映画国民賞2021はホセ・サクリスタン*授賞式はサンセバスチャンFF ― 2021年07月13日 16:54
教育文化スポーツ省が選考母体の国民賞
★ホセ・サクリスタン映画国民賞受賞の報せに、すぐ思い出したのが2015年の受賞者フェルナンド・トゥルエバだった。「今さら貰っても・・・」と、受賞を拒んだのでした。選考母体の教育文化スポーツ省の大臣も「断れるかな」と恐る恐る電話したというから笑える。授賞にはタイミングというものがあるということです。当時トゥルエバ監督の最新作は3年前の『二人のアトリエ~ある彫刻家とモデル』と大分前、『美しき虜』(98)の続編である「La reina de España」は、まだ準備中でクランクインもしていなかった。文化の重要性を軽視して文化予算を削り、チケット代に21%の消費税をかける政府に怒りを露わにしていた時期だった。結局は妻で製作者のクリスティナ・ウエテにとりなされて受けっとったのでしたが。
*国民賞の沿革、トゥルエバ受賞の記事は、コチラ⇒2015年07月17日
★ホセ・サクリスタン(マドリードのチンチョン1937)が未だだったとは実に意外というか驚きでした。おそらく本人がニュースを知った最後の一人だったろうと言う。というのも彼はフェルナンド・コロモの新作「Cuidado con lo que deseas」の撮影でセゴビアの森の中にいて連絡が取れなかった。妻のアンパロ・パスクアルが制作チームのメンバーを通じて彼を捜しだし受賞を知らせたという。しかし数年、最有力候補者の一人だったそうですから、ホセ・マヌエル・ロドリゲス・ウリベス文化大臣の電話を敬遠したのではないかと忖度する人もいるそうですw。お祝いに数分中断しただけで何事もなかったように撮影は続行された。
(フェロス賞2015に揃って出席したサクリスタンとアンパロ・パスクアル)
★撮影が終わって帰宅したサクリスタンは「賞はどれも歓迎です。それを祝う最良の方法は仕事をすることです。私にとってそれが重要だからです。この職業を続けてエンジョイできるようにするためです」と、エルパイスのの記者に電話で語った。仕事あっての人生というわけです。映画も芝居も引退の気はさらさらないが、83歳の俳優にとって撮影の手順は日増しに厳しくなっているようです。「早起きとか、待ち時間の長さ、寒さ暑さ・・・舞台のほうがずっと落ちつける」と弱音もチラリ。
★最初電話が繋がらなかった大臣も最終的には繋がった。「私たちは、ベルランガの年にスペイン映画史で最も偉大な俳優を選びたかった。電話で話せましたよ、勿論。渓谷の麓で撮影中の彼を見つけだしてね。ありがとう、ペペ、本当に。大いなる愛をこめて!」だそうです。遅かったのはベルランガの年を待っていたからというわけ。2021年はベルランガ生誕100周年、コロナに負けずイベントも目白押し、ペペはホセの愛称です。
★受賞の理由にはサクリスタンが「ルイス・ガルシア・ベルランガやフェルナンド・フェルナン・ゴメスなどスペイン映画史上に残るシネアストと仕事をしてきたこと、また若い監督カルロス・ベルムトやイサキ・ラクエスタ、ハビエル・レボーリョなどアクティブな監督とコラボしていることを審査員たちは挙げている。彼の多様性、60年代のコメディ、70年代後半からの社会派のスリラーまで幅の広いことも挙げている。本賞は映画部門の受賞だが、映画のみならず演劇、周囲を驚かせた90年代の「ラマンチャの男」や「マイ・フェア・レディ」のようなミュージカル出演も視野に入れたということです。
★受賞者のキャリア&フィルモグラフィーについては何回か登場させておりますが、1960年舞台でスタート、1965年のフェルナンド・パラシオスのコメディ「La familia y uno más」で映画デビューした。60年代は、アルフレッド・ランダ、ホセ・ルイス・ロペス・バスケスのトリオの一人として、おびただしい数のコメディに起用されている。フランコ体制末期の1975年、ハイメ・カミーノの『1936年の長い休暇』で生物学者を演じた。内戦勃発でカタルーニャ地方の山間避暑地に閉じ込められた人々を敗者の視点で描いた作品。翌年のベルリン映画祭に出品され国際映画批評家連盟賞を受賞した。日本では1984年に開催された「スペイン映画の史的展望 1955~77」で上映されている。1977年にはホセ・ルイス・ガルシのデビュー作「Asignatura pendiente」(仮題「未合格科目」)で主役に抜擢された。
★そして転機になったのが、ペドロ・オレアのホモセクシュアルをテーマにした「Un hombre llamado Flor de Otoño」(仮題「秋の花と呼ばれた或る男」)主演だった。サンセバスチャン映画祭1978銀貝男優賞、ほかサンジョルディ男優賞など受賞、続いてマリオ・カムスの『蜂の巣』(82)でACE賞1984とフォトグラマス・デ・プラタ賞1983を受賞、ピラール・ミロの「El pájaro de la felicidad」(93)などシリアス・ドラマに起用された。オレア作品は、マラガ映画祭2018「金の映画」に選ばれ、監督と一緒にマラガを訪れている。
*マラガ映画祭2018「金の映画」の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月22日
(昼は弁護士、夜は女性歌手に変身する「Un hombre llamado Flor de Otoño」のポスター)
(マラガに連れ立って参加したオレア監督とサクリスタン)
★どの作品も大好きで誇りを感じており、私の人生の一部になっていると語るが、「デビュー作で受けたような衝撃をその後一度も感じたことはありません。アルベルト・クロサスが私を見たときの視線のことで、その夜は眠れませんでした。デビュー作は私の心の中で特別な場所を占めています」と。アルベルト・クロサスというのは、「La familia y uno más」の主役で、フアン・アントニオ・バルデムの『恐怖の逢びき』(55)で主役の大学教師を演じた俳優です。俳優も監督も鬼籍入りしています。
★2005年から2011まで舞台に専念していたが、ダビ・トゥルエバの「Madrid, 1987」で銀幕に復帰、フォルケ賞2013男優賞を受賞した。続いてハビエル・レボーリョの「El muerto y ser feliz」で、余命幾ばくもない雇われ殺し屋を飄々と演じて、サンセバスチャン映画祭2012の二度目となる銀貝男優賞、初となるゴヤ賞2013主演男優賞、ガウディ賞主演男優賞、銀幕カムバック後は受賞ラッシュとなった。
*ゴヤ賞・フォルケ賞受賞でキャリア紹介、コチラ⇒2013年08月18日
(ゴヤ賞2013主演男優賞の受賞スピーチをするペペ)
★他にイサキ・ラクエスタのコメディ「Murieron por encima de sus posibilidades」(14)、他に当ブログ紹介作品では、カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』(14、フェロス賞2015助演男優賞)、キケ・マイジョのアクション・スリラー「Toro」(16)でのマフィアのボス役、ポル・ロドリゲスのブラック・コメディ「Quatretondeta」(16)では、妻に先だたれ認知症の兆候が出はじめた寡役、パウ・ドゥラのコメディ「Formentera Lady」(18)では、バレアレス諸島のフォルメンテラ島を舞台に、老いた元ヒッピーを演じた。
*「Quatretondeta」の作品紹介は、コチラ⇒2016年04月22日
*「Formentera Lady」の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月17日
(サクリスタンを配した「Formentera Lady」のポスター)
★『Alta mar アルタ・マール:公海の殺人』(22話出演、ネットフリックス配信)のようなTVシリーズを含めると150作を超えるから、いくら紹介してもこれで充分という気になれない。役者稼業は死ぬまで続けるというから終りがない。目下撮影中のフェルナンド・コロモの「Cuidado con lo que deseas」は、今年11月19日公開が予告されている。
★上記の受賞以外に、バジャドリード映画祭2013栄誉賞、マラガ映画祭2014レトロスペクティブ賞、フェロス栄誉賞(2014)、ヒホン映画祭2015ナチョ・マルティネス賞、スペイン俳優組合2015栄誉賞、メリダ映画祭ケレス賞、アルゼンチンの銀のコンドル賞(1993、2011)、シネマ・ライターズ・サークル賞2020金のメダル、などなど。授賞式は第69回サンセバスチャン映画祭2021(9月17日~25)です。セクション・オフィシアル部門以下8部門のポスターは発表されましたが、ノミネーションは未だです。シガニー・ウィバーがポスターの顔になりました。
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