セクション・オフィシアル(スペイン映画)*マラガ映画祭2025 ④2025年03月20日 21:50

★前回に引き続いて、主にスペインが製作国の映画をアップしました。

       

7)La terra negra / La tierra negra」スペイン=パナマ、2024年、98分、スペイン語、カタルーニャ語

 監督アルベルト・モライス(バレンシア、長編4作目)

 脚本:アルベルト・モライス、サムエル・デル・アモル

 製作Olivo Films / Elamedia / Dexiderius Produccciones / Garra Produccciones

 キャスト:ライア・マルル(マリア)、セルジ・ロペス、アンドレス・Gertrudix、アブデラティフ・Hwiidar、ロサナ・パストル、アルバロ・バゲナ、マリア・アルビニャナ、トニ・ミソ、ブルノ・タマリト

 

       

     

 

 

8)「Lo que queda de ti」スペイン=ポルトガル=イタリア、2024年、91

 監督・脚本ガラ・グラシア(シウダーレアル県バルデペニャス1988、デビュー作)、マドリード・コンプルテンセ大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、ロンドンのキングストン大学大学院で監督及び脚本を受講している。短編3作目「Evanescente」(12分)はマラガ映画祭2024短編部門で上映、フォルケ賞にもノミネートされた。

 製作Potenza Produccciones / Bastian Films / Fado Filmes / Sajama Films /

        Garbo Prodezioni  協賛 ICAA / マドリード共同体、アラゴン州政府、他

 キャスト:ライア・マンサナレス(サラ)、アンヘラ・セルバンテス(エレナ)、ルイ・デ・カルバーニョ、アンナ・テンタ、イグナシオ・オリバル、ナタリア・リスエニョ 

 

       

   

 

 

9)「Los tortuga」スペイン=チリ、2024年、109

 監督ベレン・フネス(バルセロナ1984、長編2作目)、デビュー作「La hija de un ladrón」がサンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアルにノミネート、グレタ・フェルナンデスが銀貝女優賞を受賞している。

 脚本:ベレン・フネス、マルカル・セブリアン

 製作Oberon Media / La Claqueta PC / La Cruda Realidad / Los Tortuga La Pelicula AIE / Quijote Films

 キャスト:アントニア・セヘルス(デリア)、エルビラ・ララ(アナベル)、マメン・カマチョ、ペドロ・ロメロ、ロレナ・アセイトゥノ、メルセデス・トレダノ、セルヒオ・イェルペス 

La hija de un ladrón」&監督紹介は、コチラ20190723

 

      

   

 

 

10)Molt lluny / Muy lejos」スペイン=オランダ、2025年、100分、カタルーニャ語、

   オランダ語、字幕上映、2025411日スペイン公開予定

 監督・脚本ヘラルド・オムス(バルセロナ1983、デビュー作)、短編「Inefable」(21)はマラガ、グアダラハラ、バルセロナなどの映画祭に出品され、ウエスカ映画祭やアルカラ・デ・エナレスなどで受賞している。

 製作Zabriskie Films / Revolver Amsterdam

 キャスト:マリオ・カサス(セルヒオ)、ダビ・ベルダゲル、イリヤス・エル・ウアダニIlyass El Ouahdani、ジェティ・マチュリンJetty Mathurin、ハネケ・ファン・デル・パールトHanneke van der PaardtReinout de Vey Mestdegh、ラウル・プリエト、ナウシカ・ボニン、ダニエル・マドラン

 

  

 

 

 

11)「Ravens / Cuervos」(邦題『レイブンズ』)スペイン=フランス=日本=ベルギー、2024年、116分、字幕上映、日本公開2025328

 監督・脚本マーク・ギル(マンチェスター、長編2作目)、脚本家、監督、写真家、ミュージシャン。デビュー作「England is Mine」(17、『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』公開)、短編「Full Time」(13)など。

 製作Minded Factory / Vestapol Films / Ark Entertainment / The Y-House / Katsize Films

 キャスト:浅野忠信(深瀬昌久)、瀧内公美(深瀬洋子)、ホセ・ルイス・フェラー、古舘寛治(深瀬助蔵)、高岡早紀(南海)、池松壮亮(正田モリオ)

 

  

 

 

 

12)「Ruido」スペイン=メキシコ、2024年、85

 監督イングリデ・サントス・ピニョール(バルセロナ、デビュー作)、ESCACで学ぶ。イサベル・コイシェがプロデュースした短編「Beef」がバジャドリード映画祭2019で上映、マイアミ映画祭2020でイベロアメリカ部門の短編映画賞を受賞、ゴヤ賞2021短編映画部門にノミネートされている。 

 脚本:イングリデ・サントス、リュイス・セグラ

 製作Sábado Pelíclas / Playtime Movies / Filmin / La Corte 協賛 ICEC / ICAA

 キャスト:ラティファ・ドラメ(ラティ)、ジュディシュ・アルバレス・バルガス(ジュディ)、アサーリ・ビバン

  

   


 

 

13)「Sorda / Voslse」スペイン、2025年、100分、ベルリン映画祭2025パノラマ部門観客賞受賞作品

 監督脚本エバ・リベルタード(ムルシア州モリーナ・デ・セグラ1978、デビュー作)、マドリード・コンプルテンセ大学卒、監督、脚本家、社会学者。ヌリア・ムニョスと共同監督した短編「Sorda」(2118分)がゴヤ賞2023にノミネート、続く「Mentiste, Amanda」(16分)はメディナ・デル・カンポ映画祭2024で作品賞を受賞している。

 製作Distinto Films / Nexus CreaFilms / A Contracorriente Films 

キャスト:ミリアム・ガルロ(アンヘラ)、アルバロ・セルバンテス(エクトル)、エレナ・イルレタ、ホアキン・ノタリオ 

 

  



 

14)Todo lo que no sé」スペイン、2025年、113分 

 監督・脚本アナ・ランバリ・テリャエチェ(デビュー作)、バスク大学で美術を専攻した後、マドリード映画研究所で映画を学んでいる。

 製作Naif Films / 39 Escalones Films / The Other Film / Robot Productions

 キャスト:スサナ・アバイトゥア(ラウラ)、フランシスコ・カリル、ナタリア・ウアルテ、アネ・ガバライン、アンドレス・リマ、イニャキ・アルダナス 

  

  

 


 

15)Una quinta portuguesa」スペイン=ポルトガル、2024年、114分、

    ポルトガル語・スペイン語、字幕上映、スペイン公開202559日予定

 監督・脚本アベリナ・プラト(バレンシア1972、長編2作目)、監督、脚本家、大学では建築を専攻、デビュー作「Vasil」(22)は、ワルシャワ映画祭で上映され、バジャドリード映画祭ではカラ・エレハルデとイワン・バルネフが主演男優を受賞している。シネマ・ライターズ・サークル賞2023を受賞など受賞歴多数。フェルナンド・トゥルエバ、セスク・ゲイ、ハビエル・レボーリョなどの助手をしている。

 製作Distinto Films / O Som e a Fúria / Jaibo Films

 キャスト:マノロ・ソロ(マヌエル)、マリア・デ・メデイロス(アマリア)、ブランカ・カティック(オルガ)、リタ・カバソ(リタ)、イワン・バルネフ、ルイサ・クルス

 

    

  

★次回はアルゼンチン、ウルグアイ、メキシコなどイベロアメリカ映画をアップします。 


セクション・オフィシアル作品22作*マラガ映画祭2025 ③2025年03月18日 16:04

             ダニエル・グスマンの2作目「La deuda」がオープニング作品

 

             

 

★肝心の作品紹介が後手に回っていますが、スペイン製作とイベロアメリカ製作に分けて、今回はスペイン映画の紹介。タイトル、製作国、製作年、監督、製作、脚本家、上映時間、主なキャストなどを列挙します。本祭は新人の登竜門と位置づけされていますが、グラシア・ケレヘタやサンティ・アモデオのようなベテラン勢が増えている印象があります。

 

       28回マラガ映画祭2025セクション・オフィシアル作品

 

1)La deuda」スペイン=ルーマニア、2024年、115

 オープニング作品

 監督&脚本ダニエル・グスマン(マドリード1973,長編2作目)、デビュー作「A cambio de nada」がゴヤ賞2016新人監督賞ほかを受賞している。

 製作La Deuda AIE / Aquí y Allí Films / El Niño Producciones /

 キャスト:ダニエル・グスマン(ルカス)、イツィアル・オトゥニョ、スサナ・アバイトゥア、ロサリオ・ガルシア、ルイス・トサール、モナ・マルティネス、フランセスク・ガリード、フェルナンド・バルディビエソ 

 *主な紹介記事は、コチラ20150412

 

        

   

 

2)「El cielo de los animales」スペイン=ルーマニア、2024年、84

 監督&脚本サンティ・アモデオ(セビーリャ1969、長編7作目)

 製作Grupo Tranquilo PC / Cinelab

 キャスト:ラウル・アレバロ、マノロ・ソロ、ヘスス・カロサ、パウラ・ディアス、アフリカ・デ・ラ・クルス、クラウディオ・ポルタロ 

 

       

 

      

 

3)「Jone, Batzuetan / Jone, a veces」スペイン、2025年、80分、バスク語、スペイン語

 監督サラ・ファントバ(ビルバオ、デビュー作)

 製作Escac Studio / Escandalo Films / Amania Films / ECPV

 脚本:サラ・ファントバ、ヌリア・マルティン、ヌリア・ドゥンホ

 キャスト:オライア・アグアヨ、ジョセアン・ベンゴエチェア

  

              

 

   

 

4)「La buena letra」スペイン、2024年、110

 監督&脚本セリア・リコ・クラベリーノ(セビーリャ1982、長編3作目)、第1作「Viaje al cuarto de una madre」がゴヤ賞2019新人監督賞にノミネートされた。 

 製作Mod Producciones / Misent Producciones / Arcadia Motion pictures 

 キャスト:ロレト・マウレオン、エンリク・アウケル・サルダ、ロジェール・カザマジョール、アナ・ルハス、ソフィア・プエルタ、テレサ・ロサノ

 紹介記事は、コチラ20190106

   

      

     

 

 

5)La buena suerte」スペイン、2024年、90

 監督グラシア・ケレヘタ(マドリード1962、長編10作目)、「Siete mesas de billar francés」でサンセバスチャン映画祭2007脚本賞、「15 años y un día」でマラガ映画祭2013金のビスナガ作品賞と銀のビスナガ脚本賞を受賞。

 脚本:グラシア・ケレヘタ、マリア・ルイス

 製作Tornasol Media / Arlas Producciones Cinematograficas AIE / Trianera Producciones Cinematograficas AIE

 キャスト:ウーゴ・シルバ、メガン・モンタネル、ミゲル・レリャン、エバ・ウガルテ、イスマエル・マルティネス(パブロ)、パキ・オルカホ、アルバル・リコ、チャニ・マルティン、ジョセアン・ベンゴエチェア、ダニエル・ビタリェ

主な紹介記事は、コチラ20160705

   

      

    

 

 

6)La furia」スペイン、2025年、107分、カタルーニャ語、スペイン語(字幕上映)

 監督ジェマ・ブラスコ(バルセロナ、デビュー作)

 脚本:ジェンマ・ブラスコ、エバ・パウネ

 製作Ringo Media / RM Pelicula AIE

 キャスト:アンヘラ・セルバンテス(アレックス)、アレックス・モネール(アドリアン)、エリ・イランソ、カルラ・リナレス、ビクトリア・リベロ、サリム・ダプリンセ、パウ・エスコバル、アナ・トレント

 

      

   

 

★既に第1回めの上映が終わっています。以下次回に続く。


アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」*ゴヤ賞2025 ⑥2025年01月15日 14:41

        実話から生まれたフィクション――女性警察官ETAテログループ潜入記

 

   

      (主人公アランサスに扮したカロリナ・ジュステを配したポスター)

 

アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)と言えば、同性愛が禁じられていたロマ社会の十代のレズビアンの愛をテーマにしたデビュー作『カルメン&ロラ』でしょうか。2018年カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され、クィア賞とゴールデンカメラにノミネートされた作品。その後、国際映画祭巡りをして数々の受賞歴を誇り、ラテンビートFF2018でも上映された。ゴヤ賞2019新人監督賞を受賞、当時エチェバリアは50歳になっており、新人監督賞としては最年長の受賞者だった。作品紹介などは以下にアップしています。『カルメン&ロラ』以降のフィルモグラフィーは、監督賞にもノミネートされているので別途紹介を予定しています。

『カルメン&ロラ』の作品、監督キャリア紹介は、コチラ20180513

   

      

    (ルイス・トサール、カロリナ・ジュステ、アランチャ・エチェバリア監督)

 

★デビュー作に唯一人プロの俳優として出演したのが、新作「La infiltrada」(潜入者)の主人公アランサス・ベラドレ・マリンを熱演したカロリナ・ジュステでした。監督のお気に入り女優、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。新作でも既にフォルケ賞2024主演女優賞を受賞しています。キャリア紹介は後述します。勿論アランサス・ベラドレ・マリンは偽名、スペイン史上で唯一テロ組織ETA(バスク祖国と自由)への潜入を成功させて生還した女性警察官の実話に基づいて製作された。データ・バンクによると、興行成績は約800万ユーロ(830万ドル)を突破した。

 

La infiltrada」(英題「Undercover」)

製作:Beta Fiction Spain / Beta Films / Bowfinger International Pictures / 

   Infitrada LP AIE / Esto también pasará SLU / Atresmedia Cine / Film Factory    Entertainment / Movistar Plus + / ICAA

監督:アランチャ・エチェバリア

脚本:アメリア・モラアランチャ・エチェバリア

   (オリジナル・アイディア)マリア・ルイサ・グティエレス

撮影:ハビエル・サルモネス、ダニエル・サルモネス

音楽:フェルナンド・ベラスケス

編集:ビクトリア・ラメルス

録音:マイテ・カブレラファビオ・ウエテホルヘ・カステーリョ・バリェステロス

   ミリアム・リソン

キャスティング:テレサ・モラ

メイク&ヘアー:パトリシア・ロドリゲス、パトリ・デル・モラル、マルビナ・マリアニ

       (ヘアー)トノ・ガルソン

プロダクション・マネージメント:アシエル・ペレス

特殊効果:マリアノ・ガルシアジョン・セラーノフリアナ・ラスンシオン

製作者:メルセデス・ガメロBFSマリア・ルイサ・グティエレスBowfingerパブロ・ノゲロレスアルバロ・アリサ

(太字がゴヤ賞2025ノミネート者)

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・バスク語、実話、スリラー、118分、撮影地バスク自治州、配給:Film Factory Entertainment、公開バレンシア、セビーリャ2024930日、サラゴサ101日、スペイン一般公開1011

  

映画祭・受賞歴:フォルケ賞2024作品賞・価値ある教育賞ノミネート、主演女優賞受賞(カロリナ・ジュステ)、ASECAN2024(アランチャ・エチェバリア)、ゴヤ賞2025ノミネート13部門(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演女優・助演女優、助演男優・プロダクション・撮影・編集・メイク&ヘアー・録音・特殊効果賞)、フェロス賞2025(監督・主演女優・予告編賞ハビエル・モラレス)、シネマ・ライターズ・サークル賞9部門(作品・監督・女優・助演女優・助演男優・脚本・撮影・編集・作曲賞)

 

キャストカロリナ・ジュステ(アランサス・ベラドレ・マリン)、ルイス・トサール(アンヘル)、ディエゴ・アニド(セルヒオ)、イニィゴ・ガステシ(ケパ・エチェバリア)、ナウシカ・ボニン(アンドレア)、ペペ・オシオ(ボディ)、ホルヘ・ルエダ(マリオ)、ビクトル・クラビホ(テルエル)、カルロス・トロヤ(ソイド)、アシエル・エルナンデス(ホセバ)、ペドロ・カサブランク(警察担当班長)、他多数

 

ストーリー1990年代のバスクを舞台に、新米警察官アランサス・ベラドレ・マリンは或る難しいミッションを果たすため、ETAバスク愛国主義のテロ組織にスパイとして送り込まれる。それは家族や友人との関係を断ち、人生を一時停止にすることに他ならなかった。数多くのテロ攻撃を準備する2人のテロリストと同じアパートに宿泊する必要があった。時には彼らが殺害した同僚警官の死を祝って乾杯しなければならなかった。常にいつ自分の身元が割れるかという恐怖のなかでの二重生活は8年間の長期に及んだ。

   

       

               (ルイス・トサールとカロリナ・ジュステ、フレームから)

   

       

        (潜入者との連絡担当官アンヘルを演じたルイス・トサール)

 

          実在したアランサス・ベラドレ・マリンの肖像

 

アランサス・ベラドレ・マリンは偽名(本名エレナ・テハダ)、22歳でアビラの警察アカデミーを卒業後、ETA の潜入部隊のメンバーに選ばれる。家族との関係を断ち、エタのメンバーに彼女が彼らの目的に共鳴してグループに入ったと信じ込ませることに成功する。リオハの県都ログローニュの良心的兵役拒否運動に潜入して、エタメンバーとの緊密な関係を築いた。1998916日、ETAは「停戦協定」を結ぶが、これは組織立て直しの時間稼ぎの休戦であった。停戦中にもかかわらず彼らは秘密裏にテロ活動を継続しながら再武装に従事した。グループ内で特権的な立場にあったアランサスは、将来の重要なテロ計画書と協力者の情報を入手した。これにより、政府と治安部隊はETA の最も活動的なグループの一つである「ドノスティ・コマンド」を解体させるに至った。この情報はETAの内部構造理解にも寄与した。エタ組織への潜入に成功した唯一人のスペイン人警察官。アランサスは、現在国家警察に勤務しているが、スペインを去り、海外の大使館で家族と新しい人生を歩んでいる。

 

      2017年に警察官の友人を通じて知った」と製作者グティエレス

 

★エチェバリア監督によると「プロデューサーからアランサスの話を聞いたとき、私の心は直ぐに90年代の無意味な対立で罪のない犠牲者が増え続けていたバスクに戻りました。20歳を越したばかりの未だ経験の浅い女性警官が、たった一つのミスが死を意味する殺人者たちの世界に潜入した事実に驚きました。直ぐに監督したいと言いました。私たちの最近の辛い過去を思い出すために、彼女が現在どこにいようとも、感謝を捧げたいと思ったのです」と語った。

 

★プロデューサーとはBowfinger International Picturesマリア・ルイサ・グティエレス、「私たちは、観客がこの匿名の女性の物語を知るに値すると信じています。公の援助なしに一般市民のために命を危険にさらして闘わねばならなかった。ある意味で彼女は人生の過去と未来を犠牲にして任務を果たした。ETA のテロリストのグループを解体し、さらには国家安全保障に貢献した。私は匿名で闘わざるを得なかった人々の視点で語られた映画を見たことがありませんでした。何故ならそれはタブーだったからです。今やっと語ることができる時代になったのです」。そして「潜入捜査をしていた8年間、彼女が抱えていた矛盾、恐怖、前進し続ける理由を観客に伝えたい」とグティエレスは付け加えた。

    

   

      (ビクトル・クラビホ、助演女優賞ノミネートのナウシカ・ボニン)

 

BFSの最高経営責任者CEOメルセデス・ガメロ、「この映画は、複雑な女性の多面的な視点から語られる。それは時代の肖像画にもなり、映画館で壮大な物語を楽しみたいと思う多世代の観客の興味を引くでしょう」と述べた。俳優たちが実在した人物に会うことが、如何に価値があるかを強調した。何故なら「それは作品に真実味を与えるからです」と。

 

★エチェバリア監督によると、「この作戦に関わった人々と接触し、綿密なリサーチ作業をした。ルイス・トサールが演じた潜入者との連絡担当者であるマニピュレーター、作戦に参加した警察官、テロ・グループを脱退したエタの元メンバーを取材した。本物のアランサスにアクセスする機会もあったが、敢えてしなかった」と。チャンスが訪れたときには、脚本が完成していて「私たちのアランサス」が既に出来上がっていたからのようです。実話から生まれた映画でもフィクションということでしょうか。

 

        潜入することに同意したアランサスの「公共の利益」とは?

 

★エチェバリア監督がこの作品で追求したテーマの一つは、「何故若い警察官がこのような危険な任務に参加することに同意したのか」であった。家族、友人、ボーイフレンド、フィエスタなどと関係を断ち、ライオンの檻に飛び込むことにしたのか。彼女は「公共の利益」のためにそうしたのだが、「今日の私たちが理解するのは難しい」と監督。「医師として地球上の危険な地域を訪れ、他者を助ける国境なき医師団の仕事は理解できても、彼女のケースは難しい・・・」と。また潜入者が若い女性警官でなく男性だったら映画にしたか、という問いには「男性でも同じですが、彼女がスパイだと気づかれなかったのは、おそらく女性だったからだろう」と答えている。

 

★ビルバオ出身の監督は、「バスク地方の紛争は、私たちスペイン人がつい最近体験したことなのを忘れないでほしい。何が起こったのかを若い世代に伝える必要があります。この映画は対立が理解されるようにするという意図をもっています。アランサスを通してバスク地方の特に紛争の時代を政治的社会的に描きたかった」と製作意図を語っている。未だフランコ独裁政権だった1968年から2010年までの犠牲者は、829人が殺害され、2018年に解散するまで22,000以上が負傷している。

  

★当ブログでは、テーマをETAのテロに据えた作品として、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(2021年08月05日)、アイトル・ガビロンドのTVシリーズ「Patria」8話(2020年08月12日)、ボルハ・コベアガの「Negociador」(2015年01月11日)、ルイス・マリアスの「Fuego」(2014年12月11日)などを紹介しています。

 

キャスト紹介カロリナ・オルテガ・ジュステ1991年エストレマドゥラ州バダホス生れ、映画、TV、舞台女優、マドリードの王立高等演劇学校RESAD1831年設立)とラ・マナダ演劇研究センターで演技を学ぶ。2014年、TVシリーズ出演でキャリアをスタートさせる。長編映画デビューはアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』18)出演でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。エチェバリア監督の信頼が厚く、引き続き「La familia perfecta」(21)、「Chinas」(23)と4作に起用されている。

  

       

     

      (アランサスを演じたカロリナ・ジュステ、La infiltradaから)

 

★他にカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(「Quién te cantará18)、ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー『ライジング・スカイハイ』(「Hasta el cielo20)、セクン・デ・ラ・ロサのデビュー作「El cover」(21)出演でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞した。マラガ映画祭2021に正式出品され観客賞を受賞したカロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」、ハイメ・ロサ―レスの「Girasoles silvestres」(22)、ダビ・トゥルエバが実在したカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラを描いた「Saben aquell」は、サンセバスチャン映画祭2023で上映、カタルーニャ語を短期間でマスターして撮影に及んで高評価を得た。ゴヤ賞2024主演女優賞にノミネートされるも受賞できなかったが、ガウディ賞サンジョルディ賞を受賞した。新作「La infiltrada」では上述したフォルケ賞受賞の他、本命視されているゴヤ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。

   

     

   (フォルケ賞のトロフィーを手にしたカロリナ・ジュステ、2024年フォルケ賞ガラ)

 

★太字のタイトル名は作品紹介をしています。ヒット作のTVシリーズ、舞台出演は割愛します。最近短編映画「Ciao Bambina」(24)を監督している。

Saben aquell」の紹介記事は、コチラ20231230

Girasoles silvestres」の紹介記事は、コチラ20220801

El Cover」の紹介記事は、コチラ20210518

Hasta el cielo」の紹介記事は、コチラ20200822


最多ノミネーションの「El 47」*ゴヤ賞2025 ④2024年12月28日 16:59

          マルセル・バレナとエドゥアルド・フェルナンデスの再タッグ!

  

      

 

★作品賞最有力候補「El 47」のマルセル・バレナは、前作「Mediterráneo」(21)の監督です。オスカル・カンプスというライフガードをモデルにした実話、地中海を横断するアフリカ難民を救助する人道支援組織NGOオープン・アームズの設立者、カンプスにエドゥアルド・フェルナンデスが扮した。バレナは新作にもフェルナンデスを起用している。舞台は1970年代のバルセロナ郊外トーレ・バロ、1950年代~60年代から移住が始まった地区、スペインでも最も貧しい州といわれるエストレマドゥーラやアンダルシアからの移住者が多いバリオである。彼らの家には水道も電気もありません。バルセロナ当局は市の一部と認めていないのでした。市の対応にうんざりした勇気ある住民たちの怒りが発端でした。前世紀の草の根運動の物語ながら今日的なテーマでもある。

 

★前作「Mediterráneo」はゴヤ賞とフォルケ賞の作品賞、男優賞にノミネートされましたが、ゴヤ賞はプロダクション・撮影・オリジナル歌曲賞の3賞、フォルケ賞は受賞できなかった。新作「El 47」は、去る1214に既に結果発表のあったフォルケ賞で作品賞に輝いた。他に映画と価値観教育賞もゲット、男優賞にエドゥアルド・フェルナンデスが受賞したが、こちらはアイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」出演でした。

Mediterráneo」の作品&監督キャリア紹介は、コチラ20211213

   

      

   (作品賞受賞スピーチをするマルセル・バレナ、フォルケ賞2024ガラ、1214日)

 

 

El 47

製作: MediaPro Studio / 3Cat / ICEC / ICO / Movistar Plus/ RTVE / Triodos Bank

監督:マルセル・バレナ

脚本:マルセル・バレナ、アルベルト(ベト)・マリニ

音楽:アルナウ・バタリェル(作曲)、バレリア・カストロ(歌曲)

撮影:アイザック・ビラ 

編集:ナチョ・ルイス・カピリャス

美術:マルタ・バザコ、クララ・ロセル・アベリョ

衣装デザイン:オルガ・ロダル、イランツェ・オルテス 

メイクアップ&ヘアー:カルロ・トルナリア

視覚効果:ラウラ・カナルス、イバン・ロペス・エルナンデス

キャスティング:アンドレス・クエンカ、ルイス・サン・ナルシソ

プロダクション:カルロス・アポリナリオ

製作者:ハビエル・メンデス、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ、(エグゼクティブ)コンシャ・オレア、オリオル・サラ=パタウ(3Cat)、エバ・ガリード、他多数

 

データ;製作国スペイン、2024年、カタルーニャ語、スペイン語、ドラマ、実話、110分、撮影地バルセロナのカタルーニャ広場、バルセロナ市庁舎、トーレ・バロ近郊、期間20236月末~7月、配給A Coontracorriente Films、公開202496日、封切り1週間で€240.000を超えるヒット作、海外を含めた興行成績は、IMDb情報で3,278,603ドル

 

映画祭・受賞歴:第30回ホセ・マリア・フォルケ賞2024作品賞(フィクション長編映画)、主演男優賞映画と価値観教育賞を受賞、第17回ガウディ賞2025、作品賞(カタルーニャ語映画)、監督・脚本・俳優賞など18部門ノミネート、第12回フェロス賞2025、脚本・助演女優(クララ・セグラ)・オリジナル・サウンドトラック賞の3部門ノミネート、第4回カルメン賞2025、作品賞(ノン・アンダルシア・プロダクション部門)ノミネート、第39回ゴヤ賞2025、作品賞以下14部門ノミネート

 

キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(マノロ・ビタル)、クララ・セグラ(妻カルメン)、ゾエ・ボナフォンテ(娘ジョアナ)、サルバ・レイナ(フェリピン)、オスカル・デ・ラ・フエンテ(アントニオ)、カルロス・クエバス(パスクアル)、ベッツィ・トゥルネス(アウロラ)、ビセンテ・ロメロ(オルテガ)、ダビ・ベルダゲル(セラ)、ボルハ・エスピノサ(エル・ルビオ)、カルメ・サンサ(ビラ夫人)、アイマル・ベガ(ジョセップ)、フランセスク・フェレル(弁護士)、ロロ・エレーロ(マティアス)、エバ・アリアス(フェリ)、マリア・モレラ(マル)、エレナ・フォルチュニー(合唱団指導者)、カルロス・オビエド(ペドリート)、フアン・オリバーレス(エレナ神父)、他トーレ・バロ地区のエキストラなど多数

 

ストーリー:バルセロナ1978年、トーレ・バロ地区のコミュニティ住民は、水道も電気もない生活にうんざりしている。バルセロナ市議会は公共交通機関の運行はできない、何故なら道路があまりに狭すぎる坂道て安全運行ができないと主張する。彼らの隣人の一人でバルセロナ交通局のバス運転手マノロ・ビタルは、当局の主張はウソで間違っていると、路線バス47番の車両をハイジャックしてデモを行おうとする。トーレ・バロはスペイン内戦を経て故郷を離れざるを得なかったエストレマドゥーラやアンダルシアの移民たちが作ったコミュニティ、彼らが受けた侮蔑と差別に激怒した男マノロ、ハイジャックした47番バス、そしてバリオの住民たちの運命や如何に? 実話にインスパイアされた市民参加型の草の根運動が語られる。

 

20235月、制作会社メディアプロがバルセロナ近郊のトーレ・バロで、マルセル・バレナの「El 47」のエキストラ募集をすると発表した。6月末にクランクイン、7月中に撮影は終了した。約半世紀前の話とはいえ、現在世界中で起きている移民問題を考えると、きわめて今日的なテーマとも言えます。暗いニュースの多かったスペインでは庶民は元気のでるポジティブな映画を求めている。そういう意味ではプラスにはたらくだろう。ただエモーショナルな作品には違いないが結末は想定内だから、それがどう評価されるかです。下馬評では演技力のあるキャスト陣を揃えたこともあって評価は高い。

 

★事の発端は197857日に起きた。マノロ・ビタル19232010)は路線バス47番をトーレ・バロ地区まで走らせた。1978年という年は、フランコ将軍の死去(197511月)にともない、約40年間に及ぶ独裁体制が終わりを告げた民主主義移行期にあたる。スアレス率いる民主中道連合UCA政権時代で、1982年ゴンサレス率いる社会労働党PSOEが政権をとる4年前にあたる。本作に出演するカルロス・クエバス扮するパスクアルは、1982年から1997年までバルセロナ市長を務めたパスクアル・マラガル(バルセロナ1941)、カタルーニャ労働者戦線の活動家にして反フランコ運動の人民解放戦線に参加している人物。本作を観たマラガルの家族は感動したと語っている。クエバスの演技は称賛されているが、残念ながらノミネートされなかった。

        

                        

                       (カルロス・クエバス扮するパスクアル)

   

      

     (左から、エドゥアルド・フェルナンデス、カルロス・クエバス、バレナ監督)

 

★マルセル・バレナ監督のキャリア&フィルモグラフィーは、前作「Mediterráneo」に譲ります。ゴヤ賞2025のノミネートは14カテゴリーと多数のためスタッフ陣については受賞発表後に予定し、キャストのうちマノロ・ビタルの妻カルメン役のクララ・セグラ(助演女優賞)と娘ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ(新人女優賞)を紹介しておきます。

     

      

              (モデルになったマノロ・ビタル)

 

★マノロ・ビタル役のエドゥアルド・フェルナンデスは本作でのノミネートはなく、別作品「Marco」でのノミネートです。先述した通りフォルケ賞を受賞したばかりです。ゴヤ賞ノミネートは14回という常連さん、うちアレックス・オレの「Faust 5.0」で2002主演男優賞、セスク・ゲイの『イン・ザ・シティ』で2004助演男優賞、アメナバルの『戦争のさなかで』で2020助演男優賞と3賞している。ほかにアルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』ではサンセバスチャン映画祭2016の銀貝男優賞を受賞している。ノミネート作品を列挙すると21世紀のスペイン映画史になるほどです。タッグを組んだ監督には上記の他、マリアノ・バロッソ、ビガス・ルナ、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、アルモドバル、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、マルセロ・ピニェイロ、ダニエル・モンソンなどなどです。

Marco」紹介記事は、コチラ20240903

『スモーク・アンド・ミラーズ』紹介記事は、コチラ20160924

『戦争のさなかで』の主な紹介記事は、コチラ20191126

 

      

         (路線バス47番の運転手マノロ・ビタル、フレームから)

  

       

     (トロフィーを手にしたフェルナンデス、フォルケ賞2024男優賞ガラ)

 

クララ・セグラ・クレスポ1974年バルセロナ生れ、映画、TV ,舞台女優、脚本家。アメナバルの『海を飛ぶ夢』(04)で初登場、尊厳死を法的に支援する尊厳死協会の職員ジュネ役だった。脇役だが字幕入りで見ることのできる作品が結構多い。例えば東京国際映画祭2008ナチュラルTIFF部門で上映された『フェデリコ親父とサクラの木』(原題「Cenizas del cielo」)、ギレム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)、ガウディ賞2017助演女優賞ノミネートのマルセル・バレナの『100メートル』、同じくガウディ賞ノミネートのオリオル・パウロの『嵐の中で』(18)、ダニ・デ・ラ・オルデンの『クレイジーなくらい君に夢中』(21)など。

 

★ほかにフォルケ賞2021の映画と価値観教育賞を受賞したダビ・イルンダインの「Uno para todos」(20)に出演、本作でもクレジットされているダビ・ベルダゲルベッツィ・トゥルネスと共演している。最近ではエレナ・マルティンの「Creatura」でガウディ賞2024助演女優賞を受賞している。ガウディ賞ではマル・コルの「Tots volem el millor per a ella」(13)にノラ・ナバスと共演、ナバスが主演女優賞、セグラが助演女優賞を受賞している。

       

     

         

         (夫婦役を演じたフェルナンデスとセグラ、フレームから)

 

★ゴヤ賞は、昨年の「Creatura」でノミネートされているので今回が2回目になります。そのほかガウディ賞とフェロス賞にノミネートされている。さらにゴヤ賞2025作品賞にノミネートされている、ダニ・デ・ラ・オルデンのカタルーニャ語映画「Casa en Flames / Casa en llamas」に再び起用されている。こちらの作品もガラまでには紹介記事を予定しています。

Creatura」の作品紹介は、コチラ20230522

Uno para todosの作品紹介は、コチラ20200416

ダビ・ベルダゲルとベッツィ・トゥルネスのキャリア紹介は、コチラ20200416

      

       

         (ノラ・ナバスとクララ・セグラ、ガウディ賞2014ガラ)

 

ゾエ・ボナフォンテ2004年バルセロナ生れ、女優。長寿TVシリーズ「Amar es para siempre」(201324)でスタートを切る。2022年に42話出演している。ほかに「Escándalo, relato de una obsesión」(238話)に出演、本作で映画デビュー、ゴヤ賞のほかガウディ賞にもノミネートされているシンデレラガール。来年にはオルガ・オソリオの「El secreto del orfebre」でマリオ・カサスやミシェル・ジェンナーと共演する。評価はこれからです。

   

        

      

          (ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ、フレームから)

 

      

    (フェルナンデスやセグラと一緒にインタビューを受けるボナフォンテ、95日)

 

★数ある秋の映画祭のどこにも出品せず、いきなり劇場公開という珍しいケースがゴヤ賞でどこまで票を集められるか興味がわきます。上記のように第17回ガウディ賞はカタルーニャ語部門18カテゴリー、フェロス賞は3部門がノミネートされています。ガウディ賞は受賞間違いなしですが、ゴヤ賞はバルセロナ派のアカデミー会員は少ないのでフォルケ賞のようにはいかないか。


メイド・イン・スペイン部門クロージング作品*サンセバスチャン映画祭2024 ㉒2024年09月17日 17:16

        197524日、マドリードの全劇場の幕は揚がらなかった!

 

    

 

★メイド・イン・スペイン部門のクロージング作品、アルバ・ソトラのドキュメンタリー「Mucha mierda / Break a Leg」は、フランコ政権下末期の197524日に、スペインの俳優たちが初めてストライキに立ち上がった闘いの記録です。ストライキ参加者へのインタビュー、アーカイブ、映画の抜粋を織り交ぜ9日間の闘いが語られる。来る2025年は50周年記念の年、8名の逮捕者を出した28日は、奇しくも39回ゴヤ賞2025の授賞式に当たる。フランコ将軍が七転八倒のすえ他界したのは、同じ年の1120日の明け方でした。

 

 「Mucha mierda / Break a Leg

製作:David Lara Films / Quexito Films /  協賛ICAA 参画マドリード市議会、

   モビスター+、RTVE

監督:アルバ・ソトラ

脚本:アルバ・ソトラ、ダビ・アルナンス

撮影:イレネ・ガルシア・マルティネス

編集:エレナ・カストロビエホ

音楽:フェルナンド・バカス・ナバロ

録音:フリアン・バケラ

製作者:ダビ・ララ、ミゲル・ゴンサレス、ファミリアル・ヒメネス・アバド、(エグゼクティブ)モンセラット・サンチェス

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、84

映画祭・受賞歴SSIFF2024メイド・イン・スペイン部門クロージング作品

 

キャスト:アナ・ベレン、ティナ・サインス、ホセ・サクリスタン、マヌエラ・ベラスコ、マリサ・パレデス、カロリナ・ジュステ、ペトラ・マルティネス、フアン・マルガーリョ、ロシオ・ドゥカル、フアン・ディエゴ


解説197524日、マドリードのどの劇場でも幕が揚がりませんでした。ドアに貼られたポスターには「俳優が出演しないため公演は中止」と書かれていました。この日は俳優による歴史的なストライキの初日で、以来9日間国内は活動が麻痺状態になりました。彼らの要求は「法律で定められている通り、週1日の休日」というものでした。サラ・モンティエルやロラ・フロレスがストライキを支持すると、労働者の権利の要求で始まったものが、政治的挑発に変化した。報道規制にもかかわらず、このニュースは世界中に広まり、彼らは80ヵ国以上から支援の電報を受け取った。政治社会担当部署の担当者がストライキ参加者のあいだに潜入し首謀者をあぶり出し、固い団結を粉砕した。28日に逮捕された8人のなかには、ティナ・サインス、ロシオ・ドゥカルが含まれている。他に最前線でキャリアや自由を危険にさらした参加者には、コンチャ・ベラスコ、アナ・ベレン、フアン・ディエゴ、ホセ・サクリスタンなどがいた。本作は今まで語られることのなかった、主人公たちによって語られた物語です。勿論検閲などありません。

    

   

                  (アナ・ベレン)

 

★高い代償を払ったキャストのなかにはフアン・ディエゴ20224月没)のように鬼籍入りしてしまった俳優も多い。左派の政治活動で知られる彼は、この俳優ストライキの組織化に主導的な役割を果たしている。反対にコンチャ・ベラスコの姪マヌエラ・ベラスコ1975生れ)のようにまだ産声を上げていなかった人もいる。コンチャは202312月に10年前から闘っていたリンパ腫で亡くなったが、女優として2013年にゴヤ栄誉賞を受賞した人らしく最後まで現役に拘った女優でした。ゴヤ賞2022栄誉賞の受賞者ホセ・サクリスタン86歳になっても現役を続けている。ペトラ・マルティネスフアン・マルガーリョは夫婦揃って出演、ペトラ・マルティネスはマリサ・パレデスと一緒に本作紹介のため現地入りがアナウンスされている。

 

    

                (マリサ・パレデス)

 

      

               (ペトラ・マルティネス)

   

監督紹介アルバ・ソトラ(カタルーニャ州タラゴナ県レウス1980)は、監督、脚本家、製作者。ドキュメンタリー「Game Over」がマラガ映画祭2015ドキュメンタリー賞、ドクスバルセロナでニュータレント賞、ガウディ賞2016ドキュメンタリー賞などを受賞、「The Return: Life After ISIS」(21)は、10代でイスラム国に入った女性たちが、その後自国への帰還を希望するが、故国は彼女たちを拒絶する背景を語るドキュメンタリー、ワルシャワFFドキュメンタリー賞、ドクスバルセロナ観客賞ほか、ガウディ賞2022受賞、ゴヤ賞2022はノミネートに終わった。製作者としては、当ブログ紹介のアレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケスのヒット作「Upon Entry」(22)、カルラ・スビラナの「Sica」(23)などを手掛けている。

   

   

               (アルバ・ソトラ監督)

 

★本作について監督は、「ストライキがどのように捏造されたか、警察の監視、政権の暴力的な反応、ストライキの国際的側面、抵抗勢力に供給された資金の出所を伝えます」。また「女性のリーダーシップ、刑務所と過酷な報復についても語ります」とインタビューに応えている。労働者と雇用主が同じ組合に所属しており、俳優たちは劇場オーナーの言いなりにならざるを得なかった。「この闘いの遺産は生き残っていますが、もっとも重要なことは、何年も仕事が貰えなかった人もいたということで、今日でもそれは尾を引いている」と監督。

   

  

       (問題作「The Return: Life After ISIS」のポスター)

 

Upon Entry」の作品紹介は、コチラ20230701

Sica」の作品紹介は、コチラ20230312


メイド・イン・スペイン部門オープニング作品*サンセバスチャン映画祭2024 ㉑2024年09月15日 13:37

          夭折の作家ルイス・マルティン=サントスを巡る旅

 

      

 

メイド・イン・スペイン部門のオープニング作品に選ばれたジョアン・ロペス=リョレトの「Tiempo de silencio y destrucción」は、夭折の作家で高名な精神科医、政治活動家でもあったルイス・マルティン=サントス192464の人生と作品を巡るドキュメンタリー。今年が生誕100周年、死後60年に当たる。映画のタイトルは、1961年、多かれ少なかれ検閲を受けながらもセイクス・バラル社から出版された小説 Tiempo de silencio と交通事故による急死で未完に終わった遺作 Tiempo de destrucción 1975刊)から採られている。

    

        

              (ルイス・マルティン=サントス)

  

     

 Tiempo de silencio y destrucción

製作:Imposible Films

監督:ジョアン・ロペス=リョレト

脚本:ジョアン・ロペス=リョレト、ヌリア・ビダル

撮影:ジョアン・ロペス=リョレト

編集:ルぺ・ぺレス・ガルシア、メリ・コリャソス・ソラ

音楽:ロジャー・パスト

録音:ロジャー・ソレ、ビクトル・トルト

製作者:マルタ・エステバン・ロカ

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、60分、撮影2023年、配給フィルマックスFilmax

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門オープニング作品

キャスト:ルイス・マルティン=サントス・リベラの長男ルイス・マルティン=サントス・ラフォン、同長女ロシオ

解説1964121日、小説 Tiempo de silencio の著者ルイス・マルティン=サントスは、マドリードからの帰途、バスク自治州のビトリアで悲劇的な交通事故で亡くなりました。事故から60年、生誕100周年を迎えるにあたり、私たちは作家の子供たちルイスとロシオを追って、作家で高名な精神科医、彼を変えた作品の背後にいる人物を再構築するための航海に出ます。マルティン=サントスの人物像、戦後スペインに対する彼独特の視点、部分的に未発表のテキストに基づいて長いあいだ隠されてきた作品を巡る旅になります。

    

         

        (コロナ・パンデミック中に資料収集をしたルイスとロシオ)

    

 

     ルイス・マルティン=サントスの Tiempo de silencio はどんな小説?

 

★ルイス・マルティン=サントス生誕100周年を記念して今年行われる活動の一つは、一部未発表の原稿を含む作品の再発行(全集6巻)、中国語への翻訳、今回オープニング作品に選ばれることになったドキュメンタリー製作、スペイン国立図書館での展覧会などである。作家の長男ルイス・マルティン=サントス・ラフォンによると、全集には「文学の分野だけでなく、精神医学の研究、後に民主主義に繋がる反フランコ主義への政治観」が含まれる。フランコ没後の1980年に出版された16版が決定版。

 

★ルイス・マルティン=サントス・リベラは、19241111日、当時モロッコのスペイン保護領だったララシュで生まれた。1929年軍人だった父親の次の赴任地サンセバスティアンに移った。医学はサラマンカで学び、1946年卒業、1949年マドリードで博士号取得、1950年ドイツ留学、翌年サンセバスティアン精神療養所の院長に就任、1953ロシオ・ラフォンと結婚、3児に恵まれた。反フランコ主義への政治観により、19563月パンプローナ、195811月にマドリードで逮捕され、カラバンチェル刑務所に収監されている。

 

1964120日午後、マドリードからサンセバスティアンに向かう途中、ビトリア近郊でトラックに衝突、翌日運び込まれた病院での手術中に亡くなった。前年嗅覚障害のあった妻ロシオ・ラフォンがガス漏れに気づかず33歳の若さで亡くなっており、後にはロシオ、ルイス、フアン・ペドロの3人の子供が残された。当時5歳だったというルイスには父親についての記憶は少ないが、コロナ感染のパンデミック中にさまざまな場所を旅してきた箱を開け、保存されていた多くの未発表の原稿を通じて、父親が「非常に活動的で創造的な多才な人であったことを再確認した」と語っている。家庭内ではとても楽しい人で、ユーモアのセンスのある人だったことを強調している。

    

          

             (在りし日のマルティン=サントス一家)

 

1961年に初めて出版された Tiempo de silencio は、20世紀のスペイン文学の流れを変えたと称される小説。作家のエンリケ・ビラ=マタス(バルセロナ1948)によるプロローグが付された記念版が刊行された。「戦後の道徳的悲惨さを偉大な才能で描いた」作家の作品と称される。

 

★スペイン内戦語の1949年のマドリードが舞台、若い医学研究者ペドロは、鼠径部腫瘍を発症する系統のマウスが枯渇したことで癌研究が中断されるのを目の当たりにする。研究室の助手アマドールがマウスの標本を親戚のムエカスと呼ばれる犯罪者に渡しており、彼が郊外の掘っ立て小屋で繁殖させていることを知る。ペドロは首都の裏社会に接触したことで地獄への門をくぐることになる。これは小説の導入部を述べただけで、その後の展開は複雑で、ジェイムズ・ジョイスが開拓した「意識の流れ」の影響を受けている。内なるモノローグ、時間と物語の声、自由な間接的なスタイルと、当時の写実主義的な言語を刷新したと評価されている。1986年、ビセンテ・アランダが導入部を切りとって映画化したが、評価は毀誉褒貶入り混じっている。ペドロにイマノル・アリアス、ムエカスにパコ・ラバル、ビクトリア・アブリル、チャロ・ロペスなど人気俳優が共演している。 

 

監督紹介ジョアン・ロペス=リョレトは、1969年バルセロナ生れ、ドキュメンタリー作家、脚本家、撮影監督。現在のESCAC(カタルーニャ映画視聴覚上級学校)で撮影監督、1988年から2年間CEEC(カタルーニャ映画研究センター)で映画監督を学び、テレビ、映画、広告業界で働いている。2004年、リサイクル素材で操り人形や器械器具の世界を作り出した2人のアーティストの秘密の世界を描いた長編ドキュメンタリー「Hermanos Oligor」でマラガ映画祭2005観客賞、バルセロナ・ドクポリスFFの作品賞、観客賞他を受賞、その名を世界に馳せました。

   

     

            (デビュー作「Hermanos Oligor」から)

 

★翌年、ニカラグア革命の夢を従属的な声で解体した「Utopia 79」(06)、北アイルランドの和平プロセスにおける2人の前科者の物語「Sunday at Five」(07)、マジョルカ出身の歌手マリア・デル・マル・ボネットの生涯を描いた「Maria del Mar」(18)、「Familia, no nuclear」(19)など、忘れられがちな人物に声を与えている。

   

       

               (ジョアン・ロペス=リョレト)

    

続メイド・イン・スペイン部門*サンセバスチャン映画祭2024 ⑳2024年09月11日 15:35

      アンドレア・ハウリエタの2作目Ninaはマラガの審査員特別賞受賞作品

 

★メイド・イン・スペイン部門の続編は、マラガ映画祭の銀のビスナガ批評家審査員特別賞を受賞したアンドレア・ハウリエタの「Nina」は、復讐を果たすために30年ぶりに故郷に戻ってくる女性の物語、ソニア・エスコラノベレン・ロペス・アルベルトのコメディ「Norberta」、ルイス・ベルメホとアドリアナ・オソレスが夫婦を演じる。マルク・フェレルの「Reír, cantar,tal vez llorar」は、中年からトランス女性になったトニとバルセロナに到着したばかりのモロッコ移民ラーセンの物語。セリア・リコ・クラベリーノ2作目「Los pequeños amores」は、マラガFFの審査員特別賞とアドリアナ・オソレスが助演女優賞を受賞した話題作。

 

アンドレア・ハウリエタ(パンプローナ1986)は、監督、脚本家、2018デビュー作「Ana de día / Ana by Day」が同じマラガFF のコンペティション部門にノミネート、翌年のゴヤ賞新人監督賞にノミネートされている。2作目となる「Nina」は、マラガ映画祭の銀のビスナガ批評家審査員特別賞を受賞している。脚本は監督自身とホセ・ラモン・フェルナンデスの共同執筆。撮影はバスク州ビスカヤ、スリラー・ドラマ、105

  

キャスト:パトリシア・ロペス・アルナイス(ニナ)、ダリオ・グランディネッティ(ペドロ)、アイナ・ピカロロ(十代のニナ)、イニィゴ・アランブル(ブラス)、エネコ・グティエレス(青年ブラス)、ラモン・アギーレ(エステバン)、シルビア・デ・ペ(ヌリア)、カルロス・サバラ(ニナの父)、他多数

ストーリー:ニナは散弾銃を忍ばせたバッグを携えて、ペドロへの復讐を果たすために30年ぶりに海辺の故郷に戻る決心をする。今では著名な作家となり、町は彼に名誉を捧げている。

Ana de día」の作品紹介、監督キャリア紹介は、コチラ20190108

   

   

     (帰郷したニナ役パトリシア・ロペス・アルナイス、フレームから)

   

 

 

ソニア・エスコラノ(アリカンテ1980)とベレン・ロペス・アルベルト(バルセロナ1975)の「Norberta」は、共同監督作品、脚本ソニア・エスコラノ、脚本家ベレン・ロペス・アルベルトの監督デビュー作、ファミリーシネマ、コメディ、89分。スペイン公開2024725

   

キャスト:ルイス・ベルメホ(ノルベルト)、アドリアナ・オソレス(マリア)、マリオナ・テレス(ナタリア)、マリア・ロマニーリョス(パウラ)、カルメン・バラゲ(テレ)、アデルファ・カルボ(ペパ)、他多数

ストーリー:ノルベルトはマリアと共に人生を過ごしてきた。数十年前からの隣人とつつましいバリオで暮らしている。しかし二人には皆に知られていない或る秘密があったのです。それは時々強盗を働くことでした。ノルベルになるためにはノルベルをやめなければならない。ノルベルトは生き生きとし、自由になり、自分らしくなるために、方向転換をする必要があった。ある思いがけない告白が、その後の彼の人生を危険に晒すことになるだろう。背景にLGTBiQ+が語られる。

    

       

        (ルイス・ベルメホ、アドリアナ・オソレス、フレームから)

   

       

 (女装してノルベルタになったノルベルトを配している)

 

マルク・フェレル(バルセロナ1984)は監督、脚本家、俳優。新作「Reír, cantar,tal vez llorar / To Laugh,To Sing,Perhaps To Cry」は、彼の作品の多くが上映されているDAバルセロナFF4月にプレミアされている。ジャンルはロマンチック・コメディ、ミュージカル、テーマはトランスジェンダー、移民など、75分。

代表作は「¡ Corten !」(21)でトゥールーズ・シネエスパーニャの観客賞、マドリードLGBT映画祭の観客賞を受賞、フェロス賞2022フィクション部門のフェロス感動賞にノミネートされた。

   

キャスト:トニ・バルガス(トニ)、ラーセン・ウーチャド(ラーセン)、サンドラ・ソロ、マリア・ソラ、マダム・ヒロシマ、フリア・ベルトラン、ペレ・ヴァル、アサハラ・モヤノ、エドゥアルド・ギオン、サラ・ラモス、ジョルディ・ロドリゲス(ルイス)、その他多数

ストーリー:トニは中年になってからトランス女性になった。恋人に巡り合える奇跡を教会で祈っている。そんな折も折、バルセロナに到着したばかりの若くてハンサムなモロッコ移民のラーセンが、トニの人生に出現する。二人の関係は羨望と不信に駆られた、コミュニティの隣人たちのスキャンダルとなるだろう。

    

      

      

    


(ソニア・エスコラノ、ベレン・L・アルベルト、マルク・フェレル、アンドレア・ハウリエタ)

 

セリア・リコ・クラベリーノ(セビーリャ1982)は、監督、脚本家、製作者、女優。マラガFFの審査員特別賞とアドリアナ・オソレスが助演女優賞を受賞した。オソレスはベルメホと上記の「Norberta」で共演している。新作「Los pequeños amores / Little Loves」(フランスとの合作)は長編2作目、デビュー作「Viaje al cuarto de una madre」(18)は、SSIFFニューディレクターズ部門のユース賞、審査員クチャバンク賞スペシャルメンション他を受賞している。翌年のゴヤ賞に新人監督枠でノミネートされた。新作も母親と娘の親子関係の難しさを描いている。ブエノスアイレス・インディペンデントFFに出品された。

 

キャスト:アドリアナ・オソレス(アニ)、マリア・バスケス(娘テレサ)、ミゲル・アンヘル・ゴンサレス(ラモン)、アイマル・ベガ(ホナス)、他多数

ストーリー:テレサは、犬の散歩中に転倒し車椅子になった母親を世話するため、夏休暇の計画を変更することになった。母と娘はかつてなかったような息の詰まるような夏を過ごすことになるだろう。長い年月を経て昼も夜も一緒に過ごすことは簡単なことではなかった。一人暮らしに慣れた二人にとって、日常生活の些細なことにも緊張が走ります。しかしながら、強制された同居とはいえ期待以上の変化があり、夏の夜、テレサは母親の傍にいることで明示的な瞬間を生きることになる。牧歌的な田園地帯を舞台に母娘に巻き起こる世代間の違いが浮き彫りになる。

*「Viaje al cuarto de una madre」の作品&監督キャリア紹介は、コチラ20190106   

    

            

      

     

                              (セリア・リコ・クラベリーノ)


メイド・イン・スペイン部門21作発表*サンセバスチャン映画祭2024 ⑲2024年09月09日 17:28

            オープニングはジョアン・ロペス=リョレトのドキュメンタリー

   

      

 

メイド・イン・スペイン部門は賞に関係なく、合作を含むスペイン映画から選ばれます。プレミア作品を含む、既にマラガ、ヒホン、マジョルカ他、海外の先行映画祭の受賞作、公開された話題作など、見残したものが短期間に纏めて観ることができるセクションです。今回はマラガFFの受賞作が顔を揃え一挙に鑑賞できます。オープニング(ジョアン・ロペス=リョレトの「Tiempo de silencio y destrucción」)もクロージング(アルバ・ソトラの「Mucha mierda / Break a Leg」)も珍しいことにドキュメンタリー、今まで隠されてきた真実が明かされ、スペイン人には見逃せない政治色の強い作品、個人的にも興味深く、別途紹介を予定しています。

 


(ジョアン・ロペス=リョレトの「Tiempo de silencio y destrucción」から)

    

   

    (アルバ・ソトラの「Mucha mierda / Break a Leg」出演のアナ・ベレン)

 

アントニオ・チャバリアス(バルセロナ県ルスピタレート・ダ・リュブラガート1956)の「La abadesa / Holy Mother」の舞台は9世紀、ダニエラ・ブラウン扮する若き修道院長エマは、モーロ人と対立する国境地帯に再入植してキリスト教化する使命を与えられる。実話に基づいている。マラガFFコンペティション部門出品。SSIFF 2006セクション・オフィシアルに「Las vidas de Celia」がノミネートされている。製作者としてのキャリアも長く、アグスティ・ビリャロンガ、クラウディア・リョサ、ハイメ・ロサーレス、ベレン・フネス、シルビア・ムントなどの作品を手掛けている。

 

   

  

    

シモン・カサル(ア・コルーニャ1984)の「Artificial Justice」(ポルトガルとの合作)は、フィルム・ノアール調のSF政治スリラー、ベロニカ・エチェギ、タマル・ノバス、アルバ・ガローチャ、アルベルト・アンマンが出演する。スペイン政府は近い将来、すべての裁判官を人工知能に置き換えることを目指しており、司法制度を自動化し、非政治化すると発表しました。ベロニカ・エチェギ扮する裁判官が、この新システムを評価するため招聘されるが、次第に自分の命が危険に晒されていることに気づきます。ガリシアとリスボンで撮影された。

 

  


     


(ジョアン・ロペス=リョレト、アルバ・ソトラ、アントニオ・チャバリアス、シモン・カサル)

 

★マラガ映画祭の金のビスナガ賞(作品賞)、監督賞、編集賞(ハビ・フルトス)の3冠を制したイサキ・ラクエスタ(ジローナ1975)とポル・ロドリゲス(バルセロナ1977)の「Segundo premio / Saturn Return」は、グラナダのロックグループ「ロス・プラネタス」を描いた「no-película非映画」です。

作品紹介、授賞式の記事は、コチラ20240314

    

      

       

ソニア・メンデス(ビゴ1980)の長編デビュー作「As Neves」は、マラガFFセクション・オフィシアル出品作品。アス・ネベスはお互いがすべて知り合いというガリシアの山村、カーニバルの夜、ティーンエイジャーたちはパーティを開き、初めてドラッグで盛り上がった。翌朝パウラが失踪したことを知る。短編数編、ドキュメンタリー「A Poeta analfabeta」(20)を撮っている。

   

    

  

         

アレックス・モントーヤ(バレンシア1973)のコメディドラマ「La casa」は、パコ・ロカの同名コミックを原作としている。マラガFFの脚本賞(監督とジョアナ・オルトゥエタ)と音楽賞(フェルナンド・ベラスケス)、観客賞まで受賞した。父親が亡くなってことで、3兄妹が子供時代に夏を過ごした家に家族を連れて集まってくる。この残された質素な家をどうするか、売却するにも期待通りには進まない。長い間埋もれていた記憶や秘密が浮かび上がってくる。シンプルでピュア、泣いて笑って幸せになる映画、そして家はどうなるのでしょうか。原作者のパコ・ロカがカメオ出演しているそうです。

マラガ映画祭の授賞式の記事は、コチラ20240314

   

         


    

    

  (イサキ・ラクエスタ、ポル・ロドリゲス、ソニア・メンデス、アレックス・モントーヤ)

 

 

ダビ・トゥルエバ(マドリード1969)の「El hombre bueno」は、ホルヘ・サンス、マカレナ・サンス、ビト・サンスと同じ苗字ながら血縁関係のないスリー・サンスが演じる。旧友の「善き人」に離婚の仲介を依頼するカップルの物語。マラガFFコンペティション部門出品作品。

作品紹介は、コチラ20240308

   

    

          (左から、ビト・サンス、ホルヘ・サンス)

   


           (ダビ・トゥルエバ、マラガ映画祭2024)

  

ホナス・トゥルエバ(マドリード1981)の新作「Volveréis / The Other Way Around」は、カンヌ映画祭併催の「監督週間」で、ヨーロッパ映画賞ヨーロッパ・シネマズ・ラベル賞受賞している。15年間の結婚生活を解消するための「お別れパーティ」を開き、円満に別れることを希望しているカップルの物語。

作品紹介は、コチラ20240527

   

  

      (円満に離婚したい夫婦、ビト・サンスとイチャソ・アラナ)

  

   

   

           (ホナス・トゥルエバ、カンヌ映画祭2024)

 

★賞に絡むわけではありませんが、続けて上映作品の紹介をします。


ペルラス部門のクロージング作品「Marco」*サンセバスチャン映画祭2024 ⑰2024年09月03日 16:22

              バスクの監督コンビの新作「Marco」の主言語はスペイン語

    

         

 

★ペルラス部門のクロージングは、アウト・オブ・コンペティション(コンペティション作品ですが賞の対象外)のジョン・ガラーニョアイトル・アレギの「Marco」、3000人収容できるベロドロモで上映されます。サンセバスチャン映画祭初となるバスク語映画『フラワーズ』(14)、同『アルツォの巨人』(17、審査員特別賞、イリサル賞)、スペイン語映画「La trinchera infinita」(19、銀貝監督賞、脚本賞)、以上3作に参画していたホセ・マリ・ゴエナガは、新作には脚本の共同執筆者の一人としてクレジットされているだけです。新作はエドゥアルド・フェルナンデス扮するエンリク・マルコという実在した人物が主人公、彼はナチスの強制収容所フロッセンビュルクの生存者と偽って、スペインのホロコースト犠牲者協会の事務総長を長らく務めていたというカリスマ的な詐欺師の物語です。

 

フロッセンビュルク強制収容所は、ドイツとチェコスロバキアの国境に近い遠隔地にり、19385月に開設された。当初の目的は、他の収容所とは異なって、ナチスの建築用の花崗岩を採掘する労働力確保のためであり、初期にはダッハウから囚人が移送された。主にナチスSSにとって好ましくない個人や「反社会的」な囚人を収容したが、ドイツのソ連侵攻後、国外の政治犯が増加した。ポーランド、ソ連の捕虜、チェコスロバキア、ベルギー、オランダ、スペインが主で、初期にはユダヤ人は多くなかった。19454月アメリカ陸軍によって解放されるまで、延べ89,974人だが実際はもっと多かったといわれている。うち約3万人が過労、栄養失調、処刑、死の行軍で死亡した。(Wikipedia, the free encyclopedia から作品に必要と判断した箇所の抜粋)

    

Marco

製作:Irusoin / Moriarti Produkzioak / Atresmedia Cine / La Verdad Inventada

     協賛ICAA / バスクTV / バスク州政府 / Movistar Plus/ BTeam Pictures

監督:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ

脚本:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホルヘ・ヒル・ムナリス、ホセ・マリ・ゴエナガ

撮影:ハビエル・アギレ・エラウソ

編集:マイアレン・サラスア・オリデン

音楽:アランサス・カジェハ

音響:アラスネ・アメストイ、アンドレア・サエンス・ペレイロ、シャンティ・サルバドール

視覚効果:ダビ・エラス

キャスティング:マリア・ロドリゴ

美術:ミケル・セラーノ

衣装デザイン:サイオア・ララ

メイクアップ:ナチョ・ディアス

製作者:(Irusoin)シャビエル・ベルソサ、アンデル・バリナガ・レメンテリア、アンデル・サガルドイ、(Atresmedia)ハイメ・オルティス

 

データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・カタルーニャ語・英語、スリラー・ドラマ、伝記映画、101分、撮影地バスク州サラウツ、カタルーニャ、マドリード、ドイツ、海外販売はフィルム・ファクトリー、公開スペイン118

映画祭・受賞歴:第81回ベネチア映画祭2024オリゾンティ部門、ワールドプレミア830日、SSIFFアウト・オブ・コンペティション出品作品

 

キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(エンリク・マルコ)、ナタリエ・ポサ(妻ラウラ)、チャニ・マルティン(歴史研究家ベニト・ベルメホ)、ソニア・アルマルチャ、フェルミ・レイシャック(Reixachレイザック)、ダニエラ・ブラウン(メルセデス)、ビセンテ・ベルガラ、ジョルディ・リコ

 

ストーリー:ナチ強制収容所フロッセンビュルクからの強制送還者が架空の人物であったことが判明した実話が語られる。エンリク・マルコは長年にわたってスペインのホロコースト犠牲者協会の事務総長を務めていた。捏造は非常に複雑で巧妙だったため、協会内はいうに及ばず、世間も家族も気づかなかった。しかし或る歴史家によって真実が判明する日が訪れる。自分は強制収容所の囚人だったと虚偽を主張した非常にカリスマ的なカメレオン男の人生が、エドゥアルド・フェルナンデスの素晴らしい演技で観客を魅了するだろう。

 

        エンリク・マルコとは誰であるか――真実と嘘、欺瞞と現実

 

★エンリク・マルコは、1921年バルセロナ生れ、第二次世界大戦中、ナチスドイツの強制収容所マウトハウゼンとフロッセンビュルクに捕虜として収容されていたという虚偽を主張した詐欺師。2001年カタルーニャ州政府からサンジョルディ勲章を授与され、回顧録を上梓したが、2005年、歴史研究家ベニト・ベルメホによって虚偽が判明し、自身も嘘を認め、勲章を返還した。金属労働者のマルコは、1978年から翌年にかけて、スペインのアナーキスト連合CNT全国労働者連合の書記長を務めている。20225月没、享年101歳でした。『サラミナの兵士たち』の著者ハビエル・セルカスが、この完璧な変装を演じ続けた人物を El Impostor「詐欺師」という題で2014年に刊行している。

   

       

        (サンジョルディ勲章を授与されるエンリク・マルコ2001年)

 

★捏造の理由にマルコは「強制収容所に収容された人々の苦しみを宣伝できると考えた」もので「捏造に悪意はなかった」と主張した。しかしホロコースト生存者は「ナチス収容所の存在を否定する人々がこれを利用して、ホロコーストの証言には価値がないと主張する危険をはらんでいる」と憤慨している。

 

キャスト紹介エドゥアルド・フェルナンデス(バルセロナ1964)は、アルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ 1000の顔を持つスパイ』(SSIFF2016銀貝男優賞)で実在したスパイを演じ、アレハンドロ・アメナバルの『戦争のさなかで』(19)では、隻眼片腕のホセ・ミリャン・アストライ将軍を演じてゴヤ賞2020助演男優賞を受賞、最近ではオリオル・パウロの『神が描くは曲線で』(22)に主演している。アルモドバルの『誰もがそれを知っている』(18)のようにゴヤ賞ノミネートの常連だが、デビュー当時からその演技力が認められて「Fausto 5.0」で2002主演男優賞、「En la ciudad」で2004助演男優賞を受賞している。TVシリーズのヒット作「30 Monedas」に続いて、『鉄の手』がNetflixで配信中。

『スモーク・アンド・ミラーズ』の紹介記事は、コチラ20160924同年0926

『戦争のさなかで』の紹介記事は、コチラ20190927同年1126

      

        

         (マルコを演じたエドゥアルド・フェルナンデス)

 

★マルコの妻ラウラを演じているのがナタリエ・ポサ(マドリード1972)、リノ・エスカレラのデビュー作『さよならが言えなくて』でゴヤ賞2018主演女優賞とフォルケ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞、フェロス賞、マラガ映画祭女優賞、イシアル・ボリャインの「La boda de Rosa」でゴヤ賞2021助演女優賞他を受賞、この2作で受賞の山を築いている。フェルナンデスと『戦争のさなかで』で共演、他アルモドバルの『ジュリエッタ』、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』など、シリアスもコメディも演じ分ける、その確かな演技力で多くの監督に起用されている。

『さよならが言えなくて』の紹介記事は、コチラ20170625

La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ20200320

      

       

             (妻ラウラを演じたナタリエ・ポサ)


★マルコの嘘の人生を調べ上げた歴史研究家ベニト・ベルメホに扮したチャニ・マルティン(トレラグナ1973)は、映画&舞台俳優、歌手、作曲家。テレビ出演が多いが、『パンズ・ラビリンス』、『悪人に平穏なし』、『Seventeen/セブンティーン』など、字幕入りで観られる作品に出演している。フェルミ・レイザック(ジローナ1946)は、出番はほんの少しだったが、カルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』で少女の祖父を演じた俳優。つい先だって訃報に接した。結果的に本作が最後の出演となった。リー・ストラスバーグの演劇研究所「アクターズ・スタジオ」で演技を学んだ舞台俳優でした。

 

★監督紹介:アイトル・アレギ(オニャティ1977)、ジョン・ガラーニョ(サンセバスティアン1974)のキャリア&フィルモグラフィーは、以下に紹介しています。

『フラワーズ』の作品、キャリア紹介は、コチラ20141109

『アルツォの巨人』の作品、キャリア紹介は、コチラ20170906

La trinchera infinita」の作品紹介は、コチラ⇒2019年12月20日

   

      

  (新作プロモーションをするガラーニョ&アレギ監督、ベネチアFF2024ノミネート会場)


アルベルト・セラの「Tardes de soledad」*サンセバスチャン映画祭2024 ⑥2024年08月04日 16:27

     アルベルト・セラのTardes de soledad―セクション・オフィシアル

    

   

 

★セクション・オフィシアルの4作目は、アルベルト・セラ(カタルーニャ州バニョラス1975)のドキュメンタリーTardes de soledad」、連想ゲーム風にいうとセラといえばカンヌですが、今回初めてサンセバスチャンのコンペティション部門にノミネートされました。スペイン、フランス、ポルトガル合作、言語はスペイン語です。監督キャリア&フィルモグラフィーと、デビュー作以来セラ監督とタッグを組んでいる女優でプロデューサーを務めるモンセ・トリオラの紹介は、東京国際映画祭2022ワールド・フォーカス部門で『パシフィクション』(原題Tourment sur les iles)がエントリーされた折にアップしております。ミニ映画祭、特別上映会で一部のファンは字幕入りで鑑賞できましたが、劇場公開は『ルイ14世の死』(161作である。

『パシフィクション』の作品&監督キャリア紹介は、コチラ20221013

    

      

               (アルベルト・セラ監督)

 

★セクション・オフィシアルは初登場ですが、メイド・イン・スペイン部門には『騎士の名誉』(06)、『鳥の歌』(08)、前作『パシフィクション』が上映されている。言語がカタルーニャ語だったり、フランス語あるいはドイツ語、イタリア語、英語、ヘブライ語だったりするので、スペイン語オンリーの話者には取っつきにくい。本作はスペイン語のうえ、闘牛がテーマということが幸いしたのかもしれない。スペインを含むヨーロッパやラテンアメリカ諸国で活躍する、ペルー出身の闘牛士アンドレス・ロカ・レイが、闘牛場の砂場の中で体験する、心理的精神的な葛藤を描いている。闘牛の精神的な痛み、神聖な儀式である闘牛の複雑な美学を追求するドキュメンタリー。

 

 Tardes de soledad

製作:Andergraun Films / Arte France Cinéma / Idéale Audience / 

   LaCiima Producciones  協賛ICEC / ICAA

監督・脚本:アルベルト・セラ

撮影:アルトゥール・トルト

編集:アルベルト・セラ、アルトゥール・トルト、

録音:ジョルディ・リバス

衣装デザイン:パウ・アウリAuli

製作者:アルベルト・セラ、モンセ・トリオラ、ルイス・フェロン、ペドロ・パラシオス、リカルド・サレス、ピエール≂オリヴィエ・バルデ、ヨアキム・サピーニョ

 

データ:製作国スペイン=フランス=ポルトガル2024年、スペイン語、ドキュメンタリー、120分、撮影地セビーリャ、2023年夏クランクイン

映画祭・受賞歴:第72回サンセバスチャン2024セクション・オフィシアル

 

キャスト:アンドレス・ロカ・レイ、パブロ・アグアド

解説:闘牛士アンドレス・ロカ・レイの、闘牛用の光の衣装着用から闘牛が終わり衣装を脱ぐまでの或る1日が描かれている。複雑な闘牛の美的な部分に取りくむドキュメンタリーであり、監督はその表現力と可塑的な洗練さを目指そうとしている。同様に、個人的な義務として雄牛に対峙するリスクを負う闘牛士の視点からも描こうとしている。それは伝統への敬意からだが、何よりも人間がもつ平静さと合理性、野生の野蛮な動物の残忍さ、この二つの出会いから生じる、儚い美のかたちを作り出す美的挑戦である。どのような理想に導かれて、この危険で不必要と思われる闘いを追求する人がいるのか。ほかのあらゆる物より優先し、何度も危険を冒してまで挑戦する精神性とはどのようなものか、が語られるだろう。

 

★制作会社の製作意図によると以上のような概要になりますが、なかなか難しそうです。キャスト欄にはアンドレス・ロカ・レイパブロ・アグアドしかクレジットされていませんが、闘牛は3人の闘牛士で構成されるので、もう一人登場するのかもしれません。

   

    

              (撮影中のセラ監督)

 

アンドレス・ロカ・レイ1996年ペルーのリマ生れ、父方の曽祖父の時代から闘牛に関わっている家柄で、兄フェルナンド、叔父ホセ・アントニオも闘牛士だった。2011年スペインのバダホスの闘牛学校に入学するため海をわたった。2013年見習い闘牛士ノビジェーロnovilleroとしてスペインでデビュー、2014年からはフランス、コロンビア、ペルーでも闘い、2015年フランスのニームで正闘牛士への昇進式であるオルタナティブがあり、先輩闘牛士エンリケ・ポンセによってムレータと剣が授けられ、金の刺繍で被われた光る衣装を着ることが許された。立会人はフアン・バウティスタでした。ロカ・レイの闘牛スタイルは堅実さ、節度をわきまえたセンス、勇気と献身的な闘牛で知られ、短期間に闘牛界の中心人物になっている。

 

     

パブロ・アグアドは、1991年セビーリャ生れ、セビーリャ大学で経営学の学士号を取得している異色の闘牛士です。ロカ・レイより5歳年長ですが、正闘牛士になったのは20179月でした。セビーリャのマエストランサ闘牛場、ロカ・ルイと同じエンリケ・ポンセがムレータと剣を授け、立会人はアレハンドロ・タラバンテでした。アグアドの闘牛スタイルは、その自然さ、誠実さ、セビーリャ派の伝統に沿ったクラシカルな闘牛で際立っているということです。

 

スタッフ紹介:撮影監督、フィルム編集者アルトゥール・トルトは、セラ監督とは10年来タッグを組んでいる。例えば『パシフィクション』、『リベルテ』、『ルイ14世の死』(編集のみ)、監督の初期の短編「Els tres porquets」(12)、「Cuba libre」(13)、中編「Roi Soleil」(18)の撮影を手掛けている。『パシフィクション』でガウディ賞、フランスのセザール賞、ルミエール賞、国際オンラインシネマ賞などで撮影賞を受賞している。衣装デザイナーのパウ・アウリは、1992年マジョルカ島生れ、アグスティ・ビリャロンガの遺作「Loli tormenta」、「El ventre del mar」(22)を担当している。今回エグゼクティブ・プロデューサーも務めたモンセ・トリオラは、制作会社「Andergraun Films」の代表者である。

   

    

             (アルトゥール・トルト撮影監督)

 

★監督フィルモグラフィーは、上記したように『パシフィクション』での紹介に譲りますが、一応長編映画だけ時系列にアップしておきます。日本では『騎士の名誉』をデビュー作と紹介する記事が多いのですが、当ブログではスペイン語版ウイキペディアを参考にして作成しました。

2003年「Crespia」ミュージカル、長編デビュー作

2006年「Honor de cavalleria」『騎士の名誉』カンヌFF併催の「監督週間」プレミア

2008年「El cant dels ocells」『鳥の歌』同上

2011年「El senyor ha fet en mi meravelles」『主はその力をあらわせり』

   ドキュメンタリー

2013年「Historia de la meva mort」『私の死の物語』ロカルノFF金の豹賞

2016年「La mort de Louis XIV」『ルイ14世の死』カンヌFF特別招待作品

2019年「Liberte」『リベルテ』カンヌFF「ある視点」審査員特別賞

2022年「Tourment sur les iles / Pacifiction」『パシフィクション』

    カンヌFFコンペティション部門

2024年「Tardes de soledad」(仮題「孤独の午後」)SSIFFセクション・オフィシアル

 

    

      (中央が監督、右モンセ・トリオラ、SSIFF2024ノミネート発表)