ウルグアイの新人ホアキン・マウアド*マラガ映画祭2021⑫2021年05月30日 17:25

                       3人の姉弟が封印されていた過去へと辿る旅

 

    

   

★今年のセクション・オフィシアル作品はアウトコンペティション4作を含めて23作、ラテンアメリカ諸国からは8作がノミネートされました。ウルグアイ映画は市場が小さいこともあって隣国アルゼンチンとの合作が多い。ホアキン・マウアドAños luzも本祭ではウルグアイ単独として登場していますが、実際はアルゼンチンの制作会社「Pensilvania Films」が資金を提供しています。長編映画デビューは2017年のEl sereno」ですが、これはオスカル・エステベスとの共同監督ですから、単独作としては今作がデビュー作です。

 

Años luz(「Light Years」)2021

製作:Anfinbia Cine(ウルグアイ)/ Benuca Films / Pensilvania Films(アルゼンチン)

監督:ホアキン・マウアド

脚本:ホアキン・マウアド、ガブリエル・ゴメス・ビリャヌエバ

撮影:ディエゴ・パベス

編集:カレン・アントゥネス

音楽:マテオ・エルナンデス、ラウタロ・マンシリャ

美術:フェデリコ・カプラ、Liudmila Gaddjuk

メイクアップ:ホアキン・エスピノ

プロダクション・マネージメント:クレメンティナ・ゴンサレス

助監督:オルタ・クリスチャン、アンドレス・ファイラチェ

製作者:アリナ・カプラン、フェルナンド・モンテス・デ・オカ

 

データ:製作国ウルグアイ、アルゼンチン、スペイン語、2021年、ドラマ、81分、撮影地モンテビデオ、マラガ映画祭2021でプレミア。

 

キャスト:ガブリエラ・フレイレ(ベレン、29歳)、フェデリコ・レペット(マテオ、32歳)、ビルジニア・ファリアス(マリア・ホセ、35歳)、アントニオ・ディ・マッテオ(ダビ)、アドリアナ・アルドゲイン(イネス)、リス・モッタ(マイア)、ほか

 

ストーリー:長らく離れて暮らしていたマテオ、ベレン、マリア・ホセの3人姉弟は、子供のときから大人になるまで暮らしていた家の売却をするために再会を余儀なくされている。一つには父親の古い車で生れ故郷に向かう旅でもあるが、その前途には彼ら自身が封印してきた家族間の軋轢を解決しなければならない旅でもあった。三人は未だに埋めがたい対立に直面するなかで予期しない真実にも出会う。本作は見かけほど壊れていなかった、まだ愛が残っていたある家族の問題が語られる。

 

  

   

    

★監督紹介:ホアキン・マウアド1990年モンテビデオ生れ、監督、脚本家、製作者。2014年ウルグアイ映画学校(ECU)の監督科を卒業。キューバのアン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの映画TV学校でも学ぶ。2016アリナ・カプランと制作会社Anfinbia Cineを設立する。カプランは、ウルグアイやアルゼンチンのコメディ、アクション、アドベンチャー作品をプロデュースしている。2012年「Malos hábitos、「Mi amigo verde」(13)、「La casa de Nico」(14)、「Obnubilante」(15)、ほか10本ほど短編を撮る。2017年、オスカル・エステベスとの共同監督で長編「El sereno」を製作した。本作「Años luz」が単独監督デビュー作。

            

                  

                                (ホアキン・マウアド)

    

      

                                (El serenoのポスター)

 

★ウルグアイ映画は国際映画祭に出品される数も少なく、ましてや日本語字幕入りとなるとほんの数えるほどになる。当ブログでもアルバロ・ブレッヒナーLa noche de 12 años18)が12年の長い夜』の邦題でNetflixが配信したことで紹介できた。ブレッヒナーはウルグアイ出身ですが現在はスペインに住んでいます。どうしても映画市場が狭いので海外流出組が多くなるようです。2作目Mr.Kaplan14、独西合作)では、アリナ・カプランがプロダクションマネージャーをしていました。

アルバロ・ブレッヒナーのキャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20180827

 

フェデリコ・ベイローの第5作*サンセバスチャン映画祭2019 ㉑2019年09月16日 13:19

      ホライズンズ・ラティノ第7弾――フェデリコ・ベイローの「Así habló el cambista

 

      

        (ダニエル・エンドレルとルイス・マチンを配したポスター

   

★ウルグアイのフェデリコ・ベイロー(モンテビデオ1976)の第5Así habló el cambistaは、軍事政権が幅を利かせた1970年代を背景にしたスリラー仕立てのブラック・コメディ。主人公は投資家や旅行者にドルを売買するだけでなく資金洗浄にも手を染める両替商、たったこれだけの情報である程度ストーリーが読めてしまう。約30年前に出版されたフアン・エンリケ・グルベル同名小説の映画化です。前作Belmonteが昨年のサバルテギ-タバカレラ部門に出品された折り、次回作は「El cambista」とご紹介した作品です。結局小説と同じタイトルになったようです。本邦でもデビュー作『アクネ ACNE08)が公開され、3El Apóstata15)が邦題『信仰を捨てた男』としてNetflixにストリーミング配信されるなど、地味だがコアなファンが多い。ミニマリストの監督と言われるベイローが、ブラック・コメディとスリラーのあいだを振り子のように行ったり来たりしながら、家族ドラマという新しい分野に進出したようです。

Belmonte」紹介と監督キャリア&フィルモグラフィーについては、コチラ20180803

 

         

             (フェデリコ・ベイロー監督)

 

 

Así habló el cambista / The Moneychanger

製作:Oriental Features / Rizona Films

監督:フェデリコ・ベイロー

脚本:フェデリコ・ベイロー、アラウコ・エルナンデス・オルス、マルティン・マウレギ

原作:フアン・エンリケ・グルベルの同名小説「Así habló el cambista

音楽:エルナン・セグレト

撮影:アラウコ・エルナンデス・オルス

編集:フェルナンド・フランコ、フェルナンド・エプステイン

美術:パブロ・マエストレ・ガリィ

録音:カトリエル・ビルドソラ

特殊効果:マリアノ・サンテリィ

製作者:ディエゴ・ロビノ、サンティアゴ・ロペス・ロドリゲス、他多数

 

データ:製作国ウルグアイ、アルゼンチン、ドイツ、スペイン語、2019年、ブラック・コメディ、97分、撮影はウルグアイ。公開:アルゼンチン、ウルグアイ、メキシコ2019926

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019プラットフォーム部門、ウルグアイ・ベリャ・ウニオン、サンセバスチャン映画祭2019ホライズンズ・ラティノ部門、第57回ニューヨーク映画祭2019などに正式出品

 

キャスト:ダニエル・エンドレル(ウンベルト・ブラウセ)、ドロレス・フォンシ(妻グドルン)、ルイス・マチン(舅シュヴァインシュタイガー氏)、ベンハミン・ビクーニャ(ハビエル・ボンプランド)、ヘルマン・デ・シルバ(モアシール)、ホルヘ・ボラニ、エリサ・フェルナンデス、アレハンドロ・ブッシュ、セシリア・パトロン、他

 

ストーリー1975年モンテビデオ、ウルグアイの地域経済は多くの日和見主義者たちを惹きつけていた。社会は軍事独裁政権によって壊滅状態だった。反体制派の面々は刑務所に閉じ込められ、経済活動は隣国アルゼンチンやブラジルの支配下にあった。ウルグアイの金融市場は、お金を雲散霧消させるには格好の場所のようだった。折も折りウンベルト・ブラウセは、資金洗浄のベテランである舅シュヴァインシュタイガーの後押しをえて外貨売買のキャリアを積んでいく。ある運命的な出会いによって目が眩んだウンベルトはのっぴきならない状況に追い込まれ、今までの人生でついぞ経験したことのない危険で大掛りなマネーロンダリングを引き受けることになる。汚い家族ビジネスのみならず、裏切り、詐欺、汚職がスリラー仕立ての家族ドラマとして、フラッシュバックしながら語られる。

           

 

     アンチ・ヒーロー、ウンベルト・ブラウセにダニエル・エンドレルが挑む

 

98日にトロント映画祭で上映されたので、ぼちぼちコメントが寄せられると思いますが、取りあえずそれは置いといて、フェデリコ・ベイローの第5作は過去の作品とは一味違うと言っても外れじゃない。ウンベルトとシュヴァインシュタイガー氏は、ビジネスでは教師と生徒の関係で始まる。最初は手ほどきとして投資家やツーリストたちにドルの売買をする両替商としてスタート、次第に政治家や時の権力者の資金洗浄に手を染めていく。完璧なアンチ・ヒーローのウンベルトを演じるのは、監督と同郷のダニエル・エンドレル(モンテビデオ1976)、若干細目になってビジネス・スーツで決めている。本邦ではアルゼンチン映画だが古くはダニエル・ブルマン『僕と未来とブエノスアイレス』04)、直近ではアドリアン・カエタノ『キリング・ファミリー 殺し合う一家』に主演、2作とも公開された。俳優だけでなく監督デビューもしている。

『キリング・ファミリー~』とダニエル・エンドレルの紹介は、コチラ20170220

 

          

         (ウンベルト・ブラウセに扮したダニエル・エンドレル)

 

★デビュー作『アクネ ACNE』や『信仰を捨てた男』でもブラック・ユーモアが横溢していたが、新作でも健在のようです。1975年が中心だが、フラッシュバックで同じ軍事独裁時代の1956年、1962年、1966年が語られる。冷戦の煽りをうけてウルグアイだけでなく南米諸国はアルゼンチン、チリ、ブラジルと同じようなものだった。ウンベルトの指南役で舅を演じるアルゼンチンの俳優ルイス・マチン(ロサリオ1968)は、TVシリーズが多いのでアルゼンチンでは知られた顔です。映画では前述したアドリアン・カエタノの代表作Un oso roja02)に準主役で出ている他、ミュージシャンのフィト・パエスが当時結婚していたセシリア・ロスのために撮った『ブエノスアイレスの夜』01)に出演、共演者のガエル・ガルシア・ベルナルとドロレス・フォンシが、長続きしなかったが結婚したことでも話題になった。チリのアンドレス・ウッド『ヴィオレータ、天国へ』11)では、ヴィオレータにインタビューする記者を演じた。

 

       

    (女婿ウンベルトの御指南役のルイス・マチンとダニエル・エンドレル、映画から)

 

★ウンベルトの妻グドルンを演じたドロレス・フォンシ(アドログエ1978)は、当ブログでは何回も登場してもらっている。2014G. G.ベルナルと離婚した後、サンティアゴ・ミトレ『パウリーナ』15)で主役に抜擢され、撮影中に婚約した。同監督の『サミット』17)ではリカルド・ダリン扮するアルゼンチン大統領の娘役、セスク・ゲイ『しあわせな人生の選択』17)ではダリンの従妹役に扮した。物言う女優の代表格、新作の冷ややかで欲求不満のかたまり、情け容赦もなく陰で糸を引くグドルン役を非の打ちどころなく演じたと高評価です。

『パウリーナ』の記事は、コチラ20150521

『サミット』の記事は、コチラ201705181025

『しあわせな人生の選択』の記事は、コチラ20170804

   

        

                        

                        (夫婦を演じたダニエル・エンドレルとドロレス・フォンシ)

 

ヘルマン・デ・シルバが演じたモアシールの立ち位置がよく分からないが、アルゼンチンでは認知度の高いベテラン、ダミアン・ジフロン『人生スイッチ』14)の第5話「愚息」の庭師役でアルゼンチン・アカデミー助演男優賞を受賞、資産家の愚息が起こした妊婦轢逃げ犯の身代わりを50万ドルで請け負うが、弱みに付け込んで値段を釣り上げ、ご主人を強請るという強者に変身する役でした。当ブログで登場させたサンティアゴ・エステベスLa educación del Rey17)では、自宅に泥棒に入った少年レイを更生させようとする退職したばかりの元ガードマンを演じた。他にルクレシア・マルテル『サマ』にも出演している。

『人生スイッチ』の主な記事は、コチラ20150729

La educación del Rey」の記事は、コチラ20170917

 

        

            (ヘルマン・デ・シルバとダニエル・エンドレル、映画から)

 

★映画製作のみならずウルグアイとアルゼンチンは切っても切れない関係にある。監督と主役のエンドレルはウルグアイ出身だが、どちらかというとアルゼンチンの俳優が多勢、ウルグアイの映画市場は国土も含めて狭く、1国だけでは食べていけないということでしょう。


ウルグアイの新星ルシア・ガリバルディ*サンセバスチャン映画祭2019 ⑱2019年09月04日 11:53

       ホライズンズ・ラティノ第5弾――ルシア・ガリバルディの「Los tiburones

 

       

 

★女性監督が少ない今回のホライズンズ・ラティノ部門、サンダンス映画祭2019(ワールド・シネマ部門)で監督賞を受賞したルシア・ガリバルディ(モンテビデオ1986)のデビュー作Los tiburonesは、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 BAFICI 審査員特別賞、続いて8月開催のリマ映画祭2019で審査員スペシャル・メンションを受賞したばかりです。もともとはSSIFF Cine en Construcción 342018年)の技巧賞受賞作品です。主演にウルグアイのロミナ・ベンタンクルフェデリコ・モロシニを起用、二人とも映画は初出演である。他にアルゼンチンからバレリア・ロイスファビアン・アレニジャスが脇を固めている。サンダンスFFの高評価が以後の成功を導きだしたようです。

 

      

               (ルシア・ガリバルディ監督)

 

       

      (ルシア・ガリバルディとロミナ・ベンタンクル、サンダンスFF2019にて)

 

 Los tiburones(「The Sharks」)

製作:Montelona Cine / Nephilim Producciones / Trapecio Cine

監督・脚本:ルシア・ガリバルディ

撮影:ヘルマン・ノセジャ

編集:セバスティアン・Schjaer

音楽:ファブリツィオ・ロッシ、ミゲル・レカルデ

製作者:パンチョ・マグノス、イサベル・ガルシア、他

 

データ:製作国ウルグアイ、アルゼンチン、スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、80分。ウルグアイ公開201966

映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2019(ワールド・シネマ部門)監督賞、BAFICI 審査員特別賞、ウルグアイ映画祭出品、シアトル映画祭出品、グアダラハラ映画祭イベロアメリカ部門の審査員特別賞と女優賞(ロミナ・ベンタンクル)、リマ映画祭2019審査員スペシャル・メンションなどを受賞している。サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ部門」正式出品。2018年サンセバスチャン映画祭Cine en Construcción 34 技巧賞受賞作品。

 

キャスト:ロミナ・ベンタンクル(ロシナ)、フェデリコ・モロシニ(ホセロ)、バレリア・ロイス(ロシナの母)、ファビアン・アレニジャス(ロシナの父)、アントネジャ・アキスタパチェ(マリアナ)、他

 

ストーリー:いつもは物静かな湯治場なのだが、沿岸にサメが出没したという噂が立ち動揺していた。14歳になるロシナは、海のなかに何かがいるのを見たのだが、誰もそのことに注意を払わなかった。住宅のメンテナンス業をしている父親に連れられて仕事場に行ったとき、自分より少し年長のホセロと知り合った。汚れたプール、豪華な庭園、人気のない浜辺で、ロシナの新しい体験が始り、自分とホセロの体の隔たりを縮めたい欲求を覚えた。しかし殆ど反応がなく、彼の注意を惹くために大胆な少しみだらな計画を練り上げることにした。それは何か不思議な存在によって心を動かされる、目に見えない危険なものでなくてはならなかった。サメ警報の出ている地方のコミュニティを背景に、少女の性の目覚めが語られる。

 

     

           (ロシナ役のロミナ・ベンタンクルとホセロ役のフェデリコ・モロシニ)

 

    

(左端、フェデリコ・モロシニ、映画から)

 

★ロシナの家族は、ウルグアイの経済的な危機もあって、少なくとも平穏とは言い難い。サメの噂や水不足からくる湯治場の観光客減によって共同体にも変化の兆しがみられる。父親の仕事もプールの清掃やら、庭園の管理やらあれこれ、雇人を使ってこなしている。そのなかの青年の一人がホセロという設定のようです。小魚やそのほかの海の生物を食い漁るサメが様々なメタファーになっている。例えば獲物を待ち伏せる狩人のような少女、あるいは不機嫌、無秩序、フラストレーション、ささやかな勝利など、悲喜劇というコメントも目にしました。

 

     

 (トロフィーを手にした、製作者パンチョ・マグノスと監督、グアダラハラ映画祭2019にて)

 

 

★ベネチア映画祭も後半に入りましたが、ということはサンセバスチャン映画祭 SSIFFの開幕が近いということです。両映画祭は期間の近接だけでなく上映作品もダブっている。コンペティション外だがホライズンズ・ラティノ部門のクロージング作品、ハイロ・ブスタマンテLa Lloronaは、ベネチア・デイズのコンペティション外上映、セバスティアン・ムニョスEl príncipe(「The Prince」チリ、アルゼンチン、ベルギー)は、第34回「国際批評家週間」に正式出品されている。1970年代のチリ、首都サンティアゴ近郊の都市サンベルナルドにある刑務所に収監された20代の青年ハイメの愛と忠誠、刑務所内の権力闘争が描かれる。アルフレッド・カストロガストン・パウルスがクレジットされているので、時間があればアップします。

   

 

       (ハイメ役フアン・カルロス・マルドナドを配したポスター)

 

     

 (アルフレッド・カストロ、フアン・カルロス・マルドナド、ガストン・パウルス)

  

『12年の長い夜』 アルバロ・ブレッヒナー*ゴヤ賞2019 ⑥2019年01月15日 19:01

            イベロアメリカ映画賞―アルバロ・ブレッヒナーの『12年の長い夜』

 

      

   

★イベロアメリカ映画賞は、アルフォンソ・キュアロンROMA/ローマ』にほぼ決まりでしょうが、昨年暮れからアルバロ・ブレッヒナーの第3La noche de 12 añosが、邦題12年の長い夜』Netflixで配信が開始されました。サンセバスチャン映画祭2018「ホライズンズ・ラティノ」部門の目玉としてすぐさま記事をアップしましたおり、ゴヤ賞ノミネーションを予想いたしました。予想通りになりましたが前大統領ムヒカ役のアントニオ・デ・ラ・トーレが助演男優賞候補になるとは思っていませんでした。スペインも製作国の一つですから規則違反ではありませんが、少し強引でしょうか。

 

★デ・ラ・トーレはロドリゴ・ソロゴジェンEl reinoで主演男優賞にもノミネートされており、虻蜂取らずにならないことを祈りたいところです。彼が欲しいのは1個持っている助演ではなく、素通りつづきの主演のはずです。スペイン映画賞としては最初に蓋を開けるフォルケ賞2019が、112日夜に発表になり、幸先よくEl reino」の演技が認められて男優賞を受賞しました。因みに作品賞は予想通りハビエル・フェセルが監督したCampeonesで、本作はCine y Educacion賞とのダブル受賞、こういうケースは初めてだそうです。ゴヤ賞を占ううえで重要な映画賞、フォルケ賞2019の受賞結果は次回にアップいたします。

 

         

             (フォルケ賞のトロフィーを手にしたアントニオ・デ・ラ・トーレ)

 

12年の長い夜』の作品・監督キャリア・キャスト紹介は、コチラ20180827

前回と重複しますがキャストとストーリーを以下に若干補足訂正して再録、前回アップ後の映画賞受賞歴も追加しました。

 

 12年の長い夜』の主な出演者

アントニオ・デ・ラ・トーレ(ペペ、ホセ・ムヒカ・コルダノ、201015年ウルグアイ大統領)

チノ・ダリン(ルソ、マウリシオ・ロセンコフ)

アルフォンソ・トルト(ニャト、エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、201685日没)

セサル・トロンコソ(トゥパマロス壊滅作戦「死の部隊」を指揮した軍人)

セサル・ボルドン(アルサモラ軍曹)

ミレージャ・パスクアル(ムヒカの母親ルーシー)

ソレダー・ビジャミル(精神科医)

シルビア・ペレス・クルス(ウイドブロの妻イヴェット、劇中ではグラシエラ

ニディア・テレス(ロセンコフの母ロサ)

ルイス・モットーラ(少尉

ジョン・デ・ルカ(マルティネス、兵士)

ロドリゴ・ビジャグラン(アルメイダ、兵士)

ダビ・ランダチェ(軍人)

ロヘリオ・グラシア

ルチアノ・Ciaglia(ゴメス)  

 

ストーリー19736月、ウルグアイは軍事クーデタにより軍部の政治介入が実現した1971年の大統領選で左派連合が敗北してからは、都市ゲリラ「トゥパマロス」民族解放運動勢いも失速、壊滅寸前になって既に1年が経過していた。多くのメンバーが逮捕収監され拷問を受けていた。1973年9月7日夜、軍部の掃討作戦で捕えられていたトゥパマロスの3人の囚人がそれぞれ独房から引き出され秘密裏に何処かへ護送されていった。これは12年という長きにわたって、全国に散らばっていた営倉を連れまわされることになる孤独の始りだった。それ以来、精神的な抵抗の限界を超えるような新式の実験的な拷問と孤独に耐え抜くことになる。軍部の目的は「彼らを殺さずに狂気に至らしめる」ことなのは明らか、彼らは囚人ではなく軍部の人質だった。一日の大半を頭にフードを被せられ、足枷をはめられたまま独房に閉じ込められてい3人の人質とは、ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカ、元防衛大臣で作家のエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、ジャーナリストで作家のマウリシオ・ロセンコフのことである。        (文責:管理人)   

         

         ウルグアイ軍事独裁政権の闇と孤独を描く12年間

 

A: 本作は「もし生きのびて自由の身になれたら、この苦難の事実を書き残そう」と誓い合った、エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロマウリシオ・ロセンコフの共著Memorias del calabozoをもとに映画化されました。映画では3人に絞られていますが、実際は他にトゥパマロスのリーダー6人、合計9名だった。本著はこの9名の証言をもとに纏められたものです。

B: 民政移管になった1985年に釈放、バスで家族のもとに戻るさいに連呼された、ホルヘ・ベニテス、カルロス・ゴンサレス、ロベルト・イポリト、ワシントン・ゴンサレス・・・などが証言に応じた他の6人でしょうか。

A: 1993年にエドゥアルド・ガレアノの序文を付して再刊されたものを検索しましたが確認できませんでした。おそらく苦しみを分かち合った他の仲間たちへの敬意が込められていたのでしょう。収監中に亡くなった人が約100名、いわゆるデサパレシードス行方不明者が140名という記録が報告されています。

 

       

          (txalaparta社から1993年に再刊されたMemorias del calabozoの表紙

 

B: 隣国アルゼンチンの軍事独裁政権の犠牲者3万人に比べれば桁違いですが、闘争中に射殺されたメンバーも多かった。屋根裏に逃げ込んだニャト(アルフォンソ・トルト)が逮捕されたとき、その家主夫婦が射殺されたシーンはそれを示唆しています。

A: そのときの掃討作戦を行なった<死の部隊>の指揮官の名前は映画では明らかにされなかった。当然分かっていたはずですが、IMDbにも軍人と表示されているだけです。セサル・トロンコソが演じていましたが、彼はウルグアイ出身、本邦ではセザール・シャローン&エンリケ・フェルナンデスの『法王のトイレット』(ラテンビート2008上映)の主役を演じている他、ルシア・プエンソXXY(同2007)にも出演しているベテラン俳優です。

 

     

           (憎まれ役の軍人に扮したセサル・トロンコソ)

 

B: 石をぶつけたいぐらい憎々しかったと褒めておきます。アルフォンソ・トルトもウルグアイ、その他にウルグアイからはルソ(チノ・ダリン)にラブレターを代筆してもらうアルサモラ軍曹役のセサル・ボルドン、ルソの母親ロサ役のニディア・テレスがウルグアイです。

A: エル・ペペの母親ルーシー役のミレージャ・パスクアルもウルグアイ、彼女については前回ご紹介しています。例の『ウイスキー』でデビューした独特の雰囲気のある女優です。ニディア・テレスはアルバロ・ブレッヒナー監督の第2Mr. Kaplan14)のカプラン夫人でデビューした遅咲きの女優です。以上がウルグアイの主な出演者です。

B: 多数の受賞歴をもつMr. Kaplan」についても、前回の監督キャリア紹介にワープして下さい。

 

    

                  (ルソにラブレターの代筆をしてもらうアルサモラ軍曹

 

A: アルゼンチンからはチノ・ダリンの他、精神科医を演じたソレダー・ビジャミル、スペインからはエル・ペペ役のアントニオ・デ・ラ・トーレの他、ニャトの妻になったシルビア・ペレス・クルスがそうですが、それぞれ前回簡単に紹介しています。監督がデ・ラ・トーレの出演交渉のためマドリードに出向きカフェで会った。すると「10分後には快諾してくれた」とベネチア映画祭のインタビューに答えていました。出演は即決だったようで、デ・ラ・トーレらしい。

 

       

    (左から、ムヒカ前大統領、監督、デ・ラ・トーレ、ベネチア映画祭のプレス会見にて)

 

B: 幼児から80歳に近いエキストラは、ウルグアイの新聞に出した募集広告を見て参加してくれた方だそうです。200名ぐらい参加している。1985年民政移管になって釈放された9名を刑務所の門前や沿道で出迎えた家族、支持者たちを演じてくれた。

A: ウルグアイの人々にとって1970年代はそんなに昔のことではないのですね。ウルグアイの軍事独裁政権は、いわゆるブラジル型といわれる官僚主義体制で、隣国アルゼンチンのように軍人が大統領ではなかった。しかしトゥパマロス掃討に功績のあった軍部の政治介入を許した警察国家体制ではあった。

 

B: 劇中で「お前たちは囚人でなく人質だ」と言い放った<死の部隊>の指揮官がその典型、囚人でないというのは裁判の権利がないということです。都市型ゲリラのトゥパマロスの抵抗に長いあいだ煮え湯を飲まされ続けていた軍部の憎しみは、相当根深かったと言われていますね。

 

       

              (再会を喜ぶニャトと家族、周囲の人は募集に応じたエキストラ)

 

       1981年軍政合法化についての憲法改正の是非を問う国民投票

 

A: 劇中では1973年から1985年までの12年間が収監日数と共に表示される。197397日、9人のトゥパマロスのリーダーが収監されていた刑務所から、軍部の手で秘密裏に南部のリオ・ネグラらしき軍の施設に移送される。

B: 刑務所ではなく、ベッドも便器も一切ないから重営倉の兵士が入れられる独房のようです。約1年後に別の軍施設に移動、803日目の1975年から収監日数が表示される。およそ1年ごとに移動しており、その都度19761074日目、19771529日目・・・19802757日目という具合に日数が表示される。

 

A: 1981年に軍部の政治介入を合法化する「憲法改正」の是非を問う国民投票が実施され、国民の答えはNoだった。19833883日目に、ルソが恋文を代筆したアルサモラ軍曹の兵舎に戻ってくる。軍曹の計らいで手錠をされたままではあったが目隠しなしで初めて太陽の日差しを浴びることができた。

 

   

   (初めて目隠しなしで顔を合わせる3人、生きていることを実感するシーン)

 

B: 観客にも解放の日の近いことを暗示するシーン、人間らしさを失わなかった軍人は彼一人だったでしょうか。そして19843984日目に仲間の多くが収監されていた最初の刑務所に戻ってくる。

A: ニャトがよたよたしながら刑務所の中庭でサッカーのボールを蹴る真似をする。窓からは「ニャト、ニャト、ゴール」の大歓声、社会の無関心に絶望していた過去が一気に吹き飛ぶ忘れられないシーンでした。彼らを苦しめたのは孤独と自分たちは忘れられてしまったという社会の無関心でした。

B: 母親が差し入れた便器に種をまき咲かせたヒナゲシの植木鉢を抱えてムヒカが出所する。日数の表示は、19854323日目が最後になる。

 

      

  (ピンクの便器を抱えて刑務所を出るエル・ぺぺ、201075歳でウルグアイ大統領になる)

 

          冷戦時代の米国がもっとも恐れた裏庭の赤化

 

A: 各自逮捕時期は異なっており、この日数はあくまで197397日が起点のようで、囚人ではなく<人質>だった日数です。各自刑務所とシャバを出たり入ったりしていますから、別荘暮らしはトータルでは15年くらいだそうです。時には各人の幻覚や逮捕時の回想シーンが織り込まれておりますが、映画は時系列に進行していくので観客は混乱しません。

B: ウルグアイだけではありませんが、ラテンアメリカ諸国は二つの世界大戦には参戦しておりませんが、米ソ冷戦時代の煽りを食ったラテンアメリカ諸国の実態は複雑で、少しは時代背景の知識があったほうがいいかもしれません。

 

A: 劇中にもニカラグア革命との連携を疑う軍部やCIAの画策など、米国の関与を暗示するセリフが挿入されています。裏庭の赤化を恐れていたアメリカが軍事独裁政権の後ろ盾であったことは、後の調査で証明されています。赤化より軍事独裁政権のほうがマシというわけです。

B: ラテンアメリカ諸国が、人権や民主主義を標榜する大国アメリカを嫌うのには、それなりの理由があるということです。1979年、左派中道派からの要請で赤十字国際委員会が調査に現れるが、そのおざなりの調査にはあきれるばかりです。

 

A: どこからか入った横槍に屈したわけです。ほかにもカトリック教会批判がそれとなく挿入されている。精神を病んだペペが、ソレダー・ビジャミル扮する精神科医に「神を信じているか」と訊かれる。ペペの返事は「もし神がいるなら、私たちを救ってくれているはず」だった。

B: カトリック教会が軍部と結託していたことを暗示しているシーン。他のラテンアメリカ諸国も金太郎の飴ですが、保身に徹したカトリック教会と軍事独裁政権は太いパイプで繋がっていました

       

           (ペペを診察する精神科医役のソレダー・ビジャミル)

 

A: 信者が多いにもかかわらず、ラテンアメリカ諸国から長いあいだローマ法王が選ばれなかった経緯には、この軍事独裁政権との結託があったからでした。現ローマ法王サンフランシスコも加担こそしませんでしたが、民主化後に見て見ぬふりをしていたことを謝罪していたからなれたのでした。

B: バチカンも危険を冒してまで選出できなかった。ラテンアメリカ諸国のカトリック教徒の減少は、幼児性愛だけが理由ではありません。

 

A: 主演の3人、ぺぺ(1935)、ルソ(1933)、ニャト(19422016)は、共にウルグアイ生れだが、一番年長のルソは両親の時代にポーランドから移民してきたユダヤ教徒、ナチ時代にはポーランドに残った親戚の多くがゲットーやアウシュビッツで亡くなっている。

B: 3人のなかではルソ役のチノ・ダリンが一番若かったのでちょっと違和感があった。

 

A: 反対に一回り若いニャトはクランクイン前に鬼籍入りしてしまった。彼の一族はスペインからの移民です。リーダー格のぺぺの祖先も、1840年代にスペインのバスク州ビスカヤから移民してきた。

B: ウルグアイはまさに移民国家です。ミレージャ・パスクアルが演じていたペペの母親ルーシー・コルダノは、実名で映画に出ていた。ムヒカは当時独身、それで面会に来るのは母親でした。上院議員のルシア・トポランスキ(1944)との結婚は2005年だった。

 

       

          (ホセ・ムヒカと夫人ルシア・トポランスキ、2010年)

 

A: 彼女は2期目となるタバレ・バスケス政権の副大統領を20179月から務めている。映画でも女性の力の大きさが際立っていましたが、土壇場で力を発揮するのは女性です。

B: 面会に来たルソの父親イサクの狼狽ぶりと母親ロサの気丈さが印象に残っています。女性のほうが打たれ強いのかもしれません。

 

A: 前回アップしたときは受賞歴はそれほどではありませんでしたので、以下に追加します。

 

  映画祭・受賞歴

アミアン映画祭:観客賞

ビアリッツ映画祭(ラテンアメリカシネマ)観客賞

カイロ映画祭:ゴールデン・ピラミッド賞、FIPRESCI国際映画批評家連盟賞

カンヌ・シネフィル:グランプリ

オーステンデ映画祭(ベルギー)審査員賞

ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭:観客、カサ・デ・イベロアメリカ、作品、脚本、撮影の各賞

シルバー・コロン(監督・男優アルフォンソ・トルト)賞 

ハバナ映画祭:作品賞(カサ・デ・ラス・アメリカス、キューバ映画ジャーナリズム協会)

サンゴ賞(編集、録音)、グラウベル・ローシャ賞、ラジオ・ハバナ賞

レジスタンス映画祭:監督賞

テッサロニキ映画祭:観客賞

ウルグアイ映画批評家協会:作品、監督、男優(アルフォンソ・トルト)

女優(ミレージャ・パスクアル)、録音の各賞

 

以上は2018年開催の映画祭受賞歴(ノミネーションは割愛)

ゴヤ賞2019ノミネーションは、イベロアメリカ映画賞、脚色賞、助演男優賞(アントニオ・デ・ラ・トーレ)の3カテゴリー。

 

ウルグアイ映画「La noche de 12 años」*サンセバスチャン映画祭2018 ⑬2018年08月27日 15:48

           「ホライズンズ・ラティノ」第1弾-「La noche de 12 años

 



        

★サンセバスチャン映画祭より一足先にベネチア映画祭2018「オリゾンティ」部門で上映される、アルバロ・ブレッヒナーLa noche de 12 añosは、簡単に言うと前ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ(任期201015)のビオピックを軸にしているが、1970年代ウルグアイに吹き荒れた軍事独裁時代の政争史の色合いが濃い。物語は1973年から民主化される1985年までの12年間、刑務所に収監されていた都市ゲリラ組織トゥパマロスのリーダーたち、ホセ・ムヒカエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロマウリシオ・ロセンコフ3人を軸に展開される。ウルグアイ前大統領ムヒカ、元防衛大臣で作家のウイドブロ、ジャーナリストで作家のロセンコフのビオピックでもある。

 

★獄中で「もし生きのびて自由の身になれたら、この苦難の事実を必ず書き残そう」と誓い合ったロセンコフとウイドブロの共著Memorias del calabozo(「Memories from the Cell」)をベースに映画化された。

Memorias del calabozo」(3巻)198788年刊、1989年「バルトロメ・イダルゴ賞」を受賞。2013年に優れたジャーナリストで作家のエドゥアルド・ガレアノの序文を付して再刊された。

 

         

                 (本作のベースになった「Memorias del calabozo」の表紙)

 

★ホセ・ムヒカは大統領退任後の201645日に来日(~12日)、収入のあらかたを寄付、月1000ドルで質素に暮らしていることから「世界で最も貧しい大統領」と日本では報道された。愛称エル・ペペ、今年のベネチア映画祭にはコンペティション外ではあるが、ムヒカを主人公にした、鬼才エミール・クストリッツアが5年がかりで撮ったドキュメンタリーEl Pepe, una vida suprema(ウルグアイ、アルゼンチン、セルビア、74分)もエントリーされ、思いがけず話題を集めている。このセクションには他に『笑う故郷』のガストン・ドゥプラット、『エル・クラン』のパブロ・トラペロの新作も上映され、ラテンアメリカが気を吐いている。

 

La noche de 12 años(ワーキングタイトル「Memorias del calabozo」)2018

製作:Tornasol Films / Alcaravan AIE / Hernández y Fernández Producciones Cinematográficas(以上西)、Haddock Films(アルゼンチン)/ Salado Media(ウルグアイ)/ Manny Films(仏)、Movistar+参画

監督・脚本:アルバロ・ブレッヒナー

撮影:カルロス・カタラン

編集:イレネ・ブレクア

音楽:フェデリコ・フシド

美術:ダニエル・カルカグノ、ラウラ・ムッソ

プロダクション・デザイン:ラウラ・ムッソ

製作者:フェルナンド・Sokolowicz、マリエラ・ベスイエブスキー、フィリップ・ゴンペル、Birgit Kemner、(エグゼクティブプロデューサー)セシリア・マト、バネッサ・ラゴネ、他多数

 

データ:製作国スペイン、アルゼンチン、フランス、ウルグアイ、スペイン語、2018年、実話に基づくビオピック、撮影地モンテビデオ、マドリード、パンプローナ、20176月クランクイン、公開ウルグアイ920日、アルゼンチン927日、スペイン1123

  

映画祭:ベネチア映画祭2018「オリゾンティ部門」正式出品(91日上映)作品・監督・脚本ノミネート、サンセバスチャン映画祭2018「ホライズンズ・ラティノ部門」正式出品

 

キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(ホセ・ムヒカ)、チノ・ダリン(マウリシオ・ロセンコフ)、アルフォンソ・トルト(エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ)、セサル・トロンコソ(軍人)、ソレダー・ビジャミル(精神科医)、シルビア・ペレス・クルス(イヴェット)、ミレージャ・パスクアル(ムヒカの母親ルーシー)、ニディア・テレス(ロサ)、ルイス・モットーラ(軍人)、他多数

 

物語19739月、ウルグアイは軍事クーデタにより独裁政権が実権を握った。都市ゲリラ「トゥパマロス」運動は勢いを失い壊滅寸前になって既に1年が経過していた。多くのメンバーが逮捕収監され拷問を受けていた。ある秋の夜、軍部の秘密作戦で捕えられたトゥパマロスの3人の囚人がそれぞれ独房から引き出されてきた。全国の異なった営倉を連れまわされ、死に関わるような新式の実験的な拷問、それは精神的な抵抗の限界を超えるものであった。軍部の目的は「彼らを殺さずに狂気に至らせる」ことなのは明らかだった。一日の大半を頭にフードを被せられ繋がれたまま狭い独房に閉じ込められた12年間だった。この3人の囚人とは、ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカ、元防衛大臣で作家のエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ、ジャーナリストで作家のマウリシオ・ロセンコフのことである。

 

        

          (独房から引き出された3人の囚人、映画から

 

         1970年代ラテンアメリカ諸国を覆った軍事独裁の本当の黒幕

 

ホセ・ムヒカ(モンテビデオ、1935)の最後になる逮捕は1972年、民政移管になった19854月釈放だから、大雑把に約12年間になるが(正確には116ヵ月7日間だそうです)、それ以前の収監を含めると約15年間に及ぶという。映画では3人に絞られているが、他にトゥパマロス(ツパマロス)のリーダー6人も収監されており、上述の「Memorias del calabozo」は全9人の証言で構成されているようです。

 

★冷戦時代の1970年代のラテンアメリカ諸国は、ウルグアイに限らずアルゼンチン、チリ、ブラジル、ペルーなどが米国の後押しで軍事独裁政権が維持されていた。アメリカは人権より我が家の裏庭の赤化を食い止めるのに必死だったというわけです。米国にとっては赤化より軍事独裁制のほうが国益に叶っていたからです。新式の拷問とは CIA がベトナム戦争で培ったノウハウを、領事館員やビジネスマンに偽装させて潜入させ伝授したことは、その後の資料、証言、調査で明らかになっている。 

(ホセ・ムヒカ)

     

エレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロ(モンテビデオ、19422016、享年74歳)は、196910月逮捕されたが、19719110人の仲間と脱走に成功した。しかし1972414日再逮捕、これが最後の逮捕となって以後1985年まで収監されている。ですから彼もトータルで刑期は15年くらいになるようです。釈放後は政治家としてムヒカ大統領のもとで防衛大臣、作家としては上記以外にプンタ・カレタス刑務所から110名の仲間とトンネルを掘って脱獄した体験を書いた「La fuga de Punta Carretas」(2巻、1990)、本作は1992年モンテビデオ市賞を受賞した。その他多数の著作がある。

 

(晩年のウイドブロ)

  

マウリシオ・ロセンコフ(本名Moishe Rosenkopf、ウルグアイのフロリダ、1933)は、ジャーナリスト、作家、脚本家、詩人、戯曲家。両親は1931年、ナチの迫害を逃れてポーランドから移民してきたユダヤ教徒。2005年からモンテビデオ市の文化部長を務め、週刊誌「Caras y Caretas」のコラムニストとして活躍している。2014年ウルグアイの教育文化に貢献した人に贈られる「銀のMorosli」賞を受賞。「Memorias del calabozo」の他、著作多数。

 

(マウリシオ・ロセンコフ)

    

 

キャスト紹介

アントニオ・デ・ラ・トーレは、1968年マラガ生れ、俳優、ジャーナリスト。本作でホセ・ムヒカを演じる。当ブログでは何回も登場させていますが、いずれも切れ切れのご紹介でした。大学ではジャーナリズムを専攻、卒業後は「カナル・スール・ラディオ」に入社、テレビのスポーツ番組を担当、かたわら定期的にマドリードに出かけ、俳優養成所「クリスティナ・ロタ俳優学校**で演技の勉強を並行させていた。TVシリーズ出演の後、エミリオ・マルティネス・ラサロのコメディ『わが生涯最悪の年』(94)のチョイ役で映画デビュー、俳優としての出発は遅いほうかもしれない。

**クリスティナ・ロタ俳優学校は、アルゼンチンの軍事独裁政権を逃れてスペインに亡命してきた女優、プロデューサー、教師クリスティナ・ロタが1979年設立した俳優養成所。現在スペインやアルゼンチンで活躍中のマリア・ボトー、フアン・ディエゴ・ボトー、ヌル・アル・レビ姉弟妹の母親でもある。

 

        

               (ホセ・ムヒカに扮したデ・ラ・トーレ、独房のシーンから)

 

1990年代から2000年初めまでは、イシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』『テイク・マイ・アイズ』、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『ビースト 獣の日』、『どつかれてアンダルシア』、『13 みんなのしあわせ』、サンティアゴ・セグラの「トレンテ」シリーズなど同じ年に掛け持ちで出演しているが、どんな役だったか記憶にないほどの脇役に甘んじていた。転機が訪れたのは、ダニエル・サンチェス・アレバロの短編デビュー作Profilaxis03、仮題「予防法」)で主役を演じたことだった。バダホス短編映画祭2004で監督が作品賞、デ・ラ・トーレも男優賞を受賞した。

 

     

     (33キロ体重を増やして臨んだ『デブたち』、義兄弟のサンチェス・アレバロ監督と)

 

★サンチェス・アレバロの家族が一丸となって資金集めに奔走して完成させた長編デビュー作『漆黒のような深い青』がブレーク、ゴヤ賞2007で新人監督賞、主役のキム・グティエレスが新人男優賞、彼も助演男優賞を受賞した他、俳優組合賞も受賞した。続いて体重を33キロ増量して臨んだ『デブたち』(09)、『マルティナの住む街』(11)と二人はタッグを組んでいる。監督と彼は義兄弟の契りを結んでおり、監督は彼を「兄さん」と呼ぶ仲、以上3作に共演したラウル・アレバロも親友、2016年アレバロが念願の監督デビューした『静かなる復讐』Netflix『物静かな男の復讐』)では主役の一人を演じた。

 

       

                        (ラウル・アレバロの『静かなる復讐』から)

 

★その他、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『気狂いピエロの決闘』の悪役ピエロ(サン・ジョルディ賞・トゥリア賞)や『刺さった男』、アルモドバルの『ボルベール<帰郷>』『アイム・ソー・エキサイテッド!』、アルベルト・ロドリゲスの『ユニット7』と『マーシュランド』、今までで一番難役だったと洩らしたマヌエル・マルティン・クエンカ『カニバル』ではゴヤ賞こそ逃したが、フェロス賞2014の男優賞、シネマ・ライターズ・サイクル賞、俳優組合賞の男優賞を制したほか、「El autor」にも出演している。グラシア・ケレヘタのコメディ「Felices 140」、パブロ・ベルヘルのコメディAbracadabraロドリゴ・ソロゴジェンの『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強盗殺人事件』、そして新作El Reinoが今年のSSIFFコンペティション部門に正式出品され主役に起用されています。

 

     

                     (人肉を食するデ・ラ・トーレ、『カニバル』から)

 

★何しろトータルでは既に出演本数が100本を超えており紹介しきれないが、『カニバル』以下『マーシュランド』、「Felices 140」、Abracadabra」、El autor」などは、個別に紹介記事をアップしております。ゴヤ賞には嫌われてノミネーションのオンパレードで受賞に至らないが、マラガ出身ということもあってかマラガ映画祭2015で一番の大賞といわれる「マラガ賞」(現マラガ-スール賞)を受賞して、地中海を臨む遊歩道に等身大の記念碑を建ててもらっている。「La noche de 12 años」はウルグアイ映画なのでゴヤ賞の対象外になると思いますが、「El Reino」で7度目の正直で主演男優賞を受賞するかもしれません。

 

★マウリシオ・ロセンコフを演じるチノ・ダリンは、1989年ブエノスアイレスのサン・ニコラス生れ、俳優、最近父親リカルド・ダリンが主役を演じたフアン・ベラの「El amor menos pensado」で製作者デビューした。本作はSSIFF2018のオープニング作品である。映画デビューはダビ・マルケスのEn fuera de juego11)、本邦登場はナタリア・メタの『ブエノスアイレスの殺人』Muerte en Buenos Aires14)の若い警官役、ラテンビートで上映された。翌年韓国のブチョン富川ファンタスティック映画祭で男優賞を受賞した。続いてディエゴ・コルシニのPasaje de vida15)で主役に抜擢されるなど、親の七光りもあって幸運な出発をしている。

『ブエノスアイレスの殺人』の紹介記事は、コチラ201409月29日

 

   

 

         

                                          (フードを被せられていたロセンコフ)

 

★アルゼンチンのお茶の間で人気を博したのがパブロ・トラペロの『エル・クラン』のTVシリーズ版Historia de un clanでの長男役でした。今年はルイス・オルテガのデビュー作El Ángelで早くもカンヌ入りを果たした。父親もアスガー・ファルハディのTodos lo sabenでカンヌ入り、家族でカンヌを満喫した。今年のSSIFFにも多分ダリン一家は揃ってサンセバスチャン入りするでしょう。

 

    

                    (『ブエノスアイレスの殺人』のポスター)

 

★ウイドブロ役のアルフォンソ・Tort(トルト?)はウルグアイ出身、昨年のSSIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門にノミネートされたアドリアン・ビニエスLas olasで主役を演じた折に紹介したばかりです。アルバロ・ブレッヒナーのデビュー作「Mal dia para pescar」に出演している。2001年『ウィスキー』の監督コンビのデビュー作25 Wattsで初出演、モンテビデオの3人のストリート・ヤンガーの1日を描いたもの、若者の1人を演じた。『ウィスキー』にもベルボーイ役で出演、イスラエル・アドリアン・カエタノCrónica de una fuga06)、主役を演じたCapital (Todo el mundo va a Buenos Aiires)07)、他ビニエス監督のEl 5 de Talleres にも出演している。「ウイドブロ役はとても複雑で難しい役だった」と語っている。

Las olas」の紹介記事は、コチラ⇒2017年09月13日

 

       

                      (アルフォンソ・トルト、後ろはチノ・ダリン)

 

★女優陣のうち、精神科医役のソレダー・ビジャミルは、フアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』で、リカルド・ダリンが思いを寄せる上司役を演じて一躍有名になった。ほかアナ・ピーターバーグのスリラー『偽りの人生』などが公開され、一卵性双生児を演じたヴィゴ・モーテンセンと夫婦役を演じた。本作では軍事政権の終焉をムヒカに耳打ちして「もう少しの辛抱」と励ます医師役。イヴェット役のシルビア・ペレス・クルス(ジローナ、1983)は、サウンドトラックを多く手掛けているミュージシャンで、エドゥアルド・コルテスのミュージカルCerca de tu casa16)でゴヤ賞オリジナル歌曲賞を受賞している。ルーシー役のミレージャ・パスクアル(モンテビデオ、1954)は、かの有名な『ウィスキー』でデビュー、淡々とマルタ役を演じて忘れられない印象を残した女優。本作では「信念をもって生きて帰ってくるよう」ムヒカを励ます気丈な母親役を好演している。男優女優ともスペイン、アルゼンチン、ウルグアイと満遍なく起用していることが分かる。

 

      

                           (精神科医役のソレダー・ビジャミル)

    

 

  監督キャリア&フィルモグラフィー

アルバロ・ブレッヒナー(ブレックナー?)Alvaro Brechner1976年モンテビデオ生れ、現在マドリード定住のウルグアイの監督、脚本家、プロデューサー。ウルグアイのカトリック大学でメディア学の学位を取り、その後スペインに渡り、1999年バルセロナ自治大学マスターコースのドキュメンタリー制作の学位を取得した。ドキュメンタリー映画で出発、約10本ほど撮り、TVで放映された。のち2003年に短編「The Nine Mile Walk」、2005年「Sofia」、2007年「Segundo aniversario」などで評価を得る。

 

 (本作撮影中の監督)

     

★長編映画デビュー作Mal dia para pescar09、スペインとの合作)は、ウルグアイの作家フアン・カルロス・オネッティの短編「Jacob y el Otro」にインスパイアーされて製作された(オネッティも軍事独裁を嫌って1976年にスペインに亡命した)。カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に正式出品、カメラドール対象作品に選ばれた。その後、モントリオール、マル・デ・プラタ、ワルシャワ、モスクワ、上海、ロスアンジェルス・ラテン、オースティン、釜山、ヒホン、リマ、サンパウロ他、世界各地の映画祭に出品され、受賞歴多数。本国のウルグアイでは、ウルグアイ映画賞を総なめにして、オスカー賞外国語映画賞ウルグアイ代表作品に選ばれた。

 

★第2Mr. Kaplan14、西・独との合作)はスリラー・コメディ。退職して年金暮らしのハコボ・カプランと運転手のコントレラスは、近所のドイツ人が逃亡ナチではないかと疑って身辺捜査を開始する。ミスター・カプランにチリのベテラン、エクトル・ノゲラ、ドイツ人にロルフ・ベッカーを起用し、本作もオスカー賞外国語映画賞ウルグアイ代表作品、ゴヤ賞2015のイベロアメリカ映画賞ノミネート、第2回イベロアメリカ・プラチナ賞2015では、作品賞、監督賞、脚本賞以下9部門にノミネートされたが、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』に敗れた。

 

  

★第3作が前作とはがらりと趣向を変えてきたLa noche de 12 años、監督によると、2011年にプロジェクトを立ち上げたが、まだ前作の「Mr. Kaplan」の撮影中だった由。「どんな賞でも拒否はしないが、賞を取るために作っているわけではない。私にとって映画は旅であって観光旅行ではない」とインタビューに応えていた。201512月、米国のエンタメ雑誌「バラエティ」が選ぶ「ラテンアメリカ映画の新しい才能10人」の一人に選ばれた。

 

     

                            (撮影中のデ・ラ・トーレと監督)

     

*追記:『12年の長い夜』の邦題で2018年12月28日から Netflix 配信が開始されました。ゴヤ賞2019イベロアメリカ映画賞にノミネーション、他ムヒカ役のアントニオ・デ・ラ・トーレが助演男優賞にノミネートされました。


サバルテギ-タバカレラ部門 2*サンセバスチャン映画祭2018 ⑦2018年08月03日 13:29

                  フェデリコ・ベイローの第4作「Belmonte

 

★サバルテギ部門の長編2本目は、フェデリコ・ベイローの第4作目Belmonteです。長編デビュー作Acné08)が邦題『アクネACNEとして4年後に、第2La vida útil10)が『映画よ、さようなら』として2016年に公開された。時間が経ちすぎて公開した頃にはすっかり忘れれていましたが、とにかくスクリーンで見ることができました。さらに3作目El Apóstata15)がNetflixで『信仰を捨てた男』の邦題で放映されるなど幸運な監督と言えるかもしれない。それだけ魅力的な監督ということでしょうか。まだ新作の情報がわずかしか入手できていませんが、取りあえずご紹介いたします。

 

Belmonte(ウルグアイ、メキシコ、スペイン合作)フェデリコ・ベイロー 

キャスト:ゴンサロ・デルガド(ベルモンテ)、オリビア・モリナロ・エイホ(娘セレステ)、トマス・ワーマン(Wahrmannヴァールマン?)

 

物語:小さい娘と暮らしている造形アーティストのベルモンテの物語。肖像画を描くことに関心があり、モンテビデオのビジュアルアート美術館に収蔵されている絵画を手本に接近していく。しかし最近家族に起きた変化が気がかりで専念できない。別居している妻は妊娠しているが、お腹の子供の父親は別の男である。娘のセレステは気づいている。弟が生まれれば父と過ごす時間は少なくなるだろう。ベルモンテはできるだけ多く娘と過ごそうと昼食の用意をして、学校に送りとどける。娘はそれなりに相応しい大人になるだろうが、とにかく内面の心配事を隠さないで、娘と気持ちを分かち合おうとする。

 

 

    

  監督紹介

フェデリコ・ベイロー Federico Veiroj(綽名 Cote Veiroj)は、1976年モンテビデオ生れ、監督、脚本家、製作者、俳優。現在はスペインの国籍も取得して両国で撮っている。ウルグアイ・カトリック大学でコミュニケーション学を専攻した。デビュー作Acnéは、第23回ゴヤ賞2009イスパノアメリカ(現イベロアメリカ)映画賞にノミネートされたが、チリ代表アンドレ・ウッドの「La buena vida」(『サンティアゴの光』)に敗れた。2作目、3作目は上記の通りですが、最も成功したEl Apóstataは第63SSIFF 2015「コンペティション部門」にノミネートされ、国際映画批評家連盟賞 FIPRESCI、審査員特別メンションを受けた。カトリックの信仰を捨てたい男ゴンサロ・タマヨの有為転変が語られる。批評家受けのするブニュエル風の人を食った作品だが、観客も現代の寓話として楽しめる映画になっている。2000年から6年間ほどマドリードで暮らしていたこともあってマドリードで撮影した。

 

 

     

ゴンサロ役アルバロ・オガーリャ、棄教したいゴンサロを諭すホルヘ司教フアン・カロ)

 

★俳優歴は短編を含めると56本あるが、有名なのは『ウィスキー』(04、ウルグアイ、アルゼンチン、独、西)の監督コンビ、パブロ・ストール&フアン・パブロ・レベージャのデビュー作25 Watts25ワッツ)01)のヘラルディートと呼ばれる少しぼうっとした若者役でした。小国ウルグアイの映画市場は狭く、1国だけの製作は難しく、監督以下、掛け持ちで役割を複数担当することになる。国土の広い隣国ブラジルとアルゼンチンに挟まれているので、ボカディージョ(フランスパンのサンドイッチ)に挟まれたパセリなどと悪口を言われる。自国だけでは食べていけないので同じ言語のアルゼンチンに出稼ぎに行く。それで本邦紹介がアルゼンチン映画だったりすると、アルゼンチン人と間違われることになる。

 

    

             (フェデリコ・ベイロー監督)

 

  キャスト紹介

★「Belmonte」の主役ゴンサロ・デルガド Gonzaro Delgado Galiana は、1975年モンテビデオ生れ、脚本家、アートディレクター、監督、俳優。パブロ・ストールやフアン・パブロ・レベージャと同じウルグアイ・カトリック大学の映画仲間で、同じコミュニケーション学を専攻した。『ウィスキー』では、脚本を監督と共同執筆、美術も担当している。他にAcné」やミニ映画祭として短期間公開されたアルゼンチンのアドリアン・カエタノのEl otro hermano(邦題『キリング・ファミリー 殺し合う一家』2017、アルゼンチン、ウルグアイ、西、仏)でも美術を担当、『映画よ、さようなら』と『信仰を捨てた男』では脚本を共同執筆している。初監督はベロニカ・ぺロタと共同で監督したファミリー・コメディLas toninas van al Este16)、ブラジル南部の都市グラマドで開催されるグラマド映画祭(第11973年)で主演のベロニカ・ぺロタが女優賞を受賞した。デルガドも出演している。当時デルガドは、「役者になりたかった。それも主人公を演りたかった」とインタビューで語っていた。

 

           

                      (ゴンサロ・デルガドとベロニカ・ぺロタ)

 

    

         (ゴンサロ・デルガド、Las toninas van al Este」から

 

★ベイロー監督は「ゴンサロは私の映画には欠かせない才能の一人、本作(Belmonte)も彼のために書かれた映画です。ベルモンテを中心に据え、中年にさしかかった男の危機が語られます」とインタビューに応えている。というわけでデルガドも今回は主人公を演じることができて念願が叶いました。

 

★製作は、ウルグアイ(Nadador Cine / Cinekdoque)、メキシコ(Corazon Films / Charles Barthe-Labo Digital)、スペイン(Ferdydurke Films)、SSIFFなどの映画祭のほか、年内のウルグアイ公開が予定されている。

 

★第5作目となるEl cambistaの撮影の準備も始まっている。偶然目にしたフアン・エンリケ・グルベルの小説「Así habló el cambista」が下敷きになっているようです。ベネズエラ出身だがモンテビデオで死去している(192481)。主役の両替商にダニエル・エンドレルほか、ドロレス・フォンシ、ベンハミン・ビクーニャ、ルイス・マチン、ホルヘ・ボラニなど、2019年完成を目指している。両替商ということですからアンチヒーローでしょうか。主人公を演じるダニエル・エンドレルは、1976年モンテビデオ生れ、アルゼンチンのダニエル・ブルマン監督の「アリエル三部作」(『救世主を待ちながら』『僕と未来とブエノスアイレス』など)の主役アリエルを演じたことから、アルゼンチン出身と思われているシネアストの一人です。25 Watts」や『ウィスキー』に出演している。


グスタボ・エルナンデスの「No dormirás」*マラガ映画祭2018 ⑬2018年04月19日 21:08

          ウルグアイの監督グスタボ・エルナンデスのサイコ・スリラー

 

  

★映画祭も後半に入りラテンアメリカからもベテラン、新人シネアストの来マラガで賑わっている。グスタボ・エルナンデスの長編第3No dormirás(「You Shall Not Sleep」)は415日に上映され、主役の一人ベレン・ルエダがプレス会見でテーマについて語りました。監督本人は来マラガしていないようでした。本作は製作国のアルゼンチン、ウルグアイほかブラジルで既に公開されているという珍しいケースです。観客のツイートでは「ホラーでもないし、スリラーでもない」というのが散見していますが、ベレン・ルエダのコメントからそれが最重要テーマでないことが分かりました。

 

 No dormirás(「You Shall Not Sleep」)2018

製作:Pampa Films / FilmSharks International(アルゼンチン)/ Tandem Films(西)/

    Mother Superior(ウルグアイ)、INCAA / ICAA他多数、

監督:グスタボ・エルナンデス

脚本:Juma Fodde

撮影:ギジェルモ・ニエト

音楽:アルフォンソ・ゴンサレス・アギラル

編集:パブロ・スマラーガ

美術:マルセラ・バッサノ

製作者:マルタ・エステバン、クリスティナ・スマラーガ、Guido Rud(以上エグゼクティブ)、アグスティン・ボッシ、パブロ・ボッシ、イグナシオ・ククコヴィッチ、他

 

データ:製作国アルゼンチン=ウルグアイ=スペイン、スペイン語、2018年、ホラー、サイコ・スリラー、106分、撮影地ブエノスアイレス、カナリア諸島ラス・パルマス。マラガ映画祭2018正式出品415日上映、アルゼンチン及びウルグアイ111日同時公開、ブラジル218日、16歳以上。

 

キャスト:エバ・デ・ドミニシ(ビアンカ)、ベレン・ルエダ(アルマ・ベームAlma Bühm)、ナタリア・デ・モリーナ(セシリア)、ヘルマン・パラシオス(作家)、フアン・マヌエル・ギレラ(フォンソ)、エウヘニア・トバル(サラ)、スサナ・オルノス(ドラ)、マリアノ・Smolarczuk(新聞記者)、他

 

プロット1984年、今では廃屋になっている精神科病院、そこで前衛的な演劇グループが20年前に患者のグループによって創作された作品の舞台化の準備のために不眠症を体験している。数日間眠らないことで知覚の限界に達すると、活力や隠されていた過去に向き合うことになった。有望な女優と目されるビアンカは、主役抜擢を願って参加していた。それは仕事や他の仲間たちへの強い思い入れだけでなく、ビアンカや仲間たちを駆り立てていた未知の力が、彼らを悲劇的な結末へと引き寄せていく。

 

★ストーリーは、前衛的な演劇グループの極端な製作過程と立派だが打ち捨てられた屋敷という要素を組み合わせて進行していくが、恐怖や精神的インパクトはそれほど多くないようだ。力点は登場人物の心理状態に置かれているから、恐怖目的のホラー・ファンには物足らないのかもしれない。ベレン・ルエダがプレス会見で「ホラーが基本的なテーマではない。しかし人物のシチュエーションが観客をそこへ誘い込む。恐怖するための恐怖を求める映画ではなく、現実と私たちの頭の中で起こることの相関関係が描かれている」と語ったように、求めているものに隔たりがあるようです。 

   

       (上映後のプレス会見、中央がベレン・ルエダ、415日)

 

ベレン・ルエダは脚本家アルマ・ベームを演じる。傷つきやすさや感受性を高めるために、出演者に数日間睡眠をとらない不眠症体験をさせる、神秘的で残酷な性格の役柄。スペインから参加したナタリア・デ・モリーナは、ビアンカの仲間の一人セシリア役になる。今回コンペティション部門で金のビスナガ作品賞を競うダビ・トゥルエバ『「ぼくの戦争」を探して』でゴヤ賞2014助演女優賞を受賞したほか、マラガ映画祭2015ではフアン・ミゲル・カスティージョTecho y comidaのシングル・マザー役で女優賞、翌年のゴヤ賞では主演女優賞まで受賞してしまった強運の持ち主、スペイン若手ホープの一人。

 

  

                       (ベレン・ルエダ、マラガ映画祭にて)

 

   

       (エバ・デ・ドミニシとナタリア・デ・モリーナ、映画から)

 

★主役のビアンカ役は、アルゼンチンのエバ・デ・ドミニシ(ドミニチか)、1995年ブエノスアイレス生れ。本作では娘は親の支配下にあるべきという、父親からのトラウマと暴力から逃れ、生き残るために舞台女優として自立したい女性を演じた。モデル出身だが2006年からTVシリーズで活躍、エルナン・ベロンSangre en la boca16)でレオナルド・スバラグリアとタッグを組み女性ボクサーを演じた。本作出演後もオファーが目白押し、来年公開の「Bad Water」でアメリカ映画にも進出することになった。

 

             

 (エバ・デ・ドミニシ、映画から)

 

  グスタボ・エルナンデスのキャリア&フィルモグラフィー

グスタボ・エルナンデス、ウルグアイの監督、脚本家、製作者。長編デビュー作La casa muda10)は、カンヌ映画祭と併催される「監督週間」に正式出品された後、国際映画祭でも上映された。翌年ハリウッドでクリス・ケンティス&ローラ・ラウ監督によって「Silent House」としてリメイクされ、日本でも『サイレント・ハウス』の邦題で公開されたホラー・スリラー、エルナンデス監督は脚本を共同執筆した。第2作目はDios local14)は、シッチェス映画祭、ファンタスティックフェスト、リオデジャネイロ映画祭、プチョン市の韓国ファンタジー映画祭などで上映された。第3作目が「No dormirás」です。

 

   

    (「No dormirás」公開時、インタビューを受けるグスタボ・エルナンデス)

 

        

             (デビュー作「La casa muda」のポスター)


アドリアン・ビニエスの第3作 "Las olas" *サンセバスチャン映画祭2017 ⑧2017年09月13日 17:24

         「ホライズンズ・ラティノ」にアドリアン・ビニエスの第3

 

アドリアン・ビニエスは、ベルリン映画祭2009でデビュー作 Gigante がいきなり銀熊賞、新人監督賞、さらにはアルフレッド・バウアー賞のトリプル受賞、一躍ベルリンの寵児となった監督。ラテンビート2010『大男の秘め事』の邦題で上映されました。今回ノミネーションされた Las olas は、昨年の「Cine en Construcción 30」出品作品、エントリーされた6作のうち4作が今年の「ホライズンズ・ラティノ」にノミネートされています。仕事に疲れ果てた中年男アルフォンソが海の中で出会う過去がメランコリックに語られる。「Cine en Construcción」は、ラテンアメリカ諸国の映画振興のために年2回開催され、第30回が20169月のサンセバスチャン映画祭、第31回が20173月のトゥールーズ映画祭に出品された作品。

  

 Las olas The Waves2017

製作:Mutante Cine(ウルグアイ)/ El Campo Cine(アルゼンチン)

監督・脚本・音楽:アドリアン・ビニエス

撮影:ニコラス・ソト、ヘルマン・レオン

編集:パブロ・リエラ、フェルナンド・エプステイン(『ウィスキー』)

録音:フランシスコ・リッジ、マルティン・スカグリア

助監督:サンティアゴ・トゥレルTurell

製作者:アグスティナ・チアリノ、ニコラス・Avruj

 

データ:ウルグアイ=アルゼンチン、スペイン語、2017年、ドラマ、87分、撮影地モンテビデオ、20163月クランクイン、「Cine en Construcción 30」参加作品、サンセバスチャン映画祭2017「ホライズンズ・ラティノ」正式出品、ウルグアイ公開2018年前期予定。

 

キャスト:アルフォンソ・Tort(アルフォンソ)、フリエタ・ジルベルベルグ、カルロス・リサルディ、ファビアナ・チャルロ、ビクトリア・ホルヘ、他

 

プロット:アルフォンソは疲れはてる仕事が終わるとビーチに出かける。海に潜って泳ぐ。海から浮き上がると、5年前に家族と一緒に夏を過ごした別のビーチにいることと気づく。これが素晴らしい旅の始まりだった。彼の人生に沿ってさまざまな夏休み、湯治場がメモランダムに出現する。両親と過ごした子供時代、別れた妻と過ごした神秘的な島、友達と一緒のティーンエージャー時代、マレーシアの海賊ごっこ、2年続けて同じ場所でそれぞれ別の恋人とキャンプしたことが、ノスタルジックにメランコリックに彼の孤独が語られる。

 

         

              (ビーチに向かうアルフォンソ?)

 

         ノスタルジーとアナクロニズムが横溢する中年男の孤独

 

★テイスト的には『大男の秘め事』に近いが、デビュー作にあったスリリングな緊張感は薄れている印象です。アドリアン・ビニエスは、ブエノスアイレス生れのアルゼンチン人ですが、ウルグアイのモンテビデオを本拠地にしている。小国ウルグアイの映画市場はアルゼンチンとは比較にならないほど小さく、彼のようなシネアストは珍しい。本作は上記したように「Cine en Construcción 30」の参加作品、その時のストーリーとは若干違っているようです。「素晴らしい旅の始まり」は、アルフォンソが11歳の子供のときで、両親が岸辺から彼に戻ってくるよう呼んでいるシーンだった。アルフォンソは監督と同世代の38歳から40歳、時代は1985年から2012年に設定されている。大人の体形と変わらないアルフォンソが子供を演じるわけで、そのアンバランスが可笑しみを醸しだしているのでしょうか。

 

アドリアン・ビニエスAdrian Biniezは、1974年ブエノスアイレス州のレメディオス・デ・エスカラダ生れ、監督、脚本家、俳優、現在はウルグアイのモンテビデオ在住。2006年、短編デビュー作 8 horas でブエノスアイレス国際インディペンデントSAFICI1等賞を取る。『大男の秘め事』がベルリン映画祭2009銀熊賞・新人監督賞・アルフレッド・バウアー賞を受賞、他サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」の作品賞を受賞した。サッカー選手をテーマにした長編第2El 5 de Talleres が、ベネチア映画祭2014「第11回ベネチア・デイズ」部門で上映、他ロッテルダム、ヒホン、マル・デル・プラタ、トライベッカ、各映画祭に出品された。第3作目が本作である。俳優としては初めて公開されたウルグアイ映画としても話題を呼んだ『ウィスキー』(04、フアン・パブロ・レベージャ&パプロ・ストール)などに脇役で出演している。

 

     

               (アドリアン・ビニエス監督)

 

    

  (アグスティナ・チアリノ、監督、ニコラス・Avruj、「Cine en Construcción 30」にて)

 

★キャストのうちアルフォンソ役のアルフォンソ・Tortは、2001年『ウィスキー』の監督コンビのデビュー作 25 Watts で初出演、モンテビデオの3人のストリート・ヤンガーの1日を描いたもの、若者の1人を演じた。『ウィスキー』にもベルボーイ役で出演、イスラエル・アドリアン・カエタノの Crónica de una fuga06アルゼンチン)、主役を演じたCapital (Todo el mundo va a Buenos Aiires)07アルゼンチン)、他ビニエス監督の El 5 de Talleres にも出ている。今作には今度共演するアルゼンチンのフリエタ・ジルベルベルグも出演している。ジルベルベルグは、『ニーニャ・サンタ』でデビュー、ディエゴ・レルマンの『隠された瞳』、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』、ダニエル・ブルマンの El rey del Once などで当ブログに登場しています。カルロス・リサルディファビアナ・チャルロは、『大男の秘め事』に出演している。監督は同じメンバーを起用するタイプなのかもしれない。

 

 

(監督は親友だと語る、アルフォンソ・Tort20155月)

 

 
      (左端アルフォンソ、右端主役のエステバン・ラモチェ、El 5 de Talleres から

 

                 

               (フリエタ・ジルベルベルグ、El 5 de Talleres から

 

『人生スイッチ』の記事は、コチラ2015729

 El rey del Once の記事は、コチラ2016829