巨大なゴヤ胸像のレプリカがグラナダに到着*ゴヤ賞2025 ⑦ ― 2025年01月17日 15:20
ゴヤ賞ガラを盛り上げようとゴヤの胸像のレプリカがグラナダに到着!
(ホアキナ・エグアラス大通りに置かれたレプリカ)
★第39回ゴヤ賞授賞式まで1ヵ月となった1月8日、グラナダの町に巨大なゴヤの胸像のレプリカ8個が到着した。レプリカの一つはホアキナ・エグアラス大通りに面したアンダルシア評議会州政府地方支所前に設置された。その他、観光名所のサン・ニコラス展望台、ヌエバ広場、グロリエタ・デ・アラビア、パセオ・デル・ビオロンなどに設置されたようです。また、巨大ゴヤ像に呼応して、同日「La Emoción de los Goya」のタイトルのもと、ゴヤ賞38年史を祝って過去38年間のゴヤ賞ガラのエモーショナルなフォト38枚が、グラナダのカレラ・デ・ラ・ビルヘン通りに展示された(ガラの終了する2月9日まで)。写真家はアルベルト・オルテガ、カルロス・アルバレス、エンリケ・シドンチャなど10名が手掛けた。グラナダ市民や訪問客が楽しめるようにということですが、巨大ゴヤ胸像にはびっくりです。
(ホセ・コロナドが『悪人に平穏なし』でゴヤ賞2012主演男優賞を受賞したときのフォト)
★新年3日には、ガラの総合司会を務めるマリベル・ベルドゥとレオノル・ワトリングがゴヤ賞宣伝に現地を訪れ、『テルマ&ルイーズ』よろしく、グラナダの文化遺産のスポットをオープンカーで走り回った。またホセ・コロナドの特別コラボレーションもアナウンスされた。コロナドのフォトが先頭を飾った理由が分かりました。
(どちらがテルマで、どちらがルイーズでしょうか)
(マリベル・ベルドゥとレオノル・ワトリング)
★1月14日には、ノミネート者を招いて行われる恒例の簡単な前夜祭が開催された。作品賞にノミネートされた監督5名、ダニ・デ・ラ・オルデン、マルセル・バレナ、ハビエル・マシぺ、アランチャ・エチェバリア、イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスも参加した。以下に小さくて分かりにくいですが、各チームのフォトをアップしておきます。写真家は上記のアルベルト・オルテガです。
(マルセル・バレナの「El 47」のチーム)
(イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスの「Segundo premio」のチーム)
(アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」のチーム)
(ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」のチーム)
(ハビエル・マシぺの「La estrella azul」のチーム)
アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」*ゴヤ賞2025 ⑥ ― 2025年01月15日 14:41
実話から生まれたフィクション――女性警察官ETAテログループ潜入記
(主人公アランサスに扮したカロリナ・ジュステを配したポスター)
★アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)と言えば、同性愛が禁じられていたロマ社会の十代のレズビアンの愛をテーマにしたデビュー作『カルメン&ロラ』でしょうか。2018年カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され、クィア賞とゴールデンカメラにノミネートされた作品。その後、国際映画祭巡りをして数々の受賞歴を誇り、ラテンビートFF2018でも上映された。ゴヤ賞2019新人監督賞を受賞、当時エチェバリアは50歳になっており、新人監督賞としては最年長の受賞者だった。作品紹介などは以下にアップしています。『カルメン&ロラ』以降のフィルモグラフィーは、監督賞にもノミネートされているので別途紹介を予定しています。
*『カルメン&ロラ』の作品、監督キャリア紹介は、コチラ⇒2018年05月13日
(ルイス・トサール、カロリナ・ジュステ、アランチャ・エチェバリア監督)
★デビュー作に唯一人プロの俳優として出演したのが、新作「La infiltrada」(潜入者)の主人公アランサス・ベラドレ・マリンを熱演したカロリナ・ジュステでした。監督のお気に入り女優、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。新作でも既にフォルケ賞2024主演女優賞を受賞しています。キャリア紹介は後述します。勿論アランサス・ベラドレ・マリンは偽名、スペイン史上で唯一テロ組織ETA(バスク祖国と自由)への潜入を成功させて生還した女性警察官の実話に基づいて製作された。データ・バンクによると、興行成績は約800万ユーロ(830万ドル)を突破した。
「La infiltrada」(英題「Undercover」)
製作:Beta Fiction Spain / Beta Films / Bowfinger International Pictures /
Infitrada LP AIE / Esto también pasará SLU / Atresmedia Cine / Film Factory Entertainment / Movistar Plus + / ICAA 他
監督:アランチャ・エチェバリア
脚本:アメリア・モラ、アランチャ・エチェバリア
(オリジナル・アイディア)マリア・ルイサ・グティエレス
撮影:ハビエル・サルモネス、ダニエル・サルモネス
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:ビクトリア・ラメルス
録音:マイテ・カブレラ、ファビオ・ウエテ、ホルヘ・カステーリョ・バリェステロス、
ミリアム・リソン
キャスティング:テレサ・モラ
メイク&ヘアー:パトリシア・ロドリゲス、パトリ・デル・モラル、マルビナ・マリアニ
(ヘアー)トノ・ガルソン
プロダクション・マネージメント:アシエル・ペレス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、ジョン・セラーノ、フリアナ・ラスンシオン
製作者:メルセデス・ガメロ(BFS)、マリア・ルイサ・グティエレス(Bowfinger)、パブロ・ノゲロレス、アルバロ・アリサ
(太字がゴヤ賞2025ノミネート者)
データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・バスク語、実話、スリラー、118分、撮影地バスク自治州、配給:Film Factory Entertainment、公開バレンシア、セビーリャ2024年9月30日、サラゴサ10月1日、スペイン一般公開10月11日
映画祭・受賞歴:フォルケ賞2024作品賞・価値ある教育賞ノミネート、主演女優賞受賞(カロリナ・ジュステ)、ASECAN賞2024(アランチャ・エチェバリア)、ゴヤ賞2025ノミネート13部門(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演女優・助演女優、助演男優・プロダクション・撮影・編集・メイク&ヘアー・録音・特殊効果賞)、フェロス賞2025(監督・主演女優・予告編賞ハビエル・モラレス)、シネマ・ライターズ・サークル賞9部門(作品・監督・女優・助演女優・助演男優・脚本・撮影・編集・作曲賞)
キャスト:カロリナ・ジュステ(アランサス・ベラドレ・マリン)、ルイス・トサール(アンヘル)、ディエゴ・アニド(セルヒオ)、イニィゴ・ガステシ(ケパ・エチェバリア)、ナウシカ・ボニン(アンドレア)、ペペ・オシオ(ボディ)、ホルヘ・ルエダ(マリオ)、ビクトル・クラビホ(テルエル)、カルロス・トロヤ(ソイド)、アシエル・エルナンデス(ホセバ)、ペドロ・カサブランク(警察担当班長)、他多数
ストーリー:1990年代のバスクを舞台に、新米警察官アランサス・ベラドレ・マリンは或る難しいミッションを果たすため、ETAバスク愛国主義のテロ組織にスパイとして送り込まれる。それは家族や友人との関係を断ち、人生を一時停止にすることに他ならなかった。数多くのテロ攻撃を準備する2人のテロリストと同じアパートに宿泊する必要があった。時には彼らが殺害した同僚警官の死を祝って乾杯しなければならなかった。常にいつ自分の身元が割れるかという恐怖のなかでの二重生活は8年間の長期に及んだ。
(ルイス・トサールとカロリナ・ジュステ、フレームから)
(潜入者との連絡担当官アンヘルを演じたルイス・トサール)
実在したアランサス・ベラドレ・マリンの肖像
★アランサス・ベラドレ・マリンは偽名(本名エレナ・テハダ)、22歳でアビラの警察アカデミーを卒業後、ETA の潜入部隊のメンバーに選ばれる。家族との関係を断ち、エタのメンバーに彼女が彼らの目的に共鳴してグループに入ったと信じ込ませることに成功する。リオハの県都ログローニュの良心的兵役拒否運動に潜入して、エタメンバーとの緊密な関係を築いた。1998年9月16日、ETAは「停戦協定」を結ぶが、これは組織立て直しの時間稼ぎの休戦であった。停戦中にもかかわらず彼らは秘密裏にテロ活動を継続しながら再武装に従事した。グループ内で特権的な立場にあったアランサスは、将来の重要なテロ計画書と協力者の情報を入手した。これにより、政府と治安部隊はETA の最も活動的なグループの一つである「ドノスティ・コマンド」を解体させるに至った。この情報はETAの内部構造理解にも寄与した。エタ組織への潜入に成功した唯一人のスペイン人警察官。アランサスは、現在国家警察に勤務しているが、スペインを去り、海外の大使館で家族と新しい人生を歩んでいる。
「2017年に警察官の友人を通じて知った」と製作者グティエレス
★エチェバリア監督によると「プロデューサーからアランサスの話を聞いたとき、私の心は直ぐに90年代の無意味な対立で罪のない犠牲者が増え続けていたバスクに戻りました。20歳を越したばかりの未だ経験の浅い女性警官が、たった一つのミスが死を意味する殺人者たちの世界に潜入した事実に驚きました。直ぐに監督したいと言いました。私たちの最近の辛い過去を思い出すために、彼女が現在どこにいようとも、感謝を捧げたいと思ったのです」と語った。
★プロデューサーとはBowfinger International Picturesのマリア・ルイサ・グティエレス、「私たちは、観客がこの匿名の女性の物語を知るに値すると信じています。公の援助なしに一般市民のために命を危険にさらして闘わねばならなかった。ある意味で彼女は人生の過去と未来を犠牲にして任務を果たした。ETA のテロリストのグループを解体し、さらには国家安全保障に貢献した。私は匿名で闘わざるを得なかった人々の視点で語られた映画を見たことがありませんでした。何故ならそれはタブーだったからです。今やっと語ることができる時代になったのです」。そして「潜入捜査をしていた8年間、彼女が抱えていた矛盾、恐怖、前進し続ける理由を観客に伝えたい」とグティエレスは付け加えた。
(ビクトル・クラビホ、助演女優賞ノミネートのナウシカ・ボニン)
★BFSの最高経営責任者CEOメルセデス・ガメロ、「この映画は、複雑な女性の多面的な視点から語られる。それは時代の肖像画にもなり、映画館で壮大な物語を楽しみたいと思う多世代の観客の興味を引くでしょう」と述べた。俳優たちが実在した人物に会うことが、如何に価値があるかを強調した。何故なら「それは作品に真実味を与えるからです」と。
★エチェバリア監督によると、「この作戦に関わった人々と接触し、綿密なリサーチ作業をした。ルイス・トサールが演じた潜入者との連絡担当者であるマニピュレーター、作戦に参加した警察官、テロ・グループを脱退したエタの元メンバーを取材した。本物のアランサスにアクセスする機会もあったが、敢えてしなかった」と。チャンスが訪れたときには、脚本が完成していて「私たちのアランサス」が既に出来上がっていたからのようです。実話から生まれた映画でもフィクションということでしょうか。
潜入することに同意したアランサスの「公共の利益」とは?
★エチェバリア監督がこの作品で追求したテーマの一つは、「何故若い警察官がこのような危険な任務に参加することに同意したのか」であった。家族、友人、ボーイフレンド、フィエスタなどと関係を断ち、ライオンの檻に飛び込むことにしたのか。彼女は「公共の利益」のためにそうしたのだが、「今日の私たちが理解するのは難しい」と監督。「医師として地球上の危険な地域を訪れ、他者を助ける国境なき医師団の仕事は理解できても、彼女のケースは難しい・・・」と。また潜入者が若い女性警官でなく男性だったら映画にしたか、という問いには「男性でも同じですが、彼女がスパイだと気づかれなかったのは、おそらく女性だったからだろう」と答えている。
★ビルバオ出身の監督は、「バスク地方の紛争は、私たちスペイン人がつい最近体験したことなのを忘れないでほしい。何が起こったのかを若い世代に伝える必要があります。この映画は対立が理解されるようにするという意図をもっています。アランサスを通してバスク地方の特に紛争の時代を政治的社会的に描きたかった」と製作意図を語っている。未だフランコ独裁政権だった1968年から2010年までの犠牲者は、829人が殺害され、2018年に解散するまで22,000以上が負傷している。
★当ブログでは、テーマをETAのテロに据えた作品として、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(2021年08月05日)、アイトル・ガビロンドのTVシリーズ「Patria」8話(2020年08月12日)、ボルハ・コベアガの「Negociador」(2015年01月11日)、ルイス・マリアスの「Fuego」(2014年12月11日)などを紹介しています。
キャスト紹介:カロリナ・オルテガ・ジュステ、1991年エストレマドゥラ州バダホス生れ、映画、TV、舞台女優、マドリードの王立高等演劇学校RESAD(1831年設立)とラ・マナダ演劇研究センターで演技を学ぶ。2014年、TVシリーズ出演でキャリアをスタートさせる。長編映画デビューはアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』(18)出演でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。エチェバリア監督の信頼が厚く、引き続き「La familia perfecta」(21)、「Chinas」(23)と4作に起用されている。
(アランサスを演じたカロリナ・ジュステ、「La infiltrada」から)
★他にカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(「Quién te cantará」18)、ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー『ライジング・スカイハイ』(「Hasta el cielo」20)、セクン・デ・ラ・ロサのデビュー作「El cover」(21)出演でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞した。マラガ映画祭2021に正式出品され観客賞を受賞したカロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」、ハイメ・ロサ―レスの「Girasoles silvestres」(22)、ダビ・トゥルエバが実在したカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラを描いた「Saben aquell」は、サンセバスチャン映画祭2023で上映、カタルーニャ語を短期間でマスターして撮影に及んで高評価を得た。ゴヤ賞2024主演女優賞にノミネートされるも受賞できなかったが、ガウディ賞とサンジョルディ賞を受賞した。新作「La infiltrada」では上述したフォルケ賞受賞の他、本命視されているゴヤ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。
(フォルケ賞のトロフィーを手にしたカロリナ・ジュステ、2024年フォルケ賞ガラ)
★太字のタイトル名は作品紹介をしています。ヒット作のTVシリーズ、舞台出演は割愛します。最近短編映画「Ciao Bambina」(24)を監督している。
*「Saben aquell」の紹介記事は、コチラ⇒2023年12月30日
*「Girasoles silvestres」の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月01日
*「El Cover」の紹介記事は、コチラ⇒2021年05月18日
*「Hasta el cielo」の紹介記事は、コチラ⇒2020年08月22日
ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」*ゴヤ賞2025 ⑤ ― 2025年01月08日 22:15
カタルーニャ語映画「Casa en flames」はシリアスコメディ
(スペイン語版ポスター)
★ゴヤ賞作品賞ノミネートのダニ・デ・ラ・オルデンのシリアスコメディ「Casa en flames」の言語はカタルーニャ語、前回アップしたマルセル・バレナの「El 47」も主要言語はカタルーニャ語でした。カルラ・シモンのデビュー作『悲しみに、こんにちは』(17)の成功以来、じりじり増えている印象です。カタルーニャ語映画の興行成績ナンバーワンは、シモンの2作め「Alcarràs」(22)の240万ユーロでしたが、6月28日に本作が公開されると尻上がりに数字を更新しつづけ、9月末には270万ユーロとなり、わずか3ヵ月で抜いてしまいました。製作に途中から参加したNetflix の配信が、10月23日から始まっているので投票には有利になるでしょう。残念ながら日本語字幕入りの配信は目下ありません。
(インタビューを受けるダニ・デ・ラ・オルデンとホセ・ペレス・オカーニャ)
★セレブな離婚女性モンセが、地中海に面したコスタ・ブラバのカダケスの家に2人の子供を呼び寄せて週末を過ごそうと計画する。建物の売却やら、まだ引きずっている恨みやら、いろいろあるにはあるが、それはさておき、何者にも週末を台無しにさせないと決心しています。どこの家庭にも少しの利己主義や秘密はありますが、なんとも嫌味な登場人物がモンセの家に集合することになる。
★ゴヤ賞ノミネートは8カテゴリー、うち5部門をキャスト陣が占めている。モンセにエンマ・ビララサウ(主演女優)、息子ダビにエンリク・アウケル(助演男優)、娘フリアにマリア・ロドリゲス・ソト(助演女優)、元夫カルレスにアルベルト・サン・フアン(主演男優)、さらに助演女優賞に息子のガールフレンドらしきマルタ役のマカレナ・ガルシアという布陣です。ほかのノミネートは、作品賞、オリジナル脚本賞(エドゥアルド・ソラ)、プロダクション賞(ライア・ゴメス)の3部門です。
「Casa en flames」(西題「Casa en llamas」、英題「A House on Fire」)
製作:3Cat / Atresmedia Cine / Eliofilm(伊)/ Sábado Pliculas(西)/
Playtime Movies(西)/ ICEC / ICAA / Netflix
監督:ダニ・デ・ラ・オルデン
脚本:エドゥアルド・ソラ
音楽:マリア・キアラ・カサ
撮影:ペペ・ゲイ・デ・リエバナ
編集:アルベルト・グティエレス
プロダクション・マネージメント:ライア・ゴメス
キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
美術:ヌリア・グアルディア
衣装デザイン:イシス・ベラスコ
メイクアップ&ヘアー:アンナ・アルバレス・デ・サルディ、エンマ・ラモス、(ヘアー)マリベル・ベルナレス
製作者:アルベルト・アランダ、アナ・エイラス、ダニ・デ・ラ・オルデン、キケ・マイジョ、アリエンス・ダムシ、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、トニ・カリソサ、ベルナト・サウメル
データ:製作国スペイン=イタリア、2024年、カタルーニャ語80%、スペイン語20%、シリアスコメディ、105分、撮影地カタルーニャ州ジローナ(ヘローナ)、公開スペイン6月28日、Netflix配信10月23日(日本語なし)
映画祭・受賞歴:バルセロナ・サンジョルディ映画祭 BCNFF 2024でワールド・プレミア、モンテカルロ・コメディFF2024作品賞受賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2024観客賞受賞、ディアス・デ・シネ賞(エンマ・ビララサウ)、他にゴヤ賞2025に8部門、フェロス賞2025に8部門、ガウディ賞2025に14部門にノミネートされている。
キャスト:エンマ・ビララサウ(モンセ)、エンリク・アウケル(息子ダビ)、マリア・ロドリゲス・ソト(娘フリア)、アルベルト・サン・フアン(元夫カルレス)、クララ・セグラ(ブランカ)、マカレナ・ガルシア(マルタ)、ホセ・ペレス・オカーニャ(トニ)、フィリッポ・コントリ(リカルド)、ゾエ・ミリャン(ジョアナ)、他多数
ストーリー:離婚した裕福な女性モンセは、長いあいだ母親を無視してきた2人の子供をカダケスの自宅に呼び寄せ、最後の週末を過ごす計画を立てる。自宅売却の可能性やら、恨みつらみの数々やら、どこの家族にも口に出してはいけない秘密はあるけれど、それはさておき、この週末は誰にも台無しにさせないと決心している。しかし、元夫も登場して・・・家族再会劇の行方は?
カタルーニャのブルジョア階級の欺瞞をやんわり批判
★批評家と観客の評価が分かれるのは珍しくありませんが、前者の80パーセント以上が好意的、フォルケ賞では観客賞を受賞するなど、双方に齟齬がない。キャストの演技をカンペキと褒める批評家が多数を占める。1作品で俳優賞5個ノミネートは珍しい。カタルーニャのブルジョア階級の痛烈なパロディではありますが、笑ってばかりはいられない。何しろ火の手が上がって燃えさかっている家なので本当は怖い話なのです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画としてはレベルが高そうですが監督賞に選ばれていませんので、今回はノミネートされているキャスト陣を中心に紹介しておきます。
(モンセ役のエンマ・ビララサウ、フレームから)
★カダケスで直ぐ思い出されるのがサルバドール・ダリ、彼はユニークな建物で有名なダリ美術館のあるフィゲラス出身ですがカダケスに別荘を所有しており、夏期にはここで過ごすことが多かった。詩人のガルシア・ロルカもひと夏を過ごしている。後にダリと結婚することになるポール・エリュアールの妻ガラとの出会いもカダケスのこの別荘でした。カタルーニャのお金持ちの別荘地というわけです。撮影場所にはバルセロナのカネ・デ・マルにあるホセ・アントニオ・コデルチが設計した建物カサ・ロビラも含まれている。邸内から地中海が見渡せる豪邸が舞台なのが観客を惹きつけているのかもしれません。
(カサ・ロビラ邸)
(息子ダビと娘フリア、カサ・ロビラの室内)
★モンセ役のエンマ・ビララサウ・トマスは、1959年バルセロナ生れ、映画、テレビ、舞台女優。1913年バルセロナ州議会によって設立された演劇研究所で演技を学ぶ。1980年カタルーニャTVのミニシリーズでキャリアをスタートさせ、テレビ界での活躍が続いた。長編映画デビューはジャウマ・バラゲロのホラー『ネイムレス無名恐怖』(99)、本作はシッチェス映画祭でプレミアされ、初出演で女優賞を受賞した他、ブタカ賞2000のカタルーニャ映画部門の女優賞も受賞した。次いでカンヌでワールド・プレミアされたお蔭で公開されたマリア・リポルの『ユートピア』(03)では、ナイワ・ニムリやアルゼンチンのレオナルド・スバラリアやエクトル・アルテリオと共演した。
★評価が定まったのは、パトリシア・フェレイラの「Para que no me olvides」(05)出演でした。三世代の家族関係を描いた力強いストーリー、建築科の学生、その母親と祖父、そして恋人、家族は交通事故で息子を失い、試練に立たされる。母親役で初めてゴヤ賞2006の主演女優賞にノミネートされた。受賞には至らなかったがトゥリア賞2006の女優賞、サンジョルディ賞2006のスペイン女優賞を受賞した。カタルーニャ語とスペイン語の他、フランス語もできるのが強みです。
★新作では結果が発表になったフォルケ賞はノミネートに終わり、これから始まるゴヤ賞、ガウディ賞、フェロス賞に期待がかかっている。ゴヤ賞に関しては、候補者ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアが受賞する可能性は低く、ライバルはフォルケ賞を受賞したカロリナ・ジュステでしょうか。パトリシア・ロペス・アルナイスは、最近受賞が続いているのでないと予想します。ガウディ賞は堅いでしょうがゴヤは微妙です。しかしTVシリーズ出演でお茶の間での知名度も高く、バルセロナ派の会員も増えているから蓋を開けてみないことには分からない。舞台女優としても活躍、モンジュイックのリウレ劇場で初演された、アーサー・ミラーの戯曲 "All My Sons" 主演で、2023年のブタカ賞女優賞を受賞した。
(ブタカ賞2023女優賞の受賞スピーチをするエンマ・ビララサウ)
★娘フリア役のマリア・ロドリゲス・ソトは、1986年バルセロナ生れ、映画、舞台女優。マラガ映画祭2019の作品賞である金のビスナガ賞を受賞したカルロス・マルケス=マルセの「Els dies que vindran」で長編映画デビュー、銀のビスナガ女優賞を受賞、ガウディ賞2020でも主演女優賞を受賞した。共演したダビ・ベルダゲルと結婚している。作品とキャリア紹介を受賞作にアップしております。
*「Els dies que vindran」作品紹介は、コチラ⇒2019年04月11日
(銀のビスナガ女優賞を受賞、マラガFF2019ガラにて)
★デビュー作以降のフィルモグラフィーは、カルレス・トラスの『パラメディック―闇の救急救命士』(20)の理学療法士役、クララ・ロケの『リベルタード』(21)、TVシリーズだがNetflixで視聴可能なダニエル・サンチェス・アレバロの『最後列ガールズ』(22、6話)、リリアナ・トーレスのコメディ「Mamífera」(24)ではエンリク・アウケルと夫婦役で共演している。彼女は母親になることに抵抗している妻、エンリクは父親になりたい夫を演じている。SXSW映画祭2024で特別審査員賞他を受賞している。ガウディ賞2025には二人揃って、こちらは主演俳優賞にノミネートされている。フェロス賞2025では本作で助演女優賞にノミネートです。
(母親モンセと、フレームから)
★元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアンは、1968年マドリード生れ、俳優、脚本家。マドリードのコンプルテンセ大学でジャーナリズムを学ぶ。日刊紙「ディアリオ16」で2年間働く。一纏めの紹介はしていないが、作品ごとにアップしている。長編映画デビューは1997年、フアンマ・バホ・ウジョアのハチャメチャ・コメディ「Airbag」、公開時は批評家から酷評されたが観客は大喜び、1997年の興行成績ナンバーワンになった。次いでビデオが発売されたマヌエル・ゴメス・ペレイラの『スカートの奥で』(99)、同年ミゲル・バルデムの『世界で一番醜い女』、今世紀に入るとエミリオ・マルティネス=ラサロの『ベッドの向こう側』(02)、続編『ベッドサイド物語』(05)、ラモン・デ・エスパーニャの『優しく殺して』(03)、ジャウマ・バラゲロの長たらしい邦題が笑えるサスペンス『スリーピング タイト~白肌の美女の異常な夜』(11)、主役のルイス・トサールの妄想ぶりでブレイクした。
*「Airbag」紹介記事は、コチラ⇒2021年02月18日
(元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアン、フレームから)
★ゴヤ賞関連では、マラガ映画祭2007でフェリックス・ビスカレットの「Bajo las estrellas」(金のビスナガ受賞作)に主演、男優賞を受賞した。そのまま人気が持続して翌年のゴヤ賞主演男優賞も受賞した。ほかフォトグラマス・デ・プラタ2008もゲットし、未公開なのが残念だったコメディドラマです。もう1作がセスク・ゲイの「Sentimental」で、2021年のゴヤ賞とガウディ賞の助演男優賞を受賞している。最新ニュースによると、『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトが英語版でリメイクするということです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画では、本作の他、Netflix配信『クレイジーなくらい君に夢中』(21)、「El test」(22)などがある。
*ビスカレットの「Bajo las estrellas」の紹介記事は、コチラ⇒2017年11月11日
*セスク・ゲイの「Sentimental」の紹介記事は、コチラ⇒2021年02月01日
(ゴヤ賞2008主演男優賞を受賞)
★息子ダビ役のエンリク・アウケル、1988年ジローナ生れ、俳優、脚本家。2009年ホアキン・オリストレルの『地中海式 人生のレシピ』で長編デビュー、その後TVシリーズ出演で知名度を上げ、パコ・プラサのガリシアの麻薬密売がらみの「Quien a hierro mata」(19)でルイス・トサールと共演、中央のマドリードで注目されるようになった。数々の受賞歴を誇り、例えばゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞2020では新人男優賞、ガウディ賞とフェロス賞では助演男優賞など。タイトルの意味は「剣を使う者は剣に倒れる」という格言の一部、因果応報、目には目をに近い復讐劇。以後、毎年のようにノミネート、受賞が続いている。
(マルタ役のマカレナ・ガルシアと、フレームから)
★マラガ映画祭2021短編部門のアレックス・サルダの「Fuga」で銀のビスナガ主演男優賞受賞、2022年TVシリーズ「Vida perfecta」でフェロス賞助演男優賞、オンダス賞男優賞、2024年パトリシア・フォントの「El maestro que prometió el mar」は、スペイン内戦時代の実話をもとに映画化された。理想主義的な若い教師を演じて、ゴヤ賞以下ガウディ賞、フェロス賞、サンジョルディ賞などにノミネートされた。賞には絡みませんが、ホアキン・マソンのコメディ「La vida padre」(22)では、記憶喪失の父親役カラ・エレハルデとタッグを組んでシェフ役に挑戦している。イサキ・ラクエスタの「Un año, una noche」(22)など話題作に引っ張り凧です。以上の作品はどれも字幕入りでは観られませんが、Netflixシリーズの『鉄の手』(24、8話)では脇役ですが目下配信中です。
(予期せぬ新人男優賞受賞に舞い上がるアウケル、ゴヤ賞2020ガラにて)
★マリア・ロドリゲス・ソトで紹介したように、リリアナ・トーレスの「Mamífera」では、ガウディ賞2025の主演男優賞にノミネートされている。今年も映画賞ガラで忙しいことになりそうです。コメディもドラマも演じ分けられる才能は貴重です。
★助演女優賞にマリア・ロドリゲスとダブルでノミネートされたマルタ役のマカレナ・ガルシア(マドリード1988年)は、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』で鮮烈デビュー、ゴヤ賞2013新人女優賞を受賞した。他、ロス・ハビスの『ホーリー・キャンプ!』(17)などでキャリア紹介をしています。
*マカレナ・ガルシアの紹介記事は、コチラ⇒2013年08月18日
*『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月07日
(マリア・ロドリゲスとマカレナ・ガルシア、フレームから)
(『ブランカニエベス』で新人女優賞に涙の止まらないマカレナ、ゴヤ賞2013ガラ)
最多ノミネーションの「El 47」*ゴヤ賞2025 ④ ― 2024年12月28日 16:59
マルセル・バレナとエドゥアルド・フェルナンデスの再タッグ!
★作品賞最有力候補「El 47」のマルセル・バレナは、前作「Mediterráneo」(21)の監督です。オスカル・カンプスというライフガードをモデルにした実話、地中海を横断するアフリカ難民を救助する人道支援組織NGOオープン・アームズの設立者、カンプスにエドゥアルド・フェルナンデスが扮した。バレナは新作にもフェルナンデスを起用している。舞台は1970年代のバルセロナ郊外トーレ・バロ、1950年代~60年代から移住が始まった地区、スペインでも最も貧しい州といわれるエストレマドゥーラやアンダルシアからの移住者が多いバリオである。彼らの家には水道も電気もありません。バルセロナ当局は市の一部と認めていないのでした。市の対応にうんざりした勇気ある住民たちの怒りが発端でした。前世紀の草の根運動の物語ながら今日的なテーマでもある。
★前作「Mediterráneo」はゴヤ賞とフォルケ賞の作品賞、男優賞にノミネートされましたが、ゴヤ賞はプロダクション・撮影・オリジナル歌曲賞の3賞、フォルケ賞は受賞できなかった。新作「El 47」は、去る12月14に既に結果発表のあったフォルケ賞で作品賞に輝いた。他に映画と価値観教育賞もゲット、男優賞にエドゥアルド・フェルナンデスが受賞したが、こちらはアイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」出演でした。
*「Mediterráneo」の作品&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2021年12月13日
(作品賞受賞スピーチをするマルセル・バレナ、フォルケ賞2024ガラ、12月14日)
「El 47」
製作: MediaPro Studio / 3Cat / ICEC / ICO / Movistar Plus+ / RTVE / Triodos Bank
監督:マルセル・バレナ
脚本:マルセル・バレナ、アルベルト(ベト)・マリニ
音楽:アルナウ・バタリェル(作曲)、バレリア・カストロ(歌曲)
撮影:アイザック・ビラ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
美術:マルタ・バザコ、クララ・ロセル・アベリョ
衣装デザイン:オルガ・ロダル、イランツェ・オルテス
メイクアップ&ヘアー:カルロ・トルナリア
視覚効果:ラウラ・カナルス、イバン・ロペス・エルナンデス
キャスティング:アンドレス・クエンカ、ルイス・サン・ナルシソ
プロダクション:カルロス・アポリナリオ
製作者:ハビエル・メンデス、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ、(エグゼクティブ)コンシャ・オレア、オリオル・サラ=パタウ(3Cat)、エバ・ガリード、他多数
データ;製作国スペイン、2024年、カタルーニャ語、スペイン語、ドラマ、実話、110分、撮影地バルセロナのカタルーニャ広場、バルセロナ市庁舎、トーレ・バロ近郊、期間2023年6月末~7月、配給A Coontracorriente Films、公開2024年9月6日、封切り1週間で€240.000を超えるヒット作、海外を含めた興行成績は、IMDb情報で3,278,603ドル
映画祭・受賞歴:第30回ホセ・マリア・フォルケ賞2024、作品賞(フィクション長編映画)、映画と価値観教育賞を受賞、第17回ガウディ賞2025、作品賞(カタルーニャ語映画)、監督・脚本・俳優賞など18部門ノミネート、第12回フェロス賞2025、脚本・助演女優(クララ・セグラ)・オリジナル・サウンドトラック賞の3部門ノミネート、第4回カルメン賞2025、作品賞(ノン・アンダルシア・プロダクション部門)ノミネート、第39回ゴヤ賞2025、作品賞以下14部門ノミネート
キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(マノロ・ビタル)、クララ・セグラ(妻カルメン)、ゾエ・ボナフォンテ(娘ジョアナ)、サルバ・レイナ(フェリピン)、オスカル・デ・ラ・フエンテ(アントニオ)、カルロス・クエバス(パスクアル)、ベッツィ・トゥルネス(アウロラ)、ビセンテ・ロメロ(オルテガ)、ダビ・ベルダゲル(セラ)、ボルハ・エスピノサ(エル・ルビオ)、カルメ・サンサ(ビラ夫人)、アイマル・ベガ(ジョセップ)、フランセスク・フェレル(弁護士)、ロロ・エレーロ(マティアス)、エバ・アリアス(フェリ)、マリア・モレラ(マル)、エレナ・フォルチュニー(合唱団指導者)、カルロス・オビエド(ペドリート)、フアン・オリバーレス(エレナ神父)、他トーレ・バロ地区のエキストラなど多数
ストーリー:バルセロナ1978年、トーレ・バロ地区のコミュニティ住民は、水道も電気もない生活にうんざりしている。バルセロナ市議会は公共交通機関の運行はできない、何故なら道路があまりに狭すぎる坂道て安全運行ができないと主張する。彼らの隣人の一人でバルセロナ交通局のバス運転手マノロ・ビタルは、当局の主張はウソで間違っていると、路線バス47番の車両をハイジャックしてデモを行おうとする。トーレ・バロはスペイン内戦を経て故郷を離れざるを得なかったエストレマドゥーラやアンダルシアの移民たちが作ったコミュニティ、彼らが受けた侮蔑と差別に激怒した男マノロ、ハイジャックした47番バス、そしてバリオの住民たちの運命や如何に? 実話にインスパイアされた市民参加型の草の根運動が語られる。
★2023年5月、制作会社メディアプロがバルセロナ近郊のトーレ・バロで、マルセル・バレナの「El 47」のエキストラ募集をすると発表した。6月末にクランクイン、7月中に撮影は終了した。約半世紀前の話とはいえ、現在世界中で起きている移民問題を考えると、きわめて今日的なテーマとも言えます。暗いニュースの多かったスペインでは庶民は元気のでるポジティブな映画を求めている。そういう意味ではプラスにはたらくだろう。ただエモーショナルな作品には違いないが結末は想定内だから、それがどう評価されるかです。下馬評では演技力のあるキャスト陣を揃えたこともあって評価は高い。
★事の発端は1978年5月7日に起きた。マノロ・ビタル(1923~2010)は路線バス47番をトーレ・バロ地区まで走らせた。1978年という年は、フランコ将軍の死去(1975年11月)にともない、約40年間に及ぶ独裁体制が終わりを告げた民主主義移行期にあたる。スアレス率いる民主中道連合UCA政権時代で、1982年ゴンサレス率いる社会労働党PSOEが政権をとる4年前にあたる。本作に出演するカルロス・クエバス扮するパスクアルは、1982年から1997年までバルセロナ市長を務めたパスクアル・マラガル(バルセロナ1941)、カタルーニャ労働者戦線の活動家にして反フランコ運動の人民解放戦線に参加している人物。本作を観たマラガルの家族は感動したと語っている。クエバスの演技は称賛されているが、残念ながらノミネートされなかった。
(カルロス・クエバス扮するパスクアル)
(左から、エドゥアルド・フェルナンデス、カルロス・クエバス、バレナ監督)
★マルセル・バレナ監督のキャリア&フィルモグラフィーは、前作「Mediterráneo」に譲ります。ゴヤ賞2025のノミネートは14カテゴリーと多数のためスタッフ陣については受賞発表後に予定し、キャストのうちマノロ・ビタルの妻カルメン役のクララ・セグラ(助演女優賞)と娘ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ(新人女優賞)を紹介しておきます。
(モデルになったマノロ・ビタル)
★マノロ・ビタル役のエドゥアルド・フェルナンデスは本作でのノミネートはなく、別作品「Marco」でのノミネートです。先述した通りフォルケ賞を受賞したばかりです。ゴヤ賞ノミネートは14回という常連さん、うちアレックス・オレの「Faust 5.0」で2002主演男優賞、セスク・ゲイの『イン・ザ・シティ』で2004助演男優賞、アメナバルの『戦争のさなかで』で2020助演男優賞と3賞している。ほかにアルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』ではサンセバスチャン映画祭2016の銀貝男優賞を受賞している。ノミネート作品を列挙すると21世紀のスペイン映画史になるほどです。タッグを組んだ監督には上記の他、マリアノ・バロッソ、ビガス・ルナ、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、アルモドバル、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、マルセロ・ピニェイロ、ダニエル・モンソンなどなどです。
*「Marco」紹介記事は、コチラ⇒2024年09月03日
*『スモーク・アンド・ミラーズ』紹介記事は、コチラ⇒2016年09月24日
*『戦争のさなかで』の主な紹介記事は、コチラ⇒2019年11月26日
(路線バス47番の運転手マノロ・ビタル、フレームから)
(トロフィーを手にしたフェルナンデス、フォルケ賞2024男優賞ガラ)
★クララ・セグラ・クレスポ:1974年バルセロナ生れ、映画、TV ,舞台女優、脚本家。アメナバルの『海を飛ぶ夢』(04)で初登場、尊厳死を法的に支援する尊厳死協会の職員ジュネ役だった。脇役だが字幕入りで見ることのできる作品が結構多い。例えば東京国際映画祭2008ナチュラルTIFF部門で上映された『フェデリコ親父とサクラの木』(原題「Cenizas del cielo」)、ギレム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)、ガウディ賞2017助演女優賞ノミネートのマルセル・バレナの『100メートル』、同じくガウディ賞ノミネートのオリオル・パウロの『嵐の中で』(18)、ダニ・デ・ラ・オルデンの『クレイジーなくらい君に夢中』(21)など。
★ほかにフォルケ賞2021の映画と価値観教育賞を受賞したダビ・イルンダインの「Uno para todos」(20)に出演、本作でもクレジットされているダビ・ベルダゲルやベッツィ・トゥルネスと共演している。最近ではエレナ・マルティンの「Creatura」でガウディ賞2024助演女優賞を受賞している。ガウディ賞ではマル・コルの「Tots volem el millor per a ella」(13)にノラ・ナバスと共演、ナバスが主演女優賞、セグラが助演女優賞を受賞している。
(夫婦役を演じたフェルナンデスとセグラ、フレームから)
★ゴヤ賞は、昨年の「Creatura」でノミネートされているので今回が2回目になります。そのほかガウディ賞とフェロス賞にノミネートされている。さらにゴヤ賞2025作品賞にノミネートされている、ダニ・デ・ラ・オルデンのカタルーニャ語映画「Casa en Flames / Casa en llamas」に再び起用されている。こちらの作品もガラまでには紹介記事を予定しています。
*「Creatura」の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月22日
*「Uno para todos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年04月16日
* ダビ・ベルダゲルとベッツィ・トゥルネスのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2020年04月16日
(ノラ・ナバスとクララ・セグラ、ガウディ賞2014ガラ)
★ゾエ・ボナフォンテ:2004年バルセロナ生れ、女優。長寿TVシリーズ「Amar es para siempre」(2013~24)でスタートを切る。2022年に42話出演している。ほかに「Escándalo, relato de una obsesión」(23、8話)に出演、本作で映画デビュー、ゴヤ賞のほかガウディ賞にもノミネートされているシンデレラガール。来年にはオルガ・オソリオの「El secreto del orfebre」でマリオ・カサスやミシェル・ジェンナーと共演する。評価はこれからです。
(ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ、フレームから)
(フェルナンデスやセグラと一緒にインタビューを受けるボナフォンテ、9月5日)
★数ある秋の映画祭のどこにも出品せず、いきなり劇場公開という珍しいケースがゴヤ賞でどこまで票を集められるか興味がわきます。上記のように第17回ガウディ賞はカタルーニャ語部門18カテゴリー、フェロス賞は3部門がノミネートされています。ガウディ賞は受賞間違いなしですが、ゴヤ賞はバルセロナ派のアカデミー会員は少ないのでフォルケ賞のようにはいかないか。
第39回ゴヤ賞2025ノミネーション発表*ゴヤ賞2025 ③ ― 2024年12月21日 18:08
最多ノミネーションはマルセル・バレナの「El 47」の14カテゴリー
★12月18日、予定通り第39回ゴヤ賞2025のノミネーションが発表になりました。カテゴリーは28と変化なく、最多ノミネーションはマルセル・バレナの「El 47」の14カテゴリー、続いてアランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」の13、イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスの「Segundo premio」の11、ペドロ・アルモドバルの「La habitación de al lado」(The Room Next Door)の10、パウラ・オルティスの「La virgen roja」の9、ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」と、ハビエル・マシぺの「La estrella azul」のそれぞれ8、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」の5カテゴリーでした。うち全くの未紹介作品が最多ノミネーションの「El 47」で実話に基づいているようです。ガラまでに作品紹介の予定です。
(ノミネーション発表するアルバロ・セルバンテスとナタリア・デ・モリーナ、12月18日)
★候補者のプレゼンターは、ナタリア・デ・モリーナとアルバロ・セルバンテスの2人、開催都市であるグラナダのカルメン・デ・ラ・ビクトリアで行われました。今回は両人ともノミネートはありません。フォトは昨年と同じ作品ポスターでの発表でした。初出のみにフォトを入れました。各カテゴリーとも5作品、初出には監督名を追加しました。ガラは2025年2月8日です。
*印は当ブログで作品紹介をしています。
*印は、12月14日開催された第30回ホセ・マリア・フォルケ賞2024の受賞作品&受賞者です。
*第39回ゴヤ賞2025ノミネーション*
◎作品賞
「Casa en flames」監督ダニ・デ・ラ・オルデン *(2025年01月08日)
製作:アルベルト・アランダ、アナ・エイラス、アリエンス・ダムシ、キケ・マイジョ、
ダニ・デ・ラ・オルデン、ベルナト・サウメル、トニ・カリソサ、
ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ
「El 47」監督マルセル・バレナ * *(2024年12月28日)
製作:ハビエル・メンデス、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ
「La estrella azul / The Blue star」監督ハビエル・マシぺ *(2023年08月09日)
製作:アメリア・エルナンデス、エルナン・ムサルッピ、シモン・デ・サンティアゴ
「La infiltrada」監督アランチャ・エチェバリア *(2025年01月15日)
製作:アルバロ・アリサ、マリア・ルイス・グティエレス、メルセデス・ガメロ、
パブロ・ノゲロレス
「Segundo premio」監督イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス *(2024年03月14日)
製作:クリストバル・ガルシア
◎監督賞
ペドロ・アルモドバル「La habitación de al lado」『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』 *
アランチャ・エチェバリア「La infiltrada」
パウラ・オルティス「La virgen roja」
アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ「Marco」 *
イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲス「Segundo premio」
◎新人監督賞
ミゲル・ファウス「Calladita」
ペドロ・マルティン=カレロ「El llanto」(邦題『叫び』) *
ハビエル・マシぺ「La estrella azul」
サンドラ・ロメロ「Por donde pasa el silencio」
パス・ベガ「Rita」
◎オリジナル脚本賞
エドゥアルド・ソラ「Casa en flames」
アルベルト・マリニ&マルセル・バレナ「El 47」
ハビエル・マシぺ「La estrella azul」
アメリア・モラ&アランチャ・エチェバリア「La infiltrada」
アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホルヘ・ヒル・ムナリス、ホセ・マリ・ゴエナガ「Marco」
◎脚色賞
アレックス・モントーヤ、ジョアナ M. オルトゥエタ「La casa」*
ペドロ・アルモドバル「La habitación de al lado」
ピラール・パロメロ「Los destellos」監督ピラール・パロメロ *
マル・コル、バレンティナ・ビソ「Salve María」監督マル・コル
イシアル・ボリャイン、イサ・カンポ「Soy Nevenka」監督イシアル・ボリャイン *
◎オリジナル作曲賞
アルナウ・バタリェル「El 47」
アルトゥロ・カルデルス「Guardiana de Dragones-Dragonkeeper」アニメーション
監督Li Jianping(李建平)&サルバドール・シモ
アルベルト・イグレシアス「La habitación de al lado」
フェルナンド・ベラスケス「La infiltrada」
セルヒオ・デ・ラ・プエンテ「Verano en diciembre」
◎オリジナル歌曲賞
Show me - 作曲家:フェルナンド・ベラスケス「Buffalo Kids」アニメーション
監督フアン・ヘスス・ガルシア・ガローチャ”ガロ”、ペドロ・ソリス
El borde del mundo - 作曲家:バレリア・カストロ「El 47」
Los Almendros - 作曲家:アントン・アルバレス&イェライ・コルテス
「La guitarra flamenca de Yerai Cortés」
La Virgen Roja - 作曲家:マリア・アルナル「La virgen roja」
Love is the worst - 作曲家:アロンドラ・ベントレー、イサキ・ラクエスタ「Segundo premio」
◎主演男優賞
アルベルト・サン・フアン「Casa en flames」
エドゥアルド・フェルナンデス「Marco」 *
アルフレッド・カストロ「Polvo serán」監督カルロス・マルケス=マルセ
ウルコ・オラサバル「Soy Nevenka」
ビト・サンス「Volveréis」監督ホナス・トゥルエバ *
◎主演女優賞
エンマ・ビララサウVilarasau「Casa en flames」
ジュリアン・ムーア「La habitación de al lado」
ティルダ・スウィントン「La habitación de al lado」
カロリナ・ジュステ「La infiltrada」
パトリシア・ロペス・アルナイス「Los destellos」
◎助演男優賞
エンリク・アウケル「Casa en flames」
サルバ・レイナ「El 47」
オスカル・デ・ラ・フエンテ「La casa」
ルイス・トサール「La infiltrada」
アントニオ・デ・ラ・トーレ「Los destellos」
◎助演女優賞
マカレナ・ガルシア「Casa en flames」
マリア・ロドリゲス・ソト「Casa en flames」
クララ・セグラ「El 47」
ナウシカア・ボニン「La infiltrada」
アイシャ・ビリャグラン「La virgen roja」
◎新人男優賞
オスカル・ラサルテ「¿Es el enemigo? La pelicula de Gila」監督アレクシス・モランテ
クティ・カラバハル「La estrella azul」
ペペ・ロレンテ「La estrella azul」
クリスタリノ「Segundo premio」
ダニエル・イバニェス「Segundo premio」
◎新人女優賞
ゾエ・ボナフォンテ「El 47」
マリエラ・カラバハル「La estrella azul」
マリナ・ゲロラ「Los destellos」
ラウラ・ヴァイスマール「Salve María」
ルシア・ベイガ「Soy Nevenka」
◎プロダクション賞
ライア・ゴメス「Casa en flames」
カルロス・アポリナリオ「El 47」
アシエル・ペレス・セラノ「La infiltrada」
カティ・マルティ・ドノグエDonoghue「La virgen roja」
カリオス・アモエド「Segundo premio」
◎撮影監督賞
アイザック・ビラ「El 47」
エドゥ・グラウ「La habitación de al lado」
ハビエル・サルモネス「La infiltrada」
タクロ・タケウチ「Segundo premio」
グリス・ホルダナ「Soy Nevenka」
◎編集賞
ナチョ・ルイス・カピリャス「El 47」
ハビエル・マシぺ、ナチョ・ブラスコ「Los destellos」
ビクトリア・ラマーズ「La infiltrada」
フェルナンド・フランコ「Los pequeños amores」監督セリア・リコ・クラベリーノ *
ハビ・フルトス「Segundo premio」
◎美術賞
マルタ・バザコ「El 47」
インバル・ワインバーグ「La habitación de al lado」
ハビエル・アルバリニョ「La virgen roja」
ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ「Segundo premio」
ミゲル・アンヘル・レボーリョ「Volveréis」
◎衣装デザイン賞
エステル・パラウダリエス、ヴィニエト・エスコバル「Disco, Ibiza, Locomía」
監督キケ・マイジョ
イランツェ・オルテス、オルガ・ロダル「El 47」
ビナ・ダイヘレル「La habitación de al lado」
アランチャ・エスケロ「La virgen roja」
ルルデス・フエンテスLourdes「Segundo premio」
◎メイクアップ&ヘアー賞
カロル・トルナリア「El 47」
モラグ・ロス、マノロ・ガルシア「La habitación de al lado」
パトリシア・ロドリゲス、トノ・ガルソン「La infiltrada」
エリ・アダネス、パコ・ロドリゲス・フリアス「La virgen roja」
カルメレ・ソレル、セルヒオ・ペレス・ベルベル、ナチョ・ディアス「Marco」
◎録音賞
アマンダ・ビリャビエハ、ホアキン・ラハデル、他「La estrella azul」
セルヒオ・ビュルマン、アンナ・ハリントン、マルク・オルツ「La habitación de al lado」
ファブロ・ウエテ、ホルヘ・カスティーリョ・バリェステロス、他「La infiltrada」
コケ・F.ラエラ、アレックス・F.カピリャ、他「La virgen roja」
ディアナ・サグリスタ、エバ・ベリニョ、他「Segundo premio」
◎特殊効果賞
ラウラ・カナルス、イバン・ロペス・エルナンデス「El 47」
Li Xin「Guardiana de Dragones-Dragonkeeper」
マリアノ・ガルシア・マーティ、ジョン・セラノ、他「La infiltrada」
ラウル・ロマニリョス、フアンマ・ノガレス「La virgen roja」
ジョン・セラノ、マリアノ・ガルシア・マーティ、他「Marco」
◎アニメーション賞
「Buffalo Kids」
「Guardiana de Dragones-Dragonkeeper」
「Mariposas Negras」監督ダビ・バウテ *
「Rock Bottom」監督マリア・トレノル
「SuperKlaus」監督アンドレア・セバスティア、スティーブ・マジョーリー
◎ドキュメンタリー賞
「Domingo Domingo」監督ラウラ・ガルシア・アンドレウ
「La guitarra flamenca de Yerai Cortés」
「Marisol, llámame Pepa」監督ブランカ・トレス
「Mi hermano Ali」監督パウラ・パラシオス
「No estás sola」監督アルムデナ・カラセド、ロベルト・バハル
◎イベロアメリカ映画賞
「Agarrarme fuerte」ウルグアイ、監督アナ・ゲバラ・ポセ、レティシア・ホルヘ・ロメロ
「Ainda estou aqui / Aún estoy aquí」ブラジル、監督ウォルター・サレス *
「El jockey」『キル・ザ・ジョッキー』アルゼンチン、監督ルイス・オルテガ *
「El lugar de la otra」『イン・ハー・プレイス』チリ、マイテ・アルベルディ *
「Memorias de un cuerpo que arde」コスタリカ=スペイン、
監督アントネリャ・スダサシ・フルニス
◎ヨーロッパ映画賞
「El Conde de Montecristo」フランス、
監督アレクサンドル・ド・ラ・パトリエール&マチュー・デラポルテ 公開未定
「Emilia Pérez」フランス、監督ジャック・オーディアール *
(2025年3月28日公開予定)
「Flow」ラトビア=フランス=ベルギー、監督ギンツ・ジルバロディス、アニメーション
(2025年3月14日公開予定)
「La Quimera」『墓泥棒と失われた女神』イタリア、監督アリーチェ・ロルヴァケル、公開
「La zona de interés」『関心領域』イギリス、監督ジョナサン・グレイザー、公開 *
◎短編映画賞
「Betiko gaua / La noche eterna」(18分)監督エネコ・サガルドイ
「Cuarentena」(6分)監督セリア・デ・モリナ
「El Trono」(13分)監督ルシア・ヒメネス
「La gran obra」(20分)監督アレックス・ロラ
「Mamántula」(48分)監督イオン・デ・ソサ
◎短編ドキュメンタリー賞
「Ciao Bambina」(18分)監督アフィオコ・グネッコ、カロリナ・ジュステ
「Els Buits」(19分)監督イサ・ルエンゴ、マリナ・フレイシャ・ロカ、ソフィア・エステべ
「Las novias del sur」(40分)監督エレナ・ロペス・リエラ
「Los 30(no)son los nuevos 20」(20分)監督フアン・ビセンテ・カスティリェホ・ナバロ
「Semillas de Kivu」(29分)監督カルロス・バリェ、ネストル・ロペス
◎短編アニメーション賞
「Cafune」(7分)監督カルロス・フェルナンデス・デ・ビゴ、ロレナ・アレス
「El cambio de rueda」(9分)監督ベゴーニャ・アロステギ
「La mujer ilustrada」(8分)監督イサベル・エルゲラ
「Lola, Lolita, Lolaza」(9分)監督マベル・ロサノ
「Wan」(13分)監督ビクトル・モニゴテ
★以上が28カテゴリーの全リストです。マラガ映画祭のノミネート作品から多くが選ばれており、例えばアニメーションでは、サルバドール・シモ&李建平の「Dragonkeeper」はオープニング作品だったし、マリア・トレノルの「Rock Bottom」、ホナス・トゥルエバ、セリア・リコ・クラベリーノも、マラガでプレミアされた作品でした。
アイタナ・サンチェス=ヒホンにゴヤ栄誉賞2025*ゴヤ賞2025 ② ― 2024年12月17日 10:34
ゴヤ栄誉賞の女性最年少受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンの軌跡
(ゴヤ栄誉賞2025受賞が発表された、10月17日フォトコール)
★前回に引き続き、ゴヤ栄誉賞受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホンのキャリア&フィルモグラフィー紹介です。授賞理由、記者会見での受賞者コメントは前回に譲りますが、折に触れて紹介してきた記事と重なる部分があります。生涯功労賞の意味合いもある賞ですから56歳になったばかりは如何にも若い。それに現役バリバリですからフィルモグラフィーもこれで終わりにはならない。授賞発表が誕生日直前だったので55歳受賞になります。10年前の2015年、54歳という若さで受賞を打診されたアントニオ・バンデラスは最初固辞した経緯がありましたが、今回はすんなりいった。フアン・カルロス・フィッシャー演出の「La madre」の舞台に上がる寸前に、映画アカデミー会長から電話で知らせを受けたと語っている。
★アイタナ・サンチェス=ヒホン・デ・アンジェリス:映画、舞台、TVの女優。1968年11月5日、フランコ独裁を逃れてイタリアに亡命していたスペイン人の歴史学者でスペイン語翻訳家の父アンヘル・サンチェス=ヒホン・マルティネスと、イタリア人の数学教授フィオレラ・デ・アンジェリスの娘としてローマで生まれた。クリスチャンネームは、27年世代を代表する詩人で戯曲家のラファエル・アルベルティが名付け親、彼の娘アイタナ・アルベルティから採られた。イタリアとスペインの二重国籍、2002年造形アーティストのパピン・ルッカダンと結婚したが、2020年に離婚していたことを昨年の誕生会で明らかにした。2人の子供は既に成人している。1998年ホセ・ルイス・ボラウの後を継いで、女性初となるスペイン映画アカデミー会長を短期間だが務めている(~2000)。ローマ在住。
(毎回ベストドレッサーに選ばれるアイタナ、デザインはカロリナ・エレーラ、
宝石はカルティエ、ゴヤ賞2023ガラ、助演男優賞プレゼンターでした)
★フィルモグラフィー:劇場公開、ネット配信、DVD発売など邦題のある作品を中心に、未公開だが受賞歴のある作品、TVシリーズの話題作も含めて年代順にアップします。1986年、TVシリーズ、ペドロ・マソの「Segundo enseñanza」(13話)のうち7話に出演、キャリアをスタートする。続いて同年ホセ・マリア・フォルケの現実とフィクションを取り交ぜた「Romanza final(Gayarre)」で映画デビューした。19世紀のテノール歌手フリアン・ガヤレのビオピック、フリアンにホセ・カレーラスが扮した。アントニオ・ヒメネス=リコ、フェルナンド・フェルナン・ゴメス、そして1989年フェルナンド・コロモのコメディ「Bajarse al moro」でアントニオ・バンデラス、フアン・エチャノベ、ベロニカ・フォルケと共演、その演技が注目された。ペドロ・デ・ラ・ソタの「Viento de cólera」で主演、ムルシア・スペイン映画週間でパコ・ラバル女優賞を受賞した。
(4人とも若い、ベロニカは既に旅立っている、「Bajarse al moro」から)
★90年代にはいると、主役、準主役に抜擢され、受賞には至らずとも国際映画祭でのノミネートも増えていきました。1993年は特に収穫の年で、アントニ・ベルダゲルの「Havanera 1820」でシネマ・ライターズ・サークル女優賞、ピラール・ミロの「El pájaro de la felicidad」でメルセデス・サンピエトロの義理の娘を好演、メキシコのアルフォンソ・アラウの『雲の中で散歩』でキアヌ・リーヴスと共演、フォトグラマス・デ・プラタ女優賞ノミネート、アドルフォ・アリスタラインの「La ley de la frontera」のジャーナリスト役、マヌエル・ゴメス・ペレイラの『電話でアモーレ』で共演のハビエル・バルデム(ゴヤ賞受賞他多数)と揃ってACEプレミアを受賞した。筆名クラリン(レオポルド・アラス)の同名小説「La Regenta」(『ラ・レヘンタ/裁判官夫人』)をドラマ化したTVミニシリーズ(3話)でカルメロ・ゴメスと共演、共にフォトグラマス・デ・プラタ(TV部門)の女優、男優賞をそれぞれ受賞、さらに彼女はスペイン俳優組合の主演女優賞も受賞した。現在のスペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテが監督と脚色を手掛けた話題作で、当時のお茶の間を釘付けにした。
(キアヌ・リーヴスと『雲の中で散歩』から)
(ドラマ「La Regenta」の裁判官夫人に扮したアイタナ)
★ハイメ・チャバリの「Sus ojos se cerraro y el mundo sigue andando」、アルゼンチンのフアン・ホセ・カンパネラのサスペンス『ラブ・ウォーク・イン』(「Ni el tiro del final」)の歌手役、ビセンテ・アランダの「Celos」、ビガス・ルナの「La camarera del Titanic」でトゥリア女優賞、ロルカの戯曲を映画化したメキシコのマリア・ノバロの「Yerma」では主人公イェルマ、夫フアンにフアン・ディエゴが扮した他、ギリシャのイレネ・パパスが老婆役で共演した。特筆すべきはビガス・ルナの『裸のマハ』のアルバ公爵夫人役でサンセバスチャン映画祭1999女優賞を受賞したが、ゴヤ賞にはノミネートさえされなかった。
(ゴヤ役のホルヘ・ぺルゴリアとアルバ公爵夫人のアイタナ)
★今世紀に入ると海外の監督からのオファーも多くなり、イタリアのガブリエレ・サルヴァトレスのミステリー『ぼくは怖くない』(「Io non ho paura」)、妊娠7カ月で撮影に臨んだエドゥアルド・コルテスの「Carta mortal」、アメリカのブラッド・アンダーソンのサイコスリラー『マシニスト』(バルセロナ映画祭主演女優賞)、アルゼンチンのルイス・プエンソの『娼婦と鯨』など、公開あるいは未公開だがDVDが発売され、日本でも字幕入りで見られる映画が増えていった。
★2000年後半、コルド・セラのホラー「Bosque de sombras」、ベントゥラ・ポンスの『密会1723号室』ではホセ・コロナドと共演、ゴンサロ・スアレスの「Oviedo Express」は、かつてTVでドラマ化されたクラリンの「La Regenta」をベースにして、舞台上演のため巡業している役者たちがオビエド急行でアストゥリアスに向かっているというロマンティック・コメディ。アイタナもカルメロ・ゴメスも同じ役で共演した。イタリアのシルヴィオ・ムッチーノ監督が主役も演じた「Parlami d'amore」(イタリア語)ではフランス人の人妻役だった。役柄によってスペイン人、イタリア人、フランス人を演じ分けた。
★2011年、パコ・アランゴのコメディ「Maktub」では、アルゼンチンのディエゴ・ペレッティとタッグを組み、アランゴはゴヤ賞新人監督賞にノミネートされた。イタリア映画だがマッテオ・ロヴェーレのラブコメ「Gli sfiorati」は未公開ながら『妹の誘惑』の邦題でDVD化されている。その後演劇にシフトして銀幕から遠ざかり、2018年のパトリシア・フェレイラの『ティ・マイ~希望のベトナム~』で戻ってきた。主役はカルメン・マチだが、ネットフリックスで配信された。アルモドバルの『パラレル・マザーズ』(ゴヤ賞2022助演女優賞ノミネート、フェロス賞とイベロアメリカ・プラチナ賞受賞)、フラン・トーレスの『ラ・ヘファ:支配する者』、アントニオ・メンデス・エスパルサの「Que nadie duerme」(スペイン俳優組合&フェロス賞助演女優賞ノミネート)と受賞やノミネートが続いている。
(「Que nadie duerme」出演で、フェロス賞2024助演女優賞ノミネート)
★他に、サラゴサ映画祭2004サラゴサ市賞、アルメリア映画祭2022アルメリア・ティエラ・デ・シネ賞を受賞している。現在ネットフリックスTVシリーズ『レスピーラ/緊急救命室』(全16話)が8月から配信されている。主人公に『エリート』出演で人気上昇中のマヌ・リオス、アイタナの他ナイワ・ニムリ、ブランカ・スアレス、ボルハ・ルナなどベテラン勢が脇を固めているが、評価は厳しいか。
◎主なフィルモグラフィー(TVシリーズ、短編は除く)
1986「Romanza final(Gayarre)」ホセ・マリア・フォルケ
1987「Redondela」ペドロ・コスタ
1988「No hagas planes con Marga」ラファエル・アルカサル
「Remando al viento」ホラー、『幻の城 バイロンとシェリー』ゴンサロ・スアレス、
英語、公開
「Jarrapellejos」アントニオ・ヒメネス=リコ
1989「Bajarse al moro」コメディ、フェルナンド・コロモ
「El mar y el tiempo」フェルナンド・フェルナン・ゴメス
「Viento de cólera」ペドロ・デ・ラ・ソタ、
ムルシア・スペイン映画週間パコ・ラバル女優賞
1991「El laberinto griego」ラファエル・アルカサル
1992「El marido perfecto」ベダ・ドカンポ・フェイホー
1993「Havanera 1820」キューバ合作、アントニ・ベルダゲル、
シネマ・ライターズ・サークル女優賞
「El pájaro de la felicidad」ピラール・ミロ
1995「Un paseo por las nubes」『雲の中で散歩』メキシコ=米、アルフォンソ・アラウ、
公開1995
「La ley de la frontera」アルゼンチン合作、アドルフォ・アリスタライン
「Boca a boca」『電話でアモーレ』マヌエル・ゴメス・ペレイラ、公開1997
1997「Sus ojos se cerraro y el mundo sigue andando」アルゼンチン合作、
ハイメ・チャバリ
「Ni el tiro del final」『ラブ・ウォーク・イン』米=アルゼンチン、
フアン・ホセ・カンパネラ、英語、未公開、ビデオ発売1999
「La camarera del Titanic」仏=伊=独=西、ビガス・ルナ、トゥリア女優賞1998
1998「Yerma」ピラール・タボラ
1999「Celos」ビセンテ・アランダ
「Volavérunt」『裸のマハ』ビガス・ルナ、サンセバスチャン映画祭1999女優賞
2000「Sin dejar huella」メキシコ合作、マリア・ノバロ
2001「Mi dulce」イタリア合作、ヘスス・モラ・ガマ
「Hombres felices」ロベルト・サンティアゴ
2003「Io non ho paura」」『ぼくは怖くない』伊=西=米、スリラー、
ガブリエレ・サルヴァトレス、イタリア語、公開2004
2003「Carta mortal」クライム、エドゥアルド・コルテス
2004「El maquinista」『マシニスト』米合作、サイコスリラー、ブラッド・アンダーソン、
英語・スペイン語、バルセロナ映画女優賞、公開2005
2004「La puta y la ballena」『娼婦と鯨』アルゼンチン合作、ルイス・プエンソ、
未公開、DVD発売
2006「Bosque de sombras」スリラー、コルド・セラ
「Animales heridos」『密会1723号室』ベントゥラ・ポンス、未公開、DVD発売
2007「Oviedo Express」コメディ、ゴンサロ・スアレス
「La carta esférica」イマノル・ウリベ、ペレス=レベルテの小説の映画化
2008「Parlami d'amore」(スペイン題「Háblame de amor」)イタリア合作、
シルヴィオ・ムッチーノ、イタリア語
2011「Maktub」アルゼンチン合作、パコ・アランゴ
「Gli sfiorati」『妹の誘惑』ラブコメ、イタリア、マッテオ・ロヴェーレ、
イタリア語、DVD発売
2018「Thi Mai, rumbo a Vietnam」『ティ・マイ~希望のベトナム』
パトリシア・フェレイラ、Netflix 配信
2021「Madres paralelas」『パラレル・マザーズ』ペドロ・アルモドバル、
ゴヤ賞2022助演女優賞ノミネート、フェロス賞&イベロアメリカ・プラチナ賞受賞
2022「La jefa」『ラ・ヘファ:支配する者』フラン・トーレス、Netflix 配信
2023「Mi otro Jon」パコ・アランゴ
「Que nadie duerme」ルーマニア合作、アントニオ・メンデス・エスパルサ、
フェロス賞助演女優賞ノミネート
*「Que nadie duerme」とアイタナ・サンチェス=ヒホン紹介は、コチラ⇒2024年01月11日
*スペイン映画アカデミー金のメダル受賞記事は、コチラ⇒2015年08月01日/11月20日
(金のメダル2015をフアン・ディエゴと受賞する)
★ゴヤ賞2025ノミネート発表は、昨年より大分遅れましたが、現地グラナダから12月18日11:00とアナウンスされました。現地発表は今回が初、例年はマドリードの本部ですから珍しい。司会者はナタリア・デ・モリーナとアルバロ・セルバンテスの二人。
第39回ゴヤ賞2025栄誉賞にアイタナ・サンチェス=ヒホン*ゴヤ賞2025 ① ― 2024年12月09日 11:41
総合司会者にベテラン女優マリベル・ベルドゥとレオノール・ワトリング
(アイタナ・サンチェス=ヒホン)
★第39回ゴヤ賞2025の授賞式は、既に2月8日(土)のグラナダ開催が決まっておりました(グラナダ展示会議宮殿にて開催)。今年はノミネーション発表が遅れていますが、10月8日、スペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテ、グラナダ市長マリフラン・カラソ、副会長ラファエル・ポルテラ、グラナダ市議会文化評議員フアン・ラモン・フェレイラなどが出席して、イスラム建築であるサント・ドミンゴの王の間にてゴヤ賞の大枠が発表されました。
(映画アカデミー会長メンデス=レイテ、グラナダ市長マリフラン・カラソ)
★11月13日、ガラ当日の総合司会者の発表がありました。マリベル・ベルドゥとレオノール・ワトリング、日本でも公開作品の多い知名度抜群の女優二人が仕切ることになりました。
(総合司会者マリベル・ベルドゥ、レオノール・ワトリング)
★マリベル・ベルドゥ(マドリード1970)は「レオノールと私は親友同士、私たちは共にエネルギッシュです。二人ともやるべき仕事を理解しており、チームを組んでやります。だからガラでは、ご覧になってくださる方々が楽しめるよう司会することに務めます。ゴヤ賞という特別な夕べに愛をこめて取りくみます。どうか上手くいきますように!」と表明した。
*ゴヤ賞ではビセンテ・アランダの『アマンテス』(91)で初ノミネートされてから何回も対抗馬に敗れ、グラシア・ケレヘタの「Siete mesas de billar francés」(07)が「5度目の正直」となって受賞するまでの道程が長かった。しかしその後の怒涛の受賞歴は以下のキャリア紹介に譲ります。
*マリベル・ベルドゥのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2014年04月07日
★レオノール・ワトリング(マドリード1975)は「ゴヤ賞のガラに、私が尊敬するマリベルと一緒に司会することが夢でした。名誉なことでありますが責任も感じています。素晴らしいシナリオ作家たちが私たちと一緒だなんて何と力強いことでしょう!」と強調しました。やはりガラ全体を構成する脚本家の良し悪しが鍵を握っています。
*ゴヤ賞関連では、アントニオ・メルセロの「La hora de los valientes」(98)、イネス・パリス他の『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』(02)でノミネートされただけです。デビューは1990年代初めですが、ビガス・ルナの『マルティナは海』(01)で日本初登場、次いで翌年アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』でブレイクした。バンド Marlango のボーカルとしても活躍している。
*レオノール・ワトリングのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年06月11日
ゴヤ栄誉賞2025の受賞者アイタナ・サンチェス=ヒホン
★11月17日、スペイン映画アカデミーは、ゴヤ賞2025ゴヤ栄誉賞受賞者にアイタナ・サンチェス=ヒホン(ローマ1968)をアナウンスしました。映画のみならず舞台、TVシリーズで40年に及ぶキャリアの持ち主です。アカデミー理事会は「最初から仲間から愛され、尊敬され、批評家のみならず観客からの評価も高い」、メンデス=レイテ会長は「真面目で責任感が強く、有能で親密、すべての作品に誠実さと深みを与える方法を熟知している」ことを授賞理由に挙げました。
(インタビューを受ける受賞者、プレス会見にて)
★一方、アイタナは授賞の知らせに「圧倒され、とても感謝して幸せに浸っています」とコメント、また女優にとって栄誉賞は「名誉であり、仲間から愛されていると感じられる、映画ファミリーの一員であることを意味します。プロとして40年が経ちましたが、自分が愛されていると感じて感動しています。これからの前進の励みになります」と語った。
(メンデス=レイテ会長とアイタナ・サンチェス=ヒホン)
★過去の女性受賞者は8名、うち直近10年間の受賞者が5対5と男性と拮抗していて、やっと女性シネアストが評価される時代が到来したことを実感します(他の4人はアンヘラ・モリーナ、ぺパ・フローレス〈マリソル〉、マリサ・パレデス、アナ・ベレン)。今は亡きビガス・ルナの『裸のマハVolavérunt』のアルバ公爵夫人役でサンセバスチャン映画祭1999銀貝賞の女優賞を受賞、アルモドバルの『パラレル・マザーズ』(21)でゴヤ賞助演女優賞に初ノミネートされ、フェロス賞とイベロアメリカ・プラチナ賞には受賞した。別途紹介記事を予定していますが、スペイン映画アカデミー金のメダルをフアン・ディエゴと受賞した折に、紹介記事をアップしています。
*アイタナ・サンチェス=ヒホンの紹介記事は、コチラ⇒2015年08月01日
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