フェリペ・ガルベスのデビュー作が「ある視点」に*カンヌ映画祭20232023年05月15日 11:36

   「ある視点」にフェリペ・ガルベスのデビュー作「Los colonos」がノミネート

   

     

 

★チリのフェリペ・ガルベスのデビュー作「Los colonos」が「ある視点」に正式出品、チリ、アルゼンチン、オランダ、フランス、デンマークなど8ヵ国との合作、ガルベス監督は1983年チリのサンティアゴ生れ、監督、脚本家、フィルム編集者。「ある視点」ノミネートは2011年のクリスティアン・ヒメネスの「Bonsai」以来12年ぶりです。本作は東京国際映画祭2011ワールド・シネマ部門で『Bonsai~盆栽』としてアジアン・プレミアされた。「Los colonos」の舞台は20世紀初頭のチリ南端ティエラ・デル・フエゴ島、先住民族セルクナム(またはオナス)のジェノサイドをテーマにした歴史物、彼らがチリの正史から消されてきた過程を探求している。

 

 「Los colonos / Les colons / The Settlers」(仮題「入植者たち」) 

製作:Quijote Films(チリ)、Rei Cine(アルゼンチン)、Quiddity Films(英)、Volos Films(台湾)、共同製作:Cine Sud Promotion(仏)、Snowglobe(デンマーク)、Film I Vast(スウェーデン)、Sutor Kolonko(独)

監督:フェリペ・ガルベス

脚本:フェリペ・ガルベス、アントニア・ヒラルディ

音楽:Harry Allouche

撮影:Simone DArcangelo

編集:Mattieu Taponier

プロダクション・デザイン:セバスティアン・オルガンビデ

衣装デザイン:ナタリア・アラヨン、ムリエル・パラ

メイクアップ&ヘアー:ダミアン・ブリッシオ

製作者:ジャンカルロ・ナシ、ステファノ・センティニ、ベンジャミン・ドメネク、サンティアゴ・ガレッリ、エミリー・モーガン、マティアス・ロベダ、ティエリー・ルヌーベル、(エグゼクティブ)コンスタンサ・エレンチュン、エイミー・ガードナー、ほか共同製作者多数 

 

データ:製作国アルゼンチン、チリ、イギリス、台湾、ドイツ、スウェーデン、フランス、デンマーク、スペイン語・英語、2023年、歴史ドラマ、97

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2023「ある視点」部門正式出品、初長編監督作品賞カメラドールにもノミネートされている。

 

キャスト:カミロ・アランシビア(メスティーソのセグンド)、ベンジャミン・ウェストフォール(アメリカ人傭兵ビル)、マーク・スタンリー(イギリス人マクレナン中尉)、サム・スプルエル(マルティン大佐)、アルフレッド・カストロ(スペイン人地主ホセ・メネンデス)、マリアノ・リナス(フランシスコ・モレノ)、ルイス・マチン(司教)、マルセロ・アロンソ(大統領勅使ビクーニャ)、アグスティン・リッタノ(アンブロシオ大佐)、ミシェル・グアーニャ、アドリアナ・ストゥベン(ホセフィナ・メネンデス)、ほか

 

ストーリー19世紀末に羊牧場はチリのパタゴニア地方の領土を拡大していきました。1901年、裕福な地主ホセ・メネンデスは先住民の土地を開拓し、大西洋への道を開くために3人の男を雇いました。最終的な目的は当時の白人の使命に従って、この広大で肥沃な領土を文明化することでした。メスティーソのセグンド、元ボーア戦争のイギリス人船長のマクレナン、アメリカ人傭兵ビルの3人は、国家がメネンデスに与えた土地の境界を定める遠征に乗り出していった。最初は行政上の遠征のように見えたものが、次第に先住民に対する暴力的な狩猟へと変質していった。1901年から1908年のあいだにティエラ・デル・フエゴ島での先住民セルクナム虐殺を描き、先住民が被った植民地化、暴力、不正義というテーマを探求しています。

 

        

    

      

 

★ガルベス監督談によると「誰が歴史を書くのか、どのように書かれるのか、その過程で映画の立ち位置はどのように占めるのかを考えさせてくれる」映画だとコメント。チリの正史から消されてきた先住民虐殺の事実が、如何にして闇に葬られてきたのか、その過程がどうして可能だったのか、メネンデス一家がどのように資金調達をしたのかが語られる。「この映画は、内なる旅とその登場人物の精神の崩壊を通して、強制的に文明化されたモデルを反映させた」とプレスリリースで語っている。チリが建国(1818年)100周年を迎えようとしていた頃の過去にさかのぼり、現在にまで及ぶ理念が語られる。

   

        

★監督紹介:フェリペ・ガルベスFelipe Galvez Haberle)、1983年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、フィルム編集。2008年フィルム編集者としてキャリアをスタートさせる。2009年の短編「Silencio en la sala」(12分)がBaficiブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭に正式出品されベスト短編賞を受賞。2018年「Rapaz」(13分)がカンヌ映画祭併催の「批評家週間」にノミネートされたことで、その後ウルグアイ映画祭2018、ダウンタウン・ロスアンゼルスFF、ノーステキサスFF、ダラスFF2019のグランプリを受賞、バレンシアFFCinema Joveにノミネートされた。本作は携帯電話の盗難で告発された十代の少年の市民拘留を描いている。フィルム編集ではクラウディオ・マルコネの「En la Gama de los Grises」(15)、マルティン・ロドリゲス・レドンドのデビュー作「Marilyn」(18)など受賞歴のある映画を多数手掛けている。

   

    

              (短編「Rapaz」のポスター)

 

★カンヌFF2000「ある視点」にノミネートされたミゲル・リティンの「Tierra del Fuego」は、ティエラ・デル・フエゴを舞台にしている。セルクナム虐殺をリードした一人であるルーマニア人ジュリアス・ポッパーを主人公にしたクロニカである。他に先住民ジェノサイドに言及している作品にパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー「El botón de nácar」(15)があり、この作品は『真珠のボタン』の邦題で公開されています。

監督作品は以下の通り:

2009年「Silencio en la sala」短編12分、監督、脚本、編集

2011年「Yo de aqui te estoy mirande」短編、監督、脚本、編集

2018年「Rapaz」短編13分、監督、脚本、編集

2023年「Los colonos」長編デビュー作、監督、脚本

 

Marilyn」の作品紹介は、コチラ20180225

『真珠のボタン』の作品紹介は、コチラ20151116

 

セクション・オフィシアル(コンペ部門)①*マラガ映画祭2023 ④2023年03月03日 18:26

              26回マラガ映画祭2023ノミネーション長編映画全20

 

        

★コンペティション部門セクション・オフィシアルは全20作、新人発掘の映画祭でもあるのでデビュー作が多いのは当然として、最近はベテラン監督の多さが気になります。すでに既発の国際映画祭(ベルリン、ベネチアなど)でプレミアされたもの、中には受賞作もあるようです。作品数が多いので何回かに分けてアップする予定です。スペイン単独作品が8作と多く、メキシコ、ブラジルは別として、市場が狭く単独では製作できないアルゼンチン、チリ、コロンビアなどのラテンアメリカ諸国は合作です。ブラジルのポルトガル語映画は字幕入り上映、セッションは各3回ずつと例年通りです。

 

     26回マラガ映画祭セクション・オフィシアル全20

 

120.000 especies de abejas (仮題「2万種のミツバチ」)

データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・バスク語・フランス語、ドラマ、129分、長編デビュー作 

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門でプレミア(222日)。ギルデ・ドイツ・フィルムアートシアター賞、バリナー・モルゲンポスト紙読者賞、主演のソフィア・オテロ(9歳)が銀熊主演賞を受賞という快挙、過去の受賞者は故フェルナンド・フェルナン≂ゴメスの2回、2012年にビクトリア・アブリルが『アマンテ』で受賞しているだけである。

   

        (銀熊主演賞のソフィア・オテロ、ベルリンFF授賞式)

  

監督紹介エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン1984年バスク自治州アラバ生れ、監督、脚本家、製作者。バスク公立大学視聴覚コミュニケーションの学位を取得、フィルム編集の制作理論、ESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で映画監督の修士号と映画ビジネスの修士号を取得、マーケティング、配給、国際販売などを学ぶ。2019年制作会社「Sirimiri Films」を設立。

フィルモグラフィー2012短編「Adri」、2016長編ドキュメンタリー「Voces de papel」(サンセバスチャン映画祭プレミア)、2018短編「Nor nori nork」、2020短編「Polvo somos」、2022短編「Cuerdas」はカンヌ映画祭「批評家週間」に正式出品、受賞歴多数、フォルケ賞短編部門受賞。

    

     

          (エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督)

   

キャスト:ソフィア・オテロ(アイトル/ルシア)、パトリシア・ロペス・アルナイス(母親アネ)、アネ・ガバライン(ルーデス)、イツィアル・ラスカノ(リタ)、サラ・コサル(レイレ)、マルチェロ・ルビオ(ゴルカ)、ウナックス・ヘイデンHeyden、他

ストーリー8歳になる少女ルシアは他人の期待に添わない。母親のアネは夏休みを利用して3人の子供たちと養蜂をしている実家に帰郷します。アネの母親リタ、叔母ルルド、3世代の女性たちが直面する疑いと怖れは、彼女たちの人生を変えてしまうだろう。性同一性を求めているルシアの物語。

 

       

    (ベルリンFFで絶賛されたルシア役のソフィア・オテロ、フレームから)

    

       

  

2)Bajo terapia (仮題「セラピー中」)

データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語、コメディドラマ、93分、マティアス・デル・フェデリコの同名小説の映画化。

監督紹介ヘラルド・エレーロ1953年マドリード生れ、製作者、監督。1987年、制作会社「Tornasol Media」設立、国際的に活躍している大物プロデューサー、手がけた作品はドキュメンタリー、エグゼクティブを含めると150作を超える。うち2009年製作の『瞳の奥の秘密』は、アカデミー賞外国語映画賞を受賞、アルゼンチンにオスカー像をもたらした。ロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」ではゴヤ賞2019の監督賞以下7冠を制した。監督作品としては、実話をベースにした「Heroína」でマラガ映画祭2005の銀のビスナガ監督賞を受賞している。続く2006年には「Los aires dificiles」で金のビスナガ作品賞を受賞した。ほかに『戦火の沈黙、ヒトラーの義勇兵』(11)など。

 

     

  

キャスト:マレナ・アルテリオ、アレクサンドラ・ヒメネス、フェレ・マルティネス、アントニオ・パグド、エバ・ウガルテ、フアン・カルロス・ベリィド

ストーリー3組の夫婦が珍しいグループ・セラピーのセッションを受けに集まった。心理学者はカップルが一緒に対処しなければならないスローガンを同封した封筒を渡しました。提案されたメカニズムは、誰もが自分の意見を述べ、話し合い、最終的にありのままの自身をさらけ出すことを奨励します。ユーモアを主なツールとして、出会いは予想もしない限界まで複雑になるでしょう。

      

                       

      

 

3Desperté con un sueño (仮題「夢で目覚めた」)

データ:製作国アルゼンチン=ウルグアイ、2022年、ドラマ、76分、長編3作目

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2023ジェネレーションKplus部門でプレミアされた。

監督紹介パブロ・ソラルス1969年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、俳優、教師。ブエノスアイレス演劇学校に入学、コロンビア大学シカゴ校で映画を学んだ後帰国、母国でキャリアを積む。脚本家として、カルロス・ソリンの「Historias minimas」、アリエル・ウィノグラードの「Sin hijos」、フアン・タラトゥトなどとタッグを組んでいるほか脚本執筆多数。2011年「Juntos para siempre」で長編デビュー、2017年、名優ミゲル・アンヘラ・ソラを主役に起用した2作目「El último traje」が、『家へ帰ろう』の邦題で劇場公開された。SKIP映画祭上映の折来日している。新作が3作目になる。当ブログで「Sin hijos」の作品紹介をしています。

   

      

 

キャスト:ルーカス・フェロ(フェリペ)、ミレリャ・パスクアル、ロミナ・ペルフォ、マリアナ・スミレビテス、エマ・セナ

ストーリー:フェリペの日常は、湯治場の閑散とした通りを友人たちと自転車に乗ったり、フリースタイルでラップしたり、母親に隠れて演劇のクラスに行ったりして過ごしている。彼の情熱は夢のようなものだが、目覚めると直ぐ内容を書き留めておく。ある映画のオーディションの可能性に直面して、父親が亡くなった8歳のとき以来一度も会ったことのない父方の祖母を頼って首都に脱出する。フェリペは過去の断片をかき集め、自分が何になりたいかを考え始める。

 

      

   

                     (再会した祖母、フレームから)

    

      

  

4El castigo(仮題「罰」)

データ:製作国チリ=アルゼンチン、スペイン語、2022年、ドラマ、86

監督紹介マティアス・ビセ1979年サンティアゴ・デ・チリ生れ、監督、製作者、脚本家。2003年にデビュー作「Sábado」を若干23歳で撮った。マンハイム・ハイデルベルク映画祭のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー賞を受賞した。2005年の2作目「En la cama」がバジャドリード映画祭2005の作品賞金の穂を受賞、『ベッドの中で』の邦題でミニ映画祭で上映された。5作目「La vida de los peces」はベネチア映画祭2010監督週間でプレミアされ、ゴヤ賞2011イベロアメリカ映画部門で受賞、ブニュエル賞ほか受賞歴多数。6作目「La memoria del agua」はウエルバ映画祭2015銀のコロン賞ほかを受賞、『水の記憶』としてNetflixで配信されている。2022年の「Mensajes Privados」はマラガ映画祭にノミネートされ、ニコラス・ポブレテが助演男優賞を受賞した。新作は9作目になる。

Mensajes Privados」の紹介記事は、コチラ20220314

   

    

        (マティアス・ビセ、マラガ映画祭2022のプレス会見)

 

キャスト:アントニア・セヘルス(アナ)、ネストル・カンティリャナ(マテオ)、カタリア・サアベドラ、ジャイル・フリ Yair Juri、サンティアゴ・ウルビナ(ルーカス)

ストーリー:アナとマテオは、悪さをしたので罰として数分間放っておいた息子が行方不明になってしまった。必死の捜索は、リアルタイムで森の中や自動車道などで行われる。80分間というもの夫婦は、恐怖、罪悪感、壊れやすい彼らの繋がり、最も厳しい発覚に直面する。アナがどこかで息子が見つからないよう願っているのは、彼が生れてからずっと幸せでなかったからだ。

   

       

     (息子を探すアナとマテオ)

 

   

マヌエラ・マルテッリ『1976』Q&A*東京国際映画祭2022 ⑨2022年11月06日 16:21

         「母方の祖母が49歳で亡くなった年が1976年でした」

 

   

         (マヌエラ・マルテッリ監督、1028Q&Aにて)

 

★東京国際映画祭は終幕しましたが、1028日にマヌエラ・マルテッリ監督が参加して行われた1976Q&Aをアップいたします。司会は市山尚三プログラミング・ディレクター、言語は英語、約30分で、翌日YouTubeで配信されました。主役カルメンを演じたアリネ・クッペンハイム女優賞を受賞するオマケも付いたので、最後にキャリアご紹介も付します。

 

★タイトルとなった〈1976年〉は、監督の「母方の祖母が亡くなった年に因んでいる」と語りました。この発言には重要な意味があったのですが、Q&Aではこれ以上踏み込まなかった。「もう一つの911」と称されるチリの軍事クーデタが勃発したのは1973911でした。1976年は選挙で選ばれた初めての社会主義政権と言われるアジェンデ政権がピノチェト将軍指揮する軍隊によってあえなく崩壊した年ではなかった。3年目となる1976年も多くの民間人の血が流された年ではありましたが、なぜ監督が1976年に拘ったのか、それは母方の祖母が49歳の若さで自死したことでした。

 

★作品紹介でも触れましたが、1983年生れの監督は祖母には会ったことがない。絵画や彫刻を制作して、主婦だけで終わりたくなかった祖母は、主人公カルメンの造形に投影されている。本作の原動力になったのが、正にこの祖母の自死にあったからでした。長いあいだ家族間で祖母の死について語ることは禁じられていましたが、10年前に重い鬱だけが原因でなかったことを知り、突き動かされるように自国の現代史を調べ始めたという、つまり本作の構想は10年前に遡るということです。クランクイン直前にパンデミックで中断、1年待たねばならず、再開しても制限の多いなかでの撮影を強いられた。これは彼女に限ったことではありませんが、コロナは世界を変えてしまいました。幸運にも完成前にカンヌから選考の報をうけ、その後のプロセスは大車輪だった。

1976』の作品&監督キャリア紹介の記事は、コチラ20220913

 

★印象に残ったのは会場から色と音楽に対する拘りを指摘する質問があったことでした。「とても良い質問です」と嬉しそうに前置きして、「赤色は血をイメージし、独裁政権の影が次第にカルメンの日常を塗り替えていくイメージ、外から聞こえてくる音や音楽は、外部からの浸食であり、色と音楽の両方が外の世界の恐怖、カルメンの気持ちの変化を表現している」と語った。これが成功しているかどうかは評価の分かれるところですが、20年近くに及んだピノチェト軍事独裁政権の恐怖を知らない観客には分かりにくかったかもしれません。

   

     

 

★監督は大学では、演技のほかに美術も専攻しており、以前「将来的に女優を続けるかどうか分からない、絵の道に進むかもしれない」と語っていたが、一つに祖母の影響があったのかもしれない。その頃から監督になることを視野に入れて演技していたという。「女優としてさまざまな監督を観察しながら演技してきたので、今回の監督デビューは自然な成り行きだった」とチリのインタビューに応えている。チリ・プレミアは首都サンティアゴから南方850キロ離れたバルディビア映画祭(開催1010日~16日)で、その後劇場公開となっている。

 

Q&Aで本国チリでの評価を尋ねられた監督は、「観客の評価はよく、観客はちりばめられたエピソードにそれぞれ反応している。それは2019年の反政府デモをきっかけにした憲法改正の動きがあり、結果的に新憲法は否決されたが、それを残念に思っている人に受け入れられている」と応じていた。1019日、150万人の民衆がサンティアゴの街頭に繰り出し、経済格差是正、自由の制限、憲法改正を迫ってデモ行進が行われた。この反政府デモについてのドキュメンタリーを撮ったのが、サンセバスチャン映画祭2022ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品に選ばれたパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー「Mi país imaginario」(22)でした。現在はパリ在住ですが、故国チリの現代史を問い続けているドキュメンタリー作家です。当ブログでは「チリ三部作」と称される『光のノスタルジア』『真珠のボタン』『夢のアンデス』を紹介しています。

Mi país imaginario」の作品紹介は、コチラ20220822

 

Q&Aは内容的に充実していたとは言い難いのですが、メディア向け撮影を入れた30分では質問者の数も限られ、監督も自分の母語でなかったこともあるのか隔靴掻痒だったに違いない。最後にコロナ感染で危機に苦しんでいる映画界に触れ、「映画館に足を運んでください」と、映画を映画館で観る楽しさを取り戻してほしいと強調しました。勿論、映画を見る媒体は複数あってかまわないのですが、映画とTVドラマは違うはずです。

 

★チリ映画界の現状は厳しく、監督が映画界入りした2001年に製作された本数は10だった。その95%は特権的な男性監督によるものです。現在では映画法も制定され4倍に増えていますが、申請倍率も高くアクセス事態が難しいということです。申請は11回に限定され、落選すればもう1年待たねばならない。チリは文化活動に資金を使いたくないのが伝統というお国柄、『1976』で「私は忍耐力を養いました」と監督。どんなに素晴らしい映画でも「観られなければ意味がない」とも語っています。既に次回作の準備に取りかかっており、90年代のチリが舞台、デビュー作に繋がっているということです。

 

  

★去る928日、第37ゴヤ賞2023211日)イベロアメリカ映画賞のチリ代表作品に選ばれました。監督は「代表作品に選ばれ光栄です。選んでくださった270人のチリ映画アカデミー会員に感謝いたします」とコメントしています。4作に絞られる正式ノミネーションを待たねばなりませんが、候補としてアルゼンチン代表「Argentina, 1985」(サンティアゴ・ミトレ)、コロンビア代表『ラ・ハウリア』(アンドレス・ラミレス・プリド)、ポルトガル代表「Nothing Ever Happened」(ゴンサロ・ガルバン・テレス)、ボリビア=ウルグアイ合作の『Utama~私たちの家~』(アレハンドロ・ロアイサ・グリシ、邦題はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭 SKIP CITY IDCF による)などが候補に上がっています。いずれも強敵ですが残れるでしょうか。ポルトガル映画以外は既にご紹介しています。

 

 

アリネ・クッペンハイム紹介:1969年バルセロナ生れ、父親はフランス人、母親はチリ人、共に手工芸家、両親の仕事の関係で幼少期はヨーロッパ諸国を転々とした。チリに戻ったのは1980年代初頭、サンティアゴ市北部の地方自治体ラス・コンデスの高校で学んだ。その後フェルナンド・ゴンサレスのアカデミー-・クラブで演劇を学んだ。1991年テレノベラ「Ellas por ellas」(4話)出演でスタート、数局のTVシリーズで成功、女優としての地位を築いた。一方映画デビューは、クラウディオ・サピアインの「El hombre que imaginaba」(98)、アントニア・オリバーレスの「Historias de sex」(00)など、しかしTVシリーズ出演が多い。1999年、クラウディア・ディ・ジロラモ主演のTVシリーズ「La fiera」を最後に、当時の夫で俳優のバスティアン・ボーデンへーファーとフランスに渡る(2006年離婚)。

 

★フアン・ヘラルドのキューバ革命をテーマにしたドイツ、メキシコ、米国合作「Dreaming of Julia / Sangre de Cuba」(03、英語)で、ガエル・ガルシア・ベルナルやハーヴェイ・カイテル、セシリア・スアレスとクレジットを共有している。2004年、チリに帰国、アンドレス・ウッドの「Machuca」(04)、アジェンデ政権に反対する1970年代初頭の富裕階級の典型的な女性像を演じて賞賛された。本作にはマヌエラ・マルテッリ監督も共演している。レビスタWIKEN助演女優賞受賞、邦題『マチュカ~僕らと革命』DVD化された。ウッド監督とは「La buena vida」(ラテンビート2009の邦題『サンティアゴの光』)に再びオファーを受け、今度はマルテッリと母娘を演じた。ペドロ・シエンナ賞、ビアリッツFF演技賞などを受賞している。

 

        

        (反アジェンデ派のシンボリックな女性像を演じた『マチュカ』から)

 

アリシア・シェルソンのデビュー作「Play」(05『プレイ』)、本作はシェルソンがSKIP CITY IDCF 2006で新人監督賞を受賞した作品、また同監督の「Turistas」(08)では主役を演じた。アジェンデ大統領の最後の7時間を描いたミゲル・リッティンの「Allende en su laberinnto」(14)で、大統領の私設秘書、愛人でもあったミリア・コントレラスに扮した。通称〈La Payita〉はスウェーデン大使の助けを得てキューバに亡命、1990年に帰国するまでパリやマイアミに住んでいた。軍事クーデタの証言者の一人。

     

       

     (マルセロ・アロンソと倦怠期の夫婦を演じたシェルソンの「Turistas」から)

 

★公開作品にはセバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』(17)がある。TVシリーズ「42 Días en la Oscuridad」(226話)で再びクラウディア・ディ・ジロラモと共演、実話に着想を得たミステリー、ある日突然失踪する主婦を演じている。本作は『暗闇の42日間』の邦題でNetflix ストリーミング配信中です。ラテンアメリカ諸国だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアで配信され、チリでもっとも成功したTVシリーズの代表作となっている。

    

★『1976』出演で、8月開催の第26回リマ映画祭2022で演技賞、東京国際映画祭の女優賞を受賞、次回作はバレリア・サルミエントの犯罪ミステリー「Detrás de la Lluvia」(22)、本作にはマヌエラ・マルテッリ、クラウディア・ディ・ジロラモが共演している。

 

     

             (自分の行動がどれほど深刻か気づき始めるカルメン、『1976』から)

 

マヌエラ・マルテッリ、監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑭2022年09月13日 17:23

    ホライズンズ・ラティノに「1976」で監督デビューしたマヌエラ・マルテッリ

 

       

 

★女優として実績を残しているマヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)が1976で長編監督デビューを果たしました。チリの1976年という年は、ピノチェト軍事独裁政権の3年目にあたり、隣国アルゼンチン同様、多くの民間人の血が流された年でもあった。マルテッリ自身は生まれていませんでしたが、ピノチェト時代(197390)は延々と続いたから空気は吸って育ったのです。主人公カルメンの造形は会ったことのない祖母の存在を自問したとき生まれたと語っています。アウトラインはアップ済みですが、チリ映画の現状も含めて改めてご紹介します。アメリカ公開は「1976」では映画の顔として分かりづらいということから「Chile 1976」とタイトルが変更されたようです。

 

 1976

製作:Cinestacion / Wood Producciones / Magma Cine

監督:マヌエラ・マルテッリ

脚本:マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット

音楽:マリア・ポルトゥガル

撮影:ソレダード(ヤララYarará)・ロドリゲス

美術:フランシスカ・コレア

編集:カミラ・メルカダル

衣装:ピラール・カルデロン

録音:ジェシカ・スアレス

キャスティング:マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ

メイクアップ:バレリア・ゴッフレリ、カタリナ・ペラルタ

製作者:オマール・ズニィガ、ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョ、アレハンドロ・ガルシア、アンドレス・ウッド、フアン・パブロ・グリオッタ、ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他

 

データ:製作国チリ、アルゼンチン、カタール、2022年、スペイン語、スリラードラマ、95分、販売Luxbox、アメリカ公開は今冬予定。

映画祭・受賞歴:トゥールーズ(ラテンアメリカ)映画祭2022グランプリ・特別賞・ルフィルム・フランセ賞3冠、カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ブリュッセル映画祭インターナショナル部門出品、エルサレム映画祭デビュー部門「インターナショナル・シネマ賞」受賞、メルボルン映画祭コンペティション部門出品、リマ映画祭作品賞を含む3冠、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ロンドン映画祭デビュー作部門

 

キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス神父)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、アマリア・カッサイ(同娘レオノール)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、マルシアル・タグレ(オズバルド)、ガブリエル・ウルスア(トマス)、ルイス・セルダ(ペドロ)、アナ・クララ・デルフィノ(クララ)、エルビス・フエンテス(隣人ウンベルト)、他多数

   

ストーリーチリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの神父が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。

 

        

        (支配階級のシンボル、パールのネックレス姿のカルメン)

 

            チリ映画の隆盛――「クール世代」の台頭

 

★ピノチェト軍政下では、映画産業は長いあいだ沈黙を強いられ、才能流出が止まりませんでした。『トニー・マネロ』や『No』で知られるパブロ・ララインを中心に、若い世代が集まってグループを結成、自らを「Generation High Dedinition」(高品位があると定義された世代)「クール世代」と称した。指導者はチリ映画学校の設立者カルロス・フローレス・デルピノ、メンバーは監督ではパブロ・ラライン、アンドレス・ウッド、セバスティアン・レリオ、アリシア・シェルソン、クリスティアン・ヒメネス、セバスティアン・シルバ、ドミンガ・ソトマヨール、アレハンドロ・フェルナンデス、ララインの実弟である製作者フアン・デ・ディオス・ラライン、撮影監督ミゲル・ジョアン・リティン、俳優アルフレッド・カストロ、アントニア・セヘルスなどが中心になっており、当ブログではそれぞれ代表作品を紹介しています。 


★本作の特徴は女性スタッフの多さですが、製作者の一人ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョは『木曜から日曜まで』の監督であり、ラケル役のアントニア・セヘルスは、パブロ・ララインと結婚、彼の「ピノチェト政権三部作」すべてに出演していましたが、『ザ・クラブ』を最後に2014年離婚してしまいました。言語が共通ということもあって「クール世代」はアルゼンチン、ベネズエラ、メキシコなどのシネアストとの合作が多いことも特色です。なかにはセバスティアン・シルバ(『家政婦ラケルの反乱』)のようにゲイであるためチリ社会の偏見に耐えかねてアメリカに脱出してしまった監督もおりますが、昨今のチリ映画の隆盛はこのグループの活躍が欠かせませんでした。ラテンビート、東京国際映画祭、東京フィルメックスなどで紹介される作品のほとんどがクール世代の監督です。概ね1970年以降の生れですが、ここにマルテッリのような80年代生れが参入してきたということでしょうか。

 

         音楽も色彩もメタファーの一つ、マルテッリの視覚言語

 

★カルメンは独裁政権の直接の協力者ではないが被害者でもなく、ただ傍観者である。医師である夫がピノチェトの協力者であること、それで経済的な恩恵を受けていることを知っており、政権との対立で窮地に陥ると夫の名前を利用する。ただこの共謀にうんざりしている。真珠のネックレス、カシミアのコート、流行の靴を履いているが、屈辱的な壁の花である。なりたかったのは医師であり主婦ではなかった。子育てに専念するため断念したという母親を娘は軽蔑する。

 

           

           (カルメン役のアリネ・クッペンハイム、フレームから)

 

★カルメンは特権的な立場にあるが、逃亡者エリアスとの関係は、夫が妻を過小評価していることを利用しており危険すぎる。彼女の行動は最初政治的ではなかったが、やがて政治的なものになっていく。予告編の冒頭にある瓶のなかの金魚のようにカルメンは閉じ込められているが、飛びだせば永遠に〈行方不明者〉になる。予告編に現れる鮮やかなペンキの色は、観客を不穏な雰囲気に放り込む。受話器から聞こえるノイズ、シンセサイザーの耳障りな音楽はカルメンの危機を予感させる。メタファーを読みとく楽しみもありそうです。

   

        

            (逃亡者エリアス役のニコラス・セプルベダ)

  

マヌエラ・マルテッリ Manuela Abril Martelli Salamovich 監督紹介1983年チリのサンティアゴ生れ、女優、監督、脚本家。父親はイタリア出身、母親はクロアチア出身の移民、中等教育はサンティアゴの北東部ビタクラのセント・ジョージ・カレッジで学んだ。最終学年にゴンサロ・フスティニアーノB-Happy03)のオーディションに応募、主役を射止める。本作の演技が認められハバナ映画祭2003女優賞を受賞した。高校卒業後、2002年、チリのカトリック司教大学で美術と演技を並行して専攻、2007年卒業した。2010年、フルブライト奨学金を得てアメリカに渡り、テンプル大学で映画制作を学んでいる。

 

2004年、アンドレス・ウッドMachuca(『マチュカ-僕らと革命』DVD)に出演、アルタソル女優賞を受賞、TVシリーズ出演をスタートさせている。2008年、ウッド監督のオファーを受けてLa buena vida(『サンティアゴの光』ラテンビート2009)に出演、監督デビュー作「1976」のヒロイン、アリネ・クッペンハイムの娘役を演じた。ラテンビートには監督が来日、Q&Aがもたれた。セバスティアン・レリオの「Navidad」(09)他、短編、TVシリーズ出演がある。

 

★国際舞台に登場したのは、ロベルト・ボラーニョの短編 Una novelita lumpen を映画化した、アリシア・シェルソンIl futuro13、イタリアとの合作)でした。マヌエラはヒロインのビアンカに扮し、オランダのカメレオン名優ルトガー・ハウアーと共演した。サンダンス映画祭でプレミアされ、ロッテルダム、トゥールーズ、サンフランシスコなど国際映画祭で上映された。ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2013で銀のコロン女優賞、シェルソンが監督賞を受賞した。本邦では『ネイキッド・ボディ』の邦題で翌年DVD化されている。第57回ロカルノFF2014にノミネートされたマルティン・Rejtmanの「Dos disparos」に出演している。

 

 

 (ニコラス・ヴァポリデュス、ルトガー・ハウアー、監督、マルテッリ、サンダンスFF2013

 

★監督、脚本家としては、2014年の短編「Apnea」(7分、チリ=米)が、チリのバルディビアFF2014で上映された他、アルゼンチンのBAFICIブエノスアイレス・インディペンデントFF2015、トゥールーズ・シネラティーノ短編FFにも出品された。カンヌの監督週間2014Fortnight」のプログラム、チリ・ファクトリーに選ばれ、アミラ・タジディンと「Land Tides / Marea de tierra」(チリ=仏、13分)を共同監督した。翌年の監督週間、ニューヨーク短編FF、サンダンスFF2016、ハバナFF2016に出品された。

    

      

          (マヌエラ・マルテッリ、ロカルノ映画祭2014にて)

 

★デビュー作の製作者の一人ドミンガ・ソトマヨールの「Mar」(14)に脚本を共同執筆している。2013年よりソトマヨールが製作を手掛けることになった「1976」の最初のタイトルは、怒りまたは勇気という意味の「Coraje」だったという。また2016年にはTVシリーズ「Bala loca」(10話)のキャスティングを手掛けている。アリネ・クッペンハイム、アレハンドロ・ゴイック、マルシアル・タグレなど「1976」のほか、『サンティアゴの光』で共演したアルフレッド・カストロ、セバスティア・シルバの「La nana」(09『家政婦ラケルの反乱』ラテンビート)のカタリナ・サアベドラなどチリを代表する「クール世代」の演技派が出演している。

 

 

カルロス・フローレス・デルピノ(タルカワノ1944)はチリの監督、脚本家、製作者。1973年の軍事クーデタで仲間が亡命するなか、チリに止まってドキュメンタリー作家として活躍、1994年、Escuela de Cine de Chileを設立、教育者として後進の指導に当たる。代表作は、チリのチャールズ・ブロンソンと言われたフェネロン・グアハルドをモデルにチリ人のアイデンティティに光を当てたドキュメンタリー「El Charles Bronson Chileno: o idénticamente igual」(7684)と作家のホセ・ドノソについての中編ドキュメンタリー「Donoso por Donoso」(94)など。


*追加情報:第35回東京国際映画祭2022のコンペティション部門に同タイトルでノミネートされました。

 

ホライズンズ・ラティノ部門②*サンセバスチャン映画祭2022 ⑧2022年08月22日 13:43

                         ホライズンズ・ラティノ部門

 

5)Un varón」コロンビア

WIP Latam 2021作品

データ:製作国コロンビア=フランス=オランダ=ドイツ、2022年、スペイン語、ドラマ、81分、製作Medio de Contención Producciones コロンビア/ Black Forest Filmsドイツ / Fortuna Filmsオランダ / In Vivo Films フランス/ RTVC Play 他、脚本ファビアン・エルナンデス、撮影ソフィア・オッジョーニ、音響イサベル・トレス他、音楽マイク&ファビアン・クルツァー、編集エステバン・ムニョス、プロダクション・デザイン、フアン・ダビ・ベルナル、製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、クレア・シャルル=ジェルヴェ、他。撮影地ボゴタ。カンヌ映画祭2022「監督週間」(英題「A Male」)でプレミア、グアダラハラ映画祭インターナショナル部門出品、

 

監督ファビアン・エルナンデス(ボゴタ1985)監督、脚本家、公立学校で映画の教鞭をとる。本作は長編デビュー作。2015年、制作会社Niquel Films 設立、自身の短編「Mala maña15)、「Tras la montña」(16)、「Golpe y censura」(18)、「Las ánimas」(20)を撮る。監督「わたしの作品は、コロンビアの他の映画とはアプローチの仕方が異なり、より深いです。人々や地域を尊重しています」と語っている。

 

     

          (カンヌで使用された英題「A Male」のポスター)

 

キャスト:ディラン・フェリペ・ラミレス(カルロス)

ストーリー:カルロスはボゴタの中心街にある青少年の保護施設に住んでいる。クリスマスには家族と一緒に過ごしたいと切望している。休暇に向けて施設を出ると、カルロスは最強のアルファ・マッチョの法則が支配するバリオの暴力に向き合うことになります。また彼は、自分がそういう人物になれることを証明しなければなりません。彼の内面はこれらの男らしさと矛盾していますが、ここで生き延びるためには決心しなければなりません。カルロスの心はこの狭間でぶつかり合っています。自分の感受性、脆弱性を認め、本当の男らしさとは何かを求めている。

 

      

     

        

      

       (路上で銃の取り扱い方を伝授されるカルロス、フレームから)

 

 

6)Dos estaciones」メキシコ

Foro de Coproducción Europa-América Laten 2019  WIP Latam 2021作品 

データ:製作国メキシコ=フランス=アメリカ、2022年、スペイン語、ドラマ、99分、脚本フアン・パブロ・ゴンサレス、アナ・イサベル・フェルナンデス、イラナ・コールマン、音楽カルミナ・エスコバル、撮影ヘラルド・ゲーラ、編集フアン・パブロ・ゴンサレス、リビア・セルパ、製作者イラナ・コールマン、ブルナ・ハダッド、ジェイミー・ゴンサルベス他、製作In Vivo Filmsフランス / Sin Sitio Cine、配給Luxboxサンダンス映画祭ワールド・シネマ部門でプレミア、主役テレサ・サンチェスが審査員特別賞を受賞、その他、ボストン・インディペンデントFF審査員大賞、ロスアンゼルス・アウトフェス審査員大賞、サンディエゴ・ラティノ、ヒューストン・ラティノ、シカゴ・ラティノなど映画祭出品多数。テレサ・サンチェスは、有望な若手監督ニコラス・ペレダの「Minotauro」(15)、「Fauna」(20)などの常連です。

     

      

 

監督フアン・パブロ・ゴンサレス(ハリスコ1984)監督、脚本家、本作は長編デビュー作、短編デビュー作「The Solitude of Memory」(14)はモレリア映画祭でプレミアされた。「Las nubes」(17)、瞑想的なスタイルを確立したと評価されたドキュメンタリー「Caballerango」(18)他。デビュー作のフィクションの感性とノンフィクションの要素の融合は、前作のドキュメンタリーの手法を受け継いでいるようです。

 

キャスト:テレサ・サンチェス(マリア・ガルシア)、ラファエラ・フエンテス(ラファエラ)、マヌエル・ガルシア・ルルフォ、タティン・ベラ(トランスジェンダーの美容師タティン)

ストーリー:ロス・アルトス・デ・ハリスコにある伝統的なテキーラ工場の相続人であるセニョーラ・マリアは、外国企業の進出が強まる市場で受け継いだ工場の存続に努力しています。彼女は新しい管理者にラファエラを雇い、危機を乗り越えようと情熱を傾けている。しかし、長びく大災害と予期せぬ洪水がプランテーションに取り返しのつかない損害を与えたとき、マリアは地域コミュニティの富と誇りを救うため、彼女が手にしているすべてをかけて対応せざるを得なくなる。マッチョ文化が長いあいだ支配されてきた場所にも、社会的な変化のいくつかが語られる。

 

       

      

         (断髪したセニョーラ・マリアの目、フレームから)

 

 

7)「Mi país imaginario / My Imaginary Country」チリ

オープニング作品

データ:製作国チリ、2022年、スペイン語、ドキュメンタリー、83分、撮影サミュエル・ラフ、編集ローレンス・マンハイマー、音楽Miranda & Tobal、製作者レナーテ・ザクセアレクサンドラ・ガルビス、製作Arte France Cinéma / Atacama Productions、配給Market Chile、販売 Pyramide International。カンヌ映画祭2022コンペティション部門セッション・スペシャル特別上映、エルサレム映画祭(ベスト・ドキュメンタリー賞)を経て、サンセバスチャン映画祭上映となった。フランスでは8月にリミテッド上映だがチケット売れ切れの盛況だったが、チリのサンティアゴでのプレミア上映は、観客全員がマスクを着用、十数人を超えることはなかったという。

    

      

 (製作者レナーテ・ザクセ、監督、製作者アレクサンドラ・ガルビス、カンヌFF2022にて)

 

監督パトリシオ・グスマン(サンティアゴ1941)は、監督、脚本家、フィルム編集、撮影監督、ドキュメンタリー作家、現在はパリ在住。キャリア&フィルモグラフィー紹介、特に「チリ三部作」は以下にアップしています。本祭との関りは、2015年ホライズンズ・ラティノ部門に『真珠のボタン』、2019年に『夢のアンデス』(「La cordillera de los Suños」)が正式出品されています。

『光のノスタルジア』(10)の紹介記事は、コチラ20151111

『真珠のボタン』(15)の紹介記事は、コチラ20150226同年1116

『夢のアンデス』(19)の紹介記事は、コチラ20190515

   

      

 

主な女性出演者:女優で劇作家ノナ・フェルナンデス、撮影監督ニコル・クラムジャーナリストのモニカ・ゴンサレス、政治学者クラウディア・ハイス、チェス競技者ダマリス・アバルカ、元憲法制定会議議長エリサ・ロンコンほか多数

解説:「201910月、予想外の革命、社会的激動、150万人の民衆がサンティアゴの街頭で、もっとデモクラシーな社会、誇りのもてるより良い生活、より良い教育と医療制度、そして新しい憲法を要求してデモ行進をしました。チリはかつての記憶を取り戻したのです。1973年の学生闘争以来、私が待ち望んでいた出来事が遂に実現したのです」と語ったグスマンは、抗議行動を記録するために、在住しているフランスからチリに撮影クルーを組織しました。1年後、監督はインタビューを実施し、新憲法のための国民投票を撮影するため故国に戻ってきました。半世紀の間の時代の変化を体験した監督は、新作では著名な女性作家、ジャーナリスト、シネアストなどの視点を多く取り入れました。海外での評価は高かったが、故国では厳しかったようです。内からと外からの視点は違うということでしょうか。

賞には絡まないと思いますが、いずれ詳しい紹介記事を予定しています。

    

     

        (闘いを決心した目出し帽着用の20代の女性、フレームから)

    

     

      (「20191018日バンザイ」のステッカーを掲げるデモ参加者)

 

 

8)「Vicenta B.」キューバ

WIP Latam 2021  EGEDAプラチナ賞受賞作品

データ:製作国キューバ=フランス=米国=コロンビア=ノルウェー、2022年、スペイン語、ドラマ、75分、脚本カルロス・レチュガ、ファビアン・スアレス、撮影デニセ・ゲーラ、編集ジョアンナ・モンテロ、音楽サンティアゴ・バルボサ、ハイディ・ミラネス、音響ベリア・ディアス、製作・製作者Cacha Films(キューバ)クラウディア・カルビーニョ、ROMEO(コロンビア)コンスエロ・カスティーリョ、Promenades Films(フランス)サミュエル・ショーヴァン、Dag Hoel Filmproduksjon(ノルウェー)ダグ・ホエル、販売Habanero(ブラジル)。トロント映画祭2022正式出品。

    

     

 

監督カルロス・レチュガ(ハバナ1983)監督、脚本家、本作は長編3作目、WIP Latam 2021 EGEDA(視聴覚著作権管理協会)プラチア賞受賞作品。また第2作目「Santa y Andrés」は2016年のホライズンズ・ラティノ部門に選出されている。本作は第38回ハバナ映画祭で上映するよう選出されていたにも拘らず、ICAIC のお気に召さず拒否された。当ブログで作品紹介記事をアップしています。

Santa y Andrés」の作品、監督キャリア紹介は、コチラ20160827

 

      

    WIP Latam 2021 EGEDAプラチア賞、サンセバスティアンFF2021授賞式にて)


監督によると「ビセンタは、孤独な母親が多い国の物語です。現在キューバには考え方が違うという理由だけで多くの若者が投獄されています」と、昨年711日に同時多発的に起きた大規模な抗議デモで拘束された人々の脱出劇について言及した。またハバネロ・フィルム・セールスのパートナーであるパトリシア・マルティンは、本作のように「政治について明確に語っていない場合でも、根本的に政治的です」と述べている。

 

キャスト:リネット・エルナンデス・バルデス(ビセンタ・ブラボ)、ミレヤ・チャップマン、Aimee Despaigne、アナ・フラビア・ラモス、ペドロ・マルティネス

ストーリー:ビセンタ・ブラボは、人の運勢をカードで占ったり将来を洞察できる特殊な才能をもっているサンテラである。毎日、悩みを抱えた人々が解決を求めてやってくる憩いの場になっている。ビセンタは一人息子とは上手くやっていたが、それもこれも彼がキューバを出たいと決心するまでのことでした。これがすべての崩壊の始りだった。自分のまわりで何が起きているのか、解決の糸口が見つからないまま危機に陥ってしまう。天賦の贈り物を失ったビセンタは、誰もが信仰を失ったように思われる国の内面への旅に出発するだろう。黒人や貧しい女性の実存が脅かされるとどうなるか、魂の探求、信仰の危機、家族の孤立に光が当てられている。

     

   

 

                (フレームから)

 

 

   

(左から、ファビアン・エルナンデス、フアン・パブロ・ゴンサレス、パトリシオ・グスマン、カルロス・レチュガ)


続セクション・オフィシアル作品*マラガ映画祭2022 ②2022年03月14日 15:25

       セクション・オフィシアル作品ノミネーション続

 

3年ぶりに3月開催となったマラガ映画祭、ソーシャルディスタンスを守って責任ある準備をして臨むと、総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルは挨拶した。セルバンテス劇場のレッドカーペットにお越しの節は、「必ずマスク着用を」とも付け加えた。記者会見の会場はアルベニス館、開催資金は200万ユーロだそうです。

 

13Llegaron de noche スペイン、2021年、107

監督:イマノル・ウリベ(エルサルバドール1950)、製作:Nunca digas nunca AIE / Bowfinger International Picturas SL / Tornasol SL / 64 A Films SL 脚本:ダニエル・セブリアン、撮影:カロ・べリディ、音楽:バネッサ・ガルデ、編集:テレサ・フォント

キャスト:フアナ・アコスタ、カラ・エレハルデ、カルメロ・ゴメス、フアン・カルロス・マルティネス、アンヘル・ボナニー、エルネスト・コリャソ、ベン・テンプル、ほか多数

 

      

      

 

14Lo invisible  エクアドル、フランス、2021年、85

監督:ハビエル・アンドラーデ、製作:Punk SA / La Maquinita / Promenades Films、脚本:Anahi Hoeneisen & ハビエル・アンドラーデ、撮影:ダニエル・アンドラーデ、音楽:マウロ・サマニエゴ & パオラ・ナバレテ、編集:フェルナンド・エプスタイン

キャスト:アナイ・ヘーナイゼンAnahi Hoeneisen、マティルデ・ラゴス、ジェルソン・ゲーラ、パオラ・ナバレテ、フアン・ロレンソ・バラガン、レイディ・ゴメス・ロルダン

  

     

    

 

15)Mensajes privados チリ、2021年、77

監督:マティアス・ビセ、製作:Ceneca Producciones、脚本:マティアス・ビセ、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、ビセンタ・ウドンゴ、ベロニカ・インティル、撮影;アントニア・セヘルス、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、アレックス・ブレンデミュール、ほか多数、音楽:[Me llamo] セバスティアン&ロドリゴ・ハルケ、編集:ロドリゴ・サケ

キャスト:アントニア・セヘルス、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、ブランカ・レウィン、ビセンタ・ウドンゴ、アレックス・ブレンデミュール、、ベロニカ・インティル、[Me llamo] セバスティアン

 

  

  


 

 

16Mi vacío y yo スペイン、2022年、89

監督・編集:アドリアン・シルベストレ、製作:Testamento / PromalfiFuturo / AlbaSotorra SL脚本:アドリアン・シルベストレ、ラファエレ・ぺレス、カルロス・マルケス=マルセ、撮影:ラウラ・エレロ・ガルバン

キャスト:ラファエレ・ペレス、アルベルト・ディアス、マルク・リベラ、イサベル・ロカティ、カルメン・モレノ、カルロス・フェルナンデス・ジュアGiua

 

 

  

  

17)Nosaltres no ens matarem amb pistoles Nosotros no nos mataremos con pistolas)(字幕) スペイン、2022年、85 

監督:マリア・リポル、製作:Un Capricho de Producciones / Turanga Films、脚本:ビクトル・サンチェス&アントニオ・エスカメス、撮影:ジョアン・ボルデラ、音楽:シモン・スミス、編集:フリアナ・モンタニェス

キャスト:イングリッド・ガルシア=ジョンソン、エレナ・マルティン、ロレナ・ロペス、ジョー・マンジョン、カルロス・トロヤ

 

     

 

    

18The Gigantes  メキシコ、米国、2021年、94 (字幕)

監督:ベアトリス・サンチス、製作:Animal de Luz Films / Cazador Solitario Films / Cebolla Films / Godius Films / Índice、脚本:ベアトリス・サンチス&マーティ・ミニッチ、撮影:ニコラス・ウォン・ディアス、音楽:アーロン・ルクス、編集:ベアトリス・サンチス、セルヒオ・ソラレス・アルバレス

キャスト:サマンサ・ジェーン・スミス、アンドレア・サット、レヒナ・オロスコ、アナ・ライェブスカ、ペドロ・デ・タビラ・エグロラ

  

      

    

 

19Utama ウルグアイ、2022年、87分、デビュー作

監督脚本:アレハンドロ・ロアイサ・グリシ(ボリビア1985)、製作:Alma Films、撮影:バルバラ・アルバレス、音楽:セルシオ・プルデンシオ、編集:フェルナンド・エプスタイン 

キャスト:ホセ・カルシナ、サントス・チョケ、ルイサ・キスペ 

  

        

  

 

★以上7作のうちには、イマノル・ウリベマリア・リポルのようなベテラン監督が新人監督に混じってノミネートされている。女性監督は5人でした。アウト・オブ・コンペティション部門の2作は次回にまわします。ロベルト・ブエソの「Llenos de gracia」はクロージング作品、カルラ・シモンの「Alcarràs」はベルリン映画祭コンペティション正式出品作品

 

パブロ・ララインの新作「スペンサー」*ダイアナ・スペンサーの謎2021年11月28日 20:33

    伝統に縛られた風変わりで冷酷な裏切りの王室を描いたホラー映画

 

      

 

2022年はダイアナ・スペンサーが交通事故死して25年目というわけで、クリステン・スチュワートを起用したパブロ・ララインSpencer(仮題「スペンサー」)と、エド・パーキンズのドキュメンタリーDianaの劇場公開が決定しています。チリの監督作品がベネチア映画祭でワールドプレミアされたからと言って、邦題も公開日も正式に決まっていないのに、紹介記事が多数アップされるとは驚きです。同じ有名人のビオピック『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』とは比較になりません。その謎に包まれた悲劇的な最期もあるのか、未だにダイアナ人気は持続しているようです。ネットフリックス配信のピーター・モーガン原案のTVシリーズ『ザ・クラウン』(ダイアナ役エマ・コリン)、酷評さくさくだったダイアナ最後の2年間に焦点を絞ったオリヴァー・ヒルシュビーゲル『ダイアナ』(同ナオミ・ワッツ)と、ダイアナ女優の競演も見逃せません。

 

★旧姓 <スペンサー> だけでダイアナ妃に直結できる人がどのくらい居るのか分かりませんが、副題入りなら願わくば簡潔にして欲しい。本作についてはまだ詳細が分からなかった昨年夏にクリステン・スチュワート監督デビューを含むトレビア記事を紹介しております。スペイン語映画ではありませんが、久々にラライン映画をご紹介。

「スペンサー」のトレビア記事は、コチラ20200712

 

     

 (パブロ・ラライン監督とクリステン・スチュワート、ベネチアFF2021フォトコール)

 

 Spencer(仮題「スペンサー」)

製作:Komplizen Film / Fabla / Shoebox Films  協賛FilmNation Entertainment

監督:パブロ・ラライン

脚本:スティーブン・ナイト

撮影:クレア・マトン

美術(プロダクション・デザイン):ガイ・ヘンドリックス・ディアス

編集:セバスティアン・セプルベダ

衣装デザイン:ジャクリーン・デュラン

音楽(監修):ジョニー・グリーンウッド、ニック・エンジェル

キャスティング:Amy Hubbard

製作者:ポール・ウェブスター(英)、マーレン・アデ、ヨナス・ドルンバッハ、ヤニーネ・ヤツコフスキー(以上独)、フアン・デ・ディオス・ラライン&パブロ・ラライン(チリ)、(エグゼクティブ)スティーブン・ナイト、トム・クインほか多数

 

データ:製作国ドイツ=チリ=イギリス=アメリカ、英語、2021年、ビオピック・ドラマ、111分、撮影地ドイツ(フリードリヒスホーフ城)、イギリスのノーフォーク他、期間2021128日~427日まで。配給STAR CHANNEL MOVIES、公開イギリス・アメリカ2021115日、チリ2022120日、独127日他多数、日本は2022年、東北新社フィルム・コーポレーション

映画祭・受賞歴:第78回ベネチア映画祭コンペティション部門、トロントFF、パルマ・スプリングFFスポットライト賞(クリステン・スチュワート)、ほかチューリッヒ、BFIロンドン、ハンプトン、ヘント、サンディエゴ、シカゴ、マドリードなどの国際映画祭上映多数。

 

キャスト:クリステン・スチュワート(ダイアナ妃)、ティモシー・スポール(アリスター・グレゴリー)、ジャック・ニーレン(長男ウイリアム)、フレディ・スプリー(次男ヘンリー)、ジャック・ファージング(チャールズ皇太子)、ショーン・ハリス(ダレン)、ステラ・ゴネット(エリザベス女王)、リチャード・サメル(エディンバラ公フィリップ殿下)、エリザベス・べリントン(アン王女)、ロア・ステファネク(女王の母、王太后)、サリー・ホーキンス(マギー)、エイミー・マンソン(アン・ブーリン)、ローラ・ベンソン(着付師アンジェラ)、ジョン・ケオ(チャールズの側用人マイケル)、トーマス・ダグラス(ダイアナの父ジョン・スペンサー)、エマ・ダーウォール・スミス(カミラ・パーカー・ボウルズ)、ニクラス・コート(アンドリュー王子)、オルガ・ヘルシング(元ヨークシャー公爵夫人サラ・ファーガソン)、他多数

 

ストーリー:ダイアナは、英国王室がクリスマス休暇を過ごすノーフォークにあるサンドリンガム邸に一人で到着した。彼女は生まれ育ったところからそれほど遠くないサンドリンガムをずっと憎んでいました。ダイアナが離婚を決意したクリスマス休暇の3日間が描かれる。彼女は過去と現在は同じものであり、未来は存在しない場所を逃れて、なりたい自分になることを選びます。誰も正確に本当のレディ・ディを知りません。

 

    「謎に包まれたレディ・ディは魅惑的です」とラライン監督

 

★王室が存在しない国の監督パブロ・ラライン(サンティアゴ・デ・チリ197645歳)は、本作のプロモーションのためロンドンに滞在していました。キャンペーンはうまくいってるようです。「イギリス人は自分たちの暮らす社会とは違う話に慣れており、外部の誰かがそれに取り組んでいることを面白がります。彼らはこの映画が物議を醸すかどうか気をもんでいます。多分その要素はあるでしょう、おそらく危険です」とエル・パイスの記者にコメントした。

 

         

    (ウェールズのダイアナとして登場するクリステン・スチュワート)

 

★「スペンサー」は、デビッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(07)の脚本を手掛けたスティーブン・ナイトに脚本を依頼したことから始まった。20211月下旬、ドイツのサンドリンガムに見立てたフリードリヒスホーフ城で迅速に撮影が始り、3月下旬にイギリスに移動して完成させました。カンヌ映画祭には間に合わず、ベネチアでワールドプレミアされました。ベネチアにはかつて『ジャッキー~』や『エマ、愛の罠』がコンペティション部門にノミネートされたとき現地入りしています。

 

★撮影は『トニー・マネロ』以来、長年にわたってラライン映画を手掛けてきた撮影監督セルヒオ・アームストロングから、今回はフランスのクレア・マトンに変わった。マトンはセリーヌ・シアマがカンヌFF2019の脚本賞・クイア賞を受賞した『燃ゆる女の肖像』の撮影監督です。アームストロングはロレンソ・ビガスの『箱』を撮っていた。ドイツ・サイドの製作者にマーレン・アデ、アデは『ありがとう、トニ・エルドマン』(16)の監督、そして今作をプロデュースしたのがヨナス・ドルンバッハヤニーネ・ヤツコフスキーでした。イギリスからポール・ウェブスター、チリが監督の実弟フアン・デ・ディオス・ラライン、スタッフ陣に抜かりはありません。

 

★「ほぼ2年にわたって調査をしたのですが、情報が多くなればなるほど謎が深まっていった」と監督。「ダイアナを包み込んでいた謎は魅惑的で、理解できないことで逆に興味が増していきました。映画をご覧になった方は、それぞれ自分のバージョンをつくり、私的に愉しむことができます。伝統的なおとぎ話では、魅力的な王子様が現れてお姫様を見つけ結婚する。やがて王妃になれるのですが、ここでは反対のことが起きる」のです。つまりお姫様は王子様と出会う前のなりたい自分になると決めて王室を去るからです。そうして初めてアイデンティティをもつことができたのです。

 

     

        (イギリスで撮影中のクリステン・スチュワートと監督)

 

★離婚でもっとも有名になった女性の運命については、既に皆が知ってることなので描かれない。1997831日にパリで起きた衝撃的な交通事故についても描かれない。舞台はエリザベス女王のサンドリンガム邸、日付は指定されていません。別居が公式に発表になった1992129日より前の1991年の或るクリスマス休暇の3日間か、あるいは息子二人の年齢から1992年の可能性もあると監督はコメントしている。ヘアースタイリスト界のスターだったサム・マックナイトの勧めで、ダイアナが髪をショートカットにした時期は1990年後半、1991年は「ダイアナ・ピクシー」と言われるショートだったという。映画のようなふんわりした髪型はもっと後のものだというのだが、明らかに違います。マックナイトはTVシリーズ『ザ・クラウン』でエマ・コリンのヘアーを担当しています。

  

   

        (レディ・ディに扮したクリステン・スチュワート)

   

   

         (ショートカットのダイアナ妃、199157日)

    

★ベネチア映画祭のあれこれは、既に報道されていることですが、監督が「私はいつもクリステンが揺るぎない、しっかりした、長い準備をして非常に自信をもっているように感じました。そしてそれがチームの他のメンバーに安心をもたらしました」とスピーチしたら、女優は「いいえ、私は怖れていました! しかし私はどっしり構えたあなたを見て、それに縋りつきました。とにかく私と同じように全員が怖がっていたのでした」と応じました。皆が知っている毀誉褒貶半ばする人物を演じるのは怖いです。実際本作はスタンリー・キューブリックの『シャイニング』のようなサイコホラーとは違うようですが、1200年の歴史と伝統にとらわれた不条理なホラー映画です。

   

    

         (レディ・ディと二人の息子たち、フレームから

    

★横道ですがベネチアにはパートナーの脚本家ディラン・マイヤーも現地入りしており、パパラッチを喜ばせていた。2018年夏からの比較的長い交際だから、今度は結婚にゴールインするかもしれない。彼女はコロナ禍の2020年に製作された17人の監督からなる短編コレクションHOMEMADEホームメード』で監督デビューしたクリステンのために脚本を執筆している。

 

 

監督紹介パブロ・ララインは、1976年チリの首都サンチャゴ生れ。父親エルナン・ラライン・フェルナンデス氏は、チリでは誰知らぬ者もいない保守派の大物政治家、1994年からUDIUnion Democrata Independiente 独立民主連合) の上院議員で弁護士でもあり、2006年には党首にもなった人物。現在はピニェラ政権下で法務人権相。母親マグダレナ・マッテも政治家でセバスチャン・ピニェラ(201014政権の閣僚経験者、つまり一族は階級的には富裕層に属している。6人兄妹の次男、2006女優のアントニア・セヘルスと結婚、一男一女の父親。ミゲル・リティンの『戒厳令下チリ潜入記』でキャリアを出発させている。弟フアン・デ・ディオス・ララインとプロダクションFabula設立、その後、独立してコカ・コーラやテレフォニカのコマーシャルを制作して資金を準備、デビュー作Fugaを発表した。<ジェネレーションHD>と呼ばれる若手の「クール世代」に属している。

 

*長編映画(短編・TVシリーズ省略)

2006Fuga監督・脚本

2008Tony Manero『トニー・マネロ』監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第1

   ラテンビートLB2008

2010Post mortem 監督・脚本「ピノチェト政権三部作」第2

2012NoNo』監督「ピノチェト政権三部作」第3、カンヌFF2012「監督週間」

   正式出品、LB2013

2015El club『ザ・クラブ』監督・脚本・製作、ベルリンFF 2015 LB2015

2016Neruda」『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』 監督、カンヌFF2016「監督週間」

   正式出品LB2017

2016Jackie」『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』監督、ベネチアFF 2016

   正式出品

2019Ema」『エマ、愛の罠』監督・製作、ベネチアFF 2019、正式出品

2021Spencer」仮題「スペンサー」監督・製作、ベネチアFF 2021、正式出品

 

ラライン監督は、1121日に行われたチリ大統領選挙のため帰国しているようです。ララインは左派の元チリ学生連盟会長のガブリエル・ボリッチ下院議員を支持しており、両親とは支持政党が異なっている。チリは1990年の民政移管以来、中道左派、中道右派が交代で政権についていたが、格差拡大で中道はどちらも失速し、今回の選挙には7人が立候補していた。どの候補も過半数を取れず、下馬評通り極右の弁護士で元下院議員ホセ・カストとガブリエル・ボリッチの一騎打ちになった。1219日に決選投票が行われる。「選挙を棄権したことはありません。この選挙のプロセスを撮影したい」と語っていた。

 

マイテ・アルベルディの 『老人スパイ』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑩2020年11月22日 16:47

                 愛すべき諜報員セルヒオなくして傑作は生まれなかった!

    

   

 

★いよいよ1120日からオンライン上映が始まりました。東京国際映画祭TIFFで好感を与えた『老人スパイ』から鑑賞、愛すべき老人スパイ、セルヒオの人間味あふれる活躍なくしてこの傑作は生まれなかったでしょう。人間は老いようがボケようが死ぬまで生きがいと尊厳が必要だと泣かされました。作品紹介でも書いたことですが、「フィクションとドキュメンタリーの区別はない、あるのは映画だけ」というマイテ・アルベルディの言葉通りの傑作でした。老いとはいずれ我も行く道なのでした。若干ネタバレしています。便宜上、加筆訂正して出演者とストーリーを再録しました。

作品紹介&監督キャリアは、コチラ20201022

 

出演者:セルヒオ・チャミー(スイ)、ロムロ・エイトケンA&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下主な入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、にセルヒオの娘ダラルとその家族、サンフランシスコ介護施設長、介護士など多数

 

ストーリーA&Aエイトケン私立探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だったロムロ所長は、ホームに入居してターゲットをスパイしてくれる80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは露知らず応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれ元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡のハイテクはともかく、二人を最も悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォンの扱い方だった。その理解に充分な時間を費やすことになる。というのもミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせないからだなんとかクリアーしていざ出陣、ジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、果たしてどんな報告書を書くのだろうか。                          (文責:管理人)

 

 

        老人ホームのオーナーに真相を明かさなかった!

 

A チリのドキュメンタリー作家といえば、「ピノチェト三部作」を撮った大先輩パトリシオ・グスマンが直ぐ思い起こされます。『光のノスタルジア』や『真珠のボタン』は、ドキュメンタリーにも拘わらず公開されました。

B: 当ブログではパブロ・ラライン兄弟やセバスティアン・レリオなどのドラマ作品をご紹介していますが、今世紀に入ってから特に活躍目覚ましいのがチリ映画です。

    

A 本作を見ると、裾野の広がりを実感します。どこの国にも当てはまりますがドキュメンタリーは分が悪い。そんな中でドキュメンタリーとフィクションの垣根を取っ払っている監督の一人がマイテ・アルベルディです。『老人スパイ』が長編第4作目になります。

 

         

      (老人スパイのセルヒオ・チャミーとマイテ・アルベルディ監督)

 

B: 「或る老人ホーム」というのは、チリ中央部に位置するサンティアゴ大都市圏タラガンテ県のコミューン、エル・モンテにある「サンフランシスコ介護施設」というカトリック系の中規模の老人ホームです。まずアイディア誕生、監督とA&Aの接点、介護施設との折衝などの謎解きから入りましょう。

 

A 本作はTIFFワールド・フォーカス部門共催作品ですが、来日できない海外の監督とのオンライン・インタビュー「トーク・サロン」が上映後にもたれました。それによると「最初は探偵事務所をめぐるフィルムノワールを撮りたいと、あちこちの探偵事務所に掛け合ったがどこにも断られた。最後に辿りついたのがA&Aだった」と。折よく施設の入居者の娘から「母親がきちんと介護を受けているかどうか調査して欲しい」という依頼がきていた。当てにしていた人物が腰骨を折ったとかで身動きできない。

B: それで例の新聞広告を出すことになった。

 

A 監督はもともと介護施設に関心があって、これは渡りに船ではないかと思った。つまり採用されたチャーミングなセルヒオの魅力に参ってテーマを変更したわけです。

B: セルヒオがトレーニングを受けてるシーンに監督の姿がチラリと映っていました。パブロ・バルデスが指揮を執る撮影班は、セルヒオが入居してくるシーンから撮っていたが。

 

A ホーム側とは前もって伝統的な手法でドキュメンタリーを撮るという許可を受けていたが、真相は伏せていた。つまりオーナーを騙していたわけです。撮影のガイドラインを決め、ホームのルールに従った。撮影班は今か今かとセルヒオの登場を待っていたのでした。冷や冷やしながら見ていたが、最後までバレなかったというから可笑しい。

B: 変化の少ないホームでは、新入居者は格好の被写体だったから、カメラがセルヒオを追いかけても怪しまれない。それに83歳の新入居者がスパイとして潜入してくると誰が想像しますか。 

 

       入居者に必要なのは人間としての尊厳、最大の敵は孤独

 

A このドキュメンタリーを見たら老人に対する考え方が変わるかもしれない。観客はセルヒオのお蔭で先入観をもって他人を判断してはいけないことに気づくでしょう。常にチャーミングで寛大、人生に前向き、苦しいときでも笑いは必要というのが本作のメッセージです。

B: バルデスも完成した「映画を見たら泣けたが、撮影中は笑うことのほうが多かった」と。前半と後半ではテーマも微妙に変化していきました。

 

A 報告書の合言葉は <小包>、依頼人の母親ソニア・ぺレス <標的> とか、QTHやらQSLやらのスパイ暗号で四苦八苦するセルヒオにやきもきするロムロだが、後半になると逆に老人の知恵に押され気味になっていくのが痛快だった。

B: ロムロ・エイトケンはインターポール・チリ支部の責任者ですね。人生を重ねていけば誰でもセルヒオのようになれるわけではない。他人に優しくできるには自分に余裕がないとできない。

        

     

     (セルヒオにスパイのイロハを伝授するA&A所長ロムロ・エイトケン)

  

A 4ヵ月前に亡くなったという奥さんは、さぞかし幸せな人生を送っただったろうと思った。違法なスパイ行為をしようとする父親の身を案ずる娘のダラル、幾つになっても人間には生きがいが必要、頭は疲れるが自由になったような気がする、心配するなと説得する父親、このシーンを入れたのもよかった。

B: 反対に <標的> ソニア・ぺレスの娘、クライアントの姿は一度も出さなかった。この判断もよかった。依頼者とは守秘義務の契約を結んでいたと思いますが、結構な金額だったのではないですか。

   

A 母親に会いにくればどんな介護を受けているか、ある程度分かること、わざわざ探偵事務所に調査を依頼することはない。娘も病いを得ているのかもしれないが、信頼しあっていた母と娘とは少なくとも思えなかった。

B: 母親の移動は車椅子、単独歩行が無理で自由に出歩けない。気難しく、他人を寄せ付けないどころか、体が触れるのさえ嫌がる。怒りを溜めこんでいるのか、観客は遂に彼女の笑顔を見ることはなかった。

A: セルヒオがなかなか <標的> を見つけられなかったのも、<小包> がロムロに届かなかったのも、理由はソニア側にあった。進行と共にテーマが変化していくのは自然の成り行きでしょう。お蔭で私たちは人生勉強がたくさんできたわけです。老人スパイがどんな報告書を書くかは進行とともに想像できましたね。 

 

     辛い人生を受け入れることの難しさ、人生を愉しむテクニック

 

B: 本作は入居者の一人、セルヒオに愛を告白する85歳のセニョリータ・ベルタと、4人の子供を育て、自作の詩を諳んじるペティータ、それにメノ・ブーレマ3人に捧げられている。

A ブーレマはアムステルダム出身の映画編集者、監督が2016年に発表した長編ドキュメンタリー第3作めThe Grown-Ups、スペイン題Los niñosを手掛けている。本作撮影中の20196月に61歳の若さで亡くなった。

 

B: 一生懸命育てた4人の子供たちからは忘れられ、「人生とは残酷なもの」と呟くペティータも、セルヒオがいる間に神に召されてしまった。お別れの日に読み上げられた彼女の詩は、本作の大きな見せ場でした。

A: 韻を踏んでいるようですが、字幕は英語なので分かりません。「母親が生きているなら、神の愛に感謝しなさい」と始まる詩でした。ペティータが「恩知らず」と嘆いていた4人の子供たちは参列していたのでしょうか。これもターゲットと無関係なエピソードですが、105日の開所記念日のユーモア溢れるシーンなど、名場面の数々は皮肉にも標的とは無関係なのでした。

 

     

              (セルヒオとペティータ) 

 

B: 彼らの青春時代に流行したザ・プラターズの「オンリー・ユー」のメロディーにのってダンスをする入居者たちも忘れられない。

A: 今年のキングに選ばれたセルヒオのパートナーを、施設長がさりげないしぐさで次々と変えていく。皆でお祝いすることが重要、独り占めは御法度です。ターゲットも参加していたのだろうか。 

 

B: 最初のパートナー、セルヒオに恋を告白したセニョリータ・ベルタは、入所して25年ということですから、入居は60歳からになる。ホームでは広場を見渡せる日当たりのいい5つ星の部屋にいてお洒落さん、人生に前向きでソニアとは対照的な女性。セルヒオにお付き合いを断られても直ぐに立ち直る。

A: 心の内は分からないが孤独ともうまく折り合っている。信仰心が支えになって今の人生を受け入れている。女性の入居者は約40人ほどだが目立つ存在でした。

 

      

                (ベルタとセルヒオ)

 

B: 認知症がグレーゾーンのルビラ、今は白髪だが若い頃はさぞかし美しかったろう。3人いる子供たちは1年以上会いに来ていない。だから次第に娘の顔もあやふやになってくる。孤独が入居者たちの最大の敵なのです。

 

          

         (記憶を失う恐怖に怯えるルビラを支えるセルヒオ)

 

A: マルタは小さい女の子に戻ってしまい母親が迎えに来てくれる日を待っている。不安定になると偽の電話を掛けてやり落ち着かせる。手癖が悪く皆の持ち物を盗んでいるが、直ぐそれも忘れてしまう。

B: マルタの傍にいるソイラは、夫に辛く扱われていたらしくセルヒオの優しさに救われている。男性の友達は今まで一人もいなかったと。

 

       

             (ソイラ、セルヒオ、マルタ)

 

A: セルヒオの退所の日の3人の会話に胸が熱くなった。どんな状況に置かれても愛は絶大です。エンディング曲はホセ・ルイス・ペラレスのオリジナル曲「Te quiero」(アイ・ラブ・ユー)をチリのシンガー・ソングライター、マヌエル・ガルシアがカヴァーしている。セルヒオのラスト・リポートは言わずもがなでしょう。ゴヤ賞2021イベロアメリカ映画賞部門のチリ代表作品に選ばれました


*追加情報『83歳のやさしいスパイ』の邦題で2021年7月9日公開決定。

                 

チリから届いた心温まるスパイ映画 『老人スパイ』*ラテンビート2020 ⑤2020年10月22日 11:55

         ジェームズ・ボンドのようにタフではありませんが・・・

   

    

 

マイテ・アルベルディの長編第4作目『老人スパイ』(「El agente topo」)のご紹介。ある老人ホームに送り込まれた俄か探偵セルヒオの御年は83歳、仕事は入居者たちが適切に介護されているかどうかスパイするのが目的、ドキュメンタリーといってもドラマ性が強い。ジャンル的にはドキュメンタリーとドラマがミックスされたいわゆるドクドラのようです。まだ新型コロナが対岸の火事だった頃のサンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門でプレミアされたが、もともとは2017年サンセバスチャン映画祭SSIFFヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム作品。というわけで今年のSSIFFペルラス(パール)部門にノミネートされ観客賞を受賞しました。監督紹介はLa Onceでアップしています。

La Once」の作品紹介は、コチラ20160125

   

        

       (観客賞の証書を手にしたマイテ・アルベルディ、SSIFF2020授賞式、926日)

 

 

 『老人スパイ』(「El agente topo」、「The Mole Agent」)東京国際映画祭共催作品

製作:Micromundo Producciones(チリ)/ Motto Pictures(米)/ Sutor Kolonko / Volya Films

         / Malvalanda

監督・脚本:マイテ・アルベルディ

撮影:パブロ・バルデス(チリ)

音楽:ヴィンセント・フォン・ヴァーメルダム(オランダ)

編集:カロリナ・シラキアン?(SiraqyanSyraquian、チリ)

製作者:マルセラ・サンティバネス、(エグゼクティブ)ジュリー・ゴールドマン、クリストファー・クレメンツ、キャロリン・ヘップバーン、クリス・ホワイト、他共同製作者多数

 

データ:製作国チリ=米国=ドイツ=オランダ=スペイン、スペイン語、2020年、ドキュメンタリー、90分、公開オランダ1210日、カナダはインターネット上映。

映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2020125日)、ヨーロッパ・フィルム・マーケット(独)、カルロヴィ・ヴァリ、マイアミ、サンセバスティアン(ペルラス部門観客賞)、チューリッヒ、ワルシャワ、など各映画祭で上映された。SSIFF 2017ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラムのEFAD-CAACI賞受賞。

 

出演者:セルヒオ・チャミー(スパイ)、ロムロ(A&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、他

 

ストーリー:A&Aエイトケン探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だった所長ロムロは、ホームに潜入してスパイする80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは知らずに応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれて元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡の扱い方、しかし二人を悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォン。その要点の理解に時間がかかるが、ミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせない。老人はジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、どんな報告書を書くのだろうか。一方、撮影スタッフは表面上はホームの伝統的なドキュメンタリーを撮るという名目でセルヒオの後を追うことになる。

 

        

          (ロムロ所長からスパイの特訓を受けるセルヒオ・チャミー)

  

 

   フィクションとノンフィクションの垣根はありません、あるのは映画だけ

 

★ジャンルは一応ドキュメンタリーに区分けされていますが、マイテ・アルベルディによれば「あるのは映画だけ」ということです。上記のように第2La Once14)でキャリア紹介をしておりますが、以後の活躍も追加して紹介すると、1983年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、作家。チリのカトリック大学で社会情報学を専攻、オーディオビジュアルと美学を学ぶ。現在複数の大学で教鞭をとっている。共著だが Teorias del cine documental en Chile 1957-1973 という著書がある。長編ドキュメンタリー第1作「El salvavidasは、チリのバルディビアFF観客賞賞、グアダラハラFF審査員特別賞、バルセロナ・ドキュメンタリーFF新人賞他を受賞している。主な作品は以下の通りです。

 

2007年「Las peluqueras」(短編ドラマ)監督、脚本

2011年「El salvavidas」(長編ドキュメンタリー、デビュー作)監督、脚本

2014年「La Once」(長編ドキュメンタリー、第2作)監督、脚本

2014年「Propaganda」(長編ドキュメンタリー)脚本

2016年「Yo no soy de aquí」(短編ドキュメンタリー)

2016年「The Grown-Ups」(チリ「Los niños」長編ドキュメンタリー、第3作)監督、脚本

2020年「El agente topo」(長編ドキュメンタリー)本作

 

★長編第3The Grown-Upsは、アムステルダム映画祭を皮切りに国際映画祭巡りをした。子供時代を一緒に過ごし仲間、今は中年になったダウン症のグループの愛と友情が語られる。興味本位でない彼らの可能性を探るドキュメンタリー。グラマド映画祭特別審査員賞、マイアミ映画祭Zeno Mountain賞、オスロ・フィルム・サウスフェスティバルDOC:サウス賞など受賞歴多数。

 

    

 

     

          (The Grown-Ups」のスペイン語版ポスター

 

★セルヒオが選ばれたのは好奇心は強いがおよそスパイには見えないその無邪気さだったか。先ずはクライアントの母親ソニア・ぺレスを探しあて親しくならねばならない。このカトリック系のホームは入居者の940名ほどが女性だから結構大変です。セルヒオのように誠実で魅力的な男性は歓迎され、彼に恋する女性も現れる。一方ロムロはセルヒオの娘の心配も和らげなくてはならない、なにしろ父親はスパイなんだから。そしてセルヒオを追いかけてカメラを回したのが、パブロ・バルデス撮影監督、「La Once」と「The Grown-Ups」を手掛けている。完成して公けになれば潜入がバレてしまうわけだから、介護施設とはどういう取り決めをしていたのだろうか。

    

                   

                (学習に専念するセルヒオ)

 

      

         (情報入手に入居者と親しくなるのもスパイの仕事です)

 

★セルヒオは目指す女性を突き止めるが、果たしてミッションは成功したのでしょうか。老人の孤独、やがて訪れるだろう死、セルヒオから送られてくる報告書はアルベルディ監督を内省的な方向に導いていく。現実に即しているとはいえドキュメンタリーというジャンルでは括れない。

 

★スタッフに女性シネアストが目立つが、エグゼクティブ・プロデューサーの一人ジュリー・ゴールドマンは、ニューヨーク出身のドキュメンタリーやTVシリーズを手掛けているプロデューサー兼エグゼクティブ・プロデューサー。2009Motto Pictures を設立、オスカー賞ノミネート2回ほかエミー賞を受賞するなど受賞歴多数のベテラン、手掛けたドキュメンタリーもサンダンスFFで複数回受賞している。もう一人のエグゼクティブ・プロデューサーのキャロリン・ヘップバーンとの共同作品が多い。

 

         

      (エグゼクティブ・プロデューサーのジュリー・ゴールドマン)

 

★成功の秘密の一つが製作者マルセラ・サンティバネスとの息の合った進行が挙げられる。監督とは初めてタッグを組んだのだが、マルセラは「マイテとはまるでパートナーになったようだった」とインタビューに応えている。またスマートフォンの特訓が大変だったとも。チリのカトリック大学視聴覚ディレクターのコミュニケーションを専攻(200310)。20129月から2年間UCLAの修士課程で映画製作を学んだ。ということで母国語の他英語が堪能。サンダンスFFにも監督と参加した。ラテンビート関連ではアンドレ・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』(11)のアシスタント・プロデューサーを務めている。制作会社 Micromundo Producciones 所属。

 

     

     (監督と製作者マルセラ・サンティバネス、サンダンス映画祭2020

  

パブロ・ララインの新作はダイアナ・スペンサーのビオピック2020年07月12日 12:31

        短編コレクションHOMEMADEホームメード』をプロデュース       

 

        

    

★新型コロナウイルスの拡大でサンチャゴの自宅に監禁状態だったパブロ・ラライン1976)の辞書に休暇という単語はありません。43歳になる彼はサンティアゴに監禁中も、弟のフアン・デ・ディオスと設立した制作会社「ファブラFábula」製作の17人の監督からなる短編コレクションHOMEMADEホームメード』をプロデュースしておりました。彼自身も初めてというコメディ「ラスト・コール」に挑戦、ベテランのメルセデス・モランとハイメ・バデルを起用しました。監督1人当たり45分から11分ぐらいで、自宅にある撮影機材や携帯電話を利用してソーシャルディスタンスを守っての撮影です。つまり全作が2020年前半コロナの時代に撮影されました。収益はコロナ禍への支援に充てられる。コロナが否応なく世界を変えつつあることを感じさせます。Netflix 630日から配信が始まっています。

 

      

    (メルセデス・モランとハイメ・バデル、ララインの「ラスト・コール」から)

 

★企画はザ・アパートメントCEOロレンツォ・ミエリとパブロ・ララインの呼びかけで始まった。企画に賛同して出品したシネアストの面々は、『レ・ミゼラブル』に登場した少年が飛ばしたドローンでロックダウンの街を撮影したラジ・リ(仏)、世界で最も孤独な二人の老人、ローマ教皇とイギリス女王の恋の行方を人形劇で描いたパオロ・ソレンティーノ(ローマ)、デヴィッド・マッケンジー(グラスゴー)、レイチェル・モリソン(ロサンゼルス)、『存在のない子供たち』のナディーン・ラバキーハーレド・ムザンナル(ベイルート)、『カセット・テープ・ダイアリーズ』のグリンダ・チャーダ(ロンドン)、『ヴィクトリア』のゼバスチャン・シッパー(ベルリン)、ジョニー・マー(メキシコ)、アナ・リリ・アミールポアー(ロサンゼルス)、ルンガーノ・ニョニ(リスボン)、『ダークナイト』の女優マギー・ギレンホール(バーモント)、ヴァンパイアー・サガ『トワイライト』主演のクリステン・スチュワート(ロサンゼルス)、『ナチュラルウーマン』のセバスティアン・レリオ(サンティアゴ)、日本からは河瀨直美(奈良)などがが参加している。監督18人による17作品、なお()内は撮影地。

 

      

      (ローマ教皇と英国女王、笑い続けたソレンティーノの人形劇から)

 

 

       プリンセス・オブ・ダイアナが離婚を決意したクリスマス休暇の3日間

 

★さて本題、パブロ・ララインが短編コレクションと同時に準備していたのが長編Spencerである。旧姓ダイアナ・スペンサー、プリンセス・オブ・ウェールズのビオピックですが、ラライン映画ではダイアナの死は語られないダイアナ妃があるクリスマス休暇をノーフォークのサンドリンガム邸で王室の人々と過ごした3日間に限られる。「この人たちとはこれ以上一緒に暮らすことはできないと気づいた」3日間、これがチャールズ皇太子との最後のクリスマスとなる。別居が公式に発表されるのは1992129日だからその前年あたりと思われる。もっとも二人の関係悪化は1984年の次男ヘンリー誕生あたりと言われており、離婚までの道のりは長かった。離婚の正式発表は1996年2月29日。

 

★誰がダイアナ妃に扮するのか、オリバー・ヒルシュビーゲルの『ダイアナ』のナオミ・ワッツでも、ドラマシリーズ『ザ・クラウン』のエマ・コリンでもなかった。上記のHOMEMADEホームメード』で監督デビューも果たしたクリステン・スチュワート(ロス1990)を予想した人はいなかったでしょう。イギリスのダイアナ・ファンは、「なんでチリの監督でハリウッド女優なの!」と、いたくオカンムリなのですが、ゴシップの絶えないクリステン起用は大方にとって驚きだったでしょう。くっついたり離れたりしていたステラ・マックスとは完全に切れたらしく、去年の秋頃から新恋人として脚本家のディラン・マイヤーとのツーショットが目立つようになっている。上記の短編コレクションの脚本にも彼女は参加していて、ボイス出演までもしているのです。どうやら今度は本気らしい。

 

     

                  (二人のダイアナ) 

 

★美貌だけが売りの女優でないことは、『WASPネットワーク』でオリヴィエ・アサイヤス監督のキャリア紹介をしたおりに、クリステンが『アクトレス 女たちの舞台』14)で好演、翌年のセザール賞を受賞したことを記事にしたばかりです。アサイヤスとはサイコスリラー『パーソナル・ショッパー』にも出演しています。ヴァンパイアー・サガ『トワイライト』の成功で名声と莫大な資産を両手にしました。評判はイマイチだった『スノーホワイト』、ウディ・アレンの『カフェ・ソサエティ』、昨年は『チャーリーズ・エンジェル』(リメイク版)にも声が掛かった。

 

★周囲を驚かせたクリステン起用についてラライン監督は、「成功させるには映画の核に、とても重要な何かが必要なのです、それは神秘的な何かです。クリステンにはそれがある。私たちが求めていたのは、とても謎めいていて壊れやすいが強さも兼ね備えた女優でした。それらの要素を持ち合わせている女優として私たちはクリステンを思い起こしました。彼女が台本にどのように反応したか、どのように登場人物に近づいて行ったかが重要なのです。彼女なら不信と不穏な何かを同時にやり遂げるだろうと思います。自然に湧き出る強さです」と期待をにじませる。

 

★ララインにとって、クリステンは現時点での「最高の演技者の一人」なのでしょう。過去には、ナタリー・ポートマンにジャッキー・ケネディを演じさせベネチア映画祭に持って行くことができた。果たしてクリステンをダイアナ・スペンサーに化けさせられるか、その力量が試される。おとぎ話を読んで、やがて訪れてくるだろう王子さまを夢見ていた女性たち、歴史的な女性神話に興味をもつ多くの観客の心を掴むことができるでしょうか。

 

     

   (ナタリー・ポートマンと監督、第73回ベネチア映画祭2016のフォトコールから)

 

★スティーヴン・キング自らが自作 Liseys Story を脚色したTVシリーズ『リーシーの物語』(8話、米国・チリ合作、翻訳あり)をニューヨークで撮影中、終了次第ヨーロッパに渡って、来年早々にクランクインの予定だそうです。IMDb情報では、脚本を『イースタン・プロミス』を手掛けたスティーヴン・ナイトが執筆、製作者はラライン・ブラザーズの他、『つぐない』でアカデミー賞作品賞ノミネートのポール・ウェブスターなどがクレジットされているだけです。キャストはクリステン・スチュワート以外未発表、コロナの影響をうける可能性もゼロではないからカンヌに間に合うかどうか。監督自身も「撮影前に作品の説明はできません。なぜなら映画製作は思わぬリスクと背中合わせだからです。私の最大の喜びは映画を撮ること、アイデアが明確になり作品として完成されていく過程です。もし言ってよければ、こうして仕事を続けられるのは特権であり喜びです」と。

 

       

        (弟フアン・デ・ディオスと監督、ラライン・ブラザーズ)