閉幕作品は「200 vidas, Paco Rabal」*サンセバスチャンFF26 ⑯2026年09月17日 12:10

     クロージング作品はバネサ・ベニテスの「200 vidas, Paco Rabal

 

    

 

★オープニング作品もスペイン初公開のノンフィクションでしたが、バネサ・ベニテスの「200 vidas, Paco Rabal」は、世界初公開です。メイド・イン・スペイン部門を締めくくる映画がスペイン未公開というわけです。本作は俳優パコ・ラバル(ムルシア県アギラス19262001)の生誕100周年、没後25周年を記念して製作されました。半世紀に及ぶ俳優人生でクレジット無しを含めると映画データバンクには218本、タッグを組んだ監督には、ルイス・ブニュエル、ミケランジェロ・アントニオーニ、カルロス・サウラ、ペドロ・アルモドバル、クロード・シャブロル、ルキノ・ヴィスコンティなどなど、スペインに止まらず国際的に活躍した俳優でした。

 

  

(ルイス・ブニュエルの『ナサリン』から)

 

    

      (「おじさん」と慕っていたブニュエルとのツーショット)

 

 

★ベニテス監督は、1980年アンダルシアのセビーリャ県南部のオスナ生れ、監督、脚本家。ドキュメンタリー「La vida chipén」がゴヤ賞2023オリジナル歌曲賞(「Un paraíso en el sur」)に作曲家のパロマ・ペニャルビアとノミネート、他にカルメン賞2023などにノミネートされている。TVシリーズを数多く手がけていますが、2017年の「Rota nRoll」は、スペイン内戦後の農村ロタにソ連の脅威を抑えるため、ヨーロッパ最大のアメリカ軍基地が建設された歴史ドキュメンタリーです。

 

   

                          (バネサ・ベニテス監督)

 

     

         (ドキュメンタリー「La vida chipén」のポスター)

  

 

200 vidas, Paco Rabal / 200 Lives, Paco Rabal」(仮題「」)

製作:MLK Producciones / Horizon Media / Plan B et Compagnie / Monstro Films

      協賛:RTVE / Canal Sur Radio y Televisión / La 7 Television / Movistar Plus

監督・脚本:バネサ・ベニテス

音楽:クルド・ピメント

撮影:セサル・エルナンド、フアン・アルフォンソ・モレノ

編集:レナート・サンフアン

サウンド:ホルヘ・マリン

製作者:(MLK Produccionesスペイン)ホセ・アントニオ・エルゲタ、(Horizon Media スペイン)ホセ・エヘア、カルロス・ベルモンテ

共同製作者:(Plan B et Compagnieフランス)セクリエ・マエストロ・シャブロル、パスカル・ラフマニ、(Monstro Filmsメキシコ)モニカ・ロサノ、イーモン・オファリル

 

データ:製作国スペイン=フランス=メキシコ、2026年、ドキュメンタリー、歴史、ビオピック、俳優パコ・ラバルの映画アドベンチャー、スペイン語・英語・フランス語、95

  

出演アーカイブ映像フランシスコ・ラバル、ルイス・ブニュエル、フェルナンド・レイ、カルロス・サウラ、フアン・アントニオ・バルデム、ジュリアノ・モンタルド、アスンシオン・バラゲル(女優、ラバルの妻)、ルイス・エスコバル、ヌリア・エスペルト

出演)アルトゥーロ・リプスタイン(監督)、ゴンサロ・スアレス(監督)、ロベルト・フィエスコ(メキシコの製作者・監督)、エンリケ・セレソ(製作者)、アンドレス・ビセンテ・ゴメス(製作者)、フェルナンド・メンデス=レイテ、(以下俳優)ビクトリア・アブリル、アナ・ベレン、ホセ・サクリスタン、ヒネス・ガルシア・ミリャン、エウラリア・ラモン、ソニア・グランデ、ミゲル・エルモソ、セシル・メストル(フランスの女優・助監督)、ラファエル・アルバレス エル・ブルホ’(「フンカル」89で共演)、アントニオ・サウラ(製作者、サウラの子息)、ベニト・ラバル(ラバルの子息、短編「Paco, Mi padre」の監督)、他多数

  

解説:パコ・ラバルの声のカセット録音やフランコ時代の二枚目俳優として政治的関与にもかかわらず、すぐさま駆けつけたツアー、撮影、フェスティバルのイベントのスーパー8ミリフィルムを通して、彼は自身の人生、後悔、矛盾を見直します。彼が幾度か演じたゴヤのように、ボルドーでの死の瞬間を連想させる印象的なフィルムがあります。本祭では、ラファエル・ヒル、ルーカス・デマレ、レオン・クリモフスキー、ペドロ・オレア、ハイメ・デ・アルミリャンなどの監督たちと成功を収めました。第1回サンセバスチャン映画祭1953男優賞、ドノスティア栄誉賞2001の受賞者です。

 

    

                (SSIFF2026公式ポスター)

 

★サンセバスチャン映画祭1953での男優賞受賞は、フランシスコ・ロビラ・ベレタの「Hay un camino a la derecha」主演でした。船員を解雇されて生きるために強盗を計画する労働者の話で、当時のスペインの貧困、痛み、苦悩が語られ、妻を演じたフリア・マルティネスも女優賞を受賞しています。カルロス・サウラの「Goya en Burdeos」(99、『ゴヤ』)は、ボルドーでのゴヤの晩年を描いている。ラバルは翌年のゴヤ賞で主演男優賞を初めて受賞、200作以上も出演していながら受賞は死の前年の1回限りでした。キャリア&フィルモグラフィーは『無垢なる聖者』で紹介しております。またマリオ・カムスの『蜂の巣』では、ビクトリア・アブリル、アナ・ベレン、ルイス・エスコバル、ホセ・サクリスタンなどが共演している。アブリルとは『アタメ』や「Tiempo de silencio」でも共演している。

 

   

   (アルバ公爵夫人役マリベル・ベルドゥ、ゴヤに扮したラバル、『ゴヤ』から)

      

      

               (トンビのヒナとパコ・ラバル、『無垢なる聖者』から)

   

    

        (死が分かつまで連れ添ったラバルとアスンシオン・バラゲル)

 

 フランシスコ・ラバルの主なフィルモグラフィー

1952Sol intrepida」主演、監督ラファエル・ヒル

1953Hay un camino a la derecha」主演、監督フランシスコ・ロビラ・ベレタ

   SSIFF1953男優賞受賞

1953La guerra de Dios」主演、監督ラファエル・ヒル(SSIFFグランプリ受賞)

1958La noche y el alba」主演、監督ホセ・マリア・フォルケ

1959Nazarin」『ナサリン』(メキシコ)主演、監督ルイス・ブニュエル、

   原作ベニト・ぺレス・ガルドス、カンヌFF公式上映、国際賞受賞

1959Sonatas」(メキシコ合作)主演、監督フアン・アントニオ・バルデム、

   原作ラモン・デル・バジェ=インクラン、ベネチアFF正式出品

1960Trio de damas」コメディ、主演、監督ペドロ・オレア

1961Virideana」『ビリディアナ』(メキシコ合作)助演、監督ルイス・ブニュエル、

   カンヌFFパルムドール共同受賞

1962L'Eclisse」『太陽はひとりぼっち』(イタリア=フランス)助演、

   監督ミケランジェロ・アントニオーニ、カンヌFF特別審査員賞受賞

1966La Religieuse」『修道女』(フランス)助演、監督ジャック・リベット、

   原作ドニ・ディドロ

1967Belle de jour」『昼顔』(フランス=イタリア)助演、監督ルイス・ブニュエル、

   原作ジョセフ・ケッセル

1970Cabezas cortadas」『切られた首』(ブラジル合作)主演、監督グラウベル・ローシャ

1971Goya, historia de una soledad」主役ゴヤ、監督ニノ・ケベド、カンヌFF出品

1976Las laegas vacaciones del 36」『1936年の長い休暇』助演、監督ハイメ・カミーノ

1977Sorcerer」『恐怖の報酬』(米国)主演、監督ウイリアム・フリードキン、

   原作ジョルジュ・アルノー1953アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの同名作品がある)

1978Cosi come sei / Asi como eres」『今のままでいて』(イタリア合作)助演

   監督アルベルト・ラットゥアダ

1978Corleone」『白熱マフィア戦争/皆殺しの構想』(イタリア)主演、

   監督パスクアレ・スクイティエリ

1982La colmena」『蜂の巣』出演、監督マリオ・カムス、原作カミロ・ホセ・セラ

1984Los santos inocentes」『無垢なる聖者』主演、監督マリオ・カムス、

   原作ミゲル・デリーベス、カンヌFF主演男優賞をアルフレッド・ランダと受賞

1985Tiempo de silencio」主演、監督ビセンテ・アランダ

1985Padre nuestro」『わが父 パードレ・マエストラ』主演、監督フランシスコ・レゲイロ

   カンヌFF「ある視点」出品

1989¡ Atame !」『アタメ』助演、監督ペドロ・アルモドバル、ゴヤ賞助演男優賞ノミネート

1989Barroco」『バロック』(メキシコ、キューバ合作)主演、監督ポール・ルデュク、

   原作アレホ・カルペンティエル

1997Pajarico」『パハリーコ―小鳥―』助演、監督カルロス・サウラ

1999Goya en Burdeos」『ゴヤ』主演、監督カルロス・サウラ、ゴヤ賞主演男優賞受賞

   

1984年、映画国民賞受賞

1999年、スペイン芸術功労賞金のメダル受賞

2001年、サンセバスチャン映画祭ドノスティア栄誉賞受賞  

 

★今回ラバルが出演した公開作品を検索したところかなりの数がありましたが、必ずしも代表作というわけではなく取捨選択しました。1940年代はクレジット無しも多い。以上は字幕入りで鑑賞できる作品を中心にして、管理人が恣意的に選んだフィルモグラフィーです。ゴチック体タイトルは当ブログに作品紹介があります。

『ビリディアナ』の作品紹介は、コチラ20200529

『無垢なる聖者』の作品 & ラバルのキャリア紹介は、コチラ2014031003月11

  

メイド・イン・スペイン部門25作が出揃う*サンセバスチャンFF26 ⑮2026年09月12日 16:33

    開幕はアルベルト・セラのノンフィクション「Seize moments de ma vie

   

     

★メイド・イン・スペイン部門は、著作権管理団体SGAEとのコラボレーションです。8月初めに24作が一挙発表になりましたが、追加の可能性を匂わせていました。99日、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido」が追加され、第74回は25作が公式上映となりました。どうやら劇場公開の終了を待っていたようです。ハビエル・バルデムビクトリア・ルエンゴ主演の本作は、カンヌ映画祭コンペティションでプレミアされた折、当ブログで作品紹介をしています。25作のなかには、ペドロ・アルモドバルイサベル・コイシェビクトル・ガルシア・レオンマルタ・マトゥテなどの話題作が含まれています。

 

オープニング作品は、2024年のドキュメンタリー「Tardes de soledad」(『孤独の午後』)で金貝賞を射止めたアルベルト・セラのノンフィクション「Seize moments de ma vie / Sixteen Moments of My Life」(仮題「私の人生の16の瞬間」フランスとの合作、85分、ドイツ語・フランス語)です。セラは製作、編集も手がけています。アウト・オブ・コンペティションでしたがロカルノ映画祭でプレミアされました。ドイツ出身のフランス女優で歌手のイングリッド・カーヴェン(ザールブリュッケン1938、国籍フランス)の人生賛歌です。彼女はパリのブッフェ・デュ・ノール劇場で行われた1回限りのコンサートで自身の人生の16の瞬間のパフォーマンスを披露します。セラの常連作曲家マルク・ベルダゲルとジョー・ロビンソンが共作した16曲のバラードを仏語・独語で歌います。バンド伴奏はモルフォート Molforts

  

音楽:ジョー・ロビンソン、マルク・ベルダゲル、他

撮影:アルトゥール・トルト

編集:クレマン・ピント、アルベルト・セラ

製作者:ピエール・マルタン・ジュバン、アルベルト・セラ、(エグゼクティブ)ピエール・マルタン・ジュバン、モンセ・トリオラ、他クリスティナ・コンラッド

サウンド:ジョルディ・リバス

衣装デザイン:イヴ・サンローラン

 

     

  (Seize moments de ma vie」から

 

イングリッド・カーヴェン(カーフェン)は、一時結婚していたライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が製作・脚本・撮影・美術・フィルム編集を自ら手がけた『13回の新月がある年に』(78)に出演、ヴェルナー・シュローターの『愚か者の日』(89)、アンドレ・テシネの『私の好きな季節』(93)、ベルトラン・ボネロの「Ingrid Caven, musique et voix」(12、仮題「イングリッド・カーヴェン、音楽と声」)、またダニエル・シュミットの『ラ・パロマ』(74)に主演、同監督の『天使の影』(76)はファスビンダーの戯曲『ゴミ、都市そして死』をシュミットが映画化、他に『季節のはざまで』(92)、パスカル・ホフマン&ベニー・ヤーベルクのドキュメンタリー『ダニエル・シュミット 思考する猫』(10)などに出演している。

 

     

         (「Ingrid Caven, musique et voix」のポスター)

 

アルベルト・セラのキャリア&フィルモグラフィーは、以下の作品でアップしています。

『孤独の午後』の作品紹介は、コチラ20240804

『パシフィクション』の作品&キャリア紹介は、コチラ20221013

   

      

       (アルベルト・セラ)


 

3月開催のマラガ映画祭、5月開催のカンヌ映画祭などで、既に作品紹介をしている監督作品は以下の通りです。

  

El ser querido / The Beloved」(スペイン=フランス)カンヌ映画祭コンペティション

監督:ロドリゴ・ソロゴジェン(マドリード1981

 

  

(ハビエル・バルデム、ビクトリア・ルエンゴ)

   

 

El ser querido」の作品・キャリア紹介は、コチラ20260604

 

 

Amarga Navidad / Bitter Christmas」(スペイン)カンヌ映画祭コンペティション

監督:ペドロ・アルモドバル(カルサダ・デ・カラトラバ1949

 

    

  (バルバラ・レニー、ビクトリア・ルエンゴ)

 

       

      (レオナルド・スバラリア)


   

Amarga Navidad」の作品・キャリア紹介は、コチラ20260614

 

 

Yo no moriré de amor / I Wont Die for Love」マラガ映画祭コンペティション

 金のビスナガ作品賞受賞

監督:マルタ・マトゥテ(マドリード1988

 

  
 (フリア・マスコット、ソニア・アルマルチャ)

   

           (マルタ・マトゥテ監督)

 

Yo no moriré de amor」の作品・キャリア紹介は、コチラ20260411

 

 

★マラガのスペイン映画部門12作のうち、金のビスナガ作品賞を受賞した「Yo no moriré de amor / I Wont Die for Love」を含めると、観客賞を受賞したマルタ・ディアス・デ・ロペ・ディアスの「Pioneras, Solo querían jugar」や、審査員特別賞を受賞したイアン・デ・ラ・ロサの「Iván Hadoum」など7作も選ばれていますから、サンセバスチャンに来れば、今年のスペイン映画の話題作を纒めて観ることができそうです。マラガ映画祭2026でデータだけ紹介しています。

    

     

(マルタ・ディアス・デ・ロペ・ディアスの

 「Pioneras, Solo querían jugar」から)

    

        

 (イアン・デ・ラ・ロサの「Iván Hadoum」から)

  

★次回はクロージング作品、バネッサ・ベニテス(セビーリャ1980)の「200 vidas, Paco Rabal」(ドキュメンタリー)の紹介を予定しています。2001年のドノスティア栄誉賞を受賞した俳優パコ・ラバルのドキュメンタリーで、今回がワールドプレミアです。

   

     

                  (パコ・ラバル)

  

ニューディレクターズ部門14作ノミネート発表*サンセバスチャンFF26 ⑦2026年08月07日 17:26

       クチャバンク賞を競うニューディレクターズ部門全14作のノミネート発表

 

       

 

730日、ニューディレクターズ部門の全14作が出揃いました。この部門はデビュー作を含む2作めまでが対象で、クチャバンク新人監督賞には50.000ユーロが副賞として授与されます。既にスペインが主製作国の映画3作が発表になっており、ラテンアメリカ諸国(メキシコ、チリ)、アジア(日本、韓国、台湾、イラン、カザフスタン)、ヨーロッパ(ドイツ、ノルウェー、イギリス、ブルガリア、ウクライナ)が各1作ずつノミネートされています。スペイン語映画を中心に以下5作を紹介いたします。

 

         ニューディレクターズ部門(スペイン映画)

 

1)El mal hijo / The Bad Son

オープニング作品

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、106

監督・脚本ハイメ・ロレンテ(ムルシア1991)、共同脚本サルバドール・S ・モリーナ、撮影エリアス・M・フェリックス、音楽ルイスミ・グレス・ベドマル、編集レヒノ・エルナンデス

キャスト:ウーゴ・アルブエス(ルーベン)、ミゲル・アンヘル・プーロ(父)、スシ・サンチェス(祖母パスクアラ)、オスカル・デ・ラ・プエンテ(伯父ファンジ)、アベル・デ・ラ・プエンテ(少年時代ルーベン)、ナイアラ・カルモナ(母)

ストーリー11歳のルーベンの父親が謎の失踪をして、少年はほとんど会ったことのない祖母と暮らため引っ越さねばなりません。時が止まったかのような田舎の環境で、子供は家族の傷が代々受け継がれていることを学び、成長する過程で傷を癒そうと努力するだろう。

 

  

  

            (ミゲル・アンヘル・プーロ、アベル・デ・ラ・プエンテ)

 

  

     (ハイメ・ロレンテ監督)

 

   

   

2)「Bloques erráticos / Erratics」(仮題「不規則なブロック」)

データ:製作国チリ=フランス=ドイツ、2026年、デビュー作、スペイン語、ドラマ、ファンタジー、92分、ロッテルダム映画祭2026でプレミア

監督・脚本トマス・ウッドロフ(サンティアゴ1995,監督、脚本家)、エリアス・ケレヘタ・シネ・エスコラの映画アーカイブコース修了、短編「Fiebre austral」がSSIFF2019ネスト部門の特別賞を受賞、ベネチアFFオリゾンティ、トロントFF短編部門で上映された。共同脚本ヴァレリア・ホフマンアントニオ・ルコ、撮影エミリア・マルティン、製作者パスクアル・メナ、ロドリゴ・ディアス

キャスト:デニス・ラヴァン(リシュアン)、ダニエル・ムニョス

参加者:フランチェスカ・ボッツァーノ(シネマテーク・ドゥ・トゥールーズのコレクション責任者)、ドミニク・ルグピル(フランス国立科学研究センター、作家)、レイナルド・カロ(俳優)、ドミンガ・ソトマヨール(チリの監督)、フェリペ・ガルベス(チリの監督)

ストーリー100年間パタゴニアの氷河に閉じ込められた後、自らを解放した映画監督リュシアン・カステルノーの亡霊は、未来のパタゴニアを彷徨います。そこは技術の進歩が忘れられた物語と激しく衝突しています。彼の映画遺産が見られずにいるあいだ心が休まらず、記憶から消し去られた世界を横断して、歴史のなかの場所と観客を求めて、遂に失われた作品を生き返らせる。

 


   (フランスの名優デニス・ラヴァン)



(トマス・ウッドロフ監督)

  

 

  

3)「Esta soledad / This Solitude」(仮題「この孤独」)

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、110分、単独監督デビュー作、公開20261030

監督・脚本ハビエル・ギネル(ビスカヤ県バラカルド1977)、監督、脚本家、製作者。2024年、本祭アウト・オブ・コンペティションでコメディYo,adicto / I, Addict」(TVシリーズ6話の3話)をアイトル・ガビロンドと共同監督して、特別上映枠で上映された。監督自身のビオピックで主役ハビエルをオリオル・プラが演じた。短編「El amor me quedad grande」でシネフォリア賞2016監督賞、観客賞受賞、ほか短編多数。

キャスト:オリオル・プラ(レオ)、マリナ・サラス(ロレア)、ジェンマ・マルティネス(イラティ)、カイ・エチャニス、イツィアル・ラスカノ(ロレアの母親)、フアン・ビアダス(レオの父親)

ストーリー:ビルバオ、レオとロレアは愛しあっていた。もしかしたら今も愛しあっているかもしれない。しかし二人のなかで何かが壊れてしまった。5年に及ぶ二人の関係は終わってしまった。彼は病気の父親を介護しており、その責任と重くのしかかる虚ろな感情に捕らわれている。彼女は低賃金の仕事や個人的な危機に巻き込まれ、どこから手を付ければいいのか分からず、やみくもに人生を立て直そうとしている。彼らは疲れはてた孤独な二つの体であり、不安定で、解決されない、そして全てがいつも遅れてやってくるように思える或る世代の感情的な遺産が横たわっている。例えば、愛、安定、成熟、静寂、個人的な満足感など。

Yo,adicto」の紹介記事は、コチラ⇒2024年10月09日

  

  

           (マリナ・サラス、ハビエル・ギネル監督、オリオル・プラ)

  


 

4)「Morro」(仮題「モロ」)

データ:製作国メキシコ、2026年、2作め、スペイン語、ドラマ、95

監督・共同脚本・製作者ロドリゴ・ガルシア・サイス(メキシコシティ生れ、監督、脚本家、製作者)、

短編「El hombre que murio de rumor」がアリエル賞1997ノミネート、2023年デビュー作「Lluvia / Rain」がマラガ映画祭2024でプレミア、マイアミ、モレリア、ハバナ、ロスアンゼルスなど各映画祭巡りをした。本作が長編2作めでサンセバスチャンにやってくる。音楽ラミロ・デル・レアル、撮影アルフォンソ・エレラ・サルセド、編集フェルナンダ・デ・ラ・ペサ

キャスト:グスタボ・サンチェス・パラ(獣医マテオ)、アンナ・ディアス(イサベル)、エルネスト・メレンデス(ポンチョ)、アルフォンソ・エスコベド(ダニ)、ホセ・サビノ(ロヘリオ)

ストーリー:獣医のマテオは息子が亡くなって以来、静かな悲しみのなか、譬えようもない罪悪感に満ちた人生を送っている。小さな町の暴力は、終わりのない木霊のように、そこに潜んで直ぐには目に見えない。この壊れやすいバランスは、マテオが地元のマフィアのボスの負傷した犬モロを治療することで崩れます。この動物の日常的な世話は思いがけない絆を生みだし、判断も言葉もない関係を築き、彼は人生の意味を再び取り戻すことになるだろう。

マラガFF2024ノミネート「Lluvia」の紹介は、コチラ20240304日

 

    

  

(グスタボ・サンチェス・パラとモロ)

 

   

                   (ロドリゴ・ガルシア・サイス監督)

  

 

   

5)Sieben tage februar / February, Seven Gays / Siete días de febrero」(仮題「2月の7日間」)

WIP Europa 2025

データ:製作国ドイツ=オーストリア=スペイン、2026年、デビュー作、ドラマ、ドイツ語、ロシア語、ウクライナ語

監督・脚本タチヤナ・ムチニク(ウクライナ、キーウ1988、ドイツ系ウクライナ人、監督、脚本家)、2014年、本祭ネスト部門に短編「Der letzte kuss / The Last Kiss」で参加している。短編、TVミニシリーズ(22)を手がけている。

キャスト:セルゲイ(セルヒー)・コルシコフ(アルカディ)、ヴォロディミル・ホロスニャク、マリア・シュトファ(マリナ)、アルセニ・マルコフ、モイセイ・バジジャン(グランパ・グリシャ)、ダリア・ギトブート(ダシャ)

ストーリー:ウクライナ戦争が勃発する前日のこと、ドイツのシュトゥットガルトに暮らすアルカディは、オデッサから疎遠だった兄とその息子の訪問を受けます。母親の埋葬をするためです。家族の素性についての二つの考え方の違いで対立が生じてしまいます。ロシアによる自国侵攻を背景に、ドイツで再会する兄弟の確執が語られる。

 

フォト

 

  

            (タチヤナ・ムチニク監督)

  


 

特別上映(アウト・オブ・コンペティション)*サンセバスチャンFF26 ⑤2026年07月30日 18:49

    特別上映部門に『雪山の絆』その後を追ったドキュメンタリー・シリーズ

 

    

          (TVシリーズ「Más allá de la sociedad」ポスター)

 

★賞に絡まないアウト・オブ・コンペティションですが、特別上映が充実しています。まず『雪山の絆』(原題「La sociedad de la nieve」)を手がけた J.A.バヨナが創案、カルロス・トーレスが監督したドキュメンタリー「Más allá de la sociedad」(TVシリーズ3話、150分)、本作はベネチア映画祭2023アウト・オブ・コンペティションのクロージングでワールドプレミアされ、サンセバスチャン映画祭ではペルラス部門で上映され、サンセバスティアン市観客賞を受賞した。さらに翌年のゴヤ賞では作品賞以下12冠、オスカー賞にもノミネートされた作品です。そのほか『プリズン211』のダニエル・モンソンの「Ruega por nosotras / Pray for Us」、3年ぶりにサンセバスチャンに戻ってきたフェルナンド・トゥルエバの「Bajañí」など長編4作が上映されます。まだ断片的な情報しか入手できておりませんが、カルロス・トーレスの「Más allá de la sociedad」を紹介します。

 

★ノミネーション発表のあった当日には、カルロス・トーレス監督とプロデューサーのサンドラ・エルミダが出席しました。本祭の総ディレクターを長年務めてきたホセ・ルイス・レボルディノスは、今年が最後になり、来年からは現在副ディレクターを務めているマイアレン・ベロキになります。

 


(左から、ホセ・ルイス・レボルディノス、サンドラ・エルミダ、カルロス・トーレス、

   第75回から総ディレクターに就任するマイアレン・ベロキ,2026717日)

  

 

1)Más allá de la sociedad / Beyond Society

製作:Apaches Entertainment / Misión de Audaces Films,S.L. / Netflix

クリエーター:J.A.バヨナ、カルロス・トーレス

監督:カルロス・トーレス

脚本:パブロ・ヴィエルチ、ピアズ・ポール・リード、フランク・マーシャル

製作者:ベレン・アティエンサ・アスコナ、サンドラ・エルミダ・ムニィス、J. A. バヨナ

 

データ:製作国スペイン、2026年、TVミニシリーズ、ドキュメンタリー、スペイン語、150分(3話)、Netflix 20261218日配信予定

映画祭・受賞歴:第74回サンセバスチャン映画祭2026、アウト・オブ・コンペティション特別上映

 

解説1972年、アンデス山脈に激突したウルグアイ空軍機571便遭難事故の物語は、救出された日で終わったわけではありません。生存者たちが故郷に戻ったとき、もう一つの困難な物語が始まりました。そこには戻れなかった仲間たちの家族が待っていたのでした。世界が彼らの悲劇を普遍的な物語に変えるなか、生存者たちは自分たちに起こったことの重みと共に生きることを学ばなければなりませんでした。一方、半世紀にわたるこのシリーズでは、生者と死者のあいだに横たわる亀裂を探り、物語を語りなおすことで、私たちが立ち向かえる方法を描いています。

 

1972年に起きたアンデス航空事故を描いたバヨナ監督の『雪山の絆』(23、原題「La sociedad de la nieve」)については、作品ほか、主なスタッフ、キャスト、実際の搭乗者、乗務員5名、チリ開催のラグビー試合に参加するため搭乗していたステラマリス大学のラグビー・チームの選手団と、その家族や友人など40名を紹介しています。バヨナ監督のキャリア&フィルモグラフィー紹介は、マラガ映画祭2018の特別賞の一つ「レトロスペクティブ賞」を受賞した折にアップしております。

* J.A.バヨナのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2018年03月24日

『雪山の絆』作品 & スタッフ紹介記事は、コチラ20231104

『雪山の絆』主な搭乗者・キャスト紹介記事などは、コチラ20231114

   

     

        (J. A. バヨナ『雪山の絆』のNetflix ポスター)

 

監督紹介カルロス・トーレス Carlos Torres1985年アリカンテ生れ、監督、脚本家、製作者。代表作は、バルセロナで起きた有名な殺人事件をめぐるドキュメンタリー「Crims / Crímenes」(20、カタルーニャTVシリーズ、全62話の監督2話、脚本10話、カタルーニャ語)、「Pajares & CIA」(2022TVシリーズ、全6話、監督)、脚本家としてTVシリーズ、ダビ・カブレラ他の「Astral」(16)、「Malas compañías」(17、全4話の2話)、インタビュー番組「Salvados」(1317、全360話の99話)を手がけている。

 

  

      (「Más allá de la sociedad」撮影中のカルロス・トーレス)

 

脚本家紹介

パブロ・ヴィエルチ Pablo Vierci1950年ウルグアイのモンテビデオ生れ、作家、ジャーナリスト、脚本家。J. A. バヨナが『雪山の絆』で採用した La sociedad de la nieve2009年刊)の原作者、本作で2009年、ゴールデンブック賞を受賞している。原作者は生存者16名と同じモンテビデオのステラマリス大学の同窓生、構想から三十数年かけて、生きて戻れた人の証言だけでなく、証言することが叶わなかった死者にも敬意をはらって「声を与えた」ことが、バヨナ監督に映画化を決意させた。他に生存者の一人で当時医学生だったロベルト・カネッサとの共著 Tenia que sobrevivir がある。

 

    

      (帰還者16名を配した La sociedad de la nieve の表紙

 

ピアズ・ポール・リード1941年生れ、イギリスの歴史家、ノンフィクション作家、1974年、このウルグアイ空軍機571便遭難事故をテーマにした Alive: The Story of the Andes Survivors を刊行、『生存者ーアンデス山中の70日』として翻訳された。1993年、アメリカのフランク・マーシャル1946)が映画化、日本では『生きてこそ』(英題「Alive126分)の邦題で公開された。これには一部フィクションが含まれており、いわゆるドクドラ(ドキュメンタリー・ドラマ)である。

  

サバルテギ-タバカレアにスペイン映画5作*サンセバチャンFF26 ④2026年07月27日 11:13

  サバルテギ-タバカレアにはイサキ・ラクエスタのドキュメンタリーなど5作品

 

     

 

サバルテギ-タバカレアは、フィクション、ドキュメンタリー、短編映画、何でもありが個性的な部門です。賞には絡まないので作品紹介を後回し、結局時間切れで終わってしまうことが多かった。今年のスペイン関連映画にはユニークな作品が多そうなので紹介したい。オスカル・アレグリア・スエスクン(パンプローナ1973)の「HAMALAU gau / CATORCE noches」、メリチェル・コレル・アパリシオ(バルセロナ1983)の「Lejos de los árboles / Far From the Trees」、カンヌ映画祭併催「監督週間」でプレミアされたフランスのブルーノ・デュモン(バイユール1958)の「Les Roches rouges / Red Rocks / Rocas rojas」、イサキ・ラクエスタ(ジローナ1975)のフラメンコ史のドキュメンタリー「Jaleos / Flamenco Sketches」、台湾の蔡明亮 Tsai Ming-Liang(マレーシアのクチン1957)の「Dust / La deriva」などが上映されます。

 

   

1)「Dust / La deriva

データ:製作国スペイン=台湾、2026年、ドキュメンタリー、78

監督蔡明亮 ツァイ・ミンリャン(マレーシアのクチン1957

ストーリー:旅人は美しい光に満ちた風景のサンセバスティアンに到着します。赤い帯が森の中をゆっくり動き、風と海の縁にそって、夜の喧騒と昼の静けさのあいだを進んでいる。ゆっくりとした足取りで、彼は多くの人の目の前で動きます。世界の広大さのなかで穏やかな姿を残し、見知らぬ人々の記憶に一瞬の傷跡を残します。過去と現在が融合します。創造も自然も塵となって消える。

 

  

 

  (ツァイ・ミンリャン監督)

 

 

2)HAMALAU gau / CATORCE noches

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドキュメンタリー、91分、

    公開スペイン9月(限定)

監督オスカル・アレグリア・スエスクン(ナバロ州パンプローナ1973

登場人物ボイス:ホルヘ・オテイサ(バスクの芸術家)、イニャル・サストレ(ピアニスト)、オスカル・アレグリア、ラモン・アンドレス、フリア・オチョア、ホセベ・ブランコ、ヨス・ベネロ、イバン・ウリサル、他多数

ストーリー:「この映画では夜が14回訪れます。私たちは数えています」。こうして夜に起こる音楽の旅が始まります。バスクの芸術家ホルヘ・オテイサの思考のなかを漂うもので、特に或る夜に支配されており、それはアランツァス大聖堂で過ごした夜です。そこでは教会のオルガンのかたわらで最も長い夜が訪れ、監督オスカル・アレグリア・スエスクンがピアニストのイニャル・サストレに14夜を語ります。音楽家は見なかったろう一連の映像を鍵盤を通してイメージするために呼びかけられた。このチャレンジから、同じフリーズを構成する、14の月光、14の暗闇、14の神秘のコレクションとなって出現する。14は、オテイサがこの同じ場所の正面に配置することができた使徒の数と同じであり、さらに14は、彼自身が述べたように「これ以上は置けなかった」からである。ホルヘ・オテイサの世界観を再現している。

作品・監督紹介を予定しています。

 

    

 

(オスカル・アレグリア・スエスクン監督)

 

 

3)「Jaleos / Flamenco Sketches

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドキュメンタリー、78分、

    公開スペイン1113

監督・脚本イサキ・ラクエスタ(ジローナ1975)、音楽監督ジュディット・A・リエラ

キャスト:ロシオ・モリーナ、C. タンガナ、アルバ・フローレス、ソレア・モレンテ、ほか

ストーリー:アーカイブ資料を用い、断片的でポリフォニー的な構造を用い、フラメンコの歴史を提示する。それを近代性、大衆文化、政治と関連づけています。物語や予想外の協力を通して、さまざまな時代や状況の人物を登場させている。本作は伝統、大衆文化、現代の想像力が共存する世界とコンスタントに対話する「不純な」フラメンコを掘り下げている。

 

   

   

  (スペイン語語版ポスター)

 

 

4)「Lejos de los árboles / Far From the Trees

Ikusmira Berriak 2022  Proyecta 2021 Berlinale Talents 2022

データ:製作国スペイン=ペルー=イタリア、2026年、ドラマ、121分、

    スペイン語・カタルーニャ語・ケチュア語

監督・脚本・編集メリチェル・コレル・アパリシオ(バルセロナ1983)、製作者マイカ・サンス、撮影監督フリアン・エリサルデ

キャスト:アンヘリカ・カステーリョ(アデラ)、ホセ・ルイス・ロペス・カマ(ルチョ)、テレシタ・サンチェス(パウラ)、カテリナ・ラミレス・グアラル(アデリータ)、アンヘル・サントス、アンナ・ムクサト、ウォルター・ユーリ

ストーリー:メキシコのサウンドアーティストのアデラは、ガイド兼通訳のルチョと共にジャングルからペルーのアンデスへ旅をします。メキシコに亡命していたカタルーニャ共和主義者である祖父の遺志を継いで足跡を辿り、彼女は絶滅危惧言語のサウンドマップを紡ぎだします。死の恐怖に襲われると、現実は粉々に砕け散ります。アデラの旅は、幼少期の家族への親密な旅となります。存在の儚さ、そして記憶すること、耳を傾けること、愛することの必要性についての物語に満ちています。

 

   

  

  (スペイン語版ポスター)

 

  

 (メリチェル・コレル・アパリシオ監督)

 

 

5)「Les Roches rouges / Red Rocks / Rocas rojas

データ:製作国ポルトガル=仏=伊=西=カタール、フランス語、ドラマ、90分、

    カンヌ映画祭併催「監督週間」プレミア作品、公開フランス923

監督・脚本ブルーノ・デュモン(フランス北部バイユール1958)、撮影監督カルロス・アルフォンソ・コラル、製作者ジャン・ブレハ、ほか多数、助監督リサ・アーヌルド

キャスト:ケイロン・ランセル(ゲオ/ジェオ)、ケルシー・ヴェルデイユ(イヴ)、ルイーズ・ポドルスキ(マノン)、モハメド・コリー(ルーベン)、アレサンドロ・ピケラ(B)、メリル・ピレス(ドゥ)

ストーリー:コートダジュール(フレンチ・リヴィエラ)では、子供たちの二つのチームがお気に入りのゲーム、地中海の赤い崖から飛び降りるゲームで競いあいます。まだ5歳にも満たないゲオは、夏のあいだに友情とライバル意識が混ざりあい、心の最初の動きが緊張の源となる世界を発見します。

   

    

  

   (フランス語版ポスター)

 


(ブルーノ・デュモン監督、カンヌFF2026


コンペティション他ノミネーション発表*サンセバチャンFF26 ③2026年07月23日 14:50

   サンセバスチャン映画祭コンペティション部門にスペイン映画が3作ノミネート

 

      

 

★第74回サンセバスチャン映画祭2026918日~26日)のセクション・オフィシアル以下、特別上映、ニューディレクターズ、オリソンテス・ラティノス、サバルテギ-タバカレア、ペルラス(ペルラク)、ベロドロモ各部門のスペイン製作の25作(長編23作、TVシリーズ2作)が発表になりました。スペインはワールドカップ2026で二度目のチャンピオンになり、目下のところ興奮の坩堝です。フィリップ6世国王もサルスエラ宮殿でお出迎え、サンチェス首相は「二度あることは三度ある」と次回の優勝を示唆、200万人が出迎えるなど大騒動です。メディアもラミネ・ヤマルはメッシでなくブラジルのペレを手本にしていると皮肉り、ゴールを決めたフェラン・トーレスは「スペイン国民4700万のゴール」と饒舌、しかし一番褒められていいのは、わずか1失点におさえた19歳のDFクバルシではないか? 取りあえずしばらくは失業も金欠も忘れて過ごせそうです。

  

  

  

セクション・オフィシアル(金貝賞を競うコンペ部門)には、ハビエル・ルイス・カルデラ(ビラデカンス1976)の「5 minutos más / 5 more minutes」(ハビエル・カマラ主演)、ロベルト・ブエソ(バレンシア1986)の3作め「El mal padre」(エドゥアルド・フェルナンデス主演)、ミケル・グレア(サンセバスティアン1985)の「Sants / Saints」(ビクトリア・ルエンゴ主演)の長編3作がノミネートされました。順次紹介記事をアップしていきます。

 

1)5 minutos más / 5 more minutes

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、87

監督:ハビエル・ルイス・カルデラ(バルセロナ県ビラデカンス1976

キャスト:ハビエル・カマラ、ベルト・ロメロ、ベレン・クエスタ、カルロス・ベルナルディノ、マルク・ソレル、クラウディア・メロ

ストーリー:危機にある夫婦が、人里離れた田舎で週末を過ごすことにする。到着すると仲介業者が家を案内し鍵を手渡すと、奇妙なことに時間が5分巻き戻り・・・

   

 

 

2)「El mal padre

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、コメディドラマ、120

監督ロベルト・カルロス・サンチェス・ブエソ(バレンシア1986

キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(サンティアゴ・バルメス)、アダム・Jezierski、フランセスコ・カリル、メリチェル・カルボ、クリスティナ・プラサス

ストーリー:子供たちと長年疎遠だった著名な作家で学者のサンティアゴ・バルメスは、最後に三人の子供たちを呼び戻します。かつて子供たちと夏の休暇をとった別荘でクリスマスを過ごそうとします。

  

  

 

3)「Sants / Saints

データ:製作国スペイン=イタリア、2026年、ドラマ、103

監督ミケル・グレア(サンセバスティアン1985

キャスト:ビクトリア・ルエンゴ(ラリ)、アリアドナ・ヒル、エウラリア・ラモン、コジモ・フスコ

ストーリー:さし迫る母親の死を逃れるように、ラリは宗教的な遺物を盗む或る窃盗団に加わります。

  

  


   

    

オリソンテス・ラティノス(ラテンアメリカ諸国の作品)には、カンヌ映画祭から2作、ベルリン映画祭から3作と、既にワールドプレミアされた5作品が選ばれています。メキシコのフェルナンド・エインビッケの「Moscas / Flies」、ディエゴ・ルナの6作め「Ceniza en la boca / Ashes」、チリのマヌエラ・マルテッリの「El deshielo / The Meltdown」(カンヌ「ある視点」)など当ブログで一番関係ある部門です。

 

1)「Ceniza en la boca / Ashes

データ:製作国メキシコ=スペイン、2026年、ドラマ、

監督ディエゴ・ルナ(メキシコシティ1979

キャスト:アンナ・ディアス、アドリアナ・パス、ルイサ・ウエルタス、ギジェルモ・リオス、セルヒオ・バウティスタ、ベニー・エマニュエル、テレサ・ロサノ、アドリアナ・ハコメ(ジャコメ)

ストーリー:より良い生活を求めて、ルシラは兄ディエゴとともにメキシコを離れ、8年間不法滞在している母親の住むマドリードを目指します。遂に到着するが、母親にに支えられながらも、想像以上に厳しい現実が待ち受けていた。

 

  

   

2)「Chicas tristes / Sad Girlz

データWIP Latam 2025Proyecta 2022

    製作国メキシコ=スペイン=フランス、2026年、ドラマ、90

監督フェルナンダ・トバル(メキシコシティ1991、メキシコ系スペイン人)、デビュー作

キャスト:ロシオ・グスマン(ラ・マエストラ)、ダラナ・アルバレス(パウラ)

ストーリー16歳のラ・マエストラとパウラは、メキシコ・チームのなかで最高の泳ぎ手であり親友でもあった。しかしあるパーティでの出来事がすべてを変えてしまった。激しい気性のラ・マエストラは、親友の変化に気づき悲しんでいる。真実が明らかになると、二人は不可能な決断を迫られる。パウラは沈黙を守りたい、ラ・マエストラは正義を求めたい。かつての友情は試練にさらされる。

  

  

    

3)「El deshielo / The Meltdown

データProyecta 2022、製作国チリ=USA=スペイン=メキシコ、2026年、スリラー、110

監督マヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ・デ・チリ1983

キャスト:マヤ・オロウルケ、サスキア・ローゼンダール、マイア・ラエ・ドマガラ、ヤクブ・ギエルザル、パウリナ・ウルティア

ストーリー:チリ、1992年。祖父母の山のホテルに滞在しているあいだ、イネスはドイツ人スキーヤーのハンナと友達になります。ハンナが跡形もなく姿を消したことで、彼女の隠された真実が明らかになっていく。

   


 

4)「Moscas / Flies

データWIP Latam 2025、製作国メキシコ=スペイン、2026年、ドラマ、99

監督フェルナンド・エインビッケ(メキシコシティ1970

キャスト:テレシタ・サンチェス(オルガ)、バスティアン・エスコバル

ストーリー:オルガは大きな喪失以来、自分の世界に閉じこもっている。しかし足の親指の手術代を払うお金がなく、オルガが住んでいる大型アパートの部屋を妻が近くの医療センターに入院したという男トゥリオに部屋を貸すことにする。彼が数日間留守にすることになったとき、秘かに9歳になる息子クリスチャンを住まわせていたことが分かる。オルガと少年が交わることになり、オルガの人生が変化していく。

  

 

  

5)「Narciso

データヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム2020

    パラグアイ=西=ウルグアイ=ブラジル=ポルトガル=独=仏、2026、ドラマ、101

監督マルセロ・マルティネッシ(パラグアイのアスンシオン1973

キャスト:ディロ・ロメロ(ナルシソ)、モナ・マルティネス(ネヌチャ)、ナウエル・ペレス・ビスカヤルト(ミスター・ウエッソン)

ストーリー:パラグアイ、1959年。息苦しい軍事政権のもと、ナルシソはブエノスアイレスからロックンロールの熱を帯びて帰国する。神秘的でカリスマ性のある彼は、男女双方の欲望の対象になる。やがてラジオのスターとなり、自由のシンボルとなる。しかし最後のショーの後、遺体となって発見される。沈黙が支配し恐怖が真実を覆い隠す国で、誰がナルシソを殺害したのか。

   

   



  (左から、フェルナンド・エインビッケ、ディエゴ・ルナ、マヌエラ・マルテッリ、

       マルセロ・マルティネッシ、フェルナンダ・トバル、各監督)

  

★監督を含めてスタッフ、キャストなど、賞に絡みそうな作品を紹介していく予定です。次回はサバルテギ-タバカレア部門を予定しています。

アルモドバルの「ビター・クリスマス」は悲喜劇*カンヌ映画祭20262026年06月14日 15:20

           公開済みの作品で7回目のカンヌ映画祭コンペ入りは異例?

 

  

               (公開用のポスター)

 

★ちょうど1年前の202569日、ペドロ・アルモドバルの「Amarga Navidad」がクランクインした折に、大枠の紹介記事をアップしました。カンヌ映画祭には多分間にあわないと予想しましたが、なんと320日にスペインで早々と公開、更に公開済みの作品がカンヌ・コンペ入りするなんて聞いたことがないから、じゃワールドプレミアはどこで? やはりカンヌだというので驚きました。1999年、初めてコンペ入りした『オール・アバウト・マイ・マザー』で監督賞を受賞して以来、7作目のコンペ入りでした。2006年の『ボルベール〈帰郷〉』で脚本賞を受賞、しかし一番欲しいパルムドールはまだ手にしておりません。『私の秘密の花』(95)でタッグを組んで30年、音楽監督アルベルト・イグレシアスがサウンドトラック賞を受賞しました。こんな賞があることも知りませんでした。

 

★タイトルは、アルモドバルが2023年に出版した12編からなる短編集 “El último sueño” から、20年前に執筆されたお気に入りの Amarga Navidad と、これまた監督お気に入りのメキシコの国民的な大歌手、チャベラことイサベル・バルガ・リサノ Amarga Navidad から採られました。エルサの物語を2004年に設定したのと関係あるのかもしれません。劇中で流れるということです。作品紹介記事にチャベラ・バルガスの紹介もアップしております。過去のカンヌ・コンペ入りは、『オール・アバウト・マイ・マザー』、『ボルベール〈帰郷〉』、『抱擁のかけら』(09)、『私が、生きる肌』(11)、『ジュリエッタ』(16)、『ペイン・アンド・グローリー』(19)の6作です。

作品紹介記事は、コチラ20250617

  

     

     (カンヌ映画祭2026ワールドプレミア前のレッドカーペット、519日)

    

レッドカーペットに現れた出席者は, 左から、ニエベス・アルバレス、ロッシ・デ・パルマ、キム・グティエレス、アイタナ・サンチェス=ヒホン、レオナルド・スバラリア、監督、バルバラ・レニー、パトリック・クリアド、ビクトリア・ルエンゴ、ミレナ・スミット、歌手アマイア・ロメロの11名、カルメン・マチは不参加でした。

 

 

 「Amarga Navidad / Bitter Christmas

製作:El Deseo / Film Factory Entertainment Movistar Plus+ / Pathé

      / ICO / ICAA / RTVE

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル

撮影:パウ・エステベ・ビルバ

音楽:アルベルト・イグレシアス

編集:テレサ・フォント

キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ

衣装デザイン:パコ・デルガド

メイクアップ&ヘアー:アナ・ロペス=プイグセルベル(メイク)

                     マノロ・ガルシア(ヘアー)、他

美術:パブロ・ブラッティ

製作者:アグスティン・アルモドバル、(エグゼクティブ)エステル・ガルシア

  

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、悲喜劇、111分、撮影地カナリア諸島のランサローテ島、マドリード、202569日ランサローテでクランクイン、812日終了。配給:スペイン(ワーナーブラザース・ピクチャーズ)、米国(ソニー・ピクチャーズ・クラシックス)、フランス(パテ Pathé520日)、イギリス、アイルランド(カーズン828日)、ドイツ(スタジオカナル・フィルム730日)、イタリア(ワーナーブラザース521日)、メキシコ、アルゼンチン、ブラジルほか中南米諸国(ワーナー・ブラザース528日)他。スペインでは公開後、モビスター・プラスが配信予定

映画祭・受賞歴:第79回カンヌ映画祭2026コンペティション、サウンドトラック賞(アルベルト・イグレシアス)、

 

キャスト

バルバラ・レニー:エルサ、広告ディレクター

レオナルド・スバラリア(スバラグリア):ラウル・デュラン、映画監督

アイタナ・サンチェス=ヒホン:モニカ、ラウルの20年来の秘書

ビクトリア・ルエンゴ:パトリシア、エルサの友人、パリにいる夫の浮気を疑っている

パトリック・クリアド:ボニファシオ、エルサの年弱のパートナー、消防士、ストリッパー

ミレナ・スミット:ナタリア、エルサの友人、子供を事故で亡くし鬱になっている

キム・グティエレス:サンティ、ラウルのパートナー

カルメン・マチ:ガルシア医師

グロリア・ムニョス:エルサの母親

ロッシ・デ・パルマ:ガブリエラ

アマイア・ロメロ:歌手アマイア

マリア・モラレス:パトリシア・オテロ医師

アントニオ・ロメロ:医師

ニエベス・アルバレス、ヌルディン・バタン、ラウラ・レデスマ、(フィエスタの招待客)ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、ロラ・ロドリゲス、オマール・アユソ、ギタリカデラフエンテ、ビビアナ・フェルナンデス、フェルナンド・イグレシアス、テオ・ルカダモ、フリア・デ・カストロ、その他大勢

 

ストーリー:、2004年、12月の長い週末に母親を亡くした広告ディレクターのエルサは、仕事に没頭して対処しようとします。しかし片頭痛で休暇を余儀なくされ、憲法記念日(126日)の連休に友人のパトリシアと一緒にランサローテに向かうことにする。パトリシアにもマドリードを離れる必要があり、一方で年下の若いパートナーのボニファシオはマドリードに留まることにする。エルサは創作を再開するために、親しい友人たちの個人的な苦しみを食いものにしていきます。2025年、映画監督のラウルが脚本を執筆しているが、物語はラウルのもうひとりの自分であるエルサの物語であることが明らかになる。ラウルは創造性の壁を乗りこえるためにオートフィクションに没頭しており、それは自身の人生や若いパートナーのサンティ、アシスタントのモニカに影響を受けています。人生とフィクションは分かちがたく、時には痛みを伴うかたちで結びついている。しかし深入りはどこまで許されるのでしょうか。

   

         

                 (最初のポスター)

 

             「自分に対して最も残酷だった映画」と監督

 

★最初のポスターからも分かるように、バルバラ・レニー扮するエルサとレオナルド・スバラリアのラウルはダブル(分身)、そしてラウルは監督の別人格でもある。半自叙伝的な『ペイン・アンド・グローリー』と同じオートフィクションの要素を取り入れています。因みにあちらはアントニオ・バンデラスでした。二つの物語は悪影響をあたえながらパラレルに入れ子状に展開されます。二人の監督が重なりあうだけでなく、もう一人の監督とも重なるようです。もう一人の監督を理解して支え続けた母親が亡くなったのは、19999月で『オール・アバウト・マイ・マザー』が公開中のことで、翌年のアカデミー外国語映画賞受賞を知らずに旅立ちました。監督は2002年に上梓した自伝でカミングアウトしており、2004年は『バッド・エデュケーション』が公開された年でもあった。

 

       

                                          (本作撮影中のアルモドバル)

 

     

               (三人は一人、カンヌFF2026519日レッドカーペット)

 

★未紹介のエルサの年下のパートナー役ボニファシオを演じたパトリック・クリアド(マドリード1995は子役出身、ダニエル・サンチェス・アレバロのコメディ「La familia española」でゴヤ賞2014新人男優賞にノミネートされ大人の俳優としての第一歩を踏み出した。ロドリゴ・ソロゴジェンのTVシリーズ「Antidisturbios」(6話、20)でスペイン俳優組合賞2022,フェロス賞2021の助演男優賞を受賞した他、イベロアメリカ・プラチナ賞にノミネートされた。『ペーパー・ハウス』(6話、21)、「Las noches de Tefia」(6話)でオンダス賞2023主演男優賞を受賞した。アレックス&ダビ・パストールの『バード・ボックス・バルセロナ』(23)、パウラ・オルティスの『レッド・バージン』(24)でスペイン俳優組合賞を受賞している。短編だがブラス・エヘア・サラビアの「Remember Why You Started」で脚本も手がけている。

 

        

  

              (パニック発作で入院したエルサを介護するボニファシオ)

 

★主要キャストのキャリア&フィルモグラフィーは以下にアップしています。ラウルのアシスタントを20年も続けているモニカ役のアイタナ・サンチェス=ヒホンの演技が評価されていますが、うちに才能を秘めたモニカの立ち位置に注意して鑑賞したほうがよろしいようです。

 

       

       

               (アイタナ・サンチェス=ヒホンとレオナルド・スバラリア)

  

バルバラ・レニー、コチラ20150327日/20180621

レオナルド・スバラリア、コチラ20170313日/20241031

アイタナ・サンチェス=ヒホン、コチラ20241217

ビクトリア・ルエンゴコチラ20260604

 

★批評家の評価は、90%が概ねポジティブで、5点満点で平均4.2点です。「魅力的だが感動的ではない」、「『ペイン・アンド・グローリー』より不快だがより正直な作品」、「栄光より痛みが多い」、監督自身も述懐しているように、自身に対して「容赦ない正直さ」または「残酷な誠実さの自画像」を評価している。一方には『ペイン・アンド・グローリー』のようにうまく機能してないと嘆く評者もいます。かつて『抱擁のかけら』を「褒めるところがゼロ」と書いて大喧嘩したエル・パイスのカルロス・ボジェロは「またしても感情の嵐が作り物のように見えるデザインの展示」とけんもほろろです。

 

            

                    (バルバラ・レニーとビクトリア・ルエンゴ)  

 

      

                                       (バルバラ・レニーとミレナ・スミット)

 

       

  (レオナルド・スバラリアとキム・グティエレス)

 

   

          (ニエベス・アルバレスとロッシ・デ・パルマ、レッドカーペット)


ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido」*カンヌ映画祭20262026年06月04日 16:13

          スリラーというジャンルのコルセットを脱ぎすてたソロゴジェン

        


             (英語版プロモーション・ポスター)

 

★今年のカンヌ映画祭にはスペインから3作がコンペティションにノミネートされました。ペドロ・アルモドバルの「Amarga Nadidad」、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido / The Beloved」、前回アップしたロス・ハビスの「La bola negra」の3作品です。個人的に期待していたのがソロゴジェン、『ザ・ビースト』のような彼の過去の映画がもっていたスリラーの要素を除いたことが理由でした。プレミアム上映後の感触は悪くなかったようですが、下馬評はイマイチでした。フランス公開はカンヌでワールドプレミアされた当日の516日(配給ル・パクト)、スペインは826日(同ア・コントラコリエンテ・フィルム)、公開後モビスター・プラスで配信されます。近いうち鑑賞できることを期待してアウトラインをアップします。

 

★プレミアム上映後のスタンディングオベーションは、ソロゴジェンのスピーチを入れて78分くらい、夕方からのコンペ上映時には観客にもフォーマルな服装が求められるから蝶ネクタイ姿がいっぱい。映画祭関係者、カメラマンも黒服だからライトが当たった人しか判別できない。ソロゴジェン監督以下、脚本家イサベラ・ペーニャ、製作者ギジェルモ・ファレ、エドゥアルド・ビリャヌエバ、キャスト陣はハビエル・バルデム、ビクトリア・ルエンゴ、マリナ・フォイス、ラウル・アルバレス、ラウル・プリエトなど、本作には関係してないと思うが、ホセ・アントニオ・バヨナの姿もあった。

 

      

  

     (ワールドプレミア後のレッドカーペット、カンヌ映画祭2026516日)

 

★新作「El ser querido」は、単独デビュー作「Stockholm」(ゴヤ賞2014新人監督賞ノミネート)から数えると6作めになる。長いあいだ離れて会うこともなかった父親エステバン(ハビエル・バルデム)と娘エミリア(ビクトリア・ルエンゴ)の物語、長年疎遠だった著名な映画監督の父、売れない女優の娘が再会して一緒に仕事をするとどうなるか。バルデムの起用は初、ルエンゴはTVシリーズ「Antidisturbios / Riot Police」の主役に抜擢している。スペインの過去の植民地であったサハラ砂漠を舞台に、現実とフィクションを交錯させている。

 

 「El ser querido / The Beloved」(愛しきもの)

製作:Caballo Films / Movistar Plus/ El Ser Querido AIE / Le Pacte / 

   Comunidad de Madrid / ICEC / ICAA / Crea SGR / Triodos Bank

監督:ロドリゴ・ソロゴジェン

脚本:イサベル・ペーニャ、ロドリゴ・ソロゴジェン

撮影:アレハンドロ・デ・パブロ

音楽:オリヴィエ・Arson

編集:アルベルト・デル・カンポ

キャスティング:パウラ・カマラ、アランツァ・ベレス

プロダクションデザイン&美術:ホセ・ティラド

衣装デザイン:サイオア・ララ

メイクアップ&ヘアー:フランシス・ボディ、イレネ・ペドロサ、ヘスス・ヒルGil、他

製作者:フラン・アラウホ、ギジェルモ・ファレ、ホルヘ・ペッツィPezzi、(共同)アリス・ラバディ、ジャン・ラバディ、(エグゼクティブ)ハビエル・バルデム、クララ・ラゴ、ナチョ・ラビリャ、エドゥアルド・ビリャヌエバ

 

データ:製作国スペイン=フランス、2026年、スペイン語、ドラマ、135分、撮影地:カナリア諸島フエルテベントゥラ島のパハラ、ラ・オリバ、マドリードなど、20252月クランクイン、公開フランス516日、スペイン826日、スウェーデン1218日(予定)

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2026コンペティション部門、ジャカルタ・ワールド・シネマ(10月予定)

 

ストーリー:著名な映画監督エステバン・マルティネスは、映画だけでなく、過剰に彩られた過去でも伝説的な存在です。新作では、長年疎遠だった女優の娘エミリアに役を提供しようとします。一緒に撮影現場で暮らすことで、何年も分かち合うことのなかった親密さが芽生えるが、同時に癒えなかった古い傷口が再び開くことになる。互いに目を見て話すことのなかった二人の人間についての映画。 

 

キャスト:ハビエル・バルデム(エステバン・マルティネス)、ビクトリア・ルエンゴ(エミリア・マルティネス)、マリナ・フォイス(マリナ)、ラウル・アレバロ(セサル)、ムラド・ウアニ Mourad Quani(ビラル)、メリナ・マシューズ(バルバラ)、ラウラ・ビルン(アリス)、ヌリア・プリムス(チャロ)、パブロ・ゴメス=パンド(パブロ)、マレナ・ビリャ(マレナ)、ペパ・グラシア(ぺパ)、他多数

  

★壊れた家族の再会、権力者と犠牲者のあいだで起こるエモーショナルな暴力、互いに調和しない記憶、ストーリーからはよくあるテーマのように思われます。多くの批評家がヨアキム・トリアーの『センチメンタル・バリュー』との類似性を指摘しています。あちらの父娘も監督と女優だった。比較は避けられないと思いますが、だからと言ってソロゴジェン映画の興味がゼロかというわけではない。短い予告編からは、沈黙が支配しているように見える。登場人物のクローズアップされた視線、沈黙、表情から、壊れた父娘の関係を探ることになりそうです。

   

         

             

       (ハビエル・バルデムとビクトリア・ルエンゴ、フレームから)

 

監督紹介ロドリゴ・ソロゴジェン(マドリード1981)、監督、脚本家、製作者。単独監督デビュー作以来、何回かキャリア紹介をしておりますので、今回は主なフィルモグラフィー&受賞歴だけ以下にアップしておきます(TVシリーズは割愛)。

 

    

                         (監督、ルエンゴ、バルデム、カンヌFF5月16日

 

2013Stockholm」マラガFF、監督賞、イサベル・ペーニャと脚本賞受賞

2016Que dios nos perdone」『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』

   サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル初ノミネート

2017Madre」短編、ゴヤ賞2018短編映画賞受賞、米アカデミー賞2019ノミネート

2018El Reino / The Realm」サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル、

   ゴヤ賞2019監督賞、イサベル・ペーニャと脚本賞、フェロス賞監督賞・脚本賞受賞

2019Madre」『おもかげ』公開

2022As Bestas / The Beasts」『ザ・ビースト』TIFF、邦題『理想郷』で公開、SSIFF観客賞

   ゴヤ賞2023作品・監督・イサベル・ペーニャと脚本賞受賞、セザール賞2023外国映画賞

2026El ser querido」カンヌ映画祭コンペティション初ノミネート

 

Stockholm」とキャリア紹介記事は、コチラ20140617

Que dios nos perdone」の紹介記事は、コチラ20160811

キャリア&フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ20180326

El reino」の作品紹介は、コチラ20180725

 

 

キャスト紹介

ハビエル・バルデム(カナリア諸島ラス・パルマス1969)、俳優、製作者。伯父にフアン・アントニオ・バルデム監督、母に女優のピラール・バルデム、俳優で作家の兄カルロス、女優の姉モニカ、妻ペネロペ・クルスと、まさに映画一家です。2023年、第71ドノスティア栄誉賞受賞が発表された折に、かなり詳しいキャリア&フィルモグラフィーをアップしています。1年遅れの授与式に、ビクトリア・ルエンゴと「El ser querido」に主演することをアナウンスしておりました。

キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20230609

ドノスティア栄誉賞授与式の記事は、コチラ20240923

 

  

                             (新作フレームから)

 

   

                        (カンヌFFフォトコール、5月17日)

 

ビクトリア・ルエンゴ・サエス1990年、パルマ・デ・マジョルカ生れのバルセロナ育ち、映画、テレビ、舞台女優。ヴィッキー・ルエンゴでデビューしたが、2020年ごろからビクトリアを使用している。バルセロナのメモリー・スクールで演技、ダンス、歌を学んでいる。2010年、TVシリーズでスタートをきる。主な映画出演は以下の通りです。ミケル・グレアのデビュー作「Suro」に主演、高評価で翌年のゴヤ賞主演女優賞にノミネート、ガウディ賞では受賞を果たした。2022年にメディナ映画祭「21世紀の女優賞」を受賞、舞台女優としては、モノローグ劇「Prima Facie」を演じ好評を博している。

 

     

                (新作フレームから)


    

    (カンヌFFフォトコール、5月17日

 

TVシリーズでは、警察を舞台にしたスリラー「Antidisturbios / Riot Police」(206話)に機動隊員ライア・ウルキホ役で主演、オンダス賞2021主演女優賞フォトグラマス・デ・プラタ主演女優賞を受賞、フォルケ賞やフェロス賞、イリス賞などにノミネートされた。ソロゴジェン監督にとっても大きな転機になったTVシリーズでした。他にコルド・セラが手がけるサスペンス「Reina Roja」(『レッド・クイーン』24、シーズン17話)で、IQ242のアントニア・スコットを演じている。再びホヴィク・ケウチケリアンとタッグを組んだ。プライムビデオで配信されている。

 

2014Born」『ボルンの街に、灯る火』監督クラウディオ・スリアン

   ニューヨーク市映画祭2015主演女優賞受賞

2018Las leyes de la termodinamica」『熱力学の法則』コメディ、監督マテオ・ヒル

2020Hogar」スリラー、共同監督アレックス・パストール&ダビ・パストール

2021Chavalas」コメディ、監督カロル・ロドリゲス・コラス

   ガウディ賞2022主演女優賞ノミネート

2021El sustituto / The Replacement」クライムスリラー、監督オスカル・アイバル

2022Suro / Cork」監督ミケル・グレア、カタルーニャ語、フランス語ほか

   ゴヤ賞2023主演女優賞ノミネート、ガウディ賞主演女優賞を受賞

2024La habitacion」『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』監督ペドロ・アルモドバル

2024Verano en diciembre」監督カロリナ・アフリカ

2026Amarga Navidad」監督ペドロ・アルモドバル

2026El ser querido」監督ロドリゴ・ソロゴジェン

  

『熱力学の法則』の作品紹介は、コチラ20180402

Suro / Cork」の紹介記事は、コチラ20220801

Amarga Navidad」の紹介記事は、コチラ20250617

 

批評家から演技が絶賛されているマリナ・フォイスラウル・アレバロの立ち位置がまだ分かりません。もう4年前になるが『ザ・ビースト / 理想郷』のマリナ・フォイスの演技は忘れられません。東京国際映画祭2022では東京グランプリなど受賞しましたが、素晴らしい演技にも拘わらず女優賞は逃しました。ラウル・アレバロ、メリナ・マシューズも『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』に出演しており、スタッフ同様キャストも気心の知れた布陣のようです。秋の映画祭を期待したい。

 

 
  

 

           (プレス会見、カンヌFFフォトコール、5月17日

 

ロス・ハビスの「La bola negra」が監督賞*カンヌ映画祭20262026年05月26日 13:45

          プレゼンターにディエゴ・セスペデス登場で勝利を確信したか?

   

      

   (ロス・ハビスこと、ハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボ、523日)

 

★濱口竜介の『急に具合が悪くなる』主演の岡本多緒が女優賞受賞というニュースに「まさか!?」、ということはパルムドールも監督賞もダメだったのね、じゃ、受賞は? 「Fjord(フィヨルド)」のクリスチャン・ムンジウが「17年ぶり2回目のパルムドール」に。『4ヶ月、3週と2日』から、もう17年も経ったのかと、時の流れの速さに愕然としました。確か下馬評はアンドレイ・ズビャギンツェフの「Minotaur(ミノタウロス)」のはずだった。こちらは次点のグランプリ、そしてびっくり玉手箱は、ロス・ハビスの「La bola negra / The Black Ball」(西仏合作)が監督賞を受賞したことでした。プレミアムが後半の521日のせいか情報が中々入りませんでした。スタンディングオベーションが16分とか最長の20分とか嘘みたいな情報に「誰が時間を計かってるんだか、ペネロペ・クルスのお蔭かも」と苦笑していました。因みにギレルモ・デル・トロの『パンズラビリンス』は、22分でした。

  

  

            (「La bola negra」のポスター)

 

★カンヌ入りした監督以下、主なキャスト陣は、下の写真左からロラ・ドゥエニャス、ミゲル・ベルナルドー、ギタリカデラフエンテ(本名アルバロ・ラフエンテ・カルボ)、ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、ペネロペ・クルス、ミロ・キフェス、カルロス・ゴンサレスなどがレッドカーペットのフォトにおさまりました。

   

 

     (レッドカーペットに勢揃いした両監督とキャスト陣、521日)

 


  (ギタリカデラフエンテ、ロス・ハビス、ペネロペ・クルス、ミロ・キフェス)

 


          (レッドカーペット、5月23日の授賞式)

 

 
         
(ロラ・ドゥエニャスとミゲル・ベルナルドー)

 

           スペインのクィア・アイデンティティを探求する

 

★ガルシア・ロルカの未完の遺稿とアルベルト・コネヘロの戯曲 La piedra oscura に着想をえて製作された。三つの時代(193219372017)に、LGBTIQ+ の人々が受けた苦しみ、痛み、沈黙、欲望、死などに敬意を払って、スペインでゲイであることの意味を探求しています。昨年夏、製作発表があった折に既に作品のアウトラインを紹介しております。ロルカのたった4ページの未完の遺稿、コネへロの戯曲、キャスト陣などを紹介しています。役どころが不明だったペネロペ・クルスは、20世紀初頭に流行したコプラ(coplacuplé 歌謡)の歌手ネネというクプレティスタになる由、圧倒的な存在感で映画を支えたグレン・クローズが歴史家役で出演するなど話題に事欠きません。「La Mesias」主演でその演技力に脱帽して今回も起用したロラ・ドゥエニャスの役どころは? バージョンアップした紹介記事を予定していますが、取りあえず以下に関連記事をアップしています。

 

作品・キャストなどの紹介は、コチラ20250704

監督デビュー作『ホーリー・キャンプ!』の作品紹介は、コチラ20171007

*「ロルカの死をめぐる謎」を紹介した記事は、コチラ20150911

 

 

      

 (セバスティアンを演じるギタリカデラフエンテ)

 

    

             (ネネ・ロメロ役のペネロペ・クルス)

 

   

              (歴史家役のグレン・クローズとカルロス・ゴンサレス)

 

★受賞が決まったとたん、複数の配給会社がアメリカの配給権をめぐって争奪戦を繰りひろげ、どうやら Netflix が400万から500万ドルに吊り上げて手にしたようです。ネトフリには端金でもスペインでは大金です。カンヌは神様、ノミネート22作品のうちアルモドバル、是枝監督、韓国のナ・ホンジンが自国のみで製作、ジェームズ・グレイの「ペーパータイガー」がフランス抜きで、他は全部フランスが一枚嚙んでます。資金的に単独は無理、ならばフランスと繋がりたい、という関係者の心理が頷けます。クィア・パーム対象作品が7作と3分の1を占めたのも時代の流れでしょうか。


『愛しのセニョリータ』ネットフリックス鑑賞記*マラガ映画祭2026 ⑪2026年05月22日 18:34

           オリジナル版はハイメ・デ・アルミニャンの『お嬢さま』

 


     

フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「Mi querida señorita」が、『愛しのセニョリータ』の邦題でNetflixストリーミング配信が始まっています。マラガ映画祭2026セクション・オフィシアルでワールドプレミアされた作品です。フランコ体制の末期1971年に完成、翌年2月公開されたハイメ・デ・アルミニャンの長編3作目のリメイク版です。リメイク版といっても、ジャンル、時代、場所、登場人物、セニョリータの年齢なども変えておりますが、「愛の物語」というオリジナル版の本質は失っておりません。どちらかというと翻案のほうがぴったりきます。製作者のロス・ハビスもオリジナルに敬意をはらった「リメイクではなく翻案です」と語っています。出版以来17言語に翻訳されたというベストセラー La mala costumbre 2023刊)の著者アラナ・S・ポルテロが脚本を手掛けるなど話題も尽きません(翻訳書は現在のところ出版されておりません)。

  

     

   (ハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボに囲まれて、マラガFF38日)

 

★マラガに参加したクルー、後列左から、アンヘラ役のロラ・ロドリゲス、ハビエル・アンブロッシ、ガト―役のマヌ・リオス、イサベル役のアンナ・カスティーリョ、母親役のナゴレ・アランブル、ハビエル・カルボ、シンガーソングライターのサハラ Zahara、アレックス・デ・ルカス、前列エリザベス・マルティネスと監督でした。主要人物のうち、長寿テレドラ出演でスペインで最も有名な祖母役者となった女優マリア・ガリアナ、モニカ・ナランホのファンだという神父役のパコ・レオン、サンティアゴ役のエネコ・サガルドイなどは欠席でした。

   


    

 「Mi querida señorita / My Dearest Señorita

製作:Suma Content

監督:フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ

脚本:アラナ・S・ポルテロ

   オリジナル版:ハイメ・デ・アルミニャン、ホセ・ルイス・ボラウ

音楽:アレックス・デ・ルカス、Zahara

撮影:カルロス・リゴ

編集:ベロニカ・カリョン

キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ

メイクアップ&ヘアー:エバ・R・フォンテンラ、アマイア・ミロ―、セルモ・デル・カンポ・ペスケラ

製作者:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、アンドレア・エレーラ・カタラ

プロダクション(Netflix):ジェスイカ・メナ

 

データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、112分、撮影地ナバラ州パンプローナ、配給Netflix、公開スペイン2026417日、Netflix ストリーミング配信開始51

映画祭・受賞歴:第29回マラガ映画祭2026セクション・オフィシアル、38日プレミア

 

キャスト:エリザベス・マルティネス(アデラ/アデーA.D.)、アンナ・カスティーリョ(イサベル)、パコ・レオン(ホセ・マリア司祭)、ナゴレ・アランブル(アデラの母クルス)、マリア・ガリアナ(アデラの祖母アデリナ)、エネコ・サガルドイ(サンティアゴ)、デルフィナ・ビアンコ(パトリシア/マダム・フェリ)、マヌ・リオス(ガトー/ラモン・ビセンテ)、ロラ・ロドリゲス(アンヘラ)、ロドリゴ・クエバス(アロンソ、神父のパートナー)、ウスエ・アルバレス(ベゴーニャ)、アインホア・アルテチェ(イサベルの友人アネ)、ヨグリニャ・ボロバ(ヨグリニャ)、イニゴ・デ・ラ・イグレシア(カルボ医師)、グレンダ・ガロア(グレンダ)、エスペランサ・グアルダード(マダム・デネブ)、フェリペ・ロサ(セサル)、イサベル・ミゲル・エルナンデス(館員)、ニコ・モントーヤ(イシドロ)、アラナ・S・ポルテロ(アラナ)、アリナ・ラズメンコ(マダム・アルタイア)、ミナ・セラーノ(マダム・ベガ)、他(クレジット無し)ホセ・ルイス・ロペス・バスケス(フアン)、フリエタ・セラーノ(イサベリータ)

 

ストーリー:パンプローナ、間もなくミレニアムを迎える1999年暮れ、保守的な家庭の一人娘アデラは、母親の過保護のもと家族が営むアンティークショップ「デ・フアン」で働き、週末には子供たちの教理指導の教師をしている。自身のインターセセックスを取り巻く沈黙の中で生きている。不安をかかえながらそれが自分の人生全体を左右していることに気づかない。しかし新たに赴任してきた司祭ホセ・マリアの思いがけない友情、幼馴染サンティアゴのロンドンからの帰郷、自動車事故をきっかけに突然闖入してきた理学療法士イサベルの登場が連鎖反応を引き起こし、アデラをパンプローナからマドリードへの自己発見の旅に誘い出すことになる。自分のアイデンティティを知るには愛と他人の助けが欠かせないだろう。

          

監督紹介フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ Fernando González Molina1975年パンプローナ生れ、監督、脚本家、製作者。ナバラ大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、その後マドリード自治体映画学校ECAM 映画監督の学士号を取得する。短編映画、ドキュメンタリー制作に携わり、アンテナ3TV人気シリーズ「Los hombres de Paco」(200610,全136話)に2008年から参加して28話を監督した。そこで出会ったマリオ・カサスを主役にコメディ「Fuga de Cerebros」を撮り、マラガ映画祭2009観客賞を受賞、映画館に100万人以上が足を運んで興行的にも成功を収めた。その後もカサスとマリア・バルベルデを起用した青春ドラマ『空の上3メートル』、続編『その愛を走れ』ではカサスの相手役にクララ・ラゴを主演させ、いずれも高い興行成績を記録した。

 

    

            (エリザベス・マルティネスとゴンサレス・モリーナ監督、マラガ)

 

2015年、ルス・ガバスの同名小説 Palmeras en la nieve に触発されて映画化した『ヤシの木に降る雪』が大ヒット、観客動員数300万人以上の大記録、ゴヤ賞2016オリジナル歌曲賞美術賞を受賞した。2017年、サンセバスティアン出身の作家ドロレス・レドンドの犯罪サスペンス、マルタ・エトゥラの主演で「Trilogía del Baztánバスタン渓谷三部作」と言われる第1部を原作とした「El guardián invisible」を発表、劇場公開3週目で300万人突破を果たした。翻訳書のタイトル『バサジャウンの影』を邦題にして、Netflixで配信されている。第2部「Legado en los huesos」と第3部「Ofrenda a la tormenta」も日本語字幕なしだが鑑賞できる。2018年の「The Best Day of My Life」は、国籍の異なる6人のLGBTメンバーについて語るドキュメンタリー、2017年バルセロナのランブラスで起きたバルセロナ同時多発テロを追う犯罪スリラーCronos」が公開予定(910)になっている。

 

主なフィルモグラフィ

2009Fuga de Cerebros」マラガFFセクション・オフィシアル観客賞を受賞、

   タラソナ・イ・エル・モンカイヨ・コメディFF作品賞受賞

2010Tres metros sobre el cielo」『空の上3メートル』、

2011Fuga de Cerebros 2」エグゼクティブプロデューサー

2012Tengo ganas de ti」『その愛を走れ』シネフォリア賞2013年間トップテン観客賞受賞

2015Palmeras en la nieve」『ヤシの木に降る雪』フォトグラマス・デ・プラタ2016観客賞

2017El guardián invisible」『バサジャウンの影』バスタン渓谷三部作第1

2018The Best Day of My Life」シネフォリア賞2019ドキュメンタリー賞ノミネート

2019Legado en los huesos」「レガシー・オブ・ボーンズ」バスタン渓谷三部作第2

2020Ofrenda a la tormenta」「吹雪と贄」バスタン渓谷三部作第3

2021~22ParaísoTVシリーズ(全15話)SFミステリー、

   アリカンテFF 20212022TVシリーズ部門ノミネート

2026Mi querida señorita『愛しのセニョリータ』

2026Cronos」犯罪スリラー

2022 アリカンテFFルセンタム賞受賞

 

     オリジナル版は米アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの『お嬢さま』

 

A: 上述したようにハイメ・デ・アルミニャン(マドリード19292024)が監督、脚本を製作者で監督でもあったホセ・ルイス・ボラウ(サラゴサ19292012)が共同執筆した。本作の成功にはボラウに負うところが大きいと言われた。当時、新進気鋭の劇作家として数々の受賞歴をもつデ・アルミリャンの長編3作目、フランコ体制の末期とはいえ未だ検閲下にあったスペインでタブー視されていた性的指向について初めて語った作品でした。第45回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたが、ルイス・ブニュエルのフランス映画『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』に敗れた。デ・アルミリャンは本作で第一線に登場したことになる。

 

  

            (オリジナル版のポスターとロス・ハビス)

  

B: スペインで検閲が全廃されるのは、フランコ没後の19764月、コメディとして検閲を摺り抜けた。ボラウは本作を手掛けた制作会社「エル・イマン」の設立者、またアデラに「あなたは女ではない」と診断結果を告げる医師としてスクリーンにも登場するなど多才の人ですね。

 

A: 邦題『お嬢さま』は、198411月に開催された「スペイン映画の史的展望19511977」上映時に付けられたタイトルです。京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターで、ルイス・G.ベルランガ、J. A.バルデムからルイス・ブニュエル、カルロス・サウラ、ビクトル・エリセなど20人の監督からなる23作が一挙に上映された。

B: 日本のスペイン映画元年ともいわれる映画祭でした。中には既に公開されていたブニュエルの『ビリディアナ』やバルデムの『恐怖の逢びき』など4作も含まれていましたが、本邦初上映の粒ぞろい作品ばかりでした。エリセの『ミツバチのささやき』も翌年公開されました。

 

A: 成功のカギは、なんといってもアデラを演じた当時の大スターホセ・ルイス・ロペス・バスケス(マドリード19222009)の名演技でした。俳優、コメディアン、衣装デザイナー、更に舞台美術家でもあった。トータルの出演本数262本には驚くほかはない。油の乗りきった時代のロペス・バスケスが、鬘を被って女性のアデラと男性になったフアンを演じ分け、シカゴ映画祭1972「銀のヒューゴー男優賞」を受賞した。

B: アカデミー授賞式に出席したロペス・バスケスに、ハリウッドの監督たちから「英語を習ってハリウッドに来ないか」と誘われたエピソードは有名になった。

 

      

          (アデラ時代のホセ・ルイス・ロペス・バスケス)

 

A: あっさり断ってくれたお蔭でアントニオ・メルセロの短編ホラー「La cabina(仮題「電話ボックス」72)、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「Habla mudita」(『話してごらん』74)などを楽しむことができたわけです。リメイク版のようなインターセックスの女優は当然存在しなかったというか、そういうキャリアの存在を許してこなかった。後述するリメイク版でアデラを演じたエリザベス・マルティネスも、今作がスクリーンデビュー作品です。

B: マルティネスの演技をとやかく言うのは簡単ですけどね。

 

A: オリジナル版の時代背景は、1970年代初めのスペイン北部の町、アデラは中流階級の婚期を逸した43歳の女性であるが、そのことに違和感っを感じている。メイドのイサベリータと暮らしている。バルセロナ生れの舞台女優フリエタ・セラーノが演じている。それほど映画出演は多くなかったが、古典劇からシェイクスピア、チェーホフ、テネシー・ウィリアムズと幅広く出演していた。若いころ好意を感じていたドン・サンティアゴ(アントニオ・フェランディス)が地方銀行の支店長として赴任してくる。最近妻を亡くしたばかりの彼はアデラにさっそく求婚する。しかし、アデラは彼に体を接触されるのが嫌である。

   

     

           (口髭、顎髭、頬髭を剃らねばならないアデラ)

 

B: そこで教区の神父(エンリケ・アビラ)の勧めもあって医師の診察を受けると、信じられないような重大な真実を知らされる。イサベリータに好意を感じていたのも、彼女のボーイフレンドのことで喧嘩別れしたことも腑に落ちるというわけです。

 

    

     (アデラ時代のロペス・バスケスとイサベリータ役のフリエタ・セラーノ)

 

A: ここからが後半部、フアンと呼ばれる男性が列車でマドリードに到着する。しかし身分証もないうえ、男性になっても女性としての教育しか受けていないから出来る仕事が容易に見つからない。かつての日本と同じ「男は外で仕事、女は内で家事育児」のせいで職業訓練など受けたことがない。家賃は滞納するは、食事もままならないほど困窮する。

B: そこでフアンはミシンを運んできたことを思い出し、裁縫の特技を生かして、アデラ時代に着ていた洋服を仕立て直して洋装店に持ち込むことで就労許可証を手にする。   

  

        

       (マドリードで再会したフアンになったアデラとイサベリータ)

 

A: 女性が低く見られている現実と、男女の役割分担を強いる政権を批判しているのですが、コメディタッチにすることで検閲を逃れている。洋装店の近くのカフェでウェイトレスをしていたイサベリータと再会するが、彼女はフアンがもとの雇い主とは気づかない。フアンは彼女が自分を憎からず思っていることに気づくが、男としての自信がない。そこで若者に混じって成人学級で学び始めたりするが上手くいかない。イサベルを遠ざけようとするフアンを彼女は優しく抱擁する。いつか大切なことを話すというフアンに、「必要ありませんよ、お嬢さま」と返事する。

B: 彼女が既にフアンの正体を知っていたことを示唆しているシーンで終わる。なんだと思うでしょうが、検閲を向こうに回して、1970年代のスペインがもっていたジェンダーについての情報や感受性を語ったパイオニア的な映画だったのです。

 

A: リメイク版に較べて登場人物は多くありませんが、アパートの管理人役にロラ・ガオス(『ビリディアナ』)、その姪にチュス・ランペアベ(アルモドバル映画の常連)、アパートの隣人で娼婦役のモニカ・ランダル(『カラスの飼育』)など、当時の個性的な演技派女優がズラリですから見ごたえがあります。公開50年後の2022年に記念上映会がもたれた。現代の観客もかつての観客同様、ロペス・バスケスの女装を見たいからではなく、愛と不適合、孤独についての物語を観に行ったのでした。

 

        時代設定を1999年にした理由――パンプローナは16世紀

 

B: ロス・ハビスが「これは挑戦です」と語った2026年版は「ゼロから始まった」という。二人のハビエルは、昨年11月、13年間の交際を解消したと発表しましたが、仕事上のパートナー関係は維持していくということです。

A: 監督によると、時代を現在ではなく1999年に設定した理由として、ミレニアムを控えた特殊な年であったこと、現在のようにインターセックス(性分化疾患)が完全に可視化されておらず、まだ LGTBI のうち は存在しなかったこと、更にパンプローナからマドリードに旅立つアデラの年齢が、脚本を手掛けたアラナ・S・ポルテロ(マドリード1978)と自分とが同世代だったことを上げている。このことで彼ら自身のことを語ることにもなったという。トランス女性としての彼女、ゲイとしての自身のことですね。

   

    

                アラナ・S・ポルテロとゴンサレス・モリーナ監督)

  

B: パンプローナは監督の生れ故郷です。オリジナル版はマドリード以外はガリシアのポンテベドラ県のバヨナやビゴで撮影した。

A: ロス・ハビスからリメイク版の打診があった。オリジナル版は映画学校で観ていたが、改めて見直すとリメイクはとても難しいと感じた。なにしろ名優ロペス・バスケスに匹敵する俳優を探すのは至難の業だったし、2026年の現在、鬘をつけた男優でインターセクシュアリティについてのドラマを語ることは出来ないのもはっきりしていた。そこで当時アラナ・S・ポルテロの小説 La mala costumbre に魅了されていたので、脚本を彼女が担当することを条件にオーケーした。

  

B: 彼女も脚本執筆は初めて、「恐怖を感じた」と述懐しています。

A: インターセックスの女優が演じるのが本作のカギでした。しかしこれがなかなか大変で、エリザベス・マルティネスに辿りつくまでが長い道のりでした。演技経験は全くのゼロでしたが、「私たちのイメージに完璧にぴったりだった」と監督。しかし探す段階で多くのトランスの方々と知り合うメリットがあった。


B: マルティネス本人によると、皆に助けられての撮影は本当に大変だったと語っている。好きなシーンを訊かれて、足の悪いパトリシア(デルフィナ・ビアンコ)を助けて「一緒に歩道を歩いているシーンが一番好きだ」と応じている。

B: とても繊細な人、スタッフの選択は間違っていなかった。 

          

A: 彼女に関する情報は映画データでも少ないし、AI情報は別人との混同もあるようです。本人のインタビュー情報から、2000年アリカンテ生れ、育ったのはマドリード、あちこち海外にも移動している。他の職業にも興味があるらしく目下勉強中、今後女優として生きていくのかどうか分かりませんね。

B: 人格造形を最も変えたのがイサベル、パンプローナでは理学療法士で、アマチュア劇団に属して本格的な舞台女優を夢見ている。レズビアンのイサベルはアデラに好意を寄せている。再会したらアデーになっているので戸惑うが、彼女の心の扉を開けるのはイサベルで、重要人物に変わりない。

   

    

       (ジャンヌ・ダークに扮したイサベルを座席で見つめるアデラ)

  

A: アンナ・カスティーリョが演じた。当ブログでは、ゴヤ賞2017新人女優賞を受賞した、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』、ロス・ハビス自身が演出した大ヒット・ミュージカルの映画化『ホーリー・キャンプ!』、ダビ・マルティン・デ・ロス・サントスの『マリアの旅』などでキャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。  

B: お茶の間では、TVシリーズ「Su majestad」(2526)で主役のスペイン王女を好演して人気が上がったようです。

      

                

            (意気投合するアデラとイサベル)

 

A: 特別出演のパコ・レオン(セビーリャ1974)はゲイの神父ホセ・マリアを演じた。自身の典型的な務めから離れて、アデラの真の問いに助け舟をだす。正式名司祭の条件は独身男性が必須だが、自室でモニカ・ナランホの曲をがんがん流したって許される。

B: アデラに「パンプローナは16世紀を生きている」と語る。イサベルといると「自由になる」が「自分らしく生きることが怖い」と悩むアデラに、「もっと自分らしくなれ」とけしかける異色の神父。

 

          

             (アデラに助言するホセ・マリア神父)

 

A: 俳優、監督、脚本家、製作者と多才、マラガ映画祭2015エロイ・デ・ラ・イグレシア賞の受賞など数えきれない。実母カルミナを主役にした「Carmina o revienta」で監督デビュー、ゴヤ賞2013新人監督賞にノミネート、監督・出演の『KiKi 愛のトライ&エラー』でもゴヤ賞2017脚色賞とオリジナル歌曲賞にノミネート、受賞がないのが不思議です。

B: 俳優としてはTVシリーズ「Aída」(0514)のルイスマ役で238話に出演した記録をもっている。

     

A: 映画の冒頭、197311月に誕生した赤ん坊がインターセックスであること、母親と医師が赤ん坊の性別を決める外科的な医療介入をしたことが知らされる。スペインでは20世紀末まで「hermafroditismo」(両性同体)の外科的医療が病院の手引き書だった。侮蔑的な意味合いが感じられることから、大人になってもアデラには知らされなかった。1999年の地方都市では、教区が町の道徳的な標準枠であった。現在のスペインではインターセックスと変わり、外科的な医療介入は禁止されている。しかし、法と現実は別、外科介入の論議は閉じていない。またこの名称も流動的で変わるかもしれません。

 

B: 娘を選択した母親にナゴレ・アランブルが起用された。アデラを心から愛して理不尽な外圧から守っているが、娘が苦しんでいることを知りながら嘘をつき続けている。この映画のテーマに「自分の人生の選択権は誰にあるか」がある。出生時に本人がどうするかは物理的にできない。

A: 家長でもある祖母役のマリア・ガリアナ1935)に一族の秘密を語らせる。親戚にはアデラのような大柄な女性、マルガ叔母さんとその娘エルネスティナがいたことを打ち明ける。長いあいだ沈黙が家族を支配していたわけです。冒頭に伏線として二人の古ぼけた写真が映しだされている。事実を知ったアデルはパンプローナからマドリード行きを選択する。

        

   

        (母親のナゴレ・アランブル、エリザベス・マルティネス)

 

B: 23年間に及ぶテレビの歴史ドラマシリーズ「Cuéntame cómo pasó」(0123)以来、スペインを代表する祖母役と言えば、もうマリア・ガリアナをおいて他にいないでしょう。

A: 日本ではベニト・サンブラノの『ローサのぬくもり』がヒットしました。本国ではイマイチでしたが、ゴヤ賞2000助演女優賞を受賞している。今年スペイン映画アカデミーからタリア栄誉賞も授与された。

 

     

            (祖母アデリナ役のマリア・ガリアナ)

 

B: アデルの幼馴染サンティアゴを早い段階で登場させている。

A: 大都会ロンドンから「99人しか住んでいない」遅れたパンプローナに帰郷するサンティアゴ役にエネコ・サガルドイを起用した。彼のセリフには当時の監督の思いが投影されている。

B: オリジナル版のドン・サンティアゴとは職業以外似ていない。あちらは陽気なタイプですが、こちらは家業を継ぐため仕方なく故郷に戻ってきたニヒルな人物造形にした。

   

      

             (冒頭で再会する幼馴染のサンティアゴ役エネコ・サガルドイ)

 

A: エネコ・サガルドイはアイトル・アレギ & ジョン・ガラーニョのバスク語映画『アルツォの巨人』でゴヤ賞2018新人男優賞を受賞している。

B: TVシリーズ出演も多く、頭の回転の早さから映画祭のホストなども任され、プロデューサーとしても活躍している。

 

        変えるのは「身体でなく社会」――後半はまるで合唱劇 

 

A: 90年代は、スペインだけでなく世界中で吹き荒れたエイズに怯えた時代でした。「大柄な女やなよなよした男は、人々を怖がらせる」とアデラに語ったホセ・マリア神父の最愛の人はアロンソ(ロドリゴ・クエバス)、エイズで亡くなった。神父は宗教の道に入った理由の一つに上げる。これでエイズを取り扱うことになったと監督。  

B: 神父の造形も大幅に変えている。オリジナル版は登場人物が少なく、マドリードにやってきたフアンの孤独も続いている。しかしフアンは他人の助けを求めません。語りたいテーマが違うからです。

  

A: 監督は「私たちは、自分探しの旅をさせているアデーA.D. に他人が手を差し伸べることにしたかった」。アパートの部屋をシェアリングしているガトー役のマヌ・リオス、アンヘラ役のロラ・ロドリゲス、二人が育てている息子の父親はガトーじゃない。

B: 再会したイサベルの女友達アネやヨグリニャ、仕事を世話してくれたトランスのパトリシア、そこで働くマダム・アルタイア(アリナ・ラズメンコ)やマダム・ベガ(ミナ・セラーノ)、血は繋がっていない家族が増えていくから当然テーマも増える。しかし「自分らしく生きることが怖かった」主人公も解放されていく。

 

    

        (ガトー役マヌ・リオスとアンヘラ役のロラ・ロドリゲス)

 

    

         (信頼で繋がるガトー、アデー、アンヘラの疑似家族)

 

A: しかし二つのバージョンは、付かず離れずの関係です。アデーの窮地を救ってくれた雇い主のパトリシアが、仕事場では「フェリ様か、マダム・フェリ」と呼ぶようにアデラに命じますが、これはオリジナル版でモニカ・ランダルが演じた〈フェリ〉に敬意を払っている。

B: 後半部で最も光っていた登場人物がこの哲学者のようなパトリシアです。彼女のセリフから脚本家アラナ・ポルテロの声が聞こえてくるようです。

  

            

           (マダム・フェリ役のデルフィナ・ビアンコ)

 

 

         脚本の過剰さは決断の代価――1999年に遡らせた理由

  

A: マラガ映画祭に寄せられた声として、脚本の過剰さがありました。アデラが起こした自動車事故の原因の一つ「ワニンコフ事件」に始まって、病院の受付の女性が読んでいたフルール・イェギーの『規律という甘い日々』と訳されたされた Los hermosos años del castigo という小説、神父がファンのモニカ・ナランホは、プライド・パレードに参加する活動家でもある。

B: ワニンコフ事件は199910月にアンダルシアで起きたばかりの若い女性の殺人事件。

 

A: 母親の元恋人ドロレス・バスケスが逮捕されたが、全くの冤罪だった。スペインで一番有名な冤罪事件と言われてます。アリバイもあったのに犯人に仕立て上げられた。理由は同性愛者だったからです。

B: アデルの祖母も世間同様有罪を確信する。たまりかねたアデラの怒りが爆発する。

 

A: ネットフリックスがドキュメンタリー『コスタ・デル・ソル殺人事件』の邦題で配信しています。1989年に刊行されたフルール・イェギーの小説は、少女の成長物語ですが、クィア小説でもあるようです。

B: 現在のところ翻訳書はないようですが、スイスの作家でイタリア語で執筆している。

  

A: イサベルが手に入れたいカール・T・ドライエルのフランスの無声映画『裁かるるジャンヌ』(28)、アナイス・ニンの日記を映画化したフィリップ・カウフマンの『ヘンリー&ジューン』(90)、アナイスにポルトガルの女優マリア・デ・メデイロス、ヘンリー・ミラーにフレッド・ウォード、妻ジューンにユマ・サーマン、1930年代のパリで織りなす3人の屈折した愛の物語、DVDが発売されている。

B: ネットでマリア・ファルコネッティが演じた聖女ジャンヌを見てしまいました。クローズアップの多用さに正直びっくりしましたが、カット構成技法の巧みさに引き込まれました。

 

A: 日本でも公開されましたが映画館で観た人は、もうこの世に一人もいない。主人公に「自分らしい生き方」を決断させるにはいささか多すぎるかもしれませんが、現代にすれば必要なかったでしょう。地方都市のパンプローナに暮らすアデラには、エストロゲン服用の必要性さえ分からなかった。ネットで繋がることが出来なかった時代に遡った理由かもしれません。

  

B: プライド・パレードのイベントに窓から手を振るシーンがありました。

A: 決断にはアデラをマドリードに旅立たせる必要があったのです。パンプローナでは不可能でもマドリードなら可能です。オリジナル版の出演者の多くは既に旅立ちました。イサベリータになったフリエタ・セラーノはアルモドバル映画に出演でゴヤ賞助演女優賞を受賞するなど元気です。今回、祖母役が検討されたという記事も目にしました。エンディング「寂しくなると美術館に来るの」と老婦人はアデーに話しかける。この老婦人を演じたのがフリエタ・セラーノです。

 

      

          (プライド・パレードにエールを送るアデラたち)

   

B: シンガーソングライターのサハラ Zahara が歌う "La luz que vendrá" が、これからアデラの進む道です。

   

   

            (居場所を見つけ一歩踏みだしたアデラ)


A: 光に満ちた未来がやってくる、来年のゴヤ賞オリジナル歌曲賞ノミネートを期待します。まもなくカンヌ映画祭の結果発表があります。ロス・ハビスのグラナダの詩人ガルシア・ロルカの4ページの未完のテキストにインスパイアされた「La bola negra」がノミネートされ、スタッフ、キャストが揃って現地入りしています。今年は珍しいことにアルモドバルの新作「Amarga Nadidad」、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido」が、日本映画と同じように3作コンペティション部門に入りました。濱口竜介は脈ありでしょうか。ハリウッド映画の不振が関係しているのかもしれません。政治と芸術は切り離せません。今回でマラガ映画祭の記事は終わりにします。

  

      

             (Zahara、マラガ映画祭フォトコール