第20回モレリア映画祭2022*映画祭沿革と受賞結果 ― 2022年11月10日 16:05
アレハンドラ・マルケスの「El norte sobre el vacío」が作品賞
★今年二十歳の誕生日を迎えることができたモレリア国際映画祭2022は、無事10月29日に終幕しました。アレハンドラ・マルケス・アベジャの「El norte sobre el vacío」が作品賞、脚本賞、男優賞(ヘラルド・トレホルナ)の大賞3冠を受賞しました。監督賞は「Manto de gemas」のナタリア・ロペス・ガジャルド、女優賞は「Dos estaciones」のテレサ・サンチェス、観客賞はミシェル・ガルサ・セルベラのホラー「Huesera」、ドキュメンタリー賞はマーラ&エウヘニオ・ポルゴフスキーの「Malintzin 17」などでした。作品賞を受賞した「El norte sobre el vacío」は、『虚栄の果て』の邦題でプライムビデオで配信が始まっています(10月28日)。主な受賞結果は以下の通りです。審査委員長はポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキ、『イーダ』(13)でアカデミー外国語映画賞を受賞したオスカー監督です。
(受賞を手にした女性シネアストたち、左からテレサ・サンチェス、
アレハンドラ・マルケス・アベジャ、ナタリア・ロペス・ガジャルド)
*第20回モレリア映画祭2022受賞結果*
作品賞:「El norte sobre el vacío」 アレハンドラ・マルケス・アベジャ
監督賞:ナタリア・ロペス・ガジャルド「Manto de gemas」
脚本賞:ガブリエル・ヌンシオ、アレハンドラ・マルケス・アベジャ
「El norte sobre el vacío」
男優賞:ヘラルド・トレホルナ「El norte sobre el vacío」
女優賞:テレサ・サンチェス「Dos estaciones」 監督フアン・パブロ・ゴンサレス
ドキュメンタリー賞:「Malintzin 17」 マーラ&エウヘニオ・ポルゴフスキ
観客賞-メキシコ長編部門:「Huesera」 監督ミシェル・ガルサ・セルベラ
観客賞-インターナショナル部門:「Close」(ベルギー) 監督ルーカス・ドン
観客賞-長編ドキュメンタリー部門:「Ahora que estamos juntas」
監督パトリシア・バルデラス・カストロ
女性監督ドキュメンタリー賞:「Ahora que estamos juntas」 同上
他に短編映画・ドキュメンタリー・アニメーションなど
★世界三大映画祭の流れに沿ってか女性監督の活躍が目立ったモレリアでした。作品賞の「El norte sobre el vacío」は、上述したように既にNetflixで『虚栄の果て』の邦題で配信中、アレハンドラ・マルケス・アベジャ監督は「私がこれまで作った映画のなかで、あらゆる面でもっとも自由な映画でした。自らに自由を与えたのです」と語った。監督については長編第2作「Las niñas bien」がマラガ映画祭2019で金のビスナガ賞(イベロアメリカ部門)を受賞した折りにキャリア&フィルモグラフィーをご紹介しています。本作もモレリアFF正式出品され、本邦では2020年7月に『グッド・ワイフ』の邦題で公開された。後日新作紹介を予定していますが、男優賞を受賞したヘラルド・トレホルナより、女性の名ハンター役を演じたパロマ・ペトラの生き方が光った印象でした。二人とも欠席でしたが、トレホルナはビデオメッセージで「多様性がスクリーンに持ち込まれた映画が勝利した」と監督を讃えていた。
*「Las niñas bien」(『グッド・ワイフ』)紹介記事は、コチラ⇒2019年04月14日
(受賞スピーチをするアレハンドラ・マルケス・アベリャ監督)
(新作「El norte sobre el vacío」のポスター)
★デビュー作が監督賞を受賞したナタリア・ロペス・ガジャルドは、1980年ボリビアのラパス生れだが、2000年前後にメキシコに渡っている。フィルム編集者として夫カルロス・レイガダス(『静かな光』『闇のあとの光』)、アマ・エスカランテ(『エリ』)、アロンソ・リサンドロ(『約束の地』)、ダニエル・カストロ・ジンブロン(「The Darkness」)他を手掛けている。レイガダスの『われらの時代』では夫婦揃って劇中でも岐路に立つ夫婦役に挑戦した。不穏な犯罪ミステリー「Manto de gemas」は、ベルリン映画祭2022で金熊賞を競い、異論もあったようだが審査員賞(銀熊賞)を受賞していた。
*監督キャリアと『われらの時代』紹介記事は、コチラ⇒2018年09月02日
(ナタリア・ロペス・ガジャルド監督)
★女優賞受賞のテレサ・サンチェスはフアン・パブロ・ゴンサレスの「Dos estaciones」で、男性たちが君臨するテキーラ工場経営を女性経営者として立ち向かう役を演じた。キャリア&作品紹介は、サンセバスチャン映画祭2022ホライズンズ・ラティノ部門で上映された折りにアップしております。
*テレサ・サンチェス紹介記事は、コチラ⇒2022年08月22日
(テレサ・サンチェス)
★女性へのハラスメントをテーマにしたデビュー作「Ahora que estamos juntas」(「Now that we are together」)で観客賞-長編ドキュメンタリー部門、女性監督ドキュメンタリー賞の2冠達成のパトリシア・バルデラス・カストロ監督、若い女性シネアストの台頭を印象づけた。一人で監督、脚本、撮影、編集、製作を手掛けたというクレジットに驚きを隠せません。
(パトリシア・バルデラス・カストロ)
★フィクション部門の観客賞も超自然的な体験をし始める妊婦のタブーを描いたホラー「Huesera」のミシェル・ガルサ・セルベラとこちらも女性監督が受賞した。監督はモレリアFFのほか、シッチェス、トライベッカ、各映画祭で新人監督賞や作品賞を受賞している。インターナショナル部門の観客賞には、3年ぶりに5月開催となったカンヌFF2022でグランプリを受賞したルーカス・ドンの「Close」が受賞した。
(主役のナタリア・ソリアンとミシェル・ガルサ・セルベラ監督)
★映画祭に姿を見せたのはオープニング作品に選ばれた『バルド』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ストップモーション・アニメーションで描くピノッキオ「Pinocho」*のギレルモ・デル・トロ、海外勢の招待客には、メキシコ映画出演もあるスペインのマリベル・ベルドゥ、2回目のパルム・ドールを受賞したリューベン・オストルンド、「Fuego」でタッグを組んだクレール・ドゥニ監督とジュリエット・ビノシュが参加するなどした。ビノシュはサンセバスチャン映画祭のドノスティア栄誉賞を受賞したばかりでした。
*『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の宣伝文句は「誰も見たことがないピノッキオ」の由、今年のクリスマスはもう決りです。11月25日公開、12月9日からNetflixで配信予定。
カンヌやベネチアをめざしていません――モレリア映画祭の沿革
★確かなテーマをもたずに唯メキシコ映画を広める目的で始まったモレリア映画祭 FICM が「当初このように長く続くとは思えなかった」と、創設者の一人建築家のクアウテモック・カルデナス・バテルは語っている。現在では大方の予測を裏切って、20年も続くメキシコを代表する国際映画祭となっている(国際映画製作者連盟に授与されるカテゴリーAクラスの映画祭)。どうしてメキシコシティではなくミチョアカン州のモレリア市だったのか、それは偶然かどうか分かりませんが、米国外でもっとも重要な映画館チェーンであるシネポリスの本社があったからでした。そして誕生に立ち合ったのは、女優サルマ・ハエックとフリア・オーモンド、製作者ヴェルナー・ヘルツォークとバーベット・シュローダー、作家のフェルナンド・バレホなどでした。
★当時の政党PANのフォックス大統領は映画学校や撮影スタジオの廃校廃止を画策しており、メキシコ映画界は危機的状況にあった。しかしアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ぺロス』(00)、アルフォンソ・キュアロン(クアロン)の『天国の入口、終りの楽園』(01)、カルロス・カレラの『アマロ神父の犯罪』(02)などがカンヌやオスカー賞など国際舞台で脚光を浴びるようになっていた。そんななかで、2003年第1回モレリア映画祭が開催され、ウーゴ・ロドリゲスの「Nicotina」が作品賞を受賞した。本作は第1回ラテンビート映画祭(ヒスパニックビート2004)のメキシカン・ニューウェーブ枠で『ニコチン』の邦題で上映された。人気上昇中のディエゴ・ルナが主演していた。
★設立者は、メキシコ短編映画会議をコーディネートした映画評論家のダニエラ・ミシェル、シネポリスの現ディレクターのアレハンドロ・ラミレス、上述の建築家クアウテモック・カルデナス・バテルなど。最初のコンペティション部門は短編映画だけだったそうで、その後ドキュメンタリーや長編を参加させていった。今では灰のなから蘇えった不死鳥のように、メキシコでもっとも前衛的な作品が観られる映画祭に育った。
トライベッカ映画祭でニュー・ナラティブ監督賞にチリの新人 ― 2020年05月11日 15:13
ガスパル・アンティーリョのデビュー作「Nadie sabe que estoy aquí」
★新型コロナウイリスCovid-19が全世界を席捲していることで、主要な映画祭は軒並み延期か中止に追い込まれています。トライベッカ映画祭は、911後のニューヨークを元気づけようと翌2002年に始まりました。第19回トライベッカ映画祭2020のオンライン上映の経緯は、前回触れましたように初めての試みとして観客なしだが賞ありで開催されました。全作が上映されたわけではないがネットやYouTubeで見ることができたようです。当然のことながらガラは開催されず、4月29日受賞結果が発表になった。審査員と受賞者はオンラインを通じてやりとりした。
★本映画祭は、US ナラティブ・コンペティションとインターナショナル・ナラティブ・コンペティションの2部門に大きく分かれています。チリのガスパル・アンティーリョのデビュー作「Nadie sabe que estoy aquí」が、後者のニュー・ナラティブ監督賞を受賞しました。チリのクール世代を代表するパブロ・ラライン&フアン・デ・ディオス・ラライン兄弟が設立した制作会社「ファブラ Fabula」がプロデュースしました。主人公メモ・ガリードにチリ出身だがアメリカで活躍するホルヘ・ガルシアが起用されました。ちょっとウルウルする物語です。
「Nadie sabe que estoy aquí」(映画祭タイトル「Nobody Knows I'm Here」)2020
製作:Fabula 協賛Netflix(USA)
監督:ガスパル・アンティーリョ
脚本:エンリケ・ビデラ、ホセフィナ・フェルナンデス、ガスパル・アンティーリョ
撮影:セルヒオ・アームストロング
編集:ソレダード・サルファテ
音楽:カルロス・カベサス
美術:エステファニア・ラライン
キャスティング:エドゥアルド・パシェコ
衣装デザイン:フェリペ・クリアド
助監督:イグナシオ・イラバカ、フアン・フランシスコ・ロサス
プロダクション・マネージメント:エンリケ・レルマン
製作者:アンドレア・ウンドゥラガ(エグゼクティブ)、フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、エドゥアルド・カストロ、クリスティアン・エチェベリア
データ:製作国チリ、スペイン語、2020年、ドラマ、100分、撮影地チリのバル・パライソ、フエルト・オクタイ、サンティアゴ、2018年クランクイン。
映画祭・受賞歴:第19回トライベッカ映画祭2020「インターナショナル・ナラティブ・コンペティション」部門、ワールドプレミア、ニュー・ナラティブ監督賞受賞
キャスト:ホルヘ・ガルシア(メモ・ガリード)、ルイス・ニエッコ(叔父)、ミリャライ・ロボス(マルタ)、ソランヘ・ラキントン、アレハンドロ・ゴイク、ネルソン・ブロト、フリオ・フエンテす、マリア・パス・グランドジェーン、ガストン・パウルズ、エドゥアルド・パシェコ、ロベルト・バンデル
ストーリー:メモは15年間のあいだ、チリ南部の人里離れた牧羊舎に閉じ込められている。ポップスターになるというかつての夢を諦め、大衆の目から遠ざかっていた。マルタはメモの歌声を聴いて、彼の才能が世間に知られる時が来たと思っている。彼女が彼の歌声を記録しビデオを投稿すると、口コミで広がっていき、それはメモを世界から切り離していた遠い過去の暗部を炙り出すことになる。なぜならメモの声が伝説上の花形歌手であったウイル・ウイリーズの声とそっくりだったからである。 (文責:管理人)
(メモ・ガリードに扮したホルヘ・ガルシア)
「姿は人生を決定づけ、人々の認識をゆがめて混乱させる」と監督
★ガスパル・アンティーリョGaspar Antilloのキャリアについては、2015年に監督、脚本、プロデュースした短編「Mala Cara」(Bad Face、8分)がマイアミ・ショート映画祭に出品されたこと以外、詳細が入手できていません。トライベッカ映画祭の監督インタビューでは「この映画はチリ南部に隠され忘れ去られた人物の肖像画です。若い女性の到着が彼の壊れやすい人生をどのように変えるかを描いています。今日の世界では、姿は人生を決定づけ、人々の認識をゆがめて混乱させます」と語っています。またNetflixにリリースされるにあたって、「映画のコンセプトは、疎外されたキャラクターの内面世界を探検するというアイデアから生まれた。偏見をもたずに彼の明るい部分だけでなく暗い部分も描いている」と語っている。
(マイアミ・ショート映画祭でのガスパル・アンティーリョ)
★少年メモは、美しい声の持ち主だったが太っちょでかっこいいとは言えななかった。ハンサムな少年の影武者として舞台裏で歌っていた。そのことは少年の心に深い傷跡を残すことになったというのがメモの暗い過去であった。成人したメモはチリ南部の人里離れた牧羊舎で叔父と一緒に暮らしている。人目を避けながらも豊かな内面世界を育んでいた。この太っちょのメモ・ガリードに扮したのがホルヘ・ガルシアだった。
(叔父役のルイス・ニエッコとメモ役のホルヘ・ガルシア)
(マルタ役のミリャライ・ロボスとメモ)
★ホルヘ・ガルシア Jorge Garcia、1973年ネブラスカ州オマハ生れの俳優、コメディアン。父親がチリ出身の医師、母親がキューバ出身の大学教師ということで、アメリカ人だがスペイン語が堪能。1995年UCLAでコミュニケーション学を専攻、演技はビバリー・ヒルズ・プレイハウスで学んだ。彼のキャリア情報は監督とは反対に豊富である。というのもアメリカABC製作のTVシリーズ、ミステリー・アドベンチャー「Lost」(2004~10「ロスト」)のヒューゴ’ハーリー’レイェス役でブレークしたからです。
(ヒューゴ・レイェス役のホルヘ・ガルシア、「Lost」から)
★スペイン語映画出演は、2011年のパコ・アランゴのコメディ「Maktub」に特別出演した。アランゴ監督はメキシコ生れ(1962年)だがスペインに移住、スペインで映画を撮っている。本作でゴヤ賞2012の新人監督賞にノミネートされている。出演者のゴヤ・トレドも助演女優賞にノミネートされている。続く2作目が同監督の「The Healer」(17)では神父に扮した。「Nadie sabe que estoy aquí」が3作目になる。クランクイン前に「このプロジェクトに参加できることを喜んでいます。私は何十年もチリに行っていないので、あちらの親戚との再会を楽しみにしています」と語っていましたが、果たして再会できたのでしょうか。
(J・ガルシア、アンドニ・エルナンデス、ゴヤ・トレド、ディエゴ・ペレッティ
「Maktub」から)
★ルイス・ニエッコ Luis Gnecco(サンティアゴ1662)は、パブロ・ララインの『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(16)でネルーダに扮している。他にグスタボ・G・マリノの『ひとりぼっちのジョニー』(1993)、フェルナンド・トゥルエバの『泥棒と踊り子』(09)、ララインの『No』などでチリの俳優としては知名度があるほうかもしれない。
(ネルーダになったルイス・ニエッコ、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』から)
★いずれ Netflix で世界配信されるということなので(アジアが除外されないことを切に願っています)視聴できたら再アップするつもりです。
オンライン映画祭 「We Are One :A Global Film Festival」 開催 ― 2020年05月09日 10:48
YouTubeとトライベッカ・エンタープライズ共同のオンライン映画祭
★全世界に蔓延している新型コロナウイリスのため、世界の主要な映画祭が軒並み延期か中止に追い込まれているさなか、4月27日に、YouTubeとトライベッカ・エンタープライズが共同でオンライン映画祭「We Are One:A Global Film Festival」の開催を発表しました。世界の20映画祭が参加する。サンセバスチャンを含めて、ベネチア、カンヌ、ベルリナーレ、サンダンス、グアダラハラ、アヌーシー(アニメ)、トロント、ロカルノ、エルサレム、カルロヴィ・ヴァリ、ロンドン、マカオ、マラケシュ、ムンバイ、ニューヨーク、サラエボ、シドニー、東京も参加する。期間は5月29日から6月7日までの10日間、無料で見ることができるが寄付は歓迎、新型コロナウイリス対策のために尽力している世界保健機構WHOに送られる。
★トライベッカ・エンタープライズとトライベッカ映画祭の代表ディレクターのジェーン・ローゼンタールは「私たちは映画の持つ力についてしばしば語ってきた。今こそ国境や意見の相違を超えて助け合い団結しなければならない。全ての人が治療を必要としている」と、WHOに寄付する理由を語っています。「各映画祭が果たしている芸術の価値や映画の力は比類のないものだ」とも。
(トライベッカ・エンタープライズの設立者のロバート・デ・ニーロと
最高責任者プロデューサーのジェーン・ローゼンタール)
★9月下旬開催のサンセバスチャン映画祭のホセ・ルイス・レボルディノス代表責任者は、まだ当映画祭開催の可能性がゼロになったわけではないが、このプログラム参加に合意したのは「多くのイベントが行える状態にない」ことを上げている。しかし具体的にどの作品を選ぶかは決まっていないが「当映画祭の場合は、比較的直近のスペイン映画になるだろう。つまり未公開作品からは選べない。次の映画祭がどうなるか分からないからです」と。秋開催を依然として諦められないカンヌ映画祭も同じ路線になるのでしょうか。特に映画館上映を前提にしてNetflix オリジナル作品を排除しているカンヌとしては、法的な制約をクリアーしなければならず、困難が予想されます。コロナが世界を変えようとしていることだけは確かです。
★テキサス州オースティンで開催される一大イヴェントSXSW、サウス・バイ・サウス・ウエスト映画祭が含まれていない。今年予定されていた3月13日~22日のリアルな映画祭は中止になったが、短編、ドキュメンタリー、ホラーを含む70作品をYouTubeでのオンラインによる限定公開をしていた。今回の「We Are One:A Global Film Festival」には不参加だが、同じ週にアマゾンを介して何作かを放映する予定だそうです。
(第19回トライベッカ映画祭2020)
★トライベッカ・エンタープライズが主催するトライベッカ映画祭は、同時多発テロ911後の復興を願って2002年に始まりました。今年は19回目を4月15日~26日に開催する予定でした。設立者のロバート・デ・ニーロや製作者のジェーン・ローゼンタールは、3月12日にニューヨーク州知事クオモ氏のロックダウンを受けて中止を発表した。しかし4月10日に観客なし賞ありのオンライン上映を発表、4月29日に結果発表がありました。当然ガラは開催されず、審査員と受賞者のやり取りはオンラインで配信されたようです。インターナショナル・ナラティブ部門のニュー・ナラティブ監督賞を受賞したチリの新人ガスパル・アンティーリョの「Nadie sabe que estoy aquí」が興味深かったので次回にアップします。ラライン兄弟の制作会社「ファブラFabula」が手掛けています。「We Are One:A Global Film Festival」に含まれているかどうか分かりませんが、Netflix が資金を提供しており、いずれ世界配信される予定です。
ホナス・トゥルエバ新作カルロヴィ・ヴァリ映画祭でFIPRESCI賞受賞 ― 2019年07月22日 18:18
ホナス・トゥルエバの「La virgen de agosto」が国際批評家連盟賞を受賞
★大分古いニュースになりましたが、第54回カルロヴィ・ヴァリ映画祭2019(7月6日ガラ)でホナス・トゥルエバの「La virgen de agosto」が国際批評家連盟賞 FIPRESCIと審査員スペシャル・メンションを受賞しました。父親フェルナンド・トゥルエバ監督と製作者の母親クリスティナ・ウエテ、叔父ダビ・トゥルエバ監督と恵まれた環境でありながら、現在は親に頼らず映画作りをしている。「この賞は謙虚で慎ましい映画に贈られる。世界のポジティブな見方をたもって、色調豊かな感情表現に取り組んだ一連のテーマも、それに相応しいものでした」というのが審査員の授賞作に選んだ理由でした。
(カルロヴィ・ヴァリFFに勢揃いしたスタッフ&キャスト、左から4人目が監督)
(ホナス・トゥルエバとイチャソ・アラナ、授賞式にて)
★既に本作の作品紹介&監督フィルモグラフィー、主演女優イチャソ・アラナを含むキャスト紹介をしております。スペイン公開予定8月15日がアナウンスされています。
*「La virgen de agosto」の作品紹介は、コチラ⇒2019年06月03日
(ヒロインのイチャソ・アラナ、映画から)
★スペイン語映画では、他にチリのフェリペ・リオス・フエンテスのデビュー作「El hombre del futuro」(チリ=アルゼンチン合作)も審査員スペシャル・メンションを受賞しました。チリのパタゴニアを舞台にした、父(ホセ・ソーサ)と娘(アントニア・ギーセンGiessen)の一種のロード・ムービーのようですが、かなり興味を惹かれました。いずれご紹介するとして目下は受賞報告だけにとどめます。キャストは他にパブロ・ララインの『ザ・クラブ』や『ネルーダ』の出演者ロベルト・ファリアス、セバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』のアンパロ・ノゲラ他、アルゼンチンからはルクレシア・マルテルの『ラ・ニーニャ・サンタ』のマリア・アルチェなどがクレジットされています。
(アントニア、プロデューサーのジャンカルロ・Nasi、監督、映画祭にて)
(ホセ・ソーサとアントニア・ギーセン、映画から)
第70回ロカルノ映画祭2017*ノミネーション発表 ― 2017年07月30日 17:26
古稀を迎えた小規模ながら世界有数の国際映画祭ロカルノ
(8月2日水曜日、いよいよ開幕されます)
★70回目で思い出すのは、戦後間もない1946年に始まったカンヌ映画祭です。ロカルノ映画祭もカンヌと同じ年に生まれました。カンヌやベネチア、ベルリンやトロントのような大規模な映画祭ではありませんが、芸術と商業のバランスを上手く取りながら、今では夏本番8月に開催される世界有数の国際映画祭としてレベルAに成長しました。ベネチアやトロント、サンセバスチャンなど秋開催の先陣を切って開催され、特に新人監督に広く門戸を開いています。スイス南部イタリア語圏のロカルノ市という立地条件の良さ、世界最大の野外スクリーン「ピアッツア・グランデ」(7500席)の上映などで人気を集めています。しかしどの映画祭も直面しているのが資金難と若い人の映画に対する考え方の変化です。今年のカンヌでも感じたことですが、未来に向けての新しい戦略が待たれるところです。
(1968年よりグランプリ作品には、トロフィー金豹が授与されるようになった)
★第1回のオープニング作品は、ロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』(“Roma, Citta Aperta” 1945)だったそうです。既にカンヌ映画祭でワールド・プレミアされていたが、特別賞を受賞しました。グランプリはルネ・クレールの『そして誰もいなくなった』で、ロッセリーニ自身も1948年に戦争三部作の第3作目『ドイツ零年』で受賞しています。彼のネオレアリズモと言われる映画手法は、スペインの若手シネアスト、ガルシア・ベルランガやアントニオ・バルデムにも大きな影響を与えました。日本も1954年に衣笠貞之助の『地獄門』が受賞しています。スペインは非常に遅くアルベルト・セラの”Historia de la meva mort”(2013、カタルーニャ語)が初めて受賞しました。
*アルベルト・セラの金豹賞受賞の記事は、コチラ⇒2013年8月25日
(金豹賞のトロフィーを手にしたアルベルト・セラ)
★さて2017年のコンペティション部門には、ブラジル映画、フリアナ・ロハス&マルコ・ドゥトラの ”As boas maneiras”(“Good Manners” 仏合作)と、チリのラウル・ルイス&バレリア・サルミエントの “La telenovela errante”(“The Wandering Soap Opera”1990)の2作がノミネーションされています。後者の監督ラウル・ルイスは2011年に亡くなっており、サルミエントはルイス監督夫人で編集者だった。1973年のピノチェトの軍事クーデタ以降フランスに亡命しており、ピノチェト失脚後に帰国した。その帰国後の第1作が本作である。1990年11月にたったの6日間で撮影したままの未完成作品をこの度サルミエントが完成させた。米国やチリなどにばらばらに保管されていたネガを編集したようです。多作家だったラウル・ルイスの第121番目の作品になるはずです。彼はロカルノでは、長編第2作となる1968年の “Tres tristes tigres” が、翌年金豹賞を受賞している。そんな経緯もあって今回ノミネーションされたのかもしれない。
(ラウル・ルイスとバレリア・サルミエント)
(出演のパトリシア・リバデネイラ、フランシスコ・レイェス、ルイス・アラルコン、映画から)
BAFICI第19回作品賞はアドリアン・オルの「Ninato」*ドキュメンタリー ― 2017年05月23日 15:44
受賞作のテーマは多様化する家族像と古典的?
★インターナショナル・コンペティションの最優秀作品賞は、アドリアン・オルOrrのデビュー作「Niñato」(2017)、どうやら想定外の受賞のようでした。本映画祭はデビュー作から3作目ぐらいまでの監督作品が対象で、4月下旬開催ということもあって情報が限られています。今年は20本、日本からもイトウ・タケヒロ伊藤丈紘の長編第2作「Out There」(日本=台湾、日本語142分)がノミネートされ話題になっていたようです。昨年のマルセーユ映画祭やトリノ映画祭、今年のロッテルダムに続く上映でした。審査員も若手が占めるからお互いライバル同士になります。スペインが幾つも大賞を取ったので審査員を調べてみましたら、以下のような陣容でした。
★エイミー・ニコルソン(米国監督)、アンドレア・テスタ(亜監督)、ドゥニ・コテ(カナダ監督)、ニコラスWackerbarth(独俳優・監督)、フリオ・エルナンデス・コルドン(メキシコ監督)の5人、最近話題になった若手シネアストたちでした。アルゼンチンのアンドレア・テスタは、カンヌ映画祭2016「ある視点」に夫フランシスコ・マルケスと共同監督したデビュー作「La larga noche de Francisco Sanctis」がノミネートされた監督、ニコラスWackerbarthは、間もなく劇場公開されるマーレン・アデのコメディ『ありがとう、トニ・エルドマン』に脇役として出演しています。フリオ・エルナンデス・コルドンは、米国生れですが両親はメキシコ人、彼自身もスペイン語で映画を撮っています。2015年の「Te prometo anarquía」がモレリア映画祭でゲレロ賞、審査員スペシャル・メンション、ハバナ映画祭脚本賞、他を受賞している監督です。ということでスペインの審査員はゼロでした。
*A・テスタ& F・マルケス「La larga noche de Francisco Sanctis」紹介は、コチラ⇒2016年5月11日
「Niñato」ドキュメンタリー、スペイン、2017
製作:New Folder Studio / Adrián Orr PC
監督・脚本・撮影:アドリアン・オル
編集:アナ・パーフ(プファップ)Ana Pfaff
視覚効果:ゴンサロ・コルト
録音:エドゥアルド・カストロ
カラーグレーディングetalonaje:カジェタノ・マルティン
製作者:ウーゴ・エレーラ(エグゼクティブ)
データ:製作国スペイン、スペイン語、2017年、ドキュメンタリー、72分、撮影地マドリード
映画祭・受賞歴:スイスで開催されるニヨン国際ドキュメンタリー映画祭Visions du Réel2017でワールド・プレミア、「第1回監督作品」部門のイノベーション賞受賞、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭Bafici2017「インターナショナル・コンペティション」で作品賞受賞
キャスト:ダビ・ランサンス(父親、綽名ニニャト)、オロ・ランサンス(末子)、ミア・ランサンス(次女)、ルナ・ランサンス(長女)
プロット・解説:ダビは3人の子供たちとマドリードの両親の家で暮らしている。定職はないが子育てをぬってラップ・シンガーとして収入を得ている。彼の夢は自分の音楽ができること、3人の子供たちを養育できること、自分の時間がもてて、それぞれあくびやおならも自由にできれば満足だ。重要なのは経済的な危機にあっても家族が一体化すること、粘り強さも必要だ。しかし時は待ってくれない、ダビも34歳、子供たちもどんどん大きくなり難しい年齢になってきた。特に末っ子のオロには然るべき躾と教育が必要だ。何時までも友達親子をし続けることはできない、ランサンス一家も曲がり角に来ていた。およそ伝統的な家族像とはかけ離れている、風変わりな日常が淡々と語られる。3年から4年ものあいだインターバルをとって家族に密着撮影できたのは、ダビと監督が年来の友人同士だったからだ。
短編第3作「Buenos dias resistencia」の続編?
★アドリアン・オルAdrián Orrは、マドリード生れ、監督。助監督時代が長い。ハビエル・フェセルの成功作『カミーノ』(2008)、ハビエル・レボージョの話題作「La mujer sin piano」(09、カルメン・マチ主演)、父親の娘への小児性愛という微妙なテーマを含むモンチョ・アルメンダリスの「No tengas miedo」(11)、劇場公開されたアルベルト・ロドリゲスの『ユニット7/麻薬取締第七班』(12)と『マーシュランド』(14)、フェデリコ・ベイロフのコメディ「El apóstata」(15)などで経験を積んでいる。
★今回の受賞作は2013年に撮った同じ家族を被写体にしたドキュメンタリー「Buenos dias resistencia」(20分)の続きともいえます。つまり何年かにわたってランサンス一家を追い続けているわけです。同作は2013年開催のロッテルダム映画祭、テネリフェ映画祭、Bafici短編部門などで上映、トルコのアダナ映画祭(Adana Film Festivali)の金賞、イタリア中部のポーポリ映画祭(Festival dei Popoli)、ポルトガルのヴィラ・ド・コンデ短編映画祭(Vila do Conde)ほかで受賞している。Bafici 2013の短編部門に出品されたことも今回の作品賞につながったのではないでしょうか。下の子供3人の写真は、短編のものです。他に短編「Las hormigas」(07)と「De caballeros」(11)の2作がある。
(ランサンス家の3人の子供たち、中央がルナ)
(ポーポリ映画祭でインタビューを受ける監督、2013年12月)
★タイトルになったniñatoは、若造、青二才の意味、普通は蔑視語として使われる。親がかりだから一人前とは評価されない。2013年ごろはスペインは経済危機の真っ最中、「EUの重病人」と陰口され、若者の失業率50パーセント以上、失業者など掃いて捨てるほどというご時世でした。しかし3人子持ちの父子家庭は珍しかったでしょう。少しは改善されたでしょうが、スペイン経済は道半ばです。別段エモーショナルというわけでなく、ダビが子供たちを起こし、着替えや食事をさせ、一緒に遊び、ベッドに入れるまでの日常を淡々と映しだしていく。オロがシャワーを浴びながら父親譲りのラッパーぶりを披露するのがYouTubeで見ることができます。現在予告編は多分まだのようです。
(niñatoのダビ・ランサンス)
★純粋なドキュメンタリー映画というよりフィクション・ドキュメンタリーficdocまたはドキュメンタリー・フィクションficdocと呼ばれるジャンルに入るのではないかと思います。ドキュメンタリーもフィクションの一部と考える管理人は、ジャンルには拘らない。今カンヌで議論されているネットフリックスが拾ってくれないかと期待しています。
ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭2017*結果発表 ― 2017年05月20日 15:51
スペイン映画が作品賞と監督賞を受賞しました!
(映画祭ポスターを背にした作品賞受賞者アドリアン・オル)
★カンヌ映画祭も開幕、オープニング作品、アルノー・デプレシャンの「Ismael's Ghost」が評判を呼んでいるようです。出演者はマチュー・アマルリック以下キラキラ星だから話題性に事欠かない。翌日には「ある視点」のオープニング作品「Barbara」も上映され、今年のアマルリックは何かの賞に絡みそうですね。カンヌに比べればブエノスアイレス・インディペンデント映画祭BAFICI*など吹けば飛ぶような存在ですが、今年は当ブログに登場させたスペイン映画が作品賞や監督賞を受賞したのでアップいたします。
*BAFICI(Buenos Aires Festival Internacional de Cine Independiente)ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭、長いのでBAFICIで表記されることが多い。ブエノスアイレス市で1999年から始まった国際映画祭。今年19回を迎え、年々内容を充実させておりますが、国際映画製作者連盟FIAPF公認ではなく、現在に近い陣容になったのは2008年の第10回からです。最初はインターナショナル部門の作品賞・監督賞・男優賞・女優賞・観客賞の5個だけでした。現在のオフィシャル・セレクションはインターナショナル部門とアルゼンチン部門に大別され、ほかにコンペティションは、ラテンアメリカ、アバンギャルド&ジャンル、人権、アルゼンチン短編と6部門、回によってカテゴリーの名称変更が目まぐるしい。そのほか賞には絡まない特別上映があります。今年は昨年死去したイランのアッバス・キアロスタミ、生誕100年&没後50年のビオレタ・パラ(チリ、1917~67)、没後25年のアストル・ピアソラ(アルゼンチン、1992)についてのドキュメンタリー映画が上映されたようです。2016年の入場者は約38万人、今年は大台の40万台に達しました。
★主な受賞作品、インターナショナル・コンペティション部門の作品賞は、アドリアン・オルOrrの長編ドキュメンタリー「Niñato」(西)の驚きの受賞、本作は当ブログ初登場です。マラガ映画祭2017の「金のビスナガ」受賞を果たしたカルラ・シモンのデビュー作「Verano 1993」(西)が監督賞とワールド・カトリックメディア協議会によるSIGNIS賞、さらに観客賞も受賞しました。オリジナル・タイトルはカタルーニャ語の「Estiu 1993」です。キロ・ルッソの「Viejo calavera」(ボリビア=カタール)は審査員特別賞、撮影監督パブロ・パニアグアの撮影賞ADF受賞、これは納得です。本作はサンセバスチャン映画祭2016「ホライズンズ・ラティノ」部門のスペシャル・メンション受賞作、カルタヘナ映画祭2017の作品賞も受賞している。アルゼンチン・コンペティション部門の作品賞は、BAFICIの常連受賞者アレホ・モギジャンスキーの「La vendedora de fósforos」でした。またアバンギャルド&ジャンルでは、ガリシアのオリべル・ラシェ(またはオリヴェル・ラセ)の「Mimosas」(モロッコ=西=仏=カタール)がスペシャル・メンションを受賞、カンヌ映画祭2016「批評家週間」でのグランプリ受賞を皮切りに国際映画祭巡りをした異色作でした。
★次回に未紹介の主な受賞作、作品賞受賞のアナウンスに会場は驚きに包まれたというアドリアン・オルOrrの長編ドキュメンタリー「Niñato」やアレホ・モギジャンスキーの「La vendedora de fósforos」などのプロットや監督キャリア紹介をいたします。
第32回グアダラハラ映画祭2017*結果発表 ― 2017年04月01日 17:30
エベラルド・ゴンサレス、作品賞とドキュメンタリー賞のダブル受賞
★グアダラハラ映画祭 FICG については、作品賞を受賞しても公開されるチャンスがないこともあり、目についた受賞作品をピックアップするだけです。昨年は作品賞を受賞したコロンビアのフェリペ・ゲレーロの「Oscuro animal」をご紹介しました。コロンビアにはびこる暴力について、コロンビア内戦の犠牲者3人の女性に語らせました。今年のメキシコ映画部門は、エベラルド・ゴンサレスの「La libertad del Diablo」(Devil’s Freedom)が最優秀作品賞とドキュメンタリー賞の2冠に輝き、マリア・セッコが撮影賞を受賞しました。フィクション部門とドキュメンタリー部門の両方にノミネーションされていたなど気づきませんでした。プレゼンターは今回栄誉賞受賞のメキシコの大女優オフェリア・メディナ、これは最高のプレゼンターだったでしょう。
(オフェリア・メディナからトロフィーを手渡されるエベラルド・ゴンサレス)
★ベルリン映画祭2017「ベルリナーレ・スペシャル」部門で、アムネスティ・インターナショナル映画賞を受賞した折に少しご紹介いたしました。こちらはメキシコのいとも簡単に振るわれる「メキシコの暴力の現在」について、犠牲者、殺し屋、警察官、軍人などに語らせています。各自報復を避けるため覆面を被って登場しています。衝撃を受けたベルリンの観客は固まって身動きできなかったと報じられたドキュメンタリーです。おそらく公開は期待できないでしょう。
(覆面を着用した証言者、映画から)
*「Oscuro animal」の紹介記事は、コチラ⇒2016年3月19日
*「La libertad del Diablo」の紹介記事は、コチラ⇒2017年2月22日
イベロアメリカ作品賞はカルロス・レチュガの「Santa y Andrés」が受賞
★カルロス・レチュガの「Santa y Andrés」は、サンセバスチャン映画祭2016「ホライズンズ・ラティノ」部門に正式出品されたキューバ、コロンビア、フランスの合作。他に脚本賞とサンタ役のローラ・アモーレスが女優賞を受賞。1983年のキューバが舞台、体制に疑問をもち、山間に隠棲しているゲイ作家のアンドレス、彼を見張るために体制側から送り込まれた農婦のサンタ、いつしか二人の間に微妙な変化が起きてくる。本作の物語並びに監督紹介、当時のキューバについての記事をアップしています。このカテゴリーには、同じキューバのフェルナンド・ぺレスの「Ultimos días en La Habana」やアルゼンチンの『名誉市民』、スペインからはアレックス・デ・ラ・イグレシアの『クローズド・バル』もノミネートされておりました。
★女優賞のローラ・アモーレスはシンデレラ・ガール、本作のため監督が街中でスカウトした。必要な時にはいつも留守の神様も、時として運命的な出会いを用意しています。人生は捨てたものではありません。本作のような体制批判の映画は、ラウル・カストロ体制下のキューバ映画芸術産業庁ICAICでは歓迎されないが、サンセバスチャンやグアダラハラ映画祭は評価した。この落差をどう受け取るかがキューバ映画の今後を占うと思います。
(サンタとアンドレス、映画から)
*「Santa y Andrés」の作品紹介記事は、コチラ⇒2016年8月27日
★早くもカンヌの季節が巡ってきました。第70回カンヌ映画祭2017の正式ポスターが発表され、今年のカンヌの顔はイタリアの往年の大スターCCことクラウディア・カルディナーレ、コンペティション審査委員長はペドロ・アルモドバル、期間は5月17日~26日です。
(踊って笑って生き生きしたフェリーニのミューズ、クラウディア・カルディナーレ)
セビーリャ・ヨーロッパ映画祭*”Mimosas”が審査員特別賞 ― 2016年11月25日 10:41
「金のヒラルダ」賞はフランス映画“Ma Loute”
★第13回セビーリャ・ヨーロッパ映画祭(11月4日~12日)は、「金のヒラルダGiraldillo de Oro」賞にブリュノ・デュモンBruno Dumontの“Ma Loute”を、審査員特別賞にオリヴェル・ラセの“Mimosas”を選んで閉幕しました。前者はカンヌ映画祭2016のコンペティション正式出品、後者は同映画祭のパラレル・セクション「批評家週間」のグランプリ受賞作品、大賞は二つともカンヌ絡みでした。年後半の11月に開催される映画祭はどうしても金太郎飴になりがちですが、どの製作会社も春と秋に照準を合わせるから致し方ありません。“Ma Loute”は社会階級についての辛辣な寓話、いずれ公開されるのではないか。昨年はホセ・ルイス・ゲリンの『ミューズ・アカデミー』がまさかの「金のヒラルダ」を受賞して驚いたのでした。セビーリャ上映がスペイン・プレミア、東京国際映画祭で上映されたばかりだったから、私たちのほうが先だったのです。
★“Mimosas”の作品紹介はカンヌ映画祭で既にアップしております。オリヴェル・ラセOliver Laxe、1982年パリ生れ、ガリシアへ移民してきたガジェゴ(gallego)。カタカナ表記はフランス語読みにしましたが、ガリシア語ならオリベル・ラシェかと思います。カンヌ映画祭2010のパラレル・セクション「監督週間」に出品したデビュー作“Todos vós sodes capitáns”(“Todos vosotros sois capitanes”/“You All Are Captains”2010,カラー&モノクロ、78分、スペイン語・アラビア語・フランス語)が、国際映画批評家連盟賞FIPRESCIを受賞しています。スペイン映画アカデミーが翌年のゴヤ賞新人監督賞にノミネートしなかったことで一部から批判されるということがありました。
*“Mimosas”の作品紹介記事は、コチラ⇒2016年5月22日
(撮影中のオリヴェル・ラセ)
★6年ぶりに撮った第2作“Mimosas”(モロッコ=スペイン=フランス、アラビア語)がカンヌ映画祭「批評家週間」でグランプリを受賞したうえ、今回の審査員特別賞とスペシャル・メンション音響デザイン&編集賞を受賞したことで、来年のゴヤ賞ノミネーションの行方が気になってきました。デビュー作ではないが初ノミネーションとして「新人監督賞」のカテゴリーの可能性があるかもしれません。過去にそういう事例があります。
★他にも何作か受賞作品がありますが、なかでパブロ・リョルカ(ジョルカ)Pablo Llorca Casanuevaの“Días color naranja”が「新しい波」部門のデラックス賞を受賞しました。1963年マドリード生れ、監督、脚本家、製作者。大学では芸術史を専攻、その後映画を学んで80年代後半から短編を発表、代表作品は“La espalda de Dios”(2001、西語)、ドイツで撮影した冷戦時代のスパイ物“La cicatriz”(2005、英語・独語)は、マラガ映画祭ZONA-CINEセクションの作品賞・脚本賞を受賞しています。
★こんなお話です。自由を満喫できる夏、手軽な手荷物一つの気ままな列車の旅、新しい体験、列車で知り合った仲間との冒険、芽生えたつかの間の恋、これこそ〈オレンジ色の日々〉というにふさわしい。2010年の夏、アイスランドの火山が爆発したせいで、韓国旅行からの帰途にあったアルバロは、アテネに足留めになってしまう。こうして列車の旅が始まったのだ。スウェーデンのベルタとは、ディケンズの『ピケウィック・クラブ』が縁で親しくなった。
(アルバロとベルタ、“Días color naranja”から)
「ロス・カボス」映画祭2016*メヒコ・プリメロのグランプリは”X500” ― 2016年11月19日 10:33
コロンビアのフアン・アンドレス・アランゴの“X500”
★第5回ロス・カボス映画祭(11月9日~13日)の結果発表があり、フアン・アンドレス・アランゴの“X500”が受賞しました。まだ5回と歴史も浅く知名度も高くありませんが、将来的には重要な映画祭になるのではないかと思います。開催地はバハ・カリフォルニア・スール州のリゾート地カボ・サン・ルーカス。メキシコの映画祭といえば、老舗のグアダラハラ、若いシネアストたちの信望が厚いモレリアは何度かご紹介していますが、本映画祭は初めてのご紹介です。正式名は「Festival Internacional del Cine de los Cabos」(英語略語CIFF)です。
★この映画祭の趣旨は、メキシコ、米国、カナダの架け橋となるような映画に贈られる賞、国境に壁ではなく橋を架けることを目的にした映画祭のようです。大きく分けるとメヒコ・プリメロ部門とワールド部門になります。今年のメヒコ・プリメロには、次の6作が選ばれました。サンセバスチャン映画祭でご紹介した“X500”が受賞したこと、今後イベロアメリカ映画の台風の目になるだろうことを予想してアップいたします。副賞としてグランプリには20万ドル、以下他の各賞にもそれぞれ賞金が授与される。
*メヒコ・プリメロMéxico Primero:
1)“X500”(メキシコ=カナダ=コロンビア)監督:フアン・アンドレス・アランゴ
(コロンビア) 最優秀作品賞受賞、副賞20万ドル
2)“Los Paisajes”(2015フランス=メキシコ=イギリス)同:ロドリゴ・セルバンテス
3)“Tamara y la Catarina”(メキシコ=スペイン)同:ルシア・カレラス
アート・キングダム賞、FIPRESCI賞を受賞
4)“Carroña”(メキシコ)同:セバスティアン・イリアルト(メキシコ)
5)“Bellas de noche” ドキュメンタリー(メキシコ)同:マリア・ホセ・クエバス 審査員賞
6)“La región salvaje”(メキシコ=デンマーク)同:アマ・エスカランテ(メキシコ)
(第5回ロス・カボス映画祭2016の受賞者たち、2016年11月13日)
★2カ国以上の合作を選考基準にしているようですが、上記からも分かるように必ずしもそうなっていないが、メキシコ以外の製作者がタッチしているケースが多い。昨今では合作が多く、1国単独での映画製作は難しくなっている。“Carroña”のセバスティアン・イリアルトは、“A tiro de piedra”(10)で長編デビュー、アリエル賞の作品賞と第1作監督賞を受賞している。“Carroña”をプロデュースしたベレン・カストロなど女性の躍進が珍しくなくなっている。
★今年はアメリカ大統領選挙投票日の翌日に開催、「国境に壁を作る」を選挙キャンペーンの一つにしたトランプ氏がまさかまさかの次期アメリカ大統領になり、メキシコに激震が走りました。「豊かな北」を目指すラテンアメリカ諸国民にとっては厳しい冬になりそうです。“La región salvaje”は、今年のベネチア映画祭に初ノミネートされたアマ・エスカランテが監督賞を受賞した作品です。
*“X500”の作品紹介記事は、コチラ⇒2016年9月2日
*“La región salvaje”ベネチア映画祭監督賞受賞の記事は、コチラ⇒2016年9月17日
(フアン・アンドレス・アランゴの“X500”)
★セクション・オフィシャルのグランプリは、イギリスのアンドレア・アーノルドの“American Honey”(16,英=米)が射止めました(副賞20万ドル)。カンヌ映画祭2016の審査員賞&エキュメニカル特別メンション賞受賞作品、カンヌではお馴染みの監督。長編デビュー“Red Road”(06)と第2作『フィッシュ・タンク』(09)がカンヌ映画祭の審査員賞をそれぞれ受賞している。後者はテレビ放映もされたのでご覧になっている方も多いと思います。今年の受賞者で目立つのが女性の活躍でしょうか。
(アンドレア・アーノルドの“American Honey”)
★生涯功労賞にイタリアの女優モニカ・ベルッチが選ばれ、華を添えました。栄誉賞はメキシコの撮影監督ロドリゴ・プリエト、代表作品はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス』(99)以降、『ビューティフル』(10)など多くの作品を手掛けている。アルモドバルが呼び寄せて撮らせた『抱擁のかけら』(09)、スコセッシの『ウォール・ストリート』(13)、アン・リーの『ブロークバック・マウンテン』(05)、『ラスト、コーション』(08)など公開作品も多く、監督からの信頼も高い。
(受賞のスピーチをするモニカ・ベルッチ)
(受賞のスピーチをするロドリゴ・プリエト)
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