フランシスコ・ロンバルディの最新作*マラガ映画祭2026 ⑩ ― 2026年05月07日 15:54
レトロスペクティブ賞を受賞したフランシスコ・ロンバルディの最新作

★フランシスコ・J・ロンバルディの最新作「El corazón del lobo」は、賞に絡むことはできませんでしたが、久方ぶりのロンバルディ映画、今回のマラガ特別賞の一つレトロスペクティブ賞受賞者の最新作ということでアップいたします。ペルーの1990年代、テロ組織センデロ・ルミノソに拉致され戦士に教育された少年の10年以上にわたる旅路が、実話に基づいて語られます。同じセンデロ・ルミノソをテーマにした「La boca del lobo」(88、『ライオンの棲みか』)はノミネートされませんでしたが、第61回アカデミー賞ペルー代表作品に選ばれています。ノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサの小説『都会と犬達』の映画化から40年が経ちましたが、監督の映画への情熱は衰えていないようです。簡単なキャリア&フィルモグラフィー紹介、レトロスペクティブ賞授賞式については、以下にアップしています。
*レトロスペクティブ賞授賞式の記事は、コチラ⇒2026年03月19日

(レトロスペクティブ賞のトロフィを手に、マラガFF2026,3月12日)
「El corazón del lobo / Heart of the Wolf」
製作:La Soga Producciones / Tinta Roja Producciones
監督:フランシスコ・J・ロンバルディ
脚本;フランシスコ・J・ロンバルディ、アウグスト・カバダ
原作カルロス・エンリケ・フレイレのノンフィクション “El miedo del lobo”
撮影:テオ・デルガド
音楽:カリン・ジエリンスキ
編集:エリック・ウィリアムズ
美術:テレサ・ウルタド・エスコバル、
プロダクションマネージメント:アナ・トレス・ヒガンテ
衣装デザイン:ジョシー・セラダ・アコスタ
録音:ダビ・ロメロ、ラウル・アステテ
製作者:グスタボ・サンチェス、(アシスタント)ミゲル・テヘリナ・アルバ、パウル・マテオス・ベルデホ
データ:製作国ペルー、2025年、スペイン語・アラワク語族のアシャニンカAshaninca語、ドラマ、99分、撮影地:ペルー北部サンマルティン県タラポト、カハマルカ県パリアマルカ、カンタ県、2024年10月から11月。公開ペルー10月2日
映画祭・受賞歴:第29回リマ映画祭2025(8月9日)、第40回マル・デル・プラタ映画祭2025ラテンアメリカ映画部門ノミネート(11月)、マラガ映画祭2026セクション・オフィシアル(3月12日)
キャスト:ビクトル・アクリオ・シチャ(アキレス)、ハレド・ビセンテ・サンチェス(少年時代のアキレス)、シルバナ・ディアス・ゴイコチェア(同志ルシア)、パウル・ラミレス・ベルガラ(ロヘリオ)、マルティン・マルティネス・ゴンサレス(ロケ)、ホセ・フェルナンデス・ギサド(フアン・ガルシア神父)、アルベリック・ガルシア・セルナ(アルバレス)、マルティン・ベラスケス・アトーチェ(同志ホセ)、アニバル・ロサノ・エレーラ(同志ウィリアム)、他
ストーリー:ペルー、1990年。テロ組織センデロ・ルミノソに拉致されたアマゾンの先住民の少年アキレスのアイデンティティと自由への闘いの物語。私たちは彼の証言を通じて、犠牲者から戦士へと教育された、10年以上にわたる逃亡の旅路を目撃することになる。洗脳、暴力、生存を生々しくも親密な視点で描いた本作は、実話に着想を得て製作されました。


(アキレスとルシア役のシルバナ・ディアス・ゴイコチェア、フレームから)
ペルー内戦の激化を活写――新作の撮影には陸軍の装備を採用した
★日本人が「一度は行ってみたい観光地」ナンバーワンのマチュ・ピチュは知っているが、センデロ・ルミノソについてはどうでしょうか。一言で説明するの難しいが、簡単におさらいしてみます。〈輝ける道*〉センデロ・ルミノソは、1970年、毛沢東思想を標榜する最高指導者アビマエル・グスマンによって結成されたペルーの極左ゲリラ組織の通称で、正式名称は「ペルー共産党」です。1980年ごろから武装闘争を開始して政府軍と対立してきました。コカインを収入源として組織を拡大、1980年代半ばからは農村部、山間部は荒廃し、国内難民が都市部になだれ込んだと言われます。舞台となる1990年はフジモリ政権時代で、国際協力事業団 JICAの技術者3名が殺害されるなどして日本でも大きく報道されました。1992年アビマエル・グスマンを含む最高幹部が次々に逮捕され弱体化、2018年内部分裂を起こして活動停止になり、現在に至っています。因みにグスマンは獄中で2021年9月に死去。
**ペルーの20世紀を代表する政治思想家ホセ・カルロス・マリアテギ(1894~1930)の理論書『マリアテギの輝ける道』から命名された。先住民の擁護と文化的社会的復権を求めたラテンアメリカ最初の「マルクス主義者」と言われた。
★監督が着想を得て映画化したというノンフィクション・ノベル “El miedo del lobo / The Fear of the Wolf”(アルファグアラ社、2022)の著者は、カルロス・エンリケ・フレイレ、作家は1974年リマ生れの陸軍中佐ということです。映画では主人公アキレスの証言を通して、12年間に及ぶ彼の生存と抵抗の物語が語られます。洗脳された振りをして脱出のチャンスを狙っていたということです。予告編でもそのシーンが視聴できます。

(カルロス・エンリケ・フレイレと2023年発売のペーパーバックの表紙)
★監督紹介:フランシスコ・J・ロンバルディFrancisco José Lombardiは、1949年、ペルー南部、チリとの国境近くに位置するタクナ県の県都タクナ生れ、監督、脚本家、製作者。アルゼンチンのサンタフェ映画学校で学ぶ。ペルーにとどまらずラテンアメリカで高く評価されている監督の一人、長編20作はカンヌ、ベルリン、サンセバスチャン、トロント各映画祭で上映され、中で4作が字幕入りで鑑賞できました。

★代表作は、ロカルノ映画祭1977エキュメニカル審査員賞スペシャル・メンション受賞のデビュー作「Muerte al amanecer」、ノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス=リョサの自伝的小説 ”La ciudad y los perros” を映画化した『都会と犬達』(翻訳書は『都会と犬ども』)は、カンヌFF併催の「監督週間」にノミネートされ、マンハイム‐ハイデルベルクFF1985、サンセバスチャン映画祭SSIFFでは優れたLGBT映画・ドキュメンタリーに与えられるセバスティアン賞を受賞した。同作家の “Pantaleón y las visitadoras”の邦題は、苦し紛れに『囚われの女たち』(翻訳書は『パンタレオン大尉と女たち』)となったが、〈visitadoras〉訪問者たちが、ただの〈女たち〉ではないのでした。第72回アカデミー賞ペルー代表作品に選ばれたコメディ、「Sin compasión」はドストエフスキーの『罪と罰』をベースに映画化、2作ともゴヤ賞のスペイン語外国映画賞にノミネートされ、スペインでも知名度を上げた。80年代後半から90年代にかけてペルー映画と言えばロンバルディ映画の印象でした。

(『都会と犬達』撮影中のマリオ・バルガス=リョサとロンバルディ監督)
★個人情報として、女優のタティアナ・アステンゴと結婚、ロンバルディの「Pantaleón y las visitadoras」、「Tinta roja」、「Ojos que no ven」、当ブログで作品紹介している、サルバドール・デル・ソラルの政治スリラー「Magallanes」(15)、ハビエル・フエンテス=レオンのブラック・コメディ「Las mejores familias」(20)に主演している。現在は解消しているようで、監督は約10年前からジャーナリストのカルラ・メンドサとパートナー関係です。俳優のディエゴ・ロンバルディは長男、「Dos besos: Troika」に出演、監督、脚本家、製作者のジョバンナ・ロンバルディは長女、「Ella」の脚本を共同執筆している。2023年にオスカー賞のアカデミー会員に選ばれました。

(アカデミー会員に選ばれたフランシスコ・ロンバルディ)
★主なフィルモグラフィ(長編映画)
1977「Muerte al amanecer」デビュー作、ロカルノFFエキュメニカル審査員特別賞受賞
1978「Cuentos inmorales」4人の監督によるオムニバス映画
1981「Muerte de un magnate」犯罪スリラー
1983「Maruja en el infierno」ボゴタFF監督賞受賞、第56回アカデミー賞ペルー代表作品
1985「La ciudad y los perros」『都会と犬達』未公開TV放映、
カンヌFF併催「監督週間」ノミネート、SSIFFセバスティアン賞受賞、
マンハイム-ハイデルブルクFFインターフィルム特別賞受賞
1988「La boca del lobo / In the Mouth of the Wolf」『ライオンの棲みか』
未公開TV放映、SSIFFセバスティアン賞受賞、アカデミー賞ペルー代表作品
1990「Caídos del cielo」『豚と天国』スイス合作のブラックコメディ、
モントリオールFFグランプリ・デ・アメリカ受賞、
シカゴFFゴールド・ヒューゴ賞ノミネート
1994「Sin compasión」メキシコ=フランス合作、カンヌFF「ある視点」ノミネート、
ゴヤ賞1995スペイン語外国映画賞、グラマドFF1995ゴールデン・キキト賞ノミネート
1996「Bajo la piel」西独合作の犯罪ドラマ、SSIFF銀貝監督賞受賞、
ハバナFF脚本賞・作品賞第2席受賞、グラマドFF1997ラテン部門キキト批評家賞受賞
1999「Pantaleón y las visitadoras」『囚われの女たち』スペイン合作のコメディ、
未公開DVD、カルタヘナFF2000作品賞ノミネート、ビーニャ・デル・マルFF観客賞受賞、
ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞ノミネート、
グラマドFF2000作品賞・監督賞・キキト批評家賞・観客賞受賞
2000「Tinta roja」西合作、カルタヘナFF2001 OCIC賞受賞、ハバナFF監督賞・望楼賞受賞
SSIFF正式出品、リマ・ラテンアメリカFFエルシネ2席受賞
2003「Ojos que no ven」ビアリッツFFラテンアメリカ・シネマ部門ゴールデン・サン受賞、
SSIFF正式出品、バルディビアFF作品賞受賞
2006「Mariposa negra」西合作、モントリオールFFグラウベル・ローシャ(ホーシャ)賞受賞、
マラガFF2007正式出品、ゴヤ賞2008スペイン語外国映画賞ノミネート
2009「Ella」メキシコ合作、ジョバンナ・ロンバルディが脚本を共同執筆
2015「Dos besos: Troika」ロマンチックドラマ
2025「El corazón del lobo」割愛
2001年マイアミ映画祭ゴールデンリール賞受賞
2014年文化国民賞受賞
2019年ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭ウエルバ市賞受賞
2026年マラガ映画祭レトロスペクティブ賞受賞
★キャスト紹介:主人公アキレスには少年時代をハレド・ビセンテ・サンチェス、青年時代をケチュア出身のビクトル・アクリオ・シチャが演じています。ビクトル・アクリオはセサル・ガリンドのケチュア語映画『今日からぼくが村の映画館』(22)で主人公の少年シストゥを演じています。撮影当初12歳ということでしたが、本作ではすっかり大人になってしまいました。偶然ですが今春ロードショーが始まって全国展開中です。

(少年アキレスのハレド・ビセンテ・サンチェス)

(青年アキレスのビクトル・アクリオ・シチャ)
★スタッフ紹介:脚本を共同執筆したアウグスト・カバダ(1961)は、作家、脚本家。ロンバルディ映画には本作以外、『ライオンの棲みか』に始まって、『豚と天国』、「Huellas del paraiso」(91)、「Sin compasión」、「Bajo la piel」、「Dos besos: Troika」などを単独、または共同で執筆していますから長い付き合いです。現在上映中のセサル・ガリンドの『今日からぼくが村の映画館』も手掛けています。人気TVシリーズのヘッドライターを務めるベテランです。本作は監督から「これ読んどいて」と、カルロス・エンリケ・フレイレの “El miedo del lobo” を渡されて始まったとインタビューで語っています。
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