オリソンテス・ラティノス部門 ②*サンセバスチャン映画祭2023 ⑩ ― 2023年08月23日 14:51
タティアナ・ウエソが2作目「El eco / The Echo」で戻ってきた!
★サンセバスチャン映画祭 SSIFF も開幕1ヵ月をきり、連日のごとくニュースが配信されています。例えばセクション・オフィシアルのオープニング作品は宮崎駿の『君たちはどう生きるか』、クロージング作品はイギリスの監督ジェームズ・マーシュの「Dance First」、マーシュ監督は英国史上、最高額、最高齢の金庫破りだったオールドボーイ窃盗団の実話に基づいて描いた『キング・オブ・シーヴズ』(18)が2021年に公開されている。両作ともアウト・オブ・コンペティション部門ノミネート作品であるため金貝賞には絡みません。さらに「ペルラク」部門18作品、「ネスト」部門12作品も相次いで発表されました。更に8月22日にはドノスティア栄誉賞の二人目の受賞者にビクトル・エリセがアナウンスされるなど急に慌ただしくなってきました。エリセはともかくとして、今年は時間的余裕がなく、アップはスペイン語、ポルトガル語映画に限らざるを得ません。今回はオリソンテス・ラティノ部門の続き、ドラマ2作、ドキュメンタリー2作の合計4作をアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ②*
5)「Clara se pierde en el bosque / Clara Gets Lost in the Woods」
アルゼンチン
監督:カミラ・ファブリ(ブエノスアイレス1989)、監督、脚本家、戯曲家、女優として多方面で活躍しているアルゼンチン同世代の期待の星。女優としてミゲル・コーハン、ベロニカ・チェン、フアン・ビジェガスの「Las Vegas」(18)、アレハンドロ・ホビックやルシア・フェレイラの短編に主演している。
(カミラ・ファブリ監督)
データ:脚本はカミラ・ファブリとマルティン・クラウトが共同執筆、2023年、スペイン語、ドラマ、86分、長編デビュー作。
キャスト:カミラ・ペラルタ(クララ)、アグスティン・ガリアルディ(ミゲル)、フリアン・ラルキエル・テラリーニ(イバン)、フロレンシア・ゴメス・ガルシア(エロイサ)、ソフィア・パロミノ(フアナ)、マイティナ・デ・マルコ(パウリナ)、ペドロ・ガルシア・ナルバイツ(フアン)、マルティア・チャモロ(マルティナ)、カミラ・ファブリ(イネス)、フリアン・インファンティノ(マルティン)、ほか
ストーリー:クララは都会を離れて郊外に家族と小旅行中に、幼馴染の友人マルティナからの母性のアイディアを前面に押し出したメッセージを受けとった。マルティナとはレプブリカ・クロマニョン・クラブで起きた悲劇の一夜を共にしていた。一連のWhatsApp Messengerのテキスト、ホームビデオ、家族とランチする現在と現実のショット、危機と悲劇によって荒廃した都会での彼女自身や友人たちの思春期がつぶさに語られる。レプブリカ・クロマニョン・クラブの悲劇というのは、2004年12月30日の夜にブエノスアイレスのオンセ地区で開催されていたロック・イベント中に193人の命が奪われた大火災をさす。
(撮影中の監督とクララ役のカミラ・ペラルタ)
6)「El castillo / The Castle」アルゼンチン=フランス=スペイン
ドキュメンタリー
監督:マルティン・ベンチモル(ブエノスアイレス1985)、作品紹介、監督のキャリア&フィルモグラフィーは、以下にアップ済みです。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年07月21日
7)「El Eco / The Echo」メキシコ=ドイツ
監督:タティアナ・ウエソ(サンサルバドル1972)監督、脚本家。監督のキャリア&フィルモグラフィーは、SSIFF 2021の同部門のオリソンテス賞以下3冠に輝いた「Noche de fuego」にアップしています。新作は、架空の要素が多く含まれているが、メキシコ高地にある村エルエコの子供たちを描いている。監督はメキシコ北部のある村に逗留して、ほぼ1年間掛けて撮影している。監督の子供時代の体験が投影されている。ウエソはエルサルバドル出身だが、4歳のとき両親に連れられてメキシコに移住している。2011年の「El lugar más pequeño」、2016年の「Tempestad」、新作「El Eco」をもって「痛みとトラウマ」三部作を完結したことになる。
*「Noche de fuego」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月19日
データ:脚本タティアナ・ウエソ、2023年、スペイン語、ドキュメンタリー、102分。本作は既にベルリン映画祭2023でプレミアされ、エンカウンターズ部門の監督賞とドキュメンタリー賞を受賞している他、香港映画祭ドキュメンタリー賞ノミネート、シアトル映画祭ノミネート、カルロヴィ・ヴァリ映画祭、リマ映画祭ドキュメンタリー賞、エルサレム映画祭シャンテル・アケルマン賞を受賞している。
(タティアナ・ウエソ、ベルリン映画祭2023ドキュメンタリー作品賞のガラから)
キャスト:モンセラ・エルナンデス(モンセ)、マリア・デ・ロス・アンヘレス・パチェコ・タピア(祖母アンヘレス)、ルス・マリア・バスケス・ゴンサレス(ルス)、サライ・ロハス・エルナンデス(サライ)、ウィリアム・アントニオ・バスケス・ゴンサレス(トーニョ)、他多数
ストーリー:メキシコ北部の人里離れた村エル・エコは、子沢山の家族が多く、生活は貧しく、子供たちは羊と年長者たちの世話をしています。孫娘は祖母が死ぬまで世話をしなければなりません。霜と旱魃が村を苦しめます。子供たちは両親の話す言葉と沈黙から、死、病気、愛を理解することを学びます。エコは魂のなかにあるもの、周りの人々からうける確実な暖かさ、人生で直面する反逆と眩暈について、成長についての物語です。
8)「Estranho caminho / A Strange Path(Extraño camino)」ブラジル
WIP Latam 2022 作品
監督:グト・パレンテ(セアラ州都フォルタレザ1983)は、監督、脚本家、撮影監督、俳優。長編10作目になる。WIP Latem 2022の最優秀賞作品賞受賞作。
*脚本グト・パレンテ、撮影リンガ・アカシオ、美術タイス・アウグスト、録音ルカス・コエーリョ、編集ビクトル・コスタ・ロペス、ティシアナ・アウグスト・リマ、タイス・アウグスト、グト・パレンテ。トライベッカ映画祭2023では、父親ジェラルド役のカルロス・フランシスコが説得ある演技で主演男優賞を受賞している。
(デビッド役のルカス・リメイラ)
データ:製作国ブラジル、2023年、ポルトガル語、ミステリー、85分、トライベッカ映画祭2023で国際コンペティション部門の作品賞、脚本賞、監督賞、カルロス・フランシスコが主演男優賞を受賞するなど4冠を制した。撮影地フォルタレザ。セアラ州文化省からの資金提供を受けている。
(父親役のカルロス・フランシスコ)
キャスト:ルカス・リメイラ(デビッド)、カルロス・フランシスコ(父ジェラルド)、リタ・カバソ(テレサ)、タルツィア・フィルミノ(ドナ・モサ)、レナン・カピバラ(レナン)、アナ・マルレネ(マリアナ先生)、他多数
ストーリー:若い映画背作者デビッドは、映画祭で自作を発表するため生れ故郷のブラジルに向かっています。到着すると新型コロナのパンデミックが急速に全国に広がり始めていた。映画祭は中止され、空港が封鎖されたため帰国便もキャンセルされてしまう。デビッドは滞在先を必要としており、十年以上話していない風変わりな男である父親ジェラルドを訪ねることにする。彼が父親のアパートに到着すると、奇妙なことが起こり始めます。デビッドの軌跡を辿るドラマ。和解の痛み、不条理の喜びの表現などが描かれる。
(カミラ・ファブリ、マルティン・ベンチモル、タティアナ・ウエソ、グト・パレンテ)
オリソンテス・ラティノス部門12作出揃う*サンセバスチャン映画祭2023 ⑨ ― 2023年08月16日 17:49
オープニングはパウラ・エルナンデス&クロージングはカロリナ・マルコビッチ
★去る8月3日、第71回サンセバスチャン映画祭オリソンテス・ラティノス部門12作(2022年と同じ)が発表になりました。既にスペインが共同製作国になっている2作、アルゼンチンのドロレス・フォンシとマルティン・ベンチモルはご紹介しておりますが、残る10作が発表になり、これですべてが出揃ったことになります。
★オープニング作品は、アルゼンチンのパウラ・エルナンデスの「El viento que arrasa / A Ravaging Wind」(スペイン語)、クロージング作品は、ブラジルのカロリナ・マルコヴィッチの「Pedágio / Toll」(ポルトガル語)と、共に女性監督作品が選ばれました。監督は男性4名、女性8名と、女性シネアストの元気のよさが際立っています。WIP Latam 2作、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラム1作が含まれました。作品賞はオリソンテ賞、今回は全作品をご紹介する時間的余裕がなく、管理人が予想する賞に絡みそうな作品をつまみ食いすることになりそうです。一応全12作の作品名、監督、製作国、トレビア情報を列挙しておきます。3回に分けてアップします。
*オリソンテス・ラティノス部門 ①*
1)「El viento que arrasa / A Ravaging Wind」アルゼンチン=ウルグアイ
オープニング作品、2023年、スペイン語、ドラマ、94分
監督:パウラ・エルナンデス(ブエノスアイレス1969)は、アルゼンチンの監督、脚本家、女優。本作はセルバ・アルマダの処女作(2012年刊)である同名小説の映画化。チリのアルフレッド・カストロ、スペインのセルジ・ロペスなど、本邦でも知名度のある演技派がクレジットされている。アルゼンチンのチャコ州が舞台。トロント映画祭2023でワールドプレミアされる。
(パウラ・エルナンデス監督)
キャスト:アルムデナ・ゴンサレス(レニ)、アルフレッド・カストロ(父親ピアソン神父)、セルジ・ロペス、ホアキン・アセベド
ストーリー:父ピアソン神父の盲目的信仰にとらわれているレニは、父と福音主義の使命を共有しています。或るありふれた自動車事故が彼らをグリンゴの経営する修理工場に導いていきます。神父が整備士の息子タピオカの魂を救うことに取りつかれたとき、レニは自分の運命を受け入れることを理解する。
2)「Pedágio / Toll」ブラジル=ポルトガル
クロージング作品、2023年、ポルトガル語、ドラマ、101分
監督:カロリナ・マルコヴィッチ(サンパウロ1982)は、監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。2007年短編デビュー、短編6編の後、「Carvao / Charcoal / Calvón」)で長編デビューを果たした。これはサンセバスチャン映画祭2022の同セクションに選ばれており、2年連続のノミネートです。監督キャリア&フィルモグラフィーなどは、昨年既に紹介しています。本作も前作に続いて、テーマは宗教、生と死、義務とは何かです。高速道路の料金所で働いている女性がヒロイン、ゲイである息子を救済するため違法な行為に手を染めるようになっていく。製作はデビュー作を手掛けたカレン・カスターニョと再タッグを組み、監督自身も製作に参画、撮影はルイス・アルマンド・アルテアガ。
*カロリナ・マルコヴィッチのキャリア紹介は、コチラ⇒2022年08月25日
キャスト:メイヴ・ジンキングス(スエレン)、トマス・アキノ(アラウト)、アイザック・グラサ、カウアン・アルバレンガ(ティキーニョ)、カイオ・マセド(リック)、アリネ・マルタ・マイア(テルマ)
ストーリー:高速道路の料金所係員であるスエレンは、ゲイである息子のことで苦しんでいる。著名な外国人司祭が率いる高額なゲイの改宗ワークショップに息子を送るため、車で海岸に行く人々から金品を盗み取るマフィアの片棒を担ぐことにする。ただし、これは息子を入所させるという高貴な目的のためだけに必要な額だけです。反LGBTQ+の現大統領派からは「不快な社会ドラマ」と揶揄されている。
(カロリナ・マルコヴィッチ監督と主役を演じるメイヴ・ジンキングス)
3)「Alemania」アルゼンチン=ドイツ
ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラム2021、スペイン語、ドラマ、87分
監督:マリア・サネッティ(ブエノスアイレス1980)は、監督、脚本家、製作者。2021年、ヨーロッパ=アメリカ・ラテン共同フォーラムの国際アルテキノ賞を受賞、本作が長編デビュー作。2011年、短編「Ping Pong Master」(12分)を監督、脚本、製作している。監督は姉が患っている精神障害に直面している家族を中心軸に、ドラマを展開させている。
(マリア・サネッティ監督)
キャスト:マイテ・アギラル(ロラ)、ミランダ・デ・ラ・セルナ、マリア・ウセド、ウォルター・ジャコブ
ストーリー:16歳のロラは、ドイツでのセメスターの可能性が出てきたことで、再受験の勉強に取りくむことにした。ロラはドイツに留学したいと思っているが、姉の精神医学的問題に行き詰っている家族は、ロラが断念してくれることを願っている。家族との軋轢に疲労して安定を失っているロラは、自分の考えを推し進めながら、自分自身と彼女を取り巻く状況の両方について、別の視点で見ることができる新しい経験を見つけようとしています。
(左から、パウラ・エルナンデス、カロリナ・マルコヴィッチ、マリア・サネッティ、
ドロレス・フォンシの4 監督)
セクション・オフィシアル(コンペ部門)④*マラガ映画祭2023 ⑦ ― 2023年03月12日 17:58
13)Rebelión (仮題「反乱」)
データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=アメリカ、スペイン語、2022年、伝記、105分、タイトルはジョー・アロヨのシンボリックな曲から採られた。長編映画3作目、ボゴタ映画祭2022(10月)、タリン・ブラック・ナイト映画祭2022(11月)、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭2023(3月)、マラガ映画祭(3月)正式出品、公開ペルー2022年11月
監督紹介:ホセ・ルイス・ルヘレス・グラシア、監督、脚本家、製作者。TVシリーズ、映画、コマーシャルなど25年以上のキャリアのある制作会社「Rhayuela Films」設立、長編フィルモグラフィーは、2010年「García」、2015年「Alias María」は、カンヌ映画祭「ある視点」部門でプレミアされ、ハイファ映画祭2015国際部門のカルメル賞、フリボーグ映画祭2016エキュメニカルを受賞、アカデミー賞コロンビア代表作品に選ばれた。新作については「古典的なミュージカルを期待しないでください」と監督。
(第2作「Alias María」のポスター)
キャスト:ジョン・ナルバエス(ジョー・アロヨ)、マルティン・シーフェルド(ウモ)、アンジー・セペダ(メアリー)、フアン・ミゲル・パエス、グスタボ・ガルシア、エドガー・キハダ、アルマンド・キンタナ、ロジェ・デュグアイ
ストーリー:本作は、コロンビアの歴史上おそらく最も重要な傷つきやすい無名のサルサ歌手ジョー・アロヨが、人生のさまざまな瞬間と空間を超越した旅を切り取っている。音楽の天才、シンガーソングライターであるジョーの音楽とその独特な声は、ステージに収めることができなかった。1970年代のサルサ全盛期のリーダーであるアロヨの音楽への献身、孤独、狂気、さまざまに交錯した感情、混沌が描かれる。
14)Saudade fez morada aqui dentro (英題「Bittersweet Rain」)
データ:製作国ブラジル、2022年、ポルトガル語、字幕上映、ドラマ、107分、長編映画2作目(単独では1作目)、第37回マル・デル・プラタ映画祭2022で作品・監督賞を含む4冠を制した。
監督紹介:ハロルド・ボルヘス、監督、脚本家、撮影監督、フィルム編集者。制作会社 Plano3 Filmsのメンバー。ドキュメンタリー「Jonas e o circo sem lona」(15「Jonas and the Backyard Circus」)は、IDFAでプレミアされ、トゥールーズ映画祭2019観客賞を含む13冠、長編デビュー作「Filho de Boi」(「Son of Ox」)はエルネスト・モリネロと共同で監督した。釜山、グアダラハラ映画祭に出品され、マラガ映画祭2019ソナシネ部門の銀のビスナガ観客賞を受賞している。
(トロフィーを手にしたハロルド・ボルヘス、マル・デル・プラタFF2022にて)
(デビュー作「Filho de Boi」のポスター)
キャスト:ブルーノ・ジェファーソン、アンジェラ・マリア、ロナルディ・ゴメス、テレーナ・フランサ、ウィルマ・マセド、ヘラルド・デ・デウス、ビニシウス・ブスタニ
ストーリー:ブラジル内陸部の小さな町に住んでいる若者は、変性眼疾患のため徐々に視力を失う危険に直面している。視力が衰えるにつれ、片思いだった初恋に混乱し、別の目で人生を見る方法を学ばねばならなくなる。父親のいない15歳の若者の棘のある思春期が描かれる。
15)Sica (仮題「シカ」)
データ:製作国スペイン、2023年、ガリシア語、字幕上映、ドラマ、90分、ベルリン映画祭2023ジェネレーション14 plus でプレミアされた。
(左から、ヌリア・プリムス、スビラナ監督、ほか主演者たち、ベルリンFF 2023)
監督紹介:カルラ・スビラナ、1972年バルセロナ生れ、監督、脚本家、10年の教師歴。スペイン内戦で反フランコ派の祖父が、1940年死刑に処され、女性3世代の家族の中で育つ。映画ファンの祖母の影響で映像の世界に入る。ドキュメンタリーとフィクションのあいだを行き来した最初のドキュメンタリー「Nadar」(08、カタルーニャ語)は史実と個人的な記憶についての自伝的要素をもっている。ロッテルダム映画祭で上映され、ガウディ賞2009にノミネートされた。3人の共同監督ドキュメンタリー「Kanimambo」(スペイン語・カタルーニャ語・ポルトガル語)はマラガ映画祭2012で審査員のスペシャル・メンションを受賞している。同「Volar」(12、スペイン語)はセビーリャ・ヨーロッパ映画祭に出品された。短編映画「Atma」(16、9分)は、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭、D'A映画祭に出品され、Fiver 17でナショナル・ダンス賞を受賞した。創造性ワークショップで後進を指導している。
(ドキュメンタリー「Nadar」のカタルーニャ語版ポスター)
キャスト:タイス・ガルシア・ブランコ(シカ)、ヌリア・プリムス(母親カルメン)、マリア・ビジャベルデ・アメイヘイラス(レダ)、カルラ・ドミンゲス、ルーカス・ピニェイロ(シモン)、マルコ・アントニオ・フロリド・アニョン(スソ)、ロイス・ソアシェSoaxe(エル・ポルトゲス)、マリア・デル・カルメン・ヘステイロ(教師)、ほか多数
ストーリー:14歳になるシカは、ガリシアのコスタ・ダ・モルテで難破した父親の遺体を海が戻してくれることに取りつかれている。崖に沿って歩いているとき、シカはストームハンターだという15歳の風変わりな少年スソと知り合います。彼女は事故の状況を調査し、苦痛を伴う発見の旅に乗り出します。彼女の目にうつるのは、自分が育った漁村が海の残酷さとアンバランスな自然の増大によって特徴づけられている所であること、それが決して以前のように戻らないということでした。ガリシアの海の沈黙、失ったものへの強迫観念、父親の不在による無力感と悲しみ、夫や父親の死に対する諸々が女性キャラクターの視点で語られる。事実にインスパイアされている。
(シカとカルメン)
(シカとスソ、フレームから)
16)Tregua(s) (仮題「休戦」)
データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語、コメディ・ドラマ、90分、撮影地マドリード、長編デビュー作
監督紹介:マリオ・エルナンデス、1988年カスティーリャ・ラ・マンチャのアルバセテ生れ、監督、脚本家、戯曲家、舞台演出家。アリカンテのシウダード・デ・ラ・ルス・スタジオで監督の学位を取得する。2015年短編「A los ojos」で監督デビュー、アルバセテのABYCINEの短編映画賞、マドリード市のヤング・クリエーターズ賞を受賞、2016年「Por Sifo / Slow Wine」はバジャドリード映画祭で短編賞を受賞、2017年、難民危機に関連する詩人ミゲル・エルナンデスのオマージュ「Vientos del pueblo Sirio」(20分)をギリシャのレスボス島で撮影、2020年フリオ・コルタサルの作品にインスパイアされた「Salvo el crepúsculo」は、バジャドリード映画祭のSEMINCI Factoryの脚本賞を受賞した。舞台演出家兼戯曲家としても活躍、カラモンテ賞を受賞するなどしている。現在、RNEのラジオ・プログラムの作成者およびコーディネーターです。
(左から、ブルーナ・クシ、監督、サルバ・レイナ、マラガFF2023のフォトコール)
キャスト:サルバ・レイナ(エドゥ)、ブルーナ・クシ(アラ)、アブリル・モンテージャ(シルビア)、ホセ・フェルナンデス(ダビ)、マルタ・メンデス(アリシア)
ストーリー:アラとエドゥは、新人の女優、脚本家だった10年間、恋人同士でした。二人の〈公式な〉関係とは別に、一緒にいるときは常にオアシスを見つけています。現在、二人ともそれぞれ別のパートナーと暮らし、かなり深刻な関係になっています。お互いに会わずにいた1年後、映画祭を利用して再会しますが、この切望した〈休戦〉でさえ、彼らの実生活を支配する嘘と郷愁から解放されることはありません。
ホライズンズ・ラティノ部門 ③*サンセバスチャン映画祭2022 ⑨ ― 2022年08月25日 17:28
*ホライズンズ・ラティノ部門 ③*
9)「Carvao / Charcoal (Carbón) 」ブラジル
データ:製作国ブラジル=アルゼンチン、2022年、ポルトガル語・スペイン語、スリラードラマ、107分、脚本カロリナ・マルコヴィッチ、撮影ペペ・メンデス、編集ラウタロ・コラセ、音楽アレハンドロ・Kauderer、製作 & 製作者Cinematografica Superfilmes(ブラジル)Zita Carvalhosaジータ・カルバルホサ / Bionica Films(同)カレン・カスターニョ / Ajimolido Films(アルゼンチン)アレハンドロ・イスラエル。カルロヴィ・ヴァリ映画祭2022正式出品され、トロント映画祭上映後、サンセバスチャンFFにやってくる。
◎トレビア:主任プロデューサーのカルバルホサは、マルコヴィッチの長編2作目「Toll」を手掛けている。また主人公イレネに扮したメイヴ・ジンキングスは、クレベール・メンドンサ・フィリオの『アクエリアス』(16)でソニア・ブラガ扮するクララの娘を演じた女優。
監督:カロリナ・マルコヴィッチ(サンパウロ1982)監督、脚本家。短編アニメーション「Edifício Tatuapé Mahal」(14、10分)は、サンパウロ短編FFで観客賞、パウリニアFFでゴールデン・ガール・トロフィーを受賞、2018年の実話にインスパイアされた「O Órfao」(16分)は、カンヌFFクィア・パルマ、シネマ・ブラジル大賞、サンパウロFF観客賞他3冠、ハバナFFスペシャル・メンション、ほかビアリッツ、マイアミ、ヒューストン、クィア・リスボア、リオデジャネイロ、SXSWなどの国際映画祭巡りをした。サンセバスチャンは今回が初めてである。宗教、生と死、義務とは何かを風刺的に描いている。
(カロリナ・マルコヴィッチ)
キャスト:メイヴ・ジンキングス(女家長イレネ)、セザール・ボルドン(麻薬王ミゲル)、ジャン・コスタ(息子ジャン)、カミラ・マルディラ(ルシアナ)、ロムロ・ブラガ(夫ジャイロ)、ペドロ・ワグネル、ほか
ストーリー:2022年ブラジル、サンパウロから遠く離れた田舎町で、木炭工場の傍に住んでいる家族が、謎めいた外国人を受け入れるという提案を承諾する。宿泊客を自称していたが実は麻薬を欲しがっているマフィアだということが分かって、家はたちまち隠れ家に変わってしまった。母親、夫と息子は、農民としてのルーチンは変えないように振舞いながら、この見知らぬ客人と一つ屋根の下の生活を共有することを学ぶことになります。多額の現金と引き換えに単調さから抜け出す方法を提案されたら、人はどうするか。社会風刺を得意とする監督は、木炭産業で生計を立て、結果早死にする人々の厳しい現実を描きながらも、大胆な独創性、鋭いユーモアを込めてスリラードラマを完成させた。
(木炭にする木材を運ぶ子供たち、フレームから)
10)「1976」チリ
Ventana Sur Proyecta 2018、Cine en Construccion 2022
データ:製作国チリ=アルゼンチン=カタール、スペイン語、2022年、スリラードラマ、95分、脚本マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット、撮影ソレダード・ロドリゲス、美術フランシスカ・コレア、編集カミラ・メルカダル、音楽マリア・ポルトゥガル、キャスティング、マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ、衣装ピラール・カルデロン、製作 & 製作者オマール・ズニィガ / Cinestaciónドミンガ・ソトマヨール / アレハンドロ・ガルシア / Wood Producciones アンドレス・ウッド / Magma Cine フアン・パブロ・グリオッタ / ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他、販売Luxbox。カンヌ映画祭2022「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、エルサレム映画祭インターナショナル・シネマ賞受賞(デビュー作に与えられる賞)
監督:マヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)女優、監督、脚本家、監督歴は数本の短編のあと本作で長編デビュー。女優としてスタート、2003年ゴンサロ・フスティニアーノの「B-Happy」でデビュー、ハバナ映画祭で女優賞を受賞するなど好発進、出演本数はTVを含めると30本を超える。2作目アンドレス・ウッドの『マチュカ-僕らと革命-』(04)でチリのアルタソル賞を受賞、アリネ・クッペンハイムと共演している。同監督の「La buena vida」(08)は『サンティアゴの光』の邦題で、ラテンビート2009で上映されている。当ブログでは、アリシア・シェルソンがボラーニョの小説を映画化した「Il futuro」(13、『ネイキッド・ボディ』DVD)で主役を演じた記事をアップしています(コチラ⇒2013年08月23日)。
◎別途詳しい作品紹介、キャリア&フィルモグラフィーを予定しています。
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月13日
キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス司祭)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、アマリア・カッサイ(カルメンの娘レオノール)、他多数
ストーリー:チリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの司祭が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。
(カルメン役のアリネ・クッペンハイムとエリアス役のニコラス・セプルベダ)
(パールのネックレスが象徴する裕福な中流階級に属するカルメン)
11)「Tengo sueños eléctricos」コスタリカ
Ventana Sur Proyecta 2020
データ:製作国ベルギー=フランス=コスタリカ、スペイン語、2022年、ドラマ、102分、Proyecta 2021のタイトルは「Jardín en llamas」。脚本バレンティナ・モーレル。カンヌ映画祭と併催の第61回「批評家週間」正式出品、第75回ロカルノ映画祭に出品され、国際コンペティション部門の監督賞、主演女優賞(ダニエラ・マリン・ナバロ)、主演男優賞(レイナルド・アミアン)の3賞を得た。
(トロフィを手にした3人、右端が監督、ロカルノFFにて)
監督:バレンティナ・モーレル(サンホセ1988)、監督、脚本家。パリに留学後、ベルギーのブリュッセルのINSASで映画制作を学んだ。コスタリカとフランスの二重国籍をもっている。短編「Paul est la」は2017年のカンヌ・シネフォンダシオンの第1席を受賞した。第2作「Lucía en el limbo」(19、20分)はコスタリカに戻って、スペイン語で撮った。体と心の変化に悩む10代の少女の物語、カンヌ映画祭と併催の第58回「批評家週間」に出品されたほか、トロント、メルボルンなど国際短編映画祭に出品されている。長編デビュー作「Tengo sueños eléctricos」は、第61回「批評家週間」や、ロカルノ映画祭に出品されている。監督はCineuropaのインタビューに「私は父娘関係を探求する映画をそれほど多く見たことがなかったので、それを描こうと思いました」と製作動機を語っている。「これは少女が大人になる軌跡を描いたものではなく、自分の周囲に大人がいないことに気づいた少女の軌跡です」と。また麻薬関連の物語や魔術的リアリズムをテーマにした異国情緒を避けたかったとも語っている。芸術家であった両親の生き方からインスピレーションを得たようです。
(バレンティナ・モーレル、ロカルノFFにて)
キャスト:レイナルド・アミアン・グティエレス(エバの父親)、ダニエラ・マリン・ナバロ(エバ)、ビビアン・ロドリゲス、アドリアナ・カストロ・ガルシア
ストーリー:エバは16歳、母親と妹と猫と一緒に暮らしている。しかし引き離された父親のところへ引っ越したいと思っている。母親が離婚以来混乱して、家を改装したがったり、猫を邪険にしたりすることにエバは我慢できない。ここを出て、猫のように混乱して第二の青春時代を生きている父親と暮らしたい。アーティストになりたい、愛を見つけたいという望みをもって再び接触しようとする。しかし、泳ぎを知らない人が大洋を横断するように、エバもまた何も知らずに父親の暴力を受け継ぎ苦しむことになるだろう。彼にしがみつき、十代の生活の優しさと繊細さのバランスをとろうとしています。思春期が必ずしも黄金時代ではないことに気づいた少女の肖像画。
(エバ役のダニエラ・マリン・ナバロ)
(ダニエラ・マリン・ナバロとレイナルド・アミアン・グティエレス)
12)「La jauría」コロンビア
データ:製作国フランス=コロンビア、スペイン語、2022年、ドラマ、86分、脚本アンドレス・ラミレス・プリド、音楽ピエール・デブラ、撮影バルタサル・ラボ、編集Julie Duclaux、ジュリエッタ・ケンプ、プロダクション・デザイン、ジョハナ・アグデロ・スサ、美術ダニエル・リンコン、ジョハナ・アグデロ・スサ、製作 Alta Rocca Filmsフランス / Valiente Graciaコロンビア / Micro Climat Studios フランス、 製作者ジャン=エティエンヌ・ブラット、ルー・シコトー、アンドレス・ラミレス・プリド。配給Pyramide International
*カンヌ映画祭2022「批評家週間」グランプリとSACD賞受賞、エルサレム映画祭2022特別賞受賞、ニューホライズンズ映画祭(ポーランド)、トロント映画祭出品
監督:アンドレス・ラミレス・プリド(ボゴタ1989)監督、脚本家、製作者。本作はトゥールーズのCine en Construccionに選ばれた長編デビュー作。ティーンエイジャーの少年少女をテーマにした短編「Mirar hacia el sol」(13、17分)、ベルリン映画祭2016ジェネレーション14 plusにノミネートされ、ビアリッツ・ラテンアメリカFF、釜山FF、カイロFFなどで短編作品賞を受賞した「El Edén」(16、19分)、カンヌ映画祭2017短編部門にノミネートされた「Damiana」(17、15分)を撮っている。
キャスト:ジョジャン・エステバン・ヒメネス(エリウ)、マイコル・アンドレス・ヒメネス(エル・モノ)、ミゲル・ビエラ(セラピストのアルバロ)、ディエゴ・リンコン(看守ゴドイ)、カルロス・スティーブン・ブランコ、リカルド・アルベルト・パラ、マルレイダ・ソト、ほか
ストーリー:エリウは、コロンビアの密林の奥深くにある未成年者リハビリセンターに収監され、親友エル・モノと犯した殺人の罪を贖っている。ある日、エル・モノが同じセンターに移送されてくる。若者たちは彼らの犯罪を復元し、遠ざかりたい過去と直面しなければならないだろう。セラピーや強制労働の最中、エリウは人間性の暗闇に対峙し、あまりに遅すぎるが以前の生活に戻りたいと努めるだろう。暴力の渦に酔いしれ閉じ込められている、コロンビアの農村出の7人の青年群像。
(エリウ役のジョジャン・エステバン・ヒメネス)
(センターの本拠地である遺棄された邸宅に監禁されている青年たち)
★以上12作がホライズンズ・ラティノ部門にノミネートされた作品です。セクション・オフィシアルは16作中、女性監督が2人とアンバランスでしたが、こちらは半分の6監督、賞に絡めば映画祭上映もありかと期待しています。
(カロリナ・マルコヴィッチ、マヌエラ・マルテッリ、バレンティナ・モーレル、
アンドレス・ラミレス・プリド)
*追加情報:第35回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門(ラテンビートFF共催)でアンドレス・ラミレス・プリドのデビュー作が『ラ・ハウリア』として上映決定。
異色のSF映画 『神の愛』*ラテンビート2019 ⑪ ― 2019年11月16日 11:35
未来のブラジル国民は本当に救世主を待っているのか?
★第2部ブラジル映画の第1作目、ガブリエル・マスカロの『神の愛』は、なかなか示唆に富んだ映画でした。多分、3作のうちでもっとも地味な作品だと思われますが、フィナーレまで引きずり込まれたのは撮影監督ディエゴ・ガルシアの映像の力だったか。監督以下主演のジョアナ役ジラ・パエスとダニロ役ジュリオ・マシャードを含めて、キャリア紹介はアップしております。
*『神の愛』作品&監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2019年11月08日
(ガブリエル・マスカロ監督、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)
A: 舞台がブラジルでなくても、キリスト教福音派が社会や政治を左右している国なら、どこでも起こりうる物語です。しかし「聖書の権威を第一とする」以外に福音派の定義は複雑で、国により学者により異なっています。
B: 世界を掻きまわすアメリカでは、大統領選挙が近づくと「○○政権を支える福音派」というような大見出しが目に付きだし、昨今では侮れない存在となっています。
A: 何よりもブラジルがカトリック教国だということ、統計では減少したとはいえ今でも70%前後が信者だということです。しかし有権者の27%が福音派だとなると様相は大分違ってきます。映画にあるように白人中間層が支えているからです。また日本では福音派が政治を牛耳っているという実態がないので、退屈だった観客もいたのではないかと思います。
B: ブラジルと言えばリオのカーニバルにサンバ、男性優位の暴力にスラム街、日本に届いてくるのは極右政党の党首ミニ・トランプが政権を掌握したなどのニュースだったり、アマゾンの森林を焼き払って地球温暖化を推進しているとかです。
A: ジャンル分けとしては近未来のSF映画と銘打っていますが、設定を2026年でも28年でもなく2027年にしたのには、何か深い意味があるのか知りたいところです。
B: 2027年にブラジル国民の多くが救世主の再来を待っているという状態が呑み込めない。
A: 再来したときの心の準備ができているのかどうかが、大きなテーマです。
(究極の愛は存在するのか、ジョアナとダニロ)
B: パンフレットでの紹介では、ブラジル人の性に切り込んだ作品という触れ込みでしたが、アクロバットのようなセックスシーンの繰り返しが気にかかった。
A: 繰り返しの必要性は最後に分かる仕掛けがしてあった。精子の濃度を高める装置は現在でも笑い事ではないかもしれない。妊婦だけが座れる椅子、またスーパーの出入り口に設置された、万引き探知機のような妊娠探知機など空恐ろしく、買い物できなくなる人も出てきそうです。
B: 医学の進歩は目覚ましいから、必要性はともかく可能性はあります。
A: 誰にもお薦めできる映画でないのは確かですが、前作の「Bio Neon」(15)をスクリーンで見たいと思った観客もいたはずです。一歩前を歩いているような印象がありましたが、半歩前ぐらいがいいのではないか。大きな可能性を秘めた若手監督であることには違いない。
B: ディエゴ・ガルシアのカメラも凝りすぎと感じたかもしれませんが、観客の好みも十人十色、すべての人を満足させることはできません。しかしスクリーンで見たほうがいい映画でした。
A: ナレーターが何者かは途中から察しがつくのですが、明かされるのは最後です。
(撮影監督ディエゴ・ガルシア、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)
ブラジルSF映画 『神の愛』*ラテンビート2019 ⑧ ― 2019年11月08日 12:04
ブラジルの若手ガブリエル・マスカロの近未来映画『神の愛』
★ラテンビート2019、作品紹介が最後になったガブリエル・マスカロの『神の愛』(「Divino Amor」)は、近未来2027年のブラジルが舞台、真の愛は決して裏切らないかどうかが語られる。サンダンス映画祭2019「ワールドシネマ・ドラマ」部門でスタート、以来毎月のように世界のどこかの映画祭で上映されている。2月のベルリン映画祭パノラマ部門、3月にはマイアミ、グアダラハラ、香港など、なかでグアダラハラ映画祭では、FEISALを受賞しているほか、南アメリカ共和国のダーバン映画祭では、監督賞、ディエゴ・ガルシアが撮影賞を受賞している。ドキュメンタリーで出発、短編を含めて受賞歴多数。
(左から、編集者フェルナンド・エプスタイン、同リヴィア・セルパ、ディエゴ・ガルシア、
ジラ・パエス、ガブリエル・マスカロ監督、ベルリン映画祭2019フォトコール)
『神の愛』(「Divino Amor」、英題「Divine Love」)
製作:Desvia / Malbicho Cine / Snoeglobe Films / Jiraja / Mer Film / Bord Cabre Films / Canal Brasil 他
監督:ガブリエル・マスカロ
脚本:ガブリエル・マスカロ、Rachel Daisy Ellis、Esdras Bezerra、ルカス・パライソ
音楽:フアン・カンポドニコ、サンティアゴ・モレロ、オタヴィオ・サントス
撮影:ディエゴ・ガルシア
編集:リヴィア・セルパ、エドゥアルド・セラーノ、フェルナンド・エプスタイン、George Cragg
プロダクション・デザイン、美術:ターレス・ジュンケイラ
キャスティング:ガブリエル・ドミンゲス
衣装:リタ・アセベド
録音:ファビアン・オリヴェル
メイクアップ:Tayce Vale
製作者:レイチェル・デイジー・エリス、他共同製作者多数
データ:製作国ブラジル、ウルグアイ、デンマーク、ノルウェー、チリ、スウェーデン合作、ポルトガル語、2019年、SFドラマ、101分。公開ブラジル6月、ロシア8月、ウルグアイ9月、ポルトガル10月、以下予定ノルウェー12月、オランダ2020年1月、他
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2019「ワールドシネマ・ドラマ」部門出品、ベルリン映画祭パノラマ部門でワールドプレミア、マイアミFF正式出品、グアダラハラFF FELSAL賞、ダーバンFF(南アフリカ共和国)監督賞・撮影賞(ディエゴ・ガルシア)、イスタンブールFF、ミネアポリス・セント・ポールFF、ブエノスアイレスFF(BAFICI)、モスクワFF、ウルグアイFFイベロアメリカ部門、シドニーFF、メルボルンFF、リマFF、ワールドシネマ・アムステルダムFFスペシャル・メンション、チューリッヒFF、バンクーバーFF、ロンドンFF、ラテンビートFF、他多数
キャスト:ジラ・パエス(ジョアナ)、ジュリオ・マシャード(ダニロ)、テカ・ペレイラ(ダルヴァ師)、エミリオ・デ・メロ(牧師)、クライトン・マリアノ(郵便配達人ホドリゴ)、スージー・ロペス(洗浄者アマンダ)、マリアナ・ヌネス(リジーア)、トニー・シルバ(洗礼師)、カルム・リオ(ジョアナの息子、ナレーター)、ガブリエル・マスカロ(郵便配達人)、以下多数
ストーリー:2027年ブラジルは、福音派の教会が国民の日常生活のあらゆる分野を組み込んでいた。天上の愛のレイブが開催され、信仰の相談が日常化している。42歳になるジョアナは、結婚の危機を離婚で解決しようとする夫婦を救済するために設置された公証人事務所で働いている。更に夫婦関係をたもてるよう援助している宗教グループ「神の愛」のメンバーでもあった。しかしジョアナも夫ダニロも、夫婦の危機という問題を抱えこんでいた。最後の手段として神に近づいていくが、その努力に神の恩寵はまだ届かない。2027年は目の前に差し迫っている。マスカロが警告するブラジル人の信仰、愛、性が語られる。 (文責:管理人)
(ジョアナ役ジラ・パエス、ダニロ役ジュリオ・マシャード)
差し迫った警告的な寓話――ブラジル人の信仰心、愛、性が語られる
★ガブリエル・マスカロは、1983年生れ、監督、脚本家、撮影監督、製作者、俳優、ビジュアルアーティスト。ドキュメンタリー作家として出発、2008年の「KFZ -1348」に続いて撮った「Um Lugar ao Sol」(09)では、アルゼンチンBAFICIでFEISAL賞・スペシャル・メンションを受賞、「Avenida Brasília Formosa」(10)、「Doméstica」(12)などを撮る。長編映画第1作「Ventos de agosto」(ブラジル・ウルグアイ・オランダ)がロカルノ映画祭2014のスペシャル・メンション、ブラジル映画祭では自身が手掛けた撮影で、撮影賞を受賞した。本作で俳優デビューもしている。
★国際的な注目を集めたのが第72回ベネチア映画祭2015オリゾンティ部門に出品された第2作目「Boi Neon」(「Neon Bull」)、特別審査員賞を皮切りに数々の受賞歴を誇る。トロント映画祭では「今年のトロントのA級ランクの作品」と絶賛され、オナラブル・メンションを受けた。他カルタヘナFF作品賞、ハンブルクFF批評家賞、ハバナFF特別審査員賞、リマFF撮影賞(ディエゴ・ガルシア)、リオデジャネイロFF作品・監督・脚本・撮影賞、サンパウロ芸術批評家協会賞APCAトロフィー、トランシルベニアFFFIPRE、マラケシュFF監督賞、アデレードFF国際ヒューチャー賞、イベロアメリカ・フェニックス賞2016では脚本・撮影賞を受賞(本賞は資金難で2019年度は中止)した他ノミネーション多数。第3作「Divino Amor」が国際映画祭巡りをしているのは、第2作目の成功が寄与している。ブラジルの若手監督として、同世代のなかでも最も大胆で才能ある監督の一人。監督は新作に俳優として出演している。
(第2作目「Boi Neon」のポスター)
(特別審査員賞のトロフィーを手にした監督、第72回ベネチア映画祭2015ガラにて)
★撮影監督ディエゴ・ガルシアは、マスカロ監督の第2作目「Boi Neon」で、先述したように各映画祭で撮影賞を受賞している他、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクンの『光りの墓』(15)、メキシコのカルロス・レイガダスの『われらの時代』(18、共同)、俳優ポール・ダノの監督デビュー作『ワイルドライフ』(18)なども撮っている。今年7月公開されたばかりのアメリカ映画、キャリー・マリガンとジェイク・ギレンホールが夫婦役を演じている。国境を越えて活躍するのが若手シネアストのトレンドらしい。
(ディエゴ・ガルシア、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)
★プロダクション・デザインと美術を手掛けたターレス・ジュンケイラもクレベール・メンドンサ・フィリオの『アクエリアス』(16、共同)、続いて今年の米アカデミー賞ブラジル代表作品の最終候補だった「Bacurau」、アナ・ミュイラートの『セカンドマザー』(15)と話題作に起用されている若手です。
★レイチェル・デイジー・エリスは、イギリス生れ、2004年にブラジルに移住してきた製作者、脚本家、監督。マスカロ監督とはドキュメンタリー「Um Lugar ao Sol」以来タッグを組んでいる。2012年の「Doméstica」、フィクション全3作と、マスカロ映画の殆どを手掛けている。他の監督ではアルゼンチンのベンハミン・ナイシュタットのミステリー「Rojo」を共同で製作している。サンセバスチャン映画祭2018でナイシュタットが監督賞、主演のダリオ・グランディネッテイが男優賞を受賞した話題作。『神の愛』では脚本も共同執筆、2018年に短編ドキュメンタリー「Mini Miss」を監督している。
*ベンハミン・ナイシュタットの「Rojo」紹介記事は、コチラ⇒2018年07月16日
★主人公ジョアナを演じたジラ・パエスは、1996年、ローゼンベルグ・カリリーの「Corisco & Dadá」で主役のダダを演じ注目された。ブラジリアFFやフロリアノポリスFFなどで主演女優賞を受賞した。公開作に、クラウディオ・アシスの『マンゴー・イエロー』(03)でブラジリアFF審査員特別賞、ブレノ・シウヴェイラの『フランシスコの2人の息子』では、若くして7人の子持ちになった母親を演じ、ポルトガルのシネポートで女優賞を受賞、他クアリダーデ・ブラジル賞、コンチゴ映画賞などを受賞しているベテラン女優。
(ジョアナ役のジラ・パエス、映画から)
(ジラ・パエス、ベルリン映画祭2019プレス会見にて)
★ジュリオ・マシャードは、2006年タタ・アマラルの「Antonia」でデビュー、主にTVシリーズに出演している。代表作はマルセロ・ゴメスの「Joaquim」(17)で主人公のジョアキン・ジョゼ・ダ・シルバ・シャヴィエルを演じた。ブラジル独立運動の先駆者で宗主国ポルトガル政府に逮捕され処刑された、ブラジルの英雄ジョアキン(別名チラデンテス)を虚実織り交ぜて描いたビオピック。続いてガブリエラ・アマラルの「A Sombra do Pai」(18)に出演、リオ・ファンタジック・フェスティバル2018で審査員賞を受賞している。
(本作撮影中のジュリオ・マシャードと撮影監督のディエゴ・ガルシア)
★既にラテンビートは開幕しております。人名表記などに誤りがあれば、鑑賞後に訂正したいと考えております。
ブラジル映画『見えざる人生』*ラテンビート2019 ⑦ ― 2019年11月03日 14:15
カリン・アイヌーズの『見えざる人生』――オスカーを狙う
★カリン・アイヌーズの『見えざる人生』(「A vida invisível」)は、第2部ブラジル映画部門で上映されます。カンヌ映画祭2019「ある視点」作品賞受賞作品、第92回米アカデミー国際長編映画賞のブラジル代表作品にも選ばれています。マルタ・バターリャの同名小説の映画化、正確には「ユリディス・グスマンの見えざる人生」(”A vida invisível de Eurídice Gusmao” 2016年刊)です。1950年代のリオデジャネイロを舞台に、男性支配に抗して自由を得ようとする姉妹の物語。ヒロインのユリディスにカロル・ドゥアルテ、姉ギーダにジュリア・ストックラー、ユリディスの晩年を『セントラル・ステーション』のフェルナンダ・モンテネグロが演じる。
(原作者マルタ・バターリャと同名小説の表紙)
(ジュリア・ストックラー、監督、カロル・ドゥアルテ、カンヌFF2019のフォトコール)
『見えざる人生』(「A vida invisível」英題「The Invisible Life」)
ブラジル=ドイツ合作
製作:Canal Brasil / Pola Pandora Filmproduktions / RT Features / Sony Picture
監督:カリン・アイヌーズ
脚本:ムリロ・ハウザー、イネス・ボルタガライ、カリン・アイヌーズ
原作:マルタ・バターリャ
撮影:エレーヌ・ルヴァール(仏)
音楽:ベネディクト・シーファー (独)
プロダクション・デザイン&美術:ホドリゴ・マルティレナ
衣装デザイン:マリナ・フランコ
製作者:ミヒャエル・ベバー(独)、ホドリゴ・テイシェイラ、他多数
データ:製作国ブラジル=ドイツ、ポルトガル語、2019年、ドラマ、139分、第92回米アカデミー国際長編映画賞ブラジル代表作品。公開ブラジル11月21日、イタリア(9月12日)、他ポーランド、スペイン、オランダ、フランス、ロシア、トルコなどの公開がアナウンスされている。
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2019「ある視点」作品賞受賞、リマ・ラテンアメリカ映画祭APRECI賞、Honorableオナラブル・メンション、ミュンヘン映画祭CineCopro賞、バジャドリード映画祭銀のスパイク賞、FIPRESCI、女優賞(カロル・ドゥアルテとジュリア・ストックラー)ほか受賞、他ノミネーションは多数につき割愛、ラテンビート映画祭上映作品
キャスト:カロル・ドゥアルテ(ユリディス・グスマン)、ジュリア・ストックラー(ギーダ、グスマン)、フェルナンダ・モンテネグロ(晩年のユリディス)、グレゴリオ・デュヴィヴィエ(夫アンテノル)、フラヴィオ・バウラキ(刑事)、アントニオ・フォンセカ(マヌエル)、マルシオ・ヴィト(オズワルド)、クリスティナ・ペレイラ(セシリア)、フラヴィア・グスマン(母アナ・グスマン)、マリア・マノエラ(ゼリア)、ニコラス・アントゥネス(Yorgus)、他
ストーリー:長く離れていた姉からの古い手紙は、80歳になるユリディスを驚かせる。1950年代のリオデジャネイロ、ユリディス・グスマンは18歳、クラシックのピアニストになる夢を抱いてウィーン音楽学校を目指していた。しかし、2歳年上の姉ギーダがギリシャ人の船乗りとヨーロッパへ駆け落ちして、間もなく身重の体で秘かにリオに戻ってくる。残酷な家族の嘘によって切り離された姉妹は、都会の雑踏に揉まれ、それぞれの道を前進することになる。ユリディスは愛のない結婚を強いられる。男性優位の社会の仕来りに支配され分断された女性たちの人生が語られる。マルタ・バターリャの同名小説の映画化、マルタを独りで育ててくれた母親と、108歳まで生きた祖母を讃えるために、作家は女性に声を与えることにした。 (文責:管理人)
(手紙を読むユリディス、フェルナンダ・モンテネグロ、映画から)
監督のリオへの愛――国際的なスタッフ陣に注目
★リオデジャネイロが舞台だが、『ファヴェーラの娘』はリオ・オリンピック後の現代、こちらは1940年代後半から50年代と半世紀以上も時代を遡る。ヨーロッパは第二次世界大戦で焦土と化していた頃です。ラテンアメリカ諸国は戦場にならなかった。どんなリオが見られるのだろうか。先ず監督紹介から、カリン・アイヌーズ(セアラ州フォルタレザ1966)は、監督、脚本家、製作者(カリム・アイノーズとも表記される)。2006年の『スエリーの青空』(ブラジル=ポルトガル=独=仏合作、「O Céu de Suely」)が公開されている。シネポート-ポルトガル映画祭で作品・監督賞、ハバナ映画祭初監督部門サンゴ賞、リオデジャネイロ映画祭作品・監督賞、他を受賞したことで公開された。
(『スエリーの青空』のポスター)
★2002年の長編デビュー作「Madame Satã」はカンヌ映画祭「ある視点」に正式出品された。カポエイラ*のパフォーマーだったジョアン・フランシスコ・ドス・サントス(1900~76)の伝記映画、芸名のマダム・サタで知られている。シカゴ映画祭作品賞、ハバナFF特別審査員賞、サンパウロ映画祭APCAトロフィーなどを受賞した。ゲイをテーマにした「Praia do Futuro」は、サンセバスチャン映画祭2014でセバスチャン賞を受賞した他、サンパウロFFのAPCAトロフィーを受賞するなど、かなりの受賞歴がある。
*カポエイラはアフリカ系黒人の護身術がもとになっている。アクロバティックな技に音楽とダンスの要素が組み合わさっている。2014年にユネスコの無形文化遺産に登録された。
(長編デビュー作「Madame Satã」のポスター)
★最新作『見えざる人生』は、審査委員長がナディーヌ・ラバキだったこともあり、女性審査員の票が集まったとも言われた。10月26日閉幕したバジャドリード映画祭では、金賞こそ逃したが銀のスパイク賞、主演の二人の姉妹役が女優賞を受賞するなどした。カンヌには監督以下大勢で参加したが、バジャドリードにはアカデミー賞のプロモーションで忙しく授賞式を欠席したのか、写真は入手できなかった。短期間で終わる映画祭では、139分という長尺はどうしても敬遠されるが、長く感じるかどうかです。1940年代から50年代のリオの風景や雑踏も興味深そうだが、カリン・アイヌーズ監督のリオデジャネイロに寄せる愛も語られるのではないか。
(カリン・アイヌーズ、カンヌFF2019「ある視点」授賞式にて)
★撮影監督がフランスのエレーヌ・ルヴァールに驚いた。アニエス・ヴァルダの『アニエスの浜辺』(08)、ヴィム・ヴェンダースの『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(11)のドキュメンタリーを撮っている他、イタリアのアリーチェ・ロルバケルの『幸福なラザロ』(18)、最近ではハイメ・ロサーレスの『ペトラは静かに対峙する』など話題作を撮っている。これは大いに楽しみでです。音楽を手掛けたのはドイツの作曲家ベネディクト・シーファー、彼は目下開催中の東京国際映画祭コンペティションで話題になっているドミニク・モルの『動物だけが知っている』も担当している。
★メインの製作者ミヒャエル・ベバーは国際派、クリスティアン・ペッツォルトの『東ベルリンから来た女』(12)、『あの日のように抱きしめて』(14)や『未来を乗り換えた男』(18)のドイツ映画だけでなく、イスラエルのサミュエル・マオスの『運命は踊る』(17、ベネチアFF審査員賞)、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクンの『光りの墓』(16)、ダニス・タノビッチの『汚れたミルク あるセールスマンの告発』(16)、『幸福なラザロ』、メキシコのアマ・エスカランテの『触手』(17)など公開作品が多い。スペインのイシアル・ボリャインの「Yuli」も手掛けている。
★もう一人、リオデジャネイロ出身の若手プロデューサーホドリゴ・テイシェイラは、イタリアのルカ・グァダニーノの『君の名前で僕を呼んで』(17)、ブラッド・ピット主演で話題になっているジェームズ・グレイの『アド・アストラ』(19)、クリスタル・モーゼルの『スケート・キッチン』(16)に共同プロデューサーとして参画している。
『セントラル・ステーション』のフェルナンダ・モンテネグロが出演
★フェルナンダ・モンテネグロ(リオデジャネイロ1929)は90歳、映画では80代という実際より若いユリディス・グスマンを演じる。出番は少なそうだが扇子の要でしょう。TVシリーズを含めるとIMDbによれば81作とある。1954年TVシリーズでデビューしている。彼女を一躍スターにしたのはウォルター・サレスの『セントラル・ステーション』(98)、中年女性に扮したが既に70歳に近かった。ベルリン映画祭金熊賞、モンテネグロも主演女優賞を受賞、米アカデミーにノミネートされた唯一人のブラジル女優。リアルタイムで見た人は感無量でしょうか。
(フェルナンダ・モンテネグロ、『セントラル・ステーション』から)
★その他、ブルーノ・バレット『クアトロ・ディアス』(97)に出演、1969年9月4日、実際にリオで起きたアメリカ大使誘拐事件を事件の犯人の一人だったフェルナンド・ガベイラが書いた自伝をベースに映画化された。モンテネグロは犯人を目撃した主婦役だった。ガルシア・マルケスの小説をマイク・ニューウェルが映画化した『コレラの時代の愛』(07)では、トランシト・アリーサを演じた。未見だが『リオ、アイラブユー』(13)にも出演している。本作はブラジル映画祭2015で上映された。ワールド・デビューが遅かったことで、若い頃の作品は1作も見ていない。
(フェルナンダ・モンテネグロと監督)
★ヒロインのユリディス・グスマンを演じたカロル・ドゥアルテは1992年サンパウロ生れ、姉のギーダを演じたジュリア・ストックラーは1988年生れ、共に短編、TVシリーズの出演はあるが、長編映画は初出演。ユリディスが愛のない結婚をするアンテノル役のグレゴリオ・デュヴィヴィエ(リオ1986)は、Ian Sbtのコメディ「Porta dos Fundos:Contrato Vitalicio」(16)で主役を演じている。
(グレゴリオ・デュヴィヴィエ、「Porta dos Fundos:Contrato Vitalicio」から)
★ラテンビートは間もなく開催されます。続きは鑑賞後に譲ります。
ブラジル映画 『ファヴェーラの娘』 *ラテンビート2019 ② ― 2019年10月12日 10:44
今年の「金貝賞」受賞作品「Pacificado」がラテンビートでの上映決定!
★パクストン・ウィンターズの「Pacificado」は、サンセバスチャン映画祭SSIFF 2019「セクション・オフィシアル」にノミネートされ、なんと金貝賞を受賞してしまった。言語がポルトガル語ということで当ブログでは授賞式までノーチェックでしたが、まさかの金貝賞受賞、審査委員長がニール・ジョーダンだったことを忘れていました。さらに『ファヴェーラの娘』の邦題でラテンビートLBFFで、まさかの上映となれば割愛するわけにはいきません。監督Paxton Wintersの日本語表記にはウィンタース(ズ)の両用があり、当ブログでの表記はパックストン・ウィンタースを採用しておりましたが、これからはLBFFに揃えることにしました。
(左端がダーレン・アロノフスキー、SSIFFのフォトコール)
★昨年のLBFFでは、サッカーやサンバの出てこないホームドラマ、グスタボ・ピッツィの『ベンジーニョ』が好評でした。今年はファヴェーラというリオのスラム街を舞台に、リオデジャネイロ・オリンピック後のファヴェーラに暮らす或る家族、刑期満了で出所したばかりの元リーダーの父親ジャカと内向的な娘タチを軸に物語は進行します。撮影には巨大ファヴェーラMorro dos Prazeres(モッホ・ドス・プラゼーレス)の住民が協力した。というわけで監督は、ガラ壇上から早速「モッホ・ドス・プラゼーレス」の住民に授賞式の映像を送信して共に喜びあっていた(フォト下)。まだ正式のポスターも入手できておりませんが、一応データを整理しておきます。LBFF公式サイトでストーリーが紹介されております。
(携帯でモッホ・ドス・プラゼーレスの住民と接続して、金貝賞受賞を一緒に喜ぶ
パクストン・ウィンターズ監督、2019年9月28日SSIFFガラにて)
『ファヴェーラの娘』(「Pacificado / Pacified」)ブラジル=米国合作 2019年
製作:Reagent Media / Protozoa Pictures / Kinomad Productions / Muskat Filmed Properties
監督:パクストン・ウィンターズ
脚本:パクストン・ウィンターズ、Wellington Magalhaes、Joseph Carter Wilson
撮影:ラウラ・メリアンス
音楽:ベト・ビリャレス、コル・アンダーソン、ミリアム・ビデルマン
編集:アイリン・ティネル、アフォンソ・ゴンサルヴェス
プロダクション・マネージメント:ティム・マイア
プロダクション・デザイン:リカルド・ヴァン・ステン
録音:ヴィトール・モラエス、デボラ・モルビ、他
製作者:ダーレン・アロノフスキー(Protozoa Pictures)、パウラ・リナレス&マルコス・テレキア(Reagent Media)、リサ・ムスカ(Muskat Filmed Properties)、パクストン・ウィンターズ(Kinomad Productions)、他エグゼクティブ・プロデューサーは割愛
データ:製作国ブラジル=米国、ポルトガル語、2019年、ドラマ、120分、撮影地リオデジャネイロの巨大ファヴェーラ「モッホ・ドス・プラゼーレス」、配給元20世紀FOX
映画祭・受賞歴:第67回サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアル部門、金貝賞(作品賞)、男優賞(ブカッサ・カベンジェレ)、撮影賞(ラウラ・メリアンス)
キャスト:カシア・ナシメント(タチ)、ブカッサ・カベンジェレ(父ジャカ)、デボラ・ナシメント(母アンドレア)、レア・ガルシア(ドナ・プレタ)、Rayane Santos(レティシア)、ホセ・ロレト(ネルソン)、他ファヴェーラの住民多数
ストーリー:13歳になるタチは内向的な少女でリオのファヴェーラに母親と暮らしている。離れて暮らす父親ジャカをよく知らない。しかし騒然としていたリオデジャネイロ・オリンピックが終わると、父親ジャカが刑期を終え14年ぶりに戻ってくるという。一方、ブラジルの警察は貧しい住民が占拠しているファヴェーラ間の平和維持に日夜苦慮していた。ジャカは暴力がらみの犯罪から足を洗い<平和な>男として生きることを決心していたが、ファヴェーラの住民は彼が再びリーダーになることを期待していた。ジャカとタチは、将来の希望を危うくするような対決への道を選ばざるを得なくなるだろう。
テキサス生れの監督パクストン・ウィンターズとブラジルの関係は?
★パクストン・ウィンターズ(テキサス1972)は、アメリカの監督、脚本家、製作者。俳優としてジャッキー・チェンが活躍する香港映画、テディ・チャンの『アクシデンタル・スパイ』(01)に出演しているという異色の監督。ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」は、3人のトルコのカメラマンと中国陝西省の省都西安を出発、キリギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコのイスタンブールまでの「絹の道」を辿る旅を撮った。ラクダのキャラバン隊を組み18ヵ月間かけたロードムービー。
(ドキュメンタリー「Silk Road ala Turka」から)
★2003年、長編映画のデビュー作「Crude」は、ロスアンゼルスFF 2003ドラマティック作品賞、シアトルFFニューアメリカン・シネマ賞を受賞、トリノFFではトリノ市賞にノミネートされた。イラクをめぐる物語「Outside the Wire」は、サンダンスのスクリーンライターズ・ラボで執筆された。またトルコのTVシリーズ「Alacakaranlik(Twilight)」(03~05)も手掛けている。トルコで外国人監督がTVシリーズを手掛けた最初の監督だった。トルコに18年間住んでいた後、ブラジルのリオに移動した。最初数か月の滞在の予定だったが、ファヴェーラのコミュニティに魅せられ、気がついたら7年経っていた。そうして完成したのが『ファヴェーラの娘』だった。「映画のアイディアは3つ、私の役割は、耳を傾けること、観察すること、質問することでした」とSSIFF上映後のプレス会見で語っていた。製作にはダーレン・アロノフスキーとの出会いが大きかった。
(デビュー作「Crude」撮影中のウィンターズ監督)
★総勢10人以上で現地入りしていたクルーは、プレス会見では監督以上に製作者の一人ダーレン・アロノフスキーに必然的に質問が集中した。アロノフスキーによると、『レクイエム・フォー・ドリーム』を出品したイスタンブール映画祭2000でパクストン・ウィンターズと偶然出会って以来の友人関係、当時ウィンターズはジャーナリストとシネアストの二足の草鞋を履いており、CNNやBBCのようなテレビ局の仕事を中東やブラジルで展開していた。Q&Aは英語、ポルトガル語、スペイン語で進行した。既にアメリカ映画に出演し、本作では一番認知度の高い出演者デボラ・ナシメント(サンパウロ1985)は英語も堪能だし、華のある女優なので会場からの質問も多く英語で対応していた。
(パクストン・ウィンターズ、SSIFFプレス会見)
★ジャカ役のブカッサ・カベンジェレBukassa Kabengele(ベルギー1973)は、コンゴ系ブラジル人の歌手で俳優。日本では歌手のほうが有名かもしれない。ベルギー生れなのは、ベルギーがコンゴ共和国独立前の宗主国の一つだったからのようで、父親のカベンジェレ・ムナンガはサンパウロ大学の人類学教授である。SSIFFでは見事最優秀男優賞(銀貝賞)を受賞した。既に帰国してガラには欠席しており、トロフィーは妻を演じたデボラ・ナシメントが受け取った。映画デビューは2001年、アンドレ・ストゥルムの「Sonhos Tropicais」、エクトル・バベンコの『カランジル』(03)、他にTVシリーズの歴史ドラマ「Liberdade, Liberdade」(16、12話)や「Os Dias Eram Assim」(17、53話)に出演している。
(ブカッサ・カベンジェレ)
(最優秀男優賞のトロフィーを受け取るデボラ・ナシメント)
★オーディションで監督の目に留まり、娘タチ役を射止めたカシア・ナシメントCassia Mascimentoをカシア・ジルと紹介しておりました。記事によって2通りあり迷いましたが、IMDbとサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル公式サイトの後者を採用しました。しかし今回アップするにつき、SSIFF上映後のプレス会見(9月24日)で確認したところ前者だったのです。公式サイトも当てにならないということです。ファヴェーラ出身のスター誕生です。管理人はポルトガル語の発音が正確ではないが、カッシア・ナスィメントゥかもしれない。同姓のデボラ・ナシメントの本邦での表記がナシメントなので揃えることにいたしました。ドナ・プレタ(リオデジャネイロ1933)を演じたレア・ガルシアは86歳、フランスのマルセル・カミュの『黒いオルフェ』(59)でデビュー、セラフィナを演じた女優が現役なのには真底驚きました。今作はカンヌFFのパルム・ドール受賞、アカデミー外国語映画賞を受賞したことで公開された。
(左から、家族を演じたブカッサ・カベンジェレ、カシア・ナシメント、
デボラ・ナシメント、上映前のフォトコール9月24日)
★本作は4つの制作会社が担当しました(上記)。ダーレン・アロノフスキー以外はガラまで受賞を期待して残っておりました。というわけで登壇したのは、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ、パクストン・ウィンターズの4人でした。マルコス・テレキアは『リオ、アイラブユー』(14)の製作者の一人、ブラジル映画祭2015で上映され、後WOWOWで放映された。ほかラウラ・メリアンスが最優秀撮影賞(銀賞)を受賞した。
(左から、ウィンターズ監督、パウラ・リナレス、マルコス・テレキア、リサ・ムスカ)
ブラジル映画『ベンジーニョ』*ラテンビート2018あれやこれや ⑧ ― 2018年11月15日 14:49
ピッツィ監督一家が総出演で撮った『ベンジーニョ』
★後半2日目、アリ・ムルチバの『サビ』に続いて、グスタボ・ピッツィの『ベンジーニョ』(英題「Loveling」)を見てきました。1月開催のサンダンス映画祭でスタートした本作のヒロインを力演したのが監督夫人のカリネ・テレスでした。パンフレットに紹介されているようにグラマド映画祭2018ブラジル映画部門で女優賞を受賞、姉を演じたアドリアナ・エステベスが助演女優賞、監督が観客賞を受賞しました。その他、例年4月に開催されるマラガ映画祭2018イベロアメリカ映画部門の作品賞「金のビスナガ」、審査員特別賞「銀のビスナガ」他を受賞した。因みに駄々をこねて兄さんたちを困らせた双子の兄弟は監督夫妻の実子であり、文字通り<ベンジーニョ>です。
*『ベンジーニョ』の紹介記事(配役のみ再録)は、コチラ⇒2018年04月30日
配役:カリネ・テレス(イレーニ)、オッタヴィオ・ミュラー(夫クラウス)、アドリアナ・エステベス(イレーニ姉ソニア)、コンスタンティノス・サリス(長男フェルナンド)、セザル・トロンコソ(ソニアの夫アラン)、マテウス・ソラーノ(パソカ)、ルカス・ゴウヴェア(登記所職員)、パブロ・リエラ(サンダー)、ビセンテ・デモリ、ルアン・テレ、アルトゥル&フランシスコ・テレス・ピッツィ(双子の3男4男)
(女優賞のトロフィーを手にしたカリネ・テレス、グラマド映画祭授賞式にて)
A: <Benzinho>は市販のポルトガル辞典に見当たらなかったので、英題「Loveling」から類推しておりましたが、字幕は「かわいい子供」(?)と訳されていたかと思います。愛らしい好もしい事柄に使用する造語でしょうか。
B: 監督夫妻の実子という双子の可愛らしさは、写真で見る以上に愛らしかった。5歳ぐらいの設定でしたが、どこからどこまでが演技なのか、現実と虚構の境が定かではありませんでした。
A: 実際のところ「今のママはホントのママか、映画のママかどっちなの?」というわけで、ベテランのカリネ・テレスもタジタジでした。
(イレーニ、双子の兄弟、ホルンが得意の次男ロドリゴ)
B: 10歳という設定の次男ロドリゴは、出来のいい長男フェルナンドの陰に隠れて、母親の評価は必ずしも高くないけれど、オッタヴィオ・ミュラー扮する優しい父親の性格を受け継いで、弟の面倒をよくみる穏やかな子でした。
A: 名前がエンディング・クレジットでメモできず、キャスト紹介では特定できませんでした。体形も父親似でかなり肥っている。母親につまみ食いを叱られているのか、夜中に隠れて父子して盗み食いをするシーンには、気の毒やら可笑しいやら。
B: 次男は父親っ子、長男は母親っ子です。肥満に厳しい母親に二人して一矢を報いているようでした。頑張り屋だが強すぎるイレーニから受けるストレスが二人の肥満の原因かもしれない。
A: しかしラストのパレードのシーンで面目を果たしました。母親自慢の息子フェルナンドに扮したコンスタンティノス・サリスはイケメン、ハンドボールだけでなく成績も良いという設定。そういう子にありがちの自己中心的な性格でないのがいい。総じて登場人物の人格がくっきりしていました。
B: それぞれ短所はあるものの長所がそれをカバーしていて、家族揃って安心して見られるホームドラマに仕上がっていた。
(ドイツでの夢を膨らませる自立したい長男、寂しさと喜びが交錯する母)
A: 性格は穏やかだが夢を追い続けては失敗ばかりする夫クラウスに、愛しているけれど歯がゆい妻、自然と強くならざるを得ない。ハイスクールの卒業証書が欲しいのも、それがあれば正社員になれる道が開かれるからです。
B: 舞台となっている地方都市でも実力だけでなく学歴が必要になっている印象でした。
A: リオデジャネイロ州のペトロポリスという都市は、高地にあるため避暑地でもあるらしく、監督夫妻の生れ故郷です。監督が大好きな町なので撮影もここで行われたということです。リオデジャネイロとは時間の流れがゆったりしている。かつてはドイツ人の入植が奨励されたのでドイツ移民が多い。夫クラウス役のオッタヴィオ・ミュラーが起用されたのも自然です。
(将来の夢を語るクラウス、不安を隠して夫の提案にうなずくイレーニ)
(新しい計画の夢が頓挫して落ち込む夫を慰める妻)
B: ブラジルと言えばサッカーですが、ハンドボールもドイツ同様盛んです。だから息子がドイツのチームからオファーを受けたのは、父としては名誉なことだった。
A: しかしイレーネはそう単純には喜べない。何しろ我が家の希望の星なのだ。それに未だ子供なのにドイツに行ってしまうなんて。早すぎる子供の巣立ちに心は千々に乱れる(笑)。
B: 理性と感情は重ならない。母親のストレスの爆発に戸惑う子供たち、こんなママを見たことない。
A: イレーニのお姉さんソニア役を演じたアドリアナ・エステベスは、グラマド映画祭で助演女優賞を受賞した。夫の家庭内暴力から逃れて一人息子を連れて駆け込んできた。40歳近くなってハイスクールの卒業証書を手にした妹イレーニが誇らしい。
B: この女優さんも、酒乱の夫アラン役のセザル・トロンコソも上手かった。イレーニが卒業式に着ていく豪華なドレスを提供するゲイのブティック店主、新居を請け負った大工の棟梁など、おしなべてキャスト陣は安心して見ていられました。
(「とても尊敬するわ」と姉、ラメ入りの貸衣装の証書を手にした妹、卒業式シーン)
(こんな崩壊寸前のボロ家にソニア母子は転がり込んできた、庭に双子の兄弟)
A: ホワイトカラーの登記所職員役ルカス・ゴウヴェア、お役所のタテマエ主義に皮肉もちょっぴり利かせている。前回アップしたアナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』にもブラジル人俳優が多数出演していましたが、とても演技のレベルが高く、多様性に富んでいる。ブラジルはラテンアメリカ諸国ではアルゼンチン同様、映画先進国だと改めて思いました。なお、ストーリー、監督フィルモグラフィー、カリネ・テレス、主なスタッフ紹介は、すでにアップしている紹介記事をご参照してください。
*大阪梅田ブルク7、11月18日(日)上映
『夢のフロリアノポリス』*ラテンビート2018あれやこれや⑦ ― 2018年11月14日 14:41
後半1日目はアナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』でスタート
★第5回イベロアメリカ・フェニックス賞の結果が発表になっておりますが、記憶が薄れないうちにラテンビートの感想を先に。後半は『夢のフロリアノポリス』、『ベンジーニョ』、『夏の鳥』、最終上映となった『アナザー・デイ・オブ・ライフ』4本を鑑賞しました。アルゼンチンの監督アナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』(アルゼンチン・ブラジル・仏、アルゼンチン語・ポルトガル語、106分)は、パンフレットでブラジル映画の特集欄に入っていたこともあって、スペイン語映画ではないと思っていた方がいらしたかもしれない。4本のなかでは一番空席が目立っていて勿体なかった。言語だけでなく両国の国民性の違いがアイロニーを込めて語られ、シリアス・コメディとしては若干長すぎましたが楽しめました。本作「Sueño Florianópolis」については、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門にエントリーされた折り、ストーリー、キャスト、監督フィルモグラフィーなどを紹介しています。
*『夢のフロリアノポリス』の紹介記事(配役は下記に再録)は、コチラ⇒2018年09月21日
ブラジル映画でなく、やはりアルゼンチン映画です
A: 舞台は1992年のブラジルのリゾート地フロリアノポリス、25年前ほどのお話とはいえ両国のお国柄は変わらない。アルゼンチンは債務不履行を性懲りもなく繰り返している国、90年代初頭は正義党(ペロン党)のメネム大統領時代で、2001年の国家破産前夜だった。そういうブエノスアイレスから精神分析医をしているペドロとルクレシアの夫婦が、年頃の子供二人とフロリアノポリスにオンボロ車でやってくる。
B: 一方、アルゼンチン一家を迎えるブラジルは、南米第一の人口を抱える汚職大国、1992年のインフレ率は1110%という信じられないハイパー・インフレだった。
(マルコも荷物持ちを手伝ってフロリアノポリスの梅に到着した一家、中央が娘フローラ)
A: そんな事態になってもめげないブラジルに、マンネリムードの夫婦がバケーションにやって来た。目下お試し別居中だがバケーションは別というわけです。せっかく一緒にきたのだから久しぶりにセックスもいいか(笑)。医者という職業柄中流階級に属しているが台所状態は中流のイメージとは程遠く、朝食に出たパンを昼食用にそっとトートバッグに詰め込んだりして笑わせる。
B: まだ二人だけだった頃、夫婦は来たことがあるという設定、暮らし向きも今より良かったらしく、もっと高級なホテルに滞在していた良き思い出を引きずっている。予約したコンドミニアムは耐え難く、途中ガス欠が取り持つ縁で知り合ったブラジル人のマルコの別荘に宿替えする。
A: その別荘というのがマルコの自宅で、彼の家族はもっと狭い家に移って稼ぎ時の夏場の商売に精を出す。借り手も貸し手も経済状態はイマイチ、魅力的なのはタダで泳げる海と素晴らしい景観、週末にマルコの元恋人ラリッサのバーで開催されるカラオケでのサンバのリズムというわけです。互いに自国の言葉で話すからチグハグになることもあり、その意思疎通のあやが面白さの一つになっている。
B: 字幕だけでは分からないおもしろさです。ややこしい話、具合の悪い話になると、「えっ、なんて言ったの?」と通じないふりをする。
(人生は短いのだからと波乗りに興じるマルコとペドロの家族、
左から、フリアン、ペドロ、ルクレシア、ラリッサ、マルコ)
A: お互い見えないところでは相手国の悪口を言ってるが、表面的には教養ある大人らしく友好ムードに終始する。これが正しい国際関係というものです。
B: 別居中なのだから相手の自由は尊重しないといけない。というわけでルクレシアはマルコと、ペドロはラリッサとつかの間の恋のアバンチュールを楽しむが・・・
A: 理性と感情は理屈通りにいかないのが世の常、バツの悪さもさりながら二人の微妙な心の揺れも見所の一つである。
(ガードの堅いルクレシアに言い寄る伊達男マルコ)
(にこやかに談笑しているが、心穏やかでないルクレシアとラリッサ)
B: ルクレシアを演じたメルセデス・モラン(サン・ルイス、1955)は、カルロヴィ・ヴァリ映画祭で女優賞を受賞した。
A: 彼女はパンフでの紹介以外にも、サンセバスチャン映画祭2018の開幕作品だったフアン・ベラの「El amor menos pensado」でリカルド・ダリンとタッグを組んでいる。同じような離婚の危機を迎えた夫婦の機微を描いたロマンティック・コメディです。こちらはアルゼンチンでは大ヒットした。
B: ハリウッドと違うのは、少々太めの熟女でもヒロインに起用されることでしょう。ハリウッドでは40代はもはや90代のおばあさんが常識、熟女で主役を演じられるのはメリル・ストリープくらいででしょうか。
(ペドロのラリッサとの不倫告白に、自分を棚に上げて機嫌を損ねるルクレシア)
A: ペドロ役のグスタボ・ガルソンは、1955年ブエノスアイレス生れの俳優、脚本家。1981年デビューのベテラン。数多くのTVシリーズに出演、映画ではロリー・サントスのスリラー「Qué absurdo es haber crecido」の主役、『人生スイッチ』が大ヒットしたダミアン・ジフロンの「El fondo del mar」で2003年、銀のコンドル賞やクラリン・エンターテインメント賞男優賞を受賞しています。
B: ラテンビート2016では『名誉市民』の邦題で上映された、ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンのコメディ『笑う故郷』にも脇役だが出演している。
A: 夫婦の二人の子供を演じたホアキン・ガルソンとマヌエラ・マルティネスは、彼の実子だそうです。フローラ役のマヌエラはラストで両親を窮地に陥れます。
B: 冒頭に張られた伏線通りになりました。まったく笑ってなどいられません。
A: アルゼンチン・コメディのファンにはお薦めの映画、大阪、横浜会場で上映されます。なお監督紹介は前回アップしております。
(カルロヴィ・ヴァリ映画祭「審査員特別賞」のトロフィーを手にしたアナ・カッツ監督)
*付録・キャスト紹介*
キャスト:グスタボ・ガルソン(夫ペドロ)、メルセデス・モラン(妻ルクレシア)、ホアキン・ガルソン(息子フリアン)、マヌエラ・マルティネス(娘フロレンシア、フローラ)、マルコ・ヒッカ(ブラジル人マルコ)、アンドレア・ベルトラン(マルコの元恋人ラリッサ)、カイオ・ホロヴィッツ(マルコの息子セザル)、他
*「El amor menos pensado」の紹介記事は、コチラ⇒2018年08月14日
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