ホライズンズ・ラティノ部門 ③*サンセバスチャン映画祭2022 ⑨ ― 2022年08月25日 17:28
*ホライズンズ・ラティノ部門 ③*
9)「Carvao / Charcoal (Carbón) 」ブラジル
データ:製作国ブラジル=アルゼンチン、2022年、ポルトガル語・スペイン語、スリラードラマ、107分、脚本カロリナ・マルコヴィッチ、撮影ペペ・メンデス、編集ラウタロ・コラセ、音楽アレハンドロ・Kauderer、製作 & 製作者Cinematografica Superfilmes(ブラジル)Zita Carvalhosaジータ・カルバルホサ / Bionica Films(同)カレン・カスターニョ / Ajimolido Films(アルゼンチン)アレハンドロ・イスラエル。カルロヴィ・ヴァリ映画祭2022正式出品され、トロント映画祭上映後、サンセバスチャンFFにやってくる。
◎トレビア:主任プロデューサーのカルバルホサは、マルコヴィッチの長編2作目「Toll」を手掛けている。また主人公イレネに扮したメイヴ・ジンキングスは、クレベール・メンドンサ・フィリオの『アクエリアス』(16)でソニア・ブラガ扮するクララの娘を演じた女優。
監督:カロリナ・マルコヴィッチ(サンパウロ1982)監督、脚本家。短編アニメーション「Edifício Tatuapé Mahal」(14、10分)は、サンパウロ短編FFで観客賞、パウリニアFFでゴールデン・ガール・トロフィーを受賞、2018年の実話にインスパイアされた「O Órfao」(16分)は、カンヌFFクィア・パルマ、シネマ・ブラジル大賞、サンパウロFF観客賞他3冠、ハバナFFスペシャル・メンション、ほかビアリッツ、マイアミ、ヒューストン、クィア・リスボア、リオデジャネイロ、SXSWなどの国際映画祭巡りをした。サンセバスチャンは今回が初めてである。宗教、生と死、義務とは何かを風刺的に描いている。
(カロリナ・マルコヴィッチ)
キャスト:メイヴ・ジンキングス(女家長イレネ)、セザール・ボルドン(麻薬王ミゲル)、ジャン・コスタ(息子ジャン)、カミラ・マルディラ(ルシアナ)、ロムロ・ブラガ(夫ジャイロ)、ペドロ・ワグネル、ほか
ストーリー:2022年ブラジル、サンパウロから遠く離れた田舎町で、木炭工場の傍に住んでいる家族が、謎めいた外国人を受け入れるという提案を承諾する。宿泊客を自称していたが実は麻薬を欲しがっているマフィアだということが分かって、家はたちまち隠れ家に変わってしまった。母親、夫と息子は、農民としてのルーチンは変えないように振舞いながら、この見知らぬ客人と一つ屋根の下の生活を共有することを学ぶことになります。多額の現金と引き換えに単調さから抜け出す方法を提案されたら、人はどうするか。社会風刺を得意とする監督は、木炭産業で生計を立て、結果早死にする人々の厳しい現実を描きながらも、大胆な独創性、鋭いユーモアを込めてスリラードラマを完成させた。
(木炭にする木材を運ぶ子供たち、フレームから)
10)「1976」チリ
Ventana Sur Proyecta 2018、Cine en Construccion 2022
データ:製作国チリ=アルゼンチン=カタール、スペイン語、2022年、スリラードラマ、95分、脚本マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット、撮影ソレダード・ロドリゲス、美術フランシスカ・コレア、編集カミラ・メルカダル、音楽マリア・ポルトゥガル、キャスティング、マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ、衣装ピラール・カルデロン、製作 & 製作者オマール・ズニィガ / Cinestaciónドミンガ・ソトマヨール / アレハンドロ・ガルシア / Wood Producciones アンドレス・ウッド / Magma Cine フアン・パブロ・グリオッタ / ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他、販売Luxbox。カンヌ映画祭2022「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、エルサレム映画祭インターナショナル・シネマ賞受賞(デビュー作に与えられる賞)
監督:マヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)女優、監督、脚本家、監督歴は数本の短編のあと本作で長編デビュー。女優としてスタート、2003年ゴンサロ・フスティニアーノの「B-Happy」でデビュー、ハバナ映画祭で女優賞を受賞するなど好発進、出演本数はTVを含めると30本を超える。2作目アンドレス・ウッドの『マチュカ-僕らと革命-』(04)でチリのアルタソル賞を受賞、アリネ・クッペンハイムと共演している。同監督の「La buena vida」(08)は『サンティアゴの光』の邦題で、ラテンビート2009で上映されている。当ブログでは、アリシア・シェルソンがボラーニョの小説を映画化した「Il futuro」(13、『ネイキッド・ボディ』DVD)で主役を演じた記事をアップしています(コチラ⇒2013年08月23日)。
◎別途詳しい作品紹介、キャリア&フィルモグラフィーを予定しています。
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月13日
キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス司祭)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、アマリア・カッサイ(カルメンの娘レオノール)、他多数
ストーリー:チリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの司祭が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。
(カルメン役のアリネ・クッペンハイムとエリアス役のニコラス・セプルベダ)
(パールのネックレスが象徴する裕福な中流階級に属するカルメン)
11)「Tengo sueños eléctricos」コスタリカ
Ventana Sur Proyecta 2020
データ:製作国ベルギー=フランス=コスタリカ、スペイン語、2022年、ドラマ、102分、Proyecta 2021のタイトルは「Jardín en llamas」。脚本バレンティナ・モーレル。カンヌ映画祭と併催の第61回「批評家週間」正式出品、第75回ロカルノ映画祭に出品され、国際コンペティション部門の監督賞、主演女優賞(ダニエラ・マリン・ナバロ)、主演男優賞(レイナルド・アミアン)の3賞を得た。
(トロフィを手にした3人、右端が監督、ロカルノFFにて)
監督:バレンティナ・モーレル(サンホセ1988)、監督、脚本家。パリに留学後、ベルギーのブリュッセルのINSASで映画制作を学んだ。コスタリカとフランスの二重国籍をもっている。短編「Paul est la」は2017年のカンヌ・シネフォンダシオンの第1席を受賞した。第2作「Lucía en el limbo」(19、20分)はコスタリカに戻って、スペイン語で撮った。体と心の変化に悩む10代の少女の物語、カンヌ映画祭と併催の第58回「批評家週間」に出品されたほか、トロント、メルボルンなど国際短編映画祭に出品されている。長編デビュー作「Tengo sueños eléctricos」は、第61回「批評家週間」や、ロカルノ映画祭に出品されている。監督はCineuropaのインタビューに「私は父娘関係を探求する映画をそれほど多く見たことがなかったので、それを描こうと思いました」と製作動機を語っている。「これは少女が大人になる軌跡を描いたものではなく、自分の周囲に大人がいないことに気づいた少女の軌跡です」と。また麻薬関連の物語や魔術的リアリズムをテーマにした異国情緒を避けたかったとも語っている。芸術家であった両親の生き方からインスピレーションを得たようです。
(バレンティナ・モーレル、ロカルノFFにて)
キャスト:レイナルド・アミアン・グティエレス(エバの父親)、ダニエラ・マリン・ナバロ(エバ)、ビビアン・ロドリゲス、アドリアナ・カストロ・ガルシア
ストーリー:エバは16歳、母親と妹と猫と一緒に暮らしている。しかし引き離された父親のところへ引っ越したいと思っている。母親が離婚以来混乱して、家を改装したがったり、猫を邪険にしたりすることにエバは我慢できない。ここを出て、猫のように混乱して第二の青春時代を生きている父親と暮らしたい。アーティストになりたい、愛を見つけたいという望みをもって再び接触しようとする。しかし、泳ぎを知らない人が大洋を横断するように、エバもまた何も知らずに父親の暴力を受け継ぎ苦しむことになるだろう。彼にしがみつき、十代の生活の優しさと繊細さのバランスをとろうとしています。思春期が必ずしも黄金時代ではないことに気づいた少女の肖像画。
(エバ役のダニエラ・マリン・ナバロ)
(ダニエラ・マリン・ナバロとレイナルド・アミアン・グティエレス)
12)「La jauría」コロンビア
データ:製作国フランス=コロンビア、スペイン語、2022年、ドラマ、86分、脚本アンドレス・ラミレス・プリド、音楽ピエール・デブラ、撮影バルタサル・ラボ、編集Julie Duclaux、ジュリエッタ・ケンプ、プロダクション・デザイン、ジョハナ・アグデロ・スサ、美術ダニエル・リンコン、ジョハナ・アグデロ・スサ、製作 Alta Rocca Filmsフランス / Valiente Graciaコロンビア / Micro Climat Studios フランス、 製作者ジャン=エティエンヌ・ブラット、ルー・シコトー、アンドレス・ラミレス・プリド。配給Pyramide International
*カンヌ映画祭2022「批評家週間」グランプリとSACD賞受賞、エルサレム映画祭2022特別賞受賞、ニューホライズンズ映画祭(ポーランド)、トロント映画祭出品
監督:アンドレス・ラミレス・プリド(ボゴタ1989)監督、脚本家、製作者。本作はトゥールーズのCine en Construccionに選ばれた長編デビュー作。ティーンエイジャーの少年少女をテーマにした短編「Mirar hacia el sol」(13、17分)、ベルリン映画祭2016ジェネレーション14 plusにノミネートされ、ビアリッツ・ラテンアメリカFF、釜山FF、カイロFFなどで短編作品賞を受賞した「El Edén」(16、19分)、カンヌ映画祭2017短編部門にノミネートされた「Damiana」(17、15分)を撮っている。
キャスト:ジョジャン・エステバン・ヒメネス(エリウ)、マイコル・アンドレス・ヒメネス(エル・モノ)、ミゲル・ビエラ(セラピストのアルバロ)、ディエゴ・リンコン(看守ゴドイ)、カルロス・スティーブン・ブランコ、リカルド・アルベルト・パラ、マルレイダ・ソト、ほか
ストーリー:エリウは、コロンビアの密林の奥深くにある未成年者リハビリセンターに収監され、親友エル・モノと犯した殺人の罪を贖っている。ある日、エル・モノが同じセンターに移送されてくる。若者たちは彼らの犯罪を復元し、遠ざかりたい過去と直面しなければならないだろう。セラピーや強制労働の最中、エリウは人間性の暗闇に対峙し、あまりに遅すぎるが以前の生活に戻りたいと努めるだろう。暴力の渦に酔いしれ閉じ込められている、コロンビアの農村出の7人の青年群像。
(エリウ役のジョジャン・エステバン・ヒメネス)
(センターの本拠地である遺棄された邸宅に監禁されている青年たち)
★以上12作がホライズンズ・ラティノ部門にノミネートされた作品です。セクション・オフィシアルは16作中、女性監督が2人とアンバランスでしたが、こちらは半分の6監督、賞に絡めば映画祭上映もありかと期待しています。
(カロリナ・マルコヴィッチ、マヌエラ・マルテッリ、バレンティナ・モーレル、
アンドレス・ラミレス・プリド)
*追加情報:第35回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門(ラテンビートFF共催)でアンドレス・ラミレス・プリドのデビュー作が『ラ・ハウリア』として上映決定。
「批評家週間」にコスタリカ映画*カンヌ映画祭2019 ⑧ ― 2019年05月09日 16:10
ソフィア・キロス・ウベダのデビュー作「Ceniza negra」
★「批評家週間」のもう1作「Ceniza negra」は、アルゼンチン出身のソフィア・キロス・ウベダのデビュー作です。「批評家週間」2017の短編部門にノミネーションされた「Selva」がベースになっているようです。両作とも主役にスマチレーン・グティエレスSmachleen Gutiérrezを起用している。ソフィア・キロス・ウベダ監督は1989年ブエノスアイレス生れですが、ここ数年はコスタリカに在住している。
「Ceniza negra」(「Land of Ashes」「Cendre Noire」)
製作:製作者:Sputnik Films(マリアナ・ムリージョ・Q)、Murillo Cine(セシリア・サリム)、
La Post Producciones(ミジャライ・コルテス、マティアス・エチェバリア)、
(共同)Promenades Films(サムエル・チャウビン)
監督・脚本:ソフィア・キロス・ウベダ
撮影:フランシスカ・サエス・アグルト
編集:アリエル・エスカランテ・メサ
音楽:Wassim Hojeij
録音:クリスティアン・コスグロベ
プロダクション・デザイン:カロリナ・レットLett
データ・映画祭:製作国コスタリカ=アルゼンチン=チリ=フランス、スペイン語、2019年、ドラマ、82分、撮影地コスタリカのリモン、配給EUROZOOM。「批評家週間」2019正式出品、5月19日(英語と仏語の字幕上映)他
キャスト:スマチレーン・グティエレス(セルバ)、ウンベルト・サムエルズ(祖父タタ)、オルテンシア・スミス(エレナ)、キハ(ケハ)・ブラウンKeha Brown(ウインター)
ストーリー:13歳になるセルバは、カリブ海沿岸の町に住んでいる。セルバは死ぬと脱皮できることを発見する。例えばオオカミやヤギ、影、または自分で思いつくどんなものにも変身できる。野菜畑に囲まれた家で暮らしているが、父に続いて母親も突然姿を消してしまうと、残されたセルバは死にたがっている祖父の世話を一人でしなければならない。祖父の願いを叶えてやるかどうか決心しなければならないが、それは子供時代との最後の決別を意味したからだ。
(セルバ役のスマチレーン・グティエレス)
(祖父タタとセルバ)
★キロス監督によると「子供たちが死をどのように理解するのかに興味をもって、2012年ごろから温めていた。約5年前に執筆をスタートさせ、2016年に「Selva」として短編が結実、翌年カンヌで上映できた。長編は主役セルバに同じスマチレーン・グティエレスを起用してその成長課程を追っている。多くの子供たちの中から彼女を見つけられたことは幸運だった。小さな映画だが、カンヌにノミネートされた最初のコスタリカ映画ということに誇りを感じている」とインタビューに答えている。
(短編「Selva」のポスター)
★ソフィア・キロス・ウベダ Sofía Quirós Ubeda は1989年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、編集者、製作者。2011年短編ドキュメンタリー「Al otro lado」(15分、共同監督)、2016年、コスタリカ、アルゼンチン、チリ合作短編フィクション「Selva」(17分、西語・英語)は、カンヌ上映後40数ヵ都市で上映された。なかでビアリッツ映画祭、グアナファト映画祭が含まれる。製作はSputnik Filmsのマリアナ・ムリージョ・ケサダ、撮影監督にフランシスカ・サエス・アグルトと長編に同じでした。2019年本作、次回作「Entretierra」が進行中。
(ソフィア・キロス・ウベダ監督、2017年)
(短編ドキュメンタリー「Al otro lado」ポスター)
コスタリカから女性監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2017 ⑪ ― 2017年09月22日 16:08
「ホライズンズ・ラティノ」にコスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフ
★「ホライズンズ・ラティノ」の出品作品は、例年8月前半に開催されるリマ映画祭と同じ顔触れになります。コスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフの長編第1作 “Medea” は、リマ映画祭2017の審査員特別メンション受賞作品です。今年はラテンアメリカ10ヵ国17作品が上映され、作品賞にグスタボ・ロンドン・コルドバの “La familia”(ベネズエラ他)、審査員特別賞にセバスティアン・レリオの “La mujer fantástica”(チリ他)と、ホライズンズ・ラティノの出品作が選ばれています。 “Medea” からは主演女優のリリアナ・ビアモンテが審査員特別メンション女優賞を受賞していました。ペルーはコスタリカ同様映画産業は盛んとは言えませんが、本映画祭も今年21回目を迎えています。
“Medea” 2016
製作;La Linterna Films / Temporal Film / Grita Medios / CyanProds
監督・脚本:アレクサンドラ・ラティシェフ
撮影:オスカル・メディナ、アルバロ・トーレス
音楽:スーザン・カンポス
編集:ソレダ・サルファテ
プロダクションデザイン・美術:カロリナ・レテ
製作者:パス・ファブレガ、ルイス・スモク、アレクサンドラ・ラティシェフ、(エグゼクティブ)シンシア・ガルシア・カルボ、(アシスタント)バレンティナ・マウレル
データ:コスタリカ=アルゼンチン=チリ、スペイン語、2016年、70分。2016「Cine en Construcción 30」、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭2017正式出品、第21回リマ映画祭2017正式出品(リリアナ・ビアモンテ審査員特別メンション女優賞)、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」正式出品。
キャスト:リリアナ・ビアモンテ(マリア・ホセ)、エリック・カルデロン(カルロス)、ハビエル・モンテネグロ(ハビエル)、マリアネイジャ・プロッティ、アーノルド・ラモス、他
プロット:マリア・ホセの人生は、単調な大学生活、日頃疎遠な両親、ラグビーのトレーニング、そしてゲイの友人カルロスとの間を動きまわっている。しかしハビエルと知り合い彼と交際しはじめたことで、周囲との連絡を絶つ。<普通の>人生を送るための努力をなにもせずに受け入れるが、誰も考えもしなかった秘密を抱えこンでしまう、彼女は数か月の身重になっていた。
★これだけの情報では、タイトルから想像するギリシャ神話のメデイア、またはエウリピデスのギリシャ悲劇「女王メディア」に辿りつけない。夫イアソンの裏切りに怒り、復讐を果たす強い女性像とヒロインのマリア・ホセ像とが結びつかない。マリア・ホセは25歳になるのに未だ大学生、内面的には何かが起こるのを待っているモラトリアム人間にも見える。表面的にはラクビー選手という設定だが、メディアのように本当に強い女性なのか。エウリピデスのメディアは二人の息子も殺害するが、ヒロインが妊娠数か月というのが暗示的だ。女性の<女らしさ>を嫌悪するミソジニーと関係があるのかないのか。ギリシャ悲劇の規範でいえば、英雄は最後には降格する宿命にある。マリア・ホセの最後がどうなるのか全く予想がつかない。
(マリア・ホセ役のリリアナ・ビアモンテ、映画から)
★アレクサンドラ・ラティシェフAlexandra Latishev は、コスタリカのベリタス大学で映画とTV学校で学ぶ。監督、脚本家、編集者、製作者、女優。2011年、短編 “L’Enfante Fatale” を撮る。短編 “Irene”(14)は、トゥールーズ映画祭、アルカラ・デ・エナレス映画祭(作品賞)、フランドル・ラテンアメリカ映画祭(審査員メンション)、ハバナ映画祭(審査員メンション)など多数受賞する。 “Medea” は長編第1作である。
(リリアナ・ビアモンテ出演の “Irene” のポスター)
★監督によれば、「自分自身とは感じられない体で生きているせいで、自分の所属場所がないという人物を登場させたかった。不可能なリミットまで描きたかった。世間は矛盾で溢れているが、他人と調和して生きたいと考えています。しかし私たちにはそれとは対立した<その他>も居座っています。この映画の中心課題は、社会的に積み上げられてきた<女らしさ>の概念についてのマリア・ホセの闘いです」ということです。これで少しテーマが見えてきました。
(製作者シンシア・ガルシア・カルボと監督右、2016「Cine en Construcción 30」にて)
★リリアナ・ビアモンテLiliana Biamonteは、アレクサンドラ・ラティシェフの短編 “Irene” に主人公のイレネ役で出演、他にユルゲン・ウレニャの “Muñecas rusas”(14)、アレホ・クリソストモの “Nina y Laura”(15)、アリエル・エスカランテの “El Sonido de las Cosas”(16)などコスタリカ映画に主役級で出演している。本作 “Medea” でリマ映画祭2017審査員特別メンション女優賞を受賞している。
(看護師役のリリアナ・ビアモンテ、“El Sonido de las Cosas” から)
グスタボ・ファジャス*モントリオール国際映画祭① ― 2013年09月05日 14:23
★グスタボ・ファジャスGustavo Fallasはコスタリカ出身。カナダのケベック大学で映画と脚本を学んだ。受賞にはこれが幸いしたかもしれない。本作は監督が長年あたためていた脚本をPrograma Ibermediaからの資金援助($150,000)をもとに、最終的には概算で$550,000の援助を受けて実現させた。コスタリカではプンタレナス州の州都プンタレナスでの撮影開始から話題になっていた。古びたLas Hamacasホテルを舞台に4人の登場人物が繰り広げるドラマ。監督によるとこのホテルに出会うことで構想が生まれたそうです。どうやらホテルも重要な役割を担っているらしい。
★漁師のダニエル(ジェイソン・ペレス)に両親はなく祖母とチラ島で暮らしていた。16歳になったダニエルはこの小島に希望はないと、プンタレナスにいるという自分の名付け親ミゲルを頼って故郷を後にする。しかし母の行きつけだったホテルの支配人チコ(ガブリエル・レテス)から既にミゲルは死んだと素っ気なく告げられる。しかしチコはダニエルに仕事を世話してくれ、ダニエルは調理場で働く若いシングルマザーのソレダ(アドリアナ・アルバレス)に想いを寄せていく。チコの父親でもあるホテルのオーナーのパト(アルバロ・マレンコ)は、今や衰弱して見捨てられたようにベッドに臥せっていた・・・
★このホテルには何やら秘密がありそうです。ハリケーンの目の中に巻き込まれてしまったダニエル役のジェイソン・ペレスはこれがデビュー作、西アフリカのリベリア出身、マリンバが得意とか。チラ島での撮影が短期間ではあったが役の掘り下げに役立ったと。ソレダ役のアドリアナ・アルバレスはコスタリカ出身、既にエステバン・ラミレスの第2作“Gestacion”(2009、英題“Gestation”)の演技で高い評価をうけている。
★チコ役のガブリエル・レテスはメキシコからの参加、メキシコ映画ファンならお馴染みの監督にして俳優のベテラン、“Flores de papel”(1977、英題“Paper Flowers”)がベルリン映画祭1978のコンペに選ばれている。また“El bulto”(1992)、2008年の“Arresto domiciliario”が代表作。彼はファジャスの才能に惚れこんで出演したというから楽しみです。パト役のアルバロ・マレンコはコスタリカでは有名なベテラン俳優ということですが、1作も見ておりません。出演した作品のIMDb(インターネット・ムービー・データベース)評価は高いですね。そういえば、本作のIMDbは今のところアップされておりません。
(写真:ダニエル役のペレスとソレダ役のアルバレス)
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