リカルド・フランコ賞にタチアナ・エルナンデス*マラガ映画祭2020 ⑱ ― 2020年09月05日 09:07
映画の裏方衣装デザイナーにリカルド・フランコ賞

(トロフィーを手に受賞スピーチをするタチアナ・エルナンデス、8月28日)
★マラガ映画祭2020特別賞の最終回は、リカルド・フランコ賞、受賞者タチアナ・エルナンデス(サンタ・クルス・デ・テネリフェ1968)のご紹介。エルパイスの記事によると、プレゼンターノエミ・ルイスの「衣装は物語を理解する重要な第一歩であり、どんなフィクションでも真実を与える可能性を秘めている」という挨拶で始まった。エルナンデスの受賞スピーチは「自分がこの賞を戴くのにふさわしいかどうか、また映画を生み出す産業の一員であることを考えて、この受賞に感謝しています。この仕事を続けてこられて幸せです。多くのプロフェッショナルな仲間にお礼を言いたい」と。
★本賞の正式名はマラガ・フェスティバル・リカルド・フランコ賞といい、スペイン映画アカデミーとのコラボレーションです。従って現会長がプレゼンターになることが多い。1999年50歳で鬼籍入りした監督、脚本家、製作者のリカルド・フランコを讃える賞です。主に表舞台に登場しないシネアストが受賞するケースが多い。フランコ映画は『パスクアル・ドゥアルテ』や『エストレーリャ~星のまわりで』(ゴヤ賞1998作品・監督賞ほか受賞)がミニ映画祭で上映されている。直近の受賞者としては、2019年が脚本家のラファエル・コボス、2018年が国際級の衣装デザイナーのパコ・デルガドでした。
★サンタ・クルス・デ・テネリフェ生れだが、マドリードのコンプルテンセ大学で情報科学を学び、最初は映画を網羅した美術全体を制御するアートディレクターを目指していた。授賞式前に行われた映画祭ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルのインタビューでは「私には、仲間と一緒にやることがたくさんあると思います。今まで熱心に仕事をしてきましたが、今後も新しいプロジェクトに挑戦したい」と語っている。共同作業だから監督との相性もあり、いつも上手くいくとは限らないようです。両親を含めて家族の協力なしには続けられない仕事と語っている。「衣装で何を呼び起こしたいか、生地の特徴を生かして色彩に生命と意味を与えるようにする」、理論的にはシンプルに聞こえますが、実際はそんなに簡単ではないとも語っている。歴史物では時代考証も必要です。

(ビガルのインタビューに応じるタチアナ・エルナンデス、8月28日)

(ポスターを背にしたエルナンデス)
★時代考証が必要だったのがゴヤ賞2011衣装デザイン賞を受けた、アンドルッシャ・ワッディントンの「Lope」でした。スペイン黄金世紀を代表する劇作家ロペ・デ・ベガの伝記映画です。ワッディントン監督はブラジルの監督、2000年の「Eu Tu Eles」でカンヌ映画祭「ある視点」でスペシャル・メンションを受賞している。同年東京国際映画祭では『エゥ・トゥ・エリス』の邦題で上映された後、『私の小さな楽園』で公開された。よくできた作品で国際映画祭巡りをしているがブラジル映画なので、スペインでは「Lope」の監督として知られている。その他、タッグを組んだ監督は、ギレルモ・デル・トロの『デビルス・バックボーン』、ハビエル・フェセルの『モルタデロとフィレモン』や『カミノ』、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』、エミリオ・エステベスの『星の旅人たち』、ダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』、アルモドバルのコメディ『アイム・ソー・エキサイテッド!』など、字幕入りで見ることができた作品を手掛けている。

(ゴヤ賞2011衣装デザイン賞のトロフィーを手にしたエルナンデス)
★特別賞以外でもご紹介したい作品、例えばエステバン・クレスポのスリラー「Black Beach」や、ラファエル・アスコナの同名小説を映画化したビクトル・ガルシア・レオンの「Los europeos」などですが、両作とも新たにノミネートされたもの、Netflix配信などの機会があったらアップしたい。

(ラウル・アレバロ主演の「Black Beach」のポスター)
特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソ*マラガ映画祭2020落穂ひろい ⑰ ― 2020年09月02日 20:04
アルゼンチンのオスカル・マルティネスもビデオ出演

(ビデオで受賞スピーチのオスカル・マルティネス、8月27日)
★特別賞のうち一番の大賞がマラガ・スール賞ですが、予定されていたガエル・ガルシア・ベルナルが来マラガできないこともあって中止になりました。そのほかハビエル・フェセル監督のマラガ栄誉賞も同様に中止、授賞式は来年回しになったのでしょうか。本当に異例ずくめのマラガでした。
★今年は特別賞ビスナガ・シウダ・デル・パライソは2人、マラガ出身の女優キティ・マンベールについてはアップ済み、彼女は、ベルナベ・リコが観客賞を受賞した「El inconveniente」出演でマラガ女優賞も受賞しましたから喜びもひとしおだったでしょう。
*キティ・マンベールの紹介記事は、コチラ⇒2020年08月27日
★もう一人がアルゼンチンの俳優、作家、舞台演出家のオスカル・マルティネス(ブエノスアイレス1949)でした。来マラガできないのでビデオ出演でした。本邦ではダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(14)やガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンのシリアス・コメディ『笑う故郷』(16)で主役のノーベル賞作家を演じたことで人気度も高い。トロフィーはコロナ感染(8月10日公表)から回復したアントニオ・バンデラスの手から渡されたということです。バンデラスは「マラガの顔」だから間に合って何よりでした。
*『人生スイッチ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年07月29日
*『笑う故郷』の紹介記事は、コチラ⇒2016年10月13日/同年10月23日

(『人生スイッチ』の一場面から)

(映画祭巡りをした勲章を入れた『笑う故郷』のポスター)
★深々と椅子に腰をおろすと「じゃ、始めますか」と受賞者、成功の快楽と受賞の喜びの中で凍えていますと。アルゼンチンの季節は冬なのです。もう義務のように生きていますが、この瞬間を楽しむことが重要だと感じています。とても嬉しいですが、翌日か数日後には忘れてしまいます。皮肉屋のマルティネスらしいスピーチです。「自分はマラガには借りがあります。マラガはとても寛大で、2度も賞を頂きました」。これは2016年の助演男優賞(セバスティアン・ボレンステインの「Kóblic」『コブリック大佐の決断』DVDタイトル)と2019年の男優賞(サンティ・アモデオの「Yo, mi mujer y mi mujer muerta」)のことです。今回の受賞でトロフィーが3個、コレクションが増えました。
*「Kóblic」の紹介記事は、コチラ⇒2016年04月30日
*「Yo, mi mujer y mi mujer muerta」の受賞記事は、コチラ⇒2019年04月18日

(マラガ映画祭2019男優賞の授賞式にて)
★現在はもっぱら映画に出演していますが、俳優としてのキャリアを磨いたのは長い舞台生活でした。舞台は「役者としての道具を鍛え、演技に磨きをかける場所だから」とコメントした。自分はまだ青年だと思っており、物語に魅せられると、どの仕事に打ち込むか分からないで二者択一を迫られる。戯曲を書いたり、俳優という職業についてのエッセイも3冊出版している。71歳はまだ鼻垂れ小僧、可能性に満ちている。
金のビスナガは「Las ninas」と「Summer White」*マラガ映画祭2020 ⑯ ― 2020年08月31日 11:51
金賞はピラール・パロメロとロドリゴ・ルイス・パターソンのデビュー作
★8月29日、第23回マラガ映画祭2020の受賞結果が発表になりました。「文化を正常化する」をモットーに開催されたマラガ映画祭もいよいよ閉幕となります。金のビスナガ賞(作品賞)は、スペイン映画はピラール・パロメロの「Las niñas」、イベロアメリカ映画はメキシコのロドリゴ・ルイス・パターソンの「Summer White」が受賞しました。共に長編デビュー作、本映画祭はイスパノアメリカ映画の登竜門的な存在ですが、今年はその通りの新人が勝利しました。審査員は、アルバロ・ブレッヒナー、アデルファ・カルボ、アルバロ・セルバンテス、チュス・グティエレス、パブロ・レモンの5名です。以下はセクション・オフィシアルの受賞作品リストです。ブレッヒナーはウルグアイの監督ですが現在はマドリード在住です。
◎金のビスナガ(スペイン)副賞12.000ユーロ
・「Las niñas」 監督ピラール・パロメロ
ICAA / ICEC* / RTVE / TV3 / Movistar+ / アラゴンTV / Media / Ibermedia 他
*作品&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2020年03月16日

◎金のビスナガ(イベロアメリカ)副賞12.000ユーロ
・「Summer White」(「Blanco de verano」)メキシコ 監督ロドリゴ・ルイス・パターソン
Capacitación Cinematográfica / A.C. / FOPROCINE* / IMCINE

◎審査員特別賞(銀のビスナガ)以下すべて銀賞
・「La boda de Rosa」スペイン、監督イシアル・ボリャイン
RTVE / A Punt / Movistar+ / ICAA / IVAC* / ICEC
*作品紹介は、コチラ⇒2020年03月21日


◎女優賞「ホテルACマラガ・パラシオ」(今回2名)
・キティ・マンベール、スペイン、映画「El inconveniente」、監督ベルナベ・リコ
・レジェナ・カセ、ブラジル、映画「Tres veranos」、監督Sandra Kogut

◎男優賞(今回2名)
・アルベルト・アンマン、スペイン
・パブロ・エチャリ、アルゼンチン
映画「El silencio del cazador」アルゼンチン、2019、監督マルティン・デ・サルボ

◎助演女優賞
・ナタリエ・ポサ、スペイン、映画「La boda de Rosa」
◎助演男優賞
・ファビアン・コレス、メキシコ、映画「Summer White」
◎脚本賞
・ロドリゴ・ルイス・パターソン&ラウル・セバスティアン・キンタニジャ、メキシコ
映画「Summer White」
◎音楽賞
・パスカル・ゲーニュ(フランス出身サンセバスチャン在住)
映画「Malpaso」ドミニカ共和国、2019、監督エクトル・バルデス

◎撮影賞
・ダニエラ・カヒアス、スペイン、映画「Las niñas」
◎編集賞
・パウラ・ルポロ、アルゼンチン、映画「El silencio del cazador」
◎観客賞
・「El inconveniente」スペイン、監督ベルナベ・リコ

*ICEC (カタルーニャ文化事業協会)
FOPROCINE(クオリティ映画製作基金)
IVAC(バレンシア文化協会)
★以上がセクション・オフィシアルの受賞作品リストです。2019年製作の作品の中には他の映画祭での受賞作、公開されているものが混じっています。マラガがプレミアでないということです。入手できたポスターをアップしておきました。第24回マラガ映画祭2021は、6月4日~13日とアナウンスがありましたが、あくまで予定です。
マラガ才能賞にカルロス・マルケス=マルセ*マラガ映画祭2020 ⑮ ― 2020年08月29日 13:42
「映画の殿堂セルバンテス劇場で賞をいただけるのは望外の喜び」

(受賞スピーチをするカルロス・マルケス=マルセ、8月24日、セルバンテス劇場)
★去る8月24日、第23回ビスナガ・マラガ才能賞の授与式がセルバンテス劇場でありました(プレゼンターは女優のノエミ・ルイス)。受賞者カルロス・マルケス=マルセ(バルセロナ1983)は監督、脚本家、編集者、6年前の2014年「10.000 km」で華々しくデビュー、金のビスナガ賞(作品賞)と監督賞他を受賞した。翌年のゴヤ賞2015では新人監督賞を受賞している。また昨年のマラガ映画祭2019に出品されたカタルーニャ語の「Els dies que vindran」でも、金のビスナガ賞と監督賞を受賞するなど、本映画祭との関りは深い。
*「10.000 km」の作品&キャリア紹介は、コチラ⇒2014年04月11日
*「Els dies que vindran」の作品紹介は、コチラ⇒2019年04月11日
★デビュー作から製作を手掛けている20年来の親友にしてプロデューサーのセルジ・モレノも登壇、また「10.000 km」のヒロインを演じたロンドンっ子のナタリア・テナは来マラガできないことから、お祝いをビデオメッセージで送ってきた。彼女は英国人だが両親がスペイン出身、スペイン語が堪能で、本作出演で銀の最優秀女優賞を受賞したのでした。

(金のビスナガ賞受賞の「10.000 km」のナタリア・テナとダビ・ベルダゲルのカップル)
★今回はセクション・オフィシアル出品はありませんでしたが、マラガ・プレミア部門に2020年製作のカタルーニャTVのドラマ「La mort de Guillem」が上映された(25日にアルベニス映画館)。1993年4月11日、バレンシア州カステリョンの町モンタネホスで極右グループに暗殺されたアンチ・ファシストのギリェム・アグリョ(1974)の死をめぐるTVドラマ。実話に基づいているドキュメンタリー・ドラマ、つづめてドクドラと称している。1995年にネオナチのペドロ・クエバス1人が禁固14年の刑を受けただけで他のグループ全員は無罪、クエバスも4年服役しただけで自由の身になったという不可解な政治的事件。既に27年が経っておりますが、非常に複雑な事案で未だに未解決事件ということです。現在でも不正に苦しむ家族(両親が健在)や関係者に対する嫌がらせが続いているという。


(ギリェム・アグリョ役のヤニス・コリャドとギリェムの両親)

(プレス会見に臨むカルロス・マルケス=マルセ監督、8月25日)
海外勢スター不在の映画祭も折り返し点*マラガ映画祭2020 ⑭ ― 2020年08月27日 08:23
新型コロナウイリスがもたらした前例のない冷淡さと隔たり

(左からキティ・マンベール、ベルナベ・リコ監督、フアナ・アコスタ、8月24日フォトコール)
★メイン会場であるセルバンテス劇場前に設えられるレッド・カーペットなしのマラガ映画祭も折り返し点になりました。ラテンアメリカ諸国からの海外スターたちが来られないこともあって、フォトコールさえ写真のようにまばらです。例年だとフォトコールは1作品につき1ダースほどの関係者が参加する。大挙して押し寄せるスターやスタッフ陣の整理や予定通り登場しないことで長く待たされたりと翻弄されていたカメラマンたちも、今年はのんびりゆったりしているようです。そのうえ参加メディアも制限されて大幅に減少したからです。
★上記の写真は、ベルナルベ・リコ(セビーリャ1973)のデビュー作「El inconveniente」(セクション・オフィシアル)のフォトコールに臨んだ、キティ・マンベール(女優、マラガ1953)、フアナ・アコスタ(コロンビアのカリ1976、スペイン在住)と監督の3人。他の出演者ホセ・サクリスタン、カルロス・アレセス、ダニエル・グラオなどは不参加。マスク着用が原則ですが屋外ということでマスクなし、ソーシャルディスタンスを守っていた。キティ・マンベールはマラガの特別賞の一つビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞の受賞者、フアナ・アコスタはオープニングのプレゼンターを務めていたが、国内移動ということで来マラガできました。

(ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞を受賞したキティ・マンベール、8月24日)

(ベルナベ・リコの長編デビュー作、マンベールとアコスタを配したポスター)

(棺桶に寝転がっているのがカルロス・アレセス、映画から)
★8月25日、セルバンテス劇場でアルトゥーロ・リプスタインのレトロスペクティブ賞―マラガ・オイの受賞式がありました。勿論メキシコから来マラガできませんからビデオ参加、受賞への感謝、パンデミックのせいで授賞式に立ちあえなかったことを述べた後、「私の作った映画のすべてが、議論の余地なく、私の自伝的なものといえます。実際にそうなのです」と告白、つまり老人の性と欲望をテーマにしたセクション・オフィシアル上映の最新作「El diablo entre las piernas」も自伝だということでしょう。「映画館に行くために学校をさぼり、その口実に実に多くの伯父伯母、祖父母に死んでもらいました」と。さすがに両親は二人だし直ぐバレるから避けたらしい。
*「El diablo entre las piernas」の作品紹介は、コチラ⇒2020年04月11日

(ビデオでの授賞式、セルバンテス劇場、8月25日)

(ビデオ参加でのプレス会見の様子)

(「El diablo entre las piernas」をバックにしたリプスタイン監督)
★映画祭は地味ながら粛々と進行しているようですが、その盛り上がりの欠如、少し寒々した距離感は否めないようです。
異例ずくめで開幕したマラガ映画祭2020 ⑬ ― 2020年08月23日 20:03
コロナ時代のマラガ映画祭、異例ずくめで発進

(話題作の看板が設置されたマラガのラリオス通りをぶらつく散策者、8月19日正午)
★8月21日、3月開催だった 第23回マラガ映画祭2020 がおよそ5ヵ月遅れで開幕しました。メイン会場のセルバンテス劇場3階では、作業員たちが開幕前日の20日まで仕上げに奔走、やっと開幕に漕ぎつけたということです。マラガ県では連日180人くらいの感染者がいることから、マスク着用を義務付け、してない人は警官から尋問されるという厳しさ。今年はレッド・カーペットも敷かれず、スターたちとファンとの出会いを大切にするマラガの呼び物、サイン会や自撮り写真、勿論握手などもってのほかです。
★有名スターたちが宿泊するACマラガ・パラシオでは、入り口に群がるファンたちをシャットアウトするため2列のプランターを設置して通せんぼしているとか。ここでも3密が徹底しているようです。以前ならエレベーターに偶然乗り合わせるチャンスを狙って、ACマラガ・パラシオの宿泊代を親に払わせていた子供たちがいたそうですが、これもダメです。昔はこういうファンをちょちょろするので映画祭の <ネズミ> といったのですが、大声を出したりイケメン・スターを突ついたりするので <カモメ> と言うようになっていましたが、これも叶いません。
★マラガ出身で本映画祭に多額の出資をしているアントニオ・バンデラスが、コロナ検査で陽性だったことを公表しました。目下隔離生活をしているようですが、場所は明らかにしていません。8月10日に60歳になったばかりです。数年前に心臓のステント手術をしていることもあり、比較的軽症とはいえ心配です。マラガ名誉市民の一人で、メラニー・グリフィスとの離婚後、市内に家を購入しています。来年のゴヤ賞2021のメイン司会者にも決定しているから、一日でも早い回復を祈ります。
*ゴヤ賞2021の記事は、コチラ⇒2020年07月03日

(ゴヤ賞2021のもう一人のメイン司会者マリア・カサドとバンデラス)
★21日、イシアル・ボリャインのコメディ「La boda de Rosa」で開幕しました。出演者のカンデラ・ペーニャ、セルジ・ロペス、ナタリア・ポサ、パウラ・ウセロなども来マラガしてプレス会見に出席した。
*「La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月21日



(ソーシャルディスタンスを守って並んだ出席者、中央がボリャイン監督、プレス会見)
★壇上のほうはソーシャルディスタンスを守っていますが、記者席は大分密状態の印象です。プレス会見場に入れる記者は、警備員がマスク着用のほか、検温、手の消毒などをチェックしているはずですが、どうもあやしい。マラガに続いて、9月のベネチア、サンセバスチャンと大きな映画祭が控えています。各映画祭のディレクターたちも偵察に現地を訪れているということですから、失敗は許されないのではないでしょうか。
★映画上映会場の観客席は、アンダルシア州の勧告に従って、例年の65%に減らしているということです。もっと削減したほうがベターだと、ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルは語っています。座席は座れないように一部撤去し、取り外しできない背もたれだけにしている由。スペインの映画祭は日本と違って座席指定はなく先着順のオール自由席です。まったく異例ずくめですが、個人的には <コロナ後> は、2~3年先になると思っているので、当分は <ウィズコロナ> 対策で乗り切るしかありません。
★経済的効果はチケット代を半額にしたうえ、今まで不要だったコロナ対策費や人件費がかさみ、あまり期待できません。例年と比較しても意味がありませんが、スペインでも「Go To トラベル」キャンペーンに似た「♯映画館で映画を観よう」があって、もともとの「♯ステイホーム」も同時に叫ばれており、市民は「どっちにすればいいの」と困惑している。
ダニエル・カルパルソロの最新スリラー*マラガ映画祭2020 ⑫ ― 2020年08月22日 06:27
コンペティション部門にダニエル・カルパルソロの「Hasta el cielo」

(ミゲル・エランとカロリナ・ジュステを配したポスター)
★仕切り直しをして開催されることになったマラガ映画祭、新型コロナウイリスの第2波拡大は、スペイン含めて欧米諸国を襲っていますが、予告通りいよいよ8月21日にオープニングとなりました。3月開催のセクション・オフィシアルには含まれていなかったダニエル・カルパルソロの「Hasta el cielo」が、今回アナウンスされていました。実際にあった事件にインスパイアされて製作されたフィクション、若手のミゲル・エランを主人公に、カロリナ・ジュステやルイス・トサールが脇を固めています。マラガ上映後の8月28日にスペイン公開が決定しているようです(配給ユニバーサル・ピクチャー・インターナショナル・スペイン)。

(カロリナ・ジュステ、ルイス・トサール、監督、ミゲル・エラン、アシア・オルテガ)
「Hasta el cielo」(「Sky High」)2020
製作:Vaca Films / RTVE / Movistaar+ / Telemaadrid / Canal+ / Netflix
協賛:ICAA / Programa Media
監督:ダニエル・カルパルソロ
脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア(『プリズン211』『暴走車 ランナウェイ・カー』)
撮影:ホス・インチャウステギ(『Rec3』『ガン・シティ~動乱のバルセロナ』)
サウンドトラック:カルロス・ジャン(作曲)、C.Tangana、DJ Nano
編集:アントニオ・フルトス(「Cien años de perdón」『インベーダー・ミッション』『ワイルド・レーザー』)
製作者:ボルハ・ペナ(『プリズン211』『エル・ニーニョ』)、(エグゼクティブ)エンマ・ルストレス(『プリズン211』『暴走車 ランナウェイ・カー』)
データ:製作国スペイン、スペイン語、2020年、スリラー、実話に基づくフィクション、撮影地マドリード、イビサ、バレンシア、撮影2019年、配給ユニバーサル・ピクチャー・インターナショナル・スペイン、スペイン公開2020年8月28日
映画祭・受賞歴:第23回マラガ映画祭2020セクション・オフィシアル正式出品
キャスト:ミゲル・エラン(アンヘル)、カロリナ・ジュステ(エストレージャ)、ルイス・トサール(暗黒街のボス、ロヘリオ)、アシア・オルテガ(ロヘリオの娘ソーレ)、パトリシア・ビコ、フェルナンド・カヨ、セサル・マテオ、リチャード・ホームズ(ポリ)、Ayax(ラッパー)、Dollar Selmouni、Ramseys、他多数
ストーリー:マドリード育ちのアンヘルの愛の物語。ディスコでエストレージャと知り合った日を境に、アンヘルの人生は永遠に変わってしまった。彼女のボーイフレンドのポリとの諍いで、アンヘルがトラブルに熱しやすい非凡な才能の持ち主であることを見抜いたエストレージャは、マドリード警察のすべてに脅しをかけているショーウィンドウ荒らしのグループに加わるよう促した。アンヘルの野心は、マドリードからイビサに移送する怪しげな仕事を巧みにこなし、腐敗弁護士や胡散臭い取りまきがうごめく強盗団の頂点に立つことだった。彼は周囲の助言を無視して、闇市場を支配するマフィアのボスの一人ロヘリオに近づいていくが、権力の代価が如何に高いものであるかを思い知るだろう。エストレージャとカポの娘ソーレのどちらかを選ばねばならないだろう。もっとも汚れた下町で始まり、最も高い空への旅。

(アンヘル役のミゲル・エラン、ロヘリオ役のルイス・トサール、映画から)
激しいエモーション、セクシーで軽快にスペイン社会の深淵を描く
★ダニエル・カルパルソロ(バルセロナ1968)は、スリラー『インベーダー・ミッション』(12)や『ワイルド・レーザー』(13)が公開されているが、当ブログでは監督の代表作アドベンチャー・スリラー「Cien años de perdón」を記事にした折りに作品&監督キャリア紹介をしています。ルイス・トサールのキャリア紹介も兼ねています。
*「Cien años de perdón」の紹介記事は、コチラ⇒2016年07月03日

(「Cien años de perdón」のポスター)
★監督談によると、「Hasta el cielo」は実話にインスパイアされたもので「強盗事件を軸にしたスリラー映画、激しいエモーション、セクシーで、軽快にスペイン社会の深淵を描いている。不動産バブル時代に成長したチャンスを見逃さない非行少年たちの波乱にとんだ半生が語られる。スペイン社会に提供された喜びと贅沢、しかしそれを享受できたのは一握りの人に限られていた」とコメント。因みにショーウィンドウ荒らしのグループと翻訳した <alunicero> は、ショーウィンドウに車ごと突入させて破壊し強盗する <alunizaje> からの造語。

(ショーウィンドウ荒らしを実行する強盗団)
★脚本を執筆したホルヘ・ゲリカエチェバリア(アストゥリアス1964)は、ダニエル・モンソンの『プリズン211』(「Celda 211」)でゴヤ賞2010脚色賞を受賞、ゴヤ賞関連ではモンソンの『エル・ニーニョ』、アレックス・デ・ラ・イグレシアのデビュー作『ビースト 獣の日』『13みんなのしあわせ』『オックスフォード連続殺人』、カルパルソロの「Cien años de perdón」などでノミネートされている。
★アンヘル役のミゲル・エランは、ダニエル・グスマンのデビュー作「A cambio de nada」でゴヤ賞2016新人男優賞を受賞、NetflixのTVシリーズ『ペーパー・ハウス』のリオ役、同じく『エリート』のクリスティアン・バレラ役で若い俳優にしては認知度は高い。エストレージャ役のカロリナ・ジュステは、ラテンビート2018でも上映されたアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞している。

(ゴヤ賞2016新人男優賞のミゲル・エラン)

(ゴヤ賞2019助演女優賞のカロリナ・ジュステ)
★ソーレ役のアシア・オルテガは、Netflixで配信されたミゲル・アンヘル・ビバスの『息子のしたこと』に出演している。パトリシア・ビコは2005年にカルパルソロと結婚、「Cien años de perdón」に出演している。フェルナンド・カヨはJ.A.バヨナの『永遠のこどもたち』、アルモドバル『私が、生きる肌』、TVシリーズ『ペーパー・ハウス』など。
*「A cambio de nada」の作品紹介は、コチラ⇒2015年04月12日
*『カルメン&ロラ』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月13日
★キャスティングのために街中でのスカウト作戦をして見つけた、ラッパーのAyaxは本作でデビュー、他に音楽シーンで参加したミュージシャンたちDollar SelmouniやRamseysは、本作が映画初出演ということです。Netflixが一枚噛んでいるようなので、もしかしたら本邦でも配信されるかもしれない。
追加情報:『ライジング・スカイハイ』の邦題で Netflix 配信された。
第23回マラガ映画祭の全容が発表されました*マラガ映画祭2020 ⑪ ― 2020年08月13日 14:59
赤絨毯なし、上映作品削減、安全第一をモットーにようやく開催!

(全容を発表する映画祭ディレクター、フアン・アントニオ・ビガル)
★新型コロナウイルス感染者拡大で延期されていた、第23回マラガ映画祭2020の全容が発表になりました。本映画祭は3月開催を目前にして延期がアナウンスされ、延期か中止か宙ぶらりんのまま二転三転して、8月21日~30日に決定していた。この度8月7日、映画祭ディレクター、フアン・アントニオ・ビガルによって、正式に全容のプレゼンテーションの運びとなりました。セクション・オフィシアルのコンペティションの上映作品20作が16作に削減されたいうことですから、80%は変更されなかったわけです。既にアップしているイシアル・ボリャインの新作コメディ「La boda de Rosa」がオープニング作品に決定したようです。
*「La boda de Rosa」の作品紹介は、コチラ⇒2020年03月21日


(主演のカンデラ・ペーニャを配したポスター)
★当然のことながら、赤絨毯なし、これ以上できないというコロナ対策をして臨むということで、スターとの自撮りもできない異例の映画祭になります。唯一の朗報はチケット代が50%引きになることかもしれない。7日(金)17:00からセルバンテス劇場、エチェガライ映画館窓口で発売、勿論ウエブでも購入できます。「劇場に来て映画をもう一度観てもらいたい」という明確なメッセージのもとで開催すると、フアン・アントニオ・ビガル氏。
★未発表だった特別賞の一つ「金の映画」には、今は亡きピラール・ミロ(マドリード1940~97)の「El perro del hortelano」(1995『愛は奪った』)が選ばれた。ロペ・デ・ベガの古典を監督が脚色、エンマ・スアレス、カルメロ・ゴメス主演の本作は、ゴヤ賞1996の監督賞・脚色賞・主演女優賞など7部門を獲得している。

(主演のエンマ・スアレスとカルメロ・ゴメスを配したポスター)
★マスク着用は義務、マラガのアーティスト、ハビエル・カジェハがデザインした映画祭オリジナルのマスクが8月15日からオンライン発売もアナウンスされた。多分ビガル氏がしているマスクでしょうか(写真参照)。アンダルシアの夏の暑さは耐えがたいから、どれだけ守られるか。
★マラガ映画祭の後に続く、サンセバスチャン映画祭、バジャドリード映画祭、ほかセビージャ、ウエルバなどの各ディレクターたちは、目を皿にして成り行きを見守ることになるでしょう。マラガの責任は実に重い、失敗は許されないでしょう。ともあれ中止ではなく開催に漕ぎつけた関係者一同の努力を感謝したい。
第23回マラガ映画祭2020、8月24日開催のニュース ⑩ ― 2020年05月17日 17:16
3日間縮小して、赤絨毯なしで開幕の予定

★延期か中止かペンディングだった第23回マラガ映画祭2020の開催が、8月24日~30日の7日間の予定で開催するとアナウンスされました(5月12日)。セクション・オフィシアルの長編、短編、ドキュメンタリー、ZonaZine、料理映画は予定通り、不可欠ではないと分類された、例えばドキュメンタリーの特別セッションのようなエキシビションは除外されるようです。主な会場はアルベニス館、セルバンテス劇場、エチェガライ劇場など、国から要請される消毒などの衛生管理の基準はきちんと守り、ファンが密集しやすいレッド・カーペットはやらない。
★オープニングとクロージング、栄誉賞やマラガの特別賞、マラガ栄誉賞(ハビエル・フェセル)、マラガ・スール賞(ガエル・ガルシア・ベルナル)、マラガ才能賞(カルロス・マルケス=マルセ)、リカルド・フランコ賞(タチアナ・エルナンデス)、レトロスペクティブ賞(アルトゥーロ・リプスタイン)、ビスナガ・シウダ・デル・パライソ賞(キティ・マンベールとオスカル・マルティネスの2人)は、予定通り行いたいということです。しかし飽くまで予定であって、今後の新型コロナウイリスの動向次第では変更もありではないか。マラガ市はこれに関しては、まだ決断していないようです。
*栄誉賞・特別賞の記事は、コチラ⇒2020年03月18日
★昨年の来場者15万人には遠く及ばないにしても、マラガの8月はフィエスタ・シーズン、15日から22日までマラガ・フェリアがあり、このフィエスタに集まった観光客を含めた来場者を取り込もうとして決まったのではないでしょうか。日本人の目からみれば、まだ収束の目途も立っていない時期に開催日程が発表されるなど信じがたいことです。人々が例年通り夏のバカンスを取れるかどうか分からないではありませんか。
★一方、9月に入ると映画祭シーズン、カンヌ映画祭はまだ論議中、ベネチアは9月2日から12日まで、続いてサンセバスティアンは9月18日から26日まで、その後スペインではシッチェス、バジャドリード、セビーリャ、ヒホンなど陸続と映画祭が連なっています。シネマニアでも多すぎると感じますが、ここ東京国際映画祭は、開催か、または延期か中止かと逡巡した結果、予定通り10月31日オープニングに向けて発進したようです(~11月9日)。勿論、収束状況によっては変更ありとなっています。
追記:8月21日から8月30日まで、例年と同じ10日間で行われることになったようです。コロナに振り回される映画祭ですが、更なる変更もあるかもしれません。
ダビ・イルンダインの第2作目「Uno para todos」*マラガ映画祭2020 ⑨ ― 2020年04月16日 18:26
文化や世代を超えて許しの必要性と希望が語られる

★ダビ・イルンダインの第2作目「Uno para todos」は、セクション・オフィシアルにノミネートされた作品。イルンダインは2015年の裁判ドラマ「B, la pelicula」で長編デビュー、喝采を博した。本作は主人公ルイス・バルセナスの名前を入れた「B de Bárcenas」、単に「B」など幾つかのタイトルで紹介されています。国民党アスナル政権下(1996~2004)に起きたスペイン最大級の汚職事件の裁判ドラマです。元国民党会計責任者ルイス・バルセナスをめぐる裁判を描いている。撮影当時はまだ裁判は結審していなかった。ジョルディ・カサノバの脚本をイルンダインが脚色してゴヤ賞2016脚色賞にノミネートされた。

(ダビ・イルンダイン監督)
★第2作目はデビュー作の裁判ドラマとは打って変わって、小さな町を舞台に代用教員に採用されたアレックスが文化の違いを乗り越えて奮闘する姿を描いている。アレックスにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』のダビ・ベルダゲルが扮して、文化や世代の枠を超えた許しの必要性が語られるようです。観客の「どうして、何のために闘ったり学んだりするのか」の問いには明確な回答は得られませんが、目的は達成することができるという希望が得られる、それが監督の目的のようです。脇を支える女優陣にパトリシア・ロペス・アナイス、クララ・セグラなどがクレジットされている。プロデューサーに『悲しみに、こんにちは』のバレリー・デルピエール、撮影監督にサンセバスチャン映画祭2018年のコンペティション部門の審査員をしたベト・ローリッヒなど女性スタッフが目立つ。
「Uno para todos」
製作:Inicia Films / Fasten Films / Bolo Audiovisual / A Contracorriente Films /
Uno Para Todos La Pelicula AIE / Amalur AIE 協賛ナバラ政府、ICAA、RTVE、Movistar+
監督:ダビ・イルンダイン
脚本:バレンティナ・ビソ、コラル・クルス
撮影:ベト(エリザベス)・ローリッヒRourich
編集:エレナ・ルイス、アナ・チャルテ
音楽:ゼルティア・モンテス
美術:シェニア・ベソラ
キャスティング:イレネ・ロケ
衣装デザイン:イランツ・カンポス、オルガ・ロダル
メイク&ヘアー:(メイク)ジュディJudith・インベルノン、(ヘアー)ベンハミン・ぺレス
製作者:バレリー・デルピエール、アドリア・モネス、カロリナ・ゴンサレス、アドルフォ・ブランコ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、94分、撮影地バルセロナ県アレニス・デ・ムントArenys de Munt、アラゴン州サラゴサ県のカスぺ、期間2019年7月4日から6週間。配給A Contracorriente Films、販売Film Factory
映画祭・受賞歴:マラガ映画祭2020セクション・オフィシアル出品作品、延期のためスクリーン上映はなかった。マイアミ映画祭出品作品。
キャスト:ダビ・ベルダゲル(アレックス)、パトリシア・ロペス・アルナイス、クララ・セグラ、ベッツィ・トゥルネス、アナ・ラボルデタ、ホルヘ・ポベス、バレリア・エンドリノ(バレリア)、他オーディションで選ばれたサラゴサ県カスぺの子供たち。

(オーディションに集まったカスぺの子供たち)
ストーリー:34歳になる代用教員アレックスの物語。彼は今までまったく知らなかった小さな町の小学校に代用教員として赴任してきた。6年生の担任になるが、間もなくこのクラスに病気をもった一人の生徒を復学させねばならないことがわかった。クラスメイトは誰も彼が戻ってくることを望まなかった。それにはそれなりの理由があったのだが・・・。監督が新聞で読んだ美しい記事がベースになって映画化された。困難の克服、希望、文化や世代を超えた許しの必要性が語られるであろう。

(友達から復学を歓迎されない病気の生徒に扮した子役)
★ダビ・イルンダイン(パンプローナ1975)は、監督、脚本家。ナバラ大学でオーディオビジュアル・コミュニケーションを専攻、その後キューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの国際映画テレビ学校EICTVで映画を学ぶ。短編「Flores」(02)、「En el frigo」(04)、「Ejecución」(13)、「Acción-reacción」(13、17分)ではルス・ディアスやマカレナ・ゴメスを起用した。

(短編「Acción-reacción」のポスター)
★長編デビュー作が前述した「B, la pelicula」で、ゴヤ賞2016脚色賞ノミネーション、フェロス賞特別賞、2016ディアス・デ・シネ賞他を受賞した。国民党アスナル政権下で起きたスペイン最大級の汚職事件「グルテル事件」の裁判が描かれた。国民党の元会計責任者ルイス・バルセナスにペドロ・カサブランク、裁判官パブロ・ルスにマノロ・ソロを配し、二人はASECAN2016男優賞を揃って受賞した。企画当時は裁判中であったこと(結審2018年5月)や政治絡みであることから、テレビ局から資金提供が受けられず、クラウドファンディングで597人から集めた55,000ユーロを元手に製作された。2013年7月15日、バルセナスが収監されていた刑務所から法廷に移送されたところからドラマは始まる。

(バルセナス本人に酷似したペドロ・カサブランクを配したポスター)
★代用教員役のダビ・ベルダゲル(ジローナ1983)は、前述したようにカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』で孤児になってしまった姪の養父役を好演、2018年のゴヤ賞とフェロス賞の助演男優賞を受賞した。当ブログ初登場はダビの親友であるカルロス・マルケス=マルセの「10.000Km」でガウディ賞2015の主演男優賞を受賞、ゴヤ新人賞にノミネートされた。SXSW映画祭2014では、共演のナタリア・テナと特別審査員賞を受賞している。同監督の「Els dies que vindran」は、昨年のマラガ映画祭2019に出品、ベルダゲル自身は無冠だったが、実際の妻で劇中で夫婦を演じた舞台女優マリア・ロドリゲス・ソトが女優賞(銀賞)を受賞、カルロス・マルケス=マルセが作品賞「金のビスナガ賞」、監督賞(銀賞)に輝いた。彼は若くして今年の「マラガ才能賞」を受賞しているが、新型コロナウイルスのせいで授賞式はどうなるのか。最近ではパストール兄弟の『その住人たちは』(Netflix)で生意気なCM会社の幹部になった。
*ダビ・ベルダゲル紹介記事は、コチラ⇒2014年04月11日/2019年04月11日

(『悲しみに、こんにちは』のポスター)

(代用教員アレックス役のダビ・ベルダゲル、映画から)
★クララ・セグラ(バルセロナ1974)は、アメナバルの『海を飛ぶ夢』(04)で尊厳死協会員で主人公ラモンの相談にのるジェネ役を生き生きと演じていた女優。他にギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)、最近ではオリオル・パウロの『嵐の中で』(18、Netflix)に出演しており、夫とその愛人に殺されてしまう役柄だった。本作では復学してくる病気の生徒の母親役らしいが、作品の詳細がまだよく分からないので不確かです。少年の病気は小児がんのようで、他の生徒たちが復学を望まないのは、どうやら病気で休む前はいじめっ子だったからのようです。監督が読んだ新聞の記事がベースになっているということです。

(クララ・セグラ、子供と一緒に登校してくるシーンから)

(クララ・セグラと共演者のアルベルト・ヒメネス、『海を飛ぶ夢』から)
★パトリシア・ロペス・アルナイス(ビトリア1981)は、アメナバルの『戦争のさなかで』にミゲル・デ・ウナムノの次女マリア役で出演した。同郷バスク出身の監督フリオ・メデムの『ファミリー・ツリー 血族の秘密』(17、Netflix)や、人気TVシリーズ出演で知名度を上げている。
*『戦争のさなかで』の作品、ロペス・アルナイスのキャリア紹介は、コチラ⇒2019年11月26日

(パトリシア・ロペス・アルナイス、『戦争のさなかで』から)
★ベッツィ・トゥルネス(バルセロナ)は映画と舞台女優、公表されている生年は20世紀。カタルーニャ語のTVシリーズ出演が多く映画では脇役が多い。代表作はマラガ映画祭2016のコンペティション部門にノミネートされたマルク・クレウエトのブラック・コメディ「El rey tuerto」でしょうか。主役の一人を演じてガウディ賞にノミネートされた。他にはNetflix配信のコメディ『やるなら今しかない』、『オチョ・アペリードス・カタラナス』、ミニ映画祭で公開されたオリオル・パウロの密室殺人劇『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(17)、TVシリーズ「パキータ・サラス」に出演している。
*「El rey tuerto」の作品とベッツィ・トゥルネス紹介記事は、コチラ⇒2016年05月05日

(ベッツィ・トゥルネス、「El rey tuerto」から)
★スタッフ陣も女性が多く、先ず脚本のバレンティナ・ビソ(マル・コルの『家族との3日間』、ネリー・レゲラの『マリアとその家族』)とコラル・クルス(パコ・クルスの『エクリプス』、「Els dies que vindran」)が共同執筆している。製作の中核を担うバレリー・デルピエールはモナコ出身、『悲しみに、こんにちは』、今年のマラガのコンペティション上映の予定だったピラール・パロメロの「Las niñas」、イルンダイン監督のデビュー作「B, la pelicula」を、本作と同様にカロリナ・ゴンサレスと共同製作している。
★撮影監督ベト・ローリッヒBet Rourichは、ベルリン出身だがカタルーニャ映画視聴覚上級学校ESCACで映画を学んでいる。スペインのみならずイギリス、ドイツ、デンマーク、フランスとヨーロッパを駆け回っている。第66回サンセバスチャン映画祭2018のセクション・オフィシアル審査員の一人でもあった。音楽、編集、キャスティング、美術など、裏方の多くが女性ばかりというのも珍しいケースです。

(撮影中のベト・ローリッヒ)
★新型コロナウイリスは想像以上に悪賢い。今のような状態が何時終息するのか年単位になってきた。本作に限らず、映画をスクリーンで見られる可能性はしぼむばかりです。
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