セシリア・バルトロメ*第9回フェロス栄誉賞受賞2022年02月09日 16:17

       反フランコを貫く勇敢な映像作家セシリア・バルトロメ

 

      

      (フェロス栄誉賞のポスターを背にしたセシリア・バルトロメ)

 

★第9回フェロス栄誉賞を受賞したセシリア・マルガリタ・バルトロメ・ピナは、1940910日バレンシア州のアリカンテ生れ、映画監督、脚本家、製作者。7歳のとき父親が当時のスペイン植民地で映画検閲の責任者に任命されて以来、家族と赤道ギニアのフェルナンド・ブー島に移住した。当地の演劇学校で演技と演出を学び、10代後半には先住民高等学校の生徒たちを指導した。20歳のときマドリードに引っ越すまで暮らしている。数年後のインタビューで「私は適応するのに時間がかかった途方もない不道徳と、間違いを認めようとしないマチスモに出会った」と語っている。後にここの体験をテーマにした長編「Lejos de África」(96)を撮ることになる。

 

      

   (自らの少女時代の体験を織り込んだ長編「Lejos de África」のポスター)

 

     

     (受賞を前にしたセシリア・バルトロメ、マドリードの8 2/1書店にて)

 

★スペインに戻ると、大学で工学と経済科学を専攻したが断念、1947年に開校したマドリードの国立映画研究所に入学して、本格的に映画を学ぶことにした。1969年、今は亡きピラール・ミロ、現役で活躍するホセフィーナ・モリーナと共に卒業、本校最初の女性シネアストの一人になった。既に「La noche del doctor Valdés」など数編の短編を送り出しており、1970年の離婚をテーマにしたミュージカル「Margarita y el lobo」(モノクロ、45分)が卒業制作作品。本作はフランコ政権を挑発しているということで検閲に引っかかり、民主主義の到来まで国外で秘密裏に上映されていた。バルトロメの名前はブラックリスト入りしてしまい、卒業後は宣伝や産業ドキュメンタリーしか撮ることが出来なくなった。他の監督のプロジェクトでも背後に彼女の影を見つけると検閲が通らず、長いブランクを余儀なくされた。セクシュアリティや離婚、中絶問題、女性の自由などは検閲を通らない時代であった。

   

国立映画研究所は、イタリア映画のネオレアリズモの流れをくむ新しい考え方をもとに設立され、内容の乏しい映画を拒否した。スペイン映画史に名を残したフアン・アントニオ・バルデムガルシア・ベルランガなどが第1期生卒業生、後マドリードのコンプルテンセ大学に発展解消された映画研究所。

 

     

      (35ミリで「La noche del doctor Valdés」を撮影するバルトロメ、1964年)

 

  

     (中編ミュージカルMargarita y el lobo」のポスター

 

★フランコ没後の民主主義移行期に最初に撮った、1977年の「Vámos, Bárbara」は、マーティン・スコセッシの『アリスの恋』(74)に触発された作品、スペイン最初のフェミニスト映画といわれる。エンディングを変更して、スペインのアリスは白馬に乗った王子様を夢見ない、自立した自身を見つける女性として描いている。主役アナをアンパロ・ソレル・レアルが扮し、バルバラは12歳になる一人娘の名前。撮影監督はパートナーだったホセ・ルイス・アルカイネが手掛けている。

 

  

  (アンパロ・ソレル・レアルと娘バルバラ役のクリスティナ・アルバレス

 

1979年から翌年にかけて、兄ホセ・フアン・バルトロメと移行期のスペインを描いたドキュメンタリー2編「Después de.....」(No se os puede dejar solos / Atado y bien atado)の撮影に取りかかり完成させる。しかし独裁政権の終りのスペインの変化を批判的に描いているため公開が遅れ、1981年のクーデタ未遂事件を経て、3年後の1983年、ピラール・ミロが映画総局長に就任したことで紆余曲折があったにしろ陽の目を見ることができた。検閲は19764月全廃されたが表現の自由は直ぐには手に入らなかった。ミロ監督は1984年の「1回スペイン映画祭」の企画者で、団長としてフアン・アントニオ・バルデムやカルロス・サウラ以下と一緒に来日している。心臓にトラブルを抱えており、撮影中に心臓発作で急死している。

  

     

                 (ドキュメンタリー「Después de.....」のポスター)

 

     

       (ホセ・アントニオ・バルトロメとセシリア・バルトロメ)

 

1996年、脚本を兄ホセ・フアン・バルトロメと共同執筆した長編「Lejos de África」を撮る。キューバとの合作で、キューバで撮影した。アフリカにおけるスペイン植民地主義に関する最初の映画といわれ、二十歳まで暮らしていた赤道ギニアの体験を織り込んでいる。白人と黒人という2人の少女の友情と冒険という単純なストーリーのなかに、少女たちの無垢な目を通して、異文化間の対立、人種差別、政治情勢の推移を描いている。

 

      

           (2人の少女を演じたニーニャ、フレームから)

 

2005年、放映時間には通りに人影が途絶えたと言われた長寿TVシリーズ「Cuéntame cómo pasó」(01~)のドキュメンタリー編「Especial Carrero Blanco: el comienzo del fin」を撮る。フランコ総統の右腕であった軍人ブランコ首相の生涯と暗殺事件を精査、分析したドキュメンタリーである。これが最後の作品となっている。女性映画製作者協会 CIMA の名誉会員。

映画祭の受賞歴、映画賞は以下の通り:

2009年、アリカンテ大学と女性学センターが共催した回顧展が企画された。

2012年、第50回ヒホン映画祭で Mujeres de cine 賞を受賞。

2014年、美術功労賞〈金のメダル〉受賞、スペイン文化省が選考母体。

2018年、バレンシア視聴覚アカデミー賞受賞。

2019年、スペイン映画アカデミー主催の「マエストロ」プログラムが企画される。

2021年、第4回女性映画祭のキャリア賞受賞。

2022年、フェロス栄誉賞受賞

 

        

(フェリペ6世、レティシア王妃、国王夫妻列席のもと授与された〈金のメダル〉 

 授与式は2015年2月)

 

     

   (盟友ホセフィーナ・モリーナから〈金のメダル〉を手渡される)

  

カルロス・サウラの『急げ、急げ』*時代を反映したキンキ映画2022年01月14日 17:32

         民主主義移行期のキンキ映画の誕生と終焉

 

★以下は長らく休眠中のCabina さんブログにコメントしたものを、前回アップしたダニエル・モンソンの新作Las leyes de la fronteraの付録として、単独でも読めるように削除加筆して再構成したものです。特に後半部のキンキ映画の父とも称されるエロイ・デ・ラ・イグレシア紹介は今回大幅に加筆しています。カルロス・サウラのキンキ映画 Deprisa, deprisa81)の邦題『急げ、急げ』は、1986年に開催されたミニ映画祭カルロス・サウラ特集〉で上映された折りに付けられたものです。犯罪を犯すときのキンキたちの口癖「急げ、急げ!」からきています。

Cabinaブログ「急げ、急げ」には時代背景など詳しい、コチラ⇒20110219

   

     

            (アンヘラとパブロを配したポスター)

 

データ:製作国スペイン・フランス、スペイン語、1981年、犯罪ドラマ、99分、監督・脚本カルロス・サウラ、撮影テオ・エスカミーリャ、製作エリアス・ケレヘタ・プロダクション、モリエール・フィルム、撮影地アルメリア。受賞歴ベルリン映画祭1981金熊賞受賞。

   

キャスト ベルタ・ソクエジャモス(アンヘラ)、ホセ・アントニオ・バルデロマール・ゴンサレス(パブロ/エル・ミニ)、ヘスス・アリアス(メカ)、ホセ・マリア・エルバス・ロルダン(セバス)、マリア・デル・マル・セラーノ(マリア)、ほか多数

   

ストーリー:スペインが民主主義移行期の1970年代後半、マドリードの貧困地区にたむろするアウトローたち、アンヘラとパブロによって結成された4人の犯罪グループの物語。彼らは故郷を捨て家族を持たずマフィアのような組織にも属していない。手っ取り早い車上荒らしや銀行強盗を繰り返し、せしめたお金で自由を満喫している。軽い気持ちで始めた犯罪もやがて少しずつより危険で無謀なものに変貌していく。1970年代後半から80年代にスペイン社会を震撼させたヘロイン中毒を背景にしている。

 

 

            サウラといえばフラメンコ?

 

 カルロス・サウラのキンキ映画 Deprisa, deprisa急げ、急げ』)のストーリー、時代背景、特に類似作品についての紹介はCabinaさんブログに詳しい。198610月にスペイン映画講座カルロス・サウラ特集〉が開催され、サウラの問題作といわれる6が上映されました

 長編第1Los golfos59ならず者)から数えると既に40作近くなります

 *『ならず者』(59)、『狩り』(La caza 65)、『カラスの飼育』(Cria cuervos 75)、『愛しのエリサ』(Elisa, vida mía 77)、『ママは百歳』(Mamá cumple cien años 79)、『急げ、急げ』(81)以上の6作。

 

    

    (天使の丘で職務質問を受ける名場面を配した『急げ、急げ』のポスター

 

 Pajarico97パハリーコ・小鳥)がスペイン映画祭1998で上映された後、特に気に入ったものがありません。監督自身がフラメンコ、タンゴ、ファドなど音楽物にシフトしているせいか、ラテンビート映画祭でもドラマは上映されていません。

 *ラテンビート映画祭LBFFの上映作品。Fados07ファド2008上映)、Flamenco, Flamenco10フラメンコ、フラメンコ2010上映)の2作。後者がLBFFで上映された際のチケット完売でした

 

 Cabina ブログでもドラマは久々、製作順ではTaxi96、『タクシー』1997公開)以来です。

 『タクシー』は、日本スペイン協会創立40周年記念の一環として開催された<スペイン映画祭1997>で上映され、続いて一般公開されました。映画祭には監督来日がアナウンスされておりましたが、来日したのは本作でデビューを飾ったイングリッド・ルビオでした。直前に急にお腹が痛くなるのは、よくある話です。

 

 サウラは一般公開、映画祭、映画講座等々含めると、字幕入りで60%以上の作品が紹介されているようですが。

 DVDも発売されていてスペイン映画としては破格の扱いです。しかし、残念ながら『急げ、急げ』のような私の好きな作品は漏れてしまっています。1981年のベルリン映画祭金熊賞を受賞しながら、一般公開は見送られました

 

 今でこそ「巨匠」と紹介されますが、日本ではシネマニアは別として無名に近かったでしょう。

 スペイン自体が金熊賞受賞を例外と考え、これを快挙とポジティブにはとらなかった。民主主義移行期(197578)の混乱はスペイン全体を覆い、映画界も創造性と産業的なインフラを安定させるための国家的な援助体制が確立していなかったようです。

 

 サウラ映画が初めて劇場公開されたのが1983年には驚きますが『カルメン』が米アカデミー外国語映画賞部門にノミネートされたおかげです。

 フラメンコ三部作の2作目『カルメン』(83)、次が同じ三部作の1作目『血の婚礼』(8185公開)→『カラスの飼育』(7587公開)→三部作の最後『恋は魔術師』(86、同)→『エル・ドラド』(8789公開)という具合で、公開年は製作順ではありませんでした

  

 やはりフラメンコ強しの感があります。フランシスコ・ロビラ・ベレタのフラメンコ映画『バルセロナ物語』63Los Tarantos)が公開されたのは翌年の1964年でした。

 ロビラ・ベレタは1940年代から活躍しているベテラン監督で、フラメンコに拘ったわけではありません。本作は1984年秋開催のスペイン映画の史的展望195177でも上映されました。他にもスペイン映画祭1984が企画され、80年代は日本におけるスペイン映画の黎明期というだけでなく、本国スペインでも歴史に残る名画が量産された時代でもありました。

 上述した〈カルロス・サウラ特集〉のうち第3作目になる『狩り』は、スペイン映画の史的展望195177で既に紹介されていました。

 

       

             (『狩り』のスチール写真

 

    80年代の新しいアウトサイダー映画シネ・キンキCine quinqui

 

 前置きが長くなりましたが、1980年を前後して社会のはみ出し者を主人公にした犯罪映画シネ・キンキ cine quinqui に戻ります。大雑把にジャンル分けする警察・刑事の範疇に入り、こちらにはテロリズムをテーマにしたものも含まれます。

 いわゆるETAものと言われる映画こちらも70年代から80年にかけて記憶に残る作品が生みだされました。

 

 キンキ映画には例えばホセ・アントニオ・デ・ラ・ロマPerros callejeros77)、エロイ・デ・ラ・イグレシアNavajeros80)やColegas82)、マヌエル・グティエレス・アラゴンMaravillas80などが代表作として挙げられる

 デ・ラ・ロマ監督のは、少年犯罪三部作の第1作目です。

   

 グループのリーダーEl Toreteエル・トレテを主人公に、続編Perros callejerosⅡ”79)、Los ultimos golpes de El Torete80)を撮り、つづいて女性版Perras callejeras85)も撮ったのでした。

 *19875スペイン映画講座アラゴン監督特集〉でマラビーリャス』として上映された。

  

 だいたい未紹介作品ばかりです。ピークは80年代末に終りを告げたということですが。

 シネアストたちがこのテーマを忘れたわけではなく、アルフォンソ・ウングリアAfrica96)やフェルナンド・レオン・デ・アラノアBarrio98)のような映画も記憶に新しいところです。「バリオ」の主人公たちは急げ、急げの息子世代に当たります

 

 ウングリアの「アフリカ」にはエレナ・アナヤが出演しています。

 ポスト・ペネロペの呼び声が高いエレナのデビュー作。その後の活躍は御存じの通り、この秋公開のアルモドバルの新作に抜擢され、監督の新ミューズとなるかもしれません。

 

 サウラの『タクシー』やアチェロ・マニャスEl bola00)もこの延長線上ですね。

A 遡ればメキシコ時代ルイス・ブニュエルLos olvidados50、『忘れられた人々』53公開)は、少年犯罪映画の先駆け的作品といえます。フランコ体制下の60年代にも多くの監督が厳しい検閲をくぐり抜けて、落後者の挫折と失望を描いた作品を手掛けています。変動期の80年代とは時代背景が異なりますから自ずと主テーマは異なります。

 

 『忘れられた人々』はメキシコ映画ですが、ブニュエルはサウラ映画の原点の一つですね。

 ブニュエルは翌1951年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞したのですが、スペインでは上映禁止になりました。ブニュエルに限らず当時の外国映画禁止リストを見ると、意味不明の映画のオンパレードです。

 処女作ならず者の英題はThe Delinquents不良少年たち)、このほうがイメージしやすい。これはブニュエルの影響を受けて作られたということですか。

   

     

             (『ならず者』のポスター)

   

 勿論ブニュエルの遺産だけではありません。当時はイタリアネオレアリズモが支配的でしたが、これは危機に瀕しているイタリアを象徴しており、一方フランスヌーベルバーグ台頭は流動的なフランスの転換期を象徴していました。スペインのキンキ映画は軍事独裁政権からの屈折した離脱を反映しています。ドキュメンタリー・タッチのならず者の登場は、新しいスペイン映画の到来を予感させたのではないでしょうか。

 

 1960年カンヌ映画祭では好意をもって迎えられた。

 しかしスペイン公開は62年夏と1年半も後、おまけに事後検閲の鋏がチョキチョキ入っていた。

 新人なので事前検閲はお目こぼしをもらえたが、カンヌが認めたからには事はそう簡単にはいかないと事後検閲が厳しくなった

 スペイン公開前にフランス、スイス、西ドイツ、イタリアなどで上映、外貨を稼いだはずなのに、それはそれ、これはこれとはっきり区別している。最初からヌードなしの国内外貨稼ぎのヌードあり海外を作ったもあそうですから不思議ではありません。

 

 死に急ぐ若者たち、ここにあるのは現在だけ

 

 数ある少年犯罪物のなかでも、この急げ、急げは突出した成功作。20年の時を経てならず者のテーマに回帰したといっていいですね。

 ならず者の主人公の子供たちが主人公です。前作との違いは、まずポスト・フランコ、女性のチンピラ quinqui の登場、ドラッグの拡大。<三猿>を決め込んでいた国民は、構造的な社会矛盾の深まりに直面するなかで大量消費時代にフルスピードで突入していきました。

 

 価値観が180度転換した時代、女性の自己主張も始まった。アンヘラ役のベルタ・ソクエジャモス発見は大きいです。

 主人公はアンヘラといっていい、その肉付けが如何にもサウラらしい。4人のなかで最も大胆不敵、射撃の名手だし、頭もよく用意周到、ヤク漬けのチンピラ青年とは違ってヘロインには手を出さない。まだ未来を信じているようです。

 

 パブロ(エル・ミニ、ホセ・アントニオ・バルデロマール・ゴンサレスとメカヘスス・アリアスが偶然アンヘラに出会ったことで映画は動き出す。

 エスカレートしていくのは二人が彼女の射撃の才能を知った時からでいっそアンヘラに会わなければよかった。やはり他作品よりプロットや伏線の張り方に感心します。

 

  

             (パブロとアンヘラ、フレームから)

 

 彼らはマドリード出身でなく、義務教育もそこそこにアンダルシア地方からこの界隈に住みついたという設定です。

 サウンドトラックにフラメンコを使用したのはそのため、カンテの歌詞がよく聞き取れないこともあって断定できませんが、直感的にいえば4人のセリフ代わりになっているのではありませんか。彼らは人生を安定させるための故郷や家族から切り離されているというか切り離してきた。

 

 家族といえるものがあったかどうか分かりませんが、過去を切り捨ててきた。かといって未来があるとも信じていない、あるのは現在だけ

 ユートピアの夢は見ない。だからサウラに特徴的なフラッシュバックや回想は禁欲的に排除されている。彼らの表情のクローズアップから、観客に類推させるだけで映像化しない。時間も一直線に進むだけです。

 

 パブロとアンヘラが盗んだお金で購入したマンションも何やら怪しげな建物ですね。

 すぐ傍を走る線路がマドリード中心部から彼らを分断している。大都市がもつ華やかさや喧噪とは無縁な場所です。

 マンション近辺の荒涼とした風景は、彼ら自身のメタファーでしょうか。

 緑のない空き地に建つ四角いコンクリートの塊り、迷わず殺人も犯すアンヘラがパブロの古アパートから持ってきた鉢植えの世話をする。何を語らせたいのだろう。

 

 例の線路を電車が通過するショット、あれも何かを意味するのかな。

 45回繰り返されたので何処へ向かうか気になりますね。汚水の垂れ流しで濁った川、貸し馬の厩舎は「テキサス・シティ」、繋いでいた綱を解いて走り去る1頭の馬、それらが暗示するものは何だろう。

 誰が乗っていた馬だったろうか。メカが逃走に用いた車を燃やすインパクトのあるシーン、特に最後の闇に炎が高く燃え上がるところは映像的にも印象深い。

 メカは放火狂という設定なんでしょうね。証拠隠滅だけでなく炎に魅せられている。ドキュメンタリーの報道番組を見てるようでした。撮影監督は狩りの撮影助手をしていたテオ・エスカミーリャ、『カラスの飼育』以来ずっとサウラ映画の専属カメラマン。夜の海、ディスコ、特に夜の灯りの扱いがいい。

 

 メカの恋人マリアも入れてCerro de los Angeles(天使の丘)に遊びに行く。突然パトカーが現れて二人の警官が現れるや服装検査をする。毎度のことなので素早くヤクは捨ててしまう。

 あそこは有名なシーンです。当時すでにマドリード近郊の観光地になっていたんですね。年配の女性観光客をからかったせいで「不埒者がいる」と忽ち通報されてしまう。フランコ時代の密告制度は健在と言いたいのでしょうか。ジャケ写はアンヘラとパブロのツーショットですが、当時の宣伝用スチール写真はここがよく使用された。映画でも分かるように内戦と深い関係があります。

  

 ここが地理学的にイベリア半島のヘソというだけではないのですね。

 映画にも出てきたキリスト像を真ん中に配置したMonumento al Sagrado Corazon de Jesus’というモニュメントが建っている。1919年、アルフォンソ13世によって建造され、530日に除幕式が行われた。内戦が始まって間もない19367月に共和派の若者5人がモニュメントの警備員によって殺害されるという事件が起こった。

 

 第二共和制(19314月)になってから、修道院の焼き打ち事件が多発していた事実が背景にあります。

 ですから関係者は襲撃に脅えていたようです。事件5日後、共和派の民兵がやってきて報復措置としてキリスト像を的に射撃のセレモニーをしたうえ、最終的には破壊、廃墟にしてしまった。内戦後の1944年、フランコ政府はレプリカをもとに再建計画のプロジェクトを組み、完成除幕は約20年後の19656月でした。

 

 内戦時代の或る意味で象徴的な場所なんです。

 内戦伝説なんでしょう。狩りの舞台となるウサギの狩猟場も、内戦時には激しい戦闘があった場所、もっともスペイン全土が戦場だったわけですが。

   

 サウラのスタイルについては、よく検閲回避のための「シンボリズムに富んだリアリズム」ということが言われますが。

 確かに検閲時代には顕著でしたが、これは検閲回避だけではないと思います。彼の好きな手法であって、検閲撤廃後の本作にあっても列挙したように浮遊している。

 

 それは先述したフラメンコ三部作にも当てはまります

 乾英一郎氏が『スペイン映画史』「一体どうしてしまったのかと思うほど精彩を欠いていく」と書かれた三部作ですが、彼の映画には価値観の異なる者同士の不自然な<>というテーマが通底音としてあります。死に方は猟銃の撃ち合い、腹上死、ナイフなどいろいろですが、階級社会的な矛盾の追及とか告発は主テーマではなかったと思う、結果的にそうなったとしても。作品はひとたび公表されれば作り手の意図を離れて独り歩きをしてしまう。

 

 本作でも若者たちのモラルを裁いたりしないかわりに結末は容赦がない。

 埋もれている現実を明るみに出すこと、それをどうするかは当然政治の仕事だと考えている。冒頭からパブロとメカの死は約束されているし、後から仲間に入るヤクの売人でもあるセバスホセ・マリア・エルバス・ロルダンも同じ。残された時間の多寡はあっても人間はおしなべて死ぬ運命にあり、重要なのは「今という時間、愛、友情」であり、誰でも自分の人生を選ぶ権利がある。個人的にはそういうメッセージ受け取りました。

 仕事が成功すれば浮かれ踊るが、突然黙りこむ。そういう若者特有の感情の起伏の激しい揺れが細かく描かれていました。

 

      

       (左から、パブロ、セバス、メカ、アンヘラ、主演のキンキ

 

 だいたいアウトサイダーとか底辺とかいっても、厳密な意味での定義があるわけでなく曖昧です。主人公たちはマフィアとかの組織には縛られていない。極端だけど自由だしスリルはあるし、おばあちゃんにだって大型テレビを買ってやれる。ドロボーされるほうがバカ、デカい仕事に成功すればヒーローです

 実際の二人も大監督の映画に出たことで刑務所内では一目置かれていたようです。

 バルデロマールのちょっと青みがかった眼には人を惹きつける力があり自分たちが社会の底辺にいるという意識はなかったと思います。         

 

         これは愛を描いたフィクション

 

 ベルリン映画祭コンペ出品というのは、デビュー23作目が対象と思っていましたが、サウラのように知名度の高い監督が金熊賞を受賞するのは意外です。

 既にベルリン映画祭1966出品の狩り』で監督賞を受賞、カンヌ映画祭では1974に「従姉アンヘリカ」が審査員賞、1976には『カラスの飼育』が審査員特別賞、ママは百歳79)が米アカデミー外国語映画賞にノミネートされてます。鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』が審査員特別賞を貰った年、日本ではこちらが話題になりました。

 

 サウラは『ならず者同様ドキュメンタリー手法で撮っています。

 撮影に入る前、マドリードの周辺地域を入念に取材した。2月間の準備期間中ビデオを廻しつづけ、撮影は1980年の夏、9週間を費やしています。

 

      

            (カメラを手放さないサウラ監督)

 

 この準備期間中に主人公を演じた本物のヘロイン中毒の青年たちに出会ったのでしょうか。

 2月下旬のベルリン映画祭から帰国して間もない311日に、パブロ役のバルデロマールはマヌエル・ソラ・テレスと銀行強盗をして一緒に逮捕されている。このマヌエルがサウラに紹介したようです

 映画での経験を実地に移したんですかね。

 

 出演料をどの段階で受け取ったかによりますが、あっという間に使い果たしたと証言しています。ディスコなどの遊興費やドラッグ代、とにかくお金に困っていたということです。俳優たちの自然な演技が受賞に貢献したにちがいありませんが、演技じゃなかったわけです

 自然な「演技しない演技」を追求するあまり、サウラは落とし穴に落ちた

 

 この事件でサウラと大物プロデューサーエリアス・ケレヘタは窮地に立たされた。撮影中にヘロインを使用していたことも発覚して、「知らなかった」では済まされない。

 サウラは「マドリード周辺の若者の犯罪や社会差別をテーマに社会学的なドキュメンタリーを作る意図はなかった」と言ってます。

 多分その通りだと思います。しかし、いくら「大都会の片隅で太く短く死に急ぐ若者の愛についてのフィクション」だと説明されても、事件の重大性を鑑みれば世間は納得してくれない。フランコ心酔者が黙っていないフランコ再評価の波は引いたり寄せたりしていた時代でした

  

 長年サウラとコンビを組んできたケレヘタもショックを受けたようですね。

 インタビューに「バルデロマールは撮影中は魅力的だったし、ベルリンでの記者会見の受け応えも申し分なかった」と答えている。真相の穿鑿など全く無意味ですが、ベルリンからの凱旋早々の事件だっただけに堪えたでしょう。もしこの事件が映画祭前だったらすんなり出品されたでしょうか。

 

 ホンモノに近づきすぎるとギリシア神話のイカロスの二の舞になりかねない。

 夏には相棒だったアリアスも銀行強盗に失敗して逮捕され、二人とも同じカラバンチェル刑務所に収監されています。長年続いたサウラ=ケレヘタのコンビ解消には、路線の違いだけでなく一連の騒動が関係していたかもしれない。

 

 監督はいわば現場の指揮官ですが、俳優があたかも「地でやってる」ように演技指導するのも仕事です。

 「スタート!」「カット!」の決断はもっとも重要な仕事ですが危うさと壁一重の犯罪者起用の是非は慎重に検討されてもよかった。例が極端ですが、『冷血』執筆中のカポーティを連想します。スランプ中だった作家は、望みの薄い死刑減刑をちらつかせながら虚実を尽くして犯人に近づき、一家四人惨殺の真相を聞き出しました。本物だけがもつ魅力には抗しがたいものがあるのかもしれない

 

         そしてQuinqui俳優は旅立ってしまった

 

 映画出演の quinqui の多くが90年代初めに亡くなっています。

 ヘロインは一番危険なドラッグ、解毒も難しく、服用を止めると激しい禁断症状に苦しむ。現在では危険なので医療用も禁止されてるほどです。

 マリファナなんかとは比較にならない。ふつう大麻マリファナ、ハシシュ→コカイン→ヘロインの道を辿る。

 

 バルデロマールは撮影時は23歳ですから、すでに常習者だった可能性が高い19921111日、マドリードのカラバンチェル刑務所でヘロインの摂取過剰により死亡した

 アリアスはそれより早く、1992422日、バスク州ギプスコア県でエイズのため死去。

 1960年マドリード生れですから31歳の若さです。IMDb によると4人のうち唯一他作品に出演している。ホセ・ルイス・クエルダ監督の『にぎやかな森』(891990公開)の下男役です。

 

      キンキ映画の父エロイ・デ・ラ・イグレシアの軌跡

 

 サウラ映画から逸れますが、90年代初めには<失われた世代>といわれる若者が、薬物中毒やエイズが原因で命を落としています。

 冒頭で触れた、エロイ・デ・ラ・イグレシアのNavajerosエル・ハロEl Jaro映画の結末と同じ銃弾で、ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロマのPerros callejerosエル・トレテはエイズでした

 エル・ハロを演じたホセ・ルイス・マンサノは当時15歳、映画のオーディションに応募してきてデ・ラ・イグレシアの目に止まったそうです。

 

     

          (ホセ・ルイス・マンサノ、Navajerosから

 

 監督は1944ギプスコア生れですが、幼いころからマドリードのこの界隈で育ち、若者の生態を熟知していた。監督自身も1983年からヘロインに手を染め、1987年に解毒治療のため戦線離脱、復帰まで16年間ものブランクがありました

 1983年にエル・ハロを主人公にEl pico、その翌年に続編2を撮ってます。

 興行的にヒットしましたが、10代の子供たちや友人たちとドラッグに夢中になっていたことが発覚すると問題が吹き出しました。ヤクやりながら仕事していたわけです。「未来が見えない」と語っていたが、努力して立ち直り今世紀に入ってから2作発表した。しかし2006腎臓癌摘出後に他界享年62歳でした。

  

      

       (治安警備隊の帽子を配したヒット作El picoのポスター

 

 デ・ラ・イグレシアは、批評家の無理解もあって正当に評価されていないと言われています。アンチフランコ、コミュニストでホモセクシュアルであることを隠さなかった。

 いくつもゴルディオスの結び目を抱えていた。フランコ時代の60年半ばから事前検閲と闘い問題作を発表しつづけた監督です。カルメン・セビーリャを起用して撮った3作目となる El techo de cristal71「ガラスの天井」)は、商業的にも成功をおさめた犯罪スリラーでした。

     

 検閲を避けるための道具としてスリラーとかホラーは有効です。

 次回作 La semana del asesino72)も連続殺人犯に陥ってしまうスリラー、こちらは検閲がなかなか通らず、65ヵ所カットされたということです。本作は『カンニバルマン精肉男の殺人記録』という目を剥く邦題でDVD化されました。

 

 彼がフランコ没後に向かう先は、性的なテーマと分かっていた。

 1976年に同性愛をテーマにした映画 La otra alcoba(「もう一つの寝室」)を発表した。1978年のホセ・サクリスタンを起用した El diputado が東京国際レズビアン&ゲイ映画祭1999で『国会議員』の邦題で上映されたほか、2004年には遺作となったコメディ Los novios lgaros03)が『ブルガリアの愛人』の邦題でエントリーされた。後者は前年開催された画期的な企画〈バスク・フィルム・フェスティバル2003〉で既に上映されていました。

   

     

                   (復帰後のエロイ・デ・ラ・イグレシア)

   

  

           (遺作『ブルガリアの愛人』英語版ポスター)

 

 マラガ映画祭の特別賞の一つにエロイ・デ・ラ・イグレシア賞があります。

 再評価の流れが出来てるのでしょう。ロドリゴ・ソロゴジェンラウル・アレバロなど若い作家性の強い監督が受賞しています。ただし2018年からマラガ才能賞-ラ・オピニオン・デ・マラガと改名され、名前が消えてしまいました。2021年はオリベル・ラシェでした。

             

タティアナ・ウエソのデビュー作「Noche de fuego」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑬2021年08月19日 15:17

   ホライズンズ・ラティノ部門――タティアナ・ウエソの「Noche de fuego

 

      

 

★前回でセクション・オフィシアルのスペイン語映画は全作アップしましたので、今回からホライズンズ・ラティノ部門の作品紹介に移ります。10作のうち第1弾としてドキュメンタリー作家として実績のあるタティアナ・ウエソの劇映画デビュー作Noche de fuegoから。カンヌ映画祭2021「ある視点」審査員スペシャル・メンション受賞作、コロナ禍で作品数が少ないのかワールドプレミアでない作品が増えています。ウエソ監督は1972年エルサルバドル生れだがメキシコで活躍しており、両国の国籍をもっている。ベルリン映画祭特別審査員賞、アリエル監督賞ほかを受賞したTempestad16)で、既に国際的評価を受けている。カンヌ受賞作なので何かの賞に絡むかどうか分かりませんが、長編劇映画デビュー作ということで、まず紹介いたします。

 

    

(マイラ・バタリャ、ウエソ監督、マルヤ・メンブレニョ、カンヌFF 2021、フォトコール)

 

 Noche de fuego / Player for the Stolen

製作:Pimienta Films / Match Factory Productions / Bord Cadre Films

監督:タティアナ・ウエソ

脚本:タティアナ・ウエソ、原作者ジェニファー・クレメント

撮影:ダリエラ・ルドロー

音楽:ハコボ・リーバーマン、レオナルド・ハイブルムHeiblum

編集:ミゲル・シュアードフィンガー

プロダクション・デザイン:オスカル・テリョ

製作者:ニコラス・セリス(Pimienta Films)、ジム・スターク(Bord Cadre Films

 

データ:製作国メキシコ=ドイツ=ブラジル=カタール、スペイン語、2021年、ドラマ、110分、撮影地ケレタロ州シエラ・ゴルダ、海外販売The Mactch Factory

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2021「ある視点」部門、スペシャル・メンション受賞、サンセバスチャン映画祭2021「ホライズンズ・ラティノ」部門正式出品

 

キャスト:アナ・クリスティナ・オルドニェス・ゴンサレス(アナ、8歳)、マルヤ・メンブレニョ(アナ、13歳)、マイラ・バタリャ(アナの母リタ)、ノルマ・パブロ(ルス)、オリビア・ラグナス(スルマ)、ギセレGiselle・バレラ・サンチェス、アレハンドラ・カマチョ、ブランカ・イツェルItzel・ペレス、カミラ・ガール、エモ・ビジェガス、ほか

 

物語・解説:シエラ・デ・メヒコに暮らすアナ、パウラ、マリアの三人の少女の物語。ある町では家族が逃亡して住んでいない空き家に三人の若者が入り込んで暮らしている。三人は誘拐やレイプを逃れるため髪を切って男装した少女たちだった。誰も見ていないときはこの隠れ家で少女に戻る。しかし暴力の暗いエコーは避けられない警告になろうとしていた。少女たちの目を通して、特にアナの目を通して、ジェンダーにもとづくメキシコの暴力、麻薬密売人によって管理された共同体、女性の友情や誠実さ、更には愛が語られる。父親は出稼ぎ労働者として不在の母子家庭では、母親は危険から娘たちを守るために奔走する。犯罪組織によってコントロールされている町で生きのびることを探している少女たちのフィクション。

 

    

           (まだ長い髪のままでいられた頃の3人)

 

    

     

    

                    (初潮をむかえてしまった3人)



      (アナ役のマルヤ・メンブレニョをバックにしたポスター)

 

2年ぶりのカンヌで、最も拍手喝采を浴びた映画が本作でした。上映後のスタンディングオベーションは最高の10分間だったそうです。「私たちの映画を受け入れてくれてありがとう。とても幸せです。この作品は、多大な労力と旅に同行してくれたトップレベルのアーティストたちのお蔭です」と監督、洞察に満ちた観察がなされ、少女たちが経験する葛藤に敏感な作品と高評価され、審査員スペシャル・メンションを受賞した。ラテンアメリカ諸国から審査員が選ばれることも少なく、実力がないと受賞は難しいから快挙です。今年に限らずメキシコ映画にとってカンヌの敷居は高い。ここ10年の受賞者は、カルロス・レイガダス、アマ・エスカランテ、ミシェル・フランコの顔が思い浮かぶくらい。今回はルーマニアの監督テオドラ・アナ・ミハイLa Civil(メキシコ=ルーマニア=ベルギー)にミシェル・フランコが製作者の一人として参画しており、こちらはCourage勇気賞を受賞、期せずして二人の女性監督が受賞した。

 

★原作はアメリカ系メキシコ人のジェニファー・クレメント(コネチカット州グリニッジ1960)の小説 Ladydi2014年刊)がベースになっている。タイトルは主人公の名前、作家は1歳のときにメキシコシティに移住したがニューヨーク大学で英文学と人類学を専攻、現在はメキシコシティに在住している。2009年から12年まで、メキシコ初となる女性のペンクラブ会長を務めている

    

     

             (原作 Ladydi の表紙

 

★小説では舞台はゲレロ州でしたが、映画はメキシコ中部のケレタロ州シエラ・ゴルダの小さな村で撮影した。監督によると「ここに決定するまでたくさんの山地を訪ね歩きましたが、この村に着いたときすっかり魅了されてしまいました。自然は主人公に付随するもので、音、光、風、嵐、日の出日の入りの魔法の時間に恋をしてしまった。それらはキャラクターの感情をともなう大きな要素だからです」と、エルパイス紙の取材に答えている。これは予告編を見ただけで、よく分かります。フェミニンな映画ですが「フェミニストや過激派の映画を作ることを目指していません」とも語っている。世界に疑問を投げかけ、現実に影響を与えられるような、本物の女性を生み出せるような映画を求めている。

 

     

           (タティアナ・ウエソ監督の近影)

 

タティアナ・ウエソは、1972年エルサルバドルのサンサルバドル生れ、4歳のとき家族とメキシコに移住、メキシコに在住している。映画養成センターCCC卒、2004年バルセロナのポンペウ・ファブラ大学でドキュメンター制作を学ぶ。主なフィルモグラフィーは以下の通り:

1997 Tiempo cáustico 短編10

2001 El ombligo del mundo 中編30

2011 El lugar más pequeño  ドキュメンタリー、100

2015 Ausencia  短編27

2016 Tempestad  ドキュメンタリー、105、イベロアメリカ・フェニックス賞2016

  アリエル賞2017監督賞受賞

2021 Noche de fuego  長編映画、110

 

2011年のEl lugar más pequeñoは、生れ故郷エルサルバドルの内戦についてのドキュメンタリー、国際映画祭での受賞歴は、アリエル賞2012長編ドキュメンタリー賞、エルサレムFF、リマFF、マル・デル・プラタFF、モンテレイFF、モレリアFF、パルマ・スプリングFFほか、ソフィア、ミュンヘン、サンディエゴ、カタルーニャ・ラテンアメリカ映画祭など多数。2016年の正義が行われず暴力が無処罰なメキシコの現状に立たされた2人の女性のドキュメンタリーTempestadは、アリエル賞2017監督賞・作品賞、ハバナFF、リマFF以下、モレリア、ソフィアの映画祭で受賞、イベロアメリカ・フェニックス賞2016では、ドキュメンタリー賞、音楽賞、撮影賞などを受賞、ゴヤ賞2018イベロアメリカ映画賞にノミネートされた。

       

    

            (「Tempestad」のポスター)

 

★ウエソ監督が「トップレベルのアーティストたち」と呼んだプロデューサーのニコラス・セリスは、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』を手掛けたことで有名だが、ウエソ監督とは10年来の知己、「El lugar más pequeño」や「Tempestad」でタッグを組んでいる。ジム・スタークは「Tempestad」のエグゼクティブプロデューサー、ジム・ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』や『コーヒー&シガレッツ』のプロデューサーとして知られている。

   

★音楽を担当したハコボ・リーバーマンレオナルド・ハイブルムの両人は、「Tempestad」のほか、当ブログで作品紹介をしたディエゴ・ケマダ=ディエスの「La jaula de oro」、クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラの『夏の鳥』、G.G. ベルナルの監督2作目「Chicuarotos」などを手掛けているベテラン、編集のミゲル・シュアードフィンガーは、ルクレシア・マルテルのサルタ三部作や『サマ』、ガジェゴの『夏の鳥』、ディエゴ・ルナの『アベル』、ダビ・パブロスの『選ばれし少女たち』など、フィルム編集者としてラテンアメリカ諸国の監督たちから信頼されている。

 

ハビエル・フェセルにビスナガ栄誉賞*マラガ映画祭2021 ⑲2021年06月16日 15:26

       ハビエル・フェセルにスペイン人3人目となるビスナガ栄誉賞

 

   

 

612日、マラガ映画祭最後となった特別賞の一つビスナガ栄誉賞が、『ミラクル・ぺティント』『モルタデロとフィレモン』の監督ハビエル・フェセルに授与された。会場には3人の子供たち、脚本家で俳優の兄ギジェルモ・フェセル、短編時代からの友人で製作者のルイス・マンソが馳せつけた。ルイス・マンソはフェセルの短編時代からの製作者、殆どを手掛けています。『カミーノ』がラテンビート2009で上映されたとき、監督と来日、Q&Aに参加しています。またインスティトゥト・セルバンテス東京でCampeones(邦題『だれもが愛しいチャンピオン』)の試写会(2019年11月)にも、本作出演のアテネア・マタと3人揃って来日しています。本祭はスペイン語、ポルトガル語に特化した歴史の浅い映画祭のせいか、栄誉賞についてはあまり記事にしなかったのですが、フェセルの受賞はスペイン人としてはアルフレッド・ランダアントニオ・バンデラスにつづいて3人目の受賞者となりました。

監督キャリア&フィルモグラフィーと「Campeones」の作品紹介は、

コチラ2018061220190701

 

      

    (拍手に迎えられて登壇したハビエル・フェセル、セルバンテス劇場、612日)          

★ゴヤ胸像のコレクションは既に7個です。その内訳は短編Aquel ritmillo94)、『カミーノ』(08)作品・監督・脚本、アニメーションMortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo14)長編アニメ・脚色、『だれもが愛しいチャンピオン』(18)作品賞、加えてフェロス賞も2賞しています。『ビンタと素晴らしきアイディア』(0430分)は、米アカデミー賞2007短編部門にノミネートされた。同名の息子ハビエルが「私たちの父親は、映画に<フェセリアンfesseriano>という新しいジャンルを生み出した。このジャンルは可笑しいけれど、登場人物への愛がいっぱい詰まっています」とスピーチした。家族や友人たちの温かいスピーチを受けて登壇した監督はトロフィーを受け取り、「この受賞は執筆したり監督するために重みがあります。しかしとりわけ感謝したいのは、私にこれらの映画を作ることを許してくれた人々です。彼らの名において栄誉賞を受け取りたい。皆さまが私に寄せてくれた信頼があればこそ続けられた」と、彼の映画人生を共にしてくれた人々に感謝のスピーチをした。

   

    

 (マラガ入りした監督とパートナーのアテネア・マタ、ミラマル・ホテル、6月11日)

  

★授賞式の後、最新作Historias lamenntablesが上映された。2019年夏クランクインした本作は、パンデミックのため2020年夏の劇場公開が日延べになっていた。202010月アマゾンビデオでの配信が先発したが、やっと今年1年遅れの611日に劇場にやってくる。今年のゴヤ賞ではオリジナル脚本賞にノミネートされたが受賞は逸した。

 

      

          (最新作Historias lamenntables」のポスター

 

★同日午後にセルバンテス劇場ロッシーニ・サロンで行われたプレス会見では、映画と広告の二本立てでオーディオビジュアルの世界で仕事をしてきた監督と本祭ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルの対談で行われた。監督は最初のころは広告の仕事が多かったが映画製作を諦めることはなかったと語っている。映画と広告は繋がっていて切り離せないとコメントしている。広告は反応が早いのも魅力の一つ、テクノロジーの新しさは可能性を秘めていると説明した。

    

     

   

  (監督と本祭ディレクターのフアン・アントニオ・ビガル、ロッシーニ・サロンにて)


 

★セクション・オフィシアル作品以下すべての受賞結果が発表になっています。スペイン映画「金のビスナガ」は、アグスティ・ビリャロンガのカタルーニャ語映画El ventre del marEl vientre del mar)」、イベロアメリカ映画「金のビスナガ」は、フアン・パブロ・フェリックスの「Karnawal」、共に副賞の10,000ユーロが授与されました。以下は次回にアップします。


クロージング作品はムルガレンのコメディ*マラガ映画祭2021 ⑨2021年05月21日 15:32

        アナ・ムルガレンの第3作「García y García」はコメディ

 


 

★セクション・オフィシアル作品の全体像はまだ見えてきませんが、クロージング作品はアナ・ムルガレンの第3作めGarcía y Garcíaとアナウンスされました。前回のオープニング作品「El caver」で少し触れましたようにこちらもコメディ、新型コロナウイリス感染拡大による自粛ムードの憂さを晴らしたいようです。ムルガレン監督は、前作La higuera de los bastardosでキャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。主演のホセ・モタペペ・ビジュエラの二人が同姓同名のハビエル・ガルシアに扮します。ホセ・モタはアレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』とパブロ・ベルヘルの『アブラカダブラ』でお馴染みです。ペペ・ビジュエラはハビエル・フェセルの『モルタデロとフィレモン』のフィレモン・ピ役で既に登場していますが、当ブログは初登場です。

 

      

     (左から、ペペ・ビジュエラ、ホセ・モタ、二人のハビエル・ガルシア役)

 

La higuera de los bastardos」の監督&作品紹介は、コチラ20171203

『アブラカダブラ』の作品&ホセ・モタ紹介は、コチラ20170705

 

 

García y García2021年 コメディ

製作:Brogmedia / Claq Films  協賛RTVE / Amazon / EiTB / Aragón TV / ICAA

監督:アナ・ムルガレン

脚本:アナ・ムルガレン、アナ・ガラン

ストーリー:カルロス・ラメラ、ホアキン・トリンカド、(共著)マルコス・マス

音楽:アイツォル・サラチャガ

撮影:アルベルト・パスクアル

編集:アントニオ・フルトス、アナ・ムルガレン

キャスティング:フアナ・マルティネス、ホアキン・トリンカド

衣装デザイン:ネレア・トリホス

メイクアップ&ヘアー:(メイク&ヘアー主任)オルガ・クルス、(メイク主任)セシリア・エスコット)、ヘノベバ・ゴメス、ルベン・サモス

製作者:リカルド・マルコス・ブデ、カルロス・ラメラ、イグナシオ・サラサール=シンプソン、ホアキン・トリンカド、(エグゼクティブ)アナ・ムルガレン、ほか

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、アドベンチャー・コメディ、98分、撮影地アラゴン州のテルエル、サラゴサ、マドリード、ビルバオ、2020727日クランクイン、期間8週間。マラガ映画祭上映後アマゾンプライムビデオで上映、スペイン公開827日予定

 

キャスト:ホセ・モタ(顧問ハビエル・ガルシア)、ペペ・ビジュエラ(技術者ハビエル・ガルシア)、エバ・ウガルテ(クロエ)、マルティタ・デ・グラナ(エバ)、カルロス・アレセス(ダリオ)、ナイアラ・アルネド(ニナ)、ミケル・ロサダ(リッキー)、ジョルディ・サンチェス(アルフォンソ)、アントニオ・レシネス(アントニオ)、リカルド・カステーリャ(エクトル)、ヘスス・ビダル(ルベン)、Alexityアレクシティ(ブランカ)、ほかラモン・バレス、アリシア・フェルナンデス、パコ・コジャド、マルコス・マスなど多数

 

ストーリー:弱小の格安航空会社イスパビアは深刻な問題に直面している。彼らの数はバランスを欠き、飛行機が飛ぶこともありません。会社を救うために必死の博打をうつ。一流の航空会社のコンサルタントとメカニック部門のエキスパートを同時に雇うことにした。どちらもハビエル・ガルシアという名前でした。その偶然と会社の無秩序がもとで、最初から二人のガルシアは混乱に巻き込まれ、役割を交換することになるでしょう。技術者が会社のオーナーによって手配された高級ホテルに宿泊しているあいだ、一流コンサルタントは油じみた作業ズボンを着せられ格納庫に連れていかれます。何が起きているのか分からないまま、二人のガルシアが間違いに気づくまで、互いの難問に対処することになる。

 

    

         (二人のガルシア、テルエルの高級ホテルにて)

 

監督紹介アナ・ムルガレンAna Murugarrenは、1961年ナバラ州マルシーリャス生れ、監督、脚本家、編集者、製作者。バスク大学で情報科学を専攻、1980年代後半から始まったバスク・ヌーベルバーグの一人。グループにはエンリケ・ウルビス、パブロ・ベルヘル、アレックス・デ・ラ・イグレシア、ルイス・マリアス、ホアキン・トリンカドなどがいる。編集者としてスタート、エンリケ・ウルビスのコメディ「Tu novia está loca」や「Todo por la pasta」の編集を手掛けている。ホアキン・トリンカドのコメディ「Sálvate si puedes」の編集、ドキュメンターEsta no es la vida privada de Javier Kraheを共同で監督しており、今回もストーリーと製作を担っている。ウルビスのコメディ映画は、『貸し金庫507』でご紹介しています。

エンリケ・ウルビスのコメディの記事は、コチラ⇒2014年03月25日

 

 フィルモグラフィー 

1988年「Tu novia está loca」編集、監督はエンリケ・ウルビス

1988年「Mama」(短編)編集、監督はパブロ・ベルヘル

1991年「Todo por la pasta」編集、監督はエンリケ・ウルビス

    シネマ・ライターズ・サークル賞1991最優秀編集賞を受賞

1995年「Sálvate si puedes」編集、監督はホアキン・トリンカド

2005年「Esta no es la vida privada de Javier Krahe」ドキュメンタリー、監督・編集

   アキン・トリンカドとの共同監督、映画の創造性ボセント賞受賞

2011年「El precio de la libertad」監督・編集(TVミニシリーズ2話)

    スペシャル・イリス賞、女性インデペンデントFF2012メリット賞・編集賞

   (製作者ホアキン・トリンカドと受賞)

2012年「La dama guerrera」監督・編集(TVムービー

    バスクのEuskal Bobinak 賞を受賞

2014年「Tres mentiras」監督・編集、長編映画デビュー作

2017La higuera de los bastardos」監督・脚色・編集

2021年「García y García」本作付き省略

 

     

       (ホアキン・トリンカドと監督、女性インデペンデントFF2012にて

     

長編受賞歴

Tres mentirasは、サモラ県の15トゥデラ映画祭 20141回監督賞フィリピンのワールド・フィルム・フェス2015グランプリ、他に主役のノラ・ナバスが女優賞を受賞他にサラゴサ映画祭20151回監督Augusto受賞、ほかノミネート多数。

La higuera de los bastardosは、ハリウッド映画祭2018銀賞・審査員賞・映画アーティスト・エクセレンス賞を受賞、アルバカーキ映画音楽祭監督賞、シアトル・ラティノ特別審査員賞、テキサス州オースティンのファンタスティック・フェスに正式出品、批評家から高く評価されたことが、翌年のアメリカ公開、オンライン上映に繋がった。

 

     (カラ・エレハルデとカルロス・アレセス主演の第2作のポスター)

 

新作トレビア:監督によると、プロデューサーのホアキン・トリンカドと本作のそもそものアイデアマンのカルロス・ラメラが「García y García」を携えて訪ねてきた。「これはオリジナルでリメイクじゃない」と言ったとき、「いいね!」と思った。それは「自分の原点である「Tu novia está loca」を思い出したから」。エンリケ・ウルビスのコメディですね。ほかの人が持ち込んできた企画ならクレージーすぎてホンキにならなかったろうと。「私が出会った製作者のなかでも、もっともリスクを怖れない賢明なホアキン・トリンカドと、マドリードのバラハス空港のターミナル4,またはアムステルダムの新スキポール空港の建築家カルロス・ラメラだったから監督することにした。数日後、ホセ・モタとペペ・ビジュエラにガルシアとガルシアを体現してもらうことを提案したのです」と監督。

 

       

          (撮影中の監督、ホセ・モタとペペ・ビジュエラ)

 

★カルロス・ラメラが映画という冒険に乗り出すきっかけについて語っている。「2016年、私はカタールにいました。私のルーチンは10日ごとにバラハスに飛ぶことでした。出口には見知らぬ人を迎えに来た、見知らぬ人の名前が書かれた小さなボードを持って待っている一群が必ずいる。あるとき、<ハビエル・ガルシア>と書かれた看板をもっている別々の二人に気づいた。そこでピーンときた、これは映画になると。映画のことはチンプンカンプンだからアントニオ・レシネスに電話をした。するとビルバオのプロデューサーに連絡とれという、そのプロデューサーがトリンカドだったというわけです。私たちも二人のガルシアのように奇妙なカップルというわけですが、真実は、勇気、熱意、忍耐力が私たちを結びつけたのです」。ガルシアという苗字は日本で言うと<山田>さん、一番多いお名前です。ハビエルも多いから結構ありますよね。

 

★本作で映画デビューする女の子、ブランカ役のAlexityアレクシティはスペインで大人気のTouTuberインフルエンサーです。可愛くて生意気で小憎らしい、なによりもそのノンストップのお喋りにはびっくりする。本作で一番の人気者になるでしょう。YouTubeで愉しめます。

 

     

                  (アレクシティ)


マラガ―スール賞にアレハンドロ・アメナバル*マラガ映画祭2021 ⑦2021年05月15日 18:31

          マラガ映画祭の最高賞マラガ―スール賞にアレハンドロ・アメナバル

 

       

 

★去る511日、「マラガ―スール賞アレハンドロ・アメナバル」の発表がありました。マラガ映画祭と日刊紙「スール」Diario Sur がコラボレーションした、本映画祭の大賞です。スペインのみならず海外での多数の受賞歴をもつ監督、脚本家、製作者、作曲家。国際的知名度のあるスペインを代表するシネアストの一人。当ブログでは、哲学者ミゲル・ウナムノの最晩年を描いた『戦争のさなかで』19)をクランクイン当時からご紹介しています。キャリア&フィルモグラフィーについては、英語版を翻訳したと思われる日本語ウイキペディアで読むことができます(ただし2015年の『リグレッション』まで)。

『戦争のさなかで』の紹介は、コチラ20180601日/20190927日/1126

   

      

     (クランクイン当時の監督とウナムノ役のカラ・エレハルデ、サラマンカ)

 

アレハンドロ・アメナバルは、19723月チリのサンティアゴ生れ、監督、脚本家、製作者、作曲家。チリとスペインの二重国籍、父親はでチリ人、母親はスペイン人、1969年生れの兄がいる。19738、首都の不穏な政治情勢に不安を感じた両親は、母親の生れ故郷スペインへの移住を決意する。不安は的中、翌月11日チリ陸軍大将アウグスト・ピノチェトによる軍事クーデターが勃発、社会主義政党アジェンデ政権は崩壊した。ラテンアメリカでは「もう一つの911」と称される。

 

★父親はミュンヘンに本部を置くOSRAM に職をえるが、マドリードに到着した当座はキャンピングカー暮らし、最終的にマドリード近郊のパラクエジョス・デ・ハラマに落ち着いた。17世紀に開校したヘタフェのパードレス・エスコラピオス学校に入学、高校2年のときマドリード北部バラハスにあるアラメダ・デ・オスナに編入した。両親は兄弟の教育には熱心で、テレビや映画館は15歳まで許されなかった。入学したマドリード・コンプルテンセ大学情報科学部は中退している。同大学の親友マテオ・ヒルは、後に『テシス 次に私が殺される』や『オープン・ユア・アイズ』、更に『夢を飛ぶ夢』、『アレクサンドリア』の脚本を共同執筆している。

 

1991La cabezaで短編デビュー、その後「La extraña obsesión del Doctor Morbius」(92)、「Himenóptero」(92)、「Luna」(94)と合計4本の短編発表後、1996年長編『テシス 次に私が殺される』で鮮烈デビュー、映画界のみならずスペイン社会に衝撃を与える。第2作サイコスリラー『オープン・ユア・アイズ』97)は、ベルリンや東京国際映画祭で高評価、トム・クルーズがリメイク権を取得、キャメロン・クロウ監督、クルーズ、ペネロペ・クルス主演で『バニラ・スカイ』(01)としてリメイクされた。3作目ホラー・サスペンス『アザーズ』01)でハリウッド進出、ニコール・キッドマンを起用して初めて英語で撮り、観客と批評家から受け入れられた。本作はベネチア映画祭でプレミアされ、ゴヤ賞15部門ノミネート8冠を制している。作品賞・監督賞を含む8冠はゴヤ賞史上でもイマノル・ウリベの『時間切れの愛』とダニエル・モンソンの『プリズン211』を数えるだけである。

   

       

      (デビュー作『テシス 次に私が殺される』のスペイン版ポスター)

 

★スペインに戻った監督は、尊厳死を願うガリシアのラモン・サンペドロの手記をベースにした4作目 『夢を飛ぶ夢』04)を製作、ベネチア映画祭2004でプレミアされ審査員特別賞ほか受賞、翌年のゴヤ賞15部門ノミネーション14、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、最終的にアカデミー外国語映画賞を受賞してオスカー監督となった。受賞挨拶で「このトロフィーをラモンに捧げる」とスピーチしたが、後にサンペドロの遺族との間に軋轢を残す結果となった。言語はスペイン語、ガリシア語、カタルーニャ語。

 

       

  (ラモンを演じたハビエル・バルデム、メイクに6時間費やしたことが話題になった)

 

★レイチェル・ワイズを迎えて撮った5作目『アレクサンドリア』は、カンヌ映画祭2009コンペティション部門に出品された。ゴヤ賞7冠の本作は、スペインでは興行成績年間トップの2100万ユーロ、観客動員数350万人だったが、アメリカでの不発が原因で巨額の資金を投じたテレシンコ・シネマは苦境に立たされた。ローマ帝国末期4世紀にエジプト・アレクサンドリアに実在した女性天文学者の物語は、アメリカの若者には受け入れられなかった。言語は英語。

 

6年間の沈黙を破って撮った、イーサン・ホーク、エマ・ワトソン主演の6作目『リグレッション』は、ホラー・サスペンス。サンセバスチャン映画祭2015のオープニング作品としてプレミアされた(コンペティション外作品)。スペイン興行成績900万ユーロ、観客動員数100万人だった。7作目が上述した『戦争のさなかで』(19)は、トロント、サンセバスチャン上映後、本邦でも東京国際映画祭とラテンビートの共催で上映された。スペインでは190万人が映画館に足を運んだ。彼のようにスリラー、ホラー、SF、サスペンスなどを取り入れた映画作家は多くはない。

 

★影響を受けた監督として、ヒッチコック、フリッツ・ラング、フランス系アメリカ人ジャック・ターナー、キューブリック、ロマン・ポランスキーなどを挙げ、ポランスキー以外は鬼籍入りしている。最新作はTVミニシリーズLa Fortuna6話、21)は、パコ・ロカ&ギジェルモ・コラルのグラフィック小説「El tesoro de cisne negro」に着想を得て製作された。キャストはペドロ・カサブランク、同じ俳優を起用しない方針を変更したのか(TVは別なのか)カラ・エレハルデがクレジットされている。製作はMovistar+、Mod Producciones、秋公開が予定されている。

 

     主なフィルモグラフィー

1996-Tasis 『テシス 次に私が殺される』 監督・脚本・音楽

  ゴヤ賞(作品賞・新人監督賞・オリジナル脚本賞)、サンジョルディ賞

1997-Abre los ojos 『オープン・ユア・アイズ』 監督・脚本・音楽

2001-Los otros 『アザーズ』 監督・脚本・音楽

  ゴヤ賞(監督賞・オリジナル脚本賞)、サンジョルディ賞

2004-Mar adentro 『夢を飛ぶ夢』 監督・脚本・製作・音楽

アカデミー外国語映画賞、ゴールデン・グローブ外国語映画賞賞、

ゴヤ賞(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲)、サンジョルディ賞、トゥリア賞

2009-Ágora 『アレクサンドリア』 監督・脚本 

  ゴヤ賞(オリジナル脚本賞)

2015-Regresion 『リグレッション』 監督・脚本

2019-Mientras dure la gurra『戦争のさなかで』 監督・脚本・音楽

短編、TVシリーズ、ミュージックビデオ、テレビコマーシャルを除く。

 

★他にホセ・ルイス・クエルダの『蝶の舌』(99)とマテオ・ヒルの『パズル』(99)の音楽、オスカル・サントスの『命の相続人』(10)の製作を手掛けている。横道にそれるが、2004年カミングアウト、同性婚成立後の20157月ダビ・ブランコと結婚したが、2018年初め別居、翌年離婚、新パートナーとは2018年夏から交際、病理解剖学を専門とする医師セサル、22歳年下ということです。


マラガ才能賞にオリベル・ラシェ*マラガ映画祭2021 ③2021年05月01日 17:41

            『ファイアー・ウィル・カム』のオリベル・ラシェにマラガ才能賞

 

       

                (オリベル・ラシェ監督)

 

429日、マラガ映画祭の特別賞の一つマラガ才能賞―マラガ・オピニオンオリベル・ラシェ受賞の発表がありました。本賞は日刊紙La Opinión de Málagaマラガ・オピニオンとのコラボレーション、既に受賞歴がある若いシネアストのキャリアをさらに後押しすることを目的とした賞、2019年は初監督作品『物静かな男の復讐』のラウル・アレバロ、昨年はマラガFFの作品賞受賞作「10,000km」でデビューしたカルロス・マルケス=マルセが受賞しています。

ラウル・アレバロのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20190322

カルロス・マルケス=マルセのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、

 コチラ20200829

 

オリベル・ラシェOliver Laxe は、1982年パリ生れ、監督、脚本家。授賞理由は「世界についてのユニークな視点と芸術的表現としての映画への強いコミットメント」が際立っていることが評価された。6歳で母親の故郷ガリシアに移住、フランス、スペイン、モロッコで暮らすガジェゴgallego2010年のカンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品したデビュー作Todos vós sodes capitánsTodos vosotros sois capitanesカラー&モノクロ、78分、スペイン語/アラビア語/フランス語)が、国際映画批評家連盟賞 FIPRESCIを受賞している。スペイン映画アカデミーが翌年のゴヤ賞新人監督賞にノミネーションしなかったことで一部から批判された6年ぶりに撮った第2Mimosas2016「批評家週間」アラビア語、93)が見事グランプリを受賞、セビーリャ映画際でも審査員特別賞を受賞している。

   

    

 

2019年、ガリシア語で撮った3O que arde邦題『ファイアー・ウィル・カム』がカンヌ映画祭2019「ある視点」で審査員賞とセクションの音響賞を受賞した。カンヌ映画祭に出品した作品全てが受賞したのは、ビクトル・エリセも果たせなかったことでした( エリセは1992年の第3作『マルメロの陽光』で審査員賞と国際映画批評家連盟賞を受賞している)。ゴヤ賞2020の4部門ノミネート、作品・監督撮影マウロ・エルセ受賞)・新人女優賞ベネディクタ・サンチェス受賞)、2部門受賞した。ガウディ賞ヨーロッパ映画賞、サン・ジョルディ賞他を受賞している。彼の作品はカンヌ以外でも権威のある国際映画祭、モスクワ、カイロ、サンセバスチャン、トロント、カルロヴィ・ヴァリ、マル・デ・プラタ、ニューヨーク、東京などで上映されている。16回ラテンビート映画祭2019で上映された折り来日、寡黙ながらQAでは会場からの質問に真摯に応じていた。

    

Mimosas」の作品&監督紹介は、コチラ⇒20160522

『ファイアー・ウィル・カム』の作品紹介、カンヌ映画祭の記事は、

  コチラ20190428同年0529

ラテンビート2019QAの記事は、コチラ20191121

   

      

                (ガリシア語のポスター)

 

★最近、地元のア・カルケイサ協同組合(ホセ・アントニオ・ディアス組合長)とタッグを組んで、ガリシア牛肉の普及に務めている。オンライン視聴者向けの宣伝ビデオを製作、オンラインストアで注文すると配送されるようです。ガリシア牛のハモンセラーノは超高級品、その美味しさはつとに有名です。カンヌで「映画から少し距離をおきたいここガリシアに腰を落ち着けてここのコミュニティのためにしたいことがある語っていましたが、じゃあ第4作目はどうなるのでしょうか。


マリアノ・バロッソに特別賞「レトロスペクティブ賞」*マラガ映画祭2021 ②2021年04月22日 14:27

      マラガ特別賞<レトロスペクティブ賞―マラガ・オイ>にマリアノ・バロッソ

 

    

 

マリアノ・バロッソの名前はゴヤ賞の度に登場させているのですが、スペイン映画アカデミーAACCE副会長に就任した折に簡単なキャリア&フィルモグラフィーを紹介しただけでした(第15代会長はイボンヌ・ブレイク)。ブレイク会長が2018年新春3日にゴヤ賞ガラの準備中体調不良で緊急入院、回復することなく鬼籍入りして、ゴヤ賞2018のガラから実質的に会長職を担ってきました。AACCE会長の正式就任は201879日、現在にいたっています(任期は3年)。

マリアノ・バロッソのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20161029

 

★更に映画祭では、バロッソ映画の多くの脚本を共同執筆したアレハンドロ・エルナンデスとの広範なインタビュー記事を集めた本がパリド・フエゴによって上梓される予定ということです。その中にはバロッソ監督のキャリア&フィルモグラフィーも含まれる。アレハンドロ・エルナンデスはキューバ出身だが、今世紀初めからスペインに軸足をおいている。2005年の「Hormigas en la boca」以来、「El mejor de Eva」、TVミニシリーズ「Todas las mujeres」や「La línea invisible」などが挙げられる。彼はアメナバルの『戦争のさなかで』や、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』など、他監督ともタッグを組んでいる脚本家です。

アレハンドロ・エルナンデスの紹介記事は、コチラ2018年06月01日

 

     

   (ゴヤ賞2014脚色賞を受賞したバロッソ監督と脚本家のアレハンドロ・エルナンデス)

  

 

          バルセロナ派を牽引する監督、脚本家、プロデューサー

 

マリアノ・バロッソ1959年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者、第16代スペイン映画アカデミー会長を2018年より務めている。ロスアンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティテュート、インスティテュート・サンダンスで映画を学び、マドリードのスペイン・シアターやウィリアム・レイトン・ラボラトリーで演劇を学びました。キューバのサンアントニオ・デ・ロス・バニョスの映画TV学校(199799)、アリカンテのシウダッド・デ・ラ・ルスの映画学校、メネンデス・ペラヨ国際大学、プラハ・フィルム・スクール、コロンビア国立大学、ナッシュビルのワトキンス・カレッジで教鞭をとり、またマドリード映画視聴覚学校ECAMの監督コーディネーターも務めています。TVシリーズや広告も手掛けながら映画と舞台、かたわら後進の指導に当たっています。

 

       

           (ゴヤ賞2021ガラで挨拶するマリアノ・バロッソ)

 

フェルナンド・コロモに見出され、Mi hermano del alma93)で長編第2作がベルリン映画祭に出品された。翌年のゴヤ賞新人監督賞を受賞、他カルロヴィ・ヴァリ映画祭1994で監督賞クリスタル・グローブサン・ジョルディ賞を受賞した。1990年代のカタルーニャを舞台に全く性格の異なる兄弟を描く、いわゆるカインとアベルの物語、脚本はコロモとホアキン・オリストレルが共同執筆、キャストのフアン・エチャノベ(ゴヤ賞助演男優賞)、フアンホ・プイグコルベ(サン・ジョルディ男優賞)、カルロス・イポリット(ムルシアFFフランシスコ・ラバル男優賞)などがそれぞれ評価され、その演技力は後の活躍で証明されている。代表作は以下の通り(製作順)

    

         

       (兄弟役を演じた左からプイグコルベとイポリットを配したポスター)

 

1990Es que Inclan está loco (メキシコ映画)コメディ、長編デビュー作

1993Mi hermano del alma 

1996Lucrecia TVムービー)

1996Extasis

1999Los lobos de Washington

2000Kasbah (アルゼンチンとの合作)

2001In the time of the butterfliesEn el tiempo de las mariposas、米=メキシコ合作)

2005Hormigas en la boca (キューバとの合作、英題Ants in the Mouth

2007Invisibles(ドキュメンタリー)セグメント「Los sueños de Bianca

2012El mejor de Eva

2013Todas las mujeres

 

*以下、TVシリーズ

199192Las chicas de hoy en dia5話)TVデビュー作

2010Todas las mujeres6話)2013年映画化された。

2018El día de mañana6

  イグナシオ・マルティネス・デ・ピソンの小説をベースにオリオル・プラが脚色

2019年Criminal3Netflix オリジナル作品、2019年9月20日より配信

2020年La línea invisible6

 

1996年アンテナ3 のためテレビ・ムービーLucreciaをカルメ・エリアス、フアン・ディエゴ・ボトーを起用して撮る。同年国際映画祭巡りをしたExtasisを撮る。ハビエル・バルデム、アルゼンチン出身のベテラン、フェデリコ・ルッピ、シルビア・ムントが出演、カルロヴィ・ヴァリ以下、ベルリン、ロンドン、ワシントン、マル・デ・プラタなどの映画祭で上映され、ニューヨーク批評家協会賞、ACE作品賞などを受賞した。脚本はホアキン・オリストレルと共同執筆、父と息子の関係がテーマ。

    

      

          (ハビエル・バルデムを配したExtasis」のポスター)

 

1999Los lobos de Washingtonは、脚本をフアン・カベスタニーが執筆したアクション・スリラー、バルを経営するハビエル・バルデムとエドゥアルド・フェルナンデスが金策に困り、裕福な古い友人ホセ・サンチョのマネーを横取りする。他にエルネスト・アルテリオ、アルベルト・サン・フアンなど芸達者が出演、スペイン公開後にトロント映画祭に出品された他、トゥールーズ映画祭でバロッソが監督賞を受賞した。バルデムはエグゼクティブ・プロデューサーも兼ねている。

     

     

           (バルデムを中央に5人の主演者を配したポスター)

 

2001In the time of the butterfliesは、米国のTVムービーとしてMGMShowTimeが製作、言語は英語、メキシコ・シティやベラクルスで撮影された。サルマ・ハエックやプエルトリコ出身の歌手マルク・アンソニーが出演している。2005Hormigas en la bocaは、ジャーナリストで作家の実兄ミゲル・バロッソ(サラゴサ1955)の暗黒小説Amanecer con hormigas en la boca1999年刊)の映画化、脚本をキューバ出身のアレハンドロ・エルナンデスと共同執筆したクラシックなフィルム・ノワール。革命前の1950年代のハバナが舞台、エドゥアルド・フェルナンデス、アリアドナ・ヒル、キューバのホルヘ・ぺルゴリアが主演、ハバナで撮影された。マラガ映画祭で審査員特別賞を受賞した他、主役のエドゥアルド・フェルナンデス男優賞を受賞した。

    

       

         (主演3人を配したHormigas en la bocaのポスター)

 

★ドキュメンタリーInvisiblesは、バロッソを含む5人の監督、イサベル・コイシェ、ハビエル・コルクエラ、フェルナンド・レオン・デ・アラノア、ヴィム・ヴェンダースがそれぞれセグメントを担当した。アフリカで活躍する国境なき医師団の姿を追ったドキュメンタリー。ハビエル・バルデムが製作、ゴヤ賞2008長編ドキュメンタリー賞フォルケ賞ドキュメンタリー賞を受賞した。

 

Todas las mujeresは、2010年のTVミニシリーズの映画化、ゴヤ賞2014脚色賞アレハンドロ・エルナンデスと受賞、3個目のゴヤ胸像となる。他サン・ジョルディ賞、トゥリア賞、ディアス・デ・シネ賞などを受賞。キャストはバロッソ映画の常連エドゥアルド・フェルナンデス、ナタリエ・ポサ、マリア・モラレス、ペトラ・マルティネス、ミシェル・ジェンナーなど。

    

         

        (ゴヤ賞2014脚色賞のTodas las mujeres」のポスター)

 

TVミニシリーズでは、CriminalNetflix20199月から配信されている。脚本は第1話と第3話がアレハンドロ・エルナンデス、第2話がマヌエル・マルティン・クエンカ、キャストは、エンマ・スアレスを主役に、エドゥアルド・フェルナンデス、カルメン・マチ、ホルヘ・ボッシュ、インマ・クエスタ、アルバロ・セルバンテスと当ブログ常連の演技派を揃えている。このシリーズはイギリス編、ドイツ編、フランス編と4ヵ国対決となっている。

    

        

          (エンマ・スアレスとカルメン・マチを配したポスター)

   

★演劇では、「El hombreelefante」(B・ポメランセ、出演アナ・ドゥアルト、ペレ・ポンセ)、「Closer」(パトリック・マルベル、出演ベレン・ルエダ、ホセ・ルイス・ガルシア・ぺレス)、「Recortes」(出演アルベルト・サン・フアン、ヌリア・ガリャルド)が代表作。他にさまざまな市民団体のために「Medicos del mundo」や「Greenpeace」のようなドキュメンタリーも手掛けている。

 

「Black Beach」 エステバン・クレスポの新作*ゴヤ賞2021 ⑬2021年02月27日 16:32

              アフリカで暗躍する石油カンパニーのアクション・スリラー

 

   

 

エステバン・クレスポの新作Black Beachは、ゴヤ賞ノミネート6カテゴリーと大いに気を吐いています。撮影・編集・美術・プロダクション・録音・特殊効果賞と地味な部門だが、マラガ映画祭上映後、1ヵ月後には公開されている。Netflixが絡んでおり、フランスの1月を皮切りに23日にはアメリカ、イギリスなど各国で既に配信が始まっております。日本はまだ準備中とかで待たされていますが、言語を選んで視聴できます。詳細はそれからにしたいが、ラウル・アレバロカンデラ・ペーニャ、チリのパウリーナ・ガルシアの他、アレバロのパートナーであるメリナ・マシューズがドラマでも夫婦役を演じています。一応データ、キャスト、ストーリーをご紹介しておきたい。 

          

      (エステバン・クレスポ監督、マラガ映画祭2020のフォトコールから)

 

 Black Beach

製作:LAZONA Films / David Naranjo Villalonga / Crea SGR / Scope Pictures /

    Nectar Media / Macaronesia Films / Nephilim Producciones  協賛RTVE、ICAA

監督:エステバン・クレスポ

脚本:エステバン・クレスポ、ダビ・モレノ

音楽:アルトゥーロ・カルデルス

撮影:アンヘル・アモロス

編集:ミゲル・ドブラドフェルナンド・フランコ

美術・プロダクション・デザイン:モンセ・サンス

プロダクション・デザイン:カルメン・マルティネス・ムニョス

プロダクション・マネージメント:ハルナ・セイドゥ、マクロード・アイス・インプライム、他

キャスティング:パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ、アナ・サインス=トラパガ

録音:コケ・F・ラエラセルヒオ・テストンナチョ・ロヨ・ビリャノバ

特殊効果:ラウル・ロマニリョスジャン=ルイ・ビリヤード

製作者:ダビ・ナランホ、(エグゼクティブ)ヘスス・ウリェド・ナダル、コンチャ・カンピンス(マドリードGhana)、ダビ・ラゴニグ(ベルギー)、他

 

データ:製作国スペイン=ベルギー=米、スペイン語・英語、2020年、アクション、政治スリラー、115分、撮影地グラン・カナリア、マドリード、ガーナ共和国、ブリュッセル、撮影期間201959日~71日、公開スペイン2020925日。ネット配信は20211月仏、2月伊、米、英などで開始。

映画祭・受賞歴:マラガ映画祭セクション・オフィシアル(823日上映)、ゴヤ賞20216カテゴリーにノミネーション(36日発表)

 

キャスト:ラウル・アレバロ(カルロス・フステル)、パウリナ・ガルシア(カルロスの母エレナ)、カンデラ・ペーニャ(NGOアレ/アレハンドラ)、クロード・ムスンガイ(グラハム)、バブ・チャム(ギジェルモ・ムバ将軍)、リディア・ネネ(ルシア)、メリナ・マシューズ(カルロス妻スーザン)、エミリオ・ブアレ(大統領の息子レオン)、ムーリー・ジャルジュ(グレゴリオ・ンドング大統領)、アイダ・Wellgaya(カルロスの元恋人アダ)、ジミー・カストロ(カルロスの友人カリスト・バテテ)、テレシタ・エブイ(アダの母親)、ダイロン・タジョン(カリストJr.)、フェンダ・ドラメ(アレの助手エバ)、オリビエ・ボニ、フレッド・アデニス(ダグラス)、ジョン・フランダース(ドノバン)、ルカ・ぺロス、ジュリアス・コッター(ONU職員ロナルド)、アンバー・シャナ・ウィリアムズ(アフリカ人記者)、その他大勢

 

ストーリー:カルロス・フステルは、アメリカの石油カンパニーのスペインCEOに昇進したばかり、8ヵ月になる身重の妻スーザンと国連のベテラン外交官の母親とベルギーのブリュッセルで暮らしている。贅沢三昧の上流階級に属しているが会社の共同経営者になることを期待している。妻により豊かな生活が送れるようニューヨークへの移住を計画している。そんな折も折、はるか彼方のアフリカの島国でカンパニーの技術者が、カルロスの古い友人カリスト・バテテによって誘拐される事件が起き、調停役としてカルロスに白羽の矢が立った。かつて暮らしていたアフリカに飛び、ンドング大統領の息子レオン所有の家に居を定める。スペインNGOの協力者アレと再会するが、想像以上の危険なミッションであることが分かる。元恋人のアダがカリストと結婚して息子がいること、ブラック・ビーチ刑務所に収監されていることを突き止めるカルロス。政治的対立で起きた誘拐事件は何百万もの契約を危険に晒すことになる。

ゴチック体はゴヤ賞ノミネーションを受けている印。

 

 

        タイトル「Black Beach」は赤道ギニアの最恐の刑務所の名前

 

★タイトルのBlack Beachブラック・ビーチというのは、かつての植民地時代にアフリカ中部に位置する赤道ギニア共和国の首都マラボに建設された刑務所の名前、スペイン語でPlaya Negraと言い、地下牢のある世界でも最恐の刑務所の一つであった。独立前はスペイン、フランス、ポルトガルが宗主国、従って現在の公用語も3語である。現大統領テオドロ・オビアン・ンゲマが当時の刑務所長でした。常に即決裁判、政治的な反主流派に対しては残酷な拷問などを科した。

    

★クレスポ監督がこのタイトルを選んだのは、現在でも金権政治を行っているとか暴君であるとか明白ではないにしろ、符合する事実もあるからです。というのも2016年副大統領に就任した息子が高級車に目がなく、2019年スイス検察の公金横領事件の捜査打ち切りの司法取引に応じて高級車25台を没収され競売にかけられた事件が報じられた。背景には石油の利権に群がる欧米の強国が片棒を担いでいる。

 

★スリラーであることから結末を書くことは控えたいが、遠いアフリカの小国を背景に登場人物が入れ乱れ、政治的、部族的対立、ONUの画策などが複雑に絡み合ってアクション映画では一概に括れない。有能なビジネスマンがセンチメンタルな過去と向き合う倫理的なメロドラマの部分もあり、加えて家族の相克、無実の民の死屍累々、親しい友人の死など、テーマは盛りだくさんです。ヤッピー世代のオデュッセイア、カルロスは無事に帰還できるのか。

 

             

           (カルロスとグラハム役のクロード・ムスンガイ)

 

★過去にも同じようなテーマを扱った映画はかなり多い。アフリカで暗躍する多国籍企業をテーマにしたジョン・ル・カレの小説の映画化、フェルナンド・メイレレスの『ナイロビの蜂』05)では、レイチェル・ワイズがアカデミー賞助演女優賞を受賞した。同じ年には舞台は中東の架空の国シリアナの石油利権をめぐる陰謀を描いたスティーヴン・ギャガンの政治スリラー『シリアナ』も製作され、こちらはCIA工作員役のジョージ・クルーニーがアカデミー賞&ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を受賞している。

 

ラウル・アレバロは、1979年マドリード近郊のモストレス生れの監督、俳優。キャリア&フィルモグラフィーは、2016年の初監督作品Tarde para la ira邦題『物静かな男の復讐』でアップしています。彼は本作でゴヤ賞2017新人監督賞を受賞している。バツグンの演技で存在感を示したカンデラ・ペーニャイシアル・ボリャインLa boda de Rosaで主演女優賞にノミネーションされています。スーザン役のメリナ・マシューズ(バルセロナ1986)は、アレバロの現パートナーということですが、以前のアリシア・ルビオとは別れたようですね。

ラウル・アレバロの主な紹介記事は、コチラ20170109

 

     

     

          (ラウル・アレバロとカンデラ・ペーニャ、映画から)

 

★監督紹介:エステバン・クレスポは、1971年マドリード生れ、監督、脚本家、2012年に撮った短編6作目Aquel no era yo25分)が、米アカデミー賞2014にノミネートされたことで、オスカー賞ノミネート監督としばしば紹介される。本作はゴヤ賞2013短編映画賞受賞の他、マラガ映画祭2012銀のビスナガ短編賞CinEuphoria2014、メディナ映画祭ほか、国内外の受賞歴を誇る。アフリカの少年兵の記事にインスパイアされて製作した。英語の分かる子供たちを選んで起用、アフリカを再現しているが、実際の撮影はトレドとその近郊の農場で、新作と同じアンヘル・アモロスが手掛けた。

  

       

                   (ゴヤ賞2013短編映画賞のトロフィーを手にした監督

    

       

       (アフリカの少年兵をテーマにしたAquel no era yo」のポスター

 

★短編の受賞歴は以下の通り:

2005年「Amar」ポルト短編映画祭2006大賞受賞

2009年「Lala」メディナFF観客賞、ラルファス・デル・ピ映画祭監督賞ほかを受賞

2011年「Nadie tiene la culpa」ラルファス・デル・ピFF観客&脚本賞、

    モントリオール映画祭2011審査員賞を受賞

2012Aquel no era yo」上記

 

★長編デビュー作Amarはマラガ映画祭2017にノミネートされ、本邦では『禁じられた二人』という全く意味不明の邦題でNetflixで配信された。ない知恵を絞らないで欲しい。2005年に同タイトルで短編を撮っている。個人的には評価できなかったので紹介を断念したが、功績は新人マリア・ペドラサとポル・モネンを世に送り出したこと。新作が第2作目になります。

 

            

              (長編デビュー作Amar」のポスター

  

バホ・ウジョアの5年ぶりの新作 「Baby」*ゴヤ賞2021 ⑪2021年02月18日 10:44

          監督賞ノミネートの「Baby」は5年ぶりのセリフのないドラマ

 

      

 

フアンマ・バホ・ウジョア5年ぶりの新作Babyは、監督賞の他オリジナル作曲賞(メンディサバル&ウリアルテ)がノミネートされています。バホ・ウジョアは1967年ビトリア生れ、かつてバスクの若手監督四天王と称されたグループの一人。アレックス・デ・ラ・イグレシア1965生れ、『スガラムルディの魔女』)、エンリケ・ウルビス1962生れ、『悪人に平穏なし』)、パブロ・ベルヘル1963生れ、『ブランカニエベス』)、3人はビルバオ生れです。もはや若手とは言えませんが、21世紀初頭は言語こそスペイン語でしたが、バスクの若手監督が塊りになって国際映画祭で認められるようになった時代でした。

 

 Baby2020

製作:Frágil Zinema / La Charito Films / La Charito

監督・脚本:フアンマ・バホ・ウジョア

音楽:Bingen Mendizábal、コルド・ウリアルテ

撮影:Josep M. Civit

編集:デメトリオ・エロルス

キャスティング:ルシ・レノックス

プロダクション・デザイン:リョレンク・マス

セット・デコレーション:ジナ・ベルナド・ムンタネ

衣装デザイン:アセギニェ・ウリゴイティア

メイクアップ&ヘアー:(メイク)ベアトリス・ロペス、(ヘアー)エステル・ビリャル

プロダクション・マネージメント:カティシャ・シルバ

製作者:フアンマ・バホ・ウジョア、(エグゼクティブ)フェラン・トマス、(共)ディエゴ・ロドリゲス、(ライン)ハビエル・アルスアガ

 

データ:製作国スペイン、言語スペイン語・無声、ドラマ、104分、撮影地バスク自治州、スペイン公開1218日、ナバラ州1214日、サンタ・クルス・デ・テネリフェ12月14日、バレンシア12月17

映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2020上映(1011日)オリジナル・サウンドトラック賞受賞、タリン映画祭(エストニア)、バジャドリード映画祭、カイロ映画祭、イスラ・カラベラ・ファンタジック映画祭(カナリア諸島テネリフェ)。映画賞ノミネーションは、第8回フェロス賞音楽賞(32日発表)、第13回ガウディ賞撮影賞(321日発表)、第35回ゴヤ賞監督賞・オリジナル作曲賞(36日発表)

 

キャスト:ロジー・デイ(若い母親)、ハリエット・サンソム・ハリス(ザ・ウーマン)、ナタリア・テナ(ザ・ウルビノ)、マファルダ・カルボネル(ニーニャ)、チャロ・ロペス(家主)、ナタリア・ルイス(ディーラー)、カルメン・サン・エステバン(カップル)、スサナ・ソレト(カップル)、他

 

ストーリー:麻薬中毒の娘が衰弱しながら男の子を出産した。彼女には自身が生き残るための困難の他に育児が負い被さる。部屋代が払えず家主から養子を勧められる。家主は児童密売で働く女性に接触させ、娘は借金を返済して生き残れる金額で赤ん坊を裕福な婦人に売り渡してしまう。しかし部屋の中に転がっていたおしゃぶりを見て後悔の念に駆られる。生と死についての創造物語、母親が息子を愛することがテーマではなく、私たちが他者を愛することができるかどうかです。

                                    (文責:管理人)

 

    

             (赤ん坊を売り渡す母親と裕福な婦人)

 

 

     物語が危険に晒されている――セリフがないと観客は理解できないか?

 

★バホ・ウジョア映画ファンにとって、ダイヤローグがないと聞いても驚かないでしょう。監督によると「多くの脚本家は、観客がセリフがないと理解できないのではないかと怖れてダイヤローグを書くが、そんな心配はいらない。今は物語が危険に晒されている。既に映画を作り始めて24年前になるが、今日の社会は好奇心が強く、幼稚で独断的」と語る。また「鏡を見て、自身を愛し許すことができるとき、この映画で起きたような他人を愛することができるようになるチャンスがある」、つまり自分が好きでないと他人を好きになれない。「登場人物に名前を付けなかったのは意図したこと、人間の本質、魂の本質に、また怖れや欲望の本質にも名前はいらない。登場する動物には、シンボリックな役割を与えている」と監督。テーマは本質は何かのようで、白馬やアフガン・グレイハンドを登場させている。

 

             

            (ロジー・デイ、白馬が見える)

 

2作になるLa madre muertaの主役を演じたアナ・アルバレスは一言も喋らなかった。幼いとき母親を殺害した犯人を見てしまったせいで、大人になっても立ち直れない女性の役でした。それでもストックホルム映画祭やカルタヘナ映画祭で女優賞を受賞している。主役に必要な本質的な能力を獲得していることが重要ということでしょうか。4作目の「Frágil」でも長い時間セリフがなかった。新作の重要な要素は、セット、光と闇、音楽が担っており、入念に仕上げられたビジュアル効果が予告編からも見てとれる。息子を売って自分の過ちに気づくドラッグ中毒の若い母親の話だが、かなり奥は複雑なようです。セリフがないだけに個々人の解釈が問われ、好き嫌いがはっきり分かれそうです。ナタリア・テナ扮するアルビノは両性具有のキャラクター、クランクインで最初にセットに入ってきたとき、彼女は「私たちを不安にさせ、怖がらせた」と監督、適役だったわけです。コロナによるパンデミックが始まる前に撮影を終了していたのも幸運なことだった。

   

      

          (ナタリア・テナ扮する両性具有のアルビノ)

 

 

           『スター・ウォーズ』に魅せられた少年時代、

 

監督紹介フアンマ・バホ・ウジョアは、1967年ビトリア(バスク語ガステイス)生れ、監督、脚本家、撮影監督、ミュージシャン。父親はブルガリア人、母親はアンダルシア出身、生れはアラバ県の県都ビトリアだが、育ったのはサンセバスティアン、3人兄妹の真ん中。父親が写真館を経営、十代から証明写真の作成や土曜日ごとの結婚披露宴のライト持ちなどして父親の仕事を手伝った。彼を映画の虜にしたのは、1977年のジョージ・ルーカス『スター・ウォーズ』だった。17歳の1984年に最初の制作会社「Gazteiko Zinema」を設立、兄エドゥアルド・バホ・ウジョアとスーパー8ミリや16ミリで短編を撮り続けた。1989年の短編El reino de Víctor30分)がゴヤ賞1990短編映画賞を受賞したときは弱冠22歳でした。

 

      

    (ゴヤ賞1992Alas de mariposa新人監督賞と主演女優賞のシルビア・ムント

 

★長編映画デビュー作Alas de mariposaがサンセバスチャン映画祭1991金貝賞を受賞、最年少受賞者の記録を作った。華々しいデビューは、当然のごとく翌年のゴヤ賞では、新人監督賞、共同執筆をしたエドゥアルド・バホ・ウジョアとオリジナル脚本賞、母親役を演じたシルビア・ムントに初の主演女優賞をもたらした。息子の誕生をひたすら待ち望む母親にシルビア・ムント、6歳になる少女の弟殺しというショッキングな悲劇に驚愕した。余談だが、2016年の暮れ、兄弟で受賞した脚本賞をビトリアの中古品店に4999ユーロで売却するという前代未聞のニュースに関係者は絶句した。これには後日談として、店側と監督側の話に食い違いがあり、プロダクションも否定するなど真相は謎のままになった。

★第2La madre muerta」はベネチア映画祭でプレミアされ、海外の映画祭で称賛された。以下に短編とドキュメンタリーを除くフィルモグラフィーを年代順に列挙すると、

 

1991Alas de mariposa」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)

1993La madre muerta」監督・脚本(兄エドゥアルドと共同執筆)

1997年「Airbag」コメディ、監督・脚本(カラ・エレハルデ他と共同執筆)

2004年「Frágil」監督・脚本

2015年「Rey Gitano」コメディ、監督・脚本

2020年「Baby」監督・脚本

以上6作です。

 

       

                (長編デビュー作のポスター)

 

★ゴヤ賞関連では、第2作目La madre muerta」で特殊効果賞(ポリ・カンテロ)、第3作目Airbagで編集賞(パブロ・ブランコ)が受賞している。パブロ・ブランコは第2作と第4作を手掛けるほか、『スガラムルディの魔女』や『悪人に平穏なし』などバスク監督の作品にゴヤ賞をもたらしている。前者はファンタスポルト1995で監督賞と観客賞、モントリオール映画祭監督賞、ストックホルム映画祭FIPRESCIなど国際映画祭での評価が高く、カラ・エレハルデを主役に起用したことが次作のコメディ「Airbag」に繋がった。「騒々しいだけで中身がない」という批評家の酷評にもかかわらず、1997年の興行成績ナンバーワンになった。つまり観客の意見は専門家と違ったわけです。フリーガン・コメディという新しいジャンルを作ったと称され、今では専門家の意見も変わり、20世紀のスペイン映画ベスト50作に選ぶ批評家もいる。出演者には鬼籍入りした人も多く「騒々しい」には違いないが、今見ても古さを感じないのではないか。前2作からは想像できない変身ぶりでした。

      

      

        (コメディ「Airbag」のおバカ3人組、左からカラ・エレハルデ、

         フェルナンド・ギジェン・クエルボ、アルベルト・サン・フアン)

 

★「Airbag」が戻ってきたと言われた、第5作目のRey Gitanoには、「Airbag」で活躍した俳優、カラ・エレハルデ、マヌエル・マンキーニャの他、今は亡きロサ・マリア・サルダ、バルデム兄弟の実母ピラール・バルデム、新たにアルトゥーロ・バルスマリア・レオン、ベテランチャロ・ロペスも加わっている。ロペスは新作にも出演している。

      

      

                    (「Rey Gitano」撮影中のカラ・エレハルデと監督)

 

    

  (アルトゥーロ・バルスやマリア・レオンも加わった「Rey Gitano」のポスター)

 

    

(ロサ・マリア・サルダとチャロ・ロペス、「Rey Gitano」)

   

寡作な監督だが、彼が情熱を捧げている一つに音楽がある。ドラマの間に2本の音楽ドキュメンタリーを撮っている。2008年のHistoria de un grupo del rockと、2016年のRockNRollersである。他にロック・グループのビデオクリップを多数作成している。子供のときからの音楽好きで、最初はフルート、後にはギターとピアノを学んだ。とにかく規格外の才能の持ち主である。映画を撮っていないときは、ミュージシャンの仕事で多忙を極めている。独立心旺盛な、体制には反抗的な性格を自認している。

 

★もう一つがカメラ、「Baby」のポスターには何種類かあるが、これはその一つ。赤ん坊のおしゃぶりは手工芸品の職人が丁寧に作ってくれたものだが、背景の蜘蛛はバザールで売っていたもの、セットにした家で撮影した。このポスターにはデビュー作「Alas de mariposa」の雰囲気を思い出させるものがある。

 

      

               (監督が作成したポスター)

 

 

       個性的な女優陣――チャロ・ロペスが第65回エスピガ栄誉を受賞

 

キャスト紹介:本作のノミネーション・カテゴリーは監督賞なのでキャスト陣については簡単にしますが、英国の女優ロジー・デイと米国のハリエット・サンソム・ハリスを主役に起用、ナタリア・テナは生れも育ちもイギリスだが両親がスペイン系なのでスペイン語に堪能、海外勢でも毛色の変わった女優を選んでいる。ロジー・デイ(ケンブリッジ1995)は、女優の他、まだ20代だが監督、作家でもある。1999TVシリーズでデビュー、ポール・ハイエットの「The Seasoning House」(12『復讐少女』)で主役に抜擢され、2014年ジョナサン・イングリッシュの『アイアンクラッド ブラッド・ウォー』、ロドリゴ・コルテスの『ダーク・スクール』(18)などが代表作。

 

        

          (麻薬中毒の若い母親を演じたロジー・デイ)

 

ハリエット・サンソム・ハリス(テキサス州フォートワース1955)は、1993年の『アダムス・ファミリー、2』、ポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』(17)、TVシリーズ『デスパレートな妻たち』(1128話出演)など。本作では赤ん坊を買う裕福な婦人役。

 

      

            (ハリエット・サンソム・ハリス、映画から)

 

ナタリア・テナ(ロンドン1984)は、上述したように生粋のロンドン子だが、両親がスペイン系なのでスペイン語が堪能のことから、カルロス・マルケス=マルセのデビュー作10,000KMの主役に抜擢された。本作は第17回マラガ映画祭2014に正式出品され、監督が作品賞「金のビスナガ」賞、彼女は女優賞を受賞した。

ナタリア・テナ紹介記事は、コチラ20140411

 

   

        (ナタリア・テナとハリエット・サンソム・ハリス)

 

★一方スペイン勢は、家主役のチャロ・ロペス(サラマンカ1943)は、舞台やTVシリーズで活躍、5年前の「Rey Gitano」に出演している。1943年生れということは、デビューがフランコ体制ということで、主役を演じて活躍していた時代は、ゴヤ賞も始まっていなかった。従ってビセンテ・アランダ1940年代のスペインを舞台にしたTiempo de silencio86)に出演したときには既に母親役だった。ゴヤ賞はホセフィナ・モリーナLo más naturalで主演女優賞にノミネートされたが受賞にいたらず、モンチョ・アルメンダリス『心の秘密』(97)で初めて助演女優賞を受賞、本作はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた話題作でした。第65回バジャドリード映画祭2020エスピガ栄誉賞を受賞、バホ・ウジョア監督にエスコートされて登壇、トロフィーを手にした。「パンデミアでも文化や私たちの健康に影響を及ぼさない」とスピーチした。2020年の栄誉賞受賞者はイサベル・コイシェ、マリア・ガリアナを含めて6人と大盤振舞いでした。

    

   

(エスピガ栄誉賞トロフィーを手にスピーチをするチャロ・ロペス、20201026日)

 

★ニーニャ役を演じたマファルダ・カルボネス2008)は、2018TVシリーズでスタート、本作を見たマリア・リポル監督が大いに気に入ってVivir dos veces19)にスカウトした。脚本を手直しするなどしてデビューさせた甲斐あって、子役ながらバレンシア・オーディオビジュアル賞を受賞してしまった。共演者の認知症グレーゾーンの祖父役オスカル・マルティネス、母親役インマ・クエスタのベテランを喰ってしまった。評価はこれからの12歳です。

     

★ディーラー役のナタリア・ルイス()は、Rey Gitano」やマリアノ・ビアシンMarisol05、アルゼンチン、モノクロ)、カルロス・バルデムの小説を映画化したサンティアゴ・サンノウの「Alacran enamorado」(13『スコーピオン反逆のボクサー』)などに出演している。

   

     

  (監督、マファルダ、ナタリア・テナ、ナタリア・ルイス、シッチェスFF 2020の赤絨毯