第25回マラガ映画祭2022*受賞結果 ③ ― 2022年05月14日 14:53
金のビスナガ賞は「Cinco lobitos」と「Utama」が受賞
★3年ぶりに恒例の3月開催となったマラガ映画祭、セクション・オフィシアル作品をアップしただけで頓挫、作品紹介もスール賞以下の特別賞も未紹介のまま休眠してしまいました。去る3月27日、マラガ市のセルバンテス劇場で授賞式が開催されました。というわけで受賞結果くらいはと重い腰をあげた次第。最高賞の作品賞〈金のビスナガ〉は、スペイン映画とイベロアメリカ映画に分けて与えられ、それぞれ副賞として10.000ユーロが貰えます。今年はアラウダ・ルイス・デ・アスアの「Cinco lobitos」と、ウルグアイ映画の「Utama」が受賞、ただしアレハンドロ・ロアイサ・グリス監督はボリビア出身です。作品賞以外は銀賞です。セクション・オフィシアルの主な受賞結果は以下の通りです。
(第25回マラガ映画祭の受賞者たち)
◎金のビスナガ(スペイン映画)
Cinco lobitos 製作国スペイン、2022年、104分、監督・脚本アラウダ・ルイス・デ・アスア
★他に監督が脚本賞、ベテランのスシ・サンチェスとライア・コスタが女優賞を受賞しています。初めて母親になったばかりの若いアマイアは、バスクで暮らす両親の元へ帰郷する。ラモン・バレアやミケル・ブスタマンテの男性陣が脇を固めています。
(受賞スピーチをするルイス・デ・アスア監督)
◎金のビスナガ(イベロアメリカ映画)
Utama 製作国ウルグアイ=ボリビア=フランス、2022年、87分、ケチュア語・スペイン語、デビュー作、監督・脚本アレハンドロ・ロアイサ・グリス
★ボリビアの高原を舞台に、旱魃に襲われたケチュアの老夫婦を主人公にして、厳しい人生の岐路に立つ羊飼いの現実が語られる。ボリビアのマルコス・ロアイサ監督が父親、製作者の一人として現地入りしていた。サンティアゴ・ロアイサ・グリシは兄弟。他に監督賞、音楽賞、批評家賞を受賞している。
(左から3人の製作者、フェデリコ・モレイラ、サンティアゴ・ロアイサ・グリシ、
スピーチしているのが監督の実父マルコス・ロアイサ)
◎審査員特別賞(銀賞)
Mi vacío y yo 製作国スペイン、2022年、89分、監督・編集アドリアン・シルベストレ
★アドリアン・シルベストレはバレンシア生れ、オーディオビジュアル情報学、映画監督、現代芸術史をマドリード、ローマやハバナで学ぶ。2016年「Los objetos amorosos」で長編デビュー、セビーリャ映画祭でFIPRESCI国際映画批評家連盟賞を受賞した。本作は第2作目、ロッテルダム映画祭正式出品作品。他にドキュメンタリー「Sedimentos」(21)は、BFIロンドン、サンセバスチャン、マラガ、テッサロニキ、トゥールーズ・スパニッシュ、ほか国際映画祭に出品している。
◎審査員スペシャル・メンション
The Gigantes 製作国メキシコ=米国、2021年、94分、監督ベアトリス・サンチス、脚本はマーティ・ミニッチと共同執筆
★本作はロスアンジェルスやメキシコを舞台にしたロード・ムービー。他に撮影賞を受賞している。監督のベアトリス・サンチスはバレンシア生れ、本作は2014年の「Todos están muertos」に続く第2作目。デビュー作はマラガ映画祭2014審査員特別賞受賞作品、ゴヤ賞新人監督賞にノミネートされている。当時パートナーだったエレナ・アナヤがヒロイン、本作を機に5年間続いた関係を解消している。
*紹介記事は、コチラ⇒2014年04月11日/2015年01月30日
(ベアトリス・サンチス監督)
(メキシコの製作者ロドリゴ・コヨテルと監督、フォトコールにて)
◎監督賞(銀賞)
アレハンドロ・ロアイサ・グリス 「Utama」
★1985年ボリビア生れ、監督、脚本家、製作者。撮影監督としてスタートしたが、2016年からTVシリーズや短編、ビデオ「Laberinto」(17)を発表、今回長編デビューした。父マルコス・ロアイサの「Averno」の製作を手掛けている。
◎女優賞(銀賞)Hotel AC Málaga Palacio
ライア・コスタ & スシ・サンチェス 「Cinco lobitos」
★本作で母と娘を演じている。ライア・コスタは1985年生れ、2012年「Tengo ganas de ti」で映画デビュー、代表作はドイツのゼバスティアン・シッパーのスリラー「Victoria」で主役の家出娘ヴィクトリアを演じた。ベルリン映画祭の銀熊賞ほか国際映画祭のを多数受賞している。東京国際映画祭2015ワールドフォーカス部門に『ヴィクトリア』の邦題でエントリーされた。コスタはシネヨーロッパ賞にノミネート、ガウディ賞、サンジョルディ賞の女優賞を受賞している。カタルーニャ語、仏語、英語ができる。スシ・サンチェスは度々紹介しており割愛。
(金のビスナガ受賞作のシーンから、スシ・サンチェスとライア・コスタ)
◎男優賞(銀賞)
レオナルド・スバラグリア 「Almost in love」(Ámame)アルゼンチン=ブラジル=チリ=オランダ、112分、監督・脚本レオナルド・Brzezicki
★本人欠席のため、特別賞の一つレトロスペクティブ賞受賞のため現地入りしていたメルセデス・モランがトロフィーを受け取った。受賞者は本映画祭とは相性がよく、2017年のマラガ-スール賞、男優賞に続いて3個目をゲット、過去のトロフィーを手にしてビデオ・メッセージに参加した。
(代理でトロフィーを受け取ったメルセデス・モラン)
◎助演女優賞(銀賞)
デボラ・マリア・ダ・シルヴァ 「La madre」(A mae)ブラジル、2021年、87分、ポルトガル語
監督クリスティアノ・ブルラン
★本作はポルトガル語、字幕入りで上映された。物売りをして家庭を支える移民の母親と突然行方不明になった息子の物語、生死の分からない息子を探し回る母親たちのブラジル版。デボラ・マリア・ダ・シルヴァは映画デビューしているが、ブラジルの〈五月の母親たち〉運動の創設者、ガラには欠席している。ブルラン監督は舞台演出家、教授。本作は長編デビュー作だが、短編20数本、ドキュメンタリー、2015年の戯曲4部作「Blanco y negro」を演出、ブラジル・フェスティバルで受賞している。
(左から、製作者イヴァン・メロ、クリスティアノ・ブルラン監督、
出演のダンスティン・ファリアス、フォトコールから )
◎助演男優賞(銀賞)
ニコラス・ポブレテ 「Mensajes privados」チリ、2021年、77分、監督マティアス・ビセ
★コロナウイリス感染によるパンデミックのさなかにリモートで製作されたマティアス・ビセの新作。ニコラス・ポブレテは、今作では脚本にも参加、真実の物語と自伝的なことを独白、精神科医の叔父について妹と一緒に苦しんだ性暴力を非難した。
◎脚本賞(銀賞)
アラウダ・ルイス・デ・アスア 「Cinco lobitos」
★1978年バラカルド生れ、バスク自治州でオーディオビジュアル情報学を学び、後マドリードに移りECAMの映画監督科卒。2005年から数本短編を撮ったのち、今回長編デビューを果たした。
◎音楽賞(銀賞)
セルヒオ・プルデンシオ 「Utama」
(撮影中の監督と3人の主演者)
◎撮影賞(銀賞)
ニコラス・ウォン・ディアス 「The Gigantes」
◎編集賞(銀賞)
ロドリゴ・サケル 「Mensajes privados」
★受賞者は欠席。監督が代理で受け取った。
(左から、製作者アドリアン・ソラル、ビセンタ・ウドンゴ、ニコラス・ポブレテ、
マティアス・ビセ監督、フォトコールから)
★ZONAZINE部門も作品賞(銀賞)は、スペイン映画とイベロアメリカ映画に分かれており、副賞6.000ユーロ、監督賞、女優賞、男優賞、観客賞などがある。特別賞としてマラガ栄誉賞(カルロス・サウラ)、スール賞(現スペイン映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ)、レトロスペクティブ賞(アルゼンチンの女優メルセデス・モラン)、マラガ才能賞(ロス・ハビことハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ)などが受賞者でした。また〈金の映画〉には、1970年のペドロ・オレアの「El bosque del lobo」が選ばれていました。
ホライズンズ・ラティノ部門第6弾*サンセバスチャン映画祭2016 ⑪ ― 2016年09月05日 16:47
ボリビア映画、キロ・ルッソのデビュー作“Viejo calavera”
★先月3歳の誕生日を迎えたばかりの新参ブログですが、映画開発途上国ボリビアの映画紹介ゼロは、あまりにバランスを欠いていると反省。先月初めに開催されたロカルノ映画祭2016「現在のシネアストたち」部門に出品、スペシャル・メンションを受賞したキロ・ルッソのデビュー作“Viejo calavera”のご紹介。鑑賞するには少し辛い内容の作品ですが、サスペンス的な要素もあり、現代ボリビアが抱える諸問題ともリンクしているようです。
★ボリビア映画の日本公開は、ウカマウ集団/ホルヘ・サンヒネスの全作品しかないようです。2014年5月に「レトロスペクティブ『革命の映画/映画の革命の半世紀』1962~2014」というタイトルの特別上映会があり、『地下の民』(89)、『鳥の歌』(95)、『最後の庭の息子たち』(04)など代表作品のほか全作品が上映され、ゲスト・トークもありました。彼の作品を見るには体力が必要です。
★その他、第22回東京国際映画祭のコンペにノミネートされたフアン・カルロス・バルディビアの『ボリビア南方の地区にて』(09“Zona sur”)は非常に観念的な映画ですが、先住民と白人の対立構図はウカマウ集団と同じ、しかしティストはまったく異なっている。これといった事件が起こるわけではないのに、観客は最後に主客転倒劇を見せられる。ボリビアの若いシネアストたちの胎動を感じた作品でした。これは未公開だったと思います。
8)“Viejo calavera”(“Dark Skull”)
製作:Socavon Cine / Doha film Institute /
監督・脚本・製作者(エグゼクティブ)・編集・録音:キロ・ルッソ
脚本・製作者(エグゼクティブ):Gilmar・ゴンサレス
撮影・製作者(エグゼクティブ)・編集:パブロ・パニアグア
プロダクション・デザイン:カルロス・ピニェイロ
美術・メイクアップ:カヤラ・アギラール、ビビアナ・バルツ
録音:マルセロ・グスマン、ペポ・ラサッリ、ほか
ビジュアル効果:ペポ・ラサッリ、ダニエル・ベンディティ
プロダクション・マネジメント:フアン・パブロ・ピニェイロ
データ:製作国ボリビア=カタール、2016年、80分、長編デビュー作、撮影地ウアヌニ鉱山。カタールの「ドーハ・フィルム協会基金」からの援助、ウアヌニ鉱山労働組合、Londra Films P&A、文化省など、国内外の後援、協力を受けた。
映画祭・受賞歴:ロカルノ映画祭2016「現在のシネアストたち」部門出品、8月5日上映、スペシャル・メンション受賞。サンセバスチャン映画祭2016「ホライズンズ・ラティノ」部門出品、
キャスト:フリオ・セサル・ティコナ(エルデル・ママニ)、ナルシソ・チョケカジャタChoquecallata(名付け親の叔父フランシスコ)、アナスタシア・ダサ・ロペス(祖母ロサ)、フェリックス・エスペホ・エスペホ(フアン)、イスラエル・ウルタド(ガジョ)、ロランド・パジPatzi(チャルケ)、エリザベス・ラミレス・ガルバン(叔母カルメン)、ほか
(エルデルを演じたフリオ・セサル・ティコナ、映画から)
解説:父と対立して町で好き勝手に暮らしていた若者エルデル・ママニの物語。父の死に遭遇してもエルデルはカラオケで飲みつぶれ、街中で悶着を起こし続けている。今では彼を気にかけるものはいなかった。彼にできること、それは鉱山の町ウアヌニに舞い戻って鉱夫として働くこと以外になかった。ウアヌニの町から離れた粗末な家で祖母と暮らすことになったエルデル、叔父で彼の名付け親でもあったフランシスコの口利きで鉱山で働けることになったが、彼にはまったく興味のない仕事に思われ、仲間とのトラブルが絶えなかった。謎めいた父の死、「フランシスコが関わっていたのではないか」、「どうしたら自分の人生を変えることができるのか」、果たして変えることができるのだろうか。
*トレビア*
★オハナシとしては極くシンプルなもので物足りなく思う人もいそうだが、人物造形が皮相的という批評は計算済みらしく、「神秘的で人を幻惑するような世界のネオリアリズムを追求するために、敢えて登場人物の深層心理には踏み込まなかった」と監督。「ビジュアルな場面、または坑内の照明の取り方にはアンドレイ・タルコフスキーの表現の仕方を参考にして撮影した」と撮影兼製作兼編集と何役もこなしたパブロ・パニアグラは語っている。彼によらず多くのスタッフが掛持ち、デビュー作では珍しいことではありません。尚、キャスト陣はオール初出演のようです。
(本作の見どころの一つがパニアグラのカメラ、映画から)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★キロ・ルッソ Kiro Russo は、1984年ラパス生れ、監督、脚本家、製作者。ブエノスアイレス映画大学で監督演出を学ぶ。2010年短編“Enterprisse”、2011年、鉱山労働を描いた短編ドキュメンタリー“Juku”がインディリスボア・インディペンデント映画祭2012 短編部門のグランプリ受賞、ブエノスアイレス近郊に住むボリビア移民の青年群像劇“Nueva vida”が、ロカルノ映画祭2015短編部門のスペシャル・メンション「トゥモロー豹」賞とイフラヴァ・ドキュメンタリー映画祭(チェコ)短編部門「ヨーロピアン・ドキュメンタリー」賞を受賞する。2016年本作で長編デビューした。
(「現在のシネアストたち」スペシャル・メンション受賞、2016年ロカルノ映画祭にて)
★現在ルッソ監督は、映画祭を推進するオーディオビジュアル・プロジェクト「Ikusmira Berriak」、現代文化国際タバカレラ・センターに参画、バスク・フィルムライブラリー、ドノスティア文化とコラボしている。
最近のコメント