公式ポスターの顔にリカルド・ダリン*サンセバスチャンFF26 ① ― 2026年06月20日 17:19
第74回サンセバスチャン映画祭公式ポスターの顔にリカルド・ダリン

(リカルド・ダリンをコラージュしたコンペティション部門の公式ポスター)
★6月3日、カンヌが終わるとサンセバスチャン映画祭のニュースが入ってきます。今年が最後となる映画祭メインディレクターのホセ・ルイス・レボルディノスと、その後任者であるマイアレン・ベロキ副ディレクター立会のもと、第74回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2026(9月18日~26日)の公式ポスターの発表がタバカレラ国際現代文化センターでありました。今年は半世紀にわたりアルゼンチンといわずラテンアメリカを代表する俳優、プロデューサー、監督のリカルド・ダリン(ブエノスアイレス1957)が映画祭の公式ポスターの顔に選ばれました。既に2017年にラテンアメリカ初のドノスティア栄誉賞を受賞しています。出演本数は3桁、40以上の受賞歴、しばしばサンセバスティアンを訪れています。いずれ纏まったキャリア&フィルモグラフィをアップいたします。断片的ですが以下にフィルモグラフィを紹介しています。
*ドノスティア栄誉賞の受賞記事は、コチラ⇒2017年09月30日
*『サミット』作品紹介は、コチラ⇒2017年10月25日

(発表するホセ・ルイス・レボルディノス、マイアレン・ベロキ)
★公式ポスターは、例年同様、サンセバスティアンに本拠をおくワリハイ・スタジオが全てをデザインしました。ダリンの写真はアルゼンチンの写真家でミュージシャンのセバスティアン・アルペセラが、2024年に撮影したフォトをもとにコラージュしたものです。セクション・オフィシアル以外の8部門の公式ポスターも同時に発表になりました。昨年の版ではジャンルに焦点が当てられましたが、今回は職業をテーマにしています。コンペティション部門は「演技」、以下ニューディレクターズ部門「脚本」、オリソンテス・ラティノス部門「録音・音響」、サバルテギ-タバカレア部門「監督」、ネスト部門「美術」、料理シネマ部門「メイクアップ」、ペルラク部門「フィルム編集」、シネミラ部門「特殊効果」、メイド・イン・スペイン部門「製作」に関連しています。

(上段左から、ニューディレクターズ、オリソンテス・ラティノス、
サバルテギ-タバカレア、ネスト)
(下段左から、料理シネマ、ペルラク、シネミラ、メイド・イン・スペイン)
★第66回 SSIFF 2018にフランスの女優イザベル・ユペール(2003年ドノスティア栄誉賞受賞者)から始まったイベントの顔は、リカルド・ダリンで9人目になります。67回からはドノスティア栄誉賞の受賞者から選ばれています。ペネロペ・クルス(2019)、ウィレム・デフォー(2020)、シガニー・ウィバー(2021)、ジュリエット・ビノシュ(2022)、ハビエル・バルデム(2023)、ケイト・ブランシェット(2024)、昨年はドノスティア栄誉賞の受賞者ではなく、前年師走に急逝したマリサ・パレデスにオマージュが捧げられました。驚いたのは、なんとパレデスが栄誉賞を受賞していなかったことでした。
*イザベル・ユペールの記事は、コチラ⇒2018年09月03日

(マリサ・パレデスを追悼した2025年公式ポスター)

(作品紹介を予定しているオリソンテス・ラティノスのポスター)

(メイド・イン・スペイン部門のポスター)
映画国民賞2026受賞者にカルメン・マチ*スペイン映画賞 ― 2026年06月17日 17:21
マラガ-スール賞2025に続いて映画国民賞を受賞するカルメン・マチ

(映画国民賞2026の受賞者カルメン・マチ)
★映画国民賞2026受賞者にカルメン・マチ(マドリード1963)のアナウンスがありました。毎年6月に入るとスペイン文化スポーツ教育省が授与する国民賞の発表があります。文学、スポーツ、科学、映画など各分野ごとに選ばれます。映画関係の選考母体は文化省とスペイン映画アカデミーで、授与式は秋に開催されるサンセバスチャン映画祭の会期中と決まっています。副賞は3万ユーロと多額ではありませんが、とても名誉な賞です。因みに昨年はエドゥアルド・フェルナンデスでした。受賞理由は、「スペイン映画史におけるコメディといわず全てのジャンルをカバーできる最も重要な俳優の一人。数多の製作者の企画をよく理解して、かつ大衆化が損なわれないように努めて、多くの観客を惹きつける術を知っている」でした。審査員全員の満場一致、反対する理由なんてないでしょう。

(第29回ゴヤ賞2015助演女優賞のトロフィーを手にしたカルメン)
★受賞の知らせを受けて、「びっくりしています。受賞の知らせに感動して、感謝の言葉もありません」と。テレビのコメディではアドリブもあるのではないかと思っていましたが意外や、「台本が優れていれば、それを演じればいい。セリフを捉えて、コンマ一つ変えません。シェイクスピア劇を演じるのと同じことで、脚本家に最大級の敬意をはらっています」ということでした。舞台一筋だったせいか、長編映画出演はペドロ・アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』の看護婦役でした。彼の映画には『抱擁のかけら』、『私が、生きる肌』、『アイム・ソー・エキサイテッド!』、最新作「Amarga Navidad」など。キャリア&フィルモグラフィーは、マラガ-スール賞を受賞した折にアップしましたが、マラガFF以降のフィルモグラフィーを追加して以下に再録しておきます。
*マラガ-スール賞、キャリア&フィルモグラフィの記事は、コチラ⇒2025年4月06日
◎主なフィルモグラフィー◎
1999「Lisa」短編、カルロス・プジェ
2002「Hable con ella」『トーク・トゥ・ハー』ペドロ・アルモドバル、看護婦役
2003「Descongélate!」『チル・アウト』ドゥニア・アヤソ&フェリックス・サブロソ
「Torremolinos 73」『トレモリーノス73』パブロ・ベルヘル、美容院の客
2004「Escuela de seducción」ハビエル・バラゲル、ウエートレス役
2005「Vida y color」『色彩の中の人生』サンティアゴ・タベルネロ
2006「Lo que sé de Lola」ハビエル・レボーリョ
2009「Las abrazos roto」『抱擁のかけら』ペドロ・アルモドバル
「La mujer sin piano」ハビエル・レボーリョ、主役ロサ、
カセレス・スペインFF女優賞受賞
2010「Pájaros de papel」『ペーパーバード 幸せは翼にのって』エミリオ・アラゴン、
ラテンビート2010女優賞受賞
「Que se mueran los feos」ナチョ・G・ベリリャ、主役ナティ
2011「La piel que habito」『私が、生きる肌』ペドロ・アルモドバル、結婚式招待客
2013「Los amantes pasajeros」『アイム・ソー・エキサイテッド!』ペドロ・アルモドバル
2014「Ocho apellidos vascos」エミリオ・マルティネス=ラサロ、メルチェ役、
ゴヤ賞2015助演女優賞受賞
2015「Perdiendo el norte」『夢と希望のベルリン生活』ナチョ・G・ベリリャ、
ベニ・マリン役
「Mi gran noche」『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』アレックス・デ・ラ・イグレシア
2015「Ocho apellidos catalanes」『オチョ・アペリードス・カタラネス』
E・マルティネス=ラサロ、メルチェ / カルメ役
2016「Las furias」ミゲル・デル・アルコ、カサンドラ役
「La puerta abierta」マリナ・セレセスキー、娼婦ロサ、スペイン俳優組合賞受賞
2017「El bar」『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』サスペンス、
アレックス・デ・ラ・イグレシア
「Pieles」『スキン~あなたに触らせて』エドゥアルド・カサノバ
2018「Thi Mai, rumbo a Vietnam」『ティ・マイ 希望のベトナム』パトリシア・フェレイラ、
主役カルメン・ガラテ
「La tribu」『ダンシング・トライブ』フェルナンド・コロモ、母親ビルヒニア役
モンテカルロ・コメディ映画祭2018主演女優賞受賞
2019「Perdiendo el este」パコ・カバジェロ、ベニ・マリン役
「Lo nunca visto」マリナ・セレセスキー、主役テレサ
2020「Nieva en Benidorm」ネオノワール、イサベル・コイシェ、警官マルタ役
「Un efecto óptico」フアン・カベスタニー
2021「El cover」ミュージカル、セクン・デ・ラ・ロサ、マリエ・フランセ役
2022「Amor de madre」『僕とママの ”じゃない”ハネムーン』パコ・カバジェロ、母親役
「Rainbow」ミュージカル、パコ・レオン
「La voluntaria」政治ドラマ、ネリー・レゲラ
「Cerdita」『PIGGYピギー』コメディ・ホラー、カルロタ・ペレダ、母親役
2024「Tratamos demasiado bien a las mujeres」シリアスコメディ、クララ・ビルバオ、主演
「Verano en diciembre」カロリナ・アフリカ、主演母親役
2025「La viuda negra」犯罪ドラマ、カルロス・セデス、刑事役
「Día de caza」スリラー・ドラマ(サウラの『狩り』の女性版)、ペドロ・アギレラ
2026「Aída y vuelta」パコ・レオン、アイーダ・ガルシア・ガルシア役
「Los justos」コメディ、ホルヘ・ララ&フェルナンド・ぺレス、主役
「Amarga Navidad」悲喜劇、ペドロ・アルモドバル、医師ガルシア訳
「53 domingos」『53回の日曜日』コメディ、セスク・ゲイ、ナタリア役
「El director」ドラマ、ダニ・デ・ラ・オルデン(11月公開予定)

(カルメン・マチとカラ・エレハルデ、「Ocho apellidos vascos」のフレームから)
*原題ゴチック体は当ブログで紹介記事をアップしております。Netflix配信中の『53回の日曜日』は、3人の兄弟姉妹ハビエル・グティエレス、カルメン・マチ、ハビエル・カマラ、そのパートナーであるアレクサンドラ・ヒメネスが進行役のシリアスコメディ。認知症の傾向が見え始めた一人暮らしの老父の面倒は誰がみる? 今年11月公開予定の「El director」では、ダビ・ベルダゲルとアルベルト・サン・フアンと共演、両作とも鉄壁の布陣です。TVシリーズ、舞台出演については前回で紹介しています。

(『53回の日曜日』ポスター)
アルモドバルの「ビター・クリスマス」は悲喜劇*カンヌ映画祭2026 ― 2026年06月14日 15:20
公開済みの作品で7回目のカンヌ映画祭コンペ入りは異例?

(公開用のポスター)
★ちょうど1年前の2025年6月9日、ペドロ・アルモドバルの「Amarga Navidad」がクランクインした折に、大枠の紹介記事をアップしました。カンヌ映画祭には多分間にあわないと予想しましたが、なんと3月20日にスペインで早々と公開、更に公開済みの作品がカンヌ・コンペ入りするなんて聞いたことがないから、じゃワールドプレミアはどこで? やはりカンヌだというので驚きました。1999年、初めてコンペ入りした『オール・アバウト・マイ・マザー』で監督賞を受賞して以来、7作目のコンペ入りでした。2006年の『ボルベール〈帰郷〉』で脚本賞を受賞、しかし一番欲しいパルムドールはまだ手にしておりません。『私の秘密の花』(95)でタッグを組んで30年、音楽監督アルベルト・イグレシアスがサウンドトラック賞を受賞しました。こんな賞があることも知りませんでした。
★タイトルは、アルモドバルが2023年に出版した12編からなる短編集 “El último sueño” から、20年前に執筆されたお気に入りの “Amarga Navidad” と、これまた監督お気に入りのメキシコの国民的な大歌手、チャベラことイサベル・バルガ・リサノの “Amarga Navidad” から採られました。エルサの物語を2004年に設定したのと関係あるのかもしれません。劇中で流れるということです。作品紹介記事にチャベラ・バルガスの紹介もアップしております。過去のカンヌ・コンペ入りは、『オール・アバウト・マイ・マザー』、『ボルベール〈帰郷〉』、『抱擁のかけら』(09)、『私が、生きる肌』(11)、『ジュリエッタ』(16)、『ペイン・アンド・グローリー』(19)の6作です。
* 作品紹介記事は、コチラ⇒2025年06月17日

(カンヌ映画祭2026ワールドプレミア前のレッドカーペット、5月19日)
*レッドカーペットに現れた出席者は, 左から、ニエベス・アルバレス、ロッシ・デ・パルマ、キム・グティエレス、アイタナ・サンチェス=ヒホン、レオナルド・スバラリア、監督、バルバラ・レニー、パトリック・クリアド、ビクトリア・ルエンゴ、ミレナ・スミット、歌手アマイア・ロメロの11名、カルメン・マチは不参加でした。
「Amarga Navidad / Bitter Christmas」
製作:El Deseo / Film Factory Entertainment / Movistar Plus+ / Pathé
/ ICO / ICAA / RTVE
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
撮影:パウ・エステベ・ビルバ
音楽:アルベルト・イグレシアス
編集:テレサ・フォント
キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ
衣装デザイン:パコ・デルガド
メイクアップ&ヘアー:アナ・ロペス=プイグセルベル(メイク)
マノロ・ガルシア(ヘアー)、他
美術:パブロ・ブラッティ
製作者:アグスティン・アルモドバル、(エグゼクティブ)エステル・ガルシア
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、悲喜劇、111分、撮影地カナリア諸島のランサローテ島、マドリード、2025年6月9日ランサローテでクランクイン、8月12日終了。配給:スペイン(ワーナーブラザース・ピクチャーズ)、米国(ソニー・ピクチャーズ・クラシックス)、フランス(パテ Pathé、5月20日)、イギリス、アイルランド(カーズン8月28日)、ドイツ(スタジオカナル・フィルム7月30日)、イタリア(ワーナーブラザース5月21日)、メキシコ、アルゼンチン、ブラジルほか中南米諸国(ワーナー・ブラザース5月28日)他。スペインでは公開後、モビスター・プラスが配信予定
映画祭・受賞歴:第79回カンヌ映画祭2026コンペティション、サウンドトラック賞(アルベルト・イグレシアス)、
キャスト:
バルバラ・レニー:エルサ、広告ディレクター
レオナルド・スバラリア(スバラグリア):ラウル・デュラン、映画監督
アイタナ・サンチェス=ヒホン:モニカ、ラウルの20年来の秘書
ビクトリア・ルエンゴ:パトリシア、エルサの友人、パリにいる夫の浮気を疑っている
パトリック・クリアド:ボニファシオ、エルサの年弱のパートナー、消防士、ストリッパー
ミレナ・スミット:ナタリア、エルサの友人、子供を事故で亡くし鬱になっている
キム・グティエレス:サンティ、ラウルのパートナー
カルメン・マチ:ガルシア医師
グロリア・ムニョス:エルサの母親
ロッシ・デ・パルマ:ガブリエラ
アマイア・ロメロ:歌手アマイア
マリア・モラレス:パトリシア・オテロ医師
アントニオ・ロメロ:医師
ニエベス・アルバレス、ヌルディン・バタン、ラウラ・レデスマ、(フィエスタの招待客)ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、ロラ・ロドリゲス、オマール・アユソ、ギタリカデラフエンテ、ビビアナ・フェルナンデス、フェルナンド・イグレシアス、テオ・ルカダモ、フリア・デ・カストロ、その他大勢
ストーリー:、2004年、12月の長い週末に母親を亡くした広告ディレクターのエルサは、仕事に没頭して対処しようとします。しかし片頭痛で休暇を余儀なくされ、憲法記念日(12月6日)の連休に友人のパトリシアと一緒にランサローテに向かうことにする。パトリシアにもマドリードを離れる必要があり、一方で年下の若いパートナーのボニファシオはマドリードに留まることにする。エルサは創作を再開するために、親しい友人たちの個人的な苦しみを食いものにしていきます。2025年、映画監督のラウルが脚本を執筆しているが、物語はラウルのもうひとりの自分であるエルサの物語であることが明らかになる。ラウルは創造性の壁を乗りこえるためにオートフィクションに没頭しており、それは自身の人生や若いパートナーのサンティ、アシスタントのモニカに影響を受けています。人生とフィクションは分かちがたく、時には痛みを伴うかたちで結びついている。しかし深入りはどこまで許されるのでしょうか。

(最初のポスター)
「自分に対して最も残酷だった映画」と監督
★最初のポスターからも分かるように、バルバラ・レニー扮するエルサとレオナルド・スバラリアのラウルはダブル(分身)、そしてラウルは監督の別人格でもある。半自叙伝的な『ペイン・アンド・グローリー』と同じオートフィクションの要素を取り入れています。因みにあちらはアントニオ・バンデラスでした。二つの物語は悪影響をあたえながらパラレルに入れ子状に展開されます。二人の監督が重なりあうだけでなく、もう一人の監督とも重なるようです。もう一人の監督を理解して支え続けた母親が亡くなったのは、1999年9月で『オール・アバウト・マイ・マザー』が公開中のことで、翌年のアカデミー外国語映画賞受賞を知らずに旅立ちました。監督は2002年に上梓した自伝でカミングアウトしており、2004年は『バッド・エデュケーション』が公開された年でもあった。

(本作撮影中のアルモドバル)

(三人は一人、カンヌFF、2026年5月19日レッドカーペット)
★未紹介のエルサの年下のパートナー役ボニファシオを演じたパトリック・クリアド(マドリード1995)は子役出身、ダニエル・サンチェス・アレバロのコメディ「La familia española」でゴヤ賞2014新人男優賞にノミネートされ大人の俳優としての第一歩を踏み出した。ロドリゴ・ソロゴジェンのTVシリーズ「Antidisturbios」(6話、20)でスペイン俳優組合賞2022,フェロス賞2021の助演男優賞を受賞した他、イベロアメリカ・プラチナ賞にノミネートされた。『ペーパー・ハウス』(6話、21)、「Las noches de Tefia」(6話)でオンダス賞2023主演男優賞を受賞した。アレックス&ダビ・パストールの『バード・ボックス・バルセロナ』(23)、パウラ・オルティスの『レッド・バージン』(24)でスペイン俳優組合賞を受賞している。短編だがブラス・エヘア・サラビアの「Remember Why You Started」で脚本も手がけている。


(パニック発作で入院したエルサを介護するボニファシオ)
★主要キャストのキャリア&フィルモグラフィーは以下にアップしています。ラウルのアシスタントを20年も続けているモニカ役のアイタナ・サンチェス=ヒホンの演技が評価されていますが、うちに才能を秘めたモニカの立ち位置に注意して鑑賞したほうがよろしいようです。


(アイタナ・サンチェス=ヒホンとレオナルド・スバラリア)
*バルバラ・レニー、コチラ⇒2015年03月27日/2018年06月21日
*レオナルド・スバラリア、コチラ⇒2017年03月13日/2024年10月31日
*アイタナ・サンチェス=ヒホン、コチラ⇒2024年12月17日
*ビクトリア・ルエンゴ、コチラ⇒2026年06月04日
★批評家の評価は、90%が概ねポジティブで、5点満点で平均4.2点です。「魅力的だが感動的ではない」、「『ペイン・アンド・グローリー』より不快だがより正直な作品」、「栄光より痛みが多い」、監督自身も述懐しているように、自身に対して「容赦ない正直さ」または「残酷な誠実さの自画像」を評価している。一方には『ペイン・アンド・グローリー』のようにうまく機能してないと嘆く評者もいます。かつて『抱擁のかけら』を「褒めるところがゼロ」と書いて大喧嘩したエル・パイスのカルロス・ボジェロは「またしても感情の嵐が作り物のように見えるデザインの展示」とけんもほろろです。

(バルバラ・レニーとビクトリア・ルエンゴ)

(バルバラ・レニーとミレナ・スミット)

(レオナルド・スバラリアとキム・グティエレス)

(ニエベス・アルバレスとロッシ・デ・パルマ、レッドカーペット)
ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido」*カンヌ映画祭2026 ― 2026年06月04日 16:13
スリラーというジャンルのコルセットを脱ぎすてたソロゴジェン

(英語版プロモーション・ポスター)
★今年のカンヌ映画祭にはスペインから3作がコンペティションにノミネートされました。ペドロ・アルモドバルの「Amarga Nadidad」、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido / The Beloved」、前回アップしたロス・ハビスの「La bola negra」の3作品です。個人的に期待していたのがソロゴジェン、『ザ・ビースト』のような彼の過去の映画がもっていたスリラーの要素を除いたことが理由でした。プレミアム上映後の感触は悪くなかったようですが、下馬評はイマイチでした。フランス公開はカンヌでワールドプレミアされた当日の5月16日(配給ル・パクト)、スペインは8月26日(同ア・コントラコリエンテ・フィルム)、公開後モビスター・プラスで配信されます。近いうち鑑賞できることを期待してアウトラインをアップします。
★プレミアム上映後のスタンディングオベーションは、ソロゴジェンのスピーチを入れて7~8分くらい、夕方からのコンペ上映時には観客にもフォーマルな服装が求められるから蝶ネクタイ姿がいっぱい。映画祭関係者、カメラマンも黒服だからライトが当たった人しか判別できない。ソロゴジェン監督以下、脚本家イサベラ・ペーニャ、製作者ギジェルモ・ファレ、エドゥアルド・ビリャヌエバ、キャスト陣はハビエル・バルデム、ビクトリア・ルエンゴ、マリナ・フォイス、ラウル・アルバレス、ラウル・プリエトなど、本作には関係してないと思うが、ホセ・アントニオ・バヨナの姿もあった。


(ワールドプレミア後のレッドカーペット、カンヌ映画祭2026、5月16日)
★新作「El ser querido」は、単独デビュー作「Stockholm」(ゴヤ賞2014新人監督賞ノミネート)から数えると6作めになる。長いあいだ離れて会うこともなかった父親エステバン(ハビエル・バルデム)と娘エミリア(ビクトリア・ルエンゴ)の物語、長年疎遠だった著名な映画監督の父、売れない女優の娘が再会して一緒に仕事をするとどうなるか。バルデムの起用は初、ルエンゴはTVシリーズ「Antidisturbios / Riot Police」の主役に抜擢している。スペインの過去の植民地であったサハラ砂漠を舞台に、現実とフィクションを交錯させている。
「El ser querido / The Beloved」(愛しきもの)
製作:Caballo Films / Movistar Plus+/ El Ser Querido AIE / Le Pacte /
Comunidad de Madrid / ICEC / ICAA / Crea SGR / Triodos Bank
監督:ロドリゴ・ソロゴジェン
脚本:イサベル・ペーニャ、ロドリゴ・ソロゴジェン
撮影:アレハンドロ・デ・パブロ
音楽:オリヴィエ・Arson
編集:アルベルト・デル・カンポ
キャスティング:パウラ・カマラ、アランツァ・ベレス
プロダクションデザイン&美術:ホセ・ティラド
衣装デザイン:サイオア・ララ
メイクアップ&ヘアー:フランシス・ボディ、イレネ・ペドロサ、ヘスス・ヒルGil、他
製作者:フラン・アラウホ、ギジェルモ・ファレ、ホルヘ・ペッツィPezzi、(共同)アリス・ラバディ、ジャン・ラバディ、(エグゼクティブ)ハビエル・バルデム、クララ・ラゴ、ナチョ・ラビリャ、エドゥアルド・ビリャヌエバ
データ:製作国スペイン=フランス、2026年、スペイン語、ドラマ、135分、撮影地:カナリア諸島フエルテベントゥラ島のパハラ、ラ・オリバ、マドリードなど、2025年2月クランクイン、公開フランス5月16日、スペイン8月26日、スウェーデン12月18日(予定)
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2026コンペティション部門、ジャカルタ・ワールド・シネマ(10月予定)
ストーリー:著名な映画監督エステバン・マルティネスは、映画だけでなく、過剰に彩られた過去でも伝説的な存在です。新作では、長年疎遠だった女優の娘エミリアに役を提供しようとします。一緒に撮影現場で暮らすことで、何年も分かち合うことのなかった親密さが芽生えるが、同時に癒えなかった古い傷口が再び開くことになる。互いに目を見て話すことのなかった二人の人間についての映画。
キャスト:ハビエル・バルデム(エステバン・マルティネス)、ビクトリア・ルエンゴ(エミリア・マルティネス)、マリナ・フォイス(マリナ)、ラウル・アレバロ(セサル)、ムラド・ウアニ Mourad Quani(ビラル)、メリナ・マシューズ(バルバラ)、ラウラ・ビルン(アリス)、ヌリア・プリムス(チャロ)、パブロ・ゴメス=パンド(パブロ)、マレナ・ビリャ(マレナ)、ペパ・グラシア(ぺパ)、他多数
★壊れた家族の再会、権力者と犠牲者のあいだで起こるエモーショナルな暴力、互いに調和しない記憶、ストーリーからはよくあるテーマのように思われます。多くの批評家がヨアキム・トリアーの『センチメンタル・バリュー』との類似性を指摘しています。あちらの父娘も監督と女優だった。比較は避けられないと思いますが、だからと言ってソロゴジェン映画の興味がゼロかというわけではない。短い予告編からは、沈黙が支配しているように見える。登場人物のクローズアップされた視線、沈黙、表情から、壊れた父娘の関係を探ることになりそうです。


(ハビエル・バルデムとビクトリア・ルエンゴ、フレームから)
★監督紹介:ロドリゴ・ソロゴジェン(マドリード1981)、監督、脚本家、製作者。単独監督デビュー作以来、何回かキャリア紹介をしておりますので、今回は主なフィルモグラフィー&受賞歴だけ以下にアップしておきます(TVシリーズは割愛)。


(監督、ルエンゴ、バルデム、カンヌFF5月16日)
2013「Stockholm」マラガFF、監督賞、イサベル・ペーニャと脚本賞受賞
2016「Que dios nos perdone」『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件』
サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル初ノミネート
2017「Madre」短編、ゴヤ賞2018短編映画賞受賞、米アカデミー賞2019ノミネート
2018「El Reino / The Realm」サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル、
ゴヤ賞2019監督賞、イサベル・ペーニャと脚本賞、フェロス賞監督賞・脚本賞受賞
2019「Madre」『おもかげ』公開
2022「As Bestas / The Beasts」『ザ・ビースト』TIFF、邦題『理想郷』で公開、SSIFF観客賞
ゴヤ賞2023作品・監督・イサベル・ペーニャと脚本賞受賞、セザール賞2023外国映画賞
2026「El ser querido」カンヌ映画祭コンペティション初ノミネート
*「Stockholm」とキャリア紹介記事は、コチラ⇒2014年06月17日
*「Que dios nos perdone」の紹介記事は、コチラ⇒2016年08月11日
* キャリア&フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2018年03月26日
*「El reino」の作品紹介は、コチラ⇒2018年07月25日
★キャスト紹介:
◎ハビエル・バルデム(カナリア諸島ラス・パルマス1969)、俳優、製作者。伯父にフアン・アントニオ・バルデム監督、母に女優のピラール・バルデム、俳優で作家の兄カルロス、女優の姉モニカ、妻ペネロペ・クルスと、まさに映画一家です。2023年、第71回ドノスティア栄誉賞受賞が発表された折に、かなり詳しいキャリア&フィルモグラフィーをアップしています。1年遅れの授与式に、ビクトリア・ルエンゴと「El ser querido」に主演することをアナウンスしておりました。
*キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年06月09日
*ドノスティア栄誉賞授与式の記事は、コチラ⇒2024年09月23日

(新作フレームから)

(カンヌFFフォトコール、5月17日)
◎ビクトリア・ルエンゴ・サエス、1990年、パルマ・デ・マジョルカ生れのバルセロナ育ち、映画、テレビ、舞台女優。ヴィッキー・ルエンゴでデビューしたが、2020年ごろからビクトリアを使用している。バルセロナのメモリー・スクールで演技、ダンス、歌を学んでいる。2010年、TVシリーズでスタートをきる。主な映画出演は以下の通りです。ミケル・グレアのデビュー作「Suro」に主演、高評価で翌年のゴヤ賞主演女優賞にノミネート、ガウディ賞では受賞を果たした。2022年にメディナ映画祭「21世紀の女優賞」を受賞、舞台女優としては、モノローグ劇「Prima Facie」を演じ好評を博している。

(新作フレームから)

(カンヌFFフォトコール、5月17日)
★TVシリーズでは、警察を舞台にしたスリラー「Antidisturbios / Riot Police」(20、6話)に機動隊員ライア・ウルキホ役で主演、オンダス賞2021主演女優賞,フォトグラマス・デ・プラタ主演女優賞を受賞、フォルケ賞やフェロス賞、イリス賞などにノミネートされた。ソロゴジェン監督にとっても大きな転機になったTVシリーズでした。他にコルド・セラが手がけるサスペンス「Reina Roja」(『レッド・クイーン』24、シーズン1,7話)で、IQ242のアントニア・スコットを演じている。再びホヴィク・ケウチケリアンとタッグを組んだ。プライムビデオで配信されている。
2014「Born」『ボルンの街に、灯る火』監督クラウディオ・スリアン
ニューヨーク市映画祭2015主演女優賞受賞
2018「Las leyes de la termodinamica」『熱力学の法則』コメディ、監督マテオ・ヒル
2020「Hogar」スリラー、共同監督アレックス・パストール&ダビ・パストール
2021「Chavalas」コメディ、監督カロル・ロドリゲス・コラス
ガウディ賞2022主演女優賞ノミネート
2021「El sustituto / The Replacement」クライムスリラー、監督オスカル・アイバル
2022「Suro / Cork」監督ミケル・グレア、カタルーニャ語、フランス語ほか
ゴヤ賞2023主演女優賞ノミネート、ガウディ賞主演女優賞を受賞
2024「La habitacion」『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』監督ペドロ・アルモドバル
2024「Verano en diciembre」監督カロリナ・アフリカ
2026「Amarga Navidad」監督ペドロ・アルモドバル
2026「El ser querido」監督ロドリゴ・ソロゴジェン
*『熱力学の法則』の作品紹介は、コチラ⇒2018年04月02日
*「Suro / Cork」の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月01日
*「Amarga Navidad」の紹介記事は、コチラ⇒2025年06月17日
◎批評家から演技が絶賛されているマリナ・フォイスとラウル・アレバロの立ち位置がまだ分かりません。もう4年前になるが『ザ・ビースト / 理想郷』のマリナ・フォイスの演技は忘れられません。東京国際映画祭2022では東京グランプリなど受賞しましたが、素晴らしい演技にも拘わらず女優賞は逃しました。ラウル・アレバロ、メリナ・マシューズも『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』に出演しており、スタッフ同様キャストも気心の知れた布陣のようです。秋の映画祭を期待したい。



(プレス会見、カンヌFFフォトコール、5月17日)
ロス・ハビスの「La bola negra」が監督賞*カンヌ映画祭2026 ― 2026年05月26日 13:45
プレゼンターにディエゴ・セスペデス登場で勝利を確信したか?

(ロス・ハビスこと、ハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボ、5月23日)
★濱口竜介の『急に具合が悪くなる』主演の岡本多緒が女優賞受賞というニュースに「まさか!?」、ということはパルムドールも監督賞もダメだったのね、じゃ、受賞は? 「Fjord(フィヨルド)」のクリスチャン・ムンジウが「17年ぶり2回目のパルムドール」に。『4ヶ月、3週と2日』から、もう17年も経ったのかと、時の流れの速さに愕然としました。確か下馬評はアンドレイ・ズビャギンツェフの「Minotaur(ミノタウロス)」のはずだった。こちらは次点のグランプリ、そしてびっくり玉手箱は、ロス・ハビスの「La bola negra / The Black Ball」(西仏合作)が監督賞を受賞したことでした。プレミアムが後半の5月21日のせいか情報が中々入りませんでした。スタンディングオベーションが16分とか最長の20分とか嘘みたいな情報に「誰が時間を計かってるんだか、ペネロペ・クルスのお蔭かも」と苦笑していました。因みにギレルモ・デル・トロの『パンズラビリンス』は、22分でした。

(「La bola negra」のポスター)
★カンヌ入りした監督以下、主なキャスト陣は、下の写真左からロラ・ドゥエニャス、ミゲル・ベルナルドー、ギタリカデラフエンテ(本名アルバロ・ラフエンテ・カルボ)、ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、ペネロペ・クルス、ミロ・キフェス、カルロス・ゴンサレスなどがレッドカーペットのフォトにおさまりました。

(レッドカーペットに勢揃いした両監督とキャスト陣、5月21日)

(ギタリカデラフエンテ、ロス・ハビス、ペネロペ・クルス、ミロ・キフェス)

(レッドカーペット、5月23日の授賞式)


スペインのクィア・アイデンティティを探求する
★ガルシア・ロルカの未完の遺稿とアルベルト・コネヘロの戯曲 ”La piedra oscura” に着想をえて製作された。三つの時代(1932、1937、2017)に、LGBTIQ+ の人々が受けた苦しみ、痛み、沈黙、欲望、死などに敬意を払って、スペインでゲイであることの意味を探求しています。昨年夏、製作発表があった折に既に作品のアウトラインを紹介しております。ロルカのたった4ページの未完の遺稿、コネへロの戯曲、キャスト陣などを紹介しています。役どころが不明だったペネロペ・クルスは、20世紀初頭に流行したコプラ(copla、cuplé 歌謡)の歌手ネネというクプレティスタになる由、圧倒的な存在感で映画を支えたグレン・クローズが歴史家役で出演するなど話題に事欠きません。「La Mesias」主演でその演技力に脱帽して今回も起用したロラ・ドゥエニャスの役どころは? バージョンアップした紹介記事を予定していますが、取りあえず以下に関連記事をアップしています。
*作品・キャストなどの紹介は、コチラ⇒2025年07月04日
*監督デビュー作『ホーリー・キャンプ!』の作品紹介は、コチラ⇒2017年10月07日
*「ロルカの死をめぐる謎」を紹介した記事は、コチラ⇒2015年09月11日

(セバスティアンを演じるギタリカデラフエンテ)

(ネネ・ロメロ役のペネロペ・クルス)

(歴史家役のグレン・クローズとカルロス・ゴンサレス)
★受賞が決まったとたん、複数の配給会社がアメリカの配給権をめぐって争奪戦を繰りひろげ、どうやら Netflix が400万から500万ドルに吊り上げて手にしたようです。ネトフリには端金でもスペインでは大金です。カンヌは神様、ノミネート22作品のうちアルモドバル、是枝監督、韓国のナ・ホンジンが自国のみで製作、ジェームズ・グレイの「ペーパータイガー」がフランス抜きで、他は全部フランスが一枚嚙んでます。資金的に単独は無理、ならばフランスと繋がりたい、という関係者の心理が頷けます。クィア・パーム対象作品が7作と3分の1を占めたのも時代の流れでしょうか。
『愛しのセニョリータ』ネットフリックス鑑賞記*マラガ映画祭2026 ⑪ ― 2026年05月22日 18:34
オリジナル版はハイメ・デ・アルミニャンの『お嬢さま』

★フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「Mi querida señorita」が、『愛しのセニョリータ』の邦題でNetflixストリーミング配信が始まっています。マラガ映画祭2026セクション・オフィシアルでワールドプレミアされた作品です。フランコ体制の末期1971年に完成、翌年2月公開されたハイメ・デ・アルミニャンの長編3作目のリメイク版です。リメイク版といっても、ジャンル、時代、場所、登場人物、セニョリータの年齢なども変えておりますが、「愛の物語」というオリジナル版の本質は失っておりません。どちらかというと翻案のほうがぴったりきます。製作者のロス・ハビスもオリジナルに敬意をはらった「リメイクではなく翻案です」と語っています。出版以来17言語に翻訳されたというベストセラー “La mala costumbre” (2023刊)の著者アラナ・S・ポルテロが脚本を手掛けるなど話題も尽きません(翻訳書は現在のところ出版されておりません)。

(ハビエル・アンブロッシとハビエル・カルボに囲まれて、マラガFF、3月8日)
★マラガに参加したクルー、後列左から、アンヘラ役のロラ・ロドリゲス、ハビエル・アンブロッシ、ガト―役のマヌ・リオス、イサベル役のアンナ・カスティーリョ、母親役のナゴレ・アランブル、ハビエル・カルボ、シンガーソングライターのサハラ Zahara、アレックス・デ・ルカス、前列エリザベス・マルティネスと監督でした。主要人物のうち、長寿テレドラ出演でスペインで最も有名な祖母役者となった女優マリア・ガリアナ、モニカ・ナランホのファンだという神父役のパコ・レオン、サンティアゴ役のエネコ・サガルドイなどは欠席でした。

「Mi querida señorita / My Dearest Señorita」
製作:Suma Content
監督:フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ
脚本:アラナ・S・ポルテロ
オリジナル版:ハイメ・デ・アルミニャン、ホセ・ルイス・ボラウ
音楽:アレックス・デ・ルカス、Zahara
撮影:カルロス・リゴ
編集:ベロニカ・カリョン
キャスティング:エバ・レイラ、ヨランダ・セラノ
メイクアップ&ヘアー:エバ・R・フォンテンラ、アマイア・ミロ―、セルモ・デル・カンポ・ペスケラ
製作者:ハビエル・アンブロッシ、ハビエル・カルボ、アンドレア・エレーラ・カタラ
プロダクション(Netflix):ジェスイカ・メナ
データ:製作国スペイン、2026年、スペイン語、ドラマ、112分、撮影地ナバラ州パンプローナ、配給Netflix、公開スペイン2026年4月17日、Netflix ストリーミング配信開始5月1日
映画祭・受賞歴:第29回マラガ映画祭2026セクション・オフィシアル、3月8日プレミア
キャスト:エリザベス・マルティネス(アデラ/アデーA.D.)、アンナ・カスティーリョ(イサベル)、パコ・レオン(ホセ・マリア司祭)、ナゴレ・アランブル(アデラの母クルス)、マリア・ガリアナ(アデラの祖母アデリナ)、エネコ・サガルドイ(サンティアゴ)、デルフィナ・ビアンコ(パトリシア/マダム・フェリ)、マヌ・リオス(ガトー/ラモン・ビセンテ)、ロラ・ロドリゲス(アンヘラ)、ロドリゴ・クエバス(アロンソ、神父のパートナー)、ウスエ・アルバレス(ベゴーニャ)、アインホア・アルテチェ(イサベルの友人アネ)、ヨグリニャ・ボロバ(ヨグリニャ)、イニゴ・デ・ラ・イグレシア(カルボ医師)、グレンダ・ガロア(グレンダ)、エスペランサ・グアルダード(マダム・デネブ)、フェリペ・ロサ(セサル)、イサベル・ミゲル・エルナンデス(館員)、ニコ・モントーヤ(イシドロ)、アラナ・S・ポルテロ(アラナ)、アリナ・ラズメンコ(マダム・アルタイア)、ミナ・セラーノ(マダム・ベガ)、他(クレジット無し)ホセ・ルイス・ロペス・バスケス(フアン)、フリエタ・セラーノ(イサベリータ)
ストーリー:パンプローナ、間もなくミレニアムを迎える1999年暮れ、保守的な家庭の一人娘アデラは、母親の過保護のもと家族が営むアンティークショップ「デ・フアン」で働き、週末には子供たちの教理指導の教師をしている。自身のインターセセックスを取り巻く沈黙の中で生きている。不安をかかえながらそれが自分の人生全体を左右していることに気づかない。しかし新たに赴任してきた司祭ホセ・マリアの思いがけない友情、幼馴染サンティアゴのロンドンからの帰郷、自動車事故をきっかけに突然闖入してきた理学療法士イサベルの登場が連鎖反応を引き起こし、アデラをパンプローナからマドリードへの自己発見の旅に誘い出すことになる。自分のアイデンティティを知るには愛と他人の助けが欠かせないだろう。
★監督紹介:フェルナンド・ゴンサレス・モリーナ Fernando González Molina、1975年パンプローナ生れ、監督、脚本家、製作者。ナバラ大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、その後マドリード自治体映画学校ECAM 映画監督の学士号を取得する。短編映画、ドキュメンタリー制作に携わり、アンテナ3のTV人気シリーズ「Los hombres de Paco」(2006~10,全136話)に2008年から参加して28話を監督した。そこで出会ったマリオ・カサスを主役にコメディ「Fuga de Cerebros」を撮り、マラガ映画祭2009の観客賞を受賞、映画館に100万人以上が足を運んで興行的にも成功を収めた。その後もカサスとマリア・バルベルデを起用した青春ドラマ『空の上3メートル』、続編『その愛を走れ』ではカサスの相手役にクララ・ラゴを主演させ、いずれも高い興行成績を記録した。

(エリザベス・マルティネスとゴンサレス・モリーナ監督、マラガ)
★2015年、ルス・ガバスの同名小説 “Palmeras en la nieve” に触発されて映画化した『ヤシの木に降る雪』が大ヒット、観客動員数300万人以上の大記録、ゴヤ賞2016オリジナル歌曲賞、美術賞を受賞した。2017年、サンセバスティアン出身の作家ドロレス・レドンドの犯罪サスペンス、マルタ・エトゥラの主演で「Trilogía del Baztánバスタン渓谷三部作」と言われる第1部を原作とした「El guardián invisible」を発表、劇場公開3週目で300万人突破を果たした。翻訳書のタイトル『バサジャウンの影』を邦題にして、Netflixで配信されている。第2部「Legado en los huesos」と第3部「Ofrenda a la tormenta」も日本語字幕なしだが鑑賞できる。2018年の「The Best Day of My Life」は、国籍の異なる6人のLGBTメンバーについて語るドキュメンタリー、2017年バルセロナのランブラスで起きたバルセロナ同時多発テロを追う犯罪スリラー「Cronos」が公開予定(9月10日)になっている。
*主なフィルモグラフィ
2009「Fuga de Cerebros」マラガFFセクション・オフィシアル観客賞を受賞、
タラソナ・イ・エル・モンカイヨ・コメディFF作品賞受賞
2010「Tres metros sobre el cielo」『空の上3メートル』、
2011「Fuga de Cerebros 2」エグゼクティブプロデューサー
2012「Tengo ganas de ti」『その愛を走れ』シネフォリア賞2013年間トップテン観客賞受賞
2015「Palmeras en la nieve」『ヤシの木に降る雪』フォトグラマス・デ・プラタ2016観客賞
2017「El guardián invisible」『バサジャウンの影』バスタン渓谷三部作第1部
2018「The Best Day of My Life」シネフォリア賞2019ドキュメンタリー賞ノミネート
2019「Legado en los huesos」「レガシー・オブ・ボーンズ」バスタン渓谷三部作第2部
2020「Ofrenda a la tormenta」「吹雪と贄」バスタン渓谷三部作第3部
2021~22「Paraíso」TVシリーズ(全15話)SFミステリー、
アリカンテFF 2021&2022、TVシリーズ部門ノミネート
2026「Mi querida señorita」『愛しのセニョリータ』
2026「Cronos」犯罪スリラー
2022 アリカンテFFルセンタム賞受賞
オリジナル版は米アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの『お嬢さま』
A: 上述したようにハイメ・デ・アルミニャン(マドリード1929~2024)が監督、脚本を製作者で監督でもあったホセ・ルイス・ボラウ(サラゴサ1929~2012)が共同執筆した。本作の成功にはボラウに負うところが大きいと言われた。当時、新進気鋭の劇作家として数々の受賞歴をもつデ・アルミリャンの長編3作目、フランコ体制の末期とはいえ未だ検閲下にあったスペインでタブー視されていた性的指向について初めて語った作品でした。第45回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたが、ルイス・ブニュエルのフランス映画『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』に敗れた。デ・アルミリャンは本作で第一線に登場したことになる。

(オリジナル版のポスターとロス・ハビス)
B: スペインで検閲が全廃されるのは、フランコ没後の1976年4月、コメディとして検閲を摺り抜けた。ボラウは本作を手掛けた制作会社「エル・イマン」の設立者、またアデラに「あなたは女ではない」と診断結果を告げる医師としてスクリーンにも登場するなど多才の人ですね。
A: 邦題『お嬢さま』は、1984年11月に開催された「スペイン映画の史的展望1951~1977」上映時に付けられたタイトルです。京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターで、ルイス・G.ベルランガ、J. A.バルデムからルイス・ブニュエル、カルロス・サウラ、ビクトル・エリセなど20人の監督からなる23作が一挙に上映された。
B: 日本のスペイン映画元年ともいわれる映画祭でした。中には既に公開されていたブニュエルの『ビリディアナ』やバルデムの『恐怖の逢びき』など4作も含まれていましたが、本邦初上映の粒ぞろい作品ばかりでした。エリセの『ミツバチのささやき』も翌年公開されました。
A: 成功のカギは、なんといってもアデラを演じた当時の大スターホセ・ルイス・ロペス・バスケス(マドリード1922~2009)の名演技でした。俳優、コメディアン、衣装デザイナー、更に舞台美術家でもあった。トータルの出演本数262本には驚くほかはない。油の乗りきった時代のロペス・バスケスが、鬘を被って女性のアデラと男性になったフアンを演じ分け、シカゴ映画祭1972「銀のヒューゴー男優賞」を受賞した。
B: アカデミー授賞式に出席したロペス・バスケスに、ハリウッドの監督たちから「英語を習ってハリウッドに来ないか」と誘われたエピソードは有名になった。

(アデラ時代のホセ・ルイス・ロペス・バスケス)
A: あっさり断ってくれたお蔭でアントニオ・メルセロの短編ホラー「La cabina」(仮題「電話ボックス」72)、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「Habla mudita」(『話してごらん』74)などを楽しむことができたわけです。リメイク版のようなインターセックスの女優は当然存在しなかったというか、そういうキャリアの存在を許してこなかった。後述するリメイク版でアデラを演じたエリザベス・マルティネスも、今作がスクリーンデビュー作品です。
B: マルティネスの演技をとやかく言うのは簡単ですけどね。
A: オリジナル版の時代背景は、1970年代初めのスペイン北部の町、アデラは中流階級の婚期を逸した43歳の女性であるが、そのことに違和感っを感じている。メイドのイサベリータと暮らしている。バルセロナ生れの舞台女優フリエタ・セラーノが演じている。それほど映画出演は多くなかったが、古典劇からシェイクスピア、チェーホフ、テネシー・ウィリアムズと幅広く出演していた。若いころ好意を感じていたドン・サンティアゴ(アントニオ・フェランディス)が地方銀行の支店長として赴任してくる。最近妻を亡くしたばかりの彼はアデラにさっそく求婚する。しかし、アデラは彼に体を接触されるのが嫌である。

(口髭、顎髭、頬髭を剃らねばならないアデラ)
B: そこで教区の神父(エンリケ・アビラ)の勧めもあって医師の診察を受けると、信じられないような重大な真実を知らされる。イサベリータに好意を感じていたのも、彼女のボーイフレンドのことで喧嘩別れしたことも腑に落ちるというわけです。

(アデラ時代のロペス・バスケスとイサベリータ役のフリエタ・セラーノ)
A: ここからが後半部、フアンと呼ばれる男性が列車でマドリードに到着する。しかし身分証もないうえ、男性になっても女性としての教育しか受けていないから出来る仕事が容易に見つからない。かつての日本と同じ「男は外で仕事、女は内で家事育児」のせいで職業訓練など受けたことがない。家賃は滞納するは、食事もままならないほど困窮する。
B: そこでフアンはミシンを運んできたことを思い出し、裁縫の特技を生かして、アデラ時代に着ていた洋服を仕立て直して洋装店に持ち込むことで就労許可証を手にする。

(マドリードで再会したフアンになったアデラとイサベリータ)
A: 女性が低く見られている現実と、男女の役割分担を強いる政権を批判しているのですが、コメディタッチにすることで検閲を逃れている。洋装店の近くのカフェでウェイトレスをしていたイサベリータと再会するが、彼女はフアンがもとの雇い主とは気づかない。フアンは彼女が自分を憎からず思っていることに気づくが、男としての自信がない。そこで若者に混じって成人学級で学び始めたりするが上手くいかない。イサベルを遠ざけようとするフアンを彼女は優しく抱擁する。いつか大切なことを話すというフアンに、「必要ありませんよ、お嬢さま」と返事する。
B: 彼女が既にフアンの正体を知っていたことを示唆しているシーンで終わる。なんだと思うでしょうが、検閲を向こうに回して、1970年代のスペインがもっていたジェンダーについての情報や感受性を語ったパイオニア的な映画だったのです。
A: リメイク版に較べて登場人物は多くありませんが、アパートの管理人役にロラ・ガオス(『ビリディアナ』)、その姪にチュス・ランペアベ(アルモドバル映画の常連)、アパートの隣人で娼婦役のモニカ・ランダル(『カラスの飼育』)など、当時の個性的な演技派女優がズラリですから見ごたえがあります。公開50年後の2022年に記念上映会がもたれた。現代の観客もかつての観客同様、ロペス・バスケスの女装を見たいからではなく、愛と不適合、孤独についての物語を観に行ったのでした。
時代設定を1999年にした理由――パンプローナは16世紀
B: ロス・ハビスが「これは挑戦です」と語った2026年版は「ゼロから始まった」という。二人のハビエルは、昨年11月、13年間の交際を解消したと発表しましたが、仕事上のパートナー関係は維持していくということです。
A: 監督によると、時代を現在ではなく1999年に設定した理由として、ミレニアムを控えた特殊な年であったこと、現在のようにインターセックス(性分化疾患)が完全に可視化されておらず、まだ LGTBI のうち I は存在しなかったこと、更にパンプローナからマドリードに旅立つアデラの年齢が、脚本を手掛けたアラナ・S・ポルテロ(マドリード1978)と自分とが同世代だったことを上げている。このことで彼ら自身のことを語ることにもなったという。トランス女性としての彼女、ゲイとしての自身のことですね。

(アラナ・S・ポルテロとゴンサレス・モリーナ監督)
B: パンプローナは監督の生れ故郷です。オリジナル版はマドリード以外はガリシアのポンテベドラ県のバヨナやビゴで撮影した。
A: ロス・ハビスからリメイク版の打診があった。オリジナル版は映画学校で観ていたが、改めて見直すとリメイクはとても難しいと感じた。なにしろ名優ロペス・バスケスに匹敵する俳優を探すのは至難の業だったし、2026年の現在、鬘をつけた男優でインターセクシュアリティについてのドラマを語ることは出来ないのもはっきりしていた。そこで当時アラナ・S・ポルテロの小説 “La mala costumbre” に魅了されていたので、脚本を彼女が担当することを条件にオーケーした。
B: 彼女も脚本執筆は初めて、「恐怖を感じた」と述懐しています。
A: インターセックスの女優が演じるのが本作のカギでした。しかしこれがなかなか大変で、エリザベス・マルティネスに辿りつくまでが長い道のりでした。演技経験は全くのゼロでしたが、「私たちのイメージに完璧にぴったりだった」と監督。しかし探す段階で多くのトランスの方々と知り合うメリットがあった。
B: マルティネス本人によると、皆に助けられての撮影は本当に大変だったと語っている。好きなシーンを訊かれて、足の悪いパトリシア(デルフィナ・ビアンコ)を助けて「一緒に歩道を歩いているシーンが一番好きだ」と応じている。
B: とても繊細な人、スタッフの選択は間違っていなかった。
A: 彼女に関する情報は映画データでも少ないし、AI情報は別人との混同もあるようです。本人のインタビュー情報から、2000年アリカンテ生れ、育ったのはマドリード、あちこち海外にも移動している。他の職業にも興味があるらしく目下勉強中、今後女優として生きていくのかどうか分かりませんね。
B: 人格造形を最も変えたのがイサベル、パンプローナでは理学療法士で、アマチュア劇団に属して本格的な舞台女優を夢見ている。レズビアンのイサベルはアデラに好意を寄せている。再会したらアデーになっているので戸惑うが、彼女の心の扉を開けるのはイサベルで、重要人物に変わりない。

(ジャンヌ・ダークに扮したイサベルを座席で見つめるアデラ)
A: アンナ・カスティーリョが演じた。当ブログでは、ゴヤ賞2017新人女優賞を受賞した、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』、ロス・ハビス自身が演出した大ヒット・ミュージカルの映画化『ホーリー・キャンプ!』、ダビ・マルティン・デ・ロス・サントスの『マリアの旅』などでキャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。
B: お茶の間では、TVシリーズ「Su majestad」(25~26)で主役のスペイン王女を好演して人気が上がったようです。

(意気投合するアデラとイサベル)
A: 特別出演のパコ・レオン(セビーリャ1974)はゲイの神父ホセ・マリアを演じた。自身の典型的な務めから離れて、アデラの真の問いに助け舟をだす。正式名司祭の条件は独身男性が必須だが、自室でモニカ・ナランホの曲をがんがん流したって許される。
B: アデラに「パンプローナは16世紀を生きている」と語る。イサベルといると「自由になる」が「自分らしく生きることが怖い」と悩むアデラに、「もっと自分らしくなれ」とけしかける異色の神父。

(アデラに助言するホセ・マリア神父)
A: 俳優、監督、脚本家、製作者と多才、マラガ映画祭2015のエロイ・デ・ラ・イグレシア賞の受賞など数えきれない。実母カルミナを主役にした「Carmina o revienta」で監督デビュー、ゴヤ賞2013新人監督賞にノミネート、監督・出演の『KiKi 愛のトライ&エラー』でもゴヤ賞2017脚色賞とオリジナル歌曲賞にノミネート、受賞がないのが不思議です。
B: 俳優としてはTVシリーズ「Aída」(05~14)のルイスマ役で238話に出演した記録をもっている。
A: 映画の冒頭、1973年11月に誕生した赤ん坊がインターセックスであること、母親と医師が赤ん坊の性別を決める外科的な医療介入をしたことが知らされる。スペインでは20世紀末まで「hermafroditismo」(両性同体)の外科的医療が病院の手引き書だった。侮蔑的な意味合いが感じられることから、大人になってもアデラには知らされなかった。1999年の地方都市では、教区が町の道徳的な標準枠であった。現在のスペインではインターセックスと変わり、外科的な医療介入は禁止されている。しかし、法と現実は別、外科介入の論議は閉じていない。またこの名称も流動的で変わるかもしれません。
B: 娘を選択した母親にナゴレ・アランブルが起用された。アデラを心から愛して理不尽な外圧から守っているが、娘が苦しんでいることを知りながら嘘をつき続けている。この映画のテーマに「自分の人生の選択権は誰にあるか」がある。出生時に本人がどうするかは物理的にできない。
A: 家長でもある祖母役のマリア・ガリアナ(1935)に一族の秘密を語らせる。親戚にはアデラのような大柄な女性、マルガ叔母さんとその娘エルネスティナがいたことを打ち明ける。長いあいだ沈黙が家族を支配していたわけです。冒頭に伏線として二人の古ぼけた写真が映しだされている。事実を知ったアデルはパンプローナからマドリード行きを選択する。

(母親のナゴレ・アランブル、エリザベス・マルティネス)
B: 23年間に及ぶテレビの歴史ドラマシリーズ「Cuéntame cómo pasó」(01~23)以来、スペインを代表する祖母役と言えば、もうマリア・ガリアナをおいて他にいないでしょう。
A: 日本ではベニト・サンブラノの『ローサのぬくもり』がヒットしました。本国ではイマイチでしたが、ゴヤ賞2000助演女優賞を受賞している。今年スペイン映画アカデミーからタリア栄誉賞も授与された。

(祖母アデリナ役のマリア・ガリアナ)
B: アデルの幼馴染サンティアゴを早い段階で登場させている。
A: 大都会ロンドンから「99人しか住んでいない」遅れたパンプローナに帰郷するサンティアゴ役にエネコ・サガルドイを起用した。彼のセリフには当時の監督の思いが投影されている。
B: オリジナル版のドン・サンティアゴとは職業以外似ていない。あちらは陽気なタイプですが、こちらは家業を継ぐため仕方なく故郷に戻ってきたニヒルな人物造形にした。

(冒頭で再会する幼馴染のサンティアゴ役エネコ・サガルドイ)
A: エネコ・サガルドイはアイトル・アレギ & ジョン・ガラーニョのバスク語映画『アルツォの巨人』でゴヤ賞2018新人男優賞を受賞している。
B: TVシリーズ出演も多く、頭の回転の早さから映画祭のホストなども任され、プロデューサーとしても活躍している。
変えるのは「身体でなく社会」――後半はまるで合唱劇
A: 90年代は、スペインだけでなく世界中で吹き荒れたエイズに怯えた時代でした。「大柄な女やなよなよした男は、人々を怖がらせる」とアデラに語ったホセ・マリア神父の最愛の人はアロンソ(ロドリゴ・クエバス)、エイズで亡くなった。神父は宗教の道に入った理由の一つに上げる。これでエイズを取り扱うことになったと監督。
B: 神父の造形も大幅に変えている。オリジナル版は登場人物が少なく、マドリードにやってきたフアンの孤独も続いている。しかしフアンは他人の助けを求めません。語りたいテーマが違うからです。
A: 監督は「私たちは、自分探しの旅をさせているアデーA.D. に他人が手を差し伸べることにしたかった」。アパートの部屋をシェアリングしているガトー役のマヌ・リオス、アンヘラ役のロラ・ロドリゲス、二人が育てている息子の父親はガトーじゃない。
B: 再会したイサベルの女友達アネやヨグリニャ、仕事を世話してくれたトランスのパトリシア、そこで働くマダム・アルタイア(アリナ・ラズメンコ)やマダム・ベガ(ミナ・セラーノ)、血は繋がっていない家族が増えていくから当然テーマも増える。しかし「自分らしく生きることが怖かった」主人公も解放されていく。

(ガトー役マヌ・リオスとアンヘラ役のロラ・ロドリゲス)

(信頼で繋がるガトー、アデー、アンヘラの疑似家族)
A: しかし二つのバージョンは、付かず離れずの関係です。アデーの窮地を救ってくれた雇い主のパトリシアが、仕事場では「フェリ様か、マダム・フェリ」と呼ぶようにアデラに命じますが、これはオリジナル版でモニカ・ランダルが演じた〈フェリ〉に敬意を払っている。
B: 後半部で最も光っていた登場人物がこの哲学者のようなパトリシアです。彼女のセリフから脚本家アラナ・ポルテロの声が聞こえてくるようです。

(マダム・フェリ役のデルフィナ・ビアンコ)
脚本の過剰さは決断の代価――1999年に遡らせた理由
A: マラガ映画祭に寄せられた声として、脚本の過剰さがありました。アデラが起こした自動車事故の原因の一つ「ワニンコフ事件」に始まって、病院の受付の女性が読んでいたフルール・イェギーの『規律という甘い日々』と訳されたされた “Los hermosos años del castigo” という小説、神父がファンのモニカ・ナランホは、プライド・パレードに参加する活動家でもある。
B: ワニンコフ事件は1999年10月にアンダルシアで起きたばかりの若い女性の殺人事件。
A: 母親の元恋人ドロレス・バスケスが逮捕されたが、全くの冤罪だった。スペインで一番有名な冤罪事件と言われてます。アリバイもあったのに犯人に仕立て上げられた。理由は同性愛者だったからです。
B: アデルの祖母も世間同様有罪を確信する。たまりかねたアデラの怒りが爆発する。
A: ネットフリックスがドキュメンタリー『コスタ・デル・ソル殺人事件』の邦題で配信しています。1989年に刊行されたフルール・イェギーの小説は、少女の成長物語ですが、クィア小説でもあるようです。
B: 現在のところ翻訳書はないようですが、スイスの作家でイタリア語で執筆している。
A: イサベルが手に入れたいカール・T・ドライエルのフランスの無声映画『裁かるるジャンヌ』(28)、アナイス・ニンの日記を映画化したフィリップ・カウフマンの『ヘンリー&ジューン』(90)、アナイスにポルトガルの女優マリア・デ・メデイロス、ヘンリー・ミラーにフレッド・ウォード、妻ジューンにユマ・サーマン、1930年代のパリで織りなす3人の屈折した愛の物語、DVDが発売されている。
B: ネットでマリア・ファルコネッティが演じた聖女ジャンヌを見てしまいました。クローズアップの多用さに正直びっくりしましたが、カット構成技法の巧みさに引き込まれました。
A: 日本でも公開されましたが映画館で観た人は、もうこの世に一人もいない。主人公に「自分らしい生き方」を決断させるにはいささか多すぎるかもしれませんが、現代にすれば必要なかったでしょう。地方都市のパンプローナに暮らすアデラには、エストロゲン服用の必要性さえ分からなかった。ネットで繋がることが出来なかった時代に遡った理由かもしれません。
B: プライド・パレードのイベントに窓から手を振るシーンがありました。
A: 決断にはアデラをマドリードに旅立たせる必要があったのです。パンプローナでは不可能でもマドリードなら可能です。オリジナル版の出演者の多くは既に旅立ちました。イサベリータになったフリエタ・セラーノはアルモドバル映画に出演でゴヤ賞助演女優賞を受賞するなど元気です。今回、祖母役が検討されたという記事も目にしました。エンディング「寂しくなると美術館に来るの」と老婦人はアデーに話しかける。この老婦人を演じたのがフリエタ・セラーノです。

(プライド・パレードにエールを送るアデラたち)
B: シンガーソングライターのサハラ Zahara が歌う "La luz que vendrá" が、これからアデラの進む道です。

(居場所を見つけ一歩踏みだしたアデラ)
A: 光に満ちた未来がやってくる、来年のゴヤ賞オリジナル歌曲賞ノミネートを期待します。まもなくカンヌ映画祭の結果発表があります。ロス・ハビスのグラナダの詩人ガルシア・ロルカの4ページの未完のテキストにインスパイアされた「La bola negra」がノミネートされ、スタッフ、キャストが揃って現地入りしています。今年は珍しいことにアルモドバルの新作「Amarga Nadidad」、ロドリゴ・ソロゴジェンの「El ser querido」が、日本映画と同じように3作コンペティション部門に入りました。濱口竜介は脈ありでしょうか。ハリウッド映画の不振が関係しているのかもしれません。政治と芸術は切り離せません。今回でマラガ映画祭の記事は終わりにします。

(Zahara、マラガ映画祭フォトコール)
フランシスコ・ロンバルディの最新作*マラガ映画祭2026 ⑩ ― 2026年05月07日 15:54
レトロスペクティブ賞を受賞したフランシスコ・ロンバルディの最新作

★フランシスコ・J・ロンバルディの最新作「El corazón del lobo」は、賞に絡むことはできませんでしたが、久方ぶりのロンバルディ映画、今回のマラガ特別賞の一つレトロスペクティブ賞受賞者の最新作ということでアップいたします。ペルーの1990年代、テロ組織センデロ・ルミノソに拉致され戦士に教育された少年の10年以上にわたる旅路が、実話に基づいて語られます。同じセンデロ・ルミノソをテーマにした「La boca del lobo」(88、『ライオンの棲みか』)はノミネートされませんでしたが、第61回アカデミー賞ペルー代表作品に選ばれています。ノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサの小説『都会と犬達』の映画化から40年が経ちましたが、監督の映画への情熱は衰えていないようです。簡単なキャリア&フィルモグラフィー紹介、レトロスペクティブ賞授賞式については、以下にアップしています。
*レトロスペクティブ賞授賞式の記事は、コチラ⇒2026年03月19日

(レトロスペクティブ賞のトロフィを手に、マラガFF2026,3月12日)
「El corazón del lobo / Heart of the Wolf」
製作:La Soga Producciones / Tinta Roja Producciones
監督:フランシスコ・J・ロンバルディ
脚本;フランシスコ・J・ロンバルディ、アウグスト・カバダ
原作カルロス・エンリケ・フレイレのノンフィクション “El miedo del lobo”
撮影:テオ・デルガド
音楽:カリン・ジエリンスキ
編集:エリック・ウィリアムズ
美術:テレサ・ウルタド・エスコバル、
プロダクションマネージメント:アナ・トレス・ヒガンテ
衣装デザイン:ジョシー・セラダ・アコスタ
録音:ダビ・ロメロ、ラウル・アステテ
製作者:グスタボ・サンチェス、(アシスタント)ミゲル・テヘリナ・アルバ、パウル・マテオス・ベルデホ
データ:製作国ペルー、2025年、スペイン語・アラワク語族のアシャニンカAshaninca語、ドラマ、99分、撮影地:ペルー北部サンマルティン県タラポト、カハマルカ県パリアマルカ、カンタ県、2024年10月から11月。公開ペルー10月2日
映画祭・受賞歴:第29回リマ映画祭2025(8月9日)、第40回マル・デル・プラタ映画祭2025ラテンアメリカ映画部門ノミネート(11月)、マラガ映画祭2026セクション・オフィシアル(3月12日)
キャスト:ビクトル・アクリオ・シチャ(アキレス)、ハレド・ビセンテ・サンチェス(少年時代のアキレス)、シルバナ・ディアス・ゴイコチェア(同志ルシア)、パウル・ラミレス・ベルガラ(ロヘリオ)、マルティン・マルティネス・ゴンサレス(ロケ)、ホセ・フェルナンデス・ギサド(フアン・ガルシア神父)、アルベリック・ガルシア・セルナ(アルバレス)、マルティン・ベラスケス・アトーチェ(同志ホセ)、アニバル・ロサノ・エレーラ(同志ウィリアム)、他
ストーリー:ペルー、1990年。テロ組織センデロ・ルミノソに拉致されたアマゾンの先住民の少年アキレスのアイデンティティと自由への闘いの物語。私たちは彼の証言を通じて、犠牲者から戦士へと教育された、10年以上にわたる逃亡の旅路を目撃することになる。洗脳、暴力、生存を生々しくも親密な視点で描いた本作は、実話に着想を得て製作されました。


(アキレスとルシア役のシルバナ・ディアス・ゴイコチェア、フレームから)
ペルー内戦の激化を活写――新作の撮影には陸軍の装備を採用した
★日本人が「一度は行ってみたい観光地」ナンバーワンのマチュ・ピチュは知っているが、センデロ・ルミノソについてはどうでしょうか。一言で説明するの難しいが、簡単におさらいしてみます。〈輝ける道*〉センデロ・ルミノソは、1970年、毛沢東思想を標榜する最高指導者アビマエル・グスマンによって結成されたペルーの極左ゲリラ組織の通称で、正式名称は「ペルー共産党」です。1980年ごろから武装闘争を開始して政府軍と対立してきました。コカインを収入源として組織を拡大、1980年代半ばからは農村部、山間部は荒廃し、国内難民が都市部になだれ込んだと言われます。舞台となる1990年はフジモリ政権時代で、国際協力事業団 JICAの技術者3名が殺害されるなどして日本でも大きく報道されました。1992年アビマエル・グスマンを含む最高幹部が次々に逮捕され弱体化、2018年内部分裂を起こして活動停止になり、現在に至っています。因みにグスマンは獄中で2021年9月に死去。
**ペルーの20世紀を代表する政治思想家ホセ・カルロス・マリアテギ(1894~1930)の理論書『マリアテギの輝ける道』から命名された。先住民の擁護と文化的社会的復権を求めたラテンアメリカ最初の「マルクス主義者」と言われた。
★監督が着想を得て映画化したというノンフィクション・ノベル “El miedo del lobo / The Fear of the Wolf”(アルファグアラ社、2022)の著者は、カルロス・エンリケ・フレイレ、作家は1974年リマ生れの陸軍中佐ということです。映画では主人公アキレスの証言を通して、12年間に及ぶ彼の生存と抵抗の物語が語られます。洗脳された振りをして脱出のチャンスを狙っていたということです。予告編でもそのシーンが視聴できます。

(カルロス・エンリケ・フレイレと2023年発売のペーパーバックの表紙)
★監督紹介:フランシスコ・J・ロンバルディFrancisco José Lombardiは、1949年、ペルー南部、チリとの国境近くに位置するタクナ県の県都タクナ生れ、監督、脚本家、製作者。アルゼンチンのサンタフェ映画学校で学ぶ。ペルーにとどまらずラテンアメリカで高く評価されている監督の一人、長編20作はカンヌ、ベルリン、サンセバスチャン、トロント各映画祭で上映され、中で4作が字幕入りで鑑賞できました。

★代表作は、ロカルノ映画祭1977エキュメニカル審査員賞スペシャル・メンション受賞のデビュー作「Muerte al amanecer」、ノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス=リョサの自伝的小説 ”La ciudad y los perros” を映画化した『都会と犬達』(翻訳書は『都会と犬ども』)は、カンヌFF併催の「監督週間」にノミネートされ、マンハイム‐ハイデルベルクFF1985、サンセバスチャン映画祭SSIFFでは優れたLGBT映画・ドキュメンタリーに与えられるセバスティアン賞を受賞した。同作家の “Pantaleón y las visitadoras”の邦題は、苦し紛れに『囚われの女たち』(翻訳書は『パンタレオン大尉と女たち』)となったが、〈visitadoras〉訪問者たちが、ただの〈女たち〉ではないのでした。第72回アカデミー賞ペルー代表作品に選ばれたコメディ、「Sin compasión」はドストエフスキーの『罪と罰』をベースに映画化、2作ともゴヤ賞のスペイン語外国映画賞にノミネートされ、スペインでも知名度を上げた。80年代後半から90年代にかけてペルー映画と言えばロンバルディ映画の印象でした。

(『都会と犬達』撮影中のマリオ・バルガス=リョサとロンバルディ監督)
★個人情報として、女優のタティアナ・アステンゴと結婚、ロンバルディの「Pantaleón y las visitadoras」、「Tinta roja」、「Ojos que no ven」、当ブログで作品紹介している、サルバドール・デル・ソラルの政治スリラー「Magallanes」(15)、ハビエル・フエンテス=レオンのブラック・コメディ「Las mejores familias」(20)に主演している。現在は解消しているようで、監督は約10年前からジャーナリストのカルラ・メンドサとパートナー関係です。俳優のディエゴ・ロンバルディは長男、「Dos besos: Troika」に出演、監督、脚本家、製作者のジョバンナ・ロンバルディは長女、「Ella」の脚本を共同執筆している。2023年にオスカー賞のアカデミー会員に選ばれました。

(アカデミー会員に選ばれたフランシスコ・ロンバルディ)
★主なフィルモグラフィ(長編映画)
1977「Muerte al amanecer」デビュー作、ロカルノFFエキュメニカル審査員特別賞受賞
1978「Cuentos inmorales」4人の監督によるオムニバス映画
1981「Muerte de un magnate」犯罪スリラー
1983「Maruja en el infierno」ボゴタFF監督賞受賞、第56回アカデミー賞ペルー代表作品
1985「La ciudad y los perros」『都会と犬達』未公開TV放映、
カンヌFF併催「監督週間」ノミネート、SSIFFセバスティアン賞受賞、
マンハイム-ハイデルブルクFFインターフィルム特別賞受賞
1988「La boca del lobo / In the Mouth of the Wolf」『ライオンの棲みか』
未公開TV放映、SSIFFセバスティアン賞受賞、アカデミー賞ペルー代表作品
1990「Caídos del cielo」『豚と天国』スイス合作のブラックコメディ、
モントリオールFFグランプリ・デ・アメリカ受賞、
シカゴFFゴールド・ヒューゴ賞ノミネート
1994「Sin compasión」メキシコ=フランス合作、カンヌFF「ある視点」ノミネート、
ゴヤ賞1995スペイン語外国映画賞、グラマドFF1995ゴールデン・キキト賞ノミネート
1996「Bajo la piel」西独合作の犯罪ドラマ、SSIFF銀貝監督賞受賞、
ハバナFF脚本賞・作品賞第2席受賞、グラマドFF1997ラテン部門キキト批評家賞受賞
1999「Pantaleón y las visitadoras」『囚われの女たち』スペイン合作のコメディ、
未公開DVD、カルタヘナFF2000作品賞ノミネート、ビーニャ・デル・マルFF観客賞受賞、
ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞ノミネート、
グラマドFF2000作品賞・監督賞・キキト批評家賞・観客賞受賞
2000「Tinta roja」西合作、カルタヘナFF2001 OCIC賞受賞、ハバナFF監督賞・望楼賞受賞
SSIFF正式出品、リマ・ラテンアメリカFFエルシネ2席受賞
2003「Ojos que no ven」ビアリッツFFラテンアメリカ・シネマ部門ゴールデン・サン受賞、
SSIFF正式出品、バルディビアFF作品賞受賞
2006「Mariposa negra」西合作、モントリオールFFグラウベル・ローシャ(ホーシャ)賞受賞、
マラガFF2007正式出品、ゴヤ賞2008スペイン語外国映画賞ノミネート
2009「Ella」メキシコ合作、ジョバンナ・ロンバルディが脚本を共同執筆
2015「Dos besos: Troika」ロマンチックドラマ
2025「El corazón del lobo」割愛
2001年マイアミ映画祭ゴールデンリール賞受賞
2014年文化国民賞受賞
2019年ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭ウエルバ市賞受賞
2026年マラガ映画祭レトロスペクティブ賞受賞
★キャスト紹介:主人公アキレスには少年時代をハレド・ビセンテ・サンチェス、青年時代をケチュア出身のビクトル・アクリオ・シチャが演じています。ビクトル・アクリオはセサル・ガリンドのケチュア語映画『今日からぼくが村の映画館』(22)で主人公の少年シストゥを演じています。撮影当初12歳ということでしたが、本作ではすっかり大人になってしまいました。偶然ですが今春ロードショーが始まって全国展開中です。

(少年アキレスのハレド・ビセンテ・サンチェス)

(青年アキレスのビクトル・アクリオ・シチャ)
★スタッフ紹介:脚本を共同執筆したアウグスト・カバダ(1961)は、作家、脚本家。ロンバルディ映画には本作以外、『ライオンの棲みか』に始まって、『豚と天国』、「Huellas del paraiso」(91)、「Sin compasión」、「Bajo la piel」、「Dos besos: Troika」などを単独、または共同で執筆していますから長い付き合いです。現在上映中のセサル・ガリンドの『今日からぼくが村の映画館』も手掛けています。人気TVシリーズのヘッドライターを務めるベテランです。本作は監督から「これ読んどいて」と、カルロス・エンリケ・フレイレの “El miedo del lobo” を渡されて始まったとインタビューで語っています。
チリ映画「Hangar Rojo」フアン・ペドロ・サジャト*マラガ映画祭2026 ⑨ ― 2026年04月28日 16:09
フアン・パブロ・サジャトのデビュー作「Hangar Rojo」――観客賞など4冠

★今年のマラガ映画祭はイベロアメリカの映画が気を吐いた。チリのフアン・パブロ・サジャトのデビュー作「Hangar Rojo / The Red Hangar」は、1973年9月11日チリの首都サンティアゴで勃発した軍事クーデタの実話に着想を得てモノクロで撮影された政治映画です。ベルリン映画祭2026「視点」部門でワールドプレミアされ、マラガ映画祭で男優賞・編集賞・エル・パイス観客賞・特別批評家審査員賞の「銀のビスナガ」4冠を制しました。スペイン語圏で「もう一つの9.11」と称されるチリの軍事クーデタは、陸軍総司令官ピノチェトがアジェンデ社会主義政権を転覆した事件、その後ピノチェトはチリ大統領として1990年3月に失脚するまで独裁者として君臨した。パトリシオ・グスマンのドキュメンタリー『光のノスタルジア』を含む「チリ三部作」、パブロ・ララインの『Noノー』を含む「ピノチェト政権三部作」や『伯爵』、ニコラス・アクーニャのTVシリーズ「Los mil dias de Allande」など数々の名作が世に送り出された。では、サジャトの「赤い格納庫」がどんな切り口で語られるのか探ってみたい。

(来マラガしたクルー、中央がサジャト監督、マラガFF、3月7日フォトコール)
「Hangar Rojo / The Red Hangar」
製作:Villano Producciones / Brava Cine / Rain Dogs / Caravan / Berta Film /
協賛:INCAA / Corfo / Mendoza Film Commission / Programa Ibermedia /
Florenz(イタリア) 他
監督:フアン・パブロ・サジャト(サラト)
脚本:ルイス・エミリオ・グスマン
フェルナンド・ビジャグランの著作 ”Disparen a la bandada”
音楽:アルベルト・ミケッリ、マッテオ・マレッラ
撮影:ディエゴ・ペケーニョ
編集:バレリア・エルナンデス、セバスティアン・ブラム
美術:ニコラス・グラム
衣装デザイン:フリオ・レボッタロ
製作者:フアン・イグナシオ・サバティーニ(Villano)、フアン・パブロ・サジャト(同)、(共同プロデューサー)ライカ・ホスラヴィ、ステファノ・ムトロ、カロリナ・ペッツィーニ、バレンティナ・クアランティーニ、他
データ:製作国チリ=アルゼンチン=イタリア、2026年、スペイン語、政治スリラー・ドラマ、モノクロ、81分、撮影は2024年10月、チリと国境を接するアルゼンチンのメンドーサ市、約3週間。公開チリ2026年10月予定
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2026視点部門、マラガ映画祭セクション・オフィシアル、銀のビスナガ主演男優賞(ニコラス・サラテ)、編集賞(バレリア・エルナンデス、セバスティアン・ブラム)、エル・パイス紙観客賞(フアン・パブロ・サジャト)、批評家審査員特別賞(同)を受賞、フリブール映画祭(スイス、3月)、第44回ウルグアイ映画祭俳優賞(ニコラス・サラテ)特別メンション受賞、以下4月から開催されるグアダラハラ、マイアミ、シアトル、ロンドンなどの映画祭上映が予定されている。
キャスト:ニコラス・サラテ(ホルヘ・シルバ空軍大尉)、マルシアル・タグレ(ヤーン大佐)、ボリス・ケルシア、カタリナ・ストゥアルド(ロサ)、アロン・エルナンデス(エルナンデス軍曹)、フランシスコ・カラスコ(カラスコ中尉)、フアン・カノ(ムヒカ軍曹)、レンゾ・フィオレッティ(フェルナンド・ビジャグラン)、タイウ・ブラベル・イオソビッチ(フェリペ・アグエロ)、他
ストーリー:チリの首都サンティアゴ、1973年9月11日に勃発した軍事クーデタが全国で展開するなか、元空軍諜報機関の長官だったホルヘ・シルバ空軍大尉は、彼の人生を永遠に変える命令を受け取る。それは、現在若い士官候補生を訓練している空軍士官学校を、逮捕者の尋問、並びに拘留と拷問の拠点に変えることでした。シルバは傍観者でいようとするが、かつてのライバルであったヤーン大佐が絶大な権力をもって到着すると、過去だけでなく信念とも深く向きあわざるを得なくなる。格納庫がトラックで運ばれてくる逮捕者でいっぱいになり、軍の権力が日増しに容赦なくなるにつれ、シルバは服従と良心の板挟みになる。不服従は命の危険をともなうかもしれないが、従順もまた命を落とす可能性があるからでした。ピノチェト独裁政権初期の軍の内情を描いた実話に着想を得ている。抑制された語り口とモノクロで撮影された政治的スリラー。

(格納庫に集められた逮捕者を見つめるシルバ、フレームから)
「シルバという人物の心の葛藤」に寄り添うモノクロ撮影
★監督紹介:フアン・パブロ・サジャト Juan Pablo Sallato、1978年サンティアゴ生れ、監督、製作者、脚本家、制作会社「Villano Producciones」をフアン・イグナシオ・サバティーニと共同で設立した。2004年、ニコラス・グラムと短編「El duelo」(13分)で監督デビューする。2010年、チリで最も視聴されたというチリ代表サッカー・チームの8年間の敗北と勝利を掘り下げたドキュメンタリー「Ojos Rojos / Red Eye」をフアン・イグナシオ・サバティーニと共同監督、TVミニシリーズには、「Adictos al Claxon」(13、8話)、「La Cultura del sexo」(15、6話)、「Libre」(21、8話)などがある。また製作で自作以外に手掛けた映画にはフアン・イグナシオ・サバティーニの「Matar a Pinochet」(20)、TVシリーズでは、ダニエル・サムディオ事件に触発された「Zamudio」(15、4話)、謎の失踪事件に基づいた犯罪スリラー「La Caceria: En el fin del mundo」(24~25)などが挙げられる。

(インタビューを受けるサジャト監督、マラガ映画祭)

(メンドーサで本作撮影中のフアン・パブロ・サジャト)

(ドキュメンタリー「Ojos Rojos」のポスター)
★モノクロで撮影した理由を訊かれたサジャト監督は、理由の一つにクーデタに反対したチリ空軍の登場人物たちが持っていた〈灰色〉を私たちは際立たせたかったからで、とくに「明暗とグレーで描く世界は、苦境にあるシルバという人物の心の葛藤をビジュアル化するには完璧でした」と説明している。

(製作者サバティーニ、監督、シルバ役のニコラス・サラテ、マラガFFフォトコール)
★ニコラス・サラテが演じた主人公のホルヘ・シルバは実在した人物で当時37歳、独裁政権下で自身も投獄されている。釈放後家族、特に大学教師の妻ロサの身の安全のためイギリスに亡命、ピノチェト亡き後もチリに戻らず、2024年8月ロンドンで没した。監督によると録画を始める2ヵ月前だったと「エル・パイス」のインタビューに語っている。シルバの役目は、転覆したアジェンデ政権を支持したことで逮捕された人たちの尋問から始まって、処刑場になったチリ・スタジアムに移送するまで監禁することだった。因みにフォルクローレのシンガーソングライターのビクトル・ハラがギターを奏でる両手を打ち砕かれ、顔を切り裂かれて銃殺された場所がこのスタジアムでした。

(当時37歳だったホルヘ・シルバ空軍大尉に扮したニコラス・サラテ、フレームから)
フェルナンド・ビジャグランの ”Disparen a la bandada”
★監督が触発されたという”Disparen a la bandada: Cronica secreta de los crímenes en la FACH contra Bachelet y otros”(プラネタ社、2002年刊) の著者フェルナンド・ビジャグラン(サンティアゴ1949)は、チリの作家、ジャーナリスト、経済学者、ドキュメンタリー製作者、コラムニスト。チリ大学で経済学、サンティアゴ大学でジャーナリズムを専攻、1983年から1995年まで政治誌「Apsi」の副編集長としてチリの民主化移行期の独立系ジャーナリズムに貢献した。1996年からはテレビの文化番組の司会者として活躍している。チリの政治史をジャーナリズムの厳密な手法で検証し、特に軍事独裁政権の弾圧メカニズム、関連する歴史的人物にフォーカスした書籍を多数出版している。本作の土台となった ”Disparen a la bandada” は、翌年文学部門のアルタソル賞を受賞した。1973年のクーデタに反対したチリ空軍(FACH)の将軍や士官に加えられた弾圧や拷問は数十年にわたって隠蔽されてきた。本書はその記録にビジャグラン自身の個人的な体験も活用して事実を明らかにしている。

(フェルナンド・ビジャグラン)

(アルタソル文学賞受賞の ”Disparen a la bandada” 表紙)
★個人的な体験とは、当時20代前半であったビジャグランは、彼の友人フェリペ・アグエロと共に「赤い格納庫」と命名された場所に運ばれてきた逮捕者の一人だった。二人は即決死刑の運命にあったが、FACH 職員が阻止してくれたことを回想している(本作のキャスト欄に二人もクレジットされている)。副題にある Bachelet とは、アルベルト・バチェレ空軍准将(1923~74、獄死)で、ピノチェトのクーデタに反対したためクーデタ当日に逮捕された。その後釈放と自宅監禁、逮捕が繰り返され、12月18日に「反逆罪」で裁かれ、翌1974年3月12日、サンティアゴの刑務所での拷問中に心臓発作で亡くなった。シルバ大尉はバチェレの最期を看取った人物としても知られています。第33代(2006~10)と第35代(2014~18)の2期、チリ初の女性大統領を務めたミシェル・バチェレの実父である。
★サジャト監督は、本作の準備中にビジャグランとアグエロと昼食を摂りながら、ホルヘ・シルバの行為は「小さなことに思えるけれど、本当に勇気ある行為だ。彼のお蔭で命を繋げることができ、希望を与えてくれた」と、二人を見やりながら語っている。
★その他、ビジャグランの代表作として、”La muerte de Pinochet: Cronica de un delirio”(2003、マルセロ・メンドーサとの共著)、”Represión en dictadura: El papel de los civiles”(2005)、他にイグナシオ・アグエロがアルタソル監督賞を受賞した「El diario de Agustín」(08)の脚本と製作を手掛けている。ニクソン、キッシンジャー時代に米CIAから資金提供を受け、ピノチェト政権下で行われた人権侵害を隠蔽しようとしたチリ最大の日刊紙「エル・メルクリオ」の内情を暴露している。 Agustínとは「エル・メルクリオ」の所有者アグスティン・エドワーズである。アーカイブ映像でアグスティン自身の他、アジェンダやピノチェト、リカルド・ラゴス、各大統領も登場するドキュメンタリー。

(ドキュメンタリー「El diario de Agustín」のポスター)
★キャスト紹介:ニコラス・サラテ Nicolás Zárate 映画テレビ俳優、ミュージシャン、1997年TVシリーズ出演でスタートを切る。2015年のアレハンドロ・トーレスのスリラー「El Tila:Fragmentos de un Psicópata」で実在したレイプ犯エル・ティラを演じている(カルーチェ賞*ノミネート)。シモン・バルガスの「Sobre los muertos」(18)主演、セバスティアン・ムニョスがベネチア映画祭「国際批評家週間」でクィア獅子賞を受賞した話題作「Principe」(19)、ホルヘ・リケルメ・セラーノのサスペンス「Algunas Bestias」(19)では、アルフレッド・カストロやパウリナ・ガルシアと共演している。老いと健康問題と格闘する夫婦を演じたイグナシオ・パベスの「Vieja Viejo」(22)、パオロ・ペスセがモノクロで撮ったデビュー作「La Soledad De Las Plagas」(23)に主演している。
*Caleuche カルーチェはマプチェ語(先住民マプチェ族の言語)に由来している。諸説あるが、チリ南部のチロエ神話に出てくる幽霊船・魔法船から採られた演技賞。チリ映画ではよく目にする賞の一つ。

(実在したサイコパス「エル・ティラ」を演じたニコラス・サラテ)

(ホルヘ・シルバ空軍大尉を演じて銀のビスナガ主演男優賞を受賞したサラテ)
★本作に関連する作品として、フェリペ・カルモナのサスペンス「Penal Cordillera / Prison in the Andes」(23)出演がある。ピノチェト政権下での拷問者5人が、アンデス山脈の麓にある〈高級〉刑務所で服役している。彼らはテレビのインタビュー後に通常の刑務所に移送されることを怖れ、留まるためにあらゆる手段を尽くす。カルモナ監督がケララ映画祭でFIPRESCI賞を受賞した作品。当ブログで紹介したマイテ・アルベルディの『イン・ハー・プレイス』にも出演しているが未紹介、ヤーン大佐役のマルシアル・タグレは判事を演じていた。

(第44回ウルグアイ映画祭俳優賞特別メンションを受賞したサラテ)
★マルシアル・タグレは、パブロ・ララインの「ピノチェト三部作」から出演しているラライン常連の一人、やはりピノチェトをテーマにした『伯爵』(23)にも出演している他、セバスティアン・レリオの『グロリアの青春』、『ナチュラルウーマン』、東京国際映画祭で上映されたマヌエラ・マルテッリのデビュー作『1976年』、最近ではベレン・フネスの「Los Tortuga」などスペイン映画にも活躍の場を広げている。当ブログで作品紹介をしています。

(ニコラス・サラテ、上司ヤーン大佐役のマルシアル・タグレ、フレームから)
イベロアメリカ映画金のビスナガ*マラガ映画祭2026 ⑧ ― 2026年04月17日 16:36
メキシコ映画―ホアキン・デル・パソの「El jardín que soñamos」

★イベロアメリカ映画部門の金のビスナガ作品賞を受賞した「El jardín que soñamos」は、ホアキン・デル・パソ(メキシコシティ1986)の長編3作目、他に銀のビスナガ監督賞、銀のビスナガ撮影賞(ギョクハン・ティリヤキ)を受賞した。撮影監督のティリヤキは、1972年イスタンブール生れ、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督とタッグを組んで数々の話題作を送り出している。既にベルリン映画祭パノラマ部門でワールドプレミアされており、何らかの賞に絡むことは予想されていた。監督キャリア&フィルモグラフィは、簡単に以下にアップしています。
*監督キャリア&フィルモグラフィ紹介は、コチラ⇒2026年03月12日

(金のビスナガ作品賞受賞のホアキン・デル・パソ、マラガFF2026ガラ)

(ホアキン・デル・パソとカルロス・エスキベル、マラガFFフォトコール)
「El jardín que soñamos / The Garden We Dreamed」
製作:Amondo Cine / Cárcava Cine / Atomica Films / Espiral Films ほか
監督:ホアキン・デル・パソ
脚本:ホアキン・デル・パソ、ルーシー・パウラック
撮影:ゲクハン・ティリヤキ
音楽:ロヘリオ・ソーサ、カイル・ディクソン、マイケル・スタイン
編集:ラウル・バレラス、ホアキン・デル・パソ、アンドレス・タンボルニーノ
美術:フェデリコ・カントゥ、ニコル・セイグス
衣装デザイン:ガブリエラ・ガルシアンディア
メイクアップ:リッチ・ゲラ、ホルヘ・フエンテス
キャスティング:セルヒオ・ディアス・オチョア
製作者:フェルナンダ・デ・ラ・ペサ、ホアキン・デル・パソ、エドゥアルド・ディアス・カサノバ、フアン・パブロ・レイノソ、イツェル・シエラ、他エグゼクティブ、共同プロデューサー多数
データ:製作国メキシコ、2026年、スペイン語、ハイチ・クレオール語、ドラマ、102分、配給ピミエンタ・フィルムズ(メキシコ)
映画祭・受賞歴:ベルリン映画祭2026パノラマ部門観客賞ノミネート、第29回マラガ映画祭2026イベロアメリカ映画部門金のビスナガ作品賞、銀のビスナガ監督賞(ホアキン・デル・パソ)、銀のビスナガ撮影賞(ゲクハン・ティリヤキ)各受賞、フランクフルト映画祭、トゥールーズ・シネラティノ・リコントル・デ・フェスティバル正式出品
キャスト:ネヘミエ・バスティアン(エスタル)、フォースタン・ピエール(ジュニオル)、キマエレ・ホリー・プレヴィレ(フロール)、ルス・アイチャ・ピエール・ネルソン(アイチャ)、カルロス・エスキベル(トーニョ)、ほか
ストーリー:ハイチからエスタルとジュニオルの夫婦はより良い未来を求めて、二人の娘フロールとアイチャを連れてアメリカ大陸の旅に出ます。メキシコでは自分たちの土地ではない、人里離れた繊細なオヤメルモミの森の中に居を定めます。家族がこの見知らぬ環境で自分たちの居場所を探すなか、ジュニオルは過去の重みと向き合い、エスタルは支えとなり、周りの世界が崩れ始めるなかでも平和と思いやりを育みます。モナーク蝶に囲まれた家族は、違法伐採で消えゆく森の中で、繊細な温もりの空間をつくり、愛がまだ根を張ることのできる儚い希望の庭を築こうとします。 (文責:管理人)

(カナダ南部から南米大陸北部に分布するモナーク蝶オオカバマダラ)



★監督紹介:ホアキン・デル・パソ Joaquin del Paso、1986年メキシコシティ生れ、監督、撮影監督、脚本家、製作者。キューバの国際映画テレビ学校、ポーランド国立映画学校で学んでいる。2008年、短編ドキュメンタリー「Dialogue about an image」(イメージに関する対話、製作国ドイツ、言語スペイン語)で監督デビュー、製作国はポーランドが多く、米国、ドイツ、メキシコ、英国と多国籍、言語もポーランド語、スペイン語、英語、ドイツ語、ジャンルもドラマ、ドキュメンタリー、ファンタジー、SF、アドベンチャーと、受賞歴多数の短編12本の後、新作「El jardín que soñamos」が3作目となる長編を撮っている。

(金のビスナガ、銀のビスナガをゲットした)
★撮影監督作品としては、製作者キム・ヘンドリクソンのドキュメンタリー「A conversation with Carlos Reygadas」(カルロス・レイガダスとの対話、米国、スペイン語、2019)を共同で撮影している。レイガダスの長編デビュー作『ハポン』についてのアマ・エスカランテとの対話。レイガダスのパートナーであるナタリア・ロペス・ガジゃルドのデビュー作「Manto de gemas」(宝石のマント、22)の製作を共同で手掛けている。以下に代表作、受賞歴のある作品をアップしておきます。

2008「Dialogue about an image」短編
2009「Czarna Gora」短編、Camerimage、学生コンペティション部門ノミネート
2009「The Absolute Truth of Thomas Schviefel」短編21分、ファンタジー/SF、
ルーシー・パウラックと共同監督、ポーランド=英国、英語
2011「Moskwa」短編ドキュメンタリー、アドベンチャー、ポーランド、ポーランド語
2012「Dream of San Juan」中編45分、ドキュメンタリー、メキシコ=ポーランド、スペイン語
2013「Syjamscy」短編26分、犯罪ドラマ、ポーランド、ポーランド語、
ポーランドFF2014ヤングシネマ・コンペティション部門特別賞受賞
2016「Maquinaria Panamericana」長編デビュー作コメディ、
グアダラハラFFメスカル賞・PIPRESCI、デュランゴFF観客賞・特別審査員賞、
レインダンスFF脚本賞、モンテレイFF長編映画賞、グアナフアトFF映像賞、
メリダ&ユカタンFFオペラ・プリマ、トリノFFスペシャル・メンション観客賞、
アリエル賞2017脚本賞、各受賞
2021「El hoyo en la cerca」長編2作目スリラー、ベネチアFFオリゾンティ部門プレミア、
ワルシャワFF、モレリアFFノミネート多数、カイロFF作品賞ゴールデン・ピラミッド賞
2026「El jardín que soñamos」割愛
★撮影監督紹介:ギョクハン(ゴハーン)・ティリヤキ Gokhan Tiryaki、1972年イスタンブール生れ、国営テレビ局でカメラマンとして、ドキュメンタリーやドラマの制作に携わり、1996年から撮影監督になる。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督とタッグを組んだ『うつろいの季節』(06、トルコ=仏)、『スリー・モンキーズ』(08、トルコ=仏=伊)、『昔々、アナトリアで』(11、トルコ=ボスニア・ヘルツェゴビナ)、『雪の轍』(14、トルコ=仏=独=日本)、『読まれなかった小説』(18、トルコ=仏=独他)などが、公開されている。

(ギョクハン・ティリヤキ)
★受賞歴は、『スリー・モンキーズ』で国際撮影監督映画祭マナキ・ブラザーズ賞2008、イェシルカム賞2008、『昔々、アナトリアで』ドバイ映画祭2011撮影賞、アジア太平洋スクリーン賞2011、シネフィル協会賞、トルコ映画批評家協会賞2011、『雪の轍』トルコ映画批評家協会賞2014、「I am You」フローレンス映画賞2020、その他インド映画「Once Upon a Time in Calcutta」(仏=ノルウェー合作、ベンガル語)シルクロード映画祭中国2022撮影賞、「El jardín que soñamos」マラガ映画祭2026などがあり、ノミネート多数。

(主演のネヘミエ・バスティアンとフォースタン・ピエール、ベルリンFF2026)
マルタ・マトゥテのデビュー作が金のビスナガ作品賞*マラガ映画祭2026 ⑦ ― 2026年04月11日 11:41
金のビスナガは若手監督マルタ・マトゥテのデビュー作が受賞

★マラガ映画祭のセクション・オフィシアルは、スペイン映画とイベロアメリカ映画の2本立て、前者の最高賞「金のビスナガ」作品賞は新人監督マルタ・マトゥテのデビュー作「Yo no moriré de amor」が受賞、後者はメキシコのホアキン・デル・パソの「El jardín que soñamos」の手に渡りました。先ず前者の作品紹介から始めます。脚本にマトゥテ監督自身が投影されているという主役を演じたフリア・マスコルトが銀のビスナガ主演女優賞、父親役のトマス・デル・エスタルが銀のビスナガ助演男優賞を受賞しています。昨年もエバ・リベルタードのデビュー作「Sorda」が受賞して女性監督の活躍を印象づけた。本作は『幸せの、忘れもの』という邦題でゴールデンウイークに劇場公開されます。相変わらず陳腐なタイトルですが、何とかなりませんかね。
「Yo no moriré de amor / I Won’t Die for Love」
製作:Elastica Films(スペイン)/ Solita Films(同)/ Saga Film(ベルギー)
協賛:ICAA / RTVE / Movistar Plus+ / Ayuntamiento de Madrid / Filmin /
Comunidad de Madrid
監督・脚本:マルタ・マトゥテ
撮影:サラ・ガジェゴ・グラウ
編集:カルロス・カニャス・カレイラ
音楽:シモン・フランケ
美術:ロシオ・ペーニャ
キャスティング:マリア・ロドリゴ
衣装デザイン:エステル・ルカス・ハケティ Jaqueti
メイクアップ&ヘアー:アンネ・モラリス、サンドラ・オブリエン
製作者:マリア・サモラ(Elastica Films)、ホセ・エステバン・アレンダ、セサル・エステバン・アレンダ(Solita Films)、(エグゼクティブ)セシリア・リバス、フラビア・ビウルン(Saga Film)
データ:製作国スペイン=ベルギー、2026年、スペイン語、ドラマ、94分、撮影地:マドリード自治州バルデモロ(監督の故郷)、公開スペイン2026年5月8日
映画祭・受賞歴;第29回マラガ映画祭セクション・オフィシアル作品、金のビスナガ作品賞、銀のビスナガ助演女優賞(フリア・マスコルト)、助演男優賞(トマス・デル・エスタル)受賞、フェロス賞プエルタ・オスクラ2026受賞(AICEスペイン映画ジャーナリスト協会メンバーが選ぶ賞)
キャスト:フリア・マスコルト(クラウディア)、ソニア・アルマルチャ(母親)、トマス・デル・エスタル(父親)、ラウラ・ワイスマー、ギジェルモ・ベネト、フラン・カントス(ペペ)、レティシア・エタラ、マルク・ドミンゴ(アルベルト)、ダニエル・ゲーロ、ホルヘ・バサンタ、ロレア・インチャウスティ(レイレ)、他
ストーリー:18歳になるクラウディアの物語、母親のアルツハイマー病が静かな嵐のように押し寄せ、長らく断絶していた家族の役割を定義し直す必要に迫られている。クラウディアは早めに始まった介護で彼女の青春は息ができない。介護する義務と同世代の他の女性のように青春を謳歌したい願望のはざまで引き裂かれている。この目の前の現実を生きる方法を探し始めるが、それは家族全員の絆を変えることになるだろう。愛、独立、道義心、義務と願望の葛藤についての物語。

(左から、トマス・デル・エスタル、フリア・マスコルト、マトゥテ監督、
ソニア・アルマルチャ、ラウラ・ワイスマー、マラガFF、3月11日、フォトコール)
★監督紹介:マルタ・マトゥテ Marta Matute García、1988年マドリード自治州バルデモロ生れ、監督、脚本家、女優、撮影監督。2011年、マドリード・コンプルテンセ大学視聴覚コミュニケーション卒、ウィリアム・レイトン劇場ラボラトリーで演劇芸術の学位を取得する。女優として短編映画に出演。ゴン・ラモスやエバ・ミルなどの演出で舞台にも立っている他、パウラ・アモールやハビエル・ヒネルの演出助手も手掛けており、独立系の映画のフィルム編集者でもある。
*フィルモグラフィー:
2016「Zong」短編、監督ボルハ・エチェベリア、女優出演
2017「Grasse Matinée」短編、監督イバン・アルティレス、女優出演
2023「Una amiga」短編、監督、脚本
2024「Xiao Wei」短編、監督Jiajie Yu Yan、脚本共同執筆・女優出演
2026「Yo no moriré de amor」長編デビュー作、監督、脚本


(短編「Una amiga」のポスター)
★金のビスナガ作品賞の「Yo no moriré de amor」は、2020年スペイン映画アカデミーのレジデンシアに選ばれる。2021年に第18回「フリオ・アレハンドロ長編脚本SGAE賞*」を受賞、Ventana CineMad、Ventana Sur、などのワークショップに参加して制作した。アルツハイマー型認知症になった母親を10年間にわたって介護した家族や監督自身が投影されている。同世代のカルラ・シモンやベレン・フネス、ピラール・パロメロの作品からも着想を得ていると語っている。本格的な評価はこれからですが、将来が有望視されている。
*フリオ・アレハンドラ(ウエスカ1906~デニア1995)は、スペイン、メキシコ、アルゼンチン映画の脚本家、ルイス・ブニュエルの『ビリディアナ』(61)や『哀しみのトリスターナ』(70)の脚本を監督と共同執筆している。SGAE Sociedad Genaral de Autores y Editoresは、1995年設立された著作権管理団体でスペイン著者出版社協会。

(フリオ・アレハンドロ長編脚本SGAE賞のトロフィを掲げる監督)
★キャスト紹介:フリア・マスコルトJulia Mascort、バルセロナ出身の映画・舞台女優、歌手、楽器はギターとチェロ。ラウラ・オブラドールズの短編単独デビュー作「Las chicas/The Girls」(24、16分、スペイン語)、クリスティアン・アビレスの「La herida luminosa」(22、23分、スペイン語)出演の他、カタルーニャTVシリーズ「Com si fos ahir/With That Same Look」(2022年8話出演)、「Un nuevo amanecer」(2024年2話出演)、長編出演は今回が初、主役も女優賞も初のようです。カタルーニャ語、スペイン語のバイリンガル、英語もできる。マラガではスペイン語でインタビューを受けていた。

(銀のビスナガ主演女優賞受賞、マラガFFガラ)
★トマス・デル・エスタル Tomás del Estal、1967年サラマンカ生れ、俳優。TVシリーズ出演でスタート、脇役専門とはいえ本数が3桁は多すぎる。コメディからホラー、社会派シリアスドラマと芸域は広いから、スペイン映画ファンなら必ず見覚えがあるでしょう。受賞歴は、今回の銀のビスナガ助演男優賞受賞が初、検索している管理人も驚いている。最近では、こんな映画に出演しています、2024『叫び』、2021『ウェイ・ダウン』、2018『誰もがそれを知っている』、2016『スモーク・アンド・ミラーズ』、同『ジュリエッタ』、2015『ヤシの木に降る雪』、2014『トガリネズミの巣穴』、2010『BIUTIFUL ビューティフル』、同『ペーパーバード 幸せは翼にのって』など、当ブログでも作品紹介をしています。TVシリーズではシーズン2が始まった『ガリシアン・ギャング』、『鉄の手』などがNetflixで配信されている。

(銀のビスナガ助演男優賞受賞、マラガFFガラ)
★アルツハイマー認知症の母親を演じたソニア・アルマルチャ(アリカンテ州ピノソ1972)は、バレンシアの演劇芸術学校とウィリアム・レイトンで演技を学んだ。マラガ関連では、マラガFF2025の短編部門でポロ・メナルゲスの「Una vocal」で銀のビスナガ主演女優賞を受賞した。2020年ハビエル・マルコの「A la cara」で同じ短編部門の同賞を受賞している。この短編は2025年に同タイトルで長編化され、ロラ・ガオス賞の主演女優賞にノミネートされた。

(母親とクラウディア、フレームから)
★ハイメ・ロサーレスがゴヤ賞2008作品賞と監督賞を受賞した『ソリチュード:孤独のかけら』に主役に抜擢され、物静かだが我が道を着々と準備する芯の強い女性を演じて、スペイン俳優組合新人女優賞を受賞しています。他2017年にエステバン・クレスポの『禁じられた二人』、パコ・プラサのホラー『エクリプス』、ロドリゴ・ソロゴジェンのスリラー「El reino」、フェルナンド・レオン・デ・アラノアのブラックコメディ「El buen patrón/The Good Boss」では、ゴヤ賞2022助演女優賞ノミネート、俳優組合女優賞などを受賞、ジョン・ガラーニョ&アイトル・アレギの「Marco」、クラウディア・ピントの「Las consecuencias」(21)、最近は主に映画出演にシフトしている。
*『ソリチュード:孤独のかけら』の作品紹介は、コチラ⇒2013年11月08日
*「Las consecuencias」の作品紹介は、コチラ⇒2021年07月01日
*「El buen patrón」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月10日
★ラウラ・ワイスマー(ヴァイスマール)Laura Weissmahr、1992年タリファ生れ、女優、製作者。バルセロナのエオリア高等演劇芸術学校で演技を学んだ後、イギリスのウエストミンスター大学で映画テレビ制作の学位を取得する。ドキュメンタリーを撮っている。エレナ・マルティン・ヒメノ監督の「Júlia Ist」(17)やダビ・ビクトリの「No matarás」(20)に出演、2024年にマル・コルのサスペンス「Salve María」主演して、ゴヤ賞2025新人女優賞ほか、ガウディ賞、フェロス賞、バジャドリード映画祭、サンジェルマン賞などを受賞して脚光を浴びた。これからの活躍を予感させる。

(ゴヤ賞2025新人女優賞受賞のガラ)
★今秋の東京国際映画祭2026での上映を期待したいところです。
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