『しあわせな人生の選択』の主役は「トルーマン」*セスク・ゲイの新作2017年08月04日 17:27

          「命は時間」だと実感するエモーショナルな4日間

 

       

★「トルーマン」のタイトルで紹介してきたセスク・ゲイ Truman が『しあわせな人生の選択』という邦題で公開されています。当ブログでは、マイナーなスペイン語映画を公開してくれるだけで感謝、邦題のつけ方に難癖をつけるなどのゼイタクは慎もうと控えておりますが、これはあまりに凡庸すぎて残念です。もっともこれから岩波ホールで公開されるアルゼンチン映画『笑う故郷』ほどではありませんが。下手の考え休むに似たり、こねくり回さずそのまま「トルーマン」とカタカナにしておけばよかったのです。トルーマンはただの犬ではないのですから。「命は時間」だと実感するエモーショナルな4日間が語られる。若干ネタバレしております。ご注意ください。

「トルーマン」の作品紹介、監督フィルモグラフィー、主演キャストの記事は、

 コチラ2016年01月09

ゴヤ賞2016、作品賞以下5冠受賞の記事は、コチラ2016年02月12日

 

   

  (プレゼンター、バルガス=リョサから脚本賞の胸像を受け取る、ゴヤ賞2016ガラ

       

★ストーリーは公式サイトに譲るとして、3人と1匹の主役の他の登場人物を少し補足しておきます。群集劇ではありませんが、主役級の俳優が脇を固めていることが分かります。出演作品はできるだけ邦題の付いた映画から選びましたので代表作というわけではありません。セスク・ゲイの映画なら脇役でも出たいという演技派を揃えられたことも成功のカギだったと思います。

主なキャスト

リカルド・ダリン:舞台俳優フリアン(『瞳の奥の秘密』『XXY』『人生スイッチ』他)

ハビエル・カマラ:カナダの教授トマス(『トーク・トゥ・ハー』

        『「僕の戦争」を探して』)

ドロレス・フォンシ:フリアンの従妹パウラ(『パウリーナ』

         『ブエノスアイレスの夜』他)

トロイロ:フリアンの老犬トルーマン、犬種はブルマスティフ

エドゥアルド・フェルナンデス:旧友ルイス(『スモーク・アンド・ミラーズ』

              『イン・ザ・シティ』)

アレックス・ブレンデミュール:獣医(『イン・ザ・シティ』『ワコルダ』

              『ペインレス』)

ペドロ・カサブランク:フリアンの主治医(『時間切れの愛』B, la película

ホセ・ルイス・ゴメス:プロデューサー(『抱擁のかけら』『ベラスケスの女官たち』)

ハビエル・グティエレス:葬儀社顧問(『マーシュランド』

           『オリーブの樹は呼んでいる』)

エルビラ・ミンゲス:フリアン元妻グロリア(『時間切れの愛』

         『暴走車ランナウェイ・カー』)

オリオル・プラ:フリアン息子ニコ、アムステルバムに留学中(No sé decir adiós

ナタリエ・ポサ:トルーマン里親候補1(『不遇』『ジュリエッタ』No sé decir adiós

アガタ・ロカ:トルーマン里親候補2(『フリアよみがえり少女』Ficció

スシ・サンチェス:トルーマン里親候補3(『悲しみのミルク』『ジュリエッタ』)

シルビア・アバスカル:ルイスの新妻モニカ(『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』)

フランセスク・オレーリャ:レストランにいた俳優

アナ・グラシア:レストランにいた女優

キラ・ミロー:舞台女優、フリアンの相手役

 

  

(上段左からナタリエ・ポサとアガタ・ロカ、エドゥアルド・フェルナンデス、

 ハビエル・グティエレス 下段スシ・サンチェス、エルビラ・ミンゲス、キラ・ミロー)

 

★セスク・ゲイ映画が「劇場公開されるのは初めて」と聞いて驚くファンもいるかと思いますが、長編第2Krámpack『ニコとダニの夏』という邦題でテレビ放映されています。作品紹介のおり、既に監督キャリアもアップいたしましたが、主なフィルモグラフィーを改めてコンパクトに再構成しておきます。

 

セスク・ゲイFrancesc Gay i Puig1967年バルセロナ生れ、監督、脚本家、戯曲家。バルセロナの市立視聴覚学校EMAVで映画を学ぶ。1998年長編映画Hotel Room(アルゼンチンのダニエル・ギメルベルグとの共同)でデビュー。2000年ロマンチック・コメディKrámpack『ニコとダニの夏』で一躍脚光を浴びる。性愛に目覚めかけた男女4人の一夏の物語。ゴヤ賞2001新人監督賞・脚色賞ノミネートされたサンセバスチャン映画祭2000セバスチャン賞、トゥリア賞、カタルーニャ作品賞、バレンシア映画祭初監督作品賞などを受賞。

 

日本で話題になった第3En la ciudad03は、『イン・ザ・シティ』邦題でセルバンテス文化センターで上映された。セスク・ゲイの得意とする群像劇(スペインでは合唱劇)の形式をとったドラマ。無関係だった複数の登場人物が絡みあって進行するが、最後に1本に繋がっていく。それぞれ人格造形がくっきり描き分けられていたが、サンセバスチャン映画祭でもゴヤ賞でも監督賞・脚本賞ノミネーションどまり、監督お気に入りのエドゥアルド・フェルナンデス唯一助演男優賞を受賞しただけに終わった

 

2012年のコメディ群集劇Una pistola en cada manoは、ゴヤ賞2013では、前評判にもかかわらず助演女優賞がノミネートされただけでした。カンデラ・ペーニャが受賞するにはしましたが、映画アカデミー執行部の候補者選考の不透明さや見識が批判されました。「トルーマン」出演のリカルド・ダリン、ハビエル・カマラ、エドゥアルド・フェルナンデスの他、ルイス・トサール、エドゥアルド・ノリエガ、レオナルド・スバラグリア、ジョルディ・モリャ、アルベルト・サン・フアン、この40代になった男8人が人生の岐路に直面して右往左往するコメディ。それぞれに絡んでくる女性陣にペーニャの他、レオノル・ワトリング、カジェタナ・ギジェン・クエルボ、クララ・セグラ、シルビア・アブリルなどがいる。ゴヤ賞では無視されたが、ガウディ賞(カタルーニャ語以外の部門)では、脚本賞、助演男優(フェルナンデス)、助演女優(ペーニャ)ほか4賞を受賞した。撮影中にダリンとカマラを主役にした新作を構想しており、完成したのが「トルーマン」でした。

 

         

       (悩める男8人衆、Una pistola en cada manoポスターから)

 

その他は以下の通り2004Canciones de amor y de droga監督、ミュージカル2006Ficció / Ficción監督・脚本・録音、ドラマ2009V.O.S. 監督・脚本、コメディ。私生活では、女優アガタ・ロカと結婚、一男一女がいる。

 

               「誠実」のメタファーとして登場するトルーマン

 

A: フリアンの愛犬トルーマンが映画の進行役、「誠実」のメタファーとして登場する。邦題はどう付けてもいい決りだが、タイトルはいわば映画の顔だから原題を尊重しなくてはいけない。

B: 監督も「トルーマン」というタイトルに拘っていましたからね。

A: 50代にして不本意にも人生のカウントダウンが始まってしまった男の悲劇が語られるのだが、「トルーマン」にはそういう重さを吹き飛ばす軽やかさがあった。観客には辛辣なユーモアやエレガントな肌触りのセリフから、ほろ苦いコメディを楽しんでもらいたいと思っていたに違いありません。

B: 観客もちゃんと反応して、ときどき笑い声が聞こえてきました。後戻りのできない病いや死がテーマなのにね。

 

    

            (撮影中も一緒に暮らしたリカルド・ダリンとトロイロ)

 

A: フリアンがトマスと再会して真っ先にしたことはトルーマンの獣医を訪ねること。フリアンの一番の気がかりは、自分亡き後の足腰の弱った老犬の処遇です。今まで通りの幸せを得られる新しい安住の家を探さねばならない。犬だって大切な人を失えば、喪失感を覚えるに違いない。

B: まず獣医役のアレックス・ブレンデミュールを登場させる。フリアンの具体的な質問に戸惑いながらも丁寧に接する獣医役。出番はこのシーンだけでした。   

 

   

               (獣医に質問するフリアン、聞き役に徹するトマス)

 

A: 翌日は里親候補第1号の家にトルーマンを連れていく。一人息子が犬を飼いたがっているレズビアン夫婦の家庭です。そして現れるのがナタリエ・ポサアガタ・ロカ、トルーマンに導かれて冒頭部分で登場する人物です。

B: 本作ではさりげなく挿入されますが、まだスペインで養子縁組の権利を含んだ同性婚が認められなかった時代に撮られた『イン・ザ・シティ』の一つのテーマが同性婚問題でした。200573日発効)

 

A: 自分には二人の息子がいる。一人はアムステルバムに留学中のニコ、もう一人がトルーマンだと、フリアンに言わせている。フリアンとの別れが近いことを一番よく理解していたのがトルーマンだったのではないか。それが最後のシーンで見られるわけですが、伏線が何か所も張られていました。

B: 観客が望んだような里親に引き取られることが暗示されている。トマスと歩かせたり、里親候補のみならずトマスにも、トルーマンの好物やら癖を聞かせたりする。

A: ダメ押しは「別れを言いたくないから、見送りに空港には行かない」です。ああ、トルーマンを連れてやってくるのね(笑)。

 

(ニコ役のオリオル・プラとダリン)

      



    

B スクリーンに現れるとつい身を乗り出してしまうのがハビエル・グティエレス、最近『マーシュランド』や『オリーブの樹は呼んでいる』、『クリミナル・プラン~』などが公開されて認知度も高くなってきたようです。

A: 葬儀社のコンサルタントに扮したが、この人もカメレオン俳優です。コミカルな役からアウトロー役まで危なげない。セスク・ゲイ映画は初めてかもしれない。反対にほとんどの監督作品に出演しているのがエドゥアルド・フェルナンデス、本作では友人のフリアンに女房を寝取られたコキュ役でした。

   

 

     (本人の葬儀とは思わず相談にのるコンサルタント役ハビエル・グティエレス)

 

           動のフリアンVS 静のトマスのタイトルマッチ

 

B: フリアンは品行方正な男ではなく、どちらかというと行き当たりばったりに人生を送ってきたから懐具合も良くない。このコキュ事件で友人どころか妻まで失ってしまう。

A: 少し高慢で、気はいいが壊れやすく、皮肉屋ときてる。しかしどうも憎めない。ダリンにぴったりの人格造形です。誰でもやれる役ではない。そして彼の賢い元妻役がエルビラ・ミンゲスです。息子ニコの母親でもある。

 

B: 道路に繋がれていたトルーマンを偶然目にしてフリアンと邂逅する。トルーマンが呼び寄せたわけです。突然会いに行ったアムステルダムでは、本当の理由をとうとう言えなかったフリアンも、母親を通じて息子が既に知っていたことを初めてここで聞かされる。

A: 自分の病状を知らないと思っていた息子が、実は熟知していて父親と最後のハグを交わしたことを観客も理解するシーンです。このエルビラ・ミンゲスは、テレドラ『情熱のシーラ』でシーラの母親になった女優です。出番は3話と少なかったが存在感がありました。

B: ニコ役のオリオル・プラは、繊細な役柄で既に何作か出ていますが、評価はこれからです。

        

A: ダリンの動と反対にカマラの静の演技が光りました。二人の演技合戦が見ものでしたが、監督は早口で喋りまくる役が多いカマラに今回は沈黙を求めた。そしてダリンにアルゼンチン弁でまくしたてる役を振った。過去の出演作品『トーク・トゥ・ハー』や『あなたになら言える秘密のこと』などは、セリフは多くなかったかもしれない。

B: カマラは普段は立て板に水ですね(笑)。本作では目で演技しなければならなかった。トマスは寡黙で控えめ、寛大で寛容で気前もいい。アルゼンチン男の魅力に惹きつけられて、遠いカナダから別れにやってきた。

 

A: 男の友情をめぐる映画だが、再会前の二人の関係はほとんど語られない。どうしてこんなに気前がいいのか、少し現実離れしすぎじゃないかなどと、観客はあれこれ類推しながら観ることになる。

B: わざと語らなかった。笑わせ、泣かせ、ほろ苦いコメディを観ているのかと錯覚させ、すかさず示唆に富むセリフを割り込ませて考えさせる

A: コメディとドラマを行ったり来たりさせながら観客を巻き込んだことが成功のカギです。最後には尊厳死まで踏み込んでしまうからドキッとする。監督が死というテーマの扉を開けた最初の作品かもしれない。

 

           従妹パウラが受け入れられない死と怒り

 

B: フリアン同様、アルゼンチンから移住してきた従妹パウラのドロレス・フォンシ、フリアンの病状を逐一トマスに知らせていた。自分一人では治療を断念したフリアンを支えきれなくなっていた。

A: 過去にトマスと何らかの関係があったのではないかと感じさせる役。夫サンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』で自分の信じる道を突き進む意志の強い女性を好演した。役柄的にはそれに近いかもしれないが、ダリンとうまくやれるアルゼンチン女優として選ばれたようです。

B: ダリンとなら誰でもうまくやれますよ。不思議な包容力があるから。最近パートナーと別れたので、フリアン亡き後に故郷に戻ることも考えている。移住先で根を張る難しさが暗示される。

 

(トマスとパウラ)

    

A: 無情にも時間だけは刻々と流れていき、里親も決まらないのにトマスの帰国が迫ってくる。三人は別れの夕べを迎えることになる。その席でフリアンが漏らした尊厳死に単純で怒りっぽいパウラは爆発してしまう。このシーンにも考えさせられました。 

B: 自分ならどんな道を選ぶだろうか。まだスペインでも尊厳死はタブー視されているテーマ。

A: フリアンには容赦なく迫ってくる死を座して待つことは敗北、屈辱に思える。しかし誰もフリアンの痛みを共有できない。その夜、トマスとパウラのベッドシーンが挿入され、やや唐突に感じた人もいたかもしれない。しかし死と生は性に繋がっているから自然だったとも言えます。

 

(別れの夕べの三人)

  

 

           痛みと敗北の共有は誰にも強制できない

 

B: 無条件の友情で結ばれていても、最終的には痛みと敗北は共有できない

A: または共有を強制できないと言い換えてもいい。テーマは大きく括れば、自由へのオマージュということです。他人と共有できない死を、何時、どのようにして受け入れるか。個人的な自由の選択はどこまで許されるのか。やがて誰にも訪れてくる問題です。

 

B: 舞台はカナダで始まり、マドリードからアムステルダムへ、再びマドリードに戻る。スタッフもキャストもバルセロナ出身が多いのに、なぜマドリードにしたのでしょうか。

A: 理由は簡単らしく、二人の主人公がマドリードに家作をもっていたからだと監督。

 

B: リカルド・ダリンとドロレス・フォンシは、ここでは従兄妹になりますが、次回作の La cordilleraThe Summit)では、父親と娘になります。

A: カンヌ映画祭2017「ある視点」部門に正式出品されました。

 

『パウリーナ』の紹介記事は、コチラ2015年0521 

ミトレ監督の新作 La cordillera の紹介記事は、コチラ2017年0518 

 

視聴率を更新して終了いたしました*ゴヤ賞20162016年02月12日 17:03

              視聴率25.8%は2011年以来の高視聴率

 

 

 (香水専門店PARFUMSと高級靴磨きメーカーSAPHIRの広告がある赤絨毯、26日開場前)

 

A: 2010年の26.4%以来低迷していた視聴率を昨年やっと24.7%に回復させ、今回はそれを上回りました。上出来だったと新会長アントニオ・レシネスと司会者ダニ・ロビラを褒めたいところですが、そう簡単な話ではないらしい。放映中からツイッターが大賑わい、ロビラに対する批判、非難の石礫、失望落胆したはいいとして、中には侮辱的な内容もあって、翌日には「私にとって総合司会をしたことはなんの価値もないこと」と逆ツイートする始末。

B: 2010年はモンソンの『プリズン211』が受賞した年、その頃はツイッターも今ほどではなかったのでしょう。失業率は若干回復したとはいえ、長引く失業に不満のはけ口を求めていた若者が多かったのでしょうか。消費税IVA21%を非難するシネアストたちに共感するも、そのきらびやかなセレブたちへの反感も見え隠れしているようです。

 

      

           (毀誉褒貶入り混じった総合司会者ダニ・ロビラ)

 

A: 昨年はアルモドバルが教え子バンデラスに栄誉賞を手渡すというサプライズ、空前のヒット作サンチェス=ラサロの Ocho apellidos vascos”がノミネーションを受けるなど盛り沢山だった。スペイン人の4人に1人が見たというコメディ、主役のダニ・ロビラが新人賞、共演者のカラ・エレハルデとカルメン・マチがそれぞれ助演賞を受賞した。

B: 自分が見た映画がノミネートされていれば結果が気になりますよ。視聴率も映画次第です。

A: 今回2度めの司会を仰せつかったのも昨年の実績あればこそでしたが、“Ocho apellidos vascos”の続編カタルーニャ編は好成績だったがノミネートされなかった。

 

        今年のハイライトはマリオ・バルガス=リョサ?

 

B: 今回ほど脚本賞・脚色賞にライトが当たった年はないでしょう。なにしろノーベル賞作家バルガス=リョサがプレゼンターでしたから。

A: それも新婚ホヤホヤのカップル、新夫人も話題のセレブとくれば、ゴシップ好きにはたまらない。老作家曰く「映画は始めに脚本家ありき」とか。これは過去の話、今は「製作会社ありき」ではないでしょうか。

 

B: 若者が脚本家チェザレ・ザバッティーニ(190289)に憧れて、映画の都チネチッタを目指した頃の話ですね。

A: 1950年代にその映画実験センターで学んだ若者にガルシア・マルケスやトマス・グティエレス・アレアなどがいました。マルケスは作家に転身してノーベル賞作家になり、アレアはキューバを代表する大監督になりました。

B: 最近は監督が脚本を執筆することが多くなっており、セスク・ゲイも両手に花でした。台本ホンがよくないと話しにならないのは今も昔も変わりません。

A: スペインでは2008年に亡くなったラファエル・アスコナあたりが、監督に手を出さなかった最後の人でしょうか。ゴヤ賞脚本家賞のレプリカのコレクターでもありました。脚本のセスク・ゲイ、脚色のフェルナンド・レオン・デ・アラノアがノーベル賞作家からゴヤ胸像を手渡されました。

 

      

            (セスク・ゲイとマリオ・バルガス=リョサ)

 

    

  

(フェルナンド・レオン・デ・アラノアとマリオ・バルガス=リョサ)

 

          一番の名演技は犬のトルーマンTruman

 

B: “Truman”以外は沈黙してしまった今年のゴヤ賞、最多ノミネーション12個の“La novia”関係者の落胆は理解できますね。インマ・クエスタが主演を取るかと思っていましたが。

A: 最近ではフェルナンド・トゥルエバの『ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル』が13個ノミネーションでゼロという例がありました。ルイサ・ガバサ助演女優賞、ミゲル・アンヘル・アモエド撮影賞と受賞できてゼロではなかった。特に女優陣の演技が光っていたというのが総評のようでした。

B: ロルカの『血の婚礼』は、劇場で見た印象が強いから却ってマイナスに作用したのかもしれない。

 

       

               (助演女優賞のルイサ・ガバサ)

 

A: “Truman”の主役は間もなく死を迎えるという瀕死の人、これはかなり厳しく辛い物語です。しかしシニカルだが信じられないほど知的で、痛々しいけれど気品があり、人生に「アディオス」することが決定的な男を演じたリカルド・ダリンの手に主演男優賞が手渡された。ダリンのような魅力的な役者がそんなにいるとは思えません。

B: 文句なしの助演男優賞だったハビエル・カマラ、常に融通無碍、薄くてつやがあるキャラコ布地のような役者、求められる色模様に染まることができる。そういう俳優はたくさんいるけれど、彼は別格だと思います。

 

A: この役は彼をおいて他に誰も演じられないと思わせてしまう。それに口はきけないけれど、そこにいるだけで観客を魅了したのが犬のトルーマンでした。撮影後に亡くなりダリンに1週間も涙を流させた。これは是非どこかて公開して欲しい。

 

        

              (主演男優賞リカルド・ダリン)

 

   

 

      (助演男優賞ハビエル・カマラ)

 

      出席者の涙腺をゆるませた新人監督賞ダニエル・グスマン

 

B: 祖母アントニアをエスコートして赤絨毯に現れたダニエル・グスマン監督、下馬評通りレプリカを手にしました。アントニアお祖母さんは残念でしたが。

A: 4月開催のマラガ映画祭は、ゴヤ賞まで時間があいて不利なことが多い。時間のスピードが早くて記憶していられない。下町独特の会話が評価されていましたが、その誠実な映画作りが好感されたのだと思います。

 

        

              (新人監督賞ダニエル・グスマン)

 

B: テーマ的に今回脚色賞を受賞したフェルナンド・レオン・デ・アラノアが撮ったBarrio1998)を思い起こした人が多かったようです。

A: 彼は本作で新人監督賞と脚本賞を受賞した。他にアチェロ・マニャスEl Bola2000)も忘れられない。作品賞・脚本賞・新人監督賞を受賞、こちらはフォルケ賞も受賞した作品でした。当時12歳だったフアン・ホセ・バジェスタの名子役ぶりが目に焼きついています。

B: 子供ながら新人男優賞を受賞したのでした。『キャロルの初恋』、『7人のバージン』(サンセバスチャン映画祭2005銀貝男優賞)、最近テレビ主演が多いのか、映画賞からは遠ざかっています。

 

A: そろそろ幕を下ろしましょうか。アルモドバルの新作“Julietaが、若干後ろへずれ込みましたが、48日に封切られます。前の“Silencio”を改題したのは、スコセッシの「沈黙」との混同を避けるため、邦題はどうなるのでしょうか。

B: 昨年夏公開が大幅に遅れたカルロス・ベルムト『マジカル・ガール』がやっと公開されます

A 「もんどり打つ面白さ!」とチラシにありますが、はてさて、そんな映画だったかしらん。とにかく待ちくたびれました。

 

アルモドバルの新作“Julieta”の主な記事は、コチラ⇒2015451121

ベルムトの『マジカル・ガール』の記事は、コチラ⇒20149162015121

312日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEM2


ゴヤ賞2016結果発表 ⑰2016年02月07日 23:23

        下馬評通り“Truman”が大賞を独り占めしました

 


   (会長アントニオ・レシネス、副会長グラシア・ケレヘタと同エドモン・ロチ)

 

★今朝6時から授賞式にお付き合い、途中でくたびれたこともあって休息をとっている間に終わってしまいました。最多12個ノミネーションのパウラ・オルティスの“La novia”は、撮影賞・助演女優の2個にとどまり、やはりセスク・ゲイの“Truman”に完敗しました。作品・監督・脚本・主演男・助演男の5個、貰えなかったのは編集賞だけという効率の良さでした。海外勢は帰国するときは手ぶらが恒例でしたが、リカルド・ダリンが覆しました。しかし既にアルゼンチンの俳優という枠を超えていましたから抵抗なかったのでしょう。未だに相思相愛というリカルド夫人と一緒に来た甲斐がありました。

 

 

    (左から監督、マルタ・エステバン、リカルド・ダリン、トマス・アラガイ)

 

★フリオ・メデムの“Ma Ma”のヒロインペネロペ・クルス、アトリエ・ヴェルサーチの豪華なミラノ・ファッションを身にまとって、夫ハビエル・バルデムと赤絨毯を踏みました。残念ながら無冠に終わりました。海外での大成功を羨むスペイン人は、二人が米国暮らしであることも手伝って好意的とは言いがたい。何によらず国際的に活躍する人に対するアレルギー反応が強い。コロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルの伝記映画Amando a Pablo, odiando a Escobarに揃って出ます。エスコバルの80年代の愛人、元ジャーナリストのビルヒニア・バジェッホの同名回想録(2007年刊)の映画化。バルデムがエスコバル、クルスが愛人ビルヒニアになります。“Un día perfecto”で脚色賞を受賞したフェルナンド・レオン・デ・アラノアが監督します。こちらはスペイン語で撮るようですからカテゴリー的にはスペイン映画ですかね。現在は「ポデモスPodemos」党についてのドキュメンタリーを撮っている由、次期アカデミー会長を目指しているとか。

 

 

            (ペネロペ・クルスとハビエル・バルデム)

 

★主演女優賞はフォルケ賞を受賞したナタリア・デ・モリーナの手に渡りました。「ゴヤ賞が欲しくない人なんていないでしょ」、そうですね。「ビノシュさんにお目にかかれて光栄でした」と興奮気味。ビノシュの出席は若い俳優には刺激になったようです。2014年に新人女優賞、今回主演とナタリアほど強運の人は珍しい。助演ルイサ・ガバサ、新人イレネ・エスコラルとほぼ予想は当たりました。 

     

               (ナタリア・デ・モリーナ)

 

    ノーベル賞作家と4人のオスカー賞受賞者が一堂に会しました

 

★ノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサが脚本賞のプレゼンターとして登場することはアナウンスされていましたが、本当に赤絨毯に現れたのでビックリでした。しっかり手を握っている女性はどなたかしら、もしかしてイサベル・プレイスラー。1951年フィリピンのマニラ生れ、テレビ司会者、ジャーナリスト、モデル。両方の国籍をもっている。二人はそれぞれ前の連れ合いと離婚して昨年結婚したばかり、同じ三婚目です。彼女の最初の夫は歌手のフリオ・イグレシアス、そんな歌手知らないという方、エンリケ・イグレシアスの父親といえば分かるでしょうか。つまりエンリケのお母さんです。とにかく華麗な人生を歩んでいる女性ですね。ノーベル賞の老作家もなかなかやりますね。二人ともアカデミー会員、新会長アントニオ・レシネスも負けず劣らずやりますね。

 

           

            (注目の的となったバルガス=リョサ御夫妻)

 

4人のオスカー賞受賞者の一人ジュリエット・ビノシュも約束通り来てくれました。スペインの映画祭ということでロエベの大胆な衣装で貫禄の登場でした。イサベル・コイシェの“Nadie quiere la noche”が4個受賞したのはちょっと意外、監督もさぞかし面目を施したことでしょう。間際まで来西がペンディングだったもう一人のオスカー俳優ティム・ロビンスもにこやかに登場、受賞はまったく期待していなかったのに律儀な人です。関係者はホッとしたかな。残りの二人はハビエル・バルデムとペネロペ・クルス夫妻です。

 

  

   (談笑するジュリエット・ビノシュ、ティム・ロビンス、ハビエル・カマラの三人)

  

        政治家の出席が多かったのは、どういうわけでしょう?

 

★ゴヤ賞は19873月17日、当時の国王フアン・カルロス1世御夫妻を招いて、マドリードのロペ・デ・ベガ劇場で開催されました。当時173人だったアカデミー会員も1400人にふくれ上がり一大イベントとなりました。現在は王室関係者の姿はありませんが、代わりに政治家の出席が目立ちました。混迷を深めている政治状況が背景にあるようです。国民党PPの教育文化スポーツ大臣のメンデス・デ・ビゴ、社会労働党PSOEの書記長ペドロ・サンチェス、ポデモス党首パブロ・イグレシアス、市民党シウダダノス党首アルベール・リベラ、つまりスペインの現在の4政党が招待されました。現政権のPPは別として、他の政党も招待したのは異例なのか、去年はPP だけだったというのは管理人の記憶違いかな。下の写真ではにこやかですが、実際は膝を蹴り合っています。三人の共通点はイケメンで若いことだけでしょうか。映画のフィエスタとはいえ、映画界も政治と無縁では成り立たない。

 

   

    (左から、パブロ・イグレシアス、ペドロ・サンチェス、アルベール・リベラ)

 

ゴヤ賞2016受賞者一覧

作品賞  “Truman”マルタ・エステバン(製作)

監督賞     セスク・ゲイ “Truman

新人監督賞  ダニエル・グスマン “A cambio de nada

脚本賞  セスク・ゲイ、トマス・アラガイ “Truman

脚色賞  フェルナンド・レオン・デ・アラノア “Un día perfecto

 

主演男優賞  リカルド・ダリン “Truman

主演女優賞  ナタリア・デ・モリーナ “Techo y comida

助演男優賞  ハビエル・カマラ “Truman

助演女優賞  ルイサ・ガバサ  La novia

新人男優賞  ミゲル・エラン “A cambio de nada

新人女優賞  イレネ・エスコラル  Un otoño sin Berlín

 

オリジナル作曲賞  ルーカス・ビダル “Nadie quiere la noche

オリジナル歌曲賞  ルーカス・ビダル、パブロ・アルボラン “Palmeras en la nieve

プロダクション賞  アンドレス・サンタナ、アルタ・ミロ “Nadie quiere la noche

撮影賞  ミゲル・アンヘル・アモエド  La novia

編集賞  ホルヘ・コイラ “El desconocido”『暴走車 ランナウェイ・カー』

美術賞  アントン・ラグナ “Palmeras en la nieve

 

衣装デザイン賞  クララ・ビルバオ Nadie quiere la noche

メイクアップ&ヘアー賞  パブロ・ペロナ、パコ・ロドリゲス“Nadie quiere la noche

録音賞  ダビ・マチャード、ハイメ・フェルナンデス、ナチョ・アレナス“El desconocido

特殊効果賞  リュイス・カステル、リュイス・リベラ“Anacleto, agente secreto

       『SPY TIME スパイ・タイム』

 

アニメーション賞  “Atrapa la bandera”エンリケ・ガト 

ドキュメンタリー賞  “Sueños de sal”アレフレッド・ナバロ 

イベロアメリカ映画賞  El clan”(アルゼンチン)パブロ・トラペロ 

ヨーロッパ映画賞  “Mustang”(トルコ=仏=独)Deniz Gamze Erguven

 

短編映画賞  “El corredor ホセ・ルイス・モンテシノス

短編アニメーション賞  “Alike D・マルティネス・ララ、R・カノ・メンデス

短編ドキュメンタリー賞  “Hijos de la Tierra アレックス・オミル・ツバウ

 

   

                 (栄誉賞受賞のマリアノ・オソレス

 

  

       (オリジナル歌曲賞のルーカス・ビダルとパブロ・アルボラン)

 

          

           (新人監督賞のダニエル・グスマン)

 

           

            (新人男優賞のミゲル・エラン)

    

 20141月に結党したスペインの政党(左翼大衆主義、反体制主義)、英語の「We can」に当たる。党首はパブロ・イグレシアス、ガラにも出席していました。市民党シウダダノスはカタルーニャ州を中心に活動している中道左派の政党、20056月結党。党首はアルベール・リベラ。

 

 

異色の顔ぶれが揃いました*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑯2016年02月06日 21:31

         アントニア・グスマンは93歳でした!

 

★時間的にこれが最終回になりそうです。今年はフランス映画界のミューズ、ジュリエット・ビノシュ、御年93歳の新人アントニア・グスマン、アルゼンチンからリカルド・ダリン、目下妊娠5ヶ月という最多ノミネーションの“La novia”監督パウラ・オルティス、プロデューサー初挑戦も果たした“Ma Ma”のペネロペ・クルスなど海外勢を含めて異色の顔ぶれが揃いました。1階観客席の最前列には、ゴヤ賞ガラを取り仕切るのが今回初めてとなる映画アカデミー会長アントニオ・レシネス、ビノシュ、ダリン、クルス、ティム・ロビンス(まだ出席の確認が取れていない)が並ぶことになるらしい。他ルイス・トサールインマ・クエスタハビエル・カマラノラ・ナバスマリアン・アルバレス・・・

 

 

     (ここに5ヶ月の赤ちゃんが入っています。赤いドレスがオルティス監督)

 

★若手では“Techo y comida”のナタリア・デ・モリーナ、主演を勝ち取るには、ビノシュ、クルス、クエスタの大きな壁を越えなければならない。“Requisitos para ser una persona normal”の監督主演のレティシア・ドレラ、新人女優賞の先頭を走る“Un otoño sin Berlín”のイレネ・エスコラル、しかし二番手のアントニア・グスマンが肉薄して予断を許さないという。彼女の孫、新人監督賞を狙う“A cambio de nada”のダニエル・グスマンが受賞するとアリかもしれない。ただ新人賞は将来の可能性を判断基準にするわけだから、ニュースとしては面白いが、銀幕に再登場することが考えにくいアントニア・グスマンはないと予想します。

 

アントニア・グスマンの故郷アビラ(サンタ・テレサの生地として有名)では、全町民がテレビの前に陣取って観戦(!) するという噂、「うちの家族は、なんだってこんな面倒なことに首を突っ込んだのかと呆れているの」と、杖をついて現れた貫禄のアントニアは平静そのもの動ずることがない。80代後半かなと思って前回「80代の新人」と書きましたが、このインタビューで「93歳」と判明、歴代栄誉賞受賞者でも90代はいなかったと思います。今回の受賞者マリアノ・オソレス1926年生れの89歳、最高齢受賞かもしれない。

 

    

         (主役のミゲル・エランと祖母役のアントニア・グスマン)

 

  

              (栄誉賞受賞者マリアノ・オソレス)

 

★反対に「うちの家族は見ないと思う」と語るのがジュリエット・ビノシュ、過去にスペイン人以外の主演女優受賞者はいないし、アントニア・グスマンと同じように再登場はないでしょう。「私にスポットライトが当たっているわけではないから、静かに座っているだけ」と、例の遠慮のないコメント。作品賞5作のなかでも興行成績が最低の62.148枚しか売れなかった。奇特な人が計算したら、747人に1人の割でしか見ている人に出会えない(総人口約4640万人)。アカデミー会員は現在約1400人に増加しているが、それでも2人しか見ていない計算になる。これは冗談ですけどね。イサベル・コイシェ監督はそんなイジメでヘコむ女性ではない、「私の映画が好きな人が見てくれればいいの」と、外野の野次など何処吹く風なのでした。でも内心はショックでしょうね。

 

   

     (ジュリエット・ビノシュとイサベル・コイシェ、ベルリン映画祭にて)

 

 興行成績ランキングと候補作は重ならない?

 

★観客と批評家の乖離は毎年蒸し返されるテーマ、2015年のスペイン国内の観客動員数は9400万人、うち5作品の合計が110万人(!)とデータは容赦ない。セスク・ゲイの“Truman”が最高の50万人を占める、流石にこれでは少なすぎです。ノミネーション作品の最高はアニメーション賞受賞が確実視されているエンリケ・ガトAtrapa la bandera3-D)だそうです。“Las aventuras de Tadeo Jones”の監督です。しかし製作費も1250万ユーロと半端じゃない。他に観客が見ていた映画は何かというと、2014年の大当たり映画マルティネス=ラサロのコメディ“Ocho apellidos vascos”の続編Ocho apellidos catalanesアメナバルのスリラーRegresiónマリア・リポルのコメディAhora o nuncaなど、単独でいずれも5作品の合計より多い。 

 

 

             (“Atrapa la bandera”のポスター)

 

Ocho apellidos catalanes”の記事は、コチラ⇒2015129

Regresión”の記事は、 コチラ⇒20151月3

Ahora o nunca”の記事は、 コチラ⇒2015714

 

★というわけでマルティネス=ラサロとマリア・リポルの両方の主役、“Atrapa la bandera”のボイス出演のダニ・ロビラは憤懣やるかたない(連続して総合司会を務めることになっている)。「僕たちは批評家ではなく観客のために映画を作っている」と。昨年は“Ocho apellidos vascos”で新人賞を受賞、他に助演賞にカラ・エレハルデカルメン・マチが受賞した。しかし今年のノミネーションは「ゼロ」でした。バスク編は延べ1000万人を超える大ヒット作品でしたが、続編も公開1週間集計で180万弱と驚異的な数字を記録した。

 

 

           (ダニ・ロビラ、2015年ゴヤ賞ガラの総合司会者)

 

★しかし“Truman”のセスク・ゲイは、「そもそも映画賞の評価基準は観客動員数とは重ならない。別の側面から与えられるものなのです」と語る。オスカー賞だって同じですよね、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も技術部門はあるが作品賞にはノミネートされていない。しかしヨーロッパ映画賞などのカテゴリーはなくてもいいかなと思う(廃止された時期がある)。出席者も殆どないし、“Mustang”(仏トルコ独)は授賞式には間に合わず3月公開だという。つまり映画祭上映だけで殆どの会員が見ていない映画をどうやって評価すればいいのだろうか。カテゴリーの入れ替えを含めて考え直す時期にきているということです。

 

           

                (セスク・ゲイ監督)

 

 大方の予想はガラの予定時間3時間は守られない!

 

★国民が未見の映画ではガラの視聴率も期待できない。昨年のオスカー賞受賞作品はアレハンドロ・G・イニャリトゥの『バードマン』だったが、最低の視聴率だった。なぜならみんな映画を見ていなかったからだ。だらだら続く受賞スピーチの制限時間を守って欲しい。仕事仲間への感謝の言葉はエチケットだが、両親、祖父母、兄弟、なかには子供たちにまで広げる受賞者がいる。いくら翌日仕事がない土曜日の夜でも、3時間半は超えないで欲しいというのが視聴者の願い。

 

オリジナル作曲賞と歌曲賞*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑮2016年02月04日 19:55

   ルーカス・ビダル、両カテゴリーにノミネーション―落ち穂拾い

 

★授賞式も目前、そろそろ別のニュースをと思っていますが、ルーカス・ビダルオリジナル作曲賞・歌曲賞の両方にノミネーションされていました。日本ではシゲル・ウメバヤシ梅林茂の作曲賞(La novia)が話題になっているようです。1951年北九州市生れ、ニューウェーブ・ロック「EX」のリーダー、1984年グループ解散後映画音楽に転身、日本映画以外でもチャン・イーモウのLOVERS04)、『王妃の紋章』06)、トム・フォードのデビュー作『シングルマン』09)などを手がけている。コリン・ファースがベネチア映画祭男優賞・英国アカデミーBAFTA主演男優賞を受賞した話題作。東京国際映画祭などで上映後公開された。スペイン映画は初めてでしょうか。 

       

                (シゲル・ウメバヤシ梅林茂)

 

ルーカス・ビダルは、1984年マドリード生れの31歳、バークリー音楽大学の奨学金を得て米国に渡り、その後ジュリアード音楽院でも学んだ。つまりジャズとクラシックに精通しているということです。2009年頃から映画音楽の世界で活躍しはじめ、主に米国映画が多い。例えば映画が成功した『推理作家ポー 最期の5日間』12)、『ワイルド・スピード EURO MISSIONが有名、スペイン映画ではジャウマ・バラゲロの『スリーピング・タイト 白肌の美女の異常な夜』11)、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』12)など。前者はガウディ賞2012にノミネートされた。現在は本拠地をロスアンゼルスに定め、米国とスペインを行ったり来たりしている。2014年の第1回イベロアメリカ・プラチナ賞の授賞式にプレゼンターとしてパナマに赴いている。子供のときからピアノを弾きながら映画を見ていたという、根っからの映画好き、「音楽は数学に似ている。生涯に渡って生きる助けになる。心を高め、感情を豊かにして、辛いことも忘れさせてくれる」と語っている。ボストン・バレエ団のダンス・ミュージックを作曲したり、マテオ・ヒルの最新作Project Lazarus2016、西仏合作)の音楽を担当したりと世界を飛び回っている。これは英語映画ですが興味を唆られる作品、いずれアップしたい。

 

   

       (ルーカス・ビダル、マドリード王立劇場の1階観客席にて)

 

★ゴヤ賞ノミネーションは初めて、オリジナル作曲賞にイサベル・コイシェのNadie quiere la noche、オリジナル歌曲賞にフェルナンド・ゴンサレス・モリーナのPalmeras en la nieve、こちらにはパブロ・アルボランもノミネーション。ルス・ガバスのベストセラー小説の映画化、マリオ・カサスとアドリアナ・ウガルテが出演している。ゴヤ賞ノミネーションは5個(歌曲・美術・プロダクション・衣装デザイン・メイクアップ)です。201512月に公開されたときご紹介するつもりでしたが、今となってはもはや時間切れ、ポスターはこんな感じです。

 

    

       (マリオ・カサスとアドリアナ・ウガルテを配したポスター)

 

★また今ではアルモドバルの専属みたいになっているアルベルト・イグレシアスも久しぶりにフリオ・メデムのMa Maでオリジナル作曲賞にノミネートされています。作曲家と監督はともにサンセバスチャン生れのほぼ同世代のシネアストです。アルベルト・イグレシアスが映画音楽を最初に手がけた作品がフリオ・メデムの『バカス』(92)、翌年の第2『赤いリス』で初めてゴヤ賞を受賞しました。メデムも新人監督賞を受賞した記念すべき作品です。続いて『ティエラ―大地』96)、『アナとオットー』98)、『ルシアとSEX01)と受賞、アルモドバル作品などを含めるとゴヤ胸像10個のコレクター、調べたわけではありませんが、2桁は彼以外にいないと思います。控えめではにかみ屋のせいか受賞スピーチが短く、これは主催者だけでなく誰にとっても歓迎でしょう。アカデミー会員が「アルベルト、もう飾る棚がないから、これ以上要らないよね」と思うかどうか。ただアルモドバルの『私が、生きる肌』(11)以来遠ざかっているが。

 

  

  (イシアル・ボリャイン『雨さえも~ボリビアの熱い一日』で9個目のゴヤ胸像を手に)



『SPY TIMEスパイ・タイム』*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑭2016年02月02日 21:02

         ベストセラー・コミックの映画化―落ち穂拾い

 

★男優賞は、セスク・ゲイの“Truman”から主演がリカルド・ダリン、助演がハビエル・カマラ、と決まったも同然かな? 新人は混戦状態だがパウラ・オルティスの“La novia”からアレックス・ガルシア、どちらにしろ誰でもいいか。自分が監督した“Isla Bonita”に出演したフェルナンド・コロモがノミネーションサれている。御年69歳、自作には時々顔を覗かせているが、主演は初めてというわけでノミネートされたのかしらん。新人女優賞の80歳を超えたアントニア・グスマンには負けるが、本人は「新人賞」ノミネーションにさぞかし可笑しがっているだろう。

 

ガウディ賞の結果発表があったばかりですが、こちらも主演がダリン、助演がカマラという次第、これじゃ金太郎の飴だね。セスク・ゲイがカタルーニャ語以外の作品賞、つられてドロレス・ホンシも助演女優賞を貰った。ダリンは今回も欠席したがゴヤ賞ガラも欠席かいな。バルセロナ派の映画祭だから当然といえば当然だが、アグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』が編集賞・撮影賞を含めて4個、公開中の『SPY TIMEスパイ・タイム』がプロダクション賞・美術賞を含めて5個もゲットした。要するに以上の3作品に賞が集中したということです。

 

     

     (発表前に受賞を確信しているようなセスク・ゲイとハビエル・カマラ)

 

★さて本題のSPY TIMEスパイ・タイム』、監督はスペイン映画を思いっきりおちょくった『最終爆笑計画』09)やホラー・コメディ『ゴースト・スクール』12)で既に日本上陸を果たしているハビエル・ルイス・カルデラ。スペインではTres bodas de más13)が評価され、主役のインマ・クエスタがゴヤ賞2014主演女優賞にノミネートされた。今回は“La novia”出演の関係で無理だったのかもしれない。キム・グティエレス、ロッシ・デ・パルマ、ベルト・ロメロ、シルビア・アブリルなどが重なって出演しており、なかでベルト・ロメロが新人男優賞にノミネートされた作品。監督は気の合った俳優を繰り返し起用するタイプです。

 

           

              (Tres bodas de másのポスター)

 

       

          (ポスターを背にハビエル・ルイス・カルデラ監督)

 

   Anacleto: Agente secreto SPY TIMEスパイ・タイム』2015

製作:Zeta Audiovisual / VVB Spain

監督:ハビエル・ルイス・カルデラ

脚本:フェルナンド・ナバロ、パブロ・アレン、ブレイショ・コラル

原作コミック:マヌエル・バスケス・ガジェゴ(“Anacleto: Agente secreto”)

音楽:ハビエル・ロデロ

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

編集:アルベルト・デ・トロ

美術:ジェマ・ファウリア

メイクアップ:エリザベス・アダネス、他

プロダクション・デザイン:バルテル・ガリャルト 

録音:マルク・オルティスオリオル・タラゴ、ララ・カサノバ

特殊効果:リュイス・カステルリュイス・リベラ

製作者:ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、フランシスコ・ラモス、他

 

データ:スペイン、スペイン語、2015年、87分、コメディ・アクション、パロディ、コミック

受賞・ノミネーション:フェロス賞(コメディ賞)の4個ノミネーション、ゴヤ賞(録音賞・特殊効果賞)の2個、結果待ち

 

キャスト:イマノル・アリアス(アナクレト)、キム・グティエレス(息子アドルフォ)、カルロス・アレセス(バスケス)、アレクサンドラ・ヒメネス(カティア)、ロッシ・デ・パルマ(カティアの母)、ベルト・ロメロ(カティアの兄マルティン)、トニ・セビリャ(カティアの父)、エミリオ・グティエレス・カバ(アナクレトの上司)、シルビア・アブリル(秘書)、ホセ・コルバッチョ(ベテラン諜報員)、他

 

プロット:運悪くエリート諜報員アナクレトを父にもったがためスパイ稼業に巻き込まれていくアドルフォの物語。アドルフォ30歳、モニター監視員として平凡なサラリーマン生活をしていたが、最近恋人カティアから野心がないと三下り半を突きつけられてしまった。そんな折も折り、危険極まりない脱獄犯バスケスを頭とするギャング団の夜襲をうける。しがないソーセージ屋だと思っていた父アナクレトの正体を発見して仰天する。安楽を諦め生き残りをかけて、さらにはカティアの愛を取り戻すため、父とタッグを組んで極悪人バスケスの復讐に対峙するしかない。果たして父子の運命や如何に・・・

 

       

          (コミックのポスター、アドルフォは生れておりません)

 

マヌエル・バスケス・ガジェゴ1930マドリード~95バルセロナ)が、1964年に発表したシリーズ・コミックAnacleto: Agente secreto”(ブルゲラ社)の映画化、舞台を30年後の現代に移しているが原作の骨格は踏襲している。エリート・スパイに息子が生まれていたなどハチャメチャだが、細身の体に黒のスーツと蝶ネクタイというスタイルは変わらない。しかし映画のヒーローはアドルフォですね。バスケス・ガジェゴはアナクレトの宿敵に自分と同じ名前をつけている。これほどのワルではないが、本人も相当の食わせ者だったそうです。3回ほどブタ箱に入ったというが、そんな記録は残っていないとも、とにかく自分で伝説作りを楽しんでいたようです。ボヘミアンのアナーキスト、結婚・離婚を繰り返しそれぞれに子供がいて10人以上とか、子供のなかには20年以上会っていない娘もいるとか、破天荒な人生を歩んだようです。1995年糖尿病からくる膿塞栓症で死去した。『モルタデロとフィレモン』のフランシスコ・イバニェスとともにスペイン・コミック界に大きな影響を与えた人物だった。本作も同じブルゲラ社の雑誌に掲載された。後にフェッセルが映画化、公開されたのでご覧になった方もいるでしょうか。

 

          

              (マヌエル・バスケス・ガジェゴ

 

★バスケスを主人公にしたオスカル・アイバルEl gran Vazquez10)というコメディ伝記映画があり、「トレンテ」シリーズのサンティアゴ・セグラがバスケスに扮した。本人より細めですがセグラをおいて他にバスケスを演じられる役者はいないかもしれない。Anacleto: Agente secreto”の出版元ブルゲラ社の編集長ゴンサレス、バスケスとは正反対の価値観の総務部長ペラエス、『モルタデロとフィレモン』のフランシスコ・イバニェスなど実在の人物が登場する。サンセバスチャン映画祭2010上映、総務部長ペラエスに扮したアレックス・アングロがゴヤ賞2011助演男優賞にノミネーションされた。監督がモンテカルロ・コメディ映画祭で審査員賞、スペシャル・メンションを受賞した。アナクレトとかグラン・バスケスとかを聞いただけでワクワクできないとダメ、かなりナショナルな映画なのでスペインでしか公開されなかった。

 

★アナクレト役のイマノル・アリアス1956レオン)は、チラシにあるように『私の秘密の花』95)が一番有名なのでしょうか。あの映画の出番は少なかったし、彼の持ち味は出ていなかったと思う。公開作品は、ウンベルト・ソラス『カミーラ』81、公開92)、アルモドバル『セクシリア』82、公開95)、新しいところでは『ペーパーバード 幸せは翼にのって』13)、これはスペイン内戦を背景に監督エミリオ・アラゴン一家のサガのような作品、アリアスが達者なタップダンスを披露、ヴォードヴィリアンとしての片鱗を覗かせた。しかし、1980年代のアリアスといえば、なんといってもビセンテ・アランダのEl Lute87)とEl Lute ,mañana seré libre88)のエル・ルーテ役、実在の犯罪者エレウテリオ・サンチェスの伝記映画、収監中に猛勉強し弁護士資格をとった人物。その妻にビクトリア・アブリルが扮した。前者でサンセバスチャン映画祭の男優賞(銀貝賞)を受賞した。どうしても外せないのがイマノル・ウリベの『ミケルの死』84)、第1回スペイン映画祭1984で上映されたが未公開に終わった。まだゴヤ賞などなかったときだったのが惜しまれる。ノミネーションは複数回あるが受賞はない。もう難しいかもしれない。

 

★アドルフォ役のキム・グティエレス1981バルセロナ)はシリーズTVドラで出発、映画デビューはダニエル・サンチェス・アレバロのデビュー作『漆黒のような深い青』06DVD『蒼ざめた官能』)。イケメンだが上の前歯に隙間がありすぎて、口を開けるとおバカにみえる。初めて見たときから、「矯正しなかったのは親のせい」と親を恨んでいたのでした。しかし今回はこれが効果を上げており、作中でもからかわれていた。『マルティナの住む街』(ラテンビート)、公開作品では『ヒドゥン・フェイス』『ラスト・デイズ』などがある。二代目アナクレトとしての活躍を期待したい。

 

    

           (アナクレトとアドルフォ父子、映画から)

 

★バスケス役のカルロス・アレセス1976マドリード)は、俳優以外にアニメーションの原画家という別の顔をもっている。今は映画に話を絞るが、アレックス・デ・ラ・イグレシア作品(『気狂いピエロの決闘』『スガラムルディの魔女』『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』)の常連さん、いつも冴えない少し気弱な損な役柄が多いが、今回は人殺しなど屁とも思わない脱獄犯だ、嬉しかったに違いない。カルデラ監督作品では『最終爆笑計画』『ゴースト・スクール』に出演している。他に公開作品ではアルモドバル『アイム・ソー・エキサイテッド』、未見だがフアン・マルティネス・モレノ『人狼村 史上最悪の田舎』というアクション・ホラーにも出演している。

 

      

              (アナクレトとバスケス、映画から)

 

★公開中だからネタバレしないうちに、ここいらでチョン。


女優賞の行方*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑬2016年01月30日 10:57

         誰が受賞してもおかしくない主演女優賞

 

★フォルケ賞とフェロス賞の両方にノミネートされフォルケ賞を手にしたのがナタリア・デ・モリーナ、フォルケ賞では全く無視されたかたちのインマ・クエスタがフェロス賞を受賞した。こんな困難な役を引き受けてくれる女優は、「ぶっ飛んだクレージーなジュリエット・ビノシュ以外にいなかったのよ」とイサベル・コイシェ監督を感激させたフランスの大女優、ノーメイクも厭わない役者魂にはコイシェならずとも応援したくなる。両方にノミネート、無冠だったが自らも初めてプロデューサーに挑戦して全力投球したペネロペ・クルスと、もう誰が受賞してもおかしくない。クルスは過去に主演女優賞を『美しき虜』(98)と『ボルベール』(06)で2度受賞していますが、今回はそれより格段にいい。これはスペインの映画賞だからビノシュの分が悪いのは仕方ありません。

 

  

   (左から、インマ・クエスタ、J・ビノシュ、P・クルス、ナタリア・デ・モリーナ)

 

インマ・クエスタ“La novia”監督パウラ・オルティス  フェロス賞主演女優賞受賞

ペネロペ・クルス“Ma Ma”同フリオ・メデム

ジュリエット・ビノシュ“Nadie quiere la noche”同イサベル・コイシェ

ナタリア・デ・モリーナ“Techo y comida”同JM・デル・カスティジョ フォルケ賞女優賞受賞  

Ma Ma”の記事は、コチラ⇒201515

Nadie quiere la noche”の記事は、コチラ⇒201531

 

           ベテラン演技派が顔を揃えた助演女優賞

 

エルビラ・ミンゲスは『暴走車ランナウェイ・カー』で紹介しております。マリアン・アルバレスノラ・ナバスは、グラシア・ケレヘタの“Felices 140”で共演、アルバレスは“La herida”(13)で、ナバスは『ブラック・ブレッド』(10)で既に主演女優賞を受賞しています。ケレヘタは今年は短編映画賞に“Cordelias”がノミネーションされています。ルイサ・ガバサは、1951年サラゴサ生れのベテラン、TVドラマが多い。アルモドバルの『バチ当り修道院の最期』(83)ではその他大勢の尼僧役、パウラ・オルティスのデビュー作“De tu ventana a la mía”(11)では三人の主役の一人を好演し、それが今回の「花婿の母親」抜擢に繋がったようです。全員フェロス賞にノミネーション、ノラ・ナバスだけが無冠だったが両方にノミネートされていた。

 

  

  (左から、マリアン・アルバレス、ルイサ・ガバサ、エルビラ・ミンゲス、ノラ・ナバス)

 

エルビラ・ミンゲス“El desconocido”『暴走車ランナウェイ・カー』監督ダニ・デ・ラ・トーレ

マリアン・アルバレス“Felices 140”同ガルシア・ケレヘタ

ノラ・ナバス Felices 140”同上

ルイサ・ガバサ“La novia”同パウラ・オルティス

Felices 140”の記事は、コチラ⇒201517

       

       新人といっても80代も混じっている新人女優賞

 

80代の新人とはアントニオ・グスマンのデビュー作“A cambio de nada”に出演したアントニア・グスマン、監督の実のお祖母さんです。監督自身も作品賞、新人監督賞、脚本賞にノミネーションされています。以前にもパコ・レオンのデビュー作 Carmina o revienta”(2012)に実母カルミナ・ガルシアが主役カルミナで出演ノミネーションされたが、それでも59歳の若さだった。こちらはライバルの『ブランカニエベス』の白雪姫マカレナ・ガルシアの手に渡ってしまった。個人的には応援していたから残念だった。受賞には巡り合わせの運不運がありますね。

 

イレネ・エスコラルだけがフォルケ賞とフェロス賞にノミネートされていました。サンセバスチャン映画祭バスク映画部門で上映され、彼女はスペシャル・メンションを受賞しました。将来性を感じさせる女優で先頭を走っている印象です。本作はララ・イサギーレ監督の初監督作品、1985年バスク州のビスカヤ県アモレビエタ生れ、最近の若手監督の特徴でもあるアメリカ留学で映画を学んでいる。若いだけに初々しさに溢れている。恋人になるタマル・ノバスは、アメナバルの『海を飛ぶ夢』でハビエル・バルデムの甥役を好演し、確か新人男優賞を受賞したはずです。

 

ヨルダンカ・アリオサはサンセバスチャン映画祭の女優賞受賞者ですが、あちらは国際映画祭、こちらはスペインの映画賞と性格の違いがあります。さらにキューバの女優ということでビノシュ同様分が悪い。イライア・エリアスはアシエル・アルトゥナの“Amama”に主演、本作は同じサンセバスチャンのコンペティションに出品され、「バスク映画Irizar賞」を受賞した。

 

 

(左から、ヨルダンカ・アリオサ、イライア・エリアス、イレネ・エスコラル、A・グスマン)

 

アントニア・グスマン“A cambio de nada”監督ダニエル・グスマン

イライア・エリアス“Amama”同アシエル・アルトゥナ

ヨルダンカ・アリオサ“El rey de La Habana”『ザ・キング・オブ・ハバナ』同A・ビリャロンガ

イレネ・エスコラル“Un otoño sin Berlín”同ララ・イサギーレ

 

サンセバスチャン映画祭2015の結果発表記事は、コチラ⇒2015929


キューバ映画”Vestido de novia”*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑫2016年01月27日 19:22

         キューバ初の性転換をテーマにした差別と不寛容の物語

 

 

★イベロアメリカ映画賞ノミネーションの最後はキューバ映画Vestido de novia、監督は『苺とチョコレート』(1993,トマス・グティエレス・アレア)でハバナ大学生ダビドの恋人ビビアンになったマリリン・ソラヤの長編初監督作品です。ホモフォビア、貧困、ジェンダー、性暴力、マチスモ、家父長制度、ダブルモラルなどベルリンの壁崩壊後未曽有の危機にあった1990年代半ばのキューバが抱える問題を切り取ったドラマ。

 

    Vestido de noviaHis Wedding Dress2014

製作:ICAIC(キューバ映画芸術産業庁)/  

監督・脚本:マリリン・ソラヤ

撮影:ラファエル・ソリス

編集:ミリアム・タラベラ

録音:カルロス・デ・ラ・ウエルタ

製作者:カルロス・デ・ラ・ウエルタ、イサベル・プレンデス

 

データ:キューバ=スペイン、スペイン語、2014年、100分、撮影ハバナのベラード、カマグエイ、協力者マビィ・スセル、キューバ未公開

映画祭・受賞歴:ハバナ映画祭2014観客賞・スペシャル・メンション受賞、オタワ・ラテンアメリカ映画祭2015上映,マラガ映画祭2015ラテンアメリカ部門観客賞受賞、バルセロナ・ゲイ&レズ映画祭2015上映

 

キャストラウラ・デ・ラ・ウス(ロサ・エレナ)、ルイス・アルベルト・ガルシア(夫エルネスト)、ホルヘ・ペルゴリア(ラサロ)、イサベル・サントス(シシー)、マリオ・ゲーラ(ロベルト)、マヌエル・ポルト(パブロ)、パンチョ・ガルシア(ラファエル)、アリナ・ロドリゲス(サンドラ)、他

 

プロット1994年ハバナ、結婚したばかりのロサ・エレナの物語。ソビエト崩壊後、共産主義の小さな島を襲った経済危機のなか、40歳になる准看護師ロサ・エレナは、夫エルネストと認知症を患う車椅子生活の父親の三人で貧しいながらも幸せであった。夫はキューバの観光政策に欠かせない建築現場の監督をしていた。しかし彼女には夫の知らないもう一つの顔があった。エルネストと知り合う前に働いていた男声合唱団のメンバーであった。生活費の助けになるその仕事を内緒で今も続けていた・・・やがて妻の過去の秘密は夫の知るところとなり、二人の関係は家父長制的な構造、ジェンダー、暴力、マチスモ、ダブルモラルなどが次第に表面化していく。

 

  

         (結婚したばかりでアツアツのエルネストとロサ・エレナ)

 

監督キャリア&フィルモグラフィーMarilyn Solaya 1970年ハバナ生れ、監督、脚本家、女優。おそらく世界でもっとも有名なキューバ映画といえば、それは『苺とチョコレート』にとどめを刺す。本作で女優デビュー、22歳でこの〈アレア映画〉に出演したことが、自分の原点だと語る。「ティトン(アレアのこと)がおり、セネル(・パス原作者)、フアン・カルロス(・タビオ助監督)などと仕事ができた」ことが今の自分を作ったと。その後、エリセオ・スビエラの“Despabilate amor”(1996,アルゼンチン映画)に脇役で出演した他、チリ、アルゼンチン製作の短編に出演しているが、結局ドキュメンタリー作家の道を歩むことになる。

1999Alegrías”(短編ドキュメンタリー)監督・脚本

2001Hasta que la muerte nos separe”(同上)監督・脚本

2002Mírame mi amor”(同上)監督・脚本

2004Roberto Fernández Retamar”(同上)監督

2010En el cuerpo equivocado”(長編ドキュメンタリー)監督

2014Vestido de novia”省略

 

 

(マビィ・スセルを配した“En el cuerpo equivocado”の英題ポスター)

 

2010年の長編ドキュメンタリーEn el cuerpo equivocadoは、In the Wrong Body 英題で国際映画祭でも上映された。1988年キューバで最初の性転換手術を受けたマビィ・スセルの心の内面を旅する作品で、8年間の調査研究を経て映画化された。マビィ・スセルは性同一障害(心の性と身体の性が一致しない)で苦しんでいた。男でも女でもない異形の存在は親からも理解されなかったという。当時センセーショナルなニュースだったが、まだ自分には何の知識もなかったという。十年掛かりだったというVestido de noviaにも脚本からコラボしている。実父はロサ・エレナの父親に投影されている印象を受けたが、この父親の認知症は息子が受けた性転換手術の苦しみから逃れるための仮病だったことが最後に分かる。他の性転換者たちとの交流、俳優たちの演技相談にものり、スセルの体験は主人公ロサ・エレナや性転換を受けた友人シシーの人格造形に役立っているようだ。

 

     

        (左から、ラウラ・デ・ラ・ウス、監督、マビィ・スセル)

 

                   登場人物のすべてが「わたし」です

 

★目下2作品ともキューバでは未公開(映画祭上映のみ)、本作について忌憚なく話題にすることは控える状況にあり、ホモセクシャルに対する理解が進んだとはいえ、ホモフォビアの存在は根強いという。トマス・グティエレス・アレアの『苺とチョコレート』を嫌悪するひとがおり、「TV放映まで15年以上に及ぶ歳月を必要とした」とソラヤ監督。他は推して知るべしです。つまりキューバの1990年代半ばの「特別な時代」を背景に性転換をテーマにした映画が、よくICAICの検閲を通ったということです。

 

 

      (ウェディングドレス姿のロサ・エレナと性転換前のアレハンドロ)

 

★しかし「この映画は性転換に触れていますが、それが本質ではありません。私たちが暮らしているキューバには三つの国が存在しています。一つはいわゆるキューバと言われる国、二つ目は殆どのキューバが実際に暮らしている国、もう一つが或る人たちが暮らしている国です」と、ハバナ映画祭上映前にソラヤ監督が語っている。ハバナでのインタビューなので、奥歯に物が挟まったような印象を受けるが、二つ目はフェルナンド・ペレスのドキュメンタリー『永遠のハバナ』(2003)に出てくるような一般のキューバ人、「或る人たち」というのは特権階級にいる人、映画ではホルヘ・ペルゴリアが演じたエリート階級のラサロのような人を指しているようだ。キューバに「赤い貴族」ノーメンクラトゥーラは存在しないというのは幻想でしょう。F・ペレス監督の“La pared de las palabras”(2014)には、J・ペルゴリア、L・デ・ラ・ウス、I・サントスなど演技派が出演しているが、なかなか日本には紹介されない。

 

 

      (愛が壊れてしまったエルネストとロサ・エレナ)

 

★「この映画の視点は人間性を重んじ敬意を払っている点です。多くの人々の共感を得られると信じています。他人の不幸を喜ぶべきではないし、キューバには必要な映画です」と監督。どうして舞台を1994年にしたかというと、「特別の時代」と現在はあまり変わっていないからだという。当時機能しなかったことは今もって機能していない。庶民の経済的困難は続いているし、革命が起こった1959年以来、マイノリティたちの居場所がないことに変わりはない。国を出た人、残った人、エイズで亡くなった人、そういう違いはあっても、忘れられ、遠ざけられ、無視され、根拠なく裁かれる存在、差別と不寛容に耐えている。ロサ・エレナの未来も明るくない。

映画に登場する女性たちの全てが私です。男性たちの全ても私です。“Vestido de novia”は私の叫びなのです

 

  

       (最後は筏でアメリカに向かうシシー役のイサベル・サントス)

 

★最初から最後までリアリズムで押していくやり方は、今日の映画技法からみると物足りないが、スペイン映画アカデミーが本作を推した理由が何となくお分かり頂けたでしょうか。1994年を舞台にしたアグスティ・ビリャロンガ『ザ・キング・オブ・ハバナ』も脚色賞・新人女優賞(ヨルダンカ・アリオサ)・撮影賞(ジョセプ・マリア・アモエド)と3カテゴリーにノミネーションされています。ハバナでの撮影を「あまりにも脚本が悪すぎる」とICAICで拒絶され、やむなくドミニカ共和国のサント・ドミンゴで撮影されました。皮肉にも脚色賞にノミネートされております。パブロ・トラペロEl clan受賞を予想しますが、こればかりは蓋を開けてみないと分かりません。

 

ラテンビート2015上映の『ザ・キング・オブ・ハバナ』の記事は、コチラ⇒2015917

ベネチア映画祭監督賞受賞の“El clan の記事は、コチラ⇒201587921

 

チリ映画”La Once”*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑪2016年01月25日 16:04

             食べて喋って、こんなに元気で長生きです

 

  

マイテ・アルベルディの長編ドキュメンタリー第2弾はコメディLa Onceです。昨年、オスカー賞代表作品の選定にパブロ・ララインの“El Club”『ザ・クラブ』(ベルリン映画祭2015グランプリ審査員賞受賞)とLa Once”というドキュメンタリーのどちらにするかチリ映画アカデミーが迷っているという記事を目にしました。結局オスカー代表作品はララインに決定したのでゴヤ賞も『ザ・クラブ』と予想していました。だってドキュメンタリーは分が悪いし、監督の知名度もイマイチだから。ところが違った。ドキュメンタリーと言ってもこれはコメディだという、本当に珍しい。検索をかけたら厚化粧の貫禄充分のおばあさんたちが美味しそうにケーキを食べている。毎月1回、60年間続いているお茶会だという。監督の実のお祖母さんがメンバーの一人、なるほど、これで繋がった。

 

  

      (お茶とケーキ、おしゃべりに余念がない老人パワーに圧倒される?)

 

     La Once(“Tea Time”)2014

製作:Micromundo Producciones

監督・脚本:マイテ・アルベルディ

撮影:パブロ・バルデス

編集:フアン・エドゥアルド・ムリージョ、セバスチャン・Brahm

音楽:ホセ・ミゲル・トバル、ミゲル・ミランダ

プロデューサー:クララ・タリッコ

 

データ:チリ、スペイン語、2014年、80分、ドキュメンタリー、公開チリ201564日、(マドリード)プレミア20151129日・公開201619日、(バルセロナ)プレミア124日、公開18

映画祭:サンティアゴ映画祭2014、メキシコ移動ドキュメンタリー映画祭20151月),以下マイアミ(3月)、ブエノスアイレス・インディペンデント・シネマ(4月)、シアトル(5月)、シドニー(6月)、シェフィールド・ドキュメンタリー(UK 6月)、など各映画祭で定栄された。

受賞歴:サンティアゴ映画祭作品賞・監督賞、アムステルダム・ドキュメンタリー映画祭監督賞、カルタヘナ映画祭でゴールデン・インディア・カタリナ・ドキュメンタリー賞受賞、バルセロナ・ドキュメンタリー映画祭でTV3賞、他、マイアミ映画祭、グアダラハラ映画祭でも受賞している。

 

主演者:マリア・アンヘリカ・シャルペンティエル(元スペイン語教授)、マリア・テレサ・ムニョス(監督の祖母)、シメナ・カルデロン、アリシア・ペレス、マヌエラ・ロドリゲス、フアニータ・バスケス、ニナ・キッカレッリ Chiccarelli、他(全員女性)

 

解説:タイトルのLa Onceラ・オンセ(午前11時という意味)というのは、イギリスの午前11時頃にとるお茶と軽食「elevenses」とか、スペインの昼食前に摂るメリエンダ「merienda」に相当するようです。現在では午後のおやつ、または昼食にも使用されており、いわゆるアフタヌーンティーです。チリでは定冠詞laを複数にしてlas oncesともいう。現在では時刻に拘らず夕食前に会話を楽しみながら摂る広義の「お茶と軽食会」を指すよう変化している。13食どころか5食になって肥満人口の増加に拍車をかけているのではないでしょうか。

 

物語:ひと月1回のペースで延々60年間も続いているお茶とケーキを楽しみながらのお喋り会。メンバーの共通点は多くが1930年代生れ、同じカトリック系の女学校の卒業生ということ。もう間もなくあの世に旅立つことが避けられない人生最後の時間を過ごしている女性たち。アジェンデ政権やピノチェトの軍事クーデタという変革期をリアルタイムで目撃したツワモノたち。ラテンアメリカ映画の定番テーマでもある老人の孤独、貧困、社会の疎外者というテーマを避けて、かつてはドラマティックな人生を歩んだ女性たちの老い方のレシピ。意見の違いや時には秘密も曝露される。老いとか、死という重荷は取り敢えず下ろして、人生の最後においても尚且つエネルギッシュに輝いている女性たちの「愛と友情」についての物語だ。

 

  

              (しっかりお化粧も致します 映画から)

 

監督キャリア& フィルモグラフィーマイテ・アルベルディMaite Alberdi 1983年首都サンティアゴ生れ、監督、脚本家。チリ・カトリック大学オーディオビジュアル監督と美学科で社会情報を専攻、小宇宙の日常的な事柄に興味があり、フィクションとノンフィクションのジャンル区別をセず、あるのは映画だけという立場をとっている。複数の大学で教鞭をとるかたわら、“Teorías del cine decumental en Chile: 1957-1973”(共著)という著書がある。「チリ映画は全体的にみて、折衷主義で多様性に富んでいる」と語っている。“La Once”は12の映画祭で上映され、なかには参加した出演者たちもいる。

2007Las peluqueras”(短編ドラマ)監督・脚本 

カサ・デ・アメリカ、TVEよりイベロアメリカ短編賞、バルディビア映画祭2008ユース賞

2011El Salvavidas”(長編ドキュメンタリー)監督・脚本

   バルディビア映画祭2011観客賞、グアダラハラ映画祭2012審査員特別賞、バルセロナ、ドキュメンタリー映画祭2013新人ドキュメンタリー賞、ほか

2014La Once”省略

2014Propaganda”(長編ドキュメンタリー、脚本のみ)

 

製作者クララ・タリッコのキャリアClara Taricco ブエノスアイレス大学文学部卒、チリ・カトリック大学オーディオビジュアル表記法のマスター号取得。2009年より5年間アルベルティ監督の“La Once”の製作を手掛ける。201011年、アニメ・シリーズ“Libertas”を製作、“Antología de textos críticos sobre Raúl Ruiz”の翻訳、2009年よりバルディビア映画祭の産業研究室に在籍している。

 

    

        (左から、ラ・オンセを楽しむアルベルティ監督とクララ・タリッコ)

 

★子供のときから伝統的な慣習の目撃者だったが、大人になってからはチリの女性たちが体験した記録を残すドキュメンタリー監督になる道を選んだ。本作の目的は「社会の中で女性だけに課せられた役割をどうやって変革していくか」に焦点を当てて描いた。祖母が学んだ女学校はいわゆる「良妻賢母教育」をしていた。当時の女性には参政権はなく政治に参加することは出来なかった。しかしチリに限ったことではなく、日本でも敗戦後の194610月、チリはもっと遅く1949年です。出演してくれた女性たちは自分たちが人生の最後に差し掛かっていることを自覚している。差し迫っている死の不安は常にあるが、映画の中ではっきり死が語られることはない。重要なのは一緒にテーブルを囲んで時間を共有することだと語っている。

 

2009年から5年間をかけて撮ったから、中には本作の成功を知らずに鬼籍入りした女性もいた。監督によると、出演してくれた女性たちにお披露目をするときには、彼女たちがどんな反応を示すか怖かったという。彼女たちも自分たちがどのように映っているか神経質になっていた。しかし互いの心配は最初だけで、しばしばおこる笑い声、終いには皆な感動して気に入ってくれた。ドキュメンタリーの場合、一般観客よりスクリーンに出てくれた人々の反応の予測が難しいという。出演者を知らずに傷つけてしまう可能性もあるからでしょうね。

 

★ドキュメンタリーがゴヤ賞にノミネーションされる可能性は少ない。「チリ代表作品に選ばれたのは2003年が最後で、そのキャンペーンの難しさがネックだったと聞いています。だから今回ノミネーションされたことを素直に喜びたいし、出演してくれた女性たちを誇りに思う」と監督は締めくくった。甘党の観客にはヨダレが出そうなケーキが登場します。

 

イベロアメリカ映画賞の行方*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑩2016年01月23日 20:58

                パブロ・トラペロ“El clan”で決まり?

 

  

  (プッチオ家ファミリーをバックにしたポスター、中央がギジェルモ・フランセージャ)

 

★ガラがあと2週間に迫ってきました。秋のラテンビートに関係が深いラテンアメリカ諸国の映画を大急ぎでおさらいしておきます。ノミネーションは例年通り4作品、アルゼンチン、チリ、ペルー、キューバの4カ国です。キューバはアカデミー賞とゴヤ賞に作品を送らないと表明しておりましたが、フタを開けてみればノミネーションされていたのでした(アカデミー賞はキャンセルした)。どうして気が変わったのかちょっとばかりミステリー、2014年の旧作ですがICAIC製作です。IMDbによれば、目下のところスペインでは201510月末にバルセロナで開催された「ゲイ&レズ映画祭」で上映されただけです。ただIMDbのスペイン語映画情報はアップが遅く実際は公開されているのかもしれません。というのもノミネーション条件の一つが「授賞式前の公開」だからです。

 

★個人的な好みから言えば、一押しは迷うことなくパブロ・トラペロです。ラテンビートでの上映を切に願っております。今までのトラペロ監督とは一味違う問題作、ベネチア映画祭監督賞受賞作品。ノミネーション4作品は以下の通りです。

 

El clanThe Clan)監督パブロ・トラペロ(アルゼンチン­=スペイン)

Magallanes 監督サルバドル・デル・ソラル

  (ペルー=アルゼンチン=コロンビア=スペイン)

La Once監督マイテ・アルベルディ(チリ)ドキュメンタリー

Vestido de noviaHis Wedding Dress 監督マリリン・ソラヤキューバ=スペイン)

 

印は既にご紹介済み作品です。次回はチリの女性監督マイテ・アルベルディの長編ドキュメンタリー第2作目La Once、コメディです。元気すぎるおばあちゃん6人組の「仲良しお茶べり会」の話です。チリのシネアストの層の厚さを感じさせるドキュメンタリー。スペインでは条件を満たすためか、18日マドリード、翌日バルセロナと大急ぎで公開されました。

 

   

      (全員ふくよかすぎる「仲良しお茶べり会」のメンバー、映画から)

 

El clan”は、ベネチア映画祭2015でアップ済み、コチラ⇒201587921

Magallanes”は、サンセバスチャン映画祭2015「ホライズンズ・ラティノ」でアップ済み、

コチラ⇒201584