケーブルテレビ放送局)を介して2020年5月17日から放映されているようですが、今回スクリーンに登場することになった。1発の銃弾によって分断されたバスクの2つの家族の目を通して、ETAのテロリスト・グループの30年間にわたる歴史が語られる。
(原作者フェルナンド・アランブラと原作)
「Patria」スペイン、2020、TVミニシリーズ(全8話)
製作:HBO España / Alea Media / Mediaset España
監督:アイトル・ガビロンド(立案)、オスカル・ペドラサ、フェリックス・ビスカレト
脚本:アイトル・ガビロンド、(原作)フェルナンド・アランブラ
撮影:アルバロ・グティエレス、ディエゴ・ドゥセエル
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:アルベルト・デル・カンポ、ビクトリア・ラメルス
製作者:パトリシア・ニエト、ダビ・オカーニャ、テデイ・ビリャルバ、アイトル・ガビロンド
キャスト:エレナ・イルレタ(ビトリ)、アネ・ガバライン(ミレン)、ロレト・マウレオン(ミレンの娘アランチャ)、スサナ・アバイトゥア(ネレア)、ミケル・ラスクライン(ミレンの夫ジョシィアン)、ホセ・ラモン・ソロイス(ビトリの夫チャト)、エネコ・サガルドイ(ミレンの息子ゴルカ)、ジョン・オリバレス(ミレンの息子ホセ・マリ)、イニィゴ・アランバリ(シャビエル)、他多数
ストーリー:2011年、ETAの戦闘中止のニュースが流れた日、ビトリは夫チャトの墓に報告に行った。テロリストに殺害された夫と人生を共にした生れ故郷へ戻ろうと決心する。しかしビトリの帰郷は町の見せかけの静穏をかき乱すことになる。特に親友だった隣人のミレンには複雑な思いがあった。ミレンはビトリの夫を殺害した廉で収監されているホセ・マリの母親だったからだ。二人の女性の間に何があったのか、何が彼女たちの子供や夫たちの人生を損なったのか。一発の銃弾で分断された二つの家族に横たわるクレーター、忘却の不可能性、許しの必要性を私たちに問いかける。
★アイトル・ガビロンド(サンセバスティアン1972)は、脚本家、TV製作者、オーディオビジュアル・フィクションの企画立案者としてスペインでは抜きんでた存在である。特に本邦でもNetflixで配信されているTVシリーズ『麻薬王の後継者』(18「Vivir sin permiso」)は、その代表的な成功作。アルツハイマーになった麻薬王ネモ・バンデイラにホセ・コロナド、彼の右腕に演技派のルイス・サエラ、人気上昇中のアレックス・ゴンサレス、レオノル・ワトリングなどを配した大掛りなシリーズ。「原作を読みはじめたときは霧雨を浴びたようだったが、だんだん雨脚が強くなり最後にはずぶ濡れになった」と、その原作の魅力を形容している。「暴力と共に生きていた時代があったことを、次の世代に橋渡し、未来に向けての一つの旅」とも語っている。
(二人の主役に挟まれて、両手に花のアイトル・ガビロンド)
★フェリックス・ビスカレト(パンプローナ1975)は、監督、脚本家、製作者。スペイン映画祭2019(インスティトゥト・セルバンテス東京主催)で上映された『サウラ家の人々』(17「Saura(s)」)を監督している。監督キャリアは以下に紹介しています。
*『サウラ家の人々』の作品&監督紹介は、コチラ⇒2017年11月11日
★キャストは、姉妹のように仲良しだったという主役の一人ビトリ役のエレナ・イルレタ(サンセバスティアン1955)は、イシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』や『テイク・マイ・アイズ』ほかに出演している。もう一人の主役ミレン役のアネ・ガバライン(サンセバスティアン1963)は、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『フラワーズ』、古くはアレックス・デ・ラ・イグレシアの『13みんなのしあわせ』や『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』、当ブログでご紹介した本作と同じバスクを舞台にしたアナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」などに出演しているベテラン。
*「La higuera de los bastardos」の作品紹介は、コチラ⇒2017年12月03日
(ビトリ役エレナ・イルレタとミレン役のアネ・ガバライン)
★ミレンの息子ゴルカ役のエネコ・サガルドイは、ジョン・ガラーニョ&アイトル・アレギの『アルツォの巨人』(17「Handia」)で巨人役になった俳優。ビトリの夫チャトに扮したホセ・ラモン・ソロイス、ミレンの夫ジョシィアンのミケル・ラスクラインの二人は、『フラワーズ』に揃って出演している。バスク語話者は限られているから、結局同じ俳優が出演することになっている。
(サンセバスティアンに勢揃いしたスタッフと出演者たち、中央がアイトル・ガビロンド)
スペイン内戦をバスクを舞台にコメディで*「La higuera de los bastardos」 ― 2017年12月03日 16:28
アナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」―小説の映画化
★今年のサンセバスチャン映画祭で上映された(9月28日)ボルハ・コベアガの「Fe de etarra」は、カンヌで話題になった『オクジャ』と同じネットフリックスのオリジナル作品だったから、さっそく『となりのテロリスト』の邦題で配信されました。エタETA(バスク祖国と自由)の4人のコマンドが、ワールドカップ2010を時代背景にマドリードで繰り広げる悲喜劇。脚本にディエゴ・サン・ホセと、大当たり「オチョ・アペリード」シリーズ・コンビが、今度は人気のハビエル・カマラを主役に迎えて放つ辛口コメディ。いずれアップしたい。
★今回アップするアナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」は、スペイン内戦後のビスカヤ県ゲチョGetxoが舞台、時代は大分前になるがスペイン人にとって、特にバスクの人にとっては、そんなに遠い昔のことではない。本作はラミロ・ピニーリャ(ビルバオ1923~ゲチョ2014)の小説 “La higuera”(2006)の映画化。ピニーリャはビスカヤについての歴史に残る作品を書き続けたシンボリックな作家、1960年に “Las ciegas hormigas” でナダル賞、2006年、バスクのような豊かだが複雑な世界についての叙事詩的な「バスク三部作」ほか、彼の全作品に対して文学国民賞が贈られている。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの回想録『ウォールデン 森の生活』(1854刊)から採った自宅「ウォールデンの家」で執筆しながら人生のほとんどを過ごした。
(ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を手にしたピニーリャ)
★「健康だし未だ頭もはっきりしている。実際のところ私の精神年齢は20歳なんですよ。死は怖くはありませんが、ただ残念に思うだけです。まだそこへ行きたいとは考えていません、何もないのでしょうね。健康が続くかぎり生きていかねばなりません」とインタビューに応えるラミロ・ピニーリャ。若いころは生活のために船員、ガス会社勤務など多くの職業を転々、小説家デビューは1960年と比較的遅かった。以降半世紀以上バスクの物語を書き続けた。インタビューの約1ヵ月後、10月23日老衰のため死去、享年91歳でした。
(「ウォールデンの家」でインタビューに応じるラミロ・ピニーリャ、2014年9月14日)
「La higuera de los bastardos」(The Bastards Fig Tree)2017
製作:The Fig Tree AIE / Blogmedia 協賛Ana Murugarren PC
監督・脚本・編集:アナ・ムルガレン
原作:ラミロ・ピニーリャ “La higuera”
撮影:Josu Inchaustegui(ヨス・インチャウステギ?)
録音:セルヒオ・ロペス=エラニャ
音楽:アドリアン・ガルシア・デ・ロス・オホス、アイツォル・サラチャガ
製作者:ホアキン・トリンカダ(Joaquin Trincada)
データ:製作国スペイン、スペイン語、2017、コメディ・スリラー、103分、2016年夏ビスカヤ県ゲチョで撮影。11月開催のオランダのフリシンゲン市「Film By The Sea」2017に正式出品、スペイン公開11月24日
キャスト:カラ・エレハルデ(ロヘリオ)、エルモ(カルロス・アレセス)、ペパ・アニオルテ(村長の妻シプリアナ)、ジョルディ・サンチェス(村長ベニート)、ミケル・ロサダ(ペドロ・アルベルト)、アンドレス・エレーラ(ルイス)、ラモン・バレア(ドン・エウロヒオ)、イレニア・バグリエット(Ylenia Bagliettoロレト)、マルコス・バルガニョン・サンタマリア(ガビノ)、キケ・ガゴ(ガビノ父シモン・ガルシア)、エンリケタ・ベガ(ガビノ母)、アレン・ロペス(ガビノ兄アントニオ)、アスセナ・トリンカド(ガビノ姉妹)、イツィアル・アイスプル(隣人)他
プロット・解説:市民戦争が終わった。ファランヘ党のロヘリオは、毎晩のこと仲間と連れ立ってアカ狩りに出かけていた。なかにはアカと疑われる人物も含まれていた。ある日のこと、一人のマエストロとその長男を殺害した。下の息子が憎しみを込めた目でロヘリオを睨んでいた。その視線が彼の人生をひっくり返してしまう。少年は父と兄を埋葬し、その墳墓にはイチジクの小さな苗を植えることだろう。やがて大人になれば復讐するにちがいない。ロヘリオは己れを救済するために似非隠者になり、毎朝毎晩イチジクがすくすくと成長するように世話しようと決心する。新しい村長の妻シプリアナは、ロヘリオ似非隠者の名声を利用して、この地を聖地の一大センターに変えようと画策する。そんな折りも折り、家族を捨ててきた告げ口屋の強欲なエルモが現れる。イチジクの木の下に宝物を隠しているにちがいないと確信して、ロヘリオから離れようとしなくなる。10歳の少年ガビノの視点とロヘリオを交錯させながら物語は進んでいく。
(マルコス・バルガニョン・サンタマリアが扮するガビノの視線)
(父親のキケ・ガゴと兄のアレン・ロペス)
寓意を含んだ贖罪の物語、紋切型の市民戦争を避ける
★アナ・ムルガレンの長編第2作。作品数こそ少ないがキャリは長い。2006年刊行の原作を読んだとき、二つの映画のシーンが思い浮かんだという。「一つはブニュエルの『砂漠のシモン』の中で柱に昇ったままのシモン、もう一つがフェリーニの『アマルコルド』の中で大木に登ったままの狂気の伯父さんのシーンでした。その黒さのなかに思いつかないようなアスコナ流のユーモアのセンスに出会って驚いた」と。「本作で製作を手掛けたトリンカドと私は作家と知り合いになった。ピニーリャ自身が映画化するならと薦めてくれたのが本作でした。多分、この小説は突飛でシニカルなユーモアが共存しているからだと思います。コメディとドラマがミックスされている非常にスペイン的な何かがあるのです」とも。
★ステレオタイプ的な市民戦争ではなく、コメディで撮りたかったという監督。コメディを得意とするカラ・エレハルデ、カルロス・アレセス、ペパ・アニオルテを主軸に、常連のミケル・ロサダ、アスセナ・トリンカド、バスク映画に欠かせないラモン・バレアを起用した。資料に忠実すぎて動きが取れなくならないように、演技にはあまり制約をつけなかったようです。
(ファランヘ党員のロヘリオ、カラ・エレハルデ)
★「スペインは対立を克服できなかったヨーロッパで唯一の国、それを現在まで引きずっている。そのため今もってイチジクの木の下で眠っている人は浮かばれない」と語るエレハルデ。「カラ・エレハルデのような優れた俳優に演じてもらえた。ロヘリオの人間性に共感してもらえると思います。このファランヘ党員は隠者になったことを悔やんでいない。はじめは恐怖から始まったことだが、次第にイチジクの木を育てることに寛ぎを感じ始めてくる」と監督。当然「粗野なメタファー満載だ」との声もあり、評価は分かれると予想しますが、コメディで描く内戦の悲痛は、深く心に残るのではないか。
(ポスターを背に、ロヘリオ役のカラ・エレハルデ)
*監督キャリア・フィルモグラフィ*
★アナ・ムルガレンAna Murugarren:1961年ナバラのマルシーリャ生れ、監督、編集者、脚本家。バスク大学の情報科学部卒。1980~90年代に始まったバスクのヌーベルバーグのメンバーとしてビルバオで編集者としてキャリアを出発させる。メンバーには本作で製作を手掛けたホアキン・トリンカド、ルイス・マリアス、『悪人に平穏なし』のエンリケ・ウルビス、『ブランカニエベス』のパブロ・ベルヘル、日本ではお馴染みになったアレックス・デ・ラ・イグレシアなどがいる。
2005年「Esta no es la vida privada de Javier Krahe」ドキュメンタリー、監督・編集
(ヨアキン・トリンカドとの共同監)
2011年「El precio de la libertad」監督・編集(TVミニシリーズ2話)
2012年「La dama guerrera」監督・編集(TV映画)
2014年「Tres mentiras」監督・編集、長編映画デビュー作
2017年 本作割愛
*他にエンリケ・ウルビス、パブロ・ベルヘル、ヨアキン・トリンカドの編集を手掛けている。
(アナ・ムルガレンとホアキン・トリンカド、2016年7月)
★受賞歴:「Tres mentiras」がフィリピンのワールド・フィルム・フェス2015で「グランド・フェスティバル賞」を受賞、他に主役のノラ・ナバスが女優賞を受賞した。他にサラゴサ映画祭2015作品賞、サモラ県のトゥデラ映画祭2014第1回監督賞他を受賞している。エンリケ・ウルビスの「Todo por la pasta」でシネマ・ライターズ・サークル賞1991の最優秀編集賞を受賞している。
(本作撮影中のアナ・ムルガレン監督)
バスク語映画 "Handia"*サンセバスチャン映画祭2017 ⑥ ― 2017年09月06日 15:16
オフィシャル・セレクション第3弾『フラワーズ』の監督が再びやってくる
★世界の映画祭を駆け巡った『フラワーズ』(“Loreak” 14)の監督ジョン・ガラーニョと、その脚本を手掛けたアイトル・アレギが、19世紀ギプスコアに実在したスペイン一背の高い男ミケル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(1818~61)にインスパイアーされて “Handia” を撮りました。本名よりもGigante de Altzo「アルツォの巨人」という綽名で知られている人物です。前作でジョン・ガラーニョと共同監督したホセ・マリ・ゴエナガは、脚本&エグゼクティブ・プロデューサーとして参画しています。バスク自治州のサンセバスチャンで開催される映画祭ですが、オフィシャル・セレクションに初めてノミネートされたバスク語映画が『フラワーズ』だった。
(ワーキング・タイトルのポスター)
“Handia”(ワーキング・タイトル“Aundiya”、英題 ”Giant”) 2017
製作:Irusoin / Kowaiski Films / Moriarti Produkzioak / 他
監督:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ
脚本:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アンド二・デ・カルロス
音楽:パスカル・ゲーニュ
撮影:ハビエル・アギーレ
編集:ラウル・ロペス、Laurent Dufreche
キャスティング:ロイナス・ハウレギ
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
メイクアップ&ヘアー:オルガ・クルス、Ainhoa Eskisabel、アンヘラ・モレノ、他
衣装デザイン:サイオア・ララ
プロダクション・マネージメント:アンデル・システィアガ
製作者:ハビエル・ベルソサ、イニャキ・ゴメス、イニィゴ・オベソ、(エグゼクティブ)ホセ・マリ・ゴエナガ、フェルナンド・ラロンド、コルド・スアスア
データ:スペイン、バスク語(スペイン語を含む)、2017年、歴史ドラマ、製作資金約200万ユーロ、サンセバスチャン映画祭2017正式出品、スペイン公開10月20日予定
キャスト:エネコ・サガルドイ(ミゲル・ホアキン・エレイセギ)、ホセバ・ウサビアガ(兄マルティン・エレイセギ)、ラモン・アギーレ(父アントニオ・エレイセギ)、イニィゴ・アランブラ(興行主アルサドゥン)、アイア・クルセ(マリア)、イニィゴ・アスピタルテ(フェルナンド)、ほか
プロット:マルティンは、第一次カルリスタ戦争からギプスコアの集落で暮らす家族のもとに戻ってきた。そこで彼が目にしたものは、出征前には普通だった弟ホアキンの身長が見上げるばかりになっていたことだった。やがて人々がお金を払ってでも、地球上で最も背の高い男を見たがっていることに気づいた二人の兄弟は、野心とお金と名声を求めて、スペインのみならずヨーロッパじゅうを駆けめぐる旅に出立する。家族の運命は永遠に変わってしまうだろう。19世紀に実在した「アルツォの巨人」ことミケル・ホアキン・エレイセギの人生にインスパイアーされて製作された。
スペイン海軍の将軍に扮した巨人ミゲル・ホアキン・エレイセギ
★実際のミゲル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(バスク語ではMikel Jokin Eleizegi Arteaga)は、1818年12月23日、ギプスコア県のアルツォ村で9人兄弟姉妹の4番目の男の子として生まれた。母親は彼が10歳のころに亡くなっている。20歳で先端巨人症を発症して死ぬまで身長が伸びつづけたということです。記録によると身長が227センチ、両手を広げると242センチ、靴のサイズは36センチだったという(身長には異説がある)。当時のヨーロッパでは最も背が高く「スペインの巨人」として、イサベル2世時代のスペイン、ルイ・フィリップ王時代のフランス、ビクトリア女王時代のイギリスなどを興行して回った。たいていトルコ風の服装、あるいはスペイン海軍の将軍の衣装を身に着けて舞台に立った。1961年11月20日、肺結核のため43歳で死亡、遺体は生れ故郷アルツォAltzoに埋葬されたが、コレクターの手で盗まれてしまっている。映画は史実に基づいているようですが、やはりフィクションでしょうか。
(スペイン海軍の将軍の衣装を着たミゲル・ホアキン)
◎キャスト
★兄弟を演じるエネコ・サガルドイ(1994)もホセバ・ウサビアガも初めての登場、二人ともバスク語TVシリーズ “Goenkale” に出演している。2000年から始まったコメディ長寿ドラマのようで、エネコ・サガルドイは本作で2012年にデビュー、翌年までに57話に出演している。身長が高いことは高いが227センチのミゲル・ホアキンをどうやって演じたのか興味が湧きます。二人ともバスク語の他、スペイン語、英語の映画に出演している。
(ミゲル・ホアキン・エレイセギ役のエネコ・サガルドイ、映画から)
(左端が兄マルティン役のホセバ・ウサビアガ、映画から)
★第一次カルリスタ戦争は1933年に勃発、1939年に一応終息しました。兄マルティンが復員してから物語は始まるから、時代背景は1940年代となります。イニィゴ・アランブラ扮するアルサドゥンは、実在したホセ・アントニオ・アルサドゥンというナバラ在住の男で、ホアキンを見世物にして金儲けしようと父親に掛け合った。なかなか目端の利いた男だったようです。父親役のラモン・アギーレ(1949生れ)は、フェルナンド・フランコがゴヤ賞2014新人監督賞を受賞した “La herida”(13)、公開されたアルモドバルの『ジュリエッタ』、イニャキ・ドロンソロの『クリミナル・プラン~』、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(2012パルム・ドール)などに出演しているベテラン。フェルナンド・フランコの新作 “Morir” が、今年の特別プロジェクションにエントリーされているので、時間的余裕があればアップしたい。
(映画の宣伝をするアルサドゥン役のアランブラ、ネパールのプーンヒル標高3310mにて)
◎スタッフ
★製作者は、ラテンビート、東京国際映画祭で上映された『フラワーズ』や ”80 egunean”(”For 80 Days”)に参画したスタッフで構成されており、唯一人エグゼクティブ・プロデューサーのコルド・スアスアが初参加、過去にはフェルナンド・フランコの “La herida”、マルティネス=ラサロのヒット作 “Ocho apellidos vascos”(14)、アメナバルの “Regresión”(15、未公開)などを手掛けている。プロダクション・マネージメントのアンデル・システィアガも初参加、過去にはアレックス・デ・ラ・イグレシア映画『13 みんなのしあわせ』『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』他を手掛けている。音楽はフランス出身、1990年からサンセバスチャンに在住しているパスカル・ゲーニュと同じです。監督キャリア&スタッフ紹介は『フラワーズ』にワープしてください。
(『フラワーズ』のポスター)
★前作の脚本を担当、本作で監督にまわったアイトル・アレギAitor Arregi は、ジョン・ガラーニョとの共同でドキュメンタリー ”Sahara Marathon”(04、55分)を撮っている。他にイニィゴ・ベラサテギとアドベンチャー・アニメーション ”Glup, una aventura sin desperdicio”(04、70分)、“Cristobal Molón”(06、70分)を共同で監督している。また本作では脚本と製作を担ったホセ・マリ・ゴエナガとドキュメンタリー “Lucio”(07、93分)を撮り、グアダラハラ映画祭のドキュメンタリー部門で作品賞を受賞している。
(ジョン・ガラーニョとアイトル・アレギ)
サバルテギ部門ノミネーション*サンセバスチャン映画祭2016 ⑤ ― 2016年08月19日 11:51
長編1作、短編2作と今年は少なめです
★サバルテギZabaltegiは、バスク語で「自由」という意味、というわけで国、言語、ジャンル、長編短編を問わず自由に約30作品ほどが選ばれ、本映画祭がワールド・プレミアでない作品も対象のセクションです。今回スペインからは、バスク出身のコルド・アルマンドスの長編“Sipo phantasma”と短編2作がアナウンスされました。過去にはラテンビートなど映画祭で上映された、パブロ・トラペロ『カランチョ』、ホセ・ルイス・ゲリン『ゲスト』、パブロ・ラライン『No』、ブラジルのカオ・アンブルゲール『シングー』、昨年の話題作は、ロルカの戯曲『血の婚礼』を下敷きにしたパウラ・オルティスの“La novia”などが挙げられます。
*サバルテギ部門*
★“Sipo phantasma”(“Barco fantasma”、“Ghost Ship”)コルド・アルマンドス 2016
観客は約1時間の船旅を体験する。船にまつわる物語、映画、難破船、ゴースト、愛、吸血鬼に出会いながらクルージングを楽しもう。1990年代の終わり頃からユニークな短編を発信し続けているバルクの監督、今回長編デビューを果たしました。しかし一味違った長編のようです。
*コルド・アルマンドスKoldo Almandozhaは、1973年サンセバスチャン生れ、監督、脚本、製作、カメラ、編集と多才、ジャーナリスト出身。ナバラ大学でジャーナリズムを専攻、後ニューヨーク大学で映画を学ぶ。1997年短編“Razielen itzulera”(8分)でデビュー、ドキュメンタリーを含む短編(7分から10分)を撮り続けていたが、今回初めて長編を撮る。言語はスペイン語もあるにはあるが(例“Deus et machina”)、殆どバスク語である。カラー、モノクロ、アニメーション、音楽グループとのコラボと多彩です。なかで“Belarra”(03、10分)が新人の登竜門といわれるロッテルダム映画祭 2003で上映され話題となり、初長編となる本作も同映画祭2016で既にワールド・プレミアされている(2月3日)。シンポジウムで来日した折に撮った、京都が舞台の日西合作“Midori 緑”(06、8分、実写&アニメ)はドキュメンタリー仕立ての短編、タイトルのミドリは修学旅行に来たらしい女学生の名前。短編なので大体YouTubeで楽しむことができ、やはり“Belarra”(草という意味)は素晴らしい作品。
(コルダ・アルマンドス監督、サンセバスチャンにて)
★“Caminan”(“On the Path”)ミケル・ルエダ 短編 2015
*なにもない1本の道路、1台の車、1台の自転車、自分探しをしている独身の男と女が出会う。女役を演じるのは人気女優マリベル・ベルドゥです。バスク出身の8人の監督が参加したオムニバス映画“Bilbao-Bizkaía Ext: Día”の一編。他にはバスク映画の大御所イマノル・ウリベ(『時間切れの愛』)を筆頭に、エンリケ・ウルビス(『悪人に平穏なし』)、ペドロ・オレア、ハビエル・レボージョなどベテランから若手までのオール・バスク監督。
*ミケル・ルエダMikel Rueda は、1980年ビルバオ生れ、監督、脚本家、製作者。2010年長編デビュー作“Izarren argia”(“Estrellas que alcanzar”バスク語)がサンセバスチャン映画祭の「ニューディレクターズ」部門で上映、その後公開された。第2作“A escondidas”(14、バスク語)は、マラガ映画祭2015に正式出品、その後米国、イギリス、フランス、ドイツなど15カ国で上映された。短編“Agua!”(12、16分)もサンセバスチャン映画祭で上映、過干渉の父親、おろおろする母親、フラストレーションを溜め込んだ2人の高校生の日常が語られる。これはYouTubeで見ることができる。目下、長編第3作目を準備中。
(ミケル・ルエダ監督)
★“Gure Hormex / Our Walls”(“Nuestras paredes”)短編 2016 17分
マリア・エロルサ&マイデル・フェルナンデス・イリアルテ
*主婦たちの住む地区、不眠症患者の地区、無名の母親のキオスク、身寄りのない女性たちのアンダーグラウンド、「私たちの壁」は私たちが愛する人々に感謝のしるしを捧げるドキュメンタリー。二人の若いバスクの監督が人生の先達者に賛辞をおくる。
*マリア・エロルサMaría Elorzaは、1988年ビトリア生れ、監督。バルセロナのポンペウ・ファブラ大学でオーディオビジュアル情報学を専攻、その後バスク大学でアート創作科修士課程で学ぶ。2011年からフリーランサーの仕事と並行してドキュメンタリー製作のプロジェクトに参加する。2009年“Hamasei Lehoi”で短編デビュー、2012年ギプスコアの新人アーティストのコンクールに“Antología poética de conversaciones cotidianas”応募する。2014年“Errautsak”(ドキュメンタリー・グループ製作)、マイデル・フェルナンデス・イリアルテと共同監督した“Agosto sin tí”(15)、“El canto de los lujuriosos”(同)、他短編多数。
*マイデル・フェルナンデス・イリアルテMaider Fernandez Iriarteは、1988年サンセバスチャン生れ、監督。祖母についてのドキュメンタリー“Autorretrato”を撮る。タイトル「自画像」は、「祖母は私である」というメッセージが込められている。“Agosto sin tí”がセビーリャのヨーロッパ映画祭2015、ウエスカ映画祭2016などで上映された。“Historia de dos paisajes”がセビーリャ・レジスタンス映画祭2016で上映された後、バスク自治州やフランス側のバスク語地区を巡回している。フランス、ドイツなどヨーロッパ各地は勿論、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、ドミニカ共和国、モザンビークなどへ取材旅行をしている行動派。
(左がマリア・エロルサ、右がマイデル・フェルナンデス・イリアルテ)
コルド・セラの第2作「ゲルニカ」*マラガ映画祭2016 ③ ― 2016年04月20日 19:56
「ゲルニカ」といってもピカソは出てきません
★「ゲルニカ」と聞けば「ピカソ」に繋がる。ピカソが「ゲルニカGuernica」を描かなかったら、ゲルニカは観光地にはならなかったでしょう。現地に行ったことがない人でも、マドリードを訪れた観光客は「ゲルニカ」が展示されている美術館に案内される。日本で言えば国宝級なのか特別室に展示され監視人がいて近づけない。以前東京でも横長の実物大(7.82m×3.5m)のレプリカが展示されたことがあったほどの大作。フランコ没後民主主義移行期の1981年、亡命先の「ニューヨーク近代美術館」より返還されることになった。それで「最後の亡命者の帰国」と言われた。しかし既にピカソ亡き後のことで遺産問題も絡まって、どこの美術館で展示するかで喧々諤々、白熱の議論のすえにピカソが名誉館長を務めたこともあるプラド美術館へ、しかし本館ではなく別館だったことで当時の館長が辞任するなどのテンヤワンヤ、なんとかピカソ生誕100周年記念日の10月25日に一般公開された。更に1992年に開館した王立ソフィア王妃芸術センターの目玉としてお引っ越し、現在はここの特別室で展示されています。
(ピカソが50日間で一気に描いた「ゲルニカ」、王立ソフィア王妃芸術センターに展示)
マリア・バルベルデが共和派報道機関の編集者を力演
★さて本題、ビスカヤ県の町ゲルニカは、スペイン内戦中の1937年4月26日、ナチス・ドイツ空軍機によって史上初めてという無差別爆撃を受けた。当時共和派の軍隊は駐屯しておらず全く無防備の町であったという。どうしてナチスが第二次世界大戦勃発前に無防備のバスクの町を爆撃のターゲットにしたのか。いったいスペイン内戦とは誰と誰が戦ったのか。これがコルド・セラの長編第2作“Gernika”のメインテーマでしょうか。しかし本当のテーマは、やはり「愛と自由」かもしれません。マラガ映画祭2016正式作品、無差別爆撃を受けた4月26日に上映。スペイン公開は今年の秋が予定されている。
(ポスター)
“Gernika”(英題“Guernica”)2016
製作:Pecado Films / Travis Producciones / Pterodactyl Productions / Sayaka Producciones /
ゲルニカ The Movie 協賛カナル・スール、ICAA 他
監督:コルド・セラ
脚本:ホセ・アルバ、カルロス・クラビホ・コボス、バーニー・コーエン
撮影:ウナックス・メンディア
編集:ホセ・マヌエル・ヒメネス
衣装デザイン:アリアドナ・パピオ
製作者:バーニー・コーエン & ジェイソン・ギャレット(エグゼクティブ)、ホセ・アルバ、カルロス・クラビホ、ダニエル・Dreifuss 他
データ:製作国スペイン、スペイン語、撮影地ゲルニカ、マラガ映画祭2016年4月26日上映、スペイン公開は今秋、製作費約580万ユーロ(ゲルニカ市、ビルバオ市、バスク政府、アラゴン政府などから資金援助を受けた)
キャスト:マリア・バルベルデ(テレサ)、ジェームズ・ダーシー(ヘンリー)、ジャック・ダヴェンポート(ワシル)、バーン・ゴーマン、イレネ・エスコラル、イングリッド・ガルシア=ヨンソン、アレックス・ガルシア、フリアン・ビジャグラン、バルバラ・ゴエナガ、ビクトル・クラビホ、ナタリア・アルバレス=ビルバオ、ラモン・バレア、イレナ・イルレタ、他
解説:時は内戦勃発翌年の1937年、スペイン女性テレサとアメリカ人ヘンリーの戦時下での屈折した愛の物語。テレサは共和派の報道機関に勤めている編集者、ヘンリーは北部戦線を取材しているジャーナリスト、二人は意見の相違で対立している。テレサの上司ワシルは共和派政府の助言者として派遣されたロシア人、若く美しいテレサに気がある。いずれテレサはヘンリーの非現実的な理想主義に魅せられていくだろう。そして彼女のたった一つの目的、真実を語るための使命に目覚めることだろう。
(テレサ役マリア・バルベルデとヘンリー役ジェームズ・ダーシー)
★複雑で謎だらけのスペイン内戦の総括はまだ完全には終わっていないと思いますが、ファッシズムと民主主義の闘いではなかったことだけは明らかでしょう。どの戦争でも同じことと思いますが、共和派善VSフランコ派悪のように、真実はそれほど単純ではない。はっきりしているのは、共和派側についたのがソビエト、フランコ派を応援したのがドイツ、イタリア、ポルトガルということです。イギリスやフランスは心情的には共和派側だが、教科書的には中立だった。長いフランコ独裁制や米ソ冷戦構造が貴重な研究成果を覆い隠してしまっている。これがスペインで繰り返し映画化される原因の一つです。
★コルド・セラKoldo Serra de la Torre:1975年ビルバオ生れ、監督、脚本家。バスク大学美術科オーディオビジュアル専攻、ビルバオ・ファンタスティック映画祭のポスターを描きながら(2000~04)、コミックやデザインを学ぶ。“La Bestia del día”というタイトルで、短編のコミック選集を出版する。1999年、ゴルカ・バスケスとの共同監督で短編“Amor de madre”を撮り、ムルシア・スペイン・シネマ週間で観客賞を受賞した。これにはライダー役で自身出演している。2003年、短編“El tren de la bruja”がアムステルダム・ファンタジック映画祭でヨーロッパ・ファンタジック短編に贈られる「金のメリエス」を受賞、国際的にも評価される(ナチョ・ビガロンドとの共同脚本)。他シッチェス映画祭短編銀賞、サンセバスチャン・ホラー・ファンタジー映画祭最優秀スペイン短編賞、Tabloid Witch賞他、受賞歴多数。
(タブロイド・ウィッチ賞のトロフィーを手にしたコルド・セラ)
★2006年長編映画デビュー“Bosque de sombras”(“The Backwoods”仏=西=英、英語・スペイン語)は、サンセバスチャン映画祭の「サバルテギ新人監督」部門で上映、プチョン富川国際ファンタスティック映画祭2007に出品された。1970年代後半のバスクが舞台のバイオレンス・ドラマ、スペイン側からはアイタナ・サンチェス=ヒホン、リュイス・オマール、アレックス・アングロなどが出演している。10年のブランクをおいて本作が第2作目、主に脚本執筆、TVドラを手がけていた。ビルバオ出身の監督としては、1960年代生れのアレックス・デ・ラ・イグレシア、エンリケ・ウルビス(『悪人に平穏なし』)の次の世代にあたる。
(“Bosque de sombras”から)
★製作国はスペインですが、男優陣は英国出身の俳優が起用されている。なかでジェームズ・ダーシー、ジャック・ダヴェンポート、バーン・ゴーマンの3人は公開作品が結構ありますので簡単に情報が入手できます。ヘンリー役のジェームズ・ダーシーは1975年ロンドン生れ、1997年ブライアン・ギルバートの『オスカー・ワイルド』の小さな役で長編デビュー、セバスチャン・グティエレスのホラー『ブラッド』にカルト集団のメンバーとしれ出演、マドンナの第2作『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』(11)でエドワード8世に扮した。続いて1960年の『サイコ』の舞台裏を描いたサーシャ・ガヴァンの『ヒッチコック』(12)では、主人公ノーマン・ベイツを演じたアンソニー・パーキンスに扮した。ヒッチコックをアンソニー・ホプキンスが演じるなど、テレビ放映もされた。最新作はジェームズ・マクティーグの『サバイバー』(15)でアンダーソン警部役になった。
★ジャック・ダヴェンポートは、1973年イギリスのサフォーク生れ、両親とも俳優、幼児期はスペインのイビサ島で育った。1997年、『危険な動物たち』で映画デビュー、ゴア・ヴァービンスキーのシリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン』(03,06,07)のノリントン提督役で知られている。マシュー・ヴォーンのスパイ物『キングスマン』(14)に出演している。最新作の“Gernika”ではスターリン信奉者のロシア人になる。
★バーン・ゴーマンは、1974年ハリウッド生れ、しかし家族と一緒にロンドンに移住している。父親がUCLAの言語学教授という家庭で育った。1998年テレドラで俳優デビュー、日本での公開作品は、マシュー・ヴォーンの『レイヤー・ケーキ』(04)、クリストファー・ノーランの『ダークナイト・ライジング』(12)、ロドリゴ・コルテスの『レッド・ライト』(12)、ギレルモ・デル・トロの『パシフィック・リム』(13)、同監督の最新作『クリムゾーン・ピーク』(15)は今年1月に公開されたばかり。英語映画、それもスリラーやホラーは公開されやすい。
★マリア・バルベルデは、1987年マドリード生れ、マヌエル・マルティン・クエンカの“La flaqueza del bolchevique”(2003)でデビュー、翌年のゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞の新人女優賞を受賞した。日本登場はアルベルト・アルベロの『解放者ボリバル』(ラテンビート2014)で薄命のボリバル夫人を演じた女優。当ブログでは、マリア・リポルのロマンチック・コメディ“Ahora o nunca”(2015)でダニ・ロビラと共演して成長ぶりを示した。汚れ役が難しいほど品よく美しいから、逆に女優としての幅が狭まれているが、そろそろお姫さま役は卒業したいでしょう。監督との出会いはTVドラ出演がきっかけのようです。
(一時より痩せた監督とマリア・バルベルデ)
★イレネ・エスコラルは、“Un otoño sin Berlín”で今年のゴヤ賞新人女優賞を受賞している。イングリッド・ガルシア=ヨンソンは、オープニング上映となったキケ・マイジョの“Toro”にも出演しており、目下躍進ちゅうの「三美人」を起用するなど話題提供も手抜かりない印象です。
(イレネ・エスコラル、映画から)
*コメディ“Ahora o nunca”とマリア・バルベルデの記事は、コチラ⇒2015年7月14日
*スリラー“Toro”とイングリッド・ガルシア=ヨンソンの記事は、コチラ⇒2016年4月14日
(撮影終了を祝って記念撮影、中央の小柄な男性が監督)
引退していなかったモンチョ・アルメンダリス*新作を準備中 ― 2016年04月02日 16:09
『心の秘密』からかれこれ20年になる!
★引退の噂もちらほら届いていましたが、新作のニュースが飛び込んできました。“No tengas miedo”を最後に沈黙していた監督、まだ全体像は見えてきませんが、とにかく引退説はデマでした。デビュー作『タシオ』から数えて長編映画は30年間に8作と寡作ですが、『心の秘密』などの映画祭上映により結構知名度はあるほうじゃないかと思います。当時8歳だったハビ役のアンドニ・エルブルも立派な大人になっているはずです。彼の印象深い眼差しが成功の一つだったことは疑いなく、子供ながらゴヤ賞1998では新人男優賞を受賞しました。しかしその後アルメンダリスの“Silencio roto”、短編やTVにちょっと出演しただけで俳優の道は選ばなかったようです。
(左から、アンドニ・エルブル、親友のイニゴ・ガルセス 『心の秘密』から)
★モンチョ・アルメンダリスは、1949年1月、ナバラ県のペラルタ生れ、監督、脚本家、製作者。6歳のときパンプローナに転居、パンプローナとバルセロナで電子工学を学び、パンプローナ理工科研究所で教鞭をとるかたわら短編映画製作に熱中する。バスク独立活動家の殺害に抗議して逮捕、収監されたがフランコの死去に伴う恩赦で出所する。1974年短編デビュー作“Danza de lo gracioso”が、1979年ビルバオのドキュメンタリーと短編映画コンクールで受賞、文化省の「特別賞」も受賞した。1981年ドキュメンタリー“Ikuska 11”などを撮る。検閲から解放され戸惑っていたスペイン映画界も民主主義移行期を経てやっと新しい時代に入っていった。
★1998年、『心の秘密』の成功により、1980年から始まった映画国民賞を受賞、2011年ヒホン映画祭の栄誉賞に当たるナチョ・マルティネス賞、2015年にはナバラに貢献した人に与えられるフランシスコ・デ・ハビエル賞を受賞したばかりである。2009年に始まった賞でナバラの守護聖人サン・フランシスコ・デ・ハビエルからとられ、受賞者の職業は問わない。
★1984年、長編映画デビュー作『タシオ』は、ナバラの最後の炭焼き職人と言われるアナスタシオ・オチョアの物語、年齢の異なる3人の俳優が演じた。プロデューサーにエリアス・ケレヘタ、撮影監督にホセ・ルイス・アルカイネを迎える幸運に恵まれた。この大物プロデューサーの目に止まったことが幸いした。引き続き1986年にケレヘタと脚本を共同執筆した『27時間』がサンセバスチャン映画祭1986銀貝監督賞に輝き、製作者ケレヘタはゴヤ賞1987で作品賞にノミネートされた*。アントニオ・バンデラスやマリベル・ベルドゥが出演している。撮影監督に“Ikuska 11”でタッグを組んだ、北スペインの光と影を撮らせたら彼の右に出る者がないと言われたハビエル・アギレサロベが参加した。自然光を尊重する彼の撮影技法は大成功を収めた『心の秘密』や「オババ」に繋がっていく。
(炭焼きをするタシオ・オチョア、『タシオ』のシーンから)
*ケレヘタは同じテーマでカルロス・サウラの『急げ、急げ』(1980)を製作するなどドラッグに溺れる若者の生態に興味をもっていた。翌年のベルリン映画祭「金熊賞」受賞作ですが、その後主人公に起用した若者たちが撮影中もドラッグに溺れていた事実が発覚、サウラもケレヘタも社会のバッシングに晒され、それが二人の訣別の理由の一つとされた。1980年を前後して社会のアウトサイダーをメインにした犯罪映画「シネ・キンキ」(cine quinqui)というジャンルが形成されるなど、数多くの監督が同じテーマに挑戦した時代でした。
(最近のモンチョ・アルメンダリス、マドリードにて)
★40代から白髪のほうが多かった監督、髪型も変えない主義らしく、その飾らない風貌は小さな相手を威圧しない。ゆっくり観察しながら育てていくのアルメンダリス流、そうして完成させたのが『心の秘密』(1997)でした。脇陣はカルメロ・ゴメス、チャロ・ロペス、シルビア・ムントなど〈北〉を知るベテランが固めた。なかでチャロ・ロペスは本作でゴヤ助演女優賞を受賞したが、カルメロ・ゴメスもイマノル・ウリベの『時間切れの愛』(1994)で主演男優賞、シルビア・ムントはフアンマ・バホ・ウジョアの長編デビュー作“Alas de mariposa”(「蝶の羽」)で主演女優賞を既に受賞していた。現在はそれぞれ舞台や監督業などにシフトしている。以下は、短編及びドキュメンタリーを除いた長編映画リスト。
*長編フィルモグラフィー*
1)1984“Tasio”(邦題『タシオ』)監督・脚本
*1985年フォトグラマス・デ・プラタ賞受賞、シカゴ映画祭1984上映作品
*1985年9月に「スタジオ200」で開催された「映像講座 スペイン新作映画」上映作品
2)1986“27 horas”(邦題『27時間』)監督・共同脚本(エリアス・ケレヘタ)
*サンセバスチャン映画祭1986監督銀貝賞受賞作品
*1989年に東京で開催された「第2回スペイン映画祭」上映作品
*美しい港町サンセバスチャン、ホン(マルチェロ・ルビオ)とマイテ(マリベル・ベルドゥ)は恋人同士、同じ学校に通っているが二人ともヘロイン中毒で殆ど出席していない。漁師の父親の手伝いをしているパチ(ホン・サン・セバスティアン)には二人が理解できないが友達だ。ある日三人はイカ釣りに出かけるが船酔いでマイテが意識を失くしてしまう。マイテが死ぬまでの若者たちの27時間が描かれる。他にヤクの売人にアントニオ・バンデラスが扮している。
(イカ釣りに出掛けたマイテ、ホン、パチ、『27時間』から)
3)1990“Las cartas de Alou”(「アロウの手紙」)監督・脚本
*サンセバスチャン映画祭1990作品賞(金貝賞)・OCIC賞受賞。ゴヤ賞1991オリジナル脚本賞受賞、監督賞ノミネーション。シネマ・ライターズ・サークル賞1992作品賞受賞
*スペインに違法に移民してきた若いセネガル人アロウが、異なった文化や差別について故郷の両親に書き送った手紙。80年代から90年代にかけて顔を持たない無名のアフリカ人が豊かさを求めてスペインに押し寄せた。この不法移民問題は社会的な大きなテーマだった。
4)1994“Historias del Kronen”(「クロネン物語」)監督・脚色
*カンヌ映画祭1995コンペティション正式出品。ゴヤ賞1996脚色賞受賞(共同)、シネマ・ライターズ・サークル賞1996脚色賞受賞(共同)
*ホセ・アンヘル・マニャスの同名小説の映画化。何不自由なく気ままに暮らす大学生のセックスやドラッグに溺れる生態を赤裸々に描いた。クロネンは溜まり場のバルの名前。主役のカルロスにフアン・ディエゴ・ボット(ゴヤ賞新人男優賞ノミネーション)、その姉にカジェタナ・ギジェン・クエルボ、バル「クロネン」で知り合った友人にジョルディ・モリャ、チョイ役だったがエドゥアルド・ノリエガが本作で長編映画デビューを果たした。
(“Historias del Kronen”から)
5)1997“Secretos del corazón”(邦題『心の秘密』)
*1997年ベルリン映画祭ヨーロッパ最優秀映画賞「嘆きの天使」賞受賞ほか、アカデミー賞外国語映画賞スペイン代表作品に選ばれたが、翌年のゴヤ賞では監督賞・脚本賞はノミネーションに終わった。
*1998年3月シネ・ヴィヴァン・六本木で開催された「スペイン映画祭‘98」上映作品
6)2001“Silencio roto”(「破られた沈黙」)監督・脚本
*トゥールーズ映画祭2001学生審査員賞、スペシャル・メンション受賞。ナント・スペイン映画祭2002ジュール・ヴェルヌ賞受賞。他
*1944年冬、21歳のルシア(ルシア・ヒメネス)は故郷の山間の村に戻ってくる。若い鍛冶職人マヌエル(フアン・ディエゴ・ボット)と再会するが、彼はフランコ体制に反対するレジスタンスのゲリラ兵「マキmaquis」を助けていたため追われて山中に身を隠す。監督の父親が農業のかたわら蹄鉄工でもあったことが背景にあるようです。“Historias del Kronen”で主役を演じたフアン・ディエゴ・ボットを再び起用、他に彼の姉マリア・ボットや、アルメンダリスお気に入りのベテラン女優メルセデス・サンピエトロが共演している。本作でシネマ・ライターズ・サークル賞2002の助演女優賞を受賞した。
(再会したルシアとフアン、“Silencio roto”から)
7)2005“Obaba”(「オババ」)監督・脚色(原作者との共同執筆)
*サンセバスチャン映画祭2005コンペティション正式出品、ゴヤ賞2006では作品賞を含む10部門にノミネーションされたが録音賞1個にとどまった。
*ベルナルド・アチャガが1988年にバスク語で発表した短編集『オババコアック』(翻訳書タイトル)の幾つかを再構成して映画化。映画は作家自らが翻訳したスペイン語版が使用された。女教師役のピラール・ロペス・デ・アジャラがACE賞2006の最優秀女優賞を受賞、彼女はゴヤ賞助演女優賞にもノミネートされている。現在公開中のカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』のヒロイン、バルバラ・レニーも新人女優賞にノミネートされた。
(ピラール・ロペス・デ・アジャラ、“Obaba”から)
8)2011“No tengas miedo”(「怖がらないで」)監督・脚本(ストリーはマリア・L・ガルガレリャと共作)
*カルロヴィ・ヴァリ映画祭2011コンペティション正式出品、シネマ・ライターズ・サークル賞2012作品賞・監督賞ノミネーション
*父親の娘に対する児童性的虐待がテーマ。父親にリュイス・オマール、娘シルビアには年齢(7歳、14歳、成人)ごとに3人に演じさせた。離婚して別の家庭をもった母親(ベレン・ルエダ)にも信じてもらえず、トラウマを抱えたまま成人したシルビアにミシェル・ジェンナーが扮した。この難しい役柄でシネマ・ライターズ・サークル賞2012とサン・ジョルディ賞2012の女優賞を受賞した。ゴヤ賞2012でも新人女優賞にノミネートされるなど彼女の代表作となっている。間もなくスペイン公開となるアルモドバルの新作“Julieta”にも出演している。
(左から、ベレン・ルエダ、ヌリア・ガゴ、監督、ミシェル・ジェンナー、リュイス・オマール)
○以上が長編映画8本のアウトラインです。受賞歴はアルメンダリス監督のみに限りました。
準備中の新作のテーマは霧のなか?
★監督の家族は〈赤い屋根瓦の家〉として知られていた精神科病院の前に住んでいた。モンチョが両親に「映画の道に進みたい」と打ち明けると、「息子をこの〈赤い屋根瓦の家〉に監禁しなくちゃ」と母親は考えたそうです(納得)。何しろパンプローナ理工科研究所の教師の職にあり安定した生活をしていたから、映画監督などとんでも発奮でした。37歳の長編デビューは当時としては遅咲きでした。『27時間』や“Historias del Kronen”のような若者群像をテーマにしたのは、かつて自分が教えていた若い世代にのしかかる危機が気にかかっていたからのようです。
★DAMA(Derechos de Autor Medios Audiovisuales 視聴覚著作権)、SGAE(Sociedad General de Autores y Editores 著作者と出版社の全体を総括する協会)の仕事に携わりながら教鞭をとっている。教えることが好きなのでしょう。引退したわけではなく常に映画のことを模索している。フアン・ディエゴ・ボットによると、二つほど企画中のプロジェクトがおじゃんになってしまったが、現在取り憑かれているテーマがあるそうです。
★「今どうしていると訊かれれば、映画のことを考えている」と答えている。「それは居心地よくワクワクするから。山ほど難問があるけれど、オプティミストになろうと努めている。人間的な善良さについての立派な映画や小説はあるけれども、私は自分たちが抱えている悩みや困難について語りたいと考えています」と監督。結局、長編第9作となる新作のテーマは明かされず、あれこれ類推するしかないようですが、フアン・ディエゴ・ボットを起用するのかもしれない。
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