アルゼンチン映画 『明日に向かって笑え!』*8月6日公開2021年07月17日 16:26

           ダリン父子がドラマでも父子を共演したコメディ

     

          

                             (スペイン語版ポスター)

 

セバスティアン・ボレンステインLa odisea de los giles(英題「Heroic Losers」)が明日に向かって笑え!の邦題で劇場公開されることになりました。いつものことながら邦題から原題に辿りつくのは至難のわざ、直訳すると「おバカたちの長い冒険旅行」ですが、無責任国家や支配階級に騙されつづけている庶民のリベンジ・アドベンチャー。リカルド・ダリンとアルゼンチン映画界の重鎮ルイス・ブランドニが主演のコメディ、2年前の2019815日に公開されるや興行成績の記録を連日塗り替えつづけた作品。本当は笑ってる場合じゃない。公開後ということで、9月にトロント映画祭特別上映、サンセバスチャン映画祭ではアウト・オブ・コンペティション枠で特別上映された。ダリンの息チノ・ダリンがドラマでも息子役を演じ、今回は二人とも製作者として参画しています。

 

      

         (ドラマでも親子共演のリカルド・ダリンとチノ・ダリン)

 

La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ20200118

ボレンステイン監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20160430

リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ20171025

チノ・ダリンの紹介記事は、コチラ20190115

 

★公式サイトと当ブログでは、固有名詞のカタカナ起しに違いがありますが(長音を入れるかどうかは好みです)、大きな違いはありません。リカルド演じるフェルミンの友人、自称アナーキストのバクーニン信奉者ルイス・ブランドニ、フェルミンの妻ベロニカ・リナス(ジナス)、実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ、などのキャリアについては作品紹介でアップしています。悪徳弁護士フォルトゥナト・マンツィ役アンドレス・パラ、銀行の支店長アルバラド役ルチアノ・カゾー、駅長ロロ・ベラウンデ役ダニエル・アラオスなど、いずれご紹介したい。

 

     

            (監督と打ち合わせ中のおバカちゃんトリオ)

 

★原作(La noche de la Usina)と脚本を手掛けたエドゥアルド・サチェリは、大ヒット作『瞳の奥の秘密』09)でフアン・ホセ・カンパネラとタッグを組んだ脚本家、ボレンステイン監督とは初顔合せです。大学では歴史を専攻しているので時代背景のウラはきちんととれている。

『瞳の奥の秘密』の作品紹介は、コチラ20140809

 

★作品紹介の段階では、受賞歴は未発表でしたが、おもな受賞はアルゼンチンアカデミー賞2019(助演女優賞ベロニカ・リナス)、ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2020ラテンアメリカ映画賞、シネマ・ブラジル・グランプリ受賞、ハバナ映画祭2019、アリエル賞2020以下ノミネート多数。

 

      

     (ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞のトロフィーを手にした製作者たち)

 

ネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、いずれかで日本上陸を予測しましたが、一番可能性が低いと思われた公開になり、2年後とはいえ驚いています。公式サイトもアップされています。当ブログでは原題でご紹介しています。

  

13県の公開日202186日から順次全国展開、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ほか。新型コロナウイリスの感染拡大で変更あり、お確かめを。

グアテマラ映画 『ラ・ヨローナ伝説』 *東京国際映画祭2019 ④2019年10月20日 18:25

    ハイロ・ブスタマンテの第3作『ラ・ヨローナ伝説』がコンペティション部門上映

 

       

 

★デビュー作『火の山のマリア』(15)が公開され、本邦でも幸運なスタートを切ったハイロ・ブスタマンテの第3作目ラ・ヨローナ伝説La Llorona)がコンペティション部門にノミネートされました。当ブログではサンセバスチャン映画祭2019「ホライズンズ・ラティノ部門」で第2作目Tembloresを紹介、第3作はクロージング作品ではあったがコンペ外ということで割愛しました。ラテンアメリカ諸国で現在に至るまで語り継がれてきた「ラ・ヨローナ(泣く女)」の伝説を取り込んで、1980年代グアテマラに吹き荒れた先住民ジェノサイドを告発する社会派スリラーです。いわゆるファンタジー・ホラーではないが、その要素を内包しながら、30年後によみがえる先住民女性たちの復讐劇でもあるようです。

   

    
    

      (ハイロ・ブスタマンテ監督、ベネチア映画祭2019「ベニス・デイズ」にて)

 

デビュー作『火の山のマリア』の作品紹介は、コチラ201508281025

2Temblores」の監督キャリア&作品紹介は、コチラ20190819

 

 ラ・ヨローナ伝説La LloronaThe Weeping Woman2019

製作:El Ministerio de Cultura Y Deportes de Guatemala / La Casa de Producción / Les Films du Volcan

監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ

撮影:ニコラス・ウォン

音楽:パスクアル・レイェス

編集:ハイロ・ブスタマンテ、グスタボ・マテウ

プロダクション・デザイン:セバスティアン・ムニョス

助監督:メラニー・ウォルター

製作者:ハイロ・ブスタマンテ、グスタボ・マテウ、その他

 

データ:製作国グアテマラ=フランス合作、スペイン語、マヤ語(カクチケル、イシル)、2019年、スリラードラマ、97

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2019「ベニス・デイズ」出品、作品賞Fedeora賞、GdA監督賞受賞、トロントFF、ミラノFF、エル・グーナFF(エジプト)、ベルゲンFFシネマ才能賞受賞、サンセバスティアンFF「ホライズンズ・ラティノ部門」ヨーロッパ⋍ラテンアメリカ協業作品賞受賞、チューリッヒFF「ヒューチャー・フィルム部門」、ロンドンFF、ヘントFF、シカゴFF、東京国際FFコンペティション部門、ストックホルムFFなど各映画祭に出品または出品予定。

 

キャスト:マリア・メルセデス・コロイ(アルマ)、サブリナ・デ・ラ・ホス(ナタリア)、マルガリタ・ケネフィック(カルメン)、フリオ・ディアス(退役将軍エンリケ・モンテベルデ)、マリア・テロン(バレリアナ)、フアン・パブロ・オリスラガーOlyslager(レトナ)、アイラ・エレア・ウルタド(サラ)、ペドロ・ハビエル・シルバ・リラ(警察官)、他

 

ストーリー:「お前が泣けば殺してしまうよ」という言葉が耳に響いてくる。アルマと彼女の子供たちはグアテマラの武力紛争で殺害された。そして30年後、ジェノサイドを指揮した退役将軍エンリケに対する刑罰訴訟の申立てが開始された。しかし裁判は無効となり、彼は無罪放免となった。ラ・ジョローナの魂は解き放たれ、生きている人々のあいだを彷徨い歩く亡霊のようになった。ある夜のこと、エンリケは泣き声を耳にするようになる。妻と娘はエンリケがアルツハイマー認知症になったのではないかと疑い始める。新しく雇われた家政婦アルマは、正義がなされなかった復讐を果たすためエンリケの家にやって来たのだ。1982年から83年にかけて、1ヵ月に3000人のペースでマヤ族を殺害したという先住民ジェノサイドを告発する社会派スリラー。

   

         グアテマラ先住民ジェノサイドとジョローナ伝説のメタファー

 

36年間吹き荒れたグアテマラの武力抗争(19601996)は、最初はイデオロギー対立で始まったのだが、ある時期からマヤ先住民ジェノサイドに変容する。それが1970年代終りから80年代前半にあたり、当時の指揮官がリオス・モント将軍、作品ではエンリケ・モンテベルデ将軍、約20万人とも調査が進むなかで25万人ともいわれる犠牲者のうち15万人が、この時期に集中して殺害されたという。うち女性が5分の4というのが何を意味するのか、ジェノサイドといわれる所以です。30年後というのが現在を指すようです。同胞セサル・ディアスNuestras madres(カンヌFFカメラドール受賞)も同時代を背景に同じテーマを扱っている。まだ真相は解明されたとは言えず、真の意味の和解はできていない。社会再生への道程は長い。

セサル・ディアスの「Nuestras madres」紹介記事は、コチラ20190507

 

      

        (エンリケの自宅前で抗議の声を上げる女性たち、映画から)

 

★マヤ語は21種類あり、本作で使用されたカクチケル語は、『火の山のマリア』でも使用されていた比較的話者の多いマヤ語の一つ。マヤ語使用者が人口の60%あるというのもジェノサイドの遠因の一つかもしれない。ラテンアメリカ諸国に生き残っている <ラ・ヨローナ伝説> は、メキシコから南米のアルゼンチン、チリまで、国によって、地域によって少しずつ異なるが存在する。表記は <ジョローナ伝説> のほうが一般的かと思われる(llo-の発音は地域によって違いがあるが、リョあるいはジョに近い)。ストーリーにも違いがあり、共通項は女性が高位の男性に思いを寄せ子供を生むが、いずれ捨てられて子供を水辺に沈めて自分も死のうとするが死にきれず、後悔と自責の念に駆られて彼の世と此の世を亡霊のように彷徨うというもの。水辺は川、湖、海などのバリエーションがあり、女性は先住民、女性より高位の男性とはヨーロッパから来た白人というケースが多い。この伝説のメタファーは簡単ではない。

 

      

              (映画『ラ・ヨローナ伝説』から)

 

★キャスト陣に触れると、アルマ役のマリア・メルセデス・コロイは、『火の山のマリア』で主役のマリアを演じたほか、メキシコのTVシリーズMalincheで征服者コルテスの通訳マリンチェを演している。メキシコではマリンチェは同胞を裏切りスペイン側についた極悪人の烙印を押されていたが、昨今では当然のことながら再評価が行われている。マリンチェはコルテスに献上された贈り物で、裏切りの代名詞とはかけ離れている。アステカ王国のナワトル語、マヤ語、スペイン語を駆使した聡明な女性で、コルテスとのあいだに男児を設けているが認知されていない。彼女も子殺しはしなかったがラ・ジョローナの一人である。他にこの秋公開されるポール・ワイツ『ベル・カント とらわれのアリア』18、米国)でテロリストの一人になる。渡辺謙やジュリアン・ムーアとの共演はプラスに働くだろう。

   

       

          (アルマ役のマリア・メルセデス・コロイ、映画から)

    

★『火の山のマリア』でマリアの母親を演じたマリア・テロンは、数少ないプロの女優の一人だった。先住民の知識に乏しかったブスタマンテ監督にマヤの文化や伝統を伝える役目を果たして脚本の書き直しに寄与している。またカクチケル語とスペイン語ができたことから、監督とスペイン語を解さない出演者たちのまとめ役でもあった。第2作目Temblores」とブスタマンテ全作に出演している。

 

           

     (家政婦アルマのマリア・メルセデス・コロイとマリア・テロン、映画から)

 

       

     (マリア・テロンとマリア・メルセデス・コロイ、『火の山のマリア』から

 

★「Temblores」の主任司祭役で映画デビューしたサブリナ・デ・ラ・ホスは、そのスタニスラフスキー・メソッド仕込みの演技力で注目を集めている。エンリケの娘ナタリアは教養の高い医師、父親の過去を知って苦しむ。プロの体操選手になることが夢だった少女は、長じてアートに目覚め体操を断念、ジョージア州のサヴァンナ大学で芸術史を専攻、かたわら写真、グラフィックデザインも学ぶ。ジョージア、アトランタ、グアテマラ、パナマなどでデザイナーの仕事をしているが、スタニスラフスキー・メソッドも学んでいる。2作品の出演だから評価はこれから。

 

      

       (エンリケの娘ナタリア役のサブリナ・デ・ラ・ホス、映画から)

 

    

  (ベルリン映画祭2019Temblores」のフォトコールのサブリナ・デ・ラ・ホス)

 

★エンリケ・モンテベルデ将軍役のフリオ・ディアスは本作で映画デビュー、フアン・パブロ・オリスラガーは、「Temblores」の主役パブロを演じた俳優、ペドロ・ハビエル・シルバ・リラも「Temblores」にバーテンダー役で出演しているなど、両作に出演している俳優が多い。

 

       

          (エンリケ将軍役フリオ・ディアスを採用したポスター)

 

★編集と製作を監督と共同で手掛けたグスタボ・マテウは、監督、脚本家、編集者、製作者。『火の山のマリア』の配給を手掛けている。本作の製作を担当した La Casa de Producciónの総マネジャーとして、ブスタマンテ監督と共に働いている。ベネチア映画祭2019「ベニス・デイズ」に授賞式まで残り、GdAGiornate degli Autori監督賞受賞(副賞2万ユーロ)のトロフィーを代わりに受け取った。

 

         

        (GdA監督賞受賞のトロフィーを手にしたグスタボ・マテウ)

 

TIFF での上映は3回、1031日、113日、115日、チケット発売中。ハイロ・ブスタマンテ監督が来日、Q&Aがアナウンスされている。

   

追記:2020年7月、『ラ・ヨローナ~彷徨う女~』の邦題で公開されました。


ハビエル・フェセルの 『チャンピオンズ』*スペイン映画祭2019 ②2019年07月01日 17:16

            スペイン映画祭2019――インスティトゥト・セルバンテス東京主催

    

 

   

インスティトゥト・セルバンテス東京のスペイン映画祭2019625日~72日)が開催され、うち5作を鑑賞しました。期待通りの作品、それほどでもなかった作品などもありましたが、うち年内に公開が予定されているハビエル・フェセル『チャンピオンズ』(原題「Campeones」)はお薦め作品です。当日の上映後には、スカイプでフェセル監督とのインタビューもありました。1年ほど前に公開を期待して作品&監督キャリア紹介をしておりますが、以下にストーリーとキャスト紹介を訂正加筆して再録、改めてその魅力をお伝えしたい。公開前なのでネタバレに気をつけてのご紹介です。

Campeones」の作品&監督キャリア紹介記事は、コチラ20180612

   

       

 『チャンピオンズ』(原題「Campeones」)2018、コメディ、スペイン=メキシコ合作

キャスト

ハビエル・グティエレス(マルコ・モンテス)マーシュランド』『オリーブの樹は呼んでいる』

     『クリミナル・プラン完全なる強奪計画』「El autor

アテネア・マタ(マルコの妻ソニア)『モルタデロとフィレモン』『ビースト 獣の日』

フアン・マルガージョ(ソーシャルセンター責任者フリオ

            『ミツバチのささやき』『孤独のかけら』

ルイサ・ガバサ(マルコの母アンパロ)パウラ・オルティスの「La novia

ラウラ・バルバ(裁判官)『ロスト・アイズ』

ダニエル・フレイレ(カラスコサ)『ルシアとSEX

ルイス・ベルメホ(ソニアの同僚)『となりのテロリスト』『KIKI』『孤独のかけら』

ビセンテ・ジル(ベニトの雇用者)

Yiyo アロンソ(マルコの弁護士)

イツィアル・カストロ(ヘススの母親)『ブランカニエベス』『あなたに触らせて』

チャニ・マルティン(クエンカ行きバスの運転手)

ホルヘ・フアン・ヌニェス(セルヒオの雇用者)

クラウディア・フェセル(ホテルのフロント係)『カミーノ』

ハビエル・フェセル(新聞記者)

以下バスケット・チーム「ロス・アミーゴス」の選手10

ヘスス・ビダル(マリン)、グロリア・ラモス(紅一点コジャンテス)、セルヒオ・オルモ(セルヒオ)、フリオ・フェルナンデス(ファビアン)、ヘスス・ラゴ(ヘスス)、ホセ・デ・ルナ(フアンマ)、フラン・フエンテス(パキート)、ステファン・ロペス(マヌエル)、アルベルト・ニエト・フェランデス(ベニト)、ロベルト・チンチジャ(ラモン)

決勝戦対戦チーム「ロス・エナノス」の選手、ラモン・トーレス、アントニオ・デ・ラ・クルス以下多数

 

ストーリーマルコ・モンテスはスペイン・バスケット・ナショナルリーグのチームABCの副コーチである。マナーが悪く横柄なことから他のコーチとは上手くいってない。プロとしてのキャリアも人間関係にも多くの問題を抱えこんでいる試合中に試合方針の違いからヘッド・コーチと口論になり退場させられる。むしゃくしゃして飲酒運転、あげくの果てにパトカーに追突事故、即刻クビになってしまった。妻ソニアにも言えず実家に転がり込んだマルコに、裁判官からは懲らしめの罰則として2年間の服役か、または90日間の奉仕活動「ロス・アミーゴス」という知的障害者のバスケットボール・チームのコーチのどちらかを選択するよう言い渡された。こんな罰則はマルコの好みではなかったが、しぶしぶコーチを選ぶことにした。しかしマルコは次第にこの奇妙なチームの面々から、自分が学ぶべき事柄の多さに気づかされていく。彼らは障害者のイメージからはほど遠く、率直で独立心に富んだ、肩ひじ張らずに生きてい姿に、我が人生を見つめ直していくことになる                               (文責:管理人)

 

     障害者とは何か、フツウとは何かの定義を迫られるマルコと観客

 

A: ストーリーは公開前なので、結末まで話したくても話せない。ただ自分の障害者観を見直さねばならないと思いました。コメディで「障害者とは何か、フツウとは何か」をこれほど明快に示した映画はそんなに多くないはずです。

B: さらに言えば「幸せとは何か」です。主役のマルコも私たち観客も考え直さねばならない。それが強制されずに自然に素直にできたことがよかった。

 

A: ハビエル・グティエレスの魅力については、度々当ブログで書き散らしているので今更ですが、彼以外に具体的な俳優名を思い浮かばないほど適役でした。実際のグティエレスにとって9人の新人たちは不思議でも何でもない。それは彼自身が障害者の息子の父親だからです。「社会の言われなき攻撃の目に晒されている。それは人々の無知と恐怖と無関係ではない」と語っている。

B: この事実が脚本にも隠されていますね。この映画は皆にとって必要だし、同時に自覚をうながしたり教育のためにもなるから、「学校で見てもらいたい」ともコメントしている。

A: 代表作のうち、アルベルト・ロドリゲス『マーシュランド』のダメ刑事役も捨てがたいが、彼はコメディのほうが生き生きしている。イシアル・ボリャインのコメディ『オリーブの樹は呼んでいる』などのほうが好きですね。

B: 本作でも<チビ>という単語が何回も現れますが、本当に上背がない。しかしそれも個性の一つではないか。

   

       

          (どうしたらいいものやらと、途方に暮れるマルコ)

    

ハビエル・グティエレスのキャリア紹介は、コチラ20150124

『オリーブの樹は呼んでいる』の作品紹介は、コチラ20160719

 

         プロの俳優と知的障害者の見事なコラボレーション

 

A: 昨年の作品紹介で「プロの俳優はマルコ役のハビエル・グティエレス一人」と書きましたが、実際映画を見てみれば、次々に知った顔が現れました。「プロの有名な俳優」が正しいようで。

B: ロス・アミーゴスの選手はすべて初出演ですが、ソーシャル・センターの責任者フリオ役のフアン・マルガージョ、マルコの母親役ルイサ・ガバサ、他ルイス・ベルメホイツィアル・カストロ・・・

 

A: というわけでキャスト欄に主に邦題のある過去の出演映画を追加しました。フアン・マルガージョハイメ・ロサーレス『孤独のかけら』でヒロインの父親になった俳優、共演したもう一人の主役ペトラ・マルティネスと結婚している。マルコが「私の仕事はフツウの選手のコーチ、彼らは選手でもフツウでもない」と断わると、「いいかい、マルコ、ノーマルなのは誰? あんたや私かい?」と諭した。

B: 役柄も素敵だがいい味を出していた。イツィアル・カストロはあの巨体だから一目でわかります。

 

       

   (正真正銘のインテリ役フリオを演じたフアン・マルガージョ、ゴヤ賞2019授賞式にて)

 

A: ロス・アミーゴスの俳優たちは、本作のメイン・プロデューサーのアルバロ・ロンゴリアが監督したドキュメンタリーNi distintos ni diferentes: Campeones27分)にヘスス・ビダル以外出演しています。同時進行か、あるいはこちらのほうが先だったかもしれません。

B: 『チャンピオンズ』は映画祭を通さずいきなり公開、あっという間に話題を攫い、世界各地をめぐっていますが、ドキュメンタリーはサンセバスチャン映画祭2018で上映されました。

 

        

       (サンセバスチャン映画祭に出品されたドキュメンタリーのポスター)

 

            障害者への友好・多様性・可視化に警鐘を鳴らす

 

A ヘスス・ビダルゴヤ賞2019新人男優賞を受賞しました。スカイプでフェセル監督から彼の受賞スピーチの素晴らしさが伝えられました。「YouTubeで見られるからご覧になってください」ということでしたが、本当に心に沁みる、当夜のハイライトの一つでした。当ブログでもゴヤ賞2019で簡単にご紹介しています。「無名の新人10%の視力しかない視覚障害者の受賞スピーチは、友好・多様性・視覚化という三つの単語で、障害者を特別扱いする社会に警鐘を鳴らした」と

B: フェセル監督は「全盲に近い」「彼らは自分自身を演じていた」と語っていましたが、彼だけは知的障害者ではなく視覚障害者ですね。ほかの出演者は自分自身を演じていたが、彼はマリンという役を演じたわけです。

ゴヤ賞2019授賞式のヘスス・ビダルの記事は、コチラ20190205

 

        

        (受賞スピーチをするヘスス・ビダル、ゴヤ賞2019授賞式にて) 

 

A: いま流行りの言葉で言えば、本作は「障害者の見える化」に貢献している。それが監督のテーマではなかったけれど、私たちがその存在を「できれば知らないでいたい」という風潮に釘を刺した。

 

           観客の予想を裏切ることで観客の考えを変えたい

 

B: 監督から「ロベルト・チンチジャが扮したラモンの造形は、シドニー・パラリンピック2000バスケットボールのスペイン・チームの不祥事がヒントになった」と。

A: スペイン・チームは金メダルだったが、選手12人中10人が健常者、知的障害者はラモン・トーレスともう一人の選手だけだったことが発覚して、金メダルが剥奪されたという不祥事でした。これによりスペイン障害者スポーツ連盟の会長が辞任に追い込まれた。身体障害者と違って知的のほうは外見だけでは判断できないから、それ以降もパラリンピック事務局を悩ませているようです。

 

B: そのラモン・トーレスから名前をとった。だから劇中のラモンはラモン・トーレスの分身、つまり「コーチを信用しない理由」が判明する。

A: 実際のラモン・トーレスも決勝戦対戦チーム、カナリア諸島の「ロス・エナノス」の選手として出演していた。エナノスenanosというのは「背のひどく低い人たち」という意味で、マルコたちは競技場で大きな選手たちを見てびっくりする。

B: 監督は至る所でいたずらっ子ぶりを発揮していた。「最初の脚本は殆ど書き直し、スタートしてから彼らとコラボしながら書き進めていった」とも語っていました。

 

A: オーディションでは300人ぐらいと面接した。異色の登場人物のなかでもコジャンテスを演じたグロリア・ラモスは飛び切り魅力的だった。彼女がスクリーンに現れると何が起こるかとウキウキしてくる。

B: 監督は「知的障害者の女性とはこういうもの」という世間の固定観念を壊したかったと語った。

 

A: 他にも「この映画に出たことで人生が変わった」と語るフアンマ役のホセ・デ・ルナ、パキート役のフラン・フエンテス、ヘスス役のヘスス・ラゴなど、すべてをご紹介できないが、愛すべき人々が登場する。

B: 他人と違うことは個性の一つだと、寛容と多様性の重要さが語られている。

    

     

(ラモンにおんぶされてはしゃぐ紅一点コジャンテスとロス・アミーゴスの選手たち)

 

     

(出演したことで「人生が変わった」と語るフアンマ役のホセ・デ・ルナ)

   

    

(フォルケ賞ガラでのヘスス・ラゴ、グロリア・ラモス、フラン・フエンテス、16日)

   

A: 他にもアテネア・マタ扮するマルコの奥さんソニアの偏見のない人格造形もよかった。マルコや選手たちを縁の下から支える役柄、実際にフェセル監督の信頼も厚かった。ルイサ・ガバサ演じる愛すべきマルコの母親アンパロ、美人裁判官役のラウラ・バルバ、ヘススのママ役のイツィアル・カストロなど、総じて女性が生き生きと描かれていた。ラウラ・バルバは舞台女優にシフトしており、ロンドンほか海外での活躍が多い。TVシリーズ出演の他、自身も短編を撮って監督デビューしている。

       

    

(インタビューを受けるアテネア・マタと監督、201846日)

 

        

                (裁判官役ラウラ・バルバに刑罰の理不尽を訴えるマルコ)

 

B: これから公開だから、フィナーレに触れることはできないが、幸せな気分で映画館を出ることができます。

A: 観客の予想を裏切ることで観客の考えを変えたい部分も含めて、泣いて笑って考えさせられるコメディでした。「コメディは90分以内」がベターと言われるなかで、2時間越えを危惧していたが全くの杞憂だった。

 

B: 次回作が既に始動しているようだが、まだIMDbにはアップされておりません。

A: 監督は12月公開時には来日する予定でいるそうです。実現すれば「ラテンビート09」で上映された『カミーノ』以来のことになる。プロデューサーのルイス・マンソ、絵コンテと出演もしたビクトル・モニゴテ3人で来日、会場でも場外でも観客の質問に気軽に応えていた。マンソは新作でもエグゼクティブ・プロデューサーとして、モニゴテは絵コンテ・アーティストとして参画しているので、気取らないダンゴ三兄弟の来日が期待できるかもしれない。さて、魅力をお伝えすることが出来たでしょうか。

  

『誰もがそれを知っている』*アスガー・ファルハディ2019年06月23日 17:40

 

                  

★故国イラン、フランス、スペインと、社会のひずみと家族の不幸を描き続けているアスガー・ファルハディ監督、今回はマドリード近郊の小さな町を舞台に少女誘拐事件を絡ませたサスペンス仕立てにした。監督は『彼女が消えた浜辺』2009About Elly」)のようにミステリアスなテーマを織り込むのが好きだ。邦題は英題「エブリバディ・ノウズ」を予想していましたが、『誰もがそれを知っている』と若干長いタイトルになりました。そんなこと「みんな知ってるよ」という劇中のセリフが題名になりました。主な関連記事と登場人物が多いので、以下にキャスト名を再録しておきます。         

     

       (アスガー・ファルハディ監督と出演者、カンヌ映画祭2018にて)

 

 本作の主な関連記事

作品の内容・監督キャリア・キャストの紹介記事は、コチラ20180508

ペネロペ・クルスのセザール名誉賞受賞の記事は、コチラ20180308

ペネロペ・クルス近況紹介記事は、コチラ⇒20190520

ハビエル・バルデム出演の経緯と近況の記事は、コチラ20181017

 

 主な登場人物

ペネロペ・クルス(ラウラ)

ハビエル・バルデム(ラウラの元恋人パコ)

リカルド・ダリン(ラウラの夫アレハンドロ、アルゼンチン人)

バルバラ・レニー(パコの妻ベア)

エルビラ・ミンゲス(ラウラの姉マリアナ)

インマ・クエスタ(ラウラの妹アナ)

エドゥアルド・フェルナンデス(マリアナの夫フェルナンド)

ラモン・バレア(ラウラ三姉妹の父アントニオ

ジェール・カザマジョール(アナの結婚相手ジョアン、カタルーニャ人

カルラ・カンプラ(ラウラの娘イレネ)

サラ・サラモ(マリアナの娘ロシオ)

イバン・チャベロ(ラウラの幼い息子ディエゴ)

ホセ・アンヘル・エヒド(フェルナンドの友人、退職した元警官ホルヘ)

セルヒオ・カステジャーノス(パコの甥フェリペ)

パコ・パストル・ゴメス(ロシオの夫ガブリエル、出稼ぎ中

ハイメ・ロレンテ(ルイス)

トマス・デル・エスタル(パコのワイナリー共同経営者アンドレス)

その他、インマ・サンチョ、マル・デル・コラル、多数

 

         突然ひらめく一つのシーン――テーマは後から着いてくる

       

A: 監督によると「本作のアイデアは2005年、4歳になる娘を連れてスペインを旅行していたときに目にとまった<少女失踪>の張り紙だった」と語っています。最初からテーマを決めてストーリーを組み立てていくのではなく、「あるシーンが頭に浮かぶと、そこを起点にしてストーリーを語りたくなる。テーマが具体化するのはずっと後です」とも語っています。

B: 『彼女が消えた浜辺』のインタビューでも同じようなことを語っていた。今度はスペイン旅行中だったから、ここを舞台に撮ろうと思った?

 

A: というか、もともとスペインにシンパシーがあったので、スペインの俳優を使ってスペイン語で撮りたいと考え準備していたということでしょう。スペイン映画をたくさん観たうちからペネロペ・クルスに白羽の矢を立てた。彼女を念頭に執筆開始、何回も書き直しを繰り返して本人にオファーをかけたそうです。

B: ペルシャ語で執筆、それを翻訳してもらって、書き直して、を繰り返した。このやり方は2013年に公開されたフランス語で撮った『ある過去の行方』で既に体験済みでしたね。

 

A: スペイン語はフランス語よりずっと易しい。クランクインしたときにはスペイン語を完全にマスターしていたとハビエル・バルデムがエル・パイス紙に語っていたが、やはり通訳を介していたらしい。自分へのオファーが直ぐこなくてやきもきしたとジョークを飛ばしていた。当然パコ役は自分が演ると思っていた()

 

         脚本の曖昧さともつれ方――犯人が誰であるかは重要ではない

 

B: 冒頭のシーンは古ぼけた教会の鐘楼で始まる。どうもデジャヴの印象でした。

A: ハトが窓から逃げようとして騒ぎはじめる。数秒後にこれから起こるだろう事件を暗示するかのように、手袋をはめた手が古新聞の切り抜きをしている。「カルメン・エレーロ・ブランコ誘拐事件」と読める。誰かが閉じ込められ、それは過去の事件と関係していると知らせている。

B: ラウラの久しぶりの帰郷に家族や隣人を挨拶に登場させることで、これから始まる劇のメンバー全員が次々に紹介される。導入部としては合格点でしょうか。

 

        

    (かつての恋人同士だったラウラとパコ、ラウラの娘イレネとパコの甥フェリペ)

 

A: この鐘楼に早速意気投合したイレネとフェリペが昇ってくる。ハトのメタファーがそれとなく分かるような仕掛けがしてある。その後ハトが飛び立つことから事件が解決に向かうことを観客は理解する。

B: 謎解きや犯人捜しを楽しむ複雑なストーリーのスリラー映画ではないということです。

A: 冒頭からの数ある伏線を見落とさずに見ていれば、かなり早い段階で誘拐犯人の当たりがついてくる。しかし本作では犯人が誰であるかは重要ではない。アスガー・ファルハディの狙いは謎解きではない。どんな平凡な家庭にも人に知られたくない秘密があり、知らないほうが却って幸せなこともある。

 

B: 秘密を守るためには嘘をついてでも隠し続けなければならない。しかし娘の命にかかわることとなれば、それは別の話になるだろう。 

A: ところが万事休す暴露すれば、そんなこと本人以外「みんな知ってたよ」となってしまう。物語を動かすために犯人追及は重要だが、犯人の身元は重要ではない。つまり誘拐犯が分かっても、それはいずれ誰もが知っているのに誰も口にしない新たな秘密になるだけです。「沈黙は金」なのである。

 

B: 図らずも母の秘密を知ることになるだろう娘、更には娘の秘密を偶然にも知ってしまう母親が秘密の重さに耐えかねて共犯者を求めるシーンで幕を閉じる。それぞれ秘密を墓場まで持って行くことができるだろうか。

 

A: フィナーレの総括で、フラストレーションを引き起こした観客が多かっただろうと思います。娘を救い出し、家族や知人の亀裂を残したままラウラ一家は早々に引き揚げるが、全財産を失い不信を募らせる妻ベアとの関係も崩壊したパコの過失は、いったい何だったのだろうか。

B: 少し理不尽な気分が残った。しかしバルデム自身はパコの陰影のある実直さがえらく気に入ったようだ。もっとも本当にパコがすべてを失ったかどうかは、観客に委ねられた。

 

A: 多くの批評家が脚本を褒めているけれども、個人的には支離滅裂とまでは言わないがストレスを感じた。男としての責任感だけで今までの苦労を水の泡にできるものだろうか。

B: 作中での常識ある人間はパコの連れ合いベアだけだ。

A: 豪華なキャスト陣を動かすためだろうが、ほかにも脚本の曖昧さやもつれ方が気になった。過去のラウラとパコの関係はある程度想像できますが、ラウラが町を出たかったのは分かるとして何故アルゼンチンだったのかの必然性が感じられなかった。

 

B: 多分リカルド・ダリンを起用したかったからじゃないの ()。コメディが得意なダリンがずっと苦虫を噛み潰していた。かつては会社を経営していたという夫アレハンドロは、会社が倒産して2年前から失業中という設定でした。今時「神のご加護」に縋っている人間がいるなんて。

A: 誘拐犯に疑われるにいたっては馬鹿げすぎている。犯人が誰かは重要ではないけれど、土地勘のない異国の土地でいくら金欠でも単独では無理でしょう。

     

          

       (ラウラと夫アレハンドロ、ペネロペ・クルスとリカルド・ダリン)

 

           経済危機を背景にエゴがむき出しになる村社会       

 

A: 本作ではスペインとアルゼンチン両国の長引く経済危機、失業問題が背景にある。加えて不法移民による格安の季節労働者の急増が土地の労働者を圧迫している。元の地主と小作間の土地紛争と相続問題、資産格差を打ち破る下剋上的な新旧の世代交代などテーマを詰め込みすぎだ。更にこれらを解決するのがテーマじゃないから、ただ並べただけで最後までほったらかしだった。

 

B: 時代が変わり没落していくかつての地主、夫婦の危機、兄弟姉妹間の口に出せない不平等感などもテーマの一つだった。他人の不幸は蜜の味は国を問わない。

A: 脇を固めた俳優たちに触れると、三姉妹の長女マリアナを好演したエルビラ・ミンゲス、本作でスペイン俳優連盟2019の助演女優賞を受賞しているベテラン。酒に溺れ頑迷でただのろくでなしになった老人アントニオの面倒を、夫フェルナンドとみている。美人の妹たちとは年もかなり離れ、幸せそうでない娘ロシオと孫を同居させている。隣人の陰口どおり貧乏くじを引いてしまっている。

 

           

        (我慢強いマリアナと責任を取りたくないフェルナンドの夫婦)

 

B: 父役のラモン・バレアは、ビルバオ生れ(1949)の脚本家、舞台監督でもあり皆の尊敬を集めている。未公開作品ですがボルハ・コベアガの「Negociador」では主役も演じています。公開作品で他に何かありますか。

A: TVシリーズや短編を含めると160作ぐらいに出ていますが、本作のパンフレットは不親切で出演作はゼロ紹介でした。まず同郷の監督パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』や『アブラカダブラ』、Netflixでは先述のボルハ・コベアガの『となりのテロリスト』、サム・フエンテスの『オオカミの皮をまとう男』、未公開ですがアナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardes」など結構あり、当ブログでも何回かご登場願っています。

 

       

        (尊敬を失った老いた父親アントニオ役ラモン・バレアとラウラ)

         

B: 娘婿フェルナンドに扮したエドゥアルド・フェルナンデスは、ご紹介不要でしょうか。バルデムと共演した『ビューティフル』、ダリンと共演した邦題が最悪だった『しあわせな人生の選択』など。

A: サンセバスチャン映画祭男優賞受賞の『スモーク・アンド・ミラー』に、ゴヤ賞助演男優賞を受賞した『エル・ニーニョ』など、当ブログでのご紹介記事も枚挙に暇がありません。

 

B: 枚挙に暇がないもう一人が、パコの妻ベア役のバルバラ・レニー、アルゼンチン出身だが今やスペインを代表する女優の一人です。クルスもレニーも出演本数はかなりあるほうですが、初めての美人スター対決、さぞかし火花が散ったことでしょう。

A: 二人ともギャラが高そうだから共演は難しい。バルバラが主演したハイメ・ロサーレスの新作『ペトラは静かに対峙する』が間もなく公開されます。ペネロペ・クルスはスクリーンの4分の3ほど苦しんでいましたが ()、シーンごとに表情の陰影が異なり、確実に演技は進化している。今が人生でいちばん油が乗っているというか充実しているのではないか。

 

        

          (パコとベア、ハビエル・バルデムとバルバラ・レニー)

 

B: バルデムとダリンの共演も初めて。そもそもダリンはスペイン映画にはあまり出演していないし、バルデムも軸足をアメリカに置いていた時期が長いから当然です。

A: 三女アナ役のインマ・クエスタはコメディもこなす演技派、クエスタはクルスともバルデムとも初顔合わせです。2011ダニエル・サンチェス・アレバロの『マルティナの住む街』で登場、脇役ながら存在感を示した。予想を裏切らずその後の活躍は『スリーピング・ボイス』『ブランカニエベス』『ジュリエッタ』と、いい作品に恵まれている。

 

B: 本作では前の交際相手と別れて金持ちらしいカタルーニャ人を結婚相手に選ぶ。二人の出会いは語られませんが、ラウラから「賢明な選択だった」と褒められたので「おや?」と思った。

A: 精神的な意味なのか経済的なものか推測するしかないのだが、花嫁側の経済的困窮を考えると後者かなと感じた。前半と後半の明暗を印象づけるためかもしれないが、困窮している花嫁側があれほど派手な披露宴をするのは不自然かな。

 

B: バルデムは「スペインの風習が正確に描写され」ていると語っているが、監督は常にイランとスペインの制度の違いを気にかけ「これはスペインでも可能なことか」と確認していたという。

A: 特にイスラム社会の婚姻制度は欧米とは異なっており、「婚姻は契約」であり、花婿は花嫁と家族に身支度金をいくら支払うか、離婚に至った場合の慰謝料をいくら払うか契約書に明記しなければならない。ここに精神的なものは含まれない。勿論離婚の権利は夫側にしかなく、妻が要求した場合は慰謝料は受け取れない。これは初めてアカデミー賞を手にした、2011年の『別離』でも描かれていた。

 

B: アナの結婚相手ジョアン役のロジェール・カザマジョールは、デル・トロのダーク・ファンタジー『パンズ・ラビリンス』に出演、ビダル大尉と対決するゲリラの闘士役を演じた。

A: 有名なのはゴヤ賞2011で作品賞以下9部門を制したアグスティ・ビリャロンガ『ブラック・ブレッド』で少年の父親になった。オリジナル版はカタルーニャ語、母語もカタルーニャ語です。ゴヤ賞は逃したがガウディ賞助演男優賞を受賞している。カタルーニャTVのシリーズの出演が多く、演技の幅は広い。実際もリェイダ生れのカタルーニャ人です。

 

       

        (花嫁と花婿、インマ・クエスタとロジェール・カザマジョール)

 

B: 他ルイス役のハイメ・ロレンは、シーズン3の配信が始まる『ペーパー・ハウス』のデンバー役、『ガン・シティ~動乱のバルセロナ』や『無人島につれていくなら誰にする?』など、最近の活躍が目立つ若手。

A: ラウラの幼い息子ディエゴ役のイバン・チャベロは、パコ・プラサのホラー『エクリプス』で主人公ベロニカの弟役でデビュー、若干背が伸びました。メガネは伊達ではないようだ。

   

B: 筋運びにもやもやがあるにしても、俳優たちの演技はよかったのではないか。

A: 演技派をこれだけ集められたのもオスカー監督ならではの威光でしょう。

 

          撮影監督ホセ・ルイス・アルカイネの光と闇の拘り方

 

B: 最後になったが撮影監督のホセ・ルイス・アルカイネのバイタリティーには驚く。1938年生れだから既に80代に突入している。バルデム=クルス夫婦の初顔合わせとなったビガス・ルナの『ハモンハモン』他ルナ作品の専属だった。

A: アルモドバルの『バッド・エデュケーション』『ボルベール』『私が、生きる肌』ほか、ビクトル・エリセカルロス・サウラビセンテ・アランダフェルナンド・トゥルエバなどスペインを代表する監督とタッグを組んでいる。ブライアン・デ・パルマなど海外の監督ともコラボして挑戦を止めない。

 

      

                (ケーキカットのシーンから)

 

B: 本作では光と闇、雨または水が物語を動かす役目をもたされている。突然降り出す雨、ろうそくの明かりのなかでのケーキカット、土砂降りの闇夜のなかを走る車のヘッドライト、まぶしい陽光を遮るようにホースからほとばしる水しぶきなど、印象深いシーンが多かった。

A: その一つ一つに繋がりがあり、特にフィナーレのホースでプラサの汚れを洗い流す飛沫は、ベールで二人の共犯者を覆い隠すように幕状になっていく。こうして誰もが知っているが誰も口に出さない新たな秘密が誕生する。

  

「監督週間」にペルー映画*カンヌ映画祭2019 ⑤2019年05月01日 20:21

            メリナ・レオンの「Canción sin nombre」は80年代の実話に基づく

 

    

423日、第51回「監督週間」のノミネーション発表がありました。今年からディレクターがイタリアのパウロ・モレッティに変わりました。ノミネーションも24作と増え、うち16作が長編デビュー作です。スペイン語映画ではペルーのメリナ・レオンのデビュー作Canción sin nombre(「Song Without Name」スイス合作)と、アルゼンチンのアレホ・モギジャンスキイPor el dinero(「For the Maney」)がノミネートされました。共にワールドプレミアです。先ずはレディファーストとして前者からご紹介。「監督週間」のオープニングは515日。

 

        

メリナ・レオンの「Canción sin nombre」は、1988年リマで実際にあった乳児誘拐事件にインスパイアされて製作されました。ペルーの1980年代は、政治経済のみならず社会全体が長い内戦状態でした。この時代を背景にしたペルー映画は数多く、例えばクラウディア・リョサ『悲しみのミルク』09金熊賞受賞作品)や、当ブログ紹介のバチャ・カラベドチノン・ヒガシオンナ監督のPerro guardián14)他、内戦の瑕をテーマにした映画が多い。

Perro guardián」の紹介記事は、コチラ20140904

 

 Canción sin nombre(「Song Without Name」)

製作:Bord Cadre Films / La Vida Misma Films / Mgc Marketing / Torch Films 

監督:メリナ・レオン

脚本:メリナ・レオン、マイケル・ホワイト

編集:マヌエル・バウアー

撮影:インティ・ブリオネス

音楽:パウチ・ササキ

美術:ギセラGisela・ラミレス

録音:オマル・パレハ

キャスティング:ルス・タマヨ

製作者:ティム・ホッブズ、Ori Dav Gratch、メリナ・レオン、ヘスス・ピメンテル

 

データ:製作国ペルー=スイス、言語スペイン語・ケチュア語、スリラードラマ、モノクロ、撮影地ビリャ・エル・サルバドール、リマ中心街、イキトス。2014年長編映画プロジェクト・ナショナル・コンクール優勝、ニューヨークのジェローム基金、グアダラハラ共同マーケット、クラウドファンディングで製作資金を得て製作された。

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2019「監督週間」正式出品、

 

キャスト:パメラ・メンドサ(ヘオルヒナ・コンドリ)、トミー・パラガ(記者ペドロ・カンポス)、ルシオ・ロハス(レオ)、マイコル・エルナンデス(イサ)、ルス・アルマス(マルタ)、他

 

ストーリー1988年アンデス出身のヘオルヒナは、リマのサン・ベニト・クリニックで女の子を出産するが、娘の姿は突如消えてしまい誘拐されたことを知る。必死で探すうちある新聞社のジャーナリストのペドロ・カンポスに出会うことができ、彼は娘の捜索を引き受けてくれる。1980年代のペルーは内戦のさなかで社会はカオス状態であった。実際にリマで起きた乳児誘拐事件にインスパイアされて製作された。

 

      

  

★公式サイトに製作国が「ペルー、スイス」だが、ペルーでの紹介記事では「ペルー、米国、スペイン、メキシコ」、IMDbでは「ベル―、米国」と若干食い違う。メインの制作会社Bord Cadre Films の本社はジュネーブにあり、最近のラテンアメリカ諸国映画に力を注いでいる。クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラ『夏の鳥』、アマ・エスカランテ『触手』、カルロス・レイガーダス『われらの時代』、スペイン映画ではイサ・カンポ&イサキ・ラクエスタ『記憶の行方』など話題作に出資している。

 

★ニューヨークの制作会社 Torch Filmsはドキュメンタリーを得意とし、ドラマではアントニオ・メンデス・エスパルサの『ヒア・アンド・ゼア』などメキシコとの合作映画に出資しており、メインプロデューサーのティム・ホッブズは本作も手掛けている。もう一人のOri Dav Gratchは監督の短編El Paraíso de Liliがニューヨーク映画祭2009で上映されたときに知り合ったプロデューサーで、ホッブズ同様『ヒア・アンド・ゼア』を手掛けている。本作には米国の資金が入っていることは明らかです。ヘスス・ピメンテルはメキシコの製作者、Mgc Marketingはスペイン、La Vida Misma Filmsはメリナ・レオン監督が出資先が見つからないCanción sin nombre」のために2012年に設立した。

 

★監督によると「ヘオルヒナ・コンドリは、貧しい移民で身寄りのない女性だったが、アーティストでファイターだった」と語っている。ヘオルヒナ役のパメラ・メンドサとレオ役のルシオ・ロハスは初出演、ジャーナリスト役のトミー・パラガは「El Paraíso de Lili」、マリアネラ・ベガの短編「Payasos」(0920分)、スペインからはマイコル・エルナンデスが出演、サルバドル・カルボの『1898:スペイン領フィリピン最後の日』、アルバロ・フェルナンデス・アルメロの『迷えるオトナたち』などに出演、マルタ役のルス・アルマスもスペイン女優、オスカル・サントスの『命の相続人』(10)、ホルヘ・ナランホの「Casting」(13)ではマラガ映画祭「銀のビスナガ助演女優賞」をグループで受賞している。

    

          

 (ヘオルヒナ役のパメラ・メンドサと新聞記者役のトミー・パラガ)

 

         

                       (本作撮影中のメリナ・レオン監督)

 

 監督キャリア&フィルモグラフィー

★リマ大学で映画&ビデオを学び、その後2009年ニューヨークのコロンビア大学映画監督科の修士号を取得する。監督、脚本家、製作者、編集者。コロンビア大学卒業後もニューヨークに留まって、アンダーグラウンドのアーティストたちとのコラボ、『エル ELLE』のようなモード雑誌のイベントを手掛けた。リマに戻ってからは、グーグルが支援するユニセフのためのビデオを製作、2012年制作会社「La Vida Misma Films」を設立、長編デビュー作「Canción sin nombre」を製作する。本作で音楽を担当した日系ペルー人パウチ・ササキとの共同監督でShoというドキュメンタリーを企画中。パウチ・ササキは作曲家フィリップ・グラスに師事しているヴァイオリニスト、カーネギー・ホールでの演奏経験をもち来日もしている。現在は主にアメリカで活躍中。前述のバチャ・カラベド&チノン・ヒガシオンナの「Perro guardián」の音楽も手掛けている。

 

(メリナ・レオン監督)

   

    

 (パウチ・ササキとフィリップ・グラス) 

 

Una 45 para los gastos del mesEl Paraíso de LiliConacine(ペルーの文化省主催)によって最優秀短編賞を受賞した。特に後者はニューヨーク映画祭2009に正式出品され受賞歴多数。うちサンパウロ短編映画祭ラテンアメリカ部門で短編賞を受賞している。

 

2000Una 45 para los gastos del mes」短編

2007Girl with a Walkman」短編、監督・脚本・製作

2009El Paraíso de Lili」短編、モノクロ、監督・脚本・製作

2019Canción sin nombre」本作


追加情報『名もなき歌』の邦題で劇場公開になりました。

     東京はユーロスペース、2021年7月31日(土)~

 

ハビエル・バルデム、新作はスピルバーグ製作のTVミニシリーズ2018年10月17日 14:05

         Todos lo saben」の次はTVミニシリーズ「Cortés

 

★去る914日、カンヌ映画祭2018のオープニング作品だったアスガー・ファルハディTodos lo saben(「Everybody Knows」)が、やっとスペインで公開された。オープニングに選ばれたスペイン映画は、過去にはアルモドバルの『バッド・エデュケーション』(04)があります。オスカー賞2冠に輝くイランの監督(『別離』『セールスマン』)、日本でも知名度のあるスペインのエリート俳優+アルゼンチン俳優、おまけに子供誘拐のミステリーとくれば公開は決まりです。日本公開は来年6月になりますが、邦題はエブリバディ・ノウズになるようです。当ブログでは2016年の製作発表段階から記事にしていましたが、カンヌまでなかなかプロットが見えてこなかった。苦悩する母国イランを離れて、独自の視点で映画を撮り続けている監督を無視することはできません。出来はどうあれ百聞は一見に如かずです。

追記:邦題『誰もがそれを知っている』で2019年6月1日公開決定。

Todos lo saben」の作品・キャスト・スタッフ紹介は、コチラ20180508

         

      

(幸せに酔う結婚式のシーンを入れた、スペイン公開のポスター)

   

         

                         (カンヌ映画祭の英語ポスター)

 

スペイン公開日にエルパイスの編集室を訪れたハビエル・バルデムが撮影余話を語ってくれた。

本作のアイデアは、ファルハディ監督が4歳だったお嬢さん連れでスペインを家族旅行したとき、行方不明になっている子供の「尋ね人」の張り紙を見たとき浮かんだという。「私は嫉妬心が強く妬みぶかい。しかし少なくともそのことを自覚している」とバルデムは笑いながら告白。監督が映画を撮りたいと最初にコンタクトをとってきたのは(自分でなく)ペネロペ・クルスだった。自分にオファーがあったのは1か月半後、「とても気分がよかったし、私の自惚れも満たされた」とジョークを飛ばした。

 

      

          (エルパイス紙の編集室で冗談をとばすハビエル・バルデム、2018914日)

 

★バルデムは、監督が準備期間中にスペインに居を移しスペイン語をマスター、完璧なスペイン映画を撮ることに力を注いでいたことを指摘した。監督がクランクイン時に既に「マドリード近郊の、ラ・マンチャの乾いた風土や生粋の村民の、逞しく、親切な、愛すべき気質を理解していた」と、その抜きんでた才能と努力を褒めていた。妹の結婚式に出席するため家族を伴って、ブエノスアイレスから故郷ラ・マンチャに里帰りした女性が払う過去の請求書。踊り好きお祭り好きの村民が披露宴で幸福感に酔いしれているとき誘拐事件が起きる。犯人が隣人であることがはっきりしてくる。一見仲睦まじく見えた共同体の重さは未来永劫に続くのか。時には嘘も方便、共生には必要なんですが。

 

★クルス、バルデムほかの主な共演者は、リカルド・ダリンエドゥアルド・フェルナンデスラモン・バレアバルバラ・レニーインマ・クエスタエルビラ・ミンゲスとエリート演技派が集合している。それぞれがエゴをむき出すこともなく撮影はスムーズだった。それは「各人とも台本を読み込んでいて、人物のつながりをよく理解していたからだ」とバルデムは語っていた。

        

         

 (カンヌ映画祭オープニングに勢揃いしたスタッフとキャスト)

 

               

                (共演中でも仕事を家庭に持ち込まないという賢いカップル)

      

★監督をする可能性についての質問には、「その気はない。多くの俳優が挑戦してることは知ってるが、取り巻く状況を考えると、自分にはきつすぎる。優柔不断な人間だから耐えられないだろう。さしあたっては監督業は考えていない」、特別撮りたいテーマがあるなら別だが、別にないようです。

 

★新しい作品は、スピルバーグ製作のTVミニシリーズCortés4エピソード)でスペインの征服者エルナン・コルテス役。二つの文明の衝突、二人の戦略家、メシカ族アステカ帝国の第9代君主モンテスマとコルテスの遭遇を描く歴史ドラマだそうです。まだ詳細は不明です。スピルバーグの大ファンで『ET.』はスクリーンで24回観た由(!)、「監督は理知的で謙虚、印象深い映画を撮る可能性を秘めている」と絶賛している。


12月公開『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』のご案内2018年10月14日 18:41

        『ビヘイビア』の監督エルネスト・ダラナスの新作「Sergio & Sergei

   

    

★マラガ映画祭2018で作品紹介をしたエルネスト・ダラナス・セラノの新作Sergio & Sergeiが、『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』という長たらしい邦題で121日公開が決定したようです。キューバ=スペイン=米国の合作映画、スペイン語、英語、ロシア語が入り乱れ、ナイナイ尽くしの両国が繰り広げる辛口コメディ。前作の『ビヘイビア』(「Conducta」)はマラガ映画祭2014のラテンアメリカ部門の作品・監督・観客賞などを受賞しましたが、新作はブラジルのグスタボ・ピッツィ『ベンジーニョ』(「Benzinho」)が作品賞「金のビスナガ」を受賞、無冠に終わりました。『ベンジーニョ』ラテンビート2018で上映が決定しています(タイム・テーブルは目下未定)。    

   

 

★キャストは大部分がキューバ人(『ビヘイビア』のキャストが起用されており、セルゲイ役エクトル・ノアス、ウリセス役アルマンド・ミゲル・ゴメス他)、ロシア生まれだがスペインで仕事をしているローランド・ライヤーハノフ、ダブリン生れだが子供のとき家族とカナダに移住、もっぱらアメリカのTVシリーズに出演しているA.J. バックリー、最も異色なのがアメリカのロン・パールマンでしょうね。公式サイトと当ブログの俳優名・役名のカタカナ表記が異なりますが、当たらずとも遠からず、所詮外国語表記には限界がありますから悪しからず。それにしても「セルジオ」というのは何語読みでしょうか。

 

        

             (左から、セルゲイ、セルヒオ、ピーター) 

 

作品&監督キャリア紹介は、コチラ20180412

公開劇場:新宿武蔵野館、20181201日~


ペルラス部門にハイメ・ロサーレス新作*サンセバスチャン映画祭2018 ⑨2018年08月08日 16:01

           3 作ともカンヌ映画祭2018のノミネーション作品です!

    

       

   

★ペルラス(パールズ)部門は、かつてはサバルテギ部門に含まれていたセクションでした。今年はアルゼンチンとの合作、ルイス・オルテガEl Ángelハイメ・ロサーレスPetraと、スペイン人とポーランド人の監督ラウル・デ・ラ・フエンテ&ダミアン・NenowのアニメーションUn día más con vida(ポーランド合作)の3作がエントリーされました。うち「El Ángel」はカンヌ映画祭2018「ある視点」部門に、「Petra」はカンヌ映画祭と同時期に併催される「監督週間」に正式出品された作品で、最後のアニメーションはカンヌのコンペティション外上映でした。「El Ángel」はカンヌで既にアップしておりますので割愛いたしますが、「死の天使」と恐れられた美貌の青年殺人鬼カルロス・ロブレド・プッチのビオピックです。

 

El Ángel(アルゼンチン、スペイン)2018 ルイス・オルテガ

 

    

El Ángel」の記事・監督紹介は、コチラ20180515

 

 

Un día más con vida/Another Day of Life(西、ポーランド)2018 アニメ

 ラウル・デ・ラ・フエンテ&ダミアン・Nenow

 

    

 

       5度目のカンヌに挑戦したハイメ・ロサーレスの新作「Petra

    

 

       

Petra(スペイン、フランス、デンマーク)ハイメ・ロサーレス 2018

キャスト:バルバラ・レニー(ペトラ)、ジョアン・ボテイ(造形芸術家ジャウマ)、マリサ・パレデス(ジャウマの妻マリサ)、アレックス・ブレンデミュール(ジャウマの息子ルカス)、ペトラ・マルティネス(ペトラの母フリア)、カルメ・プラ(テレサ)、オリオル・プラ(パウ)、チェマ・デル・バルコ(フアンホ)、ナタリエ・マドゥエニョ(マルタ)、ほか

 

スタッフ:監督・脚本ハイメ・ロサーレス、共同脚本ミシェル・ガスタンビデ、クララ・ロケ、製作者(エグゼクティブプロデューサー)ホセ・マリア・モラレス、(プロデューサー)アントニオ・チャバリアス、カトリン・ポルス、音楽クリスティアン・エイドネス・アナスン、撮影エレーヌ・ルバール、編集ルシア・カサル、美術ビクトリア・パス・アルバレス、衣装イラチェ・サンス

 

物語:ペトラの父親の素性は彼女には全て秘密にされていた。母親の死をきっかけにペトラは危険な探索に着手する。真相を調べていくうちに、権力をもつ無慈悲な男、著名な造形芸術家ジャウマ、ジャウマの息子ルカスと妻マリサに出会う。次第に登場人物の人生は、ぎりぎりの状況にまで追いこまれ、悪意、家族の秘密、暴力のスパイラルに捻じれこんでいく。運命は希望と贖罪のための窓が開くまで、残酷な筋道を堂々巡りすることだろう。カタルーニャのブルジョア家庭の暗い内面が語られるが、悲劇は避けられるのでしょうか。

 

データ:製作国スペイン(Fresdeval Films / Wanda Visión / Oberón Cinematográfica)、フランス(Balthazar Productions)、デンマーク(Snowglobe Films)、言語スペイン語・カタルーニャ語、2018年、107分、協賛TVETV3Movistar+他。スペイン公開20181019

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2018併催「監督週間」正式出品、サンセバスチャン映画祭2018「ペルラス」部門上映

 

       

             (ペトラ役のバルバラ・レニー)

 

      

        (ペトラとルカス役のアレックス・ブレンデミュール)

 

★「監督週間」では時間切れでご紹介できなかったハイメ・ロサーレスの第6作「Petra」のご紹介。もっぱらカンヌに焦点を合わせているカンヌの常連ハイメ・ロサーレス監督(バルセロナ、1970)だが、サンセバスチャン映画祭2008に長編第3Tiro en la cabezaが正式出品されている。バスク原理主義者によって殺害されたスペインの2人の警察官の物語ということで、カンヌでは拒まれ、サンセバスチャンに持ってきたのだが、こちらでも散々な評価だった。唯一評価したのがフォトグラマス・デ・プラタ作品賞のみでした。自然の音以外音声のない無声映画のような、ドキュメンタリー手法で望遠レンズで撮影された。今作以外はすべてカンヌでワールドプレミアされ、新作「Petra」が5回目のノミネーションだった。

 

★デビュー作Las horas del día03)が「監督週間」に出品され、いきなり国際映画批評家連盟賞を受賞した。ここで主役を演じたのが今回ジャウマの息子ルカスになったアレックス・ブレンデミュールで、15年ぶりに監督と邂逅した。欲に眩んだ造形芸術家ジャウマに扮したジョアン・ボテイは、偶然監督と知り合いリクルートされた自身もアーティスト、カメラの前に立つのは初めてだそうです。女性陣の二人バルバラ・レニーマリサ・パレデスは割愛、ペトラの母親フリアを演じたペトラ・マルティネスは、ロサーレス監督の第2作目『ソリチュード:孤独のかけら』で3人姉妹の母親役をしたベテラン、アルモドバルの『バッド・エデュケーション』でもガエル・ガルシア・ベルナルの母親になった。地味な役柄が多いが存在感のある実力派女優です。

   

国際色豊かなのがスタッフ陣、名前からも分かるように、撮影監督エレーヌ・ルバールはフランスのポンタルリエ生れ(1964)、アニエス・ヴァルダの『アニエスの浜辺』(08)、ヴィム・ヴェンダースの『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』(11)、アリーチェ・ロルヴァケルの『夏をゆく人々』(14)などの美しい映像は今でも心に残っている。音楽のクリスティアン・エイドネス・アナスンはデンマーク出身、高い評価を受けたパウェウ・パヴリコフスキの『イーダ』(13)やアマンダ・シェーネルの『サーミの血』(16)などを手掛け、国境を超えて活躍している。監督キャリア紹介は以下にまとめてあります。

  

2作目La soledad」(『ソリチュード:孤独のかけら』)紹介は、

   コチラ20131108

5作目Hermosa juventud」と監督紹介記事は、

  コチラ20140504同年0526

 

     

(マリサ役マリサ・パレデスとジャウマ役ジョアン・ボテイ)

      

 

            (監督を挟んで撮影中のマリサ・パレデスとバルバラ・レニー)

  

*追加:邦題『ペトラは静かに対峙する』で、2019年6月29日より劇場公開

ミシェル・フランコ『母という名の女』*メキシコ映画2018年07月07日 13:36

        ミシェル・フランコの『母という名の女』は「ある視点」の審査員賞受賞作品

 

         

★「カンヌのナイス・ガイ」と言われるミシェル・フランコは、2017年、Las hijas de Abrilを携えて4度目のカンヌ入りを果たしました。過去にはデビュー作「Daniel & Ana」(09「監督週間」)、2作目『父の秘密』(12「ある視点」グランプリ)、3作目『或る終焉』(15「コンペティション部門」脚本賞)、4作目となるLas hijas de Abrilは「ある視点」の審査員賞を受賞した。メキシコの若手監督としてノミネーションだけでも破格、受賞となれば尚更のこと異例中の椿事でした。メキシコの監督はカンヌに焦点を合わせている人は多くなく、他に4回出品はカルロス・レイガダス唯一人です。

 

★邦題のつけ方が難しい作品でしたが、『母という名の女』はどうでしょうか。オリジナル題の直訳「アブリルの娘たち」でよかったと思うのですが、これから公開予定のカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』(「Verano 1993」)よりは余程まし、いずれにしろ英題の直訳「四月の娘」でなかったことを幸いとします。当ブログではカンヌ映画祭2017以降3回にわたって内容紹介をしておりますが、この度スクリーンで観てきましたので感想をアップいたします。以下は以前にアップしたデータに最近の情報を追加してコンパクトに纏めたものです。

 

Las hijas de Abril(「April's Daughter2017

製作:LUCIA FILMS / Trebol Stone 協賛EFICINE PRODUCCION

監督・脚本・編集・製作者:ミシェル・フランコ

撮影:イヴ・カープ

編集():ホルヘ・ワイズ

録音:マヌエル・ダノイ、フェデリコ・ゴンサレス・ホルダン、アルド・カンディア、パウリナ・ゴンサレス、チェマ・ラモス・ロア

美術:ミゲル・ラミレス

メイクアップ:ベロニカ・セフド

衣装デザイン:イブリン・ロブレス

音楽:ハビエル・ヌニョ

サウンドデザイン(音響):アレハンドロ・デ・イカサ

製作者:ロドルフォ・コバ、ダビ・ソナナ、ティム・ロス、ガブリエル・リプスタイン(以上エグゼクティブ)、ロレンソ・ビガス、モイセス・ソナナ、他

 

データ:製作国メキシコ、スペイン語、2017年、ドラマ、103分、撮影2016172ヵ月、撮影地プエルト・バジャルタ、グアダラハラ、メキシコシティ。配給元Videocineビテオシネ。公開メキシコ2017623日、日本2018616日、ほかスペイン、オランダ、ギリシャ、インド、トルコ、台湾、ポルトガルなどで公開されている。

 

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2017「ある視点」審査員賞受賞。カルロヴィ・ヴァリ、エルサレム、メルボルン、トロント、チューリッヒ、釜山、ロンドン、タイペイ、パームスプリングス、各映画祭正式出品。第60回アリエル賞2018新人女優賞(アナ・バレリア・べセリル)、ディオサ・デ・プラタ2018脚本賞、メキシカン・シネマ・ジャーナリスト2018脚本賞・助演男優賞(エルナン・メンドサ)などを受賞、ノミネーション多数。

   

キャスト:エンマ・スアレス(アブリル)、アナ・バレリア・べセリル(バレリア)、ホアンナ・ラレキ(クララ)、エンリケ・アリソン(マテオ)、エルナン・メンドサ(マテオの父グレゴリオ)、イバン・コルテス(ホルヘ)、モニカ・デル・カルメン、ホセ・アンヘル・ガルシア、マリア・E・サンドバル(DIF職員)、他

 

プロット17歳になるバレリアは妊娠7ヵ月、異父姉のクララとプエルト・バジャルタで暮らしている。クララはストレスからか肥満でふさぎ込みがちである。姉妹は離れて暮らしている母親アブリルとは長らく会っていない。バレリアは母親に妊娠を知られたくなかったのだが、クララは生まれてくる赤ん坊の父親マテオが同じ17歳であること、これからの経済的負担や育児という責任の重さから母に知らせようと決心する。アブリルは娘たちの力になりたいとやってくるが、どうしてバレリアが母親と距離をおきたかったのか、観客はすぐに理解することになるだろう。

 

            4つの視点で描いた初めての映画 

   

A: 母と娘たちの相克映画は掃いて捨てるほどはありませんが、結構あります。最近アップしたラモン・サラサールの『日曜日の憂鬱』、本作でアブリルを演じたエンマ・スアレスが主演したアルモドバルの『ジュリエッタ』もそうでした。

B: ジュリエッタとアブリルは、撮影時期が近いこともあって見た目も似ていますが、テーマは本質的に別のものです。母娘物を一度手掛けると、女は魔物というわけで男性監督はハマるらしい(笑)。「鬼母」もここまで徹底すると怖ろしさを通りこして却って滑稽で笑えます。

 

               

               (マテオ、バレリア、クララ)

 

A: もしかしてコメディ?と茶化す人もありそう。フランコはユーモアの乏しい監督ですが、本作では人間の自己愛、狡さと滑稽さを描いていますから、視点をずらすと笑えます。いつもの手法ですが、特に本作は物語のバックを観客に極力知らせない工夫を凝らしているので気が抜けない。妹とボーイフレンドの喘ぎを聞きながら表情一つ変えずに料理をするクララ、こと終わって喉が渇いたのか、水飲みに大きなお腹を突き出しすっぽんぽんで現れるバレリア、続いて汗を光らせて現れたマテオはバレリアの差し出すゆで卵をぱくつく。この只ならぬシーンから観客は、これからの悲劇の到来を予感します。ダイニングの窓から太平洋が望めますが、ダイニングの3人は閉じ込められているように見える。そこで初めてLas hijas de Abrilのタイトルが挿入される。

 

B: カンヌのインタビューで、今まで自分は「2つの視点で映画を撮ってきた、例えば『或る終焉』のように。しかし今作ではアブリル、バレリア、クララの母娘にマテオを加えて4つの視点で描いた」と語っていました。

A: 『父の秘密』も父と娘という2つの視点、『或る終焉』も多くの患者が出てきますが、看護師と患者という2つの視点でした。テーマがかなりきわどいこともありますが、「禁じられていることがもつ魅力から遠ざかるべきではないと考えている」とも語っていた。先輩監督カルロス・レイガダスと同じく「好きな人は好き、嫌いな人は嫌い」がはっきりする監督です。考えさせたり痛みを感じさせたりするのを嫌う観客は多く、何事も十人十色です。

 

              

          (喘ぎを黙殺して料理をするクララ、冒頭シーンから)

     

B: クララのなげやり、バレリアの幼女のような厚かましさ、マテオの不甲斐なさなどが、どこからやって来るのか。母娘が離れて暮らしている理由、何年も会っていないというが3年なのか10年なのか、そもそも姉妹が何故メキシコでも屈指のリゾート地プエルト・バジャルタの別荘で暮らしているのかが判然としない。

A: まもなく現れる、フライトで疲れているという母親アブリルはどこから飛んで来たのか。観客に示される情報は、クララの押し殺したフラストレーション、バレリアの心と体の発達の不均衡、マテオの自信のない無責任ぶり、アブリルの見せかけの大袈裟な優しさ、明確なのはバレリアとマテオの年齢だけ。こうして物語は切れ切れの情報のまま観客を挑発してくる。

 

           

  (アメリカやカナダからの観光客で人気のリゾート地、ハリスコ州のプエルト・バジャルタ)

 

           手加減しない母性、男性のモラル的貧困

  

B: ストーリーの進行役は、最初にスクリーンに現れるクララですかね。仕掛け人は彼女です。ストレスから過食症気味の肥満体、20代後半か30歳ぐらいに見えるが、勿論実年齢は最後まで明かされない。クララとバレリアが異父姉妹であることも解説を読んでいないと分からない。

A: クララは母親に遠隔操作されているようだが、アブリルは自らをコントロールできずに太るに任せている自尊心の低いクララに苛々する。ストレスの原因が母親の自分にあるとは思っていない。クララを17歳で生んだ責任は娘のせいではないのに、青春を奪われたとクララを無意識に復讐している。

 

B: クララはクララで母親業を放棄したアブリルから妹の世話を押し付けられ、自分の青春を簒奪した母を恨んでいる。ボーイフレンドができないのも母と妹のせいだ。このまま老いてしまいたくない。バレリアは母親の「鬼面仏心」ではなく「仏面鬼心」を本能的に見抜いて警戒する。しかし今は母を利用して従順にするしかない。

A: 両親から勘当され経済力のない、みなしご同然になってしまったマテオにとって、姑とはいえアブリルに忠誠を誓えさえすれば、赤ん坊とも遊べ、やらしてくれないバレリアとは違ってセックスも処理してくれる。まさに後顧の憂いなく楽しく、居心地よく、責任を負わないですむ人生は捨てがたい。

 

B: 州都グアダラハラに住んでいるらしいバレリアの父親オスカルは、娘の援助を乞うアブリルに、面倒事はまっぴら御免と門前払いを食わす。

A: 自分を捨て若い女に走った憎い元夫の無責任ぶりに、アブリルの怒りが炸裂する。こうしてドラマはアブリルの欲望のまま暴走しはじめる。しかし引き金は、マテオの父親が息子の荷物をわざわざ別荘に運んできて「勘当した」と親の責任回避をしたことです。そのあと直ぐアブリルは元夫の家目指して車を走らせる。

 

          

            (怒りを殺して元夫の家に向かうアブリル)

 

B: 両方の男親の無責任ぶりがアブリルの怒りに火を注いだ。この映画はセリフではなく、一見何でもないように見える行動を見逃さないようにと観客に要求する。

A: グレゴリオは孫を里子に出すことで厄介払いができると躊躇することなく書類にサインする。監督はメキシコ社会に蔓延するこのような男の無責任ぶり、ずる賢さに警鐘を鳴らしているようだ。男性たちの健全な社会化もテーマの一つでしょうか。麻薬密売、誘拐、殺人だけがメキシコの病いではなく、男性のモラルの低さこそ根源的な悪なのです。

 

           老いの恐怖、不安を煽るような車の移動

 

B: 監督は「メキシコでは経済的に自立していない学業半ばの十代の妊娠は珍しくない。メキシコに限らずラテンアメリカ諸国の病根の一つです」とカンヌで語っていました。

A: 若くして子供を生むことは、たちまち老いが訪れることで、お金があってもアブリルが直面しているような老いの恐怖に晒される。20代はとっくの昔に過ぎているのに、過ぎた時間を受け入れることを拒み、娘はライバルとなる。母娘の相克の大きな理由の一つです。アブリルはパンフレットにあるような「怪物」ではなく、青春を楽しむこともなく、崩れかけた体形のまま一人で朽ち果てていくことの恐怖に怯えている女性ともいえます。  

 

A: 全編を通じてまともに思える登場人物の一人が、かつてのアブリルの家政婦だったベロニカ、彼女の自然な生き方は救いです。もっともアブリルが孫カレンの里親に彼女を選ぶのは、「わたしはちゃんと責任を果たしている」という、元夫への当てつけでしょう。

B: アブリルはお金に不自由しているわけではないから、金銭的援助が目的で訪ねたのではなく、離婚しても父親の責任は免れないと言いに行った。

 

A: これは真っ当な意見です(笑)。フランコ映画では移動に車がしばしば登場しますが、どこに向かっているのか最初は分からない。さらにアブリルの運転ぶりは観客の不安をことさら煽る。『父の秘密』ではフォルクスワーゲンが使用されたが、今回の車種は何でしょうか。

B: この車はクララが仕事に使っていた車ですが、クララは母が来たことで得るものはなく失うものばかりです。最後に別荘の所有者が母親だと知らされて売却が提示されるから、当然住む家も失うわけですね。やはりとんでもない鬼母だ。

 

A: でも結果的には、クララは妹には復讐できたのではないか。バレリアは自分に嘘をつき母親とままごと遊びをした裏切り者マテオを許さない。今度は自分が嘘をついて罰する番だ。しかし赤ん坊を取り戻しても一寸先は闇、無一物のシングルマザーが辿る先は何処でしょうか。本作では各自それぞれが嘘をつく。嘘はついてもいいけど、せめて一つにしてください。

B: するとクララの傷が一番軽いのかな。図々しく居候しているマテオも追い出せたし、母親の完全犯罪も挫折した。これは人生をやり直すチャンスかもしれない。

 

     

     (取り戻したカレンを呆然と抱きしめるバレリア、最後のタクシーのシーン)

 

A: ざらざら神経を逆なでするシーンが多いなかで、どれが記憶に残るかといえば、アブリルが興味を亡くした孫をカフェに置き去りにするシーンですね。圧巻でした。赤ん坊役は成長に合わせて双子も含めて4人だったそうですが、あのシーンの赤ん坊は演技しているのではなく本当に怖かったわけで、トラウマとして残らなければと思ってしまいました。

 

       忽然と消えるアブリルは、邪悪で無慈悲な貪欲な女の典型

 

B: キャストに触れると、アブリル役のエンマ・スアレス1964)の「仏面鬼心」の悪女ぶりはなかなかよかった。しかし、母親の祖国をスペインにした理由は何でしょうか。

A: バレリアが母親を探すシーンで、写真をかざしながら「スペイン人」を連呼するのですが、唐突で若干違和感を覚えた。最初から母親役はスペイン女性と決めていたらしい。うがった意見かもしれませんが、メキシコ人がかつての宗主国に抱くアンヴィヴァレンツな感情があるのかもしれない。アブリルの邪悪で無慈悲な貪欲さは、かつての宗主国スペインと重なっている?

 

B: バレリア役のアナ・バレリア・べセリル1997)は、お腹のメイクに5時間もかかったそうですが、やはりお腹だけが大きい偽物妊婦でした。クララ役のホアンナ・ラレキは製作発表時よりかなり増量させられたのかたっぷりしていて驚いた。カンヌではまだ元に戻っていなかった。

 

A: パンフに未紹介ながら重要人物なのが、マテオの父親役エルナン・メンドサ、出番は少なくとも存在感のある俳優、『父の秘密』の主役を演じたベテラン。もう一人が家政婦役、多分モニカ・デル・カルメンだと思うのですが、IMDbのフルキャスト欄に記載がない。彼女はフランコと妹ビクトリアが共同監督した「A los ojos」(14)の主役、『父の秘密』にも教師役で出演しているほか、イニャリトゥの『バベル』(06)、マイケル・ロウの『うるう年の秘め事』(10)の主役、ガブリエル・リプスタインの「600 Millas」(15)などの話題作に多数出演している。

 

B: 気の毒な役柄でしたが、マテオ役のエンリケ・アリソン1993)、甘いマスクで女性ファンを獲得できそうです。アブリルからバイクまで買ってもらって嬉しそうに乗り回していましたが。

A: 17歳役はいかにも厳しい。当然とはいえ少年ぽさが出せなかった。女優なら23歳でも17歳は演じられるが、これはキャスティングの責任です。機能不全で崩壊する家族にしても、年増の姑がまだ少年である婿と孫を加えて似非家族になるなど悲しすぎます。しかし、監督は誰のことも裁きません。そこがいいのです。

 

      

  (バレリアに内緒でビールを楽しむマテオとアブリル、周到な準備に着手するアブリル)

      

     会いたい監督は「ルイス・ブニュエル以外にあり得ない」とフランコ監督

 

B: 会いたい監督は「ルイス・ブニュエル以外にあり得ない」とブニュエルの影響を語っているからか、ブニュエル作品に結びつける批評が目に付きます。

A: ブニュエルのどの時代の作品が好みなのか具体的に知りませんが、メキシコ時代(194660)の『スサーナ』(50)の影響はあるでしょうね。人間の肉欲と嫉妬をテーマにしていた。こちらは母ではなく若く美しい性悪娘の話、女囚スサーナは刑務所を奇跡的に脱走、雨のなか大牧場に辿りつく。信心深い農場一家を騙して、エロティシズムを武器に農場主、その息子、牧童頭を次々と誘惑、愚かな男どもをいがみ合わせて居座る話。最後には天罰が下って塀の中に逆戻り、大農場は平穏を取り戻すのですが、果たして前と同じかどうかという物語。

 

B: スサーナは「邪悪で無慈悲な性悪女」の古典的原型です。こちらにはブニュエル流のユーモアが漂っていた。いったん農場主の家族は崩壊寸前になるのですが、最後にはスサーナに罰が下って大団円、観客は安心して映画館を後にできた。

A: 農場主の信仰心篤い妻が辛抱強く耐える姿がクララとダブった。メキシコ時代に合作を含めると20数本も撮れた理由は、彼の職人的な律義さだそうです。製作会社が決めた製作費と期間を守ったので量産できたようです。本作も20日間という短期間で撮影した。

 

B: スペイン映画はハリウッドに渡る前に撮ったドキュメンタリー『糧なき土地』(32)ぐらいですね。ヨーロッパに回帰してから撮った作品でも、すべてフランスやイタリアとの合作です。

A: 遺作となった『欲望のあいまいな対象』(77)もフランスとの合作、活躍期間がフランコ時代と重なり故国では撮れなかった。それが良かったのか悪かったのか分かりません。

 

B: フランコはメキシコでは数少ないミヒャエル・ハネケの影響が指摘される監督の一人です。今作ではベネズエラのロレンソ・ビガス監督が製作者として協力しました。カンヌにも同行していました。

A: ラテンアメリカに初めてベネチア映画祭の「金獅子賞」をもたらした『彼方から』(15)の監督、このときはフランコが製作者として参画していた。二人は作品の傾向は似ていないが親密、ビガスの新作「La caja」(ワーキングタイトル)の製作を手掛けている。メキシコのチワワ州で既に撮影に入っており、完成が待たれます。

 

       

          (フランコとビガス、カンヌ映画祭2016授賞式にて)

 

B: ビガスは子供ときから恐怖映画やホラーに魅せられていたそうで、いずれホラー映画も撮る計画で、脚本を二人で執筆している。

A: フランコはホラーには興味がなく、再び『父の秘密』のような映画を構想しているそうです。ベネズエラとメキシコの社会環境は、カオス状態という点でよく似ており、『彼方から』はベネズエラの現実を描いているとも語っていた。次回作はティム・ロスと再びタッグを組むそうで、すると英語映画になるのでしょうか。

 

 

  ミシェル・フランコの主な関連記事

『母という名の女』の内容紹介記事は、コチラ20170508

カンヌ映画祭2017の監督と主役エンマ・スアレスについては、コチラ20170526

カンヌ映画祭2017「ある視点」部門の結果発表は、コチラ20170530

『父の秘密』紹介記事は、コチラ20131120

『或る終焉』監督フィルモグラフィー・紹介記事は、コチラ20160615/0618

ロレンソ・ビガスの『彼方から』の主な紹介記事は、コチラ20160930       

      

 

『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセル*「Campeones」が大ヒット2018年06月12日 16:24

          主人公は知的障害をもつ10人のバスケットボール選手たち

   

     

★『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセルが、Campeonesで長編コメディに戻ってきました。主人公は初出演の10人の知的障害者と、『マーシュランド』や「El autor」で、ゴヤ賞の主演男優賞を2回受賞したハビエル・グティエレス、本作の演技で3回目の受賞も夢ではない。46日の封切り以来、9週目にして興行成績1600万ユーロ、観客動員数は既に270万人を突破、今なお快進撃を続行中。この記録を超えるのは、2014年公開されたエミリオ・マルティネス=ラサロの大ヒット作「オーチョ・アペジードス・バスコス」だけということで、公開以来トップ3をキープしている。

 

 Campeones(「Champions」)2018

製作:Morena Films / Movistar+ / Pelicula Pendelton/ RTVE / ICO / ICAA (以上スペイン)

      / Realizaciones Sol S.A.(メキシコ)

監督:ハビエル・フェセル

脚本:ダビ・マルケス、ハビエル・フェセル

撮影:チェチュ・グラフ

編集:ロベルト・ボラド、ハビエル・フェセル

音楽:ラファエル・アルナウ、歌曲「Este es el momento」演奏Coque Malla

キャスティング:ホルヘ・ガレオン

美術:ハビエル・フェルナンデス

衣装デザイン:アナ・マルティネス・フェセル

メイクアップ&ヘアー:エリ・アダネス(チーフ)、ペドロ・ラウル・デ・ディエゴ(特殊メイク)、リュイス・ソリアノ(ヘアー)

製作者:ルイス・マンソ、アルバロ・ロンゴリア、ガブリエル・アリアス=サルガド

 

データ:製作国スペイン=メキシコ、スペイン語・不明言語、2018年、コメディ・ドラマ、124分&118分、製作資金約450万ユーロ、撮影地マドリード、ウエルバ、撮影期間;2017年4月10日~7月6日、配給元ユニバーサル・ピクチャー(スペイン)、公開マドリード限定43日、スペイン公開46日、メキシコ518日、フランス66日、ドイツ726日、他

 

キャスト:ハビエル・グティエレス(マルコ・モンテス)、フアン・マルガージョ(フリオ)、アテネア・マタ(マルコの妻ソニア)、ルイサ・ガバサ(マルコの母アンパロ)、ラウラ・バルバ(裁判官)、ダニエル・フレイレ(カラスコサ)、ルイス・ベルメホ(ソニアの同僚)、(他「ロス・アミーゴス」の選手として)セルヒオ・オルモ、フリオ・フェルナンデス、ヘスス・ラゴ、ホセ・デ・ルナ、グロリア・ラモス、フラン・フエンテス、ヘスス・ビダル、ステファン・ロペス、アルベルト・ニエト・フェランデス、ロベルト・チンチジャ、ほか決勝戦対戦チーム「ロス・エナノス」の選手多数、ハビエル・フェセルも新聞記者役で出演している。

    

  

   

物語:マルコ・モンテスはスペイン・バスケット・ナショナルリーグのチームABCの副監督である。マナーが悪く横柄なことから他のコーチとは上手くいってない。プロとしてのキャリアも人間的にも多くの問題を抱えこんでお先真っ暗である。むしゃくしゃして飲酒運転、あげくの果てに事故ってしまい解雇されてしまった。裁判官は懲らしめの罰金として2年間の服役か、または90日間の奉仕活動「ロス・アミーゴス」という知的障害者のバスケットボール・チームの監督のどちらかを選択するよう言い渡した。後者を選んだマルコにとってこんな罰則は好みではなかったが、やがてこの奇妙なチームの面々から、学ぶべき事柄の多さに気づいていく。彼らの病気のイメージからは程遠い、率直で独立心の強い、肩ひじ張らずに生きていく姿に我が人生を見つめ直していく。

 

         「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、誰が決めるの?

 

ハビエル・フェセルと言えば『モルタデロとフィレモン』(03)、古くからのファンなら『ミラクル・ぺティント』(98)、あるいは未公開ながらラテンビート上映の『カミーノ』(08)、短編ドキュメンタリー『ビンタと素晴らしきアイディア』(04)が、スペイン新進作家5人のオムニバス映画「En el mundo a cada rato」(邦題『世界でいつも・・・』ユニセフ制作)に採用され上映されました。『カミーノ』はゴヤ賞2009の作品・監督・脚本賞以下6冠制覇の話題作でした。ラテンビート上映時に来日、Q&Aでの飾らない人柄から多くのファンを獲得しました。1985年暮に14歳という短い生涯を閉じたアレクシア・ゴンサレス=バロスの実話にインスピレーションを受けて製作されたフィクションでしたが、家族が敬虔なオプス・デイの信者だったことから、後々訴訟問題に発展、監督は長らく長編から遠ざかっておりました。

 

2014年アニメーションMortadelo y Filemon contra Jimmy el Cachondo以外は、すべて短編(11作)で、うちBienvenidos28分)がアルカラ・デ・エナレス短編映画祭2015の観客賞を受賞、ほか国際映画祭での受賞が相次ぎました。もう長編ドラマは撮らないのかと気になっていたところでした。『カミーノ』から10年の歳月が流れた昨年11月に、監督がTV番組に宣伝を兼ねて出演、「3月公開」をアナウンスしました。ファンが心待ちにしていた結果が、この興行成績にストレートに出ているようです。コメディCampeonesは、上記したように目下快進撃を続けています。映画祭、DVD、あるいは公開を期待しても良さそうです。

 

   

             

        (新作をプレゼンするフェセル監督とグティエレス)

 

★予告編からも充分面白さが伝わってきますが、本作のテーマの一つが、「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、障害を大いに楽しもうという視点が観客を虜にしている。エル・パイスによると、成功の秘密は3つあるという。一番目は、スペインで興行成績がよい映画は民放テレビ局がお膳立てした映画が多いが、本作は該当しない。二番目は、知名度のある俳優はマルコ・モンテス役のハビエル・グティエレス唯一人、それ以外は知的障害のあるアマチュアたち、三番目は、テーマの切り取り方、人間的にもコーチとしても、社会的信用が失墜したダメ男マルコが主人公、ハビエル・グティエレスの魅力が大きいようです。7歳以下は保護者同伴だが、なかには子供に分からないジョークもある由、しかし全く問題ではないそうで、子供たちは楽しんでいると家族連れは口を揃える。

 

      

                     (チャンピオンの表彰台に立つ監督&選手一同)

   

      

(ロス・アミーゴスの選手に演技を指示するフェセル監督)

 

★フェセル監督曰く「私たちはキャスト選定の段階で、実際の知的障害者を起用すべきか、あるいは役者に演じてもらうほうがよいか事前に決めていなかった。しかしオーディション初日に、彼らが発する誠実さと信頼性に出会ってしまった」ので彼らに出演依頼をしたようです。「私は根っからの楽観主義者なんだ、それに最初から登場人物たちの能力が観客と繋がっていると信仰のように確信していたんですよ」「私は若者たちのエモーショナルな知性や人生を大いに楽しんじゃおうという考え方に魅了された」「何が何だか分からない感情に満たされ泣いたり笑ったりしているうちに、幸せな2時間が過ぎてしまう」エトセトラ、ということです。笑う門には福来る、つかの間の幸せでも充分ですから浸りたい。

 

    

          (ハビエル・グティエレスと「ロス・アミーゴス」)

 

★まだ先の話ですが、2009年『カミーノ』を上映してくれたラテンビートが今年15周年を迎えるそうです。アグスティン・アルモドバルをゲストに開催された第1回、当初は「ヒスパニックビート」でした。2回目が開催されるかどうか危ぶみましたが、どっこい15年間続いているのでした。ということで今年の目玉に「チャンピオンズ」は打ってつけではないでしょうか。他に2018年興行成績トップ3の一つ、アレックス・デ・ラ・イグレシアのシリアス・コメディPerfectos desconocidosもスクリーンで鑑賞したい。

 

 

 

  *劇場公開映画*

ミシェル・フランコLas hijas de Abril『母という名の女』の邦題でスケジュールが決定しました。劇場は『父の秘密』や『ある終焉』を公開したユーロスペース2018616日(土)~です。カンヌ映画祭2017「ある視点」部門の審査員賞受賞作品。

 

    

カルラ・シモンのデビュー作Verano 1993『悲しみに、こんにちは』の邦題で、同じユーロスペースで7月下旬公開です(日時は未定)。以前ラテンビートで『夏、1993』として上映予定だった映画です。まったくの的外れとまで言わないが、どうしてこんな陳腐な邦題にしたのか理解に苦しむ。ゴヤ賞2018新人監督賞受賞作品。

 

     

Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ20171217

Las hijas de Abril」の紹介記事は、コチラ20170508

El verano 1993」の主な紹介記事は、コチラ20170222