『リベルタード』のクララ・ロケ監督インタビュー*TIFFトークサロン2021年11月20日 11:29

  クララ・ロケのデビュー作『リベルタード』は短編「El adiós」がベース

 

   

 

TIFFトークサロン視聴の最終回は、ワールド・フォーカス部門のクララ・ロケのデビュー作『リベルタード』です。カンヌ映画祭と併催の「批評家週間」でワールドプレミアされました。本作はバルト9での上映が見送られた18回ラテンビートとの共催上映作品です。既にアップした作品紹介と重なっている部分、アイデア誕生の経緯自由とはないかアイデンティティ形成期の重要性階級差の理不尽本作のベースになった短編「El adiósなど重なっていた。しかし紹介では触れなかった新発見も多々ありましたので、そのあたりを中心に触れたいと思います。インタビューは英語、クララ・ロケ(バルセロナ1988)は、カタルーニャ政府が1990年に創立したポンペウ・ファブラ大学で視聴覚コミュニケーションを学んだあと、奨学金を得てコロンビア大学で脚本を学んでおり英語は堪能。モデレーターは映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏。

『リベルタード』作品紹介、キャリア&フィルモグラフィーは、

  コチラ20211012

 

     

                (クララ・ロケ監督)

 

Q: 本作は監督の体験が含まれているのかという観客からの質問がきています。

A: 短編「El adiós」がベースになっており、これはアルツハイマーの祖母を介護してくれたコロンビアから働きに来ていた女性がモデルになっています。短編のキャスティングの段階で、女性介護師の多くが、故国に家族を残して出稼ぎに来ていることを知りました。私は恵まれた階級に属していることを実感していますが、この階級格差をテーマにしてフィクションを撮ろうとしたわけです。地中海に面した避暑地コスタブラバに別荘があり、子供のころ夏休みをここで過ごしたので撮影地にしました。

 

       

          (多くの受賞歴がある「El adiós」のポスター)

 

Q: 劇中のアルツハイマーの祖母とご自身のお祖母さんと重なる部分がありますか。

A: 私の祖母の記憶に沿っています。壊れていく祖母を目の当たりにして、一つの世界の終り、一つの時代の終り、家族のアイデンティティの終りを実感しました。アイデンティティと階級格差、記憶をテーマにしました。アイデンティティは記憶でつくられるからです。

 

Q: 本作を撮るにあたり参考にしたバカンスをテーマにした映画などありましたか。

A: イングマール・ベルイマンの『不良少女モニカ』、エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』、ルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』など、人間の感情を描いているところ、辛辣で意地悪な雰囲気を感じさせるユニークなスタイルが参考になりました。特にマルテルの作品です。

 

管理人補足:クラシック映画、またはマイナー映画ということもあって、邦題の同定には市山氏の貴重な助言がありました。監督が挙げた3作品の駆け足紹介。

1953年のスウェーデン映画『不良少女モニカ』(原題Sommaren med Monika、仮題「モニカとの夏」)はベルイマンの初期の作品で、フランスのヌーベルバーグの監督から絶賛された作品。17歳になる奔放なモニカと内気な19歳のハリイの物語、奔放なリベルタードの人物造形はモニカが参考になっているのかもしれません。1955年に公開されました。現在はないアート系映画チャンネル、シネフィル・イマジカのベルイマン特集があると放映されていました。ビデオ、DVDが発売されています。

1983年の『海辺のポーリーヌ』は、ロメールの「喜劇と格言劇」シリーズの第3作目、ノルマンディーの避暑地を舞台にした一夏の恋のアバンチュール、愛するより愛されたい人々を辛辣に描いた群像劇。ベルリン映画祭でロメールが銀熊監督賞、国際批評家連盟賞を受賞した作品。撮影監督がバルセロナ出身のネストル・アルメンドロスでロメール映画やフランソワ・トリュフォー映画を多数手掛けている。ビデオ、DVDで鑑賞できます。

アルゼンチンのルクレシア・マルテルの『沼地という名の町』La Ciénaga)は、アルゼンチン国家破産前のプール付き邸宅で暮らすブルジョワ家族のどんよりした日常が語られます。NHKが資金提供しているサンダンス映画祭1999NHK国際映像作家賞(賞金1万米ドル)を受賞して完成させた関係から、NHKの衛星第2で深夜に放映されています。他にラテンビート2010京都会場で特別上映されたのがスクリーンで観られた唯一の機会でした。ベルリン映画祭2001フォーラム部門でワールドプレミアされ、アルフレッド・バウアー賞を受賞した他、国際映画祭の受賞歴多数。監督の生れ故郷サルタの特権階級を舞台にした『ラ・ニーニャ・サンタ』(04)と『頭のない女』(08)を合わせてサルタ三部作と言われています。DVDは発売されていないと思います。

 

Q: キャスティングの経緯と二人の少女の演出についての質問。

A: マリア・モレラニコル・ガルシアの二人に出演してもらえたのは幸運でした。マリアは別の作品を見ていて起用したいと思っていましたが、ニコルは本作がデビュー作です。リベルタードのバックグランドをもっている女の子を探しておりました。つまりコロンビア人でスペインは初めてということです。それでコロンビアまで探しに行きました。プロは考えてなく、街中を探し回りました。青い髪をなびかせてローラースケートをしている素晴らしい女の子ニコルを探しあてたのです。クランクイン前に二人を同じ家に一緒に住まわせて、二人をキャラクターに無理に合わせるのではなく、二人の個性に寄せて脚本を変えた部分もありました。

 

        

          (生れも育ちも対照的なノラとリベルタード)

 

Q: 階級格差を描いているが、スペインは階級社会なのでしょうか。

A: スペインは欧米の多くの国々と同じく階級社会です。あからさまに話題にしなくなっていますが、平等になって格差が無くなったと考えるのは錯覚です。出自によって得られるチャンスが違うからです。『リベルタード』製作にあたって、自分が特権階級と気づくために、一時そこから意識的に離れる必要がありました。

 

Q: リベルタードは結局自由になれない、階級差が続くというメッセージですか。反対に死に近づく祖母アンヘラがある意味で自由になっていく。これは老いてから自由になれるということですか。

A: 素晴らしい質問です、『リベルタード』で描きたかったことです。経済的に恵まれていないため自分の人生を生きることのできない人は、本当に自由になれるのかという問いですね。またアンヘラは自分が望んでいた人生を歩んでいたわけではない、これは本当の意味での人生ではないから、死をもって不本意な人生を終わらせ自由になりました。

 

Q: 音楽が良かった、どのように選曲しましたか。

A: 好きな音楽についての質問でとても嬉しいです。私にとって音楽は重要、それで音楽用の資金を残してくれるように頼んでおきました。シーンに載せるだけの音楽でなく、シーンから生まれる音楽をつくりたいと考えました。過去の記憶を失ってノスタルジーに生きているアンヘラにはクラシックを使用、若い二人には、レゲエ、よりヘビーなレゲトン、サルサなどのニューミュージックです。家族の贅沢を象徴する音楽も入れました。

 

Q: 撮影地のコスタブラバは、子供のときと現在で変化はありましたか。

A: 脚本はコスタブラバをイメージしながら執筆しました。知ってる場所だとよいものになると思っていて、実際何かが起きるのです。

Q: 女の子たちのセリフを変えたところがありますか。

A: 監督のために脚本を書くことが私の仕事で、脚本に固執していましたが、監督をして学んだこともありました。それは役者たちが即興で演じたセリフのほうが面白いという経験です。結果、変えたところが良いシーンになったのでした。

 

Q: 長編デビューしたわけですから、今後は監督業に徹しますか。また、これからのプランがあったら聞かせてください。

A: 私は他の監督のために脚本を書くのが好きですから書き続けます。是非撮りたいというテーマがあれば別ですが、監督業はエネルギーが必要です。先の話になりますが、父親が馬のディーラーをしているので馬をテーマにした映画を考えています。短編を撮っているので今度は長編を撮りたい。興味深い質問ありがとうございました。

 

★馬をテーマにした短編というのは、女の子の姉妹と片目を失った農場の1頭の馬を語ったLes bones nenes1517分)を指す。監督の母語カタルーニャ語映画で国際映画祭巡りをして好評を得た。うちシネヨーロッパ賞2019短編映画賞、アルカラ・デ・エナレス短編映画祭2017で『リベルタード』の音楽も手掛けたパウル・タイアンがオリジナル作曲賞を受賞するなどした短編。

 

     

        (馬を主人公にしたLes bones nenesのフレームから)

 

★これで当ブログ関連のTIFFトークサロンは終りです。アレックス・デ・ラ・イグレシア『ベネシアフレニア』は、ラテンビートFFプログラミング・ディレクターのアルベルト・カレロ氏とのオンライントークがアップされています。「美しいものは壊れる」がテーマです。いずれ公開されると思いますので割愛します。力不足で聞き違い勘違いが多々あると思いますが、ご容赦ください。

 

『箱』のロレンソ・ビガス監督インタビュー*TIFFトークサロン2021年11月16日 16:50

      『箱』は「父性についての三部作」の第3部、風景は主人公の一人

 

      

 

TIFFトークサロン、ワールド・フォーカス部門上映のロレンソ・ビガス『箱』The BoxLa caja)は、メキシコ=米国合作映画、第78回ベネチア映画祭2021コンペティション部門でワールドプレミアされた。ロレンソ・ビガスといえば、『彼方から』15Desde alláで金獅子賞のトロフィーを初めてラテンアメリカに運んできた映像作家という栄誉が常に付いて回る。栄誉には違いないが重荷でもあったのではないか。メキシコの作品が続くが、ビガス監督はベネズエラ(メリダ1967)出身、『もうひとりのトム』のデュオ監督ロドリゴ・プララウラ・サントゥリョはウルグアイ、『市民』のテオドラ・アナ・ミハイはルーマニアと、全員メキシコ以外の出身者だったのは皮肉です。ここはメキシコの懐の深さとでも理解しておきましょう。

      
★『箱』及び『彼方から』の作品紹介、キャスト、スタッフ、監督キャリア&フィルモグラフィーは、既に紹介しております。特に『彼方から』は監督メッセージで「是非ご覧になってください」と話されていましたので関連記事も含めました。チリの演技派俳優アルフレッド・カストロの目線にご注目です。

『箱』の作品紹介は、コチラ20210907

『彼方から』の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィーは、

 コチラ20150808同年100920160930

    

  

    (金獅子賞のトロフィーを手にしたロレンソ・ビガス、ベネチアFF2015

 

 

  

 (マリオ役のエルナン・メンドサ、監督、ハッツィン・ナバレテ、ベネチアFF2021

 

★以下はトークの流れに沿っていますが、作品紹介で書きました内容と重なっている部分は端折っております。観客から寄せられた質問を中心にして展開されました。モデレーターは前回同様、映画祭プログラミング・ディレクター市山尚三氏。

 

Q: メキシコの闇の部分が描かれていたが、本作のアイディア誕生は何か。

A: 私はベネズエラ生れですが、メキシコの友人とコラボするつもりで21年前に訪れ、結局ここに居つくことになりました。長く滞在しておりますと、ニュースなどでメキシコの現実を見ることは避けられない。メキシコ北部のニュースが多く、例えば多くの女性たちの行方不明事件などです。あるときメキシコ北部の共同墓地のニュースを見ていたとき、少年が父の遺骨を取りに行く→箱の中には父の遺骨が入っている→街中で父と瓜二つの男性を見かける→箱の中の遺骨か目の前の男性か、どちらが本当の父親なのか、というストーリーがひらめいた。

   


               (箱の中に入っているのは何か)

 

Q: メキシコ北部、治安は悪いと聞いている危険なチワワ州を舞台に選んだ理由は何か。

A: チワワ州はメキシコで最大の面積をもつ州です。国境に接している州なので危険地帯です。場所選びに1年間かけました。なかで舞台の一つになったシウダー・フアレスにはマキラドーラ産業の部品工場が多くあり、この工場も物語の登場人物の一人ということがありました。またハッツィン少年の孤独を象徴しているような広大な砂漠地帯、風景も登場人物だったのです。風景もマキラドーラの工場も揃っているチワワを撮影地に決定したのです。

管理人補足:チワワ州の州都はチワワ市だが、舞台となるシウダー・フアレスが最大の都市であり、周囲はチワワ砂漠に囲まれている。麻薬のカルテル同士の抗争が絶えない危険地帯。『箱』の作品紹介でチワワに決定した理由、シウダー・フアレスの他、35ミリで撮影した理由、マキラドーラ産業について触れています)

 

    

          (空虚さがただよう共同墓地のある砂漠地帯)

 

Q: 撮影期間はどのくらいか、犯罪の多いシウダー・フアレスで撮影中、危険を避けるために具体的にしたことはあるか。

A: 準備期間は約1年間です。撮影期間は普通は68週間ですが、本作では10週間かかりました。というのも撮影地がシウダー・フアレスから遺骨が埋まっている砂漠地帯まで、そのほか数ヵ所の撮影地を含めると広範に渡っていたのでの移動に時間が掛かったからです。確かに治安は悪かったのですが、撮影数週間前に土地の麻薬密売のカルテルに「迷惑をかけることはない撮影です」と根回しをして、撮影許可をとりました。ロケ地ごとにカルテルが違っていたので大変でした。チワワ州知事が協力してくれたことも大きかった。

 

A: 1年間、撮影を許可してくれる工場を探しましたが、工場同士の競争が激しく実現しませんでした。それは会社の実態を知られたくない、特に労働者の労働環境を知られたくないという思惑があったからです。使用した工場は破産したばかりの会社で、3日間貸しきりにして労働者も実際働いていた人々です。既に解雇されていたので、賃金はプロダクションが支払いました。

 

 

         (マキラドーラ産業の破産したばかりの工場シーン)

 

Q: ハッツィン少年のキャスティングについて、時に覗かせる笑顔が素晴らしく心に残りました。

A: キャスティングは極めて難航しました。演技をできる子役はいたのですが、13歳ぐらいだと演技はできても自分の声をもっていない、本作に必要なアイデンティティをもっていない。私は演技をしない子供を探していた。3か月間、数えきれない学校巡りをして何百人もの子供に会い、ワークショップもしましたが見つからなかった。それで一時キャスティングを中断して準備に取りかかった。すると撮影1週間前に「オーディション会場に行くお金がなくて行けなかった」という少年のビデオが送られてきた。ビデオを見て、どうしても会いたくなった。リハーサルを繰り返すうちに「この子は他の子と違うな」と思いました。特に目、視線が良かった。父親との辛い体験をもっており、この個人的経験が役柄に活かされると思った。

 

     

           (ハッツィン役のハッツィン・ナバレテ)

 

Q: 役名と実名を同じにしたのは意図的か。

A: 脚本は最初アルトゥーロでした。内向的でしたが撮影に入って暫くすると、セットでの存在感が出てきて、アルトゥーロより本名のハッツィンのほうがぴったりしてきた。それで途中から変えました。

 

Q: 家族の話をテーマにしたかったのでしょうか。

A: 本作は家族というより父と子の関係性を描いています。ラテンアメリカ映画の特徴の一つ、父親不在が子供に何をもたらすかに興味がありました。実は本作は <父性についての三部作> の第3部に当たります。第1部は短編Los elefantes nunca olvidan04、仮題「象たちは決して忘れない」13)、第2部が『彼方から』です。5年前に亡くなった父親と自分の関係は近く、自身のことではありません。

管理人補足: 父親オスワルド・ビガス90歳で死ぬまで描き続けたという画家。彼を描いたドキュメンタリーEl vendedor de orquídeas1675分)も、父と子というテーマなのでリストに入れてもいいと、別のインタビューでは答えている

 

Q: 色のトーンを意図的に変えているか。

A: 意図的ではない。前作の『彼方から』のほうはミステリアスな心理状態に合わせて意図的に修整した。新作は夏から冬へと季節が移り変わる、季節とマッチした、その移り変わっていくチワワの風景を忠実に撮影したかった。チワワの風景は35ミリでないと表現できないので、あまり修整しなかった。風景も重要な登場人物だからです。

  

Q: 製作者にミシェル・フランコ、反対に監督はフランコのSundownのプロデューサーになっています。そちらでは国境を越えて協力し合うことが多いのですか。

A: そういうことではありません。あくまでも私とミシェルの個人的な特別な長い関係です。二人はだいたい同じ時期にデビューしています。スタイルは異なりますが、互いに意見を出しあい脚本を見せあっています。力を合わせることで強さ発揮できます。それにお互い尊敬しあっていて、二人でやるのが楽しいからです。

管理人補足: ミシェル・フランコは1979年生れ、2009年長編DanielAnaでカンヌ映画祭と併催の「監督週間」に出品された。Sundownは『箱』と同じベネチア映画祭2021コンペティション部門でワールドプレミアされた最新作

 

Q: 娯楽映画ではないので資金調達が困難だったのではないでしょうか。

A: 半分はメキシコ政府が行っている映画特別予算が提供されました。これは提供した会社に税金の面で控除があるようです。他は自分たちの制作会社「テオレマTeorema」とアメリカの制作会社でした。

 

Q: カーラジオから流れてくる曲がエンドロールでも流れていた。どんな曲ですか。

A: 自分はスコアは使わない方針なのですが、今回は試しにミュージシャンに頼んでみました。しかしうまくいかなかった。チワワではラジオをよく聞く文化があって、たまたまラジオから聞こえてきたハビエル・ソリスを使った。彼はボレロ・ランチェーラというジャンルを開拓したミュージシャンです。曲は幸せになれないという失恋の歌でした。使用した理由は映画と上手くリンクすると考えたからです。

管理人補足: ハビエル・ソリス、1931年生れの歌手で映画俳優。貧しい家庭の出身でしたが、その美声を認められて歌手となった。しかし患っていた胆嚢炎の手術が失敗して、1966年その絶頂期に34歳という若さで亡くなった。活動期間は短かったがアメリカでも多くのファンを獲得、今もってその美声の人気は衰えないようです)

 

Q: 最後に日本の観客へのメッセージをお願いします。

A: ハッツィンの気持ちを共有していただけて嬉しく思います。日本へは次の作品をもって東京に行けたらと思います。父親不在がどんな結果をもたらすかを描いた『彼方から』を是非ご覧になってください。

管理人補足:『彼方から』は、ラテンビート2016とレインボー・リール東京映画祭、元の名称-東京国際レズビアン&ゲイ映画祭-で上映されました。DVDは残念ながら発売されていないようです)

 

★父親に似た男性マリオを演じたエルナン・メンドサについての質問がなかったのが、個人的に惜しまれました。作品紹介で触れましたようにミシェル・フランコの『父の秘密』12)の主役を演じた俳優です。彼の存在なくして本作の成功はなかったはずです。

  

   

            (エルナン・メンドサとハッツィン・ナバレテ、フレームから


審査員特別賞にテオドラ・アナ・ミハイの『市民』*TIFFトークサロン2021年11月12日 14:42

   ルーマニアの監督がメキシコを舞台に腐敗、犯罪、暴力について語る

 


 

テオドラ・アナ・ミハイ『市民』La civil審査員特別賞という大賞を受賞した。授賞式には監督のビデオメッセージが届きました。プレゼンターはローナ・ティー審査員、トロフィーと副賞5000ドルが贈られた。ビデオメッセージは「・・・『市民』は7年間かけて手がけた作品で私にとって非常に思い入れのある映画です。テーマはデリケートで現在のメキシコにとってタイムリーな問題です。海外の皆さんに見てもらい、メキシコの問題を知って議論していただくことが大切だと思っております。身にあまる賞をいただきありがとうございました」という内容でした。114日に行われたTIFFトークサロンはメキシコからでしたが、まだベルギーには帰国していないのでしょうか。

 

     

         (テオドラ・アナ・ミハイ、ビデオメッセージから)

 

 

★最優秀女優賞にはコソボ出身のカルトリナ・クラスニチ『ヴェラは海の夢を見る』ヴェラを演じたテウタ・アイディニ・イェゲニ、あるいは『市民』の主役シエロを演じたアルセリア・ラミレスのどちらかが受賞するのではと予想していました。結果はクラスニチ監督が東京グランプリ/東京都知事賞、女優賞は『もうひとりのトム』(監督ロドリゴ・プララウラ・サントゥリョ)のフリア・チャベスが受賞した。今年のTIFFは女性監督が脚光を浴びた年になりました。なおテオドラ・アナ・ミハイ監督のキャリア&フィルモグラフィー、キャスト、スタッフの紹介は既にアップしております。

『市民』(La civil)の作品&監督フィルモグラフィーは、コチラ20211025

 

  

     (審査委員長イザベル・ユペールからトロフィーを手渡された、

      駐日コソボ共和国大使館臨時代理大使アルバー・メフメティ氏)

 

 

TIFFトークサロン1141100,メキシコ32000)、モデレーターは市山尚三氏。監督は英語でインタビューに応じた。QAの内容は、質問に対するアンサーの部分が長く(同時通訳の方は難儀したのではないか)内容も前後するので、管理人がピックアップして纏めたものです。

 

Q:本作製作の動機、モデルが実在しているのに実話と明記しなかった理由、エンディングでシエロのモデルになったミリアム・ロドリゲスに本作が捧げられていた経緯の質問など。

A16歳からサンフランシスコのハイスクールに入学して、映画もこちらで学んでいる。当時は今のメキシコのように危険ではなかったのでメキシコにはよく旅行しており、メキシコ人の友人がたくさんいる。2006年、時の大統領が麻薬撲滅運動を本格化させたことで、日常生活が一変した。ベルギーにいるメキシコの友人から話を聞き、Waiting for Augustの次はメキシコの子供たちをテーマにしたドキュメンタリーを撮ろうと決めていた。今から9年前にメキシコを訪れた。友人の母親から「夕方7時以降は危険だから外出してはいけない」と注意された。子供たちにインタビューを重ね、ジャーナリズムの方法で取材を始めていった。

 

Q:(アンサーには質問と若干ズレがあり再度)実話と明記しなかった理由、モデルとの接点についての質問があった。

A:知人から是非あって欲しい人がいると言われ会うことにした。ミリアムは拳銃を持参しており彼女が危険な状況に置かれていると直感した。話の中で「毎朝、目が覚めると、殺したい、死にたいと思う」という激しい言葉に驚き、ミリアムの容姿と言葉のギャップに衝撃を受けた。2年半の間コンタクトを撮り続けたが、これはミリアムの身に起こった実話にインスパイアされ、リサーチを加えたリアリティーに深く根差したフィクションです。

 

A:最初はドキュメンタリーで撮ろうと考えミリアムも撮ったが、最初の2週間でドキュメンタリーは出演者だけでなく、私たちスタッフにも危険すぎると分かった。当局の思惑、メキシコの恥部が世界に拡散されることや自分たちにも危険が及ぶこと、軍部とミリアムの複雑な関係性などから断念せざるを得なかった。脚本はメキシコの小説家アブク・アントニオ・デ・ロサリオとの共同執筆です。

(管理人補足:作家のクリスチャンネーム Habacuc の表記は、作品紹介では予言者ハバクックHabaquq から採られたと解釈してハバクックと表記していますが、正確なところ分かりません。Hはサイレントかもしれません)

 

      

 (共同執筆者ハバクック・アントニオ・デ・ロサリオと監督、カンヌFFフォトコール)

 

A:ミリアムは既に社会問題、社会現象になっておりました。あちこちで発見される共同墓地ひとつをとっても、これがメキシコの悲しみと言えるのです、タイトル「市民」はメタファーで、シエロやミリアムのような母親がメキシコには大勢存在するということです。エンディングで本作がモデルになったミリアムに捧げられたのは、ネットでお調べになってご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、2017年の母の日に自宅前で何発もの銃弾を受けて暗殺されたからです。彼女は本作を見ることができなかったのです。

(管理人補足:20173月、カレン誘拐に携わりながら罪を逃れていた20人以上が逮捕されたことが引き金になって、510日の母の日に暗殺された。映画では娘の名前はラウラですがカレンが実名。エンディングにオマージュを入れるのは鬼籍入りしたことを意味しています。)

 

  

         (シエロのモデルとなったミリアム・ロドリゲス)

 

Q:製作者にダルデンヌ兄弟、ムンジュウ、ミシェル・フランコとの関りについての質問。

A:ダルデンヌ映画とスタイルが似ているかもしれない。というのも白黒が曖昧なキャラクターを描いている。善悪をテーマにしており、善人と悪人が別個に存在しているのではなく、人間は常にグレーです。シエロも最初は被害者でしたが、ある一線を越えてダークな方向へ向かってしまう。

 

Q:日本映画についての質問。

A:私が生まれたころの監督、黒澤(明)は私のマエストロです。是枝(裕和)映画は全部見ています。私のWaiting for August14)は、『誰も知らない』(04)にインスパイアされたドキュメンタリーです。これは16歳の長男を頭に5歳の末っ子7人の兄妹の物語です。父親はいなくて、母親がイタリアに出稼ぎに行って仕送りしている。14歳になる長女が家族の面倒をみて切り盛りしている。『誰も知らない』は悲しい作品でしたが、私の作品はもっとポジティブに描きたかったので、ラストはそうしました。

 

Q:シエロを演じた女優アルセリア・ラミレスのキャリアについての質問。

A:サンフランシスコにいたころ観た映画「Like Water for Chocolate」(92)に出演していた女優さんが記憶にあり、その頃はとても若かったのですが心の中に残っていた。現在はベテラン女優として忙しそうだったが大部のシナリオを送ってみた。すると1日半もかけて脚本を読んでくれ、「私に息を吹きこませてください」という感動的なメッセージ付きで返事が来た。

   


           (髪をバッサリ切って変身するシエロ)

 

★市山氏から「その映画なら『赤い薔薇ソースの伝説』という邦題で、TIFFで上映しました。私がTIFFに参加した最初の年で、よく覚えています。どんな役を演じていたか記憶していませんが」とコメントがあった。「小さな役でナレーションをやりました」と監督が応じた。

(管理人補足:アルセリア・ラミレスが演じた役は、一家の女主ママ・エレナの曽孫役、スクリーンの冒頭に登場して、このマジックリアリズムの物語を語るナレーション役になった。原題はComo agua para chocolateアルフォンソ・アラウ監督のパートナー、ラウラ・エスキベルの大ベストセラー小説の映画化。タイトルは情熱や怒りが沸騰している状況、特に性的興奮を表すメキシコの慣用句から採られている。日本語が堪能なメキシコの知人が、あまりの迷題に笑い転げたことを思い出します。アルセリア・ラミレスのキャリア紹介はアップしております。)

 

★ミハイ監督から「映画祭に私の作品を招待して下さりありがとうございました。メキシコの状況をご友人とも語り合って、劇場で是非ご覧になってください。劇場で一緒に鑑賞する文化は失われてはいけません。早くコロナが収束することを願っています」と感謝の言葉があった。

 

★トークでは時間の関係から触れられなかったのか、他のインタビューで「私はシエロのような不幸に挫けず生きていく女性のキャラクターに惹かれます。それは私自身の生い立ちと無縁ではありません。ルーマニアがチャウシェスク独裁政権下の1988年、私の両親はベルギーに亡命、当時7歳だった私は人質として残されました。幸い1年後に合流できましたが、当時のルーマニアは、国民同士が告発しあう監視社会で、誰も他人を信頼できませんでした。そういう実態経験が私の人格形成に影響を及ぼしています」と語っています。視聴者からフィナーレについての曖昧さが指摘されているようですが、ラストはいろいろな解釈が可能なように敢えてしたということです。メキシコの悲劇は現在も進行中、我が子の生存すら分からぬまま生きていかねばならない家族を考慮したようです。

『もうひとりのトム』デュオ監督インタビュー*TIFFトークサロン2021年11月10日 11:51

       母と子供をテーマにした3作目、本作は国家が個人に介入してくる作品

 

   

TIFFトークサロン第2弾は、ラウラ・サントゥリョロドリゴ・プラ『もうひとりのトム』113日(1130)に配信されました。モデレーターは前回同様プログラミング・ディレクターの市山尚三氏、アンサーの部分は質問の内容によって二人で手分けして答えてくれた。LSはラウラ・サントゥリョ(サントゥージョ)、RPはロドリゴ・プラです。作品紹介と重複している部分も多々ありましたが新発見も多かった。ロドリゴ・プラ監督は、前作『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』15)で来日してQ&Aに参加しています。監督から新作完成のメールを貰ったことで、早い段階でコンペティション部門上映が決まっていたと市山氏。『ザ・ドーター』同様Q&Aの正確な再録ではありません。両監督へのインタビューはスペイン語、メキシコシティとの時差は15時間、現地時間は2日午後8時半でした。

『もうひとりのトム』の作品紹介は、コチラ20211021

『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ20151103

 

     

      (インタビューを受けるラウラ・サントゥリョ、ロドリゴ・プラ)

 

Q:本作製作の動機、実話に基づいているのかという質問については、本作の原作者で脚本も手掛けたラウラ・サントゥリョが口火を切った。

LS:本作は実際のモデルがいる実話ではありませんが、母と子の関係性やトムが診断されたADHD(多動性障害)に関心があり、ADHDについて時間をかけて取材を重ねた。専門医の意見だけでなく、障害をもつご両親のブログも読んで、リサーチをしました。

 

Q:日本でも最近ADHDが問題になっており、メキシコの事情はどうでしょうか。

LS:リサーチしていくなかで、医師も一般人もADHDが病気なのか成長の一過程なのか不確かで、矛盾を感じて意見が分かれている。この一致していないことが私たちの関心の一つでもありました。

 

Q:母と子供の関係性をテーマにしたことについての質問。

RP:母と子の関係性のテーマに関心があり、これは重要と考えております。母と子を主人公にした作品は本作が3作目になり、第1作はLa demoraThe Delay)、第2作目が『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』です。前2作と本作が大きく異なるのは、前2作が社会保障制度など国の援助を必要とする個人を国家が放置して顧みない、反対に新作は国家が個人に介入しすぎて個人を圧迫しているという点です。

La demora」は、『マリアの選択』の邦題でラテンビート2012にて上映され、観客に深い感動を与えた作品。ただし舞台はメキシコでなく、二人の出身国ウルグアイ、母国に戻って製作しました。オリジナルタイトルの意味は「遅延」、国民が必要とする事案を国がぐずぐず引き延ばして責任を果たさないことをタイトルにしたようです。邦題のマリアは認知症の老父を介護しながら3人の子供を育てているシングルマザーの名前です。(管理人補足)

   

   

         (マリア役のロクサナ・ブランコを配したポスター)

 

Q:今回初めて共同で監督したわけですが、意見の食い違などありましたか。

LS:脚本は今までも他作品で共同執筆していました。共同作業で食い違いがある場合は、納得できないときもありましたが中間地点に着地するようにしました。当然プラは監督寄りに、私は脚本寄りに傾いた。(補足、デビュー作以来、二人は二人三脚で映画製作をしています)

 

Q:キャスティングはどのように決定したのか、トムも母親エレナも自然な演技だった。

RP:トム役のイスラエル・ロドリゲス・ベルトレッリは非凡な才能の子供で、周りの雑音から離れて演技できる子供だった。実際も問題児として家庭学習をしていたが、両親が参加することで良くなるのではないかと考えてワークショップに連れてきた。集団が苦手の彼が撮影中にだんだん子供同士で遊びはじめた。新作にはプロの俳優は一人もおりませんが、最初、両国(アメリカ、メキシコ)でキャスティングしたのですが、撮影地がテキサス州のエル・パソでしたから、メキシコの俳優を連れて国境を行き来するのは難しかった。結局エル・パソの人々から選んだ。

 

    

         (トム役のイスラエル・ロドリゲス、フレームから)

 

Q:アマチュアということですと、普段の職業は何をしていた方たちですか。また撮影期間はどのくらいでしたか。

RP:本来の仕事と似ている職業、つまり教師役は教師から、精神科医役は医師という具合に、役柄に近い人からキャスティングしました。エレナ役のフリア・チャベスは、役柄と同じシングルマザーで3人の子供の母親でした。全員アマチュアでしたので演技のワークショップに時間をかけました。みんな素晴らしい演技をしてくれた。10年前から準備しており、実際はリハーサルを含めると約6ヵ月間ですが、撮影は8週間でした。

 

Q:エレナの人格はコントラストがあり、ドライな面とウエットな面があった。最初のシナリオを状況に応じて変えていくようなことはあったでしょうか。

LS:元のシナリオを撮影に入ってから変えた部分もありました。エレナはドライな反面、愛情のこもった優しさに溢れた女性、理想化された母親像ではないが、さまざまな母親像があっていい。

 

Q:父親に会いにメキシコに行く旅で、エレナが解放されたように感じた。

LS:解釈はいろいろあり、ここはトムとエレナ二人の関係性に変化が出てきた段階です。父親に会わせるという約束をしておきながら母親は約束を守らなかった。それがいま果たせたわけです。今まで忙しかったが今は充分時間がある。

 

Q:国境を越えたのかどうか分かりにくかったが。

RP:分かりにくかったかもしれませんが、別れた夫はメキシコ人、メキシコに住んでおりますから国境は越えたのです。向こう側に行ったのです。

LS:メキシコから米国に入るのはコントロールされチェックが厳しいのですが、その反対はルーズなのです。

 

Q:ワールド・フォーカス部門のロレンソ・ビガスの『箱』も舞台がシウダーフアレスのようでした。ここは実際に危険なのでしょうか。

LS:正確には分かりませんが、多分メキシコ北部のチワワ州で撮影されたと思いますが、ここは治安はとても悪いです。

RP:チワワで撮影されました。ラウラが脚本を手掛けたのですよ。

LS:何年も前の初期の段階のことです。最終的にはパウラ・マルコビッチさんが脚本を執筆しました。最近私も見ましたが素晴らしい映画です。父親と息子の関係、子供に父親が必要なことなどが描かれています。**

**『箱』の作品紹介(コチラ20210907)で書きましたように、チワワ州のシウダーフアレス、クレエル、ほか数ヵ所で撮影された。話題に上がったマキラドーラについても簡単に触れております。ラウラさんが初期の段階で参画していたことは初めて聞くことで、市山氏が「これは失礼しました。クレジットを確認します」と詫びておられたが、データベースのクレジットはパウラ・マルコビッチ&ビガス監督です。(管理人補足)

 

QADHDの診断方法についての質問。トムとカウンセラーのやりとりで感情を色、例えば赤、青、黄色などで選ばせていたが、このシーンを入れた動機は何か。

RP:子供の行動や振る舞いが状況を考慮されずに単純化される危険性を示したかった。状況を無視して簡単な判断で診断される危険性、家庭環境とかその日にあったことを考慮しないで診断されている。人間は複雑な生き物で、単純にこれは黒、それは白と決めつけることはできない。いろいろな特徴をもっているのが人間です。

 

★最後に視聴者へのメッセージには、「楽しんでください、そして人間の大切さ、子供たちについて考えつづけてください。子供は大人より複雑で繊細です」とラウラさん。「TIFF上映の機会をいただけて、とても感謝しています。日本はサプライズに富んだ素晴らしい文化の国、とても刺激を与えてくれます」とロドリゴ。「是非今度は来日してください」と市山さん。だいたいトークは以上のようでしたが、訊き洩らし聞き違いは悪しからず。

 

118日にクロージング・セレモニーがあり、受賞結果が発表になっています。最高賞東京グランプリには、コソボの女性監督カルトリナ・クラスニチ『ヴェラは海の夢を見る』が受賞、これはベネチア映画祭の話題作でした。そして最優秀女優賞に本作でエレナを演じたフリア・チャベスが受賞、プレゼンターは審査委員長のイザベル・ユペールという栄誉、受賞理由の一つが「演じていないようなナチュラルな演技」でした。フリアからは「まずロドリゴとラウラに感謝、また付き人のプリシアにも。トムのイスラエルは素晴らしい俳優で、ご両親の育て方が良かった」というビデオメッセージが届いた。副賞は3000ドルということでした。

    

      

         (フリア・チャベス、ビデオメッセージから)

         

             

          (エレナ役のフリア・チャベス、フレームから)

 

『ザ・ドーター』のマルティン=クエンカ*TIFFトークサロン2021年11月07日 15:13

               風景は登場人物の一人、モラルのジレンマ

 

   

 

★去年からコロナ禍で来日できないシネアストとオンラインで繋がるTIFFトークサロンが、今年も始まった。スペイン、ラテンアメリカ諸国の関連作品(6作)のトップバッターとして、112日(2050)に『ザ・ドーター』(コンペティション部門)マヌエル・マルティン=クエンカが登場した。モデレーターは今年からTIFFプログラミング・ディレクターに就任した市山尚三氏、まだ本祭の本部が渋谷のオーチャードホールだった1992年から99年まで作品選定をしていたベテランが戻ってきました。

『ザ・ドーター』の作品紹介は、コチラ20211016

 

   

     

          (本作撮影中のマヌエル・マルティン=クエンカ)

     

★トークの内容は、作品紹介で書いたことと半分ぐらいは重なっていましたが、監督がコミックのファンで「日本の漫画家では、谷口ジローが好きだ」という発言など新発見もありました。以下はQ&Aのかたちではなくピックアップして纏めたものです。Qは簡潔でしたがAが長かった。監督はスペイン語、同時通訳者は映画に詳しく分かりやすかった。

 

★本作のアイディア、代理出産をテーマにした動機についてのQでは、「個人的に子供に恵まれなかったので授かりたいと考えていたので、現行法の養子制度に興味があった」ことが背景にあったようです。しかし本作のテーマを代理出産と位置づけていなかった管理人にとって不意打ちの質問でした。女性の権利、特にイレネのような未成年者の権利やモラルの境界線がテーマと考えていたからです。監督も「モラルのジレンマが常に存在していた」とコメントしていた。本作のヨーロッパでの捉え方の質問では「トロント、サンセバスチャンなどで上映され、スペインでは未成年者の権利を描く作品と一部から見られている」と答えている**

 

日本でいう代理出産は、イレネのようなケースを指していない。妻の卵子と夫の精子を第三者の子宮に移植する、あるいは夫の精子を第三者に人工授精の手法で注入して懐胎させることを指し、日本では法律がなく、日本産科婦人科学会はどちらも認めていない。従って法制化されている海外諸国で行う必要があります。監督が後半でスペインでは16歳までの未成年者の代理出産は認められていないと答えていた。

 

**サンセバスチャンFF上映後の大手日刊紙の評価は概ねポジティブ(エルペリオデコ、シネヨーロッパ)かニュートラル(エルムンド)、エルパイスのカルロス・ボジェロも「『カニバル』は好みでないが、本作は不安で重たいが、彼は必ず私を楽しませてくれる・・・最後の素晴らしい部分に恐怖を覚えた」と、監督が投げかけた謎と不安の質に高評価。ボジェロ氏はクラウディア・リョサの『悪夢は苛む』やアルモドバルの「Madres paralelas」を歯牙にかけなかった批評家です。

 

2番目のQは、舞台を人里離れた山中の山小屋にした理由、撮影場所、撮影期間について。本作にとって「風景はとても重要でキャラクターの一人です。それは風景が登場人物の心理そのものとして風景に溶け込んでいるからです。心理だけでなく身体もそうで、体重も春と秋冬では67キロの差をつけてもらった。クランクインは201911月から2020の年6月、秋、冬、春の四季をまたぐ約6ヵ月間もの長い期間、俳優たちは妥協して適応してくれた。デジタル処理でない本物の四季の変化を描きたかった」。撮影期間は6ヵ月ということでズレがありますが、11月末から6月初めということでしょうか。

 

★山小屋のある場所は「スペイン最大の国立公園、撮影隊の宿泊地から約1時間かかり、四輪駆動でないといけない。州都からは3時間、スペイン人でも知らない人が殆どです」と訳されていたが、監督は大きな自然公園の一つシエラ・デ・カソルラSierra de Cazorlaとおっしゃっていたように思います。シエラ・デ・セグラなどを含むスペイン最大の保護区であり、ヨーロッパでも2番目に大きい保護地域、ユネスコによって1983年生物圏保護区に認定された。スペイン最大の国立公園は、同じアンダルシア州でもポルトガルの国境に近いウエルバ、セビーリャ、カディス各県にまたがるドニャーナ国立公園で映画のような山間部ではない。ヨーロッパでも最大級の自然保護区、1994年世界遺産に登録され、観光地にもなっている。

 

   

             (撮影地カソルラ山脈)

 

★キャスティングについて、「主役イレネ・ビルゲス起用の決め手は何か、女優キャリアについて」のQには、「本作でデビュー、ダンス教室でスカウトした。内面の演技ができる派手でない少女を探していたが、カメラテストで気に入りイケるという感触を得た。演技経験はゼロだったのでリハーサルを何回も繰り返した。イレネは繊細なうえ、スペイン娘のような外へ外へというタイプでなく、エモーショナルな内面的演技ができた。撮影中は私の日本娘と呼んでいた。当時は14歳、今年の11月で16歳になる」とべた褒めでした。「繊細で内面的な日本女性」には苦笑いでしたが、後半で好きな日本の監督の名前を訊かれ「是枝監督の作品は殆ど見ている。クラシック映画をよく見る、例えば小津(安二郎)、成瀬(巳喜男)、溝口(健二)、黒澤(明)、特に小津の映画」と答えていたのでナルホドと納得できた。是枝映画はサンセバスチャン映画祭2018で、アジア人初のドノスティア栄誉賞を受賞した折りに特集が組まれ、代表作をまとめて観るチャンスがあったので、是枝ファンは多い。

 

    

    (内面的な演技を要求されたイレネ・ビルゲス、フレームから)

 

★「アウトローのことをしている自覚のある三人の一人」ハビエル役のハビエル・グティエレスについては、「ハビエルは物静かな善人から一線を越えていく役柄、彼には善と悪をミックスした人物を演じてもらった。彼とは他の映画でタッグを組んでいたので問題はなかった」。他の映画とはEl autorのこと、サンセバスチャン映画祭2017セクション・オフィシアルで上映された。ハビエルの妻アデラを演じたパトリシア・ロペス・アルナイスは、実名にしなかったが、彼女の祖母の名前だと明かした。二人のキャリアについては作品紹介を参考にしてください。

          

          

               (ハビエル役のハビエル・グティエレス、フレームから)

 

         

      (アデラ役のパトリシア・ロペス・アルナイス、フレームから)

 

★スペインの養子制度についてのQ、「出産後、養子にすれば済むケースだと思うが、何か法的な不都合があるのか」というもっともな質問には、「スペインでは16歳までの未成年が妊娠した場合、特に施設に入っている場合、産むか産まないかは国家が決断する。本人には決定権がない。ハビエルがセンター職員だから養子にできないというわけではない。不平等だが法律で決められており、仮にイレネが出産できてもハビエル夫婦は養子にできない可能性が高い」と答えている。日本とは事情が違うようです。スペインの結婚可能年齢は男女とも18歳(日本は男性18歳、女性16歳)、15歳のイレネは結婚可能年齢に達していない。

 

★移民問題についてのQ、「イレネが過激化していく背景から、もしかして移民ではないかという理解は正しいか」という質問には、「移民という設定ではないが、イレネの両親は社会の埒外にいる人々とした。彼女は両親から子供としての愛情を受けたことがなく、家族として一緒に暮らせない。愛情というものを体験したのはハビエルが初めてだった」。ドラッグの常習で子供を養育できない親は珍しくない。

 

★映画製作の出発についてのQ、「テーマを見つけ出す、これは伝えたいというテーマ、文学作品、現実に起きていることで自分の体に入ってくるもの、理論的なものでなくてもいい」。本作もイデオロギー的なものを目指していないとも他でコメントしていた。

 

★次回作品の予定についてのQ、「まず20221月に始まる舞台のプロジェクトの準備をしている。映画はプロデューサーと準備中で、できれば来年末にはクランクインしたい」。具体的なタイトル、製作者には言及しなかった。どちらかというとじっくりタイプの映像作家、前作「El autor」は4年前、前々作『カニバル』は8年前、コロナの再燃が危惧されるからあくまで予定でしょうか。「次回作も東京に持っていけたらと思っています。日本の観客の皆さんに見てくださってありがとう、感謝します」ということでした。

 

★最後に上述したしたように、日本の漫画家谷口ジローの話が飛び込み、「刺激を受けて吹き出しに入れるセリフ書きもしている」と明かした。フランスでの受賞歴が多数ある谷口ジローのコミックはスペインでも人気があり、『父の暦』(02)がバルセロナやアストゥリアスの国際コミック展で受賞している。4年前に69歳で鬼籍入り、その死を惜しむ人は多い。現在、世田谷文学館で「描く人、谷口ジロー展」が来年2月末まで開催されている。

 

★訊き洩らし、聞き違いの節は悪しからず。舞台上でのQ&Aは時間も短く、会場からの質問が纏まっていないケースも多く、オンラインでのトークは繰り返し見ることができるので歓迎です。個人的には、本作は深淵さが理解されなかった『カニバル』の延長線上にあるのではないかと感じました。

テオドラ・アナ・ミハイの『市民』*東京国際映画祭20212021年10月25日 15:57

         ルーマニアの監督テオドラ・ミハイの長編デビュー作『市民』

 

     

          (主演のアルセリア・ラミレスを配したポスター)

 

★コンペティション部門最後のご紹介は、ルーマニアの監督テオドラ・アナ・ミハイがスペイン語で撮ったデビュー作『市民』(ベルギー=ルーマニア=メキシコ合作、原題 La civil)、第74回カンヌ映画祭2021「ある視点」に正式出品され、Prize of Courage勇敢賞受賞作品。カンヌには監督以下主なスタッフ、俳優が出席した。ルーマニアの監督がどうしてメキシコを舞台に、麻薬密売にコントロールされた暴力をテーマにしようとしたのかは後述するとして、取りあえず作品紹介から始めたい。

 

    

      (Prize of Courage勇敢賞を受賞したテオドラ・アナ・ミハイ監督)

 

 

 『市民』La civil2021

製作:Les Films du Fleuve / Menuetto Film / Mobra Films

監督:テオドラ・アナ・ミハイ

脚本:テオドラ・アナ・ミハイ、ハバクック・アントニオ・デ・ロサリオ・ゲレロ

音楽:ジャン=ステファン・ガルベ、ウーゴ・リペンス

撮影:マリウス・パンドゥル

編集:アライン・Dessauvage

キャスティング:ビリディアナ・オルベラ

プロダクション・デザイン:クラウディオ・ラミレス・カステリ

美術:ヘオルヒナ・フランシスコ・コンスタンティノ

衣装デザイン:ベルタ・ロメロ

メイクアップ&ヘアー:アルフレッド・ガルシア(メイク)、タニア・アギレラ(ヘアー)

プロダクション・マネージメント:ホセ・アルフレッド・モンテス、ウィルソン・ロバト、ルイス・ベルメンBerumen

製作者:ハンス・エヴェラート、(エグゼクティブ)チューダー・レウ、(共同)ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ、ミシェル・フランコ、エレンディラ・ヌニェス・ラリオス、テオドラ・アナ・ミハイ、クリスティアン・ムンジュウ、(ライン)サンドラ・パレデス、ほか

 

     

 (左から、ハンス・エヴェラート、アルバロ・ゲレロ、アルセリア・ラミレス、監督、

  脚本家ハバクック・アントニオ・デ・ロサリオ、カンヌ映画祭2021、フォトコール)

 

データ:製作国ベルギー=ルーマニア=メキシコ、スペイン語、2021年、ドラマ、135分、撮影地メキシコのビクトリア・デ・ドゥランゴ、期間202012

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2021「ある視点」、カメラ・ドール対象作品、Prize of Courage(勇敢賞)受賞、FEST New Directora / New Films Festival 2021ゴールデン・リンクス賞、ハンブルク映画祭ポリティカル・フィルム賞、各受賞。エルサレム映画祭、東京国際映画祭、各ノミネーション。

 

キャスト:アルセリア・ラミレス(シエロ)、アルバロ・ゲレロ(グスタボ)、ホルヘ・A・ヒメネス(ラマルケ)、アジェレン・ムソ(ロブレス)、フアン・ダニエル・ガルシア・トレビニョ(エル・プーマ)、アレサンドラ・ゴニィ・ブシオ(コマンダンテ、イネス)、エリヒオ・メレンデス(キケ)、モニカ・デル・カルメン、メルセデス・エルナンデス、マヌエル・ビジェガス(リサンドロ) 、アリシア・カンデラス(メチェ)、ほか多数

 

ストーリー:メキシコ北部を舞台に10代の娘ラウラが組織犯罪に巻き込まれた母親シエロの闘いが語られる。警察や州当局が娘の捜索をしないなら、自らの手で捜すしかない。シエロは問題解決に取り組むなかで一人の主婦から怒りに燃える過激な闘士に変身する。自分の娘が麻薬密売カルテルによって誘拐殺害されたミリアム・ロドリゲスの実話をベースにしている。ミリアムは彼女自身の手で正義を司法に訴えた女性。ダルデンヌ兄弟、クリスティアン・ムンジュウ、ミシェル・フランコなど、カンヌ映画祭の受賞者たちがルーマニアの若手女性監督を応援している。映画界も時代の転機を迎えている。

 

      

    (シエロ役のアルセリア・ラミレス)

 

     

       (グスタボ役のアレバロ・ゲレロとラミレス、フレームから)

 

 

      「朝目覚めると死にたい殺したいと思う」とミリアム・ロドリゲス

 

テオドラ・アナ・ミハイは、ニコラエ・チャウシェスク独裁政権下の1981年ルーマニアのブカレスト生れた、監督、脚本家。1989年家族はベルギーに亡命、10代の初めに叔母が移住していたサンフランシスコに渡り、フランス系のアメリカン・インターナショナル・ハイスクールで学ぶ。ニューヨーク州のサラ・ローレンス・カレッジで映画を学んだ後、ベルギーに帰国する。ベルギーでは助監督を経験しながら、2000年短編Civil War Essay(サンフランシスコ映画祭ユース部門でCertificate of Merit 受賞)で監督デビューする。

 

2014年ドキュメンタリーWaiting for Augustがカルロヴィ・ヴァリ映画祭でドキュメンタリー賞、HotDocs映画祭審査員賞を受賞している。その他アムステルダム、バルディビア、レイキャビック、ベルゲン、ブダペストなど各映画祭でドキュメンタリー賞を受賞している。受賞後、ヨーロッパ映画アカデミーの会員になり、制作会社One for the Road dvdaを設立する。社会的関連性の普遍的な問題を捉えた映画製作を目指しており、ベルギー、ラテンアメリカ、東欧間のコラボレーションを目指している。サンフランコ滞在中の2006年前後はまだ安全だったメキシコに度々旅行に出かけていたことが、本作製作の動機のひとつ。TVミニシリーズのほか短編「Alice」、「Paket」で経験を積み、今回劇映画長編デビューを果たした。

   

   

             (カルロヴィ・ヴァリ映画祭のドキュメンタリー賞を受賞)

     

    

         (ドキュメンタリーWaiting for August」のポスター

 

★上述したようにシエロのモデルになったミリアム・ロドリゲスは、朝、目が覚めると死にたい殺したいと思う」と、ルーマニアの監督テオドラ・アナ・ミハイに語った。2014年に16歳だった娘カレンを誘拐殺害された。そのことが『市民』映画化の動機だったという。メキシコに渡って実態調査に2年以上かけ、メキシコの作家ハバクック・アントニオ・デ・ロサリオの協力を得て脚本を完成させることができた。最初のオリジナル・アイディアは、2015年に知り合うことになったミリアムの証言を軸にしたドキュメンタリーで撮る計画だったと語っている。しかしそれは、あまりに危険すぎて断念せざるを得なかった。「私たちは物語の展開に自由裁量を求めていたので、つまり証言者の誰も危険に晒したくなかった」のでドラマにしたとコメントしている。

 

       

                 (シエロのモデルになったミリアム・ロドリゲス)

 

   

   (脚本共同執筆者ハバクック・アントニオ・デ・ロサリオと監督)

   

★娘ラウラは映画の冒頭で麻薬カルテルの手で誘拐される。組織は目の玉が飛び出すほどの身代金を強要する。母親は支払うが娘は戻ってこなかった。警察も当局も捜索をせず誰も助けてくれない。母親は自ら誘拐犯の追跡に身を投じる。2006年ごろは「夜間に外出できたし、国道を問題なく走ることができた」と監督、つまり今は危険だということ。シエロの苦しみはシエロに止まらず、中米、世界の各地の多くの市民たちに起きている。「俳優たちやスタッフが個人的な動機から出発した物語を語って私は元気づけられた」と監督、私たちは同じような誘拐事件が至る所に転がっており、その結果が絶望に終わることことを知っている。

 

★メインプロデューサーのハンス・エヴェラートはベルギーのプロデューサー、2017年制作会社「Menuetto Film」を設立した。2018年「The Conductor」、視聴者には不評だった日本との合作、ロックバンドのヘンドリック・ウィレミンスの「Birdsong」(19、『バードソング』20年公開)など。ベルギーの共同製作者ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟は、カンヌFF2回のパルムドール(『ロゼッタ』『ある子供』)、脚本賞(『ロルナの祈り』)、グランプリ(『少年と自転車』)、監督賞(『その手に触れるまで』)と、もらえる賞は全部獲得した。ルーマニアのクリスティアン・ムンジュウは、『4ヶ月、3週と2日』でパルムドール、『汚れなき祈り』(脚本賞)、『エリザのために』(監督賞)受賞で知られている。メキシコのミシェル・フランコは、『父の秘密』(ある視点部門グランプリ)、『或る終焉』(脚本賞)、『母という名の女性』が「ある視点」の審査員賞を受賞と、共同製作者にカンヌFFの受賞者が名を連ねている。

 

★主役シエロを演じたアルセリア・ラミレスは、1967年メキシコシティ生れのベテラン女優、カルロス・カレラの『ベンハミンの女』、アルフォンソ・アラウ『赤い薔薇ソースの伝説』(92)、アルトゥーロ・リプスタインの「Asi es la vida」や『ボヴァリー夫人』を現代のメキシコを舞台にした「Las razones del corazón」、カルロス・アルガラ&アレハンドラ・マルティネス・ベルトランのミステリー「Verónica」(17)、TVシリーズ「ソル・フアナ・イネス」に主演している。

 

      

        (アルセリア・ラミレス、カンヌ映画祭2021フォトコール)


ロドリゴ・プラの新作『もうひとりのトム』*東京国際映画祭20212021年10月21日 11:25

        ロドリゴ・プラ&ラウラ・サントゥリョの新作「The Other Tom

 

     

              (スペイン語版のポスター)

 

★東京国際映画祭 TIFF コンペティション部門に、ロドリゴ・プララウラ・サントゥリョ夫妻デュオ監督のThe Other TomEl otro Tom)が『もうひとりのトム』の邦題でノミネートされました。第78回ベネチア映画祭2021オリゾンティ部門正式出品作品です。プラ監督は前作『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』TIFF 2015で上映された折に、プロデューサーのサンディノ・サラビア・ビナイと来日してQ&Aに出席しております。彼は新作でも製作者の一人として参加しています。前作はラウラ・サントゥリョの同名小説の映画化、自身も脚本を手掛けています。二人ともウルグアイ出身ですが、主にメキシコで映画製作に携わっております。新作もサントゥリョの同名小説の映画化、今回、監督デビューを果たしました。

 

     

 (ロドリゴ・プラ、ラウラ・サントゥリョ、ベネチア映画祭2021フォトコール)

  

 

 『もうひとりのトム』The Other Tom El otro Tom

製作:BHD Films / Buenaventura

監督・脚本:ロドリゴ・プラ、ラウラ・サントゥリョ

原作:ラウラ・サントゥリョの The Other Tom

撮影:オデイ・サバレタ

編集:ミゲル・シュアードフィンガー

美術:アナ・べリード

製作者:アレハンドロ・デ・イカサ、ロドリゴ・プラ、ラウラ・サントゥリョ、サンディノ・サラビア・ビナイ、他

 

データ:製作国メキシコ=米国、英語・スペイン語、2021年、ドラマ、111分、撮影地テキサス州パラ・イソ、撮影期間8週間

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2021コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門、ベネチア映画祭2021オリゾンティ部門、ワルシャワ映画祭監督賞受賞、東京国際映画祭コンペティション部門、各正式出品作品

 

キャスト:フリア・チャベス(エレナ)、イスラエル・ロドリゲス・ベルトレッリ(息子トム)、リア・ミラー(バルバラ医師)、ホルヘ・カストロ(体育教師)、ソフィア・プリエト(カルラ)、ミシェル・フローレス(救急看護師)、マリシア・ドミンゲス(リタ)、フランコ・リコ(バルの男)、マリナ・カルバレナ(サビナ先生)、グロリア・カルデン(学校の保健婦)、アレハンドラ・ドサル(精神科医)、ハコ・ロドリゲス(トムの代理人)、他多数

 

ストーリー:テキサス州エル・パソで社会福祉に頼っているシングルマザーのエレナと息子トムの物語。トムは落ち着きのない多動性のため学校では <問題児> の烙印をおされている。父親の不在が二人の関係を一層複雑にしている。精神科医はトムを多動性障害ADHDと診断して薬を処方する。しかし母親のエレナは、その強い副作用を怖れて投薬治療を拒み、ゴミ箱に捨ててしまう。魂のこもった目とウェーブのかかった長い髪の子どもが怪我をしたことで、エレナは窮地に追い込まれる。観客は <もうひとり> のトムを目にすることができるでしょうか。

 

       

               (トムを演じたイスラエル・ロドリゲス、フレームから)

 

           

        (母エレナを演じたフリア・チャベス、フレームから)

 

★今年のTIFFでは、コンペティション部門とワールド・フォーカス部門(『箱』)でメキシコ=米国合作映画が2本上映されます。しかし監督は本作が両監督ともウルグアイ、『箱』のロレンソ・ビガスがベネズエラと、自国では映画製作のできない南米の出身者です。2作ともカンヌではなくベネチアでワールドプレミアされたのも意味深いことと思います。このコロナ禍のなかでも『もうひとりのトム』のクルーは、『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』以来6年ぶりとなるベネチアに大挙してやってきました。中南米諸国のシネアストはベネチアを目指しているようです。

 

       

 (左から、製作者アレハンドロ・デ・イカサ、同ガブリエラ・マルドナド、デュオ監督、

    美術アナ・べリード、撮影オデイ・サバレタ、ベネチアFF 2021 フォトコール)

 

★前作『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』はラウラ・サントゥリョの同名小説の映画化、実態が見えない官民の医療制度のもとで、一般の人々が押しつぶされていくメキシコ社会の脆弱性と闘う母子を描いていました。新作も作家の同名小説にもとづいており、医学や教育を <よく知っている> と思われている専門家のアドバイスの危険性を本能的に察知して抵抗する若い母親とその息子を描いています。粗末な家での母と息子が共有する優しい穏やかな時間、トムは本当に ADHD なのかどうか。落ち着きのない騒々しい子供は学校や教師から歓迎されない、鎮静化する必要があります。ホワイトでない、つまりヒスパニックであること、父親不在の家庭、夜遅くまで残業しなければならない母親、エル・パソを流れるリオグランデ川の向こうはメキシコです。

 

     

       (フリア・チャベスとイスラエル・ロドリゲス、フレームから)

 

『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』(Un monstruo de mil cabezas)の作品紹介と監督フィルモグラフィーは、チラ20151103

   

    

              (英語版のポスター)

 

スペイン映画 『ザ・ドーター』*東京国際映画祭20212021年10月16日 15:03

     マヌエル・マルティン=クエンカの新作「La hija」はスリラー

     

 

    

★東京国際映画祭TIFF 20211030日~118日)のコンペティション部門でアジアン・プレミアされる、マヌエル・マルティン=クエンカの新作La hija『ザ・ドーター』)は、トロント映画祭でワールド・プレミアされ、サンセバスチャン映画祭SSIFF ではアウト・オブ・コンペティションで上映されたスリラー。SSIFFの上映後に、多くの人からセクション・オフィシアルにノミネートされなかったことに疑問の声が上がったようです。選ばれていたら何らかの賞に絡んだはずだというわけです。SSIFFでのマルティン=クエンカ作品は、2005年のMalas temporadas2013年の『カニバル』2017年のEl autor3回ノミネートされており3作とも紹介しております。新作スリラーはEl autorで主人公を演じたハビエル・グティエレスと、Aneでゴヤ賞2021主演女優賞を受賞したばかりのパトリシア・ロペス・アルナイス、新人イレネ・ビルゲスを起用して、撮影に6ヵ月という昨今では珍しいロングロケを敢行しています。

 

        

 (ロケ地アンダルシア州ハエン県のカソルラ山脈にて、左端が監督、201911月)

  

『不遇』(Malas temporadas)の作品紹介は、コチラ201406110702

『カニバル』の作品紹介は、コチラ20130908

El autor」の作品紹介は、コチラ20170831

 

 

  『ザ・ドーター』(原題 La hija

製作:Mod Producciones / La Loma Blanca / 参画Movister+ / RTVE / ICCA / Canal Sur TV

      協賛Diputación de Jaén

監督:マヌエル・マルティン=クエンカ

脚本:アレハンドロ・エルナンデス、マヌエル・マルティン=クエンカ、フェリックス・ビダル

撮影:マルク・ゴメス・デル・モラル

音楽:Vetusta Moria

編集:アンヘル・エルナンデス・ソイド

美術:モンセ・サンス

プロダクション・マネージメント:ロロ・ディアス、フラン・カストロビエホ

製作者:(Mod Producciones)フェルナンド・ボバイラ、シモン・デ・サンティアゴ、(La Loma Blanca)マヌエル・マルティン=クエンカ、(エグゼクティブ)アラスネ・ゴンサレス、アレハンドロ・エルナンデス、他

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、スリラー・ドラマ、122分、撮影地アンダルシア州ハエン県、カソルラ山脈、期間201911月~20204月、約6ヵ月。配給Caramel Films、販売Film Factory Entertainment、公開スペイン1126

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2021、サンセバスチャン映画祭2021アウト・オブ・コンペティション(9/22)、東京国際映画祭2021コンペティション(10/30

 

キャスト:ハビエル・グティエレス(ハビエル)、パトリシア・ロペス・アルナイス(ハビエルの妻アデラ)、イレネ・ビルゲス(イレネ)、ソフィアン・エル・ベン(イレネのボーイフレンド、オスマン)、フアン・カルロス・ビリャヌエバ(ミゲル)、マリア・モラレス(シルビア)、ダリエン・アシアン、他

 

ストーリー15歳になるイレネは少年院の更生センターに住んでいる。彼女は妊娠していることに気づくが、センターの教官ハビエルの救けをかりて人生を変える決心をする。ハビエルと妻のアデラは、人里離れた山中にある彼らの山小屋でイレネと共同生活をすることにする。唯一の条件は、多額の金銭と引き換えに生まれた赤ん坊を夫婦に渡すことだった。しかしイレネが、胎内で成長していく命は自分自身のものであると感じ始めたとき、同意は揺らぎ始める。雪の山小屋で展開する衝撃的なドラマ。

 

     

                   (イレネ役イレネ・ビルゲス、フレームから)

 

     

          (ハビエルとアデラの夫婦、フレームから)

  

 

 サンセバスチャン映画祭ではコンペティション外だった『ザ・ドーター』

 

★サンセバスチャン映画祭ではセクション・オフィシアルではあったが、賞に絡まないアウト・オブ・コンペティションだったのでご紹介しなかった作品。SSIFFには、上記の3作がノミネートされ、2005年に新人監督に贈られるセバスティアン賞を受賞しているだけで運がない。というわけで今回の東京国際映画祭に期待をかけているかもしれない。今年の審査委員長はイザベル・ユペールがアナウンスされているが、どうでしょうか。

 

     

 (マヌエル・マルティン=クエンカとハビエル・グティエレス、SSIFFフォトコール)

 

3人の主演者、ハビエル・グティエレスについては、El autorのほか、アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』14)、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』16)、ハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』18)、ダビ&アレックス・パストールの『その住人たちは』20)などで紹介しております。バスク州の州都ビトリア生れのパトリシア・ロペス・アルナイスは、ダビ・ペレス・サニュドのバスク語映画Aneで、ゴヤ賞2021主演女優賞のほか、フォルケ賞、フェロス賞などの女優賞を独占している。アメナバルの『戦争のさなかで』では、哲学者ウナムノの娘マリアを好演している。難航していたイレネ役にはオーディションでイレネ・ビルゲスを発掘できたことで難関を突破できたという。監督は女優発掘に定評があり、当時ただの美少女としか思われていなかった14歳のマリア・バルベルデを起用、ルイス・トサールと対決させて、見事女優に変身させている。

   

     

 (主役の3人、グティエレス、ビルゲス、ロペス・アルナイス、SSIFFフォトコール)

 

★共同脚本家のアレハンドロ・エルナンデスは、「Malas temporadas」以来、長年タッグを組んでいる。彼はアメナバルの『戦争のさなかで』やTVシリーズ初挑戦のLa fortunaも手掛けている。他にマリアノ・バロッソやサルバドル・カルボなどの作品も執筆している。キューバ出身だが20年以上前にスペインに移住した、いわゆる才能流出組の一人です。撮影監督のマルク・ゴメス・デル・モラルは、ストーリーの残酷さとは対照的な美しいフレームで監督の期待に応えている。既に長編映画7作目の監督がコンペティション部門にノミネートされたことに若干違和感がありますが、結果を待ちたい。

 

                       

    

              

 

ハビエル・グティエレスのキャリア紹介は、コチラ20190325

パトリシア・ロペス・アルナイスのキャリア紹介は、コチラ20210127


クララ・ロケの『リベルタード』*ラテンビート20212021年10月12日 17:36

             『リベルタード』――東京国際映画祭との共催上映

 

          

 

★前回触れましたように今年18回を迎えるラテンビート2021は、バルト9での単独開催及びデジタル配信もなく、東京国際映画祭との共催上映3作のみになりました。しかし、日本未公開のスペイン語圏の名作を中心に紹介する通年の配信チャンネル《ラテンビート・クラシック》(仮題)を準備中ということです。いずれ公式のサイトが発表になるようです。3作のうち当ブログ未紹介のクララ・ロケのデビュー作『リベルタード』のご紹介。カンヌ映画祭と併催の第60回「批評家週間」でワールドプレミアされています。1988年バルセロナ出身のロケ監督は、既に脚本家として実績を残しており、自身も「監督より脚本を構想するほうが好き」と、インタビューで語っています。

  

『リベルタード』(原題 Libertad

製作:Bulletproof Cupid / Avalon / Lastor Medíaº

監督・脚本:クララ・ロケ

音楽:Paul Tyan ポール・タイアン

撮影:グリス・ジョルダナ

編集:アナ・プファフPfaff

キャスティング:イレネ・ロケ

プロダクション・デザイン:マルタ・バザコ

衣装デザイン:Vinyet Escobar ビンジェ・エスコバル

メイクアップ&ヘアー:(メイクアップ)バルバラ・ブロック Broucke、(ヘアー)アリシア・マチン

プロダクション・マネージメント:ジョルディ・エレロス、ゴレッティ・パヘス

製作者:セルジ・モレノ、ステファン・シュミッツ、マリア・サモラ、トノ・フォルゲラ、

 

データ:製作国スペイン=ベルギー、スペイン語、2021年、ドラマ、104分、撮影地バルセロナ、公開スペイン20211119日予定

映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭併催の第60回「批評家週間」2021作品賞・ゴールデンカメラ賞ノミネーション、アテネ映画祭、ヘント映画祭、エルサレム映画祭国際シネマ賞、第66回バジャドリード映画祭2021Seminci)オープニング作品、各ノミネート

 

キャスト:マリア・モレラ・コロメル(ノラ)、ニコル・ガルシア(リベルタ―ド)、ノラ・ナバス(ノラの母テレサ)、ビッキー・ペーニャ(ノラの祖母アンヘラ)、カルロス・アルカイデ(マヌエル)、カロル・ウルタド(ロサナ)、マチルデ・レグランド、オスカル・ムニョス、マリア・ロドリゲス・ソト、ダビ・セルバス、セルジ・トレシーリャス、他

 

ストーリー:ビダル一家は、進行したアルツハイマー病に苦しむ祖母アンヘラの最後の休暇を夏の家で過ごしている。14歳のノラは、生まれて初めて自分の居場所が見つからないように感じている。子供騙しのゲームは卒業、しかし大人の会話には難しくて割り込めない。しかし祖母の介護者でコロンビア人のロサナと、ノラより少し年長の娘リベルタードが到着して、事情は一変する。反抗的で魅力的なリベルタードは、ノラにとって別の玄関のドアを開きます。二人の女の子はたちまち強烈で不均衡な友情を結んでいく。家族の家がもっている保護と快適さから二人揃って抜け出し、ノラはこれまで決して得たことのない自由な新しい世界を発見する。カタルーニャの裕福な家族出身のノラ、コロンビアで祖母に育てられたリベルタード、異なった世界に暮らしていた二人の少女の友情と愛は、不平等な階級の壁を超えられるでしょうか。

 

       

           (ノラとリベルタード、フレームから)

 

 

    先達の存在に勇気づけられる――私は脚本家だと思っています

 

★監督紹介:クララ・ロケは、1988年バルセロナ生れ、バルセロナ派の脚本家、監督。ポンペウ・ファブラ大学で視聴覚コミュニケーションを専攻、奨学金を得てコロンビア大学で脚本を学んだ。自身は脚本家としての部分が多いと分析、脚本家デビューはカルロス・マルケス=マルセ10.000 Km14)、またハイメ・ロサーレス『ペトラは静かに対峙する』(原題Petra18)を監督と共同執筆している。監督としては、長編デビュー作とも関連する終末ケアをする女性介護者をテーマにした、短編El adiós(バジャドリード映画祭2015金の麦の穂受賞)やLes bones nenes16)、TVミニシリーズ「Tijuana」(193話)、「Escenario 0」(201話)を手掛けている。『リベルタード』が長編デビュー作。

   

10.000 Km」の作品紹介は、コチラ20140411

『ペトラは静かに対峙する』の作品紹介は、コチラ20180808

      

        

     

 (短編El adiós」で金の麦の穂を受賞したクララ・ロケ、バジャドリードFF授賞式

 

★カンヌにもってこられたのは「本当に夢のようです。上映を待っていたのですが、パンデミアの最中だったので難しかった。カンヌが2021年の映画祭で上映することを提案してくれた」と監督。スペイン映画としてノミネートは本作だけでした。「カタルーニャでは、女性シネアストが多く、イサベル・コイシェのような存在が大きかった。映画の世界は男性だけのものではないという希望を私に与えてくれたからです」と。他にイシアル・ボリャイン、アルゼンチンのルクレシア・マルテルフリア・ソロモノフ、オーストラリアのジェーン・カンピオン、バルセロナ出身の先輩ベレン・フネスなどを挙げている。男性では、上記のロサーレスとマルケス=マルセの他に、『ライフ・アンド・ナッシング・モア』のアントニオ・メンデス・エスパルサを挙げている。マリア・ソロモノフ監督はコロンビア大学の彼女の指導教官、現在は映画製作と並行して、ブルックリン大学シネマ大学院で後進の指導に当たっている。

 

 

  少女から大人の女性へ――揺れ動くアイデンティティ形成段階の少女たち

 

★カンヌ映画祭には運悪くコロナに感染していて自身でプレゼンができなかった。シネヨーロッパのインタビューも電話でした。タイトルの Libertad は、主人公の名前から採られていますが、それを超えています。「この映画の中心テーマです。自由とは何かということです。本当に自由を選ぶ手段をもっている人だけのものか、自由はもっと精神的な何かなのか。劇中にはいろいろなやり方で自由を模索する登場人物が出てきます」と監督。

 

    

         (マリア・モレラに演技指導をするクララ・ロケ監督)

 

★ノラの祖母を介護しているロサナはコロンビアからの移民、幼い娘リベルタードを母に預けてスペインに働きに来ていた。そこへ10年ぶりに15歳になった娘がやってくる。裕福なノラの家族、貧困で一緒に暮らせなかった家族という階級格差、移民によって提供されるケアの問題が浮き彫りになる。両親から受け継いだアイデンティティ、特に母から娘に受け継がれたパターンから逃れるのはそう簡単ではない。子供から大人の女性への入口は、アイデンティティが形成される段階にあり、多くの女性監督を魅了し続けている。「自分を信頼することが一番難しい。自身を信頼することが重要」と監督。

 

    

        (ノラの母親役ノラ・ナバス、リベルタードの母親役カロル・ウルタド)

 

★「キャスティングの段階で、介護者となるプロでない女優を探していた。そのとき出身国に自分の子供たちを残して他人のケアをしている人には大きなトラウマがあることに気づきました。10年間も母親に会っていない娘が突然現れたらというアイデアが浮かびました」と、本作誕生の経緯をシネヨーロッパのインタビューで語っている。インタビュアーからブラジルのアナ・ミュイラート『セカンドマザー』15)との類似性を指摘されている。サンダンス映画祭でプレミアされ、ベルリン映画祭2015パノラマ部門の観客賞を受賞、本邦でも20171月に公開されている。監督は「既に脚本を書き始めていて、(コロンビア大学の指導教官の)フリア・ソロモノフから観るように連絡を受けた。異なるプロフィールをもっていますが、どちらも進歩的と考えられる中産階級やブルジョア社会に奉仕することで生じてくる不快感が語られています。これを語るのは興味深いです」とコメントしている。

 

★最初は別の2本のスクリプトを書いていた。一つは母と娘が再会する移民の話、もう一つは祖母、母、娘が最後の夏休暇を過ごす話でした。「アンディ・ビーネンから単独では映画として機能しないから、一つにまとめる必要があると指摘された」とアンディ・ビーネンはコロンビア大学の指導教官で、キンバリー・ピアーズが実話をベースにして撮った『ボーイズ・ドント・クライ』(99)を監督と共同執筆した。観るのがしんどい映画でしたね。こうして2つのスクリプトが合流して、バックグランドに流れる牧歌的な平和を乱す『リベルタード』は完成した。

  

     

           (子役出身のマリア・モレラ)

 

★リベルタ―ド役のニコル・ガルシアは本作でデビュー、ノラ役のマリア・モレラは長編2作目、生まれも育ちも異なる対照的な性格の女の子を好演した。脇を固めるのがベテランのノラ・ナバスビッキー・ペーニャ、最近TVミニシリーズの出演が多いマリア・ロドリゲス・ソトは、2019年にカルロス・マルケス=マルセの「Els dies que vindran」で主演、マラガFF銀のビスナガ女優賞を受賞しているほか、ベレン・フネスの「La hija de un ladrón」、カルレス・トラスの『パラメディック-闇の救急救命士』(Netflix 配信)にも出演している。3作とも当ブログにアップしておりますが、今回は脇役なので割愛します。

  

   

          (本作デビューのニコル・ガルシア)


第18回ラテンビート2021*東京国際映画祭共催上映2021年10月08日 15:41

      今年のラテンビートは東京国際映画祭共催上映の3作品のみ

 

   


★残念ながら、ラテンビート2021は危惧していた通りになってしまいました。東京国際映画祭TIFF1030日~118日)共催上映の3作品のみとなりました。せめてオンライン上映だけでもと思っていましたが叶いませんでした。3作のうちロレンソ・ビガス『箱』(原題 La caja)と、アレックス・デ・ラ・イグレシア『ベネシアフレニア』(原題 Veneciafrenia)は、既に原題でご紹介しています。クララ・ロケ『リベルタード』(原題 Libertad)は次回アップします。

 

            TIFF 共催上映の3作品

 

『箱』(原題 La caja2021、製作国メキシコ=米国、スペイン語、スリラー・ドラマ、92

監督:ロレンソ・ビガス(ベネズエラ)

トレビア:『彼方から』がベネチア映画祭2015金獅子賞を受賞している。ベネチア映画祭2021コンペティション部門、トロント映画祭、サンセバスチャン映画祭2021ホライズンズ・ラティノ部門ノミネート作品。

紹介記事は、コチラ20210907

    

 

  

 

『ベネシアフレニア』(原題 Veneciafrenia2021、製作国スペイン、スペイン語、スラッシャー・ホラー、100

監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア(スペイン)

トレビア:デビュー作『ハイル・ミュタンテ 電撃XX作戦』以来タッグを組んでいる脚本家ホルヘ・ゲリカエチェバリアと共同執筆、痛みのジェットコースター、エモーションと凍りついた笑い満載、現地ベネチアにて撮影。

作品紹介は、コチラ20211006

 

     

 

 

『リベルタード』(原題 Libertad2021、製作国スペイン=ベルギー、スペイン語、ドラマ、104

監督:クララ・ロケ(スペイン)

トレビア:カンヌ映画祭「批評家週間」にノミネートされた監督デビュー作。

 監督キャリア&作品紹介予定

作品紹介は、コチラ⇒2021年10月12日

    

  

  

 

★以上3作です。その他、コンペティション部門にベテラン監督と称してもいいマヌエル・マルティン=クエンカ『ザ・ドーター』(原題 La hija)が選ばれていました。トロント映画祭でワールドプレミアされた関係で、サンセバスチャン映画祭ではアウト・オブ・コンペティション枠でした。TIFFのコンペティション部門はデビュー作から23作目までと聞いておりましたが、コロナ禍の昨年から幅が広がっています。また、共にウルグアイ出身でメキシコで製作しているロドリゴ・プララウラ・サントゥリョ夫妻が手掛けた『もうひとりのトム』(原題 The Other Tom)の言語は英語です。反対に言語はスペイン語、メキシコでオールロケしたというルーマニアの監督テオドラ・アナ・ミハイ『市民』(原題 La civil)も選ばれており、今年の国際映画祭の話題作がノミネートされています。ロドリゴ・プラはTIFF 2015『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』で来日しています。次回からアップしていく予定です。

東京国際映画祭のチケット発売は、1023です。

     

  

         (マヌエル・マルティン=クエンカの『ザ・ドーター』から)