マラガ才能賞にオリベル・ラシェ*マラガ映画祭2021 ③2021年05月01日 17:41

            『ファイアー・ウィル・カム』のオリベル・ラシェにマラガ才能賞

 

       

                (オリベル・ラシェ監督)

 

429日、マラガ映画祭の特別賞の一つマラガ才能賞―マラガ・オピニオンオリベル・ラシェ受賞の発表がありました。本賞は日刊紙La Opinión de Málagaマラガ・オピニオンとのコラボレーション、既に受賞歴がある若いシネアストのキャリアをさらに後押しすることを目的とした賞、2019年は初監督作品『物静かな男の復讐』のラウル・アレバロ、昨年はマラガFFの作品賞受賞作「10,000km」でデビューしたカルロス・マルケス=マルセが受賞しています。

ラウル・アレバロのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20190322

カルロス・マルケス=マルセのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、

 コチラ20200829

 

オリベル・ラシェOliver Laxe は、1982年パリ生れ、監督、脚本家。授賞理由は「世界についてのユニークな視点と芸術的表現としての映画への強いコミットメント」が際立っていることが評価された。6歳で母親の故郷ガリシアに移住、フランス、スペイン、モロッコで暮らすガジェゴgallego2010年のカンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品したデビュー作Todos vós sodes capitánsTodos vosotros sois capitanesカラー&モノクロ、78分、スペイン語/アラビア語/フランス語)が、国際映画批評家連盟賞 FIPRESCIを受賞している。スペイン映画アカデミーが翌年のゴヤ賞新人監督賞にノミネーションしなかったことで一部から批判された6年ぶりに撮った第2Mimosas2016「批評家週間」アラビア語、93)が見事グランプリを受賞、セビーリャ映画際でも審査員特別賞を受賞している。

   

    

 

2019年、ガリシア語で撮った3O que arde邦題『ファイアー・ウィル・カム』がカンヌ映画祭2019「ある視点」で審査員賞とセクションの音響賞を受賞した。カンヌ映画祭に出品した作品全てが受賞したのは、ビクトル・エリセも果たせなかったことでした( エリセは1992年の第3作『マルメロの陽光』で審査員賞と国際映画批評家連盟賞を受賞している)。ゴヤ賞2020の4部門ノミネート、作品・監督撮影マウロ・エルセ受賞)・新人女優賞ベネディクタ・サンチェス受賞)、2部門受賞した。ガウディ賞ヨーロッパ映画賞、サン・ジョルディ賞他を受賞している。彼の作品はカンヌ以外でも権威のある国際映画祭、モスクワ、カイロ、サンセバスチャン、トロント、カルロヴィ・ヴァリ、マル・デ・プラタ、ニューヨーク、東京などで上映されている。16回ラテンビート映画祭2019で上映された折り来日、寡黙ながらQAでは会場からの質問に真摯に応じていた。

    

Mimosas」の作品&監督紹介は、コチラ⇒20160522

『ファイアー・ウィル・カム』の作品紹介、カンヌ映画祭の記事は、

  コチラ20190428同年0529

ラテンビート2019QAの記事は、コチラ20191121

   

      

                (ガリシア語のポスター)

 

★最近、地元のア・カルケイサ協同組合(ホセ・アントニオ・ディアス組合長)とタッグを組んで、ガリシア牛肉の普及に務めている。オンライン視聴者向けの宣伝ビデオを製作、オンラインストアで注文すると配送されるようです。ガリシア牛のハモンセラーノは超高級品、その美味しさはつとに有名です。カンヌで「映画から少し距離をおきたいここガリシアに腰を落ち着けてここのコミュニティのためにしたいことがある語っていましたが、じゃあ第4作目はどうなるのでしょうか。


マリアノ・バロッソに特別賞「レトロスペクティブ賞」*マラガ映画祭2021 ②2021年04月22日 14:27

      マラガ特別賞<レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ>にマリアノ・バロッソ

 

    

 

マリアノ・バロッソの名前はゴヤ賞の度に登場させているのですが、スペイン映画アカデミーAACCE副会長に就任した折に簡単なキャリア&フィルモグラフィーを紹介しただけでした(第15代会長はイボンヌ・ブレイク)。ブレイク会長が2018年新春3日にゴヤ賞ガラの準備中体調不良で緊急入院、回復することなく鬼籍入りして、ゴヤ賞2018のガラから実質的に会長職を担ってきました。AACCE会長の正式就任は201879日、現在にいたっています(任期は3年)。

マリアノ・バロッソのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20161029

 

★更に映画祭では、バロッソ映画の多くの脚本を共同執筆したアレハンドロ・エルナンデスとの広範なインタビュー記事を集めた本がパリド・フエゴによって上梓される予定ということです。その中にはバロッソ監督のキャリア&フィルモグラフィーも含まれる。アレハンドロ・エルナンデスはキューバ出身だが、今世紀初めからスペインに軸足をおいている。2005年の「Hormigas en la boca」以来、「El mejor de Eva」、TVミニシリーズ「Todas las mujeres」や「La línea invisible」などが挙げられる。彼はアメナバルの『戦争のさなかで』や、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』など、他監督ともタッグを組んでいる脚本家です。

アレハンドロ・エルナンデスの紹介記事は、コチラ2018年06月01日

 

     

   (ゴヤ賞2014脚色賞を受賞したバロッソ監督と脚本家のアレハンドロ・エルナンデス)

  

 

          バルセロナ派を牽引する監督、脚本家、プロデューサー

 

マリアノ・バロッソ1959年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者、第16代スペイン映画アカデミー会長を2018年より務めている。ロスアンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュート、インスティテュート・サンダンスで映画を学び、マドリードのスペイン・シアターやウィリアム・レイトン・ラボラトリーで演劇を学びました。キューバのサンアントニオ・デ・ロス・バニョスの映画TV学校(199799)、アリカンテのシウダッド・デ・ラ・ルスの映画学校、メネンデス・ペラヨ国際大学、プラハ・フィルム・スクール、コロンビア国立大学、ナッシュビルのワトキンス・カレッジで教鞭をとり、またマドリード映画視聴覚学校ECAMの監督コーディネーターも務めています。TVシリーズや広告も手掛けながら映画と舞台、かたわら後進の指導に当たっています。

 

       

           (ゴヤ賞2021ガラで挨拶するマリアノ・バロッソ)

 

フェルナンド・コロモに見出され、Mi hermano del alma93)で長編第2作がベルリン映画祭に出品された。翌年のゴヤ賞新人監督賞を受賞、他カルロヴィ・ヴァリ映画祭1994で監督賞クリスタル・グローブサン・ジョルディ賞を受賞した。1990年代のカタルーニャを舞台に全く性格の異なる兄弟を描く、いわゆるカインとアベルの物語、脚本はコロモとホアキン・オリストレルが共同執筆、キャストのフアン・エチャノベ(ゴヤ賞助演男優賞)、フアンホ・プイグコルベ(サン・ジョルディ男優賞)、カルロス・イポリット(ムルシアFFフランシスコ・ラバル男優賞)などがそれぞれ評価され、その演技力は後の活躍で証明されている。代表作は以下の通り(製作順)

    

         

       (兄弟役を演じた左からプイグコルベとイポリットを配したポスター)

 

1990Es que Inclan está loco (メキシコ映画)コメディ、長編デビュー作

1993Mi hermano del alma 

1996Lucrecia TVムービー)

1996Extasis

1999Los lobos de Washington

2000Kasbah (アルゼンチンとの合作)

2001In the time of the butterfliesEn el tiempo de las mariposas、米=メキシコ合作)

2005Hormigas en la boca (キューバとの合作、英題Ants in the Mouth

2007Invisibles(ドキュメンタリー)セグメント「Los sueños de Bianca

2012El mejor de Eva

2013Todas las mujeres

 

*以下、TVシリーズ

199192Las chicas de hoy en dia5話)TVデビュー作

2010Todas las mujeres6話)2013年映画化された。

2018El día de mañana6

  イグナシオ・マルティネス・デ・ピソンの小説をベースにオリオル・プラが脚色

2019年Criminal3Netflix オリジナル作品、2019年9月20日より配信

2020年La línea invisible6

 

1996年アンテナ3 のためテレビ・ムービーLucreciaをカルメ・エリアス、フアン・ディエゴ・ボトーを起用して撮る。同年国際映画祭巡りをしたExtasisを撮る。ハビエル・バルデム、アルゼンチン出身のベテラン、フェデリコ・ルッピ、シルビア・ムントが出演、カルロヴィ・ヴァリ以下、ベルリン、ロンドン、ワシントン、マル・デ・プラタなどの映画祭で上映され、ニューヨーク批評家協会賞、ACE作品賞などを受賞した。脚本はホアキン・オリストレルと共同執筆、父と息子の関係がテーマ。

    

      

          (ハビエル・バルデムを配したExtasis」のポスター)

 

1999Los lobos de Washingtonは、脚本をフアン・カベスタニーが執筆したアクション・スリラー、バルを経営するハビエル・バルデムとエドゥアルド・フェルナンデスが金策に困り、裕福な古い友人ホセ・サンチョのマネーを横取りする。他にエルネスト・アルテリオ、アルベルト・サン・フアンなど芸達者が出演、スペイン公開後にトロント映画祭に出品された他、トゥールーズ映画祭でバロッソが監督賞を受賞した。バルデムはエグゼクティブ・プロデューサーも兼ねている。

     

     

           (バルデムを中央に5人の主演者を配したポスター)

 

2001In the time of the butterfliesは、米国のTVムービーとしてMGMShowTimeが製作、言語は英語、メキシコ・シティやベラクルスで撮影された。サルマ・ハエックやプエルトリコ出身の歌手マルク・アンソニーが出演している。2005Hormigas en la bocaは、ジャーナリストで作家の実兄ミゲル・バロッソ(サラゴサ1955)の暗黒小説Amanecer con hormigas en la boca1999年刊)の映画化、脚本をキューバ出身のアレハンドロ・エルナンデスと共同執筆したクラシックなフィルム・ノワール。革命前の1950年代のハバナが舞台、エドゥアルド・フェルナンデス、アリアドナ・ヒル、キューバのホルヘ・ぺルゴリアが主演、ハバナで撮影された。マラガ映画祭で審査員特別賞を受賞した他、主役のエドゥアルド・フェルナンデス男優賞を受賞した。

    

       

         (主演3人を配したHormigas en la bocaのポスター)

 

★ドキュメンタリーInvisiblesは、バロッソを含む5人の監督、イサベル・コイシェ、ハビエル・コルクエラ、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、ヴィム・ヴェンダースがそれぞれセグメントを担当した。アフリカで活躍する国境なき医師団の姿を追ったドキュメンタリー。ハビエル・バルデムが製作、ゴヤ賞2008長編ドキュメンタリー賞フォルケ賞ドキュメンタリー賞を受賞した。

 

Todas las mujeresは、2010年のTVミニシリーズの映画化、ゴヤ賞2014脚色賞アレハンドロ・エルナンデスと受賞、3個目のゴヤ胸像となる。他サン・ジョルディ賞、トゥリア賞、ディアス・デ・シネ賞などを受賞。キャストはバロッソ映画の常連エドゥアルド・フェルナンデス、ナタリエ・ポサ、マリア・モラレス、ペトラ・マルティネス、ミシェル・ジェンナーなど。

    

         

        (ゴヤ賞2014脚色賞のTodas las mujeres」のポスター)

 

TVミニシリーズでは、CriminalNetflix20199月から配信されている。脚本は第1話と第3話がアレハンドロ・エルナンデス、第2話がマヌエル・マルティン・クエンカ、キャストは、エンマ・スアレスを主役に、エドゥアルド・フェルナンデス、カルメン・マチ、ホルヘ・ボッシュ、インマ・クエスタ、アルバロ・セルバンテスと当ブログ常連の演技派を揃えている。このシリーズはイギリス編、ドイツ編、フランス編と4ヵ国対決となっている。

    

        

          (エンマ・スアレスとカルメン・マチを配したポスター)

   

★演劇では、「El hombreelefante」(B・ポメランセ、出演アナ・ドゥアルト、ペレ・ポンセ)、「Closer」(パトリック・マルベル、出演ベレン・ルエダ、ホセ・ルイス・ガルシア・ぺレス)、「Recortes」(出演アルベルト・サン・フアン、ヌリア・ガリャルド)が代表作。他にさまざまな市民団体のために「Medicos del mundo」や「Greenpeace」のようなドキュメンタリーも手掛けている。

 

「Black Beach」 エステバン・クレスポの新作*ゴヤ賞2021 ⑬2021年02月27日 16:32

              アフリカで暗躍する石油カンパニーのアクション・スリラー

 

   

 

エステバン・クレスポの新作Black Beachは、ゴヤ賞ノミネート6カテゴリーと大いに気を吐いています。撮影・編集・美術・プロダクション・録音・特殊効果賞と地味な部門だが、マラガ映画祭上映後、1ヵ月後には公開されている。Netflixが絡んでおり、フランスの1月を皮切りに23日にはアメリカ、イギリスなど各国で既に配信が始まっております。日本はまだ準備中とかで待たされていますが、言語を選んで視聴できます。詳細はそれからにしたいが、ラウル・アレバロカンデラ・ペーニャ、チリのパウリーナ・ガルシアの他、アレバロのパートナーであるメリナ・マシューズがドラマでも夫婦役を演じています。一応データ、キャスト、ストーリーをご紹介しておきたい。 

          

      (エステバン・クレスポ監督、マラガ映画祭2020のフォトコールから)

 

 Black Beach

製作:LAZONA Films / David Naranjo Villalonga / Crea SGR / Scope Pictures /

    Nectar Media / Macaronesia Films / Nephilim Producciones  協賛RTVE、ICAA

監督:エステバン・クレスポ

脚本:エステバン・クレスポ、ダビ・モレノ

音楽:アルトゥーロ・カルデルス

撮影:アンヘル・アモロス

編集:ミゲル・ドブラドフェルナンド・フランコ

美術・プロダクション・デザイン:モンセ・サンス

プロダクション・デザイン:カルメン・マルティネス・ムニョス

プロダクション・マネージメント:ハルナ・セイドゥ、マクロード・アイス・インプライム、他

キャスティング:パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ、アナ・サインス=トラパガ

録音:コケ・F・ラエラセルヒオ・テストンナチョ・ロヨ・ビリャノバ

特殊効果:ラウル・ロマニリョスジャン=ルイ・ビリヤード

製作者:ダビ・ナランホ、(エグゼクティブ)ヘスス・ウリェド・ナダル、コンチャ・カンピンス(マドリードGhana)、ダビ・ラゴニグ(ベルギー)、他

 

データ:製作国スペイン=ベルギー=米、スペイン語・英語、2020年、アクション、政治スリラー、115分、撮影地グラン・カナリア、マドリード、ガーナ共和国、ブリュッセル、撮影期間201959日~71日、公開スペイン2020925日。ネット配信は20211月仏、2月伊、米、英などで開始。

映画祭・受賞歴:マラガ映画祭セクション・オフィシアル(823日上映)、ゴヤ賞20216カテゴリーにノミネーション(36日発表)

 

キャスト:ラウル・アレバロ(カルロス・フステル)、パウリナ・ガルシア(カルロスの母エレナ)、カンデラ・ペーニャ(NGOアレ/アレハンドラ)、クロード・ムスンガイ(グラハム)、バブ・チャム(ギジェルモ・ムバ将軍)、リディア・ネネ(ルシア)、メリナ・マシューズ(カルロス妻スーザン)、エミリオ・ブアレ(大統領の息子レオン)、ムーリー・ジャルジュ(グレゴリオ・ンドング大統領)、アイダ・Wellgaya(カルロスの元恋人アダ)、ジミー・カストロ(カルロスの友人カリスト・バテテ)、テレシタ・エブイ(アダの母親)、ダイロン・タジョン(カリストJr.)、フェンダ・ドラメ(アレの助手エバ)、オリビエ・ボニ、フレッド・アデニス(ダグラス)、ジョン・フランダース(ドノバン)、ルカ・ぺロス、ジュリアス・コッター(ONU職員ロナルド)、アンバー・シャナ・ウィリアムズ(アフリカ人記者)、その他大勢

 

ストーリー:カルロス・フステルは、アメリカの石油カンパニーのスペインCEOに昇進したばかり、8ヵ月になる身重の妻スーザンと国連のベテラン外交官の母親とベルギーのブリュッセルで暮らしている。贅沢三昧の上流階級に属しているが会社の共同経営者になることを期待している。妻により豊かな生活が送れるようニューヨークへの移住を計画している。そんな折も折、はるか彼方のアフリカの島国でカンパニーの技術者が、カルロスの古い友人カリスト・バテテによって誘拐される事件が起き、調停役としてカルロスに白羽の矢が立った。かつて暮らしていたアフリカに飛び、ンドング大統領の息子レオン所有の家に居を定める。スペインNGOの協力者アレと再会するが、想像以上の危険なミッションであることが分かる。元恋人のアダがカリストと結婚して息子がいること、ブラック・ビーチ刑務所に収監されていることを突き止めるカルロス。政治的対立で起きた誘拐事件は何百万もの契約を危険に晒すことになる。

ゴチック体はゴヤ賞ノミネーションを受けている印。

 

 

        タイトル「Black Beach」は赤道ギニアの最恐の刑務所の名前

 

★タイトルのBlack Beachブラック・ビーチというのは、かつての植民地時代にアフリカ中部に位置する赤道ギニア共和国の首都マラボに建設された刑務所の名前、スペイン語でPlaya Negraと言い、地下牢のある世界でも最恐の刑務所の一つであった。独立前はスペイン、フランス、ポルトガルが宗主国、従って現在の公用語も3語である。現大統領テオドロ・オビアン・ンゲマが当時の刑務所長でした。常に即決裁判、政治的な反主流派に対しては残酷な拷問などを科した。

    

★クレスポ監督がこのタイトルを選んだのは、現在でも金権政治を行っているとか暴君であるとか明白ではないにしろ、符合する事実もあるからです。というのも2016年副大統領に就任した息子が高級車に目がなく、2019年スイス検察の公金横領事件の捜査打ち切りの司法取引に応じて高級車25台を没収され競売にかけられた事件が報じられた。背景には石油の利権に群がる欧米の強国が片棒を担いでいる。

 

★スリラーであることから結末を書くことは控えたいが、遠いアフリカの小国を背景に登場人物が入れ乱れ、政治的、部族的対立、ONUの画策などが複雑に絡み合ってアクション映画では一概に括れない。有能なビジネスマンがセンチメンタルな過去と向き合う倫理的なメロドラマの部分もあり、加えて家族の相克、無実の民の死屍累々、親しい友人の死など、テーマは盛りだくさんです。ヤッピー世代のオデュッセイア、カルロスは無事に帰還できるのか。

 

             

           (カルロスとグラハム役のクロード・ムスンガイ)

 

★過去にも同じようなテーマを扱った映画はかなり多い。アフリカで暗躍する多国籍企業をテーマにしたジョン・ル・カレの小説の映画化、フェルナンド・メイレレスの『ナイロビの蜂』05)では、レイチェル・ワイズがアカデミー賞助演女優賞を受賞した。同じ年には舞台は中東の架空の国シリアナの石油利権をめぐる陰謀を描いたスティーヴン・ギャガンの政治スリラー『シリアナ』も製作され、こちらはCIA工作員役のジョージ・クルーニーがアカデミー賞&ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を受賞している。

 

ラウル・アレバロは、1979年マドリード近郊のモストレス生れの監督、俳優。キャリア&フィルモグラフィーは、2016年の初監督作品Tarde para la ira邦題『物静かな男の復讐』でアップしています。彼は本作でゴヤ賞2017新人監督賞を受賞している。バツグンの演技で存在感を示したカンデラ・ペーニャイシアル・ボリャインLa boda de Rosaで主演女優賞にノミネーションされています。スーザン役のメリナ・マシューズ(バルセロナ1986)は、アレバロの現パートナーということですが、以前のアリシア・ルビオとは別れたようですね。

ラウル・アレバロの主な紹介記事は、コチラ20170109

 

     

     

          (ラウル・アレバロとカンデラ・ペーニャ、映画から)

 

★監督紹介:エステバン・クレスポは、1971年マドリード生れ、監督、脚本家、2012年に撮った短編6作目Aquel no era yo25分)が、米アカデミー賞2014にノミネートされたことで、オスカー賞ノミネート監督としばしば紹介される。本作はゴヤ賞2013短編映画賞受賞の他、マラガ映画祭2012銀のビスナガ短編賞CinEuphoria2014、メディナ映画祭ほか、国内外の受賞歴を誇る。アフリカの少年兵の記事にインスパイアされて製作した。英語の分かる子供たちを選んで起用、アフリカを再現しているが、実際の撮影はトレドとその近郊の農場で、新作と同じアンヘル・アモロスが手掛けた。

  

       

                   (ゴヤ賞2013短編映画賞のトロフィーを手にした監督

    

       

       (アフリカの少年兵をテーマにしたAquel no era yo」のポスター

 

★短編の受賞歴は以下の通り:

2005年「Amar」ポルト短編映画祭2006大賞受賞

2009年「Lala」メディナFF観客賞、ラルファス・デル・ピ映画祭監督賞ほかを受賞

2011年「Nadie tiene la culpa」ラルファス・デル・ピFF観客&脚本賞、

    モントリオール映画祭2011審査員賞を受賞

2012Aquel no era yo」上記

 

★長編デビュー作Amarはマラガ映画祭2017にノミネートされ、本邦では『禁じられた二人』という全く意味不明の邦題でNetflixで配信された。ない知恵を絞らないで欲しい。2005年に同タイトルで短編を撮っている。個人的には評価できなかったので紹介を断念したが、功績は新人マリア・ペドラサとポル・モネンを世に送り出したこと。新作が第2作目になります。

 

            

              (長編デビュー作Amar」のポスター

  

バホ・ウジョアの5年ぶりの新作 「Baby」*ゴヤ賞2021 ⑪2021年02月18日 10:44

          監督賞ノミネートの「Baby」は5年ぶりのセリフのないドラマ

 

      

 

フアンマ・バホ・ウジョア5年ぶりの新作Babyは、監督賞の他オリジナル作曲賞(メンディサバル&ウリアルテ)がノミネートされています。バホ・ウジョアは1967年ビトリア生れ、かつてバスクの若手監督四天王と称されたグループの一人。アレックス・デ・ラ・イグレシア1965生れ、『スガラムルディの魔女』)、エンリケ・ウルビス1962生れ、『悪人に平穏なし』)、パブロ・ベルヘル1963生れ、『ブランカニエベス』)、3人はビルバオ生れです。もはや若手とは言えませんが、21世紀初頭は言語こそスペイン語でしたが、バスクの若手監督が塊りになって国際映画祭で認められるようになった時代でした。

 

 Baby2020

製作:Frágil Zinema / La Charito Films / La Charito

監督・脚本:フアンマ・バホ・ウジョア

音楽:Bingen Mendizábal、コルド・ウリアルテ

撮影:Josep M. Civit

編集:デメトリオ・エロルス

キャスティング:ルシ・レノックス

プロダクション・デザイン:リョレンク・マス

セット・デコレーション:ジナ・ベルナド・ムンタネ

衣装デザイン:アセギニェ・ウリゴイティア

メイクアップ&ヘアー:(メイク)ベアトリス・ロペス、(ヘアー)エステル・ビリャル

プロダクション・マネージメント:カティシャ・シルバ

製作者:フアンマ・バホ・ウジョア、(エグゼクティブ)フェラン・トマス、(共)ディエゴ・ロドリゲス、(ライン)ハビエル・アルスアガ

 

データ:製作国スペイン、言語スペイン語・無声、ドラマ、104分、撮影地バスク自治州、スペイン公開1218日、ナバラ州1214日、サンタ・クルス・デ・テネリフェ12月14日、バレンシア12月17

映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2020上映(1011日)オリジナル・サウンドトラック賞受賞、タリン映画祭(エストニア)、バジャドリード映画祭、カイロ映画祭、イスラ・カラベラ・ファンタジック映画祭(カナリア諸島テネリフェ)。映画賞ノミネーションは、第8回フェロス賞音楽賞(32日発表)、第13回ガウディ賞撮影賞(321日発表)、第35回ゴヤ賞監督賞・オリジナル作曲賞(36日発表)

 

キャスト:ロジー・デイ(若い母親)、ハリエット・サンソム・ハリス(ザ・ウーマン)、ナタリア・テナ(ザ・ウルビノ)、マファルダ・カルボネル(ニーニャ)、チャロ・ロペス(家主)、ナタリア・ルイス(ディーラー)、カルメン・サン・エステバン(カップル)、スサナ・ソレト(カップル)、他

 

ストーリー:麻薬中毒の娘が衰弱しながら男の子を出産した。彼女には自身が生き残るための困難の他に育児が負い被さる。部屋代が払えず家主から養子を勧められる。家主は児童密売で働く女性に接触させ、娘は借金を返済して生き残れる金額で赤ん坊を裕福な婦人に売り渡してしまう。しかし部屋の中に転がっていたおしゃぶりを見て後悔の念に駆られる。生と死についての創造物語、母親が息子を愛することがテーマではなく、私たちが他者を愛することができるかどうかです。

                                    (文責:管理人)

 

    

             (赤ん坊を売り渡す母親と裕福な婦人)

 

 

     物語が危険に晒されている――セリフがないと観客は理解できないか?

 

★バホ・ウジョア映画ファンにとって、ダイヤローグがないと聞いても驚かないでしょう。監督によると「多くの脚本家は、観客がセリフがないと理解できないのではないかと怖れてダイヤローグを書くが、そんな心配はいらない。今は物語が危険に晒されている。既に映画を作り始めて24年前になるが、今日の社会は好奇心が強く、幼稚で独断的」と語る。また「鏡を見て、自身を愛し許すことができるとき、この映画で起きたような他人を愛することができるようになるチャンスがある」、つまり自分が好きでないと他人を好きになれない。「登場人物に名前を付けなかったのは意図したこと、人間の本質、魂の本質に、また怖れや欲望の本質にも名前はいらない。登場する動物には、シンボリックな役割を与えている」と監督。テーマは本質は何かのようで、白馬やアフガン・グレイハンドを登場させている。

 

             

            (ロジー・デイ、白馬が見える)

 

2作になるLa madre muertaの主役を演じたアナ・アルバレスは一言も喋らなかった。幼いとき母親を殺害した犯人を見てしまったせいで、大人になっても立ち直れない女性の役でした。それでもストックホルム映画祭やカルタヘナ映画祭で女優賞を受賞している。主役に必要な本質的な能力を獲得していることが重要ということでしょうか。4作目の「Frágil」でも長い時間セリフがなかった。新作の重要な要素は、セット、光と闇、音楽が担っており、入念に仕上げられたビジュアル効果が予告編からも見てとれる。息子を売って自分の過ちに気づくドラッグ中毒の若い母親の話だが、かなり奥は複雑なようです。セリフがないだけに個々人の解釈が問われ、好き嫌いがはっきり分かれそうです。ナタリア・テナ扮するアルビノは両性具有のキャラクター、クランクインで最初にセットに入ってきたとき、彼女は「私たちを不安にさせ、怖がらせた」と監督、適役だったわけです。コロナによるパンデミックが始まる前に撮影を終了していたのも幸運なことだった。

   

      

          (ナタリア・テナ扮する両性具有のアルビノ)

 

 

           『スター・ウォーズ』に魅せられた少年時代、

 

監督紹介フアンマ・バホ・ウジョアは、1967年ビトリア(バスク語ガステイス)生れ、監督、脚本家、撮影監督、ミュージシャン。父親はブルガリア人、母親はアンダルシア出身、生れはアラバ県の県都ビトリアだが、育ったのはサンセバスティアン、3人兄妹の真ん中。父親が写真館を経営、十代から証明写真の作成や土曜日ごとの結婚披露宴のライト持ちなどして父親の仕事を手伝った。彼を映画の虜にしたのは、1977年のジョージ・ルーカス『スター・ウォーズ』だった。17歳の1984年に最初の制作会社「Gazteiko Zinema」を設立、兄エドゥアルド・バホ・ウジョアとスーパー8ミリや16ミリで短編を撮り続けた。1989年の短編El reino de Víctor30分)がゴヤ賞1990短編映画賞を受賞したときは弱冠22歳でした。

 

      

    (ゴヤ賞1992Alas de mariposa新人監督賞と主演女優賞のシルビア・ムント

 

★長編映画デビュー作Alas de mariposaがサンセバスチャン映画祭1991金貝賞を受賞、最年少受賞者の記録を作った。華々しいデビューは、当然のごとく翌年のゴヤ賞では、新人監督賞、共同執筆をしたエドゥアルド・バホ・ウジョアとオリジナル脚本賞、母親役を演じたシルビア・ムントに初の主演女優賞をもたらした。息子の誕生をひたすら待ち望む母親にシルビア・ムント、6歳になる少女の弟殺しというショッキングな悲劇に驚愕した。余談だが、2016年の暮れ、兄弟で受賞した脚本賞をビトリアの中古品店に4999ユーロで売却するという前代未聞のニュースに関係者は絶句した。これには後日談として、店側と監督側の話に食い違いがあり、プロダクションも否定するなど真相は謎のままになった。

★第2La madre muerta」はベネチア映画祭でプレミアされ、海外の映画祭で称賛された。以下に短編とドキュメンタリーを除くフィルモグラフィーを年代順に列挙すると、

 

1991Alas de mariposa」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)

1993La madre muerta」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)

1997年「Airbag」コメディ、監督・脚本(カラ・エレハルデ他と共同執筆)

2004年「Frágil」監督・脚本

2015年「Rey Gitano」コメディ、監督・脚本

2020年「Baby」監督・脚本

以上6作です。

 

       

                (長編デビュー作のポスター)

 

★ゴヤ賞関連では、第2作目La madre muerta」で特殊効果賞(ポリ・カンテロ)、第3作目Airbagで編集賞(パブロ・ブランコ)が受賞している。パブロ・ブランコは第2作と第4作を手掛けるほか、『スガラムルディの魔女』や『悪人に平穏なし』などバスク監督の作品にゴヤ賞をもたらしている。前者はファンタスポルト1995で監督賞と観客賞、モントリオール映画祭監督賞、ストックホルム映画祭FIPRESCIなど国際映画祭での評価が高く、カラ・エレハルデを主役に起用したことが次作のコメディ「Airbag」に繋がった。「騒々しいだけで中身がない」という批評家の酷評にもかかわらず、1997年の興行成績ナンバーワンになった。つまり観客の意見は専門家と違ったわけです。フリーガン・コメディという新しいジャンルを作ったと称され、今では専門家の意見も変わり、20世紀のスペイン映画ベスト50作に選ぶ批評家もいる。出演者には鬼籍入りした人も多く「騒々しい」には違いないが、今見ても古さを感じないのではないか。前2作からは想像できない変身ぶりでした。

      

      

        (コメディ「Airbag」のおバカ3人組、左からカラ・エレハルデ、

         フェルナンド・ギジェン・クエルボ、アルベルト・サン・フアン)

 

★「Airbag」が戻ってきたと言われた、第5作目のRey Gitanoには、「Airbag」で活躍した俳優、カラ・エレハルデ、マヌエル・マンキーニャの他、今は亡きロサ・マリア・サルダ、バルデム兄弟の実母ピラール・バルデム、新たにアルトゥーロ・バルスマリア・レオン、ベテランチャロ・ロペスも加わっている。ロペスは新作にも出演している。

      

      

                    (「Rey Gitano」撮影中のカラ・エレハルデと監督)

 

    

  (アルトゥーロ・バルスやマリア・レオンも加わった「Rey Gitano」のポスター)

 

    

(ロサ・マリア・サルダとチャロ・ロペス、「Rey Gitano」)

   

寡作な監督だが、彼が情熱を捧げている一つに音楽がある。ドラマの間に2本の音楽ドキュメンタリーを撮っている。2008年のHistoria de un grupo del rockと、2016年のRockNRollersである。他にロック・グループのビデオクリップを多数作成している。子供のときからの音楽好きで、最初はフルート、後にはギターとピアノを学んだ。とにかく規格外の才能の持ち主である。映画を撮っていないときは、ミュージシャンの仕事で多忙を極めている。独立心旺盛な、体制には反抗的な性格を自認している。

 

★もう一つがカメラ、「Baby」のポスターには何種類かあるが、これはその一つ。赤ん坊のおしゃぶりは手工芸品の職人が丁寧に作ってくれたものだが、背景の蜘蛛はバザールで売っていたもの、セットにした家で撮影した。このポスターにはデビュー作「Alas de mariposa」の雰囲気を思い出させるものがある。

 

      

               (監督が作成したポスター)

 

 

       個性的な女優陣――チャロ・ロペスが第65回エスピガ栄誉を受賞

 

キャスト紹介:本作のノミネーション・カテゴリーは監督賞なのでキャスト陣については簡単にしますが、英国の女優ロジー・デイと米国のハリエット・サンソム・ハリスを主役に起用、ナタリア・テナは生れも育ちもイギリスだが両親がスペイン系なのでスペイン語に堪能、海外勢でも毛色の変わった女優を選んでいる。ロジー・デイ(ケンブリッジ1995)は、女優の他、まだ20代だが監督、作家でもある。1999TVシリーズでデビュー、ポール・ハイエットの「The Seasoning House」(12『復讐少女』)で主役に抜擢され、2014年ジョナサン・イングリッシュの『アイアンクラッド ブラッド・ウォー』、ロドリゴ・コルテスの『ダーク・スクール』(18)などが代表作。

 

        

          (麻薬中毒の若い母親を演じたロジー・デイ)

 

ハリエット・サンソム・ハリス(テキサス州フォートワース1955)は、1993年の『アダムス・ファミリー、2』、ポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』(17)、TVシリーズ『デスパレートな妻たち』(1128話出演)など。本作では赤ん坊を買う裕福な婦人役。

 

      

            (ハリエット・サンソム・ハリス、映画から)

 

ナタリア・テナ(ロンドン1984)は、上述したように生粋のロンドン子だが、両親がスペイン系なのでスペイン語が堪能のことから、カルロス・マルケス=マルセのデビュー作10,000KMの主役に抜擢された。本作は第17回マラガ映画祭2014に正式出品され、監督が作品賞「金のビスナガ」賞、彼女は女優賞を受賞した。

ナタリア・テナ紹介記事は、コチラ20140411

 

   

        (ナタリア・テナとハリエット・サンソム・ハリス)

 

★一方スペイン勢は、家主役のチャロ・ロペス(サラマンカ1943)は、舞台やTVシリーズで活躍、5年前の「Rey Gitano」に出演している。1943年生れということは、デビューがフランコ体制ということで、主役を演じて活躍していた時代は、ゴヤ賞も始まっていなかった。従ってビセンテ・アランダ1940年代のスペインを舞台にしたTiempo de silencio86)に出演したときには既に母親役だった。ゴヤ賞はホセフィナ・モリーナLo más naturalで主演女優賞にノミネートされたが受賞にいたらず、モンチョ・アルメンダリス『心の秘密』(97)で初めて助演女優賞を受賞、本作はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた話題作でした。第65回バジャドリード映画祭2020エスピガ栄誉賞を受賞、バホ・ウジョア監督にエスコートされて登壇、トロフィーを手にした。「パンデミアでも文化や私たちの健康に影響を及ぼさない」とスピーチした。2020年の栄誉賞受賞者はイサベル・コイシェ、マリア・ガリアナを含めて6人と大盤振舞いでした。

    

   

(エスピガ栄誉賞トロフィーを手にスピーチをするチャロ・ロペス、20201026日)

 

★ニーニャ役を演じたマファルダ・カルボネス2008)は、2018TVシリーズでスタート、本作を見たマリア・リポル監督が大いに気に入ってVivir dos veces19)にスカウトした。脚本を手直しするなどしてデビューさせた甲斐あって、子役ながらバレンシア・オーディオビジュアル賞を受賞してしまった。共演者の認知症グレーゾーンの祖父役オスカル・マルティネス、母親役インマ・クエスタのベテランを喰ってしまった。評価はこれからの12歳です。

     

★ディーラー役のナタリア・ルイス()は、Rey Gitano」やマリアノ・ビアシンMarisol05、アルゼンチン、モノクロ)、カルロス・バルデムの小説を映画化したサンティアゴ・サンノウの「Alacran enamorado」(13『スコーピオン反逆のボクサー』)などに出演している。

   

     

  (監督、マファルダ、ナタリア・テナ、ナタリア・ルイス、シッチェスFF 2020の赤絨毯


続 フアン・アントニオ・バルデムの「あるサイクリストの死」2020年05月15日 22:18

               内戦の爪痕、貧富の二極化が鮮明

 

 50年代半ばのマドリードが舞台、撮影の大半はチャマルティン・スタジオ、ロケ地はマドリードとその近郊で行われた。ですから事故現場となるマドリード郊外の深夜のような静寂と暗闇は、現実だったと考えていい。雨に濡れた石畳が薄暗い街灯の光の中で映える、モノクロならではの美しさです。

 まだ石畳だった。時刻は夕食前だというのに、あの荒涼とした風景には胸を突かれます。

 チャマルティン・スタジオは19421月に完成、本格的な設備を整えたスタジオだそうです。マルセリーノ坊やでお馴染みの『汚れなき悪戯』(54)もここで撮影された。

 

 青春時代を内戦のうちに過ごしたフアンの世代は、過去から自由になりたい欲求が強く、理想と現実のギャップから精神的に屈折している。

 特にフアンの場合は、内戦前に愛しあっていた恋人が、今では実業家夫人におさまっている。二重の挫折感に襲われている。それに彼はファランヘ党員として従軍していて、現状に幻滅している。

 民兵としてではなく職業軍人みたいですね。

 ファランヘ党の性格は時期によって異なるのですが、内戦時にはフランコ側の母体となっている。スペインの伝統を重んじ、勿論カトリック至上主義、反ナチだがムッソリーニからは資金援助を受けているという複雑さです。

 

 フアンは姉カルミナの夫ホルヘのコネで現在の分析幾何学助教授という地位を得ている。

 日本では準教授と名称の変わった助教授とは少し違う印象です。正教授を補佐する教授補のような身分じゃないかな。現在は廃止されている。だから正教授になることが周囲から期待されている。

 つまり母親の目からは、フアンはまだ成功者として映っていない。

 

 学年末試験の風景に興味を惹かれました。途中で立ち去ったのが多分正教授だと思う。合否を決める試験なのに席を立つなんて、一種の職場放棄です。

 インテレクチュアルのいい加減さ、危機感のなさです。女子学生マティルデを含めて聴講していた学生に美人を揃えたのは、スペイン女性の美しさと先進性を宣伝するよう指導があったのかと勘ぐった。

 

A マティルデ役のブルーナ・コッラは、1933年トレント生れ、大人っぽくて大学生には見えませんでした。次の時代を指導するだろう新しい世代のリーダーとして登場させている

B いわばマリア・ホセのような古い世代の女性と対比させている。しかしルチア・ボゼーより2歳若いだけだから殆ど同世代、見た目の違いが分からなかった。                

 

          アルベルト・クロサスはラテンアメリカの二枚目だった

 

 フアン役のアルベルト・クロサス19211916年説もあるバルセロナ生れ、1994年に鬼籍入りしています。父親がカタルーニャ自治州政府の高官だったことで、内戦が始まると家族でチリに亡命しました。俳優としての本格デビューは1943チリ映画でした。アルゼンチン映画にも多数出演、あちらでは二枚目として活躍してい

B スペイン映画に出るきっかけは?

   

A 本作のスペイン側の製作会社スエビア・フィルム1941年設立セサレオ・ゴンサレスの推挙、バルデムに彼を起用するよう助言した。この大物製作者はガリシアのビゴ市出身ですが、若い頃はキューバやメキシコで仕事をしていた。その線で最初はマリア・ホセ役もメキシコのグロリア・マリンだった。

 

 本作出演を転機に、その後はもっぱらスペイン映画に出演、本数も多い。

 そうですね、一時的に戻ってアルゼンチン映画に出ることがあっても、生涯を閉じるまでスペインがメインでした。日本でも公開なったフェルナンド・パラシオス『ばくだん家族』65La gran familiaペドロ・マソー『試験結婚』72La experiencia prematrimonialなどがそうです

 海外にも紹介され、コマーシャルベースにも乗った。

 

 前者はファミリー・シリーズのひとつ、15人の子持ちのパパ役でした。未公開ですがエドガル・ネビーリェEl baile59では、シニカルで冷静な紳士役を演じ、シリアス、コメディともにこなし、演技の幅も広かった。ネビーリェはブニュエルと同世代です。より先にハリウッドに渡った経験豊かな監督、帰国してからも若い世代に影響をあたえている。もっと評価されていい監督です。

 

 フアンがまだ息があるのに見殺しにしてしまった自転車乗りアパートを訪ねるシーン、労働者階級の貧困を目の当たりにして慄然とする。

 事故以前からフアンは何のために自分は闘っているのかと苦しんでいる。内戦を生き延びたのに、将来を誓い合った恋人は既に人妻になっている。さらに貧富の差は拡大して決して交錯することがない。二極化なんて言うと聞こえがいいですが、平たく言えば三度のご飯が満足に食べられない階層と贅沢三昧ができる階層に分かれている、ということです。

 

B 労働者の事故死なんか誰も調べようとしないそういう社会的混乱の時代を生きている国の象徴として、フアンに貧民街を訪れさせている。自首の動機付けとしてではない。

 前述したように、フアンの相手をする隣りの奥さんは、監督の実の母親マティルデ・ムニョス・サンペドロバルデム家は、両親も俳優、息子ミゲルは監督、ピラールは女優、彼女の二人の息子カルロスとハビエル兄弟、娘モニカも俳優という映画一家です。 

 最近ハビエルがペネロペ・クルスと結婚、さらに増えました

 

        夫ミゲルはコキュ、美術評論家‘ラファ’は寄生虫 

 

 夫ミゲル役は辛い、権力も財産も容貌も不足ないのに女房に浮気された<寝とられ男>です。男としてまことに不面目このうえないのに堂々としていなければならない。

 理解ある亭主を演出することで、逆に妻を苦しめている。

 オテッロ・トーソは、ミゲルのような産業ブルジョアジーが台頭する背景には、外貨不足に陥っていたフランコ側が軍事基地の提供をエサに、アメリカから経済援助を引き出し自己の体制強化を狙いたい事情がありました1914年パドゥア生れ、スペイン映画出演は初めて、主にイタリアのメロドラマに出演している。1966年パドゥア近郊で自動車事故のため52歳の若さで鬼籍入りしてしまった。

 

 新興ブルジョアジーの台頭例として登場するのが、アメリカ大使館で開催されたパーティ。ユニークだったのが上流階級に巣食う熟達のパラサイト“ラファ”。ゴシップを嗅ぎまわって脅しをかけて生き延びている

 しかし腐った社会に「警鐘を鳴らす人」でもあるのです。二人の密通を嗅ぎつけていたが、轢き逃げ事件までは知らなかった。カルロス・カサラビリャ1900年ウルグアイのモンテビデオ生れ、国籍はウルグアイですが1981年バレンシアで死去している。戦前から活躍しており、バルデム映画にはカンヌ映画祭1954出品の Cómicos(「役者たち」)や、Sonatas59「ソナタ」メキシコ合作)に出演している。前者の「喜劇役者たち」は、その社会的批判性から危険人物と目されるようになった意義深い作品でした。

  

 ハリウッド映画にも出演していますスタンリー・クレマーのスペクタクル『誇りと情熱』57にケーリー・グラントやソフィア・ローレンと共演している。

 ハリウッドといっても当時、アメリカ人が製作費の格段に安いスペインで大作を量産していた時代があったのですが、これもその一つです。カサラビリャは脇役が多いのですが、なかでセサル・フェルナンデス・アルドバン El Lazarillo de Tormes では主役の盲人に扮した。これはベルリン映画祭1960の金熊賞受賞作品です。アクセントにウルグアイ訛りがあったせいか外国人役が多く、その特異な顔立ちから皮肉っぽい役柄を得意とした。

 

           

         (マリア・ホセを脅すラファことラファエル・サンドバル)

 

 タブラオ・フラメンコのシーンのカンタオーラは、グラシア・モンテスだそうです

 1936年セビリア生れ、グラシータの愛称で親しまれ、当時はまだ十代でしたが独特の声をしており、若いアーティストとしてセビリアで成功していた。歌っているのはフラメンコのファンタンゴスのAmor, ¿por que no viniste amor?です。

 

 ファンタンゴスというのは愛、悲しみ、宗教がテーマのフラメンコ、ぴったりです。

 このシーンは特別撮影用に録音された別バージョンだそうです。

 闘牛とフラメンコは格好の<輸出品>だったから故意に挿入されたように感じました。

 体制側からドル箱アメリカに気配りするよう求められたかも知れません。その後もカルメン・フロレスと共に<コプラ>の歌手としてファンを楽しませております。

 

 出番はほんの数分でしたが、助けを求めに行くサイクリスト役マヌエル・アレクサンドレは、マルコス・カルネバル『エルサフレド』でフレドになった人です。

 本作はラテンビート2005で上映され好評でした。1917年マドリド生れ、77歳のときの作品、今でも現役です。バルデム作品ではLa venganza58直訳「復讐」)に出演しています。

投稿2ヵ月後の20101012日、癌で死去、享年92歳。

 

             イタリア・ネオレアリズモの優れた教科書

 

 テクニックも当時としては斬新です。場面展開にハッとするシーンがいくつもあった。

 ベッドにいるマリア・ホセがマドリドから逃れたくて、夫に「どこか旅行に連れてって」とせがむシーン、夫に両手差し出すので抱き合うのかと期待すると、突然夫の顔はフアンの顔に入れ替わる。

 無力感ただようフアンの顔にね。口髭が似ているので一瞬アレっと思う。

 

 ラファの仄めかしで不倫がばれる。マリア・ホセが「他に知ってることは何?」と狂ったように問い詰めるシーン。夫ミゲルもラファを軽蔑ので見やる。やりきれなくなったラファが酔いに任せて傍らのワインの瓶を投げつける。

 割れるのはフアンの勤務する大学の窓ガラス、学生たちが石礫を投げて抗議している場面に転換していく。

 

 唸ったのは、マリア・ホセの友人クリスティナが、私たちが集めた寄付金は「おバカな貧乏人の子供のためよ」と歌うと、カメラが貧民街で遊んでいる子供たちに移動する。

 次は同じ構図で着飾ったお譲ちゃんお坊ちゃんが現れるという具合。

 

 寄付金はおバカな子供の酔っ払いとデブのおっ母さんを増やすだけという自嘲も込められている。

 検閲が通ったのは歌に託して逃げたからです如何にして検閲を通すかに知力を尽くした。

 当時のシネアストたちは検閲に神経をすり減らしていたので、、フランコ没後、検閲が廃止されると気が抜けて仕事が手につかなかった、というジョークがあるくらいでした。

 

 後年ビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』73で使いました

 これから始まるのおとぎ話ですからね」と。教室から小学生の歌が聞こえてくる歌詞がそうです。1973年は既にフランコ体制も緩み始めていた時代でしたが、それでも警戒を怠らなかった。エリセの場合、他にもたくさん手込んだ細工をしています。反体制文化の発展のなかの単なる通過点にすぎないという評は公平じゃないです。

 

 

  監督キャリア&フィルモグラフィー

★フアン・アントニオ・バルデムJuan Antonio Bardem は、1922年俳優ラファエル・バルデムとマティルデ・ムニョス・サンペドロの長男としてマドリードに生れる。内戦勃発時は14歳だったので従軍していないが内戦の体験者である。内戦の初期はマドリードやバルセロナの共和政府地域、1937年からはサンセバスティアンやセビーリャのフランコ軍地域を転々とし、終結後はマドリードに移った。この体験はその後の生き方の根幹をなしている。

 

1943年、家族の希望で農業学校に入学するも卒業は1948年と長期を要した。その間、1946年からは農業省で働きながら映画の勉強を始める。また1947年開校した国立映画研究所に第1期生として入学する。同期生に「幸せなカップル」51、公開53)を共同監督したルイス・ガルシア・ベルランガがいる。この時期には「スペインクラシック映画上映会」でも上映される予定の『ようこそマーシャルさん』の共同脚本執筆者の一人。また『大通り』56)もエントリーされている。第16回ゴヤ賞2002栄誉賞受賞。同年1030日にマドリードで死去、享年80歳。

 

       

  (映画監督の息子ミゲル・バルデム、妹で女優のピラール・バルデム、ゴヤ賞2002授賞式)

 

198410月、東京国立近代美術館フィルムセンター(京橋フィルムセンター)で開催された「スペイン映画の詩的展望<19511977>」に続いて、11月に東京の渋谷で開催された「第1回スペイン映画祭」のとき来日している。1976年以降に製作された名作10作が上映されている。

 

日本語版ウイキペディアでも紹介記事が読めるので、以下に代表作を年代順に列挙しておきます。短編・TVシリーズ・ドキュメンタリーは割愛。

   

1951 Esa pareja feriz 「幸せのカップル」

1953  Cómicos 「喜劇役者たち」

1954  Felices Pascuas 「メリー・クリスマス」/「楽しいクリスマス」

1955  Muerte de un ciclista 公開『恐怖の逢びき』

1956  Calle mayor 『大通り』(映画祭タイトル)

1957  La venganza 「復讐」

1959  Sonatas 「ソナタ」メキシコ合作

1960  A las cinco de la tarde 「午後の5時に」

1962  Los inocentes 「無実の人」ベルリン映画祭FIPRESCI受賞

1963  Nunca pasa nada 「何も起こりはしない」

1965  Los pianos mecánicos 「自動ピアノ」(フランス合作)、公開『太陽が目にしみる』

1968  El último día de la guerra 『最後の戦塵』(未公開、TV放映)

1970  Varieetés 「ヴァリエラ」

1971  La isla misteriosa (伊=仏との合作)、公開『ミステリー島探検・地底人間の謎』

1972  La corrupción de Chris Miller 公開『真夜中の恐怖』

1975  El poder de deseo 「欲望の力」

1976  El puente 「橋」モスクワ映画祭作品賞受賞

1979 Siete dias de enero 「1月の7日間」モスクワ映画祭作品賞受賞

1982 Die Mahnung (スペイン語題 La advertencia)西ドイツ、独語

1997 Resultado final 「最後の結果」

 

TVシリーズは割愛したが、ミニシリーズ「Lorca, muerte de un poeta」(6話、60分)が198711月から翌年の1月まで、毎週土曜日のゴールデン・タイムに放映され好評だった。ドキュメンタリーとドラマで構成する、いわゆるドクドラマ、脚本には、マリオ・カムス監督、イギリス出身ながらロルカ研究の第一人者イアン・ギブソンが共同執筆している。


J.A.バヨナの次回作はTVシリーズ『指輪物語』*ニュージーランド監禁2020年04月21日 11:54

        アマゾンプライムのTVシリーズ『指輪物語』撮影のためニュージーランド滞在

   

     

★スペイン国民の85%が「現政権ペドロ・サンチェス首相の新型コロナ・ウイリス対策の取組の遅れが今日のパンデミアの原因」と考えており、59%が「より厳しい自宅監禁」を支持している。314日から学校は休校、850万人の子供たちは家に幽閉されている。大人は飼犬の散歩、スーパーへの買出しなどで外出できるが子供は禁止されているようで、子供の反乱がいつ起こってもおかしくないようだ。というわけで427日(月曜)から、130分、責任ある大人の付き添いがあれば外出が許されることになった。他の人との間隔を1メートル50センチあけ、勿論マスク着用、公園のブランコなどに乗っては行けませんという厳しいものです。東京の日曜日の公園の混雑を見たスペイン在住の日本人は、ただ一言「怖ろしい」と。本当に恐ろしいです。

 

フアン・アントニオ・バヨナJ. A.バヨナ、バルセロナ、44歳)は、現在アマゾンプライム・ビデオによって製作されるTVシリーズ『指輪物語』撮影のためニュージーランド北島の最大都市オークランドの郊外に監禁されています。全部で5シーズンという大掛りな企画だそうです。最初のテレビ作品ではありませんが、『永遠のこどもたち』『インポッシブル』『怪物はささやく』など映画作品の多くを手掛け成功させていることは周知のことです。第1シーズン全8話のうち今回は最初の2話を撮ったようです。

 

      

                (『指輪物語』のポスター)

 

★監禁とは言っても、弟、義妹、12歳になる姪たちと一緒に、見えるのは森や牛だけという家で過ごしている。いつものようにチームにはカタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACの卒業生が多数参加している。一部はスペインがロックダウンする前に帰国したスタッフもいれば、バヨナのように撮り終えたフィルムの編集などに専念しながら留まっている人もいる。感染者、死者急増のバルセロナに住んでいる両親や二人の姉妹(一人は保健所職員)とは頻繁に電話連絡をとり、両親とは「1日に2回も無事を確認しあっている」と笑いながら語ったようです。今回のエル・パイス紙による監督インタビューはスカイプで行われたが、以下はQ&Aそのままでなく内容を主に映画に絞って管理人が再構成したものです。列挙した映画タイトルは邦題にし、監督名と製作年を追加しておきました。

 

  

                              (オークランドに滞在中のJ. A.バヨナ監督

     

      

      (これは撮影現場でしょうか?)
  
★ニュージーランドは326日、スペインとは対照的に死者0人の段階で国内全土にロックダウンを決めた。この早期の判断が今後の政治経済にどのような影響を及ぼすか未知数だが、とにかく死者を含む感染者数は桁違いに少ない(419日発表感染者1431人、死者10人)。「ニュージーランドは人口約500万人の島国国家だからウイルスが到達するのが遅かった。外国の流行を目の当たりにして準備する時間が充分とれたことが幸いした」と監督。スペインを含む欧米各国が厳しい対策に着手したのは、感染者が急増してからだったから大きな違いがある。「ここでは政治家と社会が一つになっているが、スペインはばらばらです。国民に厳しい監禁状態を強いているのに、政治家は意見の一致が見られない。こんなに対立ばかりしているのは歴史的にも例がなく無意味、私にはサイテイに思える」と。立腹して当然です。

 

★山と森に囲まれた安全な家にいる反面、故郷から遠く離れていることの苦痛を味わっているようです。「酷い政治家の対応にも拘わらず国民が耐えていることに感銘を受けている」とも語っている。選挙の度に議席を延ばしている極右政党VOXは身内に敵意を抱いている「カイン主義ポピュリズム」と批判している。また「カタルーニャ自治州政府が採用している活動は、独立目標を強化するための偽装の意図があり、国家が組織的にやっている仕事と矛盾していることにも悩まされている」と。

 極右政党VOXボックスは、不法移民、同性婚反対、カタルーニャ自治州の自治権剥奪などを掲げる政党。20191110日行われた議会再選挙で52席を獲得、社会労働党、国民党に次ぐ第3政党に躍り出ている。

 

★インタビュアーの「ファンタジーやホラーは撮っているが、パンデミア映画はない。それは現実が映画を超えているからか」と質問され、「すべてが変わってしまった。映画はファンタジーから疫病の蔓延に焦点を合わせてきている。『ワールド・ウォーZ13、マーク・フォースター監督)、28日後・・・』02、ダニー・ボイル)、『SF/ボディ・スナッチャー 』78、フィリップ・カウフマン)などです。おもしろいことに、スティーブン・ソダーバーグがリアリズム手法で描いた『コンテイジョン』11)は、いま世界で起きている病気とよく似ている。数日前まではSFだったことが現実になっている。当時はパンデミアが現実になるという可能性を想定しないで製作していた。いかに心の準備がないままであったかを示しており、学ぶことが多かった」と。

 

      

最新ニュースによると、アメリカ監督協会DGAは、所属会員が仕事を再開するさいの安全対策を検討する特別委員会のトップに、『コンテイジョン』のソダーバーグを任命したそうです。

 

★『コンテイジョン』は今見たら恐ろしいくらいコロナとよく似ている。ウイルスは中国発、コウモリからブタに感染、ブタ肉を料理した料理人から次々に感染していく。映画の鑑賞法も変わらざるを得ない。いくら映画は映画館でといわれても映画館は閉まっている。映画は最初に禁止されたが、開館は最後になる可能性が高い。「このウイルスはお金持ちも貧乏人も選びませんが、誰もが自分自身を平等に守ることができるわけではありません。私たちには公衆衛生が必要です。将来福祉国家の縮小を目指す政策が間違いであることを忘れないで欲しい」と福祉予算削減に警鐘を鳴らしていますが、これは世界的成功にも驕らず謙虚な監督の人柄をよく表しています。

 

★今、どんな映画を楽しんでいるか訊かれて、「一人のときはオーソン・ウェルズのフィルムノワール『ストレンジャー』46、未公開、邦題はビデオ)や、ヒッチコック『海外特派員』401976年公開)を上げていました。12歳になる姪御さんとはトランプに興じたり、子供向けの古典『我は海の子』や『いまを生きる』などを見ている由、前者は1937年のキプリングの小説 Captains Courageous1897、邦訳『ゆうかんな船長』)をヴィクター・フレミングが映画化した。邦題は同年公開されたときのもので、その速さに驚く。後者は1989年ピーター・ウイアーが監督し、ロビン・ウィリアムズが主演した。

 

バヨナ監督のキャリア&フィルモグラフィ紹介は、コチラ20180324


アルトゥーロ・リプスタインの「El diablo entre las piernas」*マラガ映画祭2020 ⑧2020年04月11日 17:20

      アルトゥーロ・リプスタインの「El diablo entre las piernas」はモノクロ映画

 

      

 

アルトゥーロ・リプスタインは、マラガ映画祭2020の特別賞の一つ「レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ」の受賞者で来マラガの予定でした。直前に延期が発表になり急遽キャンセルしたのでした。開催なら320日上映になるはずだったのが、最新作El diablo entre las piernasでした。昨年のトロント映画祭2019「マスターズ部門」でワールドプレミアされました。長年連れ添い老境に入った夫婦の憎みあいながら離れない衝撃的な内容の物語、ベテランのアレハンドロ・スアレスシルビア・パスケルが夫婦を演じます。他にメキシコを代表するダニエル・ヒメネス=カチョや若手のグレタ・セルバンテスがクレジットされています。

 

 「El diablo entre las piernasDevil Between the Legs2019

製作:Alebrije Cine y Video S.A. / Oberon Cinematográfica S.A. / Carnaval Films S.A. /

      Fina Films S. de R.L. / Fidecine / Estudios Churubusco

監督:アルトゥーロ・リプスタイン

脚本:パス・アリシア・ガルシアディエゴ

音楽:デビッド・マンスフィールド

撮影:アレハンドロ・カントゥ

編集:マリアナ・ロドリゲス

プロダクション・デザイン:アレハンドロ・ガルシア

メイク&ヘアー:マリ・パス・ロブレス

プロダクション・マネージメント:ロドリゴ・ルイス・デ・チャベス

製作者:モニカ・ロサノ、ミゲル・ネコエチェア、アントニオ・チャバリアス、マルコ・ポロ・コンスタンデセ、(ライン)クラウディア・バルデス

 

データ:製作国メキシコ、スペイン語、2019年、ドラマ、142分(映画祭データ、147分もあり)、撮影地メキシコシティ、配給Wanda Vision S. A.

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019マスターズ部門上映912日、モレリア映画祭2019上映1021日、マラガ映画祭2020セクション・オフィシアル正式出品、他サン・ディエゴ・ラテン映画祭など。

 

キャスト:シルビア・パスケル(ベアトリス)、アレハンドロ・スアレス(夫エル・ビエホ/オールド・マン)、グレタ・セルバンテス(メイドのディノラ)、ダニエル・ヒメネス=カチョ(タンゴ教室のパートナー兼教師)、エランド・ゴンサレス、マル・カレラ、パトリシア・レイェス・スピンドラ(イサベル)、他

 

ストーリー:メキシコシティで老齢期を迎えたベアトリスとエル・ビエホの物語。ホメオパシーの薬剤師を引退したエル・ビエホは、部屋着のままベアトリスを侮辱しながら、家の中をぶらぶらして退屈しのぎをしている。二人は衝突に疲れはて平安な日常とはほど遠いが、彼女はもう他の生き方を諦めてしまっている。互いに依存しあっているからだ。しかし猜疑心の強い夫の非難の矛先に耐えられなくなると、こっそりタンゴ・レッスンに抜け出す。自分より若いタンゴの教師でパートナーに会いに行く。二人の子供たちは既に家を出ており、メイドのディノラがいるだけだった。ある晩のこと、行き先も定めずに或るたった一つの目的をもって外出する。帰宅すると大惨事が起きていた。

   

   4年ぶりスクリーンに戻ってきたアルトゥーロ・リプスタイン――老人の性を語る

 

アルトゥーロ・リプスタイン(メキシコシティ1943)については、本映画祭の特別賞の一つ「レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ」の欄のほか、ガルシア・マルケス小説の映画化の記事を紹介したおり、『大佐に手紙は来ない』で少し触れただけでした。話題作としては公開された『ディープ・クリムゾン 深紅の愛』(「Profundo carmesí)と『大佐に手紙は来ない』(「El coronel no tiene quien le escriba」)、ミニ映画祭で上映された『夜の女王』(「La reina de la noche」)など、1990年代の作品が多い。『ディープ・クリムゾン~』はアリエル賞1997では多数のカテゴリーにノミネートされたが自身は受賞を逃した。他にイギリスとの合作映画『フォックストロット』75、西語・英語)が、ピーター・オトゥールやシャーロット・ランプリングを起用したことで公開された。

 

    

      (『ディープ・クリムゾン深紅の愛』のオリジナル・ポスター)

 

1966年のTiempo de morir(モノクロ)がデビュー作、これはガルシア・マルケスの小説『死の時』の映画化でした。他にもコロンビア映画だがマルケスの『大佐に手紙は来ない』を映画化、カンヌ映画祭1999のコンペティション部門にノミネートされている前世紀のメキシコでは珍しいカンヌ映画祭の常連者の一人として、受賞こそありませんが6回もノミネートされている。また脚本家のパス・アリシア・ガルシアディエゴは監督夫人、1986年以来の作品を手掛けている。バジャドリード映画祭2017エスピガ栄誉賞を受賞している。

 

主な監督フィルモグラフィTVシリーズ・短編は割愛)

1966Tiempo de morir デビュー作

1974El Santo oficio カンヌ映画祭コンペティション部門初出品

1986EL imperio de la fortuna ゴールデン・アリエル賞・シルバー・アリエル監督賞受賞

1991La mujer del puerto カンヌ映画祭「ある視点」初出品、グアダラハラ映画祭FIPRESCI受賞

1993Principio y fin サンセバスチャン映画祭金貝賞、グアダラハラ映画祭FIPRESCI受賞

   ゴールデン・アリエル賞受賞

1994La reina de la noche(『夜の女王』メキシコ)カンヌ映画祭コンペティション部門出品

1996Profundo carmesí(『ディープ・クリムゾン 深紅の愛』メキシコ)

   ハバナ映画祭グラン・サンゴ賞・監督賞、トゥリア賞観客賞ほか多数

1998El evangelio de las maravillas カンヌ映画祭「ある視点」出品

1999El coronel no tiene quien le escriba(『大佐に手紙は来ない』コロンビア)

   カンヌ映画祭コンペティション部門出品、東京国際映画祭出品、

   サンダンス映画祭ラテンアメリカ・シネマ賞

2000La perdición de los hombres サンセバスチャン映画祭金貝賞受賞

       Así es la vida... カンヌ映画祭「ある視点」出品

2002La virgen de la lujuria ベネチア映画祭サンマルコ賞スペシャル・メンション他

2005Los héroes y el tiempo (ドキュメンタリー)

2012Las razones del corazón サンセバスチャン、モレリア、アブダビ、ワルシャワ各映画祭出品

2015La calle de la amargura ヒホン映画祭監督賞受賞

2019El diablo entre las piernas

 

レトロスペクティブ賞の記事紹介は、コチラ20200318

ガルシア・マルケス作品映画化の記事は、コチラ20140427

   

      

  (主演者フェルナンド・ルハン、マリサ・パレデス、サルマ・ハエックを配した、

   『大佐に手紙は来ない』のオリジナル・ポスター)

 

★かつてのキャストやスタッフの多くが監督から呼ばれて参加している。上述したように脚本を執筆したのは、監督夫人のパス・アリシア・ガルシアディエゴ1986年のEL imperio de la fortuna以来タッグを組んでいる。本作はフアン・ルルフォが1960年代に映画のプロットとして執筆したEl gallo de oro(「金鶏」)をもとに映画化された。メキシコ映画祭1997で『黄金の鶏』の邦題で上映された。ルルフォは生涯に『燃える平原』と『ペドロ・パラモ』の2作しか書かなかった、というか書く必要がなかったというメキシコを代表する作家。1986年は奇しくもルルフォが鬼籍入りした年であった。

 

      

 (パス・アリシア・ガルシアディエゴ、監督、出演者のダニエル・ヒメネス=カチョ)

 

★音楽を担当したのがアメリカの作曲家デビッド・マンスフィールド、過去には『ディープ・クリムゾン 深紅の愛』や「El evangelio de las maravillas」、『大佐に手紙は来ない』、Así es la vida...などを手掛けている。撮影監督のアレハンドロ・カントゥは、La calle de la amargura15)を本作同様モノクロで撮っている。リプスタイン監督はカラー全盛時代にもモノクロを手放さない監督の一人、そのエレガントな映像の評価は高い。本作にはイサベル役のパトリシア・レイェス・スピンドラが主演している。彼女は『夜の女王』のヒロインでもあるが、La virgen de la lujuriaにも出演している。

 

     

        (本作と関係が深い「La calle de la amargura」のポスター)

  

 

        「大きな挑戦だった」とベアトリス役のシルビア・パスケル

 

★ベアトリスを演じたシルビア・パスケル(ソノラ1949)は、最近ではTVシリーズ出演がもっぱらだが、リプスタイン映画には、パトリシア・レイェス・スピンドラ同様La calle de la amarguraに出演している。モレリア映画祭のプレス会見では「完成した映画を観て、どうやってこんな力強い演技ができたのだろうと思った。詩的で明るくリラックスしている。女優としてこんな体験は二度とないだろう多くのことを学んだ、素晴らしい経験だった。これまでの私の女優人生で一番の映画」と、猜疑心の強い夫による愚弄と侮辱を耐えているタンゴ愛好家の女性を演じたパトリシア・パスケルは語った。

 

   

          (インタビューに応じるシルビア・パスケル)

 

★今回オファーを受けて脚本を読んだが、ヌードになるということで逡巡したという。「撮影中はとてもナーバスになった。女優としてのキャリアは長いが今までヌードになったことはなかった。それでもう若くないし美しくも魅力的でもないとアルトゥーロに言ったのよ。というわけで自分のキャリアを高めるために演じた。とても大きな挑戦だった」と70歳になるシルビア。この映画を観た孫たちがどんな感想を述べるか不安だった。しかし彼女たちは心を動かされ「これは仕事だから」と好意的だった由。シルビア自身もロマンティックで心優しい無垢なベアトリスが好きになったと語っている。

 

      

            (ベアトリスとエル・ビエッホ、映画から)

 

★一方、夫になるアレハンドロ・スアレス(メキシコシティ1941)は、シルビア・パスケルやパトリシア・レイェス・スピンドラと同じくLa calle de la amargura」に出演の他、リプスタイン映画ではLas razones del corazónに出演している。他に最近では70代の老人3人がかつて青春時代を過ごした思い出のアカプルコに出かける、アルフォンソ・セラノ・マトゥリノの少し辛めのコメディAcapulco La vida va17)に出演、善良な老人の一人を演じている。『アカプルコ 人生は続く』の邦題で Netflix で配信されている。

 

   

       (エル・ビエッホ役のアレハンドロ・スアレス、映画から)

 

★ベアトリスのタンゴのパートナーになるダニエル・ヒメネス=カチョは、マドリード生れ(1961)ということもあるのか『バッド・エデュケーション』『ブランカニエベス』のようなスペイン映画出演も多い。リプスタイン映画では、『ディープ・クリムゾン 深紅の愛』の禿げているが鬘をすればハンサムになるジゴロ役でアリエル男優賞を受賞した。『大佐に手紙は来ない』、「La virgen de la lujuria」、に出ている。メキシコの男優としてはガエル・ガルシア・ベルナル以上に認知度が高い。他にアルゼンチン映画ではルクレシア・マルテル『サマ』の主役、サンティアゴ・ミトレ『サミット』では、抜け目のないメキシコ大統領を演じている。

 

    

 (ヒメネス=カチョとコラル看護師役のレジナ・オロスコ、『ディープ・クリムゾン~』から)


マティアス・ピニェイロの「Isabella」*ベルリン映画祭20202020年03月11日 21:00

    マティアス・ピニェイロのIsabella」はシェイクスピア・シリーズの第5作目

   

      

マティアス・ピニェイロIsabellaは、今年新設された「エンカウンター部門」で上映された作品の一つ、スペシャル・メンションを受賞した。前回紹介したカミロ・レストレポ監督とマティアス・ピニェイロの二人は、ノミネーション段階からラテンアメリカの有望な監督として紹介されており、受賞は意外でなかったかもしれない。特にピニェイロ監督は、アテネ・フランセとアップリンク渋谷が共催したミニ映画祭が20149月と20176月に開催されており、監督来日もあった。「イザベラ」は彼のシェイクスピア・シリーズの第5作目に当たります。四大悲劇の一つ『オセロー』と同じ1604年に発表された『尺には尺を』(「Measure for Measure」)がベースになっている。監督は現在ニューヨーク在住のため、撮影は飛び飛び、20181月にクランクインしたものの最終は20198月だったそうです。

「マティアス・ピニェイロ映画祭2017」の記事は、コチラ20200302

 

     

    (製作者メラニー・シャピロとマティアス・ピニェイロ、ベルリン2020226日)

 

マティアス・ピニェイロ1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、アルゼンチン・ニューシネマの一人。国立映画大学で学び、後に同校で映画史、映画製作について教鞭をとる。2011年ハーバード大学のラドクリフ奨学金を得て渡米、現在は新たにニューヨーク大学の奨学金を受けてニューヨークに軸足をおいている。従ってコペンハーゲン・ドキュメンタリー・ラボでのスペインのロイス・パティーニョとの共同プロジェクトは断念している。

 

        

           (マティアス・ピニェイロ、226日)

 

2003年短編デビュー、数年助監督を務めたあと、2007年のEl hombre robadoで長編デビュー、チョンジュ映画祭でグランプリを受賞、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 BAFICI ではスペシャル・メンションを受賞した。本作は2014年のミニ映画祭で『盗まれた男』の邦題で上映された。主なフィルモグラフィーは以下の通り。

   

     

                (デビュー作のポスター)

 

  フィルモグラフィー&主な受賞歴(邦題は映画祭2017を使用)

2007El hombre robado」チョンジュ映画祭グランプリ受賞、ラス・パルマスFF1回作品賞

2009『みんな嘘つき』BAFICIスペシャル・メンション

2010『ロサリンダ』中編43分、シェイクスピア・シリーズ第1作、『お気に召すまま』

2012『ビオラ』シェイクスピア・シリーズ第2作、『十二夜』

   BAFICI の国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、バルディビアFF特別審査員賞

2014『フランスの王女』シェイクスピア・シリーズ第3作、『恋の骨折り損』

   BAFICIアルゼンチン映画賞、カトリックメディア賞SIGNISなど受賞

2016『エルミア&エレナ』シェイクスピア・シリーズ第4作、『夏の夜の夢』

2020Isabella」シェイクスピア・シリーズ第5作、『尺には尺を』

   ベルリン映画祭2020エンカウンター部門スペシャル・メンション

(以上、他にロカルノやトロント映画祭などのノミネーションは割愛)

 

 

Isabella2020

製作:Trapecio Cine

監督・脚本:マティアス・ピニェイロ

撮影:フェルナンド・ロケット

編集:セバスティアン・Schjaer

音楽:ガブリエラ・サイドン、サンティ・グランドネ(ン)Grandone

録音:メルセデス・テンニナTennina

プロダクション・デザイン&衣装デザイン:アナ・カンブレ

製作者:メラニー・シャピロ

 

データ:製作国アルゼンチン、フランス、スペイン語、2020年、ドラマ、80分、撮影地ブエノスアイレス、コルドバ、クランクインは20181月、20198月にクランクアップ。

映画祭・受賞歴:第70回ベルリン映画祭2020エンカウンター部門(226日)スペシャル・メンションを受賞。

キャスト:マリア・ビジャール(マリエル)、アグスティナ・ムニョス(ルシアナ)、パブロ・シガル(ミゲル)、ガブリエラ・サイドン(ソル)他

 

ストーリー:ブエノスアイレス生れの女優マリエルは、シェイクスピアのコメディ劇『尺には尺を』のヒロイン、イザベラ役の獲得に挑戦している。マリエルはオーディションで何度も、避けられない運命のように、ルシアナを見かけます。ルシアナは影のように振舞うが、同時に彼女を照らし魅了する。シェイクスピア喜劇における女性の役割について、現代の欲望の定義の難しさについて、ピニェイロ映画常連のマリア・ビジャールとアグスティナ・ムニョスが火花を散らす。 

                                    (文責:管理人)

   

    

       (マリア・ビジャールとアグスティ・ムニョス、映画から)

 

★新作「Isabella」の情報は少なく、シェイクスピア劇『尺には尺を』の知識が若干あったほうが楽しめそうです。マリエル役のマリア・ビジャール1980)は、ピニェイロ映画には長編デビュー作以来、シェイクスピア・シリーズ全5作は勿論のこと、ほぼ全作に出演している。国立芸術大学演技科卒、同窓にマリア・オネットやリカルド・バルティスがいる。カルメン・バリエロがコーディネートする音楽グループのメンバー、他監督作品ではアレホ・モギジャンスキーの話題作「La vendedora de fosforos」やハビエル・パジェイロの「Respirar」に出演しているほか、舞台女優としても活躍している。同じくピニェイロ映画出演の多いロミナ・パウラとは親しく、最近彼女は監督デビューも果たした。

ロミナ・パウラの紹介記事は、コチラ20190910

 

(マリア・ビジャール)

    

★もう一人の主演者、ルシアナ役のアグスティナ・ムニョスは、女優、舞台演出家、劇作家と才色兼備。女優としては、2005年イネス・デ・オリベイラ・セサルのCómo pasan las horasで映画デビュー、「Extranjera」ほか同監督の作品に出演、マティアス・ピニェイロとのコラボはシェイクスピア・シーリーズ第1作からすべてに出演している。第2作目『ビオラ』ではマリア・ビジャールやロミナ・パウラとBAFICIの最優秀女優賞を一緒に受賞している。他監督作品では、サンティアゴ・パラベシノのAlgunas chicasが第70回ベネチア映画祭で上映され、監督と共演者たちと現地入りした。

 

    

          (アグスティナ・ムニョス『フランスの王女』から)

  

    

(左から、共演者アゴスティナ・ロペス、パラベシノ監督、ムニョス、ベネチアFFフォトコール)

 

★他にペパ・サン・マルティンのRaraに主演、本作は第66回ベルリン映画祭2016のゼネレーションKplus部門にエントリーされ審査員賞、ハバナFF特別審査員賞、バルデビアFF観客賞、サンセバスチャンFFホライズンズ・ラティノ部門グランプリを受賞した。ストーリーは2人の娘がいる女性とパートナーの4人家族、普通に見えながらフツーでないのはパートナーも女性であるから。主役が子供たち、特に長女の視点で語られる。

  

     

 (サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」グランプリ受賞作「Rara」から)

    

★ピニェイロ監督によると、第5作目に『尺には尺を』を選んだのは「女性を主役にして映画を撮る場合、シェイクスピアの喜劇はテーマが豊富だからだが、原作はコメディの要素が少なく問題劇の要素を持っているので、トーンを変えるのに適切だった」と語っている。さらに「一般的に悲劇は男性の権力を取り扱っているが、コメディは女性たちの英知が物を言うからです」とも語っている。イザベラは修道院で修練者として暮らしている。ところが兄が婚前交渉で恋人を妊娠させてしまい裁判官から死刑の宣告を受けてしまう。正義、慈悲、真実、プライドと屈辱が語られる。罠がかけられて、結局兄は助かるが大団円とは違うようです。

 

     

       (自作を紹介するマティアス・ピニェイロ監督、226日)

 

2013年、シェイクスピア・シリーズの第2作目『ビオラ』でベルリン映画祭のフォーラム部門に参加している。「今回はカルロ・チャトリアンやマーク・ペランソンの手に委ねられたエンカウンター部門にノミネートされた。とても興味をそそられる部門で興奮している。受賞というのは少し審査員の独断もはいるから、3人とか5人とかの人が決める一種の福引のようなものです」と受賞前に語っていましたが、運よく当たりました。またアルゼンチンでは独立系の映画が映画館に届くことは難しく、1週間とか10日間とか日数を限ってラテンアメリカ・アート美術館や国立映画協会の映写室で限定上映をしてもらっているということでした。

 

          

       

                 (元ロカルノ映画祭ディレクターのカルロ・チャトリアンと監督、226日)

   

     

(プログラミング主任のマーク・ペランソンと監督)

  

  

  (スペシャル・メンションの受賞スピーチをするメラニー・シャピロ、229日ガラ)

 

第25回ホセ・マリア・フォルケ賞2020*結果発表2020年01月13日 14:37

         最優秀作品賞はバスクの監督トリオの「La trinchera infinita」に!

  

     

  (グレタ・フェルナンデス、アントニオ・レシネス、イツィアル・カストロ、第25回ガラ)

 

111日、マドリード市庁舎IFEMAのイベント会場(1800人収容)で第25回ホセ・マリア・フォルケ賞の授賞式がありました。総合司会は今回3回目となるエレナ・サンチェスサンティアゴ・セグラ。ホセ・マリア・フォルケの生れ故郷サラゴサ市で、2年連続開催されていたガラもマドリードに戻ってきました。ノミネーションを受けた人々、トロフィーのプレゼンターたちは勿論ですが、マドリードとあって多くのシネアストたちが赤絨毯を踏みました。ゴヤ賞の前哨戦といわれていた本賞も、フォルケ賞が始まってからはその役目は終わったと判断したのか、独自の視点で授賞者を選んでいるようです。監督のようには光の射さない縁の下の力持ち、製作者集団を讃える賞がその始り、従って監督賞はなく、現在ある俳優賞も後に追加されたものでした。

 

      

      (息の合った総合司会者、エレナ・サンチェスとサンティアゴ・セグラ)

 

★フォルケ賞の選考母体はEGEDA(オーディオビジュアル著作権管理協会)で、会長はエンリケ・セレソです。会長がEGEDA金のメダルという栄誉賞のプレゼンターを務めます。今年は比類ないシネアストであるゴンサロ・スアレス(オビエド193485歳)が受賞しました。

フォルケ賞2020のノミネーション記事は、コチラ20191127 

 

        

        (EGEDA金のメダルを手にしたゴンサロ・スアレス)

 

 

  第25回ホセ・マリア・フォルケ賞結果発表(ゴチック体が受賞)

 

作品賞(長編ドラマ&アニメーション)

Dolor y gloria 監督ペドロ・アルモドバル

La trinchera infinita 監督ジョン・ガラーニョ、アイトル・アレギ、ホセ・マリ・ゴエナガ

Mientras dure la guerra (『戦争のさなかで』)監督アレハンドロ・アメナバル

O que arde (『ファイアー・ウィル・カム』)監督オリベル・ラシェ

 

     

        (プレゼンターのグラシア・ケレヘタ監督と女優のパス・ベガ)

 

     

      (ジョン・ガラーニョ、アイトル・アレギ、ホセ・マリ・ゴエナガ

 

 

女優賞

ベレン・クエスタLa trinchera infinita

マルタ・ニエトMadre)監督ロドリゴ・ソロゴイェン

グレタ・フェルナンデスLa hija de un ladlón)監督ベレン・フネス

ピラール・カストロVentajas de viajar en tren)『列車旅行のすすめ』 アリッツ・モレノ

 

  

 

     

      (赤絨毯に現れたマルタ・ニエトとロドリゴ・ソロゴジェンのカップル)

 

 

男優賞

アントニオ・バンデラスDolor y gloria

アントニオ・デ・ラ・トーレLa trinchera infinita

カラ・エレハルデMientras dure la guerra)『戦争のさなかで』

Enric AuquerQuien a hierro mata 監督パコ・プラサ

 

〇アントニオ・バンデラスは欠席。代理として製作者のアグスティン・アルモドバルが受け取りました。プレゼンターはナタリア・デ・モリーナとマルタ・アサス。

  

ラテンアメリカ映画賞

La odisea de los giles(アルゼンチン) 監督セバスティアン・ボレンステインBorensztein

Monos(コロンビア)『猿』 監督アレハンドロ・ランデス

Araña(チリ)『蜘蛛』 監督アンドレス・ウッド

La camarista(メキシコ) 監督リラ・アビレス

 

〇受賞作は、ゴヤ賞イベロアメリカ映画賞にもノミネートされています。 リカルド・ダリンとチノ・ダリンが共演している。監督は長年リカルドを主役にした映画を撮っていることで有名)

 

      

  (右側が製作者のフェルナンド・ボバイラ、『戦争のさなかで』もプロデュースしている)

 

Cine en Educación y Valores

Abuelos  監督サンティアゴ・レケホ

Vivir dos veces  監督マリア・リポル

Elisa y Marcela 『エリサ&マルセラ』 監督イサベル・コイシェ Netflix邦題)

Diecisiete SEVENTEENセブンティーン』監督ダニエル・サンチェス=アレバロ(Netflix邦題)

 

〇アスペルガー障害のある弟(ビエル・モントロ)と、彼に振り回される兄との再生を語るロードムービーSEVENTEENセブンティーン』が受賞、前回の受賞作品であるハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』(劇場公開中)に出演した視覚障害者のヘスス・ビダルがプレゼンターでした。

SEVENTEENセブンティーン』の紹介記事は、コチラ20191029

 

     

  (サンチェス=アレバロ監督、主役のビエル・モントロ、プレゼンターはヘスス・ビダル)

 

    

         (マドリード市長ホセ・ルイス・マルティネス=アルメイダ、ヘスス・ビダル、

         マドリード共同体委員長イサベル・ディアス・アジュソ)

 

長編ドキュメンタリー賞

Ara malikian: una vida entre las cuerdas 監督ナタ・モレノ

〇マドリード在住のレバノン人バイオリニストのアラ・マリキアンを主軸に国境を越えてきた移民たちの人生が語られる。

〇ゴヤ賞にもノミネートされています。

 

   

      (トロフィーを手にしたナタ・モレノ監督とアラ・マリキアン)

 

 

短編映画賞

El nadador 監督パブロ・バルセ

〇ゴヤ賞にもノミネートされています。

  

 

    

          (トロフィーを手にした中央がパブロ・バルセ監督)

 

 

 EGEDA金のメダル

ゴンサロ・スアレス(オビエド1934)は、脚本家、脚本家。スペインの監督としては特異な地位をしめているスアレス監督ですが、御年85歳になっても現役です。長編デビューは1969年のコメディ・スリラーDitiramboで決して笑わない風変わりな英雄ディティランボを演じた。代表作は、1974年のレオポルド・アラス筆名クラリンの同名小説La Regentaの映画化、1985TVシリーズ「Los pazos de Ulloa」、「Remando al viento」がサンセバスチャン映画祭1988で監督賞を受賞(撮影監督の弟カルロスも撮影賞を受賞)、第3回ゴヤ賞1989でも監督賞を受賞した。Don Juan en los infiernos91)、ハビエル・バルデム、スアレス映画の常連カルメロ・ゴメスやチャロ・ロペスが出演した話題作El detective y la muerute94)、2000年マリベル・ベルドゥ、カルメロ・ゴメス、アントニオ・レシネスなどを起用したEl porteroなどがある。

 

2007年のOviedo Expressは、クラリンの小説La Regentaを舞台化した演劇集団の巡業を描いたロマンス・コメディ。カルメロ・ゴメス、アイタナ・サンチェス=ヒホン、バルバラ・ゴエナガ、ナイワ・ニムリ、マリベル・ベルドゥ、ホルヘ・サンスなど豪華キャストだった。ゴヤ賞2008にノミネートされたが無冠だった。これを最後に引退したのかと思っていたら、昨年アニメーションEl sueño de Malincheを発表、周囲を驚かせた。アステカ帝国崩壊を舞台にしたアニメ、マリンチェにマリアン・アルバレス、コルテス総督にサンティアゴ・メレンデス、モクテスマ王には数年前引退宣言をしたはずのカルメロ・ゴメスがボイスを担当していたのでした。

 

〇撮影監督のカルロス・スアレス(オビエド1946)は実弟、二人三脚で映画を製作していた。しかし兄より一足先に昨年10月に旅立ちました。スペインで最も愛されている監督ガルシア・ベルランガの撮影監督でもありました。弟のことを思い出しながら製作者について「一番いいのは私のことなど思い出さなくてもいいと考えているが、私は製作者のことを常に思い出している」~「製作は非常に困難な仕事で、とても尊敬している」とも。製作者に光を当てる EGEDA金のメダルを受賞できたことは嬉しいに違いない。会長エンリケ・セレソがスペイン映画の保護に果たしている努力を感謝したようです。

 

   

    (エンリケ・セレソとゴンサロ・スアレス、フォルケ賞2020授賞式で)

 

★以前は地味だった授賞式も年々華やかになってきました。以下、こんな衣装のシネアストが赤絨毯を踏みました。お楽しみください。

 

    

       (アンドレス・ウッド『蜘蛛』の主役マリア・バルベルデ)

 

  

          (女優賞ノミネートのベレン・クエスタ)

 

     

         (女優賞ノミネートのグレタ・フェルナンデス)

 

    

    (ベストドレッサーのミシェル・ジェンナー、ディオールのデザイン)

 

         

   

          (白いドレスが評判だったバネッサ・ロメロ)

 

  

  (男優賞プレゼンターだったナタリア・デ・モリーナ、パンツルックは珍しい)

 

 

  

                 (いつも出席する律義なアレハンドロ・アメナバル)

 

   

           (男優賞初ノミネートのEnric Auquer



新人監督賞に女性監督がノミネーション*ゴヤ賞2020 ⑥2019年12月24日 15:56

                ベレン・フネスのデビュー作「La hija de un ladorón

 

★新人監督賞にはラテンビートと東京国際映画祭で上映された『列車旅行のすすめ』(「Ventajes de viajar en tren」)アリッツ・モレノがノミネートされている他、サンセバスチャン映画祭でグレタ・フェルナンデスに女優賞をもたらしたLa hija de un ladorónベレン・フネス、アニメーションBuñuel en el laberinto de las tortugasサルバドール・シモー、近未来SF映画El hoyoガルデル・ガステル⋍ウルティアと、誰が受賞しても納得のいくカテゴリーです。予想が難しいだけに面白いのですが、今回のようにアニメーション作家が候補になるのは珍しいケースです。

 

★ガルデル・ガステル⋍ウルティアのデビュー作「El hoyo」は、予告編からしても異様な雰囲気、アリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』も相当可笑しな映画でしたが、こちらもフツウの登場人物がゼロ、厳しい階級社会らしくこんな近未来なら長生きなど御免をこうむりたい。2作ともシッチェス映画祭2019でプレミアされた。

      

新人監督賞

 

サルバドール・シモー 映画「Buñuel en el laberinto de las tortugas

  スペイン=オランダ=ドイツ、2018

〇アニメーション映画部門の他、脚色賞・オリジナル作曲賞の4 部門ノミネート。

〇サルバドール・シモー(バルセロナ1975)は、アニメーター、視覚効果、短編監督としての実績があり、スペイン語の長編監督としてはデビュー作。2018年製作だが、スペインではマラガ映画祭2019でプレミアされ、ASECAN 賞を受賞、ヨーロッパ映画賞2019アニメーション賞を受賞した。

〇フェルミン・ソリスの同名コミック「Buñuel en el laberinto de las tortugas」(2009発表)の映画化、ハリウッドからスペインに帰国した1932年に、ルイス・ブニュエルが撮ったドキュメンタリーLas Hurdes (Tierra sin pan)1933、邦題『糧なき土地』)の製作秘話が語られる。『糧なき土地』の実写とアニメーション。ブニュエルのボイスはホルヘ・ウソン

別途に作品紹介の予定。

 

     

    (サルバドール・シモー、ヨーロッパ映画賞アニメーション賞受賞、127日)

    

      

 

 

ガルデル・ガステル⋍ウルティア 映画「El hoyo」(The Platform)スペイン、2019

〇オリジナル脚本賞・特殊効果賞を含めて3 部門ノミネート。

〇ガルデル・ガステル=ウルティア(ビルバオ1974)は、製作者、脚本家、2本の短編を撮っている。今回本作で長編映画デビューを果たした。ホラースリラー、近未来SF映画とジャンル分けが難しい。トロント映画祭の「ミッドナイト・マッドネス」でワールドプレミア、観客賞受賞、続くシッチェス映画祭で作品・視覚効果・新人監督・観客の4賞を受賞し別途に作品紹介の予定。

作品紹介は、コチラ⇒2020年01月14日

 

    

    (ガルデル・ガステル⋍ウルティア、シッチェス映画祭フォトコールにて)

 

   

 

 

ベレン・フネス 映画「La hija de un ladorón」スペイン、2019

〇女優賞(ベルタ・フェルナンデス)を含めて2 部門ノミネート。

〇ベレン・フネス(バルセロナ1984)は、脚本家、監督。助監督歴が長く、2015年短編「Sara a la fuga」がマラガ映画祭短編賞、2017年同「La inutil」がメディア映画祭脚本賞を受賞している。今回長編デビュー作ながらサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアルにノミネートされた。バジャドリード映画祭SEMINCIではドゥニア・アヤソ賞を受賞した。1129日スペイン公開。

〇エドゥアルド・フェルナンデスとグレタ・フェルナンデスの実の父娘が、ドラマでも窃盗犯で常に刑務所暮らしの父親、年の離れた弟の面倒と若くして子持ちになって苦労する娘を演じている。別途に作品紹介の予定。

 

    

      (ベレン・フネス、スペイン公開前のマドリード、1128日)

    

   

 

 

アリッツ・モレノ 映画「Ventajes de viajar en tren」(『列車旅行のすすめ』)西=仏、2019

〇脚色賞・美術賞・メイク&ヘアー賞を含めて4 部門ノミネート。

〇アリッツ・モレノ(サンセバスティアン1980)は、監督、脚本、編集、製作、撮影と何でもこなす。シッチェス映画祭コンペティション部門正式出品、ラテンビート、東京国際映画祭で上映され、後者には監督と原作者アントニオ・オフレド・ウトリジャが来日、Q&Aで会場を沸かせた。既に作品紹介をアップしています。

作品紹介は、コチラ2019101411月15日

 

 

        (映画の舞台となったゴミ山の前のアリッツ・モレノ)