授賞式のベストドレッサーは・・・*ゴヤ賞2024 ⑨ ― 2024年02月21日 14:53
ぶっちぎりのナンバーワンはペネロペ・クルス
(やはり人気のアルモドバルとペネロペ・クルス)
★授賞式の視聴率は23,5パーセント、約236万人と発表されました。多いのか少ないのか分かりません。ファッションに興味がなくても参加者の顔ぶれが分かるので、今年もベストドレッサーを特集しました。ノミネート対象者、トロフィーを受け渡すプレゼンターが中心ですが、ビクトル・エリセのように新作『瞳をとじて』が3カテゴリーにノミネートされているにもかかわらず出席しない人もおりました。『ミツバチのささやき』も『エル・スール』もゴヤ賞がなかった時代の映画であり、本作が初ノミネートでした。映画祭は別として映画賞ガラに珍しく参加したアナ・トレントの姿がありました。彼女は1997年、主演女優賞にノミネートされた『テシス 次に私が殺される』に続いて2回目、本作はアメナバルのデビュー作であり、作品・新人監督・主演男優賞など8ノミネートでしたが、トレントだけ受賞を逃したのでした。
(ホセ・コロナドと父娘を演じたアナ・トレント、アルマーニ、宝石スアレス)
(主演男優賞ノミネート、エリセ監督の分身を演じたマノロ・ソロ)
(共演者マリア・レオン、イタリアのディースクエアード2 )
★総合司会者のアナ・ベレンとロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボは衣装替えしましたが、レッドカーペットに登場したときの衣装。カルラ・シモン、ピラール・パルメロ、アラウダ・ルイス・デ・アスアはそれぞれゴヤ賞受賞者です。既に登壇している受賞者を除き、デザインの分かるものは併記しました。
(ホスト役のアナ・ベレン、デザインはレドンド・ブランド、宝石ダミアーニ)
(ロス・ハビス、左がアンブロッシ、パロマ・スペイン)
(カルラ・シモン監督、テレサ・エルビグ/ヘルビッヒHelbig)
(ピラール・パルメロ監督、テレサ・エルビグ、宝石ホセ・ルイス・ホジェリアス)
(昨年の新人監督賞を受賞したアラウダ・ルイス・デ・アスア)
(監督賞ノミネートのエレナ・マルティン、ジョアン・ロス、宝石シムエロ)
(ホナス・トゥルエバとパートナーで新人監督賞ノミネートのイチャソ・アラナ)
★ある雑誌社のアンケートによると、ベストドレッサーのナンバーワンは、シャネルの専属モデルでもあるペネロペ・クルスでした。30パーセントとぶっちぎり、2位シルビア・アバスカルの10パーセントを大きく引き離しました。誰のデザインかも重要ですが、着る人が決め手で、支流は去年ほどではないが黒、プラスと赤とスペイン人の好みがわかります。
(第1位30%、ペネロペ・クルス、シャネル、2024年秋冬コレクション)
(第2位10%、シルビア・アバスカル、オスカル・デ・ラ・レンタ、宝石ティファニー)
(第3位9%、ナタリア・サンチェス、バロ・ルカス、宝石ラバト)
(第3位9%、アナ・ルハス、デザインはアルマーニ・プリヴェ、宝石ブルガリ)
(第5位7%、アイタナ・サンチェス=ヒホン、レドンド・ブランド、宝石メシカ)
(第5位7%、ベレン・ルエダ、バレンスエラ・アテリエル)
★以下は当ブログに登場してもらった方に絞りました。
(アントニア・サン・フアン、アンドリュー・ポクリッド、宝石デル・パラモ)
(#SEACABÓのアピールを忘れないセシリア・ロス)
(カエタナ・ギジェン・クエルボ、イサベル・サンチス、宝石イグナシオ・トレス)
(バルバラ・レニー、ウルグアイ出身のガブリエラ・ハースト、宝石カルティエ)
(ベレン・クエスタ、アルマーニ・プリヴェ、宝石ダミアーニ)
(エレナ・アナヤ、アルマーニ・プリヴェ、宝石バルセナ、メークはディオール)
(レオノル・ワトリング、テレサ・エルビグ、宝石ラバト)
(インマ・クエスタ、アリシア・ルエダ・アテリエル、宝石メシカ)
(マカレナ・ガルシア、ロエベ、宝石ブルガリ)
(ブランカ・ロメロ、イサベル・サンチス、宝石スアレス)
(ネレア・バロス、ペドロ・デル・イエロ、宝石メシカ)
(主演女優賞候補者のマリア・バスケス、アナ・プラドス、宝石アラマ・ディベルサ)
(主演女優賞ノミネートのカロリナ・ジュステ、宝石はメシカ)
(マルタ・エトゥア、ガブリエル・ラージ、宝石スアレス)
(マカレナ・ゴメス、マルシアーノ・バイ・ゲス、宝石ゲス)
(エレナ・サンチェス、アリシア・ルエダ、宝石マリナ・ガルシア)
(アンナ・カスティーリョ、スペインのシビラ、宝石カルティエ)
(グレタ・フェルナンデス、バレンティノ、宝石ラバト)
(ヌリア・ガゴ、フアン・ドゥヨス、宝石ホセ・ルイス・ホジェリアス)
(ブルナ・クシ、ハーベイ・クラブ、メークはディオール・ビューティー)
(歌手のアマイア、イタリアのスポーツマックス、宝石バレンシアのシムエロ)
(クリスティナ・カスターニョ、レバノン出身のズハイル・ムラド、宝石ブルガリ)
★今年1年間に鬼籍入りしたシネアストたちを偲ぶ〈アディオス〉のコーナー、ゴヤ賞を2回受賞しているシンガーソングライターのシルビア・ペレス・クルスと、ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2017の優勝者サルバドール・ソブラルの演奏で見送った。彼はポルトガルに初めてトロフィーをもたらした革命児。また3人の総合司会者によって、12月2日に亡くなったばかりのコンチャ・ベラスコへのオマージュとして、“La chica ye-ye” と "Mama , quiero ser artista" が捧げられた。
(シルビア・ペレス・クルス、サルバドール・ソブラル)
(歌って踊ってコンチャを見送ったアナ・ベレンとロス・ハビス)
ゴヤ賞2024ガラの落穂ひろい*ゴヤ賞202 ⑧ ― 2024年02月19日 15:32
涙の乾くまもなかったJ.A.バヨナのための授賞式
★J. A. バヨナが泣きっぱなしの祭典となりましたが、早やチームはオスカー賞のプロモーションに全力で邁進していることでしょう。12部門受賞はオスカー賞ノミネート5作品に残ったことも影響しているのかもしれません。『雪山の絆』を見てくれた人が既に1億5千万人を突破したということですからネットフリックスの功績は無視できません。製作者の一人ベレン・アティエンサも「資金的に窮地に陥り、タオルを投げそうになったとき、ネットフリックスが手を差し伸べてくれた」と感謝の辞を述べ、また「パブロ・ヴィエルチによって書かれた著作がなかったら、このプロジェクトも映画も存在しなかった」と原作者を讃えていた。本作はスペインで英語でなくスペイン語で製作され、「不可能と思われたが10年かかってレベルの高いものになった」と。
(スペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテ)
★新人男優賞を受賞したアルゼンチンのマティアス・レカルト(ロベルト・カネッサ役)の受賞スピーチはいささか長すぎましたが、興奮が抑えられなかったのでしょう。監督やチームの仲間は当然として、「アンデスの生存者、生還できなかった人々と私たちに彼らの物語を語らせてくれた遺族の方々、僕が演じたロベルト・カネッサ、母、兄弟、祖母、叔父たち、友人、ガールフレンド、とりわけ映画製作前に亡くなったお父さん、パパにトロフィーを捧げます」と、繰り返し感謝を述べて会場を感動させました。彼だけでなく支えてくれたパパやママなど家族に感謝を述べる受賞者がなんと多かったことでしょう。
(天国の父親に「パパ、ありがとう」とマティアス・レカルト)
★最多15部門ノミネートのエスティバリス・ウレソラの『ミツバチと私』は、新人監督賞とオリジナル脚本賞、少女(少年?)の祖母役アネ・ガバライン(サンセバスティアン1963)の助演女優賞の3賞、受賞者はゴヤ賞初ノミネート初受賞でした。舞台にソフィア・オテロが登場した段階でガバラインの受賞は分かりました。ソフィアの涙もむべなるかな。受賞者については、TVミニシリーズ「Patria」(20)でフェロス賞とフォルケ賞主演女優賞にノミネート、バスク語映画『フラワーズ』(14)などに出演している。
*「Patria」作品&キャリア紹介は、コチラ⇒2020年08月12日
(受賞者アネ・ガバラインとソフィア・オテロ)
★スペインの代表的な映画賞であるフォルケ賞、フェロス賞、ガウディ賞とは大分違う結果になりました。主演男優賞のダビ・ベルダゲルの4冠は特別で、向かうところ敵なしの快進撃でした。カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』で助演男優賞を受賞していますが、今回は受賞確率も高く「不安でたまらなかった」由。主演女優賞のマレナ・アルテリオは、ガウディ賞にはノミネートさえされませんでしたが、下馬評通り受賞しました。22年前の新人女優賞ノミネート以来の晴れ舞台、生後数ヵ月でアルゼンチンから亡命した。父親エクトル・アルテリオは20年前のゴヤ栄誉賞2004の受賞者、兄エルネストとトロフィーを手渡した。軍事独裁政権と闘ったアルゼンチン国民に向けて、「共に喜びを楽しみたい、両親が私の道案内者、歴史的記憶、共生と平和の闘士だった両親に感謝を捧げたい」とスピーチした。
(マレナ・アルテリオ)
「もらった以上にお返ししています」とアルモドバル監督
★受賞者スピーチより会場の拍手喝采を受けたのが作品賞プレゼンターの一人ペドロ・アルモドバルでした。『オール・アバウト・マイ・マザー』25周年とかで大物5人が登壇しました。「ある人が、政治家ですが、誰も興味を示さないつまらない映画を作るために助成金を貰っている苦労知らずの〈お坊ちゃんたち〉と私たちを批判しました。しかしはっきり言いますが、我々シネアストたちは前払い金として受けとっているお金以上を十二分に返却しております」と。ある政治家とは、カスティーリャ・イ・レオン自治州の副知事フアン・ガルシア・ガジャルドのことで、援助で生活している〈お坊ちゃんたち〉と批判したようです。
(「もらった以上に・・・」とスピーチするペドロ・アルモドバル)
★座席にいた本人にもカメラが移動するというおまけつき、後に一緒に出席していたエルネスト・ウルタスン文化大臣も「映画人はお坊ちゃんの集りではない。誇りをもって映画を製作している」と援護射撃、バジャドリード市長を長年務めた日本の国交省に当たる運輸相のオスカル・プエンテも、「アルモドバルは、文化にもっと敬意をはらえとガルシア・ガジャルドをたしなめたのさ」とコメントしたようです。日本でも似たようなことありましたね。
(作品賞プレゼンター、アントニア・サン・フアン、マリサ・パレデス、
アルモドバル、ペネロペ・クルス、セシリア・ロス)
★ゴヤ賞ガラには来る来ないは別として、首相以下関係者が招待されるのが慣わしです。今年もペドロ・サンチェス首相が出席していました。目下ヨーロッパは戦争中ですから停戦を呼びかけるステッカーを付けてる人、カルロス・ベルムト事件に端を発した反性暴力の扇子を手にする人が多く見られました。ガラのホストの一人アナ・ベレンやエスティバリス・ウレソラなどは「ガザでの武器取引のストップ」のステッカーを、イサベル・コイシェやマリサ・パレデス、映画アカデミー副会長スシ・サンチェスなどスペインを代表するベテラン勢が「もう性暴力は終わりにしよう」と書かれた扇子を持ってアピールしていた。
(映画アカデミー会長メンデス=レイテとペドロ・サンチェス首相)
(アナ・ベレン)
(ステッカーには ”Stop comercio de armas en Gaza” と読める)
(新人女優賞のプレゼンターたち、中央スシ・サンチェス、全員扇子を携えて登壇した)
(CIMA女性シネアスト協会の代表者たち)
(マリサ・パレデス)
(イサベル・コイシェ、扇子には ”#SEACABÓ” と書かれている)
★2023年も多くの監督、脚本家、俳優、声優、製作者が旅立ちました。訃報をアップしたコンチャ・ベラスコ(84歳)、会場に息子マヌエル・マルティン・ベラスコが出席していた。若くして亡くなったイツィアル・カストロ、1970年代に最も人気のあったカルメン・セビーリャ(92歳)やコメディを得意としたヘスス・グスマン(97歳)など既に銀幕から遠ざかっていた俳優たちにもオマージュが捧げられた。
(映画、舞台、TVと活躍したコンチャ・ベラスコ)
第38回ゴヤ賞2024バジャドリード授賞式*ノミネーションと受賞結果 ⑦ ― 2024年02月14日 09:45
フアン・アントニオ・バヨナの『雪山の絆』が12部門受賞
★2月10日、第38回ゴヤ賞2024授賞式がバジャドリードのフェリア・デ・バジャドリードで開催されました。総合司会者はアナ・ベレン、ロス・ハビスことハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボの3人でした。J・A・バヨナの「La sociedad de la nieve」(『雪山の絆』)が作品賞を含む12部門の大量受賞、ノミネート13部門のほとんどを制覇しました。記憶違いでなければ、ゴヤ賞史上2番目になります。最多受賞はアメナバルの『海を飛ぶ夢』の14冠でした。アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』とバヨナの『怪物はささやく』が9部門などがありますが、今後に悪影響がでないことを祈りたい。
★作品賞のプレゼンターが『オール・アバウト・マイ・マザー』25周年ということで、アルモドバル監督以下マリサ・パレデス、セシリア・ロス、ペネロペ・クルス、アントニア・サンフアンが登壇するという華やかさ、それ以外のプレゼンターも概ね豪華で他の映画賞との違いを見せつけました。まだ主要部分しか録画を見ておりませんので、とりあえず結果のみアップしておきます。(*印は当ブログ紹介作品です)
(涙でくしゃくしゃの作品賞受賞者フアン・アントニオ・バヨナ)
*第38回ゴヤ賞2024ノミネートと受賞結果*
◎作品賞
「20.000 especies de abejas」(『ミツバチと私』2024年1月5日公開)*
「Cerrar los ojos」(『瞳をとじて』2024年2月9日公開)*
「Saben aquell」 *
「Un amor」(『ひとつの愛』東京国際映画祭2023)*
「La sociedad de la nieve」(『雪山の絆』Netflix配信開始)*
製作ベレン・アティエンサ、サンドラ・エルミダ、J・A・バヨナ
(『オール・アバウト・マイ・マザー』のクルーがプレゼンターという豪華版)
(最初にスピーチした製作者ベレン・アティエンサ)
(続いてスピーチしたサンドラ・エルミダ)
◎監督賞
ビクトル・エリセ 「Cerrar los ojos」
エレナ・マルティン 「Creatura」(ガウディ賞カタルーニャ語作品賞受賞作品)*
ダビ・トゥルエバ 「Saben aquell」
イサベル・コイシェ 「Un amor」
J・A・バヨナ 「La sociedad de la nieve」
◎新人監督賞
イチャソ・アラナ 「Las chicas están bien」
アルバロ・ガゴ 「Matria」*
アレハンドロ・マリン 「Te estoy amando locamente」
アレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケス 「Upon Entry」*
エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン 「20.000 especies de abejas」
◎オリジナル脚本賞
ミシェル・ガスタンビデ、ビクトル・エリセ 「Cerrar los ojos」
アレハンドロ・マリン、カルメン・ガリード 「Te estoy amando locamente」
フェリックス・ビスカレット 「Una vida no tan simple」*
アレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケス 「Upon Entry(La llegada)」
エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン 「20.000 especies de abejas」
◎脚色賞
アルベルト・バル 「El maestro que prometió el mar」 監督パトリシア・フォント
ベルナト・ビラプラナ、J. A. バヨナ、ハイメ・マルケス、ニコラス・カサリエゴ
「La sociedad de la nieve」
アルベルト・エスピノサ、ダビ・トゥルエバ 「Saben aquell」
イサベル・コイシェ、ラウラ・フェレロ 「Un amor」
パブロ・ベルヘル 「Robot Dreams」(『ロボット・ドリームズ』)
監督パブロ・ベルヘル
◎オリジナル作曲賞
ナターシャ・アリス 「El maestro que prometió el mar」
アルナウ・バタジェル 「La paradoja de Antares」 監督ルイス・ティノコ
アルフォンソ・デ・ビラリョンガ 「Robot Dreams」
アンドレア・モティス 「Saben aquell」
マイケル・ジアッキーノ 「La sociedad de la nieve」
(受賞者欠席で監督が代理で登壇した)
◎オリジナル歌曲賞
Eco-Compositores: Xoel Lopez 「Amigos hasta la muerte」 監督ハビエル・ベイガ
Chinas-Compositores: マリナ・ヘルロプ 「Chinas」 監督アランチャ・エチェバリア
El amor de Andrea-Compositores: アルバロ・B. Baglietto、ダビ・ガルシア、ギジェ・ガルバン、他 「El amor de Andrea」 監督マヌエル・マルティン・クエンカ
La Gallinita-Compositoresu: フェルナンド・モレシ・ハベルマン、セルヒオ・ベルトラン
「La imatge permanent」 監督ラウラ・フェレス
Yo solo quiero amor-Compositores: リゴベルタ・バンディニ
「Te estoy amando locamente」
◎主演男優賞
マノロ・ソロ 「Cerrar los ojos」
エンリク・アウケル 「El maestro que prometió el mar」
ホヴィク・ケウチケリアン 「Un amor」
アルベルト・アンマン 「Upon Entry(La llegada)」
ダビ・ベルダゲル 「Saben aquell」
◎主演女優賞
パトリシア・ロペス・アルナイス 「20.000 especies de abejas」
マリア・バスケス 「Matria」
カロリナ・ジュステ 「Saben aquell」
ライア・コスタ 「Un amor」
マレナ・アルテリオ 「Que nadie duerma」 監督アントニオ・メンデス・エスパルサ
◎助演男優賞
マルチェロ・ルビオ 「20.000 especies de abejas」
フアン・カルロス・ベリド 「Bajo terapia」* 監督ヘラルド・エレーロ
アレックス・ブレンデミュール 「Creatura」
ウーゴ・シルバ 「Un amor」
ホセ・コロナド 「Cerrar los ojos」
(目頭を赤くしてスピーチしたホセ・コロナド)
(『瞳をとじて』唯一の受賞者ホセ・コロナド)
◎助演女優賞
イツィアル・ラスカノ 「20.000 especies de abejas」
アナ・トレント 「Cerrar los ojos」
クララ・セグラ 「Creatura」
ルイサ・ガバサ 「El maestro que prometió el mar」
アネ・ガバライン 「20.000 especies de abejas」
◎新人男優賞
ブリアネイトル 「Campeonex」 監督ハビエル・フェセル
フリオ・フー・チェン 「Chinas」
ラ・ダニ 「Te estoy amando locamente」
オマール・バナナ 「Te estoy amando locamente」
マティアス・レカルト 「La sociedad de la nieve」
(感動的なスピーチをしたロベルト・カネッサ役のマティアス・レカルト)
◎新人女優賞
Xinyi Ye 「Chinas」
Veju Ji 「Chinas」
クラウディア・マラジェラダ 「Creatura」
サラ・ベッカー 「La contadora de películas」 監督Lone Scherfig
ジャネット・ノバス 「O corno」(『ライ麦のツノ』東京国際映画祭2023)*
監督ハイロネ・カンボルダ
(左手にガザ支援のステッカー)
◎プロダクション賞
パブロ・ビダル 「20.000 especies de abejas」
マリア・ホセ・ディエス 「Cerrar los ojos」
エドゥアルド・バジェス 「Saben aquell」
レイレ・アウレコエチェア、ルイス・グティエレス「Valle de Sombras」 監督サルバドル・カルボ
マルガリータ・ウゲエト 「La sociedad de la nieve」
◎撮影監督賞
ジナ・フェレル・ガルシア 「20.000 especies de abejas」
バレンティン・アルバレス 「Cerrar los ojos」
ベト・ロウリヒ 「Un amor」
ディエゴ・テレナス 「Una noche con Adela」 監督ウーゴ・ルイス
ペドロ・ルケ 「La sociedad de la nieve」
(スピーチでバヨナ監督をうるうるにしたペドロ・ルケ)
(会場の母親に感謝の言葉を述べた受賞者、プレゼンターのレオノール・ワトリング)
◎編集賞
ラウル・バレラス 「20.000 especies de abejas」
アスセン・マルチェナ 「Cerrar los ojos」
ファティマ・デ・ロス・サントス 「Mamacruz」 監督パトリシア・オルテガ
フェルナンド・フランコ 「Robot Dreams」(『ロボット・ドリームズ』)
アンドレス・ジル、ジャウマ・マルティ 「La sociedad de la nieve」
◎美術賞
イサスクン・ウルキホ 「20.000 especies de abejas」
クル・ガラバル 「Cerrar los ojos」
カルロス・コンティ 「La contadora de películas」
マルク・ポウ 「Saben aquell」
アライン・バイネー 「La sociedad de la nieve」
◎衣装デザイン賞
ネレア・トリホス 「20.000 especies de abejas」
マリア・アルメンゴル 「El maestro que prometió el mar」
メルセ・パロマ 「La contadora de películas」
ララ・ウエテ 「Saben aquell」
フリオ・スアレス 「La sociedad de la nieve」
◎メイクアップ&ヘアー賞
アイノア・エスキサベル、ジョネ・ガバライン 「20.000 especies de abejas」
エリ・アダネス、フアン・ベガラ 「La ternura」 監督ビセンテ・ビリャヌエバ
ケイトリン・アチソン、ベンハミン・ペレス、ナチョ・ディエス 「Saben aquell」
サライ・ロドリゲス、ノエ・モンテス、オスカル・デル・モンテ 「Valle de Sombras」
アナ・ロペス=プイグセルベル、ベレン・ロペス=プイグセルベル、モンセ・リベ
「La sociedad de la nieve」
◎録音賞
エバ・バリニョ、コルド・コレリャ、サンティ・サルバドル
「20.000 especies de abejas」
タマラ・アレバロ、ファビオラ・オルドヨ、ヤスミナ・プラデラス 「Campeonex」
イバン・マリン、フアン・フェロ、カンデラ・パレンシア 「Cerrar los ojos」
ハビ・マス、エドゥアルド・カストロ、ヤスミナ・プラデラス 「Saben aquell」
ホルヘ・アドラドス、オリオル・タラゴ、マルク・オルツ
「La sociedad de la nieve」
(ホルヘ・アドラス)
◎特殊効果賞
マリアノ・ガルシア・マルティ、ジョン・セラーノ、ダビ・エラス、フアン・ベルダ、
インデラ・マルティン「20.000 especies de abejas」
エネリツ・サピアイン、イニャーキ・ジル〈Ketxu〉 「La ermita」 監督カルロタ・ペレダ
マリアノ・ガルシア・マルティ、ジョン・セラーノ、フアン・ベントゥラ、
アンパロ・マルティネス 「Tin & Tina」 監督ルビン・ステイン
ラウル・ロマニーリョス、ミリアム・ピケル 「Valle de Sombras」
パウ・コスタ、フェリックス・ベルヘス、ラウラ・ペドロ
「La sociedad de la nieve」
◎アニメーション賞
「Dispararon al pianista (They Shot The Piano Player)」*
製作クリスティナ・ウエテ、フェルナンド・トゥルエバ、ハビエル・マリスカル
「El sueño de la Sultana」*
同チェロ・ロウレイロ、ディエゴ・エルゲラ、イサベル・エルゲラ、他
「Hanna y los monstruos」 同アンヘレス・エルナンデス、ダビ・マタモロス、
ロレナ・アレス
「Monias」 同クレベル・ベレッタ、フランシスコ・セルマ、ジョルディ・ガスル、他多数
「Robot Dreams」 同アンヘル・ドゥランデス、イボン・コルメンサナ、
パブロ・ベルヘル、他
(パブロ・ベルヘル)
◎ドキュメンタリー賞
「Caleta Palace」 製作ホセ・アントニオ・エルゲタ、レティシア・サルバゴ・ソト
「Contigo, contigo y sin mí」 同アマヤ・ビリャル・ナバスクエス、カルロ・ドゥルシ
「Esta ambición desmedida」 同アントン・アルバレス、クリスティナ・トレナス、マリア・ルビオ、
イサベル・ウトレラ・アルファロ、他多数
「Iberia, naturaleza infinita」 同アルトゥロ・メノル、クリスティナ・メノル
「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」*
同クラウディア・ピント・エンペラドール、
イバン・マルティネス=ルファト、ジョルディ・リョルカ、他多数
◎イベロアメリカ映画賞
「Alma viva」(ポルトガル) 監督クリステレ・アルベス・メイラ
「La pecera」(プエルトリコ)* 同グロリマー・マレロ・サンチェス
「Puan」(アルゼンチン)* 同ベンハミン・ナイシュタット、マリア・アルチェ
「Simón」(ベネズエラ) 同ディエゴ・ビセンティニ
「La memoria infinita」(チリ) 同マイテ・アルベルディ
◎ヨーロッパ映画賞
「Aftersun」(イギリス『aftersun/アフターサン』公開) 監督シャーロット・ウェルズ
「Las ocho montañas」(伊、「Le otto montagne」『帰れない山』 プライムビデオ)
同シャルロッテ・ファンデルメールシュ、フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン
「Safe Place」(クロアチア、原題「Sigurno mjesto」) 同ユライ・レロティック
「Sala de profesores (The Teachers’ Lounge)」(ドイツ) 同イルケル・チャタク
「Anatonia de una caída」(フランス『落下の解剖学』公開)
同ジュスティーヌ・トリエ
◎短編映画賞
「Carta a mi madre para mi hijo」 監督カルラ・シモン、
製作マリア・サモラ・モルシーリョ
「Cuentas divinas」 監督エウラリア・ラモン、製作アンナ・サウラ
「La loca y el feminista」監督サンドラ・ガジェゴ、
製作マリア・デル・プイ・アルバラード、他
「París 70」 監督ダニ・フェイシャス、製作アルバ・フォルン、ダニ・フェイシャス
「Aunque es de noche」 監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
製作ダミアン・メゲルビ、ダビ・カサス・リエスコ、マリナ・ガルシア・ロペス他
(左から2人目がガルシア・ロペス監督)
◎短編ドキュメンタリー賞
「BLOW !」監督ネウス・バリュス、製作ミリアム・ポルテ、ネウス・バリュス
「El bus」監督サンドラ・レイナ、
製作ジャウマ・ファルガス・コル、バレリー・デルピエール
「Herederas」監督・製作シルビア・ベネガス・ベネガス
製作フアン・アントニオ・モレノ・アマドール
「Una terapia de mierda」監督ハビエル・ポロ、製作ハビエル・ポロ、ホルヘ・アコスタ他
「Ava」 監督・製作マベル・ロサノ
◎短編アニメーション賞
「Becarias」 監督マリナ・コルトン、マリナ・ドンデリス、ヌリア・ポベダ
製作イバン・マドレル、レティシア・モンタルバ、パブロ・ムニョス・ナハロ、他
「Todo bien」監督・製作ディアナ・アシエン・マンソロ
製作ロシオ・ベナベンテ・メンデス
「Todo está perdido」監督カルラ・ペレイラ、フアンフラン・ハシント
製作アルバロ・ディアス、ダビ・カストロ・ゴンサレス、ホルヘ・アコスタ
「Txotxongiloa」監督・製作ソニア・エステベス
「To bird or not to bird」 監督マルティン・ロメロ
製作チェロ・ロウレイロ、イバン・ミニャンブレス
◎国際ゴヤ賞
シガニー・ウィーバー(ニューヨーク1949)アメリカの女優、サンセバスチャン映画祭2016ドノスティア栄誉賞を受賞、J. A. バヨナの『怪物はささやく』に少年の祖母役で出演している。ゴールデングローブ賞(助演女優賞受賞)、アカデミー賞、グラミー賞他、ノミネート多数。トロフィーをドノスティア栄誉と同じバヨナ監督から受けとりました。受賞スピーチがメモなしも印象的、彼女のスペイン語版吹き替え声優マリア・ルイサ・ソラに「心から感謝する」とスピーチしたのも、受賞者の濃やかな心づかいが感動的でした。
*キャリア&フィルモグラフィー紹介記事は、コチラ⇒2016年07月22日
(プレゼンターはバヨナ監督、会場は総立ちのオベーション)
(スペイン語と英語でスピーチする受賞者、ドノスティア栄誉賞と同じ緑のドレスで)
ベネズエラの新星ディエゴ・ヴィチェンティーニ*ゴヤ賞2024 ⑥ ― 2024年01月23日 17:45
ディエゴ・ヴィチェンティーニの「Simón」――イベロアメリカ映画部門
★ディエゴ・ヴィチェンティーニはカラカス生れのベネズエラの監督ですが、15歳で母国を離れてアメリカで映画製作をしているということなのか、長編デビュー作「Simón」がマラガ映画祭やサンセバスチャン映画祭(オリソンテス・ラティノス部門)にノミネートされることはありませんでした。管理人はゴヤ賞ノミネートで初めて知った次第です。本作には2018年に発表した同じタイトルの短編「Simón」(26分)という下敷きがあり、IMDbを検索したら他にかなりの数の短編を撮っているのでした。長短編とも舞台は2017年のニコラス・マドゥロ専制時代の母国ベネズエラ、自由を求める反体制派の青年シモンのトラウマと苦悩、深い罪悪感が語られます。
★フロリダ映画祭2023でプレミアされた後、ダラス映画祭観客賞、ハートランド映画祭グランプリ、7月開催のベネズエラ映画祭で作品・監督・撮影・脚本・編集・助演男優賞の6部門を制覇するなど母国でも快進撃を続けています。2013年チャベス没後、彼の腹心であったマドゥロが政権を継承しているベネズエラは、国連の発表によると、2023年推定の総人口3051万人に対して約700万人以上が難民として近隣諸国へ国外逃亡しているそうで、にわかには信じがたい数字です。本作を理解するには若干ベネズエラ現代史をひもとく必要があるのかもしれません。
「Simón」
製作:Black Hole Enterprises
監督・脚本・編集:ディエゴ・ヴィチェンティーニ
撮影:オラシオ・マルティネス
音楽:フレディ・シエインフェルド
キャスティング:Lauren Herrel
美術:オスカル・コルテス
衣装デザイン:マルコス・ドゥラン
メイクアップ:カルラ・バリオス
製作者:マルセル・ラスキン、ホルヘ・ゴンサレス、ディエゴ・ヴィチェンティーニ
データ:製作国米国・ベネズエラ、2023年、英語・スペイン語、ドラマ、99分、撮影期間は2021年のコロナ感染のパンデミックと重なったため、マイアミ他23ヵ所、28日間で撮影された。製作資金クラウドファンディング(35,756ドル)、公開ベネズエラ2023年9月7日、ウルグアイ、サンディエゴ、ペルー、メキシコ、スペインなど
映画祭・受賞歴:フロリダ映画祭2023作品賞、ダラス映画祭観客賞、ハートランド映画祭グランプリ、シャーロット映画祭観客賞、ボゴタ映画祭作品賞、カラカス批評家映画祭作品・監督賞、ベネズエラ映画祭作品・監督・撮影(オラシオ・マルティネス)・脚本・編集・助演男優賞(フランクリン・ビルグエス)、他ニューヨーク、マドリード、サンティアゴ、各映画祭上映、ゴヤ賞2024イベロアメリカ映画部門ノミネート(2月10日ガラ)
キャスト:クリスティアン・マクガフニー(シモン)、ヤナ・ナワルツキ(メリッサ)、ルイス・シルバ(ホアキン)、ロベルト・ハラミージョ(チューチョ)、フランクリン・ビルグエス(ルゴ大佐)、プラクリティ・マドゥロ(エレナ)、ペドロ・パブロ・ポラス(メインガード)、サリー・グラナー(ムーア博士)、コンラン・キシレヴィチKisilewicz(ジョーダン)、カルロス・ゲレロ(パポ)、ソフィア・リバ(クロエ)、ガブリエル・ボニージャ(薬剤師ヘルソン)、ホセ・ラモン・バレト(アントニオ)、マイク・ボランド(マテオ)、アリアンヌ・ジロン(アドリアナ)、スザンヌ・コヴィ(裁判官)、イサイリス・ロドリゲス(ラケル)、ほか多数
ストーリー:2017年カラカス、反政府運動の指導者シモンと仲間は抗議行動のさなか逮捕され拷問を受ける。ベネズエラからの逃亡を余儀なくされた彼は亡命者となりマイアミに向かう。米国入国管理局は、亡命が認められると帰国できないと告げる。シモンはトラウマと罪悪感の両方に直面し、マイアミに残って新しい生活を始めるか、母国に戻って自由の闘いのため独裁政権に立ち向かうかの決断をしなければならない。そんななかシモンは法学部の学生メリッサと出会う。マドゥロ独裁政権のベネズエラの危機のため多くの人々が経験する困難が語られる。
観てもらいたい、覚えていてもらいたい、と懇願する映画
★監督紹介:ベネズエラの現状を述べる前に、ディエゴ・ヴィチェンティーニ監督の紹介をしたい。1994年カラカス生れ、15歳で家族と米国に亡命、現在ロサンゼルス在住。ボストン・カレッジで金融学と哲学を専攻、在学中の2013年、ニューヨークで開催された4週間の映画制作ワークショップに参加、その後映画のクラスも受講した。卒業後ロサンゼルス・フィルム・スクールに入学、卒業制作に2017年のベネズエラ圧政抗議行動をテーマにした短編「Simón」を撮る。短編は予想外の反響を受け、2018年には8ヵ国で公開され、長編化を決意する。短編と長編のテーマやストーリーは重なっておりますが、キャストは主役のクリスティアン・マクガフニー以外別の俳優が演じています。
(ディエゴ・ヴィチェンティーニ)
(長編同様クリスティアン・マクガフニーが主演した短編「Simón」のポスター)
★マルセル・ラスキン監督が製作に参画してくれることになり、クラウドファンディングで資金調達を呼びかける。2019年脚本執筆開始、2021年クランクイン。撮影はコロナのパンデミックと重なったため、キャストとクルーは3日おきに検査が義務付けられ、厳しいマスク着用、セットは消毒され、シモン役のクリスティアン・マクガフニーが罹患するリスクを避けるため、混雑したマイアミのナイトクラブのシーンが変更されたり、エキストラは250人から30人に減らさるなど困難を極めた。撮影期間は28日間、異なる23ヵ所での撮影、費用が追加された。タイトルの「シモン」は、ベネズエラの解放者シモン・ボリバルに因んでいる。この抗議運動で多くの死者、負傷者、誘拐または逮捕されたのち拷問を受けた全員が「小さなシモン・ボリバルです」と監督はコメントしている。
(ヴィチェンティーニ監督とマクガフニー、ゴヤ賞ノミネート)
(撮影中の監督と撮影監督オラシオ・マルティネス、2021年)
★本作はフィクションですが語られる内容は実話がベース、最も辛く困難だったのは「マドゥロ政権が若者たちに身体だけでなく心理的にどんなことをしたか、本人たちの口から聞くことでした」。監督は母国を離れ、2017年当時はロスで映画の勉強をして自由で快適な暮らしをしていた。その後ろめたさ、罪悪感が本作製作の動機だったと語っている。「ベネズエラの現在の危機は西半球の歴史上最大の国外脱出です。私を含め710万人が母国を離れ、自由の闘いのために多くの犠牲をはらっている。しかし未だに変化を成し遂げられない。本作が少しでも貢献できることを願っています」。観てもらいたい、覚えていてもらいたい、と懇願する映画です。
★キャスト紹介:
*シモン役のクリスティアン・マクガフニーは、1989年ベネズエラ生れ、米国のTVシリーズでスタートをきる。ベネズエラやコロンビアのTVシリーズ「Yo soy Franky」(15~、78話)にも出演、2023年ジャスティン・マチューズ&ルーク・スペンサー・ロバートのコメディ「The Duel」に出演、2020年ドラマで共演したマリア・ガブリエラ・デ・ファリアと結婚している。
*ベネズエラ映画祭2023助演男優賞を受賞したフランクリン・ビルグエスは、1953年ベネズエラ生れ、監督は照明とルゴ大佐の冷酷な演技で映画を支配させ、彼を真の怪物のように描いている。メキシコ映画出演が多いが、ベネズエラやコロンビアのTVシリーズにも出演している。
*自己嫌悪と後悔の旅を揺れ動くホアキン役のルイス・シルバは子役出身、クラウディア・ピントの作品や、2015年ロレンソ・ビガスが金獅子のトロフィーを初めてラテンアメリカにもたらした『彼方から』(「Desde allá」)で、チリの名優アルフレッド・カストロと共演している。
*法学部の学生メリッサ役のヤナ・ナワルツキは、1990年ドイツのノルトライン・ベストファーレン生れの女優、ライター。米国のTVムービー、短編、TVシリーズ『ナチ・ハンター』(20~23プライムビデオ)に出演している。シモンは彼女と出会うことで一歩を踏み出す。
(メリッサとシモン、フレームから)
★亡命を求める反体制派の苦悩を描いた作品だが、シモンの人格造形には監督自身が感じている道徳的な罪悪感が投影されているようです。母国の危機に知らんぷりしていていいのか、帰国して共に闘うべきではないかという疑問に苦悩する。チャベス没後、彼の腹心であったニコラス・マドゥロが政権を継承、以来野党リーダーであるフアン・グアイとの闘いは既に10年間も続いている。フアン・グアイが暫定大統領を宣言、米国、EU諸国、近隣の中南米諸国は認めているが、多くの反米、反西側諸国、反民主主義国がマドゥロを守っている。これからも政治的迫害を理由に難民申請をする頭脳流出に歯止めはかからないでしょう。内戦で40年間も自由を束縛されたスペイン映画アカデミーのメンバーたちが、いずれの作品に1票を投じるのか、2月10日を待ちたい。
マイテ・アルベルディの新作ドキュメンタリー*ゴヤ賞2024 ⑤ ― 2024年01月18日 21:48
マイテ・アルベルディの「La memoria infinita」―イベロアメリカ映画
★サンダンス映画祭2024でワールドプレミアされ、ワールドシネマ審査員グランプリ受賞を皮切りに始まった、ドキュメンタリー作家マイテ・アルベルディの「La memoria infinita」の快進撃は、ベルリン、マイアミ、グアダラハラ、リマ、サンセバスチャン、アテネと世界を駆け巡りました。第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた前作『83歳のやさしいスパイ』(20「El agente topo」)の知名度だけではなかったでしょう。当ブログはラテンビート2020でオンライン上映された折りの邦題『老人スパイ』でアップしています。
*『老人スパイ』の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィ紹介は、
★サンダンスに続くベルリン映画祭では観客のほとんどが感涙にむせんだという。というわけでパノラマ部門の観客賞(ドキュメンタリー部門)を受賞したのでした。昨年は国際映画祭での受賞ラッシュの1年でしたが、12月17日に開催されたホセ・マリア・フォルケ賞のガラにはアルベルディ自身が登壇してラテンアメリカ映画賞のトロフィーを手にいたしました。サンセバスチャン映画祭ペルラス部門にノミネートされながら未紹介でしたので、ゴヤ賞ガラに間に合うようアップいたします。
(トロフィーを手にして受賞スピーチをする監督、フォルケ賞ガラ1月17日)
★本作の主人公は、アウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティア、二人がパートナーとして一緒に暮らした25年間の物語です。ゴンゴラはジャーナリスト、プロデューサー、ニュースキャスター、ウルティアは女優として有名ですが、第一次ミシェル・バチェレ政権下(2006~10)では文化芸術大臣を務めた政治家でもあり、つまり二人はチリではよく知られた著名人のカップルでした。8年前の2014年、ゴンゴラはアルツハイマー病と診断されました。その後二人は、2016年1月に正式に結婚しました。アルベルディ監督との出会いは5年前、撮影期間はコロナ禍を挟んで5年間に及びました。監督が二人に接触できずにいたときにはパウリナにカメラを渡して撮影してもらった部分、家族のアーカイブ映像も含まれている。
(左から、パウリナ・ウルティア、アウグスト・ゴンゴラ、アルベルディ監督)
「La memoria infinita」(英題「The Eternal Memory」)
製作:Fabula / Micromundo Producciones / Chicken And Egg Pictures
監督・脚本:マイテ・アルベルディ
音楽:ミゲル・ミランダ、ホセ・ミゲル・トバル
撮影:ダビ・ブラボ、パブロ・バルデス
編集:カロリナ・シラキアン
プロダクション・マネージメント:マルコ・ラドサヴリェヴィッチRadosavljevic
製作者:マイテ・アルベルディ、ロシオ・Jadue(Fabula)、フアン・デ・ディオス・ラライン(同)、パブロ・ラライン(同)、アンドレア・ウンドゥラガ(同)、(エグゼクティブ)マルセラ・サンティバネス、クリスティアン・ドノソ、他多数
データ:製作国チリ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、85分、撮影期間2018年から2022年、配給権MTV Entertainment Films(パラマウント・メディア・ネットワークス部門)、公開チリ8月24日
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2023ワールドシネマ(ドキュメンタリー部門)審査員大賞、ベルリン映画祭パノラマ(ドキュメンタリー部門)観客賞、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門上映、全米審査委員会ナショナル・ボード・オブ・レビューのベスト5の1つに選ばれ、ニューヨーク映画批評家オンライン賞、フォルケ賞ラテンアメリカ映画賞など受賞、他2023年のフロリダ、マイアミ、グアダラハラ、リマ、トロント、アテネ、ヒューストン、ミネアポリス・セントポール、ダラス、ストックホルム、各映画祭にノミネートされた。1月12日発表のシネマアイ栄誉賞2024では、監督賞と記憶に残る映画賞Unforgettablesを受賞、ゴヤ賞の結果待ち。
キャスト: アウグスト・ゴンゴラ(1952~2023)、パウリナ・ウルティア(1969~)、(以下アーカイブ)グスタボ・セラティ(アルゼンチンの俳優・作曲家1959~2014)、ペドロ・レメベル(チリの脚本家1952~2015)、ハビエル・バルデム(スペインの俳優・製作者1969~)、ラウル・ルイス(チリの監督・脚本家1941~2011)他
解説:アウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティアは25年間一緒に暮らしています。8年前、アウグストがアルツハイマー病と診断されました。二人とも、彼がパウリナを認識できなる日を怖れています。アウグストはかつてピノチェト軍事独裁政権下のレジスタンス運動の記録者であり、その残虐行為を忘れないようにすることに専念しています。しかしアルツハイマー病が彼の記憶を侵食していきます。パウリナとの日常生活も蝕まれていきますが自分のアイデンティティを維持しようとしています。パウリナは二人に降りかかる困難に直面しながらも、介護と優しさとユーモアを忘れません。二人の人生の記憶と、チリという国家の記憶を監督は再構成しようとしています。
★アウグストはベルリン映画祭後の2023年5月19日に鬼籍入りしましたが、パウリナのことは最後まで認識できたということです。監督は自身がパンデミックで二人に接触できなかったときに、パウリナが撮影した少し焦点のあっていない映像も取り入れています。そのなかに重要な瞬間があるということです。個人と集団の記憶についての物語のなかで、記憶を失うということが何を意味するのか、記憶を維持するということがどうして重要なのか、そしてその喪失の悲しみなどが敬意をもって語られている。
★ドラマではジュリアン・ムーアがアカデミー賞主演女優賞を手にした『アリスのままで』(14)、アンソニー・ホプキンスが同じく主演男優賞を受賞した『ファザー』(20)など記憶に残る作品があります。しかしドクドラ、ドキュメンタリードラマは多数あっても本作のような作品は多くないように思います。信友直子監督が自身の両親を撮り続けた『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18)、当ブログで紹介した女優カルメ・エリアスを追ったクラウディア・ピントの「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」などが例に挙げられると思います。4年前にアルツハイマー病の診断を受けた女優の「今」を記録しつづけているドキュメンタリーです。本作はゴヤ賞2024ドキュメンタリー部門にノミネートされており、前者は4年後に家族が母親を看取るまでの続編が撮られています。
*「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」の紹介記事は、
★話をアウグスト・ゴンゴラとパウリナ・ウルティアに戻すと、アルツハイマー病はゆっくり進行していく治療の困難な病です。二人も同じプロセスを辿るわけですが、どのように葛藤を解決しようとしたのか、自分たちの人生や愛について語りあい、それは「禍福は糾える縄のごとし」という諺に行きつくことになります。チリで8月24日に公開されるやドキュメンタリーにもかかわらず、第1週目の観客動員数が5万人を超え、興行成績は『バービー』や『オッペンハイマー』、『グランツーリスモ』などを抜いたということです。
アントニオ・メンデス・エスパルサの新作*ゴヤ賞2024 ④ ― 2024年01月11日 19:07
「Que nadie duerma」主演のマレナ・アルテリオ
★アメリカ在住が長かったアントニオ・メンデス・エスパルサがスペインに戻って撮った4作め「Que nadie duerma」が話題になっている。主役のマレナ・アルテリオが本作でフォルケ賞女優賞を受賞して、賞レースに名乗りを上げました。もともとマレナか、またはアルバロ・ガゴのデビュー作「Matria」主演のマリア・バスケスのどと予想していたので驚きはありませんでした。当ブログでは第1作『ヒア・アンド・ゼア』(12)から『ライフ・アンド・ナッシング・モア』(17)、ドキュメンタリー『家庭裁判所 第3H法廷』(20)ともれなく紹介しております。フアン・ホセ・ミリャスの同名小説の映画化、ベルランガ流のクラシック・コメディということもあって紹介する次第です。
*『ヒア・アンド・ゼア』と『ライフ・アンド・ナッシング・モア』の作品紹介は、
*『家庭裁判所 第3H法廷』の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月05日/同年12月07日
「Que nadie duerma」(「Let Nobody Sleep」・「Samething Is About to Happen」)
製作:Aquí y Allí Films / ICAA / Que Nadie Duerma / Wanda Visión S.A.
監督:アントニオ・メンデス・エスパルサ
脚本:アントニオ・メンデス・エスパルサ、クララ・ロケ
原作:フアン・ホセ・ミリャスの “Que nadie duerma”(2018年刊)
撮影:バルブ・バラソイウ
音楽:セルティア・モンテス
編集:マルタ・ベラスコ
キャスティング:マリア・ロドリゴ
美術:ロレナ・プエルト
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
メイクアップ&ヘアー:エレナ・カスターニョ、パトリシア・ベルダスコ・モンテロ
プロダクション・マネージメント:ダビ・エヘア、アルムデナ・イリョロ
製作者:アマデオ・エルナンデス・ブエノ、ペドロ・エルナンデス・サントス、ミゲル・モラレス、アルバロ・ポルタネット・エルナンデス、ほかエグゼクティブプロデューサー多数
データ:製作国スペイン、ルーマニア、2023年、スペイン語。サスペンス・ドラマ、122分、撮影地マドリードのウセラ、 配給Aquí y Allí Films(スペイン)、公開スペイン2023年11月17日
映画祭・受賞歴:バジャドリード映画祭2023ゴールデン・スパイク賞ノミネート(ワールドプレミア)、ホセ・マリア・フォルケ賞2024女優賞受賞(マレナ・アルテリオ)、ディアス・デ・シネ賞スペイン女優賞(同)、シネマ・ライターズ・サークル賞2024ノミネート、ゴヤ賞2024主演女優賞、フェロス賞2024主演女優・助演女優(アイタナ・サンチェス=ヒホン)・オリジナル作曲賞(セルティア・モンテス)
キャスト:マレナ・アルテリオ(ルシア)、アイタナ・サンチェス=ヒホン(ロベルタ)、ロドリゴ・ポワソン(ブラウリオ・ボタス)、ホセ・ルイス・トリホ(リカルド)、マリオナ・リバス(ファティマ)、マリアノ・リョレンテ(エレロス)、マヌエル・デ・ブラス(フアンホ)、イニィゴ・デ・ラ・イグレシア、フェデリコ・ペレス・レイ、イグナシオ・イサシ(ルシアの隣人)、ほか多数
ストーリー:ルシアはコンピューター・プログラマーとしての仕事を突然失ったとき、人生を変えようと決心する。タクシー運転手になりマドリードの街を旅することにしました。タクシーの運転手はかつて出会った男性と遭遇する可能性が非常に高い仕事です。ルシアの頭のなかは日常と非日常が錯綜しながら、厳しい現実とそこからの逃避が奇妙に調和して、観客を置き去りにするまでブレーキなしで走ります。
(タクシードライバーになったルシア)
フアン・ホセ・ミリャスの同名小説の映画化
★主人公はコンピューター・プログラマーの職を解雇されるとタクシー運転手に転職する。このような奇抜な発想をする女性の頭のなかを理解するのはそんなに簡単ではない。フアン・ホセ・ミリャスの同名小説 “Que nadie duerma” の映画化、作家はバレンシア生れ(1946)の77歳、机は勿論のこと壁といわず床といわず山のような本に埋もれて執筆している。3年おきぐらいに新作を発表しているので、本人も出版社も多くてあと3冊くらいと考えている。映画全体のトーンが少し奇妙で観客を不安にさせ当惑させるけれども、文学的な枠組みがあるから飽きさせないようです。
(フアン・ホセ・ミリャスと原作の表紙)
★脚本はアントニオ・メンデス・エスパルサ(マドリード1978)と、2021年、東京国際映画祭とラテンビートFFの共催作品に選ばれた『リベルタード』で監督デビューしたクララ・ロケ(バルセロナ1988)が共同執筆している。彼女は監督より「監督と一緒に仕事ができる脚本家が性にあっている」と語っているように、脚本家としての実績は豊富です。影響を受けている監督の一人にメンデス・エスパルサを挙げていたから、共同執筆は自然な流れでしょうか。監督が『家庭裁判所 第3H法廷』完成後に、「次回作はベルランガ流のクラシック・コメディ」と予告していた作品が本作である。
*クララ・ロケの『リベルタード』の紹介は、コチラ⇒2021年10月12日
★ポスターにあるルシアの後ろに見える黒い鳥はカラスのように見えるが、この鳥はルシアの10歳の誕生日に母親がプレゼントしたものらしい。母親が10歳の娘の誕生日にプレゼントする代物にしてはクレージーだし謎めいている。貰った子供の人生が平穏に進むとは思えない。またタクシー運転中のサウンドトラックが、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』のアリア〈誰も寝てはならぬ Nessum dorma〉となると、観客はどうすればいいのか当惑する。観客に届けられた映画は、愛のコメディ風でもあり、サスペンスでもあり、予告編からはホラーの要素もうかがえる。
(ルシアの背後にいる謎めいた黒い鳥)
★マレナ・アルテリオは、1974年ブエノスアイレス生れ、、映画、舞台、テレビの女優、クラシックとコンテンポラリーのダンサー、歌手、楽器はフルートと多才。当時アルゼンチンは軍事独裁制を敷いており、反体制派だった俳優の父親エクトル・アルテリオが殺害予告を受けていた。マレナは生後6ヵ月で家族とともにマドリードに政治亡命する。エルネスト・アルテリオは兄、2003年ルイス・ベルメホと結婚(~2016)、アルゼンチンとスペインの二重国籍を持ち。両国で活躍している。同じアルゼンチンから亡命したクリスティナ・ロタ演劇学校で4年間演技を学ぶ。舞台女優としてキャリアをスタートさせた。
(新作のフレームから)
★映画デビューは、エバ・レスメスの「El palo」でゴヤ賞2001新人女優賞にノミネートされた。ゴヤ賞の受賞はないが、プレゼンターや現在94歳になる父親エクトルのゴヤ賞2004栄誉賞のトロフィーを兄エルネストと手渡しており、今回の主演女優賞受賞が待たれている。当ブログ紹介作品に、2010年、ミゲル・アルバラデホのシリアスドラマ「Nacidas para sufrir」では修道女を好演した。昨2023年のヘラルド・エレーロの「Bajo terapia」などがある。他にマルク・クレウエトの「Espejo, espejo」(22)が『シングル・オール・ザ・ウェイ』の邦題でNetflix配信が予定されているようです。映画に先行して出演したた舞台では、クリスティナ・ロタ演出のほか、チェーホフやブレヒト劇にも出演しており、映画と舞台の二足の草鞋を履いている。
(父親のゴヤ栄誉賞受賞を喜ぶアルテリオ親子、ゴヤ賞2004ガラ)
★3年に及ぶ長寿TVシリーズ「Aqui no hay quien viva」(2003~06、91話)でスペインのお茶の間に新参、スペイン俳優組合2003助演女優賞を受賞、他に「Vergüenza」(2017~20、23話)でハビエル・グティエレスと夫婦役を演じ、2018年のフォトグラマス・デ・プラタ、スペイン俳優組合、フェロス主演女優賞を受賞している。他に「Señoras del (h) AMPA」(2019~21、26話)に出演している。
★アントニオ・メンデス・エスパルサのキャリア&フィルモグラフィーは、上記の作品紹介で既にアップしております。共演者のアイタナ・サンチェス=ヒホン(ローマ1968)は、2015年にスペイン映画アカデミーの金のメダルを恩師フアン・ディエゴと受賞した折に紹介しております(彼は2022年に鬼籍入りしてしまいました)。舞台に専念して銀幕から遠ざかっていた時期もありましたが、頭の回転が早くて、エレガントで、その舞台で鍛えた演技力には文句の付けようがありません。アルテリオによると「彼女との撮影は驚きの連続で、舞台のリハーサルでは経験ありますが、映画ではなかった」と絶賛している。
(アイタナ・サンチェス=ヒホン、アルテリオ、フレームから)
★ゴヤ賞はアルモドバルの『パラレル・マザーズ』の助演女優賞ノミネートだけです。『パラレル・マザーズ』でフェロス賞、イベロアメリカ・プラチナ賞を受賞している。本作でフェロス賞にノミネートされているほかノミネートは多数ありますが、受賞に至っていない。フラン・トレスのデビュー作「La jefa」(22)が『ラ・ヘファ:支配する者』でNetflixで配信されている。
*アイタナ・サンチェス=ヒホンの紹介記事は、
(監督とアルテリオ)
(アイタナ、監督、マレナ、2023年11月17日マドリード公開にて)
(アルテリオ、監督、アイタナ・サンチェス=ヒホン、バジャドリード映画祭2023)
ダビ・トゥルエバの新作「Saben aquell」*ゴヤ賞2024 ③ ― 2023年12月30日 19:43
ダビ・ベルダゲルがカタルーニャのコメディアン、エウジェニオに変身
★第38回ゴヤ賞(2024年2月10日バジャドリード開催)の未紹介作品をアップしていく予定です。今回は作品賞にノミネートされながら後回しになっていたダビ・トゥルエバの「Saben aquell」のご紹介。主役のコメディアンを演じたダビ・ベルダゲルがフォルケ賞男優賞を受賞したばかりです。受賞は「Upon Entry(La llegada)」のアルベルト・アンマンを予想しておりましたので少し慌てました。今年のサンセバスチャン映画祭に監督と共演者のカロリナ・ジュステの3人で参加していたおりに簡単にアップする予定でしたが、時間切れでパスした経緯がありましたので、第1弾として選びました。
(フォルケ賞男優賞の初受賞のダビ・ベルダゲル、フォルケ賞ガラ、2023年12月16日)
(トゥルエバ監督、ダビ・ベルダゲル、カロリナ・ジュステ、SSIFF 2023年9月26日)
★ゴヤ賞のほかにフェロス賞、ガウディ賞に多数ノミネートされている本作は、トゥルエバ監督の第11作目になります。ドキュメンタリー、TVシリーズ、ミュージックビデオを含めると倍以上の作品を撮っています。難民問題をテーマにした「A este lado del mundo」(20)以来の長編映画は、死後20年以上も経つが今もって語り継がれる伝説的なカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラのビオピック、コメディアンにダビ・ベルダゲル、運命の出遭いをした最初の妻、歌手のコンチータ・アルカイデにカロリナ・ジュステが起用された。
(エウジェニオ役のダビ・ベルダゲル、コンチータ役のカロリナ・ジュステ)
(監督とダビ・ベルダゲル、撮影中のセット)
★二人は1967年に結婚、2人の子供を授かる。その長男ジェラルド・ジョフラが本作の原作者です。実際に当時のライブを見ていたトゥルエバ監督は、「一般の人には知られていない感情に満ちた愛の物語を調べてきましたが、私たち皆が知っていると思っていた、非常に個人的なユーモアを生み出すエウジェニオの手法を賞賛する人にとっては、予想もできないほど彼の人生は複雑でした」とコメントしている。タイトルの「Saben aquell」(皆がそのことは知っている)は、エウジェニオがジョークを始めるときのお決まりのフレーズ「もうご存じでしょうね・・・」から採られている。
(在りし日のエウジェニオとコンチータ)
「Saben aquell」(「Jokes & Cigarettes」)
製作:Atresmedia Cine / Ikiru Films / La Terraza Films / Atresmedia / HBO Max /
Movistar Plus+/ TV3 協賛:ICEC(カタルーニャ文化事業協会)/ CCMA
監督:ダビ・トゥルエバ
脚本:ダビ・トゥルエバ、アルベルト・エスピノサ
原作:ジェラルド・ジョフラの ”Eugenio i Saben el que diu”(2018年刊)
撮影:セルジ・ビラノバ・クラウディン
編集:マルタ・ベラスコ
音楽:アンドレア・モティス
サウンドトラック:作詞ホセ・ルイス・アルメンテロス&パブロ・エレーロ、演奏ニーノ・ブラボー
キャスティング:ペプ・アルメンゴル
プロダクション・デザイン:マルク・ポウ
製作者:エドモン・ロックRoch、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、クリストバル・ガルシア、ハビエル・ウガルテ、ほか
データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語・カタルーニャ語、コメディ・ドラマ、伝記、117分、撮影地バルセロナ。配給:ワーナー・ブラザース・スペイン、公開:バルセロナ10月23日、スペイン11月1日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2024、第29回フォルケ賞男優賞受賞(ダビ・ベルダゲル)、ゴヤ賞2024作品・監督・脚色・主演男優(ダビ・ベルダゲル)・主演女優(カロリナ・ジュステ)ほか11部門ノミネート、ガウディ賞同12部門ノミネート、フェロス賞主演男優・女優、予告編3部門ノミネートなど。
キャスト:ダビ・ベルダゲル(エウジェニオ・ジョフラ)、カロリナ・ジュステ(コンチータ・アルカイデ)、マリナ・サラス(マリ・カルメン)、ペドロ・カサブランク(ビセンテ)、ラモン・フォンセレ(アマデウ)、ペドロ・ルイス(自身)、モニカ・ランダル(自身)、パコ・プラサ(チチョ・イバニェス・セラドール)、クリスティナ・オジョス(コンチータの母)、マティルデ・ムニィス(エウジェニオの母)、キメト・プラ(エウジェニオの父)、シグフリド・モンレオン(神父)、ニーノ・ブラボー(自身)、他多数
ストーリー:60年代後半のバルセロナ、若い宝石商エウジェニ・ジョフラは、運命の人コンチータと出逢う。二人はたちまち恋に落ち、ラブストーリーが始まります。彼は彼女の歌の伴奏のためギターを弾くことを学ぶことになります。同時に舞台恐怖症を克服しなければなりません。こうして〈エルス・ドス〉を結成してキャリアを歩み始めます。黒シャツ黒ズボン、スモークグレーの独特のメガネ、背もたれのない椅子スツール、オレンジ入りのウオツカが入ったコリンズグラス、ドゥカド・タバコ、灰皿、これらは彼が〈エウジェニオ〉になりきるための小道具であり舞台装置でした。フランコ独裁制を埋葬したばかりのスペインで、不況にあえいでいた人々は彼と一緒に笑いたいと思っていました。自身は決して笑わず皆を笑わせる人は、皆さんはもう「ご存じでしょう・・・」と前置きしてジョークを始めます。
(エウジェニオに変身するための小道具、コリンズグラス、ドゥカドタバコ、灰皿)
「ユーモアは悲しみや不幸から生まれる」―品格のあるジョーク
★エウジェニオ・ジョフラ(バルセロナ1941~2001、3月11日)は、民主主義移行期から80年代に掛けてテレビ出演を機に有名になったコメディアン、宝石商、画家、俳優、アマチュアの催眠術師。生れはバルセロナだがアラゴン州ウエスカ県ベナバレで育った。バルセロナの美術とデザインのマッサナ学校で学び、宝石のデザイナーとして働いていた。親類にコメディアンやミュージシャンはいなかったが歌うことは好きだった。
★どうしてコメディアンになったかというと、素晴らしい声の持ち主だった歌手コンチータ・アルカイデ(1939~1980)と運命的な出会いをしたからです。彼女の歌の伴奏をするためギターを習ったのは、彼女への愛のためでした。デュエット〈エルス・ドス〉を結成、結婚(1967年)する。そして妻コンチータの早すぎる死(乳癌)が、彼の人生を特徴づけるターニングポイントになった。突然幼い息子2人と取り残されたエウジェニオは、ソロでのコメディアンにならざるをえませんでした。上述したように、この長男が本作の原作者でショーマンのジェラルド・ジョフラ(1969~)です。
(原作者と著書 ”Eugenio i Saben el que diu”)
★ジェラルドによると、父親について書かれた本やドキュメンタリー「Eugenio」(18)が「本当の父ではなく、別人のように思えたからです」と、その執筆動機を語っている。またアンダルシアのウエルバ生れの母親コンチータは、17歳のときバルセロナにやってきた。彼女を演じたジュステと同じようにカタルーニャ語を学んだ。彼女のカタルーニャ語はとても上手で、カタルーニャ語の歌も素晴らしかった。実際、彼女なしでエウジェニオの成功はなかったといわれています。また非常に献身的な女性で、ジェラルドによると「私は3人の子持ち、エウジェニオ、ジェラルド、それに弟」と語っていたそうです。彼女がこの映画の核心のようです。コンチータ亡き後一人でTVやライブのステージに立ち、90年代初めに引退した。しかし死ぬ数年前に舞台復帰を希望して、その舞台で心臓発作を起こして倒れ、医者から警告を受けることになった。長年鬱病に苦しみ人生から逃避していたが、初孫が誕生した日に「もう耐えられない、終りにしたい」とジェラルドに語り、その言葉通り数日後に旅立った。享年59歳でした。
(ジェラルド、初孫を抱くエウジェニオ)
★テレビだけでなくライブを聴いたトゥルエバ監督は、ライブでの強烈な印象についても語っている。「スペイン人のすべてがエウジェニオを知ってるわけではなく、若い人は勿論だが35歳以上でないと知らないと思う」と述べている。本作を製作する前に彼について書かれたさまざまな本、ドキュメンタリーを見ていた。しかし「彼が内向的な人物で、彼の内面の苦悩について語ったものはなかった」と、その製作動機を語っている。これは原作者の意見と同じようです。「ユーモアは悲しみや不幸から生まれる。エウジェニオ自身は決して笑わず、皆を笑わせる人」だが、ユーモアの背後には愛の悲しい物語があった。エウジェニオは突然大切なものを失う恐怖を知っている人でした。バルセロナ・ドキュメンタリー映画祭でプレミアされたハビエル・ベイグ、ジョルディ・ロビラのドキュメンタリー「Eugenio」(18)は、エウジェニオのアーカイブ映像を使用、遺族や友人を多数出演させている。
(ドキュメンタリー「Eugenio」のポスター)
★監督はエウジェニオを演じたベルダゲルについて「ベルダゲルのように飛びぬけた演技者なしに映画の成功はなかった。〈ダビはぶっとんだやつ〉です」と絶賛した。「スタンドアップ・コメディの世界を見事にさばき限界がない。エウジェニオを真似るのではなく、エウジェニオのまがい物でもない。強いて言えばメイクで付け鼻をしてもらっただけ」と監督。本作には他にベテランのコメディアンで俳優のペドロ・ルイス、女優でテレビ司会者のモニカ・ランダル、さらにパコ・プラサ監督がチチョ・イバニェス・セラドール役で出演している。マラガ映画祭2018の「ビスナガ・シウダ・デル・パライソ」賞受賞者モニカ・ランダルは、エウジェニオがテレビに初めて登場したときのプレゼンターだそうです。
★トゥルエバ監督とキャスト紹介は、当ブログにはお馴染みさんばかりですが、以下に紹介記事をアップしています。主役のベルダゲル(ジローナ1983)はカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』の少女の叔父役でゴヤ賞2018助演男優賞を受賞している。今回は主演男優賞にノミネートされ、異才カルロス・マルケス=マルセ映画の常連です。カロリナ・ジュステ(バダホス1991)は、テレビ出演でスタートを切り、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞、「El cover」でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞、本作でゴヤ賞、ガウディ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。
*ダビ・トゥルエバの主な紹介記事は、コチラ⇒2014年11月21日
『「ぼくの戦争」を探して』
*ダビ・ベルダゲルの最近の紹介記事は、コチラ⇒2019年04月11日
「Els dies que vindran」
*カロリナ・ジュステの主な紹介記事は、コチラ⇒2018年05月13日『カルメン&ロラ』
2021年05月18日「El cover」
第38回ゴヤ賞2024ノミネーション発表*ゴヤ賞2024 ② ― 2023年12月07日 15:04
最多ノミネーションは「20.000 especies de abejas」の15カテゴリー
(ルイス・トサールとアンナ・カステーリョ、11月30日RTVEスタジオにて)
★11月30日、ノミネーション発表は例年ですとアカデミー本部でしたが、今回初めて国営放送RTVEスタジオからのアナウンスとなりました。マリア・テレサ・ゴメス・バホの指揮のもと、俳優のルイス・トサールとアンナ・カステーリョが担当しました。二人とも今年はノミネーションがありません。カテゴリーは28と例年通り、フォトは公式ポスターに統一しての発表です。(数が多いので初出のみにアップしました)
★エスティバリス・ウレソラ・ソラグレンの「20.000 especies de abejas」が15個、フアン・アントニオ・バヨナの「La sociedad de la nieve」の13個、ビクトル・エリセの「Cerrar los ojos」とダビ・トゥルエバの「Saben aquell」が11個、イサベル・コイシェの「Un amor」が7個となりました。国際ゴヤ賞は1週間遅れとなるようです。
(*は当ブログ紹介作品です)
*第38回ゴヤ賞2024ノミネーション*
◎作品賞
「20.000 especies de abejas」(『ミツバチと私』2024年1月5日公開)*
「Cerrar los ojos」(『瞳をとじて』2024年2月9日公開)*
「La sociedad de la nieve」(『雪山の絆』2024年1月5日Netflix配信開始)*
「Saben aquell」 *
「Un amor」(『ひとつの愛』東京国際映画祭2023)*
◎監督賞
ビクトル・エリセ「Cerrar los ojos」
エレナ・マルティン「Creatura」*
フアン・アントニオ・バヨナ「La sociedad de la nieve」
ダビ・トゥルエバ「Saben aquell」
イサベル・コイシェ「Un amor」
◎新人監督賞
エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン 「20.000 especies de abejas」
イチャソ・アラナ 「Las chicas están bien」
アルバロ・ガゴ 「Matria」*
アレハンドロ・マリン 「Te estoy amando locamente」
アレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケス
「Upon Entry(La llegada)」*
◎オリジナル脚本賞
エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン 「20.000 especies de abejas」
ミシェル・ガスタンビデ、ビクトル・エリセ 「Cerrar los ojos」
アレハンドロ・マリン、カルメン・ガリード 「Te estoy amando locamente」
フェリックス・ビスカレット 「Una vida no tan simple」*
アレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケス 「Upon Entry(La llegada)」
◎脚色賞
アルベルト・バル 「El maestro que prometió el mar」 監督パトリシア・フォント
ベルナト・ビラプラナ、J. A. バヨナ、ハイメ・マルケス、ニコラス・カサリエゴ
「La sociedad de la nieve」
パブロ・ベルヘル 「Robot Dreams(『ロボット・ドリームズ』)監督パブロ・ベルヘル
アルベルト・エスピノサ、ダビ・トゥルエバ 「Saben aquell」
イサベル・コイシェ、ラウラ・フェレロ 「Un amor」
◎オリジナル作曲賞
ナターシャ・アリス 「El maestro que prometió el mar」
アルナウ・バタジェル 「La paradoja de Antares」 監督ルイス・ティノコ
マイケル・ジアッキーノ 「La sociedad de la nieve」
アルフォンソ・デ・ビラリョンガ 「Robot Dreams」
アンドレア・モティス 「Saben aquell」
◎オリジナル歌曲賞
Eco-Compositores: Xoel Lopez 「Amigos hasta la muerte」 監督ハビエル・ベイガ
Chinas-Compositores: マリナ・ヘルロプ 「Chinas」 監督アランチャ・エチェバリア
El amor de Andrea-Compositores: アルバロ・B. Baglietto、ダビ・ガルシア、
ギジェ・ガルバン、他、「El amor de Andrea」 監督マヌエル・マルティン・クエンカ
La Gallinita-Compositoresu: フェルナンド・モレシ・ハベルマン、セルヒオ・ベルトラン
「La imatge permanent」 監督ラウラ・フェレス
Yo solo quiero amor-Compositores: リゴベルタ・バンディニ
「Te estoy amando locamente」
◎主演男優賞
マノロ・ソロ 「Cerrar los ojos」
エンリク・アウケル 「El maestro que prometió el mar」
ダビ・ベルダゲル 「Saben aquell」
ホヴィク・ケウチケリアン 「Un amor」
アルベルト・アンマン 「Upon Entry(La llegada)」
◎主演女優賞
パトリシア・ロペス・アルナイス 「20.000 especies de abejas」
マリア・バスケス 「Matria」
マレナ・アルテリオ 「Que nadie duerma」 監督アントニオ・メンデス・エスパルサ
カロリナ・ジュステ 「Saben aquell」
ライア・コスタ 「Un amor」
◎助演男優賞
マルチェロ・ルビオ 「20.000 especies de abejas」
フアン・カルロス・ベリド 「Bajo terapia」 * 監督ヘラルド・エレーロ
ホセ・コロナド 「Cerrar los ojos」
アレックス・ブレンデミュール 「Creatura」
ウーゴ・シルバ 「Un amor」
◎助演女優賞
アネ・ガルバライン 「20.000 especies de abejas」
イツィアル・ラスカノ 「20.000 especies de abejas」
アナ・トレント 「Cerrar los ojos」
クララ・セグラ 「Creatura」
ルイサ・ガバサ 「El maestro que prometió el mar」
◎新人男優賞
ブリアネイトル 「Campeonex」 監督ハビエル・フェセル
フリオ・フー・チェン 「Chinas」
マティアス・レカルト 「La sociedad de la nieve」
ラ・ダニ 「Te estoy amando locamente」
オマール・バナナ 「Te estoy amando locamente」
◎新人女優賞
Xinyi Ye 「Chinas」
Veju Ji 「Chinas」
クラウディア・マラゲラダ 「Creatura」
サラ・ベッカー 「La contadora de películas」 監督Lone Scherfig
ジャネット・ノバス 「O corno」(『ライ麦のツノ』東京国際映画祭2023)*
監督ハイロネ・カンボルダ
◎プロダクション賞
パブロ・ビダル 「20.000 especies de abejas」
マリア・ホセ・ディエス 「Cerrar los ojos」
マルガリータ・ウゲエト 「La sociedad de la nieve」
エドゥアルド・バジェス 「Saben aquell」
レイレ・アウレコエチェア、ルイス・グティエレス「Valle de Sombras」
監督サルバドル・カルボ
◎撮影監督賞
ジナ・フェレル・ガルシア 「20.000 especies de abejas」
バレンティン・アルバレス 「Cerrar los ojos」
ペドロ・ルケ 「La sociedad de la nieve」
ベト・ロウリヒ 「Un amor」
ディエゴ・テレナス 「Una noche con Adela」 監督ウーゴ・ルイス
◎編集賞
ラウル・バレラス 「20.000 especies de abejas」
アスセン・マルチェナ 「Cerrar los ojos」
アンドレス・ジル、ジャウメ・マルティ 「La sociedad de la nieve」
ファティマ・デ・ロス・サントス 「Mamacruz」 監督パトリシア・オルテガ
フェルナンド・フランコ 「Robot Dreams」(『ロボット・ドリームズ』)
◎美術賞
イサスクン・ウルキホ 「20.000 especies de abejas」
クル・ガラバル 「Cerrar los ojos」
カルロス・コンティ 「La contadora de películas」
アライン・バイネー 「La sociedad de la nieve」
マルク・ポウ 「Saben aquell」
◎衣装デザイン賞
ネレア・トリホス 「20.000 especies de abejas」
マリア・アルメンゴル 「El maestro que prometió el mar」
メルセ・パロマ 「La contadora de películas」
フリオ・スアレス 「La sociedad de la nieve」
ララ・ウエテ 「Saben aquell」
◎メイクアップ&ヘアー賞
アイノア・エスキサベル、ジョネ・ガバライン 「20.000 especies de abejas」
アナ・ロペス=プイグセルベル、ベレン・ロペス=プイグセルベル、モンセ・リベ
「La sociedad de la nieve」
エリ・アダネス、フアン・ベガラ 「La ternura」 監督ビセンテ・ビリャヌエバ
ケイトリン・アチソン、ベンハミン・ペレス、ナチョ・ディエス 「Saben aquell」
サライ・ロドリゲス、ノエ・モンテス、オスカル・デル・モンテ 「Valle de Sombras」
◎録音賞
エバ・バリニョ、コルド・コレリャ、サンティ・サルバドル
「20.000 especies de abejas」
タマラ・アレバロ、ファビオラ・オルドヨ、ヤスミナ・プラデラス 「Campeonex」
イバン・マリン、フアン・フェロ、カンデラ・パレンシア 「Cerrar los ojos」
ホルヘ・アドラドス、オリオル・タラゴ、マルク・オルツ 「La sociedad de la nieve」
ハビ・マス、エドゥアルド・カストロ、ヤスミナ・プラデラス 「Saben aquell」
◎特殊効果賞
マリアノ・ガルシア・マルティ、ジョン・セラーノ、ダビ・エラス、フアン・ベルダ、
インデラ・マルティン「20.000 especies de abejas」
エネリツ・サピアイン、イニャーキ・ジル〈Ketxu〉 「La ermita」
監督カルロタ・ペレダ
パウ・コスタ、フェリックス・ベルヘス、ラウラ・ペドロ 「La sociedad de la nieve」
マリアノ・ガルシア・マルティ、ジョン・セラーノ、フアン・ベントゥラ、
アンパロ・マルティネス 「Tin & Tina」 監督ルビン・ステイン
ラウル・ロマニーリョス、ミリアム・ピケル 「Valle de Sombras」
◎アニメーション賞
「Dispararon al pianista (They Shot The Piano Player)」*
製作クリスティナ・ウエテ、フェルナンド・トゥルエバ、ハビエル・マリスカル
「El sueño de la Sultana」*
同チェロ・ロウレイロ、ディエゴ・エルゲラ、イサベル・エルゲラ、他
「Hanna y los monstruos」 同アンヘレス・エルナンデス、ダビ・マタモロス、
ロレナ・アレス
「Monias」 同クレベル・ベレッタ、フランシスコ・セルマ、ジョルディ・ガスル、他多数
「Robot Dreams」 同アンヘル・ドゥランデス、イボン・コルメンサナ、
パブロ・ベルヘル、他
◎ドキュメンタリー賞
「Caleta Palace」 製作ホセ・アントニオ・エルゲタ、レティシア・サルバゴ・ソト
「Contigo, contigo y sin mí」 同アマヤ・ビリャル・ナバスクエス、カルロ・ドゥルシ
「Esta ambición desmedida」 同アントン・アルバレス、クリスティナ・トレナス、
マリア・ルビオ、イサベル・ウトレラ・アルファロ、他多数
「Iberia, naturaleza infinita」 同アルトゥロ・メノル、クリスティナ・メノル
「Mientras seas tú, el aquí y ahora de Carme Elias」* 同クラウディア・ピント・エンペ ラドール、イバン・マルティネス=ルファト、ジョルディ・リョルカ、他多数
◎イベロアメリカ映画賞
「Alma viva」(ポルトガル) 監督クリステレ・アルベス・メイラ
「La memoria infinita」(チリ)* 同マイテ・アルベルディ
「La pecera」(プエルトリコ)* 同グロリマー・マレロ・サンチェス
「Puan」(アルゼンチン)* 同ベンハミン・ナイシュタット、マリア・アルチェ
「Simón」(ベネズエラ) 同ディエゴ・ビセンティニ
◎ヨーロッパ映画賞
「Aftersun」(イギリス『aftersun/アフターサン』公開) 監督シャーロット・ウェルズ
「Anatonia de una caída」(フランス『アナトミー・オブ・ア・フォール』公開)
同ジュスティーヌ・トリエ
「Las ocho montañas」(イタリア、原題「Le otto montagne」『帰れない山』プライムビデオ)同シャルロッテ・ファンデルメールシュ、フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン
「Safe Place」(クロアチア、原題「Sigurno mjesto」) 同ユライ・レロティック
「Sala de profesores (The Teachers’ Lounge)」(ドイツ) 同イルケル・チャタク
◎短編映画賞
「Aunque es de noche」 監督ギジェルモ・ガルシア・ロペス
製作ダミエン・Megherbi、ダビ・カサス・リエスコ、マリナ・ガルシア・ロペス他
「Carta a mi madre para mi hijo」監督カルラ・シモン *
製作マリア・サモラ・モルシーリョ
「Cuentas divinas」監督エウラリア・ラモン、製作アンナ・サウラ
「La loca y el feminista」監督サンドラ・ガジェゴ
製作マリア・デル・プイ・アルバラード、他
「París 70」監督ダニ・フェイシャス、製作アルバ・フォルン、ダニ・フェイシャス
◎短編ドキュメンタリー賞
「Ava」監督・製作マベル・ロサノ
「BLOW !」監督ネウス・バリュス、製作ミリアム・ポルテ、ネウス・バリュス
「El bus」監督サンドラ・レイナ
製作ジャウマ・ファルガス・コル、バレリー・デルピエール
「Herederas」監督・製作シルビア・ベネガス・ベネガス
製作フアン・アントニオ・モレノ・アマドール
「Una terapia de mierda」監督ハビエル・ポロ
製作ハビエル・ポロ、ホルヘ・アコスタ、他
◎短編アニメーション賞
「Becarias」 監督マリナ・コルトン、マリナ・ドンデリス、ヌリア・ポベダ
製作イバン・マドレル、レティシア・モンタルバ、パブロ・ムニョス・ナハロ、他
「To bird or not to bird」 監督マルティン・ロメロ
製作チェロ・ロウレイロ、イバン・ミニャンブレス
「Todo bien」監督・製作ディアナ・アシエン・マンソロ
製作ロシオ・ベナベンテ・メンデス
「Todo está perdido」監督カルラ・ペレイラ、フアンフラン・ハシント
製作アルバロ・ディアス、ダビ・カストロ・ゴンサレス、ホルヘ・アコスタ
「Txotxongiloa」監督・製作ソニア・エステベス
★以上が28カテゴリーの全リストです。作品賞などメインはフォルケ賞、フェロス賞と同じ顔ぶれです。次回から予定しておきながら未紹介の作品をカテゴリーごとにアップしていく予定です。
ゴヤ栄誉賞に撮影監督フアン・マリネ*ゴヤ賞2024 ① ― 2023年12月03日 15:20
103歳の撮影監督フアン・マリネにゴヤ賞栄誉賞
★第38回ゴヤ賞2024は、カスティーリャ・イ・レオン州のバジャドリード市(会場フェリア・デ・バジャドリード)で2月10日(土)開催です。スペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテが主宰する(副会長ラファエル・ポルテラ、スシ・サンチェス)。ノミネーションは11月30日と間もなくですが、10月6日に栄誉賞は撮影監督フアン・マリネ(バルセロナ1920)、10月30日に総合司会者は女優、歌手、監督のアナ・ベレン(ゴヤ栄誉賞2017の受賞者)と監督、脚本家、製作者のロス・ハビスことハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボの3名、と強力打線がアナウンスされておりました。アナ・ベレンは紹介不要ですが、目下舞台やTVシリーズに出演中、ロス・ハビスはフェロス賞のTVシリーズ(ドラマ部門)に最多ノミネーションと紹介したばかりの「La mesías」を手掛けている新進気鋭のシネアスト、二人の作品賞受賞は間違いないでしょう。
(左から、スペイン映画アカデミー会長フェルナンド・メンデス=レイテ、
アナ・ベレン、ロス・ハビス、10月30日)
★スペイン映画アカデミーは、今回のゴヤ栄誉賞に撮影監督、フィルム修復家、スペイン映画界の伝説的な正真正銘の映画研究者フアン・マリネを選びました。「スペイン映画史において80数年にもわたるそのキャリア、フィルム保存や修復への努力、自らの仕事を通じて、スペイン映画史における光の重要性に確かな意義をもたせた」と授賞理由を発表した。監督や俳優のように華々しく表舞台には現れないが、まず1920年12月31日生れに驚かされる(まだ102歳だが受賞時には103歳になる)。映画界に足を踏み入れたのが14歳、「スペイン内戦を生きのび、私の人生イコール映画だと誓って断言できます」と受賞者。
★若い頃に一緒に仕事をした多くの監督名をつらつら眺めるに、当然のことながらほとんどが鬼籍入りしていました。例えばスペイン映画史を紐解けば必ず登場するエドガル・ネビリェ、チャップリンの友人で貴族出の外交官でもあった彼は、ハリウッドの映画界と関係の深った監督で、故国の若いシネアストたちをハリウッドに紹介した人物、またホセ・ルイス・サエンス・エレディア、アントニオ・デル・アモ、ホセ・マリア・フォルケ、ペドロ・ラサガ、ペドロ・マソ・・・と、アシスタント時代を含めると140作以上手掛けている。1990年、フアン・ピケル・シモンの「La grieta」(「The Rift」、『新リバイアサン リフト』)が最後に手掛けた映画でした。彼とも10作以上撮っている。2014年にはプリミティボ・ペレスがドキュメンタリー「Juan Mariné: La aventura de hacer cine」を撮っている。
(マリネのビオピック「Juan Mariné: La aventura de hacer cine」)
★最初の撮影はIMDbに記載はないが、シンジケート全国労働総同盟に加入していたことで、1936年11月に殺害されたアナーキストのブエナベントゥラ・ドゥルティのバルセロナでの埋葬を撮っている。当時彼はエンリケ・リステルの戦争カメラマンだった。内戦中にはフランスのサン=シプリアンやアルジュレス=シュル=メールの強制収容所に入れられ、セビーリャのフランコ派の強制収容所であったラ・リコナダ捕虜収容所に収監されたときは、セビーリャの多くの人々から愛されていたサッカーのレフェリーであった父親のお陰で出所できたということです。10代で「内戦を生きのびた」世代の一人です。
★その後、カタルーニャ参謀本部のカメラマンになり、バルセロナのプロダクションで写真撮影助手として働いていた。内戦が終結すると以前のようにハリウッド映画「The Great Ziegfeld」(36『巨星ジーグフェルド』)を観に映画館に行けるようになった。これは1932年に亡くなったブロードウェイの興行主フローレンツ・ジーグフェルドの伝記映画で、そのインパクトが彼を映画界に引き入れた1作になったと語っている。
★最初の長編映画は、1947年のアントニオ・デル・アモの「Cuatro mujeres」で、その後13作もタッグを組んでいる。紹介記事によるとオーソン・ウェルズが自宅に逗留してロスのカリフォルニア大学で講義するよう誘ったがハリウッドには関心を向けなかったという。彼はスペインで最初にカラー撮影をしたことでも知られている。マルガリータ・アレクサンドレ&ラファエル・マリア・トレシーリャの「La gata」(56)である。新しい撮影技術やフィルム修復の考案者でもあった。例えば光学コピー機、あるいは彼の手で設計されたネガ洗浄機などである。2020年、彼の生誕100周年には、スペイン・フィルモテカで彼が修復した作品、自身の「Orgullo」、「La gata」、「La gran familia」(『ばくだん家族』)、「Supersonic Man」、その他サイレント時代のフローリアン・レイの「La aldea maldita」(30)、本物の闘牛士ペピン・マルティン・バスケスが主演したルイス・ルシアのトレロ映画「Currito de la cruz」(49)などが上映された。
★パンデミアになる2020年までマドリード共同体映画学校の映画修復の指導者として毎日通っていた。地下に専用の部屋を持っていて、指導を受けていた生徒たちによると「サブ≂マリネ」と呼ばれていたそうです。以下に主な受賞歴を列挙しておきます。
*主な受賞歴*
1966年:ナショナル・シンジケート・オブ・スペクタクル賞
(撮影部門、「Los guardiamarinas」)
1990年:金のメダル(スペイン文化スポーツ省の美術功績賞)
1994年:映画国民賞(スペイン文化スポーツ省)
2001年:セグンド・デ・チョモン栄誉賞(スペイン映画アカデミー)
2015年:エスピガ麦の穂栄誉賞(Seminci 第60回バジャドリード映画祭)
2017年:シッチェス映画祭栄誉賞
2024年:第38回ゴヤ栄誉賞
(3人揃って栄誉賞を受賞したフアン・ディエゴ、フェルナンド・トゥルエバと、
Seminci 2015、カルデロン劇場にて)
★簡単にご紹介するつもりが、その経歴の波乱万丈に魅せられ、結局スペイン映画史の資料をあさる自体になりました。願わくば来年2月10日の授賞式には元気な姿で登壇してほしいものです。ゴヤ賞2024ノミネーションも出揃い、次回にアップする予定です。フォルケ賞、フェロス賞に多くが重なりますが、ノーチェック作品で賞に絡みそうな話題作を紹介したいと思います。
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