スペイン移住を決意したアルフレッド・カストロ*チリの才能流出 ― 2024年05月23日 09:57
「チリではプラチナ賞なんか誰も気にかけない!」
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(ズームでインタビューに応じるカストロ、2024年4月25日、メキシコ・シティ)
★先月、4個めのイベロアメリカ・プラチナ賞(TV部門男優賞)を受賞したアルフレッド・カストロのスペイン移住のインタビュー記事に接しました。ニコラス・アクーニャの「Los mil días de Allende」(全4話、仮題「アジェンデの1000日」)でサルバドール・アジェンデ大統領(1970~73)を体現した演技で受賞したのですが、このドラマ出演とスペイン移住がやはりリンクしているようです。ラテンアメリカ諸国のなかでは、チリは経済こそ比較的安定していますが、文化軽視が顕著で芸術にはあまり敬意を払いません。多くのシネアストがヨーロッパやアメリカを目指す要因の一つです。インタビュアーは2022年からチリに在住するエルパイスの記者アントニア・ラボルデ、メキシコのプロダクションのための撮影が終了したばかりのカストロとズームでインタビュー、以下はその要約とカストロのキャリア&フィルモグラフィーを織り交ぜて紹介したい。
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(アジェンデ大統領に変身するためのメイクに毎日3時間を要した)
★チリだけでなくアルゼンチンを筆頭にラテンアメリカ諸国やスペインなどの映画に出演していることもあって、当ブログでも記事にすることが多い俳優の一人です。しかしその都度近況をアップすることはあっても纏まったキャリア紹介をしておりませんでした。パブロ・ララインの長編デビュー作「Fuga」、続く「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』『ポスト・モーテム』『Noノー』)、『ザ・クラブ』や『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』、『伯爵』と監督の主要作品で存在感を示しているパフォーマーです。
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(観客を震撼させた『トニー・マネロ』のポスター)
★アルフレッド・アルトゥール・カストロ・ゴメスは、1955年サンティアゴ生れの68歳、俳優、舞台演出家、映画監督、その幅広い演技力でラテンアメリカを代表する俳優の一人、特にチリの舞台芸術ではもっとも高く評価されている演技者及び演出家と言われています。5人兄弟でサンティアゴで育った。母親を10歳のとき癌で失っている。ラス・コンデスのセント・ガブリエル校、プロビデンシアのケント校、ラス・コンデスのリセオ・デ・オンブレス第11校で学んだ。1977年チリ大学芸術学部演劇科卒、同年APESエンターテイメント・ジャーナリスト協会賞を受賞する。同じくイギリスのピーター・シェイファーの「Equus」で舞台デビュー、専門家から高い評価を得る。
★1978年から1981年のあいだ、創設者の一人でもあったテアトロ・イティネランテで働く。1982年、チリ国営テレビ制作の「De cara al mañana」でTVでのキャリアをスタートさせた。翌年ブリティッシュ・カウンシルの奨学金を得てロンドンに渡り、ロンドン音楽演劇アカデミーで学んだ。1989年にはフランス政府の奨学金を受け、パリ、ストラスブール、リヨンで舞台演出の腕を磨き、帰国後テアトロ・ラ・メモリアを設立したが、2013年資金難で閉鎖した。彼は、チリの舞台芸術で高く評価されている演技者であり演出家ではあるが、大衆向けではない。傾向として登場人物に複数の人格をあたえ、それを厳密に具現化すること、比喩に満ちた演出で知られています。「私は、2000人が見に来てくれる劇場を作っているわけでも、起承転結のある物語を作っているわけでもありません」と語っている。
★その後フェルナンド・ゴンサレス演劇アカデミーの教師及び副理事長として働く。カトリック大学の演劇のため、ニカノール・パラが翻案した「リア王」、ホセ・ドノソの小説にインスパイアーされた「Casa de luna」他を上演した。2004年にサラ・ケインの戯曲「Psicosis 4:48」を演出、翌年、チリのアーティストに与えられるアルタソル賞を演劇部門で受賞、主演のクラウディア・ディ・ジローラモも女優賞にノミネートされた。2014年、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』を演出、キャストはチリ演劇界を牽引するアンパロ・ノゲラ、マルセロ・アロンソ、ルイス・ニエッコ、パロマ・モレノを起用した。2020年3月日刊紙「エル・メルクリオ」によって2010年代の最優秀演劇俳優に選ばれている。
★1998年、チリ国営テレビ局に入社、ビセンテ・サバティーニ監督と緊密に協力し、TVシリーズの黄金時代(1990~2005)といわれたシリーズに出演して絶大な人気を博した。2006年、上述したパブロ・ララインの長編デビュー作「Fuga」に脇役で出演、2008年「ピノチェト政権三部作」の第1部となる『トニー・マネロ』に主演、その演技が批評家から絶賛された。第2部『ポスト・モーテム』、第3部『No /ノー』」と三部作すべてに出演、以後ララインとのタッグは『ザ・クラブ』から『伯爵』まで途絶えることがない。
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(女装に挑戦したロドリゴ・セプルベダの「Tengo miedo torero」のフレームから)
★2015年、初めて金獅子賞をラテンアメリカにもたらしたロレンソ・ビガスの『彼方から』に主演したこともあってか、その芸術的キャリアが評価されて、2019年にベネチア映画祭からスターライト国際映画賞が授与された。以下にTVシリーズ、短編以外の主なフィルモグラフィーをアップしておきます。(ゴチックは当ブログ紹介作品、主な受賞歴を付記した)
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(金獅子賞を受賞したロレンソ・ビガスの『彼方から』で現地入りしたカストロ)
◎主なフィルモグラフィー
2006年「Fuga」監督パブロ・ラライン
2008年「La buena vida」(『サンティアゴの光』)同アンドレス・ウッド
2008年「Tony Manero」(『トニー・マネロ』「ピノチェト三部作」第1部)
同パブロ・ラライン
アルタソル2009男優賞、金のツバキカズラ2008男優賞、ハバナFF2008男優賞、他
2010年「Post Mortem」(『ポスト・モーテム』「ピノチェト三部作」第2部)同上
グアダラハラ映画祭2011男優賞
2012年「No」(『No/ノー』「ピノチェト三部作」第3部)同上
2013年「Carne de perro」監督フェルナンド・グッゾーニ
2015年「Desde allá」(『彼方から』ベネチアFF金獅子賞)
同ロレンソ・ビガス(ベネズエラ) テッサロニキ映画祭2015男優賞
2015年「El club」(『ザ・クラブ』ベルリンFFグランプリ審査員賞)同パブロ・ラライン
フェニックス主演男優賞、マル・デル・プラタFF男優賞
2016年「Neruda」(『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』カンヌFF「監督週間」)同上
2017年「La cordillera」(『サミット』)同サンティアゴ・ミトレ(アルゼンチン)
2017年「Los perros」(カンヌFF「批評家週間」)同マルセラ・サイド
イベロアメリカ・プラチナ2018主演男優賞
2018年「Museo」(ベルリンFF)同アロンソ・ルイスパラシオス(メキシコ)
2019年「El principe」(ベネチアFF批評家週間クィア賞)同セバスティアン・ムニョス
イベロアメリカ・プラチナ2021助演男優賞
2019年「Algunas bestias / Some Beasts」(サンセバスチャンFF)
同ホルヘ・リケルメ・セラーノ
2020年「Tengo miedo torero / My Tender Matador」同ロドリゴ・セプルベダ
グアダラハラFF2022メスカル男優賞&マゲイ演技賞、カレウチェ2022主演男優賞
2020年「Karnawal」同フアン・パブロ・フェリックス
グアダラハラFF2020男優賞&メスカル男優賞、銀のコンドル2022助演男優賞、
マラガFF2021銀のビスナガ助演男優賞、イベロアメリカ・プラチナ2022助演男優賞
2021年「Las consecuencias」(マラガFF批評家審査員特別賞)
同クラウディア・ピント(ベネズエラ)
2022年「El suplente」(『代行教師』サンセバスチャンFF)
同ディエゴ・レルマン(アルゼンチン)
2022年「La vaca que canto una cancion hacia el futuro」同フランシスカ・アレグリア
2023年「Los colonos」(『開拓者たち』カンヌFF「ある視点」)同フェリペ・ガルベス
2023年「El viento que arrasa」同パウラ・エルナンデス
2023年「El conde」(『伯爵』)同パブロ・ラライン
★フランコ没後半世紀が経っても多くの信奉者がいるように、チリのピノチェト信奉者はしっかり社会に根付いている。社会主義者アジェンデ大統領の最後の3年間(1970~73)を描いたTVミニシリーズ「Los mil días de Allende」で大統領に扮した俳優を攻撃したり、一部のメディアがタイトルを無視したりしたことがチリ脱出の引き金になっているようです。要約すると、まずはスペインに部分的に軸足を移し、本格的な移住は来年早々になる。このことが吉と出るかどうか分からないが、チリとの関係は今後も続ける。スペイン国籍は民主的記憶法のお蔭で既に取得している。母方の祖父がカンタブリア出身であったこと、ゴメス家の歴史を書いたスペインの従兄弟と知り合いだったことが取得に幸いした。母方の苗字がゴメスということで、ルーツを徹底的に調べることができた。
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(『ポスト・モーテム』右は共演者アントニア・セへルス)
★TVシリーズ「アジェンデ」はベルギー、フランス、スペインでの放映が決定しており、国内より海外での関心の高さが顕著です。アウグスト・ピノチェト陸軍大将が犯した軍事クーデタから約半世紀が経つが、チリでの総括は当然のことながら終わっていない。両陣営の対立は相変わらずアンタッチャブルな側面を持っている。「パンを買いに出かけたら無事に帰宅できる、通りが憎しみに包まれていないところで暮らしたい」と、チリで最も多い受賞歴を持つカストロはインタビューに応えている。〈ボット〉はネガティブなコメントを集め、プレスはそっぽを向く。チリでは文化など不愉快、海外で評価される人は無価値、「4個のプラチナ賞など誰も重要視しない!」とカストロ。
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(パブロ・ララインの『ザ・クラブ』のフレームから)
★移住を決意した理由の一つに68歳という微妙な年齢もあるようです。「私はもう若くない」と、引退するには若すぎるがチリで仕事を続けるのはそう簡単ではない。スペインにいるエージェントたちから「アルフレッド、もしそのうち考えるよなら、来るチャンスはないよ」と言われた。しかし「私にとってチリは常に私を育ててくれ、楽しんだところだ。良きにつけ悪しきにつけ、チリは私の祖国なんです」と。
★60代というのは興味ある世代です。「スペイン語を母語とするコンテストの機会はそんなに多くない。私の世代には素晴らしい俳優がいるが、5~6人くらいです。自分は壁の隙間に入っている」。世間に〈高齢者〉と一括りされているが、旅をして、恋をして、仕事をして、SNSを自由に操作しているアクティブな〈60代の若者〉もいる。「このコンセプトが気に入った。自分にピッタリだよ」。幸運を祈りますが、わくわくするような映画を待っています。
◎主な関連記事
*「ピノチェト政権三部作」の紹介記事は、コチラ⇒2015年02月22日
*『ザ・クラブ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年10月18日
*『彼方から』の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月30日
*『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』の紹介記事は、コチラ⇒2016年05月16日
*『サミット』の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月18日
*「Los perros」の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月01日
*「Museo」の紹介記事は、コチラ⇒2018年02月19日
*「Algunas bestias / Some Beasts」の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月13日
*「Tengo miedo torero / My Tender Matador」の関連記事は、コチラ⇒2019年02月18日
*「Karnawal」の紹介記事は、コチラ⇒2021年06月13日
*「Las consecuencias」の紹介記事は、コチラ⇒2021年07月01日
*『代行教師』の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月09日
*『開拓者たち』の紹介記事は、コチラ⇒2023年05月15日
マイテ・アルベルディの新作ドキュメンタリー*ゴヤ賞2024 ⑤ ― 2024年01月18日 21:48
マイテ・アルベルディの「La memoria infinita」―イベロアメリカ映画
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★サンダンス映画祭2024でワールドプレミアされ、ワールドシネマ審査員グランプリ受賞を皮切りに始まった、ドキュメンタリー作家マイテ・アルベルディの「La memoria infinita」の快進撃は、ベルリン、マイアミ、グアダラハラ、リマ、サンセバスチャン、アテネと世界を駆け巡りました。第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた前作『83歳のやさしいスパイ』(20「El agente topo」)の知名度だけではなかったでしょう。当ブログはラテンビート2020でオンライン上映された折りの邦題『老人スパイ』でアップしています。
*『老人スパイ』の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィ紹介は、
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★サンダンスに続くベルリン映画祭では観客のほとんどが感涙にむせんだという。というわけでパノラマ部門の観客賞(ドキュメンタリー部門)を受賞したのでした。昨年は国際映画祭での受賞ラッシュの1年でしたが、12月17日に開催されたホセ・マリア・フォルケ賞のガラにはアルベルディ自身が登壇してラテンアメリカ映画賞のトロフィーを手にいたしました。サンセバスチャン映画祭ペルラス部門にノミネートされながら未紹介でしたので、ゴヤ賞ガラに間に合うようアップいたします。
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(トロフィーを手にして受賞スピーチをする監督、フォルケ賞ガラ1月17日)
★本作の主人公は、アウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティア、二人がパートナーとして一緒に暮らした25年間の物語です。ゴンゴラはジャーナリスト、プロデューサー、ニュースキャスター、ウルティアは女優として有名ですが、第一次ミシェル・バチェレ政権下(2006~10)では文化芸術大臣を務めた政治家でもあり、つまり二人はチリではよく知られた著名人のカップルでした。8年前の2014年、ゴンゴラはアルツハイマー病と診断されました。その後二人は、2016年1月に正式に結婚しました。アルベルディ監督との出会いは5年前、撮影期間はコロナ禍を挟んで5年間に及びました。監督が二人に接触できずにいたときにはパウリナにカメラを渡して撮影してもらった部分、家族のアーカイブ映像も含まれている。
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(左から、パウリナ・ウルティア、アウグスト・ゴンゴラ、アルベルディ監督)
「La memoria infinita」(英題「The Eternal Memory」)
製作:Fabula / Micromundo Producciones / Chicken And Egg Pictures
監督・脚本:マイテ・アルベルディ
音楽:ミゲル・ミランダ、ホセ・ミゲル・トバル
撮影:ダビ・ブラボ、パブロ・バルデス
編集:カロリナ・シラキアン
プロダクション・マネージメント:マルコ・ラドサヴリェヴィッチRadosavljevic
製作者:マイテ・アルベルディ、ロシオ・Jadue(Fabula)、フアン・デ・ディオス・ラライン(同)、パブロ・ラライン(同)、アンドレア・ウンドゥラガ(同)、(エグゼクティブ)マルセラ・サンティバネス、クリスティアン・ドノソ、他多数
データ:製作国チリ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、85分、撮影期間2018年から2022年、配給権MTV Entertainment Films(パラマウント・メディア・ネットワークス部門)、公開チリ8月24日
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2023ワールドシネマ(ドキュメンタリー部門)審査員大賞、ベルリン映画祭パノラマ(ドキュメンタリー部門)観客賞、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門上映、全米審査委員会ナショナル・ボード・オブ・レビューのベスト5の1つに選ばれ、ニューヨーク映画批評家オンライン賞、フォルケ賞ラテンアメリカ映画賞など受賞、他2023年のフロリダ、マイアミ、グアダラハラ、リマ、トロント、アテネ、ヒューストン、ミネアポリス・セントポール、ダラス、ストックホルム、各映画祭にノミネートされた。1月12日発表のシネマアイ栄誉賞2024では、監督賞と記憶に残る映画賞Unforgettablesを受賞、ゴヤ賞の結果待ち。
キャスト: アウグスト・ゴンゴラ(1952~2023)、パウリナ・ウルティア(1969~)、(以下アーカイブ)グスタボ・セラティ(アルゼンチンの俳優・作曲家1959~2014)、ペドロ・レメベル(チリの脚本家1952~2015)、ハビエル・バルデム(スペインの俳優・製作者1969~)、ラウル・ルイス(チリの監督・脚本家1941~2011)他
解説:アウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティアは25年間一緒に暮らしています。8年前、アウグストがアルツハイマー病と診断されました。二人とも、彼がパウリナを認識できなる日を怖れています。アウグストはかつてピノチェト軍事独裁政権下のレジスタンス運動の記録者であり、その残虐行為を忘れないようにすることに専念しています。しかしアルツハイマー病が彼の記憶を侵食していきます。パウリナとの日常生活も蝕まれていきますが自分のアイデンティティを維持しようとしています。パウリナは二人に降りかかる困難に直面しながらも、介護と優しさとユーモアを忘れません。二人の人生の記憶と、チリという国家の記憶を監督は再構成しようとしています。
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★アウグストはベルリン映画祭後の2023年5月19日に鬼籍入りしましたが、パウリナのことは最後まで認識できたということです。監督は自身がパンデミックで二人に接触できなかったときに、パウリナが撮影した少し焦点のあっていない映像も取り入れています。そのなかに重要な瞬間があるということです。個人と集団の記憶についての物語のなかで、記憶を失うということが何を意味するのか、記憶を維持するということがどうして重要なのか、そしてその喪失の悲しみなどが敬意をもって語られている。
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★ドラマではジュリアン・ムーアがアカデミー賞主演女優賞を手にした『アリスのままで』(14)、アンソニー・ホプキンスが同じく主演男優賞を受賞した『ファザー』(20)など記憶に残る作品があります。しかしドクドラ、ドキュメンタリードラマは多数あっても本作のような作品は多くないように思います。信友直子監督が自身の両親を撮り続けた『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18)、当ブログで紹介した女優カルメ・エリアスを追ったクラウディア・ピントの「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」などが例に挙げられると思います。4年前にアルツハイマー病の診断を受けた女優の「今」を記録しつづけているドキュメンタリーです。本作はゴヤ賞2024ドキュメンタリー部門にノミネートされており、前者は4年後に家族が母親を看取るまでの続編が撮られています。
*「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」の紹介記事は、
★話をアウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティアに戻すと、アルツハイマー病はゆっくり進行していく治療の困難な病です。二人も同じプロセスを辿るわけですが、どのように葛藤を解決しようとしたのか、自分たちの人生や愛について語りあい、それは「禍福は糾える縄のごとし」という諺に行きつくことになります。チリで8月24日に公開されるやドキュメンタリーにもかかわらず、第1週目の観客動員数が5万人を超え、興行成績は『バービー』や『オッペンハイマー』、『グランツーリスモ』などを抜いたということです。
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チリのクリストファー・マレーの『魔術』*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月16日 16:48
正義を求める少女の物語『魔術』はファンタジー・ドラマ
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★ワールド・フォーカス部門(ラテンビートFF共催)で上映されるクリストファー・マレーの『魔術』は、1880年、チリのレクタ・プロビンシア団体のメンバーが使ったという〈魔術〉が告発された実話にインスパイアされた映画です。18世紀から20世紀初頭まで実際に存在していた組織のようです。チリの先住民はペルーやメキシコのように多くありませんが、マプチェ・ドゥングン語を話すマプチェ族が現在でも減少したとはいえ約70万人を数え、これは全人口の4%に当たります。本作でもスペイン語、ドイツ語の他にマプチェ・ドゥングン語が使用されている。その抵抗の歴史は現在でも息づいており、チリの文化や政治の多様性に影響を与えている。2021年から「先住民の日」(6月20日)が設けられ、日本の「山の日」や「スポーツの日」のように日曜日と重なるとずれる移動祝日となった。
★ジャンルはファンタジーに分類されているようですが、上記のような背景を頭に入れて観ると、また違った見え方があるのではないかと思います。本作の舞台チロエはロス・ラゴス州に属するチリでも2番目に大きな島です。今回コンペティション部門で上映される、フェリペ・ガルベスの『開拓者たち』の舞台になるティエラ・デル・フエゴが最大の島、こちらは先住民セルクナム(またはオナス)族のジェノサイドが語られ、チリ共和国の歴史の一端が描かれている。これは偶然ではなく、若い監督たちが自国の負の歴史に目を向け始めているのかもしれません。
『魔術』(「Sorcery / Brujería」)
データ:製作国チリ=メキシコ=ドイツ、2023年、スペイン語・マプチェドゥングン語・ドイツ語、ファンタジー・ドラマ、100分、製作はBord Cadre Films、Fabula、Match Factory Productions。
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2023ワールド・フィルム・ドラマ部門でプレミア、ヨーテボリFF国際コンペティション正式出品、トゥールーズ(シネラティノ)FF作品賞受賞、富川(プチョン)ファンタスティックFF作品賞受賞、シッチェスFFファンタスティック部門正式出品、ミュンヘンFF、他
監督:クリストファー・マレー(マーレイ、サンティアゴ1985)、脚本はパブロ・パレデスとの共同執筆、長編3作目。製作者にはFabulaのパブロ&フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が参画している。撮影マリア・セッコ、編集パロマ・ロペス、音楽レオナルド・ハイブルム。監督キャリア&フィルモグラフィーについては、デビュー作『盲目のキリスト』(ラテンビートFF2016)で紹介しています。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2016年10月06日
キャスト:バレンティナ・ベリス・カイレオ(ロサ)、ダニエル・アンティビロ(マテオ・コニュエカル)、セバスティアン・ヒュルク(TIFF表記フールク、農場主ステファン)、フランシスコ・ヌニェス(ロサの父親フアン)、ダニエル・ムニョス(副代理人アセベド)、ネディエル・ムニョス・ミラロンコ(アウロラ・キンチェン)、アニック・ドゥラン(ステファンの妻アグネス)、イケル・エチェベルス(ステファンの息子フランツ)、他
ストーリー:1880年、チリの離島チロエ、先住民の少女ロサはドイツ人の入植者が経営する農場に父親と一緒に住み込みで働いている。ある日のこと、農場主が不手際を理由に父親を無残な方法で殺害したとき、ロサは正義を求めて、強力な魔術師の組織の王に助けを求めに出発します。
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(ロサ)
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(農場主ステファン)
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(ステファンの家族)
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(ロサと副代理人アセベド)
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(ロサとアウロラ・キンチェン)
オリソンテス・ラティノス部門③*サンセバスチャン映画祭2023 ⑪ ― 2023年08月31日 11:11
ルシア・プエンソの新作「Los impactados」がノミネート
★オリソンテス・ラティノス部門の最終グループで、SSIFF がプレミアというのはアルゼンチンのルシア・プエンソの5作目「Los impactados」のみ、他はベルリンとかカンヌでプレミアされている。本祭は三大映画祭と言われるカンヌ、ベネチア、ベルリンのほか、トロントの後ということもあって、どうしても新鮮味に欠けます。ルシア・プエンソは4作目「La caída」(22)がプライムビデオで『ダイブ』という邦題で目下配信中です。2007年に『XXY』で鮮烈デビューを果たして以来、問題作を撮り続けている監督の成長ぶりが見られる力作です。新作は本祭がプレミアということもあり賞に絡むのではないかと予想しています。他にリラ・アビレスの「Tótem / Totem」は、世界の映画祭巡りで受賞歴多数です。
*オリソンテス・ラティノス部門 ③*
9)「Heroico / Heroic」メキシコ
監督:ダビ・ソナナ(メキシコ・シティ1989)は、2019年デビュー作「Mano de obra / Workforce」がセクション・オフィシアルにノミネートされている。今回2作目「Heroico / Heroic」がオリソンテス・ラティノス部門にノミネートされた。サンダンス映画祭でプレミア、ベルリン映画祭パノラマ部門正式出品のあとSSIFFにやってきました。より良い未来を求めて軍人学校に入学した反戦主義者の青年を軸にドラマは展開します。現代メキシコに蔓延する体系的な暴力が語られる。
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(ダビ・ソナナ監督、サンセバスチャン映画祭2019にて)
データ:製作国メキシコ、2023年、スペイン語・ナワトル語、ミステリードラマ、88分
キャスト:サンティアゴ・サンドバル・カルバハル(ルイス)、フェルナンド・クアウトル、モニカ・デル・カルメン、エステバン・カイセド、カルロス・ヘラルド・ガルシア、イサベル・ユディセ
ストーリー:アメリカ先住民のルーツをもつルイス・ヌメズは18歳、よりよい未来を確実にするため軍人学校への入学を申し込む。彼と同じような新入生は、やがて完璧な兵士に変身させようと設計された、暴力が日常的である残酷なヒエラルキー・システムに自分たちが放り込まれたことを理解するだろう。
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10)「Los colonos / The Settlers」チリ=アルゼンチン=オランダ=フランス=イギリス=デンマーク=台湾=スウェーデン、8ヵ国合作映画
監督:フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)のデビュー作。1901年から1908年のパタゴニアを舞台にしたティエラ・デル・フエゴ島の先住民セルクナム虐殺が物語られる。
★本作はカンヌ映画祭2023「ある視点」でプレミアされたおり、作品&監督紹介を既にアップ済みです。オスカー賞2024のチリ代表作品。
*作品&監督紹介記事は、コチラ⇒2023年05年15日
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(フェリペ・ガルベス監督)
11)「Los impactados」アルゼンチン
監督:ルシア・プエンソ(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、作家、製作者。父ルイス・プエンソは、『オフィシャル・ストーリー』(85)でアルゼンチンに初めてオスカーをもたらした監督。ルシアは2001年脚本家としてキャリアをスタートさせる。2013年のオリソンテス・ラティノス部門に長編3作目「El médico alemán Wakolda」(邦題『ワコルダ』)がノミネートされている。第2次世界大戦中、多くのユダヤ人をアウシュビッツで人体実験を繰り返して「死の天使」と恐れられていたナチスの将校ヨーゼフ・メンゲレ医師の実話を映画化した作品。久しくTVシリーズに専念していて、4作目が待たれていたのが上述の『ダイブ』でした。メキシコで起きた実話に着想を得て製作された。製作にも参画している主役のカルラ・ソウサの魅力もさることながら、性加害者のコーチにエルナン・メンドサを迎えるなどかなり見ごたえがあります。勝利が究極の夢である高飛込競技の少女がコーチから性被害を受けていた実話をもとに、ヒロインの栄光と挫折、最後に勝ち取る解放が語られる。
★今回の5作目「Los impactados」は、嵐で雷に打たれことで心身に変化をきたした少女の物語という定義は表層的で、かなり政治的なメッセージが込められているサイコスリラーです。プエンソに影響を与えた監督は、デイヴィッド・リンチを筆頭に、フランソワ・オゾン、オリヴィエ・アサイヤス、ミヒャエル・ハネケ、クレール・ドニなどの作品ということです。主役アダのキャラクターは複雑で、超自然的な要素が設定されており、彼女を苦しめる幻覚や爆発が心的外傷後に起きるストレスなのかどうかは明らかにされない。プエンソの当ブログ登場は、以下にアップしています。
*監督キャリア&『ワコルダ』(ラテンビート2013)紹介は、コチラ⇒2013年10月23日
*『フィッシュチャイルド』(ラテンビート2009)紹介は、コチラ⇒2013年10月11日
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(ルシア・プエンソ監督)
データ:製作国アルゼンチン、2023年、スペイン語、サイコスリラー、90分
キャスト:マリアナ・ディ・ジロラモ(アダ)、ヘルマン・パラシオス(フアン)、ギジェルモ・プフェニング(ジャノ)、オスマル・ヌニェス(コーエン)、マリアナ・モロ・アンギレリ(オフェリア)
ストーリー:アダが野原で雷に打たれた5週間後に昏睡から目覚めると、彼女はすっかり変わってしまっていた。身体的にも精神的にもバランスを崩して苦しんでいます。さらに目に見える明らかな後遺症があり、制御できない一連の奇妙な症状、例えば視覚や聴覚を通しての幻覚、時間の混乱は、彼女を以前の生活から遠ざけ、彼女が愛する人々からの孤立へと駆り立てます。落雷の衝撃を受けた人たちのグループの支援、落雷によって引き起こされる身体的精神的な影響を理解することに専念する医師との信頼を通して、アダはリターンできない旅に誘い出されることになるだろう。
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(アダ役で飛躍的な成長を遂げたと高評価のマリアナ・ディ・ジロラモ)
4)「Tótem / Totem 」メキシコ
監督:リラ・アビレス(メキシコ・シティ1982)は、監督、脚本家、製作者。2018年ニューディレクターズ部門に「La camarista / The Chambermaid」が選ばれている。2020年オリソンテス賞の審査員として現地入りしている。脚本リラ・アビレス、音楽トマス・ベッカ、撮影ディエゴ・テノリオ、編集オマール・グスマン。ドイツを皮切りに、米国、アジア、アフリカ諸国の映画祭巡りをしている。
*受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、香港映画祭ヤングシネマ部門金の火の鳥賞、北京映画祭監督賞・音楽賞、エルサレム映画祭監督賞、リマ映画祭作品賞・撮影賞などの受賞歴多数。
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(リラ・アビレス監督と主役のナイマ・センティエス、ベルリン映画祭2023)
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データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、撮影地メキシコシティ
キャスト:ナイマ・センティエス(ソル)、モンセラト・マラニョン(叔母ヌリア)、マリソル・ガセ(叔母アレハンドラ)、サオリ・グルサ(エステル)、マテオ・ガルシア(父トナティウ)、テレサ・サンチェス(クルス)、イアスア・ラリオス(ルチア)、アルベルト・アマドル(ロベルト)、フアン・フランシスコ・マルドナド(ナポ)、他多数
ストーリー:7歳になるソルは、父親を驚かすびっくりパーティーの準備を手伝うため、祖父の家に来ています。日が経つにつれ、状況はゆっくりと不思議なカオスの大混乱の雰囲気に包まれ、家族の絆をたもつ土台が砕かれていく。ソルは彼女の世界が劇的な変化を遂げるところにちょうどさしかかっていることをやがて理解するでしょう。人生を祝うことで神秘的な道が開かれていく。7歳の少女の視点で生と死、時間が語られる。
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(ソルを演じたナイマ・センティエス、フレームから)
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(左から、ダビ・ソナナ、フェリペ・ガルベス、ルシア・プエンソ、リラ・アビレス)
フェリペ・ガルベスのデビュー作が「ある視点」に*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月15日 11:36
「ある視点」にフェリペ・ガルベスのデビュー作「Los colonos」がノミネート
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★チリのフェリペ・ガルベスのデビュー作「Los colonos」が「ある視点」に正式出品、チリ、アルゼンチン、オランダ、フランス、デンマークなど8ヵ国との合作、ガルベス監督は1983年チリのサンティアゴ生れ、監督、脚本家、フィルム編集者。「ある視点」ノミネートは2011年のクリスティアン・ヒメネスの「Bonsai」以来12年ぶりです。本作は東京国際映画祭2011ワールド・シネマ部門で『Bonsai~盆栽』としてアジアン・プレミアされた。「Los colonos」の舞台は20世紀初頭のチリ南端ティエラ・デル・フエゴ島、先住民族セルクナム(またはオナス)のジェノサイドをテーマにした歴史物、彼らがチリの正史から消されてきた過程を探求している。
「Los colonos / Les colons / The Settlers」(仮題「入植者たち」)
製作:Quijote Films(チリ)、Rei Cine(アルゼンチン)、Quiddity Films(英)、Volos Films(台湾)、共同製作:Cine Sud Promotion(仏)、Snowglobe(デンマーク)、Film I Vast(スウェーデン)、Sutor Kolonko(独)
監督:フェリペ・ガルベス
脚本:フェリペ・ガルベス、アントニア・ヒラルディ
音楽:Harry Allouche
撮影:Simone D’Arcangelo
編集:Mattieu Taponier
プロダクション・デザイン:セバスティアン・オルガンビデ
衣装デザイン:ナタリア・アラヨン、ムリエル・パラ
メイクアップ&ヘアー:ダミアン・ブリッシオ
製作者:ジャンカルロ・ナシ、ステファノ・センティニ、ベンジャミン・ドメネク、サンティアゴ・ガレッリ、エミリー・モーガン、マティアス・ロベダ、ティエリー・ルヌーベル、(エグゼクティブ)コンスタンサ・エレンチュン、エイミー・ガードナー、ほか共同製作者多数
データ:製作国アルゼンチン、チリ、イギリス、台湾、ドイツ、スウェーデン、フランス、デンマーク、スペイン語・英語、2023年、歴史ドラマ、97分
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2023「ある視点」部門正式出品、初長編監督作品賞カメラドールにもノミネートされている。
キャスト:カミロ・アランシビア(メスティーソのセグンド)、ベンジャミン・ウェストフォール(アメリカ人傭兵ビル)、マーク・スタンリー(イギリス人マクレナン中尉)、サム・スプルエル(マルティン大佐)、アルフレッド・カストロ(スペイン人地主ホセ・メネンデス)、マリアノ・リナス(フランシスコ・モレノ)、ルイス・マチン(司教)、マルセロ・アロンソ(大統領勅使ビクーニャ)、アグスティン・リッタノ(アンブロシオ大佐)、ミシェル・グアーニャ(キエプジャ)、アドリアナ・ストゥベン(ホセフィナ・メネンデス)、ほか
ストーリー:19世紀末に羊牧場はチリのパタゴニア地方の領土を拡大していきました。1901年、裕福な地主ホセ・メネンデスは先住民の土地を開拓し、大西洋への道を開くために3人の男を雇いました。最終的な目的は当時の白人の使命に従って、この広大で肥沃な領土を文明化することでした。メスティーソのセグンド、元ボーア戦争のイギリス人船長のマクレナン、アメリカ人傭兵ビルの3人は、国家がメネンデスに与えた土地の境界を定める遠征に乗り出していった。最初は行政上の遠征のように見えたものが、次第に先住民に対する暴力的な狩猟へと変質していった。1901年から1908年のあいだにティエラ・デル・フエゴ島での先住民セルクナム虐殺を描き、先住民が被った植民地化、暴力、不正義というテーマを探求しています。
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★ガルベス監督談によると「誰が歴史を書くのか、どのように書かれるのか、その過程で映画の立ち位置はどのように占めるのかを考えさせてくれる」映画だとコメント。チリの正史から消されてきた先住民虐殺の事実が、如何にして闇に葬られてきたのか、その過程がどうして可能だったのか、メネンデス一家がどのように資金調達をしたのかが語られる。「この映画は、内なる旅とその登場人物の精神の崩壊を通して、強制的に文明化されたモデルを反映させた」とプレスリリースで語っている。チリが建国(1818年)100周年を迎えようとしていた頃の過去にさかのぼり、現在にまで及ぶ理念が語られる。
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★監督紹介:フェリペ・ガルベス(Felipe Galvez Haberle)、1983年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、フィルム編集。2008年フィルム編集者としてキャリアをスタートさせる。2009年の短編「Silencio en la sala」(12分)がBaficiブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭に正式出品されベスト短編賞を受賞。2018年「Rapaz」(13分)がカンヌ映画祭併催の「批評家週間」にノミネートされたことで、その後ウルグアイ映画祭2018、ダウンタウン・ロスアンゼルスFF、ノーステキサスFF、ダラスFF2019のグランプリを受賞、バレンシアFFのCinema Joveにノミネートされた。本作は携帯電話の盗難で告発された十代の少年の市民拘留を描いている。フィルム編集ではクラウディオ・マルコネの「En la Gama de los Grises」(15)、マルティン・ロドリゲス・レドンドのデビュー作「Marilyn」(18)など受賞歴のある映画を多数手掛けている。
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(短編「Rapaz」のポスター)
★カンヌFF2000「ある視点」にノミネートされたミゲル・リティンの「Tierra del Fuego」は、ティエラ・デル・フエゴを舞台にしている。セルクナム虐殺をリードした一人であるルーマニア人ジュリアス・ポッパーを主人公にしたクロニカである。他に先住民ジェノサイドに言及している作品にパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー「El botón de nácar」(15)があり、この作品は『真珠のボタン』の邦題で公開されています。
*監督作品は以下の通り:
2009年「Silencio en la sala」短編12分、監督、脚本、編集
2011年「Yo de aqui te estoy mirande」短編、監督、脚本、編集
2018年「Rapaz」短編13分、監督、脚本、編集
2023年「Los colonos」長編デビュー作、監督、脚本
*「Marilyn」の作品紹介は、コチラ⇒2018年02月25日
*『真珠のボタン』の作品紹介は、コチラ⇒2015年11月16日
*追加情報:本作は『開拓者たち』の邦題で、東京国際映画祭2023にノミネートされた。
セクション・オフィシアル(コンペ部門)①*マラガ映画祭2023 ④ ― 2023年03月03日 18:26
第26回マラガ映画祭2023ノミネーション長編映画全20作
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★コンペティション部門セクション・オフィシアルは全20作、新人発掘の映画祭でもあるのでデビュー作が多いのは当然として、最近はベテラン監督の多さが気になります。すでに既発の国際映画祭(ベルリン、ベネチアなど)でプレミアされたもの、中には受賞作もあるようです。作品数が多いので何回かに分けてアップする予定です。スペイン単独作品が8作と多く、メキシコ、ブラジルは別として、市場が狭く単独では製作できないアルゼンチン、チリ、コロンビアなどのラテンアメリカ諸国は合作です。ブラジルのポルトガル語映画は字幕入り上映、セッションは各3回ずつと例年通りです。
*第26回マラガ映画祭セクション・オフィシアル全20作*
1)20.000 especies de abejas (仮題「2万種のミツバチ」)
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・バスク語・フランス語、ドラマ、129分、長編デビュー作
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2023コンペティション部門でプレミア(2月22日)。ギルデ・ドイツ・フィルムアートシアター賞、バリナー・モルゲンポスト紙読者賞、主演のソフィア・オテロ(9歳)が銀熊主演賞を受賞という快挙、過去の受賞者は故フェルナンド・フェルナン≂ゴメスの2回、2012年にビクトリア・アブリルが『アマンテ』で受賞しているだけである。
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(銀熊主演賞のソフィア・オテロ、ベルリンFF授賞式)
監督紹介:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン、1984年バスク自治州アラバ生れ、監督、脚本家、製作者。バスク公立大学視聴覚コミュニケーションの学位を取得、フィルム編集の制作理論、ESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で映画監督の修士号と映画ビジネスの修士号を取得、マーケティング、配給、国際販売などを学ぶ。2019年制作会社「Sirimiri Films」を設立。
フィルモグラフィー:2012短編「Adri」、2016長編ドキュメンタリー「Voces de papel」(サンセバスチャン映画祭プレミア)、2018短編「Nor nori nork」、2020短編「Polvo somos」、2022短編「Cuerdas」はカンヌ映画祭「批評家週間」に正式出品、受賞歴多数、フォルケ賞短編部門受賞。
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(エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督)
キャスト:ソフィア・オテロ(アイトル/ルシア)、パトリシア・ロペス・アルナイス(母親アネ)、アネ・ガバライン(ルーデス)、イツィアル・ラスカノ(リタ)、サラ・コサル(レイレ)、マルチェロ・ルビオ(ゴルカ)、ウナックス・ヘイデンHeyden、他
ストーリー:8歳になる少女ルシアは他人の期待に添わない。母親のアネは夏休みを利用して3人の子供たちと養蜂をしている実家に帰郷します。アネの母親リタ、叔母ルルド、3世代の女性たちが直面する疑いと怖れは、彼女たちの人生を変えてしまうだろう。性同一性を求めているルシアの物語。
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(ベルリンFFで絶賛されたルシア役のソフィア・オテロ、フレームから)
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2)Bajo terapia (仮題「セラピー中」)
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語、コメディドラマ、93分、マティアス・デル・フェデリコの同名小説の映画化。
監督紹介:ヘラルド・エレーロ、1953年マドリード生れ、製作者、監督。1987年、制作会社「Tornasol Media」設立、国際的に活躍している大物プロデューサー、手がけた作品はドキュメンタリー、エグゼクティブを含めると150作を超える。うち2009年製作の『瞳の奥の秘密』は、アカデミー賞外国語映画賞を受賞、アルゼンチンにオスカー像をもたらした。ロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」ではゴヤ賞2019の監督賞以下7冠を制した。監督作品としては、実話をベースにした「Heroína」でマラガ映画祭2005の銀のビスナガ監督賞を受賞している。続く2006年には「Los aires dificiles」で金のビスナガ作品賞を受賞した。ほかに『戦火の沈黙、ヒトラーの義勇兵』(11)など。
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キャスト:マレナ・アルテリオ、アレクサンドラ・ヒメネス、フェレ・マルティネス、アントニオ・パグド、エバ・ウガルテ、フアン・カルロス・ベリィド
ストーリー:3組の夫婦が珍しいグループ・セラピーのセッションを受けに集まった。心理学者はカップルが一緒に対処しなければならないスローガンを同封した封筒を渡しました。提案されたメカニズムは、誰もが自分の意見を述べ、話し合い、最終的にありのままの自身をさらけ出すことを奨励します。ユーモアを主なツールとして、出会いは予想もしない限界まで複雑になるでしょう。
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3)Desperté con un sueño (仮題「夢で目覚めた」)
データ:製作国アルゼンチン=ウルグアイ、2022年、ドラマ、76分、長編3作目
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2023ジェネレーションKplus部門でプレミアされた。
監督紹介:パブロ・ソラルス、1969年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、俳優、教師。ブエノスアイレス演劇学校に入学、コロンビア大学シカゴ校で映画を学んだ後帰国、母国でキャリアを積む。脚本家として、カルロス・ソリンの「Historias minimas」、アリエル・ウィノグラードの「Sin hijos」、フアン・タラトゥトなどとタッグを組んでいるほか脚本執筆多数。2011年「Juntos para siempre」で長編デビュー、2017年、名優ミゲル・アンヘラ・ソラを主役に起用した2作目「El último traje」が、『家へ帰ろう』の邦題で劇場公開された。SKIP映画祭上映の折来日している。新作が3作目になる。当ブログで「Sin hijos」の作品紹介をしています。
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キャスト:ルーカス・フェロ(フェリペ)、ミレリャ・パスクアル、ロミナ・ペルフォ、マリアナ・スミレビテス、エマ・セナ
ストーリー:フェリペの日常は、湯治場の閑散とした通りを友人たちと自転車に乗ったり、フリースタイルでラップしたり、母親に隠れて演劇のクラスに行ったりして過ごしている。彼の情熱は夢のようなものだが、目覚めると直ぐ内容を書き留めておく。ある映画のオーディションの可能性に直面して、父親が亡くなった8歳のとき以来一度も会ったことのない父方の祖母を頼って首都に脱出する。フェリペは過去の断片をかき集め、自分が何になりたいかを考え始める。
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(再会した祖母、フレームから)
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4)El castigo(仮題「罰」)
データ:製作国チリ=アルゼンチン、スペイン語、2022年、ドラマ、86分
監督紹介:マティアス・ビセ、1979年サンティアゴ・デ・チリ生れ、監督、製作者、脚本家。2003年にデビュー作「Sábado」を若干23歳で撮った。マンハイム・ハイデルベルク映画祭のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー賞を受賞した。2005年の2作目「En la cama」がバジャドリード映画祭2005の作品賞金の穂を受賞、『ベッドの中で』の邦題でミニ映画祭で上映された。5作目「La vida de los peces」はベネチア映画祭2010監督週間でプレミアされ、ゴヤ賞2011イベロアメリカ映画部門で受賞、ブニュエル賞ほか受賞歴多数。6作目「La memoria del agua」はウエルバ映画祭2015銀のコロン賞ほかを受賞、『水の記憶』としてNetflixで配信されている。2022年の「Mensajes Privados」はマラガ映画祭にノミネートされ、ニコラス・ポブレテが助演男優賞を受賞した。新作は9作目になる。
*「Mensajes Privados」の紹介記事は、コチラ⇒2022年03月14日
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(マティアス・ビセ、マラガ映画祭2022のプレス会見)
キャスト:アントニア・セヘルス(アナ)、ネストル・カンティリャナ(マテオ)、カタリア・サアベドラ、ジャイル・フリ Yair Juri、サンティアゴ・ウルビナ(ルーカス)
ストーリー:アナとマテオは、悪さをしたので罰として数分間放っておいた息子が行方不明になってしまった。必死の捜索は、リアルタイムで森の中や自動車道などで行われる。80分間というもの夫婦は、恐怖、罪悪感、壊れやすい彼らの繋がり、最も厳しい発覚に直面する。アナがどこかで息子が見つからないよう願っているのは、彼が生れてからずっと幸せでなかったからだ。
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(息子を探すアナとマテオ)
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マヌエラ・マルテッリ『1976』Q&A*東京国際映画祭2022 ⑨ ― 2022年11月06日 16:21
「母方の祖母が49歳で亡くなった年が1976年でした」
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(マヌエラ・マルテッリ監督、10月28日 Q&Aにて)
★東京国際映画祭は終幕しましたが、10月28日にマヌエラ・マルテッリ監督が参加して行われた『1976』Q&Aをアップいたします。司会は市山尚三プログラミング・ディレクター、言語は英語、約30分で、翌日YouTubeで配信されました。主役カルメンを演じたアリネ・クッペンハイムが女優賞を受賞するオマケも付いたので、最後にキャリアご紹介も付します。
★タイトルとなった〈1976年〉は、監督の「母方の祖母が亡くなった年に因んでいる」と語りました。この発言には重要な意味があったのですが、Q&Aではこれ以上踏み込まなかった。「もう一つの9.11」と称されるチリの軍事クーデタが勃発したのは1973年9月11日でした。1976年は選挙で選ばれた初めての社会主義政権と言われるアジェンデ政権がピノチェト将軍指揮する軍隊によってあえなく崩壊した年ではなかった。3年目となる1976年も多くの民間人の血が流された年ではありましたが、なぜ監督が1976年に拘ったのか、それは母方の祖母が49歳の若さで自死したことでした。
★作品紹介でも触れましたが、1983年生れの監督は祖母には会ったことがない。絵画や彫刻を制作して、主婦だけで終わりたくなかった祖母は、主人公カルメンの造形に投影されている。本作の原動力になったのが、正にこの祖母の自死にあったからでした。長いあいだ家族間で祖母の死について語ることは禁じられていましたが、10年前に重い鬱だけが原因でなかったことを知り、突き動かされるように自国の現代史を調べ始めたという、つまり本作の構想は10年前に遡るということです。クランクイン直前にパンデミックで中断、1年待たねばならず、再開しても制限の多いなかでの撮影を強いられた。これは彼女に限ったことではありませんが、コロナは世界を変えてしまいました。幸運にも完成前にカンヌから選考の報をうけ、その後のプロセスは大車輪だった。
*『1976』の作品&監督キャリア紹介の記事は、コチラ⇒2022年09月13日
★印象に残ったのは会場から色と音楽に対する拘りを指摘する質問があったことでした。「とても良い質問です」と嬉しそうに前置きして、「赤色は血をイメージし、独裁政権の影が次第にカルメンの日常を塗り替えていくイメージ、外から聞こえてくる音や音楽は、外部からの浸食であり、色と音楽の両方が外の世界の恐怖、カルメンの気持ちの変化を表現している」と語った。これが成功しているかどうかは評価の分かれるところですが、20年近くに及んだピノチェト軍事独裁政権の恐怖を知らない観客には分かりにくかったかもしれません。
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★監督は大学では、演技のほかに美術も専攻しており、以前「将来的に女優を続けるかどうか分からない、絵の道に進むかもしれない」と語っていたが、一つに祖母の影響があったのかもしれない。その頃から監督になることを視野に入れて演技していたという。「女優としてさまざまな監督を観察しながら演技してきたので、今回の監督デビューは自然な成り行きだった」とチリのインタビューに応えている。チリ・プレミアは首都サンティアゴから南方850キロ離れたバルディビア映画祭(開催10月10日~16日)で、その後劇場公開となっている。
★Q&Aで本国チリでの評価を尋ねられた監督は、「観客の評価はよく、観客はちりばめられたエピソードにそれぞれ反応している。それは2019年の反政府デモをきっかけにした憲法改正の動きがあり、結果的に新憲法は否決されたが、それを残念に思っている人に受け入れられている」と応じていた。10月19日、150万人の民衆がサンティアゴの街頭に繰り出し、経済格差是正、自由の制限、憲法改正を迫ってデモ行進が行われた。この反政府デモについてのドキュメンタリーを撮ったのが、サンセバスチャン映画祭2022ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品に選ばれたパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー「Mi país imaginario」(22)でした。現在はパリ在住ですが、故国チリの現代史を問い続けているドキュメンタリー作家です。当ブログでは「チリ三部作」と称される『光のノスタルジア』『真珠のボタン』『夢のアンデス』を紹介しています。
*「Mi país imaginario」の作品紹介は、コチラ⇒2022年08月22日
★Q&Aは内容的に充実していたとは言い難いのですが、メディア向け撮影を入れた30分では質問者の数も限られ、監督も自分の母語でなかったこともあるのか隔靴掻痒だったに違いない。最後にコロナ感染で危機に苦しんでいる映画界に触れ、「映画館に足を運んでください」と、映画を映画館で観る楽しさを取り戻してほしいと強調しました。勿論、映画を見る媒体は複数あってかまわないのですが、映画とTVドラマは違うはずです。
★チリ映画界の現状は厳しく、監督が映画界入りした2001年に製作された本数は10本だった。その95%は特権的な男性監督によるものです。現在では映画法も制定され4倍に増えていますが、申請倍率も高くアクセス事態が難しいということです。申請は1年1回に限定され、落選すればもう1年待たねばならない。チリは文化活動に資金を使いたくないのが伝統というお国柄、『1976』で「私は忍耐力を養いました」と監督。どんなに素晴らしい映画でも「観られなければ意味がない」とも語っています。既に次回作の準備に取りかかっており、90年代のチリが舞台、デビュー作に繋がっているということです。
★去る9月28日、第37回ゴヤ賞2023(2月11日)イベロアメリカ映画賞のチリ代表作品に選ばれました。監督は「代表作品に選ばれ光栄です。選んでくださった270人のチリ映画アカデミー会員に感謝いたします」とコメントしています。4作に絞られる正式ノミネーションを待たねばなりませんが、候補としてアルゼンチン代表「Argentina, 1985」(サンティアゴ・ミトレ)、コロンビア代表『ラ・ハウリア』(アンドレス・ラミレス・プリド)、ポルトガル代表「Nothing Ever Happened」(ゴンサロ・ガルバン・テレス)、ボリビア=ウルグアイ合作の『Utama~私たちの家~』(アレハンドロ・ロアイサ・グリシ、邦題はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭 SKIP CITY IDCF による)などが候補に上がっています。いずれも強敵ですが残れるでしょうか。ポルトガル映画以外は既にご紹介しています。
★アリネ・クッペンハイム紹介:1969年バルセロナ生れ、父親はフランス人、母親はチリ人、共に手工芸家、両親の仕事の関係で幼少期はヨーロッパ諸国を転々とした。チリに戻ったのは1980年代初頭、サンティアゴ市北部の地方自治体ラス・コンデスの高校で学んだ。その後フェルナンド・ゴンサレスのアカデミー-・クラブで演劇を学んだ。1991年テレノベラ「Ellas por ellas」(4話)出演でスタート、数局のTVシリーズで成功、女優としての地位を築いた。一方映画デビューは、クラウディオ・サピアインの「El hombre que imaginaba」(98)、アントニア・オリバーレスの「Historias de sex」(00)など、しかしTVシリーズ出演が多い。1999年、クラウディア・ディ・ジロラモ主演のTVシリーズ「La fiera」を最後に、当時の夫で俳優のバスティアン・ボーデンへーファーとフランスに渡る(2006年離婚)。
★フアン・ヘラルドのキューバ革命をテーマにしたドイツ、メキシコ、米国合作「Dreaming of Julia / Sangre de Cuba」(03、英語)で、ガエル・ガルシア・ベルナルやハーヴェイ・カイテル、セシリア・スアレスとクレジットを共有している。2004年、チリに帰国、アンドレス・ウッドの「Machuca」(04)、アジェンデ政権に反対する1970年代初頭の富裕階級の典型的な女性像を演じて賞賛された。本作にはマヌエラ・マルテッリ監督も共演している。レビスタWIKEN助演女優賞受賞、邦題『マチュカ~僕らと革命』でDVD化された。ウッド監督とは「La buena vida」(ラテンビート2009の邦題『サンティアゴの光』)に再びオファーを受け、今度はマルテッリと母娘を演じた。ペドロ・シエンナ賞、ビアリッツFF演技賞などを受賞している。
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(反アジェンデ派のシンボリックな女性像を演じた『マチュカ』から)
★アリシア・シェルソンのデビュー作「Play」(05『プレイ』)、本作はシェルソンがSKIP CITY IDCF 2006で新人監督賞を受賞した作品、また同監督の「Turistas」(08)では主役を演じた。アジェンデ大統領の最後の7時間を描いたミゲル・リッティンの「Allende en su laberinnto」(14)で、大統領の私設秘書、愛人でもあったミリア・コントレラスに扮した。通称〈La Payita〉はスウェーデン大使の助けを得てキューバに亡命、1990年に帰国するまでパリやマイアミに住んでいた。軍事クーデタの証言者の一人。
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(マルセロ・アロンソと倦怠期の夫婦を演じたシェルソンの「Turistas」から)
★公開作品にはセバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』(17)がある。TVシリーズ「42 Días en la Oscuridad」(22、6話)で再びクラウディア・ディ・ジロラモと共演、実話に着想を得たミステリー、ある日突然失踪する主婦を演じている。本作は『暗闇の42日間』の邦題でNetflix ストリーミング配信中です。ラテンアメリカ諸国だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアで配信され、チリでもっとも成功したTVシリーズの代表作となっている。
★『1976』出演で、8月開催の第26回リマ映画祭2022で演技賞、東京国際映画祭の女優賞を受賞、次回作はバレリア・サルミエントの犯罪ミステリー「Detrás de la Lluvia」(22)、本作にはマヌエラ・マルテッリ、クラウディア・ディ・ジロラモが共演している。
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(自分の行動がどれほど深刻か気づき始めるカルメン、『1976』から)
マヌエラ・マルテッリ、監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑭ ― 2022年09月13日 17:23
ホライズンズ・ラティノに「1976」で監督デビューしたマヌエラ・マルテッリ
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★女優として実績を残しているマヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)が「1976」で長編監督デビューを果たしました。チリの1976年という年は、ピノチェト軍事独裁政権の3年目にあたり、隣国アルゼンチン同様、多くの民間人の血が流された年でもあった。マルテッリ自身は生まれていませんでしたが、ピノチェト時代(1973~90)は延々と続いたから空気は吸って育ったのです。主人公カルメンの造形は会ったことのない祖母の存在を自問したとき生まれたと語っています。アウトラインはアップ済みですが、チリ映画の現状も含めて改めてご紹介します。アメリカ公開は「1976」では映画の顔として分かりづらいということから「Chile 1976」とタイトルが変更されたようです。
「1976」
製作:Cinestacion / Wood Producciones / Magma Cine
監督:マヌエラ・マルテッリ
脚本:マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット
音楽:マリア・ポルトゥガル
撮影:ソレダード(ヤララYarará)・ロドリゲス
美術:フランシスカ・コレア
編集:カミラ・メルカダル
衣装:ピラール・カルデロン
録音:ジェシカ・スアレス
キャスティング:マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ
メイクアップ:バレリア・ゴッフレリ、カタリナ・ペラルタ
製作者:オマール・ズニィガ、ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョ、アレハンドロ・ガルシア、アンドレス・ウッド、フアン・パブロ・グリオッタ、ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他
データ:製作国チリ、アルゼンチン、カタール、2022年、スペイン語、スリラードラマ、95分、販売Luxbox、アメリカ公開は今冬予定。
映画祭・受賞歴:トゥールーズ(ラテンアメリカ)映画祭2022グランプリ・特別賞・ルフィルム・フランセ賞3冠、カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ブリュッセル映画祭インターナショナル部門出品、エルサレム映画祭デビュー部門「インターナショナル・シネマ賞」受賞、メルボルン映画祭コンペティション部門出品、リマ映画祭作品賞を含む3冠、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ロンドン映画祭デビュー作部門
キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス神父)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、アマリア・カッサイ(同娘レオノール)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、マルシアル・タグレ(オズバルド)、ガブリエル・ウルスア(トマス)、ルイス・セルダ(ペドロ)、アナ・クララ・デルフィノ(クララ)、エルビス・フエンテス(隣人ウンベルト)、他多数
ストーリー:チリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの神父が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。
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(支配階級のシンボル、パールのネックレス姿のカルメン)
チリ映画の隆盛――「クール世代」の台頭
★ピノチェト軍政下では、映画産業は長いあいだ沈黙を強いられ、才能流出が止まりませんでした。『トニー・マネロ』や『No』で知られるパブロ・ララインを中心に、若い世代が集まってグループを結成、自らを「Generation High Dedinition」(高品位があると定義された世代)「クール世代」と称した。指導者はチリ映画学校の設立者カルロス・フローレス・デルピノ*、メンバーは監督ではパブロ・ラライン、アンドレス・ウッド、セバスティアン・レリオ、アリシア・シェルソン、クリスティアン・ヒメネス、セバスティアン・シルバ、ドミンガ・ソトマヨール、アレハンドロ・フェルナンデス、ララインの実弟である製作者フアン・デ・ディオス・ラライン、撮影監督ミゲル・ジョアン・リティン、俳優アルフレッド・カストロ、アントニア・セヘルスなどが中心になっており、当ブログではそれぞれ代表作品を紹介しています。
★本作の特徴は女性スタッフの多さですが、製作者の一人ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョは『木曜から日曜まで』の監督であり、ラケル役のアントニア・セヘルスは、パブロ・ララインと結婚、彼の「ピノチェト政権三部作」すべてに出演していましたが、『ザ・クラブ』を最後に2014年離婚してしまいました。言語が共通ということもあって「クール世代」はアルゼンチン、ベネズエラ、メキシコなどのシネアストとの合作が多いことも特色です。なかにはセバスティアン・シルバ(『家政婦ラケルの反乱』)のようにゲイであるためチリ社会の偏見に耐えかねてアメリカに脱出してしまった監督もおりますが、昨今のチリ映画の隆盛はこのグループの活躍が欠かせませんでした。ラテンビート、東京国際映画祭、東京フィルメックスなどで紹介される作品のほとんどがクール世代の監督です。概ね1970年以降の生れですが、ここにマルテッリのような80年代生れが参入してきたということでしょうか。
音楽も色彩もメタファーの一つ、マルテッリの視覚言語
★カルメンは独裁政権の直接の協力者ではないが被害者でもなく、ただ傍観者である。医師である夫がピノチェトの協力者であること、それで経済的な恩恵を受けていることを知っており、政権との対立で窮地に陥ると夫の名前を利用する。ただこの共謀にうんざりしている。真珠のネックレス、カシミアのコート、流行の靴を履いているが、屈辱的な壁の花である。なりたかったのは医師であり主婦ではなかった。子育てに専念するため断念したという母親を娘は軽蔑する。
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(カルメン役のアリネ・クッペンハイム、フレームから)
★カルメンは特権的な立場にあるが、逃亡者エリアスとの関係は、夫が妻を過小評価していることを利用しており危険すぎる。彼女の行動は最初政治的ではなかったが、やがて政治的なものになっていく。予告編の冒頭にある瓶のなかの金魚のようにカルメンは閉じ込められているが、飛びだせば永遠に〈行方不明者〉になる。予告編に現れる鮮やかなペンキの色は、観客を不穏な雰囲気に放り込む。受話器から聞こえるノイズ、シンセサイザーの耳障りな音楽はカルメンの危機を予感させる。メタファーを読みとく楽しみもありそうです。
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(逃亡者エリアス役のニコラス・セプルベダ)
★マヌエラ・マルテッリ Manuela Abril Martelli Salamovich 監督紹介:1983年チリのサンティアゴ生れ、女優、監督、脚本家。父親はイタリア出身、母親はクロアチア出身の移民、中等教育はサンティアゴの北東部ビタクラのセント・ジョージ・カレッジで学んだ。最終学年にゴンサロ・フスティニアーノの「B-Happy」(03)のオーディションに応募、主役を射止める。本作の演技が認められハバナ映画祭2003女優賞を受賞した。高校卒業後、2002年、チリのカトリック司教大学で美術と演技を並行して専攻、2007年卒業した。2010年、フルブライト奨学金を得てアメリカに渡り、テンプル大学で映画制作を学んでいる。
★2004年、アンドレス・ウッドの「Machuca」(『マチュカ-僕らと革命』DVD)に出演、アルタソル女優賞を受賞、TVシリーズ出演をスタートさせている。2008年、ウッド監督のオファーを受けて「La buena vida」(『サンティアゴの光』ラテンビート2009)に出演、監督デビュー作「1976」のヒロイン、アリネ・クッペンハイムの娘役を演じた。ラテンビートには監督が来日、Q&Aがもたれた。セバスティアン・レリオの「Navidad」(09)他、短編、TVシリーズ出演がある。
★国際舞台に登場したのは、ロベルト・ボラーニョの短編 ”Una novelita lumpen” を映画化した、アリシア・シェルソンの「Il futuro」(13、イタリアとの合作)でした。マヌエラはヒロインのビアンカに扮し、オランダのカメレオン名優ルトガー・ハウアーと共演した。サンダンス映画祭でプレミアされ、ロッテルダム、トゥールーズ、サンフランシスコなど国際映画祭で上映された。ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2013で銀のコロン女優賞、シェルソンが監督賞を受賞した。本邦では『ネイキッド・ボディ』の邦題で翌年DVD化されている。第57回ロカルノFF2014にノミネートされたマルティン・Rejtmanの「Dos disparos」に出演している。
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(ニコラス・ヴァポリデュス、ルトガー・ハウアー、監督、マルテッリ、サンダンスFF2013)
★監督、脚本家としては、2014年の短編「Apnea」(7分、チリ=米)が、チリのバルディビアFF2014で上映された他、アルゼンチンのBAFICIブエノスアイレス・インディペンデントFF2015、トゥールーズ・シネラティーノ短編FFにも出品された。カンヌの監督週間2014「Fortnight」のプログラム、チリ・ファクトリーに選ばれ、アミラ・タジディンと「Land Tides / Marea de tierra」(チリ=仏、13分)を共同監督した。翌年の監督週間、ニューヨーク短編FF、サンダンスFF2016、ハバナFF2016に出品された。
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(マヌエラ・マルテッリ、ロカルノ映画祭2014にて)
★デビュー作の製作者の一人ドミンガ・ソトマヨールの「Mar」(14)に脚本を共同執筆している。2013年よりソトマヨールが製作を手掛けることになった「1976」の最初のタイトルは、怒りまたは勇気という意味の「Coraje」だったという。また2016年にはTVシリーズ「Bala loca」(10話)のキャスティングを手掛けている。アリネ・クッペンハイム、アレハンドロ・ゴイック、マルシアル・タグレなど「1976」のほか、『サンティアゴの光』で共演したアルフレッド・カストロ、セバスティア・シルバの「La nana」(09『家政婦ラケルの反乱』ラテンビート)のカタリナ・サアベドラなどチリを代表する「クール世代」の演技派が出演している。
*カルロス・フローレス・デルピノ(タルカワノ1944)はチリの監督、脚本家、製作者。1973年の軍事クーデタで仲間が亡命するなか、チリに止まってドキュメンタリー作家として活躍、1994年、Escuela de Cine de Chileを設立、教育者として後進の指導に当たる。代表作は、チリのチャールズ・ブロンソンと言われたフェネロン・グアハルドをモデルにチリ人のアイデンティティに光を当てたドキュメンタリー「El Charles Bronson Chileno: o idénticamente igual」(76・84)と作家のホセ・ドノソについての中編ドキュメンタリー「Donoso por Donoso」(94)など。
*追加情報:第35回東京国際映画祭2022のコンペティション部門に同タイトルでノミネートされました。
ホライズンズ・ラティノ部門②*サンセバスチャン映画祭2022 ⑧ ― 2022年08月22日 13:43
*ホライズンズ・ラティノ部門 ②*
5)「Un varón」コロンビア
WIP Latam 2021作品
データ:製作国コロンビア=フランス=オランダ=ドイツ、2022年、スペイン語、ドラマ、81分、製作Medio de Contención Producciones コロンビア/ Black Forest Filmsドイツ / Fortuna Filmsオランダ / In Vivo Films フランス/ RTVC Play 他、脚本ファビアン・エルナンデス、撮影ソフィア・オッジョーニ、音響イサベル・トレス他、音楽マイク&ファビアン・クルツァー、編集エステバン・ムニョス、プロダクション・デザイン、フアン・ダビ・ベルナル、製作者マヌエル・ルイス・モンテアレグレ、クレア・シャルル=ジェルヴェ、他。撮影地ボゴタ。カンヌ映画祭2022「監督週間」(英題「A Male」)でプレミア、グアダラハラ映画祭インターナショナル部門出品、
監督:ファビアン・エルナンデス(ボゴタ1985)監督、脚本家、公立学校で映画の教鞭をとる。本作は長編デビュー作。2015年、制作会社Niquel Films 設立、自身の短編「Mala maña」(15)、「Tras la montña」(16)、「Golpe y censura」(18)、「Las ánimas」(20)を撮る。監督「わたしの作品は、コロンビアの他の映画とはアプローチの仕方が異なり、より深いです。人々や地域を尊重しています」と語っている。
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(カンヌで使用された英題「A Male」のポスター)
キャスト:ディラン・フェリペ・ラミレス(カルロス)
ストーリー:カルロスはボゴタの中心街にある青少年の保護施設に住んでいる。クリスマスには家族と一緒に過ごしたいと切望している。休暇に向けて施設を出ると、カルロスは最強のアルファ・マッチョの法則が支配するバリオの暴力に向き合うことになります。また彼は、自分がそういう人物になれることを証明しなければなりません。彼の内面はこれらの男らしさと矛盾していますが、ここで生き延びるためには決心しなければなりません。カルロスの心はこの狭間でぶつかり合っています。自分の感受性、脆弱性を認め、本当の男らしさとは何かを求めている。
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(路上で銃の取り扱い方を伝授されるカルロス、フレームから)
6)「Dos estaciones」メキシコ
Foro de Coproducción Europa-América Laten 2019 WIP Latam 2021作品
データ:製作国メキシコ=フランス=アメリカ、2022年、スペイン語、ドラマ、99分、脚本フアン・パブロ・ゴンサレス、アナ・イサベル・フェルナンデス、イラナ・コールマン、音楽カルミナ・エスコバル、撮影ヘラルド・ゲーラ、編集フアン・パブロ・ゴンサレス、リビア・セルパ、製作者イラナ・コールマン、ブルナ・ハダッド、ジェイミー・ゴンサルベス他、製作In Vivo Filmsフランス / Sin Sitio Cine、配給Luxbox。 サンダンス映画祭ワールド・シネマ部門でプレミア、主役テレサ・サンチェスが審査員特別賞を受賞、その他、ボストン・インディペンデントFF審査員大賞、ロスアンゼルス・アウトフェス審査員大賞、サンディエゴ・ラティノ、ヒューストン・ラティノ、シカゴ・ラティノなど映画祭出品多数。テレサ・サンチェスは、有望な若手監督ニコラス・ペレダの「Minotauro」(15)、「Fauna」(20)などの常連です。
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監督:フアン・パブロ・ゴンサレス(ハリスコ1984)監督、脚本家、本作は長編デビュー作、短編デビュー作「The Solitude of Memory」(14)はモレリア映画祭でプレミアされた。「Las nubes」(17)、瞑想的なスタイルを確立したと評価されたドキュメンタリー「Caballerango」(18)他。デビュー作のフィクションの感性とノンフィクションの要素の融合は、前作のドキュメンタリーの手法を受け継いでいるようです。
キャスト:テレサ・サンチェス(マリア・ガルシア)、ラファエラ・フエンテス(ラファエラ)、マヌエル・ガルシア・ルルフォ、タティン・ベラ(トランスジェンダーの美容師タティン)
ストーリー:ロス・アルトス・デ・ハリスコにある伝統的なテキーラ工場の相続人であるセニョーラ・マリアは、外国企業の進出が強まる市場で受け継いだ工場の存続に努力しています。彼女は新しい管理者にラファエラを雇い、危機を乗り越えようと情熱を傾けている。しかし、長びく大災害と予期せぬ洪水がプランテーションに取り返しのつかない損害を与えたとき、マリアは地域コミュニティの富と誇りを救うため、彼女が手にしているすべてをかけて対応せざるを得なくなる。マッチョ文化が長いあいだ支配されてきた場所にも、社会的な変化のいくつかが語られる。
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(断髪したセニョーラ・マリアの目、フレームから)
7)「Mi país imaginario / My Imaginary Country」チリ
オープニング作品
データ:製作国チリ、2022年、スペイン語、ドキュメンタリー、83分、撮影サミュエル・ラフ、編集ローレンス・マンハイマー、音楽Miranda & Tobal、製作者レナーテ・ザクセ、アレクサンドラ・ガルビス、製作Arte France Cinéma / Atacama Productions、配給Market Chile、販売 Pyramide International。カンヌ映画祭2022コンペティション部門セッション・スペシャル特別上映、エルサレム映画祭(ベスト・ドキュメンタリー賞)を経て、サンセバスチャン映画祭上映となった。フランスでは8月にリミテッド上映だがチケット売れ切れの盛況だったが、チリのサンティアゴでのプレミア上映は、観客全員がマスクを着用、十数人を超えることはなかったという。
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(製作者レナーテ・ザクセ、監督、製作者アレクサンドラ・ガルビス、カンヌFF2022にて)
監督:パトリシオ・グスマン(サンティアゴ1941)は、監督、脚本家、フィルム編集、撮影監督、ドキュメンタリー作家、現在はパリ在住。キャリア&フィルモグラフィー紹介、特に「チリ三部作」は以下にアップしています。本祭との関りは、2015年ホライズンズ・ラティノ部門に『真珠のボタン』、2019年に『夢のアンデス』(「La cordillera de los Suños」)が正式出品されています。
*『光のノスタルジア』(10)の紹介記事は、コチラ⇒2015年11月11日
*『真珠のボタン』(15)の紹介記事は、コチラ⇒2015年02月26日/同年11月16日
*『夢のアンデス』(19)の紹介記事は、コチラ⇒2019年05月15日
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主な女性出演者:女優で劇作家ノナ・フェルナンデス、撮影監督ニコル・クラム、ジャーナリストのモニカ・ゴンサレス、政治学者クラウディア・ハイス、チェス競技者ダマリス・アバルカ、元憲法制定会議議長エリサ・ロンコンほか多数
解説:「2019年10月、予想外の革命、社会的激動、150万人の民衆がサンティアゴの街頭で、もっとデモクラシーな社会、誇りのもてるより良い生活、より良い教育と医療制度、そして新しい憲法を要求してデモ行進をしました。チリはかつての記憶を取り戻したのです。1973年の学生闘争以来、私が待ち望んでいた出来事が遂に実現したのです」と語ったグスマンは、抗議行動を記録するために、在住しているフランスからチリに撮影クルーを組織しました。1年後、監督はインタビューを実施し、新憲法のための国民投票を撮影するため故国に戻ってきました。半世紀の間の時代の変化を体験した監督は、新作では著名な女性作家、ジャーナリスト、シネアストなどの視点を多く取り入れました。海外での評価は高かったが、故国では厳しかったようです。内からと外からの視点は違うということでしょうか。
◎賞には絡まないと思いますが、いずれ詳しい紹介記事を予定しています。
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(闘いを決心した目出し帽着用の20代の女性、フレームから)
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(「2019年10月18日バンザイ」のステッカーを掲げるデモ参加者)
8)「Vicenta B.」キューバ
WIP Latam 2021 EGEDAプラチナ賞受賞作品
データ:製作国キューバ=フランス=米国=コロンビア=ノルウェー、2022年、スペイン語、ドラマ、75分、脚本カルロス・レチュガ、ファビアン・スアレス、撮影デニセ・ゲーラ、編集ジョアンナ・モンテロ、音楽サンティアゴ・バルボサ、ハイディ・ミラネス、音響ベリア・ディアス、製作・製作者Cacha Films(キューバ)クラウディア・カルビーニョ、ROMEO(コロンビア)コンスエロ・カスティーリョ、Promenades Films(フランス)サミュエル・ショーヴァン、Dag Hoel Filmproduksjon(ノルウェー)ダグ・ホエル、販売Habanero(ブラジル)。トロント映画祭2022正式出品。
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監督:カルロス・レチュガ(ハバナ1983)監督、脚本家、本作は長編3作目、WIP Latam 2021 EGEDA(視聴覚著作権管理協会)プラチア賞受賞作品。また第2作目「Santa y Andrés」は2016年のホライズンズ・ラティノ部門に選出されている。本作は第38回ハバナ映画祭で上映するよう選出されていたにも拘らず、ICAIC のお気に召さず拒否された。当ブログで作品紹介記事をアップしています。
*「Santa y Andrés」の作品、監督キャリア紹介は、コチラ⇒2016年08月27日
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(WIP Latam 2021 EGEDAプラチア賞、サンセバスティアンFF2021授賞式にて)
◎監督によると「ビセンタは、孤独な母親が多い国の物語です。現在キューバには考え方が違うという理由だけで多くの若者が投獄されています」と、昨年7月11日に同時多発的に起きた大規模な抗議デモで拘束された人々の脱出劇について言及した。またハバネロ・フィルム・セールスのパートナーであるパトリシア・マルティンは、本作のように「政治について明確に語っていない場合でも、根本的に政治的です」と述べている。
キャスト:リネット・エルナンデス・バルデス(ビセンタ・ブラボ)、ミレヤ・チャップマン、Aimee Despaigne、アナ・フラビア・ラモス、ペドロ・マルティネス
ストーリー:ビセンタ・ブラボは、人の運勢をカードで占ったり将来を洞察できる特殊な才能をもっているサンテラである。毎日、悩みを抱えた人々が解決を求めてやってくる憩いの場になっている。ビセンタは一人息子とは上手くやっていたが、それもこれも彼がキューバを出たいと決心するまでのことでした。これがすべての崩壊の始りだった。自分のまわりで何が起きているのか、解決の糸口が見つからないまま危機に陥ってしまう。天賦の贈り物を失ったビセンタは、誰もが信仰を失ったように思われる国の内面への旅に出発するだろう。黒人や貧しい女性の実存が脅かされるとどうなるか、魂の探求、信仰の危機、家族の孤立に光が当てられている。
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(左から、ファビアン・エルナンデス、フアン・パブロ・ゴンサレス、パトリシオ・グスマン、カルロス・レチュガ)
続セクション・オフィシアル作品*マラガ映画祭2022 ② ― 2022年03月14日 15:25
*セクション・オフィシアル作品ノミネーション続*
★3年ぶりに3月開催となったマラガ映画祭、ソーシャルディスタンスを守って責任ある準備をして臨むと、総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルは挨拶した。セルバンテス劇場のレッドカーペットにお越しの節は、「必ずマスク着用を」とも付け加えた。記者会見の会場はアルベニス館、開催資金は200万ユーロだそうです。
13)Llegaron de noche スペイン、2021年、107分
監督:イマノル・ウリベ(エルサルバドール1950)、製作:Nunca digas nunca AIE / Bowfinger International Picturas SL / Tornasol SL / 64 A Films SL 脚本:ダニエル・セブリアン、撮影:カロ・べリディ、音楽:バネッサ・ガルデ、編集:テレサ・フォント
キャスト:フアナ・アコスタ、カラ・エレハルデ、カルメロ・ゴメス、フアン・カルロス・マルティネス、アンヘル・ボナニー、エルネスト・コリャソ、ベン・テンプル、ほか多数
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14)Lo invisible エクアドル、フランス、2021年、85分
監督:ハビエル・アンドラーデ、製作:Punk SA / La Maquinita / Promenades Films、脚本:Anahi Hoeneisen & ハビエル・アンドラーデ、撮影:ダニエル・アンドラーデ、音楽:マウロ・サマニエゴ & パオラ・ナバレテ、編集:フェルナンド・エプスタイン
キャスト:アナイ・ヘーナイゼンAnahi Hoeneisen、マティルデ・ラゴス、ジェルソン・ゲーラ、パオラ・ナバレテ、フアン・ロレンソ・バラガン、レイディ・ゴメス・ロルダン
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15)Mensajes privados チリ、2021年、77分
監督:マティアス・ビセ、製作:Ceneca Producciones、脚本:マティアス・ビセ、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、ビセンタ・ウドンゴ、ベロニカ・インティル、撮影;アントニア・セヘルス、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、アレックス・ブレンデミュール、ほか多数、音楽:[Me llamo] セバスティアン&ロドリゴ・ハルケ、編集:ロドリゴ・サケ
キャスト:アントニア・セヘルス、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、ブランカ・レウィン、ビセンタ・ウドンゴ、アレックス・ブレンデミュール、、ベロニカ・インティル、[Me llamo] セバスティアン
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16)Mi vacío y yo スペイン、2022年、89分
監督・編集:アドリアン・シルベストレ、製作:Testamento / PromalfiFuturo / AlbaSotorra SL、脚本:アドリアン・シルベストレ、ラファエレ・ぺレス、カルロス・マルケス=マルセ、撮影:ラウラ・エレロ・ガルバン
キャスト:ラファエレ・ペレス、アルベルト・ディアス、マルク・リベラ、イサベル・ロカティ、カルメン・モレノ、カルロス・フェルナンデス・ジュアGiua
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17)Nosaltres no ens matarem amb pistoles (Nosotros no nos mataremos con pistolas)(字幕) スペイン、2022年、85分
監督:マリア・リポル、製作:Un Capricho de Producciones / Turanga Films、脚本:ビクトル・サンチェス&アントニオ・エスカメス、撮影:ジョアン・ボルデラ、音楽:シモン・スミス、編集:フリアナ・モンタニェス
キャスト:イングリッド・ガルシア=ジョンソン、エレナ・マルティン、ロレナ・ロペス、ジョー・マンジョン、カルロス・トロヤ
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18)The Gigantes メキシコ、米国、2021年、94分 (字幕)
監督:ベアトリス・サンチス、製作:Animal de Luz Films / Cazador Solitario Films / Cebolla Films / Godius Films / Índice、脚本:ベアトリス・サンチス&マーティ・ミニッチ、撮影:ニコラス・ウォン・ディアス、音楽:アーロン・ルクス、編集:ベアトリス・サンチス、セルヒオ・ソラレス・アルバレス
キャスト:サマンサ・ジェーン・スミス、アンドレア・サット、レヒナ・オロスコ、アナ・ライェブスカ、ペドロ・デ・タビラ・エグロラ
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19)Utama ウルグアイ、2022年、87分、デビュー作
監督・脚本:アレハンドロ・ロアイサ・グリシ(ボリビア1985)、製作:Alma Films、撮影:バルバラ・アルバレス、音楽:セルシオ・プルデンシオ、編集:フェルナンド・エプスタイン
キャスト:ホセ・カルシナ、サントス・チョケ、ルイサ・キスペ
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★以上7作のうちには、イマノル・ウリベやマリア・リポルのようなベテラン監督が新人監督に混じってノミネートされている。女性監督は5人でした。アウト・オブ・コンペティション部門の2作は次回にまわします。ロベルト・ブエソの「Llenos de gracia」はクロージング作品、カルラ・シモンの「Alcarràs」はベルリン映画祭コンペティション正式出品作品。
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