マティアス・ピニェイロの「Isabella」*ベルリン映画祭20202020年03月11日 21:00

    マティアス・ピニェイロのIsabella」はシェイクスピア・シリーズの第5作目

   

      

マティアス・ピニェイロIsabellaは、今年新設された「エンカウンター部門」で上映された作品の一つ、スペシャル・メンションを受賞した。前回紹介したカミロ・レストレポ監督とマティアス・ピニェイロの二人は、ノミネーション段階からラテンアメリカの有望な監督として紹介されており、受賞は意外でなかったかもしれない。特にピニェイロ監督は、アテネ・フランセとアップリンク渋谷が共催したミニ映画祭が20149月と20176月に開催されており、監督来日もあった。「イザベラ」は彼のシェイクスピア・シリーズの第5作目に当たります。四大悲劇の一つ『オセロー』と同じ1604年に発表された『尺には尺を』(「Measure for Measure」)がベースになっている。監督は現在ニューヨーク在住のため、撮影は飛び飛び、20181月にクランクインしたものの最終は20198月だったそうです。

「マティアス・ピニェイロ映画祭2017」の記事は、コチラ20200302

 

     

    (製作者メラニー・シャピロとマティアス・ピニェイロ、ベルリン2020226日)

 

マティアス・ピニェイロ1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、アルゼンチン・ニューシネマの一人。国立映画大学で学び、後に同校で映画史、映画製作について教鞭をとる。2011年ハーバード大学のラドクリフ奨学金を得て渡米、現在は新たにニューヨーク大学の奨学金を受けてニューヨークに軸足をおいている。従ってコペンハーゲン・ドキュメンタリー・ラボでのスペインのロイス・パティーニョとの共同プロジェクトは断念している。

 

        

           (マティアス・ピニェイロ、226日)

 

2003年短編デビュー、数年助監督を務めたあと、2007年のEl hombre robadoで長編デビュー、チョンジュ映画祭でグランプリを受賞、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 BAFICI ではスペシャル・メンションを受賞した。本作は2014年のミニ映画祭で『盗まれた男』の邦題で上映された。主なフィルモグラフィーは以下の通り。

   

     

                (デビュー作のポスター)

 

  フィルモグラフィー&主な受賞歴(邦題は映画祭2017を使用)

2007El hombre robado」チョンジュ映画祭グランプリ受賞、ラス・パルマスFF1回作品賞

2009『みんな嘘つき』BAFICIスペシャル・メンション

2010『ロサリンダ』中編43分、シェイクスピア・シリーズ第1作、『お気に召すまま』

2012『ビオラ』シェイクスピア・シリーズ第2作、『十二夜』

   BAFICI の国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、バルディビアFF特別審査員賞

2014『フランスの王女』シェイクスピア・シリーズ第3作、『恋の骨折り損』

   BAFICIアルゼンチン映画賞、カトリックメディア賞SIGNISなど受賞

2016『エルミア&エレナ』シェイクスピア・シリーズ第4作、『夏の夜の夢』

2020Isabella」シェイクスピア・シリーズ第5作、『尺には尺を』

   ベルリン映画祭2020エンカウンター部門スペシャル・メンション

(以上、他にロカルノやトロント映画祭などのノミネーションは割愛)

 

 

Isabella2020

製作:Trapecio Cine

監督・脚本:マティアス・ピニェイロ

撮影:フェルナンド・ロケット

編集:セバスティアン・Schjaer

音楽:ガブリエラ・サイドン、サンティ・グランドネ(ン)Grandone

録音:メルセデス・テンニナTennina

プロダクション・デザイン&衣装デザイン:アナ・カンブレ

製作者:メラニー・シャピロ

 

データ:製作国アルゼンチン、フランス、スペイン語、2020年、ドラマ、80分、撮影地ブエノスアイレス、コルドバ、クランクインは20181月、20198月にクランクアップ。

映画祭・受賞歴:第70回ベルリン映画祭2020エンカウンター部門(226日)スペシャル・メンションを受賞。

キャスト:マリア・ビジャール(マリエル)、アグスティナ・ムニョス(ルシアナ)、パブロ・シガル(ミゲル)、ガブリエラ・サイドン(ソル)他

 

ストーリー:ブエノスアイレス生れの女優マリエルは、シェイクスピアのコメディ劇『尺には尺を』のヒロイン、イザベラ役の獲得に挑戦している。マリエルはオーディションで何度も、避けられない運命のように、ルシアナを見かけます。ルシアナは影のように振舞うが、同時に彼女を照らし魅了する。シェイクスピア喜劇における女性の役割について、現代の欲望の定義の難しさについて、ピニェイロ映画常連のマリア・ビジャールとアグスティナ・ムニョスが火花を散らす。 

                                    (文責:管理人)

   

    

       (マリア・ビジャールとアグスティ・ムニョス、映画から)

 

★新作「Isabella」の情報は少なく、シェイクスピア劇『尺には尺を』の知識が若干あったほうが楽しめそうです。マリエル役のマリア・ビジャール1980)は、ピニェイロ映画には長編デビュー作以来、シェイクスピア・シリーズ全5作は勿論のこと、ほぼ全作に出演している。国立芸術大学演技科卒、同窓にマリア・オネットやリカルド・バルティスがいる。カルメン・バリエロがコーディネートする音楽グループのメンバー、他監督作品ではアレホ・モギジャンスキーの話題作「La vendedora de fosforos」やハビエル・パジェイロの「Respirar」に出演しているほか、舞台女優としても活躍している。同じくピニェイロ映画出演の多いロミナ・パウラとは親しく、最近彼女は監督デビューも果たした。

ロミナ・パウラの紹介記事は、コチラ20190910

 

(マリア・ビジャール)

    

★もう一人の主演者、ルシアナ役のアグスティナ・ムニョスは、女優、舞台演出家、劇作家と才色兼備。女優としては、2005年イネス・デ・オリベイラ・セサルのCómo pasan las horasで映画デビュー、「Extranjera」ほか同監督の作品に出演、マティアス・ピニェイロとのコラボはシェイクスピア・シーリーズ第1作からすべてに出演している。第2作目『ビオラ』ではマリア・ビジャールやロミナ・パウラとBAFICIの最優秀女優賞を一緒に受賞している。他監督作品では、サンティアゴ・パラベシノのAlgunas chicasが第70回ベネチア映画祭で上映され、監督と共演者たちと現地入りした。

 

    

          (アグスティナ・ムニョス『フランスの王女』から)

  

    

(左から、共演者アゴスティナ・ロペス、パラベシノ監督、ムニョス、ベネチアFFフォトコール)

 

★他にペパ・サン・マルティンのRaraに主演、本作は第66回ベルリン映画祭2016のゼネレーションKplus部門にエントリーされ審査員賞、ハバナFF特別審査員賞、バルデビアFF観客賞、サンセバスチャンFFホライズンズ・ラティノ部門グランプリを受賞した。ストーリーは2人の娘がいる女性とパートナーの4人家族、普通に見えながらフツーでないのはパートナーも女性であるから。主役が子供たち、特に長女の視点で語られる。

  

     

 (サンセバスチャンFF「ホライズンズ・ラティノ」グランプリ受賞作「Rara」から)

    

★ピニェイロ監督によると、第5作目に『尺には尺を』を選んだのは「女性を主役にして映画を撮る場合、シェイクスピアの喜劇はテーマが豊富だからだが、原作はコメディの要素が少なく問題劇の要素を持っているので、トーンを変えるのに適切だった」と語っている。さらに「一般的に悲劇は男性の権力を取り扱っているが、コメディは女性たちの英知が物を言うからです」とも語っている。イザベラは修道院で修練者として暮らしている。ところが兄が婚前交渉で恋人を妊娠させてしまい裁判官から死刑の宣告を受けてしまう。正義、慈悲、真実、プライドと屈辱が語られる。罠がかけられて、結局兄は助かるが大団円とは違うようです。

 

     

       (自作を紹介するマティアス・ピニェイロ監督、226日)

 

2013年、シェイクスピア・シリーズの第2作目『ビオラ』でベルリン映画祭のフォーラム部門に参加している。「今回はカルロ・チャトリアンやマーク・ペランソンの手に委ねられたエンカウンター部門にノミネートされた。とても興味をそそられる部門で興奮している。受賞というのは少し審査員の独断もはいるから、3人とか5人とかの人が決める一種の福引のようなものです」と受賞前に語っていましたが、運よく当たりました。またアルゼンチンでは独立系の映画が映画館に届くことは難しく、1週間とか10日間とか日数を限ってラテンアメリカ・アート美術館や国立映画協会の映写室で限定上映をしてもらっているということでした。

 

          

       

                 (元ロカルノ映画祭ディレクターのカルロ・チャトリアンと監督、226日)

   

     

(プログラミング主任のマーク・ペランソンと監督)

  

  

  (スペシャル・メンションの受賞スピーチをするメラニー・シャピロ、229日ガラ)

 

第1回作品賞はコロンビアのカミロ・レストレポ*ベルリン映画祭20202020年03月05日 17:09

             カミロ・レストレポの長編デビュー作「Los conductos

  

             

                         (ピンキー役のルイス・フェリペ・ロサ)

   

★新設された「エンカウンター部門」(15作品)は、話題作が多かったことで観客にも評判がよかった。今年の1回作品賞は同部門にエントリーされていたカミロ・レストレポLos conductos(コロンビア、ブラジル、フランス)が受賞した。全セクションから選ばれるから結構大きな賞になります。レストレポはコロンビア北西部アンティオキア県都メデジン出身の監督、脚本家、編集者、メデジンは首都ボゴタに次ぐ大都市だが、かつては麻薬密売の中心地として有名だった。キャリア紹介は後述するが、短編数本撮った後、主演に新人2人を起用した長編第1作で、第1回作品賞を受賞した。

 

   

 (トロフィーを手にしたカミロ・レストレポ監督、ベルリン映画祭2020229日ガラにて)

 

 Los conductos2020

製作:5 a 7 Films / If You Hold a Stone / Mutokino

監督・脚本・編集:カミロ・レストレポ

音楽:アーサー・B・ジレットArthur B. Gillette

撮影:Guillaume Mazloum

録音:Mathieu Farnarier、ホセフィナ・ロドリゲス

製作者:エレナ・オリーブ、フェリペ・ゲレーロ、マルティン・ベルティエ、(以下共同製作者)グスタボ・ベック、アンドレ・ミエルニク

  

  

  (左から、アンドレ・ミエルニク、エレナ・オリーブ、レストレポ監督、グスタボ・ベック、

  ベルリナーレ2020フォトコール)

 

データ:製作国コロンビア、ブラジル、フランス、スペイン語、2020年、ドラマ、70分、

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2020エンカウンター部門正式出品、第1回作品賞受賞、以後、リトアニアのスプリング映画祭(319日上映)、米国ニュー・ディレクター/ニュー・フィルム(328日)がアナウンスされている。

 

キャスト:フェルナンド・ウサガ・イギタ(デスキーテ)、ルイス・フェリペ・ロサの(ピンキー)

 

ストーリー:逃亡中のピンキーの物語。夜になると街路は黙示録のにおいが充満して来るのは、町が火に包まれているからだろうか。麻薬は地下水と空気を通して渦を巻いている。ある<パードレ>に導かれたセクトの手から解放され、自分の運命を自らの手に委ねる決心をする。彼は今、塗料やスローガン、プレス機が散乱する不法なシャツ工場の中に隠れています。ピンキーには、トンネルの先の明かりが見えていますが、ゴーストに追い詰められています。彼は自分の人生のために走っています。コロンビアは火に包まれていますが、生きています。ネオ・ドキュメンタリー作品。                                

 

 

      本当に和平は調印できたのか――コロンビア内戦の傷痕と希望が語られる

 

カミロ・レストレポは、1975年メデジン生れの監督、脚本家、編集者。1999年以来パリに軸足をおいている。映画研究所L'Abominable のメンバー。2011Tropic Poketで短編デビュー、2015年のLa impresión de una guerra26分「Impression of a War」)が第68回ロカルノ映画祭短編部門の銀豹賞を受賞、続く2016Cilaos13分、仏)も同賞を受賞した。La bouche19分「The Mouth」)がカンヌ映画祭2017「監督週間」のイリー短編映画賞部門にノミネートされ、その後ヒホン映画祭2017ではアストゥリアス賞を受賞した。長編同様、短編も内容が重く、特に最後の短編は娘婿に娘を殺害された父親のリベンジが語られている。

   

  

                 (銀豹受賞の「La impresión de una guerra」のポスター)

    

      

   (銀豹受賞の「Cilaos」のポスター)

    

   

  (第69回ロカルノ映画祭2016の銀豹のトロフィーを手にしたカミロ・レストレポ)

 

★ストーリーからも想像できるように物語はヘビー、コロンビア内戦が国民に残した傷痕は、何代にもわたって癒えることがないでしょう。製作者の一人、フェリペ・ゲレーロはデビュー作Osculo animal16)の監督、脚本家、編集者、レストレポと同世代の1975年生れ。今回は製作にまわったが、本作も数々の受賞歴をもつ作品、テーマはコロンビアにはびこる暴力ラ・ビオレンシアを取り扱っている。もう一人の製作者、マルティン・ベルティエは、五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェルの『泳ぎすぎた夜』17、無声、日仏合作)の製作者の一人、第74回ベネチア映画祭に出品され、翌年劇場公開されている。撮影監督の Guillaume Mazloum は、「Cilaos」も手掛けている。

Osculo animal」の紹介記事は、コチラ20160319

 

★キャスト陣については、今のところ情報を入手できていませんが、IMDbでは主演者2人とも本作がデビュー作のようです。フェルナンド・ウサガ・イギタが演じる「デスキーテ」は仕返しあるいは報復という意味です。

 

    

    

                       (長編「Los conductos」から)

 

金熊賞はイランのモハマド・ラスロフ*ベルリン映画祭20202020年03月02日 17:40

     コロンビアのカミロ・レストレポの「Los conductos」が第1回作品賞を受賞

 

       

    (金熊賞のトロフィーを手にしたバラン・ラスロフとプロデューサー)

 

★第70回ベルリナーレがあっという間に閉幕してしまいました。金熊賞は下馬評通りイラン映画There is No Evilモハマド・ラスロフ監督の手に渡りました。とはいえ例のごとく監督は政府により拘留中で出国できず、2人のプロデューサーと監督の娘で女優のバラン・ラスロフが登壇して受け取りました。第2席に当たる特別審査員賞(銀熊賞)には、エリザ・ヒットマンNever Rarely Sometimes Alwaysが受賞、「これがベルリナーレかな」と感じたことでした。

 

   

                      (特別審査員賞のエリザ・ヒットマン)

 

★コンペティション部門のスペイン語映画は、ナタリア・メタの第2El prófugo(アルゼンチン=メキシコ)1作のみでしたが無冠でした。パノラマ部門、フォーラム部門を見回しても、大きな賞に絡む作品はなく、全セクションを通じて選ばれるオペラ・プリマの1回作品賞に、コロンビアの監督カミロ・レストレポLos conductos(コロンビア=ブラジル=仏)が受賞、副賞の5万ユーロをゲットしました。批評家のあいだでは注目されていた作品でした。

 

   

                           (カミロ・レストレポ監督)

 

★映画の新たな可能性を模索するのが目的で新設されたエンカウンター部門(今年は15作品)で上映されたアルゼンチンのマティアス・ピニェイロIsabellaがスペシャル・メンションを受けました。作家性の強いアート作品を撮る監督で、日本でもコアなファンが多い。2017年にはアップリンク渋谷とアテネ・フランセ文化センター共催の「マティアス・ピニェイロ映画祭」が開催され、監督も来日してファンのQ&Aに応じている。当時最新作であった『エルミア&エレナ』16)を含めて5作が字幕付きで上映されるというミニ映画祭でした。「イザベラ」は彼のシェイクスピア劇シリーズの第5作目に当たり、喜劇「Measure for Measure」がベースになっている。邦訳としては野上弥生子の『尺には尺を』が有名だが、木下順二訳の『策には策を』もある。かつては喜劇に分類されていたが、現在では問題劇なのではないかと言われている。筋が込み入って必ずしもハッピーエンドではない。本作はもう少し情報が欲しいところですが、いずれ監督インタビューなどをご紹介したい。相変わらずフェルナンド・ロケットの映像が素晴らしい。主演は常連のマリア・ビジャールアグスティナ・ムニョス

 

                  

                    (左マリア・ビジャール、アグスティナ・ムニョス)

  

   

 (右から2人目がマティアス・ピニェイロ監督、ビエンナーレ2020フォトコール)

 

 

    ピラール・パロメロのデビュー作「Las niñas――90年代のスペインを覆う社会的な陰

 

フォーラム部門の「Tagesspiegel Readers審査員賞」を受賞したのがウルグアイはモンテビデオ生れのアレックス・ピペルノ監督デビュー作Chico ventana también quisiera tener un submarino(「Window Boy Would Also Like to Have a Submarine」ウルグアイ=アルゼンチン=ブラジル=オランダ=フィリピン合作)という長たらしいタイトルの映画、ジャンルはコメディ、ファンタジー、ロマンスです。船員の主人公が船室のドアを開けるとフィリピンの村に入り込むというわけで、スペイン語以外にフィリピン語も話される。これは心惹かれる作品、アップしたい。

   

   

            

                    (船室のドアの向こうは・・・映画から)

 

 

★同じフォーラム上映だが賞には絡めなかった、スペインの若い監督3人の作品。まずガリシア出身のロイス・パティニョのLúa vermella、ビルバオ出身のハビエル・フェルナンデス・バスケスのAnunciaron tormenta、最後がセウタ出身のイレネ・グティエレスEntre perro y lobo3作。

   

   

              (Lúa vermella」から

 

  

Anunciaron tormenta」から

 

    

                      (Entre perro y lobo」から

 

★その他「ゼネレーションKplusピラール・パロメロLas niñasが上映された。1992年のサラゴサが舞台、宗教学校に通う父親を知らない11歳の少女セリアが主人公、シングルマザーとしてセリアを育てている母親にナタリア・デ・モリーナ、セリア役のアンドレア・ファンドスの演技が評判になっている。カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』(17)を製作した、バレリー・デルピエールが手掛けている。

 

     

      (母親役のナタリア・デ・モリーナとセリア役のアンドレア・ファンドス)

 

★ヒラリー・クリントンの半生を描くドキュメンタリーが特別上映され、ヒラリー自身も現地入りして、混迷を深める民主党大統領候補選びに言及するなど、ヒラリー人気は依然として高い。ドキュメンタリーのプロモーションのみならず、民主党の宣伝にも尽力していました。評判がイマイチだったサリー・ポッターThe Roads Not Takenに主演しているハビエル・バルデムもニューヨークから現地入り、プレス会見では現在撮影中のTVシリーズ、メキシコ征服のエルナン・コルテス役についても語ったようです。

  

   

                 (ヒラリー・クリントン)

  

  

                       (お疲れ気味のハビエル・バルデム)

 

     

      (ハビエル・バルデムとその娘を演じるエル・ファニング、映画から)

  

ナタリア・メタの第2作「The Intruder」*ベルリン映画祭20202020年02月27日 08:48

             ベルリン映画祭2020開幕、アルゼンチンからサイコ・スリラー

 

     

29日から始まっていたベネチアのカーニバルが途中で中止になりましたが、220日、ベルリン映画祭2020は開幕しました(~31日)。ドイツも新型コロナウイルスが無縁というわけではありませんが予定通り開幕しました。ドイツは19日、フランクフルト近郊のハーナウで起きた連続銃乱射事件で8名の犠牲者がでたりと、何やら雲行きがあやしい幕開けでした。天候もあいにくの雨続きのようですが既に折り返し点にきました。

   

     

        (左から、セシリア・ロス、ナタリア・メタ、エリカ・リバス) 

   

    

       (出演者とメタ監督、ベルリン映画祭2020、フォトコールにて)

 

★コンペティション部門18作のうち、スペイン語映画はアルゼンチン=メキシコ合作のEl prófugo(映画祭タイトルは英題The Intruder1作のみです。監督は『ブエノスアイレスの殺人』(ラテンビート2014)のナタリア・メタの第2作目です。ある外傷性の出来事によって現実に起きたことと想像上で起きたことの境界が混乱している女性の物語、悪夢や現実の概念の喪失がテーマのようですが、審査委員長ジェレミー・アイアンズ以下審査員の心を掴むことができるでしょうか、ちょっと難しそうですね。

『ブエノスアイレスの殺人』の作品&監督紹介は、コチラ201409291101

 

     

              (ナタリア・メタ、プレス会見にて)

 

 

 El prófugo(英題The Intruder2020

製作:Rei Cine / Barraca Producciones / Infinity Hill / Picnic Produccionas / Piano / Telefe

監督・脚本:ナタリア・メタ

原作:C. E.フィーリング「El mal menor」(1996年刊)

撮影:バルバラ・アルバレス

音楽:Luciano Azzigotti

編集:エリアネ・カッツKatz

視覚効果:ハビエル・ブラボ

製作者:ベンハミン・ドメネチ、サンティアゴ・ガジェリGallelli、マティアス・ロベダ、他

 

データ:製作国アルゼンチン=メキシコ、スペイン語、2020年、サイコ・スリラー、90分、撮影地ブエノスアイレス、メキシコのプラヤ・デル・カルメン、他。ベルリン映画祭2020コンペティション部門でワールド・プレミア。

 

キャスト:エリカ・リバス(イネス)、セシリア・ロス(母マルタ)、ナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(アルベルト)、ダニエル・エンドレル(レオポルド)、アグスティン・リッタノ(ネルソン)、ギジェルモ・アレンゴ(マエストロ)、他

 

ストーリー:女優のイネスは歌手として合唱団で歌っている。パートナーのレオポルドと一緒に出掛けたメキシコ旅行で受けたひどい外傷性の出来事により、現実に起きたことと想像上のことの境界が混乱するようになり、悪夢と日常的に襲ってくる反復的な音に苦しんでいる。イネスはコンサートのリハーサルで若いアルベルトと知り合うまで母親マルタと暮らしていた。彼とは問題なく過ごしているようにみえたが、ある危険な予感から逃れられなかった。夢からやってくるある存在が、彼女の中に永遠に止まりたがっていた。 (文責:管理人)

 

        豪華なキャスト陣を上手く泳がすことができたでしょうか

 

★主役イネスにエリカ・リバス(ブエノスアイレス1974)は、ダミアン・ジフロン『人生スイッチ』14)で、結婚式当日に花婿の浮気を知って逆上する花嫁を演じた。若い女性役が多いが実際は既に40代の半ば、銀のコンドル賞(助演『人生スイッチ』、女優賞「La luz inncidente」)、スール賞、クラリン賞、マルティン・フィエロ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞などを受賞、映画以外にもTVシリーズ出演は勿論のこと、舞台でも活躍しているベテランです。フォード・コッポラのモノクロ映画『テトロ』09)、サンティアゴ・ミトレ『サミット』17)では、リカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の私設秘書を演じた。2作ともラテンビート映画祭で上映されている。

 

   

 

      

 (母親役のセシリア・ロスとエリカ・リバス、映画から)

 

★イネスの恋人レオポルドには監督デビューも果たしたダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)が扮した。ウルグアイとアルゼンチンで活躍、『夢のフロリアノポリス』のアナ・カッツ監督と結婚している。アドリアン・カエタノ『キリング・ファミリー 殺し合う一家』17)他で何回かキャリア紹介をしている。彼も銀のコンドル賞、スール賞以下、アルゼンチンのもらえる賞は全て手にしている。

キャリア&フィルモグラフィーの紹介は、コチラ201702200409日 

 

  

        (レオポルド役のダニエル・エンドレル、映画から) 

 

★イネスの新しい恋人アルベルト役のナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート(ブエノスアイレス州1986)は、アルゼンチンとフランスで活躍している(スペイン語表記ナウエル・ペレス・ビスカヤルト)。ロバン・カンピヨBPMビート・パー・ミニット』(17)がブレイクしたので、フランスの俳優と思っている人が多いかもしれない。彼自身もセザール賞やルミエール賞の男優賞を受賞したことだし、公開されたアルベール・デュポンテル『天国でまた会おう』(17)もフランス映画だった。最初は俳優になるつもりではなかったそうですが、2003アドリアン・カエタノTVミニシリーズDisputas17歳でデビュー、2005年にはエドゥアルド・ラスポTatuadoで銀のコンドル新人賞を受賞している。アルゼンチンではTVシリーズ出演がもっぱらだが、トロント映画祭2014年で上映されたルイス・オルテガLulú / Lu-Luに主役ルカスを演じた。2016年に公開されるとヒット作となり、彼も銀のコンドル賞にノミネートされた。家庭の愛をうけることなく成長した車椅子のルドミラLudmiraとルカスLucasの物語、タイトルは二人の名前から取られた。

    

     

                   (アルベルト役のナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)

 

   

           (アルベルトとイネス、映画から)  

 

★ラテンアメリカ映画、特にラプラタ地域では悪夢や分身をテーマにすることは珍しくない。さらに特徴的なのが <移動> した先で事件が起きること。本作でも主人公はアルゼンチンからメキシコに旅行している。資金調達のために合作が当たり前になっているラテンアメリカでは都合がいい。原作はブエノスアイレス市内で起きた事件なのに、舞台をスペイン北部に移してしまう作品だって過去にはあった。賞に絡むことはないかもしれないが、『ブエノスアイレスの殺人』の監督、ナタリア・メタの第2作ということでご紹介しました。

 

ベルリン映画祭2019落穂拾い&米アカデミー賞結果発表2019年02月25日 15:37

               金熊賞はイスラエルのナダブ・ラピドの「Synonymes

 

★落穂拾いで金熊賞もなんですが、イスラエルのナダブ・ラピドSynonymes(仮題「シノニムズ」仏・イスラエル・独の合作)が受賞しました。1975年テルアビブ生れ、母親のエラ・ラピドが息子の作品の編集を手掛けている。フランスに帰化したいイスラエル人の若者が、国情の違いに呻吟する日常を皮肉たっぷりに描いた映画ということです。

 

         

   (審査委員長ジュリエット・ビノシュからトロフィーを受取るナダブ・ラピド)

 

★審査員グランプリ(銀熊)は、フランソワ・オゾンの「By The Grace of God」でした。フランスのカトリック教会が長年にわたって組織的に黙認というか隠蔽してきた児童性的虐待事件がテーマ。子供のときに受けた性的虐待を大人になった当事者たちが集団で教会を告発した実話に基づいている。現在も裁判が続行中ということです。オゾン監督としては珍しいテーマではないでしょうか。スペインでも宗教系の男子校マリスト会に通っていた人たちが、子供のときに受けた性的虐待を親にも信じてもらえず、人生を台無しにされた当事者たちが重い口を開きはじめている。シリーズ・ドキュメンタリー『良心の糾明:聖職者の児童虐待を暴く』(Netflix)で見ることができる。現在では教会が事実を認め謝罪しているが、バチカンを悩ませている性的虐待は今後とも告発が続くのではないでしょうか。

 

★男優賞・女優賞(銀熊)は中国のワン・シャオシュアイSo Long, My Son(「地久天長」『さらば、息子よ』)、一人っ子の息子を失った夫婦を演じた、ヨン・メイワン・ジンチェンが揃って受賞しました。3 時間にも及ぶ長尺らしく覚悟して見る必要がありそうです。イサベル・コイシェの「Elisa y Marcela」に出演したナタリア・デ・モリーナの受賞を期待していましたが残念でした。

 

★「ジェネレーションKplus」部門の短編部門に出品されていたカルロス・フェリペ・モントヤEl tamaño de las cosas12分、コロンビア)が、短編賞国際審査員特別賞スペシャル・メンションに選ばれました。他に漏れがあるかもしれませんが、そろそろ終りにします。

  

 

        ROMA/ローマ』が下馬評通り外国語映画賞を受賞しました!

 

★映画賞しんがりの米アカデミー賞2019も終わりました。これで大きな2018年度の映画賞は終了したことになります。作品賞は下馬評通りジム・バークチャールズ・B・ウェスラー他の『グリーンブック』、作品賞と外国語映画賞にダブルノミネートされていたアルフォンソ・キュアロン監督のROMA/ローマ』は、これまた下馬評通り後者を受賞しました。プロデューサーのガブリエラ・ロドリゲスは、初参加初受賞でした。キュアロンは他に監督賞・撮影賞も受賞しましたから上出来ではなかったでしょうか。是枝裕和監督も細田守監督も参加することに意味ありとなり、短編映画賞にノミネートされていたロドリゴ・ソロゴジェンMadre(「母」19分)も残念賞でした。

   

              

          (外国語映画賞を受賞したアルフォンソ・キュアロン)

 

カルラ・シモンの第2作「Alcarras」*ベルリン映画祭20192019年02月24日 17:37

  制作会社Avalon PC がベルリナーレ共同製作マーケットのEurimages de Desarrollo賞受賞

 

    

★第16回「ベルリナーレ共同製作マーケット」でカルラ・シモンの第2作目Alcarrasを製作するアバロン Avalon PC Eurimages de Desarrollo を受賞しました(副賞20,000ユーロ)。第16回というわけで結構歴史があるようですが、今回初めて知りました。Eurimages は映画産業に携わるヨーロッパ諸国の共同製作、配給、上映のための欧州評議会(1949年設立の国際機関)基金です。受賞者アバロンPCは、直近のではシモン監督の『悲しみに、こんにちは』17)、カルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』13)、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『メッシ』Netflix配信や海外作品、例えばカンヌ映画祭のグランプリ受賞作品ロバン・カンピヨのBPMビート・パー・ミニット』やパルム・ドールを受賞したリューベン・オストルンドの『ザ・スクエア思いやりの聖域』などにも共同製作しており、スペインでは老舗の制作会社です。

  

   

  (『悲しみに、こんにちは』の監督と製作者バレリー・デルピエール、ベルリン映画祭2017

      

★カルラ・シモンは、前作『悲しみに、こんにちは』の成功後、新作「Alcarras」の資金作りに奔走していたが、アバロンPCが前作同様手掛けることになった。新作は201811TorinoFilmLab トリノフィルムラボ・フェスティバルの ScriptLabtima プログラム最優秀プロジェクトに選ばれている(副賞8,000ユーロ)。更にカンヌ映画祭の「シネフォンダシオン部門」にも選ばれ、10月から4ヵ月間、脚本完成のための専門的な助言を受けられる予定。下の写真は前作のエグゼクティブ・プロデューサーだったマリア・サモラ

 

                

                      (カルラ・シモンと製作者のマリア・サモラ)

 

★どんなストーリーかというと、2008年真夏、カタルーニャ西部リェイダ(西語レリダ)のアルカラスの小さな村は、あたり一面に桃畑が広がっている。ちょうど桃の収穫の季節で、ソレの家族も揃って今年が最後となる取り入れに専念している。祖父が無口になっていたが誰も本当のことは分からなかった。祖父母、伯父伯母、従兄弟、甥姪たちが混乱に陥る一族の姿を、子供や若者たちの目をとして描いている。

    

       

                (収穫した桃を食べる新作の出演者一同)

 

★シモン監督の祖父母は2人の息子とカタルーニャの果樹園で桃を育てていた。その土地は監督にとって第二の故郷と言うべきところで、クリスマスや夏季休暇はそこで過ごした。10年ほど前、大農場ビジネスが進出して、桃畑の80%を失った。前作同様自伝的な要素が土台となっているようです。エキストラを含めてキャストはオール土地のアマチュアが演じている由。脚本は監督とArnau Vilaró アルナウ・ビラロとの共同執筆、まだIMDbにアップされていませんので詳細はこれからです。

短編銀熊賞にアルゼンチンの「Blue Boy」*ベルリン映画祭20192019年02月21日 17:20

            マヌエル・アブラモヴィチの短編「Blue Boy」が銀熊賞

 

★短編部門の銀熊賞と審査員賞を受賞したBlue Boy19m)の監督マヌエル・アブラモヴィチ(ブエノスアイレス、1987)は、ドキュメンタリーの監督、脚本家、撮影監督、製作者。ブエノスアイレスの国立映画制作学校卒、撮影監督としてそのキャリアをスタートさせている。サンセバスチャン映画祭2018SSIFF)「サバルテギ-タバカレラ」部門でご紹介したロラ・アリアスTeatro de guerraで撮影を手掛けました。本作によりイベロアメリカ・フェニックス賞2018の撮影賞にノミネートされています。先にベルリン映画祭「フォーラム」部門でワールドプレミアされ、エキュメニカル審査員賞とC.I.C. A.E.アート・シネマ賞の受賞作でもありました。

Teatro de guerra」の作品紹介は、コチラ20180805

 

       

 

★マヌエル・アブラモヴィチが国際舞台に登場したのは、2013年の短編ドキュメンタリー、カーニバルのクイーンになりたい少女を追ったLa Reina19m「The Queen」)で、監督、撮影、脚本、製作のオールランドを担当、多くの国際映画祭で短編賞を受賞しました。うち代表的なものは、アブダビ、フライブルク、グアダラハラ、ハンプトン、カルロヴィ・ヴァリ、ロスアンゼルス、シアトルほか、各映画祭で短編ドキュメンタリー賞を受賞しました。

 

 

 

★長編ドキュメンタリーの代表作は、第67回ベルリン映画祭2017「ジェネレーション14plus」に出品されたSoldado72m「Soldier」)、上記のTeatro de guerra」同様SSIFFの「サバルテギ-タバカレラ」部門に出品されました。コロンビアのカリ映画祭で審査員特別賞、マル・デル・プラタ映画祭でFIPRESCIを受賞。軍事独裁から民主化されて30数年、戦争のないアルゼンチンで志願兵士になるとはどういうことか、という青年を追ったドキュメンタリー。

   

    

 

『サマ』17)撮影中のルクレシア・マルテル監督の姿を追ったドキュメンタリーAños luz72m「Light Years」)は、ベネチア映画祭2017ドキュメンタリー部門に出品され、Venezia Classici Awardにノミネートされた。『サマ』もコンペティション外ではありましたが出品された。アブラモヴィチによると「『サマ』撮影中のマルテル監督を主人公にしたドキュメンタリーを撮るアイデアをメールしたら」、マルテルから「私が主人公になるの?」と返ってきた。最初は俳優にあれこれ指示している監督を誰が見たいと思うかと乗り気でなかった。マルテルは凝り性で『サマ』も大幅に遅れ、春の一大映画イベントのカンヌには間に合わなかった。彼女がどの部分に拘り、どんな方法で撮るかは、アブラモヴィチだけでなく後進の映画作家には参考になったのではないか。『サマ』出演のダニエル・ヒメネス=カチョ、ロラ・ドゥエニャスなども登場する。

 

         

      

  

   

(中央がマルテル、左側にサマ役のダニエル・ヒメネス=カチョ)

 

★今回受賞したBlue Boyの舞台はドイツの首都ベルリン、まだIMDbにはアップされていないので詳細はアップできないが、ベルリンにあるバー「ブルー・ボーイ」でセックス・サービスを稼業にしている、ルーマニア出身の7人の青年たちを追ったドキュメンタリー。彼らはビジネスや旅行で訪れるお客様を満足させるために役者に変身する。彼らの目は鏡のように私たちの社会を照射する。セックス労働者の自立、都会の孤独が語られるようです。(字幕英語)

 

監督・撮影・製作:マヌエル・アブラモヴィチ、

メイン・プロデューサー:Bogdan Georgescu

録音:フランシスコ・ペデモンテ

キャスト:フローリン、ラズヴァン、ステファン、マリウス、ミハイル、ラファエル、ロベルト

 

   

  (左から、短編銀熊賞のマヌエル・アブラモヴィチと製作者Bogdan Georgescu

 

     

         (誰か同定できないが出演者の青年、映画から)

 

テディー賞&テディー・リーダー賞はアルゼンチン*ベルリン映画祭20192019年02月19日 17:34

    サンティアゴ・ロサの「Breve historia del Planeta Verde」はパノラマ部門

 

       

テディー賞テディー・リーダー賞のダブル受賞作品Breve historia del Planeta Verdeは、パノラマ部門出品のアルゼンチン、独、ブラジル、西の合作映画。サンティアゴ・ロサSantiago Loza は、昨年のマランボという踊り手が男性だけというアルゼンチン伝統のフォルクローレをテーマにしたMalambo, el hombre buenoに続いてパノラマに選出された。前作は賞に絡むことができませんでしたが、監督紹介を駆け足でいたしました。今年はテディー賞とテディー・リーダー賞の2冠を手にし、出演者やスタッフ総出で現地入りしており、揃って祝杯をあげることができました。

Malambo, El Hombre Bueno」の監督&作品紹介は、コチラ20180225

 

           

              (両手に花のサンティアゴ・ロサ)

 

           

        (赤絨毯のスタッフとキャストたち、ベルリン映画祭2019

 

 Breve historia del Planeta Verde(「Brief Story from the Green Planet」)

製作:Constanza Sanz Palacios Films(アルゼンチン)/ Anavilhana Filma(ブラジル)

    / Autentika Films(独)/ Zentropa Internacional Spain(西)

監督・脚本:サンティアゴ・ロサ

撮影:エドゥアルド・クレスポ

音楽:ディエゴ・バイネル Bainer

編集:ロレナ・モリコーニ、Iair Michel Attias

製作者:コンスタンツァ・サンツ・パラシオス、ダビ・マタモロス、アンヘレス・エルナンデス、ラウアナ・メルガソ、パウロ・ロベルト・ディ・カルバーニョ、Gudula Meinzolt

 

データ:製作国アルゼンチン=独=ブラジル=西、スペイン語、2019年、ドラマ、90

映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2019パノラマ部門、第33回テディー賞、テディー・リーダー賞受賞。ランコントル・デ・トゥールーズ2019出品(322日~31日)

 

キャスト:ロミナ・エスコバル(タニア)、ルイス・ソダー(ペドロ)、パウラ・グリンスパン(ダニエラ)、エルビラ・オネット、アナベラ・バシガルポ、他

 

物語:タニアはブエノスアイレスでディージェーDJをしているトランス女性、ペドロはレギュラー・ダンサー、ダニエラはバーでウエイトレスをしている。三人は子供のときから土地の学校に通い、共にいじめられっ子だった。タニアは祖母が亡くなったという知らせを受け取る。タニアは祖母とある約束をしていた。そこで二人の友人を誘って祖母の過去を遡ろうと決心する。祖母はある授かり物を残しており、彼女の晩年の数年間を一緒に暮らしていたその風変わりな生物体を隠していたのだ。その生物体に永遠の平和がもたらされるような惑星に戻すというミッションが三人に与えられる。それは異星人にとってもタニアにとっても手遅れになる前に成し遂げねばなず、三人は旅に出発する。友情と誠実、そして受諾の試練が語られるロードムービー。 (文責:管理人)

 

      

                   (旅に出発するダニエラ、タニア、ペドロ、映画から)

 

        ジャンルの垣根を取り壊す、人間的な温もりに満ちている

 

★一応ドラマにジャンル分けしましたが、SF的な要素、寓話的な要素、ファンタジーでもあり、ミックスされてメタファー探しでもあるようです。サンティアゴ・ロサ(アルゼンチンのコルドバ1971年)は、ベルリナーレでの受賞は初めてですが、既に実績のある監督です。受賞スピーチでは「この映画は私のアイデンティティについて語っており、そういう作品での受賞は私のキャリアにとっても重要です。ロミナ・エスコバル―主人公ですが―は、彼女の人生で経験したことのないような限りない愛をベルリンで受け取りました。アルゼンチンやブラジルではトランスの人々にとって非常に厳しい時代です・・・これは違いを受け入れる人々の友情についての映画であり、友人たちに助けられ、彼らと一緒に映画を完成させました。私はその惑星出身です。彼らを大切に思っています」と語りました。

 

      

(スピーチするロサ監督、隣はプロデューサーのコンスタンツァ・サンツ・パラシオス) 

 

     

       (アニタ役のロミナ・エスコバルの目にご注目、映画から) 

 

★ビジュアルな側面から見ると、1980年代のエンターテインメント映画、例えば成長物語の古典と称されるロブ・ライナーの『スタンド・バイ・ミー』(86)やスピルバーグが製作総指揮をとった『グーニーズ』との関連があり、映像的にはアンドレイ・タルコフスキーのSF 『ストーカー』(79)やアントニオーニ映画を連想させるという。140秒程度の予告編からも感じ取れるが、赤ちゃんのような紫色の異星人は、眠れる森の美女のように横たわっている。三人も地球では異星人のようなものですが、ここがこんなにややこしい惑星だと知っていたら来なかったでしょう。冒頭はブエノスアイレスのゲイ・ショーで始まるようですが、フラッシュバッグで『E.T.』を見るところではモノクロとか、いろんなものがミックスされているようです。

 

   

(初めて異星人に対面したアニタ、ダニエラ、ルイス)

 

   

                       (眠れる森の美女のような異星人)


テディー賞ドキュメンタリー賞の「Lemebel」*ベルリン映画祭20192019年02月18日 14:27

          チリの詩人ペドロ・レメベルの最後の8年間を追うドキュメンタリー

 

             

            (ビエンナーレ2019でのポスター)

    

ジョアンナ・レポシLemebelは、コンペティション部門の次にランク付けされている「パノラマ」部門に出品された作品。ベルリナーレはコンペティション以外の部門が数多くあり、短編を含めると300とか400作ぐらい上映されるのはないでしょうか。というわけで賞の数も半端ではありません。コンペに新人が食い込めるのは大変なことで、却ってこのパノラマとかフォーラムをいずれ光輝く原石が眠る採石場として重要視している向きが多い。ただしコンペに比べると圧倒的に作品情報が限られるからチェックはしんどい。従って受賞作の落穂ひろいにならざるを得ません。

 

★ラテンビート2015で上映後に劇場公開された、グアテマラの新人ハイロ・ブスタマンテTembloresをアップしようと思っておりましたが、コンペティション部門の発表に先立って結果が発表になったパノラマ部門のLemebel96分、チリ=コロンビア)が、テディー賞ドキュメンタリー賞を受賞しましたので先にご紹介します。チリの作家、詩人、コラムニスト、パフォーマンス・アーティスト、自らも同性愛者でジェンダーの平等を訴え続けた活動家でもあったペドロ・レメベルの最後の8年間を追ったドキュメンタリーです。パノラマ部門はLGBTをテーマにしたものが目立つようで、テディー賞を受賞したアルゼンチンのサンティアゴ・ロサBreve historia del Planeta Verdeもパノラマ部門でした。昨年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したセバスティアン・レリオ『ナチュラルウーマン』もテディー賞を受賞しましたが、こちらはコンペティション部門でした。

 

            

         (トレード・マークのスカーフを被ったペドロ・レメベル)

 

ペドロ・レメベル Pedro Segundo Mardones Lemebel は、19521121日チリのサンティアゴ生れ、父親の姓 Mardones は使用しないことを明言している。2015123日、2011年に発症した喉頭癌のため死去、晩年は手術のために声を失った(享年62歳)。1970年代にチリ大学に入学、造形芸術の学位を得る。1979年サンティアゴの二つの高校の教師となるが、1983年に両校から解雇される。おそらく彼の性的志向が理由だと推測された。以後教職に戻ることはなく、自ら起ち上げたワークショップで指導に当たった。チリの作家といえば、ノーベル賞受賞者のガブリエラ・ミストラルと映画の主人公にもなったパブロ・ネルーダの二人の詩人、若くしてチリを離れたロベルト・ボラーニョ、またはボラーニョが尊敬していたというニカノール・パラなどが挙げられます。日本でのペドロ・レメベルの認知度がどのくらいあるのか分かりませんが、小説Tengo miedo torero2001)の他、グラフィック小説、コラム集、短編・詩・コラムを纏めたアンソロジーが刊行されている。

 

    

 

★代表作品は、上記の「Tengo miedo torero」でフランス語、イタリア語、英語に翻訳されている。代表的なコラム集は、1995La esquina es mi corazón: crónica urbana1996Loco afán: crónicas de sidario2004Adiós mariquita lindaなど。没後出版されたインタビュー集No tengo amigos, tengo amoresその他中道左派の「ラ・ナシオン」紙、左翼系雑誌「プント・フィナル」や「ザ・クリニック」のコラムニスト、さらにラジオ番組の制作者だった。ハーバード大学やスタンフォード大学など多くの大学に招聘され講義を行っている。2013ホセ・ドノソ賞を受賞している。1月開催のチリ恒例の文化祭に姿を見せファンを驚かせたレメベル、これが最後の姿になった。

 

       

       (ファンに最後の別れを告げるレメベル、201517日)

 

★彼の青春時代、活動期がピノチェト軍事政権時代(197390)と重なるので、反共主義者、ホモ嫌いだった政権下では生きにくかったと想像できます。チリは南米諸国でも際立ってホモセクシュアルの偏見が強く、日本同様同性婚は認められていない。下の写真は1986年ピノチェト政権反対の政治集会に共産主義や共産党のシンボル「鎌と槌」の化粧をしてハイヒールを履いて参加したときのレメベル。集会で「私は釈明を乞うパゾリーニではない/・・・私は詩人に見せかけた同性愛者ではない/変装など必要ない/これが私の顔/・・・私は少しも変ではない」(拙訳)というマニフェスト《Hablo por mi diferencia》を読み上げた

 

           

       (独裁政権を挑発した「鎌と槌」の化粧をしたレメベル)

 

★チリ出身だが1970年代末にスペインに移住した作家ロベルト・ボラーニョ19532003)と同世代ということもあって、チリとスペインと離れていたが親交があった。50歳という若さで鬼籍入りしたボラーニョはレメベルの影響を大きく受けたと書いている。二人の会話は平行線を辿りながらも「レメベルは私の世代ではずば抜けた詩人、私は魅せられていた」と。「レメベルは最高の詩人になるために詩を書く必要はない。誰もレメベルのような奥深さに到達しない」。彼の詩をひたすら読めばいい、彼は私のヒーローだと「Entre parentesis」に書いている。1998年に25年ぶりにチリに帰国している。このときニカノール・パラにも会っている。

 

       

    (ロベルト・ボラーニョとペドロ・レメベル、1998年に帰国したときのものか)

 

★監督のジョアンナ・レポシ Joanna Reposi Garibaldi は、1971年サンティアゴ生れ。2013年ごろ生前のレメベルからドキュメンタリー製作の許可を得ていたようで、完成にはかなりの年月をかけている。脚本もマヌエル・マイラと共同執筆した。デビュー作は2002年のドキュメンタリーLocos del almaで、本作は第2作めになる。受賞後のインタビューで「レメベルはアヴァンギャルドな芸術家で、いつも言ってるけど、彼はヨーコ・オノ、デヴィッド・ボウイであり、ビクトル・ハラやビオレッタ・ハラのように、この国ではその真価が認められていない芸術家」と語っている。

 

      

                       (ドキュメンタリー「Lemebel」から)

    

       

 (ジョアンナ・レポシとマヌエル・マイラ)

 

★本作はベルリンのあと、3月開催のテッサロニキ・ドキュメンタリー映画祭の国際コンペティション部門にも正式出品、「金のアレクサンダー」賞を競うことになる。またサンティアゴ映画祭2019でも818日上映がアナウンスされた。   

 

イサベル・コイシェの新作「エリサとマルセラ」*ベルリン映画祭20192019年02月15日 19:08

                  脚本を小脇に抱えて苦戦した10年間

  

      

★今年のベルリナーレのコンペティション部門は、前回アップのイサベル・コイシェElisa y Marcelaだけで、去る13日上映されました。プレス会見には監督以下主演のナタリア・デ・モリーナグレタ・フェルナンデスも出席しました。ちょっと金熊受賞は厳しそうですね。前回とダブりますが、エリサとマルセラは190168日に挙式したが、女性同士だったことが分かった後も記録を削除しなかった。だから残っているわけです。二人が教えていた村コウソではゴシップが絶えなかったので、隣国ポルトガルのポルトに逃亡しなければならなかった。しかしたちまち816日に逮捕され二人は収監されてしまう。マルセラは翌年16日に生まれる娘をお腹に抱えて刑務所に入れられたわけです。父親が誰かは分からないそうで、同じ年に赤ん坊を連れずに渡ったアルゼンチンでの生活もよく分かっていないらしい。

 

     

     (「もっと女性にチャンスを」と書かれた扇子を手にナタリアとグレタ、監督)

 

★なかなか制作会社が見つからなかった理由の一つが「モノクロで撮る」ということだった。殆どのプロデューサーが「難色を示した」と監督。今ではアルフォンソ・キュアロンのROMA/ローマ』やパヴェウ・パヴリコフスキのCold Warの成功で製作者の態度にも変化があるようです。そして第二の理由がテーマ、「こんなありそうもない奇妙としか言えない物語を誰に語りかけるのかと、ガリシアでもフランスでも何人ものプロデューサーから言われた」と。それでもう自分でやるしかないと覚悟を決めて走り出した。そんなとき制作会社「Rodar y Rodar」を通じてNetflixが「シロクロでもいいし、テーマも悪くない」と打診してきてくれた。今まで誰も資金を出してやろうとは言ってくれなかったし、誰も興味を示してくれなかった。断る理由なんてないですよね。これはキュアロンのROMA/ローマ』のケースと同じだ。Rodar y Rodar」はバヨナの『永遠のこどもたち』やギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』を手掛けている制作会社です。

 

    

          (イサベル・コイシェ監督、プレス会見)

 

Netflix作品がビエンナーレにエントリーされるのは、公開できないドイツの劇場主にとっては嬉しくない。それで160館が映画祭とドイツ文化省にエントリーしないよう公開書簡を出したということです。スペインでは何時かはまだ分からないが劇場公開できるようです。Netflix問題はこれからも引きずるのは明らかです。監督は「作品は当然スクリーンで観られることを想定して撮っているから、タブレットで私の作品を見ている人を見かけると悲しい」と語っています。だからドイツの劇場主の要求には痛みを覚えるとも。監督だったら誰だって映画館で観てもらいたいですよね。『ROMA/ローマ』がオスカーで成功すれば起爆剤になるかもしれない。「ビエンナーレは大画面を守って、一方Netflixは小画面を守る」と棲み分けすればいい。将来的にはどちらでも観ることができるようになることを期待したい。

 

★「政治的なメッセージを込めて撮ったのか」という質問には、「個人的には婚姻関係には反対です。しかしそのほうがいいという人はすればいい。(映画の中の)マルセラが司祭や医者や隣人たちに向かって『どうして私たちの人生に首を突っ込むの?』というセリフが重要なんです。これは映画であってマニフェストではない」と。「私が物語を探すのではなく、物語が私を呼ぶのです」。コイシェはスペインでも飛び切り強い女性、そしてエリサやマルセラのように闘う女性が好きなんです。4週間で登場人物に変身したナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデスにも拍手、ナタリアは女優賞候補になっているようです。娘グレタが心配でパパもベルリンに駆けつけてきたようです。

   

      

  (女優賞候補のナタリア・デ・モリーナを真ん中にした監督とグレタ・フェルナンデス)

 

          

          (赤絨毯の父エドゥアルド・フェルナンデスとグレタ)