カルラ・シモンが特別賞「女性ヤング才能賞」を受賞*カンヌ映画祭2018 ⑦ ― 2018年05月20日 14:14
『夏、1993』の監督が「ウィメン・イン・モーション」のヤング才能賞に
★カンヌの常連、是枝裕和の『万引き家族』がパルムドールを受賞してカンヌも幕を閉じました。日本が受賞するのは21年ぶりとか、下馬評通りだったのでしょうか。というわけで6作エントリーされていた「監督週間」を含めてスペイン語映画は無冠に終わりました。特別賞として既にアナウンスされていた『夏、1993』のカルラ・シモン監督が「ウィメン・イン・モーション」の若手部門の「ヤング・タレント賞」を受賞しました。デビュー作『夏、1993』は、ラテンビート2017上映がポシャッタ後なかなか公開されませんが、どうなっているのでしょうか。
(トロフィーを手にしたカルラ・シモン、授賞式にて)
「シネフォンダシオン」部門の第1席にチリのディエゴ・セスペデス
★1998年が第1回の「シネフォンダシオン」は、監督のタマゴを援助する目的で始まった。ここで評価された短編は、いずれ長編となって戻ってくることが多い。第1席には15,000ユーロの副賞が与えられる。今回チリ大学のコミュニケーション映像研究所在学中のディエゴ・セスペデスの短編「El verano del león eléctrico」(22分、「The Summer of the Electric Lion」)が受賞した。セスペデスは撮影監督としては、アンドレア・カスティーリョの短編「Non Castus」(16)で既にデビューしている。
★物語は、11歳になるアロンソは、17歳の姉が<エル・レオン>と呼ばれる予言者の七番目の妻になれるように願っている。有名な予言者「ペニャロレンPenalolén」にインスパイヤーされているそうで、昔の話ではなくチリの現代が舞台だそうです。「チリはいまだにマチスモと保守主義が幅を利かせている国で、女性たちの将来は生まれる前から、家族が所属する社会的地位によって運命づけられている」とスピーチ、テーマは下位に甘んじている女性の解放のようです。
(授賞式でスピーチするディエゴ・セスペデス)
監督週間にチロ・ゲーラの「Pájaros de verano」*カンヌ映画祭2018 ⑥ ― 2018年05月18日 20:20
婦唱夫随で撮った新作「Pájaros de verano」も「監督週間」でした!
★コロンビアのクリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラの新作「Pájaros de veranao」が、「監督週間」のオープニングの光栄に浴しました。最初カンヌ本体のコンペティション入りが噂されていたので、どこかに落ち着くとは予想していました。結局、新作も2015年の話題作『彷徨える河』と同じ「監督週間」でした。オープニング作品に選ばれたのは、前作の成功があったからに違いない。最近の「監督週間」は、作家性のある新人登竜門という枠組を超えてベテラン勢が目につきます。確かにクリスティナ・ガジェゴのデビュー作ではありますが新人とは言えない。カンヌには両監督の他、<ゴッドマザー>的存在の主役を演じたカルミニャ・マルティネス、その娘に扮するナタリア・レイェス、ホセ・アコスタ、ホセ・ビセンテなどがカンヌ入りしました。
*『彷徨える河』の内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2016年12月01日
(赤絨毯に勢揃いした、チロ・ゲーラ、ホセ・ビセンテ、カルミニャ・マルティネス、
クリスティナ・ガジェゴ、ナタリア・レイェス、ホセ・アコスタ、2018年5月9日)
「Pájaros de verano」(「Birds of Passage」)2018
製作:Ciudad Lunar roducciones / Blond Indian Films(以上コロンビア)/ Snowglobe(デンマーク)/ Labodigital / Pimienta Films(以上メキシコ)/ Films Boutique(フランス)、
協力カラコルTV(コロンビア)
監督:クリスティナ・ガジェゴ&チロ・ゲーラ
脚本:マリア・カミラ・アリアス、ジャック・トゥールモンド(『彷徨える河』)
(原案)クリスティナ・ガジェゴ
音楽:レオナルド・Heiblum(メキシコ1970)
撮影:ダビ・ガジェゴ(『彷徨える河』)
編集:ミゲル・シュアードフィンガー(『サマ』『頭のない女』)
美術:アンヘリカ・ぺレア(『彷徨える河』)
衣装デザイン:キャサリン・ロドリゲス(『彷徨える河』『チリ33人 希望の軌跡』)
製作者:カトリン・ポルス(デンマーク)、クリスティナ・ガジェゴ、他共同製作者多数
データ:製作国コロンビア=デンマーク、協力フランス=メキシコ、言語スペイン語とWayuuワユー語、2018年、ドラマ、125分、撮影地ラ・グアヒラ県の砂漠地帯、マグダレナ県、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マリア、撮影9週間、2017年5月3日クランクアップ。配給Films Boutique(フランス9月19日公開)、The Orchard(米国公開決定、公開日未定)
映画祭:カンヌ映画祭併催の「監督週間」オープニング作品、5月9日上映
キャスト:カルミニャ・マルティネス(ウルスラ・プシャイナ)、ナタリア・レイェス(ウルスラの娘サイダ)、ホセ・アコスタ(サイダの夫ラパイエット、ラファ)、ジョン・ナルバエス(ラファの親友モイセス)、ホセ・ビセンテ・コテス(ラファの叔父ペレグリノ)、フアン・バウティスタ(アニバル)、グレイデル・メサ(ウルスラの長男レオニーダス)、他エキストラ約2000人
物語・解説:コロンビアの「マリファナ密売者の繁栄」時代と称される70年代を時代背景に、ラ・グアヒラの砂漠地帯でマリファナ密売を牛耳るワユー族一家の物語。当主ラパイエット・アブチャイベと姑ウルスラ・プシャイナによって統率された一家は、麻薬密売による繁栄を守るために闘う。金力と権力に対する野心と女性たちの地位についての物語。夢と寓話、残酷な現実を絡ませて物語は時系列に進行するが、共同体同士の権力闘争、家族間の争いはワユーの文化、伝統、人生そのものさえ危うくしていくだろう。未だに終りの見えないコロンビアの混乱の始まり、復讐はワユー共同体の原動力として登場する『ゴッドファーザー』イベロアメリカ版。コロンビアの崩壊したアイデンティティを魅力的に語る詩編。 (文責:管理人)
アマゾンの大河からラ・グアヒラの砂漠に移動して
★ある没落したワユー族の若者が繁栄を誇る一族の娘に結婚を申し込む。しかし要求された持参金はとうてい若者が準備できる額ではなかった。そこでマリファナを探していた米国のグループの仲介者になろうと決心する。容易にお金を工面するために始めたはずが、次第に麻薬ビジネスにのめりこんでいく。それは大地に深く根を下ろしたワユーの文化や伝統から遠く外れていくものだった。発端は求婚に過ぎなかった。ヨーロッパの批評家は「コロンビアの麻薬密売の起源のシェイクスピア風悲劇」と評している。この求婚者に扮するのがホセ・アコスタです。
★コロンビア北端のラ・グアヒラの砂漠地帯に約1000年前から住んでいるワユー族は、もともとマリファナを栽培していたという。ガジェゴ監督によると、ワユー族の女性たちは人前では口を閉ざしているが、一歩家に入れば政治経済に強い発言力を持っており、背後で男を操っている存在だという。いわば財布の紐を握っていたわけです。そういう女性を中心に据えてコロンビアの「bonanza marimbera マリファナ密売者の繁栄」と言われた1976~85年の麻薬密売取引を絡ませた映画を、ワユー族の視点で描きたいと長年考えていた。1960年代70年代のラ・グアヒラ地方はまだ資本主義の揺籃期で、米国のマフィアによって近代化された麻薬密売組織によって、たちまち危機に晒されるようになった。時代的にはパブロ・エスコバルのコカインによるメデジン・カルテルが組織される以前の話です。
★映画祭での評価は概ねポジティブですが、前作に比べると先が読めてしまう展開のようで、前作のような驚きは期待できないか。前作『彷徨える河』は、アカデミー外国語映画賞にノミネートされたこともあって米国では予想外のロングランだった。というわけで今回The Orchard により早々と米国公開が決定したことはビッグニュースとして報じられている。プロの俳優、カルミニャ・マルティネス、ナタリア・レイェス、今回が映画デビューのホセ・アコスタ、ワユーのネイティブのホセ・ビセンテ・コテス、などアマ・プロ混成団は、エキストラ2000人、スタッフ75名の大所帯だった。
(ナタリア・レイェス、映画から)
★主役のウルスラ・プシャイナを演じるカルミニャ・マルティネスは舞台女優、映画によってカルミニャ、カルミニアと異なるが、IMDbではカルミナでクレジットされている。1996年TVシリーズ「Guajira」でデビュー、カルロス・パウラの「Hábitos sucios」(03)、ダゴ・ガルシア&フアン・カルロス・バスケスの「La captura」(12)に出演している。「ウルスラは厳しい女性であるが、情熱的で複雑な顔をもっている」と分析している。ホセ・アコスタは「母語でない他の言語で演じるのは難しいと思われているが、そんなことはない。心を開き人物になりきれば、そんなに難しいことではない」とインタビューに答えている。ナタリア・レイェスは、2015年のTVシリーズ「Cumbia Ninja」全45話に出演、一番知名度がある。「自分が知らなかったワユー族の素晴らしい文化を知ることができた。またラ・グアヒラの名誉を回復する物語に出られた貴重な時間だった」と語っている。
(中央がウルスラを演じたカルミニャ・マルティネス、映画から)
★ゲーラ監督は、砂漠での撮影は「何にもまして辛かった」と顎を出したそうだが、ガジェゴ監督は「ぜーんぜん」とすまし顔、非常にバイタリティに富んだ女性である。これは前作の『彷徨える河』で証明済みでした。ラ・グアヒラは厳しい乾燥地帯で、歴史的に海賊もスペイン人もイギリス人も寄り付かなかった地帯です。
★クリスティナ・ガジェゴ Cristina Gallego は、1978年ボゴタ生れの製作者、監督。夫チロ(シーロ)・ゲーラとはコロンビア国立大学の同窓生、共に映画テレビを専攻した。1998年、二人で制作会社「Ciudad Lunar roducciones」を設立して、ゲーラ作品の製作を手掛けている。2008~11年、マグダレナ大学で「製作と市場」についてのプログラムのもと後進の指導に当たる。今回「Pájaros de verano」で監督デビューした。ゲーラとの間に2児。
(第50回「監督週間」のポスターをバックにゲーラ監督とガジェゴ監督、カンヌにて)
★チロ・ゲーラ Ciro Guerraは、1981年セサル州リオ・デ・オロ生れ、監督・脚本家。長編デビュー作“La sombra del caminante”(04)は、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭2005で観客賞を受賞。第2作“Los viajes del viento”(09)はカンヌ映画祭「ある視点」に正式出品、ローマ市賞を受賞後、多くの国際映画祭で上映された。ボゴタ映画祭2009で監督賞、カルタヘナ映画祭2010作品賞・監督賞、サンセバスチャン映画祭2010スペイン語映画賞、サンタバルバラ映画祭「新しいビジョン」賞などを受賞。
★第3作目となる『彷徨える河』(15)は、カンヌ映画祭2015併催の「監督週間」に正式出品、アートシネマ賞受賞、第88回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、以下オデッサ、ミュンヘン、リマ、マル・デル・プラタ、インドほか各映画祭で受賞、他にフェニックス賞、アリエル賞(イベロアメリカ部門)、イベロアメリカ・プラチナ賞など映画賞を受賞。2016年にはサンダンス(アルフレッド・P・スローン賞)、ロッテルダム(観客賞)などを受賞。4作目が本作「Pájaros de verano」となる。
(本作撮影中のゲーラ&ガジェゴと撮影監督のダビ・ガジェゴ)
★ゲーラ=ガジェゴの次回作は、2003年のノーベル文学賞受賞者にして2度も英国ブッカー賞を受賞した、南ア出身の小説家ジョン・マックスウェル・クッツェーJ. M. Coetzee の小説「Waiting for the Barbarians」(「Esperando a los Bárbaros」)の映画化(現在の国籍はオーストラリア)。多くの小説が翻訳され、本書も『夷狄を待ちながら』という難読邦題で刊行されている。年末にモロッコでクランクインの予定。英語で撮るのは初めて、海外での撮影も初めてになります。
*追加:第15回ラテンビート2018上映が決定、邦題は『夏の鳥』
「ある視点」にアルゼンチンの「El Ángel」*カンヌ映画祭2018 ⑤ ― 2018年05月15日 17:48
ルイス・オルテガの第7作目「El Ángel」は実話の映画化
(映画祭用のフランス語のポスター)
★ルイス・オルテガの「El Ángel」(アルゼンチン=スペイン合作)は、アルゼンチンの1971年から72年にかけて、金品強盗を目的に11人もの人間を殺害した美青年カルロス・ロブレド・プッチの実話に材をとったビオピックです。既にカンヌでは上映され、観客並びに批評家の評判はまずまずのようでした。当時その美しい風貌から「死の天使」または「黒の天使」と恐れられた殺人鬼カルリートスに扮したロレンソ・フェロの妖しい魅力も大いに役立ったのではないか。お披露目にはスペイン・サイドの製作を手掛けたエル・デセオのペドロ・アルモドバルも登壇してサプライズを提供したようです。彼は昨年のコンペティション部門の審査委員長を務めたカンヌの常連です。
(赤絨毯に勢揃いした出席者、左から、ピーター・ランサニ、メルセデス・モラン、
チノ・ダリン、オルテガ監督、セシリア・ロス、ペドロ・アルモドバル、ロレンソ・フェロ)
「El Ángel」(「The Angel」)2018
製作:El Deseo / Kramer & Sigman Films / Underground Contenidos / Telefé
協賛INCAA
監督:ルイス・オルテガ
脚本(共):セルヒオ・オルギン、ルイス・オルテガ、ロドルフォ・パラシオス
撮影:フリアン・アペステギア
編集:ギリェ・ガッティGuille Gatti
メイクアップ:マリサ・アメンタ
衣装デザイン:フリオ・スアレス
美術:フリア・フレイド
プロダクション・マネージメント:メルセデス・タレジィ
製作者:(エグゼクティブ)ハビエル・ブライアー、ミカエラ・ブジェ。ウーゴ・シグマン、セバスティアン・オルテガ、マティアス・モステイリン、Axel Kuschevatzky、レティシア・クリスティ、パブロ・クレル(以上アルゼンチン)、アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、エステル・ガルシア(以上スペイン)
データ:製作国アルゼンチン=スペイン、スペイン語、2018年、ビオピック、犯罪、120分、撮影地ブエノスアイレス、配給20世紀フォックス。カンヌ映画祭2018「ある視点」正式出品、公開アルゼンチン2018年8月9日
キャスト:ロレンソ・フェロ(カルリートス、カルロス・ロブレド・プッチ)、セシリア・ロス(カルリートスの母親アウロラ)、チノ・ダリン(ラモン)、ピーター・ランサニ(ミゲル・プリエト)、ルイス・ニェッコ(エクトル)、マレナ・ビリャ(マリソル/マグダレナ)、ダニエル・ファネゴ(ホセ)、メルセデス・モラン(ラモンの母親アナ・マリア)、ウィリアム・Prociuk、他
ストーリー・解説:カルリートスは天使のような顔をした17歳、その魅力には皆まいってしまう。欲しいものすべてを手にできる。高校でラモンと知り合い、彼らはコンビを組んで危険だが素晴らしいゲームに取り掛かる。手始めに盗みと詐欺で腕を磨きつつ、ホシが割れるのを警戒して目撃者を殺害、たちまち連続強盗殺人へとエスカレートするのに時間はかからなかった。ストーリーは差別的な社会を風刺しながら、タランティーノ・スタイルで終始軽快に進行するだろう。
スクリーンの殺人劇はフィクションの世界で起きたことらしい?
★実在の連続強盗殺人犯カルロス・エドゥアルド・ロブレド・プッチ(1952年1月22日、ブエノスアイレス生れ)のビオピックという触れ込みだが、どうやら映画の殺人劇はフィクションの世界で起きたことらしい。1971年5月3日を皮切りに、無関係な人々11名の殺害、数えきれない強盗、万引き、誘拐レイプ、とアルゼンチン犯罪史上稀にみるモンスターを、映画は単なる悪者と決めつけていないようです。天使のような顔をした青年の犯罪は当時のアルゼンチン社会を震撼させるに十分だったのだが。1972年2月4日、最後となった強盗殺人の翌日逮捕されたときには20歳になったばかりだった。
(カルリートス役のロレンソ・フェロ、映画から)
★カルロス・ロブレド・プッチのビオピックとは言え、何処から何処まで史実と重なるのか、監督が描きたかったテーマが充分に見えてこない段階での紹介は危険かもしれない。ウイキペディアにも詳しい情報が掲載されているが、スペイン語版、英語版で若干食い違いもあり、11名殺害の詳細を語っても意味がないようです。しかしその殺害方法は残忍である。泣き叫ぶ生後2~3か月ばかりの赤ん坊にさえ銃弾を浴びせたり、殺害前にレイプしたり、足手まといになりそうな共犯者まで殺害する邪悪さには吐き気を催す。被害者家族の多くがまだ存命していることから、終身刑で服役中とはいえ、単なるエンターテインメントでないことを祈りたい。監督は取材に刑務所に通いつめ、10回ほどインタビューしたということです。ラテンアメリカ諸国はEU諸国と同様に死刑廃止国、66歳になるカルロスは健康不安を抱え何度も恩赦を請求しているが当然却下、獄中46年はアルゼンチン犯罪史上最長だそうです。
(1972年2月4日、逮捕されたときのカルロス・ロブレド・プッチ)
オルテガ家はアーティスト一家、兄弟が協力して製作した「El Ángel」
★ルイス・オルテガ Luis Ortega Sslazarは、1980年ブエノスアイレス生れの37歳、監督、脚本家。シンガーソングライターで俳優の父パリート・オルテガと女優の母エバンヘリナ・サラサールの6人兄弟姉妹の5番目、それぞれ映画プロデューサーであったり歌手であったりの有名なアーティスト一家。父親は後に政界に進出、1990年代出身地ツクマンの州知事になった。映画はブエノスアイレスの映画大学で学んだ。現在『パウリナ』や『サミット』の監督サンティアゴ・ミトレと5回目の結婚をしたドロレス・フォンシとは一時期(1999~2004)結婚していた。ガエル・ガルシア・ベルナルと結婚する前ですね。
(オルテガ兄弟、左が製作者の兄セバスティアン、右が弟ルイス)
★2002年に「Caja negra」(「Blackbox」)で長編デビューする。本作のヒロインが当時結婚していたドロレス・フォンシである。第2作「Monobloc」(04)には母親が出演して銀のコンドル賞助演女優賞を受賞した。2009年「Los santos sucios」(「The Dirty Santos」)、2011年「Verano maldito」、2012年「Dromómanos」、2014年「Lulú」、最新作となる「El Ángel」は第7作目になる。若い監督だが親のバックもあり、年齢に比して経験は豊かです。
★2015年のTVミニシリーズ全6話「Historia de un clan」は、パブロ・トラペロがベネチア映画祭2015で監督賞を受賞した『エル・クラン』のテレビ版である。映画の長男アレハンドロ役を演じたピーター・ランサニをTVではチノ・ダリンが演じ、母親エピファニア役を本作カルリートスの母親役セシリア・ロスが演じた。TVミニシリーズも最新作も監督の兄セバスティアン・オルテガが製作している。セシリア・ロスは息子にピアノを習わせ溺愛する母親役、劇中でもピアノのシーンが出てくるが、カルロス本人は嫌いだったようです。本作では音楽が重要な意味をもつとか。
(デビュー作「Caja negra」のポスター)
(TVミニシリーズ「エル・クラン」、左から2人目長男役のチノ・ダリン、
母親役のセシリア・ロス、主人公プッチオ役のアレハンドロ・アワダ)
★カンヌにはチノ・ダリンの父親リカルド・ダリンもアスガー・ファルハディの「Todos lo saben」で現地入りしており、上映日11日には夫妻で息子の晴れ姿を見に馳せつけた。アルゼンチンの日刊紙「クラリン」によると、オルテガ監督が「このような(素晴らしい)プロデューサーたち、俳優たちと映画を撮れるとは夢にも思わなかった」とスペイン語で挨拶、次にマイクを手渡されたスペイン・サイドのプロデューサー、アルモドバルは英語で「今宵はアルゼンチンの人々のためにあり、私が横取りしたくない」と口にしつつ、例のごとく長引きそうになるのを「映画祭総代表のティエリー・フレモー氏がからかったので2分で終わった」と記者は報じていた。アルモドバルは「どうぞ皆さん、お楽しみください」と締めくくった。
(少々緊張して神経質になっていたルイス・オルテガ監督)
(左から、ロレンソ・フェロ、アルモドバル、セシリア・ロス、オルテガ監督)
(左から、ピーター・ランサニ、メルセデス・モラン、監督、L.フェロ、C. ロス、C. ダリン)
★ルイス監督インタビューなど情報が入りはじめています。多分今年のアルゼンチン映画の目玉になりそうです。公開は無理でも映画祭上映、またはDVDはありかなと思っていますので、いずれアップすることに。
*追記:邦題『永遠に僕のもの』で2019年8月16日より劇場公開
「監督週間」にロマのレスビアンの愛を語った映画*カンヌ映画祭2018 ④ ― 2018年05月13日 16:19
アランチャ・エチェバリアのデビュー作「Carmen y Lola」
★「ある視点」は後回しにして、ビルバオ生れの新人アランチャ・エチェバリアのデビュー作「Carmen y Lola」について。女性同士の愛が禁じられているロマ社会で、偏見や差別、家族の無理解と闘って愛を貫徹しようとする十代の娘カルメンとロラの物語。エチェバリア監督談によると、本作は2009年スペインでロマ女性の同性婚第1号となったロサリオとサラのニュースにインスパイアーされて製作したということです。実在の二人はロマの居住が多いグラナダ出身ですが、映画はマドリードの町外れに舞台を移している。スペインでは、2005年同性婚が正式に認められるようになった。「ある視点」でも、ケニアの女性監督ワヌリ・カヒウWanuri Kahiuが首都ナイロビを舞台にして撮った長編デビュー作「Rafiki / Friend」が、レズビアンの愛をテーマにしている。ケニアでは現在でもケニアの法律や文化、またモラルに反するとして、同性愛は御法度で14年間の禁固刑が科せられる。今作はホモセクシュアルなシーンを理由に本国では上映禁止になった。
「Carmen y Lola」2018
製作:TvTec Servicios Audiovisuales
協賛:ICAA、教育文化スポーツ省、マドリード市、Orange Spain Film madrid
監督・脚本:アランチャ・エチェバリア
音楽:ニナ・アランダ
撮影:ピラール・サンチェス・ディアス
編集:レナート・サンフアン
キャスティング:ディエゴ・ベタンコル、クリスティナ・モレノ
衣装デザイン:テレサ・モラ
メイクアップ:ソレ・パディリャ、グロリア・ピナル
製作者:アランチャ・エチェバリア、ピラール・サンチェス・ディアス
データ:スペイン、スペイン語、2018年、90分、撮影地マドリード、サンタンデール(カンタブリア州)、製作費約700,000ユーロ。脚本はSGAE基金(作家編集者協会)が設立したフリオ・アレハンドロ賞の特別メンションを受賞。カンヌ映画祭2018併催の「監督週間」正式出品作品、初監督作品に与えられるカメラ・ドール賞の対象作品に選ばれている。
キャスト:サイラ・ロメロ(ロラ)、ロシー・ロドリゲス(カルメン)、モレノ・ボルハ(ロラの父パコ)、ラファエラ・レオン(ロラの母フロール)、カロリナ・ジュステ(パキ)、他
物語:カルメンは、マドリードの町外れに住んでいるロマの娘である。他の女の子たち同様、結婚して、できるだけ沢山の子供を産み育てるという、なん世代にも亘って繰り返されてきた人生を運命づけられている。美容師になりたいが、父親も恋人も、彼女の仕事には関心がない。17歳になればどうせ結婚するのだから。ロラは16歳、他のロマの娘とは一風変わっていて、大学に行くことが夢である。内気なロラは時々壁や塀に小鳩のグラフィティをして周りを驚かせている。男の子には興味がなく、ネットで女性同士がキスをしているのを見ると慌ててしまう。野菜の露天商を営む父親は娘が地域の合唱団で歌っているのを誇りに思い、字の読めない母親は娘が学校に通っていることを誇りにしている。そんな二人がある日、雨の降り出した市場で偶然運命の出会いをしてしまった。カルメンはロラに抗しがたい魅力を感じ、ロラも不思議な感情を抱く。ロマ社会の偏見や差別、家族の口出しにもかかわらず二人は急速に惹かれあっていく。
(一目で惹かれあうカルメンとロラ)
★プロフェッショナルな俳優は、パキを演じたカロリナ・ジュステ唯一人だそうで、他はオーディションに押し掛けた1000人ほどのアマチュアから、エキストラを含めて約150人を選んだ。大変な作業で6か月もかかり、特にカルメン役の人選に難航した。もう半ば諦めかけたときにロシー・ロドリゲスが現れ、彼女のエントリーナンバーはなんと897番だった。結婚しても6か月後に夫を見捨てるという、ロマ・コミュニティに見られる典型的な「不幸な結婚」の一例を演じる。サイラ・ロメロが扮したロラは16歳、ロマとロマでない両親の娘という設定、父親が営む野菜の露天商を手伝っている。恥ずかしがり屋で目立つのが好きではないが、カルメンと出会うことで心を急速に解放していく。
(カルメン役のロシー・ロドリゲス)
(壁に小鳩のグラフィティをして心を発散させるロラ)
★冒頭で触れたように監督の肩を押したのは、2009年の「ロマ女性の同性婚第1号」というグラナダ・ニュースを聞いたことによる。二人は顔写真なしの仮名を条件に新聞社の取材に応じた。だからロサリオもサラも本名ではない。周囲からも家族からもロマ・コミュニティからも追い出され、闘いはまるでボクシングの試合のようだったという。いわゆる「村八分」以上の扱いを受けたが、二人の決心は揺るがなかった。ロマの女性であることは、家父長制が敷かれたマチスモが常識である社会では、そもそも女性の同性婚など存在すべきではないということです。ロサリオとサラの話は遠い前世紀のことではなく、ついこの間の話なのである。今もってスペインのロマの女性は、用箪笥ではなく金庫室に閉じ込められているから、容易なことではカミングアウトできない。
(本作撮影中の左から、母親、父親、弟、ロラ)
★エチェバリア監督が「カルメンとロラ」で語りたいのは、二人が愛を育むなかで自分たちの視野を広げ、それぞれの視点を世界に向けること、ロマの女性たちの声を世界に届けることのようです。監督にとって重要なことは、現代的な素材を使ってクラシックな表現形式に生気を吹き込むことにある。かつてのパルム・ドール受賞作品、ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』や『ある子供』、またはジャック・オーディアールの『ディーパンの闘い』のように、現実を操らないで語ることを目指して。最も以上の3作は、受賞発表時には会場からブーイングと称賛が同時に起きたのでした。
★アランチャ・エチェバリア Arantxa Echevarria は、1968年ビルバオ生れの監督、脚本家、製作者。マドリードのコンプルテンセ大学で映像科学を学び、同大学でオーディオビジュアル演出を専攻した。その後オーストラリアのシドニー・コミュニティ・カレッジで映画製作を学んだ。1991年から広告宣伝と映画を両立させながら、オーディオビジュアル産業のプロフェッショナルなキャリアを出発させる。
(本作撮影中のアランチャ・エチェバリア監督)
★2010年、短編デビュー作となる「Panchito」は、アマチュアだけを起用して撮ったコメディ。同2010年、国営テレビの要請でDocumentos TVのルポルタージュ「Cuestión de pelotas」、を撮る。これは女性サッカー・クラブReal Federación Española de Fútbolについてのドキュメンタリー。2013年、短編サイコ・スリラー「De noche y de pronto」を監督、翌年ゴヤ賞2014短編映画部門にノミネートされた。2016年、短編「El último bus」が、メディナ・デル・カンポ映画祭の作品賞を受賞した。2017年、ドキュメンタリー「7 from Etheria」は、7人の共同監督作品(製作は米国)。2018年、長編デビュー作「Carmen y Lola」が監督週間にノミネートされた。
(サイコ・スリラー「De noche y de pronto」のポスター)
第71回カンヌ映画祭2018開幕*最新フォト ① ― 2018年05月09日 14:19
ネットフリックスを締めだして開幕したカンヌ映画祭
(審査員全員と両脇は主催者、雛壇の中央黒いドレスが審査委員長のケイト・ブランシェット)
★マーティン・スコセッシを挟んでケイト・ブランシェットとレア・セドゥ、監督が小柄なのか女優たちが大柄なのか?
★今年の審査員は、9名のうち5名が女性と過半数を超えました。左からアメリカ女優クリステン・スチュワート、フランス女優レア・セドゥ、委員長オーストラリアのケイト・ブランシェット、アメリカの監督・脚本家エヴァ・デュヴェルネ、ブルンジの作曲家・歌手のカジャ・ニンの5人。ブルンジは東アフリカ内陸の共和国、内戦が絶えない小国から選ばれたカジャ・ニンは反体制派に属し政治的発言も辞さないアーティスト、カンヌらしい人選だね。
★リカルド・ダリンも赤絨毯を踏みました。アスガー・ファルハディ監督以下、主な出演者のハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、リカルド・ダリン、意外やダリンが赤絨毯を踏むのは初めてです。
★オープニング作品「Todos lo saben」の上映に駆けつけたベニチオ・デル・トロ。彼は「ある視点」の審査委員長でもある。左から同審査員のフランス女優ヴィルジニー・ルドワイヤン、デル・トロ、パレスチナの監督で詩人のアンマリー・ジャシル。
アスガー・ファルハディの「エブリバディ・ノウズ」*カンヌ映画祭2018 ③ ― 2018年05月08日 17:53
イランの監督が撮っても「Everybody Knows」はスペイン映画です
(ジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』を採用した第71回カンヌ映画祭ポスター)
★「批評家週間」にはポルトガル映画だけでスペイン語映画はノミネートなしです。コンペティションのオープニング作品「Everybody Knows」は、イランの監督アスガー・ファルハディがスペインの大物俳優を起用して、言語はスペイン語、スペイン、フランス、イタリアが製作国になって約10,000,000ユーロで製作、スペイン語題は「Todos lo saben」です。アカデミー外国語映画賞2冠の監督がスペイン語で撮るということで、2016年の製作発表時から鳴り物入りで逐一報道され話題を提供してきた。監督はカンヌ映画祭の常連でもあるからノミネーションは確実視されていたが、オープニング作品とは驚きました。ジャン=リュック・ゴダールの「The Image Book」を差し置いて選ばれたわけですから。今年のカンヌ映画祭ポスターは彼の『気狂いピエロ』です。スペイン映画が選ばれるのは、2009年アルモドバルの『バッド・エデュケーション』以来だそうです。
★カンヌ映画祭は英語題が基本ですが、一応スペイン映画なので西語タイトルにします(IMDbを採用)。まだ日本語データが揃っておりませんので、情報源は西語、英語のウイキペディアです。IMDbではペネロペ・クルスが扮するヒロインの名前が、キャスト欄ではラウラ、ストーリーラインではカロリナとチグハグですが、ウイキペディアと予告編を見る限りではラウラなのでこちらを採用します。
(スペイン語タイトル採用のポスター)
「Todos lo saben」(「Everybody Knows」)2018
製作:Memento Films(仏)/ Morena Films(西)/ Lucky Red(伊)/ El Deseo / France 3 Cinéma
監督・脚本:アスガーファルハディ(イラン)
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ(スペイン)
音楽:アルベルト・イグレシアス(スペイン)
編集:ハイデー・サフィヤリ(イラン、『別離』『セールスマン』)
衣装デザイン:ソニア・グランデ(スペイン、『アザーズ』『ミッドナイト・イン・パリ』)
メイクアップ:アナ・ロサノ、マリロ・オスナ
プロダクション・デザイン美術:マリア・クララ・ノタリ
プロダクション・マネージメント:アルバロ・サンチェス・ブストス
製作者:アレバロ・ロンゴリア(スペイン)、アレクサンドル・マレ=ギ(フランス)、アンドレア・オキピンティ(イタリア)、他
データ:製作国スペイン=フランス=イタリア、スペイン語、2018年、スリラードラマ、130分、撮影地マドリード北方トーレラグナ、グアダラハラ、撮影期間2017年8月21日クランクイン、12月まで。カンヌ映画祭2018オープニング作品。
キャスト:ペネロペ・クルス(ラウラ)、ハビエル・バルデム(ラウラの元恋人パコ)、リカルド・ダリン(ラウラの夫アレハンドロ)、バルバラ・レニー(パコの妻ベア)、インマ・クエスタ(ラウラの妹アナ)、エルビラ・ミンゲス(ラウラの姉マリアナ)、エドゥアルド・フェルナンデス(マリアナの夫フェルナンド)、ハイメ・ロレンソ、ロジェール・カザマジョール(アナの花婿ジョアン)、ラモン・バレア(ラウラの父)、サラ・サラモ(マリアナの娘ロシオ)、カルラ・カンプラ(ラウラの娘イレネ)、ホセ・アンヘル・エヒド(フェルナンドの友人、元警官ホルヘ)セルヒオ・カステジャーノス、ネイジャ・ロハス、パコ・パストル・ゴメス(ガブリエル)他
物語:ブエノスアイレスに住んでいるラウラは、妹の結婚式に出席するため家族を連れて、生れ故郷であるマドリード北方の小さな町に帰郷する。ラウラの元恋人であるパコとその妻ベアも出席するという。しかし、ラウラの娘イレネの失踪事件を切っかけに予期せぬ突発事件が起き、巻き込まれた全員の人生を徹底的に変えてしまうことになる。過去の秘密が次第に明らかになっていく。
★本作の舞台となる小さな町は、マドリード北方に位置するトーレラグナという、現在人口5000人に満たない町です。町中央の広場プラサ・マジョールに面して「サンタ・マリア・マグダレナ教会」があり、映画にも出てくる教会はここではないかと思います。他には市民戦争で破壊された建造物が文化遺産としてそのまま残されているようです。こんな小さな町で事件が起きればどうなるか? 秘密は誰も口にしないだけで「エブリバディ・ノウズ」である。作中のセリフ「Todos lo saben」がタイトルになっている。
(再会した元恋人、ラウラとパコ)
★ヒロイン役のペネロペ・クルス、ゴヤ賞2018で主演女優賞にノミネートされて来マドリードしていたとき、本作の撮影中のエピソードを語っていた。「ファルハディ(監督)から、私を主役にした脚本を書いている、という電話を貰ったの・・・アスガーは感性がとても特別な監督で、例えば私がパニックの発作を起こして救急車に乗るシーンがあった。撮影が済んで救急車から下りてくると私を抱きしめて、別のシーンも撮りたいと頼むの。やり直すとそれが気に入った。私のキャリアの中でも非常に難しい登場人物でした」。気に入らないと不機嫌になって怒鳴る監督もいるからね。ハビエル・バルデムとの結婚10周年を迎えたクルス、7歳と4歳の子供の母親、親しい友人たちは「女優として女性として、今が最も充実している」と口を揃える。間もなく開幕するカンヌ初日、最も輝く女性は彼女でしょう。
(44歳になったペネロペ・クルス)
★アスガー・ファルハディフィルモグラフィーは、劇場公開作品では2009年『彼女が消えた浜辺』、2011年『別離』、2013年『ある過去の行方』、2016年『セールスマン』の4作でしょうか。タイトルがネタバレしていて頂けないが、個人的には最初の『彼女が~』には衝撃を受けた。厳しい検閲を掻い潜ってイランでもこんな素晴らしい映画が撮れるのだという驚きでした。アカデミー外国語映画賞を受賞した『別離』や『セールスマン』も悪くないが、『彼女が~』ほどではなかった。家庭のもめごとを軸にして、社会全体の闇を炙り出すテーマが大好きな監督、今度はスペインの何が炙り出されるのでしょうか。
(本作撮影中のアスガー・ファルハディ監督)
★主なキャスト以外では、リカルド・ダリン(『サミット』『瞳の奥の秘密』、)バルバラ・レニー(『マジカル・ガール』『家族のように』)、ラウラの妹役インマ・クエスタ(『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』『ブランカニエベス』)、その結婚相手になるロジェール・カザマジョール(『パンズ・ラビリンス』『ブラック・ブレッド』)、エドゥアルド・フェルナンデス(『スモーク・アンド・ミラーズ』『エル・ニーニョ』)、ハイメ・ロレンテ(Netflix配信TVシリーズ『ペーパー・ハウス』)、エルビラ・ミンゲス(『暴走車 ランナウェイ・カー』『時間切れの愛』)、ブドウ栽培をしているラウラの父役ラモン・バレア(『ブランカニエベス』Netflix配信『となりのテロリスト』)など、演技派のベテラン、新人を取り揃えています。
(ラウラと夫アレハンドロ)
(パコと妻ベア、後ろ向きのバルバラ・レニーで残念)
(ラウラと妹アナ役のインマ・クエスタ)
★フランスのプロデューサーのアレクサンドル・マレ=ギは、『ある過去の行方』と『セールスマン』を手掛けており、俳優としても活躍中のミラノ出身のアンドレア・オキピンティは、『イル・ディーヴォ』、『少年と自転車』、『海を飛ぶ夢』など。アルバロ・ロンゴリアは、フリオ・メデム映画を手掛ている製作者で、クルスが乳がん患者を演じた『あなたのママになるために』(「Ma ma」)、『ローマの部屋』、『セブン・デイズ・イン・ハバナ』、古くはサウラの『イベリア』などをプロデュースしている。撮影監督ホセ・ルイス・アルカイネは、サウラ、今は亡きビガス・ルナ、アルモドバルを撮っているベテラン、音楽のアルベルト・イグレシアスは毎年ゴヤ賞にノミネートされ、ゴヤ胸像のコレクター、やはりお金が掛かっているなぁという印象です。
(左から、バルデム、ファルハディ監督、ダリン、フェルナンデス)
*追記:『誰もがそれを知っている』の邦題で、2019年6月01日から公開
第50回「監督週間」にイベロアメリカから6作品*カンヌ映画祭2018 ② ― 2018年05月04日 17:52
スペインからカンヌの常連ハイメ・ロサーレスの新作がノミネート
★「監督週間」は毎回書いている通り、カンヌ映画祭と同期間に開催されますが(5月9日~5月19日)、別組織フランス監督協会が運営しています。当然審査員も別で、今年の審査委員長はベニチオ・デル・トロです。第50回と節目の年ということ、ディレクターのEdouard Waintrop(エドゥアール・ワイントロップ?)の任期が今回で終わるということなどから盛り上がっているようです。ノミネーションは20作、ブラジル(ポルトガル語)の1本を含めてイベロアメリカ関連は6作です。第1回は1969年、フランスの転換期であった1968年「5月革命」の翌年でした。カンヌ映画祭本体と若手の作家性のある監督に門戸を開くという位置づけで出発しましたが、最近ではホドロフスキーの『エンドレス・ポエトリー』、パブロ・ララインの『ネルーダ』、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『ロープ 戦場の生命線』など、ベテランの顔も交じって変化しています。
★2008年の第40回(22作)には、現在活躍中の監督、スペインからはカタルーニャ語のアルベルト・セラ「El cant dels ocells」(「El canto de los pájaros」)、チリからはまだ若手だったパブロ・ララインの『トニー・マネロ』、アルゼンチンからはリサンドロ・アロンソの「Liverpool」、パブロ・アゲロの「Salamandra」など、将来が有望視された若手監督がノミネートされています。今年の6作は若手、ベテランが入り混じってノミネートされました。
(ワールド・プレミアWP)
○「Pajaros de verano」(「Birds of Passage」)コロンビア=デンマーク=メキシコ、
スペイン語、WP、 オープニング作品、5月9日上映
監督:チロ(シーロ)・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴ
○「Carmen y Lola」スペイン、スペイン語、WP
監督:アランチャ・エチェバリア、第1回作品
○「Petra」スペイン=フランス、スペイン語、カタルーニャ語、WP、5月10日上映
監督:ハイメ・ロサーレス
○「Cómprame un revólver」(「Buy Me a Gun」)メキシコ、スペイン語、WP
監督:フリオ・エルナンデス・コルドン
○「Los silencios」ブラジル=仏=コロンビア、ポルトガル語、スペイン語、WP、5月11日上映
監督:ベアトリス・セニエ 長編第2作
○「El motoarrebatador」(「The Snatch Thief」)アルゼンチン=ウルグアイ、スペイン語、WP
監督:アグスティン・トスカノ
★以上の6作です。
第71回カンヌ映画祭2018*ノミネーション発表 ① ― 2018年05月04日 11:29
コンペ部門のオープニング作品はアスガー・ファルハディの「Todos lo saben」
★今年のカンヌ映画祭開催は、例年より早まって5月8日にオープンします(~19日)。コンペティション部門(21作ノミネート)にはスペイン語映画ですが、イランの監督アスガー・ファルハディのサイコ・スリラー「Todos lo saben」(「Everybody Knows」)1作だけ、ただし噂通りオープニング作品に選ばれました。テーマとして家族のもめごとが大好きな監督は、今作でもクルス=バルデムのカップル以下、クルスと夫婦役を演じるリカルド・ダリンなど、出演者たちを大いに振り回すようです。カンヌでは例外を除いてタイトルは英語題ですが、当ブログではスペイン語題を採用し、英題も併記いたします。
(「Todos lo saben」の英題ポスター)
(左から、バルデム、エドゥアルド・フェルナンデス、ダリン、クルス、映画から)
★「ある視点」部門(18作)には、アルゼンチン=スペイン合作のルイス・オルテガの「El Angel」(「The Angel」)と、仏=チリ=アルゼンチン合作のアレハンドロ・ファデルの「Muere, Monstruo, Muere」(「Die, Monster, Die」)の2作がノミネーションされました。両人ともアルゼンチンの80年代生まれの若手監督です。つまり軍事独裁制時代末期に産声を上げた新しい世代です。
★ルイス・オルテガは、1980年ブエノスアイレス生れ、パブロ・トラペロ映画(『檻の中』『カランチョ/ハゲ鷹と女医』)の脚本家としての実績がある。2002年「Caja negra」(「Blackbox」)で長編デビューしており、若手というより中堅か。新作は1971年から72年にかけて11人を殺害した美貌の青年カルロス・ロブレド・プッチの実人生が語られる。
★アレハンドロ・ファデルは、1981年メンドサのトゥヌヤン生れ、2012年の長編デビュー作「Los salvados」は、カンヌ映画祭と併催の「批評家週間」で作品賞を受賞しています。国際映画祭にエントリーされ、「ラテンビート2012」でも『獣たち』の邦題で上映されましたが、観客を魅了するまでには至りませんでした。第2作「Muere, Monstruo, Muere」はどうでしょうか。
(「Muere, Monstruo, Muere」のフランス語版)
★以上3作がカンヌ映画祭本体のノミネーションです。他に同期間に併催される「監督週間」と「批評家週間」があり、前者は第50回を迎えることもあって、作品数20本、うちイベロアメリカ関係が6作含まれています。コンペティション部門が期待されていたコロンビアのチロ(シーロ)・ゲーラの「Pájaros de verano」(「Birds of Passage」)がオープニング上映となりました。共同監督クリスティナ・ガジェゴは、前作『彷徨える河』のプロデューサー、監督夫人で本作が監督デビュー作です。これはアップしたい作品の一つです。残る「批評家週間」には見当たりませんでした。
(主役に抜擢されたナタリア・レイェス)
★賞に絡みそうな話題作を選んでご紹介したい。
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