マヌエラ・マルテッリ『1976』Q&A*東京国際映画祭2022 ⑨ ― 2022年11月06日 16:21
「母方の祖母が49歳で亡くなった年が1976年でした」

(マヌエラ・マルテッリ監督、10月28日 Q&Aにて)
★東京国際映画祭は終幕しましたが、10月28日にマヌエラ・マルテッリ監督が参加して行われた『1976』Q&Aをアップいたします。司会は市山尚三プログラミング・ディレクター、言語は英語、約30分で、翌日YouTubeで配信されました。主役カルメンを演じたアリネ・クッペンハイムが女優賞を受賞するオマケも付いたので、最後にキャリアご紹介も付します。
★タイトルとなった〈1976年〉は、監督の「母方の祖母が亡くなった年に因んでいる」と語りました。この発言には重要な意味があったのですが、Q&Aではこれ以上踏み込まなかった。「もう一つの9.11」と称されるチリの軍事クーデタが勃発したのは1973年9月11日でした。1976年は選挙で選ばれた初めての社会主義政権と言われるアジェンデ政権がピノチェト将軍指揮する軍隊によってあえなく崩壊した年ではなかった。3年目となる1976年も多くの民間人の血が流された年ではありましたが、なぜ監督が1976年に拘ったのか、それは母方の祖母が49歳の若さで自死したことでした。
★作品紹介でも触れましたが、1983年生れの監督は祖母には会ったことがない。絵画や彫刻を制作して、主婦だけで終わりたくなかった祖母は、主人公カルメンの造形に投影されている。本作の原動力になったのが、正にこの祖母の自死にあったからでした。長いあいだ家族間で祖母の死について語ることは禁じられていましたが、10年前に重い鬱だけが原因でなかったことを知り、突き動かされるように自国の現代史を調べ始めたという、つまり本作の構想は10年前に遡るということです。クランクイン直前にパンデミックで中断、1年待たねばならず、再開しても制限の多いなかでの撮影を強いられた。これは彼女に限ったことではありませんが、コロナは世界を変えてしまいました。幸運にも完成前にカンヌから選考の報をうけ、その後のプロセスは大車輪だった。
*『1976』の作品&監督キャリア紹介の記事は、コチラ⇒2022年09月13日
★印象に残ったのは会場から色と音楽に対する拘りを指摘する質問があったことでした。「とても良い質問です」と嬉しそうに前置きして、「赤色は血をイメージし、独裁政権の影が次第にカルメンの日常を塗り替えていくイメージ、外から聞こえてくる音や音楽は、外部からの浸食であり、色と音楽の両方が外の世界の恐怖、カルメンの気持ちの変化を表現している」と語った。これが成功しているかどうかは評価の分かれるところですが、20年近くに及んだピノチェト軍事独裁政権の恐怖を知らない観客には分かりにくかったかもしれません。

★監督は大学では、演技のほかに美術も専攻しており、以前「将来的に女優を続けるかどうか分からない、絵の道に進むかもしれない」と語っていたが、一つに祖母の影響があったのかもしれない。その頃から監督になることを視野に入れて演技していたという。「女優としてさまざまな監督を観察しながら演技してきたので、今回の監督デビューは自然な成り行きだった」とチリのインタビューに応えている。チリ・プレミアは首都サンティアゴから南方850キロ離れたバルディビア映画祭(開催10月10日~16日)で、その後劇場公開となっている。
★Q&Aで本国チリでの評価を尋ねられた監督は、「観客の評価はよく、観客はちりばめられたエピソードにそれぞれ反応している。それは2019年の反政府デモをきっかけにした憲法改正の動きがあり、結果的に新憲法は否決されたが、それを残念に思っている人に受け入れられている」と応じていた。10月19日、150万人の民衆がサンティアゴの街頭に繰り出し、経済格差是正、自由の制限、憲法改正を迫ってデモ行進が行われた。この反政府デモについてのドキュメンタリーを撮ったのが、サンセバスチャン映画祭2022ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品に選ばれたパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー「Mi país imaginario」(22)でした。現在はパリ在住ですが、故国チリの現代史を問い続けているドキュメンタリー作家です。当ブログでは「チリ三部作」と称される『光のノスタルジア』『真珠のボタン』『夢のアンデス』を紹介しています。
*「Mi país imaginario」の作品紹介は、コチラ⇒2022年08月22日
★Q&Aは内容的に充実していたとは言い難いのですが、メディア向け撮影を入れた30分では質問者の数も限られ、監督も自分の母語でなかったこともあるのか隔靴掻痒だったに違いない。最後にコロナ感染で危機に苦しんでいる映画界に触れ、「映画館に足を運んでください」と、映画を映画館で観る楽しさを取り戻してほしいと強調しました。勿論、映画を見る媒体は複数あってかまわないのですが、映画とTVドラマは違うはずです。
★チリ映画界の現状は厳しく、監督が映画界入りした2001年に製作された本数は10本だった。その95%は特権的な男性監督によるものです。現在では映画法も制定され4倍に増えていますが、申請倍率も高くアクセス事態が難しいということです。申請は1年1回に限定され、落選すればもう1年待たねばならない。チリは文化活動に資金を使いたくないのが伝統というお国柄、『1976』で「私は忍耐力を養いました」と監督。どんなに素晴らしい映画でも「観られなければ意味がない」とも語っています。既に次回作の準備に取りかかっており、90年代のチリが舞台、デビュー作に繋がっているということです。
★去る9月28日、第37回ゴヤ賞2023(2月11日)イベロアメリカ映画賞のチリ代表作品に選ばれました。監督は「代表作品に選ばれ光栄です。選んでくださった270人のチリ映画アカデミー会員に感謝いたします」とコメントしています。4作に絞られる正式ノミネーションを待たねばなりませんが、候補としてアルゼンチン代表「Argentina, 1985」(サンティアゴ・ミトレ)、コロンビア代表『ラ・ハウリア』(アンドレス・ラミレス・プリド)、ポルトガル代表「Nothing Ever Happened」(ゴンサロ・ガルバン・テレス)、ボリビア=ウルグアイ合作の『Utama~私たちの家~』(アレハンドロ・ロアイサ・グリシ、邦題はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭 SKIP CITY IDCF による)などが候補に上がっています。いずれも強敵ですが残れるでしょうか。ポルトガル映画以外は既にご紹介しています。
★アリネ・クッペンハイム紹介:1969年バルセロナ生れ、父親はフランス人、母親はチリ人、共に手工芸家、両親の仕事の関係で幼少期はヨーロッパ諸国を転々とした。チリに戻ったのは1980年代初頭、サンティアゴ市北部の地方自治体ラス・コンデスの高校で学んだ。その後フェルナンド・ゴンサレスのアカデミー-・クラブで演劇を学んだ。1991年テレノベラ「Ellas por ellas」(4話)出演でスタート、数局のTVシリーズで成功、女優としての地位を築いた。一方映画デビューは、クラウディオ・サピアインの「El hombre que imaginaba」(98)、アントニア・オリバーレスの「Historias de sex」(00)など、しかしTVシリーズ出演が多い。1999年、クラウディア・ディ・ジロラモ主演のTVシリーズ「La fiera」を最後に、当時の夫で俳優のバスティアン・ボーデンへーファーとフランスに渡る(2006年離婚)。
★フアン・ヘラルドのキューバ革命をテーマにしたドイツ、メキシコ、米国合作「Dreaming of Julia / Sangre de Cuba」(03、英語)で、ガエル・ガルシア・ベルナルやハーヴェイ・カイテル、セシリア・スアレスとクレジットを共有している。2004年、チリに帰国、アンドレス・ウッドの「Machuca」(04)、アジェンデ政権に反対する1970年代初頭の富裕階級の典型的な女性像を演じて賞賛された。本作にはマヌエラ・マルテッリ監督も共演している。レビスタWIKEN助演女優賞受賞、邦題『マチュカ~僕らと革命』でDVD化された。ウッド監督とは「La buena vida」(ラテンビート2009の邦題『サンティアゴの光』)に再びオファーを受け、今度はマルテッリと母娘を演じた。ペドロ・シエンナ賞、ビアリッツFF演技賞などを受賞している。

(反アジェンデ派のシンボリックな女性像を演じた『マチュカ』から)
★アリシア・シェルソンのデビュー作「Play」(05『プレイ』)、本作はシェルソンがSKIP CITY IDCF 2006で新人監督賞を受賞した作品、また同監督の「Turistas」(08)では主役を演じた。アジェンデ大統領の最後の7時間を描いたミゲル・リッティンの「Allende en su laberinnto」(14)で、大統領の私設秘書、愛人でもあったミリア・コントレラスに扮した。通称〈La Payita〉はスウェーデン大使の助けを得てキューバに亡命、1990年に帰国するまでパリやマイアミに住んでいた。軍事クーデタの証言者の一人。

(マルセロ・アロンソと倦怠期の夫婦を演じたシェルソンの「Turistas」から)
★公開作品にはセバスティアン・レリオの『ナチュラルウーマン』(17)がある。TVシリーズ「42 Días en la Oscuridad」(22、6話)で再びクラウディア・ディ・ジロラモと共演、実話に着想を得たミステリー、ある日突然失踪する主婦を演じている。本作は『暗闇の42日間』の邦題でNetflix ストリーミング配信中です。ラテンアメリカ諸国だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアで配信され、チリでもっとも成功したTVシリーズの代表作となっている。
★『1976』出演で、8月開催の第26回リマ映画祭2022で演技賞、東京国際映画祭の女優賞を受賞、次回作はバレリア・サルミエントの犯罪ミステリー「Detrás de la Lluvia」(22)、本作にはマヌエラ・マルテッリ、クラウディア・ディ・ジロラモが共演している。

(自分の行動がどれほど深刻か気づき始めるカルメン、『1976』から)
『ザ・ビースト』が東京グランプリ他3冠*東京国際映画祭2022 ⑧ ― 2022年11月03日 20:47
東京グランプリにロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』

★11月2日、第35回東京国際映画祭2022の授賞式が東京国際フォーラムでありました。ロドリゴ・ソロゴジェン(TIFF表記ソロゴイェン)の『ザ・ビースト』(西仏合作)が東京グランプリ/東京都知事賞・監督賞・男優賞(ドゥニ・メノーシェ)の3冠を受賞しました。他にスペイン語映画では、チリのマヌエラ・マルテッリのデビュー作『1976』に主演したアリネ・クッペンハイム(TIFF表記アリン・クーペンヘイム)が女優賞を受賞するなどした。コンペティション部門の受賞結果は以下の通り(タイトル、主製作国、監督など)、プレゼンターは各審査員。
◎東京グランプリ/東京都知事賞:『ザ・ビースト』(スペイン)、ロドリゴ・ソロゴジェン
監督欠席につきラテンビートFFプログラミング・ディレクターのアルベルト・カレロ・ルゴ氏が代理で受け取り、監督はビデオメッセージで挨拶、プレゼンターはジュリー・テイモア審査委員長、小池百合子都知事の両氏。


(小池都知事、カレロ・ルゴ氏、テイモア審査委員長)
◎審査員特別賞:『第三次世界大戦』(イラン)、ホウマン・セイエディ
監督欠席につき主演者マーサ・ヘジャーズィが代理で受け取り、プレゼンターはマリークリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル審査員。

(マーサ・ヘジャーズィ)
◎監督賞:ロドリゴ・ソロゴジェン『ザ・ビースト』、トロフィー授与は割愛、プレゼンターはジョアン・ペドロ・ロドリゲス審査員。
◎男優賞:ドゥニ・メノーシェ『ザ・ビースト』、欠席につきモントリオールからビデオメッセージ、トロフィー授与は割愛、プレゼンターはシム・ウンギョン審査員。

◎女優賞:アリネ・クッペンハイム『1976』(チリ)、欠席につきマヌエラ・マルテッリ監督が受け取り、受賞スピーチをした。クッペンハイムはサンティアゴからビデオメッセージ、プレゼンターは同上。


(シム・ウンギョン審査員、マヌエラ・マルテッリ監督)
◎芸術貢献賞:『孔雀の嘆き』(スリランカ)、サンジーワ・プシュパクマーラ監督、プレゼンターは柳島克己審査員。

◎観客賞:『窓辺にて』(日本)今泉力哉監督、プレゼンターは同上。

★以上がコンペティション部門7カテゴリーの受賞結果でした。応援していたわけではありませんが、カルロス・ベルムトの4作目『マンティコア』は残念でした。最後にクロージング作品、黒澤明の名作『生きる』の舞台を第二次世界大戦後のイギリスに移した『生きる LIVING』(主演ビル・ナイ)の監督オリヴァー・ハーマナスと、脚本を執筆したノーベル賞作家のカズオ・イシグロが〈黒澤愛〉を熱く語って終幕した。
★スペイン語映画のブロガーとして『ザ・ビースト』の3冠受賞が嬉しくないはずはありませんが、新進監督の発掘を掲げて始まった映画祭の作品賞が、カンヌ映画祭を皮切りに国際映画祭巡りをして受賞歴のある作品だったことに若干危惧を覚えました。当初の長編3作目までという決りも曖昧になっております。監督はデビュー当時の共同監督2作を含めると6作撮っており、TVシリーズのヒット作を多数手掛け、本国スペインではベテラン監督とまでは言いませんが新人枠ではありません。今回監督の代わりに来日したルイス・サエラがインタビューで「以前はアルモドバル映画に出たがりましたが、今はソロゴジェンです」と応じていた。これはちょっと大袈裟ですが話半分としても人気監督であることは確かです。話題作となった第2作「Stockholm」は、およそ10年前の2013年作品、3作目『ゴッド・セイブ・アス』(16)、5作目『おもかげ』(19)も公開されており、新進監督とは言い難い。

(男優賞受賞のドゥニ・メノーシェ、マリーナ・フォイス、『ザ・ビースト』から)
★映画賞ではなく映画祭賞は、個人的にはカンヌFFのように「1作1賞を基本とすべし」と考えています。とにかく観客賞を入れても7カテゴリーしかないのですから、審査委員長が「心理スリラーの傑作」と最大級の賞賛をしても3冠では引けてしまいます。しかし審査以前の作品選考に問題があるのかもしれません。スペイン語映画のグランプリは1998年のアメナバルの『オープン・ユア・アイズ』、2004年のフアン・パブロ・レベージャ他の『ウィスキー』(ウルグアイ)、どちらも長編2作目でした。大きな国際映画祭が終わった10月末開催の映画祭として不利であることを承知しつつも、新人発掘の更なる努力を期待したい。
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、黒澤明賞*東京国際映画祭2022 ⑦ ― 2022年11月01日 11:47
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ――黒澤明賞受賞と記者会見

(黒澤明賞のトロフィーを手にしたアレハンドロ・G・イニャリトゥ)
★10月29日、14年ぶりに復活した「黒澤明賞」の授賞式が帝国ホテルであり、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと深田晃司の両監督が受賞しました。当ブログ関連記事として前者イニャリトゥ監督の記者会見(YouTube)も合わせてアップしておきます。TIFFに詳しい記事が掲載されております。
★イニャリトゥ監督のキャリア&フィルモグラフィーは既に紹介済みなので割愛します。当映画祭との関りは、デビュー作『アモーレス・ぺロス』(99)が第13回TIFF 2000でグランプリ & 監督賞の2冠を制したときから始まった。まだ本部が渋谷のオーチャードホールにあった頃、映画館から観客の足が遠のき始め映画祭も深刻な岐路に立たされていた時代でした。幸運だったのは既にカンヌ映画祭併催の「批評家週間」でグランプリを受賞、下馬評でも先頭を走っていたから、ほぼ予想通りの受賞でした。第1話の主役、期待のガエル・ガルシア・ベルナルの来日はなかったものの、第3話の主役エミリオ・エチェバリアを迎えることができた。審査委員長が『ブリキの太鼓』(79)でパルムドールを受賞したフォルカー・シュレンドルフだったことも幸いしたかもしれない。2009年には、今度は自らがコンペティション部門の審査委員長を務めるために来日した。
★記者会見の監督によると、黒澤映画では『羅生門』は『アモーレス・ぺロス』に、『生きる』は『BIUTIFUL ビューティフル』に、『七人の侍』『乱』は『レヴェナント 蘇えりし者』に大きな影響を与えたと語っていた。詳しくはTIFFのイベントレポート、トーク(45分)がアップされている。

(黒澤監督〈愛〉を熱弁するアレハンドロ・G・イニャリトゥ)
★ガラ・セレクション上映となった『バルド、偽りの記録と一握りの真実』は、第79回ベネチア映画祭のコンペティション部門にノミネートされたほか、第70回サンセバスチャン映画祭ペルラス部門、第20回の節目をむかえたモレリア映画祭(10月22日~29日)のオープニング作品に選ばれている。それぞれ合間をぬって監督以下キャスト&スタッフが現地を訪れている。監督は日程がTIFFと重なっていたモレリアFFのオープニングを済まして東京入りしたようです。
*『バルド、偽りの記録と一握りの真実』の作品紹介は、コチラ⇒2022年09月08日

(監督、ヒメネス・カチョ以下出演者と。サンセバスチャン映画祭2022)
★自伝的な要素を含む最新作のタイトルに使用したバルドは、「チベット仏教用語で自分のアイデンティティの置き場がない」という意味の由、また「バイオグラフィというものを信用していない、嘘や偽善的な内容が含まれていたりして、結局、真実とは何かという問いになる」。また「記憶には真実が抜け落ちるからだ」と、もっともな返答でした。記憶は当てになりません、記憶しておきたくないものは忘れる、または別の話に塗り替えてしまうということでしょう。「フィクションにすることで真実をより昇華でき、高みに持っていけるし、隠れているものを炙り出せる。現実と空想の垣根を漂う作品であり、内省的な作品になった」と語っている。
★製作で大切なことは「キャスティングを間違えないこと、形容詞ではなく動詞で考えること、俳優と共通言語をもつこと」と答えていました。また観客へのサジェスチョンには、「個人的な視点で撮っていますが、普遍的なテーマ、例えば父性、喪失感、愛、不確実性を描いていて、これはワカモレ*のような映画です」ということでした。「メキシコと日本は遠く離れていますが、私は日本文化、文学や音楽に親近感をもっていて、坂本龍一さんの音楽は私の人生のサウンドトラックのようなものです。『レヴェナント』で仕事ができて光栄に思いました」と。文学では松尾芭蕉、三島由紀夫、村上春樹、監督では小津、溝口、エトセトラ、の名を挙げていました。
*ワカモレはアボカドをメインに唐辛子、トマト、タマネギ、コリアンダーに塩レモンを加えて作られたメキシコ料理のサルサの一種、トルティーヤチップスと一緒に食べることが多く、語源はナワトル語でワカ(アボカド)モレ(ソース)。
★ワカモレ映画『バルド、偽りの記録と一握りの真実』は、劇場公開後、12月16日からNetflixで配信が開始されます。
ジョアン・ペドロ・ロドリゲスの『鬼火』*東京国際映画祭2022 ⑥ ― 2022年10月25日 14:43
ロドリゲスの第6作目『鬼火』は「ミュージカル・ファンタジー」?

(ポルトガル語版のポスター)
★第35回TIFFの審査員の一人であるジョアン・ペドロ・ロドリゲスの『鬼火』は、作品紹介によると「消防士として働く白人青年と黒人青年のラブ・ストーリーを様々なジャンルを混交させて描いた作品。特にミュージカル風演出が見事である」とある。魅力に乏しい紹介文だが、監督の5作目となる『鳥類学者』をワールド・フォーカス部門で観ていた方は「うん?」と首を傾げたに違いない。本作は第69回ロカルノ映画祭2016で監督賞を受賞して世界の映画祭巡りをした話題作。デンバーFFクシシュトフ・キェシロフスキ賞、シネフォリア賞2017脚本・観客・年間ベストテン入り、イスタンブールFF作品賞、リバーランFF審査員賞受賞ほか、ノミネートはサンセバスチャンFF、ブエノスアイレス・インデペンデントシネマFF、イベロアメリカ・フェニックス賞2017、ゴールデン・グローブ賞ではポルトガル代表作品に選ばれている。

(監督賞の銀豹のトロフィーを手にした監督、ロカルノ映画祭2016にて)
『鬼火』(原題「Fogo-Fátuo」英題「Will-o’-the Wisp」)
製作:Filmes Fantasma / House on Fire / Terratreme Filmes
監督:ジョアン・ペドロ・ロドリゲス
脚本:パウロ・ロペス・グラサ、ジョアン・P・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ
撮影:フイ・ポサス(ルイ・ポサス)
音楽:パウロ・ブラガンサ
音響:ヌノ・カルヴァーリョ
編集:マリアナ・ガイヴァン
衣装:パトリシア・ドリア
プロダクション・デザイン & 美術:ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ
製作者:ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・マトス、ヴィンセント・ワン
データ:製作国ポルトガル=フランス、2022年、ポルトガル語・英語、ドラマ、67分、第19回ラテンビート映画祭 IN TIFF共催、アジアン・プレミア
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2022併催の「監督週間」クィア・パルムノミネート、ミュンヘン映画祭CineRebels 賞ノミネート、ブリュッセル映画祭監督週間賞受賞、以下エルサレム、トロント、ニューヨーク、リオデジャネイロ、アデライード、ベルゲン、ウイーン、東京、など各映画祭上映作品。
キャスト:マウロ・コスタ(アルフレード王子)、アンドレ・カブラル(教官アフォンソ)、ジョエル・ブランコ(2069年のアルフレード)、オセアノ・クルス(2069年のアフォンソ)、マルガリーダ・ヴィラ=ノヴァ(母テレザ)、ミゲル・ロウレイロ(父エドゥアルド)、ディニス・ヴィラ=ノヴァ(セバスティアン)、テレザ・マドゥルガ(家政婦)、アナ・ブストルフ(アルフレードの義姉)、クラウディア・ジャルディン(消防隊指揮官)、パウロ・ブラガンサ(アルフレードの従兄)、アナベラ・モレイラ、ほか消防士多数
ストーリー:2069年、王冠のないアルフレード王は、子孫を残すことなく静かに死の訪れを待っている。彼の死の床では古い歌が遠い青春の記憶へと彼を連れ戻していく。国のため軍人ではなく平和の兵士になることを決意したアルフレード王子は、ボランティアの消防士として入隊します。そこで彼の指導教官となったアフォンソと運命の出会いをする。特権階級の息子である白人青年と、黒人移民の流れを汲む黒人青年がかもし出す禁断の愛のエロティシズムが視聴者を挑発する。君主制と共和制の対立、過去のポルトガル帝国主義と植民地時代、夏になるとポルトガルを荒廃させる森林火災の危険、人種的性的偏見を打倒する政治的コメディ、視聴者を楽しませ、考えさせるミュージカル。 (文責:管理人)

(消防士になりたいと告白するアルフレード王子)

(アフォンソ、ユニークな指揮官、アルフレード王子)



★ポルトガルは、1910年10月5日、革命が成功し共和政に移行しているので既に王室は存在しない。2002年、ポルトガル帝国は名目上の植民地東ティモールが独立して、21世紀の幕開けと同時に帝国は完全に消滅している。かつての帝国主義の伝統を廃止したはずだが、後継者をプリンスと呼ぶのは、君主政体へのノスタルジアでしょうか。カラヴァッジオの宗教画が出てくるようですが、画家の描く宗教画にはエロティシズムが含まれており、それらは教会から拒絶されたものだった。監督の作品では、エロティシズムは重要な部分を占めている。夏になると年中行事のように貧しいポルトガルを脅かす森林火災は、気候変動の危機を現し、アルフレードが消防士をめざすのは国のためである。評価は観る人次第ですが、こんなに沢山のテーマを詰め込んで、たったの67分とは驚きです。

(主演者二人とロドリゲス監督)
★監督紹介:1966年リスボン生れ、監督、脚本家、製作者、俳優、短編ドキュメンタリー5作では撮影監督でもある。リスボンの映画演劇学校で「ノヴォ・シネマ」のアントニオ・レイス監督のもとで学んだ後、アルベルト・セイシャス・サントスやテレザ・ヴィラヴェルデのアシスタントとしてキャリアをスタートさせた。長編デビュー作『ファンタズマ』(00)はベネチア映画祭コンペティション部門でプレミアされ、ベルフォール・アントルヴュ映画祭(フランス)で外国語映画賞、翌年ニューヨークLGBT映画祭でベスト・フィーチャーを受賞した。以下に長編ドラマ6作を列挙しておきます。
2000「O Fantasma」『ファンタズマ』監督・脚本、90分
2005「Odete」『オデット』監督・脚本、98分
*カンヌFF 監督週間 CICAE 賞スペシャル・メンション、ボゴタFFブロンズ・プレコロンビア・サークル賞、ミラノ・レズビアン&ゲイFF作品賞など受賞
2009「Morrer Como Um Homem」『男として死ぬ』監督・脚本・編集、133分
*カンヌFF「ある視点」でプレミア、ポルトガル製作者賞2010受賞、シネポート-ポルトガルFFベストフィルム部門ツバメ杯受賞、メジパトラ・クィアFF(チェコのLGBT映画祭)審査員大賞など受賞
2012「A Ultima Vez Que Vi Macau」『追憶のマカオ』
ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタと共同で監督・脚本・編集・出演、82分
*第65回ロカルノFFスペシャル・メンション、トリノFF2012トリノ市賞、監督賞スイス批評家ボッカチオ賞、ポルトガル映画アカデミー・ソフィア賞2014、ポルトガル製作者賞2014などを受賞
2016「O Ornitólogo」『鳥類学者』監督・脚本・出演、117分
*最多受賞歴を誇る(21賞・48ノミネート)作品、上述の他、メジパトラ・クィアFF審査員大賞、ブラック・ムービーFF批評家賞などを受賞
2022「Fogo-Fátuo」『鬼火』監督・脚本・製作、67分、上述の通り
★邦題は、4作目まではアテネ・フランセ文化センターで2013年3月23日~31日に開催された「ジョアン・ペドロ・ロドリゲス・レトロスペクティヴ回顧展」の折り付けられたもの。5作目と新作はTIFF「ワールド・フォーカス部門」上映です。回顧展では、ベネチア映画祭1997でスペシャル・メンションを受賞した短編『ハッピー・バースデー!』(97、14分)、『チャイナ・チャイナ』(07、19分)、『聖アントニオの朝』(11、25分)など7作が上映された画期的なミニ映画祭でした。その後、川崎市市民ミュージアム、関西でも開催されている。
★最新作の共同執筆者であるジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタは、ポルトガルの植民地だったモザンビーク共和国の首都ロウレンソ・マルケス(現マプトの旧称)生れ、アートディレクター、脚本家、監督、俳優、撮影監督、編集者と多才。『ハッピー・バースデー!』で主演した。30年近い公私にわたるパートナーです。デビュー作『ファンタズマ』以来、『男として死ぬ』、『鳥類学者』と新作含めて4作の美術を手掛け、『追憶のマカオ』では共同で脚本執筆、編集と監督、俳優としても出演している。『チャイナ・チャイナ』の共同監督、『聖アントニオの朝』のアートディレクターなども手掛けている。本祭で上映される『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』は、ロドリゲスと共同で監督している。

(製作者ジョアン・マトス、監督、ゲーラ・ダ・マタ、ニューヨークFF2022にて)
★両人とも日本贔屓らしく度々来日しているから、公開作品がないわりには情報は豊富、映画監督でなかったら鳥類学者になりたかったというロドリゲス監督、双眼鏡をお供に旅好きでもある。一方70年代にはマカオに住んでいたゲーラ・ダ・マタは、テレビでポルトガル語の映画が放映されていなかったので、60年代の日本映画『ゴジラ』や『モスラ』を見ており、特に「鉄腕アトム」のファンだったという。
ルクレシア・マルテル短編『ルーム・メイド』*東京国際映画祭2022 ⑤ ― 2022年10月19日 14:48
ラテンアメリカ諸国に巣食う社会格差やDVに焦点を当てた短編

★ルクレシア・マルテルの『ルーム・メイド』は、ワールド・フォーカス部門上映のコロンビア映画『ラ・ハウリア』(監督アンドレス・ラミレス・プリド)と併映される、メキシコ=アルゼンチン合作短編です。マルテル映画は伏線が巧妙に張り巡らされ、処々に潜んでいるメタファーの読み解きが楽しいが、『パシフィクション』のアルベルト・セラ同様、咀嚼と消化に時間がかかり万人向きとは言えない。幸いにも「サルタ三部作」を含む長編4作が、テレビ放映、あるいはラテンビートFFで上映されている。「サルタ三部作」というのは、デビュー作『沼地という名の町』(01)、『ラ・ニーニャ・サンタ』(04)、『頭のない女』(08)の3作を指し、監督の出身地アルゼンチン北部のサルタ州が舞台になっていることから名付けられた。第4作目が約十年ぶりに撮った『サマ』(17)で、アントニオ・ディ・ベネデットの同名小説 ”Zama” の映画化でした。当ブログで作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィー、原作者などを紹介しています。
*『サマ』に関するもろもろの記事は、コチラ⇒2017年10月13日/同年10月20日

(長編デビュー作『沼地という名の町』のポスター)
★ルクレシア・マルテル(サルタ1966)は、1988年短編アニメーション「El 56」でデビュー、翌年母親のフィアンセ殺害を夢想する小さな男の子のきわどい話、牛の放牧に従事する先住民コミュニティのメンバーが不法に土地を所有した人々から土地を奪還しようとする話など10編ほど短編を撮っている。長編は4作と寡作だが、ほかにTVシリーズ、TVムービー・ドキュメンタリー、アンソロジーも手掛けている。

(ルクレシア・マルテル監督)
★今回の『ルーム・メイド』(12分、メキシコとの合作)は、ベネチア映画祭アウト・オブ・コンペティション部門で「Camarera de piso / Maid」としてワールドプレミアされた。本短編はメキシコ国立自治大学 UNAM から委託されフィルモテカを通じて、シンテシス・プログラムの枠組みのなかで製作されている。監督によると「私はコンテンポラリーダンスを視聴覚言語と関連づける方法を見つけるよう提案されていました」と語っている。メキシコとの合作になった経緯は分かったが、コンテンポラリーダンスと本編がどう繋がるのかイメージできない。見れば分かるのか、見ても分からないのかどちらだろう。
『ルーム・メイド』(原題「Camarera de piso / Maid」)
製作:UNAM Hugo Villa Smythe(メキシコ)/ Rei Cinema(アルゼンチン)
監督・脚本:ルクレシア・マルテル
撮影:フェデリコ・ラストラ
編集:イエール・ミシェル・アティアス
プロダクション・デザイン:エドナ・モスティッツァー Mostyszczer
録音:グイド・ベレンブラム、マヌエル・デ・アンドレス
製作者:(メキシコ)フアン・アラヤ、(アルゼンチン)ベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガレリ、マティアス・ロベダ
データ:製作国メキシコ=アルゼンチン、2022年、ドラマ、短編12分
映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022アウト・オブ・コンペティション短編部門正式出品、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映
キャスト:ホルヘリーナ・コントレラス(パトリ)、ダニエル・バレンスエラ(影の声)、アナベリ・アセロ、アリエル・Gigena
解説:ストーリーはTIFF もラテンビートもストーリー紹介文がありません。パトリはメイドになるための研修期間中で、指導者からトレーニングを受けている。しかし研修中にもかかわらず、家族から玄関先に迫ってくる危機についての電話が絶え間なく掛かってくる。電話に出ると当然のことだが上司から叱責されます。どうやらパトリはパートナー(夫?)からの虐待に苦しんでいるようです。彼女はパートナーとの接触や報復から子供を守りたいと考えているようですが・・・。UNAMの提案によるコンテンポラリーダンスは出てこないが、現在の労働圧力、ドメスティック・バイオレンス、階級格差、マッチョの犠牲者である働く母親の居場所のなさを見つめる短編になっているようです。 (文責:管理人)
★スタッフ紹介:フィルム編集のイエール・ミシェル・アティアスは、サンティアゴ・ロサの「Breve historia del planeta verde」(ベルリン映画祭2019)の編集者、撮影監督のフェデリコ・ラストラは、マキシミリアノ・シェーンフェルドの「Jesús López」(サンセバスチャン映画祭2021ホライズンズ・ラティノ部門のオープニング作品)、録音のグイド・ベレンブラム、マヌエル・デ・アンドレスは『サマ』で監督とタッグを組んだメンバーとアルゼンチン・サイドで固めている。
★キャスト紹介:メイド役のホルヘリーナ・コントレラスとアナベリ・アセロは、本作でデビューしたのか本作以外の情報を入手できませんでした。ダニエル・バレンスエラはマルテル監督の『沼地という名の町』に出演しており、ほかパブロ・トラペロのデビュー作「Mundo grúa」(99)、マルセロ・ピニェイロの『逃走のレクイエム』(00)、イスラエル・アドリアン・カエタノのヒット作「Un oso rojo」(02)以下、「Crónica de una fuga」(06)など度々起用されています。主役というより脇役として存在感がある。アリエル・Gigenaは、邦題『コブリック大佐の決断』としてDVD発売された「Kóblic」(16)に出演している。というわけでアルゼンチン映画のようです。

(メイドのホルヘリーナ・コントレラス)
*TIFF プログラミング・ディレクター市山尚三氏の「作品見どころ解説」によると、「びっくりする短編、電話から誰かに脅されている様子がわかり、後半はあっと驚く先が読めない短編」ということでした。
*「Breve historia del planeta verde」の作品紹介は、コチラ⇒2019年02月19日
*「Jesús López」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月30日
『ザ・ウォーター』エレナ・ロペス・リエラ*東京国際映画祭2022 ④ ― 2022年10月17日 10:54
「ユースTIFFティーンズ」にエレナ・ロペス・リエラの『ザ・ウォーター』

★ユース部門には「チルドレン」と「ティーンズ」があり、エレナ・ロペス・リエラの『ザ・ウォーター』がエントリーされた後者は、主に高校生に観てもらいたい映画から選んでいるそうです。『ザ・ウォーター』が高校生を対象にしている作品とは思いませんが、取りあえず字幕入りで観られるのを歓迎したい。TIFFの「ひと夏の瑞々しい青春映画」という紹介文の是非は問いませんが、世代を問わない佳作であるのは間違いない。カンヌ映画祭と併催の「監督週間」でワールドプレミアされ、トロント、サンセバスチャン、ヘルシンキ、チューリッヒなど各映画祭をめぐってTIFFにやってきます。

★当ブログでは、サンセバスチャン映画祭2018サバルテギ-タバカレラ部門で上映され、スペシャル・メンションを受賞した短編ドキュメンタリー「Los que desean」(24分)を簡単に紹介しています。本作はヨーロッパ映画賞にノミネートされ、ロカルノ映画祭で短編部門(パルディ・ディ・ドマーニ)の作品賞パルディノ・ドール(Pardino d’Oro)を受賞した彼女の代表作です。
*「Los que desean」の紹介は、コチラ⇒2018年08月01日

(パルディノ・ドールのトロフィーを手にした監督、ロカルノFF 2018)

(短編「Los que desean」のフレームから)
『ザ・ウォーター』(原題「El agua」英題「The Water」)
製作:ALINA FILMS (スイス)/ Les Films du Worso(フランス)/ Suica Films(スペイン)
監督:エレナ・ロペス・リエラ
脚本:エレナ・ロペス・リエラ、フィリップ・アズリー
撮影:ジュゼッペ・トルッピ
編集:ラファエル・ルフェーブル
音楽:Mandine Knoepfel
録音:カルロス・イバニェス、マチュー・ファルナリエ、ドニ・セショー
プロダクション・デザイン:ミゲル・アンヘル・レボーリョ
メイクアップ:カトリーヌ・ジング
製作者:ユージニア・ムメンターラー、ダビ・エピニー
データ:製作国スイス=フランス=スペイン、2022年、スペイン語、ドラマ、105分、イクスミラ・ベリアク(Ikusmira Berriak)2018、2019年カンヌFFシネフォンダシオンのCNC 賞受賞、撮影地バレンシア州アリカンテ県オリウエラ、配給スペインElastica Films、公開スペイン11月4日
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭「監督週間」ゴールデンカメラ賞ノミネート、以下トロントFF、サンセバスチャンFFタバカレラ賞ノミネート、ヘルシンキFF、オウレンセFF、トゥルーズ・シネエスパーニャFFノミネート、チューリッヒFFゴールデンアイ賞ノミネート、東京国際映画祭ユース TIFF ティーンズ部門、ストックホルムFF、など。
キャスト:ルナ・パミエス(アナ)、バルバラ・レニー(母親イザベル)、ニエベ・デ・メディナ(祖母)、アルベルト・オルモ(ボーイフレンド、ホセ)、イレネ・ぺリセル、ナヤラ・ガルシア、他
ストーリー:スペイン南東部の小さな村では、夏には暴風雨により村の近くを流れる川が再び氾濫する怖れがあります。昔からの言い伝えによると、一部の女性たちは「内部に水」をもっているため、新たな洪水が起きるたびに姿を消す運命にあると、長いあいだ信じられています。死の臭いが漂う村で、アナは村人の不信の視線を感じながら母親と祖母と暮らしています。若者のグループがタバコを吸ったり、踊ったり、羽目を外して夏の倦怠感を克服しようとしています。嵐に先だつこの刺激的な雰囲気のなかで、アナはホセに恋をするのですが、同時にファンタズマを吹き飛ばすために闘うことになるだろう。若い女性の覚醒とレジスタンスが語られる。(文責:管理人)

(アナ役ルナ・パミエスと母親役のバルバラ・レニー)

(アナと祖母役のニエベ・デ・メディナ)

(アナとボーイフレンドのホセ役アルベルト・オルモ)
★エレナ・ロペス・リエラ監督紹介:1982年アリカンテ県オリウエラ生れ、ビジュアルアーティスト、監督、脚本家、女優。バレンシア大学で視聴覚コミュニケーション学の博士号を取得、その後ジュネーブ大学、マドリードのカルロスⅢ大学で学ぶ。2008年からスイスに転居、パリとジュネーブに在住、ジュネーブ大学で映画と比較文学を教えている。セビーリャ・ヨーロッパ映画祭、スイスのVisions du Réelのプログラマーを務め、 2017年から選考委員会のメンバーである。2021年サバルテギ-タバカレラ部門の審査員を務めた。新しい視聴覚機器の研究と実験をめざすアーティスト集団 lacasinegra の共同創設者の一人。「私の芸術的実践の主な目的は、動画を通して、男性と女性、現実と幻想、ドキュメンタリーとフィクションなど、学習され伝達され、繰り返される概念の境界を越えること」と語る監督は、カンヌのインタビューでは「言い伝えが現実と一体化して、誰もそれを切り離すことができない」と語っている。
★フィルモグラフィー:2015年、短編「Pueblo」(27分)がカンヌ映画祭「監督週間」にノミネートされ、スペインの最初の女性監督となった。2016年、第2作目となる「Las vísceras」(英題「The entrails」16分)、「はらわた」というタイトルの本作は監督の故郷を舞台にしたドキュメンタリー、ロカルノ映画祭短編部門に正式出品された。第3作目が上記のドキュメンタリー「Los que desean」(英題「Those Who Lust」24分、スイスとの合作)である。長編デビュー作『ザ・ウォーター』は、サンセバスチャンFFのイクスミラ・ベリアク2018に選ばれ、REC Grabaketa Estudioa賞を得る。さらに2019年カンヌFFのシネフォンダシオンCNC賞を取得して『ザ・ウォーター』の製作資金となった。因みに一緒に受賞したのが『悲しみに、こんにちは』(17)の監督カルラ・シモンで、彼女の第2作目「Alcarras」(22)の製作資金となった。

(エレナ・ロペス・リエラとカルラ・シモン)
★本作はスペイン南東部、オレンジとタバコ栽培が主産業の監督の生れ故郷、〈ヨーロッパで最も汚染された川の一つ〉と言われるセグラ川が流れるベガ・バハ・デル・セグラで撮影された。現実と幻想の境界が混在する小さな村で、視聴者は17歳のアナに出会います。ここでは川は常に死と関わり合っており、母親は最近の洪水で行方不明になっていた。プロフェッショナルな俳優は母親役のバルバラ・レニーと祖母役のニエベ・デ・メディナ以外は、アナ役のルナ・パミエス以下すべてアマチュアだそうです。監督の母親や従姉たちも出演しているということです。ニエベ・デ・メディナ(マドリード1962)は、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』でルイス・トサールと夫婦役を演じ、シネマ・ライターズ・サークル賞やACE賞の助演女優賞、スペイン俳優組合新人・助演女優賞などを受賞しているベテラン演技派です。監督が信頼を寄せる撮影監督ジュゼッペ・トルッピはデビュー作以来、全作を手掛けている。

(撮影中の監督、カウンターの中に見えるのがルナ・パミエス)
★劇中で語られる水にまつわる伝説を信じている女性たちによって同じように育てられたという監督は、「恐怖を植え付ける方法はいくらでも存在します。レイプされるから夜は外出するな、アルコールは飲むな」、つまりレイプされるのは女性が夜歩きしたり飲酒をしたせいだという論法です。娘への愛から発したことも暴力になり得る。このような負の遺産は女性たちの心の中に内面化していくが、「母親や祖母たちもその考え方の犠牲者だ」と語る監督は、物語を3世代の女性に焦点を当てた理由を述べている。また映画製作の動機を「晩御飯のメニューを話しながら、祖母が医者に行く代わりに民間療法師に頼る話をする、二つに違いはなく、言い伝えと現実が混然一体となっているのが日常」だったことをあげている。昔話や占星術、宗教を必要とする人々が存在するのは普遍的です。


(サンセバスチャン映画祭でインタビューをうける監督、9月18日)
★「女性蔑視の社会で育った私は、今の10代の若者とは違って、自分のことを恥ずかしく思っていて、ほとんど前屈みで過ごした。マッチョ文化の悪影響は女性に限らず男性にとっても不幸です。幸い今の男の子は違います」と次の世代に希望を託しているようです。しかし「10代の演技経験のない若者を監督するのはもう大変で、ショックの連続でした。彼らは映画を観ることはなく、もっぱらネットフリックスでTVシリーズを見ているだけでしたから」と。30代にとって20代がエイリアンなら、10代の若者は何に譬えればいいのでしょうか。
★「ひと夏の瑞々しい青春映画」ではありますが、視点を変えると奥はかなり深そうです。映画の観方はそれぞれ違い、観た人が各々判断すればいい。
★映画祭のQ&A登壇者に、コンペティション部門の『1976』のマヌエラ・マルテッリ監督、『ザ・ビースト』にはスペイン・サイドの主演者ルイス・サエラ、『マンティコア』のカルロス・ベルムト、ワールド・フォーカス部門の『ラ・ハウリア』の製作者ジャン・エティエンヌ・ブラットとルー・シコトー、審査員でもあるポルトガルのジョアン・ペドロ・ロドリゲスの名前がアナウンスされています。
アルベルト・セラの『パシフィクション』*東京国際映画祭2022 ③ ― 2022年10月13日 16:26
ワールド・フォーカス部門――ラテンビート映画祭共催作品

★ワールド・フォーカス部門には、第19回ラテンビート映画祭 IN TIFFとして、コロンビア映画アンドレス・ラミレス・プリドの『ラ・ハウリア』(スペイン語)、同時上映のアルゼンチンからルクレシア・マルテルの短編『ルーム・メイド』(12分)、ポルトガル語映画ジョアン・ペドロ・ロドリゲス&ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタの『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』とロドリゲスの『鬼火』、今回アップするアルベルト・セラの『パシフィクション』(仏語・英語)がエントリーされています。
★『パシフィクション』は、カンヌ映画祭2022コンペティション部門ノミネート作品、批評家からは絶賛されましたが、万人受けする映画でないことは確かです。カンヌ以降数々の映画祭で上映されていますが、目下のところデータベースを探す限り受賞歴はないようです。当ブログでは第75回カンヌ映画祭でアウトラインはアップ済みですが、TIFF とラテンビート共催作品ということで改めてご紹介します。スペイン・プレミアはサンセバスチャン映画祭メイド・イン・スペイン部門で上映されました。
*カンヌ映画祭2022の記事は、コチラ⇒2022年06月10日

(左から、パホア・マハガファナウ、ブノワ・マジメル、セラ監督、
モンセ・トリオラ、カンヌ映画祭2022、5月26日フォトコール)
『パシフィクション』(原題「Tourment sur les iles」 英題「Pacifiction」)
製作:Andergraund Films / Arte France Cinéma / Institut Catala de les Empreses Culturals ICEC / ICAA / Rosa Films / Rádio e Televisao de Portugal RTP / Tamtam Film / TV3
監督・脚本:アルベルト・セラ
撮影:アルトゥール・トルト(トール)
編集:アリアドナ・リバス、アルベルト・セラ、アルトゥール・トルト
音楽:マルク・ベルダゲル
音響:ジョルディ・リバス
プロダクション・マネジメント:Eugénie Deplus、クラウディア・ロベルト
製作者:マルタ・アルベス、ピエール=オリヴィエ・バルデ(仏)、ダーク・デッカー、ジョアキン・サピニョ(葡)、アンドレア・シュッテSchütte、アルベルト・セラ、(エグゼクティブ)モンセ・トリオラ(仏)、ローラン・ジャックマン、エリザベス・パロウスキー、ほか
データ:製作国フランス=スペイン=ドイツ=ポルトガル、フランス語・英語、2022年、スリラードラマ、165分、配給Films Boutique、公開スペイン(バルセロナ、マドリード)、アンドラ、フランス(11月9日)
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2022コンペティション部門、エルサレムFF 国際映画部門、北京FF、香港FF、トロントFF、ミュンヘンFF、サンセバスチャンFFメイド・イン・スペイン部門BFI ロンドンFF、ニューヨークFF、釜山FF、リガFF、ゲントFF、TIFF、ほか
キャスト:ブノワ・マジメル(ド・ロレール De Roller)、セルジ・ロペス(モートン)、リュイス・セラー(ロイス)、パホア・マハガファナウ(シャナ)、モンセ・トリオラ(フランチェスカ)、マルク・スジーニ(ラミラル)、マタヒ・パンブルン(マタヒ)、セシル・ギルベール(ロマネ・アティア)、バティスト・ピントー、マイク・ランドスケープ、マレバ・ウォン、アレクサンドル・メロ、ミヒャエル・ヴォーター、ラウラ・プルヴェ、ローラン・ブリソノー、サイラス・アライ、ほか
ストーリー:フランス領ポリネシアのタヒチ島で、共和国高等弁務官を務めるフランス政府高官のド・ロレールは、完璧なマナーを備えた計算高い人物である。公式のレセプションでも非合法な機関でも同じように、彼は地元住民の意見に耳を傾けることを怠らず、いつ何時でも彼らの怒りをかき立てることができるようにしています。そして非現実的な存在の潜水艦の目撃が、フランスの核実験再開を告げる可能性があるという根強い噂が広まるときには尚更です。不確実性、疑惑、不作為、フェイクニュースが蔓延する政治スリラー。

(リネンの白ジャケットで身を固めたブノワ・マジメル、フレームから)
★前作『リベルテ』よりもストーリーテリングに重きをおいて少しは親しみやすくなっているようですが、正統的な物語システムとは異なっているようで、逆により複雑になっている印象をうけます。「類似作品を見つけることは不可能」と批評家、困りますね。カンヌでは165分の長尺にもかかわらず、上映後のオベーションは7分間と、批評家やシネマニアには受け入れられましたが、万人受けでないことは明らかでしょう。フランスで小説家として成功して故郷に戻ってきた女性との奇妙なロマンスも語られるようですが、エロティシズムは潜在的、前作『リベルテ』とは打って変わってセックスシーンはスクリーンから除外されている。予告編から想像できるのは、何の対策も持ち合わせていない政治家たちを批判しているようです。タイトルとは異なり不穏な雰囲気が漂っている。



★監督紹介:1975年カタルーニャのジローナ県バニョラス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台演出家。2003年、故郷ジローナ県の小村クレスピアを舞台にアマチュアを起用したミュージカル「Crespia」(84分)で長編デビューをする。2006年、第2作『騎士の名誉』がカンヌFF と併催の「監督週間」で上映され、批評家の注目を集める。2009年からガウディ賞に発展するバルセロナ映画賞カタルーニャ語作品賞・新人監督賞受賞、トリノFF脚本賞他、ウィーンFFFIPRESCI 賞などを受賞する。2008年の『鳥の歌』(モノクロ、カンヌ監督週間)は、名称が変わった第1回ガウディ賞のカタルーニャ語部門の作品賞と監督賞を受賞した。2010年コメディ「Els noms de Crist」(仮題「キリストの名前」ロッテルダムFF2012出品)、2011年ドキュメンタリー『主はその力をあらわせり』、2013年、女性遍歴のすえ最後の日々を送るカサノヴァと不死を生きるドラキュラの出会いを退廃と暴力で描いた『私の死の物語』(ロカルノFF)で金豹賞を受賞し、大きな転機となる。

(金豹賞のトロフィーを手にした監督、ロカルノ映画祭2013)
★2016年『ルイ14世の死』(カンヌ特別招待作品)は、シネフォリア映画賞グランプリ以下、ジャン・ヴィゴ賞、エルサレムFFインターナショナル作品賞など数々の国際映画賞を受賞した。2017年11月、監督を招いて開催された広島国際映画祭で「アルベルト・セラ監督特集」が組まれ本作と『鳥の歌』、引き続きアテネ・フランセ文化センターでは、『騎士の名誉』、『私の死の物語』にドキュメンタリをー加えた5作が上映された。翌2018年の劇場公開(5月26日シアター・イメージフォーラム)に先駆けて、「〈21世紀の前衛〉アルベルト・セラ お前は誰だ!?」(19日~25日)と銘打ったセラ特集上映会が開催され、ドキュメンタリーを含む過去の4作が同館でレジタル上映された。監督は会期中に再び来日している。

(ジャン・ヴィゴ賞受賞のセラ監督)
★2019年『リベルテ』(原題「Liberaté」138分)は、カンヌ映画祭「ある視点」にノミネートされ、特別審査員賞を受賞した他は、ガウディ賞、シネフォリオ映画賞、モントリオールFF、ミュンヘンFFともノミネートに止まった。前年2月、ベルリンのフォルクスビューネ劇場で、セラ自身の演出で初演されたものがベースになっている。晩年のヴィスコンティが寵愛したヘルムート・バーガーが両方に主演している。本作に出演者のうちマルク・スジーニ、リュイス・セラー、ラウラ・プルヴェ、バティスト・ピントー、モンセ・トリオラなどが新作と重なっている。なお邦題は、2020年3月アンスティチュ・フランセ関西でR16の制限付きで上映されたときに付けられた。
*『私の死の物語』の紹介記事は、コチラ⇒2013年08月25日
*『リベルテ』作品紹介&監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2019年04月25日
★セラの全作品を手掛けるモンセ・トリオラは、カタルーニャ出身のプロデューサー、女優でもある。制作会社 Andergraund Films の代表者。女優としてはセラのデビュー作「Crespia」以下、『騎士の名誉』、『鳥の歌』、「キリストの名前」、『私の死の物語』、『リベルテ』、『パシフィクション』に出演、新作では故郷に戻ってきた作家を演じるようです。「ヨーロッパには、アングロサクソン諸国とは違って、他国との共同製作の伝統があり、弱小のプロジェクトにとっては大変働きやすい」と語っている。下の写真は『リベルテ』がノミネートされたガウディ賞2020のフォトコール、衣装デザイナーのローザ・タラットが衣装賞を受賞した。

(左から、モンセ・トリオラ、セラ監督、ローザ・タラット、ガウディ賞2020ガラ)
★チケット発売は10月15日と目前ですが、ラテンビート2022のサイトは Coming soon です。
カルロス・ベルムトの『マンティコア』*東京国際映画祭2022 ② ― 2022年10月08日 16:05
カルロス・ベルムトの第4作目『マンティコア』はスリラードラマ

★カルロス・ベルムトの第4作目『マンティコア』は、コンペティション部門上映、既にトロント映画祭 tiff でワールドプレミアされました。スペインではシッチェス映画祭でプレミアされ、東京国際映画祭 TIFF にもやってきます。当ブログでは3作目の『マジカル・ガール』(14)と4作目の『シークレット・ヴォイス』(18)を紹介しています。
*『マジカル・ガール』の主な作品紹介は、コチラ⇒2015年01月21日
*『シークレット・ヴォイス』の主な作品紹介は、コチラ⇒2019年03月13日
『マンティコア』(原題「Manticora」英題「Manticore」)
製作:Aquí y Allí Films / BTeam Pictures / Crea SGR / Punto Nemo / ICAA / Movistar+/ RTVE / TV3
監督・脚本:カルロス・ベルムト
撮影:アラナ・メヒア・ゴンサレス
編集:エンマ・トゥセル
キャスティング:マリア・ロドリゴ
プロダクション・デザイン&美術:ライア・アテカ
セット:ベロニカ・ディエス
衣装デザイン:ビンイェット・エスコバル
メイクアップ&ヘアー:ヘノベバ・ガメス(メイク部主任)、アイダ・デル・ブスティオ(ヘアー)
プロダクション・マネジメント:ララ・テヘラ(主任)、ラウラ・ガルシア
製作者:ペドロ・エルナンデス・サントス(Aquí y Allí Films)、アレックス・ラフエンテ(BTeam Pictures)、ロベルト・ブトラゲーニョ、アマデオ・エルナンデス・ブエノ、アルバロ・ポルタネット・エルナンデス、(エグゼクティブ)ララ・ぺレス=カミナ、アニア・ジョーンズ
データ:製作国スペイン、スペイン語、2022年、スリラードラマ、115分、撮影地マドリード、カタルーニャ州、2021年5月~7月、ICAA 2020の選考委員会の最高評価を受け製作資金を得る。配給 BTeam Pictures、国際販売フィルム・ファクトリー、スペイン公開11月4日
映画祭・受賞歴:トロント映画祭2022コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門でワールドプレミア9月13日、オースティン・ファンタスティック・フェスト9月23日、BFIロンドン映画祭10月5日、シッチェス映画祭(カタルーニャ国際ファンタスティックFF)10月7日、東京国際映画祭コンペティション部門正式出品10月26日
キャスト:ナチョ・サンチェス(フリアン)、ゾーイ・スタイン(ディアナ)、カタリナ・ソペラナ、ビセンタ・ンドンゴ、イグナシオ・イサシ(スンマ医師)、ミケル・インスア、ハビエル・ラゴ、アンヘラ・ボア、ジョアン・アマルゴス、パトリック・マルティノ、アレバロ・サンス・ロドリゲス(クリスティアン)、アルベルト・オーセル(ラウル)、アランチャ・サンブラノ(外傷学の医師)、チェマ・モロ(警官)、アイツベル・ガルメンディア(サンドラ)ほか多数

(ディアナとフリアン)
ストーリー:フリアンはビデオゲーム会社のデザイナーで、ゲーマーが好むモンスターやクリーチャーを作成している。内気なフリアンは或る暗い秘密に悩まされているのだが、彼の人生にディアナが現れたことで一筋の光を目にする。現代の愛と私たちのなかに住んでいる本物のモンスターについての神秘的な物語、フリアンのトラウマは恐ろしい強迫観念として現れる。
愛し、愛されることの重要性
★カルロス・ベルムト(本名Carlos López del Rey):1980年マドリード生れ、監督、脚本家、撮影監督、漫画家、製作者。マドリードの美術学校でイラストレーションを学び、日刊紙エル・ムンドのイラストレーターとしてスタートした。2006年、最初のコミック”El banyan rojo” が、バルセロナ国際コミックフェアで評価された。長編映画デビューはミステリーコメディ「Diamondo flash」(11)、第2作がサンセバスチャン映画祭2014の金貝賞受賞の『マジカル・ガール』、監督賞とのダブル受賞となった。第3作『シークレット・ヴォイス』(原題「Quién te cantará」)もサンセバスチャンFF2018コンペティション部門にノミネートされたが、フェロス・シネマルディア賞受賞に止まった。翌年のフェロス賞ではポスター賞を受賞している。

(金貝賞のトロフィーを手にしたカルロス・ベルムト、SSIFF 2014ガラ)
★4作目となる『マンティコア』はSSIFFにはノミネートされなかった。「現実に私たちのなかに棲んでいる本物のモンスターについての物語です。地下鉄やパン屋の行列のなかに紛れ込んでいます。また愛し愛されることの重要性が語られます」とベルムト。ホラー映画が初めてサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアルにノミネートされたことで話題を集めたパコ・プラサの「La abuela」(21)の脚本を執筆している。数々の受賞歴のある短編映画3作、短編ビデオ1作、コミック3作、うち2012年刊行された”Cosmic Dragon” は、鳥山明の『ドラゴンボール』のオマージュとして描かれた。

★スタッフ紹介:メインプロデューサーのペドロ・エルナンデス・サントスは、アントニオ・メンデス・エスパルサの「Aquí y Allí」(邦題『ヒア・アンド・ゼア』)を製作するために立ち上げた「Aquí y Allí Films」の代表者。『マジカル・ガール』以下の3作をプロデュースしている。「非の打ち所がなく容赦ないカルロス・ベルムトのような監督の映画をプロデュースすることは常に喜びですが、本当に贅沢なことです」とエルナンデス・サントス。
★ BTeam Pictures のプロデューサーアレックス・ラフエンテは、イサキ・ラクエスタの『二筋の川』、ピラール・パロメロのデビュー作『スクール・ガールズ』や新作「La maternal」を手掛けている。「カルロス・ベルムトの視点で語られる本作は、最初の瞬間から私たちの心を動かす」とラフエンテ。撮影監督のアラナ・メヒア・ゴンサレスは、カルラ・シモンやルシア・A・イグレシアスなど受賞歴のある短編を十数本手掛けてきたが、今回本作で長編デビューを果たした。続いてSSIFF 2022のドゥニャ・アヤソ賞を受賞したロシオ・メサの「Secaderos / Tobacco Barns」も担当、この後も多くの監督からオファーを受け引っ張り凧です。他、スタッフは概ねバルセロナ派で固めている。
★キャスト紹介:フリアン役のナチョ・サンチェスは、1992年アビラ生れ、舞台出身の演技派、2018年、演劇界の最高賞と言われるマックス賞を弱冠25歳で受賞している。ホルヘ・カントスの短編「Take Away」(16)や「Solo sobrevivirán los utopistas」(18)他、フアン・フランシスコ・ビルエガの「Domesticado」(18)、TVシリーズに出演したのち、2019年ダニエル・サンチェス・アレバロの『SEVENTEENセブンティーン』で長編映画にデビューした。つづいてアチェロ・マニャスの「Un mundo normal」(20)に出演、直近のTVシリーズとしては「Doctor Portuondo」(21、6話30分)にキューバの名優ホルヘ・ぺルゴリアと共演している。
*ナチョ・サンチェスの紹介記事は、コチラ⇒2019年09月21日


(マックス賞授賞式、2018年)
★ディアナ役のゾーイ・スタインは、本作が長編映画デビューとなる。2011年、パウ・テシドルの短編ファンタジー・ホラー「Leyenda」で10歳の少女役でデビューする。カタルーニャ語のTVムービー、ラモン・パラドのコメディ「Amics per sempre」(17)に出演、TVシリーズでは2019~21年の「Merli. Sapere Aude」(16話50分)に5話出演、「La caza.Monteperdido」(24話70分)に8話出演、2023年から第1シーズンが始まるスリラー「La chica invisible」(8話)には主役フリアに抜擢され、ダニエル・グラオと父娘を演じる。最初ディアナ役にはクララ・ヘイルズがアナウンスされていたが変更されたようです。


(フレームから)
★タイトルに使われた「マンティコア」は、スフィンクスと同じように伝説上の生き物、人間のような顔、ライオンのような胴体、有毒な針をもつサソリのような尾があり、ペルシャ語で〈人喰い〉を意味する人面獣マルティコラスからきている。アリストテレスの『動物誌』にはマルティコラスと正しくあったのを写本でマンティコラスと誤記され、それをプリニウスが『博物誌』に採用したため誤記のまま後世に広まった。ラテン語マンティコラmanticora、邦題『マンティコア』は英名manticoreのカナ表記。

(ベルムト監督が描いたマンティコラ)
第35回東京国際映画祭2022*ラインナップ発表 ① ― 2022年09月24日 15:09
コンペティション部門3作を含む8作が上映される

★9月21日、第35回東京国際映画祭 TIFF 2022ラインナップの発表会がありました。今年は10月24日~11月2日までと若干早い。当ブログ関連作品はコンペティション部門3作、ガラ・セレクション部門1作、ワールド・フォーカス部門(ラテンビート映画祭共催)のポルトガル映画2作を含む4作、漏れがなければ合計8作です。うち5作が既に作品紹介をしています。未紹介のスペイン映画、カルロス・ベルムトの『マンティコア』は、トロント映画祭コンテンポラリー・ワールド・シネマ tiff でワールド・プレミアされています。スペイン・プレミアは多分サンセバスチャン映画祭終了後に開催されるシッチェス映画祭と思います。
★サンセバスチャン映画祭が終了後にアップ予定ですが、一応タイトルだけ列挙しておきます。
◎コンペティション部門
1)『1976』(「1976」)チリ=アルゼンチン=カタール、スペイン語、ドラマ、97分
監督マヌエラ・マルテッリ
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月13日

2)『ザ・ビースト』(「As Bestas / The Beastas」)スペイン=フランス、スペイン語・フランス語・ガリシア語、ドラマ、138分
監督ロドリゴ・ソロゴジェン
*作品紹介は、コチラ⇒2022年06月10日


◎ガラ・コレクション部門
4)『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(「Bardo, Falsa cronica de una cuantas verdades」)メキシコ、スペイン語、ドラマ、174分
監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
*作品紹介は、コチラ⇒2022年09月08日

◎ワールド・フォーカス部門(第19回ラテンビート映画祭IN TIFF)共催
5)『ラ・ハウリア』(「La jauría」)コロンビア=フランス、スペイン語、ドラマ、88分
監督アンドレス・ラミレス・プリド
*作品紹介は、コチラ⇒2022年08月25日

*『ルーム・メイド』(「Maid」短編)アルゼンチン=メキシコ、スペイン語、12分、併映
監督ルクレシア・マルテル
*作品紹介は、コチラ⇒2022年10月19日
6)『パシフィクション』(「Pacifiction / Tourment sur les iles」)スペイン=フランス=ドイツ=ポルトガル、仏語・英語、ドラマ、165分
監督アルベルト・セラ
*作品紹介は、コチラ⇒2022年10月13日

7)『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』(「Where Is This Street?or With No Before And After」)ポルトガル=フランス、ポルトガル語、ドキュメンタリー、88分、カラー&モノクロ
監督ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ

8)『鬼火』(「Fogo-Fátua / Will-o’-the Wisp」)ポルトガル=フランス、ポルトガル語・英語、ドラマ、67分
監督ジョアン・ペドロ・ロドリゲス
*作品紹介は、コチラ⇒2022年10月25日

★TIFFの『マンティコア』紹介文は、「ゲームのデザイナーとして働く若い男性とボーイッシュな少女との恋愛の行方を描く」とテーマの本質が若干ずれていることもあり、いずれ作品紹介を予定しています。タイトルが「マンティコア」、監督が『マジカル・ガール』のベルムトですから、青年と少女の恋の行方のはずがない。確かに二人は恋をするのですが・・・。ゲーム・デザイナーのフリアン役に、ダニエル・サンチェス・アレバロの『SEVENTEENセブンティーン』(19)で主役を演じたナチョ・サンチェスが扮するのも魅力の一つ、フィルム・ファクトリーが販売権を独占したということですから公開が期待できます。

(ナチョ・サンチェスを配した、トロント映画祭のポスター)
★ポルトガルの『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』は、パウロ・ローシャの傑作『青い年』(65)をめぐるドキュメンタリー、先ずそちらから見る必要がありそうです。上記のように邦題は直訳なので、原題探しで迷子にならなくて助かります。また新型コロナウイルス対策として、映画祭スタッフは「マスクの常時着用」、抗原検査ほかを実施する(9月21日の決定)。チケット一般販売は10月15日から。
*追加情報:「ユースTIFF ティーンズ」部門に、スペインのエレナ・ロペス・リエラのデビュー作『ザ・ウォーター』が漏れていました。追加しておきました。
*作品紹介は、コチラ⇒2022年10月17日
マヌエラ・マルテッリ、監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2022 ⑭ ― 2022年09月13日 17:23
ホライズンズ・ラティノに「1976」で監督デビューしたマヌエラ・マルテッリ

★女優として実績を残しているマヌエラ・マルテッリ(サンティアゴ1983)が「1976」で長編監督デビューを果たしました。チリの1976年という年は、ピノチェト軍事独裁政権の3年目にあたり、隣国アルゼンチン同様、多くの民間人の血が流された年でもあった。マルテッリ自身は生まれていませんでしたが、ピノチェト時代(1973~90)は延々と続いたから空気は吸って育ったのです。主人公カルメンの造形は会ったことのない祖母の存在を自問したとき生まれたと語っています。アウトラインはアップ済みですが、チリ映画の現状も含めて改めてご紹介します。アメリカ公開は「1976」では映画の顔として分かりづらいということから「Chile 1976」とタイトルが変更されたようです。
「1976」
製作:Cinestacion / Wood Producciones / Magma Cine
監督:マヌエラ・マルテッリ
脚本:マヌエラ・マルテッリ、アレハンドラ・モファット
音楽:マリア・ポルトゥガル
撮影:ソレダード(ヤララYarará)・ロドリゲス
美術:フランシスカ・コレア
編集:カミラ・メルカダル
衣装:ピラール・カルデロン
録音:ジェシカ・スアレス
キャスティング:マヌエラ・マルテッリ、セバスティアン・ビデラ
メイクアップ:バレリア・ゴッフレリ、カタリナ・ペラルタ
製作者:オマール・ズニィガ、ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョ、アレハンドロ・ガルシア、アンドレス・ウッド、フアン・パブロ・グリオッタ、ナタリア・ビデラ・ペーニャ、他
データ:製作国チリ、アルゼンチン、カタール、2022年、スペイン語、スリラードラマ、95分、販売Luxbox、アメリカ公開は今冬予定。
映画祭・受賞歴:トゥールーズ(ラテンアメリカ)映画祭2022グランプリ・特別賞・ルフィルム・フランセ賞3冠、カンヌ映画祭併催の「監督週間」正式出品、ゴールデンカメラ賞ノミネート、ブリュッセル映画祭インターナショナル部門出品、エルサレム映画祭デビュー部門「インターナショナル・シネマ賞」受賞、メルボルン映画祭コンペティション部門出品、リマ映画祭作品賞を含む3冠、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門正式出品、ロンドン映画祭デビュー作部門
キャスト:アリネ・クッペンハイム(カルメン)、ニコラス・セプルベダ(エリアス)、ウーゴ・メディナ(サンチェス神父)、アレハンドロ・ゴイック(カルメンの夫ミゲル)、アマリア・カッサイ(同娘レオノール)、カルメン・グロリア・マルティネス(エステラ)、アントニア・セヘルス(ラケル)、マルシアル・タグレ(オズバルド)、ガブリエル・ウルスア(トマス)、ルイス・セルダ(ペドロ)、アナ・クララ・デルフィノ(クララ)、エルビス・フエンテス(隣人ウンベルト)、他多数
ストーリー:チリ、1976年。カルメンはビーチハウスの改装を管理するため海岸沿いの町にやってくる。冬の休暇には夫、息子、孫たちが行き来する。ファミリーの神父が秘密裏に匿っている青年エリアスの世話を頼んだとき、カルメンは彼女が慣れ親しんでいた静かな生活から離れ、自身がかつて足を踏み入れたことのない危険な領域に放り込まれていることに気づきます。ピノチェト政権下3年目、女性蔑視と抑圧に苦しむ一人の女性の心の軌跡を辿ります。

(支配階級のシンボル、パールのネックレス姿のカルメン)
チリ映画の隆盛――「クール世代」の台頭
★ピノチェト軍政下では、映画産業は長いあいだ沈黙を強いられ、才能流出が止まりませんでした。『トニー・マネロ』や『No』で知られるパブロ・ララインを中心に、若い世代が集まってグループを結成、自らを「Generation High Dedinition」(高品位があると定義された世代)「クール世代」と称した。指導者はチリ映画学校の設立者カルロス・フローレス・デルピノ*、メンバーは監督ではパブロ・ラライン、アンドレス・ウッド、セバスティアン・レリオ、アリシア・シェルソン、クリスティアン・ヒメネス、セバスティアン・シルバ、ドミンガ・ソトマヨール、アレハンドロ・フェルナンデス、ララインの実弟である製作者フアン・デ・ディオス・ラライン、撮影監督ミゲル・ジョアン・リティン、俳優アルフレッド・カストロ、アントニア・セヘルスなどが中心になっており、当ブログではそれぞれ代表作品を紹介しています。
★本作の特徴は女性スタッフの多さですが、製作者の一人ドミンガ・ソトマヨール・カスティリョは『木曜から日曜まで』の監督であり、ラケル役のアントニア・セヘルスは、パブロ・ララインと結婚、彼の「ピノチェト政権三部作」すべてに出演していましたが、『ザ・クラブ』を最後に2014年離婚してしまいました。言語が共通ということもあって「クール世代」はアルゼンチン、ベネズエラ、メキシコなどのシネアストとの合作が多いことも特色です。なかにはセバスティアン・シルバ(『家政婦ラケルの反乱』)のようにゲイであるためチリ社会の偏見に耐えかねてアメリカに脱出してしまった監督もおりますが、昨今のチリ映画の隆盛はこのグループの活躍が欠かせませんでした。ラテンビート、東京国際映画祭、東京フィルメックスなどで紹介される作品のほとんどがクール世代の監督です。概ね1970年以降の生れですが、ここにマルテッリのような80年代生れが参入してきたということでしょうか。
音楽も色彩もメタファーの一つ、マルテッリの視覚言語
★カルメンは独裁政権の直接の協力者ではないが被害者でもなく、ただ傍観者である。医師である夫がピノチェトの協力者であること、それで経済的な恩恵を受けていることを知っており、政権との対立で窮地に陥ると夫の名前を利用する。ただこの共謀にうんざりしている。真珠のネックレス、カシミアのコート、流行の靴を履いているが、屈辱的な壁の花である。なりたかったのは医師であり主婦ではなかった。子育てに専念するため断念したという母親を娘は軽蔑する。

(カルメン役のアリネ・クッペンハイム、フレームから)
★カルメンは特権的な立場にあるが、逃亡者エリアスとの関係は、夫が妻を過小評価していることを利用しており危険すぎる。彼女の行動は最初政治的ではなかったが、やがて政治的なものになっていく。予告編の冒頭にある瓶のなかの金魚のようにカルメンは閉じ込められているが、飛びだせば永遠に〈行方不明者〉になる。予告編に現れる鮮やかなペンキの色は、観客を不穏な雰囲気に放り込む。受話器から聞こえるノイズ、シンセサイザーの耳障りな音楽はカルメンの危機を予感させる。メタファーを読みとく楽しみもありそうです。

(逃亡者エリアス役のニコラス・セプルベダ)
★マヌエラ・マルテッリ Manuela Abril Martelli Salamovich 監督紹介:1983年チリのサンティアゴ生れ、女優、監督、脚本家。父親はイタリア出身、母親はクロアチア出身の移民、中等教育はサンティアゴの北東部ビタクラのセント・ジョージ・カレッジで学んだ。最終学年にゴンサロ・フスティニアーノの「B-Happy」(03)のオーディションに応募、主役を射止める。本作の演技が認められハバナ映画祭2003女優賞を受賞した。高校卒業後、2002年、チリのカトリック司教大学で美術と演技を並行して専攻、2007年卒業した。2010年、フルブライト奨学金を得てアメリカに渡り、テンプル大学で映画制作を学んでいる。
★2004年、アンドレス・ウッドの「Machuca」(『マチュカ-僕らと革命』DVD)に出演、アルタソル女優賞を受賞、TVシリーズ出演をスタートさせている。2008年、ウッド監督のオファーを受けて「La buena vida」(『サンティアゴの光』ラテンビート2009)に出演、監督デビュー作「1976」のヒロイン、アリネ・クッペンハイムの娘役を演じた。ラテンビートには監督が来日、Q&Aがもたれた。セバスティアン・レリオの「Navidad」(09)他、短編、TVシリーズ出演がある。
★国際舞台に登場したのは、ロベルト・ボラーニョの短編 ”Una novelita lumpen” を映画化した、アリシア・シェルソンの「Il futuro」(13、イタリアとの合作)でした。マヌエラはヒロインのビアンカに扮し、オランダのカメレオン名優ルトガー・ハウアーと共演した。サンダンス映画祭でプレミアされ、ロッテルダム、トゥールーズ、サンフランシスコなど国際映画祭で上映された。ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2013で銀のコロン女優賞、シェルソンが監督賞を受賞した。本邦では『ネイキッド・ボディ』の邦題で翌年DVD化されている。第57回ロカルノFF2014にノミネートされたマルティン・Rejtmanの「Dos disparos」に出演している。

(ニコラス・ヴァポリデュス、ルトガー・ハウアー、監督、マルテッリ、サンダンスFF2013)
★監督、脚本家としては、2014年の短編「Apnea」(7分、チリ=米)が、チリのバルディビアFF2014で上映された他、アルゼンチンのBAFICIブエノスアイレス・インディペンデントFF2015、トゥールーズ・シネラティーノ短編FFにも出品された。カンヌの監督週間2014「Fortnight」のプログラム、チリ・ファクトリーに選ばれ、アミラ・タジディンと「Land Tides / Marea de tierra」(チリ=仏、13分)を共同監督した。翌年の監督週間、ニューヨーク短編FF、サンダンスFF2016、ハバナFF2016に出品された。

(マヌエラ・マルテッリ、ロカルノ映画祭2014にて)
★デビュー作の製作者の一人ドミンガ・ソトマヨールの「Mar」(14)に脚本を共同執筆している。2013年よりソトマヨールが製作を手掛けることになった「1976」の最初のタイトルは、怒りまたは勇気という意味の「Coraje」だったという。また2016年にはTVシリーズ「Bala loca」(10話)のキャスティングを手掛けている。アリネ・クッペンハイム、アレハンドロ・ゴイック、マルシアル・タグレなど「1976」のほか、『サンティアゴの光』で共演したアルフレッド・カストロ、セバスティア・シルバの「La nana」(09『家政婦ラケルの反乱』ラテンビート)のカタリナ・サアベドラなどチリを代表する「クール世代」の演技派が出演している。
*カルロス・フローレス・デルピノ(タルカワノ1944)はチリの監督、脚本家、製作者。1973年の軍事クーデタで仲間が亡命するなか、チリに止まってドキュメンタリー作家として活躍、1994年、Escuela de Cine de Chileを設立、教育者として後進の指導に当たる。代表作は、チリのチャールズ・ブロンソンと言われたフェネロン・グアハルドをモデルにチリ人のアイデンティティに光を当てたドキュメンタリー「El Charles Bronson Chileno: o idénticamente igual」(76・84)と作家のホセ・ドノソについての中編ドキュメンタリー「Donoso por Donoso」(94)など。
*追加情報:第35回東京国際映画祭2022のコンペティション部門に同タイトルでノミネートされました。
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