ミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞*カンヌ映画祭2024受賞結果 ― 2024年06月07日 10:48
ポルトガルのミゲル・ゴメスの「Grand Tour」が監督賞
(トロフィーを手にしたミゲル・ゴメス、カンヌ映画祭2024ガラにて)
★カンヌ映画祭2024は、コンペティション部門の監督賞に「Grand Tour」(ポルトガル=伊=仏ほか)のミゲル・ゴメスを選びました。初期の短編、ドキュメンタリーを含めると既に17作を数えますが、劇場公開は第3作『熱波』1作のみ、今回カンヌFFの監督賞受賞作が『グランド・ツアー』の邦題で2025年公開が決定しています。先輩監督ペドロ・コスタ(『ヴァンダの部屋』『ホース・マネー』他)の後押しもあって、ミニ映画祭で特集が組まれるほどシネマニアのあいだでは人気の監督です。しかしスペイン語以上にマイナーなポルトガル語映画、公開に先立ってキャリア&フィルモグラフィーの予習をしてみました。
(左から、クリスタ・アルファイアチ、ゴメス監督、ゴンサロ・ワディントン、
カンヌ映画祭2024レッドカーペット、5月23日)
★簡単なストーリー:『グランド・ツアー』の舞台は1917年、公務員のエドワード(ゴンサロ・ワディントン)は、ヤンゴンでの結婚式の当日、婚約者のモリー(クリスタ・アルファイアチ)からの逃亡を企てます。しかし彼との結婚を決意したモリーは夫の逃亡を面白がり、シンガポール、バンコク、サイゴン、マニラ、大阪、上海とアジアの各都市を横断する彼の冒険を尾行することにします。
*ヤンゴンは2006年までミャンマー(旧称ビルマ)の首都だった大都市、英語風に訛ってラングーンで知られる。旧称サイゴンはベトナムのホーチミン市。
★というわけで監督と撮影隊は、ミャンマー、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、日本の各都市を移動した。コロナ禍で予定されていた中国上海での撮影は中止となったが、封鎖ぎりぎりセーフだった日本の京都鴨川での撮影はできフォトが公開されている。カラー&モノクロ、コダックフィルム16mmで撮影され、撮影監督は『ブンミおじさんの森』(10)のサヨムプー・ムックディプロム、ゴメス監督お気に入りの『自分に見合った顔』、『私たちの好きな八月』や『熱波』のルイ・ポサス、初参加のGui Liang 桂亮グイ・リャン、クランクインは2020年初頭、監督によると4年の歳月を要したということです。
(右端が京都の鴨川で撮影中のゴメス監督、2020年2月)
★日本側製作者として今夏7月に公開されるサスペンス・ドラマ『大いなる不在』の近浦啓監督が参画しています。本作はサンセバスチャン映画祭2023で藤竜也が銀貝賞の最優秀主演俳優賞、監督もギプスコア学芸協会賞を受賞した作品、藤竜也の受賞スピーチが絶賛されたことは当ブログで紹介しています。間もなく封切られます。
★ミゲル・ゴメス Miguel Gomes は、1972年リスボン生れ、監督、脚本家、フィルム編集者。リスボン映画演劇上級学校(Escola Superior de Teatro e Cinema di Lisbona)で学び、映画評論家としてキャリアをスタートさせる。イタリアのネオリアリズムとフランスのヌーベルバーグの影響を受けたニューシネマ運動の世代に属している。短編デビューは1999年の「Entretanto」(仮題「合い間」)以下9編、2004年の「A Cara que Mereces」で長編デビュー、第2作『私たちの好きな八月』は、カンヌFF2008併催の「監督週間」に正式出品され注目される。2010年、日本ポルトガル修好通商条約150周年を記念して、東京国立近代美術館フィルムセンターが企画した「マノエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠たち」で、ジョアン・セーザル・モンテイロ、ペドロ・コスタ、パウロ・ローシャなどと並んで若手監督の一人として本作が紹介された。この映画祭は当時ちょっとしたポルトガル映画旋風を巻き起こした。
(ゴメス監督、カンヌFF2024,フォトコール)
★カンヌ映画祭2015併催の「監督週間」にノミネートされた「アラビアン・ナイト三部作」(6時間21分)は、「第2回広島国際映画祭2015」(11月20日~23日)で特集が組まれ、3分割された第1部~第3部が一挙上映された。ゴメス監督も来日してQ&Aに参加、前作の『熱波』もエントリーされた。後に「イメージフォーラム・フェスティバル2019」が企画され、東京初上映となったが、その他ミニ映画祭での上映もあり、マイナーながら日本語字幕入りで鑑賞できた監督。公開作品は上記したように『熱波』のみ、2025年の「グランド・ツアー」が待たれるところである。2012年ポルトガルは、スペイン同様経済危機に見舞われ、EUのお荷物といわれた。監督によると「貧乏であることの唯一のメリットは、大ヒット作を放つ義務から解放され、少し自由が得られることです」と皮肉っている。
(公開された『熱波』ポスター)
*因みにアントワーン・フークアの『サウスポー』(15)にジェイク・ギレンホールの対戦相手として共演しているミゲル・ゴメス(Gómez)は、1985年コロンビアのカリ生れの俳優です。米国のTVシリーズに出演している。またホラーコメディ『パラノーマル・ショッキング』(10)の監督は、コスタリカのミゲル・アレハンドロ・ゴメス(Gómez / Gomez サンホセ1982)で別人です。メジャーな名前なのでネットでの紹介記事に混乱が見られます。以下に主なフィルモグラフィーをアップしておきます。目下配信されている動画は見つかりませんでした。
*主なフィルモグラフィー(短編割愛、主な受賞歴)
2004「A Cara que Mereces」『自分に見合った顔』ポルトガル、108分、監督・脚本
インディリスボア・インディペンデントFF作品・批評家賞
2008「Aquele Querido Mes de agosto」『私たちの好きな八月』同上、147分、監督・脚本
BAFICIブエノスアイレス国際インディペンデントFF2009作品賞、
バルディビアFF国際映画賞、ポルトガルのゴールデングローブ2019作品賞、
グアダラハラFF特別審査員賞、サンパウロFF2008批評家賞、
ビエンナーレ2008FIPRESCI賞、カンヌFF2008併催の「監督週間」正式出品
2012「Tabu」『熱波』ポルトガル・独・ブラジル、118分、公開2013、監督・脚本・編集
ベルリンFF2012、FIPRESCI賞&アルフレッド・バウアー賞受賞、ゲントFF作品賞、
ポルトガルのゴールデングローブ2013作品賞、ラス・パルマスFF2012観客賞他、
ポルトガル映画アカデミー ソフィア賞2013編集賞、他多数
2015「As Mil e Uma Noites: Volume 1, O Inquieto」
『アラビアン・ナイト 第1部休息のない人々』ポルトガル・仏・独・スイス、
125分、監督・脚本
「As Mil e Uma Noites: Volume 2, O Desolado」
『アラビアン・ナイト 第2部孤独な人々』同上、132分、監督・脚本
「As Mil e Uma Noites: Volume 3, O Encantado」
『アラビアン・ナイト 第3部魅了された人々』ポルトガル・仏・独、125分、同上
*以上「三部作」はカンヌFF2015併催の「監督週間」正式出品された。
ポルトガルのゴールデングローブ2016作品賞、シドニーFF2015作品賞、
コインブラFF2015監督・脚本賞、セビーリャ・ヨーロッパFF作品賞、
シネヨーロッパ賞2016トップテン入り、他
2021「Diários de Otsoga」『ツガチハ日記』モーレン・ファゼンデイロとの共同監督、脚本
ポルトガル・仏、102分、カンヌFF2021併催の「監督週間」正式出品、
マル・デル・プラタFF2021監督賞、イメージフォーラム・フェスティバル2022上映
2024「Grand Tour」『グランド・ツアー』ポルトガル・仏・伊・独・日本・中国、129分、
監督・脚本、カンヌFF2024監督賞、2025公開予定
*2023年にスペインのヒホン映画祭の栄誉賞を受賞している。
女優賞は「エミリア・ぺレス」の4女優の手に*カンヌ映画祭2024受賞結果 ― 2024年06月04日 14:10
4人を代表してカルラ・ソフィア・ガスコンが登壇!
(カルラ・ソフィア・ガスコンとプレゼンターの前男優賞受賞者役所広司)
★第77回カンヌ映画祭2024は、パルムドールにショーン・ベイカーの「Anora」(米国)、グランプリにパヤル・カパディアの「All We Imagine as Light」(インド)を選んで閉幕しました。両受賞者ともカンヌ初参加、世代交代を歓迎する半面、コンペティション部門の質低下が話題になった今年のカンヌでした。大物監督たちコッポラ、クローネンバーグ、ソレンティーノなどは無冠に終わりました。
(カンヌに集合したスタッフ&キャスト陣、カンヌ5日目の5月18日)
★当ブログ関連受賞作品は、審査員賞(ジャック・オーディアール)と女優賞(アドリアナ・パス、ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレナ・ゴメス)をダブルで受賞した「Emilia Pérez」(仏=米=メキシコ)、オーディアール監督はカンヌの常連として紹介不要ですが、受賞者4名はアメリカのスーパースターのセレナ・ゴメス、「アバター」のゾーイ・サルダナ(サルダーニャ)は別として、メキシコのアドリアナ・パス、スペインのカルラ(カーラ)・ソフィア・ガスコンは、メキシコ、スペインでこそ知名度がありますが、カンヌのような国際的な大舞台で脚光を浴びたのは恐らく今回が初めてのことでしょう。カンヌ5日目の5月18日に上映された。
(カルラ・ソフィア・ガスコンとジャック・オーディアール、カンヌ映画祭2024ガラ)
★フォトコールには4人揃ってカメラにおさまりましたが、授賞式までカンヌに留まった、エミリア・ぺレス役を演じたカルラ・S・ガスコンが登壇、昨年の男優賞受賞者の役所広司の手からトロフィーを受けとりました。トランスジェンダー女性としてカンヌで「初めて女優賞を受賞した」と報道されたガスコンは、壇上から「苦しんでいるすべてのトランスジェンダーの人々に捧げる」とスピーチしたということです。これには後日談があって、このスピーチを聞いた国民戦線の創設者ジャン≂マリー・ルペンの孫娘で極右政治家マリオン・マレシャル・ルペンが早速Xに「性差別的な侮辱」文を投稿、すかさずガスコンが告訴の手続きをしたということです。
(左から、アドリアナ・パス、カルラ・S・ガスコン、ゾーイ・サルダナ、セレナ・ゴメス)
★「犯罪ミュージカル・コメディ」と作品の紹介文にありましたが、どんな作品なのでしょうか。
*ストーリーをかいつまんで紹介しますと、舞台は現在のメキシコ、弁護士のリタ(ゾーイ・サルダナ)は、彼女のボスから思いもかけない申し出を受けます。周囲から怖れられているカルテルのボスが麻薬ビジネスから引退して、彼が長年夢見ていた女性になって永遠に姿を消すのを手伝わねばならなくなります。リタは正義に仕えるよりも犯罪者のゴミ洗浄に長けた大企業で働くことで、その才能をあたら浪費していましたが・・・
★カルテルのボスことフアン・”リトル・ハンズ”・デルモンテ役にガスコン、その妻にセレナ・ゴメスが扮する〈麻薬ミュージカル・コメディ〉のようです。上映後のスタンディングオベーション9分間は、オーディアール映画でも2番目に長かった由、性別移行に固執せず、家族、愛、メキシコに蔓延する暴力の犠牲者というテーマを探求したことで批評家からは高評価を受けていた。そして〈9分間〉のスタンディングオベーションで観客からも受け入れられたことが証明された。いずれ日本語字幕入りで鑑賞できる日が来るでしょう。
★カルラ・ソフィア・ガスコン・ルイスは、1972年マドリードのアルコベンダス生れの52歳、フアン・カルロス・ガスコン→カルラ・ソフィア→カルラ・ソフィア・ガスコンと、時代と作品によってクレジット名が変わる。2018年9月、自叙伝 ”Karsia. Una historia extraordinaria” を出版、性別適合手術を受けてカルラ・ソフィア(Karla Sofía)になったことを発表した。ECAM(マドリード映画オーディオビジュアル学校)の演技科卒、1994年「La Tele es Tuya Colega」でヴォイス出演、映画デビューは1999年、アレックス・カルボ・ソテロの「Se buscan fulmontis」のクラブのジゴロ役、エンリケ・ウルビスの『貸金庫507』(02)、フアン・カルボの「Di que sí」(04)、アントニ・カイマリ・カルデスの「El cura y el veneno」(13)の神父役、映画よりTVシリーズ出演が多い。
(感涙にむせぶカルラ・ソフィア・ガスコンカンヌ映画祭2024ガラ)
★国籍はスペインだが2009年にメキシコに渡り、サルバドール・メヒア製作の「Corazón salvaje」(09~10)にヒターノのブランコ役で出演、テレノベラ賞の新人男優賞にノミネートされた。以来両国のTVシリーズ(9作)や映画(8作)で活躍している。メキシコ映画では、ゲイリー・アラスラキのコミックドラマ「Nosotros, los Nobles」(13)にペドロ・ピンタド、愛称ピーター役で出演している。本作は公開当時、メキシコ映画史上における興行収入ナンバーワンとなったヒット作。2021年、Netflixが英語でリメイク版の製作を発表している。カルラ・ソフィア・ガスコンとして出演したメキシコのTVシリーズ「Rebelde」(22、16話)は、『レベルデ~青春の反逆者たち~』の邦題でNetflixが配信している。
★アドリアナ・パスは、1980年メキシコ・シティ生れの44歳、メキシコ自治大学哲学部で劇作法と演劇を専攻、キューバのロスバニョス映画学校で脚本を学ぶなど、女優でなく監督、脚本家を志望していた。東京国際映画祭2013コンペティション部門にノミネートされ最優秀芸術貢献賞を受賞した、アーロン・フェルナンデスの第2作『エンプティ・アワーズ』(「Las horas muertas」)でヒロインを演じた。カルロス・キュアロンの『ルドとクシ』(09)ほか、マヌエル・マルティン・クエンカの「El autor」(17、「小説家として」)、新しいところではNetflixで配信されている、ロドリゴ・グアルディオラ&ガブリエル・ヌンシオの『人生はコメディじゃない』(21、「El Comediante」)に出演している。『エンプティ・アワーズ』でキャリア紹介をしています。
*アドリアナ・パスのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2013年11月07日
(アドリアナ・パス、カンヌ映画祭2024フォトコール)
★セレナ・ゴメス(テキサス州1992)は、女優、歌手、ダンサー、ソングライター、モデル、ユニセフ親善大使とすこぶる多才、31歳ながら出演本数も受賞歴も書ききれない。日本語版ウイキペディアに詳細な紹介文があり割愛しますが、オーディアール監督が本作で起用するまでセレナの活躍をご存じなかったことが話題になっています(笑)。ゾーイ・サルダナ(本名ソエ・サルダーニャ、ニュージャージー州1978)は、2009年ジェームズ・キャメロンの『アバター』のネイティリ役で一躍有名になった。『アバター』の続編、「アバター3」(仮題、24)、「アバター4」(26)にも起用されている。映画にテレビに、ヴォイス出演も含めて活躍している。多くが吹き替え版で鑑賞でき、日本語版ウイキペディアあり。
(セレナ・ゴメスとゾーイ・サルダナ、カンヌ映画祭2024フォトコール)
★監督賞のミゲル・ゴメスの「Grand Tour」(ポルトガル)、来年「グランド・ツアー」で公開がアナウンスされている。
ホナス・トゥルエバの新作「Volveréis」*カンヌ映画祭併催の「監督週間」 ― 2024年05月27日 18:00
愛の終わりを盛大に祝う離婚式?
★「監督週間」と「批評家週間」はカンヌ映画祭の公式部門ではないので正確にはカンヌではない。しかし運営母体が違ってもカンヌの一部ではあるので、当ブログでは併催と但し書きを入れている。今回は長編21作と短編を含めると30作がノミネートされた。本体のコンペティション部門にはスペイン映画はゼロでしたが、こちらにはホナス・トゥルエバの10作目となるコメディドラマ「Volveréis」が選ばれた。フランス語タイトルは「Septembre sans attendre」、英題は「The Other Way Around」として紹介されている。波乱万丈な事件は何も起こらないようですが、ヨーロッパ映画賞受賞のニュースが入ってきましたのでアップします。昨年エレナ・マルティン・ヒメノがカタルーニャ語で撮った「Creatura」が受賞した賞で、ガウディ賞2024を席巻したのでした。
★もう一つの「批評家週間」は新人登竜門的な立ち位置で、監督作品2作までが対象、今年は7作選ばれ、中にアルゼンチンのフェデリコ・ルイス(ブエノスアイレス1990)のデビュー作「Simon of the Mauntain」がエントリーされています。新人監督とはいえ短編などで高い評価を得ている監督作品から選ばれることが多い。
「Volveréis」(「Septembre sans attendre」・「The Other Way Around」)
製作: Los Ilusos Films / Alte France Cinéma / Les Films du Worso
監督:ホナス・トゥルエバ
脚本:イチャソ・アラナ、ビト・サンス、ホナス・トゥルエバ
撮影:サンティアゴ・ラカ
編集:マルタ・ベラスコ
音楽:イマン・アマル、アナ・バリャダレス、ギジェルモ・ブリアレス
プロダクション・マネジメント:アンヘレス・ロペス・ゲレーロ
プロダクション・デザイン:ミゲル・アンヘル・レボーリョ
製作者:アレハンドロ・アレナス、シルヴィ・ピアラ、オリヴィエル・ペレ
データ:製作国スペイン=フランス、2024年、言語スペイン語、ロマンティックコメディ、114分、撮影地マドリード郊外ほか、2023年の晩夏から初秋の11月上旬。配給:Elasticaエラスティカ(スペイン)、Arizonaアリゾナ(フランス)、公開:スペイン2024年8月30日、フランス8月28日
映画祭・受賞歴:第77回カンヌ映画祭併催の「監督週間」ノミネート、ヨーロッパ映画賞ヨーロッパ・シネマズ・ラベル受賞
キャスト:イチャソ・アラナ(映画監督のアレ)、ビト・サンス(映画俳優のアレックス)、フェルナンド・トゥルエバ(アレの父親)、ジョン・ヴィアル(脚本家)、他
ストーリー:アレとアレックスのカップルは、15年間の関係を解消して円満に別れることを決意しています。二人はアレの父親のアドバイスにそって、夏の終わりに家族や友人、隣人を招待して結婚式のような盛大なお別れパーティを企画しました。しかしこのニュースは周囲を唖然とさせ、二人が別れる可能性を受け入れられません、何故かというと二人はうまくやってるようだからです。ばかげていて、もの悲しく、ちょっぴり笑えて、古風な優しさに満ちている。観光地から外れたマドリード郊外を舞台に、映画業界の隅っこで働く人々を活写している。
(冷静で賢いアレと少し迷子になっているアレックス、フレームから)
カンヌ初出品でヨーロッパ映画賞受賞!
★パルムドールより一足先に「監督週間」の受賞者が発表されましたが、もともと監督週間自体はコンペティションではないので審査員がいるわけではありません。賞は外部機関によって授与されます。フランスの劇作家・作曲家協会が授与するSACD賞に昨年若くして鬼籍入りしたフランスのソフィー・フィリエールの「This Life Of Mine」が受賞、オープニング作品で評価が高かったようです。欧州映画ネットワークが選ぶヨーロッパ映画賞ヨーロッパ・シネマズ・ラベルにホナス・トゥルエバ、既に日本では報道されている国際映画批評家連盟が選ぶFIPRESCI賞に山中瑤子の『ナミビアの砂漠』が受賞しました。
(受賞を喜ぶ左から、イチャソ・アラナとホナス・トゥルエバ)
★カンヌでのプレス・インタビューでは、「お別れパーティのアイデアは、何年も前から構想していましたが、結局のところ、悲しみが多すぎて、実際にこんなことをする人はおりません。映画は実生活では敢えてできないことをさせてくれます。イチャソ・アラナとビト・サンスの起用は最初から決まっていたので、二人に創作プロセスに参加してもらうことを提案しました。彼らを共犯者として映画全体の構成、キャラクター、セリフに協力してもらい、結局3人共同で脚本を執筆することになった」と語っている。
★マドリードを舞台に選んだのは、自分のよく知っている場所で撮影するのが好きなこと、何かが終わり、何か新しいことが起こっていることが感じられる夏の終わりの雰囲気が重要でした。40度の酷暑のなかでクランクイン、まだ秋だというのにコートを着用、雨が降り氷点下になってしまったと語っている。
★フランスとの合作は初めてだそうで、ハビエル・ラフエンテと共同で設立した制作会社「Los Ilusos Films」とシルヴィ・ピアラのパートナーであるアレハンドロ・アレナスのお蔭で、自然に実現した。パリに本社を置くピアラの制作会社「Les Films du Worso」の協力を得ることができたのは、「とても贅沢なことでした」とも語っている。カンヌに選ばれた一因かもしれない。 因みにスペイン語の〈Iluso〉は、夢想家または騙されやすい人をさします。
★ホナス・トゥルエバ(マドリード1981)は、父フェルナンド・トゥルエバ監督と製作者の母クリスティナ・ウエテの息、ダビ・トゥルエバ監督、ドキュメンタリー作家ハビエル・トゥルエバは叔父にあたる。父親が監督した『泥棒と踊り子』(09)で脚本家デビュー、「Todas las canciones hablan de mí」で監督デビュー、ゴヤ賞2011新人監督賞にノミネートされた。マラガ映画祭2015で審査員特別賞を受賞した「Los exiliados románticos」、ラテンビート2019で上映された『8月のエバ』、ゴヤ賞2022長編ドキュメンタリー賞を受賞したドク・ドラマ4部作「Quien lo impide」などで、キャリア&フィルモグラフィーを紹介をしています。
(仲睦まじいホナス・トゥルエバとイチャソ・アラナ、カンヌにて)
*「Los exiliados románticos」の紹介記事は、コチラ⇒2015年04月23日
*『8月のエバ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年06月03日
*「Quien lo impide」の紹介記事は、コチラ⇒2021年08月16日
(イチャソ・アラナ、『8月のエバ』のフレームから)
★2022年の「Tenéis que venir a verla」が、EUフィルムデーズ2023で『とにかく見にきてほしい』という邦題で上映された。これには新作の主役二人イチャソ・アラナとビト・サンスも共演しています。若手ながら日本語字幕入りで鑑賞できる幸運な監督の一人です。
★『8月のエバ』で脚本家デビューした主演のイチャソ・アラナ(1985)は、監督のパートナーで新作でも脚本を共同執筆しています。Netflixで配信された初期の作品「La reconquista」(16、邦題『再会』)、ダニエル・サンチェス・アレバロの『最後列ガールズ』(TVミニシリーズ6話)に出演しています。同じくダビ・トゥルエバ作品の常連でもあるビト・サンスも今回脚本執筆に参画、直近ではマラガ映画祭2024出品のダビ・トゥルエバの「El hombre bueno」に出ている。アレの父親を演じている実父フェルナンド・トゥルエバはIMDbにはクレジットされているが、スクリーンには現れないようです。現れるのは古びたガウンだったり、バスローブらしい(笑)。二人を取り巻く登場人物は、映画業界の端っこで働く人々です。
*『再会』の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月11日
*「El hombre bueno」の紹介記事は、コチラ⇒2024年03月08日
(ビト・サンスと共演のホルヘ・サンス、「El hombre bueno」フレームから)
★撮影監督のサンティアゴ・ラカは、「Los ilusos」、『再会』、『8月のエバ』、『とにかく見にきてほしい』ほか、当ブログ紹介のカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』、カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』、リノ・エスカレラの『さよならが言えなくて』など、慎重なフレーミングと落ち着いたトーンで観客を魅了している。まだ予告編はアップされていないが楽しみである。また本作には40年代のハリウッド再婚コメディ、例えばケーリー・グラントが早口でまくしたてるハワード・ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』の2024年版と紹介されているから、離婚式ではなく再婚式のリハーサルでしょうか。
A.J. バヨナ監督がパルムドールの審査員に*カンヌ映画祭2024 ― 2024年05月07日 16:25
審査委員長は『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督に!
★間もなく開催される第77回カンヌ映画祭2024(5月14日~25日)のコンペティション部門の審査団が発表になっています。日本からも是枝裕和監督が選出されたことがニュースになっていました。審査団の委員長に『バービー』や『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督(1983)が選ばれ、女性監督が委員長を統べるのはジェーン・カンピオン以来とか。女優、脚本家としての豊富なキャリアの持ち主だが長編映画としては『バービー』が3作目になり、40歳の委員長は最年少ではないがいかにも若い。以下の9名がパルムドールを選ぶ重責を担うことになりました。
★審査委員長グレタ・ガーウィグ(米の監督・脚本家・女優)、オマール・シー(仏の俳優・製作者)、エブル・ジェイラン(トルコの脚本家・写真家)、リリー・グラッドストーン(米の女優)、エヴァ・グリーン(仏の女優)、ナディーン・ラバキー(レバノンの監督・脚本家・女優)、A.J. バヨナ(西の監督・脚本家・製作者)、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(伊の俳優)、是枝裕和(監督・脚本家)
(審査委員長グレタ・ガーウィグ監督)
★バヨナ監督は、長編デビュー作『永遠のこどもたち』(07)がカンヌ映画祭と併催の「批評家週間」にノミネートされた以外、本祭との関りは薄く、最近イベロアメリカ・プラチナ賞6冠の『雪山の絆』もベネチア映画祭でした。オマール・シーは、東京国際映画祭2011のさくらグランプリ受賞作『最強のふたり』で刑務所から出たばかりで裕福な貴族の介護者を演じた俳優、ナディーン・ラバキーは、2018年の審査員賞を受賞した『存在のない子供たち』の監督、2018年は是枝監督が『万引き家族』でパルムドールを受賞した年でした。
(A.J. バヨナ監督、ベネチア映画祭2023年9月10日)
★興味深いのがトルコのエブル・ジェイランで、カンヌの常連監督である夫ヌリ・ビルゲ・ジェイランの共同脚本家として活躍している。2003年のグランプリ『冬の街』、2008年の監督賞『スリー・モンキーズ』、2011年のグランプリ『昔々、アナトリアで』、そして劇場初公開となった2014年のパルムドール『雪の轍/ウィンター・スリープ』などの脚本を共同で執筆している。2014年の審査委員長がジェーン・カンピオン監督でした。
★また異色の審査員がリリー・グラッドストーン、先住民の血をひく女優で、2016年のケリー・ライヒャルトの群像劇『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』で、複数の助演女優賞を受賞している。またスコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で、先住民出身の女優として初めてゴールデングローブ賞2024主演女優賞を受賞したばかり、今年の審査団はコンペティションの作品以上に興味が尽きない。
★スペインからは、カンヌ本体とは別組織が運営する「批評家週間」(5月15日~24日)の審査員に、『ザ・ビースト』(公開タイトル『理想郷』)のロドリゴ・ソロゴジェンが選ばれています。本作は2022年カンヌ・プレミェール部門で上映されました。彼にしろバヨナにしろ、比較的若手ながらバランス感覚の優れたシネアストが審査員に選ばれるようになりました。
(本作でセザール外国映画賞を受賞したロドリゴ・ソロゴジェン、2023年2月24日)
カンヌ映画祭欠席に関するエリセ監督の公開書簡*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月30日 14:16
泥沼化の様相を示しはじめた両者の言い分
(特別ゲストのジェーン・フォンダからトロフィを受けとったジュスティーヌ・トリエ)
★5月27日、カンヌ映画祭はパルムドールにジュスティーヌ・トリエのスリラー「Anatomy of a Fall」(仏)を選んで閉幕しました。女性監督の受賞は76回にして3人目(!)。是枝チームの『怪物』も脚本賞(坂元裕二)とクィア・パルム賞(是枝裕和)を受賞、ヴィム・ヴェンダースの「Perfect Days」(日本)に公衆トイレの清掃員役で主演した役所広司が男優賞を受賞するなど、日本勢には収穫のあるカンヌでした。坂元氏は帰国しており、監督が代理で受け取った。スペインはコンペティション部門ノミネートはありませんでしたが、カンヌFF併催の「監督週間」にノミネートされていたエレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」が、2003年に新設された「最優秀ヨーロッパ映画賞」を受賞しました。
*「Creatura」の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月22日
(脚本賞を代理で受け取った是枝監督と男優賞受賞の役所広司)
(帰国した監督からトロフィを受け取った坂元裕二)
(赤いドレスがエレナ・マルティン・ヒメノ監督、カンヌFF5月22日)
★スペインでは5月24日に、ビクトル・エリセ監督のカンヌ欠席の続報がエル・パイス紙に掲載され、何やら不穏な空気が漂っています。誰もが予想したように矢張り見解の相違というか舞台ウラのゴタゴタがあったようです。というのもエリセ監督が「カンヌ映画祭欠席についての公開書簡」をエル・パイスに寄稿したことで明るみに出ました。書簡の大要は、選考システムに疑問を呈しているのではなく、「Cerrar los ojos」(スペイン、アルゼンチン)がどのセクションで上映されるのかについてのカンヌ側の、具体的には総代表ティエリー・フレモーの情報不足を問題にしています。しかしカンヌの主催者はエリセとの対話の欠如を否定して、公開書簡に「私たちは驚いています」と反応した。
★書簡の要点は以下の通り(文責&ゴチック体は管理人):
*カンヌへの欠席は、4月28日にティエリー・フレモー宛に手紙で伝えている。
*コンペティション関係者の情報筋の話として、「Cerrar los ojos」をコンペに含めなかったのは、本作が「完成していなかったから」というものでした。しかしそれは間違いです。
*3月24日、映画の最終カットを含む QuickTime でカンヌの選考委員会に作品を送ったが、etalonaje digital(作品全体のトーン決定や前後のカットの色味を合わせること)に対応する補正は行われていなかった。・・・これは進行中の作品においては一般的なことで、選考委員会によって受け入れられた。
*その後、DCP(デジタル・シネマ・パッケージ、デジタルで上映する際の標準的な配信形式)が収録され、パラシオ・デ・フェスティバルで上映された。従って、数日前まで「完成」していなかったため委員会が見ることができなかったと断言したり、それが理由でコンペに入らなかったと言うのは誤りです。カンヌ・プルミェール部門上映が準備できていたなら、どうしてコンペ部門に間に合わなかったのかと疑問に思う人は少なくないでしょう。
管理人:4月13日、コンペティション部門とカンヌ・プルミェール部門は同日発表された。以上が書簡の前半部分です。しかしエリセの主張するように対話不足があっても選ばれていたら・・・と考えると心境は複雑です。
*コンペティション部門の決定を待っていた3月から4月にかけて、「監督週間」の総代表ジュリアン・レジル氏とフランス専門批評学部長ジャン・ナルボーニ氏から「監督週間」の特別セッションでの上映を提案された。直ぐにティエリー・フレモーに手紙を認め、コンペに選ばれない場合には、他の選択肢を検討できるよう事前に知らせてくれと伝えました。これは慣例です。カンヌの「監督週間」、またはカンヌ以外のロカルノ、ベネチア映画祭を検討したいからです。しかし一向に梨のつぶてでした。
*最終的な結果を4月13日朝の公式プレス会見で私は初めて知りました。最初に書いた通り4月28日、プレゼンテーションに出席しない理由を説明した手紙でフレモーに伝えました。
*コンペティション部門に選ばれなかったことに対する抗議や拒絶とはほとんど無関係です。
★エリセは「監督週間」にも作品を送っていたことになり、当委員会が数週間も「プロトコルの時間がなくなるまで、提案を保ち続けた」とも書いている。「この特別セッションには前例があり、それはフランシス・フォード・コッポラである」ともエリセは書いている。カンヌ側の公式発表は、コンペティションに含めないという決定は「通常のルート内で行われた」と回答し、エリセが主張している対話の欠如はなかったとした。論点がずれて嚙み合いませんね、監督は選考システムに疑問を呈しているわけではないからです。こういう泥仕合は楽しくありませんから終わりにしますが、今後に禍根を残さないか、特にこれから始まるサンセバスチャン映画祭SSIFFが気になります。ここ数年フレモー氏はこのスペインの映画祭に欠かさず足を運んでいるからです。
★カンヌのセクションには、コンペティション、特別セッション、コンペティション外、カンヌ・プルミェール、新人枠の「ある視点」などに分かれていますが、コンペとコンペ以外では数段の差があります。ですから4月13日の発表前にエリセの新作を観ていたスペインの批評家、海外メディア関係者に動揺が走ったそうです。当然コンペに選ばれると思っていたからでしょうか。ノミネートされた「カンヌ・プルミェール」部門は、2021年新設されたもので上映回数もたったの2回、ワールドプレミアこそドビュッシー劇場でしたが、2回目は車での移動が必要だったそうです。
★SSIFFの代表ディレクターのホセ・ルイス・レボルディノス氏は、「選考プロセスは、監督でなく製作者と話し合います。映画祭のプログラマーは、映画の販売権を持っている人物と必ず面会する。その人物が監督であることは殆どない。しかしエリセのケースでは彼も共同プロデューサーであるから、この言い訳は通用しません」と、エル・パイスに語っている。選考委員会は映画祭の規模によりさまざまだそうで、SSIFFの場合は「12人で構成」されている。レボルディノス氏は、カンヌが受け取った作品の数を知るには、「昨年SSIFFで3990本、そのうち短編が600本だったと言えば十分でしょう」とコメントした。コロナ下でもすごい数です。カンヌは桁が違うのでしょう。
★コンペに選ばれる作品は「フランスとの強い繋がりがあるのは明らか、フランスとの共同製作か、フランスの販売代理店が背後にいるかのどちらか」とアルベルト・セラ。昨年コンペ入りした彼の新作『パシフィクション』は、フランスとの共同製作、言語もフランス語と英語でした。ロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』は、フランスとの合作でしたが、エリセと同じカンヌ・プルミェール部門でした。因みに前回のパルムドールは、スウェーデンのリューベン・オストルンドの『逆転のトライアングル』、これもフランスとの合作、芸術性が大切なのは当たり前ですが産業も考慮しなければ勝ち残れません。個人的には鑑賞できればよいのですが、時間が少しかかるかもしれません。カンヌは終わりにしてサンセバスチャン映画祭(9月22日~30日)の情報を発信する予定です。
赤絨毯にビクトル・エリセの姿はなく・・・*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月25日 11:53
カンヌに戻ってきましたがクロアゼットにエリセの姿はなく・・・・
★5月22日(月)、30年ぶりとなる新作「Cerrar los ojos」を携えて、ビクトル・エリセはカンヌのレッドカーペットに現れるはずでしたが、彼の姿はなくホセ・コロナド以下キャスト陣だけの登場になりました。販売代理店のアバロン社が監督のカンヌ出席をアナウンスしていたにもかかわらず、22日のフォトコールにも現れませんでした。監督不在のフォトコールはカンヌではこれまでなかったのではないでしょうか。ただ本人は出席するとは明言していなかった。出席の有無は公式に沈黙が続いたが、結局、映画祭運営に近い情報筋と監督自身が欠席を認めたということです。
(左から、エレナ・ミケル、ホセ・コロナド、アナ・トレント、マノロ・ソロ、
マリア・レオン、レッドカーペットにて)
(ワールドプレミアに勢揃いしたキャスト陣、5月22日、フォトコール)
★「ヨーロッパ映画界のサリンジャー」と言われるバスクの監督ビクトル・エリセは、1940年バスク自治州ビスカヤ県カランサ生れ、サンセバスチャンで教育をうけた。今は寿命が伸びて82歳が高齢者かどうか微妙ですが、欠席は年のせいではない。誰からのプレッシャーも受けたくないのか、映画ギョウカイに無関心なのか、とにかくインタビュー嫌いで知られている。エリセとカンヌの関係が良好なのは、30年前のドキュメンタリー『マルメロの陽光』(92)に遡り、審査員賞、国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞している。2010年にはコンペティション部門の審査員としてカンヌ入りしているほどです。
(本作撮影中のビクトル・エリセ監督)
(左から、主演のホセ・コロナド、アナ・トレント、マノロ・ソロ、フォトコール)
★各紙報道によると、エリセは撮影期間中に「この長編は記憶とアイデンティティ、そして必然的に芸術的創造のプロセスについての熟考である」と主張していたようです。現在ではエリセの分身と思われるマノロ・ソロが撮影した未完の映像として、コロナド扮する失踪した映画俳優の最後のシーンがYouTube で見ることができます。俳優が生きているようにも見える最後のシーンです。他にもカンヌに来られなかったソレダード・ビジャミルとソロのシーンもアップされており、やはり胸がざわざわしてきます。ワールドプレミアされた22日には、上映館ドビュッシー劇場前に、午後8時15分開演にもかかわらず午後1時には行列ができたということです。169分の長尺ですから終わるのは夜の11時、お疲れさまでした。
(最後のシーンのホセ・コロナド、フレームから)
(撮影中のホセ・コロナド、マノロ・ソロ)
(マノロ・ソロ、アナ・トレント)
(半世紀ぶりの邂逅、監督とアナ・トレント)
★各紙誌専属コラムニストの記事が出揃うまでには時間がありそうです。映画はカンヌ終了後、第71回サンセバスチャン映画祭(9月22日~30日)で上映され、閉幕1日前の9月29日に公開される予定。そろそろサンセバスチャン映画祭の季節が近づいてきました。今年の映画祭の顔は、ドノスティア栄誉賞受賞者ハビエル・バルデムと発表されています。これで夫婦揃ってトロフィーを飾ることになりました。ペネロペ・クルスは2019年に史上最年少受賞者になっています。
*「Cerrar los ojos」の作品紹介は、コチラ⇒2023年04月29日
*「Cerrar los ojos」の記事紹介は、コチラ⇒2022年07月15日
* 監督キャリア&フィルモグラフィ紹介は、コチラ⇒2022年07月25日
アルモドバルのクィア・ウエスタンがプレミア*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月23日 18:10
アルモドバルのイケマン・カウボーイたちがカンヌにやってきた
★5月17日(水)、ペドロ・アルモドバルの短編英語劇2作目「Strange Way of Life」出演のカウボーイたちが勢揃いしました。といっても肝心の主人公役のペドロ・パスカルはどうやら欠席のようです。アウト・オブ・コンペティションの特別上映ですから賞には絡みませんが、やはりファンの人気は高いようです。容赦のないカンヌの観客にも「好評だった」とスペイン・メディアは報じています。本国での公開が5月26日と早速アナウンスされました。第1作の「La voz humana」(20)が30分の短編ながら興行的に成功したことが背景にあるのかもしれません。来年の年初には本邦でも公開されるかなと思っていましたら、なんと盛夏の8月16日とアナウンスされました。タイトルは原題カタカナ起こしの『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』でしょうか。
(イーサン・ホークとペドロ・パスカル、フレームから)
(カンヌに勢揃いした左から、マヌ・リオス、ジョゼ・コンデッサ、監督、
イーサン・ホーク、ジェイソン・フェルナンデス、ジョージ・スティーン)
★短編だからといって手抜きをしないのがアルモドバル、このクィア・ウエスタンは青春時代に起きた事件をさかいに別れた2人のカウボーイ、ペドロ・パスカルとイーサン・ホークの愛憎劇でもあるが、ロマンティックな恋愛関係にあるメロドラマでもある。「自分がなりたいものにはなれない」というメッセージが込められていると監督。上映後のスペシャル・トークで「皆さんがご覧になった、二人の男がベッド・メイキングをするウエスタン映画は、これが初めてだと思います」とスピーチして会場を沸かせたようです。もう一つの見どころはカンヌのレッドカーペットを踏んだ若い俳優たち、彼らの今後の活躍が楽しみです。
(上映後に登壇してスペシャル・トークで会場を沸かせた監督とイーサン・ホーク)
(左から、マヌ・リオス、ジョゼ・コンデッサ、ジェイソン・フェルナンデス、
ジョージ・スティーン、生き残れるのは誰でしょうか?)
*『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』の紹介は、コチラ⇒2023年05月04日
エレナ・マルティンの2作目が「監督週間」にノミネート*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月22日 13:50
スペインのエレナ・マルティンの第2作「Creatura」が監督週間に
★今年第55回を迎える「監督週間」にスペインのエレナ・マルティンの「Creatura」がノミネートされました。「監督週間」と「批評家週間」はカンヌ映画祭とは選考母体も異なりますが、本体と同期間にカンヌで開催されることからカンヌFFと称しています。今回は本体より1日遅れの5月17日から26日まで、従って結果発表も先になります。長編部門は60分以上、短編部門は60分未満という区別があり、SACD賞、ヨーロッパ・シネマズ賞、観客賞などがあります。
(最近のエレナ・マルティン)
「Creatura」
製作:Avalon PC / Elástica Films / Filmin / S/B Films / Vilauto Films / ICEC / ICAA / Lastro Media / TV3
監督:エレナ・マルティン
脚本:エレナ・マルティン、クララ・ロケ
音楽:クララ・アギラル
撮影:アラナ・メヒア・ゴンサレス
編集:アリアドナ・リバス
キャスティング:イレネ・ロケ
プロダクション・デザイン&美術:シルビア・ステインブレヒト
音響:レオ・ドルガン、ライア・カサノバス、オリオル・ドナト
衣装デザイン:ベラ・モレス
メイクアップ&ヘアー:ダナエ・ガテル(メイク)、アレクサンドラ・サルバ(ヘアー)
製作者:(Vilauto Films)アリアドナ・ドット、マルタ・クルアーニャス、トノ・フォルゲラ、(Elástica Films)マリア・サモラ、(Avalon PC)シュテファン・シュミッツ、(S/B Films)パウ・スリス、ジェイク・チーサムCheetham、他多数
データ:製作国スペイン、2023年、カタルーニャ語、ドラマ、112分、撮影地バルセロナのサンビセンツ・デ・モンタルト、公開スペイン2023年9月18日予定、国際販売LuxBox
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の「監督週間」にノミネート(5月20日上映)
キャスト:ミラ・ボラス(ミラ5歳)、クラウディア・ダルマウ(ミラ15歳)、エレナ・マルティン(ミラ35歳)、アレックス・ブランデミュール(父ジェラルド)、マルク・カルタニャ(ジェラルド)、クリスティーナ・コロム(大人のアイナ)、カルラ・リナレス(ディアナ)、オリオル・プラ(ミラの恋人マルセル)、ベルナ・ロケ(アンドレ)、クララ・セグラ(ディアナ)、テレサ・バリクロサ、ダビ・ベルト
ストーリー:少女のミラはビーチで夏を過ごします。彼女の大好きな父親は彼女に優しく世界を見せます。母親は控えめです。少女から急成長するミラのエネルギーは、彼女の周囲、彼女の体、海との繋がりを変えてしまいます。大人たちは自意識の高いミラの変化に戸惑いを感じます。ミラと父親のあいだで何かが壊れます。30代になったミラは、深刻な危機に向き合っています。ミラは自分の欲望と喪失が心の奥底にあることに気づき始めます。過去の関係を再訪する自己探求の旅をしていますが、再び海に戻ることができるでしょうか。
(思春期のミラ)
★監督紹介:エレナ・マルティン・ヒメノは、1992年バルセロナ生れ、監督、脚本家、映画・舞台女優。ポンペウ・ファブラ大学(1990年設立)で映画を学ぶ。長編デビュー作は主役も自身で演じた2017年の「Júlia ist」、マラガ映画祭2017のZonaZine 部門の作品・監督・モビスター+賞を受賞、他トゥリア第1作監督賞も受賞、バレンシア映画祭、翌年のガウディ賞(カタルーニャ語以外部門)の作品賞にノミネートされている他、ワルシャワFF、レイキャビクFFに出品された。本作については簡単ですが作品紹介をしています。
*「Júlia ist」の作品紹介は、コチラ⇒2017年07月10日
(エレナ・マルティン、「Júlia ist」から)
★エレナ・マルティンは、女優としてスタートしました。2015年のライア・アラバルト他4人の共同監督作品「Les amigues de l’Ágata」(Las amigas de Ágata)のアガタ役で好演し、名前が知られるようになった。2019年イレネ・モライの短編「Suc de síndria」(20分、英題「Watermelon Juice」)に主演し、マラガFF、メディナFF、イベロアメリカンFFなどで主演女優賞を受賞している。モライ監督はゴヤ賞2020の短編映画賞以下、ガウディ賞、メディナFF、バレンシアFF、イベロアメリカン短編映画賞など多数受賞しています。
★TVシリーズでは、2019年、レティシア・ドレラが創案者のコメディ「Vida perfecta」(14話、19~20)に参加、2話を監督している。5話からなるTVミニシリーズ「En casa」(1話、20)、ミュージック・ビデオ「Rigoberta Bandeni:Perra」を監督している。他にロス・ハビス(ハビエル・アンブロシ、ハビエル・カルボ)のシリーズ「Veneno」(全8話)のスタッフライターとして6話にコミット、脚本2話を執筆している。
リサンドロ・アロンソの新作がカンヌ・プルミェールに*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月19日 15:44
『約束の地』から9年ぶりとなるリサンドロ・アロンソの「Eureka」
★カンヌ・プルミェール部門に追加されたリサンドロ・アロンソの「Eureka」は、アルゼンチン、フランス、ポルトガルなど6ヵ国の合作。アロンソ監督はブエノスアイレス生れ(1975)、監督、脚本家。前作『約束の地』(「Jauja」14)以来、9年ぶりの新作。前作主演のヴィゴ・モーテンセンが新作でも主演、同じくモーテンセンの娘役で映画デビューした、デンマークのヴィールビョーク・マリン・アガーも出演して、同じ父娘に扮している。前作同様娘は失踪するようですが、もちろん続編ではありません。ほかにTVシリーズ『ナルコス:メキシコ編』でお馴染みのメキシコのホセ・マリア・ヤスピク、ポルトガルの監督でもあるベテラン女優マリア・デ・メデイロス、同じく舞台女優、ファドの歌手ルイーザ・クルス、ほかマルチェロ・マストロヤンニを父にカトリーヌ・ドヌーヴを母にもつフランスのキアラ・マストラヤンニなど錚々たるスターが共演している豪華キャストです。
*『約束の地』作品 & 監督キャリア紹介は、
(髪を短くした最近のリサンドロ・アロンソ監督)
「Eureka」
製作:4L(アルゼンチン)、Luxbox(フランス)、Rosa Film(ポルトガル)、
Woo Films(メキシコ)、Komplizen Film(独)、Fortuna Films(オランダ)、
Bord Cadre Films、Slot Machine
監督:リサンドロ・アロンソ
脚本:リサンドロ・アロンソ、マルティン・カーマニョ、ファビアン・カサス
撮影:マウロ・エルセ、ティモ・サルミネン
編集:ゴンサロ・デル・バル
衣装デザイン:ナタリア・セリグソン
メイクアップ:エレナ・バティスタ
特殊効果:フィリペ・ペレイラ
製作者:カリーヌ・ルブラン、マリアンヌ・スロット、(エグゼクティブ)アンディ・クラインマン、アンドレアス・ロアルド、ダン・ウェクスラー、(共同)フィオレッラ・モレッティ、エディ・ザルディ、ほか多数
データ:製作国アルゼンチン=フランス=ポルトガル=メキシコ=オランダ=ドイツ、2023年、スペイン語、ドラマ、ウエスタン、140分、撮影アルメリア、2021年11月11日クランクイン、カンヌ上映5月19日
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2023カンヌ・プルミェール部門正式出品
キャスト:ヴィゴ・モーテンセン(マーフィー)、ホセ・マリア・ヤスピク、キアラ・マストラヤンニ(マヤ)、ヴィールビョーク・マリン・アガー(マーフィーの娘モリー)、ルイーザ・クルス(修道女)、ラフィ・ピッツ(無法者ランダル)、マリア・デ・メデイロス、サンティアゴ・フマガリ(受付係)、ナタリア・ルイス(娼婦)、ほか
ストーリー:ユーレカはアメリカ大陸のさまざまなところを飛びまわる鳥です。飛行中にタイムトラベルします。ユーレカは先住民が大好きです。運よく彼らの言葉を聞くと、人間になることが如何に難しいかを理解しようとします。1870年、アメリカとメキシコ国境地帯の無法者の町から始まり現在までの時間を、アメリカ、メキシコ、ブラジルのアマゾンのジャングルを縦断しながら、先住民文化の伝統と先祖伝来の知恵を守ることの重要性を探求する。4つのエピソードで構成され、異なる地域が描かれる。マーフィーは無法者ランダルに誘拐された娘を探すため町に到着する。
(マーフィー役のヴィゴ・モーテンセン)
★パート1は、前作『約束の地』で父娘になったヴィゴ・モーテンセンとヴィールビョーク・マリン・アガーが、今回も同じ役を演じる。誘拐犯ランダルはイランの監督で俳優としても活躍するラフィ・ピッツが演じる。パート2「パインリッジ」は、サウスダコタ州にある現在の先住民居留地が舞台となっている。4部構成の最後「アマゾニア」はアマゾンのジャングルが舞台となる。先住民ではないUbirajaraウビラジャラは、アマゾンでは非常に脅かされていたので地元の金鉱山の探査に出発する。文字通りゴールドラッシュに苦しむことになる。パート3は目下情報が入手できていません。
(前作『約束の地』のオリジナルポスター)
★アロンソ監督によると「北米の先住民部族と、南米の祖先伝来の伝統を守りたいと願い現代から逃れてきたアマゾンに住む部族を比較したいと思っています。1870年から始まりますが、まったくと言っていいほど現代を描いています。現代の悲劇、自然との断絶感、富の追求によって疎外された世界の過去を描いています」と、シネヨーロッパのインタビューでコメントしている。「私たち全員、特に南米の人々に、私たちが何処でどのように生きるべきか、よりよく生きるためにはどうすれば良いかを考えてほしい」とも語っている。アルゼンチンのパタゴニアを舞台にした『約束の地』で先住民の過酷な運命を描きたかったが、もっと時間をかける必要を感じたようです。そして今回の「Eureka」に繋げることができたわけです。
(キアラ・マストラヤンニ)
★ヴィゴ・モーテンセンのキャリア & フィルモグラフィー紹介は、既に『約束の地』あるいはサンセバスチャン映画祭2020ドノスティア栄誉賞受賞の折にアップしております。ストーリー及びキャストの立ち位置もはっきりせず隔靴掻痒なので、もう少し全体像が見えてから補足します。脚本家のファビアン・カサスは前作でも共同執筆しており、自分は脚本家というより「アロンソ専用の脚本家」だとコメント、確かに2作しか執筆していない。ほか俳優として「ある視点」ノミネートのロドリゴ・モレノの「Los delincuentes」に教師役で出演している。彼とアロンソ監督とモーテンセンの3人はサッカーファン、アルゼンチンのクラブチーム「サンロレンソ・デ・アルマグロ」の熱狂的なおじさんサポーターである。
*ヴィゴ・モーテンセンのキャリア紹介は、コチラ⇒2020年07月08日
*サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞の記事は、コチラ⇒2020年09月26日
★最近カンヌ映画祭が発表したフォトから選んでおきます。
カンヌ・プルミェール部門の追加作品*カンヌ映画祭2023 ― 2023年05月17日 11:19
アマ・エスカランテの7年ぶりの新作「Perdidos en la noche」
★カンヌ・プルミエール部門に3作の追加発表があり、うち2作がラテンアメリカから選ばれました。一つはメキシコのアマ・エスカランテのサスペンス「Perdidos en la noche」、もう一つがアルゼンチンのリサンドロ・アロンソの「Eureka」です。前者は『触手』(16)以来7年ぶり、後者は『約束の地』(14)以来9年ぶり、コロナ・パンデミアを挟んでいるとはいえ空きすぎでしょうか。詳細アップは時間的に間に合いませんが、2 回に分けてアウトラインだけ紹介しておきます。
(撮影中のアマ・エスカランテ監督)
★「Perdidos en la noche / Lost in the Night」
製作:Pimienta Films / Bord Cadre Films / Cárcava Cine / Match Factory Productions / Snowglobe Films
監督・脚本:アマ・エスカランテ
撮影:エイドリアン・デュラソ
編集:フェルナンド・デ・ラ・ペサ
メイクアップ:ホルヘ・フエンテス・ロンキージョ
プロダクション・マネージメント:フアン・ガルバ
製作者:ニコラス・セリス、フェルナンド・デ・ラ・ペサ、アマ・エスカランテ、(エグゼクティブ)ベアトリス・エレナ・エレラ・ボールズ、ロドリゴ・マチン、アレハンドロ・マレス、グスタボ・モンタードン、フリエタ・ペラレス、ハビエル・サルガド、ほか共同製作者多数
データ:製作国メキシコ=オランダ=ドイツ、2023年、スペイン語、サスペンス、120分、撮影地グアナファト、メキシコシティ、期間2021年10月から11月末、
映画祭・受賞歴:第76回カンヌ映画祭2023「カンヌ・プルミェール」部門ノミネート、5月18日上映予定
キャスト:フアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョ(エミリアノ)、エステル・エスポシート(モニカ・アルダマ)、バルバラ・モリ(カルメン・アルダマ)、フェルナンド・ボニージャ(リゴベルト・デュプラス)、ジェロ・メディナ(ルベン)、マイラ・エルモシージョ(ビオレタ)、ヴィッキー・アライコ(エミリアノの母パロマ)他
ストーリー:教師で活動家でもあったパロマは、地元の鉱山産業に対して抗議活動を行っていた。その直後、彼女は跡形もなく姿を消してしまう。それから5年後、二十歳になった正義感の強い息子エミリアノは、犯人を探し始める。司法制度の無能さのせいで、正義は彼らの手に握られている。エミリアノは、あるメモを切っ掛けに裕福でエキセントリックなアルダマ家の夏の別荘にたどり着く。一族は著名な女家長カルメン・アルダマによって統率されています。彼は一族に表面化しない秘密が隠されていることに次第に気づいていく。真実を求めてエミリアノは、秘密、嘘、そして復讐だらけの暗い世界に沈潜していくことになる。
(エミリアノ役のフアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョ)
★アマ・エスカランテ(バルセロナ1979)の長編5作目となる本作は、正義の無能さに直面した青年が正義の行動を起こす決意をする物語だが、相変わらず厳しいテーマに挑んでいる。当ブログでは第2作「Los bastardos」(08、『よそ者』)、3作目「Heli」(13、『エリ』)を紹介しています。デビュー作「Sangre」(05、『サングレ』)が東京国際映画祭にノミネートされた折には、若干観客に戸惑いがありましたが、現在ではラテンアメリカ諸国の映画も多数公開されるようになり、少しずつ戸惑いも解消されているのではないかと思います。しかし、4作目「La región salvaje」(16、『触手』)はどうだったでしょうか。ファンタジーと恐怖をミックスさせて社会的暴力を描いたものでした。寡作な監督ですが、幸いなことに日本語字幕入りで観ることのできる幸運な映画作家の一人です。Netflix で配信されている『ナルコス:メキシコ』(18~21、7話)も手掛けています。
(カンヌFF監督賞受賞の「Heli」ポスター)
*フィルモグラフィーは以下の通り(短編、オムニバスは除く):
2005年「Sangre」カンヌFF「ある視点」国際批評家連盟賞FIPRESCI 受賞
2008年「Los bastardos」カンヌFF「ある視点」ノミネート
2013年「Heli」カンヌFFコンペティション部門、監督賞受賞
2016年「La región salvaje」ベネチアFFコンペティション部門、監督賞受賞
2023年「Perdidos en la noche」カンヌFFカンヌ・プルミェール
*『よそ者』の作品紹介は、コチラ⇒2013年10月10日
*『エリ』の作品 & 監督キャリア紹介は、コチラ⇒2013年10月08日
★エミリアノを演じるフアン・ダニエル・ガルシア・トレビーニョは、2000年モンテレイ生れ。フェルナンド・フリアス・デ・ラ・パラの「Ya no estoy aqui」(19、『そして俺は、ここにいない』)に起用されたのが切っ掛けで俳優の道を歩くことになったミュージシャン。ルーマニアの監督テオドラ・アナ・ミハイの東京国際映画祭審査員特別賞を受賞した「La civil」(21、『市民』、公開タイトル『母の聖戦』)、アレハンドラ・マルケス・アベジャのモレリア映画祭作品賞を受賞した「El norte sobre el vacío」(22、『虚栄の果て』)、ケリー・モンドラゴンの「Wetiko」(22)、ソフィア・アウサの「Adolfo」(23)など立て続けにオファーを受けている。
(主役を演じた「Ya no estoy aqui」のポスター)
★当ブログ紹介記事は以下の通り:
*『そして俺は、ここにいない』の作品 & キャスト紹介は、コチラ⇒2021年02月07日
*『母の聖戦』の主な作品紹介は、コチラ⇒2021年10月25日
*『虚栄の果て』のモレリア映画祭の紹介記事は、コチラ⇒2022年11月10日
★次回はリサンドロ・アロンソの「Eureka」紹介の予定。
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