ロドリゴ・ガルシアのメキシコ映画『逸す』*Netflix 鑑賞記 ― 2025年12月13日 11:54
ロドリゴ・ガルシアのスペイン語映画「Las locuras / The Follies」

★コロンビア生れのメキシコシティ育ちの監督、脚本家、製作者、撮影監督と多才なロドリゴ・ガルシア・バルチャに生涯ついて回るだろう「ノーベル賞作家『百年の孤独』のガボの息子」、有名な父親を誇りにも重荷にも思っているに違いない。長編デビュー作「Things You Can Tell Just by Looking at Her」が、サンダンス映画祭1999でNHK賞を受賞、翌年カンヌ映画祭「ある視点」でグランプリを受け、お蔭で『彼女を見ればわかること』の邦題で公開され話題となった。

(スペイン語版『彼女を見ればわかること』のポスター)
★監督紹介:映画に絞って駆け足でキャリアを紹介すると、1959年コロンビアのボゴタ生れのメキシコ育ち、コロンビアの映画・TV監督、脚本家、製作者。現在米国在住のようだが国籍はコロンビア、父親はガブリエル・ガルシア・マルケス、母親はメルセデス・バルチャ・パルド、ハーバード大学で中世史を専攻、後アメリカン・フィルム・インスティチュートで映画を学ぶ。
1989年、撮影監督としてキャリアをスタートさせる。『彼女を見ればわかること』の後、2005年「Nine Lives」(『美しい人』)でロカルノ映画祭の金豹・ユース審査員賞ほか、2008年には、「Passengers」(『パッセンジャーズ』)、「Mother and Child」(09、『愛する人』)、2010年メキシコ革命100周年を記念して製作された若手監督10人による『レボリューション』に参画、「Albert Nobbs」(11、『アルバート氏の人生』)でサンセバスチャンFFセバスティアン賞、「Last Days in the Desert」(12、『ユアン・マクレガー 荒野の誘惑』)、「Four Good Days」(20、『フォー・グッド・デイズ』)、「Raymond & Ray」(22、『レイモンド&レイ』)など。TVシリーズ化された『百年の孤独』(24、全16話)の製作者の一人として参画、昨年半分の8話がNetflixで配信されている。メキシコ現大統領クラウディア・シェインバウムは義姉に当たる。

(父親に似てきたロドリゴ・ガルシア監督)
★第1作から英語で撮りつづけてきたが、メキシコの名優ダニエル・ヒメネス=カチョを主役に、オリーブ農園の或る個性的な家族を描いた「Familia」(23)というスペイン語映画をNetflixで撮った。同年12月から『Familia 我が家』の邦題でストリーミング配信されている。キャストに、イルセ・サラス、カサンドラ・チャンゲロッティ、ナタリア・ソリアン、アンヘレス・クルス、ナタリア・プラセンシア、ヴィッキー・アライコなどが、スペイン語映画2作目となる『逸す』(「Las locuras / The Follies」)に重なって出演している。以下にキャスト紹介をしていますが、メキシコを代表する演技派をこれほど大勢起用できたことに驚きました。

(ネットフリックス『Familia 我が家』のポスター)
『逸す』(「Las locuras / The Follies」)
製作:Panorama
監督・脚本:ロドリゴ・ガルシア
撮影:イゴル・ハドゥエ(ジャドゥエ)・リロ
音楽:ハビエル・ヌーニョ、トマス・バレイロ
キャスティング:ルイス・ロサレス
美術・プロダクションデザイン:サンドラ・カブリアダ
衣装デザイン:マリア・エステラ・フェルナンデス
メイクアップ:イツェル・ペニャ・ガルシア
音響:ラウル・ロカテリ
製作者:ヘラルド・ガティカ・ゴンサレス、パブロ・シンブロン・アルバ、(エグゼクティブ)ヒメナ・カルボ、フアネロ・エルナンデス
データ:製作国メキシコ、2025年、スペイン語、ドラマ、121分、配給Pimienta Films、公開メキシコ11月13日限定、2025年11月20日Netflix配信開始
映画祭・受賞歴:第23回モレリア映画祭FICM 2025(10月11日)、第40回マル・デル・プラタ映画祭(11月15日)
キャスト:カサンドラ・チャンゲロッティ(レナタ、1・3・6話)
アルフレッド・カストロ(レナタ父イスマエル、1・6話)
ヴィッキー・アライコ(イスマエルのパートナー、カード占い師アルバ、1・3・6話)
ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド(ペネロペ/ペニー、動物病院の獣医、1・2話)
ラウル・ブリオネス(アウレリオ・ガメス、同上、1・2話)
モニカ・デル・カルメン(犬の飼主リタ、2話)
ダニエル・トバル(リタの夫ガストン、2話)
イルセ・サラス(レナタの恋人ミランダ、1・3話)
アドリアナ・バラサ(ミランダの母イレネ、3話)
フアンキ・ドゥラン(タクシー運転手、3話)
アンヘレス・クルス(イルランダ精神科医セラピスト、1・4話)
ルイサ・ウエルタス(イルランダの母パス、4話)
ロベルト・ソサ(イルランダの元夫ファクンド、4話)
メルセデス・エルナンデス(イルランダの妹イタリア、4話)
テレサ・サンチェス(イルランダの妹ガリシア、4話)
ガビノ・ロドリゲス(ガリシアの夫オメロ、4話)
アナ・ソフィア・フェリックス(パウリナ、4話)
ナタリア・ソリアン(レナタの妹ソレダード舞台女優、1・5話)
フェルナンド・カットリ(バレンティン舞台俳優、5話)
ナタリア・プラセンシア(マルティナ演技指導者、5話)
フェルナンダ・カスティーョ(金融仲介業者セレナ・ロペス・レナ、6話)
他多数
ストーリー:メキシコシティに突然降り出した雨の一日、個人が自分に課した制約、社会的圧力、家族の期待に彩られた自己発見の旅を歩む6人の女性が語られる合唱劇。人間の感情が限界まで追い込まれたときの強烈さと本物らしさを受け入れるとき、本当の自由とは、勇気とは何かという問いが生まれます。個人のアイデンティティ、不安、自由が、予期せぬ困難に直面するなかで試される。
第1話『罪と罰』レナタの罪と罰
A: 全体が6話に分かれ、それぞれ著名な書籍のタイトルが付けられている。第1話はドストエフスキーの『罪と罰』、その他シェイクスピア、フローベール、カルペンティエルなどの代表作のタイトルがついている。それぞれ独立しているようだがレナタを通じて繋がっている。ロバート・アルトマンが生みの親と言われる群像劇またはアンサンブル劇、スペイン語映画では合唱劇と称している。
B: 無関係だった複数の登場人物が出たり入ったりして複雑に絡み合って展開していく。前作と同じようにセリフの多い映画です。
A: 合唱劇とはいえ核になる人物がいて、本作ではカサンドラ・チャンゲロッティが演じた躁鬱混合状態のレナタと、アルフレッド・カストロ扮する父親イスマエルの父娘である。サン・ミゲル・チャプルテペック地区にあるイスマエルの家のメインルームで始り最後には戻ってくる円環的な物語でもある。深い喪失を生きているレナタの右足にはGPS端末が装着されている。アクセルを踏み続けるレナタの罪が分かるのは最後の6話まで待たねばならない。

(カサンドラ・チャンゲロッティ扮するレナタ)
B: サン・ミゲル・チャプルテペックは、メキシコシティのチャプルテペック公園の南に位置する旧市街、歴史的な建造物が残っており、主に中産階級が住んでいる。第1話には「忙しくしてないと、おかしくなる」という金融仲介業のやり手セレナ以外の5人が手際よく登場する。

(躁状態で一睡もしないレナタの逃亡を心配するイスマエル)
A: 監督がモレリア映画祭で「この物語は、自分の友人たちが双極性障害の躁状態を経験していることに触発された」と語っているように、レナタの家族が核になっている。3歳年下の妹ソレダード(5話)、獣医のペネロペ(2話)、精神科医のイルランダ(4話)、レナタの恋人ミランダ(3話)と手際よく出揃う。
B: 双極性障害発症の原因は現在でもはっきりしないが、ラテンアメリカ映画に特徴的な「父親不在」でなく、「母親不在」が一因らしきことが暗示されている。精神的な病を抱えているレナタが他の女性を巻き込んでいくが、それは〈狂う〉でなく〈乱れる〉である。
A: チャンゲロッティは「レナタに対して抱く共感は、彼女が小さいときに母親が出て行ったという事実です」と語っているように、少なくとも彼女はそう解釈して演技したということです。一度壊れてしまった人間関係の修復は容易でない。
B: チャンゲロッティは、『Familia 我が家』でも、三姉妹のうち精神が不安定な次女を演じていたが、イルセ・サラス主演の『グッド・ワイフ』でも共演している。
A: 監督の一部が投影されているような父親を演じたアルフレッド・カストロについては、既にキャリア&フィルモグラフィーを紹介しております。本作の撮影終了後、文化に敬意をはらわないチリに愛想をつかして軸足をスペインに移した。チリの映画のみならず舞台芸術を牽引していただけに残念です。スペイン国籍も取得済みです。
B: 才能流出は止められないが、パブロ・ララインとのコラボは続けてほしい。イスマエルのパートナー役アルバに扮したヴィッキー・アライコの自然体の演技も魅力の一つ、前作では出番が少しで残念でしたが、本作では総じて脇役に重量級を起用している。
*アルフレッド・カストロのキャリア紹介は、コチラ⇒2024年05月23日
第2話『眠れる森の美女』、危機がエネルギーのペネロペ
A: 監督もカストロも70歳という年齢の壁を前にして、自身を解放する必要に迫られている。さて第2話、獣医のペネロペとアウレリオは恋人同士、開業資金を溜めるため死期の迫った動物の安楽死に走り回っている。アウレリオを演じたラウル・ブリオネスも重量級の脇役なら、飼い犬ペニーの安楽死を依頼したリタ役モニカ・デル・カルメンと夫役のダニエル・トバルも重量級です。
B: この日本贔屓らしい飼い主夫婦もかなり変わっていて、リタに手こずる夫ガストンも同類のようだ。我が子のように可愛がるのは分かるとして、自分たちが飼い犬の〈パパとママ〉とは尋常じゃない。しかしスター犬ペニーの名演技に感心した。

(愛犬ペニーを手離せないリタを宥めるペネロペ)
A: どんな名優も子供と動物には勝てません。今泣いたガラスよろしく、ライオンキングの仮装で浮き浮き出かける夫婦にぎょっとします。本作は女性の視点で描かれていますが、それは「最初からの意図ではなく、脚本執筆の過程で自然とそうなった」と監督。しかし「女性中心のアプローチになったが、登場する人物たち全員がたどる旅路についての映画だ」とも語っている。
B: モニカ・デル・カルメンの「アリガト、マタネ」は、なんの皮肉か。おかしな日本贔屓に笑ったけど複雑な気分です。男性優位が国是のメキシコもマッチョな男性は流行おくれなのか、見た目は〈婦唱夫随〉の家族に乾杯しよう。
A: 劇中、仮装した夫ガストンにはライオンの仮面を被らせて表情を視聴者に想像させている。写真のような笑顔でしょうか。ダニエル・トバルは、ロドリゴ・プラのデビュー作「La zona」(07)に少年役で出演した。スリリングな階級憎悪を描いた本作は、今のメキシコでは現実味を帯びてきている。
B: ガストンは中年男性だが、トバル本人は1989年生れです。

(リタ手作りのライオンキングの仮装の二人に挟まれた監督)
A: レナタに「生き物を楽にすることで死の不安を抑えている」と図星を指されたペネロペ、これから処置しようとする犬の名前が偶然自分と同じと分かってバランスを崩す。あまりに刺激的すぎる。レナタに「犬は最後に何を思う?」と尋ねられたことを思い出す。「私なら何を思うのだろうか」と。危機をエネルギーにしているペニーを演じたナイアン・ゴンサレス・ノルビンドもミシェル・フランコの『ニューオーダー』の主役を射止めて以来引っ張り凧。1992年メキシコシティ生れだが、ノルウェー系メキシコ人で教育はソルボンヌ大学、ロンドン音楽演劇アカデミーで学んでいる。メキシコでは異色の経歴、飛躍が期待できそう。因みに『或る終焉』に出演しているナイレア・ノルビンドは実母です。

(放心状態で座り込むペネロペ)
B: 『ニューオーダー』は、毀誉褒貶あるなかでベネチアFF2020銀獅子賞の審査員グランプリを受賞した作品、モニカ・デル・カルメンも出演している。最悪の偶然にアウレリオも動揺を隠せない。先ほどのレナタの分析が頭から離れないペネロペは、アウレリオに八つ当たり、我慢強い恋人も「またぞろ始まった」堂々巡りにうんざりする。でも二人は離れられない運命共同体。
A: ブリオネスは、デル・カルメンと共演したアロンソ・ルイスパレシオの『コップ・ムービー』(21)で紹介しているが、同監督の「La cocina」(24)が『ラ・コシーナ/厨房』の邦題で公開された。この2作でアリエル主演男優賞を受賞している。


(運命共同体のペネロペとアウレリオ)
*モニカ・デル・カルメンとラウル・ブリオネスのキャリア紹介は、コチラ⇒2021年08月28日
*『ニューオーダー』の紹介記事は、コチラ⇒2022年06月13日
第3話『感情教育』メンタルヘルスは恥ではない
B: 第3話のタイトルは、フローベールの『感情教育』、イルセ・サラス演じる仲介業者の妻ミランダ、母親とも家族とも上手くいってない。
A: 適応障害とは言えないが、夫の仕事関係のパーティで数日知り合ったばかりのレナタに執着している。レナタがペネロペの携帯から助けを求めていたお相手です。午前中に白内障のオペをしたばかりの病院帰りの母親とのあけすけなバトルが見もの。もう片方のオペがすんだら離婚して自由になるつもり、キューバかドミニカに出掛けてやり直したい。髪を金髪にしてまだ人生を諦めていない母親役のアドリアナ・バラサの人格設定も切実だから笑えない。バラサはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』(06)出演で、オスカー賞とゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネートされた。

(イルセ・サラス扮するミランダ)

(ミランダの母親役のアドリアナ・バラサ)
B: 夫の悪口に娘であるミランダもやりきれないが、レナタに早く会いたいミランダにはどっちでもいい。イルセ・サラスは、前作では麻酔医師をしている三姉妹の長女を演じていた。
A: アレハンドラ・マルケス・アベジャの公開作品『グッド・ワイフ』や、撮影監督ロドリゴ・プリエトの監督デビュー作『ペドロ・パラモ』など、カストロに次いで知名度が高い。当ブログでも紹介している作品が多く、他に夫アロンソ・ルイスパレシオスのデビュー作『グエロス』にも出演している。彼との間に子供が2人いる。

(レナタとミランダ)
B: 馬鹿げた金持ち母娘に悪乗りして、ちゃっかり稼いでいるタクシー運転手役フアンキ・ドゥランも笑えます。レナタ、ミランダ、イスマエルのほか、イルランダとアルバも登場、イルランダはアルバを見て火花を散らす伏線が張ってある。
A: 作品によっては回収されない伏線もありますが、ここは次の第4話で回収される。アルバは気づかないが、イルランダの元夫ファクンドとアルバは、かつて性的関係にあったことが暗示される。性的アイデンティティの抑圧が語られるわけですが、タブー視されてきたメンタルヘルスは誰にでも起こりうる。
*『グッド・ワイフ』の作品紹介は、コチラ⇒2019年04月14日
*『グエロス』の作品紹介は、コチラ⇒2014年10月03日
*『ペドロ・パラモ』作品紹介は、コチラ⇒2024年12月04日
第4話『種への旅』人生は死から誕生へと反対に語ったほうがいい
B: 第4話のタイトルは、アレホ・カルペンティエルの短編集『時との戦い』の1編「種への旅」、人生は死から誕生へと反対に語ったほうがいい。時は逆行して老人は若くなり、壮年時代、少年時代を経て幼児になり胎児となる。
A: 本エピソードの主人公はイルランダ、精神科医、今は症状が軽い患者のセラピーをしている。今日は生きてれば99歳になる父親の誕生日、母親が娘や知人を自宅に招いて食事会が行われる。しかし招待客のなかにイルランダのロベルト・ソサ扮する元夫ファクンドがいたことで不穏な空気になる。彼は『ペドロ・パラモ』で神父役を演じていた。

(かつての姑の信頼を受けているファクンド役、監督とのツーショット)
B: ファクンドが犯した罪の数々が暴露され、さらにイルランダと二人の妹との軋轢やら母親の一方的な非難など、彼女の家族の禁忌の過去に遡って行く過程で食事会は台無しになる。
A: 知的で成功した人々が冷静さを失う可能性が語られるわけですが、一番強烈なのは、愛されていたと思っていた父親が、実は「必死で愛しているフリをしていた」だけ、今日イルランダを招いたのも「慈悲の心から」という母親の言葉でしょう。

(頭がよい努力家、誰からも愛されないイルランダ)
B: 上から目線に苛立つのは分かるとして、「生意気で横柄、傲慢で自分勝手、親切心などかけらもない」などと責め立て、「結婚前からアルコール依存症だった」と追い打ちをかける。まるでファクンドの裏切りの責任が、あたかもイルランダだけにあると断罪する。母親が娘に対してこれほど残酷になれるものかと驚く。

(妹ガリシア、イルランダ、妹イタリア、母親)
A: 母や妹ガリシアの怒りの対象はイルランダ個人でないように感じますね。メキシコに根を下ろした人種差別、女性蔑視、同じ姉妹でも「勉強のできた」イルランダだけが大学教育を受けられたことへの不満、家族のお蔭で医者になれたのに偉そうに自分たちを見下している高慢さ、白人でない彼女たちの屈辱感や恨みは、対象が大きすぎるために社会ではなく身近な個人に向かっていく。
B: 自分たちが心のなかに溜めこんだ不満の捌け口を誤っている。いずれメキシコにはびこるマチスモやレイシズムは最終エピソードで語られることになる。
A: 家族の過剰な期待は、時として敵となりえます。重要なセリフが凝縮されている章でもあり、衝撃的な結末にやりきれないが、こんな復讐の仕方でよかったのでしょうか。私たちは「光のない暗闇で生きている」から、普通の人でも「悲しみや怒りを強く持つ人」にはセラピーは救いになる。それに「セラピーは自己発見に役立つ」と、イルランダは先ほど語っていたではないか。
B: 彼女は社会的弱者とはいえないが、6人のなかで唯一のメスティーソの女性です。前作ではオリーブ農園の家事を一手に引き受けて、農園主だけでなく家族全員の信頼を受けている役柄を好演していた。
第5話『響きと怒り』支配されることへの恐怖
A: タイトルはウィリアム・フォークナーの人生の虚無を描いた『響きと怒り』、シェイクスピアの戯曲『マクベス』にある彼の独白「愚か者の話は〈騒々しさと激しさ〉はなはだしく、他愛のないことです」から採られている。
B: ナタリア・ソリアン扮するレナタの妹ソレダードは女優で、今日はポスト・スタニスラフスキーのワークショップに参加している。演技指導者マルティナを演じたのは、ナタリア・プラセンシアです。

(舞台女優に扮したナタリア・ソリアン、フレームから)
A: 二人とも前作に続いての出演、ソリアンは妊婦の三女、プラセンシアはその恋人役でした。もう一人重要な登場人物が、飛び入り参加という設定のフェルナンド・カットリ演ずるバレンティン、彼はモニ・ヤキム*に師事していたという聾啞者の俳優役を演じた。
B: ワークショップは「異質な人はいない」の唱和で始まる。マルティナは「舞台芸術の重要な要素は、予測していなかった事態への素直な反応」だと語る。
A: マルティナはソレダードとバレンティンに即興の仮面劇を演じさせる。二人は反対の性別で演技するが、ソレダードはバレンティンに組み伏せられレイプされる演技に怒って途中で演技を投げ出してしまう。なぜ投げ出したか、ソレダードはそれは「恐怖だ」と応じる。どういう恐怖か、それは「制御を失うこと」だ、制御を失うと、「支配されるのを好きになる」からである。
B: マルティナは彼女が「騒ぎすぎ」で「何かに縛られている」と分析していたが、マルティナの言う予測していなかった事態にソレダードは反応できなかった。それは彼女がバレンティンに惹かれているからでしょう。

(仮面劇で男性に扮したソレダード)

(バレンティンとソレダード)
A: 植民地時代の扇子言葉が生きてるなら、女性役のバレンティンは「わたくし、恋人募集中です、あなたが気に入りました」というサインを送っている。最近ソレダードのようなタイプの女性が増えたと思います。ナタリア・ソリアンは、先述したように前作の他、『グッド・ワイフ』、主役を演じたミシェル・ガルサ・セルベラのホラー「Huesera」では、アリエル賞2023女優賞にノミネートされた。ベネチア映画祭2022でプレミアされたカルロス・アイチェルマン・カイザーの「Zapatos rojas」は、マラガ映画祭でも正式出品されました。フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パーラのコメディ「No voy a perdirle a nadie que me crea」は、日本語の字幕なしですがNetflixで配信されています。
B: メキシコ人俳優とはタイプの違うフェルナンド・カットリは、人気急上昇中とか。
A: 彼はメキシコシティを拠点にアメリカやヨーロッパでコラボレーションをしている監督、俳優、脚本家。ミュージックビデオ「Rubio: Nacimos llorando」(23、監督)、映画出演はウンベルト・イノホサの犯罪ドラマ「Principes salvajes」(24)でデビュー、米国のTVシリーズにも出演するなど多才なアーティストのようです。
*「Zapatos rojas」の紹介記事は、コチラ⇒2023年03月14日
*モニ・ヤキム Moni Yakim は、イスラエル出身のフランス人演技指導者、1968年ジュリアード音楽院の演技部門創設メンバーの一人、50年以上〈ムーブメント〉の指導を続けている。1987年、映画『ロボコップ』シリーズでは、ピーター・ウェラー扮するサイボーグの動きを指導して、映画の成功に貢献した。ドキュメンタリー「Creating a Character: The Mori Yakim Legacy」(20)で彼の指導方法が紹介されている。有名なハリウッドスターが指導を受けている。
第6話『テンペスト』内なる家父長制が語られる
B: 第6話のタイトル『テンペスト/あらし』は、シェイクスピア単独の執筆としては最後の戯曲と言われる作品。
A: 主役はフェルナンダ・カスティージョ扮するセレナ、父親の援助なしで事業を成功させている実力者。イスマエルのパートナーであるカード占い師アルバの顧客の一人、舞台は巡り巡って第1話のレナタが閉じ込められている居間に戻ってくる。

(男に頼らず成功を手にした実業家セレナ・ロペス・レナ)
B: レナタの右足首に装着されているGPS端末の経緯がやっと語られます。レナタの長い独白を「痛い」と感じた視聴者もいたはず。
A: レナタがスーパーマーケットの放火犯として逮捕された具体的な経緯が語られる。先住民差別というレイシズムが語られるわけですが、まだ「インディアン」という侮蔑語で先住民を差別する現実に視聴者は誘導される。
B: レナタは放火したことを「後悔していない」し、「差別主義者は地獄に落ちろ」と叫んでいる。本作で一番印象に残ったのは、興奮する娘を諫めるどころか「もっと激しく、燃やすべきだった」というイスマエルのセリフでした。彼には監督が投影されていると思う。
A: レナタとセレナは同じ「嘘と偽りに満ちた」クソのような金融業界で働いている。シカゴの大学で博士号を取ったセレナは、バックアップなしでリスク管理の仲介会社を起ち上げた。「忙しくしていないと落ち着かない」という強迫観念に駆られており、イスマエルが祖父母から受け継いだヴィンテージ感のある家を法外の値段で購入したい。そうやって「忙しくしているのが好きだから」である。
B: 思い通りの結果が出るまでアルバに3回もカードをきらせる。お金も知性もあるが、それだけでは人生の意味は分からない。
A: レナタの指摘通りセレナは自分が「内なる家父長制」に無意識に縛られていることを認めている。老境の入口に立って文無しになっているイスマエルも、アルバの経済的な支えは拒否している。本作は男に頼らず生きようとして傷つく女たちの物語ですが、自分に残された時間の少なさに立ちすくむ男の物語でもあります。

(自分たちの「内なる家父長制は許せない」セレナとレナタ)
B: 寝室が6部屋、5ヵ所のシャワールームは今や無用の長物、イスマエルはやり残したことの多さに愕然としている。70歳はもう目の前、監督も前作のダニエル・ヒメネス=カチョ扮するオリーブ農園主も同世代です。
A: 何世紀も続いた家父長制は手強い、私たちも内なる家父長制に無意識に縛られていることを認めざるをえません。さてセレナを演じたフェルナンダ・カスティージョ紹介、1982年メキシコシティ生れ、TVシリーズ出演で知名度高く、ファビアン・コレスの「Encontrando el Fin del Mundo」やラファエル・モンテロの「Rumbos paralelos」、Netflix配信中のサルバドル・エスピノサのコメディ、出番は少ないが『僕と、パパと、ホントのパパを見つけるまで』(原題「Lo mejor del mundo」)などに出演している。
ニューディレクターズ部門にホセ・アラヨンの「La lucha」*SSIFF2025 ⑧ ― 2025年08月13日 15:41
ホセ・アラヨンの「La lucha / Dance of the Living」

2)「La lucha / Dance of the Living」2025
データ:製作国スペイン=コロンビア、2025年、長編2作目、スペイン語、ドラマ、92分、撮影地カナリア諸島フエルテベントゥーラ島、16mm撮影、プレミア上映
監督:ホセ・アンヘル・アラヨン(アラジョン)、製作:El Viaje Films(スペイン)/ Blond Indian Films(コロンビア)共同製作、資金提供:MEDIA Creative Europe / ICAA / カナリア諸島政府 / ラジオ・テレビ・カナリア 協賛:カナリア諸島レスリング連盟、フエルテベントゥーラ・レスリング連盟、他フエルテベントゥーラ映画委員会など多数、製作者:マリナ・アルベルティ、脚本:マリナ・アルベルティ、サムエル・M・デルガド、撮影:マウロ・エルス、美術:シルビア・ナバロ、編集:エマ・タセル、キャスティング:センドリアン・ラプヤデ
キャスト:ヤスミナ・エストゥピニャン(マリアナ)、トマシン・パドロン(父ミゲル)、イネス・カノ、サラ・カノ、アリダニー・ぺレス
ストーリー:火星を思わせる乾燥したフエルテベントゥーラ島、母親ピラールが亡くなり、マリアナと父親ミゲルは前進しようとしますが、喪失感から父娘二人は精神的に漂流しています。カナリア諸島のレスリングは彼らの避難所であり、世界に自分たちの居場所を作るための方法です。しかし、トップレスラーのミゲルの体は慢性的な膝の痛みを抱え衰え始めています。一方このスポーツの規範には小柄すぎるマリアナの怒りは、彼女にルール違反を促します。チャンピオンシップ決勝を目前にして、不確実な状況に立たされていることに気づきます。父と娘は手遅れになる前にお互い冷静になる方法を見つけねばなりません。500年の伝統を誇るカナリア・レスリングを背景に、スポーツをはるかに超えた想像力、譲歩の拒否、静かな誇りが語られる。
監督・スタッフ紹介:ホセ・アンヘル・アラヨン、1980年カナリア諸島テネリフェ生れ、製作者、脚本家、監督、撮影監督、フィルム編集者。プロデューサーとしてのキャリが長い。「En el insomnio」がカルタヘナ映画祭2010とラス・パルマスFF短編賞を受賞、「La ciudad oculta」がフェロス賞2020ドキュメンタリー賞を受賞、ベネチア映画祭2023短編部門にノミネートされたマリナ・アルベルティ(監督、脚本家、製作者)の「Aitana」(23、19分)に脚本を監督と共同執筆する。ベネチア映画祭2019オリゾンティ部門出品のテオ・コートの「Blanco en Blanco」には製作と撮影を手掛け、ペドロ・シエナ賞2021撮影監督賞を受賞、テオ・コートは監督賞、FIPRESCI賞以下、ハバナ、トゥールーズ、ビニャ・デル・マルなど受賞歴多数。

(ホセ・アンヘル・アラヨン)
★2013年、マウロ・エルセ(監督、撮影監督)と共同監督した「Slimane」(西=モロッコ=仏、ベルベル語・西語、70分)で長編映画デビューを果たし、製作、脚本も手掛けた。IBAFFムルシア映画祭2014でオペラ・プリマ賞を受賞する。共同監督のマウロ・エルセは、オリベル・ラシェの『ファイアー・ウィル・カム』でゴヤ賞2020撮影賞を受賞している。アラヨンはベネチアFF2021「批評家週間」ノミネートのサムエル・M・デルガド&エレナ・ヒロンの「Eles Transportan a Morte / They Carry Death」には製作と撮影で参加、本作と同じカナリア諸島を拠点として展開するドラマです。アートディレクターのシルビア・ナバロは「They Carry Death」を手掛けています。


(撮影中のアラヨン監督)
キャスト紹介:主役マリアナを演じたヤスミナ・エストゥピニャンは、本作でデビュー、キャスティングのセンドリアン・ラプヤデが1年がかりで探した。父親役のトマシン・パドロンはベテランのレスラーということです。
ニューディレクターズ部門に2作品ノミネート*SSIFF 2025 ⑦ ― 2025年08月12日 13:57
イラティ・ゴロスティディ・アギレチェとホセ・アラヨン

(ニューディレクターズ部門の公式ポスター)
★バスク出身のイラティ・ゴロスティディ・アギレチェ(1988)のデビュー作「Aro berria」と、テネリフェ出身のホセ・アラジョン(1980)の第2作め「La lucha / Dance of the Living」の2作がノミネートされました。当部門は1作めから2作目が対象です。8月5日にノミネート全作品が発表になっており、日本からもユカリ・サカモト(坂本悠花里/ユカリ、東京1990)の『白の花実』(12月26日公開)がクロージング作品として選ばれています。招待作品ということで賞には絡まないのかもしれません。他、中国、コスタリカ、デンマーク、インド、イギリス、ロシア、スウェーデン、台湾、トルコ、計13作です。当ブログでは、スペイン映画2作をアップします。まずはイラティ・ゴロスティディ・アギレチェの「Aro berria」からアップします。

(ニューディレクターズ13作入りの公式ポスター)
1)「Aro berria / Anekumen」
Ikusmira Berriak 2020 作品
データ:製作国スペイン、2025年、スペイン語・バスク語、歴史ドラマ、110分、長編デビュー作。イクスミラ・ベリアクの他、ロカルノ・レジデンス2023,FIDLab、インディ・リスボア・共同プロダクション・フォーラムなどに参加している。
監督・脚本:イラティ・ゴロスティディ・アギレチェ、製作:Apellaniz y de Sosa SL / Anekumen Pelikula AIE / Leire Apellaniz & Claudia Salsedo / SEÑOR y SEÑORA、ICAA、RTVE、EiTBから資金提供を受けている。製作者:レイレ・アベリャニス、カルメン・ラカサ、撮影:イオン・デ・ソーサ、衣装デザイン:ハビエル・ベルナル・ベルチ、プロダクションデザイン:クラウディア・サルセド

キャスト:マイテ・ムゲルサ・ロンセ、オスカル・パスクアル・ロペス、アイマル・ウリベサルゴ、エドゥルネ・アスカラテ、ジョン・アンデル・ウレスティ、ナタリア・スアレス、(特別出演)ヤン・コルネ、オリベル・ラシェ、ハビエル・バランディアン
ストーリー:1978年5月、フランコのスペインは終焉を迎え、民主主義移行への興奮が感じられたサンセバスティアンの郊外では、水道メーター工場の労働者が集まり、ストライキについての集会を開いていた。最終的には失敗に終わり、幻滅した彼らのなかで最もラディカルな若いグループは工場を去り、社会変革より個人的なより仲間内の領域に向かい始めます。人里離れた山中に籠り、カタルシス体験を共有することで激しい探求への旅を企てますが、彼らの願望は深い矛盾にぶつかり、彼らが求めていた理想は揺らぎ始めます。フランコ没後の1970年代の実話に着想を得て製作された。

監督紹介:イラティ・ゴロスティディ・アギレチェ、1988年ナバラ州エゲシバル生れ、監督、脚本家。ビルバオとバルセロナで芸術と映画を学び、フルブライト奨学金を得て、ニューヨークに留学。本祭関連では、短編「Unicornio」(18分、シネミラ・キムアク部門2021)ほか。「Contadores」(19分、サバルテギ-タバカレア部門2023)は、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」でライツ・シネ・ディスカバリー賞にノミネートされた他、グアナファト映画祭、ヴィラ・ド・コンデ映画祭などにもノミネートされた。アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2023でイオン・デ・ソーサが撮影賞を受賞した。本作は「Contadores」で探求された世界を掘り下げたものであり、当時の歴史的再現やドキュメンタリー資料を駆使してアプローチしている。

(イラティ・ゴロスティディ・アギレチェ監督)

(イオン・デ・ソーサ、監督、製作者カルメン・ラカサ、SSIFF 2025、8月5日)
★次回、ホセ・アラヨンの「La lucha / Dance of the Living」を予定しています。
ディエゴ・セスペデスのデビュー作が「ある視点」に*カンヌ映画祭2025 ― 2025年05月12日 11:23
ディエゴ・セスペデスのデビュー作「La misteriosa mirada del flamenco」

★今年のカンヌ映画祭「ある視点」には、チリの若手監督ディエゴ・セスペデスの「La misteriosa mirada del flamenco」と、コロンビアのシモン・メサ・ソトの「Un poeta」がノミネートされました。セスペデスはカンヌ映画祭2018短編部門で上映された「El verano del león eléctrico」(22分)でシネフォンダシオン賞を受賞しています。後者のメサ・ソト監督は、2021年カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に「Amparo」がノミネートされ、サンセバスチャン映画祭「オリソンテス・ラティノス」部門でも上映された。その節、作品並びに監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しているので、まずディエゴ・セスペデスからアップしたい。
*セスペデスのシネフォンダシオン賞の記事は、コチラ⇒2018年05月20日
*「Amparo」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月23日
「La misteriosa mirada del flamenco / The Mysterious Gaze of the Flamingo」
製作:Quijote Films(チリ)/ Les Valseurs(仏)/ Weydemann Bros. GMBH(独)/
Irusoin(西)/ Wrong Men(ベルギー)
監督・脚本:ディエゴ・セスペデス
音楽:フロレンシア・ディ・コンシリオ
撮影:アンジェロ・ファッチーニ
衣装デザイン:パウ・アウリ
メイクアップ:アンドレア・ディアス、フランシスカ・マルケス
プロダクションマネージャー:カミロ・イニゲス
製作者:ジャンカルロ・ナシ、ジャスティン・ペックパーティ、(共同)ブノワ・ローラン、アンデル・サガルドイ、ヨナス&ヤコブ・ヴェイデマン、シャビエル・ベルソサ、他共同製作者
データ:製作国チリ=フランス=ドイツ=スペイン=ベルギー、2025年、スペイン語、コメディ・ドラマ、104分、撮影地チリのサンティアゴ、アタカマ砂漠、クランクイン2024年5月20日
映画祭・受賞歴:第78回カンヌ映画祭2025「ある視点」正式出品、カメラドールにノミネート、最高賞の作品賞を受賞。
キャスト:タマラ・コルテス(リディア12歳)、マティアス・カタラン(ラ・フラメンコ)、パウラ・ディナマルカ(ママ・ボア)、ペドロ・ムニョス(ヨバニ)クラウディア・カベサス、ルイス・デュボ、他
ストーリー:1980年代初頭のチリの砂漠、12歳になるリディアは荒れ果てた小さな鉱山の町で、愛情あふれたクィアの家族に見守られて暮らしています。しかし謎めいた未知の病気が町に蔓延し始めます。ある男性が別の男性に恋をすると一瞥しただけで感染するという噂です。リディアの優しくて母親のような兄アレショや彼のゲイの友人たちは、保菌者として町の恐怖の標的になります。リディアは憎しみと不寛容に悩まされた世界で、かけがえのない家族を守るためにホモフォビア俗説の探求に乗り出します。家族は彼女の唯一の避難所だからです。

(リディア役のタマラ・コルテス)
30年前のチリで起きた不寛容なバイオレンスを描く現代の神話
★未知の病気がかつて世界中を震撼させたHIVエイズであることが分かります。ハグなどもってのほか、握手しただけで感染すると怖れられました。無知がはびこり死亡率が100%と噂され、感染者への心的暴力が許された時代でした。チリのケースで言うと、保菌者への暴力が未だ顕著でなかったころに子供たちが学校で質問した。その答えの多くが無知からくるもので伝達の方法に問題があった。それで子供の視点を取り入れてストーリーにレアリティをもたせ、共感が得られるのではと考えた、とコメントしている。映画ではリディアの友達が出演している。チリでは長い軍事独裁政権の負の遺産が沈殿しており、現在でも多くの頭脳流失をもたらしている。

(「視線で感染するとでもいうの」と詰め寄るクィアの友人)

(感染しないよう目隠ししている?)
★監督紹介:ディエゴ・セスペデス、1995年サンティアゴ・デ・チリ生れ、監督、脚本家、撮影監督。チリ大学で映画を学ぶ。アンドレア・カスティーリョの「Non Castus」(22分、ロカルノ映画祭2016スペシャル・メンション受賞)と「Bilateral」(16分、SANFIC 2017出品)の撮影を手掛ける。2018年まだ大学在学中に撮った短編「El verano del león eléctrico / The Summer of the Electric Lion」(22分)がカンヌ映画祭シネフォンダシオン賞、サンセバスチャン映画祭パナビジョン賞、モロディスト・キエフ映画祭2019学生映画部門審査員特別賞を受賞する。サンダンス映画祭2019、ビアリッツ映画祭にもノミネートされた。2022年、フランスとの合作短編「Las criaturas que se derriten bajo el sol / The Melting Creatures」(17分)は、カンヌ映画祭、トロント映画祭に出品された。製作をジャンカルロ・ナシとジャスティン・ペックパーティが手掛けている。

(ディエゴ・セスペデス監督)

(短編デビュー作「El verano del león eléctrico」の英語版ポスター)
★本作制作の経緯は、2019年にセスペデスがシネフォンダシオン・レジデンスに参加して製作の土台を練る。翌年のサンセバスチャン映画祭の期間中、イクスミラ・ベリアクにも参加、トリノ・フィルムラボでTFL プロダクション賞を受賞、副賞として50.000ユーロの製作助成金を受け取ることができた。翌年のサンダンス・インスティテュートの製作者サミットに参加、フランスの制作会社「Les Valseurs」 の協力が報じられ、2024年にはドイツの制作会社「Weydemann Bros. ヴェイデマン・ブラザーズ・フィルム」の共同製作が決まった。初めにシネフォンダシオン・レジデンスありきでした。どこの映画祭も一度受賞すると、後々も面倒をみてくれるようです。多分イクスミラ・ベリアクにも参加しているのでサンセバスチャン映画祭にもノミネートされる可能性が高くなっている。
★キャストのうち、パウラ・ディナマルカは「Las criaturas que se derriten bajo el sol」に、ルイス・デュボは「El verano del león eléctrico」に出演している。最初のシナリオと完成版には結構違いがあり、例えばリディアの年齢も7歳から12歳までと幅がある。まだ正確な情報が入手できていないので、追い追い追加訂正していく予定です。
追加情報:5月23日、カンヌ映画祭「ある視点」部門の最高賞である作品賞を受賞しました。
第12回フェロス賞2025授賞式*結果発表 ― 2025年02月02日 14:06
映画ドラマ部門は「Salve María」、コメディ部門は「Casa en flames」

★1月25日、第12回フェロス賞2025の授賞式がポンテベドラの文化会館 Pazo da Culturaで開催され、全カテゴリー21の結果発表がありました。選考母体はスペイン映画ジャーナリスト協会AICAです。映画部門11、TVシリーズ部門7、フェロス感動賞2、今年の受賞者がハイメ・チャバリだったフェロス栄誉賞の合計21カテゴリーです。総合司会者は、昨年アレハンドロ・マリンの「Te estoy amando locamente」出演で助演男優賞を受賞したラ・ダニが務めました。登壇して降壇するまで涙の止まらない受賞スピーチをしたのでした。

(左から3人め、AICA会長マリア・ゲーラ)


(総合司会者ラ・ダニ)
★ゴヤ賞の前哨戦という位置づけが少し怪しくなってきた印象です。マル・コルの作品賞受賞作「Salve María」など、ゴヤ賞では脚色賞と新人女優賞(ラウラ・ヴァイスマール)の2個、カテゴリーの数を勘案すると少なすぎ、イサキ・ラクエスタ&ポル・ロドリゲスの「Segundo premio」においてはゼロ、ゴヤ賞は3番目に多い11個です。重なるのはダニ・デ・ラ・オルデンのコメディ「Casa en llamas」(原題「Casa en flames」)、監督賞はペドロ・アルモドバルの手に渡りましたが、受賞は5回(予告編・脚本・監督)、フェロス栄誉賞2023につづいて2回めの監督賞を受賞しました。

★マル・コル(バルセロナ1981)は、バルセロナのカタルーニャ映画視聴覚上級学校で映画を学ぶ。イサベル・コイシェにつづく世代を代表する監督。デビュー作「Tres dias con la familia」がマラガ映画祭2009でプレミアされ、翌年のガウディ賞を総なめにして、ゴヤ賞では新人監督賞を受賞している。第23回東京国際女性映画祭2010のオープニング作品に選ばれ、『家族との3日間』の邦題で上映された。新作「Salve María」は、母性をテーマにしたサイコスリラー仕立て、カティシャ・アギーレの小説 ”Las madres no” の映画化です。ロカルノ映画祭でプレミアされ、国際映画部門のスペシャルメンション他を受賞、ガウディ賞2025の脚色賞を受賞している。
★TVシリーズ部門作品賞の「Querer」(4話)は、ホセ・マリア・フォルケ賞2024でも作品・主演男優(ペドロ・カサブランク)・主演女優(ナゴレ・アランブル)を受賞していて、予想通りの受賞でした。サンセバスチャン映画祭2024のアウト・オブ・コンペティション作品として特別上映されている。

*第12回フェロス賞2025結果発表*(*印は紹介作品)
★映画部門
◎作品賞(ドラマ)
「Salve María」監督マル・コル、脚本マル・コル、バレンティナ・ビソ、
原作カティシャ・アギーレ、製作マリア・サモラ、Sergi Casamitjana
ノミネート:
「La estrellas azul」(ハビエル・マシぺ) *
「La habitación de al lado」『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(ペドロ・アルモドバル) *
「La virgen roja」『レッド・バージン』(パウラ・オルティス)
「Los destellos」(ピラール・パロメロ) *

(右から2人め、マル・コル監督)

(受賞スピーチをする製作者マリア・サモラ)

(興奮がおさまらないキャスト&スタッフ)
◎作品賞(コメディ)
「Casa en llamas」監督ダニ・デ・ラ・オルデン、
製作アルベルト・アランダ、キケ・マイジョ他 *
ノミネート作品:
「Bodegón con fantasmas」(監督エンリケ・ブレオ)
「Buscando a Coque」(同テレサ・ベリョン&セサル・F・カルビーリョ)
「Escape」(同ロドリゴ・コルテス) *
「Volveréis」(同ホナス・トゥルエバ) *

(スピーチするダニ・デ・ラ・オルデン)

◎監督賞
ペドロ・アルモドバル(『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』) *
ノミネート:アランチャ・エチェバリア、ダニ・デ・ラ・オルデン、パウラ・オルティス、
ピラール・パロメロ



◎主演女優賞
エンマ・ビララサウ(「Casa en llamas」)
ノミネート:パトリシア・ロペス・アルナイス、ナイワ・ニムリ、ラウラ・ヴァイスマール、
カロリナ・ジュステ


◎主演男優賞
エドゥアルド・フェルナンデス(「Marco」監督アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ) *
ノミネート:ペペ・ロレンテ、ウルコ・オラサバル、アントニオ・デ・ラ・トーレ、
ダビ・ベルダゲル


◎助演女優賞
クララ・セグラ(「El 47」監督マルセル・バレナ) *
ノミネート:アンナ・カステーリョ、マリナ・ゲロラ、マリア・ロドリゲス・ソト、
アイシャ・ビリャグラン

(受賞者欠席で、バレナ監督がスピーチを代読した)
◎助演男優賞
オスカル・デ・ラ・フエンテ(「La casa」監督アレックス・モントーヤ) *
ノミネート:エンリク・アウケル、フリアン・ロペス、ホセ・サクリスタン、
アルベルト・サン・フアン


◎脚本賞 DAMA
エドゥアルド・ソラ(「Casa en llamas」)
ノミネート:
マルセル・バレナ&ベト・マリニ(「El 47」)
ハビエル・マシぺ(La estrellas azul)
ペドロ・アルモドバル(『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』)
エドゥアルド・ソラ&クララ・ロケ(『レッド・バージン』)


(TVシリーズ部門でも受賞して2個ゲットした)
◎オリジナル音楽賞
アルベルト・イグレシアス(『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』)
ノミネート:
アルナウ・バタリェル(「El 47」)
フェルナンド・ベラスケス(「La casa」)
マリア・アルナル(「Polvo serán」監督カルロス・マルケス=マルセ)
セルティア・モンテス(「Salve María」)

◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トゥルド(「Polvo serán」カルロス・マルケス=マルセ)
ノミネート:
アルベルト・レアル(『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』)、
ハビエル・モラレス(「La infiltrada」アランチャ・エチェバリア) *
オマール・ベルムデス&カルロス・ベロト(「Marco」)
マルタ・ロンガス&ヘスス・フェルナンデス・ガルシア(『レッド・バージン』)

◎ポスター賞
オクタビオ・テロル、リュイス・トゥデラ(「Salve María」)
ノミネート:「Casa en llamas」、「La estrellas azul」、『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』、「「Polvo serán」


(ラウラ・ヴァイスマールの乳首露出がSNSで問題になったポスター)
★TVシリーズ部門
◎作品賞(ドラマ)
「Querer」4話(製作:フアン・モレノ、コルド・スアスア、スサナ・エレラス、フラン・アラウホ、監督アラウダ・ルイス・デ・アスア、脚本:アラウダ・ルイス・デ・アスア、フリア・デ・パス、エドゥアルド・ソラ、キャスト:ナゴレ・アランブル、ペドロ・カサブランク、ロレト・マウレオン、ミゲル・ベルナルドー、イバン・ペリセル、他) *

(アラウダ・ルイス・デ・アスア監督)


◎作品賞(コメディ)
「Celeste」6話(製作:ディエゴ・サン・ホセ、フラン・アラウホ、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ他、監督エレナ・トラぺ、脚本:ディエゴ・サン・ホセ、ダニエル・カストロ、オリオル・プイグ・プラヤ、キャスト:カルメン・マチ、アンドレア・バヤルド、アントニオ・ドゥラン、クララ・サンス、マノロ・ソロ、他多数)




◎主演女優賞
ナゴレ・アランブル(「Querer」)
ノミネート:モニカ・ロペス、カルメン・マチ、カンデラ・ペーニャ、イリア・デル・リオ


◎主演男優賞
オリオル・プラ(「Yo, adicto」)
ノミネート:フランセスコ・カリル、ペドロ・カサブランク、トリスタン・ウジョア、
アルベルト・サン・フアン

(受賞者はマドリードでの舞台出演で欠席、共演者ハビエル・ヒネルが代理で受け取った)


◎助演女優賞
ノラ・ナバス(「Yo, adicto」)
ノミネート:タマラ・カセリャス、マリア・レオン、ロレト・マウレオン、クララ。サンス


◎助演男優賞
ポル・ロペス(「Nos vemos en otra vida」)
ノミネート:ミゲル・ベルナルドー、ハビエル・グティエレス、イバン・ペリセル、マノロ・ソロ


◎脚本賞 DAMA
アラウダ・ルイス・デ・アスア、フリア・デ・パス、エドゥアルド・ソラ(「Querer」)

(エドゥアルド・ソラ、アラウダ・ルイス・デ・アスア、フリア・デ・パス)
◎フェロス感動賞(フィクション)
「Polvo serán」(監督カルロス・マルケス=マルセ)
製作国スペイン=スイス=イタリア合作、スペイン語、英語、ミュージカル・ドラマ、106分、ガウディ賞2025作品賞を含む4冠、アンヘラ・モリーナ、アルフレッド・カストロ主演。

(カルロス・マルケス=マルセ監督)

◎フェロス感動賞(ノンフィクション)
「The Human Hibernation」(監督アンナ・コルヌデリャ・カストロ)
製作国スペイン、英語、SF、90分。第74回ベルリン映画祭2024「フォーラム」部門、FIPRESCI賞受賞、マル・デル・プラタFF、トゥールーズ・シネエスパーニャ、他ノミネート多数。スペイン公開2025年1月10日

(左から2人め、アンナ・コルヌデリャ)


◎フェロス栄誉賞
ハイメ・チャバリ、1943年マドリード生れ、監督、脚本家、演出家、また俳優でもあった。プレゼンターは、「Besos para todos」に出演したエンマ・スアレスでした。

(左端がプレゼンターのエンマ・スアレス)


*キャリア&フィルモグラフィー
★マドリードの公立映画学校で学ぶ。1970年「Ginebra en los infiernos」で長編映画デビューする。1976年、「Los viajes escolares」(仮題「修学旅行」)、個人的な複雑な問題を抱えた家族をテーマにしている。製作者エリアス・ケレヘタとのコラボレーションで注目されるようになる。最高のドキュメンタリーと称される「El desencanto」(76、仮題「失望」)を撮っている。有名な詩人レオポルド・パネロ一家のフランコ独裁時代における家族制度を分析している。シネマ・ライターズ・サークル賞1977作品賞、フォトグラマス・デ・プラタのスペイン映画出演者賞を受賞した。40年間という長きにわたって窒息させられてきたドキュメンタリーというジャンルに生命力を吹き込んでいる。
★1977年「A un Dios desconocido」(仮題「見知らぬ神に」)でエクトル・アルテリオとハビエル・エロリアガを起用して同性愛をテーマに取り入れている。サンセバスチャン映画祭サンセバスティアン賞(アルテリオ)、スペイン語映画賞などを受賞した。1980年、ケレヘタと脚本を共同執筆した「Dedicatoria」(「献身」)は、カンヌ映画祭コンペティション部門にノミネートされた。
★80年代には「Bearn o la sala de las munecas」(83,同「ベアルン、または人形の間」)では、フェルナンド・レイ、アンヘラ・モリーナ、アンパロ・ソレル・レアル、イマノル・アリアスなどが共演している。つづく「Las bicicletas son para el verano」(84、『自転車は夏のために』)は、スペイン映画史をひもとけば必ず紹介される秀作、スペイン内戦を背景にした或る家族の感受性豊かな物語が語られ商業的にも成功した作品で、2作とも製作者はアルフレッド・マタス。アンヘラ・モリーナ起用は5作品、その一つが1986年の「El río de oro」、ミュージカル「Las cosas del querer」(89、『歌と踊りと恋のいざこざ』)、その続編(95)などです。
★2000年、コメディ「Besos para todos」にエンマ・スアレスやピラール・ロペス・デ・アヤラ、エロイ・アソリンを起用して、ゴヤ賞監督賞にノミネートされた他、トゥリア賞を受賞した。2005年「Camarón」は、フラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラ(1992年没)のビオピック、カマロンを演じたオスカル・ハエナダにゴヤ賞主演男優賞をもたらし、他にも衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアー賞を受賞した。
★もう監督は引退したのかと思っていたコロナ禍の2022年、約17年振りにマルタ・ニエト、セルジ・ロペスなどのベテラン演技派、若手アドリアン・ラストラを起用したコメディ「La manzana de oro」を撮った。ほかビッキー・ペーニャ、ロベルト・エンリケス、ガルシア・ミラン、アルバロ・スビエスなど豪華キャストを揃えての群像劇、本人も神父役で出演している。フェルナンド・アランブルの小説の映画化、撮影監督キコ・デ・ラ・リカ(『ブランカニエベス』『ルシアとSEX』)、フィルム編集はアルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』や『パラレル・マザーズ』を手掛けているテレサ・フォントと文句なしの布陣でした。次回作もあるかもしれない。
アランチャ・エチェバリア監督紹介*ゴヤ賞2025 ⑧ ― 2025年01月25日 15:43
「La infiltrada」で初の監督賞ノミネート――アランチャ・エチェバリア

(アランチャ・エチェバリア監督)
★アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)、監督、脚本家、製作者。マドリードのコンプルテンセ大学で映像科学を専攻、同大学のCMAでオーディオビジュアル制作を学んだ。その後オーストラリアのシドニー・コミュニティ・カレッジで映画製作を学んでいる。1991年、映画と広告宣伝を両立させ、オーディオビジュアル業界でのキャリアを築いてきた。2010年、アマチュアだけを起用して撮った「Panchito」でテレマドリード賞を受賞、つづく「Cuestión de pelotas」は、スポーツの才能がありながら清掃員として雇用される女子サッカー選手に関するドキュメンタリー、これにより王立サッカー連盟は女性たちの雇用の正規化を余儀なくされた。

(主演の二人、『カルメン&ロラ』から)
★2013年、サイコスリラー「De noche y de pronto」(20分、主演ハビエル・ゴディノ)が翌年のゴヤ賞短編映画部門にノミネート、モリンズ映画祭審査員賞、ロスのイーテリア・フィルム・ナイト・フェスティバルで短編賞を受賞した。コメディ「Yo, presidenta」には、プロの俳優(チュス・ランプレアベ、ビト・サンス、サブリナ・プラガ、タバタ・セレソなど)を起用した。「El último bus」では、タバタ・セレソやハビエル・ゴディノを再び起用したホラーを撮った。エチェバリアの短編作家としてのキャリアは長く、専門家の評価は高い。そして2018年、カンヌ映画祭併催の「監督週間」に正式出品された『カルメン&ロラ』で50歳にしてゴヤ賞2019新人監督賞を受賞した。その他、例年3月に開催される「メディナ・デル・カンポ映画週間」は21世紀の監督Roel賞を授与、グアダラハラFF、トゥールーズFF、パームスプリングスFF、バジャドリードFFで授与式がある女性監督に贈られるドゥニア・アヤソ賞など受賞歴多数。
*『カルメン&ロラ』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月13日

(ゴヤ胸像を手にしたアランチャ・エチェバリア、ゴヤ賞2019ガラ)

(21世紀の監督Roel賞のトロフィーを手に、メディア・デル・カンポ映画週間2019ガラ)
★長編2作目「La familia perfecta」(脚本オラッツ・アロヨ)は、裕福な家族(ベレン・ルエダとゴンサロ・デ・カストロ夫婦)と労働者階級(ホセ・コロナドとペパ・アニオルテの夫婦)の子供たちが結婚したことで衝突するコメディ。カロリナ・ジュステがコロナドの娘役で出演している。階級格差の設定がいささかステレオタイプ的、不要と思われる登場人物の多さが損をしている。コメディの110分は長すぎて疲れます。Netflixで配信されていますが日本語字幕はなく、西語、英語、独語他で鑑賞できます。コロナド・ファンならお奨めかもしれない。

★3作目「Chinas」は、マドリードの中国人コミュニティのウセラ地区が舞台、中国の他ラテンアメリカやアジア、アフリカからの移民が多いバリオである。今回監督は脚本も手掛けている。ここで二つの家族、一つは中国移民の4人家族、9歳のルシアとティーンエージャーのクラウディアと両親、もう一つがレオノール・ワトリングとパブロ・モリネロの夫婦が養女にした中国生れの9歳のシャンの家族。9歳の二人の少女が学校で出合うことでドラマが始まる。監督は中国出身の3人の少女のアイデンティティを探求している。ゴヤ賞2024、新人男優賞(フリオ・フー・チェンJulio Hu Chen)、新人女優賞(Xinyi Ye、Yeju Ji)、オリジナル歌曲賞(マリナ・エルロップ)がノミネートされた。俳優賞ノミネートの3人は、スペイン俳優組合賞をそれぞれ受賞している。その他ディアス・デ・シネ賞の観客賞受賞作品。

★4作目「Polítecamente incorrectos」は、再びオラッツ・アロヨの脚本による政治風刺コメディ、次の総選挙で左派と保守派の2大政党が対決する。出演者アドリアナ・トレベハノは左派政党を応援、フアンル・ゴンサレスは保守派を応援している。二人は政治信条は異なるが惹かれあっているという設定。エレナ・イルレタ、ゴンサロ・デ・カストロが脇を固めて概ね演技は評価されたものの全体としては評価は低かった。それぞれ政治家にはモデルがいるようです。

★長編5作目「La infiltrada」でゴヤ賞2025の作品賞、監督賞、脚本賞を含む13カテゴリーにノミネートされた。『カルメン&ロラ』で新人監督賞を受賞しているが、監督賞ノミネートは初めてです。体重オーバーで健康が心配ですが、ダイエットは難しそうです。以下に主なフィルモグラフィーをアップしておきます。
*「La infiltrada」の作品紹介は、コチラ⇒2025年01月15日
◎主なフィルモグラフィー(アンソロジー、TVシリーズは除く)
2010「Panchito」短編、テレマドリード賞受賞
2010「Cuestión de pelotas」ドキュメンタリー
2012「Don Enrique de Guzmán」短編
2013「De noche y de pronto」短編、ゴヤ賞2014短編映画賞ノミネート
2015「Yo, presidenta」短編(19分)、メディナ・デル・カンポ映画週間でプロジェクト賞受賞
2015「El solista se la orquesta」短編ドキュメンタリー
2016「El último bus」短編(17分)短編ホラー
2017「7 from Etheria」(女性監督7人のアンソロジー)
2018「#SHE」
2018「Carmen y Lola」『カルメン&ロラ』長編デビュー、ゴヤ賞2019新人監督賞受賞
2021「La familia perfecta」『The Perfect Family』コメディ、長編2作目、
Netflix(日本語字幕なし)
2023「Chinas」長編3作目
2024「Polítecamente incorrectos」長編4作目
2024「La infiltrada」長編5作目
ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』③*監督&スタッフ紹介 ― 2024年11月26日 16:09
『ペドロ・パラモ』で監督デビューしたロドリゴ・プリエト

(Deadline のインタビューを受けるプリエト監督、2024年11月24日)
★ロドリゴ・プリエトといえば、一般的にはマーティン・スコセッシの『沈黙―サイレンス』(16)、『アイリッシュマン』(19)、最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23)、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』(05)、ベネチア映画祭2007の金のオゼッラ賞受賞作『ラスト・コーション』、ベン・アフラックの『アルゴ』(12)、グレタ・ガーウィグの『バービー』とアメリカ映画の撮影監督として知られています。上記のデッドラインのインタビューで、『バービー』と『キラーズ~』の撮影の合間を縫って『ペドロ・パラモ』を何回も読み返し推敲したと語りました。

(『沈黙―サイレンス』撮影中のマーティン・スコセッシと)
★しかしスペイン語映画ファンとしては、もうアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのデビュー作『アモーレス・ぺロス』に尽きます。2000年、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」で鮮烈デビュー、作品賞を受賞した。第1話に主演したガエル・ガルシア・ベルナルは、メディアのインタビュー攻めに「天地がひっくり返った」と語ったのでした。その後の快進撃は以下のフィルモグラフィーの通りです。2009年、ペドロ・アルモドバルの『抱擁のかけら』でタッグを組み、アルモドバル嫌いからは「どこを褒めたらいいか分からない」と酷評されましたが、プリエトの映像美は高い評価を受け、スペインのシネマ・ライターズ・サークル賞を受賞した。

(『BIUTIFULビューティフル』撮影中のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと)
★キャリア紹介:1965年メキシコシティ生れ、撮影監督、映画監督。国籍はメキシコと米国、ロサンゼルス在住。祖父はサンルイス・ポトシ市長、メキシコシティ知事、下院議長を務めた政治家、政治的対立で迫害されテキサスに亡命、後ロサンゼルスに移る。父はニューヨークで航空工学を専攻、結婚後メキシコに戻りロドリゴが誕生した。彼は1975年設立された国立機関の映画養成センターCCC(Centro de Capacitación Cinematográfica)で学んでいる。2021年ヴィルチェク財団が選考するヴィルチェク映画賞を受賞、2023年にはモレリア映画祭の審査員を務めている。監督として、2013年、製作国米国の短編「Likeness」(9分、英語)をトライベッカ映画祭に正式出品、2019年には「R&R」(6分、米、英語)を撮っている。『ペドロ・パラモ』で長編監督デビューした。

(金のオゼッラ賞を受賞した『ラスト、コーション』撮影中のアン・リーと)
★フィルモグラフィー(本邦公開作品、短編、TVシリーズ、ミュージックビデオは割愛)
1991「El jugador」メキシコ、デビュー作、監督ホアキン・ビスナー
1996「Sobrenatural」メキシコ、監督ダニエル・グルーナー、1997年アリエル賞初受賞
1996『コロンビアのオイディプス』(「Oedipo alcalde」邦題はキューバFF2009による)
コロンビア・スペイン合作、監督ホルヘ・アリ・トリアナ
*作品紹介記事は、コチラ⇒2014年04月27日
1998「Un embrujo」メキシコ、監督カルロス・カレラ、
1999年アリエル賞、サンセバスチャンFF受賞
2000『アモーレス・ぺロス』メキシコ、監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
2001年アリエル賞、ゴールデン・フロッグ賞受賞
2001『ポワゾン』米国、監督マイケル・クリストファー
2002『8 Mile』ミュージカル、米国・独、監督カーティス・ハンソン
2002『25時』米国、監督スパイク・リー
2002『フリーダ』米国・カナダ合作、監督ジュリー・テイモア
2002『彼女の恋から分かること』米国、監督ロドリゴ・ガルシア
2003『21グラム』米国、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
2004『アレキサンダー』米国、監督オリバー・ストーン
2005『ブロークバック・マウンテン』米国、監督アン・リー、アカデミー賞ノミネート
シカゴFF、ダラス・フォートワースFF、フロリダFF、各映画批評家協会賞受賞
2006『バベル』米国、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、
2007『ラスト、コーション』米国、監督アン・リー、ベネチアFF金のオゼッラ賞受賞
2009『抱擁のかけら』スペイン、監督ペドロ・アルモドバル、
シネマ・ライターズ・サークル賞受賞
2009『消されたヘッドライン』米国、監督ケヴィン・マクドナルド
2010『BIUTIFULビューティフル』スペインとの合作、スペイン語、
監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アリエル賞受賞
2010『ウォール・ストリート』米国、監督オリバー・ストーン
2011『恋人たちのパレード』米国、監督フランシス・ローレンス
2012『アルゴ』米国、監督ベン・アフラック
2013『ウルフ・オブ・ウォールストリート』米国、監督マーティン・スコセッシ
2014『ミッション・ワイルド』米国・フランス合作、トミー・リー・ジョーンズ
2014『夏の夜の夢』米国、監督ジュリー・テイモア
2015『沈黙-サイレンス』米国、監督マーティン・スコセッシ、アカデミー賞ノミネート
2016『パッセンジャー』SF、米国、監督モルテン・ティルドゥム
2019『アイリッシュマン』米国、監督マーティン・スコセッシ、アカデミー賞ノミネート
2020『グロリアス 世界を動かした女たち』米国、監督ジュリー・テイモア
2023『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』米国、監督マーティン・スコセッシ、
アカデミー賞ノミネート、サンディエゴFF、サンタ・バルバラFF、ダブリンFF、
各映画批評家協会賞受賞
2023『バービー』米国、監督グレタ・ガーウィグ、
ナショナル・ボード・オブ・レビュー、他多数
2024『ペドロ・パラモ』メキシコ、監督、共同撮影ニコ・アギラル
★以上、公開作品、受賞作品を中心に列挙しました。映画祭ノミネートがトータル129という驚異的な数には恐れ入ります。ノミネートはオスカー賞4作(スコセッシ3作、アン・リー1作)のみアップしました。イニャリトゥがオスカーを受賞した『バードマン~』と『レヴェナント 蘇えりし者』の撮影監督はエマニュエル・ルベッキでした。プリエトと同世代の彼はオスカー像を3個も貰っています。「賞を貰うために仕事をしているわけではない」ですけど。
★脚本を共同執筆したマテオ・ヒル・ロドリゲス Mateo Gilは、1972年カナリア諸島のラス・パルマス生れ、スペインの監督、脚本家、製作者。アレハンドロ・アメナバルのデビュー作『テシス、次に私が殺される』(96)の共同脚本家、助監督としてスタートした。長編デビュー作「Nadie conoce a nadie」(99)が東京国際映画祭2000に『ノーバディ・ノウズ・エニバディ』の邦題で正式出品され、翌年『パズル』で公開された。『アモーレス・ぺロス』が作品賞を受賞した年でした。
★2004年のアメナバルの『海を飛ぶ夢』では、監督と脚本を共同執筆、ゴヤ賞オリジナル脚本賞を受賞、さらに本作はアカデミー賞2005の外国語映画賞受賞作品でした。ネットフリックスTVシリーズ『ミダスの手先』(20、6話)のクリエーター、脚本も執筆している。
(写真下は視聴覚媒体におけるアーティストの福利厚生及びプロモーションを援助する財団AISGE のインタビューを受けたときの最新フォト)

(AISGEのインタビューを受けるマテオ・ヒル、2024年1月14日)
★かつて「ペドロ・パラモ」を監督する企画があり脚本も執筆した。しかし資金が底をついて実現に至らなかった。舞台となるコマラの町のセットも二つ必要でしたから、ネットフリックスの資金援助がなければ難しかったと思われます。その際の脚本がたたき台になったようですが、監督と脚本家もそれぞれ異なるビジョンがあり、削除したいシーン、追加したいシーンを徹底的に議論したようです。今回は脚本を手掛けているので、脚本に絞ってキャリアを紹介したい。
(短編は割愛しました)
1996『テシス、次に私が殺される』監督アレハンドロ・アメナバルとの共同執筆
1997『オープン・ユア・アイズ』同上
1999『パズル』(TIFFタイトル「ノーバディ・ノウズ・エニバディ」)監督、
脚本はフアン・ボニジャとの共同執筆
2001『バニラ・スカイ』(『オープン・ユア・アイズ』のリメイク版)
監督、脚本キャメロン・クロウ、原案アレハンドロ・アメナバル&マテオ・ヒル
2004『海を飛ぶ夢』監督アメナバル、監督との共同執筆、
ゴヤ賞2005オリジナル脚本賞受賞
2005「El método」アルゼンチン・伊・西、監督マルセロ・ピニェイロ、監督との共同執筆
ゴヤ賞2006脚色賞受賞、アルゼンチン映画アカデミー賞脚色賞受賞
2009『アレクサンドリア』監督A・アメナバル、監督との共同執筆、
ゴヤ賞2010オリジナル脚本賞受賞
2016「Realive」SF、監督&脚本マテオ・ヒル、ファンタスポルト作品賞&脚本賞受賞
2018『熱力学の法則』監督&脚本マテオ・ヒル、マイアミFF監督賞受賞、Netflix配信
2024『ペドロ・パラモ』監督ロドリゴ・プリエト
★2011『ブッチ・キャシディ―最後のガンマン―』は監督のみで、脚本はミゲル・バロスが執筆した。トライベッカFFでプレミア、トゥリア賞2012新人監督賞受賞、ゴヤ賞2012監督賞にノミネートされた。
*「El método」の紹介記事は、コチラ⇒2013年12月19日
*『熱力学の法則』の紹介記事は、コチラ⇒2018年04月02日
★音楽を手掛けたグスタボ・サンタオラジャ(ブエノスアイレス1951)は、アルゼンチンのミュージシャン、『バベル』と『ブロークバック・マウンテン』でオスカー像をゲットしたほか、オンライン映画テレビ協会賞、ほかラスベガスとサンディエゴ映画批評家協会賞など受賞歴多数。『アモーレス・ぺロス』と『BIUTIFULビューティフル』ではアリエル賞、ウォルター・サレスの『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)とダミアン・シフロンの『人生スイッチ』(14)でアルゼンチン映画批評家協会賞など活躍の舞台は国際的です。
*『人生スイッチ』での紹介記事は、コチラ⇒2015年01月19日/同年07月29日

(グスタボ・サンタオラジャ)
★次回はキャスト紹介を予定しています。
ミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞*カンヌ映画祭2024受賞結果 ― 2024年06月07日 10:48
ポルトガルのミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞

(トロフィーを手にしたミゲル・ゴメス、カンヌ映画祭2024ガラにて)
★カンヌ映画祭2024は、コンペティション部門の監督賞に「Grand Tour」(ポルトガル=伊=仏ほか)のミゲル・ゴメスを選びました。初期の短編、ドキュメンタリーを含めると既に17作を数えますが、劇場公開は第3作『熱波』1作のみ、今回カンヌFFの監督賞受賞作が『グランド・ツアー』の邦題で2025年公開が決定しています。先輩監督ペドロ・コスタ(『ヴァンダの部屋』『ホース・マネー』他)の後押しもあって、ミニ映画祭で特集が組まれるほどシネマニアのあいだでは人気の監督です。しかしスペイン語以上にマイナーなポルトガル語映画、公開に先立ってキャリア&フィルモグラフィーの予習をしてみました。


(左から、クリスタ・アルファイアチ、ゴメス監督、ゴンサロ・ワディントン、
カンヌ映画祭2024レッドカーペット、5月23日)
★簡単なストーリー:『グランド・ツアー』の舞台は1917年、公務員のエドワード(ゴンサロ・ワディントン)は、ヤンゴンでの結婚式の当日、婚約者のモリー(クリスタ・アルファイアチ)からの逃亡を企てます。しかし彼との結婚を決意したモリーは夫の逃亡を面白がり、シンガポール、バンコク、サイゴン、マニラ、大阪、上海とアジアの各都市を横断する彼の冒険を尾行することにします。
*ヤンゴンは2006年までミャンマー(旧称ビルマ)の首都だった大都市、英語風に訛ってラングーンで知られる。旧称サイゴンはベトナムのホーチミン市。


★というわけで監督と撮影隊は、ミャンマー、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、日本の各都市を移動した。コロナ禍で予定されていた中国上海での撮影は中止となったが、封鎖ぎりぎりセーフだった日本の京都鴨川での撮影はできフォトが公開されている。カラー&モノクロ、コダックフィルム16mmで撮影され、撮影監督は『ブンミおじさんの森』(10)のサヨムプー・ムックディプロム、ゴメス監督お気に入りの『自分に見合った顔』、『私たちの好きな八月』や『熱波』のルイ・ポサス、初参加のGui Liang 桂亮グイ・リャン、クランクインは2020年初頭、監督によると4年の歳月を要したということです。

(右端が京都の鴨川で撮影中のゴメス監督、2020年2月)
★日本側製作者として今夏7月に公開されるサスペンス・ドラマ『大いなる不在』の近浦啓監督が参画しています。本作はサンセバスチャン映画祭2023で藤竜也が銀貝賞の最優秀主演俳優賞、監督もギプスコア学芸協会賞を受賞した作品、藤竜也の受賞スピーチが絶賛されたことは当ブログで紹介しています。間もなく封切られます。
★ミゲル・ゴメス Miguel Gomes は、1972年リスボン生れ、監督、脚本家、フィルム編集者。リスボン映画演劇上級学校(Escola Superior de Teatro e Cinema di Lisbona)で学び、映画評論家としてキャリアをスタートさせる。イタリアのネオリアリズムとフランスのヌーベルバーグの影響を受けたニューシネマ運動の世代に属している。短編デビューは1999年の「Entretanto」(仮題「合い間」)以下9編、2004年の「A Cara que Mereces」で長編デビュー、第2作『私たちの好きな八月』は、カンヌFF2008併催の「監督週間」に正式出品され注目される。2010年、日本ポルトガル修好通商条約150周年を記念して、東京国立近代美術館フィルムセンターが企画した「マノエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠たち」で、ジョアン・セーザル・モンテイロ、ペドロ・コスタ、パウロ・ローシャなどと並んで若手監督の一人として本作が紹介された。この映画祭は当時ちょっとしたポルトガル映画旋風を巻き起こした。

(ゴメス監督、カンヌFF2024,フォトコール)
★カンヌ映画祭2015併催の「監督週間」にノミネートされた「アラビアン・ナイト三部作」(6時間21分)は、「第2回広島国際映画祭2015」(11月20日~23日)で特集が組まれ、3分割された第1部~第3部が一挙上映された。ゴメス監督も来日してQ&Aに参加、前作の『熱波』もエントリーされた。後に「イメージフォーラム・フェスティバル2019」が企画され、東京初上映となったが、その他ミニ映画祭での上映もあり、マイナーながら日本語字幕入りで鑑賞できた監督。公開作品は上記したように『熱波』のみ、2025年の「グランド・ツアー」が待たれるところである。2012年ポルトガルは、スペイン同様経済危機に見舞われ、EUのお荷物といわれた。監督によると「貧乏であることの唯一のメリットは、大ヒット作を放つ義務から解放され、少し自由が得られることです」と皮肉っている。

(公開された『熱波』ポスター)
*因みにアントワーン・フークアの『サウスポー』(15)にジェイク・ギレンホールの対戦相手として共演しているミゲル・ゴメス(Gómez)は、1985年コロンビアのカリ生れの俳優です。米国のTVシリーズに出演している。またホラーコメディ『パラノーマル・ショッキング』(10)の監督は、コスタリカのミゲル・アレハンドロ・ゴメス(Gómez / Gomez サンホセ1982)で別人です。メジャーな名前なのでネットでの紹介記事に混乱が見られます。以下に主なフィルモグラフィーをアップしておきます。目下配信されている動画は見つかりませんでした。
*主なフィルモグラフィー(短編割愛、主な受賞歴)
2004「A Cara que Mereces」『自分に見合った顔』ポルトガル、108分、監督・脚本
インディリスボア・インディペンデントFF作品・批評家賞
2008「Aquele Querido Mes de agosto」『私たちの好きな八月』同上、147分、監督・脚本
BAFICIブエノスアイレス国際インディペンデントFF2009作品賞、
バルディビアFF国際映画賞、ポルトガルのゴールデングローブ2019作品賞、
グアダラハラFF特別審査員賞、サンパウロFF2008批評家賞、
ビエンナーレ2008FIPRESCI賞、カンヌFF2008併催の「監督週間」正式出品
2012「Tabu」『熱波』ポルトガル・独・ブラジル、118分、公開2013、監督・脚本・編集
ベルリンFF2012、FIPRESCI賞&アルフレッド・バウアー賞受賞、ゲントFF作品賞、
ポルトガルのゴールデングローブ2013作品賞、ラス・パルマスFF2012観客賞他、
ポルトガル映画アカデミー ソフィア賞2013編集賞、他多数
2015「As Mil e Uma Noites: Volume 1, O Inquieto」
『アラビアン・ナイト 第1部休息のない人々』ポルトガル・仏・独・スイス、
125分、監督・脚本
「As Mil e Uma Noites: Volume 2, O Desolado」
『アラビアン・ナイト 第2部孤独な人々』同上、132分、監督・脚本
「As Mil e Uma Noites: Volume 3, O Encantado」
『アラビアン・ナイト 第3部魅了された人々』ポルトガル・仏・独、125分、同上
*以上「三部作」はカンヌFF2015併催の「監督週間」正式出品された。
ポルトガルのゴールデングローブ2016作品賞、シドニーFF2015作品賞、
コインブラFF2015監督・脚本賞、セビーリャ・ヨーロッパFF作品賞、
シネヨーロッパ賞2016トップテン入り、他
2021「Diários de Otsoga」『ツガチハ日記』モーレン・ファゼンデイロとの共同監督、脚本
ポルトガル・仏、102分、カンヌFF2021併催の「監督週間」正式出品、
マル・デル・プラタFF2021監督賞、イメージフォーラム・フェスティバル2022上映
2024「Grand Tour」『グランド・ツアー』ポルトガル・仏・伊・独・日本・中国、129分、
監督・脚本、カンヌFF2024監督賞、2025公開予定
*2023年にスペインのヒホン映画祭の栄誉賞を受賞している。
マルセロ・ピニェイロ、レトロスペクティブ賞ガラ*マラガ映画祭2024 ⑨ ― 2024年03月18日 17:04
アルゼンチンの監督マルセロ・ピニェイロにレトロスペクティブ賞

★3月8日金曜日、日刊紙マラガ・オイがコラボするレトロスペクティブ賞―マラガ・オイが、アルゼンチンの監督、脚本家、製作者のマルセロ・ピニェイロに与えられました。総合司会者はセリア・ベルメホでした。本賞は映画功労賞の意味合いがありベテラン・シネアストが受賞する賞です。1953年ブエノスアイレス生れのピニェイロは、70歳を超えていますが勿論現役です。プレゼンターは撮影監督のアルフレッド・マヨ、監督で製作者のヘラルド・エレーロ、Netflix ラテンアメリカ担当の副会長フランシスコ・ラモス、俳優のホアキン・フリエル、作家で脚本家のクラウディア・ピニェイロの5名でした。

★プレゼンター各氏の温かい紹介スピーチを会場で聞き入っていた受賞者は、セリア・ベルメホに促されて颯爽と登壇すると、クラウディア・ピニェイロの手からトロフィーを受けとりました。40代で監督デビューした受賞者は、「まず何よりも、私を受賞者に選んでくださったフェスティヴァルに御礼を申し上げたい。以前にこの賞を誰が受賞したか知ったとき、この賞の価値に気づきました。私は多くの素晴らしい人々に支えられて幸運でした、例えば映画や演劇の先生、脚本家、撮影監督、プロデューサー、俳優、私の映画を輝かせてくれた沢山の人々です。皆さんにありがとうを言いたい」と拍手に囲まれながらエモーショナルに締めくくった。

(右端にクラウディア・ピニェイロ)
★当ブログでは2回にわたってキャリア&フィルモグラフィー紹介をしていますが、系統だった記事ではないので補足します。アルゼンチンのラプラタ大学で映画を専攻、1983年、ルイス・プエンソと制作会社シネマニアを設立、アルゼンチンに初めてオスカー像をもたらした『オフィシャル・ストーリー』(85)の製作を手掛けました。アルゼンチン映画アカデミー設立メンバーの一人で副会長に就任している。1993年、「Tango feroz: la leyenda de Tanguito」で監督デビュー、監督第1作に与えられる銀のコンドル賞オペラ・プリマ賞を受賞した。監督デビューが遅かったこともあり、映画作家としては寡作です。しかし評価は高く多くが映画祭や映画賞を受賞している。フィルモグラフィーは以下の通り:
1995年「Caballos salvajes」監督・脚本(共同アイダ・ボルトニク)
サンダンス映画祭1996オナラブルメンション、レリダ映画祭1997観客賞
1997年「Cenizas del paraíso」監督・脚本(共同アイダ・ボルトニク)
ゴヤ賞1998スペイン語外国映画賞、ハバナFF1997脚本賞、レリダFF1998観客賞
2000年「Plata quemada」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)
邦題は『炎のレクイエム』『逃走のレクイエム』『燃やされた現ナマ』
ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞、銀のコンドル脚色賞
2001年「Historias de Argentina en Vivo」監督
2002年「Kamchatka」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)
カルタヘナ映画祭2003脚本賞、バンクーバーFF2003ポピュラー賞、
ハバナ映画祭2003脚本賞・サンゴ賞3席
2005年「El método」監督・脚本(共同マテオ・ヒル)
ゴヤ賞2006脚本賞、シネマ・ライターズ・サークル賞、フランダース映画祭観客賞
2009年「Las viudas de los jueves」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス)
『木曜日の未亡人』DVDタイトル
2013年「Ismael」監督・脚本(共同マルセロ・フィゲラス、ベロニカ・フェルナンデス)
2021~23年「El reino」TVシリーズ、監督・脚本(共同クラウディア・ピニェイロ)
邦題『彼の王国』Netflix配信、銀のコンドル2022オリジナル脚本賞、
イベロアメリカ・プラチナ賞2022 TVミニシリーズ部門作品賞
★クラウディア・ピニェイロとは、彼女のベストセラー小説 “Las viudas de los jueves”(2005年刊)を映画化した。公開には至らなかったが『木曜日の未亡人』(09)の邦題で2010年DVD化された。最近ではTVミニシリーズ「El reino」(8話)の共同執筆者でもあり、また今回のマラガ映画祭セクション・オフシアルの審査委員長を務めている。また本シリーズには主演男優賞を受賞したホアキン・フリエルが重要な役どころで出演している。アップが受賞結果と前後したので3月8日段階では 分からなかったが、監督お気に入りのようです。

(監督と脚本家クラウディア・ピニェイロ)

(ヘラルド・エレーロ、監督、ホアキン・フリエル)
★アルフレッド・マヨは「Caballos salvajes」「Cenizas del paraíso」「Plata quemada」「Kamchatka」「El método」とヒット作を手掛けているスペインの撮影監督です。マドリード出身のヘラルド・エレーロは監督と同じ1953年生れ、スペインだけでなく多くのラテンアメリカの監督とタッグを組んでいる。ピニェイロとは、「Plata quemada」や「El método」を製作している。
*「El método」の作品紹介は、コチラ⇒2013年12月19日
*『逃走のレクイエム』の作品紹介は、コチラ⇒2022年06月16日
第68回バジャドリード映画祭2023*結果発表 ― 2023年11月25日 19:05
新星ラウラ・フェレスのデビュー作「La imatge permanent」に金の穂

★10月28日、バジャドリード映画祭がバルセロナ出身のラウラ・フェレスの長編デビュー作「La imatge permanent」を金賞(Espiga de Oro)に選んで閉幕しました。スペインが初めて受賞したのは2007年のヘラルド・オリバレス監督の「14 kilómetros」にも驚きますが、今回が68回目という長い歴史のある映画祭で「女性監督の受賞は初めて」の記事に感慨深いものがありました。作品&監督キャリア紹介は後述しますが、1989年にバルセロナのエル・プラット・デ・リョブレガット生れの34歳、監督、脚本家です。その若さにも驚きましたが、予告編を見ただけでもそのエネルギーとユニークさに引きこまれました。キャストはおおむね本作が初出演というからそれも楽しみ、演技賞はさておき少し荒削りの感もありますが、ゴヤ賞新人監督賞ノミネートは間違いないと予想します。

(金の穂賞のトロフィーを手にしたラウラ・フェレス、10月28日ガラ)
★バジャドリード映画祭は、今年で68回目というスペインでも老舗の国際映画祭です。1956年Semana del Cine Religioso de Valladolid(バジャドリード宗教映画週間)としてスタート、その後名称が何回か変わり、1973年Semana Internacional de Cineとなり現在に至っています。バジャドリード映画祭よりSEMINCIの名で親しまれていますが、SeminciでなくSem-In -Ciに拘る人々もいるわけです。本祭のディレクターは今年からセビーリャ映画祭の総ディレクターだったホセ・ルイス・シエンフエゴスに変わり、彼が初めて統率する映画祭でもありました。本祭はレッドカーペットでなくグリーンカーペットの映画祭としても知られています。

(ホセ・ルイス・シエンフエゴス新ディレクターの祝福を受けるラウラ・フェレス)
★国際映画祭ですが、スペイン映画関係の受賞者をピックアップしますと、栄誉賞にブランカ・ポルティリョ、彼女はパウラ・オルティスの「Teresa」でテレサ・デ・ヘススに扮しフォルケ賞2024女優賞にノミネートされており、本祭でもアウト・オブ・コンペティションですが上映されました。同じフォルケ賞でノミネートされているマレナ・アルテリオ主演の「Que nadie duerma」(監督アントニオ・メンデス・エスパルサ)もコンペティション部門で上映されており、フォルケ賞も作品賞以上に混戦が予想されます。

(栄誉賞のトロフィーを手にしたブランカ・ポルティリョ)

「La imatge permanent」
(西題「La imagen permanente」英題「The Permanent Picture」)
製作:Fasten Films(スペイン)/ Le Bureau(フランス)/ ICAA / ICEC / TV3
/ Volta Producción
監督:ラウラ・フェレス
脚本(共同):ラウラ・フェレス、カルロス・ベルムト、ウリセス・ポッラ
撮影:アグネス・ピケ・コルベラ
編集:アイナ・カジェハ
音響:ダニ・フォントロドナ
音楽:フェルナンド・モレシ・ハベルマン、セルヒオ・ベルトラン
製作者:アドリア・モネス・ムルランス、ガブリエル・ドゥモン、ガブリエル・カプラン、他
データ:製作国スペイン=フランス、2023年、スペイン語・カタルーニャ語、ドラマ、94分、長編デビュー作、撮影地エル・プラット・デ・リョブレガット(バルセロナ、監督の生地)、配給La Aventura(スペイン)、公開スペイン11月17日
映画祭・受賞歴:ロカルノ映画祭2023コンペティション部門でプレミア(8月6日)、ケンブリッジ映画祭(10月22日)、テッサロニキ映画祭(11月9日)、第68回バジャドリード映画祭コンペティション部門、作品賞を受賞。
ストーリー:スペイン南部の片田舎で暮らしていた10代の母親アントニアは、赤ん坊を残して真夜中に出奔する。50年後、はるか彼方の北の町では、引っ込み思案のキャスティング・ディレクターのカルメンが、次のプロジェクトのためのヒロイン探しに逡巡していたとき、偶然アントニアと出会います。新しい街に越してきて共通の繋がりを発見するという女性に出会ったとき、その衝動性がカルメンの孤独に侵入してきます。映画は20世紀のアンダルシアで始まり、現在のバルセロナで繰り広げられる。「時間がすべての傷を癒してくれると誰が言いましたか?」これはスペイン内戦後、アンダルシアからカタルーニャに移住してきた人々の歌や物語の一部です。自分の経験を共有してくれる人を探す物語。

アンダルシアからカタルーニャに移住してきた人々のルーツを探る
★長編デビュー作「La imatge permanent」は、アンダルシア出身の監督の母方の祖母にインスパイアされた作品で、ディアスポラの不安を探求している。自身の家族史のなかにフィクションを滑りこませ、キャスティング・ディレクターとしての自身の過去を、スペイン内戦後にアンダルシアの田舎から北の都会に移住してきた家族の伝承として掘り下げる。農村から都市への切り替えの影響を受けている人々への頌歌、それが理解できない世間知らずの為政者への風刺、監督は「憂鬱なコメディ」と称している。内向的なカルメンには監督が投影されている。監督は「この映画の最も重要な要素の一つは時間です」と、時間がテーマの一つのようです。「批評家週間」のネクスト・ステップ・イニシアチブ、トリノ・フィルム・ラボの支援を受け、マラガ映画祭のワーク・イン・プログレスプロジェクトに選ばれていました。


★ラウラ・フェレスは、1989年生れ、監督、脚本家。バルセロナのESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)卒、最終課程で制作した「A perro flaco」(14)がバジャドリード映画祭スペイン短編の夕べ部門にノミネート、他にモントリオール映画祭2015などで上映された。2017年、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」短編部門にドキュメンタリー「Los desheredados」(18分、The Disinherited)がノミネート、ライカ・シネ・ディスカバリー賞を受賞、後にSeminciでも上映され、翌年のゴヤ賞2018短編ドキュメンタリー映画部門で製作者のバレリー・デルピエールと受賞した。ガウディ賞は短編賞、ポルトガルのビラ・ド・コンデ短編映画祭のヨーロピアン短編賞、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭では脚本賞、父親のペレ・フェレスが男優賞を受賞するなどした。本短編はドキュメンタリーとフィクションを行ったり来たりするような手法で父親の会社の倒産を描いている。ゴヤ賞ガラには父親と出席した。金の穂受賞作には俳優として出演している。

(父親ペレ・フェレスと監督、ゴヤ賞2018ガラ)
★第11回フェロス賞2024のノミネーションが発表になっています。2年連続でサラゴサ開催でしたが、マドリードに戻って、1月26日開催です。
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